【実施例】
【0041】
以下、本発明による銀合金粉末およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0042】
[実施例1]
純度99.99質量%のショット銀1.34kgと、純度99.99質量%のショット錫1.64kgと、純度99.99質量%のショットビスマス0.03kgとを窒素雰囲気中において1100℃に加熱して溶解した溶湯をタンディッシュ下部から落下させながら、水アトマイズ装置により大気中において水圧150MPa、水量160L/分で高圧水を吹き付けて急冷凝固させ、得られたスラリーを固液分離し、固形物を水洗し、乾燥し、解砕し、風力分級して、銀合金粉末(Ag−Sn−Bi合金粉末)を得た。なお、高圧水として、純水21.6m
3に対して苛性ソーダ157.55gを添加したアルカリ水溶液(温度18.4℃、pH10.7)を使用した。
【0043】
このようにして得られた銀合金粉末について、BET比表面積、タップ密度、酸素含有量、炭素含有量および粒度分布を求め、合金組成分析を行うとともに、熱機械的分析(TMA)並びに熱重量分析(TG)を行った。
【0044】
BET比表面積は、BET比表面積測定器(ユアサアイオニクス株式会社製の4ソーブUS)を使用して、測定器内に105℃で20分間窒素ガスを流して脱気した後、窒素とヘリウムの混合ガス(N
2:30体積%、He:70体積%)を流しながら、BET1点法により測定した。その結果、BET比表面積は1.98m
2/gであった。
【0045】
タップ密度(TAP)は、特開2007−263860号公報に記載された方法と同様に、銀合金粉末を内径6mm×高さ11.9mmの有底円筒形のダイに容積の80%まで充填して銀合金粉末層を形成し、この銀合金粉末層の上面に0.160N/m
2の圧力を均一に加えて、この圧力で銀合金粉末がこれ以上密に充填されなくなるまで銀合金粉末を圧縮した後、銀合金粉末層の高さを測定し、この銀合金粉末層の高さの測定値と、充填された銀合金粉末の重量とから、銀合金粉末の密度を求めて、銀合金粉末のタップ密度とした。その結果、タップ密度は3.2g/cm
3であった。
【0046】
酸素含有量は、酸素・窒素・水素分析装置(株式会社堀場製作所製のEMGA−920)により測定した。その結果、酸素含有量は0.71質量%であった。
【0047】
炭素含有量は、炭素・硫黄分析装置(堀場製作所製のEMIA−220V)により測定した。その結果、炭素含有量は0.01質量%であった。
【0048】
粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置(SYMPATEC社製のへロス粒度分布測定装置(HELOS&RODOS(気流式の乾燥モジュール)))を使用して、分散圧5barで測定した。その結果、累積10%粒子径(D
10)は0.6μm、累積50%粒子径(D
50)は1.6μm、累積90%粒子径(D
90)は3.3μmであった。
【0049】
合金組成分析は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製のSPS3520V)によって行った。その結果、合金粉末は、53質量%のSnと0.93質量%のBiを含み、残部がAgの銀合金粉末であった。
【0050】
銀合金粉末の熱機械的分析(TMA)では、銀合金粉末を直径5mm、高さ3mmのアルミナパンに詰めて、熱機械的分析(TMA)装置(セイコーインスツルメンツ株式会社製のTMA/SS6200)の試料ホルダ(シリンダ)にセットし、測定プローブにより荷重0.147Nで1分間押し固めて作製した測定試料について、200mL/分の流量で窒素ガスを流入しながら、測定荷重980mNで荷重を付与して、常温から昇温速度10℃/分で500℃まで昇温し、測定試料の収縮率(常温のときの測定試料の長さに対する収縮率)を測定した。その結果、100℃のときの収縮率は0.34%(膨張率−0.34%)、150℃のときの収縮率は0.81%(膨張率−0.81%)、200℃のときの収縮率は2.25%(膨張率−2.25%)であり、200℃より低い温度で収縮率が高い(熱収縮開始温度が低い)ことがわかった。
【0051】
銀合金粉末の熱重量分析(TG)では、示差熱熱重量同時測定装置(SIIナノテクノロジー株式会社製のEXATERTG/DTA6300型)により、銀合金粉末を大気中において30℃から昇温速度5℃/分で650℃まで昇温させて計測された重量と加熱前の銀合金粉末の重量の差(加熱により増加した重量)の加熱前の銀合金粉末の重量に対する比率(重量増加率)(%)を測定した。その結果、100℃のときの重量増加率は−0.01%、150℃のときの重量増加率は0.00%、200℃のときの重量増加率は0.07%であり、耐酸化性に優れていた。
【0052】
[実施例2]
ショットビスマスの代わりに純度99.99質量%のショットインジウムを使用し、アルカリ水溶液の温度を14.3℃とした以外は、実施例1と同様の方法により、銀合金粉末(Ag−Sn−In合金粉末)を得た。
【0053】
このようにして得られた銀合金粉末について、実施例1と同様の方法により、BET比表面積、タップ密度、酸素含有量、炭素含有量および粒度分布を求め、合金組成分析を行うとともに、熱機械的分析(TMA)並びに熱重量分析(TG)を行った。
【0054】
その結果、BET比表面積は1.31m
2/g、タップ密度は3.2g/cm
3、酸素含有量は0.51質量%、炭素含有量は0.01質量%であり、累積10%粒子径(D
10)は0.7μm、累積50%粒子径(D
50)は1.8μm、累積90%粒子径(D
90)は3.6μmであった。また、合金粉末は、54質量%のSnと0.99質量%のInを含み、残部がAgの銀合金粉末であった。また、銀合金粉末の熱機械的分析(TMA)において、100℃のときの収縮率は0.36%(膨張率−0.36%)、150℃のときの収縮率は0.76%(膨張率−0.76%)、200℃のときの収縮率は1.55%(膨張率−1.55%)であり、200℃より低い温度で収縮率が高い(熱収縮開始温度が低い)ことがわかった。さらに、銀合金粉末の熱重量分析(TG)において、100℃のときの重量増加率は0.03%、150℃のときの重量増加率は0.06%、200℃のときの重量増加率は0.13%であり、耐酸化性に優れていた。
【0055】
[実施例3]
ショットビスマスの代わりに純度99.99質量%のショット亜鉛を使用し、アルカリ水溶液の温度を13.6℃とした以外は、実施例1と同様の方法により、銀合金粉末(Ag−Sn−Zn合金粉末)を得た。
【0056】
このようにして得られた銀合金粉末について、実施例1と同様の方法により、BET比表面積、タップ密度、酸素含有量、炭素含有量および粒度分布を求め、合金組成分析を行うとともに、熱機械的分析(TMA)並びに熱重量分析(TG)を行った。
【0057】
その結果、BET比表面積は1.51m
2/g、タップ密度は3.2g/cm
3、酸素含有量は0.58質量%、炭素含有量は0.01質量%であり、累積10%粒子径(D
10)は0.6μm、累積50%粒子径(D
50)は1.7μm、累積90%粒子径(D
90)は3.4μmであった。また、合金粉末は、54質量%のSnと0.015質量%のZnを含み、残部がAgの銀合金粉末であった。また、銀合金粉末の熱機械的分析(TMA)において、100℃のときの収縮率は0.35%(膨張率−0.35%)、150℃のときの収縮率は0.71%(膨張率−0.71%)、200℃のときの収縮率は1.33%(膨張率−1.33%)であり、200℃より低い温度で収縮率が高い(熱収縮開始温度が低い)ことがわかった。さらに、銀合金粉末の熱重量分析(TG)において、100℃のときの重量増加率は0.03%、150℃のときの重量増加率は0.07%、200℃のときの重量増加率は0.18%であり、耐酸化性に優れていた。
【0058】
[実施例4]
ショット銀の量を1.35kg、ショット錫の量を1.59kg、ショットビスマスの量を0.06kgとした以外は、実施例1と同様の方法により、銀合金粉末(Ag−Sn−Bi合金粉末)を得た。
【0059】
このようにして得られた銀合金粉末について、実施例1と同様の方法により、BET比表面積、タップ密度、酸素含有量、炭素含有量および粒度分布を求め、合金組成分析を行うとともに、熱機械的分析(TMA)並びに熱重量分析(TG)を行った。
【0060】
その結果、BET比表面積は2.88m
2/g、タップ密度は3.5g/cm
3、酸素含有量は1.21質量%、炭素含有量は0.01質量%であり、累積10%粒子径(D
10)は0.6μm、累積50%粒子径(D
50)は1.6μm、累積90%粒子径(D
90)は3.3μmであった。また、合金粉末は、51.2質量%のSnと1.8質量%のBiを含み、残部がAgの銀合金粉末であった。また、銀合金粉末の熱機械的分析(TMA)において、100℃のときの収縮率は0.32%(膨張率−0.32%)、150℃のときの収縮率は0.70%(膨張率−0.70%)、200℃のときの収縮率は2.18%(膨張率−2.18%)であり、200℃より低い温度で収縮率が高い(熱収縮開始温度が低い)ことがわかった。さらに、銀合金粉末の熱重量分析(TG)において、100℃のときの重量増加率は0.03%、150℃のときの重量増加率は0.07%、200℃のときの重量増加率は0.17%であり、耐酸化性に優れていた。
【0061】
[実施例5]
ショット銀の量を1.35kg、ショット錫の量を1.56kg、ショットビスマスの量を0.09kgとした以外は、実施例1と同様の方法により、銀合金粉末(Ag−Sn−Bi合金粉末)を得た。
【0062】
このようにして得られた銀合金粉末について、実施例1と同様の方法により、BET比表面積、タップ密度、酸素含有量、炭素含有量および粒度分布を求め、合金組成分析を行うとともに、熱機械的分析(TMA)並びに熱重量分析(TG)を行った。
【0063】
その結果、BET比表面積は1.86m
2/g、タップ密度は3.4g/cm
3、酸素含有量は0.97質量%、炭素含有量は0.01質量%であり、累積10%粒子径(D
10)は0.7μm、累積50%粒子径(D
50)は1.7μm、累積90%粒子径(D
90)は3.6μmであった。また、合金粉末は、50.8質量%のSnと2.7質量%のBiを含み、残部がAgの銀合金粉末であった。また、銀合金粉末の熱機械的分析(TMA)において、100℃のときの収縮率は0.37%(膨張率−0.37%)、150℃のときの収縮率は0.89%(膨張率−0.89%)、200℃のときの収縮率は4.05%(膨張率−4.05%)であり、200℃より低い温度で収縮率が高い(熱収縮開始温度が低い)ことがわかった。さらに、銀合金粉末の熱重量分析(TG)において、100℃のときの重量増加率は0.01%、150℃のときの重量増加率は0.04%、200℃のときの重量増加率は0.14%であり、耐酸化性に優れていた。
【0064】
[実施例6]
ショット銀の量を1.35kg、ショット錫の量を1.41kg、ショットインジウムの量を0.24kgとした以外は、実施例2と同様の方法により、銀合金粉末(Ag−Sn−In合金粉末)を得た。
【0065】
このようにして得られた銀合金粉末について、実施例1と同様の方法により、BET比表面積、タップ密度、酸素含有量、炭素含有量および粒度分布を求め、合金組成分析を行うとともに、熱機械的分析(TMA)並びに熱重量分析(TG)を行った。
【0066】
その結果、BET比表面積は1.37m
2/g、タップ密度は3.3g/cm
3、酸素含有量は0.71質量%、炭素含有量は0.01質量%であり、累積10%粒子径(D
10)は0.7μm、累積50%粒子径(D
50)は1.6μm、累積90%粒子径(D
90)は3.3μmであった。また、合金粉末は、46.0質量%のSnと7.6質量%のInを含み、残部がAgの銀合金粉末であった。また、銀合金粉末の熱機械的分析(TMA)において、100℃のときの収縮率は0.30%(膨張率−0.30%)、150℃のときの収縮率は0.64%(膨張率−0.64%)、200℃のときの収縮率は1.64%(膨張率−1.64%)であり、200℃より低い温度で収縮率が高い(熱収縮開始温度が低い)ことがわかった。さらに、銀合金粉末の熱重量分析(TG)において、100℃のときの重量増加率は0.04%、150℃のときの重量増加率は0.06%、200℃のときの重量増加率は0.11%であり、耐酸化性に優れていた。
【0067】
[比較例]
アルカリ水溶液の温度25.9℃、pH10.5とし、ショット銀の量を1.35kg、ショット錫の量を1.65kgとし、ショットビスマスを添加しなかった以外は、実施例1と同様の方法により、銀合金粉末(Ag−Sn合金粉末)を得た。
【0068】
このようにして得られた銀合金粉末について、実施例1と同様の方法により、BET比表面積、タップ密度、酸素含有量、炭素含有量および粒度分布を求め、合金組成分析を行うとともに、熱機械的分析(TMA)並びに熱重量分析(TG)を行った。
【0069】
その結果、BET比表面積は1.63m
2/g、タップ密度は3.3g/cm
3、酸素含有量は0.76質量%、炭素含有量は0.01質量%であり、累積10%粒子径(D
10)は0.7μm、累積50%粒子径(D
50)は1.8μm、累積90%粒子径(D
90)は4.0μmであった。また、合金粉末は、55質量%のSnを含み、残部がAgの銀合金粉末であった。また、銀合金粉末の熱機械的分析(TMA)において、100℃のときの収縮率は0.21%(膨張率−0.21%)、150℃のときの収縮率は0.41%(膨張率−0.41%)、200℃のときの収縮率は0.95%(膨張率−0.95%)であり、200℃より低い温度では収縮率が低い(熱収縮開始温度に達していない)ことがわかった。さらに、銀合金粉末の熱重量分析(TG)において、100℃のときの重量増加率は0.13%、150℃のときの重量増加率は0.26%、200℃のときの重量増加率は0.49%であり、実施例1〜3と比べて耐酸化性が劣っていた。
【0070】
これらの実施例および比較例の銀合金粉末の原料割合と特性を表1に示し、これらの銀合金粉末の組成と熱機械的分析(TMA)および熱重量分析(TG)の結果を表2に示す。また、実施例1〜3および比較例の銀合金粉末のTMAにおける温度に対する膨張率の関係を
図1に示し、実施例1〜3および比較例の銀合金粉末のTGにおける温度に対する重量増加率の関係を
図2に示す。また、実施例1、4、5および比較例の銀合金粉末のTMAにおける温度に対する膨張率の関係を
図3に示し、実施例1、4、5および比較例の銀合金粉末のTGにおける温度に対する重量増加率の関係を
図4に示す。さらに、実施例2、6および比較例の銀合金粉末のTMAにおける温度に対する膨張率の関係を
図5に示し、実施例2、6および比較例の銀合金粉末のTGにおける温度に対する重量増加率の関係を
図6に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
また、実施例および比較例の銀合金粉末について、X線回折分析および電子顕微鏡による観察を行うとともに、実施例1〜3および比較例の銀合金粉末を用いた導電性ペーストを使用して作製した導電膜の特性を評価した。
【0074】
(X線回折分析および電子顕微鏡による観察)
実施例1〜3および比較例の銀合金粉末と、実施例1、4、6および比較例の銀合金粉末と、実施例2、6および比較例の銀合金粉末について、粉末X線回折装置(株式会社リガク製のMultiflex)を用いて得られたX線回折パターンのSn由来ピークをそれぞれ
図7〜
図9に示し、それらのX線回折パターンのAg
3Sn由来ピークをそれぞれ
図10〜
図12に示す。
図7〜
図9からわかるように、比較例と比べて、実施例1〜6ではSn由来ピークが低角側にシフトしている。また、
図10〜
図12からわかるように、比較例と比べて、実施例2ではAg
3Sn由来ピークが広角側にシフトし、実施例3ではAg
3Sn由来ピークが低角側にシフトしている。なお、
図10〜
図12からわかるように、Ag
3Sn由来ピークは、比較例と比べて、実施例1〜6では2つのピークの間隔が狭くなっている。このようなAg
3Sn由来ピークのシフトは、Bi、In、Znなどの第3金属がSnやAg
3Snに固溶して結晶子を歪めたために起こると考えられる。
【0075】
また、実施例1〜3および比較例の銀合金粉末の走査型電子顕微鏡写真(左側の写真が10,000倍、中央の写真が5,000倍、右側の写真が1,000倍の写真)をそれぞれ
図13〜
図16に示し、実施例4〜6の銀合金粉末の走査型電子顕微鏡写真(左側の写真が10,000倍、右側の写真が5,000倍の写真)をそれぞれ
図17〜
図19に示す。
【0076】
(導電膜の特性の評価)
実施例1〜3および比較例の銀合金粉末の各々を80質量%と、ガラスフリット(旭硝子株式会社製のASF−1100B)5質量%と、ビヒクル(テルピネオール(TPO)中に40質量%のアクリル樹脂BR−105(三菱レイヨン株式会社製))10質量%と、溶剤(TPO(和光純薬工業株式会社製))5質量%を混練して導電性ペーストを作製し、これらの導電性ペーストをアルミナ基板上に厚さ20μmになるように塗布した後、大気中において(ピーク温度400℃で10分間(In−Out20分間)に設定したベルト炉により)400℃で焼成して作製した導電膜の体積抵抗率を求めた。これらの導電膜について、比較例の体積抵抗率を1とした場合のそれぞれの体積抵抗率を
図20に示す。
【0077】
また、作製した導電性ペーストを使用して、窒素雰囲気中において(ピーク温度500℃で10分間(In−Out20分間)に設定したベルト炉により)500℃で焼成した以外は、上記と同様の方法により、導電膜を作製して体積抵抗率を求めた。これらの導電膜について、比較例の体積抵抗率を1とした場合のそれぞれの体積抵抗率を
図21に示す。
【0078】
さらに、作製した導電性ペーストを使用して、窒素雰囲気中において(ピーク温度600℃で10分間(In−Out20分間)に設定したベルト炉により)600℃で焼成した以外は、上記と同様の方法により、導電膜を作製して体積抵抗率を求めた。これらの導電膜について、比較例の体積抵抗率を1とした場合のそれぞれの体積抵抗率を
図22に示す。
【0079】
図20〜
図22からわかるように、実施例1〜3では、比較例と比べて、高い導電性の導電膜を得ることができる。これは、実施例1〜3の銀合金粉末では、比較例の銀合金粉末と比べて、200℃のときの収縮率が高い(熱収縮開始温度が低い)ので、焼成温度における導電性ペースト中の銀合金粉末が融着し易く、高い導電性の導電膜が得られると考えられる。