(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6897910
(24)【登録日】2021年6月14日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】導波管フィルタ
(51)【国際特許分類】
H01P 1/208 20060101AFI20210628BHJP
【FI】
H01P1/208 Z
【請求項の数】1
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2017-98293(P2017-98293)
(22)【出願日】2017年5月17日
(65)【公開番号】特開2018-195982(P2018-195982A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2020年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井上 佳治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真吾
【審査官】
鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−341491(JP,A)
【文献】
特開2010−258892(JP,A)
【文献】
実開昭63−068206(JP,U)
【文献】
特表2002−542433(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0287634(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0176131(US,A1)
【文献】
米国特許第06057748(US,A)
【文献】
特開平10−041711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の筐体と該筐体を覆うように取り付けた導電性の蓋部とで導波管を形成し、該導波管内に誘電性結合窓を形成するアイリスを備えた導波管フィルタにおいて、
前記筐体と前記蓋部との間に導電性の弾性変形可能な板状部材を配置するとともに、導波路となる領域の前記蓋部と前記板状部材との間に前記蓋部側から前記板状部材側へ突出する凸部を配置して前記筐体と前記蓋部とがネジ止めされることで、前記凸部が前記板状部材を押圧して弾性変形させて、前記筐体の内壁上端部において前記板状部材を前記筐体内に入り込ませ前記板状部材と前記筐体とが接合することを特徴とする導波管フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導波管フィルタに関し、特にマイクロ波帯等の高周波領域で動作する無線通信機器等の使用に適した導波管フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に導波管フィルタは、金属製の方形導波管の内壁に誘電性結合窓を形成するアイリスを備えた構造となっている。例えば、
図3にこの種の導波管フィルタの分解斜視図を示す。
図3に示すように、導電性の筐体1とこの筐体の上部を覆う導電性の蓋部2とで導波管が形成されている。この導波管内には誘電性結合窓を形成するアイリス3が所望のフィルタリング特性となるように配置されている(特許文献1)。
【0003】
この種の導波管フィルタでは、筐体1と蓋部2の貼り合せ面を十分に接合させないとフィルタ特性が劣化してしまう。そのため一般的には、筐体1と蓋部2はロウ付けにより接合している。
【0004】
一方、無線通信用機器においては、軽量化、低コスト化の要請から導波管フィルタをアルミニウムで構成している。また、信号処理を行う回路をマイクロストリップ線路で構成し、導波管フィルタと一体化する場合もある。そのため、ロウ付けのような高温処理を行うことができず、筐体1と蓋部2をネジ止めにより接合する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−341350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
筐体1と蓋部2をネジ止めにより接合する場合、貼り合せ面の平面度やネジの本数、ネジの配置により接触不良が発生し、フィルタ特性が劣化してしまう場合があった。本発明は、このような問題を解消し、ネジ止めで貼り合せ面を接合する場合でも安定したフィルタ特性を得ることができる導波管フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本願発明は、導電性の筐体と該筐体を覆うように取り付けた導電性の蓋部とで導波管を形成し、該導波管内に誘電性結合窓を形成するアイリスを備えた導波管フィルタにおいて、前記筐体と前記蓋部との間に導電性の弾性変形可能な板状部材を配置するとともに、導波路となる領域の前記蓋部と前記板状部材との間に前記蓋部側から前記板状部材側へ突出する凸部を配置して前記筐体と前記蓋部とがネジ止めされることで、前記凸部が前記板状部材を押圧して弾性変形させ
て、前記筐体の内壁上端部において前記板状部材を前記筐体内に入り込ませ前記板状部材と前記筐体とが接合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の導波管フィルタは、筐体と蓋部との間に弾性変形可能な板状部材を配置するとともに、蓋部と板状部材との間に、蓋部側から板状部材側へ突出するような凸部を配置して、筐体と蓋部とをネジ止めすることで、板状部材の弾性力により、板状部材と筐体とを確実に接合でき、フィルタ特性の劣化を招かない構造としている。特に板状部材の弾性力により接合するため、導波管フィルタに振動が加わったり、周囲環境の温度変化があったりする場合でも、筐体と板状部材は確実に接合する。そのため、厳しい使用環境下で使用される無線通信機器に好適な導波管フィルタとなっている。
【0009】
また、ロウ付けの代わりにネジ止めにより確実な接合が可能となるため、低コストで製造することができるという利点もある。ネジ止めが可能であるため、組立後に特性調整のために蓋部を分解することもでき、製造工程の歩留まり向上を図ることができる点でも優れている。
【0010】
さらにネジ止めにより確実な接合が可能となるため、筐体や蓋部をアルミニウムで構成することが可能となり、導波管フィルタの軽量化が実現できる点からも無線通信機器に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の導波管フィルタは、導電性の筐体と、この筐体を覆うように取り付けた導電性の蓋部とで導波管を形成する。この導波管内には、誘電性結合窓を形成するアイリスを所望のフィルタリング特性となるように配置する。筐体と蓋部は、導電性の弾性変形可能な板状部材を介してねじ止めする。また本発明では、導波路となる位置の蓋部と板状部材との間に、蓋部側から板状部材側へ突出する凸部を配置する。その結果、凸部が板状部材を押圧し、板状部材を弾性変形させ、板状部材と筐体とを確実に接合させることが可能となる。以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0013】
本発明の実施例について説明する。
図1は、従来例で説明した導波管フィルタの筐体1と蓋部2を本発明の方法により接合した状態を示し、アイリス3を通る断面(
図3において左右方向の断面)を示している。
図1において、1はアルミニウムからなる筐体、2はアルミニウムからなる蓋部、3は誘電性結合窓を形成するアイリス、4はアルミニウムからなる板状部材、5は凸部、6はネジ、7は筐体1と板状部材4とで形成された導波管の導波路である。
【0014】
図1に示すように本発明は、筐体1と蓋部2の接合構造に大きな特徴を有している。すなわち、筐体1と蓋部2との間で導波路7となる位置に凸部5を配置する。この凸部5は、蓋部2と一体であっても良いし、別の部材、例えばアルミニウムテープを蓋部2に貼り付けても良い。凸部5は、ネジ6により筐体1、板状部材4および蓋部2を接合したとき、導波路7の一部を構成する板状部材4を弾性変形させ、筐体1と図中Aと示す位置で確実に接合するように、高さ、幅、形成位置等を設定している。
【0015】
なお
図1では、アイリス3を通る断面図を示しているため、導波路7を伝搬するマイクロ波等の伝送方向に並ぶアイリス3間の導波路7の幅は、図示する場合より広くなる。この幅の広い領域においても凸部5が板状部材4を押圧して弾性変形させ、筐体1と
図1のAに相当する位置で確実に接合させることができる。
【0016】
板状部材4は弾性変形可能な材質、形状等とするため、導波管フィルタに振動が加わったり、温度変化が生じたりする場合でも、弾性変形することで確実な接合を維持することができる。
【0017】
また
図2に示すように導波管フィルタのコーナー部において、単にネジ止めしただけでは、接合不良が生じやすい部分(図中Bと示す位置)であっても確実に接合できる。
【0018】
以上説明したように本発明による形成した導波管フィルタは、筐体1と蓋部2との間に弾性変形可能な板状部材4を介在させ、凸部5で押圧するようにネジ止めすることで、確実な接合を形成することができ、接触不良によるフィルタ特性の劣化を防止することが可能となる。なお、凸部5の押圧により導波路7の一部が変形することになるが、フィルタ特性には大きく影響しない。
【0019】
以上本発明の実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されない。例えば、弾性変形可能な部材は、アルミニウムに限定されず、その他の金属や、表面が導電性材料で被覆された非導電性の板状部材であっても良い。また、凸部5は、導電性である必要はなく、板状部材4を弾性変形させることができるものであれば良い。
【符号の説明】
【0020】
1:筐体、2:蓋部、3:アイリス、4:板状部材、5:凸部、6:ネジ、7:導波路