(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ビニルエステル系単量体(a)を、重合開始剤(B)及び炭素数6〜12の脂肪族炭化水素基を有する連鎖移動剤(C)の存在下に重合させてビニルエステル系重合体(A)を得る工程;及び酸性触媒(D)の存在下で、該ビニルエステル系重合体(A)を濃度50質量%以上75質量%以下の条件でけん化し、ビニルアルコール系重合体を得る工程;を有し、
前記連鎖移動剤(C)が炭素数6〜12のアルキルチオールであり、
前記ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度が160以上400以下であり、重合開始から180分以内に前記ビニルエステル系単量体(a)の重合率が79.0%以上に達する、ビニルアルコール系重合体の製造方法。
前記連鎖移動剤(C)の使用量が、ビニルエステル系単量体(a)に対して0.015モル%以上0.10モル%以下である、請求項1に記載のビニルアルコール系重合体の製造方法。
前記重合開始剤(B)が、10時間半減期温度が66℃以下の、アゾ系重合開始剤又は過酸化物系重合開始剤である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のビニルアルコール系重合体の製造方法。
前記重合開始剤(B)がビニルエステル系単量体(a)100質量部に対して0.3〜5.0質量部である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のビニルアルコール系重合体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来より、ビニル化合物(例えば、塩化ビニル)からビニル系樹脂を得るために、ビニル化合物を懸濁重合することが行われている。ビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤として、部分けん化ビニルアルコール系重合体(以下、ビニルアルコール系重合体を「PVA」と略記することがある)を用いることが知られている。
【0003】
PVAは、工業的には、ビニルエステル系単量体をアルコール溶液中で大気圧下で重合し、得られたビニルエステル系重合体をけん化して製造されている。PVAは繊維加工、紙加工、フィルム、接着剤、各種無機材料のバインダー、乳化安定剤等の多くの用途に使用されており、用途によって幅広い重合度のPVAが要求される。ビニルエステル系単量体を重合する際、けん化工程、溶剤回収工程を考慮した場合、重合溶媒としてメタノールを用いるのが工業的にもっとも有利とされている。
【0004】
ビニルエステル系単量体をメタノール溶液中で重合させる場合において、低重合度PVAを製造する場合には、一般的に重合系のビニルエステル系単量体の濃度を低くし、ビニルエステル系重合体濃度を高くする、つまり重合収率を高くする手法が用いられる。しかしながら、ビニルエステル系単量体の濃度を低くし、かつ重合収率を高くするには反応時間を長くする必要があり、生産性が著しく低下するため、工業的に大きな問題となる。
【0005】
これを解決するために、重合系にメルカプタン類を添加して、重合度を著しく低下させる方法が報告されている(特許文献1)。
【0006】
しかしながら、この方法においては新たな溶剤回収設備が必要となったり、PVAの物性への影響や未反応の助剤等の除去・回収という新たな工程が必要となる。また、重合時間が5時間の場合の重合収率は60%未満であり、改善の余地があった。
【0007】
このため、工業的製造の観点から、工業的に有利な条件で低重合度のビニルアルコール系重合体を得る方法が提案された(特許文献2、3)。
【0008】
特許文献2の製造方法では、回収溶剤への混入回避及び得られるPVAの悪臭回避のために、メルカプタン類を使用せず、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸又はそれらの塩類を使用する。特許文献3の製造方法は、加圧し、加熱して重合を行うことを特徴とする。
【0009】
しかしながら、これらの方法には、低重合度ビニルアルコール系重合体の工業的製法として実用化する観点から、さらに改善の余地があった。
【0010】
また、他の低重合度ビニルアルコール系重合体の製造方法に関する方法として、特許文献4には、重合開始剤、及び炭素数6〜12の脂肪族炭化水素基を有する連鎖移動剤の存在下に、ビニルエステル系単量体を重合させてビニルエステル系重合体を得て、次いで該ビニルエステル系重合体を酸性触媒の存在下でけん化するビニルアルコール系重合体の製造方法が開示されている。
【0011】
しかしながら、特許文献4の製造方法は、けん化時のビニルエステル系重合体の濃度が低いために、けん化反応に長時間を要するという問題があった。また、水性液の安定性を1日間という短期間で評価しており、工業的な実用性の観点からは、なお改善の余地があった。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、ビニルエステル系単量体(a)を、重合開始剤(B)及び炭素数6〜12の脂肪族炭化水素基を有する連鎖移動剤(C)の存在下に重合させてビニルエステル系重合体(A)を得る工程;及び酸性触媒(D)の存在下で、該ビニルエステル系重合体(A)を濃度40質量%以上75質量%以下の条件でけん化し、ビニルアルコール系重合体を得る工程;を有し、前記ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度が160以上400以下であるビニルアルコール系重合体の製造方法に関する。なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
【0018】
本発明では、まず、ビニルエステル系単量体(a)を、重合開始剤(B)及び炭素数6〜12の脂肪族炭化水素基を有する連鎖移動剤(C)の存在下に重合させる工程(以下「重合工程」ともいう)によって、ビニルエステル系重合体(A)を得る。
【0019】
ビニルエステル系単量体(a)としては、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、桂皮酸ビニル、クロトン酸ビニル、デカン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、オクタン酸ビニル、イソノナン酸ビニル、トリメチル酢酸ビニル、4−tert−ブチルベンゼン酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられ、工業的観点から、酢酸ビニルが特に好ましい。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
重合に使用される重合開始剤(B)は特に限定されず、公知の重合開始剤、例えば、アゾ系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤、レドックス系重合開始剤から重合方法に応じて選択される。アゾ系重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(AMV)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。過酸化物系重合開始剤は、例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート系化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等が挙げられる。過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を上記重合開始剤に組み合わせて重合開始剤としてもよい。これらの重合開始剤(B)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。重合開始剤(B)としては、重合速度を速め、短時間で高い重合率を達成できる点から、10時間半減期温度が66℃以下の、アゾ系重合開始剤又は過酸化物系重合開始剤であることが好ましい。10時間半減期温度が66℃以下の、アゾ系重合開始剤又は過酸化物系重合開始剤としては、AIBN、AMV、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0021】
重合開始剤(B)の使用量は特に限定されないが、ビニルエステル系単量体(a)100質量部に対して通常0.1〜20質量部が好ましく、0.2〜10質量部がより好ましく、0.3〜5.0質量部がさらに好ましい。また、重合開始剤(B)は、重合開始時に一括添加してもよく、重合開始時に添加し、さらに重合途中に追加してもよい。
【0022】
炭素数6以上12以下の脂肪族炭化水素基を有する連鎖移動剤(C)としては、例えば、炭素数6以上12以下の脂肪族炭化水素基を有する、アルコール、アルデヒド、又はチオール等が挙げられる。このような連鎖移動剤(C)を用いることで、本発明の製造方法で得られるビニルアルコール系重合体は、末端に炭素数6以上12以下の脂肪族炭化水素基を有する。炭素数6以上12以下の脂肪族炭化水素基の構造に特に制限はなく、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。脂肪族炭化水素基としては、飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基)、二重結合を有する脂肪族炭化水素基(アルケニル基)、三重結合を有する脂肪族炭化水素基(アルキニル基)等が挙げられ、アルキル基が好ましく、直鎖アルキル基及び分岐アルキル基がより好ましい。連鎖移動剤(C)の炭素数が6未満であると、連鎖移動剤の沸点が低くなりすぎ、ビニルアルコール系重合体を製造する際の回収工程で他物質(酢酸ビニル等のビニルエステル系単量体及びメタノール等の溶媒)との分離が困難になる。また、連鎖移動剤(C)の炭素数が6未満であると、得られるビニルアルコール系重合体を懸濁重合用分散剤として、ビニル化合物からビニル系樹脂粒子を製造した際に、該ビニル系樹脂粒子からビニル化合物等のモノマー成分を除去することが困難になるとともに、ビニル系樹脂粒子の可塑剤吸収性が低下する。また、連鎖移動剤(C)の炭素数が12を超えると、ビニルエステル系単量体(a)の重合過程で好適に用いられるメタノール等の溶媒への溶解性が低下する。そのため、重合時に連鎖移動剤をメタノール等の溶媒に溶解し、逐次添加する操作において、溶解性が低いことに起因する連鎖移動剤の析出等が発生し添加が困難になる。また、連鎖移動剤が溶解しないまま添加することによる重合反応ムラも生じる。このように連鎖移動剤(C)の炭素数が12を超えると、製造過程での操作の煩雑さ及び得られるビニルアルコール系重合体製品の品質管理面で問題が生じ、さらに、製造したビニルアルコール系重合体をビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤に使用したとしても、得られるビニル系樹脂粒子からモノマー成分を除去することが困難である。
【0023】
連鎖移動剤(C)としては、炭素数6以上12以下のアルキルチオールが好ましく、炭素数6以上10以下のアルキルチオールがより好ましく、炭素数6以上8以下のアルキルチオールがさらに好ましい。炭素数6以上12以下のアルキルチオールとしては、例えば、1−ヘキサンチオール(n−ヘキシルメルカプタン)、シクロヘキサンチオール(シクロヘキシルメルカプタン)、1−アダマンタンチオール(1−メルカプトアダマンタン)、1−ヘプタンチオール(n−ヘプチルメルカプタン)、1−オクタンチオール(n−オクチルメルカプタン)、1−ノナンチオール(n−ノニルメルカプタン)、1−デカンチオール(n−デシルメルカプタン)、1−ウンデカンチオール(n−ウンデシルメルカプタン)、1−ドデカンチオール(n−ドデシルメルカプタン)、tert−ドデカンチオール(tert−ドデシルメルカプタン)等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
連鎖移動剤(C)の使用量は、用いる連鎖移動剤の連鎖移動定数及び目的とするビニルエステル系重合体(A)の重合度に応じて決定すればよいが、得られるビニルアルコール系重合体の重合度及び当該ビニルアルコール系重合体水溶液の粘度安定性の点から、ビニルエステル系単量体(a)に対して0.015モル%以上0.10モル%以下が好ましい。
【0025】
また、得られるビニルエステル系重合体(A)の重合度を調節すること等を目的として、重合に際して、本発明の趣旨を損なわない範囲で、連鎖移動剤(C)に加えて、連鎖移動剤(C)以外の他の連鎖移動剤(C’)をさらに存在させてもよい。他の連鎖移動剤(C’)としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類;ホスフィン酸ナトリウム1水和物等のホスフィン酸塩類が挙げられる。中でもアルデヒド類及びケトン類が好適に用いられる。連鎖移動剤(C’)の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で、添加する連鎖移動剤(C)の連鎖移動定数及び目的とするビニルエステル系重合体(A)の重合度に応じて決定すればよい。
【0026】
上述の重合を行う際の重合方式は、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等公知の方法の中から、任意の方法を採用できる。中でも、無溶媒下で重合を行う塊状重合法;溶媒の存在下で重合を行う溶液重合法が好適である。重合(例えば、溶液重合法)に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール等のアルコール系溶媒が挙げられるが、これらに限定されない。溶媒は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。溶媒(例えば、アルコール系溶媒)の使用量は特に限定されないが、重合の効率を上げる点から、ビニルエステル系単量体(a)100質量部に対して、通常、10〜150質量部が好ましく、20〜120質量部がより好ましく、30〜90質量部がさらに好ましく、30〜80質量部が特に好ましい。
【0027】
ビニルエステル系単量体(a)を、重合開始剤(B)及び連鎖移動剤(C)の存在下に重合させる際の重合温度は特に限定されないが、通常、0℃以上200℃以下が好ましく、30℃以上140℃以下がより好ましく、30℃以上100℃以下がさらに好ましく、30℃以上90℃以下が特に好ましい。重合温度が0℃より低いと、十分な重合速度が得られない傾向がある。また、重合温度が200℃より高いと、目的とする重合体が得られにくい傾向がある。重合温度を0℃以上200℃以下に制御する方法としては、例えば、重合速度を制御することで、重合により生成する発熱と反応器の表面からの放熱とのバランスをとる方法;適当な熱媒を用いた外部ジャケットにより制御する方法等が挙げられるが、安全性の面からは後者の方法が好ましい。重合時の圧力は特に限定されず、必要に応じて加圧してもよく、大気圧でもよい。
【0028】
本発明の製造方法において、重合工程におけるビニルエステル系単量体(a)の重合率は、後述するけん化条件と組み合わせた際にビニルアルコール系重合体製造の工業的な実用性に優れる点から、180分以内に79.0%以上に達することが好ましく、150分以内に79.0%以上に達することがより好ましい。また、ビニルエステル系単量体(a)の重合率は、180分以内に80.0%以上に達することが好ましく、150分以内に80.0%以上に達することがより好ましい。このような重合率を達成するために、重合開始剤(B)及び連鎖移動剤(C)の使用量を適宜調整できる。
【0029】
次に、酸性触媒(D)の存在下で、前記重合工程で得られたビニルエステル系重合体(A)を濃度40質量%以上75質量%以下の条件でけん化する工程(以下「けん化工程」という)により、ビニルアルコール系重合体を得る。
【0030】
酸性触媒(D)としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸;p−トルエンスルホン酸ピリジニウム、塩化アンモニウム等の塩;塩化亜鉛、塩化アルミニウム、三塩化鉄、二塩化錫、四塩化錫、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体等のルイス酸等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。酸性触媒(D)の使用量は、ビニルエステル系重合体(A)中のビニルエステル系単量体(a)単位に対して、0.001〜0.1モル当量が好ましく、0.005〜0.08モル当量がより好ましく、0.01〜0.05モル当量がさらに好ましい。けん化工程で用いる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等の有機溶媒;水が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、有機溶媒と水との混合物を溶媒としてもよい。中でもアルコール又はアルコールと水の混合物が好ましく、メタノール又はメタノールと水の混合物がより好ましい。メタノールと水の混合物を溶媒としてけん化を行う場合、けん化溶液の含水率は、5.0%以下が好ましく、3.0%以下がより好ましく、1.0%以下がさらに好ましく、0.8%以下が特に好ましい。
【0031】
ビニルエステル系重合体(A)、酸性触媒(D)及び溶媒を含むけん化溶液におけるビニルエステル系重合体(A)の濃度は40質量%以上75質量%以下であり、45質量%以上70質量%以下が好ましく、45質量%以上65質量%以下がより好ましく、45質量%以上60質量%以下がさらに好ましく、45質量%以上58質量%以下が特に好ましい。濃度が40質量%未満であると、けん化工程に時間を要し、工業的な実用性の観点からは不利となる。濃度が75質量%を超えると、攪拌操作が難しくなり、けん化の進行を妨げる傾向がある。
【0032】
けん化工程の温度は特に限定されないが、通常、10℃〜100℃が好ましく、20℃〜80℃がより好ましい。けん化反応時間は特に限定されないが、通常、30分〜2.5時間程度である。
【0033】
本発明の製造方法において、けん化度55モル%に達するまでの時間は、工業的な実用性の観点から150分以下が好ましく、135分以下がより好ましく、130分以下がさらに好ましく、125分以下が特に好ましい。
【0034】
本発明の製造方法により得られるビニルアルコール系重合体(以下、「PVA(X)」という)のけん化度は特に限定されないが、分散安定剤の性能の面から、35モル%以上65モル%以下が好ましい。PVA(X)のけん化度は、40モル%以上がより好ましく、44モル%以上がさらに好ましく、47モル%以上が特に好ましい。また、PVA(X)のけん化度は、63モル%以下がより好ましく、61モル%以下がさらに好ましく、60モル%未満が特に好ましく、58モル%以下が最も好ましい。
【0035】
本発明の製造方法により得られるPVA(X)のけん化度は、
1H−NMR測定によってビニルアルコール単位の水酸基とビニルエステル系単量体単位の残存エステル基の比率から求める方法や、JIS K 6726(1994年)に記載の方法により求めることができる。
【0036】
本発明の製造方法により得られるPVA(X)の粘度平均重合度は、160以上400以下であり、160以上320以下が好ましく、160以上300以下がより好ましく、160以上290以下がさらに好ましく、160以上250以下が特に好ましい。粘度平均重合度(以下、「重合度」と略記することがある)は、JIS K 6726(1994年)に準じて測定される。すなわち、ビニルアルコール系重合体をけん化度99.5モル%以上に再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](リットル/g)から次式により求めることができる。
P=([η]×10000/8.29)
(1/0.62)
【0037】
本発明の製造方法により得られるPVA(X)の好適な形態としては、粘度平均重合度が160以上400以下であり、かつPVA(X)水溶液の40質量%での粘度が900mPa・s以上5000mPa・s以下であるものが挙げられる。また、他の好適な形態として、粘度平均重合度が160以上320以下であり、かつPVA(X)水溶液の40質量%での粘度が900mPa・s以上4000mPa・s以下であるPVA(X)が挙げられる。さらに好適な形態として、粘度平均重合度が160以上300以下であり、かつPVA(X)水溶液の40質量%での粘度が1000mPa・s以上3000mPa・s以下であるPVA(X)が挙げられる。特に好適な形態として、粘度平均重合度が160以上290以下であり、かつPVA(X)水溶液の40質量%での粘度が1000mPa・s以上2000mPa・s以下であるPVA(X)が挙げられる。また、上記したいずれの実施態様においても、各PVA(X)の特性(けん化度等)の値を適宜変更して組み合わせることもできる。
【0038】
本発明の製造方法によって得られるPVA(X)は、例えばビニル化合物(例えば塩化ビニル)の懸濁重合用分散安定剤として好適に使用できる。前記PVA(X)を含む懸濁重合用分散安定剤はハンドリング性に優れ、(1)可塑剤の吸収性が高く加工が容易なビニル系樹脂が得られ、(2)得られるビニル系樹脂から残存するモノマー成分を除去することが容易であり、かつ(3)得られるビニル系樹脂に粗大粒子の形成が少ない、という効果が得られる。
【0039】
このような懸濁重合用分散安定剤は、水を含む水性液の形態が好ましい。水性液におけるPVA(X)の濃度は、20質量%以上50質量%以下であることが重要である。PVA(X)の濃度が20質量%未満では経済性が低下したり、水性液の安定性が低下し、沈殿等を生じやすくなる。PVA(X)の濃度は26質量%以上が好ましく、31質量%以上がより好ましい。濃度が50質量%を超えると粘度が増大し、ハンドリング性が低下する。なお、本発明において水性液とは、水溶液又は水分散液のことをいい、水分散液とは、水以外の成分が沈殿又は相分離することなく水に均一に分散している混合物を指す。
【0040】
PVA(X)の濃度が20質量%以上50質量%以下である水性液の調製方法に特に制限はなく、ビニルエステル系重合体(A)をけん化後、得られたPVA(X)を一度乾燥させてから水を加えて溶解又は分散させる方法;又はけん化後、スチームを吹き込む、水を加えてから加熱する等の方法でけん化溶媒と水を置換する方法などの方法を適用できる。PVA(X)の水性液を調製する際に、本発明の趣旨を損なわない範囲でノニオン性、カチオン性又はアニオン性界面活性剤等を少量添加しても構わない。
【0041】
懸濁重合用分散剤の水性液の25℃、40質量%(ビニルアルコール系重合体の固形分濃度)での粘度は、取扱い性の観点から5000mPa・s以下が好ましく、4000mPa・s以下がより好ましく、3000mPa・s以下がさらに好ましく、2000mPa・s以下が特に好ましい。また、前記懸濁重合用分散剤の水性液の25℃、40質量%での粘度は900mPa・s以上が好ましく、1000mPa・s以上がより好ましく、2000mPa・s以上がさらに好ましい。前記粘度は、例えば900mPa・s以上5000mPa・s以下であってよく、900mPa・s以上4000mPa・s以下であってよく、1000mPa・s以上3000mPa・s以下であってよく、1000mPa・s以上2000mPa・s以下であってよい。なお、前記水性液の粘度は、B型回転粘度計を用いて測定できる。
【0042】
[PVA(Y)]
PVA(X)を含む懸濁重合用分散安定剤は、PVA(X)に加えけん化度が65モル%を超え、かつ粘度平均重合度が480を超えるビニルアルコール系重合体(以下「PVA(Y)」という)をさらに含有することが好ましい。PVA(X)よりもけん化度及び粘度平均重合度が高いPVA(Y)をさらに含有すると重合安定性が一層向上し、粗粒化を効果的に防止できる。
【0043】
PVA(Y)のけん化度は65モル%を超え、65モル%を超え95モル%以下が好ましく、68モル%以上90モル%以下がより好ましい。PVA(Y)のけん化度が65モル%以下の場合には、PVA(Y)の水溶性が低下してハンドリング性が悪化する傾向となる。また、重合が不安定となり得られるビニル系樹脂粒子が粗粒となる傾向となる。なお、PVA(Y)のけん化度は、JIS K 6726(1994年)に準じて測定できる。
【0044】
また、PVA(Y)の粘度平均重合度は480を超え、500以上8000以下が好ましく、600以上3500以下がより好ましい。PVA(Y)の粘度平均重合度が480以下の場合には、ビニル化合物を懸濁重合する際の重合安定性が低下する傾向となる。なお、PVA(Y)の粘度平均重合度は、上述のPVA(X)と同様の方法により算出できる。
【0045】
PVA(Y)は1種を単独で使用してもよいし、2種以上のものを併用してもよい。
【0046】
使用するPVA(X)とPVA(Y)との質量比は固形分比で〔PVA(X)〕/〔PVA(Y)〕=10/90〜55/45が好ましく、15/85〜50/50がより好ましい。当該固形分比が10/90より少なくなると、ビニル化合物の懸濁重合により得られるビニル系樹脂粒子からモノマー成分を除去するのが困難になったり、また得られるビニル系樹脂粒子の可塑剤吸収性が低下するなど分散安定剤の性能が低下する場合がある。一方、当該固形分比が55/45よりも多くなると、ビニル化合物の懸濁重合の重合安定性が低下し、懸濁重合によって得られるビニル系樹脂粒子が粗粒となる、均一な粒子径の粒子が得られない等の問題が生じる場合がある。
【0047】
懸濁重合用分散安定剤がPVA(Y)を含む場合、懸濁重合用分散安定剤は、PVA(X)の水性液に固形又は水性液のPVA(Y)が添加された製品形態であってもよいし、PVA(X)の水性液と、固形のPVA(Y)又はPVA(Y)の水性液とが分包された製品形態であってもよい。
【0048】
[その他の成分]
前記懸濁重合用分散安定剤は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、PVA(X)及びPVA(Y)以外の他のPVAを含有していてもよい。例えば、けん化度が35モル%以上65モル%以下、かつ粘度平均重合度が160以上400以下であり、末端に炭素数6以上12以下の脂肪族炭化水素基を有しないPVAを含んでいてもよい。該他のPVAは、PVA(X)の合成時に、連鎖移動剤が有する脂肪族炭化水素基がPVAの末端に導入されなかったときに生成し得るものである。
【0049】
前記懸濁重合用分散安定剤は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、その他の各種添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、アルデヒド類、ハロゲン化炭化水素類、メルカプタン類等の重合調節剤;フェノール化合物、イオウ化合物、N−オキサイド化合物等の重合禁止剤;pH調整剤;架橋剤;防腐剤;防黴剤;ブロッキング防止剤;消泡剤;相溶化剤等が挙げられる。
【0050】
[用途(ビニル系樹脂の製造方法)]
前記懸濁重合用分散安定剤は、ビニル化合物の懸濁重合に用いられる。本発明の他の実施形態として、前記懸濁重合用分散安定剤の存在下でビニル化合物の懸濁重合を行う工程を含む、ビニル系樹脂の製造方法が挙げられる。具体的には、ビニルエステル系単量体(a)を、重合開始剤(B)及び炭素数6〜12の脂肪族炭化水素基を有する連鎖移動剤(C)の存在下に重合させてビニルエステル系重合体(A)を得る工程;酸性触媒(D)の存在下で、該ビニルエステル系重合体(A)を濃度40質量%以上75質量%以下の条件でけん化しPVA(X)を得る工程;PVA(X)を20質量%以上50質量%以下の水性液とし、懸濁重合用分散安定剤を得る工程;及び前記懸濁重合用分散安定剤の存在下で、ビニル化合物の懸濁重合を行いビニル系樹脂を得る工程;を有し、前記PVA(X)の粘度平均重合度が160以上400以下である、ビニル系樹脂の製造方法である。
【0051】
前記懸濁重合を行えるビニル化合物としては、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリル酸、これらのエステル及び塩;マレイン酸、フマル酸、これらのエステル及び無水物;スチレン、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、ビニルエーテル等が挙げられる。中でも塩化ビニルが好ましい。また、塩化ビニル及びそれと共重合可能な単量体との組み合わせも好ましい。塩化ビニルと共重合可能な単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン;無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸類;アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニリデン、ビニルエーテル等が挙げられる。本明細書において「(メタ)アクリル」との表記は、メタクリルとアクリルの両者を包含する意味で用いる。
【0052】
ビニル化合物の懸濁重合に際し、重合温度は特に制限されず、20℃程度〜90℃を超える温度に調整できる。また、重合反応系の除熱効率を高めるために、リフラックスコンデンサー付の重合器を用いることは好ましい実施態様の一つである。
【0053】
ビニル系樹脂を前記懸濁重合用分散安定剤を用いて製造する場合、重合温度によらず、得られたビニル系樹脂からモノマー成分を除去することに関し顕著な効果を発揮する。なお、ビニル系樹脂に残留するモノマー成分が比較的除去しやすい重合温度60℃未満で懸濁重合する際に前記懸濁重合用分散安定剤を用いる場合はもちろんのこと、残留するモノマー成分が除去しづらい重合温度60℃以上で懸濁重合する際に前記懸濁重合用分散安定剤を用いると特に効果を発揮する。
【0054】
ビニル化合物の懸濁重合において、前記懸濁重合用分散安定剤の他に、ビニル化合物を水性媒体中で懸濁重合する際に通常使用される、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の水溶性セルロースエーテル;ゼラチン等の水溶性ポリマー;ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリオレート、グリセリントリステアレート、エチレンオキシドプロピレンオキシドブロックコポリマー等の油溶性乳化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレングリセリンオレート、ラウリン酸ナトリウム等の水溶性乳化剤等を併用してもよい。その添加量については特に制限は無いが、ビニル化合物100質量部あたり、通常、0.01質量部以上1.0質量部以下が好ましい。
【0055】
ビニル化合物の懸濁重合に際し、前記懸濁重合用分散安定剤の重合槽への添加方法には特に制限はない。例えば、前記懸濁重合用分散安定剤がPVA(Y)を含む場合は、PVA(X)及びPVA(Y)を混合して添加できる。また、PVA(X)及びPVA(Y)は別々に添加してもよく、例えば、重合開始前にPVA(X)及びPVA(Y)をそれぞれ添加してもよいし、重合開始前にPVA(X)を添加し、重合開始後にPVA(Y)を添加してもよい。
【0056】
前記懸濁重合用分散安定剤を重合槽へ添加する際には、ハンドリング性、環境への影響の観点から、メタノール等の有機溶剤を用いずに、懸濁重合用分散安定剤をそのまま、又は水で希釈して添加する。PVA(Y)は水溶液又は水分散液として添加することが好ましい。
【0057】
ビニル化合物の懸濁重合に際し、ビニル化合物と水の質量比は特に限定されない。ビニル化合物の水に対する割合が低いほど重合は安定するが生産性が低く、ビニル化合物の水に対する割合が高いほど生産性は高くなるが、重合が不安定となる。通常、ビニル化合物:水の質量比(ビニル化合物/水)は4/7〜5/4である。該比が4/7より小さいと、得られるビニル系樹脂の生産性が低く、逆に5/4より大きくなると重合が非常に不安定になり、生成するビニル系樹脂粒子が粗粒子化する傾向にあり好ましくない。しかし、本発明の製造方法で得られるPVA(X)を含有する懸濁重合用分散安定剤を用いる場合、その重合条件はビニル化合物の水に対する割合が多く、重合が不安定になりやすい条件、具体的には、ビニル化合物/水の質量比が3/4よりも大きい重合条件でも重合を安定に進行させることができる。よって、得られるビニル系樹脂粒子の粗粒化防止効果がより発揮されることから、ビニル化合物/水の質量比が3/4よりも大きいことが好ましい。一方で、ビニル化合物/水の質量比は、10/9より小さいことが好ましい。
【0058】
前記懸濁重合用分散安定剤は、低粘度で高濃度の水性液の形態にあるため、ハンドリング性に優れる。また、本発明の懸濁重合用分散安定剤によれば、メタノール等の有機溶剤を使用する必要がないため、環境負荷が低く、経済性にも優れる。本発明の懸濁重合用分散安定剤の存在下でビニル化合物の懸濁重合を行った場合には、重合安定性が高いため、粗大粒子の形成が少なく、粒径が均一なビニル系樹脂粒子が得られる。さらに、本発明の懸濁重合用分散安定剤の使用量が少量であっても、可塑剤の吸収性が高く加工が容易なビニル系樹脂粒子が得られる。またさらに、ビニル系樹脂粒子における単位時間当たりの残存ビニル化合物の除去割合が高く、脱モノマー性に優れたビニル系樹脂粒子が得られる。得られたビニル系樹脂粒子は、適宜可塑剤等を配合して、各種の成形品用途に用いることができる。
【0059】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【実施例】
【0060】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で多くの変形が当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0061】
(実施例1)
(1)攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、連鎖移動剤添加口及び重合開始剤の添加口を備えた反応器に、酢酸ビニル325質量部、連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン(OCM)0.10質量部、及びメタノール175質量部を仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。これとは別に、連鎖移動剤の逐次添加溶液(以下、「ディレー溶液」と表記する)としてn−オクチルメルカプタンのメタノール溶液(濃度3質量%)を調製し、ディレー溶液を30分間アルゴンでバブリングした。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)1.4質量部を添加し重合を開始した。重合反応の進行中は、調製したディレー溶液を系内に常に滴下することで、重合溶液における酢酸ビニルとOCMのモル比率が一定となるようにした。大気圧下、60℃で150分間重合した時点でディレー溶液の添加を終了し、同時にAIBN2.8質量部を添加した。AIBN添加時の重合率は82.0%であった。重合開始から330分間経過後、冷却して重合を停止した。重合停止時の重合率は90.7%であった。次に、30℃の減圧下でメタノールを追加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーを系内から留去し、OCMが導入された変性ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液(濃度75.0質量%)を得た。
【0062】
(2)(1)で得られた変性ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液にメタノールとイオン交換水を加え、さらに、p−トルエンスルホン酸メタノール溶液(濃度20.0質量%)を添加して、65℃でけん化を行った。このけん化反応において、けん化溶液の変性ポリ酢酸ビニル濃度は50質量%であり、含水率は0.5質量%であり、変性ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニルユニットに対するp−トルエンスルホン酸のモル比は0.02であった。p−トルエンスルホン酸メタノール溶液を添加して120分後に、JIS K 6726(1994年)に準拠して測定したけん化度が55モル%に達したため、p−トルエンスルホン酸の1.1モル当量の炭酸水素ナトリウムを添加して中和を行い、次いで真空乾燥機中40℃で12時間乾燥することにより、OCMが末端に導入された変性PVA(PVA−1)を得た。けん化度55モル%に達するまでに要した時間、JIS K 6726(1994年)に準拠して測定したけん化度、及び粘度平均重合度を表2に示す。また、得られた変性PVA(PVA−1)に、臭気は感じられなかった。
【0063】
[粘度安定性]
前記(2)で得られた変性PVA(PVA−1)にイオン交換水を加え、表2に記載される濃度の懸濁重合用分散安定剤水溶液(PVA水溶液)を得た。得られた懸濁重合用分散安定剤水溶液を25℃で1ヶ月間静置し、以下の基準で粘度安定性を評価した。「A」が最も優れた粘度安定性を表す。懸濁重合用分散安定剤水溶液の濃度、PVA水溶液の粘度及び粘度安定性評価の結果を表2に示す。PVA水溶液の粘度は、B型回転粘度計で測定した。
A:(1ヶ月間静置後の粘度/水溶液作製直後の粘度)<1.1
B:1.1≦(1ヶ月間静置後の粘度/水溶液調製直後の粘度)<1.3
C:1.3≦(1ヶ月間静置後の粘度/水溶液調製直後の粘度)<1.5
D:1.5≦(1ヶ月間静置後の粘度/水溶液調製直後の粘度)
【0064】
(実施例2〜10)
酢酸ビニル及びメタノールの仕込み量、連鎖移動剤(C)の種類と添加量、重合開始剤(B)の種類と添加量、けん化条件等の各種条件を表1及び表2に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、変性PVA(PVA−2〜PVA−10)を得た。また、濃度を表2に示すように実施例1と同様にして、懸濁重合用分散安定剤水溶液を得た。JIS K 6726(1994年)に準拠して測定した変性PVAのけん化度と粘度平均重合度、懸濁重合用分散安定剤水溶液の濃度、40質量%での粘度、及び粘度安定性の評価結果を表2に示す。また、得られた変性PVA(PVA−2〜PVA−10)に、臭気は感じられなかった。
【0065】
(比較例1〜7)
各種条件を表1及び表2に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、PVA(PVA−11〜PVA−17)を得た。また、実施例1と同様にして、懸濁重合用分散安定剤水溶液を得た。JIS K 6726(1994年)に準拠して測定したPVAのけん化度と粘度平均重合度、並びに懸濁重合用分散安定剤水溶液の濃度、前記水溶液(40質量%)での粘度、及び粘度安定性の評価結果を表2に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
上記結果から、本発明の製造方法を用いると、重合度が160以上400以下の低重合度のビニルアルコール系重合体を工業的に有利に製造でき、得られたビニルアルコール系重合体は粘度安定性に優れることが確認された。
【0069】
(実施例11)
容量5Lのオートクレーブに、粘度平均重合度2400、けん化度80モル%のPVA(Y−1)の4質量%水溶液23.5質量部、実施例1で調製したPVA−1の40質量%水溶液0.94質量部、イオン交換水1206質量部、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネートの70質量%トルエン溶液1.07質量部を仕込み、オートクレーブ内の圧力が0.2MPaとなるように窒素を導入、導入した窒素のパージ、という作業を計5回行い、オートクレーブ内を十分に窒素置換した。次いで、塩化ビニル940質量部を仕込み、オートクレーブ内の内容物を65℃に昇温して攪拌下で塩化ビニル単量体の重合を開始した。重合開始時におけるオートクレーブ内の圧力は1.03MPaであった。重合を開始してから約3時間経過後、オートクレーブ内の圧力が0.70MPaとなった時点で重合を停止し、未反応の塩化ビニル単量体を除去した後、重合反応物を取り出し、65℃にて16時間乾燥を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。
【0070】
(塩化ビニル重合体粒子の評価)
実施例11で得られた塩化ビニル重合体粒子について、(1)平均粒子径、(2)粒度分布、(3)可塑剤吸収性及び(4)脱モノマー性を以下の方法にしたがって評価した。結果を表3に示す。
【0071】
(1)平均粒子径
タイラー(Tyler)メッシュ基準の金網を使用して、JIS Z 8815:1994に記載の乾式篩法により粒度分布を測定した。その結果をロジン・ラムラー(Rosin-Rammler)分布式にプロットして塩化ビニル重合体粒子の平均粒子径(d
p50)を求めた。
【0072】
(2)粒度分布
目開き355μmの篩(JIS標準篩のメッシュ換算では、42メッシュ)を通過しなかった塩化ビニル重合体粒子の含有量(以下、42メッシュオンという。)及び目開き250μmの篩(JIS標準篩のメッシュ換算では、60メッシュ)を通過しなかった塩化ビニル重合体粒子の含有量(以下、60メッシュオンという。)を質量%で表3に表示した。前記含有量は、篩上累積(%)を意味する。なお、目開き250μmの篩を通過しなかった塩化ビニル重合体粒子の含有量とは、目開き355μmの篩を通過したが目開き250μmの篩を通過しなかった塩化ビニル重合体粒子の含有量を意味する。また、前記篩の目開きは、JIS Z 8801−1−2006の公称目開きWに準拠する。
【0073】
なお、42メッシュオンの含有量及び60メッシュオンの含有量はともに、値が小さいほど粗大粒子が少なくて粒度分布が狭く、重合安定性に優れていることを示す。
【0074】
(3)可塑剤吸収性
脱脂綿を0.02g詰めた容量5mLのシリンジの質量を量り(A(g))、次いで塩化ビニル重合体粒子0.5gを入れて質量を量り(B(g))、さらにジオクチルフタレート(DOP)1gを入れて15分静置後、3000rpmで40分間遠心分離して質量を量った(C(g))。下記計算式より可塑剤吸収性(%)を求めた。可塑剤吸収性が高いほど加工が容易で、主にシートへの加工時にブツ等の外観に生じる欠陥を生じにくい。
可塑剤吸収性(%)=100×[{(C−A)/(B−A)}−1]
【0075】
(4)脱モノマー性(残留モノマー割合)
塩化ビニルの懸濁重合における重合反応物を取り出した後、75℃にて乾燥を1時間、及び3時間行い、それぞれの時点での残留モノマー量をヘッドスペースガスクロマトグラフィーにて測定し、(3時間乾燥時の残留モノマー量/1時間乾燥時の残留モノマー量)×100の式より残留モノマー割合を求めた。この値が小さいほど1時間乾燥時から3時間乾燥時、すなわち2時間のうちに塩化ビニル重合体粒子に残存するモノマーが乾燥によって除去された割合が多いことを意味し、残存モノマーの除去し易さ(脱モノマー性)を表す指標となる。
【0076】
(実施例12〜20及び比較例8〜10)
PVA−1に代えてPVA−2〜10、PVA−11〜13を用いた以外は実施例11と同様にして、塩化ビニルの重合及び得られた塩化ビニル重合体粒子の評価を行った。結果を表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
上記結果から、本発明の製造方法を用いてビニルアルコール系重合体を製造し、該ビニルアルコール系重合体を含む懸濁重合用分散安定剤をビニル化合物の懸濁重合に用いた場合には、重合安定性が高いため粗大粒子の形成が少なく、粒子径が均一な粒子が得られる。また、可塑剤吸収性に優れた重合体粒子を得ることが可能であり、特に脱モノマー性の面で非常に優れた効果を発揮し、残留モノマーの除去効率のよい重合体粒子を得ることが可能である。さらに、前記懸濁重合用分散安定剤はメタノール等の有機溶剤を意図的に使用しない低粘度の高濃度水性液であり、ハンドリング性に非常に優れ、環境への負荷も低く、かつ、製造時の生産性も高い。このような懸濁重合用分散安定剤の工業的な有用性は極めて高い。