(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899495
(24)【登録日】2021年6月16日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末、樹脂組成物及び分散液
(51)【国際特許分類】
C01B 33/20 20060101AFI20210628BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20210628BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20210628BHJP
C08K 9/00 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
C01B33/20
C08K3/36
C08L101/00
C08K9/00
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2020-545202(P2020-545202)
(86)(22)【出願日】2020年6月5日
(86)【国際出願番号】JP2020022221
(87)【国際公開番号】WO2020250813
(87)【国際公開日】20201217
【審査請求日】2020年8月27日
(31)【優先権主張番号】特願2019-109385(P2019-109385)
(32)【優先日】2019年6月12日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】有行 正男
(72)【発明者】
【氏名】田中 修
(72)【発明者】
【氏名】福永 和宏
(72)【発明者】
【氏名】青木 真里
【審査官】
廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−269594(JP,A)
【文献】
特開2006−052128(JP,A)
【文献】
特開2003−252616(JP,A)
【文献】
特開平07−309616(JP,A)
【文献】
特開平10−226513(JP,A)
【文献】
特開2007−269612(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/016418(WO,A1)
【文献】
特開2004−338969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20−39/54
C01B 33/00−33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面処理剤で処理されていない非晶質シリカチタニア複合酸化物粒子からなる粉末であって、
液浸法により測定される測定波長589nmにおける粒子の屈折率が1.46以上であり、
レーザー回折散乱法による体積基準累積50%径が0.1μm〜2.0μmの範囲にあり、かつ、
コールターカウンター法により測定された粒子径が5.0μm以上である粒子の含有量が10ppm以下であり、かつ、
シリカチタニア複合酸化物粉末を大気中110℃で12時間乾燥し、当該乾燥粉末を25℃、相対湿度85%の条件下に24時間保管して吸湿させ、この際の質量変化から下記式で算出した吸水率が0.8質量%以下である非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末。
吸水率=(Y−X)/X × 100
(上記式中、Xは吸湿前の質量、Yは吸湿後の質量である)
【請求項2】
シリカチタニア複合酸化物からなるコアと、
シリカからなるシリカ被覆層と、を含む、請求項1記載の非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末。
【請求項3】
請求項1又は2記載の非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末が、表面処理剤により表面処理された、表面処理非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項記載の非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末と樹脂とを含む樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項記載の非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末を溶媒に分散させた分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂接着剤の充填剤、ハードコート材料、フィルム用のアンチブロッキング剤等として好適に使用できる吸水性が極めて低くかつ粗粒量が少ない非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無機粉末を樹脂接着剤またはフィルム等の有機高分子材料に充填することにより、樹脂の機械的強度等の性能向上またはフィルムのアンチブロッキング性などの効果が発現し、広く様々な研究および活用がなされている。また、有機高分子材料と無機粉末の屈折率差を制御することで透明性などの光学特性を制御する方法も検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には有機高分子材料としてのエポキシ樹脂組成物と無機粉末としての無機複合酸化物粉末の屈折率を一致させることで、透明性を維持しつつエポキシ樹脂の熱膨張率を制御することが提案されている。
【0004】
無機粉末の屈折率を調整する方法としては屈折率の異なる異種金属酸化物の配合比を変える方法があり、このような屈折率調整粒子を得る方法として様々な方法が検討されている。中でもゾル−ゲル法により製造した球形状の粒度分布の小さいシリカ系複合酸化物粒子の場合、粒子を有機高分子材料に充填した際、機械的強度だけでなく表面滑沢性および審美性に優れたものが得られるとの提案がある(特許文献2)。また、特許文献3では、有機金属化合物を加水分解して金属酸化物微粒子を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国公開特許公報「特開平6−65475号公報」
【特許文献2】日本国公開特許公報「特開昭62−89701号公報」
【特許文献3】日本国公開特許公報「特開平6−254383号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、透明樹脂接着剤または透明フィルム等用途の有機高分子材料に屈折率が調整された無機粉末を充填する際、無機粉末の吸水性が高い場合には、使用に伴って樹脂硬化物の透明性が悪化し、または樹脂硬化物の機械的強度が低下する虞がある。また、無機粉末に粗粒または凝集塊が多く含まれる場合にも、樹脂硬化物の透明性が悪化する他、樹脂の流動性が低下し、樹脂硬化物に空隙等の欠陥が生じる、または樹脂の流動に伴って他の部材に傷を発生させるなどの課題が生じる虞がある。特に、光学用途のフィルムについては、近年、フラットパネルディスプレイの大画面化および高精細化・高解像度の進行に伴い、無機粉末の吸水性を低くし、かつ粗粒または凝集塊を極めて低いレベルにすることが重要になってきている。
【0007】
しかしながらゾル−ゲル法により製造されたシリカチタニア複合酸化物粒子は、シリカ粒子と比べて吸水性が高いという課題があった。当該吸水性は、シリカチタニア複合酸化物粒子の製造時の焼成温度を高くすることによりある程度は低減できるが、高温で焼成する工程で焼結による粗粒が生じやすくなり、またあまりに温度が高いと結晶が析出してくることもあった。そのため、充分に吸水性が低く、かつ粗粒の少ない粉末は得られていなかった。
【0008】
シリカチタニア複合酸化物粒子の本質的な吸水性の高さを低減する方法としては、特許文献1においてシリカにより粒子表面を被覆する方法が提案されている。しかし、近年の各種要求性能の高まりにより、無機粉末の更なる改良が求められている。
【0009】
本発明の一態様は、既存のシリカチタニア複合酸化物粒子と比較して、樹脂等に充填して用いる際に、樹脂硬化物の経時的な透明性低下を低減し、かつ樹脂硬化物の欠陥を低減できる非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねてきた。その結果、上記のシリカチタニア複合酸化物粒子の表面をシリカで被覆する技術において、当該被覆時の条件を特定の範囲に制御することにより、既存のシリカチタニア複合酸化物粒子と比較して、非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末を樹脂等に充填して用いる際に、樹脂硬化物の経時的な透明性低下を低減し、かつ樹脂硬化物の欠陥を低減できることをみいだし、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明は表面処理剤で処理されていない非晶質シリカチタニア複合酸化物粒子からなる粉末であって、
液浸法により測定される測定波長589nmにおける粒子の屈折率が1.46以上であり、
レーザー回折散乱法による体積基準累積50%径が0.1μm〜2.0μmの範囲にあり、かつ
コールターカウンター法により測定された粒子径が5.0μm以上である粒子の含有量が10ppm以下であり、かつ、
シリカチタニア複合酸化物粉末を大気中110℃で12時間乾燥し、当該乾燥粉末を25℃、相対湿度85%の条件下に24時間保管して吸湿させ、この際の質量変化から下記式で算出した吸水率が0.8質量%以下である非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末である。
【0012】
吸水率=(Y−X)/X × 100
(上記式中、Xは吸湿前の質量、Yは吸湿後の質量である)
【発明の効果】
【0013】
本発明の非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末は、既存のシリカチタニア複合酸化物粒子と比較して、樹脂等に充填して用いる際に、樹脂硬化物の経時的な透明性低下を低減し、かつ樹脂硬化物の欠陥を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は表面処理剤で処理されていない非晶質シリカチタニア複合酸化物粒子からなる粉末である(以下、単に「本発明の粉末」と記す場合がある)。
【0015】
本発明の粉末は表面処理剤での処理がされていない。一般に、疎水性の表面処理剤での処理(例えば、トリメチルシリル基の導入)を行うことにより吸水性を低下させることが可能ではあったが、本発明の粉末では、このような表面処理を行っていないにも係わらず、後述するような良好な低吸水率を発現するものであり、従来にない、全く新しいシリカチタニア複合酸化物粉末である。
【0016】
なお、表面処理剤で処理していないため、例えば炭素量は0.005質量%を遙かに下回るものとなっているのが通常である。
【0017】
本発明において、非晶質であるとは、X線回折において結晶質の周期配列構造に起因するシャープなピークを持たず、ブロードなハローパターンのみを持つことで確認できる。
【0018】
本発明の粉末は、シリカ(SiO
2)とチタニア(TiO
2)からなる。粉末(粒子)を構成する元素は、蛍光X線分析等により確認できる。
【0019】
本発明の粉末は、測定波長589nmにおける粒子の屈折率が1.46以上である。当該屈折率は液浸法、即ち、粒子分散液の透過率が最も高く(吸光度が最も低く)なる液体の、その測定温度での屈折率を、粉末(粒子)の屈折率とするものである。測定に用いる分散用の液体の屈折率は、組成変更で変化させても良いし、温度変化で変化させてもよい。ここでシリカチタニア複合酸化物の屈折率は、液浸法で測定可能な温度範囲では事実上変わらない。
【0020】
なお、単一元素からなるシリカの測定波長589nmにおける屈折率は、当該粒子の製造時の焼成温度等によっても変わるため一概には規定できないが、例えば、アルコキシドを原料としたゾルゲル法で調製し900℃で焼成した場合には、1.45程度であるのに対し、本発明の非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末の屈折率は、含有するチタニアの影響で、より高い屈折率を示す。
【0021】
本発明の粉末においては、各種樹脂と複合化した際に屈折率を一致させて良好な透明性を得やすい点で、当該粒子の屈折率は、1.46〜1.65であることが好ましく、1.48〜1.60がより好ましい。
【0022】
本発明の粉末において、上記屈折率は主にシリカとチタニアとの割合により調整することが可能である。即ち、一般にチタニアの割合が多いほど屈折率は高くなる。上記範囲の屈折率を得るという点で、シリカとチタニアとの割合は、その合計を100モル%として、チタニアの割合の下限が1モル%以上であることが好ましい。また、上限は25モル%以下とすることにより、独立の球状粒子を製造しやすく、多くの樹脂と屈折率の範囲を近くすることができ、光学的に透明な性質を利用しようとする場合において好ましい。
【0023】
またこの範囲であれば、シリカとチタニアとを原子レベルで複合化することが容易であり、非晶質にもしやすく、製造上も有利である。原子レベルで複合化しているかは赤外分光法等によりSi−O−Ti結合の有無で確認できる。なお、シリカとチタニアとが分相している場合には、チタニアの結晶化が進行しやすく、非晶質のものとはし難い。
【0024】
好ましいチタニアの含有率は、20モル%以下であり、15モル%以下がより好ましい。またチタニア含有率は3モル%以上であることが好ましく、5モル%以上がより好ましい。
【0025】
なお、当該屈折率は製造時に行う焼成の際の温度でもわずかに変わり、他の条件が同じであれば焼成温度が高いほど屈折率が高くなる。
【0026】
本発明の粉末は、レーザー回折散乱法を用いて求めた体積基準の累積50%径(以下、「平均粒子径」とする)が0.1〜2μmの範囲にある。当該測定は、粉末を純水に対して0.25質量%相当添加し、出力40W、照射時間10分で超音波分散した液で測定する。平均粒子径が0.1μmよりも小さいと、乾燥・焼成後の粒子が凝集しやすく、解砕が困難となり、粒子径が5μm以上の粗粒が増える。一方で、粒子が大きくなりすぎた場合も、凝集塊を精度良く低減するのが難しくなり、粒子径が5μm以上である粒子が多くなる。このため、より好ましい粒子の大きさは、平均粒子径が0.2〜2μmの範囲であり、特に好適な範囲としては0.4μm〜1.5μmである。
【0027】
なお、粒度分布は、広い分布を有する場合には、粗粒を生成しやすいため、本発明の粉末においては単分散性が高いことが好ましい。具体的には上記方法で測定した各粒子径の粒子の割合から計算される変動係数で35%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、20%以下が特に好ましい。一般的には、変動係数は10%以上である。
【0028】
また、個々の粒子形状は、特に制限されないが、無機粒子を充填した有機高分子成形体の審美性を加味すると球状であることが好ましい。当該球状としては、電子顕微鏡等により観察した際に、視認できる実質的に全ての粒子が球(円)として認識できる程度であればよい。
【0029】
本発明の粉末は、コールターカウンター法により測定された粒子径が5.0μm以上である粒子の含有量が10ppm以下である。より具体的には、該粉末の5質量%の超音波分散液(出力40W、照射時間10分)において、コールターカウンター法(アパチャー径30μm)を用いて求めた、総測定個数に対する5μm以上の粗粒量の個数割合が10ppm以下であり、さらには5ppm以下がより好ましい。なおこの際の分散媒は蒸留水を使用する。
【0030】
なおここで、粒子径が5.0μm以上である粒子は単独粒子の場合もあるが、一般的には製造工程で生じた凝集ないしは焼結粒子である。
【0031】
本発明の粉末は、上記のように超音波分散により粗大粒子(5.0μm以上の粒子)が実質的になくなる、即ち、超音波照射で分散しないような強い凝集体を実質的に含まず、容易に分散する弱い凝集体しか含まないか、あるいは凝集体が全くないものである。従って、例えば樹脂等に分散させて使用する際にも、一般的に使用される分散機のシェア程度の付与で充分に分散できる場合が多い。
【0032】
本発明の粉末は、大気中110℃で12時間乾燥し、当該乾燥粉末を25℃、相対湿度85%の条件下に24時間保管して吸湿させ、この際の質量変化から下記式で算出した吸水率が0.8質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.3質量%以下である。
【0033】
吸水率=(Y−X)/X × 100
(上記式中、Xは吸湿前の質量、Yは吸湿後の質量である)
上記非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末は、高湿度条件下でも吸水性が極めて低いため、樹脂等と複合化した後の吸水による光学特性等の変化が非常に小さい。
【0034】
本発明の粉末は、上記のような各種物性を発現しやすい点で、シリカチタニア複合酸化物からなるコアが、シリカによって被覆されていることが好ましい。言い換えると、本発明の粉末は、シリカチタニア複合酸化物からなるコアと、シリカからなるシリカ被覆層と、を含むことが好ましい。当該シリカ被覆層の厚さは、厚いと吸水率はより低くなる傾向であるが、厚すぎるとコアとの屈折率の差の影響が顕著になることで光の散乱が生じる。樹脂等と複合化した後の透明性を高い状態に維持しやすい点で、シリカ被覆層の厚さは30nm以下程度とすることが好ましい。シリカ被覆層の厚さが30nm以下であれば、一般的には、屈折率が一致する溶媒に2質量%分散させた際の分散液の吸光度が0.05未満となり、よって樹脂等と複合化した際の透明性も良好となる。より好ましいシリカ被覆層の厚さは20nm以下、さらに好適な範囲としては15nm以下である。一方、被覆の効果を得やすい点で、シリカ被覆層の厚さは3nm以上が好ましく、5nm以上が好ましい。むろん、このようなシリカ被覆層を有する場合には、前記チタニアの含有割合は、当該シリカ被覆層を構成するシリカを含めての値である。
【0035】
なお、このようなシリカ被覆層を形成することにより、微小圧縮試験により測定される粒子硬度が、被覆層のないものよりも高くなる。
【0036】
本発明においては、上記のような非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末を表面処理剤で処理した表面処理非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末も提供される。表面処理することにより、樹脂等と複合化する際に使用する樹脂との親和性が改善され、あるいは、疎水性または電気特性などを制御することも可能となる。
【0037】
用いる表面処理剤としては、表面処理に通常用いられている公知のシリル化剤またはシランカップリング剤を、特に制限なく使用することが可能であり、必要とする表面処理粉末の特性等に応じて適宜選択して、使用すればよい。
【0038】
シランカップリング剤の具体例としては、例えばメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ジメチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ジエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、4−スチリルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0039】
シリル化剤としては、テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ヘプタメチルジシラザン等を挙げることができる。
【0040】
また、その他にも各種のシリコーンオイル、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤などで表面処理することも可能である。
【0041】
さらに、異なる複数の表面処理剤で表面処理されていてもよい。
【0042】
なお、表面処理剤により処理されている場合には、疎水性が高くなり水に分散しなくなる場合がある。このような粉末の粒子径を測定するには、水に換えてエタノールを使用すればよい。
【0043】
本発明の非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末は樹脂等と複合化して使用することが可能であり、公知の各種金属酸化物の代替として使用可能であるが、上記の如く、吸水性が極めて低いため成形品の経時的な透明性変化が無く、かつ粗粒を含まないため、樹脂に充填した際の流動性に優れ、電子材料用樹脂組成物への充填用途として、好適に用いることができる。
【0044】
また、本発明の非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末は、既存のシリカチタニア複合酸化物粒子と比較して、成形品の透明性を維持しつつ樹脂組成物の機械的強度を上げることができ、ハードコート材料等としても好適に用いることができる。さらに、本発明の非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末は、既存のシリカチタニア複合酸化物粒子と比較して、経時的な透明性変化が無く、粗粒による欠陥が生じないことから近年の高解像度の光学フィルムにも好適に用いることができる。
【0045】
本発明の一態様に係る非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末によれば、既存のシリカチタニア複合酸化物粒子と比較して、樹脂等に充填して用いる際に、樹脂硬化物の経時的な透明性低下を低減し、かつ樹脂硬化物の欠陥を低減することができる。また、本発明の一態様に係る非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末によれば、既存のシリカチタニア複合酸化物粒子と比較して、樹脂硬化物の吸水性を低減することができるため、吸水による樹脂硬化物の経時的な機械的強度低下を低減することができる。
【0046】
本発明の非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末を配合する樹脂の種類は、特に限定されない。樹脂の種類は所望の用途により適宜選択すればよく、選択できる樹脂の例としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂およびオレフィン系樹脂等を挙げることができる。
【0047】
たとえば、半導体封止材用途であれば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等が好ましい。フィルム用途であれば、トリアセチルセルロース樹脂、オレフィン系樹脂(ポリプロピレン、ポリエチレンなど)、ポリエチレンテレフタラート樹脂等が好ましい。
【0048】
樹脂組成物において、非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末の充填量は、その用途と目的に応じて適宜調整すればよい。具体的には、半導体封止材用途に用いる場合、樹脂100質量部に対して30〜90質量部の範囲、フィルム用途に用いる場合、樹脂100質量部に対して0.01〜10質量部の範囲であることが好ましい。また、本発明の非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末の他に別の充填剤を含んでいてもよい。
【0049】
また、用途等に応じて、水あるいは有機溶媒へ分散させた分散液とすることもできる。
【0050】
<<非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末の製造方法>>
本発明の非晶質シリカチタニア複合酸化物粉末は、いかなる製造方法によって製造しても良いが、本発明等の検討によれば、シリカチタニア複合酸化物粒子が分散したアルカリ性水性分散液に対して、加水分解によりテトラヒドロキシシランを生じることが可能な有機珪素化合物を徐々に加えて前記シリカチタニア複合酸化物粒子の表面にシリカ被覆層を形成後、液中から粒子を回収し、焼成して粉末を得るシリカ被覆シリカチタニア複合酸化物粉末の製造方法において、
(1)アルカリ性水性分散液に対して、有機珪素化合物を加えるに際して、添加開始から完了迄の間継続して、(a)該アルカリ性水性分散液中の水濃度の変化が±1質量%以内となるように添加量を調整した状態で、有機珪素化合物と窒素含有アルカリ性水溶液とを独立して同時に滴下すること、(b)温度を40℃以上に保持すること、および
(2)焼成時の温度を900℃以上とすること
を満足するように実施することで製造することが可能である(以下、この製造方法を「本発明の製造方法」という)。
【0051】
上記のシリカによる被覆前のシリカチタニア複合酸化物粒子が分散したアルカリ性水性分散液(以下、単に「水性分散液」と記す場合がある)は、金属アルコキシドを、触媒を含有する水と有機溶媒からなる反応媒体中において加水分解、重縮合させてゾルを生成させ、これをゲル化させて酸化物粒子を形成させる、いわゆるゾル−ゲル法により調製することが好適である。
【0052】
当該調製方法は公知の方法を適宜採用すれば良く、例えば、特開2003−252616号公報、特開2006−052128号公報、特開2007−269594号公報、特開2007−269612号公報、特開2008−037700号公報、特開2012−162438号公報等に記載の方法によればよい。
【0053】
当該方法を簡潔に述べると、まず加水分解可能な有機珪素化合物および有機チタン化合物を混合して複合化原料を調製する。生成する粒子におけるシリカとチタニアの割合は、この複合化原料におけるSiとTiの比に一致するので、これらが所望の割合になるように各原料は混合する。
【0054】
続いて、この複合化原料をアルカリ性水溶液中に滴下して加水分解によりシリカチタニア複合酸化物粒子を成長させて、水系溶媒中に成長したシリカチタニア複合酸化物粒子が分散した分散液を得ればよい。水溶液をアルカリ性とするための塩基としては、コストまたは不純物混入防止の観点から、各種の水酸化第4級アンモニウムもしくはアミン等の有機塩基またはアンモニアが好ましく、アンモニアが最も好ましい。
【0055】
本発明の製造方法においては、このようにして調製されたシリカチタニア複合酸化物粒子が分散した水性分散液をそのまま使用して、以下に述べるシリカ被覆工程を実施することが好ましい。
【0056】
当該シリカチタニア複合酸化物粒子が分散した水性分散液はアルカリ性、好ましくはpHが11〜13であり、さらにシリカチタニア複合酸化物からなる固形分濃度が5〜20質量%程度であることが好ましく、また水濃度は5〜15質量%であることが好ましく、ゾル−ゲル法で水分散液を調製する際には、この範囲となるように各種原料の使用量を調整することが好ましい。また当該分散液には、アルコールなどの有機溶媒が含まれていてもよい。
【0057】
本発明の製造方法においては、上記のような水性分散液に、加水分解によりテトラヒドロキシシランを生じることが可能な有機珪素化合物を徐々に加えて前記シリカチタニア複合酸化物粒子の表面にシリカ被覆層を形成するが、この際に、(a)該水性分散液中の水濃度の変化が±1質量%以内となるように添加量を調整した状態で、有機珪素化合物と窒素含有アルカリ性水溶液とを独立して同時に滴下すること、および(b)温度を40℃以上に保持することが必須である。
【0058】
上記条件を満足しないと、シリカチタニア複合酸化物粒子の表面のシリカ被覆が不均一になり、全く被覆されない部分も生じるなどするためであると推測するが、結果として吸水率を充分に低くすることができない。また、凝集も生じやすく、粗粒の割合も非常に多いものとなってしまう。
【0059】
以下、このシリカ被覆層を形成する工程について詳述する。
【0060】
前記水性分散液に加える、加水分解によりテトラヒドロキシシランを生じることが可能な有機珪素化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどの珪素のテトラアルコキシドが使用できる。珪素のアルコキシドが常温常圧で液体である場合には、そのまま使用してもよいが、有機溶媒で希釈して使用したほうが粒子の凝集を防止する観点からより好ましい。
【0061】
当該希釈に使用する有機溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類が代表的なものとして挙げられる。有機溶媒の使用量は特に限定されないが、一般的には、有機珪素化合物の濃度が50〜90質量%となる程度である。
【0062】
該有機珪素化合物の使用量は、水性分散液に分散しているシリカチタニア複合酸化物粒子が所望のシリカ被覆層の厚さとなるだけ成長するのに必要なシリカ量から、該有機珪素化合物が完全に加水分解してシリカ(SiO
2)になるとして計算して求める。なお、この計算の際にはシリカの密度は2.20として行う。
【0063】
より具体的に当該所定のシリカ被覆層の厚さを得るための有機珪素化合物の必要量の計算過程の一例を示すと以下のようである。
【0064】
(1)水性分散液中のシリカチタニア複合酸化物粒子の固形分重量(アルコキシドが完全に加水分解してシリカチタニアになるとして計算)とシリカチタニア粒子の密度(計算値:後述)から、水性分散液中に存在するシリカチタニアの体積を算出。
【0065】
(2)レーザー回折散乱法を用いて求めた体積基準の累積50%径を粒子径(A)とし、該粒子径(A)と上記シリカチタニアの体積から水性分散液中の粒子数を算出。
【0066】
(3)所望の厚みのシリカ被覆層の形成が完了した後の想定粒子径(B)から算出される体積と、前記粒子径(A)から算出される体積、及び上記(2)で得た水性分散液中の粒子数からシリカ被覆層の形成により増加する総体積を算出(注:B=A+シリカ被覆層厚さ×2)。
【0067】
(4)シリカ被覆層の形成による増加総体積とシリカ密度から必要なシリカの質量を算出し、当該質量分のシリカを形成するに必要な有機珪素化合物の質量を算出する。
【0068】
なお、上記(1)の計算で用いたシリカチタニアの密度は、非晶質シリカ(SiO
2)を2.20、非晶質チタニア(TiO
2)を2.90とし、シリカチタニアの構成比(原料使用比)に応じて算出する。例えば、シリカ被覆層形成前のTiO
2含有率が8mol%のシリカチタニアの場合には、2.20×0.92+2.90×0.08=2.26を用いればよい。本発明等の検討によれば、この計算値は実測値とほぼ一致する。
【0069】
また上記有機珪素化合物の使用量の計算は一例に過ぎず、上記した密度等を利用し、他の計算過程によって算出してもよい。
【0070】
該有機珪素化合物の水分散液への滴下速度は、加水分解して生じたヒドロキシシランが実質的に全てシリカチタニア複合酸化物粒子の表面で反応して粒子成長が行われる程度にゆっくりと行う必要があり、粒子径の成長速度が通常は1時間当たり10nm〜100nm程度、好ましくは1時間当たり10nm〜60nm程度で滴下すればよい。
【0071】
当該粒子径成長速度は以下のようにして計算で求める。即ち、シリカ被覆層の厚さの2倍量をシリカ被覆による粒子径の増分とし、これを有機珪素化合物と希釈有機溶媒の混合液の滴下時間で除することにより簡易的に算出した。
【0072】
粒子径成長速度=Ds×2/T
(上記Ds:シリカ被覆層厚み(nm),T:有機珪素化合物と希釈有機溶媒の混合液の滴下時間)
本発明の製造方法においては、上記該有機珪素化合物とは独立して、かつ同時に窒素含有アルカリ性水溶液を滴下する。上記有機珪素化合物を水性分散液に加えていくと、有機珪素化合物が加水分解していくが、その加水分解により水性分散液中の水が消費されるために、水濃度が低下していってしまう。また加水分解と縮合のために反応系(水分散液)の塩基性を保つ必要がある。そこで、これらを補うために窒素含有アルカリ性水溶液を滴下する必要がある。なお塩基としてアンモニア、水酸化第4級アンモニウム或いは各種アミン化合物等の窒素含有アルカリ使用するのはコストまたは不純物混入等を考慮してのことである。
【0073】
窒素含有アルカリ性水溶液の滴下量は、有機珪素化合物が完全に加水分解される場合に消費される水の量を該有機珪素化合物の滴下量(添加速度)から計算し、当該消費量に見合う(±1質量%以内に収まる)ように調整する。特に好ましくは±0.5質量%以内とすることである。
【0074】
本発明の製造方法においては、水性分散液中の水の濃度変化を±1質量%以内とするために、上記窒素含有アルカリ性水溶液とは別に水を添加することも可能であるが、操作または制御の簡略化という観点からは、水の制御は窒素含有アルカリ性水溶液の滴下量の制御のみで行うことが好ましい。
【0075】
本発明の粉末を得るためには、上記の有機珪素化合物及び窒素含有アルカリ性水溶液の滴下中、水性分散液の温度を40℃以上に保持することも必須である。液温が低すぎる場合には反応速度が遅くなり粒子の凝集、原料のゲル化が発生し、均一で緻密なシリカ被覆層を設けることができないためと推測されるが、吸水率が高いものとなり、また粗粒も多くなって本発明の粉末を得ることはできない。シリカ単独粒子または凝集の発生を抑制しやすい点で80℃以下とすることが好ましく、特に好ましくは45℃以上60℃以下とすることである。
【0076】
本発明の製造方法においては、上記の有機珪素化合物及び窒素含有アルカリ性水溶液の滴下の完了後に、反応を確実に進行させるために反応温度と同程度の温度で撹拌を継続する操作、いわゆる熟成工程を行っても良い。熟成を行う時間としては0.25〜5時間とすることが好ましい。
【0077】
上記有機珪素化合物及び窒素含有アルカリ性水溶液の滴下の完了後(及び必要に応じて行った熟成後)の水性分散液中においてシリカチタニア複合酸化物粒子は、癒着粒子および凝集塊を実質生じること無く良好に分散した状態で得られるが、局所的な過度の反応進行により、粒径が5μmを越える、粗大な独立一次粒子が若干量混存する場合がある。このような粗粒を除去し、より確実に本発明の粉末を得るため、上記工程完了後、次に述べる固液分離の前に、水性分散液をフルイでろ過するフィルタリングを実施することも好ましい態様である。
【0078】
当該フィルタリングは、固液分離とは逆に製造目的の粒子を通過させる必要があるため、少なくとも平均粒子径よりも目開きの大きなフルイを用いる必要があり、好ましくは目開きが平均粒子径の1.5倍乃至2倍以上のフルイである。一方、粒径5μm以上の粗大粒子を除去するという観点からは、目開きは5μm以下とすることが好ましい。
【0079】
本発明の製造方法では、上述した方法で得られたシリカチタニア複合酸化物粒子が分散した水性分散液から、シリカチタニア複合酸化物粒子を分離する。
【0080】
分離の方法としては、溶媒を蒸発除去し、粒子を含む蒸発残分を分離する方法または遠心力及び重力により粒子を沈降させた後、上澄みを除去して粒子を含む濃縮物を得る方法、濾材に粒子分散液を通液して濾材上に補足された粒子を含む濃縮物を得る方法など、公知の方法を使用できる。
【0081】
また、上記の方法を組み合わせる方法、例えば、遠心容器に濾材を設置し、遠心力により濾材を通過した溶液を除去し、濾材上の粒子を含む濃縮物を取得する方法が好ましく使用できる。
【0082】
さらに、固液分離操作を円滑にするため粒子分散液に炭酸アンモニウム等の凝析剤を投入して緩やかな凝集物を作成し、沈降を促進したり、濾過性を改善させたりする方法を併用しても良い。
【0083】
本発明の製造方法では、上記固液分離工程によって回収したシリカチタニア複合酸化物粒子を焼成する必要があるが、焼成時の安全性を確保し、あるいは効率を上げるため、焼成前に乾燥することが好ましい。
【0084】
当該乾燥の方法は特に制限はされず、静置乾燥のほか、送風乾燥または減圧乾燥等を使用できる。
【0085】
乾燥の温度は、使用する溶媒成分にもよるが、溶媒の沸点以上の条件で行うことが好ましい。大気圧であれば、乾燥温度は80℃〜200℃であることが好ましい。乾燥時間は、特に制限はされないが、2〜48時間程度が好ましい。なお、このような乾燥を行うことにより、乾燥物は粉末として得ることができる。
【0086】
本発明の製造方法では、上記乾燥工程を行った粒子内に残った種々の成分を除去し、シリカチタニア複合酸化物からなるコアおよびシリカ被覆層を緻密にするために焼成を行うが、当該焼成温度としては900℃以上で行うことが必須である。900℃未満では形成したシリカ被覆層が緻密にならないためであると推測されるが、吸水率を充分に低くすることができない。吸水率を低くしやすい点で、焼成温度は930℃以上が好ましく、950℃以上がより好ましく、980℃以上がさらに好ましい。
【0087】
一方、焼成温度が高すぎると粒子同士の焼結が起こり、粗粒が増えてしまう傾向がある。当該粗粒は、溶媒に再度分散させてフィルタリングを行うことによって除去することも可能であるが、当該操作を実施すると工程が増えるなどして製造コストの増加を招くため、焼成温度は1100℃以下とすることが好ましく、1070℃以下とすることがより好ましい。
【0088】
当該焼成は、公知の方法で行うことが出来る。一般的には、乾燥粉を敷きつめた容器を所望の温度の炉中に存在せしめる方法が好ましく使用することが出来る。
【0089】
焼成時間については、上記焼成の目的を達することができれば、特に制限されない。しかし、あまりにも長すぎると生産性が落ちるため、目的とする焼成温度まで昇温した後、0.5〜48時間、より好ましくは、2〜24時間の範囲で保持し焼成を行えば十分である。
【0090】
焼成時の雰囲気も特に制限はされず、アルゴンまたは窒素などの不活性ガス下、または大気雰囲気下で行うことができる。
【0091】
上記のようにして本発明の粉末を製造することができるが、焼成に伴って弱く凝集している場合もあるため、ユーザーへの供給等に先立って、必要に応じて解砕処理を施してもよい。
【0092】
また、各種処理剤で表面処理を行う場合には、公知の方法を適宜選択して実施すればよい。
【実施例】
【0093】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0094】
以下実施例、比較例で評価に用いる各物性の評価方法は以下の通りである。
【0095】
(体積基準累積50%径(平均粒子径)及び変動係数)
シリカ被覆工程前
シリカチタニア複合酸化物粒子を含んだ水性分散液から1mlを取得し、遠心分離後、上澄み液を廃棄し水30mlを加え、超音波ホモジナイザー(BRANSON製、Sonifier250)を用いて、40W・10分の条件で分散させた後、体積基準累積50%径(μm)をレーザー回折散乱法粒度分布測定装置(ベックマンコールター社製、LS−230)により測定した。
【0096】
焼成工程後および表面処理工程後
50mLのガラス瓶にシリカチタニア複合酸化物粉末約0.1gを電子天秤ではかりとり、蒸留水(ただし、焼成後に表面処理工程を行った実験例ではエタノール)を約40g加え、超音波ホモジナイザー(BRANSON製、Sonifier250)を用いて、40W・10分の条件で分散させた後、シリカチタニア複合酸化物粉末の体積基準累積50%径(μm)及び変動係数をレーザー回折散乱法粒度分布測定装置(ベックマンコールター社製、LS−230)により測定した。
【0097】
(TiO
2の割合)
粒子生成工程およびシリカ被覆工程における有機珪素化合物と有機チタン化合物の使用量から、全てがシリカチタニア粒子へと変換されたとしての計算値。
【0098】
(非晶質の確認)
X線回折装置(リガク社製、Smart Lab)により走査回折角範囲10〜90°、走査速度2°/分の条件で測定を行い、ブロードなハローパターンのみが検出されることで確認した。
【0099】
(屈折率)
シリカチタニア複合酸化物粒子の屈折率は液浸法によって測定した。具体的には、まず、異なる屈折率の溶媒(例えば、トルエン、1−ブロモナフタレン、1−クロロナフタレン、ジヨードメタンおよびイオウ入りジヨードメタンなど)を適宜配合することにより、0.005刻みで異なる屈折率を有する複数の混合溶媒を調製した。次に、各混合溶媒10mLに粒子0.2gを加え、超音波ホモジナイザー(BRANSON製、Sonifier250)を用い20W・1分の条件で分散させて分散体を調製し、25℃における各分散体の透明性を目視で比較した。そして、最も透明性の高い分散体で使用された混合溶媒の屈折率を、当該粒子の屈折率と見なした。なお、混合溶媒の屈折率はアッベの屈折率計を用いて25℃で589nmの波長の光を用いて測定した。
【0100】
(吸水率)
焼成工程後のシリカチタニア複合酸化物粉末を大気中110℃で12時間乾燥し、当該乾燥粉末を25℃、相対湿度85%の条件下に24時間保管して吸湿させ、この際の質量変化から下記式で吸水率を算出した。
【0101】
吸湿率=(Y−X)/X × 100
(Xは吸湿前の質量、Yは吸湿後の質量である)
(コールターカウンター法における5μm以上の粗粒量)
50mLのガラス瓶を5個準備し、それぞれにシリカチタニア複合酸化物粉末を1gずつ電子天秤ではかりとり、蒸留水もしくはエタノールを19gずつ加え、超音波ホモジナイザー(BRANSON製、Sonifier250)を用いて、40W・10分の条件で分散させて測定試料とした。コールターカウンター(ベックマンコールター社製、MultisizerIII)によりアパチャー径20μm(粒子径0.4〜0.6μmの場合)もしくは30μm(粒子径0.6μm以上の場合)を用いて、各試料中のシリカチタニア複合酸化物粒子の個々の粒子径を測定した。このとき、1試料あたりの測定粒子数を約5万個とし、5試料合わせて約25万個について測定した。そのうち、粒径が5μm以上の粒子数を算出し、総測定個数に対するそれぞれの粗粒量(ppm)とした。
【0102】
(粒子硬度)
島津製作所社製微小圧縮試験機(MZCT−W510−J)を用いて測定した。0.02%粒子濃度のエタノール分散液を準備し、下部加圧盤上にスポイトで1滴落として自然乾燥させた。直径20μmの上部加圧圧子(フラット圧子、ダイヤモンド製)を用いて下部加圧盤上の粒子1個に荷重をかけ、粒子の変形量を自動計測した。負荷速度は40mN/sec、最大試験力は15mN、保持時間は5secとした。粒子が破壊するときの圧壊試験力P(mN)及び圧縮変位Z(μm)を測定した。試験機に付属の顕微鏡で1μmの粒子を無作為に6個選択して測定を行い、その平均値を用い、下記式で圧縮弾性率K値(MPa)を算出した。
K値(MPa)=3×P/Z3/2/D1/2×1000
P:圧壊試験力(mN)、Z:圧縮変位(μm),D:粒子径(μm)
使用した原料の略号は以下の通りである。
【0103】
TMOS:テトラメトキシシラン(多摩化学工業社製、正珪酸メチル)
TPT:チタンテトライソプロポキシド(日本曹達社製、A−1)
IPA:イソプロピルアルコール
HMDS:ヘキサメチルジシラザン
参考例1
10Lのガラス製4つ口フラスコに、TMOSを3706g仕込み、有機溶媒としてメタノール1853gを加え、室温で20分間攪拌した。
【0104】
10Lのジャケット付きガラス製セパラブルの5つ口フラスコ(直径22cm、円筒状)に、バッフル板、フルゾーン翼(翼径12cm)を設置し、反応液としてメタノールを333g、25質量%アンモニア水83gを仕込み、40℃で保持、攪拌した。これに、上記アルコキシド溶液と、25質量%アンモニア水2180gを、それぞれ独立に液中滴下した。滴下開始時は、アルコキシド溶液は2.0g/min、アンモニア水は0.8g/minの速度で反応媒体中に供給し、その後は徐々に供給量を増やし7時間で原料供給を完了し、シリカ粒子を成長させた。滴下終了後、30分間熟成を行った。
【0105】
得られたスラリーを、目開き5μmのポリプロピレン製フィルターを通して10Lのポリエチレン製容器に移液した。これにドライアイス(固体状の二酸化炭素)20gを投入後、3時間放置した。
【0106】
3時間放置した段階でシリカ粒子が沈降しており、定量ろ紙(保留粒子径5μm)を使用し、減圧濾過を行い、2442gの濃縮物を得た。ろ液は透明であり、ろ過漏れは確認されなかった。
【0107】
得られたシリカ粒子を100℃で16時間真空乾燥し、1542gのシリカを得た。
【0108】
更に、昇温速度5℃/min、900℃で12時間焼成を行った。焼成雰囲気の調整は特に行わず、空気雰囲気下で実施した。焼成後に焼結している様子はなく、1465gのシリカ粉末を得た。
【0109】
得られたシリカ粉末は、平均粒子径1.00μm、変動係数32%、屈折率1.45、吸水率0.0%、コールターカウンター法における5μm以上の粗粒量は<4ppmであった。
【0110】
実施例1
3Lのガラス製4つ口フラスコに、金属アルコキシドとしてTMOSを942g仕込み、有機溶媒としてメタノールを235gと、酸触媒として0.035質量%塩酸39gを加え、室温で20分間攪拌することによって、TMOSを加水分解した。続いて、金属アルコキシドとしてTPT153gをIPA153gで希釈した液を添加し、透明な複合アルコキシド溶液を得た(滴下原料)。
【0111】
5Lのジャケット付きガラス製セパラブルの5つ口フラスコ(直径15cm、円筒状)に、バッフル板、フルゾーン翼(翼径8cm)を設置し、反応液としてIPAを300g、25質量%アンモニア水75gを仕込み、30℃で保持、攪拌した(初期仕込み原料)。これに、上記複合アルコキシド溶液と、25質量%アンモニア水519gを、それぞれ独立に液中滴下した。滴下開始時は、複合アルコキシド溶液は2.0g/min、アンモニア水は0.6g/minの速度で反応媒体中に供給し、その後は徐々に供給量を増やし4時間で原料供給を完了し、シリカチタニア複合酸化物粒子を成長させた。
【0112】
使用した全ての水の量(塩酸およびアンモニア水中の水の量)から複合アルコキシドが完全に加水分解された際に消費される水の量を差し引いた値と、スラリーのトータル理論重量から算出した原料供給終了後の粒子を含む液中の水濃度は10.0%であった。
【0113】
滴下終了後、30分間熟成を行った。分散液中のシリカチタニア複合酸化物粒子の平均粒子径は0.64μmであった。
【0114】
3Lのガラス製4つ口フラスコに、TMOSを101g仕込み、有機溶媒としてメタノール25gを加え室温で5分間撹拌した。なお被覆前の粒子径、粒子数、上記TMOS量から計算されるシリカ被覆層の厚さは10nmである。
【0115】
液温を45℃に調整した上記シリカチタニア複合酸化物粒子の水性分散液に、上記TMOS溶液と、25質量%アンモニア水56gを、粒子を含む液中の水濃度の変化が±1質量%以内となるように、次の条件でそれぞれ独立に液中滴下した。TMOS溶液は5.0g/min、アンモニア水は2.2g/minの速度で反応媒体中に供給し、25分で原料供給を完了した。
【0116】
滴下したTMOSが完全に加水分解されて水を消費するとして、滴下した全ての成分による寄与を考慮して算出した原料供給終了後の粒子を含む水性分散液中の水濃度は10.0%であった。
【0117】
滴下終了後、30分間熟成を行った。このシリカ被覆工程を含め、使用した原料から計算されるTiO
2の割合は7.2モル%である。
【0118】
得られたスラリーを、目開き5μmのポリプロピレン製フィルターを通して10Lのポリエチレン製容器に移液した。これにドライアイス(固体状の二酸化炭素)20gを投入後、3時間放置した。
【0119】
3時間放置した段階でシリカチタニア複合酸化物粒子が凝集沈降しており、定量ろ紙(保留粒子径5μm)を使用し、減圧濾過を行い、762gの濃縮物を得た。ろ液は透明であり、ろ過漏れは確認されなかった。
【0120】
得られたシリカチタニア複合酸化物粒子を100℃で16時間真空乾燥し、508gのシリカチタニア複合酸化物を得た。
【0121】
更に、昇温速度5℃/min、900℃で12時間焼成を行った。焼成雰囲気の調整は特に行わず、空気雰囲気下で実施した。焼成後に焼結している様子はなく、454gのシリカチタニア複合酸化物粉末を得た。
【0122】
得られたシリカチタニア複合酸化物粉末の各物性の評価結果を表2に示す。
【0123】
実施例2〜4
実施例1において、焼成温度を表2に示したように変更した以外は、実施例1と同様にしてシリカチタニア複合酸化物粒子を得た。物性の評価結果を表2に併せて示す。
【表1】
【表2】
比較例1
粒子生成工程で使用した原料量を表1に記載した量で実施し、シリカ被覆工程を実施しなかった以外は実施例1(焼成温度900℃)と同様にしてシリカチタニア複合酸化物粒子を得た。
【0124】
得られたシリカチタニア複合酸化物粉末は、非晶質であり、TiO
2の割合8.0モル%、平均粒子径0.63μm、変動係数14%、屈折率1.50、吸水率4.1%、コールターカウンター法における5μm以上の粗粒量は5ppmであった。
【0125】
比較例2〜4
比較例1において、焼成温度を表2に示したように変更した以外は、比較例1と同様にしてシリカチタニア複合酸化物粒子を得た。物性の評価結果を表2に併せて示す。
【0126】
実施例5
粒子生成工程およびシリカ被覆工程で使用した原料量を表3に記載した量で実施した以外は、実施例3(焼成温度1000℃)と同様にしてシリカチタニア複合酸化物粒子を得た。なお、表3に記載していない初期仕込み原料は、実施例3と同じくIPAが300g、25質量%アンモニア水が75gである。物性の評価結果を表4に示す。
【0127】
実施例6〜8、比較例5〜7
粒子生成工程およびシリカ被覆工程で使用した原料量を表3に記載した量で実施した以外は、実施例5と同様にしてシリカチタニア複合酸化物粒子を得た。物性の評価結果を表4に示す。
【表3】
【表4】
実施例9、10,比較例8、9
シリカ被覆工程における水性分散液の温度を、表5に示すように変更した以外は、実施例3と同様にしてシリカチタニア複合酸化物粒子を得た(理論上の被覆厚さは10nm)。物性の評価結果を併せて表5に示す。
【表5】
実施例11
粒子生成工程およびシリカ被覆工程で使用した原料量を表6に記載した量で実施した以外は、実施例3(焼成温度1000℃)と同様にしてシリカチタニア複合酸化物粒子を得た。なお、想定されるシリカ被覆層の厚さは20nmである。物性の評価結果を表7に示す。
【0128】
比較例10
粒子生成工程で使用した原料量を表6に記載した量で実施し、シリカ被覆工程を実施しなかった以外は実施例11と同様にしてシリカチタニア複合酸化物粒子を得た。物性の評価結果を表7に示す。
【表6】
【表7】
実施例12、13、比較例11、12
粒子生成工程およびシリカ被覆工程で使用した原料量を表7に記載した量で実施した以外は、実施例3と同様にしてシリカチタニア複合酸化物粒子を得た。物性の評価結果を表8に示す。
【表8】
参考例2
比較例3で得られたシリカチタニア複合酸化物粒子100gを100℃で12時間真空乾燥後、500mLの圧力容器に入れ、容器内を窒素雰囲気に置換後、大気圧力下で密封し、粒子を撹拌しながらHMDSを0.75g噴霧した。室温から150℃に1時間で昇温した後、更に撹拌を2時間継続し、冷却した。得られた表面処理後のシリカチタニア複合酸化物粒子を150℃で12時間真空乾燥を行った。物性の評価結果を表9に示す。
【0129】
実施例14
実施例3で得られたシリカで被覆されたシリカチタニア複合酸化物粒子を参考例2と同様にしてHMDS処理を行った。物性の評価結果を表9に示す。
【表9】
実施例1〜14に係るシリカチタニア複合酸化物粉末は、比較例1〜12に係るシリカチタニア複合酸化物粒子と比較して、吸水率が低かった。また、実施例1〜14に係るシリカチタニア複合酸化物粉末は、比較例2〜9および11〜12に係るシリカチタニア複合酸化物粒子と比較して、粗粒が少なかった。実施例1〜14に係るシリカチタニア複合酸化物粉末は、比較例1〜12に係るシリカチタニア複合酸化物粒子と比較して、樹脂に充填して用いた際に、樹脂硬化物の経時的な透明性低下を低減し、かつ樹脂硬化物の欠陥を低減することができた。