(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0020】
〈化学強化ガラス〉
本実施の形態に係る化学強化ガラスは、通常、板形状をしているが、平板でも曲げ加工を施したガラス板でもよい。本実施の形態に係る化学強化ガラスは、フロート法、フュージョン法、スロットダウンドロー法等、既知のガラス成形方法によって平板形状に成形されたガラス板であり、130dPa・s以上の液相粘度を有することが好ましい。
【0021】
本実施の形態に係る化学強化ガラスは、タブレットPC、ノートPC、スマートフォン及び電子書籍リーダー等の情報機器に備えられたタッチパネルディスプレイのカバーガラス及びタッチセンサーガラス、液晶テレビ及びPCモニタ等のカバーガラス、自動車インパネ等のカバーガラス、太陽電池用カバーガラス、建材の内装材、並びにビルや住宅の窓に用いられる複層ガラス等に用いることができる。
【0022】
本実施の形態に係る化学強化ガラスは、既存の成形法で成形可能な寸法を有する。すなわち、フロート法で成形すれば、フロート成形幅の連続したリボン状のガラスが得られる。又、本実施の形態に係る化学強化ガラスは、最終的には使用目的に適した大きさに切断される。
【0023】
すなわち、タブレットPC又はスマートフォン等のディスプレイの大きさであったり、太陽電池用カバーガラスであったり、それぞれの用途に応じた大きさとなる。本実施の形態に係る化学強化ガラスは、一般的には矩形に切断されているが、円形又は多角形等の他の形状でも問題なく、穴あけ加工を施したガラスも含まれる。
【0024】
本実施の形態に係る化学強化ガラスの板厚tは、軽量化に寄与するため1500μm以下であることが好ましい。板厚tは1000μm以下、700μm以下、500μm以下、400μm以下、300μm以下、200μm以下、100μm以下であることがより好ましい。
【0025】
本実施の形態に係る化学強化ガラスは、イオン交換処理によって表面に圧縮応力層を備える。圧縮応力が高いとガラスが湾曲するモードにより破壊されにくくなるため、化学強化ガラスの表面圧縮応力(CS)は600MPa以上であることが好ましく、700MPa以上、800MPa以上、850MPa以上、900MPa以上、950MPa以上、1000MPa以上、1050MPa以上、1100MPa以上、1150MPa以上、1200MPa以上、1300MPa以上、1400MPa以上、1500MPa以上であることがより好ましい。
【0026】
又、化学強化ガラスの使用時に圧縮応力層の深さDOLの値を超える深さの傷がつくと化学強化ガラスの破壊につながるため、化学強化ガラスのDOLは深い方が好ましく、30μm以上であることが好ましく、40μm以上、50μm以上、55μm以上、60μm以上、65μm以上、70μm以上、75μm以上、80μm以上、85μm以上、90μm以上、95μm以上、100μm以上、110μm以上、120μm以上、130μm以上、140μm以上、150μm以上であることがより好ましい。
【0027】
化学強化ガラスの内部引張応力CTの値を大きくすると、CSを大きく、DOLを深くできるため好ましい。換言すれば、CSまたはDOLを大きくしようとすると、必然的にCTも大きくなる。例えば、同様の応力プロファイルを有するガラスであれば、CSまたはDOLの値を10%大きくする(値を1.1倍にする)と、一般的にCTの値も約10%上がる。したがって、CTの値を大きくすることで、CSやDOLをより好ましい値に近付けることができる。
【0028】
化学強化ガラスの内部エネルギー密度rEの値を大きくすると、同じDOLであればCSを大きくできるため好ましい。
【0029】
ここで、本実施の形態の化学強化ガラスの内部引張応力CTと内部エネルギー密度は、リチウム含有アルミノシリケートガラスであるため、従来方法の式(1)及び式(2)では導出できない。リチウム含有化学強化ガラスの導出方法については後述する。
【0030】
本実施の形態に係る化学強化ガラスは、大きいCS値と深いDOL値を達成するために、応力プロファイルは
図21のように、ナトリウムとカリウム、リチウムとナトリウムの二組が化学強化により置換されて、全体として圧縮応力プロファイルは屈曲しているが、置換された領域によって屈折率や光弾性定数が変わるため、二つの応力場について正確な応力分布測定は難しい。したがって、化学強化によりほとんど置換がされない引張応力場を測定することが好ましい。
【0031】
又、本実施の形態に係る化学強化ガラスは、爆発的に粉々に割れるのを防ぐため、DOL値の半値の深さにおける圧縮応力値が、好ましくは表面応力値(CS値)の40%以下、より好ましくは30%以下、更に好ましくは20%以下、特に好ましくは10%以下である。
【0032】
又、本実施の形態に係る化学強化ガラスは、表面応力値(CS値)の半値(HW)となる位置は8μm未満であることが好ましい。より好ましくは7μm以下、更に好ましくは6μm以下、最も好ましくは5μm以下である。表面応力値(CS値)の半値(HW)となる位置が8μm未満であることで、大きいCS値と深いDOL値を達成することができ、化学強化ガラスが破壊した時に、爆発的に粉々に割れるのを防ぐことができる。
【0033】
本実施の形態に係る化学強化ガラスの内部エネルギー密度rEは、式(3)により定義される。ここで、σ(x)は化学強化ガラスの深さ方向の位置x(μm)における圧縮応力値(MPa)、DOLは圧縮応力層の深さ(μm)であり、tは板厚(μm)である。なお、DOLは内部引張応力が働き始める深さとも言い換えることができる。
【0034】
【数3】
一般的に、ひずみによる内部エネルギーEは、(応力)×(ひずみ)/2×(荷重面積S)で求められるので、化学強化ガラスに展開すると、E=CT×(ひずみ)/2×(引張応力層厚み)で表わされる。ここで、ひずみは、板厚に反比例して引張応力層に反比例するため、E∝CT×(引張応力層厚み)×(引張応力層厚み)/(板厚)と表現できる。ここで、次元を考慮しrE〔kJ/m
2〕=CT〔MPa〕×(引張応力層厚み)〔μm〕×(引張応力層厚み)〔μm〕/{(板厚)〔μm〕×1000}と定義すると、内部エネルギーと同様に取り扱うことができる。そこで、本明細書では、このrEを以後内部エネルギー密度と表現することとする。この内部エネルギー密度rEが高いと、クラック近傍で次々と新しいクラックを発生し、ガラスが粉々に破砕してしまう。
【0035】
式(3)により求められる内部エネルギー密度rEは、式(4)を満たすことにより、ガラスが割れたときに細かく飛散しにくくなっている。
【0036】
【数4】
ここで、式(4)の右辺は、本願の発明者らが鋭意検討の結果見出した、化学強化ガラスの内部エネルギー密度rE値の上限値である。リチウム含有のアルミノシリケートガラスが先述した二組の置換により化学強化された場合、式(4)を満たす数値範囲内に内部エネルギー密度rEを制御することで、化学強化ガラスの強度を管理できる。式(4)の右辺の根拠については後述する。
【0037】
(化学強化処理)
化学強化処理により、大きなイオン半径のアルカリ金属イオン(リチウム含有のアルミノシリケートガラスの場合には、KイオンとNaイオン)を含むアルカリ金属塩(例えば、硝酸カリウム塩と硝酸ナトリウム塩)の融液に浸漬等によって、ガラス基板を接触させることにより、ガラス基板中の小さなイオン半径の金属イオン(リチウム含有のアルミノシリケートガラスの場合には、NaイオンとLiイオン)が大きなイオン半径の金属イオンと置換される。
【0038】
化学強化処理は、例えば、350〜500℃のアルカリ金属溶融塩にガラス板を5分〜60時間浸漬することによって行うことができる。
【0039】
イオン交換処理を行うための溶融塩としては、例えば、硝酸カリウム塩、硫酸カリウム塩、炭酸カリウム塩及び塩化カリウム塩等のアルカリ硝酸塩、アルカリ硫酸塩及びアルカリ塩化物塩等が挙げられる。これらの溶融塩は単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。又、化学強化特性を調整するために、ナトリウム(Naイオン)やリチウム(Liイオン)を含む塩を混ぜてもよい。又、条件を変えて複数回行ってもよい。
【0040】
本実施の形態に係る化学強化ガラスにおいて、化学強化処理の処理条件は、特に限定されず、ガラスの特性及び溶融塩等を考慮して最適な条件を選択できる。
【0041】
本実施の形態に係る化学強化ガラスは、例えば、以下の工程(1)〜(3)により製造される。以下、各工程について説明する。
【0042】
(1)ガラスをイオン交換処理することにより、ガラス表面に圧縮応力層を形成する第1の化学強化工程
工程(1)は、化学強化処理に供するガラスをそのガラス中に含まれるアルカリ金属イオン(例えば、NaイオンとLiイオン)よりイオン半径の大きなアルカリ金属イオンを含む溶融塩(例えば、カリウム塩とナトリウム塩)とガラスの転移温度を超えない温度域で接触させて、ガラス中のアルカリ金属イオンとアルカリ金属塩のイオン半径の大きなアルカリ金属イオンとをイオン交換させ、アルカリ金属イオンの占有面積の差によりガラス表面に圧縮応力を発生させ圧縮応力層を形成する工程である。
【0043】
工程(1)においてガラスとアルカリ金属イオンを含む溶融塩とを接触させる処理温度及び処理時間は、ガラス及び溶融塩の組成に応じて適宜調整する。溶融塩の加熱温度は、通常350℃以上が好ましく、370℃以上がより好ましい。又、通常500℃以下が好ましく、450℃以下がより好ましい。溶融塩の加熱温度を350℃以上とすることにより、イオン交換速度の低下により化学強化が入りにくくなるのを防ぐ。又、500℃以下とすることにより溶融塩の分解・劣化を抑制することができる。
【0044】
工程(1)においてガラスを溶融塩に接触させる時間は、十分な圧縮応力を付与するためには、通常0.5時間以上が好ましく、1時間以上、2時間以上、3時間以上、4時間以上がより好ましい。又、長時間のイオン交換では、生産性が落ちるとともに、緩和により圧縮応力値が低下するため、200時間以下が好ましく、150時間以下、100時間以下、90時間以下、80時間以下がより好ましい。
【0045】
(2)ガラスを加熱処理する加熱工程
工程(2)は、工程(1)で得られたガラス表面に圧縮応力層を形成したガラスを加熱処理することにより、圧縮応力層に存在するより大きなアルカリ金属イオン、例えば、カリウムイオンとナトリウムイオンをガラスの表面からガラス内部の方向に移動させることにより、圧縮応力層の最深部をガラス表面からガラス内部の方向に移動させる工程である。この工程は省略することもできる。
【0046】
圧縮応力層の最深部がガラス表面からガラス内部の方向に移動することにより、ガラス表面の圧縮応力が低下するが、ガラス表面から好ましくは30μm以上の圧縮応力層が形成される。
【0047】
ガラスを加熱処理する温度はガラス転移点より50℃以上、好ましくは70℃以上、より好ましくは100℃以上低い温度とする。ガラス転移点より50℃以上低い温度でガラスを加熱処理することにより、ガラスの応力緩和を防ぐことができる。
【0048】
ガラスを加熱処理する時間は、加熱処理温度により適宜調整することが好ましく、通常30分〜2000分であることが好ましく、30〜300分であることがより好ましい。
【0049】
(3)ガラスをイオン交換処理することにより、ガラス表面の圧縮応力層を変化させる第2の化学強化工程
工程(3)は工程(2)で得られたガラスをイオン交換することにより、ガラス表面の圧縮応力層を変化させる工程である。工程(3)において再度イオン交換することにより、ガラス表面及びその内部の圧縮応力層を変化させることができる。工程(3)のイオン交換処理は工程(1)において上述したイオン交換処理と同様の方法により行ってもよいし、別の方法であってもよい。又、別の溶融塩を用いてもよい。
【0050】
工程(3)においてガラスとアルカリ金属イオンを含む溶融塩とを接触させる処理温度及び処理時間は、ガラス及び溶融塩の組成に応じて適宜調整する。溶融塩の加熱温度は、通常350℃以上が好ましく、370℃以上がより好ましい。又、通常500℃以下が好ましく、450℃以下がより好ましい。溶融塩の加熱温度を350℃以上とすることにより、イオン交換速度の低下により化学強化が入りにくくなるのを防ぐ。又、500℃以下とすることにより溶融塩の分解・劣化を抑制することができる。
【0051】
工程(3)においてガラスを溶融塩に接触させる時間は、十分な圧縮応力を付与するためには、通常5分以上が好ましく、6分以上、7分以上、8分以上、9分以上、10分以上がより好ましい。又、長時間のイオン交換では、生産性が落ちるとともに、緩和により圧縮応力値が低下するため、5時間以下が好ましく、3時間以下、2時間以下、1時間以下がより好ましい。
【0052】
工程(1)〜(3)は、連続的な工程、例えばガラス板製造工程において連続的に移動するガラスリボンに対してオンラインで順次行ってもよいし、又は非連続的にオンラインで行ってもよい。又、作業効率の点からは工程(2)を省いた方が好ましい。
【0053】
イオン交換処理を行うための溶融塩は、少なくともカリウムイオンまたはナトリウムイオンを含む処理塩を用いることが好ましい。このような処理塩としては、例えば、硝酸カリウムを50質量%以上含有する塩が好適に挙げられる。又、混合溶融塩には、その他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、硫酸ナトリウム及び硫酸カリウム等のアルカリ硫酸塩、並びに塩化ナトリウム及び塩化カリウム等のアルカリ塩化塩等が挙げられる。
【0054】
〈応力プロファイルの測定方法(1)〉
上記の実施の形態に係る化学強化ガラスの応力プロファイルを測定するための装置および方法について詳説する。
【0055】
図1は、応力プロファイルの測定装置の第1の例を示す図である。
図1に示すように、応力測定装置1は、レーザ光源10と、偏光部材20と、偏光位相差可変部材30と、光供給部材40と、光変換部材50と、撮像素子60と、演算部70と、光波長選択部材80とを有する。
【0056】
200は、被測定体となる化学強化ガラスである。化学強化ガラス200は、例えば、化学強化法により強化処理が施されたガラスである。
【0057】
レーザ光源10は、光供給部材40から化学強化ガラス200の表面層にレーザ光Lを入射するように配置されており、レーザ光源10と光供給部材40との間に、偏光位相差可変部材30が挿入されている。
【0058】
レーザ光源10としては、例えば、半導体レーザ、ヘリウムネオンレーザ、アルゴンレーザを用いることができる。半導体レーザは通常偏光があり、405nm、520nm、630nm等の波長の半導体レーザが実用化されている。レーザ光の波長が短いほどビーム径を絞れ、空間分解能を高くできる。
【0059】
化学強化ガラス200の深さ方向の分解能を上げるためには、レーザ光の最小ビーム径の位置が化学強化ガラス200のイオン交換層内にあり、最小ビーム径が20μm以下であることが好ましい。レーザ光の最小ビーム径の位置を、化学強化ガラス200の表面210とすると、更に好ましい。なお、レーザ光のビーム径が深さ方向の分解能となるため、必要な深さ方向の分解能以下のビーム径にする必要がある。ここで、ビーム径とはビーム中央の輝度が最大になる時の1/e
2(約13.5%)の幅を意味し、ビーム形状が楕円形状やシート状の場合、ビーム径は最小幅を意味する。但し、この場合は、ビーム径の最小幅がガラス深さ方向を向いている必要がある。
【0060】
偏光部材20は、必要に応じて、レーザ光源10と偏光位相差可変部材30との間に挿入される。具体的には、レーザ光源10の出射するレーザ光Lが偏光でない場合、レーザ光源10と偏光位相差可変部材30との間に偏光部材20が挿入される。レーザ光源10の出射するレーザ光Lが偏光である場合、偏光部材20は挿入されても、挿入されなくてもよい。又、レーザ光Lの偏光面が化学強化ガラス200の表面210に対して45°になるよう、レーザ光源10、及び、偏光部材20が設置される。偏光部材20としては、例えば、回転可能な状態で配置された偏光板等を用いることができるが、同様の機能を備えた他の部材を用いてもよい。
【0061】
光供給部材40は、被測定体である化学強化ガラス200の表面210に光学的に接触した状態で載置されている。光供給部材40は、レーザ光源10からの光を化学強化ガラス200に入射させる機能を備えている。光供給部材40としては、例えば、光学ガラス製のプリズムを用いることができる。この場合、化学強化ガラス200の表面210において、光線がプリズムを介して光学的に入射するために、プリズムの屈折率は化学強化ガラス200の屈折率とほぼ同じ(±0.2以内)にする必要がある。
【0062】
光供給部材40と化学強化ガラス200との間に、化学強化ガラス200の屈折率とほぼ同じ屈折率を持つ液体を挟んでもよい。これにより、化学強化ガラス200内に、効率よくレーザ光Lを入射することができる。これについては、応力プロファイルの測定方法(5)で詳しく説明する。
【0063】
化学強化ガラス200を通過するレーザ光Lは、微量の散乱光L
Sを発生する。散乱光L
Sの輝度は、レーザ光Lの散乱する部分の偏光位相差で変化する。又、レーザ光Lの偏光方向が、化学強化ガラス200の表面210に対して
図2のθ
s2が45°(±5°以内)になるように、レーザ光源10が設置されている。そのため、化学強化ガラス200の面内方向にかかる応力の光弾性効果により複屈折を起こし、レーザ光Lが化学強化ガラス中を進むにつれ、偏光位相差も変化し、その変化に伴い散乱光L
Sの輝度も変化する。なお、偏光位相差とは、複屈折により生じる位相差(retardation)である。
【0064】
又、レーザ光Lは、化学強化ガラスの表面210に対して、θ
s1は10°以上30°以下に設定される。これは10°を下回ると、光導波効果によりレーザ光がガラス表面を伝播し、ガラス内部の情報を取ることができなくなるからである。逆に30°を超えると、レーザ光路長に対するガラス内部の深さ分解能が下がり、測定方法として好ましくない。よって、好ましくはθ
s1=15°±5°に設定する。
【0065】
次に、撮像素子60について、
図2を用いて説明する。
図2は、応力測定装置1を
図1のH方向から見た図であり、撮像素子60の位置関係を示す図である。レーザ光Lの偏光が化学強化ガラス200の表面210に対して45°の角度で入射するため、散乱光L
Sも化学強化ガラス200の表面210に対して45°角度で放射される。そのため、この化学強化ガラスの面に対して45°で放射される散乱光L
Sを捉えるために、撮像素子60が、
図2において、化学強化ガラス200の表面210に対して45°の方向に設置されている。すなわち、
図2において、θ
s2=45°である。
【0066】
又、撮像素子60と、レーザ光Lの間に、レーザ光Lによる散乱光L
Sの画像を撮像素子60に結像するよう光変換部材50が挿入されている。光変換部材50としては、例えば、ガラス製の凸レンズや、複数の凸レンズや凹レンズを組み合わせたレンズを用いることができる。
【0067】
又、複数のレンズを組み合わせたレンズについて、主光線が光軸に平行であるテレセントリックレンズにすることにより、レーザ光Lより四方に散乱する散乱光中、主に化学強化ガラス200のガラス表面に対して45°方向(撮像素子方向)に散乱する光のみで結像することができ、ガラス表面の乱反射等の不必要な光を低減する効果がある。
【0068】
又、レーザ光Lと撮像素子60との間に、少なくともレーザ光の波長+100nm以上と、−100nm以下の波長の光を50%以上、好ましくは90%透過させない光波長選択部材80を挿入してもよい。光波長選択部材80を挿入することにより、レーザ光Lより発生した蛍光光や外来光を除去し、散乱光L
Sだけを撮像素子60に集めることができる。光波長選択部材80としては、例えば、誘電体膜を多層にしたバンドパスフィルタや、ショートパスフィルタを用いることができる。
【0069】
撮像素子60としては、例えば、CCD(Charge Coupled Device)素子やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサ素子を用いることができる。
図1及び
図2には図示していないが、CCD素子やCMOSセンサ素子は、その素子を制御し、素子から画像の電気信号を取出す制御回路、電気信号をデジタル画像データにするデジタル画像データ生成回路、デジタル画像データを複数枚記録するデジタル記録装置に接続されている。更に、デジタル画像データ生成回路、デジタル記録装置は、演算部70に接続されている。
【0070】
演算部70は、撮像素子60、或いは、上記撮像素子60に接続された、デジタル画像データ生成回路、デジタル記録装置から画像データを取り込み、画像処理や数値計算をする機能を備えている。演算部70は、これ以外の機能(例えば、レーザ光源10の光量や露光時間を制御する機能等)を有する構成としてもよい。演算部70は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、メインメモリ等を含むように構成することができる。
【0071】
この場合、演算部70の各種機能は、ROM等に記録されたプログラムがメインメモリに読み出されてCPUにより実行されることによって実現できる。演算部70のCPUは、必要に応じてRAMからデータを読み出したり、格納したりできる。但し、演算部70の一部又は全部は、ハードウェアのみにより実現されてもよい。又、演算部70は、物理的に複数の装置等により構成されてもよい。演算部70としては、例えば、パーソナルコンピュータを用いることができる。又、演算部70にデジタル画像データ生成回路、デジタル記録装置の機能を持たせても良い。
【0072】
偏光位相差可変部材30は、化学強化ガラス200へ入射するときの偏光位相差を時間的に変化させる。変化させる偏光位相差は、レーザ光の波長λの1倍以上である。偏光位相差は、レーザ光Lの波面に対して均一でなければいけない。例えば、水晶楔は、楔の傾斜面のついた方向には偏光位相差が均一でないためレーザ光の波面は均一でない。そのため、偏光位相差可変部材30として水晶楔を用いることは好ましくない。
【0073】
レーザ光の波面に均一で偏光位相差を電気的に1λ以上可変できる偏光位相差可変部材30としては、例えば、液晶素子を挙げることができる。液晶素子は、素子に印加する電圧により偏光位相差を可変することができ、例えば、レーザ光の波長が630nmである場合、3〜6波長の可変が可能である。液晶素子において、印加する電圧で可変できる偏光位相差の最大値は、セルギャップの寸法で決まる。
【0074】
通常の液晶素子は、セルギャップが数μmであるため、最大の偏光位相差は1/2λ(数100nm)程度である。又、液晶を使ったディスプレイ等では、それ以上の変化は要求されない。これに対して、本実施の形態で使用する液晶素子は、レーザ光の波長が例えば630nmである場合、630nmの約3倍の約2000nmの偏光位相差を可変する必要があり、20〜50μmのセルギャップが必要となる。
【0075】
液晶素子に印加する電圧と偏光位相差は比例しない。一例として、セルギャップが30μmの液晶素子の印加電圧と偏光位相差との関係を
図3に示す。
図3において、縦軸は偏光位相差(波長630nmに対しての波長数)、横軸は液晶素子に印加する電圧(対数で描かれている)である。
【0076】
液晶素子に印加する電圧が0Vから10Vで、約8λ(5000nm)の偏光位相差を可変できる。しかし、液晶素子は、一般的に0Vから1Vまでの低電圧では液晶の配向が安定せず、温度変化等で偏光位相差が変動する。又、液晶素子に印加する電圧が5V以上では、電圧の変化に対して偏光位相差の変化が少ない。この液晶素子の場合、1.5Vから5Vの印加電圧で使用することで、4λ〜1λ、すなわち約3λの偏光位相差を安定に可変することができる。
【0077】
偏光位相差可変部材30として液晶素子を用いる場合、偏光位相差可変部材30は液晶を制御する液晶制御回路に接続され、撮像素子60と同期して制御される。この際、偏光位相差を時間的に直線的に可変させ、撮像素子60の撮像のタイミングに同期することが必要である。
【0078】
図3は、液晶素子の印加電圧と偏光位相差との関係を例示する図である。
図3で示すように、液晶素子の印加電圧と偏光位相差は直線的な変化をしない。そのため、偏光位相差がある時間内で直線的に変化するような信号を発生させ、液晶素子への駆動電圧として印加する必要がある。
【0079】
図4は、液晶素子に偏光位相差が時間的に直線的に変化するような駆動電圧を発生させる回路を例示する図である。
【0080】
図4において、デジタルデータ記憶回路301には、使用する液晶素子の印加電圧と偏光位相差とを予め測定したデータに基づいて、偏光位相差を一定間隔で変化させるための、偏光位相差に対応する電圧値が、必要な偏光位相差変化の範囲でデジタルデータとしてアドレス順に記録されている。表1に、デジタルデータ記憶回路301に記録されるデジタルデータの一部を例示する。表1の電圧の列が、記録されるデジタルデータであり、偏光位相差10nmの変化毎の電圧値である。
【0081】
【表1】
クロック信号発生回路302は、水晶振動子等を使い、周波数が一定であるクロック信号を発生させる。クロック信号発生回路302の発生したクロック信号は、デジタルデータ記憶回路301とDAコンバータ303に入力される。
【0082】
DAコンバータ303は、デジタルデータ記憶回路301からのデジタルデータをアナログ信号に変換する回路である。クロック信号発生回路302の発生したクロック信号に従って、デジタルデータ記憶回路301から順次記憶された電圧値のデジタルデータが読み出され、DAコンバータ303へ送られる。
【0083】
DAコンバータ303では、一定時間間隔で読み出された電圧値のデジタルデータをアナログ電圧に変換する。DAコンバータ303から出力されるアナログ電圧は、電圧増幅回路304を通して、偏光位相差可変部材30として用いる液晶素子へ印加される。
【0084】
なお、
図4では図示していないが、この液晶素子の駆動回路は、
図2の撮像素子60を制御する回路と同期がとられ、液晶素子への駆動電圧の印加の開始とともに、撮像素子60で時間的に連続な撮像を開始する。
【0085】
図5は、撮像素子に結像されたレーザ光Lのある瞬間の散乱光像を例示する図である。
図5では、上に行くほど化学強化ガラス200の表面210からの深さが深くなる。
図5において、点Aは化学強化ガラス200の表面210であり、化学強化ガラス200の表面210の散乱光が強いため、散乱光像は楕円状に広がっている。
【0086】
化学強化ガラス200の表面部には強い圧縮応力がかかっているため、光弾性効果による複屈折により、レーザ光Lの偏光位相差が深さとともに変化する。そのため、レーザ光Lの散乱光輝度も深さとともに変化する。なお、レーザ光の散乱光輝度が、化学強化ガラスの内部応力により変化する原理については、例えば、Yogyo-Kyokai-Shi(窯業協会誌)80{4}1972、等に説明されている。
【0087】
偏光位相差可変部材30により、化学強化ガラス200に入射する前のレーザ光Lの偏光位相差を時間的に連続して変化させることができる。これにより、
図5の散乱光像の各点において、偏光位相差可変部材30で変化させた偏光位相差に応じて散乱光輝度が変化する。
【0088】
図6は、
図5の点Bと点Cでの散乱光の輝度(散乱光輝度)の時間的な変化を例示する図である。散乱光輝度の時間的な変化は、偏光位相差可変部材30の変化させた偏光位相差に応じ、レーザ光の波長λの周期で、周期的に変化する。例えば、
図6において、点Bと点Cでは、散乱光輝度の変化の周期は同じであるが、位相が異なっている。これは、レーザ光Lが点Bから点Cへ進むときに、化学強化ガラス200中の応力による複屈折で更に偏光位相差が変化したためである。点Bと点Cとの位相差δは、点Bから点Cへレーザ光Lが進んだときに変化した偏光位相差を行路差で表現したものをq、レーザ光の波長をλとすると、δ=q/λとなる。
【0089】
局所的に考えると、レーザ光L上の任意の点Sでの、偏光位相差可変部材30の時間的な偏光位相差の変化に伴う、周期的な散乱光輝度の変化の位相Fを、レーザ光Lに沿った位置sで表した関数F(s)に対して、sに対する微分値dF/dsが化学強化ガラス200の面内応力により発生した複屈折量である。化学強化ガラス200の光弾性定数Cと、dF/ds、ガラス表面からの深さxに対する微分量ds/dxを用い、下記の式(5)により、ガラス表面からの深さxに対する化学強化ガラス200の面内方向の応力σを計算することができる。
【0090】
【数5】
一方、偏光位相差可変部材30は、ある時間内に時間的に連続に偏光位相差を1波長以上変化させる。その時間内に、撮像素子60により、複数枚の時間的に連続したレーザ光Lによる散乱光像を記録する。そして、この連続撮影をした散乱光像の各点における時間的な輝度の変化を測定する。
【0091】
この散乱光像の各点の散乱光の変化は周期的であり、その周期は場所によらず一定である。そこで、その周期Tをある点の散乱光輝度の変化から測定する。或いは、複数の点での周期の平均を周期Tとしてもよい。
【0092】
偏光位相差可変部材30では偏光位相差を1波長以上(1周期以上)変化させるため、散乱光輝度も1周期以上変化する。そのため、複数のピークやバレーの差、或いは、振幅の中点を通る時刻の差等から周期Tの測定が可能である。なお、1周期以下でのデータでは、1周期を知ることは原理的に不可能である。
【0093】
ある点での散乱光の周期的な変化のデータにおいて、上記で決めた周期Tを基に、三角関数の最小二乗法やフーリエ積分により、その点での位相Fを正確に求めることができる。
【0094】
予め既知である周期Tでの三角関数の最小二乗法やフーリエ積分では、既知である周期Tでの位相成分だけが抽出され、他の周期のノイズを除去可能である。又、その除去能力は、データの時間的変化が長ければ長いほど高くなる。通常、散乱光輝度は弱く、又、実際に変化する位相量も小さいため、数λの偏光位相差の可変によるデータでの測定が必要となる。
【0095】
撮像素子60により撮影した画像上のレーザ光Lに沿った散乱光像の各点での散乱光の時間的変化のデータを測定し、それぞれについて、上記と同様の方法で位相Fを求めると、レーザ光Lに沿った、散乱光輝度の位相Fを求めることができる。
図7は、ガラス深さに応じた散乱光変化の位相の例である。
【0096】
このレーザ光Lに沿った散乱光輝度の位相Fにおいて、レーザ光L上の座標での微分値を計算し、式(5)により、レーザ光L上の座標sでの応力値を求めることができる。更に、座標sをガラス表面からの距離に換算すれば、化学強化ガラスの表面からの深さに対する応力値を算出することができる。
図8は、
図7の散乱光変化の位相データを基に、式(5)より応力分布を求めた例である。
【0097】
図9は、異なる時刻t1、t2の実際の散乱光像の例であり、
図9の点Aは化学強化ガラスの表面であり、化学強化ガラスの表面の荒れにより、表面散乱光が映っている。この表面散乱光像の中心が化学強化ガラスの表面に相当する。
【0098】
図9において、レーザ光の散乱光像が各点で輝度が異なっていることがわかり、又、同じ点であっても、時刻t2での輝度分布は、時刻t1での輝度分布と同じでないことがわかる。これは、周期的な散乱光輝度変化の位相がずれているためである。
【0099】
応力測定装置1において、レーザ光Lの入射面は、化学強化ガラス200の表面210に対して45°傾いた状態とすることが好ましい。これについて、
図10及び
図11を参照しながら説明する。
【0100】
図10は、化学強化ガラス中のレーザ光Lの入射面の好ましくない設計例を示す図である
図10では、化学強化ガラス200中のレーザ光Lの入射面250が化学強化ガラスの表面210に対して垂直である。
【0101】
図10(b)は
図10(a)の方向Hから見た図である。
図10(b)に示すように、撮像素子60は、化学強化ガラス200の表面210に対して45°傾けて設置されており、レーザ光Lを斜め45°から観察する。
図10の場合、レーザ光L上の異なる2点、点A、点Bから撮像素子60までの距離を距離A、距離Bとすると、その距離が異なる。すなわち、点Aと点Bとで同時にピントを合わせることができず、必要な領域のレーザ光Lの散乱光像を良好な画像として取得することができない。
【0102】
図11は、化学強化ガラス中のレーザ光Lの入射面の好ましい設計例を示す図である。
図11では、化学強化ガラス200中のレーザ光Lの入射面250が化学強化ガラス200の表面210に対して45°傾いている。
【0103】
図11(b)は
図11(a)の方向Hから見た図である。
図11(b)に示すように、撮像素子60は、化学強化ガラス200の表面210に対して45°傾けて設置されているが、レーザ光Lの通る面である入射面250も同様に45°傾いている。そのため、レーザ光L上のどの点においても撮像素子60までの距離(距離Aと距離B)が同じとなり、必要な領域のレーザ光Lの散乱光像を、良好な画像として取得することができる。
【0104】
特に、最小ビーム径が20μm以下であるレーザ光を用いる場合、焦点深度が浅く、せいぜい数10μm程度であるため、化学強化ガラス200中のレーザ光Lの入射面250を化学強化ガラス200の表面210に対して45°傾け、レーザ光L上のどの点においても撮像素子60までの距離を同じにすることは、良好な画像を取得する上で極めて重要である。
【0105】
(測定のフロー)
次に、
図12及び
図13を参照しながら測定のフローについて説明する。
図12は、応力測定装置1の測定方法を例示するフローチャートである。
図13は、応力測定装置1の演算部70の機能ブロックを例示する図である。
【0106】
まず、ステップS401では、偏光のあるレーザ光源10、或いは偏光をかけたレーザ光源10からのレーザ光の偏光位相差を、偏光位相差可変部材30により、時間的に連続してレーザ光の波長に対して1波長以上可変する(偏光位相差可変工程)。
【0107】
次に、ステップS402では、偏光位相差が可変されたレーザ光を、光供給部材40を介して、被測定体である化学強化ガラス200内に表面210に対して斜めに入射させる(光供給工程)。
【0108】
次に、ステップS403では、撮像素子60は、化学強化ガラス200中を進む偏光位相差が可変されたレーザ光による散乱光を、所定の時間間隔で複数回撮像し、複数の画像を取得する(撮像工程)。
【0109】
次に、ステップS404では、演算部70の輝度変化測定手段701は、撮像工程で得られた散乱光の時間的に間隔を置いた複数の画像を用いて、偏光位相差可変工程により可変された偏光位相差の時間的変化に伴う散乱光の周期的な輝度変化を測定する(輝度変化測定工程)。
【0110】
次に、ステップS405では、演算部70の位相変化算出手段702は、化学強化ガラス200中に入射されたレーザ光に沿った、散乱光の周期的な輝度変化の位相変化を算出する(位相変化算出工程)。
【0111】
次に、ステップS406では、演算部70の応力分布算出手段703は、化学強化ガラス200中に入射されたレーザ光に沿った、散乱光の周期的な輝度変化の位相変化に基づいて、化学強化ガラス200の表面210からの深さ方向の応力分布を算出する(応力分布算出工程)。なお、算出した応力分布を、表示装置(液晶ディスプレイ等)に表示させてもよい。
【0112】
このように、応力測定装置1では、表面の導波光を利用した応力測定装置とは異なり、化学強化ガラスの屈折率分布に依存した応力測定を行わず、散乱光に基づいた測定を行う。そのため、化学強化ガラスの屈折率分布にかかわらず(化学強化ガラスの屈折率分布とは無関係に)、化学強化ガラスの応力分布を、化学強化ガラスの最表面から従来よりも深い部分まで測定可能となる。例えば、ある深さから、深さとともに屈折率が高くなる特徴を持つリチウム・アルミノシリケート系の化学強化ガラス等についても、応力測定が可能である。
【0113】
又、レーザ光の偏光位相差を、偏光位相差可変部材30により、時間的に連続してレーザ光の波長に対して1波長以上可変する。そのため、散乱光の周期的な輝度変化の位相を、三角関数の最小二乗法や、フーリエ積分により求めることが可能となる。三角関数の最小二乗法やフーリエ積分では、従来のように波のピークやバレーの位置の変化により位相を検知する方法とは異なり、波の全データが扱われ、又、予めわかっている周期に基づいているため、他の周期のノイズを除去可能である。その結果、散乱光の周期的な輝度変化の位相を容易かつ正確に求めることが可能となる。
【0114】
〈応力プロファイルの測定方法(2)〉
応力プロファイルの測定方法(2)では、上記の実施の形態に係る化学強化ガラスの応力プロファイルを測定するための装置および方法の第2の例を示す。なお、応力プロファイルの測定方法(2)において、既に説明した応力プロファイルの測定方法(1)と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0115】
図14は、応力プロファイルの測定装置の第2の例を示す図である。
図14(a)に示すように、応力測定装置1Aは、光波長選択部材80、光変換部材50、及び撮像素子60が、化学強化ガラス200に対して、光供給部材41とは反対側に配置され、更に、化学強化ガラス200の裏面220と接するように光取出し部材42が配置された点が、応力測定装置1(
図1参照)と相違する。なお、
図14において、演算部の図示は省略している。
【0116】
応力測定装置1Aでは、化学強化ガラス200の裏面220側で生じた散乱光L
S2を、プリズム等である光取出し部材42、光波長選択部材80、及び光変換部材50を介して、撮像素子60に入射させ、撮像素子60で一定時間内、時間的に間隔を置き複数撮像する。これ以外の構成及び動作は、応力測定装置1と同様である。
【0117】
なお、光供給部材41を設けることで、レーザ光Lの化学強化ガラス200の表面210での反射を低減できるが、レーザ光Lの化学強化ガラス200の表面210での反射が問題ない程度であれば、光供給部材41を設けずに、レーザ光Lを直接化学強化ガラス200に入射してもよい。
【0118】
化学強化ガラス200は、一般に、表裏面側が同一の応力分布であるため、応力測定装置1のように、化学強化ガラス200の表面210側(レーザ光Lの入射側)の散乱光Lsを検出してもよいし、応力測定装置1Aのように、化学強化ガラス200の裏面220側(レーザ光Lの出射側)の散乱光L
S2を検出してもよい。
【0119】
なお、化学強化ガラス200の裏面220側の散乱光L
S2を検出する場合において、化学強化ガラス200中のレーザ光が全反射の条件を満たしていることが好ましい。化学強化ガラス200の裏面220においてレーザ光を全反射させると、化学強化ガラス200の裏面220での乱反射を低減でき、撮像素子60に不要光が入射することを防止できるためである。化学強化ガラス200へのレーザ光の入射角度を調整することで、化学強化ガラス200の裏面220で、レーザ光が全反射の条件を満たすことができる。
【0120】
或いは、
図14(b)に示す応力測定装置1Bのように、化学強化ガラス200の表面210側で生じて裏面220側に出射した散乱光L
S3を、プリズム等である光取出し部材42、光波長選択部材80、及び光変換部材50を介して、撮像素子60に入射させ、撮像素子60で一定時間内、時間的に間隔を置き複数撮像してもよい。これ以外の構成及び動作は、応力測定装置1と同様である。
【0121】
なお、応力測定装置1Aと同様に、光供給部材41を設けることで、レーザ光Lの化学強化ガラス200の表面210での反射を低減できるが、レーザ光Lの化学強化ガラス200の表面210での反射が問題ない程度であれば、光供給部材41を設けずに、レーザ光Lを直接化学強化ガラス200に入射してもよい。
【0122】
応力測定装置1A及び1Bの何れの場合にも、応力測定装置1と同様に、化学強化ガラス200中に入射されたレーザ光Lに沿った、散乱光の周期的な輝度変化の位相変化から、化学強化ガラス200の裏面220からの深さ方向の応力分布を算出することができる。
【0123】
特に、応力測定装置1Bによれば、ガラス板厚に依存することなくレーザの焦点がガラス表層から同じ位置に設定されるため、同じような応力分布を有する化学強化ガラスを測定するときでも、レーザの焦点位置を調整する必要がなくなったり、微調整で済んだりするため、測定時間が短かったり繰り返し精度がより向上したりするという効果を奏する。
【0124】
〈応力プロファイルの測定方法(3)〉
応力プロファイルの測定方法(3)では、上記の実施の形態に係る化学強化ガラスの応力プロファイルを測定するための装置および方法の第3の例を示す。なお、応力プロファイルの測定方法(3)において、既に説明した応力プロファイルの測定方法(1)及び(2)と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0125】
図15は、応力プロファイルの測定装置の第3の例を示す図である。
図15に示すように、応力測定装置1Cは、光波長選択部材80A、光変換部材50A、及び撮像素子60Aが、化学強化ガラス200に対して、光供給部材40とは反対側に配置され、更に、化学強化ガラス200の裏面220と接するように光取出し部材42が配置された点が、応力測定装置1(
図1参照)と相違する。なお、
図15において、演算部の図示は省略している。
【0126】
応力測定装置1Cでは、応力測定装置1と同様に、化学強化ガラス200の表面210側から出射した散乱光L
Sを検出できる。更に、応力測定装置1Cでは、化学強化ガラス200の裏面220側から出射した散乱光L
S2を、プリズム等である光取出し部材42、光波長選択部材80A、及び光変換部材50Aを介して、撮像素子60Aに入射させ、撮像素子60Aで一定時間内、時間的に間隔を置き複数撮像する。これ以外の動作は、応力測定装置1と同様である。
【0127】
応力測定装置1Cでは、
図15の構成により、化学強化ガラス200の表面210からの深さ方向の応力分布、及び化学強化ガラス200の裏面220からの深さ方向の応力分布を同時に算出することができる。表裏面側が同一の応力分布でない化学強化ガラスを測定する場合や、任意の化学強化ガラスにおいて表裏面側が同一の応力分布であるか否かを確認したい場合等に有効である。
【0128】
〈応力プロファイルの測定方法(4)〉
応力プロファイルの測定方法(4)では、上記の実施の形態に係る化学強化ガラスの応力プロファイルを測定するための装置および方法の第4の例を示す。なお、応力プロファイルの測定方法(4)において、既に説明した応力プロファイルの測定方法(1)〜(3)と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0129】
偏光位相差可変部材として、透明材料の光弾性効果を利用し、加圧により偏光位相差を可変することもできる。
図16は、光弾性効果を利用した偏光位相差可変部材の説明図である。
【0130】
図16に示す偏光位相差可変部材30Aにおいて、略直方体の偏光位相差発生材料310の一面が固定治具311で固定され、偏光位相差発生材料310の反対面がピエゾ素子312の一面に接し、ピエゾ素子312の反対面が固定治具313で固定されている。
【0131】
偏光位相差発生材料310のピエゾ素子312に接している面と直角方向の対向する2つの面310a及び310bは鏡面に加工してあり、偏光のある光線Qが通過できるようなっている。偏光位相差発生材料310としては、透明で光弾性効果が大きな材料、例えば、ガラスでは石英ガラス、樹脂ではポリカーボネートを用いることができる。
【0132】
ピエゾ素子312は、電圧が印加されると電圧印加方向に伸び縮みする。伸びるか縮むかは電圧の正負で決まる。
図16には図示していないが、ピエゾ素子312に印加する電圧を制御するピエゾ素子駆動電圧発生回路がピエゾ素子312に接続されている。
【0133】
ピエゾ素子312は、ピエゾ素子駆動電圧発生回路によりピエゾ素子312が伸びる電圧が印加されると、電圧が印加される方向に長さが伸びようとするが、その伸びる方向に偏光位相差発生材料310が位置されるようピエゾ素子312が配置されている。
【0134】
ピエゾ素子駆動電圧発生回路によりピエゾ素子312が伸びる方向の電圧が印加されると、ピエゾ素子312は偏光位相差発生材料310の方向に伸びる。固定治具311及び313で固定されているので、偏光位相差発生材料310が縮み圧縮応力がかかる。偏光位相差発生材料310の圧縮応力により、光線Qが通過する方向に複屈折が生じ、光線Qには偏光位相差が発生する。その偏光位相差の量はピエゾ素子312に印加する電圧に比例し、ピエゾ素子312に駆動電圧を印加するピエゾ素子駆動電圧発生回路で偏光位相差を制御することが可能である。
【0135】
例えば、偏光位相差発生材料310として、10mmの立方体のポリカーボネートを使用する。ポリカーボネートの光弾性定数は約700nm/cm/MPa、ヤング率は約2.5GPaである。
【0136】
ピエゾ素子312としては、例えば、ピエゾ効果の大きなチタン酸ジルコン酸鉛等のペロブスカイト結晶構造を有する高誘電体セラミックを電極と交互に積み重ねた積層ピエゾ素子を用いることができる。例えば、積層ピエゾ素子において、1層の厚みが200μmで100層、長さ20mm程度にすることで、印加電圧100Vで10μm以上の伸びを得ることができる。
【0137】
ピエゾ素子312の材料であるチタン酸ジルコン酸鉛のヤング率はポリカーボネートに比べて10倍以上あるので、ピエゾ素子312の伸びは、ほぼ全てポリカーボネートの圧縮になり、ピエゾ素子312が10μm伸びると、10mmの立方体のポリカーボネートは0.1%圧縮され、その時の圧縮応力は2.5MPaとなる。10mmの偏光位相差発生材料310を光線Qが通過すると、1750nmの偏光位相差が発生し、波長630nmであれば、2.8λの偏光位相差を可変できる。
【0138】
例えば、偏光位相差発生材料310として、10mmの立方体の石英ガラスを使用する。石英ガラスの光弾性定数は約35nm/cm/MPa、ヤング率は約70GPaである。ピエゾ素子312の材料であるチタン酸ジルコン酸鉛のヤング率は石英とほぼ同じレベルなので、ピエゾ素子312の伸びは、ほぼ半分が石英ガラスの圧縮になり、ピエゾ素子312が10μm伸びると、10mmの立方体のポリカーボネートは約0.05%圧縮され、その時の圧縮応力は約35MPaとなる。10mmの偏光位相差発生材料310を光線Qが通過すると、1225nmの偏光位相差が発生し、波長630nmであれば、1.9λの偏光位相差を可変できる。
【0139】
このように材料を変形させて偏光位相差を作る場合は、光弾性定数とヤング率を乗じた値が重要で、ポリカーボネートの場合0.18(単位無し)、石英の場合0.26(単位無し)となる。つまり、この値を0.1以上の透明部材を偏光位相差発生材料310として用いることが重要になる。
【0140】
このように、偏光位相差可変部材は液晶素子に限定されるものではなく、化学強化ガラス200へ入射するときの偏光位相差を時間的に変化させることができ、かつ、変化させる偏光位相差がレーザ光の波長λの1倍以上であることを実現できれば、ピエゾ素子を応用した形態であってもよいし、それ以外の任意の形態であってもよい。
【0141】
〈応力プロファイルの測定方法(5)〉
応力プロファイルの測定方法(5)では、上記の実施の形態に係る化学強化ガラスの応力プロファイルを測定するための装置および方法の第5の例を示す。なお、応力プロファイルの測定方法(5)において、既に説明した応力プロファイルの測定方法(1)〜(4)と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0142】
図18は、応力プロファイルの測定装置の第5の例を示す図であり、光供給部材と化学強化ガラスとの界面近傍の断面を図示している。
【0143】
図18に示すように、第5の例では、光供給部材40と化学強化ガラス200との間に、化学強化ガラス200の屈折率とほぼ同じ屈折率を持つ液体90を挟んでいる。これは化学強化ガラス200の屈折率は化学強化ガラスの種類によって若干異なるため、光供給部材40の屈折率と完全に一致させるには、化学強化ガラスの種類ごとに光供給部材40を取り換える必要がある。しかしこの交換作業は非効率なので、光供給部材40と化学強化ガラス200との間に化学強化ガラス200の屈折率とほぼ同じ屈折率を持つ液体90を挟むことにより、化学強化ガラス200内に、効率よくレーザ光Lを入射することができる。
【0144】
液体90としては、例えば、1−ブロモナフタレン(n=1.64)とキシレン(n=1.50)との混合液を用いることができる。液体90の屈折率は、それぞれの混合比で決まるため、容易に化学強化ガラス200の屈折率と同じ屈折率にすることができる。
【0145】
このとき、化学強化ガラス200と液体90との屈折率差は±0.03以下にすることが好ましく、±0.02以下にすることがより好ましく、±0.01以下にすることが更に好ましい。液体90が無い場合、化学強化ガラス200と光供給部材の間には散乱光が発生し、約20μm程度の範囲でデータが取れない。
【0146】
液体90の厚みは、10μm以上にすると、散乱光が10μm程度又はそれ以下に抑制されるため、10μm以上にすることが好ましい。原理上、液体90の厚みはいくらあっても良いが液体の取扱いを考えると500μm以下とすることが好ましい。
【0147】
図19は、光供給部材40と化学強化ガラス200との界面を進むレーザ光Lの散乱光画像を例示する図である。
図19において、点Aは化学強化ガラスの表面散乱光であり、点Dは光供給部材40の表面の表面散乱光である。点Aと点Dとの間は液体90からの散乱光である。
【0148】
液体90の厚みが薄いと点Aと点Dとはほぼ同じ点となり、化学強化ガラス200の表面散乱と光供給部材40の表面散乱が加わった表面散乱光となる。光供給部材40は、多くの化学強化ガラス200を測定していくと、表面の傷付が多く発生してしまう。そうすると、非常に大きな表面散乱光が発生する。
【0149】
しかし、
図19のように、液体90を挟むことで、光供給部材40と化学強化ガラス200との間隔を保つことにより、光供給部材40の表面散乱光が化学強化ガラス200の最表面層付近の測定にかぶることを防ぐことができる。
【0150】
図20は、光供給部材40と化学強化ガラス200との間に液体90を挟むための構造部を例示した図である。
図20(a)のように、光供給部材40の表面に研磨やエッチングにより10μm以上の窪み40xを形成し、窪み40x内に液体90を充填することで、液体90の厚みを安定して10μm以上とすることができる。窪み40xの深さは、原理上いくらあっても良いが、加工のしやすさを考えると500μm以下が好ましい。
【0151】
又、光供給部材40の表面に窪み40xを形成する代わりに、
図20(b)のように真空蒸着やスパッタ等の薄膜形成技術等で、光供給部材40の表面に、金属、酸化物、樹脂等により厚み10μm以上のランド部材100を形成し、ランド部材100に保持された液体90のランドを形成してもよい。ランド部材100で液体90を保持することで、液体90の厚みを安定して10μm以上とすることができる。ランド部材100の厚さは、原理上いくらあっても良いが、加工のしやすさを考えると500μm以下が好ましい。
【0152】
以上の測定装置及び測定方法により、化学強化ガラスの表面から深さ方向の応力分布を算出する。
図17に測定装置で測定したときの応力分布を示す。
【0153】
[実施例]
本実施の形態に係る化学強化ガラスに対応する実施例を示す。
【0154】
<評価方法>
本実施例における各種評価は以下に示す分析方法により行った。
【0155】
(ガラスの評価:表面応力)
本実施例の化学強化ガラスの応力分布は、前述の実施の形態に記載の方法により算出した。具体的には、前述の〈応力プロファイルの測定方法〉の項で説明した計算方法により、応力分布を算出した。
【0156】
ここで、該応力分布において、ガラス表面から深さx(μm)の深さにおける圧縮応力をσ(x)(MPa)としたとき、本実施例の化学強化ガラスの圧縮応力層のガラス内部において応力値が0MPaとなるガラス深さの最小値(単位はμm)を、圧縮応力層の深さ(DOL)とした。又、式(3)を用いて内部エネルギー密度rE(kJ/m
2)を求めた。
【0157】
(化学強化ガラスの評価:割れ挙動)
化学強化ガラスの割れ挙動は次のように評価した。
図22に評価方法を概略図により示す。まず、圧子410を、その先端部411が化学強化ガラスの表面210に対して垂直となるように静的荷重条件下で押し込んだ。圧子410が取り付けられるビッカース硬さ試験機400は、フューチュアテック社製FLS−ARS9000を用いた。圧子410は、先端部411の対面角度が60°のものを用い、化学強化ガラスの表面210に60μm/秒の速度で圧子410に4kgf(≒39.2N)の荷重がかかるよう押し込み、当該荷重に達した状態で15秒間保持し、その後圧子を除荷し60秒後の化学強化ガラス200を観察した。これにより割れた化学強化ガラス200の破片の数(破砕数)を計量し、化学強化ガラス200の割れ挙動を評価した。
【0158】
<実施例1〜20>
(第1の化学強化工程)
SUS製のカップに硝酸カリウム(KNO
3)と硝酸ナトリウム(NaNO
3)を、その合計量が4000gとなり、かつKNO
3の濃度(質量%)がそれぞれ表2の第1の化学強化工程の項に示す通りとなるよう加え、マントルヒーターで所定の温度まで加熱して、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合溶融塩を調製した。ここに、50mm×50mmで板厚が表2へ記載したように異なるリチウム含有アルミノシリケートガラスを350℃まで予熱した後、溶融塩に所定の時間浸漬し、イオン交換処理した後、室温付近まで冷却することにより第1の化学強化処理を行った。第1の化学強化処理の条件は、表2に記載の通りである。得られた化学強化ガラスは水洗いし、次の工程に供した。
【0159】
リチウム含有アルミノシリケートガラス(比重:2.44)組成(モル%表示):SiO
2 69%、Al
2O
3 9%、MgO 6%、ZrO
2 1%、Li
2O 9.5%、Na
2O 4.5%、K
2O 1%
(第2の化学強化工程)
SUS製のカップに硝酸カリウム(KNO
3)と硝酸ナトリウム(NaNO
3)を、その合計量が4000gとなり、かつKNO
3の濃度(質量%)がそれぞれ表2の第2の化学強化工程の項に示す通りとなるよう加え、マントルヒーターで所定の温度まで加熱して、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合溶融塩、もしくは100%質量%の硝酸カリウム溶融塩を調製した。ここに、第1の化学強化工程に供されたガラスを350℃まで予熱した後、溶融塩に所定の時間浸漬し、イオン交換処理した後、室温付近まで冷却することにより第2の化学強化処理を行った。第2の化学強化処理の条件は、表2に記載の通りである。得られた化学強化ガラスを純水で数回洗浄した後、エアブローにより乾燥した。以上より、実施例1〜20の化学強化ガラスを得た。
【0160】
【表2】
<比較例21〜35>
(第1の化学強化工程)
SUS製のカップに硝酸カリウム(KNO
3)と硝酸ナトリウム(NaNO
3)を、その合計量が4000gとなり、かつKNO
3の濃度(質量%)がそれぞれ表3の第1の化学強化工程の項に示す通りとなるよう加え、マントルヒーターで所定の温度まで加熱して、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合溶融塩を調製した。ここに、50mm×50mmで板厚が表3へ記載したように異なるアルミノシリケートガラスを350℃まで予熱した後、溶融塩に所定の時間浸漬し、イオン交換処理した後、室温付近まで冷却することにより第1の化学強化処理を行った。第1の化学強化処理の条件は、表3に記載の通りである。得られた化学強化ガラスは水洗いし、次の工程に供した。
【0161】
アルミノシリケートガラス(比重:2.41)組成(モル%表示):SiO
2 68%、Al
2O
3 10%、Na
2O 14%、MgO 8%
(第2の化学強化工程)
SUS製のカップに硝酸カリウム(KNO
3)と硝酸ナトリウム(NaNO
3)を、その合計量が4000gとなり、かつKNO
3の濃度(質量%)がそれぞれ表3の第2の化学強化工程の項に示す通りとなるよう加え、マントルヒーターで所定の温度まで加熱して、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合溶融塩、もしくは100%質量%の硝酸カリウム溶融塩を調製した。ここに、第1の化学強化工程に供されたガラスを350℃まで予熱した後、溶融塩に所定の時間浸漬し、イオン交換処理した後、室温付近まで冷却することにより第2の化学強化処理を行った。第2の化学強化処理の条件は、表3に記載の通りである。得られた化学強化ガラスを純水で数回洗浄した後、エアブローにより乾燥した。以上より、比較例21〜35の化学強化ガラスを得た。
【0162】
【表3】
こうして得られた化学強化ガラスについて各種評価を行なった。また、これらにより求めたσ(x)(単位:MPa)、DOL値、および板厚t(単位:μm)から、式(3)に基づくrE値(単位:kJ/m
2)を求めた。
【0164】
【表5】
また、表4、表5の各試料について、板厚とrE値の関係を
図23、
図24にプロットした。
図22の評価装置で破壊した際に破砕数が15個未満であった試料を○でプロットし、15個以上であった試料を×でプロットした。
【0165】
図23には、表4と表5の板厚とrE値の関係に加え、文献1に示された内部エネルギー密度rEの上限値をrE
limit0=23.3×t/1000(kJ/m
2)として加えた。しかし、化学強化ガラスの内部エネルギー密度rEが従来通りの臨界値を超えることなく破壊した際に破砕数が多くなることが分かった。
【0166】
つまり、内部エネルギーとその限界値の比rE/rE
limit0をC
0としたとき、アルミノシリケートガラスは表5の通りC
0が1を超えるときに破砕数が15を超えるが、リチウム含有アルミノシリケートガラスは、表4に示す通りC
0が1を超えることなく破砕数が15を超える(実施例13、実施例20)。
【0167】
そこで、リチウム含有アルミノシリケートガラスだけに適用できる内部エネルギーの臨界値rE
limitを導出したところ、その数値は直線で結ぶことができ、この線を超える内部エネルギー密度を有するリチウム含有アルミノシリケートガラスの化学強化ガラスでは、破砕数が多くなっている。
【0168】
そこで、本明細書ではリチウム含有アルミノシリケートガラスの化学強化ガラスの内部エネルギー密度rEの上限値をrE
limit=16×t/1000+3(kJ/m
2)と定義した。内部エネルギー密度rEは、前述の式(4)を満たすことが、ガラスが割れたときに細かく飛散しにくいため好ましい。
【0169】
この条件は、本願の発明者らが鋭意検討の結果見出した、化学強化ガラスの内部エネルギー密度rE値の上限値である。この上限値は、実施例で示した通り2回化学強化された、所謂相補誤差関数プロファイルを有さない化学強化ガラスであっても適用可能である。
【0170】
この結果より、式(4)を満たす数値範囲内に内部エネルギー密度rEを制御することで、化学強化ガラスの割れ挙動を管理できる。rEは大きい方が強度の強いガラスが作れるため、rE/rE
limit=Cとしたとき、Cは1未満であるとともに、0.7以上が好ましく、より好ましくは0.8以上が好ましく、さらに好ましくは0.9以上が好ましい。
【0171】
以上、好ましい実施の形態及び実施例について詳説したが、上述した実施の形態及び実施例に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態及び実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。又、上記の各実施の形態は、適宜組み合わせることができる。