(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ASTM D648に準拠し、前記液晶ポリエステル樹脂組成物を成形した試験片について1.82MPaの荷重下にて測定される荷重たわみ温度が、260℃以上285℃未満である請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
ASTM D785に準拠し、前記液晶ポリエステル樹脂組成物を成形した試験片についてRスケールにて測定されるロックウエル硬度が、108以上115以下である請求項1または2に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<液晶ポリエステル樹脂組成物>
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル樹脂と、繊維状充填材および板状充填材からなる充填材とを含む。
【0026】
[液晶ポリエステル樹脂]
本実施形態に用いられる液晶ポリエステル樹脂の一実施形態について説明する。
本実施形態に用いられる液晶ポリエステル樹脂は、溶融状態で液晶を示すポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステル樹脂は、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステル樹脂は、原料モノマーとして芳香族化合物のみを重合している全芳香族液晶ポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0027】
本実施形態に用いられる液晶ポリエステル樹脂の典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを縮重合(重縮合)させてなるもの;複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの;芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させてなるもの;及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、を重合させてなるものが挙げられる。
【0028】
なかでも、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸と、を縮重合(重縮合)させてなるものが好ましい。
【0029】
ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、互いに独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能なエステル形成誘導体であってもよい。
【0030】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のような、カルボキシ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、エステル、酸ハロゲン化物、及び酸無水物が挙げられる。上述のエステルとしては、カルボキシ基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるものが挙げられる。上述の酸ハロゲン化物としては、カルボキシ基をハロホルミル基に変換してなるものが挙げられる。上述の酸無水物としては、カルボキシ基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるものが挙げられる。
【0031】
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのような、ヒドロキシ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシ基をアシル化してアシルオキシ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0032】
芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのような、アミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0033】
例示した重合可能な誘導体の例の中でも、液晶ポリエステル樹脂の原料モノマーとしては、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールをアシル化して得られるアシル化物が好ましい。
【0034】
本実施形態に用いられる液晶ポリエステル樹脂は、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましい。また、液晶ポリエステル樹脂は、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)と、を有することがより好ましい。
【0035】
(1)−O−Ar
1−CO−
(2)−CO−Ar
2−CO−
(3)−X−Ar
3−Y−
【0036】
[式(1)〜式(3)中、Ar
1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。
Ar
2及びAr
3は、互いに独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は式(4)で表される基を表す。X及びYは、互いに独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。
Ar
1、Ar
2又はAr
3で表される前記基中の1個以上の水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。]
【0038】
[式(4)中、Ar
4及びAr
5は、互いに独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又は炭素数1〜10のアルキリデン基を表す。
Ar
4又はAr
5で表される前記基中の1個以上の水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。]
【0039】
水素原子と置換可能な前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0040】
水素原子と置換可能な前記炭素数1〜10のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、1−プロピル基、イソプロピル基、1−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、1−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、1−オクチル基及び1−デシル基等が挙げられる。
【0041】
水素原子と置換可能な前記炭素数6〜20のアリール基の例としては、フェニル基、オルトトリル基、メタトリル基、パラトリル基等のような単環式芳香族基や、1−ナフチル基、2−ナフチル基等のような縮環式芳香族基が挙げられる。
【0042】
Ar
1、Ar
2、Ar
3、Ar
4又はAr
5で表される前記基において、1個以上の水素原子が、上述した置換基で置換されている場合、当該置換基の数は、Ar
1、Ar
2、Ar
3、Ar
4又はAr
5で表される基毎に、互いに独立に、1個又は2個であることが好ましい。また、当該置換基の数は、Ar
1、Ar
2、Ar
3、Ar
4又はAr
5で表される基毎に、1個であることがより好ましい。
【0043】
前記炭素数1〜10のアルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、1−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基等が挙げられる。
【0044】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。
【0045】
なお、本明細書において「由来」とは、原料モノマーが重合するために化学構造が変化し、その他の構造変化を生じないことを意味する。
【0046】
前記芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、4−ヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、1−ヒドロキシ−5−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ−4’−カルボキシジフェニルエーテルや、これらの芳香族ヒドロキシカルボン酸の芳香環にある水素原子の一部が、アルキル基、アリール基及びハロゲン原子からなる群より選ばれる置換基で置換されてなる芳香族ヒドロキシカルボン酸が挙げられる。
【0047】
前記芳香族ヒドロキシカルボン酸は、液晶ポリエステル樹脂の製造において、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
繰返し単位(1)としては、Ar
1が1,4−フェニレン基であるもの(4−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びAr
1が2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0049】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。
【0050】
前記芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルチオエーテル−4,4’−ジカルボン酸や、これらの芳香族ジカルボン酸の芳香環にある水素原子の一部が、アルキル基、アリール基及びハロゲン原子からなる群より選ばれる置換基で置換されてなる芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0051】
前記芳香族ジカルボン酸は、液晶ポリエステル樹脂の製造において、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
繰返し単位(2)としては、Ar
2が1,4−フェニレン基であるもの(例えば、テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar
2が1,3−フェニレン基であるもの(例えば、イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar
2が2,6−ナフチレン基であるもの(例えば、2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びAr
2がジフェニルエーテル−4,4’−ジイル基であるもの(例えば、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0053】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。
【0054】
芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族ジアミンとしては、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルチオエーテル、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、4−アミノフェノール、1,4−フェニレンジアミン、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル、4,4’−ジアミノビフェニルが挙げられる。
【0055】
前記芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族ジアミンは、液晶ポリエステル樹脂の製造において、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
繰返し単位(3)としては、Ar
3が1,4−フェニレン基であるもの(例えば、ヒドロキノン、4−アミノフェノール又は1,4−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びAr
3が4,4’−ビフェニリレン基であるもの(例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0057】
なお、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物から得られる成形体が、特に良好な耐熱性や熱安定性が要求される場合には、繰返し単位(1)〜(3)が有する置換基の数は少ない方が好ましい。また、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物から得られる成形体が、特に良好な耐熱性や熱安定性が要求される場合には、熱に弱い置換基(例えば、アルキル基)は有しないことが好ましい。
【0058】
本実施形態において成形体の耐熱性とは、成形体の形成材料である樹脂が軟化しにくい性質をいう。本実施形態において、成形体の耐熱性は、樹脂の荷重たわみ温度を測定することにより明らかにすることができる。本実施形態における荷重たわみ温度は、ASTM D648に準拠し、1.82MPaの荷重下にて測定される。このようにして測定される樹脂の荷重たわみ温度が高いほど、成形体の耐熱性が高いといえる。
【0059】
また、本実施形態において成形体の熱安定性とは、樹脂を成形加工する温度(溶融温度)で成形体を保持した際に、樹脂の分解や劣化が生じにくい性質をいう。
【0060】
次に、本実施形態に適用するうえで特に好適な液晶ポリエステル樹脂に関し、その構造単位の組合せについて、上述の構造単位の例示をもとに詳述する。
【0061】
本実施形態に用いる好ましい液晶ポリエステル樹脂の具体例としては、例えば下記のモノマー構成単位からなるものが挙げられる。
(a)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸共重合体
(b)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
(c)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
(d)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン共重合体
(e)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
(f)2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
(g)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
(h)2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
(i)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
(j)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
(k)4−ヒドロキシ安息香酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
(l)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
(m)4−ヒドロキシ安息香酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
(n)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
(o)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
(p)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4−アミノフェノール共重合体
(q)2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/4−アミノフェノール共重合体(r)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/4−アミノフェノール共重合体
(s)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル /4−アミノフェノール共重合体
(t)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/エチレングリコール共重合体
(u)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール共重合体
(v)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/エチレングリコール共重合体
(w)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール共重合体
(x)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体。
【0062】
前記の例示の中でも、(b)、(c)が好ましく、(c)がより好ましい。
【0063】
液晶ポリエステル樹脂の繰返し単位(1)の含有率は、液晶ポリエステル樹脂を構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30モル%以上80モル%以下、さらに好ましくは30モル%以上70モル%以下、とりわけ好ましくは35モル%以上65モル%以下である。液晶ポリエステル樹脂を構成する全繰返し単位の合計量は、液晶ポリエステル樹脂を構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値である。
【0064】
液晶ポリエステル樹脂の繰返し単位(1)の含有率が30モル%以上であると、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物を成形した成形体の耐熱性と硬度が向上しやすい。また、繰返し単位(1)の含有率が80モル%以下であると、溶融粘度を低くすることができる。そのため、液晶ポリエステル樹脂の成形に必要な温度が低くなりやすい。
【0065】
液晶ポリエステル樹脂の繰返し単位(2)の含有率は、液晶ポリエステル樹脂を構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10モル%以上35モル%以下、さらに好ましくは15モル%以上35モル%以下、とりわけ好ましくは17.5モル%以上32.5モル%以下である。
【0066】
液晶ポリエステル樹脂の繰返し単位(3)の含有率は、液晶ポリエステル樹脂を構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10モル%以上35モル%以下、さらに好ましくは15モル%以上35モル%以下、とりわけ好ましくは17.5モル%以上32.5モル%以下である。
【0067】
液晶ポリエステル樹脂においては、繰返し単位(2)の含有率と繰返し単位(3)の含有率との割合は、[繰返し単位(2)の含有率]/[繰返し単位(3)の含有率](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0068】
なお、前記液晶ポリエステル樹脂は、繰返し単位(1)〜(3)を、互いに独立に、1種のみ有してもよいし、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステル樹脂は、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を1種又は2種以上有してもよいが、その含有率は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましく10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0069】
[液晶ポリエステル樹脂の製造方法]
次に、本実施形態に用いられる液晶ポリエステル樹脂の製造方法の一例について説明する。
【0070】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂は、以下のアシル化工程及び重合工程によって製造することが好ましい。
【0071】
アシル化工程とは、原料のモノマーが有するフェノール性のヒドロキシ基を脂肪酸無水物(例えば無水酢酸等)によってアシル化することにより、アシル化物を得る工程である。
【0072】
重合工程では、アシル化工程で得られたアシル化物のアシル基と、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ヒドロキシカルボン酸のアシル化物のカルボキシ基とを、エステル交換を起こすように重合することにより、液晶ポリエステル樹脂を得るとよい。
【0073】
前記アシル化工程及び重合工程は、下記式(5)に表されたような複素環状有機塩基化合物の存在下に行ってもよい。
【0075】
上記式(5)において、R
1〜R
4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシメチル基、シアノ基、アルキル基の炭素数が1〜4であるシアノアルキル基、アルコキシ基の炭素数が1〜4であるシアノアルコキシ基、カルボキシ基、アミノ基、炭素数1〜4のアミノアルキル基、炭素数1〜4のアミノアルコキシ基、フェニル基、ベンジル基、フェニルプロピル基又はフォルミル基を表している。
【0076】
上記式(5)の複素環状有機塩基化合物の中でも、好適なものは、上記式(5)において、R
1が炭素数1〜4のアルキル基であり、R
2〜R
4がそれぞれ水素原子であるイミダゾール誘導体である。これにより、前記アシル化工程におけるアシル化反応や前記重合工程におけるエステル交換反応の反応性をより向上できる。また、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いて得られる成形体の色調をより良好にすることができる。
【0077】
複素環状有機塩基化合物の中でも、入手が容易であることから、1−メチルイミダゾールと1−エチルイミダゾールとのいずれか一方または両方が特に好ましい。
【0078】
また、複素環状有機塩基化合物の使用量は、液晶ポリエステル樹脂の原料モノマー(すなわち、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシカルボン酸)の総量を100質量部としたときに、0.005〜1質量部となるようにすることが好ましい。また、成形体の色調や生産性の観点からは、原料モノマー100質量部に対して0.05〜0.5質量部とすることが、より好ましい。
【0079】
前記複素環状有機塩基化合物は、アシル化反応及びエステル交換反応の際の一時期に存在していればよく、その添加時期は、アシル化反応開始の直前であってもよいし、アシル化反応の途中であってもよいし、アシル化反応とエステル交換反応の間であってもよい。このようにして得られる液晶ポリエステル樹脂は、溶融流動性が非常に高く、かつ、熱安定性に優れる。
【0080】
脂肪酸無水物(例えば無水酢酸等)の使用量は、原料モノマーである芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシカルボン酸の使用量を考慮して決定すべきである。具体的には、これら原料モノマーに含まれるフェノール性のヒドロキシ基の合計に対して、1.0倍当量以上1.2倍当量以下とすることが好ましく、1.0倍当量以上1.15倍当量以下とすることがより好ましく、1.03倍当量以上1.12倍当量以下とすることがさらに好ましく、1.05倍当量以上1.1倍当量以下とすることが特に好ましい。
【0081】
原料モノマーに含まれるフェノール性のヒドロキシ基の合計に対して、脂肪酸無水物の使用量が1.0倍当量以上であると、アシル化反応が進行しやすく、後の重合工程において未反応の原料モノマーが残存しにくく、結果として重合が効率よく進行する。また、このようにアシル化反応が十分進行すると、アシル化されていない原料モノマーが昇華して、重合時に使用する分留器が閉塞する可能性が少ない。一方、前記脂肪酸無水物の使用量が1.2倍当量以下であると、得られる液晶ポリエステル樹脂が着色しにくい。
【0082】
上述のアシル化工程におけるアシル化反応は、130℃〜180℃の温度範囲で30分〜20時間行うことが好ましく、140℃〜160℃で1〜5時間行うことがより好ましい。
【0083】
上述の重合工程で使用する芳香族ジカルボン酸は、アシル化工程の際に反応系中に存在させておいてもよい。すなわち、アシル化工程において、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸を、同一の反応系中に存在させておいてもよい。これは、芳香族ジカルボン酸にあるカルボキシ基及び任意に置換されてもよい置換基は、いずれも、脂肪酸無水物によって何ら影響を受けないからである。
【0084】
従って、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸を反応器に仕込んだ後でアシル化工程および重合工程を順次行う方法でもよいし、芳香族ジオール及び芳香族ジカルボン酸を反応器に仕込んでアシル化工程を行った後で芳香族ジカルボン酸をさらに反応器に仕込んで重合工程を行う方法でもよい。製造工程を簡便化するという観点からは、前者の方法が好ましい。
【0085】
上述の重合工程におけるエステル交換反応は、昇温速度0.1〜50℃/分で130℃から400℃まで昇温しながら行うことが好ましく、昇温速度0.3〜5℃/分で150℃から350℃まで昇温しながら行うことがさらに好ましい。
【0086】
また、重合工程のエステル交換反応を行う際には、平衡をずらすために、副生する脂肪酸(例えば酢酸等)及び未反応の脂肪酸無水物(例えば無水酢酸等)を、蒸発させて系外に留去させることが好ましい。このとき、留出する脂肪酸の一部を環流させて反応器に戻すことにより、脂肪酸と同伴して蒸発又は昇華する原料モノマー等を凝縮又は逆昇華させて反応器に戻すこともできる。
【0087】
アシル化工程のアシル化反応及び重合工程のエステル交換反応では、反応器として、回分装置を用いてもよいし、連続装置を用いてもよい。いずれの反応装置を用いても、本実施形態に使用することが可能な液晶ポリエステル樹脂を得られる。
【0088】
上述した重合工程の後に、この重合工程で得られた液晶ポリエステル樹脂を高分子量化するための工程を行ってもよい。例えば、重合工程で得られた液晶ポリエステル樹脂を冷却した後で粉砕することによって粉体状の液晶ポリエステル樹脂を作製し、さらに、この粉体を加熱することとすれば、液晶ポリエステル樹脂の高分子量化が可能である。
【0089】
また、冷却及び粉砕で得た粉体状液晶ポリエステル樹脂を造粒することによってペレット状の液晶ポリエステル樹脂を作製し、その後でこのペレット状液晶ポリエステル樹脂を加熱することにより、液晶ポリエステル樹脂の高分子量化を行ってもよい。これらの方法を用いた高分子量化は、当該技術分野では、固相重合と称されている。
【0090】
固相重合は、液晶ポリエステル樹脂を高分子量化する方法としては、特に有効である。液晶ポリエステル樹脂を高分子量化することにより、後述するような好適な流動開始温度を有する液晶ポリエステル樹脂を得ることが容易になる。
【0091】
前記固相重合の反応条件としては、固体状態の樹脂を不活性気体雰囲気下又は減圧下に、1〜20時間熱処理する方法が通常採用される。この固相重合が行われる重合条件は、前記溶融重合で得られた樹脂の流動開始温度を求めてから適宜最適化することができる。なお、前記熱処理に使用される装置としては、例えば、既知の乾燥機、反応機、イナートオーブン、電気炉が挙げられる。
【0092】
液晶ポリエステル樹脂の流動開始温度は、好ましくは270℃以上、より好ましくは270〜400℃、さらに好ましくは280〜380℃である。前記流動開始温度が、このような範囲である液晶ポリエステル樹脂を使用すると、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いて得られる成形体の耐熱性と硬度の向上が期待できる。また、前記液晶ポリエステル樹脂組成物から成形体を得る際の溶融成形において、液晶ポリエステル樹脂の熱安定性が向上し、熱劣化を回避することができる。
【0093】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPaの荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステル樹脂を溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示すときの温度であり、液晶ポリエステル樹脂の分子量の目安となるものである(例えば、小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、95−105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)。
【0094】
上述の好適な流動開始温度の液晶ポリエステル樹脂は、前記液晶ポリエステル樹脂を構成する構造単位を適宜最適化することで容易に得ることが可能である。すなわち、液晶ポリエステル樹脂の分子鎖の直線性を向上させるようにすると、その流動開始温度が上がる傾向がある。
【0095】
例えば、前記芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位のうち、テレフタル酸は液晶ポリエステル樹脂分子鎖の直線性を向上させ、イソフタル酸は液晶ポリエステル樹脂分子鎖の屈曲性を向上させる(直線性を低下させる)。そのため、このテレフタル酸とイソフタル酸の共重合比をコントロールすることにより、所望の流動開始温度の液晶ポリエステル樹脂を得ることができる。
【0096】
本実施形態では、複数種の液晶ポリエステル樹脂を混合してなる液晶ポリエステル樹脂混合物(以下、樹脂混合物)を使用することも可能である。その場合、少なくとも1種の液晶ポリエステル樹脂は、芳香族ヒドロキシカルボン酸を含む原料モノマーをイミダゾール誘導体の存在下に重合させて得られたものであることが好ましい。このようにして得られる液晶ポリエステル樹脂は、溶融流動性が非常に高く、かつ、熱安定性(滞留安定性)に優れる。
【0097】
また、本実施形態に用いられる液晶ポリエステル樹脂においては、テレフタル酸及びイソフタル酸の構造単位の共重合比を最適化することが好ましい。これにより、上述のように液晶ポリエステル樹脂の分子鎖の直線性をコントロールできる。その結果、流動開始温度が互いに異なる複数種の液晶ポリエステル樹脂を各々製造できる。
【0098】
ここで、樹脂混合物として、流動開始温度が互いに異なる液晶ポリエステル樹脂の混合物を想定する。この樹脂混合物において、流動開始温度が高い方を第1の液晶ポリエステル樹脂とし、流動開始温度が低い方を第2の液晶ポリエステル樹脂とする。
【0099】
第1の液晶ポリエステル樹脂のモル比率(イソフタル酸/テレフタル酸)をαとし、第2の液晶ポリエステル樹脂のモル比率(イソフタル酸/テレフタル酸)をβとしたとき、第2の液晶ポリエステル樹脂のモル比率と、第1の液晶ポリエステル樹脂のモル比率との比(α/β)が0.1〜0.6の範囲であることが好ましく、0.3〜0.6の範囲であることがより好ましい。
【0100】
本実施形態では、第1の液晶ポリエステル樹脂と、第2の液晶ポリエステル樹脂と、を含有する樹脂混合物を使用することが好ましい。これにより、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物の溶融流動性を一層良好にして、得られる成形体の反りを十分抑制できる。
【0101】
前記第1の液晶ポリエステル樹脂の流動開始温度の下限値は、300℃以上が好ましく、310℃以上がより好ましく、315℃以上がさらに好ましい。また、前記第1の液晶ポリエステル樹脂の流動開始温度の上限値は、400℃以下が好ましく、360℃以下がより好ましく、345℃以下がさらに好ましい。上記上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。
【0102】
前記第1の液晶ポリエステル樹脂の流動開始温度が上記の範囲内であると、樹脂の溶融流動性と、得られる成形体の耐熱性とのバランスが良好となる傾向がある。
【0103】
一方、第2の液晶ポリエステル樹脂の流動開始温度の下限値は、260℃以上が好ましく、270℃以上がより好ましく、285℃以上がさらに好ましい。また、前記第2の液晶ポリエステル樹脂の流動開始温度の上限値は、350℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましく、315℃以下がさらに好ましい。上記上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。
【0104】
前記第2の液晶ポリエステル樹脂の流動開始温度が上記の範囲内であると、薄肉流動性が良好になりやすく、得られる成形体の荷重たわみ温度が十分高くなる傾向がある。
【0105】
また、前記樹脂混合物において、前記第1の液晶ポリエステル樹脂100質量部に対して、前記第2の液晶ポリエステル樹脂の含有量が10〜150質量部であることが好ましく、30〜120質量部がより好ましく、50〜100質量部であることがさらに好ましい。
【0106】
前記第1の液晶ポリエステル樹脂に対する前記第2の液晶ポリエステル樹脂の含有量は、前記樹脂混合物の荷重たわみ温度と薄肉流動性のバランスにより、適宜設定される。
【0107】
前記樹脂混合物は、前記第1の液晶ポリエステル樹脂及び前記第2の液晶ポリエステル樹脂以外の液晶ポリエステル樹脂を含有することもできる。その場合、前記樹脂混合物において、流動開始温度が最も高いものを前記第1の液晶ポリエステル樹脂とし、流動開始温度が最も低いものを前記第2の液晶ポリエステル樹脂とすればよい。実質的に第1の液晶ポリエステル樹脂と第2の液晶ポリエステル樹脂からなる樹脂混合物が好適である。
【0108】
[充填材]
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル樹脂100質量部に対して、繊維状充填材および板状充填材からなる充填材を15質量部以上55質量部以下含む。
【0109】
充填材の含有量が15質量部以上であると、得られる成形体の強度や硬度が十分高くなる。これに対し、充填材の含有量が15質量部を下回る場合、液晶ポリエステル樹脂組成物の耐熱性や機械的特性が不足するとともに、得られる成形体の反りが発生しやすくなる。
【0110】
また、充填材の含有量が55質量部以下であると、成形時の薄肉流動性が十分高くなる。これに対し、充填材の含有量が55重量部を上回る場合、液晶ポリエステル樹脂組成物の溶融流動性が悪くなるとともに、ブリスタが発生しやすくなる。
【0111】
また、本実施形態で用いられる充填材の含有量の下限値は、液晶ポリエステル樹脂100質量部に対して、24質量部以上が好ましく、32質量部以上がより好ましい。また、充填材の含有量の上限値は、45質量部以下が好ましく、42質量部以下がより好ましい。上記上限値および下限値は任意で組み合わせることができる。
【0112】
板状充填材と繊維状充填材との合計量が、上記の範囲内であると、液晶ポリエステル樹脂組成物の耐熱性やウエルド強度がより優れるとともに、得られる成形体の反りが発生しにくい。
【0113】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物において、繊維状充填材の含有量は、液晶ポリエステル樹脂100質量部に対して、5〜30質量部、好ましくは10〜30質量部である。繊維状充填材の含有量が上記範囲内であると、液晶ポリエステル樹脂組成物の耐熱性や機械的特性にさらに優れる。
【0114】
また、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物において、板状充填材の含有量は、5〜30質量部、好ましくは10〜30質量部である。
【0115】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物において、繊維状充填材と板状充填材との含有割合(繊維状充填材/板状充填材)は、0.5以上2.0以下の範囲であることが好ましく、0.6以上1.8以下の範囲であることがさらに好ましく、0.8以上1.2以下の範囲であることがとりわけ好ましい。
【0116】
(繊維状充填材)
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる繊維状充填材の数平均繊維長が450μm以上700μm以下である。繊維状充填材の数平均繊維長が450μm以上であると、得られる成形体の機械的強度や硬度が十分高くなる。
【0117】
本実施形態において、成形体の硬度は、「表面硬さ」、または「ロックウエル硬度」とも呼ばれる。成形体の硬度は、厚み6.4mmの試験片を成形し、ロックウエル硬度計(東洋精機(株)製、FR−1E)を用い、ASTM D785に準拠し、Rスケールにて測定した値を採用した。
【0118】
ここで、試験片の厚みは、6mm以上であり、表面に窪み(ヒケ)がないことが重要である。厚さが6mmより薄いと圧子を押し込んだ時に、下面の影響を受ける可能性がある。また、窪みがあると、成形品受台の面に対してすき間が生じ、圧子を押し込んだ際に正確な測定ができないことがある。
【0119】
得られる成形体の硬度が高くなる要因として次のことが考えられる。通常、液晶ポリエステル樹脂組成物を形成材料とする成形体は、成形体の表面に存在する「スキン層」と、成形体の内部に存在する「コア層」とを有する。従来の、繊維状充填材を含む液晶ポリエステル樹脂組成物を用いる場合、繊維状充填材は成形体のコア層に多く存在する。
【0120】
これに対し、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物では、繊維状充填材の数平均繊維長が450μm以上と十分長い。そのため、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いる場合、繊維状充填材が成形体のコア層からスキン層まで存在していると推測される。
【0121】
したがって、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いて得られる成形体は、従来の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いて得られる成形体と比べて、表面付近に繊維状充填材が多く存在すると推測される。通常、繊維状充填材は、液晶ポリエステル樹脂よりもモース硬度が高い材料を形成材料としている。そのため、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物では、結果として成形体の硬度が高くなると考えられる。
【0122】
ここで、モース硬度とは、10種の基準となる鉱物と比較することによって鉱物の硬度を求める経験的な尺度である。基準となる鉱物はやわらかいもの(モース硬度1)から硬いもの(モース硬度10)の順に、タルク、石膏、方解石、ホタル石、燐灰石、正長石、石英、黄玉、鋼玉、ダイヤモンドで、硬度を測りたい試料物質で基準の鉱物をこすり、ひっかき傷の有無で硬度を測定する。例えば、ホタル石では傷が付かず、燐灰石で傷が付く場合、モース硬度は4.5(4と5の間の意)となる。
【0123】
さらに、繊維状充填材の数平均繊維長が450μm以上と十分長いと、得られる成形体に対する補強効果に優れる。そのため、成形体の反りが小さくなると考えられる。また、繊維状充填材の数平均繊維長が450μm以上と十分長いと、得られる成形体の寸法安定性に優れる。
【0124】
繊維状充填材の数平均繊維長の下限値は、470μm以上が好ましく、500μm以上がより好ましく、520μm以上がさらに好ましい。
【0125】
一方、本実施形態の繊維状充填材の数平均繊維長が700μm以下であると、安定的に液晶ポリエステル樹脂組成物を得ることができる。また、繊維状充填材の数平均繊維長が700μm以下であると、繊維状充填材による液晶ポリエステル樹脂組成物の流動阻害が生じにくい。その結果、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物においては、流動性を均一に保ちやすい。したがって、本実施形態では、成形体の薄肉部分、または狭ピッチの格子部分に対して液晶ポリエステル樹脂組成物を充填しやすい。
【0126】
繊維状充填材の数平均繊維長の上限値は、650μm以下が好ましく、600μm以下がより好ましい。
【0127】
また、本実施形態の繊維状充填材の数平均繊維径は、5μm以上20μm以下であることが好ましい。繊維状充填材の数平均繊維径が5μm以上であると、液晶ポリエステル樹脂組成物の製造時に、繊維状充填材が必要以上に折損しない。その結果、液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる繊維状充填材の数平均繊維長を上述の範囲に制御できる。また、繊維状充填材の数平均繊維径が20μm以下であると、繊維のアスペクト比(繊維長/繊維径の比率)が低下することに伴う成形体の硬度の低下を回避できる。
【0128】
本実施形態の繊維状充填材の数平均繊維径は、6μm以上がさらに好ましい。繊維径は、17μm以下がより好ましく、15μm以下がより好ましい。
【0129】
液晶ポリエステル樹脂組成物の製造時における溶融混練の条件や、溶融混練に用いる押出機の構成を変更することにより、液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる繊維状充填材の数平均繊維長を調整することができる。
【0130】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる繊維状充填材の数平均繊維長は以下の方法により測定される。
【0131】
まず、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物からなるペレット5gをマッフル炉(例えば、ヤマト科学(株)製、「FP410」)にて空気雰囲気下において600℃で4時間加熱して樹脂を除去する。得られた繊維状充填材を含む灰化残渣をエチレングリコール溶液に分散させて、超音波を3分間かける。
【0132】
次に、スライドガラス上に分散液を数滴落とし、スライドガラス上で繊維状充填材が重なり合わないようにほぐす。ほぐした繊維状充填材の上からカバーガラスを載せ、ビデオマイクロスコープ(例えば、キーエンス(株)社製「VHX−1000」)により、拡大倍数100倍にて、繊維状充填材の輪郭にピントが合うよう調整する。繊維状充填材の500本の長さを測定し、数平均繊維長を算出する。
【0133】
本実施形態に用いられる繊維状充填材は、無機充填材であってもよいし、有機充填材であってもよい。また、モース硬度が4以上であることが好ましい。
【0134】
繊維状無機充填材の例としては、ガラス繊維;パン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維;シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維等のセラミック繊維;及びステンレス繊維等の金属繊維が挙げられる。また、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ウォラストナイトウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカー、炭化ケイ素ウイスカー等のウイスカーも挙げられる。
【0135】
繊維状有機充填材の例としては、ポリエステル繊維、アラミド繊維、及びセルロース繊維が挙げられる。
【0136】
例示した中でも、強度に優れ、かつ入手がしやすい点から、ガラス繊維が好ましい。
【0137】
(ガラス繊維)
本実施形態においては、液晶ポリエステル樹脂組成物がガラス繊維を含有していることにより、成形体の強度や耐熱性、表面硬さを向上させることができる。
【0138】
前記ガラス繊維の例としては、長繊維タイプのチョップドガラス繊維、短繊維タイプのミルドガラス繊維等、種々の方法で製造されたものが挙げられる。これらのうち2種以上を併用して使用することもできる。
【0139】
前記ガラス繊維の種類としては、E−ガラス、A−ガラス、C−ガラス、D−ガラス、AR−ガラス、R−ガラス、Sガラス等や、これらの混合物が挙げられる。中でもE−ガラスは強度に優れ、かつ入手がしやすい点から、好ましい。
【0140】
前記ガラス繊維としては、弱アルカリ性のものが機械的強度(引張強度およびIzod衝撃強度)の点で優れており、好ましく使用できる。特に酸化ケイ素含有量が50〜80質量%のガラス繊維が好ましく用いられ、より好ましくは65〜77質量%のガラス繊維である。
【0141】
前記ガラス繊維は、必要に応じてシラン系カップリング剤、又はチタン系カップリング剤等のカップリング剤で処理されたものでもよい。
【0142】
前記ガラス繊維は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆もしくは収束剤で処理されていてもよい。
【0143】
溶融混練に供する原料であるガラス繊維の数平均繊維長は、500μm〜6000μmであることが好ましい。ガラス繊維の数平均繊維長が500μm以上である場合、得られる成形体に対する補強効果が十分高い。また、ガラス繊維の数平均繊維長が6000μm以下である場合、溶融混練後の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれるガラス繊維の数平均繊維長を700μm以下に調整しやすい。
【0144】
溶融混練に供する原料であるガラス繊維の数平均繊維長の下限値は、1000μm以上がより好ましく、2000μm以上がさらに好ましい。ガラス繊維の数平均繊維長の上限値は、5000μm以下がより好ましく、4500μm以下がさらに好ましい。
【0145】
溶融混練に供する原料であるガラス繊維の繊維径(単繊維径)は、5μm以上20μm以下であることが好ましい。ガラス繊維の繊維径が5μm以上である場合、得られる成形体に対する補強効果が十分高い。また、ガラス繊維の繊維径が20μm以下である場合、液晶ポリエステル樹脂組成物の溶融流動性が十分高い。
【0146】
溶融混練に供する原料であるガラス繊維の繊維径の下限値は、6μm以上がより好ましい。また、ガラス繊維の繊維径の上限値は、17μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましい。
【0147】
なお、ガラス繊維径については、溶融混練後も実質的に変化しない。
【0148】
なお、本明細書において「原料であるガラス繊維の数平均繊維長」とは、特に断りのない限り、JIS R3420「7.8 チョップドストランドの長さ」に記載の方法で測定された値を意味する。
また、「原料であるガラス繊維の繊維径」とは、特に断りのない限り、JIS R3420「7.6 単繊維直径」に記載の方法のうち、「A法」で測定された値を意味する。
【0149】
(板状充填材)
板状充填材の例としては、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ガラスフレーク、硫酸バリウム及び炭酸カルシウムが挙げられる。マイカは、白雲母であってもよいし、金雲母であってもよいし、フッ素金雲母であってもよいし、四ケイ素雲母であってもよい。
【0150】
板状充填材は例示した中でも、タルクまたはマイカが好ましく、タルクがより好ましい。本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物が、タルクまたはマイカを含有していることにより、成形体の反りを少なくし、成形体の耐熱性や硬度を向上させることができる。
【0151】
≪タルク≫
本実施形態で使用するタルクは、水酸化マグネシウムとケイ酸塩鉱物からなる鉱物の粉砕物である。また、本実施形態で使用するタルクは、4原子のケイ素(Si)酸化物が形成する4個の四面体構造間に、3個のマグネシウム(Mg)酸化・水酸化物が構成する八面体構造を挟み込んだ構造を形成したものである。
【0152】
本実施形態で使用するタルクの製造方法としては、公知の製造方法が挙げられ、例えば、ローラーミル、レイモンドミル等による摩砕式粉砕法、アドマイザー、ハンマーミル、ミクロンミル等による衝撃式粉砕法、ジェットミル、ボールミル等による衝突式粉砕法等の乾式粉砕法が挙げられる。
【0153】
また、粉砕されたタルク粉末を水と分散させ、流動可能な粘度のスラリー状とし、ボールミル、ビーズミル、湿式ジェットミル、ディスコプレックス等により粉砕を行う湿式粉砕法を用いてもよい。前記製造方法の中でも、乾式粉砕法が、低コスト、かつ入手しやすい点から好ましい。
【0154】
タルクの表面は、タルクと樹脂(液晶ポリエステル樹脂)との濡れ性を向上させる目的で、カップリング剤などで処理してもよい。また、不純物の除去、タルクを硬質化させる目的で、熱処理加工をしたタルクを用いてもよい。また、取り扱いを容易にする目的で、圧縮したタルクを用いてもよい。
【0155】
(篩残分)
タルクは、45μm篩残分が1.0質量%以下であることが好ましい。1.0質量%以下であると、成形時の薄肉部でのつまりを抑制して、成形性を向上させ、薄肉強度を向上することができる。タルクに含まれる45μm篩残分は、タルク全量に対して0.8質量%以下が好ましく、0.6質量%以下がより好ましい。
本明細書において、タルクの45μm篩残分は、JIS K 5101−14−1「顔料試験方法−第14部:ふるい残分−第1節:湿式法(手動法)」に準拠し、測定される値とする。
【0156】
(強熱減量)
タルクは、強熱減量(Ig.Loss)が、7質量%以下であることが好ましく、6質量%以下がよりに好ましく、5質量%以下が特に好ましい。Ig.Lossが低いほど、液晶ポリエステルの分解が抑制され、ブリスタが発生しにくくなる。なお、本発明においてIg.Lossは、JIS M8853に準拠し測定する値とする。
【0157】
≪マイカ≫
マイカとは、アルミニウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、鉄等を含んだケイ酸塩鉱物の粉砕物である。また、マイカは、3原子のケイ素(Si)と1原子のアルミニウム(Al)の酸化物が形成する4個の四面体構造間に、2個もしくは3個の金属酸化・水酸化物が構成する八面体構造を挟み込んだ構造を形成した鉱物である。
【0158】
本実施形態で使用するマイカは、白雲母、金雲母、フッ素金雲母、四ケイ素雲母及び人工的に製造される合成マイカのいずれもよい。これらを2種類以上含んでもよい。
本実施形態で使用するマイカは、実質的に白雲母のみからなることが好ましい。
【0159】
本実施形態で使用するマイカの製造方法としては、例えば、水流式ジェット粉砕、湿式粉砕、乾式ボールミル粉砕、加圧ローラーミル粉砕、気流式ジェットミル粉砕、アトマイザー等の衝撃粉砕機による乾式粉砕などがあげられる。マイカを薄く細かく粉砕することができるため、湿式粉砕法より製造されたマイカを使用するのが好ましい。
【0160】
湿式粉砕法を行う場合には、粉砕前のマイカを水に分散させる。その際、粉砕前のマイカの分散効率を高めるため、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化コッパラス、ポリ硫酸鉄、ポリ塩化第二鉄、鉄−シリカ無機高分子凝集剤、塩化第二鉄−シリカ無機高分子凝集剤、消石灰(Ca(OH)
2)、苛性ソーダ(NaOH)、ソーダ灰(Na
2CO
3)等の凝集沈降剤・沈降助剤等の添加物を加えることが一般的である。しかし、これらの添加物は、液晶ポリエステルの分解を引き起こす場合がある。そのため、本実施形態で使用するマイカは、湿式粉砕する際に凝集沈降剤・沈降助剤を使用していないものが好ましい。
【0161】
(体積平均粒径)
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる板状充填材の体積平均粒径の下限値は、5μm以上が好ましい。これにより、得られる成形体の反りが小さくなる。
【0162】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる板状充填材の体積平均粒径の下限値は、5.5μm以上がより好ましく、6μm以上がさらに好ましい。
【0163】
また、板状充填材の体積平均粒径の上限値は、50μm以下が好ましい。板状充填材の体積平均粒径が50μm以下であると、板状充填材と液晶ポリエステル樹脂との混和性が良好になり、液晶ポリエステル樹脂組成物の流動阻害が生じにくい。その結果、液晶ポリエステル樹脂組成物の流動性が均一に保ちやすい。したがって、成形体の薄肉部分、または狭ピッチの格子部分に対して液晶ポリエステル樹脂組成物を充填しやすい。
【0164】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる板状充填材の体積平均粒径の上限値は、24μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましく、15μm以下がとりわけ好ましい。
【0165】
本実施形態において、板状充填材の体積平均粒径はレーザー回折法により測定方法することができる。測定装置として、散乱式粒径分布測定装置HORIBA(株)製「LA−950V2」を用い、板状充填材を水に分散させた状態で、以下の測定条件にて、体積平均粒子径を算出することができる。
<条件>
粒子屈折率: 1.57−0.1i(タルク)、1.59−0.1i(マイカ)
分散媒:水
分散媒屈折率:1.33(水の場合)
【0166】
(厚み)
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる板状充填材の厚みの下限値は、0.10μm以上が好ましく、0.20μm以上がより好ましく、0.30μm以上がより好ましい。これにより、得られる成形体の反りを小さくすることができる。
【0167】
また、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる板状充填材の厚みの上限値は、1.0μm以下が好ましく、0.95μm以下がより好ましく、0.90μm以下がより好ましい。これにより、板状充填材を液晶ポリエステル樹脂組成物中に均等に分散させることができる。その結果、液晶ポリエステル樹脂組成物の流動性が均一に保ちやすい。したがって、成形体の薄肉部分、または狭ピッチの格子部分に対して液晶ポリエステル樹脂組成物を充填しやすい。
【0168】
本実施形態の板状充填材の厚みは、電子顕微鏡を用いて倍率1000倍にて測定される。本実施形態の板状充填材の厚みは、薄く1枚に剥がれた板状充填材を無作為に10個以上選択し、それらを測定した値の平均値を採用した。
【0169】
[他の成分]
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物は、本発明の効果を奏する範囲で、繊維状充填材および板状充填材以外の充填材、添加剤、液晶ポリエステル樹脂以外の樹脂等の他の成分を1種以上含んでもよい。
【0170】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物は、繊維状充填材および板状充填材以外の充填材として、粒状充填材を含んでもよい。また、粒状充填材は、無機充填材であってもよいし、有機充填材であってもよい。
【0171】
無機の粒状充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ガラスビーズ、ガラスバルーン、窒化ホウ素、炭化ケイ素及び炭酸カルシウムが挙げられる。
【0172】
添加剤の例としては、通常、樹脂組成物に用いられる添加剤が挙げられ、例えば安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、難燃剤、難燃助剤、帯電防止剤、界面活性剤、着色剤、滑剤などが挙げられる。
【0173】
安定剤としては、例えば、ヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体などが挙げられる。
【0174】
紫外線吸収剤としては、例えば、レゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0175】
着色剤としては、ニトロシンなどの染料、および硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラックなどの顔料を含むものが挙げられる。
【0176】
滑剤としては、例えば、ステアリン酸やモンタン酸や、そのエステル、多価アルコールとのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなどが挙げられる。
【0177】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物は、さらに離型剤を添加することで、成形加工性を向上させることが可能である。離型剤として、例えば、モンタン酸およびその塩、そのエステル、多価アルコールとのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなどが挙げられ、好ましくはペンタエリスリトールの脂肪酸エステルが挙げられる。
離型剤の配合量は、液晶性ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0.1〜0.5質量部であり、より好ましくは0.2〜0.4質量部である。離型剤の配合量が前記の範囲にあると、金型汚染や成形品のふくれなどが起こりにくい傾向があり、また離型効果が得られる。
【0178】
液晶ポリエステル樹脂以外の樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル樹脂以外のポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の液晶ポリエステル樹脂以外の熱可塑性樹脂;及びフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。液晶ポリエステル樹脂以外の樹脂の含有量は、液晶ポリエステル樹脂100質量部に対して、通常0〜20質量部である。
【0179】
<液晶ポリエステル樹脂組成物の製造方法>
液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル樹脂、充填材(繊維状充填材および板状充填材)及び必要に応じて用いられる他の成分を、押出機を用いて溶融混練し、ペレット状に押し出すことにより調製することが好ましい。
【0180】
押出機としては、シリンダーと、シリンダー内に配置された1本以上のスクリューと、シリンダーに設けられた1箇所以上の供給口とを有するものが、好ましく用いられ、さらにシリンダーに設けられた1箇所以上のベント部を有するものが、より好ましく用いられる。
【0181】
上述したように、液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる繊維状充填材の数平均繊維長を450μm以上700μm以下の範囲に制御するためには、溶融混練に用いる押出機の構成や、溶融混練の条件を変更してもよい。以下では、繊維状充填材としてガラス繊維を使用する場合を例に挙げて説明する。
【0182】
液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれるガラス繊維の数平均繊維長を450μm以上700μm以下の範囲に制御する方法としては、例えば、繊維長の異なる2種以上のガラス繊維をあらかじめブレンドして押出機に供給する方法が挙げられる。また、別の方法としては、一方のガラス繊維を押出機の上流側の供給口から液晶ポリエステル樹脂と共に供給し、他方のガラス繊維を下流側の供給口から供給する方法が挙げられる。
【0183】
例えば、液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれるガラス繊維の数平均繊維長を長く制御したい場合、長繊維のガラス繊維を、短繊維のガラス繊維より多くブレンドする方法を採用することができる。また、別の方法としては、押出機内の混練時間が短い下流側の供給口から長繊維のガラス繊維を供給する方法を採用することができる。
【0184】
繊維長の異なる2種以上のガラス繊維としては、例えば、ミルドガラス繊維とチョップドストランドガラス繊維との組合せが考えられる。具体的には、ミルドガラス繊維の繊維長は30〜500μmが好ましい。また、チョップドガラス繊維の繊維長は3〜4mmが好ましい。
【0185】
また、繊維長の異なる2種以上のガラス繊維を使用する方法としては、ミルドガラス繊維を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットと、チョップドガラス繊維のガラス繊維を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットとを、あらかじめブレンドして押出機に供給する方法や、一方のペレットを押出機の上流側の供給口から供給し、もう一方のペレットを下流側の供給口から供給する方法が挙げられる。
【0186】
また、ガラス繊維にかかるせん断力を調整することによってガラス繊維の折損程度を調整する方法が挙げられる。せん断力を調整する方法としては、例えば、スクリューの構成を変更する方法、スクリューの回転数やシリンダー温度を制御する方法が挙げられる。これにより、溶融樹脂の溶融粘度を調整してもよい。
【0187】
こうして得られる液晶ポリエステル樹脂組成物は、ASTM D648に準拠し、1.82MPaの荷重下にて測定される荷重たわみ温度が、260℃以上285℃未満であることが好ましい。
【0188】
液晶ポリエステル樹脂組成物の荷重たわみ温度が285℃未満であると、成形時の加工温度を低くすることができ、成形時における液晶ポリエステル樹脂組成物の熱履歴を抑えることができる。その結果、成形体を成形した際の応力が集中しにくく、成形体の反りを抑えられる。
【0189】
また、液晶ポリエステル樹脂組成物の荷重たわみ温度が260℃以上であると、高温時においても成形体の剛性や強度が十分に高くなる。また、液晶ポリエステル樹脂の重合度を十分に高くすることができ、高硬度な成形体を得ることができる。
【0190】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物は、ASTM D785に準拠し、液晶ポリエステル樹脂組成物を成形した試験片についてRスケールにて測定されるロックウエル硬度が、108以上115以下であることが好ましい。
【0191】
以上のような構成の液晶ポリエステル樹脂組成物によれば、薄肉流動性に優れるとともに、反りが少なく、かつ高硬度の成形体を製造できる液晶ポリエステル樹脂組成物が得られる。
【0192】
<成形体>
本実施形態の成形体は、上述した液晶ポリエステル樹脂組成物を形成材料とする。
【0193】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形法としては、溶融成形法が好ましい。その例としては、射出成形法、Tダイ法やインフレーション法等の押出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法、真空成形法及びプレス成形が挙げられる。なかでも射出成形法が好ましい。
【0194】
液晶ポリエステル樹脂組成物の成形体である製品・部品の例としては、電気・電子部品、光学部品が挙げられる。その具体例としては、IMM、DDR、CPUソケット、S/O、DIMM、Board to Boardコネクター、FPCコネクター、カードコネクター等のコネクター、ソケット、リレーケース、リレーベース、リレースプルー、リレーアーマチャー等のリレー部品、光ピックアップボビン、トランスボビン等のコイルボビン、発振子、プリント配線板、回路基板、半導体パッケージ、コンピュータ関連部品、カメラ鏡筒、光学センサー筐体、コンパクトカメラモジュール筐体(パッケージ、鏡筒)、プロジェクター光学エンジン構成部材、ICトレー、ウエハーキャリヤー等の半導体製造プロセス関連部品;VTR、テレビ、アイロン、エアコン、ステレオ、掃除機、冷蔵庫、炊飯器、照明器具等の家庭電気製品部品;ランプリフレクター、LEDリフレクター、ランプホルダー等の照明器具部品;コンパクトディスク、レーザーディスク(登録商標)、スピーカー等の音響製品部品;光ケーブル用フェルール、電話機部品、ファクシミリ部品、モデム等の通信機器部品等が挙げられる。
【0195】
また、これら以外の例としては、分離爪、ヒータホルダー等の複写機、印刷機関連部品;インペラー、ファン歯車、ギヤ、軸受け、モーター部品、ケース等の機械部品;自動車用機構部品、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、排気ガス、冷却水、油温系各種センサー、エアコン用サーモスタットベース、エアコン用モーターインシュレーター、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ECUコネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケースなどの自動車・車両関連部品;マイクロ波調理用鍋、耐熱食器等の調理用器具;床材、壁材等の断熱もしくは防音用材料、梁もしくは柱等の支持材料、屋根材等の建築資材又は土木建築用材料;航空機、宇宙機、宇宙機器用部品;原子炉等の放射線施設部材;海洋施設部材;洗浄用治具;光学機器部品;バルブ類;パイプ類;ノズル類;フィルター類;膜;医療用機器部品及び医療用材料;センサー類部品;サニタリー備品;スポーツ用品;レジャー用品等が挙げられる。
【0196】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物は、薄肉流動性に優れ、成形体の硬度が高い。このような特性を活かして、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いて得られる成形体はセンサー、ボビン、コネクター、ソケット、リレー、スイッチなどで、特に0.2mm以下の薄肉部を有するような部品に好ましく用いることができ、コネクターであることが好ましい。
【0197】
以上のような構成の成形体によれば、上述した液晶ポリエステル樹脂組成物を用いているので、高硬度の成形体が得られる。
【実施例】
【0198】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。各測定は以下のようにして行った。
【0199】
<液晶ポリエステル樹脂の流動開始温度>
フローテスター((株)島津製作所製「CFT−500EX型」)を用いて、液晶ポリエステル樹脂約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPaの荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステル樹脂を溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を測定した。
【0200】
<液晶ポリエステル樹脂組成物中の繊維状充填材の数平均繊維長>
まず、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物からなるペレット5gをマッフル炉(ヤマト科学(株)製、「FP410」)にて空気雰囲気下において600℃で4時間加熱して樹脂を除去した。得られた繊維状充填材を含む灰化残渣をエチレングリコール溶液に分散させて、超音波を3分間かけた。次に、スライドガラス上に分散液を数滴落とし、スライドガラス上で繊維状充填材が重なり合わないようにほぐした。ほぐした繊維状充填材の上からカバーガラスを載せ、ビデオマイクロスコープキーエンス(株)社製「VHX−1000」により、拡大倍数100倍にて、繊維状充填材の輪郭にピントが合うよう調整した。繊維状充填材の500本の長さを測定し、数平均繊維長を算出した。
【0201】
<[A]液晶ポリエステル樹脂の製造>
[製造例1(液晶ポリエステル樹脂[A−1])]
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応機に、4−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込み、触媒として1−メチルイミダゾール0.2gを添加し、反応器内を十分に窒素ガスで置換した。
【0202】
その後、窒素ガス気流下で攪拌しながら、室温から150℃まで30分かけて昇温し、同温度を保持して30分間還流させた。
【0203】
次いで、1−メチルイミダゾール2.4gを加えた。その後、副生酢酸と未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から320℃まで2時間50分かけて昇温した。さらに、320℃で30分保持した後、内容物を取り出し、これを室温まで冷却した。
【0204】
得られた固形物を、粉砕機で粒径0.1〜1mmに粉砕後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から296℃まで5時間かけて昇温し、296℃で3時間保持するにより、固相重合を行った。固相重合後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステル[A−1]を得た。得られた液晶ポリエステル樹脂[A−1]の流動開始温度は328℃であった。
【0205】
[製造例2(液晶ポリエステル樹脂[A−2])]
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、4−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸239.2g(1.44モル)、イソフタル酸159.5g(0.96モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込み、触媒として1−メチルイミダゾール0.2gを添加し、反応器内を十分に窒素ガスで置換した。
【0206】
その後、窒素ガス気流下で攪拌しながら、室温から150℃まで30分かけて昇温し、同温度を保持して1時間還流させた。
【0207】
次いで、1−メチルイミダゾール0.9gを加え、副生酢酸と未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から320℃まで2時間50分かけて昇温し、320℃で30分保持した後、内容物を取り出し、これを室温まで冷却した。
【0208】
得られた固形物を、粉砕機で粒径0.1〜1mmに粉砕後、窒素雰囲気下、室温から220℃まで1時間かけて昇温し、220℃から241℃まで0.5時間かけて昇温し、241℃で10時間保持することにより、固相重合を行った。固相重合後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステル[A−2]を得た。得られた液晶ポリエステル樹脂[A−2]の流動開始温度は292℃であった。
【0209】
また、以下の実施例と比較例においては、充填材として下記の市販品を用いた。
【0210】
<[B]繊維状充填材>
[B−1]チョップドガラス繊維(CS3J260S、日東紡績(株)製、数平均繊維径10.5μm、数平均繊維長3mm)
[B−2]ミルドガラス繊維(EFH75−01、セントラル硝子(株)社製、数平均繊維径10μm、数平均繊維長75μm)
[B−3]ミルドガラス繊維(SS10−404、日東紡績(株)製、数平均繊維径10μm、数平均繊維長300μm)
【0211】
<[C]板状充填材>
[C−1]タルク(GH7、林化成(株)製、体積平均粒径7μm、45μm篩残分0質量%(全通)、Ig.Loss4.7質量%、厚み0.65μm)
[C−2]タルク(RoseK、日本タルク(株)製、体積平均粒径15μm、45μm篩残分0.02質量%、Ig.Loss5.0質量%、厚み0.90μm)
[C−3]マイカ(Y−1800、(株)ヤマグチマイカ製、体積平均粒径11μm、厚み0.40μm)
[C−4]マイカ(AB−25S、(株)ヤマグチマイカ製、体積平均粒径24μm、厚み0.45μm)
【0212】
また、以下の実施例においては、以下の原料を用いた。
離型剤:ロキシオールVPG861(エメリーオレオケミカルズジャパン(株)製、5%重量減少温度310℃)
【0213】
上述の離型剤は、ペンタエリスリトールとステアリン酸とのフルエステル(テトラステアレート)及び部分エステルの混合物である。
【0214】
<液晶ポリエステル樹脂組成物の製造>
[実施例1〜7、比較例1〜9]
[A]液晶ポリエステル樹脂、[B]繊維状充填材、[C]板状充填材および離型剤を、表1および表3に示す割合で二軸押出機(池貝鉄工(株)製、「PCM−30」)を用いて、シリンダー温度340℃で溶融混練し、ペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物を得た。なお、表1および表3に示す割合はすべて質量部である。
【0215】
実施例1〜7、比較例1〜9のペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物を130℃で4時間、熱風乾燥した後、以下の方法により評価した。結果を表2および表4に示す。
【0216】
《評価1》
<液晶ポリエステル樹脂組成物の薄肉流動長>
図1に示す厚み0.2mmの薄肉流動長測定用の金型を用い、液晶ポリエステル樹脂組成物を、射出成形機(ファナック(株)製Roboshot S2000i−30B)にて下記の条件下で成形した。取り出した成形体について樹脂の流れ方向の長さを測定した。この試験を5個の成形体について行い、その平均値を薄肉流動長とした。
【0217】
[条件]
シリンダー温度:(ノズル側)350℃;350℃;330℃;310℃;280℃;80℃(ホッパー側)
金型温度:120℃
計量値:20mm
射出速度:200mm/秒
VP切替:100MPa、150MPaにて圧力切替
保圧:20MPa
【0218】
<荷重たわみ温度>
液晶ポリエステル樹脂組成物を、射出成形機(日精樹脂工業(株)製、PNX40−5A)を用いて、成形温度350℃、金型温度130℃、射出速度50%にて、127mm×12.7mm×6.4mmtの試験片に成形した。この試験片について、ASTM D648に準拠し、1.82MPaの荷重下、昇温速度4℃/分にて2回測定し、その平均値を採用した。
【0219】
<ロックウエル硬度>
ASTM D785に準拠し、液晶ポリエステル樹脂組成物を成形した試験片についてロックウエル硬度を測定した。まず、液晶ポリエステル樹脂組成物を、射出成形機(日精樹脂工業(株)製、PNX40−5A)を用いて、成形温度350℃、金型温度130℃、射出速度50%にて、12.7mm×6.4mm×6.4mmtの試験片を成形した。この試験片について、ロックウエル硬度計(東洋精機(株)製、FR−1E)を用い、Rスケール(径12.7mmの鋼球)にて3回測定し、その平均値を採用した。
【0220】
<薄肉ウエルド強度>
図2は、実施例で使用したウエルド強度測定用の金型のキャビティーを示す平面図である。
図2に示すキャビティーは、ウエルド部周辺の厚みが0.3mmである。また、金型の端辺には5mm×0.3mmのフィルムゲートが設けられている。この金型を用い、液晶ポリエステル樹脂組成物を、射出成形機(ファナック(株)製、Roboshot S2000i−30B)にて下記の条件下で成形した。得られた厚さ0.3mmの成形体を、辺101の延長線上にあるA−A線およびB−B線で示すラインで切断して、5mm×35mmの試験片100を作製した。この試験片100のウエルド部について、精密荷重測定器(アイコーエンジニアリング(株)製、MODEL−1605IIVL)を用い、試験速度10mm/分、支点間距離5mm、圧子の幅1mmにて、3点曲げ試験を5回行い、その曲げ応力の平均値を薄肉ウエルド強度とした。
【0221】
[条件]
シリンダー温度:(ノズル側)350℃;350℃;330℃;310℃;280℃;80℃(ホッパー側)
金型温度:120℃
計量値:20mm
射出速度:200mm/秒
VP切替:100MPa、150MPaにて圧力切替
保圧:20MPa
【0222】
<コネクターの製造>
図3は、実施例で作製したコネクター200の模式図である。
図3(a)は上面図、
図3(b)は
図3(a)のC−C線に沿う断面図、
図3(c)は正面図である。
【0223】
得られたペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物を用い、射出成形機(ファナック(株)製、Roboshot S2000i−30B)にて下記の条件下で成形し、
図3に示すコネクター200を製造した。
【0224】
[コネクター200の成形条件]
シリンダー温度:(ノズル側)350℃;360℃;340℃;320℃;80℃(ホッパー側)
金型温度:90℃
計量値:9.5mm
スクリュー回転数:200rpm
背圧:2MPa
射出速度:300mm/秒
冷却時間:1.8秒
サックバック距離:2mm
保持圧力:20MPa
保持時間:0.15秒
【0225】
《評価2》
<コネクター200の成形時における充填圧力>
図3に示すコネクター200を上記成形条件にて射出成形し、コネクター200が完全に充填した際の射出ピーク圧力を5回測定し、その平均値をコネクター200充填圧力とした。
【0226】
<コネクターの破壊試験>
図4は、実施例におけるコネクター200の破壊試験を示す図である。精密荷重測定器(アイコーエンジニアリング(株)製、MODEL−1605IIVL)を用い、
図4に示す方法でコネクター200の破壊試験を行った。この試験には、先端の曲率半径が0.65mmである圧子Pを用いた。この圧子Pの中心と、コネクター200の幅方向の中心線と長さ方向の中心線との交点とが、平面視で一致するように配置した。そして、試験速度2mm/分の条件下で、
図4に示すようにコネクター200を破壊した。このときの最大荷重を5回測定し、その平均値を求めた。
【0227】
<コネクター200の反り量>
図5は、実施例におけるコネクター200の反り量の測定箇所を示す図である。得られたコネクター200の反り量を平坦度測定モジュール((株)コアーズ製、Core9030C)にて測定した。室温下でコネクター200をガラス基板上に置き、コネクター200の底面(基板面)に対し、コネクター200の一端側の点X1から他端側の点X2まで点線Xに沿って0.1mm毎に100点測定した。同様に、コネクター200の底面(基板面)に対し、コネクター200の一端側の点Y1から他端側の点Y2まで点線Yに沿って0.1mm毎に100点測定した。このようにして、コネクター200の全200点でのガラス基板からの高さを求めた。この測定を5個のコネクターについて実施した。
【0228】
次に、最小二乗法によりコネクター200の最小二乗平面を算出した。
【0229】
次に、全200点の高さのうち最も低い点を含むように前記最小二乗平面の高さ位置を平行移動させた。平行移動させた後の最小二乗平面から、前記200点の高さのうち最も高い点までの距離を反り量として算出した。なお、反り量の算出にあたり、移動平均は、平均数1とループ数1とし、端点補正はせず、大幅にずれた測定点のみ除去した。
【0230】
<コネクター200のブリスタ試験>
コネクター200を260℃に設定したホットプレートに3分間置き、大きさが0.1mm以上のブリスタを目視で確認した。この試験を、20個のコネクター200に対して行い、ブリスタが発生したコネクター200の数を計測した。この試験において、ブリスタの発生数が少ないほど耐ブリスタ性が良好であるといえる。
【0231】
実施例1〜7および比較例1〜9の液晶ポリエステル組成物について、以下の基準で総合的に判定した。下記(i)〜(iii)をすべて満たすものを「○」とし、(i)〜(iii)のいずれかを満たさないものを「×」とした。
(i)充填可能であること
(ii)ロックウエル硬度が108以上
(iii)コネクター200の反り量が0.1mm以下
【0232】
【表1】
【0233】
【表2】
【0234】
【表3】
【0235】
【表4】
【0236】
表2に示すように、本発明を適用した実施例1〜7の液晶ポリエステル樹脂組成物は、薄肉流動性に優れ、かつ成形体の硬度が高く、反りが小さかった。
【0237】
実施例1〜7の液晶ポリエステル樹脂組成物では、[B]繊維状充填材および[C]板状充填材の合計量が55質量部以下と十分低かった。そのため、実施例1〜7の液晶ポリエステル樹脂組成物では、薄肉流動性に優れていた。
【0238】
また、実施例1〜7の液晶ポリエステル樹脂組成物では、[B]繊維状充填材の数平均繊維長が450μm以上と十分長い。そのため、
図3に示すコネクター200において、[B]繊維状充填材がコネクター200のコア層からスキン層まで存在していると推測される。その結果、実施例1〜7の液晶ポリエステル樹脂組成物では、[B]繊維状充填材による硬度の向上の効果が十分得られたと考えられる。
【0239】
また、[B]繊維状充填材の補強効果により、成形体の反りが小さくなったと考えられる。
【0240】
一方、表4に示すように、比較例2の液晶ポリエステル樹脂組成物では、充填不可となり、
図3に示すコネクター200を得ることができなかった。また、比較例1、比較例4、比較例6〜9の液晶ポリエステル樹脂組成物は、薄肉流動性に優れているものの、成形体の硬度が低く、反りも大きかった。さらに、比較例2、比較例3および比較例5の液晶ポリエステル樹脂組成物は、薄肉流動性に優れ、成形体の硬度も高いものの、成形体の反りが大きかった。
【0241】
以上の結果により、本発明が有用であることが確かめられた。