特許第6897764号(P6897764)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6897764シリコン単結晶の製造方法、および、エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6897764
(24)【登録日】2021年6月14日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の製造方法、および、エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20210628BHJP
   C30B 15/20 20060101ALI20210628BHJP
   C23C 16/24 20060101ALI20210628BHJP
   H01L 21/324 20060101ALI20210628BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20210628BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
   C30B29/06 502E
   C30B29/06 502A
   C30B15/20
   C23C16/24
   H01L21/324 X
   H01L21/20
   H01L21/205
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-514372(P2019-514372)
(86)(22)【出願日】2018年4月12日
(86)【国際出願番号】JP2018015381
(87)【国際公開番号】WO2018198797
(87)【国際公開日】20181101
【審査請求日】2019年10月9日
(31)【優先権主張番号】特願2017-86529(P2017-86529)
(32)【優先日】2017年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳴嶋 康人
(72)【発明者】
【氏名】前川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】小川 福生
(72)【発明者】
【氏名】川上 泰史
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−335197(JP,A)
【文献】 特開2016−121033(JP,A)
【文献】 特開2007−119332(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/175120(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C23C 16/24
C30B 15/20
H01L 21/20
H01L 21/205
H01L 21/324
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、
前記チャンバ内に配置され、シリコン融液に赤リンを添加したドーパント添加融液を収納可能な坩堝と、
前記坩堝を加熱する加熱部と、
種子結晶を前記ドーパント添加融液に接触させた後に引き上げる引き上げ部とを備えた単結晶引き上げ装置を利用したシリコン単結晶の製造方法であって、
前記シリコン単結晶の電気抵抗率が0.5mΩ・cm以上0.7mΩ・cm未満となるように、前記シリコン融液に前記赤リンを添加し、前記シリコン単結晶を引き上げる単結晶形成工程と、
前記シリコン単結晶を冷却する冷却工程とを備え、
前記冷却工程は、前記加熱部のパワーを、前記冷却工程の開始直前の加熱部のパワーの50%以下にした状態において、前記シリコン単結晶を前記ドーパント添加融液から切り離した後、180分以内に前記シリコン単結晶を400mm以上上昇させることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法において、
前記単結晶形成工程は、前記シリコン単結晶の直胴部の少なくとも一部の領域における温度が570℃±70℃の範囲内となる時間が10分以上50分以下となるように、前記シリコン単結晶を引き上げることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項に記載のシリコン単結晶の製造方法で製造されたシリコン単結晶からシリコンウェーハを切り出すウェーハ切り出し工程と、
前記シリコンウェーハを水素雰囲気中で加熱する水素ベーク工程と、
前記シリコンウェーハ上にエピタキシャル膜を形成するエピタキシャル膜形成工程とを備えていることを特徴とするエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【請求項4】
請求項に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法において、
前記水素ベーク工程前の前記シリコンウェーハに対して、1200℃以上1220℃以下のアルゴンガス雰囲気中で60分以上120分以下の熱処理を行うアルゴンアニール工程を備えていることを特徴とするエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶の製造方法、および、エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、パワーMOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタ用のエピタキシャルシリコンウェーハは、電気抵抗率が非常に低いことが要求される。上述のような要求を満たすために、n型ドーパントとしてリン(P)が高濃度にドープされたシリコンウェーハと、エピタキシャル膜とを備えたエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の製造方法では、電気抵抗率が0.7mΩ・cm以上0.9mΩ・cm以下となるように赤リンを含有するシリコン単結晶を製造する。前記シリコン単結晶の製造の際、シリコン単結晶の温度が570℃±70℃の範囲内となる時間が、20分以上200分以下になるように、シリコン単結晶を引き上げる。
前記シリコン単結晶から得られたシリコンウェーハにエピタキシャル膜を形成すると、シリコンウェーハにおける微小ピットの発生が抑制され、前記微小ピットに起因する積層欠陥(スタッキングフォルト、以下、SFという)の発生も抑制される。その結果、90nm以上のLPD(Light Point Defect)の密度が0.1個/cm以下になり、電気抵抗率が低くかつ高品質のエピタキシャルシリコンウェーハを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5890587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、電気抵抗率が0.7mΩ・cm未満のn型のシリコンウェーハのニーズが生じている。そこで、このニーズに応えるために、特許文献1に記載のような方法を適用することが考えられる。
【0006】
しかしながら、上述のように電気抵抗率が非常に低い場合には、特許文献1に記載の方法を適用しても、SFの発生を抑制できず、高品質のエピタキシャルシリコンウェーハを製造できないという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、電気抵抗率が低くかつ高品質のエピタキシャルシリコンウェーハを得ることが可能なシリコン単結晶の製造方法、およびエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシリコン単結晶の製造方法は、チャンバと、このチャンバ内に配置され、シリコン融液に赤リンを添加したドーパント添加融液を収納可能な坩堝と、種子結晶を前記ドーパント添加融液に接触させた後に引き上げる引き上げ部とを備えた単結晶引き上げ装置を利用する。前記シリコン単結晶の製造方法は、前記シリコン単結晶の電気抵抗率が0.5mΩ・cm以上0.7mΩ・cm未満となるように、前記シリコン融液に前記赤リンを添加し、前記シリコン単結晶の直胴部の少なくとも一部の領域における温度が570℃±70℃の範囲内となる時間が10分以上50分以下となるように、前記シリコン単結晶を引き上げることを特徴とする。
【0009】
シリコン単結晶の直胴部の少なくとも一部の領域における温度が570℃±70℃の範囲内となる時間(以下、570℃±70℃での滞在時間と称することもある)が50分を超える場合は、電気抵抗率が0.7mΩ・cm以上の場合とは異なり、SFが多発してしまう。一方、上記滞在時間が10分未満の場合は、熱ショックでシリコン単結晶が割れる危険性がある。
本発明によれば、シリコン単結晶の前記少なくとも一部の領域から得られるシリコンウェーハに対して、エピタキシャル膜形成前の水素ベーク工程と同様の熱処理(1200℃の水素雰囲気中で30秒間加熱)を行うと、SFの発生原因である微小ピットの密度を2.5個/cm以下にすることができる。したがって、上述のようなシリコン単結晶を用いてエピタキシャルシリコンウェーハを製造すると、KLA−Tencor社製SP−1のDCNモードで測定される90nm以上のLPDの密度を2.5個/cm以下にすることができる。よって、電気抵抗率が低くかつ高品質のエピタキシャルシリコンウェーハを得ることができる。
シリコン融液に赤リンとともに、ゲルマニウム(Ge)を添加してもよい。上述のような構成にすれば、シリコンウェーハとエピタキシャル膜との界面部分での赤リンの濃度差に起因する転位欠陥(ミスフィット転位)の発生をさらに抑制することができる。
【0010】
本発明の別のシリコン単結晶の製造方法は、チャンバと、前記チャンバ内に配置され、シリコン融液に赤リンを添加したドーパント添加融液を収納可能な坩堝と、前記坩堝を加熱する加熱部と、種子結晶を前記ドーパント添加融液に接触させた後に引き上げる引き上げ部とを備えた単結晶引き上げ装置を利用する。前記シリコン単結晶の製造方法は、前記シリコン単結晶の電気抵抗率が0.5mΩ・cm以上0.7mΩ・cm未満となるように、前記シリコン融液に前記赤リンを添加し、前記シリコン単結晶を引き上げる単結晶形成工程と、前記シリコン単結晶を冷却する冷却工程とを備える。前記冷却工程は、前記シリコン単結晶を前記ドーパント添加融液から切り離した後、180分以内に前記シリコン単結晶を400mm以上上昇させる。
【0011】
本発明によれば、シリコン単結晶の直胴部の少なくとも一部の領域における570℃±70℃での滞在時間を10分以上50分以下にすることができる。前記シリコン単結晶の直胴部の少なくとも一部の領域から得られるシリコンウェーハに対して、水素ベーク工程と同様の熱処理を行うと、SFの発生原因である微小ピットの密度を2.5個/cm以下にすることができる。したがって、電気抵抗率が低くかつ高品質のエピタキシャルシリコンウェーハを得ることができる。
本発明においても、シリコン融液に赤リンとともに、ゲルマニウムを添加してもよい。
【0012】
本発明のシリコン単結晶の製造方法において、前記冷却工程は、前記加熱部のパワーを、前記冷却工程の開始直前の加熱部のパワーの50%以下にした状態で前記シリコン単結晶を上昇させることが好ましい。特に、加熱部のパワーを0%にすることが好ましい。
【0013】
本発明によれば、冷却工程におけるシリコン単結晶の熱量をより低くでき、シリコン単結晶の直胴部の少なくとも一部の領域における570℃±70℃での滞在時間が10分以上50分以下となる範囲をさらに広げることができる。
「前記加熱部のパワーを、前記冷却工程の開始直前の加熱部のパワーの50%以下にした状態で前記シリコン単結晶を上昇させる」ために、シリコン単結晶をドーパント添加融液から切り離す前、シリコン単結晶をドーパント添加融液から切り離すと同時、シリコン単結晶をドーパント添加融液から切り離した後の、いずれかのタイミングで加熱部のパワーを、前記冷却工程の開始直前の加熱部のパワーの50%以下にしてもよい。
【0014】
本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法は、上述のシリコン単結晶の製造方法で製造されたシリコン単結晶からシリコンウェーハを切り出すウェーハ切り出し工程と、前記シリコンウェーハを水素雰囲気中で加熱する水素ベーク工程と、前記シリコンウェーハ上にエピタキシャル膜を形成するエピタキシャル膜形成工程とを備えていることを特徴とする。
【0015】
本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法において、前記水素ベーク工程前の前記シリコンウェーハに対して、1200℃以上1220℃以下のアルゴン雰囲気中で60分以上120分以下の熱処理を行うアルゴンアニール工程を備えていることが好ましい。
【0016】
本発明によれば、微小ピットの発生原因である酸素と赤リンのクラスター(微小析出物)をアルゴンアニール工程により溶体化することができ、LPDの密度が0.3個/cm未満という高品質のエピタキシャルシリコンウェーハを製造することができる。
【0017】
本発明のシリコン単結晶は、赤リンを含有し、電気抵抗率が0.5mΩ・cm以上0.7mΩ・cm未満である。前記シリコン単結晶は、前記シリコン単結晶から切り出されたシリコンウェーハに対して1200℃の水素雰囲気中で30秒間加熱する熱処理を施した後に測定した、前記シリコンウェーハの表面における90nm以上のLPDの密度が2.5個/cm以下である結晶領域を含む直胴部を有する。
【0018】
本発明のエピタキシャルシリコンウェーハは、上述のシリコン単結晶の前記直胴部における前記結晶領域から切り出されたシリコンウェーハと、前記シリコンウェーハ上に設けられたエピタキシャル膜とを備える。前記エピタキシャル膜の表面におけるLPDの密度が2.5個/cm以下である。
本発明の別のエピタキシャルシリコンウェーハは、上述のシリコン単結晶の前記直胴部における前記結晶領域から切り出されたシリコンウェーハと、前記シリコンウェーハ上に設けられたエピタキシャル膜とを備える。前記エピタキシャル膜の表面におけるLPDの密度が0.3個/cm以下である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るシリコン単結晶の製造条件を導くための実験1の結果であり、冷却開始からの経過時間と冷却開始からの結晶上昇量との関係を示すグラフ。
図2】前記実験1における固化率と570℃±70℃での滞在時間との関係を示すグラフ。
図3図2における固化率が50%以上の結果を拡大して示すグラフ。
図4】前記シリコン単結晶の製造条件を導くための実験2の結果であり、エピタキシャルシリコンウェーハの電気抵抗率とLPD密度との関係を示すグラフ。
図5】本発明の一実施形態に係る単結晶引き上げ装置の概略構成を示す模式図。
図6】本発明の変形例におけるマルチ引き上げ法による単結晶の製造方法を示す模式図。
図7】本発明の他の変形例における抜き取り引き上げ法による単結晶の製造方法を示す模式図。
図8】本発明のさらに他の変形例におけるヒーター(アフターヒーター)の設置効果を表すグラフであって、固化率と単結晶中心の温度との関係を示すグラフ。
図9】前記さらに他の変形例におけるヒーター(アフターヒーター)の設置効果を表すグラフであって、固化率と570℃±70℃での滞在時間との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[本発明を導くに至った経緯]
〔実験1:冷却工程の条件と570℃±70℃での滞在時間およびLPDの発生状況との関係調査〕
CZ法(チョクラルスキー法)を用いたシリコン単結晶の製造では、シリコン単結晶を引き上げる単結晶形成工程と、シリコン単結晶を冷却する冷却工程とを行う。単結晶形成工程は、種子結晶に連続し直径が徐々に増加する肩部を形成する工程(肩部形成工程)と、肩部に連続して形成され直径が略均一の直胴部を形成する工程(直胴部形成工程)と、直胴部の下端に連続し直径が徐々に減少してゼロになるテール部を形成する工程(テール部形成工程)とを備えている。
テール部形成工程が終了した後、冷却工程を行い、シリコン単結晶を引き上げ装置から取り出す。
上述のような製造条件のため、シリコン単結晶の下端に近くなるほど(固化率が大きくなるほど)、ドーパント添加融液から出た後の冷却時間が短くなるため急冷され、570℃±70℃での滞在時間が短くなると考えられる。
肩部の上端における固化率を0%として、以下の説明を行う。
【0021】
本発明者らは、電気抵抗率が0.5mΩ・cm以上0.7mΩ・cm未満のシリコン単結晶においても、570℃±70℃での滞在時間をより短くすることで、SFの発生をさらに抑制することができるか否かを調べた。
【0022】
まず、実験例1のシリコン単結晶を製造し、各固化率における570℃±70℃での滞在時間を調べた。この際、上述の単結晶形成工程を行った後、テール部がドーパント添加融液から切り離れた直後に、坩堝を加熱する加熱部の電源をオフにした。冷却工程においては、図1に示すような条件でシリコン単結晶を上昇させた。冷却工程の開始を意味する図1における「冷却開始」とは、「シリコン単結晶がドーパント添加融液から離れるとき」を表し、「結晶上昇量」とは、「シリコン単結晶がドーパント添加融液から離れてからの上昇量」を表す。
実験例1では、冷却開始から1分間でシリコン単結晶を100mm上昇させ、その後の14分間で、ドーパント添加融液表面から220mmの位置まで等速度で上昇させた。その後、シリコン単結晶をそのまま放置し、冷却開始から180分経過後に、シリコン単結晶を引き上げ装置から取り出した。
【0023】
図1に示すような条件で実験例2のシリコン単結晶を製造し、各固化率における570℃±70℃での滞在時間を調べた。実験例2では、冷却開始1分までは実験例1と同じ条件を適用し、その後の102分間でシリコン単結晶をドーパント添加融液表面から1000mmの位置まで等速度で上昇させた。そして、冷却開始から180分を経過するまでそのままシリコン単結晶を放置した後、シリコン単結晶を引き上げ装置から取り出した。
実験例1および実験例2において、シリコンウェーハの電気抵抗率が0.5mΩ・cm以上0.7mΩ・cm未満となるように、ドーパントとして赤リンをシリコン融液に添加して、ドーパント添加融液を生成した。ドーパント添加融液のチャージ量を100kgとした。シリコン単結晶の直径を210mmにした。
実験例1および実験例2における570℃±70℃での滞在時間を図2および図3に示す。図3に示すような領域Aであって、固化率が約52%以上約87%以下の領域における570℃±70℃での滞在時間は、実験例1では50分を超えていたのに対して、実験例2では50分以下となっていた。
【0024】
次に、図3において、実験例1および実験例2のシリコン単結晶における固化率が約52%以上約87%以下の領域Aから、複数の固化率に対応する直径200mmのシリコンウェーハをそれぞれ10枚ずつ切り出した。前記切り出したシリコンウェーハに、エピタキシャル膜形成前に行う水素ベーク工程を実施し、LPDを評価した。水素ベーク工程では、シリコンウェーハを1200℃の水素雰囲気中で30秒間加熱した。LPDの個数は、KLA−Tencor社製SP−1のDCNモードで測定し、そのときのLPDの測定対象を、90nm以上のものとした。
【0025】
【表1】
【0026】
表1に示すように、平均LPD個数および平均LPD密度ともに、実験例1よりも実験例2の方が小さいことがわかった。特に、平均LPD密度は、実験例1では31.52個/cmであったのに対し、実験例2では0.46個/cmであり、実験例2の条件を適用することで、LPD発生抑制効果がさらに高くなることがわかった。
上記特許文献1にも記載されているように、水素ベーク工程後に発生する微小ピットを、KLA−Tencor社製SP−1のDCNモードで90nm以上のLPDとして測定することができる。このことから、実験例2のシリコン単結晶から得られるシリコンウェーハにおける水素ベーク工程後の微小ピットの密度は、0.46個/cmであると考えられる。
【0027】
さらに、冷却工程の許容条件を調査するために、図1に示すような条件で実験例3〜実験例7のシリコン単結晶を製造し、各固化率における570℃±70℃での滞在時間を調べた。なお、シリコンウェーハの電気抵抗率が0.5mΩ・cm以上0.7mΩ・cm未満となるように、ドーパントとして赤リンをシリコン融液に添加した。
【0028】
実験例3〜実験例6では、冷却開始1分までは実験例1と同じ条件を適用した。
実験例3では、冷却開始1分後からの33分間でシリコン単結晶をドーパント添加融液表面から400mmの位置まで等速度で上昇させ、冷却開始から180分を経過するまでそのまま放置した後、引き上げ装置から取り出した。
実験例4では、冷却開始1分後からの56分間でシリコン単結晶をドーパント添加融液表面から600mmの位置まで等速度で上昇させ、冷却開始から180分を経過するまでそのまま放置した後、引き上げ装置から取り出した。
実験例5では、冷却開始1分後からの77分間でシリコン単結晶をドーパント添加融液表面から800mmの位置まで等速度で上昇させ、冷却開始から180分を経過するまでそのまま放置した後、引き上げ装置から取り出した。
実験例6では、冷却開始1分後からの179分間でシリコン単結晶をドーパント添加融液表面から1000mmの位置まで等速度で上昇させ、引き上げ装置から取り出した。
実験例7では、冷却開始からの180分間でシリコン単結晶をドーパント添加融液表面から400mmの位置まで等速度で上昇させ、引き上げ装置から取り出した。
【0029】
図3に示す、固化率が約52%以上約87%以下の領域Aにおける570℃±70℃での滞在時間は、実験例3、実験例5、実験例6において50分以下となった。実験例4では、固化率が約53%以上約87%以下の領域Bにおいて、570℃±70℃での滞在時間が50分以下となった。実験例7では、固化率が約62%以上約87%以下の領域Cにおいて、570℃±70℃での滞在時間が50分以下となった。
これらのことから、冷却工程において、シリコン単結晶をドーパント添加融液から切り離した後、180分以内にシリコン単結晶を400mm以上上昇させることで、シリコン単結晶の直胴部の少なくとも一部の領域における570℃±70℃での滞在時間を、50分以下にすることができることがわかった。
【0030】
次に、実験例3〜実験例7のシリコン単結晶における、570℃±70℃での滞在時間が50分以下の領域から、複数の固化率に対応するシリコンウェーハをそれぞれ10枚ずつ切り出した。前記切り出したシリコンウェーハに、実験例2と同様に水素ベーク工程を実施し、LPDを評価した。
表1に示すように、平均LPD個数および平均LPD密度ともに、実験例1よりも実験例3〜実験例7の方が小さく、実験例3〜実験例7の平均LPD密度は、それぞれ2.5個/cm以下であった。
【0031】
以上の結果から、赤リンを含有し、電気抵抗率が0.5mΩ・cm以上0.7mΩ・cm未満のシリコン単結晶を製造するに際し、シリコン単結晶の直胴部の少なくとも一部の領域における570℃±70℃での滞在時間が50分以下となるように、シリコン単結晶を引き上げることで、前記シリコン単結晶の直胴部の少なくとも一部の領域が急冷され、前記急冷した領域から得られるシリコンウェーハに対して、水素ベーク工程と同様の熱処理を行ったときに、LPD密度を2.5個/cmにすることができることがわかった。
【0032】
〔実験2:アルゴンアニール工程の有無とLPDの発生状況との関係調査〕
実験例1(570℃±70℃での滞在時間が50分を超えている(急冷無し))と同じ条件で製造したシリコン単結晶を準備し、図3の領域Aから複数のシリコンウェーハを切り出した。そして、切り出したシリコンウェーハのうち約半数を用いて、以下の表2に示すような条件で、実験例8のエピタキシャルシリコンウェーハを製造し、残りの約半数を用いて実験例9のエピタキシャルシリコンウェーハを製造した。
【0033】
実験例8では、シリコンウェーハに対して、水素ベーク工程、エピタキシャル膜形成工程を行った。水素ベーク工程は、実験1と同じ条件で行った。エピタキシャル膜形成工程は、以下の条件で行った。
[エピタキシャル膜形成条件]
ドーパントガス:フォスフィン(PH)ガス
原料ソースガス:トリクロロシラン(SiHCl)ガス
キャリアガス:水素ガス
成長温度:1080℃
エピタキシャル膜の厚さ:3μm
エピタキシャル膜の電気抵抗率:1Ω・cm
【0034】
実験例9では、水素ベーク工程前に、以下の条件でアルゴンアニール工程を行ったこと以外は、実験例8と同様の工程を行った。
[アルゴンアニール条件]
雰囲気:アルゴンガス
熱処理温度:1200℃
熱処理時間:60分
【0035】
実験例2(570℃±70℃での滞在時間が50分以下(急冷有り))と同じ条件で製造したシリコン単結晶を準備し、図3の領域Aから複数のシリコンウェーハを切り出した。そして、切り出したシリコンウェーハのうち約半数を用いて実験例10のエピタキシャルシリコンウェーハを製造し、残りの約半数を用いて実験例11のエピタキシャルシリコンウェーハを製造した。
実験例10では実験例8と同じ工程を行い、実験例11では実験例9と同じ工程を行った。
【0036】
【表2】
【0037】
実験例8〜実験例11のエピタキシャルシリコンウェーハのエピタキシャル膜表面におけるLPDの発生状況を、実験1と同様の方法を用いて評価した。その結果を図4に示す。図4に示す実験例8〜実験例11における各電気抵抗率に対応するサンプルは、1枚ずつである。
図4に示すように、実験例8〜実験例11のいずれにおいても、電気抵抗率の低い方が、LPD密度が大きくなった。
実験例8〜実験例11における最大のLPD密度は、実験例8が約30個/cm、実験例9が3個/cm、実験例10が2.5個/cm、実験例11が0.3個/cmであった。このことから、冷却工程における570℃±70℃での滞在時間を50分以下にすることで、エピタキシャルシリコンウェーハのエピタキシャル膜表面におけるLPD密度を2.5個/cm以下にすることができることがわかった。また、さらにアルゴンアニール処理を行うことで、エピタキシャルシリコンウェーハのエピタキシャル膜表面におけるLPD密度を0.3個/cmにすることができることがわかった。
570℃±70℃での滞在時間が50分を超えていても、実験例9のようにアルゴンアニール処理を行えば、LPD密度を実験例10とほぼ同等にすることができることがわかった。なお、実験例10では、アルゴンアニール処理が不要な分、簡単な処理でLPD密度が低減されたエピタキシャルシリコンウェーハを製造することができることがわかった。
【0038】
[実施形態]
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
〔単結晶引き上げ装置の構成〕
まず、単結晶引き上げ装置の構成について説明する。
単結晶引き上げ装置1は、CZ法に用いられる装置であって、図5に示すように、単結晶引き上げ装置本体3と、図示しないドーピング装置と、図示しない制御部とを備える。
単結晶引き上げ装置本体3は、チャンバ30と、前記チャンバ30内に配置された坩堝31と、前記坩堝31に熱を放射して加熱する加熱部32と、引き上げ部としての引き上げケーブル33と、断熱筒34と、シールド36とを備える。
【0039】
チャンバ30内には、制御部の制御により、チャンバ30の上部に設けられた導入部30Aを介して、上方から下方に向かって不活性ガス、例えば、アルゴンガスが所定のガス流量で導入される。チャンバ30内の圧力(炉内圧力)は、制御部により制御可能となっている。
【0040】
坩堝31は、シリコンウェーハの原料である多結晶のシリコンを融解し、シリコン融液4とするものである。坩堝31は、有底の円筒形状の石英製の石英坩堝311と、前記石英坩堝311の外側に配置され、石英坩堝311を収納する黒鉛製の黒鉛坩堝312とを備えている。坩堝31は、所定の速度で回転する支持軸37に支持されている。
加熱部32は、坩堝31の外側に配置されており、坩堝31を加熱して、坩堝31内の多結晶のシリコンを融解する。
引き上げケーブル33は、例えば坩堝31の上部に配置された図示しない引き上げ駆動部に、一端が接続されている。引き上げケーブル33は、他端に、種子結晶を保持するシードホルダ38、または、図示しないドーピング装置が適宜取り付けられる。引き上げケーブル33は、引き上げ駆動部の駆動により回転可能に構成されている。前記引き上げケーブル33は、制御部による引き上げ駆動部の制御により、所定の引き上げ速度で上昇する。
断熱筒34は、坩堝31および加熱部32の周囲を取り囲むように配置されている。
シールド36は、加熱部32から上方に向かって放射される輻射熱を遮断する熱遮蔽用シールドである。前記シールド36は、シリコン融液4の表面を覆うように設置されている。前記シールド36は、下端側の開口部が上端側の開口部より小さくなった円錐形状となっている。
【0041】
ドーピング装置は、固体状態の揮発性ドーパントとしての赤リンを揮発させて、坩堝31内のシリコン融液4にドープさせる。すなわちシリコン融液4に揮発性ドーパントとしての赤リンを添加してドーパント添加融液41を生成するためのものである。ドーピング装置としては、筒状部の下端部をシリコン融液4に浸漬させて、赤リンをシリコン融液4に添加する構成を適用することができる。前記ドーピング装置としては、筒状部の下端部をシリコン融液4から離間させて、揮発した赤リンをシリコン融液4に吹き付けることで、赤リンをシリコン融液4に添加する構成を適用することができる。
制御部は、作業者の設定入力に基づいて、チャンバ30内のガス流量、炉内圧力、引き上げケーブル33の引き上げ速度を適宜制御して、シリコン単結晶6製造時の制御を行う。
【0042】
〔シリコン単結晶の製造方法〕
次に、単結晶引き上げ装置1を用いて、直径が210mmのシリコン単結晶6を製造する方法の一例について説明する。
単結晶引き上げ装置1は、制御部の制御により、ポリシリコン素材を加熱して融解させる。その後、単結晶引き上げ装置1は、制御部の制御により、チャンバ30内のガス流量および炉内圧力を所定の状態にして、シリコン融液4に揮発性ドーパントとしての赤リンを添加してドーパント添加融液41を生成する。
エピタキシャルシリコンウェーハのミスフィット転位を抑制するために、赤リンとともにゲルマニウムを添加してもよい。また、赤リンの添加量は、シリコン単結晶6から切り出したシリコンウェーハの電気抵抗率が、0.5mΩ・cm以上0.7mΩ・cm未満となるような量である。
【0043】
この後、単結晶引き上げ装置1の制御部は、作業者の設定入力に基づいて、種子結晶を融液に浸漬する。その後、単結晶引き上げ装置1の制御部は、所定の引き上げ速度で種子結晶を引き上げて、一般的なサイズ(例えば、60kg以上180kg以下)のシリコン単結晶6を製造する。
【0044】
前記種子結晶の引き上げの際、制御部は、ネック部形成工程、肩部61を形成する肩部形成工程、直胴部62を形成する直胴部形成工程、およびテール部形成工程を有する単結晶形成工程と、冷却工程とを行い、シリコン単結晶6を製造する。冷却工程では、テール部がドーパント添加融液41から切り離れた後、前記テール部がドーパント添加融液41から切り離れたタイミングから180分以内にシリコン単結晶6を400mm以上上昇させる。冷却工程におけるシリコン単結晶6の上昇制御は、上記実験例2〜実験例7のうちいずれかと同じでもよく、曲線状や段階的に上昇させてもよい。テール部がドーパント添加融液41から切り離れた直後(冷却工程の開始直後)に、加熱部32のパワーを、前記テール部がドーパント添加融液41から切り離れる直前のパワーの50%以下にすることが好ましく、0%にする(加熱部32の電源をオフにする)ことがより好ましい。
前記冷却工程の条件は、シリコン単結晶6の直胴部62の少なくとも一部の領域における温度が570℃±70℃の範囲内となる時間を10分以上50分以下とするための条件である。例えば、実験例2〜実験例7の条件を用いた場合、570℃±70℃での滞在時間は、図2に示すようになる。
【0045】
最後に製造するシリコン単結晶6以外のシリコン単結晶6の取り出しを待って冷却している間(冷却工程の間)、炉内圧力を13.3kPa(100torr)以上、60kPa(450torr)以下に調整することが好ましい。炉内圧力が13.3kPa未満の場合、揮発性ドーパントである赤リンが蒸発するため、次に製造するシリコン単結晶6の電気抵抗率が上昇してしまう。一方、炉内圧力が60kPaを超える場合、蒸発物がチャンバ30内に付着しやすくなるため、シリコン単結晶6の単結晶化を阻害してしまう。
【0046】
上述のように製造されたシリコン単結晶6のうち、570℃±70℃の範囲内となる時間が10分以上50分以下の領域から得られるシリコンウェーハの電気抵抗率は、0.5mΩ・cm以上0.7mΩ・cm未満となる。シリコンウェーハの酸素濃度は、4×1017〜10×1017atoms/cm(IGFA(Inert Gas Fusion Analysis:不活性ガス融解法))である。赤リンの濃度は、1.1×1020〜1.7×1020atoms/cmである。ゲルマニウムの濃度は、3.0×1019〜3.0×1020atoms/cmとなる。
前記シリコンウェーハを1200℃の水素雰囲気中で30秒以上加熱すると、前記シリコンウェーハの表面においてKLA−Tencor社製SP−1のDCNモードで測定される90nm以上のLPDであって、SFに起因するLPDの密度は、2.5個/cm以下となる。すなわち、シリコンウェーハの表面に発生するピットの密度は2.5個/cm以下となる。
【0047】
〔エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法〕
次に、上述の製造方法で製造されたシリコン単結晶6から、図示しないエピタキシャルシリコンウェーハを製造する方法について説明する。
まず、シリコン単結晶6からシリコンウェーハを切り出した(ウェーハ切り出し工程)後、前記切り出したシリコンウェーハの表層から酸素をアニールアウトするために、シリコンウェーハの水素ベーク処理を行う(水素ベーク工程)。
ここで、水素ベーク処理は、1150℃以上1200℃以下の水素雰囲気中で行われ、処理時間は30秒以上(例えば最短の30秒間)である。
水素ベーク処理の後に、CVD(Chemical Vapor Deposition)法によりシリコンウェーハ上にエピタキシャル膜を形成する(エピタキシャル膜形成工程)。ここで、エピタキシャル成長のプロセス温度は、1000℃以上1150℃以下の範囲内であり、望ましくは、1050℃以上1080℃以下の範囲内である。
水素ベーク工程前のシリコンウェーハに対し、アルゴンアニール処理を行う(アルゴンアニール工程)ことが好ましい。アルゴンアニール処理は、1200℃以上1220℃以下のアルゴンガス雰囲気中で行われ、処理時間は60分以上120分以下である。
【0048】
以上の製造プロセスにより、シリコンウェーハの電気抵抗率が0.5mΩ・cm以上0.7mΩ・cm未満と非常に低く、かつ、エピタキシャル膜のミスフィット転位が極めて少なく、かつ、SFに起因するエピタキシャル膜表面におけるLPDの密度も2.5個/cm以下という、エピタキシャルシリコンウェーハが製造される。前記エピタキシャルシリコンウェーハは、パワーMOSトランジスタ用として十分に実用的である。
特に、アルゴンアニールを行うことで、エピタキシャル膜表面におけるLPD密度をさらに低減でき、0.3個/cm以下にすることができる。
【0049】
上述のようにシリコンウェーハの電気抵抗率が非常に低く、かつ、SFに起因するLPDも非常に少ない高品質のエピタキシャルシリコンウェーハは、従来の製造方法では製造不可能であり、上述した本発明に従う製造方法によってのみ製造可能な、新規なものである。
【0050】
〔変形例〕
本発明は上記実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の改良ならびに設計の変更などが可能である。
【0051】
例えば、加熱部32のパワーを、前記冷却工程の開始直前の加熱部のパワーの50%以下にするタイミングは、テール部がドーパント添加融液41から切り離れると同時であってもよく、テール部がドーパント添加融液41から切り離れた後、シリコン単結晶6の上昇量が400mmに到達する前の任意のタイミングであってもよい。このような構成でも、加熱部32のパワーを変更しない場合と比べて、冷却工程におけるシリコン単結晶6の熱量を低くすることができ、570℃±70℃での滞在時間が10分以上50分以下となる範囲を広げることができる。
テール部がドーパント添加融液41から切り離れる前に加熱部32のパワーを、前記冷却工程の開始直前の加熱部のパワーの50%以下にしてもよいが、この場合、加熱部32のパワーをダウンしてからテール部をドーパント添加融液41から切り離すまでの時間を、10分以内にすることが好ましい。加熱部32のパワーをダウンしてからテール部をドーパント添加融液41から切り離すまでの時間が10分を超える場合、ドーパント添加融液41の温度が下がり、融液表面が凝固して形成された不要なシリコンがテール部に付着する危険性があるためである。
【0052】
図6に示すように、同一の石英坩堝311を利用し、かつ、シリコン単結晶6を引き上げるごとにポリシリコン素材411をチャージすることによって、複数本のシリコン単結晶6を引き上げるいわゆるマルチ引き上げ法により、シリコン単結晶6を製造してもよい。
この際、まず、70kgのポリシリコン素材を用いて、揮発性ドーパントとしての赤リンが添加されたドーパント添加融液41を生成してから、シリコン単結晶6を引き上げる。
【0053】
上述の引き上げの際、制御部は、シリコン単結晶6におけるネック部形成工程、肩部形成工程、直胴部形成工程、テール部形成工程のうち、少なくとも直胴部形成工程における引き上げ時間を上記実施形態よりも短くして、寸法が上記実施形態のものより短い31kgのシリコン単結晶6を製造する。そして、冷却工程において、上記実施形態と同様に、テール部をドーパント添加融液41から切り離した後、180分以内にシリコン単結晶6を400mm以上上昇させる。この条件により、シリコン単結晶6全体における570℃±70℃での滞在時間が、例えば図3における実験例2の領域Aのようになる。
【0054】
すなわち、上記実施形態の寸法のシリコン単結晶を製造する場合には、テール部形成工程が終了して冷却工程に入るときに、シリコン単結晶の下端部(図2における実験例2の固化率52%より大きい部分)が570℃±70℃よりも高い温度で加熱されている。前記シリコン単結晶の下端部は、この状態から急激に冷却されるため、570℃±70℃となる時間が短くなる(50分以下となる)と考えられる。一方で、シリコン単結晶の上端部(図2における実験例2の固化率が52%より小さい部分)では、冷却工程に入るときに570℃±70℃よりも低い温度まで下がっている。前記シリコン単結晶の上端部をこの状態から急激に冷却したとしても、570℃±70℃となる時間が前記シリコン単結晶の下端部と比べて長くなる(50分を超える)と考えられる。その結果、前記シリコン単結晶の上端部でSFが相対的に多く発生し、前記シリコン単結晶の下端部でSFの発生が相対的に抑制されると考えられる。
これに対して、図6に示す製造方法では、寸法が上記実施形態よりも短いシリコン単結晶6を製造することで、テール部形成工程が終了して冷却工程に入るときに、シリコン単結晶6全体を570℃±70℃よりも高い温度にすることができる。上述の状態からシリコン単結晶6全体を急激に冷却することで、570℃±70℃となる時間を、図3の実験例2、実験例3、実験例5、実験例6における領域A、または、実験例4における領域B、または、実験例7における領域Cと同様に短くすることができると考えられる。
その結果として、シリコン単結晶6の温度が570℃±70℃の範囲内となる時間が10分以上50分以下となり、LPDの発生をシリコン単結晶の長さ方向全長にわたってさらに抑制することができる。
【0055】
1本のシリコン単結晶6の製造が終了した後、単結晶引き上げ装置1は、31kgのドーパント添加融液41を生成するための素材411(シリコン、赤リン、ゲルマニウム)を石英坩堝311に投入して、次の31kgのシリコン単結晶6を製造する。
ここで、最後に製造するシリコン単結晶6以外の冷却工程の間、炉内圧力を13.3kPa以上、60kPa以下に調整することが好ましい。このように炉内圧力を調整することが好ましい理由は、上記実施形態で説明した理由と同じである。
【0056】
図7に示すよう、単結晶引き上げ装置1を用いて、同一の石英坩堝311を利用し、かつ、複数本分のドーパント添加融液41を一度にチャージする。その後、複数本のシリコン単結晶6を1本ずつ引き上げるいわゆる抜き取り引き上げ法により、上記マルチ引き上げ法で説明したシリコン単結晶6と同じサイズのシリコン単結晶6を製造してもよい。この際、冷却工程において、上記実施形態と同様に、テール部をドーパント添加融液41から切り離した後、180分以内にシリコン単結晶6を400mm以上上昇させる。
ここで、2本のシリコン単結晶6を製造する場合、1本目のシリコン単結晶6を引き上げた後の冷却工程の間、炉内圧力を13.3kPa以上、60kPa以下に調整することが好ましい。このように炉内圧力を調整することが好ましい理由は、上記実施形態で説明した理由と同じである。
【0057】
なお、マルチ引き上げ法を行う場合でも、最後のシリコン単結晶を引き上げる際に原料を追加せず、前記抜き取り引き上げ法を適用することができる。
例えば、初期段階として、157kgのドーパント添加融液41をチャージして、31kgのシリコン単結晶6を5回連続で引き上げる方法を適用してもよい。このような方法によっても、シリコン単結晶6の温度が570℃±70℃の範囲内となる時間を10分以上50分以下とすることができる。
マルチ引き上げ法や抜き取り引き上げ法の冷却工程において、上記実施形態や上記変形例のように、加熱部32のパワーを、前記冷却工程の開始直前の加熱部のパワーの50%以下にした状態でシリコン単結晶6を上昇させてもよい。しかし、次のシリコン単結晶6を製造する前に加熱部32のパワーを上げる必要があるため、加熱部32のパワーを下げずにシリコン単結晶6を上昇させることが好ましい。
【0058】
図5に二点鎖線で示すように、ヒーターとしてのアフターヒーター51を設けてもよい。アフターヒーター51は、例えば円筒状に形成されてもよい。アフターヒーター51の配置位置は、ドーパント添加融液41の表面からアフターヒーター51の下端までの距離D1が、シリコン単結晶6の直径Rの1.5倍以上3.0倍以下となる位置が好ましい。距離D1がシリコン単結晶6の直径Rの1.5倍未満となる位置に、アフターヒーター51を配置すると、アフターヒーター51がドーパント添加融液41の表面に近くなるため、固液界面付近の温度勾配が緩やかになり、組成的過冷却などによる有転位化が発生する危険性があるからである。
【0059】
次に、上述の位置に配置したアフターヒーター51の作用を説明する。
単結晶引き上げ装置1にアフターヒーター51を配置しない状態において、例えば上記実験例1と同様の条件でシリコン単結晶6を製造した。そして、テール部がドーパント添加融液41から切り離れた時点での、各固化率における単結晶中心の温度分布を調べた。その結果を、図8に一点鎖線で示す。さらに、各固化率における570℃±70℃での滞在時間を調べた。その結果を、図9に一点鎖線で示す。
図5に二点鎖線で示す位置にアフターヒーター51を配置したこと以外は、上記実験例1と同様の条件でシリコン単結晶6を製造した。すなわち、直胴部形成工程において、シリコン単結晶6をアフターヒーター51で加熱することでシリコン単結晶6の温度の下降を抑制しながら前記シリコン単結晶6を製造した。そして、各固化率における単結晶中心の温度分布および570℃±70℃での滞在時間を調べた。それぞれの結果を、図8および図9に実線で示す。
【0060】
図8に示すように、アフターヒーター51がある場合、テール部形成工程後に温度が640℃(570℃+70℃)以上となる部分が、アフターヒーター51が無い場合よりも、長くなることを確認することができた。詳しくは、アフターヒーター51をオンにして直胴部形成工程を行い、テール部形成工程後の冷却工程において、アフターヒーター51をオフにするとともに、上記実施形態と同様に、テール部をドーパント添加融液41から切り離した後、180分以内にシリコン単結晶6を400mm以上上昇させ、温度が640℃以上の部分を急冷する。その結果として、シリコン単結晶6の温度が570℃±70℃の範囲内となる時間が10分以上50分以下となる部分を増やすことができる。すなわち、シリコンウェーハに発生するピットの数が2.5個/cm以下となる部分を増やすことができる。実際、図9に示すように、アフターヒーター51を用いることにより、シリコン単結晶6の温度が570℃±70℃の範囲内となる時間が10分以上50分以下となる部分が大幅に増加していることを確認することができた。
【符号の説明】
【0061】
1…単結晶引き上げ装置、4…シリコン融液、6…シリコン単結晶、30…チャンバ、31…坩堝、32…加熱部、33…引き上げケーブル(引き上げ部)、41…ドーパント添加融液、62…直胴部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9