特許第6897466号(P6897466)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6897466-銅とニッケルおよびコバルトの分離方法 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6897466
(24)【登録日】2021年6月14日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】銅とニッケルおよびコバルトの分離方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20210621BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20210621BHJP
   C22B 3/10 20060101ALI20210621BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20210621BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20210621BHJP
   C25C 7/06 20060101ALI20210621BHJP
【FI】
   C22B23/00 102
   C22B3/06
   C22B3/10
   C22B3/44 101A
   C22B3/44 101B
   C22B7/00 C
   C25C7/06 301A
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-191906(P2017-191906)
(22)【出願日】2017年9月29日
(65)【公開番号】特開2019-65346(P2019-65346A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2020年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 達也
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 宏
(72)【発明者】
【氏名】小林 宙
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06440194(US,B1)
【文献】 特開2010−277868(JP,A)
【文献】 特開2007−323868(JP,A)
【文献】 特開2015−183292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅とニッケルとコバルトとを含む合金を、硫化剤が共存する条件下で塩酸を含む酸と接触させて、銅を含有する固体とニッケル及びコバルトを含有する浸出液とを得る、
銅とニッケルおよびコバルトの分離方法。
【請求項2】
前記硫化剤が、硫黄、硫化水素ガス、硫化水素ナトリウムおよび硫化ナトリウムから選ばれる1種類以上である
請求項に記載の銅とニッケルおよびコバルトの分離方法。
【請求項3】
前記銅とニッケルとコバルトとを含む合金に対して、前記酸と前記硫化剤を同時に接触させるか、もしくは前記硫化剤を接触させた後に前記酸を接触させる
請求項1又は2に記載の銅とニッケルおよびコバルトの分離方法。
【請求項4】
銅とニッケルとコバルトとを含む合金を、硫化剤が共存する条件下で酸と接触させて、銅を含有する固体とニッケル及びコバルトを含有する浸出液とを得る銅とニッケルおよびコバルトの分離方法であって、
前記銅とニッケルとコバルトとを含む合金が、リチウムイオン電池のスクラップを加熱熔融し、還元して得た合金である
とニッケルおよびコバルトの分離方法。
【請求項5】
前記銅とニッケルとコバルトとを含む合金が粉状物であり、前記銅とニッケルとコバルトとを含む合金の粒径は、300μm以下である
請求項1乃至のいずれかに記載の銅とニッケルおよびコバルトの分離方法。
【請求項6】
銅とニッケルとコバルトとを含む合金を、硫化剤が共存する条件下で酸と接触させて、銅を含有する固体とニッケル及びコバルトを含有する浸出液とを得る銅とニッケルおよびコバルトの分離方法であって、
前記銅を含有する固体と前記ニッケル及びコバルトを含有する浸出液とを分離した後、前記ニッケル及びコバルトを含有する浸出液に残存する銅を除去する
とニッケルとコバルトの分離方法。
【請求項7】
硫化、電解採取および中和沈殿から選ばれる1種以上の方法によって、前記ニッケル及びコバルトを含有する浸出液に残存する銅を除去する
請求項に記載の銅とニッケルとコバルトの分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅とニッケルとコバルトとを含む合金から銅とニッケルおよびコバルトとを分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリット自動車などの車両および携帯電話、スマートフォンや、パソコンなどの電子機器には、軽量で大出力であるという特徴を有するリチウムイオン電池(以下「LIB」とも称する。)が搭載されている。
【0003】
LIBは、アルミニウムや鉄等の金属製あるいは塩化ビニルなどのプラスチック製の外装缶の内部に、銅箔を負極集電体に用いて表面に黒鉛等の負極活物質を固着させた負極材と、アルミニウム箔からなる正極集電体にニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質を固着させた正極材を、ポリプロピレンの多孔質樹脂フィルム等からなるセパレータとともに装入し、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質を含んだ有機溶媒を電解液として含浸させた構造を有する。
【0004】
LIBは上記のような車両や電子機器等の中に組み込まれて使用されると、やがて自動車や電子機器等の劣化あるいはLIBの寿命などで使用できなくなり、廃リチウムイオン電池(廃LIB)となる。また廃LIBは、最初から製造工程内で不良品として発生することもある。
【0005】
これらの廃LIBには、ニッケル、コバルトや銅などの有価成分が含まれており、資源の有効活用のためにも、有価成分を回収して再利用することが望まれる。
【0006】
一般に金属で作られた装置、部材や材料から有価成分を効率よく回収しようとする場合、炉などに投入して高温下ですべて熔解し、有価物のメタルと廃棄処分等するスラグとに分離する乾式製錬の技術を用いた乾式処理が手っ取り早いと考えられる。
【0007】
例えば特許文献1には、乾式処理を用いて有価金属の回収を行う方法が開示されている。特許文献1の方法を廃LIBに適用することで、ニッケル、コバルトを含む銅合金を得ることができる。
【0008】
この乾式処理は、高温に加熱するためのエネルギーを要するという課題はあるものの、様々な不純物を簡単な工程で処理し、一括して分離できる利点がある。また、得られるスラグは化学的に比較的安定な性状であるので、環境問題を引き起こす懸念がなく、廃棄処分しやすい利点もある。
【0009】
しかしながら、乾式処理で廃LIBを処理した場合、一部の有価成分、特にコバルトのほとんどがスラグに分配され、コバルトの回収ロスとなることが避けられないという課題があった。
【0010】
また、乾式処理で得たメタルは、有価成分が共存した合金であり、再利用するためには、この合金から成分ごとに分離し、不純物を除去する精製が必要となる。
【0011】
乾式法で一般的に用いられてきた元素分離の方法として、高温の熔解状態から徐冷することで、例えば銅と鉛との分離や鉛と亜鉛との分離を行う方法がある。しかしながら、廃LIBのように銅とニッケルが主な成分である場合、銅とニッケルは全組成範囲で均一熔融する性質を持つため、徐冷しても銅とニッケルが層状に混合固化するのみで分離はできない。
【0012】
さらに、一酸化炭素(CO)ガスを用いてニッケルを不均化反応させ銅やコバルトから揮発させて分離する精製もあるが、猛毒性のCOガスを用いるため安全性の確保が難しい。
【0013】
また、工業的に行われてきた銅とニッケルを分離する方法として混合マット(硫化物)を粗分離する方法がある。この方法は、製錬工程で銅とニッケルを含むマットを生成させ、これを上述の場合と同様に徐冷することで、銅を多く含む硫化物とニッケルを多く含む硫化物とに分離するものである。しかしながらこの方法でも銅とニッケルの分離は粗分離程度にとどまるので、純度の高いニッケルや銅を得るためには、別途電解精製などの工程が必要となる課題がある。
【0014】
その他の方法として、塩化物を経て蒸気圧差を利用する方法も検討されてきたが、有毒な塩素を大量に取り扱うプロセスとなるので、装置腐食対策や安全対策等で工業的に適した方法とは言い難いという課題があった。
【0015】
また、銅とコバルトの分離、コバルトとニッケルの分離に関しても同様である。
【0016】
このように、湿式法と比して乾式法での各元素分離精製は、粗分離レベルに留まるかあるいは高コストという欠点を有している。
【0017】
一方で、酸や中和や溶媒抽出などの方法を用いる湿式製錬の方法を用いた湿式処理は、消費するエネルギーが少なく、混在する有価成分を個々に分離し、直接高純度な品位で回収できるというメリットがある。
【0018】
しかしながら、湿式処理を用いて廃LIBを処理する場合、廃LIBに含有される電解液成分の六フッ化リン酸アニオンは、高温、高濃度の硫酸でも完全に分解させることができない難処理物であり、有価成分を浸出した酸溶液に混入することになる。さらに、この六フッ化リン酸アニオンは水溶性の炭酸エステルであることから、有価物を回収した後の水溶液からリンやフッ素を回収することも困難で、排水処理によって公共海域等に放出するのを抑制し難くなるという課題がある。
【0019】
また、酸のみで廃LIBから有価成分を効率的に浸出して精製に供することができる溶液を得ることは容易でない。廃LIBそのものは浸出し難くて有価成分の浸出率が不足したり、酸化力の強い酸を用いるなどして強引に浸出すると、有価成分とともに回収の対象でないアルミニウム、鉄やマンガンなどの成分までもが大量に浸出され、これらを処理するための中和剤添加量や取り扱う排水量が増加したりするという課題がある。
【0020】
さらに酸性の浸出液から溶媒抽出やイオン交換などの分離手段を経るために液のpHを調整したり、不純物を中和して澱物に固定したりする場合、中和澱物の発生量も増加するので、処理場所の確保や安定性の確保などの面で多くの課題がある。
【0021】
さらに廃LIBには電荷が残留していることがあり、そのまま処理しようとすると発熱や爆発等を引き起こす恐れがあり、塩水に浸漬して放電するなどの手間のかかる処置も必要となる。
【0022】
このように湿式処理だけを用いて廃LIBを処理することも、必ずしも有利な方法とは言えなかった。
【0023】
そこで、上述の乾式処理や湿式処理単独では処理が困難な廃LIBを乾式処理と湿式処理を組み合わせた方法、つまり廃LIBを焙焼するなど乾式処理により不純物をできるだけ除去して均一な廃LIB処理物とし、この処理物を湿式処理して有価成分とそれ以外の成分とに分けようとする試みが行われてきた。
【0024】
この乾式処理と湿式処理を組み合わせた方法では、電解液のフッ素やリンは乾式処理によって揮発するなどして除去され、廃LIBの構造部品であるプラスチックやセパレータ等の有機物による部材は分解される。
【0025】
しかしながら、上述のように乾式処理を経ると、廃LIBに含有されるコバルトがスラグに分配されることにより生じる回収ロスの問題は依然として残る。
【0026】
乾式処理における雰囲気、温度や還元度等を調整することで、コバルトをメタルとして分配させ、スラグへの分配を減じるように還元熔融する方法も考えられるが、今度はそのような方法で得られるメタルは銅をベースとしてニッケル・コバルトを含有する難溶性の耐蝕合金を形成してしまい、有価成分を分離して回収するために酸で溶解しようにも溶解が難しくなるという課題が生じてしまう。
【0027】
また、例えば塩素ガスを用いて、上記の耐蝕合金を酸溶解しても、得られる溶解液(浸出液)は高濃度の銅と比較的低濃度のニッケルやコバルトを含有するようになる。この中でニッケルとコバルトは溶媒抽出など公知の方法を用いて分離することはそれほど難しくない。しかし、大量の銅をニッケルやコバルトと容易かつ低コストに分離することは容易でなかった。
【0028】
このように有価成分である銅、ニッケルやコバルトの他に様々な回収対象でない成分を含有する廃LIBから、効率的に銅、ニッケル、コバルトだけを分離することは難しかった。
【0029】
なお、上述した課題は、廃LIB以外の銅とニッケルとコバルトとを含む廃電池から銅、ニッケル及びコバルトを分離する場合においても同様に存在し、また、廃電池以外に由来する銅とニッケルとコバルトとを含む合金から銅、ニッケル及びコバルトを分離する場合においても、同様に存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】特開2012−172169号公報
【特許文献2】特開昭63−259033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、廃リチウムイオン電池を乾式処理して得られる銅とニッケルとコバルトとを含む耐食性の高い合金等の、銅とニッケルとコバルトとを含む合金から、効率よく選択的に銅と、ニッケル及びコバルトとを分離することができる銅とニッケルおよびコバルトの分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、銅とニッケルとコバルトとを含む合金を硫化剤が共存する条件下で酸と接触させることにより、銅とニッケルとコバルトとを含む合金から浸出した銅を硫化銅(固体)として析出させ且つ浸出したニッケルおよびコバルトを浸出液中に残留させることができるため、効率よく選択的に、銅とニッケルとコバルトとを含む合金から、銅と、ニッケル及びコバルトとを分離できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
【0033】
(1)本発明の第1の発明は、銅とニッケルとコバルトとを含む合金を、硫化剤が共存する条件下で酸と接触させて、銅を含有する固体とニッケル及びコバルトを含有する浸出液とを得る銅とニッケルおよびコバルトの分離方法である。
【0034】
(2)本発明の第2の発明は、前記酸が、塩酸である第1の発明に記載の銅とニッケルおよびコバルトの分離方法である。
【0035】
(3)本発明の第3の発明は、前記硫化剤が、硫黄、硫化水素ガス、硫化水素ナトリウムおよび硫化ナトリウムから選ばれる1種類以上である第1又は第2の発明に記載の銅とニッケルおよびコバルトの分離方法である。
【0036】
(4)本発明の第4の発明は、前記銅とニッケルとコバルトとを含む合金に対して、前記酸と前記硫化剤を同時に接触させるか、もしくは前記硫化剤を接触させた後に前記酸を接触させる第1〜第3の発明のいずれかに記載の銅とニッケルおよびコバルトの分離方法である。
【0037】
(5)本発明の第5の発明は、前記銅とニッケルとコバルトとを含む合金が、リチウムイオン電池のスクラップを加熱熔融し、還元して得た合金である第1〜第4の発明のいずれかに記載の銅とニッケルおよびコバルトの分離方法である。
【0038】
(6)本発明の第6の発明は、前記銅とニッケルとコバルトとを含む合金が粉状物であり、前記銅とニッケルとコバルトとを含む合金の粒径は、300μm以下である第1〜第5の発明のいずれかに記載の銅とニッケルおよびコバルトの分離方法である。
【0039】
(7)本発明の第7の発明は、前記銅を含有する固体と前記ニッケル及びコバルトを含有する浸出液とを分離した後、前記ニッケル及びコバルトを含有する浸出液に残存する銅を除去する第1〜第6の発明のいずれかに記載の銅とニッケルとコバルトの分離方法である。
【0040】
(8)本発明の第8の発明は、硫化、電解採取および中和沈殿から選ばれる1種以上の方法によって、前記ニッケル及びコバルトを含有する浸出液に残存する銅を除去する第7の発明に記載の銅とニッケルとコバルトの分離方法である。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、銅とニッケルとコバルトとを含有する合金から、効率よく選択的に銅とニッケル及びコバルトを分離することができ、例えば、廃リチウムイオン電池を加熱熔融して還元して得られるニッケルとコバルトとを含有し難溶性である銅合金から、選択的にニッケルとコバルトを、銅から効率よく選択的に分離できる。
【0042】
そして、本発明により合金から分離されたニッケルとコバルトは公知の方法で分離し、それぞれ有効に高純度なニッケルやコバルトのメタルや塩類として再利用できる。また、合金から分離された銅は銅製煉に適した硫化物の形態であり、そのまま銅製煉炉の転炉等に投入し電解精製等の手段に付すことで高純度な銅を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】浸出温度95℃の場合の添加した塩酸当量と、銅、ニッケル、コバルトの浸出率との関係を示す図である。
図2】浸出温度75℃の場合の添加した塩酸当量と、銅、ニッケル、コバルトの浸出率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本明細書において、「X〜Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0045】
本実施の形態に係る銅とニッケルおよびコバルトの分離方法(以下、単に「分離方法」という)は、銅とニッケルとコバルトとを含む合金(以下、単に「合金」ともいう)から、銅と、ニッケル及びコバルトとを分離する方法である。具体的に、この分離方法は、銅とニッケルとコバルトとを含む合金を、硫化剤が共存する条件下で酸と接触させて、銅を含有する固体とニッケル及びコバルトを含有する浸出液とを得る。
【0046】
本実施の形態に係る分離方法の処理対象は、銅とニッケルとコバルトとを含む合金である。該合金としては、例えば、自動車や電子機器等の劣化による廃棄や、リチウムイオン電池の寿命に伴い発生したリチウムイオン電池のスクラップ(「廃リチウムイオン電池」とも称する。)等の廃電池を、加熱熔融し還元して得られる合金、すなわち、廃電池を乾式処理して得られる合金が挙げられる。
【0047】
また、廃電池を加熱溶融し還元して得られる合金を、例えば板状に鋳造したものを、本実施の形態の分離方法の処理対象としてもよい。また、この廃電池を加熱溶融し還元して得られた合金の熔湯に、アトマイズ法を適用して得られる合金粉(以下便宜的にこの合金粉を「アトマイズ粉」とも称する。)等の粉状物を、処理対象としてもよい。なお、アトマイズ法とは、高圧のガスや水を接触させ、熔湯を飛散および急冷(凝固)させて粉末を得る方法である。その他、線状に引き抜き適宜切断して棒材としたものを、処理対象としてもよい。
【0048】
粉状物とする際には、合金の粒径は、概ね300μm以下であると、処理しやすいため好ましい。一方、細かすぎるとコストがかかる上に、発塵や発火の原因にもなるので、合金の粒径は、概ね10μm以上が好ましい。
【0049】
リチウムイオン電池を乾式処理して得られる合金は、難溶性の耐食性に富む銅合金であり従来銅、ニッケル、コバルトを効率よく選択的に分離し難かったが、本実施の形態に係る分離方法により、効率よく選択的に分離することができる。
【0050】
なお、本明細書における廃電池とは、使用済み電池のみならず、製造工程内の不良品等も含む意味である。また、処理対象に廃電池を含んでいればよく、廃電池以外のその他の金属や樹脂等を適宜加えることを排除するものではない。その場合にはその他の金属や樹脂を含めて本明細書における廃電池である。
【0051】
本実施の形態においては、このような合金を、硫化剤が共存する条件下で酸と接触させる。これにより、合金から浸出された銅を硫化銅として析出させることができ、銅を含む固体が得られる。一方、浸出したニッケルおよびコバルトは浸出液中に残留する。これにより、実施例に示すように、効率よく選択的に銅と、ニッケル及びコバルトとを分離することができる。銅は硫化物として析出するため、浸出液中にはほとんど存在しないようにすることができ、また、ニッケルおよびコバルトを非常に高い割合で酸性溶液(浸出液)に存在させることができる。したがって、本発明によれば、非常に選択性が高く、銅と、ニッケル及びコバルトとを分離することができる。
【0052】
硫化剤および酸を合金に接触させることにより生じる反応を下記反応式に示す。下記式においては、硫化剤として固体硫黄(S)を用い、酸として塩酸を用いた例を示す。下記式に示すように、合金を硫化剤と接触させて反応させることで、浸出した銅の硫化物が生成する。また、ニッケルやコバルトは酸で浸出され、浸出液中にイオンとして存在する。なお、浸出したニッケルやコバルトが硫化剤と反応して硫化物が生成した場合であっても、酸が存在するため、ニッケルやコバルトの硫化物は分解されて、ニッケルやコバルトは浸出液中に存在することになる。
反応式
Cu+S→CuS (1)
Ni+2HCl→NiCl+H (2)
NiS+2HCl→NiCl+HS (2)’
Co+2HCl→CoCl+H (3)
CoS+2HCl→CoCl+HS (3)’
【0053】
硫化剤として、単体の硫黄を用いることができるが、硫化水素ナトリウム(水素化硫化ナトリウム)、硫化ナトリウム、硫化水素ガスのような液体や気体の硫化剤を用いてもよい。
【0054】
酸としては、塩酸、硫酸や硝酸などの酸が単独ないし混合して使用できる。また、硫酸中に塩化物を含有させ、これを酸として用いてもよい。硫酸溶液に該硫酸溶液の硫酸濃度に比べて低い濃度の塩酸もしくは後工程のニッケル・コバルト分離工程に影響しない塩化物を添加すると、硫酸単独の場合よりもより効率よく浸出できるので好ましい。また、硫酸を用いる場合には酸素、エアー、過酸化水素などの酸化剤を添加すると浸出が促進されるので好ましい。
【0055】
酸として塩酸や硫酸を用いる場合は、合金と接触させる酸の量は、例えば、合金中に含まれるニッケル及びコバルトの合計量に対して、酸が上記式(2)〜(3)等で求められる1当量以上、好ましくは1.2当量以上、より好ましくは1.2当量以上11当量以下となる量を用いることが好ましい。なお、酸濃度を高くすることにより反応速度を大きくすることができる。
【0056】
また、硫化剤の量は、合金中に含まれる銅量に対して、上記(1)式で求められる1当量以上を用いることが好ましい。
【0057】
合金に酸および硫化剤を添加等して得られるスラリー濃度、すなわち、スラリーの体積に対する合金の質量の割合(銅とニッケルとコバルトとを含む合金の質量/スラリーの体積)は、好ましくは20g/l以上である。
【0058】
反応温度は、例えば50℃以上、好ましくは75℃以上、より好ましくは95℃以上であり、これを反応中維持することが好ましい。95℃以上では、例えば75℃未満での反応と比較して、反応速度を著しく増加できる。また、反応時間は、例えば1〜6時間である。
【0059】
なお、合金に対して酸と硫化剤を同時に接触させるか、もしくは硫化剤を先に合金に接触させた後に酸を接触させることが好ましい。硫化剤が存在しない状態で合金に酸を接触させると、従来のように、有価成分の浸出率が不十分な上に合金に一部含有される鉄などの回収対象でない成分までも浸出する場合があり、後の精製工程での負荷が増加してしまうという不都合が生じる。
【0060】
合金に、酸や硫化剤を接触させる方法は特に限定されず、例えば、酸に合金や硫化剤を添加する等して混合し必要に応じて撹拌すればよい。また、硫化剤を合金に接触させるために、乾式処理において合金に固体の硫化剤を含有または塗布する手段を用いてもよい。
【0061】
本実施の形態によれば、銅とニッケルおよびコバルトとを分離できるが、合金から浸出された銅が一部浸出液に残存した場合にこの銅が浸出設備等からそのまま排出されると、ニッケルとコバルトを分離する工程での負荷が増すことになり好ましくない。
【0062】
このため、本実施の形態の分離方法を行う反応槽の出口に、浸出液に残存する銅を除去する脱銅設備を設けて、脱銅を完全に行い、ニッケル・コバルトの分離工程に供給するようにしてもよい。浸出液に残存する銅を除去する方法としては、硫化剤の添加、電解採取や、中和剤の添加による中和澱物の生成等が挙げられる。
【0063】
以上説明したように、本実施の形態の銅とニッケルとコバルトの分離方法により、銅とニッケルとコバルトとを含有する合金中の銅を硫化して硫化銅として浸出残渣を形成し、浸出液中に残留するニッケルおよびコバルトと効率よく選択的に分離できる、
【0064】
なお、本実施の形態の銅とニッケルおよびコバルトの分離方法で得られた硫化銅は、そのまま既存の銅製錬工程の原料として供給してアノードを得、このアノードを電解精製して高純度な銅を得ることができる。
【0065】
また、浸出液に浸出されたニッケルとコバルトは、既存のニッケル製錬工程に供給し、溶媒抽出等の手段を用いてニッケルとコバルトを分離し、電解採取してニッケルメタルやコバルトメタルを得たり、ニッケル塩やコバルト塩として精製し、再度リチウムイオン電池の原料としてリサイクルすることができる。
【実施例】
【0066】
以下に、本発明について実施例を示して具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0067】
(実施例1〜14)塩酸
廃リチウムイオン電池(廃LIB)を加熱熔融して還元する乾式処理に付して、銅とニッケルとコバルトとを含有する合金の熔湯を得、これを底面に穴を開けた小さなルツボに流し込み、穴から流れ出た熔湯に、高圧のガスや水を吹き付けて、溶湯を飛散、凝固させてアトマイズ粉を得た。そして、得られたアトマイズ粉を篩別し、粒径が300μm以下の粉状の合金粉を得た。得られた合金粉について、ICP分析装置を用いて分析した結果を表1に示す。
【0068】
次に上記の合金粉を各実施例において1.0g採取した。また、各実施例において、合金粉での銅品位に対して上記(1)式で示した硫化銅を形成する1当量となる0.35gの単体硫黄(硫黄の固体)を用意した。
【0069】
また、各実施例において、合金粉に含有されるニッケルとコバルトの合計量に対して上記(2)式および(3)式で計算する1.5当量から11当量となる量の塩酸を分取し、これを50mlに希釈したものを用意した。
【0070】
それぞれを50℃、75℃、95℃に昇温し、上記の各1.0gの合金粉と各0.35gの硫黄をそれぞれ同時に添加し、1時間から6時間攪拌した。各時間攪拌後、ろ過を行い固液分離し、濾液をICP分析装置を用いて分析し、銅、ニッケル、コバルト、鉄、硫黄の各成分の濃度を求めた。各実施例の上記浸出条件およびICP測定結果を表2に示す。表2において、撹拌時間を「時間」と、昇温温度を「温度」と記載する。濾過残渣の質量、及び、濾過後の液量、pH、酸化還元電位ORP(銀/塩化銀電極基準)を測定した結果も表2に示す。また、銅、ニッケル、コバルト、鉄の各元素の浸出率を求めた結果を表3に示す。浸出率は、ろ液中の対象元素の質量をアトマイズ粉中の対象元素の質量で除すことで求めた。また、浸出温度95℃の場合の添加した塩酸当量と、銅、ニッケル、コバルトの浸出率との関係を図1に、浸出温度75℃の場合の添加した塩酸当量と、銅、ニッケル、コバルトの浸出率との関係を図2に示す。
【0071】
表2〜3および図1〜2に示すように、実施例1〜14では、反応温度、塩酸量および反応時間を変えても、銅の浸出率は、2.2%以下に抑制されており、また、反応温度、塩酸量および反応時間によっては1%未満に抑制されていた。一方で、ニッケル、コバルト、鉄の浸出率は、各実施例における銅の浸出率よりも大幅に高く、また、反応温度、塩酸量および反応時間によっては90%以上が浸出されていた。これらの結果から、銅とニッケルとコバルトとを含む合金を硫化剤が共存する条件化で塩酸と接触させることで、銅を硫化銅として析出させ、浸出液に選択的にニッケルとコバルトを浸出させて、銅と、ニッケルおよびコバルトとを合金から効率よく選択的に分離できることが確認できた。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
(比較例1)塩酸
実施例1と同様にして得た粒径300μm以下の合金粉を1.0g採取した。
次に、合金粉に含有されるニッケルとコバルトの合計量に対して3.7当量となる塩酸を15mlに希釈した溶液を用意し、この溶液を75℃に昇温した。
【0076】
次いで1.0gの上記合金粉を添加して、2時間攪拌した。その後、ろ過を行い固液分離し、濾液をICP分析装置を用いて分析し、銅、ニッケル、コバルト、鉄、硫黄の各成分の濃度を求めた。上記浸出条件およびICP測定結果を表4に示す。濾過後の液量を測定した結果も表4に示す。また、銅、ニッケル、コバルト、鉄の各元素の浸出率を求めた結果を表5に示す。
【0077】
その結果、表4〜5に示すように、銅、ニッケル、コバルト、鉄共に50%から60%程度の浸出率となり、有価成分の浸出率としては不十分な値であり、同時に一律に浸出されただけで、有価成分と回収不要成分の分離も不十分だった。
【0078】
【表4】
【0079】
【表5】
図1
図2