特許第6899633号(P6899633)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6899633靭性、耐摩耗性および軟化抵抗性に優れた刃物用鋼
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899633
(24)【登録日】2021年6月17日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】靭性、耐摩耗性および軟化抵抗性に優れた刃物用鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20210628BHJP
   C22C 38/48 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
   C22C38/00 302E
   C22C38/00 301H
   C22C38/48
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-84213(P2016-84213)
(22)【出願日】2016年4月20日
(65)【公開番号】特開2017-193743(P2017-193743A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2019年1月11日
【審判番号】不服2020-2555(P2020-2555/J1)
【審判請求日】2020年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】前田 雅人
【合議体】
【審判長】 平塚 政宏
【審判官】 井上 猛
【審判官】 市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−269624(JP,A)
【文献】 特開平08−081739(JP,A)
【文献】 特開平04−354852(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103484783(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.45〜0.60%、Si:0.50〜1.20%、Mn:≦0.60%、Ni:1.50〜2.10%、Cr:4.50〜6.00%、Mo+W/2:1.00〜2.00%、V+Nb/2:0.50〜1.50%、Al:0.01〜0.03%、N:0.0100〜0.0300%、を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなる鋼で、この鋼における、長さ1μm以上の炭化物および窒化物からなるミクロ組織の面積率は0.1〜1.0%で、30μm2以上の面積を有する炭化物および窒化物の個数は20個/mm2以下で、式T=315−392×{(C%)+6/7(N%)}−52×(Si%)−24×(Mn%)−14×(Cr%)+49×{(Mo%)+(W%)/2}とするとき、式T≧20、式S=(Ni+Mo+W/2+V+Nb/2)/Crとするとき、式S≧0.57であることを特徴とする靭性、耐摩耗性および軟化抵抗性に優れた刃物用鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料を切断および破砕するときに使用される刃物用鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板の切断などに用いられる刃物には53〜58HRCの硬度で使用されるため、JIS規格鋼の冷間工具鋼であるSKD11や熱間工具鋼であるSKD61などが使用される。しかし、冷間工具鋼は靭性が低く、刃の欠けが起こりやすく、また、加工中の摩擦による発熱により表面の軟化が起き、次第に摩耗が起こりやすくなる。一方、熱間工具鋼は靭性が高いため欠けが起こりにくく、発熱による表面軟化が起こりにくい利点があるが、反面、使用できる硬さが低く、耐摩耗性が低いという欠点があった。
【0003】
従来の刃物用鋼としては、例えば、鋼中に一次炭化物を適量含有させ、含有するCおよびMoを調整し、同時に特定値以上の衝撃値と0.2%耐力を組み合わせることによって靭性に優れ、かつ、へたり性、耐摩耗性および耐焼付性の問題も解消される鋼が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この刃物用鋼は提案の範囲内の鋼であっても、一次炭化物の面積率しか限定していないため、炭化物の数は少なくても面積が大きい炭化物が原因となって低靭性となることがあった。また、加工中の摩擦による発熱により、表面の軟化が起きる場合があり、同じ範囲内の鋼でも短寿命となることがあった。
【0004】
一方、使用しても刃こぼれ等が生じない、耐摩耗性、焼入れ性及び加工性に優れたFe系刃物用合金が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、この提案のFe系刃物用合金の組織を見ると、鋼材中にCr系炭化物および窒化物が多く生じていた。このCr系炭化物および窒化物が多いと、せん断時の加工発熱による熱影響により鋼材の軟化が起きやすく、使用し続けると摩耗しやすくなり、刃物として早期に使用出来なくなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3461041号公報
【特許文献2】特開2002−212679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような問題を解消するために、発明者らは鋭意開発を進めた結果、合金成分範囲が一定の範囲を満足し、かつ、一定の合金成分式を満足することで、刃物に必要な耐摩耗性を有し、使用途中で加工発熱によって軟化しにくい靭性に優れた刃物用鋼が得られることを見出した。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、刃物に必要な耐摩耗性を有し、使用途中で加工発熱によって軟化しにくい靭性に優れた刃物用鋼を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための本発明の手段は、第1の手段では、本願の鋼の化学成分と、長さ1μm以上の炭化物および窒化物からなるミクロ組織の面積率と、50μm2以上の面積を有する炭化物および窒化物の個数と、式Tと式Sを満足する鋼である。
すなわち、第1の手段では、化学成分は、質量%で、C:0.45〜0.60%、Si:0.50〜1.20%、Mn:≦0.60%、Ni:1.50〜2.10%、Cr:4.50〜6.00%、Mo+W/2:1.00〜2.00%、V+Nb/2:0.50〜1.50%、Al:0.01〜0.03%、N:0.0100〜0.0300%を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなる鋼である。この鋼における、長さ1μm以上の炭化物および窒化物からなるミクロ組織の面積率は0.1〜1.0%であり、30μm2以上の面積を有する炭化物および窒化物の個数は20個/mm2以下であり、式T:315−392×{(C%)+6/7(N%)}−52×(Si%)−24×(Mn%)−14×(Cr%)+49×{(Mo%)+(W%)/2}≧20、式S:(Ni+Mo+W/2+V+Nb/2)/Cr≧0.57である、靭性、耐摩耗性および軟化抵抗性に優れた刃物用鋼である。
【発明の効果】
【0009】
本願の手段からなる刃物用鋼は、比摩耗量が1.5×10-6mm3/(N・mm)以下で刃物に必要な耐摩耗性を有し、刃物としての使用途中での加工発熱による軟化の硬度差ΔHRCが0.2〜5.0であって軟化抵抗性に優れており、かつシャルピー衝撃値が30〜55J/cm2で靱性に優れた刃物用鋼である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願発明の実施の形態の記載に先立ち、課題を解決するための手段における本願鋼の化学成分、長さ1μm以上の炭化物および窒化物からなるミクロ組織の面積率、50μm2以上の面積を有する炭化物および窒化物の個数、並びに式Tおよび式Sの限定理由について、順次説明する。ただし、化学成分は質量%で示す。
【0011】
C:0.45〜0.60%
Cは、硬質炭化物を形成し、硬さ、耐摩耗性を向上させるとともに、焼入性を高める元素である。それらの効果を得るためには、Cは0.45%以上必要である。しかし、Cは0.60%より多く含有されると粗大な炭化物を形成して靱性を悪化する。そこで、Cは0.45〜0.60%、望ましくは、0.46〜0.58%とする。
【0012】
Si:0.50〜1.20%
Siは、脱酸材および基地の硬さを得るために必要であり、また、焼入性を高める元素である。それらの効果を得るためには、Siは0.50%以上必要である。しかし、Siは1.20%より多く含有されるとマトリックスを脆化させて靱性を悪化する。そこで、Siは0.50〜1.20%、望ましくは0.60〜1.20%とする。
【0013】
Mn:≦0.60%
Mnは、脱酸材および焼入性を得るために必要な元素である。しかし、Mnは0.60%より多く含有されるとマトリックスを脆化させて靱性を悪化する。そこで、Mnは0.60%以下とする。
【0014】
Ni:1.50〜2.10%
Niは、焼入性および靱性を得るために必要な元素である。それらの効果を得るためには、Niは1.50%以上必要である。しかし、Niは2.10%より多く含有されると加工性の低下を招く。そこで、Niは1.50〜2.10%、望ましくは1.54〜1.90%とする。
【0015】
Cr:4.50〜6.00%
Crは、炭化物を形成し、硬さおよび耐摩耗性を向上させるとともに、焼入性を高める元素である。それらの効果を得るためには、Crは4.50%以上必要である。しかし、Crは6.00%より多く含有されると、粗大な炭化物を形成して靱性および軟化抵抗性を悪化する。そこで、Crは4.50〜6.00%、望ましくは4.58〜5.82%とする。
【0016】
Mo+W/2(Mo、Wのうち1種類または2種類):1.00〜2.00%
MoおよびWは、炭化物を形成し、硬さおよび耐摩耗性を向上させるとともに、焼入性を高める元素である。それらの効果を得るためには、Mo+W/2は1.00%以上が必要である。しかし、Mo+W/2は2.00%より多く含有されると、粗大な炭化物および粗大な窒化物を形成し、靱性および被削性を悪化する。そこで、Mo+W/2は1.00〜2.00%、望ましくは1.20〜1.96%とする。
【0017】
V+Nb/2(V、Nbのうち1種類または2種類):0.50〜1.50%
VおよびNbは、炭化物および窒化物を形成し、硬さおよび耐摩耗性を向上させるとともに、焼入性を高める元素である。それらの効果を得るためには、V+Nb/2は0.50%以上が必要である。しかし、V+Nb/2は1.50%より多く含有されると、粗大な炭化物および粗大な窒化物を形成し靱性を低下する。そこで、V+Nb/2は0.50〜1.50%、望ましくは0.60〜1.40%とする。
【0018】
Al:0.01〜0.03%
Alは、脱酸材として必要であるとともに、窒素と結合して微細な窒化物を形成し、耐摩耗性の向上に寄与する元素である。それらの効果を得るためには、Alは0.01%以上必要である。しかし、Alは0.03%より多く含有されると、粗大な酸化物および窒化物を形成して靱性を悪化する。そこで、Alは0.01〜0.03%とする。
【0019】
N:0.0100〜0.0300%
Nは、硬質炭化物および硬質窒化物を形成して硬さおよび耐摩耗性を向上させるとともに、焼入性を高める元素である。それらの効果を得るためには、Nは0.0100%以上必要である。しかし、Nは0.0300%より多く含有されると粗大な炭化物および粗大な窒化物を形成して靱性を悪化する。そこで、Nは0.0100〜0.0300%とする。
【0020】
長さ1μm以上の炭化物および窒化物からなるミクロ組織の面積率:0.1〜1.0%
長さ1μm以上の炭化物および窒化物からなるミクロ組織の面積率は0.1%より少ないと、耐摩耗性が低くなる。一方、炭化物および窒化物の面積率が1.0%より大きくなりすぎると、炭化物間の距離が縮まり、割れの伝播が起こり易くなることで、靱性が低下するために欠けが起こりやすくなる。そこで、長さ1μm以上の炭化物および窒化物からなるミクロ組織の面積率は、0.1〜1.0%とし、望ましくは0.2〜0.9%とする。
【0021】
30μm2以上の面積を有する炭化物および窒化物の個数:20個/mm2以下
30μm2以上の面積を有する粗大な炭化物および窒化物の個数は、20個/mm2より多くなり過ぎると、靱性が低下する。そこで、30μm2以上の面積を有する炭化物および窒化物の個数は20個/mm2以下とする。
【0022】
式T=315−392×{(C%)+6/7(N%)}−52×(Si%)−24×(Mn%)−14×(Cr%)+49×{(Mo%)+(W%)/2}≧20
式T=315−392×{(C%)+6/7(N%)}−52×(Si%)−24×(Mn%)−14×(Cr%)+49×{(Mo%)+(W%)/2}の値は、本願の刃物用鋼の欠けを抑制するために必要な靱性を表す式の値である。そして、合金基地組織を硬化させるSi量およびMn量や微細な炭化物を形成させるMo量およびW量を式Tに代入することで、刃物用鋼に高い靱性を得るためには、式Tの値が20以上である必要を表している。
【0023】
式S=(Ni+Mo+W/2+V+Nb/2)/Cr≧0.57
式S=(Ni+Mo+W/2+V+Nb/2)/Crの値は、本願の刃物用鋼の発熱による軟化への抵抗性を表し、式Sの値が大きくなることで軟化を抑制し摩耗が起きにくくなる。軟化が起こる原因は、摩擦発熱によって析出している炭化物および窒化物がオストワルド成長することで、炭化物および窒化物が形成していた歪みが少なくなることで起こる。炭化物および窒化物のオストワルド成長を抑制するには、鋼に含有されているNi、Mo、W、V、NbとCrとのバランスで決まる式Sの値は0.57以上となることで高い軟化抵抗性が得られることを表している。
【0024】
ここで、本願発明の実施の形態について、以下の表1に示す発明鋼の実施例のNo.1〜24および表2に示す比較鋼のNo.25〜41並びに表3に示す発明鋼のNo.1〜24および比較鋼のNo.25〜41の各評価を通じて記載することとする。
【0025】
先ず、表1の発明鋼のNo.1〜24および表2の比較鋼のNo.25〜41に示す化学成分とFeおよび不可避不純物からなる鋼の各100kgを真空誘導溶解炉にて溶製し、これらの鋼を60mm×60mmに鍛伸し、この鍛伸した鋼を焼入れして砂冷後に焼なまし処理し、さらに、1030℃加熱した後、油冷して焼入処理し、次いで、500〜600℃に加熱し、空冷を2回以上行なって、55HRCに調質する焼入焼戻し処理した。
【0026】
さらに上記の各鋼における長さ1μm以上の炭化物および窒化物を有するミクロ組織の面積率および30μm2以上の面積を有する炭化物および窒化物の個数は、上記の焼入焼戻し後の鋼材中心より15mm×15mm×15mmLの供試材を割出し、これらの供試材を鏡面研磨し、それぞれを光学顕微鏡にて400倍でランダムに10視野観察を行ない、それぞれの炭化物および窒化物の面積率および炭化物および窒化物の個数を算出した。さらに、表1の発明鋼のNo.1〜24および表2の比較鋼のNo.25〜41の式Tおよび式Sの値を求めた。これらについて、以下の表1および表2に供試材の化学成分および式T,式S、1μm以上の炭化物および窒化物の面積率並びに20μm2以上の炭化物および窒化物の個数の測定結果を示す。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
次いで、表1の発明鋼のNo.1〜24および表2の比較鋼のNo.25〜41に示す化学成分とFeおよび不可避不純物からなる上記の焼入焼戻し処理した鋼について、下記の表3にそれぞれの靱性、耐摩耗性および軟化抵抗性を求めて評価した。
【0030】
先ず、靭性は、焼入焼戻し処理した鋼の試料中心部から10mm×55mm×10mmL、2mmUノッチのシャルピー試験片を割出し、衝撃値の測定を行った。一般的に刃物に使用される工具鋼のJIS鋼種であるSKD11は、55HRCで15J/cm2のシャルピー衝撃値が得られる。そのため、その倍である30J/cm2以上の高いシャルピー衝撃値が得られれば◎と評価し、30J/cm2より低いシャルピー衝撃値であれば低靭性として×と評価した。
【0031】
耐摩耗性は、焼入焼戻し処理した鋼の試料から7mm×50mm×25mmLの試験片を割り出し、50mm×25mmL面で大越式摩耗試験を行った。リングはSCM420(86HRB)を用いた。摩耗距離は200m、最終荷重は61.8N、摩耗速度は3.28m/secとした。SKD61の場合、比摩耗量は3.0×10-6mm3/(N・mm)であるため、比摩耗量が半分である1.5×10-6mm3/(N・mm)以下の場合は耐摩耗性があるとして◎とし、比摩耗量は1.5×10-6mm3/(N・mm)より大きい場合は、耐摩耗性が悪いとして×と評価した。
【0032】
軟化抵抗性は、焼入焼戻し処理した鋼の試料の中周より15mm×15mm×15mmLを割出し、600℃で3時間加熱保持した後に空冷し、硬さを測定した。軟化抵抗性は初期硬さからの硬度差(55HRCから3時間後のHRCを引いた値)で評価した。SKD11の場合は硬度差が6.0HRCであるから、硬度差が5.0HRC以下の場合は高い軟化抵抗性があると判断して◎、5.0HRCより大きい場合は軟化抵抗性が低いと判断して×とした。
【0033】
【表3】
【0034】
表3において発明鋼のNo.1〜24は、シャルピー衝撃値が30J/cm2以上であるので、靱性評価はいずれも◎であり、比摩耗量が1.5×10-6mm3/(N・mm)以下であるので、耐摩耗性評価はいずれも◎であり、硬度差が5.0HRC以下であるので、表3の軟化抵抗性評価はいずれも◎である。
【0035】
表3における比較鋼のNo.25〜41については、以下のとおりである。
【0036】
No.25は、表2のT値が4で発明鋼のT値の最小値の20より低く、表3のシャルピー衝撃値が29J/cm2と発明鋼の30J/cm2より低いので、表3の靭性評価が×である。
【0037】
No.26は、表2のS値が0.54で発明鋼のS値の最小値の0.57より低く、表3の硬度差が5.3HRCであり、発明鋼の硬度差の最大値の5.0HRCよりも大きいので、表3の軟化抵抗性評価が×である。
【0038】
No.27は、表2のCが1.35%と発明鋼のCの最高値の0.60%より大幅に高く、表2のT値が−284で発明鋼のT値の最小値の20より大幅に低く、1μm以上の炭化物および窒化物の面積率が2.5%と発明鋼の1.0%より高く、さらに30μm2以上の面積を有する炭化物および窒化物の個数が1mm2当り38個と発明鋼の最大値の20個よりも多いため、表3のシャルピー衝撃値が12J/cm2と発明鋼の30J/cm2より低く、表3の靭性評価が×である。
【0039】
No.28は、表2のCが0.25%と発明鋼の0.45〜0.60%より低く、1μm以上の炭化物面積率が0.0%と発明鋼の0.1%より低いため、表3の比摩耗量が2.1×106mm3/(N・mm)と発明鋼の最大値の1.5×10-6mm3/(N・mm)より多いので、表3の耐摩耗性評価が×である。
【0040】
No.29は、表2のSiが2.00%と発明鋼のSiの最高値の1.20%より高いので、マトリックスが脆化されるので、表3のシャルピー衝撃値が17J/cm2と発明鋼の最小値の30J/cm2よりも小さいので、表3の靭性評価が×である。
【0041】
No.30は、表2のMnが1.50%と発明鋼の0.60%より大幅に高いので、マトリックスが脆化されるので、表3のシャルピー衝撃値が21J/cm2と発明鋼の最低値の30J/cm2より小さいので、表3の靭性評価が×である。
【0042】
No.31は、表2のNiが0.50%と発明鋼の最低値の1.50%より低いので、焼入性および靱性を得ることが出来ず加工性の低下を招き、表3のシャルピー衝撃値が29J/cm2と発明鋼の最小値の30J/cm2よりも小さく、さらに靭性評価が×である。
【0043】
No.32は、表2のCrが8.00%と発明鋼のCrの最高値の6.00%より高く、表2のS値が0.52と発明鋼の最大値の0.57よりも低く、1μm以上の炭化物および窒化物の面積率が1.1%と発明鋼の1.0%より高く、さらに30μm2以上の面積を有する炭化物および窒化物の個数が1mm2当り22個と発明鋼の20個より多いため、表3のシャルビー衝撃値が23J/cm2と発明鋼の最小値の30J/cm2よりも小さく靭性評価が×であり、さらに表3の硬度差が5.7HRCであり、発明鋼の硬度差の最大値の5.0HRCよりも大きいので、軟化抵抗性評価が×である。
【0044】
No.33は、表2のCrが3.20%と発明鋼の最低値の4.50%より低いため、表3の比摩耗量が1.9×10-6mm3/(N・mm)と発明鋼の最大値の1.5×10-6mm3/(N・mm)より多いので、表3の耐摩耗性評価が×である。
【0045】
No.34は、表2のMo+W/2の値が0.80%と発明鋼の最低値の1.00%より低いため、表3の比摩耗量が1.9×10-6mm3/(N・mm)と発明鋼の最大値の1.5×10-6mm3/(N・mm)より多いので、表3の耐摩耗性評価が×である。
【0046】
No.35は、表2のMo+W/2の値が3.30%と発明鋼の2.00%より高いため、表3のシャルピー衝撃値が21J/cm2と発明鋼の最低値の30J/cm2より小さいので、表3の靭性評価が×である。
【0047】
No.36は、表2のV+Nb/2の値が1.80%と発明鋼の最高値の1.5%より高いため、表3のシャルピー衝撃値が21J/cm2と発明鋼の最低値の30J/cm2より低いので、表3の靭性評価が×である。
【0048】
No.37は、表2のV+Nb/2の値が0.20%と発明鋼の最低値の0.50%より低いため、表3の比摩耗量が1.8×10-6mm3/(N・mm)と発明鋼の最大値の1.5×10-6mm3/(N・mm)より多いので、表3の耐摩耗性評価が×である。
【0049】
No.38は、表2のAlが0.05%と発明鋼のAlの最高値の0.03%より高いので、表3のシャルピー衝撃値が25J/cm2と発明鋼の最低値の30J/cm2より低いので、表3の靭性評価が×である。
【0050】
No.39は、表2のAlが0.00%と発明鋼のAlの最低値の0.01%より低く、さらにNが0.0050%と発明鋼の0.0100%より低いので、表3の比摩耗量が2.0×10-6mm3/(N・mm)と発明鋼の最大値の1.5×10-6mm3/(N・mm)より多いので、表3の耐摩耗性評価が×である。
【0051】
No.40は、表2の1μm以上の炭化物および窒化物の面積率が1.1%と発明鋼の1.0%より高いため、表3のシャルピー衝撃値が26J/cm2と発明鋼の最低値の30J/cm2より低いので、表3の靱性評価が×である。
【0052】
No.41は、表2の30μm2以上の面積を有する炭化物および窒化物の個数が21個/mm2と発明鋼の20個/mm2より多いので、粗大な炭化物が多くなり、表3のシャルピー衝撃値が29J/cm2と発明鋼の最低値の30J/cm2より低いので、表3の靱性評価が×である。