特許第6900469号(P6900469)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6900469
(24)【登録日】2021年6月18日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】成膜装置および圧電膜の成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20210628BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20210628BHJP
   H01L 21/363 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
   C23C14/34 T
   C23C14/08 K
   H01L21/363
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-517536(P2019-517536)
(86)(22)【出願日】2018年4月18日
(86)【国際出願番号】JP2018016051
(87)【国際公開番号】WO2018207577
(87)【国際公開日】20181115
【審査請求日】2019年11月1日
(31)【優先権主張番号】特願2017-92959(P2017-92959)
(32)【優先日】2017年5月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 直樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 秀治
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−068918(JP,A)
【文献】 特表2008−538852(JP,A)
【文献】 特開2000−133412(JP,A)
【文献】 特開2009−249713(JP,A)
【文献】 特表2016−534225(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/136255(WO,A1)
【文献】 特開2003−277909(JP,A)
【文献】 特開2002−217168(JP,A)
【文献】 特表2012−518722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−16/56
H01L 21/31
21/316
41/316
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜ガスの導入と排気が可能な成膜チャンバと、該成膜チャンバ内に配置された、ターゲットを保持するターゲット保持部と、前記成膜チャンバ内に前記ターゲット保持部と対向して配置された、基板を保持する基板保持部と、前記ターゲット保持部と前記基板保持部との間の空間にプラズマを発生させる高周波スパッタ電源とを備え、前記ターゲットをスパッタして前記基板に薄膜を成膜する成膜装置であって、
前記成膜チャンバ内に、前記ターゲットがスパッタされて飛散したターゲット材料が前記成膜チャンバの内壁面に付着するのを防止する防着機構を備え、
該防着機構が、前記基板保持部上の前記基板が設置される領域の周縁に備えられた基板周縁防着板と、該基板周縁防着板の外周に該基板周縁防着板と離間して配置された基板外周域防着板とを少なくとも含む複数の防着板からなり、
前記基板周縁防着板および前記基板外周域防着板のいずれか一方の防着板に電気的に接続された、該一方の防着板の電位を調整する電位調整機構を備え、
前記電位調整機構と接続された前記一方の防着板と、前記複数の防着板のうち該一方の防着板と隣り合って配置される防着板とが、0.5mm〜3.0mmの間隔で配置されており、
前記成膜チャンバ内における異常放電の発生を検出する異常放電検出部と、
前記異常放電検出部により、前記異常放電の発生が検出された場合に、異常放電を抑制する異常放電制御部を備え、
前記異常放電制御部が、前記薄膜が所定厚みに達した後、前記高周波スパッタ電源をオフする際に、プラズマインピーダンスを制御して、プラズマ密度を段階的に下げるものである、成膜装置。
【請求項2】
前記高周波スパッタ電源に接続されたインピーダンス整合器を備え、
前記異常放電制御部が、前記インピーダンス整合器を制御して放電周波数を調整することにより前記プラズマインピーダンスを制御する請求項記載の成膜装置。
【請求項3】
前記異常放電制御部が、前記電位調整機構による前記電位の調整を制御することにより、前記プラズマインピーダンスを制御する請求項記載の成膜装置。
【請求項4】
請求項1からいずれか1項記載の成膜装置を用いた圧電膜の成膜方法であって、
前記高周波スパッタ電源をオンにしてプラズマを生成してスパッタを開始し、
前記電位調整機構により、グランド電位に対する電位差が20V以上となる電位を前記一方の防着板に与えた状態で、前記基板上にターゲット材料を堆積させて圧電膜を成膜する圧電膜の成膜方法。
【請求項5】
前記高周波スパッタ電源をオフする際に、前記高周波スパッタ電源の出力を段階的に下げることにより前記プラズマ密度を段階的に下げる請求項記載の圧電膜の成膜方法。
【請求項6】
前記高周波スパッタ電源をオフする際に、前記高周波スパッタ電源の出力をパルス駆動し、パルス周波数を段階的に下げることにより前記プラズマ密度を段階的に下げる請求項記載の圧電膜の成膜方法。
【請求項7】
前記高周波スパッタ電源をオフする際に、前記プラズマ密度を段階的に下げると共に、前記電位調整機構を用いて前記一方の防着板の電位を調整することにより前記プラズマ密度を段階的に下げる請求項からいずれか1項記載の圧電膜の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング法により薄膜を成膜するための成膜装置およびその成膜装置を用いた圧電膜の成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリング法による成膜方法は薄膜の成膜技術としてよく知られている。スパッタ成膜装置においては、成膜チャンバ内にプラズマを発生させ、その成膜チャンバ内に配置されたターゲットをスパッタし、ターゲットと対向して配置される基板の表面にターゲット材料を堆積させることにより薄膜を形成することができる。このスパッタ成膜装置においては、スパッタ成膜の際に成膜チャンバの内壁面にターゲット材料が付着するのを防止するために、成膜チャンバ内に防着板を備えている(特開平6−200369号公報、特開2003−247058号公報等)。
【0003】
スパッタ成膜を用い、圧電性の高い圧電膜を作製する方法が本出願人により提案されている(特開2009−249713号公報等)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既述の通り、成膜装置内において成膜時には、防着板にターゲット材料が付着し、繰り返し成膜を行うと、その付着量は徐々に増加する。防着板にターゲット材料が付着した状況下において、成膜チャンバ内にアーキングが発生すると、防着板に付着した堆積物が飛散しパーティクルとなり、成膜面上に付着する等の不具合が生じる場合がある。また、アーキングが発生すると基板表面に電位変化が生じ、成膜される薄膜の性能の低下(膜厚の減少、組成ズレなど)につながる場合がある。
【0005】
成膜対象が圧電膜である場合には、アーキングの発生により、パイロクロア層などの圧電性を有しない領域生じるなどの圧電性能の低下による問題が著しい。
また、パーティクルは、デバイス製造時に配線のショート、圧電膜の絶縁破壊などによる歩留まりの低下を引き起こす原因となり、また、デバイス中にパーティクルが存在すると、耐久性の劣化や高温駆動耐性の低下を引き起こす。歩留まりよく圧電膜を成膜するためには、アーキング発生による歩留まりの低下、基板面内での膜厚や膜性能の面内分布低下を抑制する必要がある。すなわち、成膜方法としては、均一な膜厚および膜性能を有する圧電膜の成膜方法が求められている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、アーキングの発生を抑制できる成膜装置を提供することを目的とする。また、本発明は、均一な膜厚および膜性能を有する圧電膜の成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の成膜装置は、成膜ガスの導入と排気が可能な成膜チャンバと、成膜チャンバ内に配置された、ターゲットを保持するターゲット保持部と、成膜チャンバ内にターゲット保持部と対向して配置された、基板を保持する基板保持部と、ターゲット保持部と基板保持部との間の空間にプラズマを発生させる高周波スパッタ電源とを備え、ターゲットをスパッタして基板に薄膜を成膜する成膜装置であって、
成膜チャンバ内に、ターゲットがスパッタされて飛散したターゲット材料が成膜チャンバの内壁面に付着するのを防止する防着機構を備え、
防着機構が、基板保持部上の基板が設置される領域の周縁に備えられた基板周縁防着板と、基板周縁防着板の外周に基板周縁防着板と離間して配置された基板外周域防着板とを少なくとも含む複数の防着板からなり、
基板周縁防着板および基板外周域防着板のいずれか一方の防着板に電気的に接続された、一方の防着板の電位を調整する電位調整機構を備え、
電位調整機構と接続された一方の防着板と複数の防着板のうち一方の防着板と隣り合って配置される防着板とが、0.5mm〜3.0mmの間隔で配置されている成膜装置である。
【0008】
本発明の成膜装置においては、成膜チャンバ内における異常放電の発生を検出する異常放電検出部と、異常放電検出部により、異常放電の発生が検出された場合に、異常放電を抑制する異常放電制御部を備えていることが好ましい。
【0009】
本発明の成膜装置においては、異常放電制御部が、プラズマインピーダンスを制御するものであることが好ましい。
【0010】
本発明の成膜装置においては、高周波スパッタ電源に接続されたインピーダンス整合器を備え、異常放電制御部が、インピーダンス整合器を制御して放電周波数を調整することによりプラズマインピーダンスを制御するものであってもよい。
【0011】
本発明の成膜装置においては、異常放電制御部が、電位調整機構による電位の調整を制御することにより、プラズマインピーダンスを制御するものであってもよい。
【0012】
本発明の圧電膜の成膜方法は、上記の本発明の成膜装置を用いた成膜方法であって、
高周波スパッタ電源をオンにしてプラズマを生成してスパッタを開始し、
電位調整機構により、グランド電位に対する電位差が20V以上となる電位を一方の防着板に与えた状態で、基板上にターゲット材料を堆積させて圧電膜を成膜する圧電膜の成膜方法である。
【0013】
本発明の圧電膜の成膜方法においては、圧電膜が所定厚みに達した後、高周波スパッタ電源をオフする際に、プラズマ密度を段階的に下げることが好ましい。
【0014】
上記高周波スパッタ電源をオフする際に、高周波スパッタ電源の出力を段階的に下げることによりプラズマ密度を段階的に下げることができる。
あるいは、高周波スパッタ電源をオフする際に、高周波スパッタ電源の出力をパルス駆動し、パルス周波数を段階的に下げることによりプラズマ密度を段階的に下げてもよい。
【0015】
さらには、上記高周波スパッタ電源をオフする際に、プラズマ密度を段階的に下げると共に、電位調整機構を用いて一方の防着板の電位を調整することによりプラズマ密度を段階的に下げてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の成膜装置は、成膜チャンバ内に、成膜チャンバの内壁面へのターゲット材料の付着を防止する防着機構を備え、防着機構が基板保持部上の基板が設置される領域の周縁に備えられた基板周縁防着板と、基板周縁防着板の外周に基板周縁防着板と離間して配置された基板外周域防着板とを少なくとも含む複数の防着板からなり、基板周縁防着板および基板外周域防着板のいずれか一方の防着板に電気的に接続された、一方の防着板の電位を調整する電位調整機構を備え、電位調整機構と接続された一方の防着板と、複数の防着板のうちその一方の防着板と隣り合って配置される防着板とが、0.5mm〜3.0mmの間隔で配置されているので、アーキング発生を抑制することができる。アーキング発生を抑制することができるので、安定なプラズマによる成膜を行うことができ、また成膜チャンバ内におけるパーティクルの発生を抑制することができる。したがって、均一な膜厚および膜性能の薄膜を得ることができる。また、電位調整機構を備えているので、成膜時には基板もしくは基板周囲の電位をプラズマ電位に近づけることができ、逆スパッタを抑制することができる。特にPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)系の圧電膜の場合にはPb抜けによる膜性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1の実施形態の成膜装置の概略構成を示す模式図である。
図2】第1の実施形態の成膜装置の一部を拡大して示した拡大図である。
図3】成膜装置中における、基板、基板周縁防着板および基板外周域防着板の位置関係を示す平面図である。
図4】第2の実施形態の成膜装置の概略構成を示す模式図である。
図5】第3の実施形態の成膜装置の概略構成を示す模式図である。
図6】第1の電位調整機構を示す回路図である。
図7】第2の電位調整機構を示す回路図である。
図8】第3の電位調整機構を示す回路図である。
図9】第4の電位調整機構を示す回路図である。
図10】第4の実施形態の成膜装置の概略構成を示す模式図である。
図11】第5の実施形態の成膜装置の概略構成を示す模式図である。
図12A】アーキング発生時の電位変化の一例を示す図である。
図12B】アーキング発生時の電位変化の他の一例を示す図である。
図12C】アーキング発生時の電位変化のさらに他の一例を示す図である。
図13A】電源オフ時のRF出力(高周波スパッタ電源の出力)制御の一例を示す図である。
図13B】電源オフ時のRF出力制御の他の一例を示す図である。
図13C】電源オフ時のRF出力制御のさらに他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の圧電膜成膜装置および圧電膜の成膜方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
図1に、本発明の第1の実施形態の圧電膜の成膜装置の概略構成を示す。
本成膜装置1は高周波スパッタリング装置から構成される。成膜装置1は、成膜ガスGの導入と排気が可能な成膜チャンバ15と、成膜チャンバ15(以下において、単に「チャンバ15」ともいう。)内に配置された、ターゲットTを保持するターゲット保持部であるバッキングプレート11と、成膜チャンバ15内にバッキングプレート11と対向して配置された、基板Sを保持する基板保持部であるステージ12と、カソードとして機能するバッキングプレート11およびステージ12間の空間(成膜処理空間)にプラズマを発生させる高周波スパッタ電源18(以下において、RFスパッタ電源18という。)とを備えている。
【0020】
ステージ12は、基板Sを所定温度に加熱することが可能な構成を有し、成膜チャンバ15の内壁面に固定された支持台13上に固定されている。支持台13の少なくとも一部は絶縁体から構成されており、この支持台13によりステージ12と成膜チャンバ15とは電気的に分離されている。
【0021】
バッキングプレート11はチャンバ15の外部に配置されたRFスパッタ電源18に接続されており、バッキングプレート11がプラズマを発生させるためのプラズマ電極(カソード電極)を兼ねる。ターゲットTの使用効率を良くするため、成膜速度を速くするため、および膜厚を均一にするためにバッキングプレート11の外部にマグネトロン磁石19が配置されている。
【0022】
成膜装置1においては、RFスパッタ電源18およびプラズマ電極(カソード電極)として機能するバッキングプレート11がチャンバ15内にプラズマを発生させるプラズマ発生手段を構成する。
【0023】
成膜装置1には、チャンバ15内に成膜ガスGを導入するガス導入手段16と、チャンバ15内のガスの排気Vを行なうガス排出管17が備えられている。成膜ガスとしては、Ar、またはAr/O混合ガスなどが使用される。
【0024】
さらに、成膜装置1には、チャンバ15内において、ターゲットがスパッタされて飛散したターゲット材料が成膜チャンバの内壁面に付着するのを防止する防着機構20が備えられている。防着機構20は、複数の防着板から構成されており、成膜処理空間とチャンバ15の内壁面との間を仕切るように、成膜処理空間を囲んで配置されている。成膜装置1において、防着機構20は、ターゲット外周域防着板21と、基板周縁防着板23と、基板外周域防着板22とから構成されている。ターゲット外周域防着板21は、バッキングプレート11側のチャンバ15の内壁面に固定され、バッキングプレート11に装着されるターゲットTの外周を囲み、ターゲットTと離間して備えられている。基板周縁防着板23は、ステージ12上の基板Sが設置される領域の周縁に備えられている。基板外周域防着板22は、基板周縁防着板23の外周に基板周縁防着板23と離間して備えられている。
【0025】
そして、本成膜装置1においては、基板周縁防着板23に電気的に接続され、基板周縁防着板23の電位を調整する電位調整機構100が備えられている。電位調整機構100はステージ12に接続されており、基板周縁防着板23とはステージ12を介して電気的に接続されている。
【0026】
電位調整機構100は、例えば、高周波電源およびその高周波電源とステージ12との間のインピーダンスを調整するためのインピーダンス整合器等から構成することができる。その他、ステージ12の電位を調整するためのインピーダンスが可変なLCR(L:インダクタンス、C:キャパシタンス、R:レジスタンス)回路を備えて、ステージ12のインピーダンスを可変させることで電位を変更できる構成であってもよい。
【0027】
本例においては、図2に示すように、基板周縁防着板23と基板外周域防着板22とは図中水平軸方向において距離d、水平軸方向に垂直な垂直軸方向においてdで離間して配置されている。ここでは、距離dおよびdが0.5mm以上3.0mm以下となるように防着板22、23は配置されている。なお、距離dおよびdは1.0mm以上であることが好ましく、1.5mm以上であることがより好ましく、2.0mm以上であることがさらに好ましい。また、基板周縁防着板23と基板外周域防着板22と対向する位置同士の距離(間隔)は全域に亘って3.0mm以下、好ましくは3.0mm未満、さらに好ましくは2.5mm以下である。
【0028】
なお、基板周縁防着板23と基板外周域防着板22を含む防着機構20を構成する複数の防着板は、チャンバ15の内壁面へのターゲット材料の付着を防止する観点から、隣り合う防着板同士の隙間が全域に亘って3.0mm未満、好ましくは2.5mm以下であることが好ましい。
【0029】
なお、図3に示すように、図中グレーで示す基板周縁防着板23は円形の基板Sを囲むリング状の防着板であり、以下において防着リング23と称する。基板外周域防着板22は防着リング23と同心円状のリング面状部22aと円筒部22bから構成されている。基板外周域防着板22は、その円筒部22bの一部がチャンバ15の内壁面に固定されている(図1参照)。
【0030】
チャンバ15の壁面はグランド(GND)電位とされており、チャンバ15の内壁面に固定されて電気的に接続されているターゲット外周域防着板21および基板外周域防着板22はいずれもGND電位とされている。
【0031】
一方、防着リング23はチャンバ15に接続されておらず、基板外周域防着板22とは異なる電位を有するものとなっている。防着リング23は電位調整機構100により任意に電位が変化可能とされており、基板外周域防着板22はGND電位である。詳細は後述するが、圧電膜を成膜する場合にはステージ12の電位をプラズマ電位に近づけるためにステージ12にGND電位に対して所定の電位差を与えるように制御する。そのため、成膜時において、防着リング23と基板外周域防着板22とには電位差が生じる。電位差のある箇所ではアーキングが生じ得るが、防着リング23と基板外周域防着板22との距離を0.5mm以上と設定することにより、アーキングの発生を抑制することができる。両者の距離を1.5mm以上とすることにより、さらに効果的にアーキングの発生を抑制することができる。なお、防着リング23と基板外周域防着板22との距離を3.0mm以下としておくことにより、成膜中にスパッタされたターゲット材料が防着板間に回り込んで、ステージ12の側面やチャンバの内壁面に付着するのを抑制できる。上記距離を2.5mm以下とすることがより好ましい。
このように、電位差を有する防着板間の距離を0.5mm以上、好ましくは1.5mm以上、さらに好ましくは2.0mm以上とすることにより、アーキングの発生を抑制することができる。
【0032】
成膜する薄膜が圧電膜である場合には、基板の電位をプラズマ電位(例えば、40〜50V程度)に近いものとすることにより、圧電膜の膜性能を高めることができる。したがって、圧電膜を成膜する際には、電位調整機構100によりGND電位に対して20V以上の電位差の電位をステージ12に与えることが好ましい。この電位調整により、防着リング23と基板外周域防着板22との電位差は20V以上となるような場合には、アーキング発生抑制のために両者の距離を1.5mm以上とすることが好ましく、2.0mm以上とすることがより好ましい。
【0033】
なお、基板外周域防着板22をチャンバ15の壁面に接続することなくフローティング電位としても良い。基板外周域防着板22がフローティング電位である場合、防着リング23、あるいはターゲット外周域防着板21とは異なる電位を有するものとなる。この場合、基板外周域防着板22と防着リング23との間のみならず、基板外周域防着板22とターゲット外周域防着板21との距離も0.5mm以上3.0mm以下の関係を満たしていることが好ましい。上記の場合と同様に、0.5mm以上であれば、電位差が生じた箇所で発生しうるアーキングを抑制する効果を得ることができ、3.0mm以下であれば材料の回り込みを抑制できるからである。すなわち、隣り合って配置される防着板同士に電位差が生じるとアーキングが発生する恐れがあるため、電位差を有して隣り合う防着板同士は0.5mm以上、好ましくは1.5mm以上、より好ましくは2.0mm以上の間隔で配置する。
【0034】
防着機構20を構成する各防着板の材質は、非磁性体金属であることが望ましい。一般的に用いられるステンレス鋼であるSUS304は、マグネトロンスパッタにおける強磁場化において磁性を持ってしまい、防着板間でも磁界が発生する。そのため磁界によって電子が移動し安くなるのでアーキングが発生しやすくなってしまう。防着板の材質が非磁性体金属であれば、磁化されないため、アーキングの発生抑制につながる。非磁性体金属の中でも圧電膜との密着性も良い点からTiを用いることが有効である。しかしTiは高価であるため、比較的安価なステンレス鋼を用いることが良い。ステンレス鋼のうち、磁性を持ちにくいSUS304LやSUS305、SUS305M、SUS316、SUS316Lを用いることが有効である。
【0035】
図4は、第2の実施形態の成膜装置2の概略構成を示す。第1の実施形態の成膜装置1と同等の要素については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。以下の実施形態において同様とする。
本実施形態の成膜装置2は、防着機構20の構成が成膜装置1の場合と一部異なっている。本実施形態においては成膜装置1におけるリング面状部と円筒部を有する基板外周域防着板22に代えて、防着リング23の外周に沿ったリング面状部からなる基板外周域防着板25と、その基板外周域防着板25のさらに外周に配置される円筒状の防着板24とを備えている。
【0036】
本成膜装置2においては、基板Sがフローティング電位とされている。すなわち、基板Sを支持するステージ12および基板Sの外周縁に備えられている防着リング23がフローティング電位とされている。他方、基板外周域防着板25に電位調整機構100が接続されており、基板外周域防着板25の電位が調整可能とされている。円筒状の防着板24はチャンバ15と接続されてGND電位となっている。
【0037】
すなわち、本成膜装置2においては、ターゲット外周域防着板21と円筒状の防着板24はGND電位、基板外周域防着板25は調整された任意の電位、防着リング23はフローティング電位を有することとなる。既述の通り、成膜中において、隣り合う防着板間で電位差があるとアーキングが生じやすくなる。したがって、本成膜装置2においては、隣り合う円筒状の防着板24と基板外周域防着板25の距離、および、基板外周域防着板25と防着リング23の距離はいずれも0.5mm以上、好ましくは1.0mm以上、より好ましくは1.5mm以上、さらに好ましくは2.0mm以上となるように設置される。これにより、各防着板間におけるアーキングの発生を抑制することができ、良好な圧電膜の成膜を実現することが可能となる。
【0038】
図5は、第3の実施形態の成膜装置3の概略構成を示す。
本実施形態の成膜装置3においては防着機構20が6つの防着板23、25〜29から構成されている。防着リング23と、その外周に沿ったリング面状部みからなる基板外周域防着板25とは既述の成膜装置2と同様である。さらには4つの円筒状の防着板26、27、28および29が共働して成膜処理空間を囲むように配置されている。
【0039】
本実施形態の成膜装置3では、防着リング23には、基板Sのステージ12を介して第1の電位調整機構100Aが接続され、基板外周域防着板25には第2の電位調整機構100Bが接続され、最も大きい円筒状の防着板27には第3の電位調整機構100Cが接続される。そして、第1の電位調整機構100A、第2の電位調整機構100Bおよび第3の電位調整機構100Cのそれぞれが、電位調整可能とされている。他の3つの円筒状の防着板26、28および29はチャンバ15の内壁面に固定されており、電気的にもチャンバと接続されたGND電位である。
このように、本発明の成膜装置においては、防着機構20を構成する防着板の枚数には制限はなく、それぞれに、あるいはそのうちの単数あるいは複数の防着板に電位を調整する電位調整機構が設けられていてもよい。成膜時に電位差が生じる防着板間の間隔が0.5mm以上であればよい。また、隣り合う防着板の間隔はターゲット材料の回り込みを防止する観点から3.0mm未満であることが好ましく、2.5mm以下であることがさらに好ましい。
本構成によっても、防着板間におけるアーキングの発生を抑制する効果を奏する。また、複数の防着板に電位を調整する電位調整機構を備えているので、より均質な成膜に適した電位分布に設定することができる。
【0040】
上記各実施形態の電位調整機構100の具体的な構成例を図6〜9に示す。
図6に示す電位調整機構100は、インピーダンス整合器101と高周波電源102を備え、インピーダンス整合器101を介して高周波電源102がステージ12もしくは防着板に接続される。
図7に示す電位調整機構100は、インピーダンス整合器101と直流電源103を備え、インピーダンス整合器101を介して直流電源103がステージもしくは防着板に接続される。
上記図6および図7に示す電位調整機構によりステージもしくは防着板の電位を調整することが可能である。
【0041】
一方で、通常の高周波電源にインピーダンス整合器を用いた回路で形成された電位調整機構の場合、調整電位がマイナス電位となることがある。プラズマ電位と基板周辺の電位との差を小さくして、逆スパッタを抑制するためには、調整電位をプラス電位とする必要がある。調整電位をプラス電位とするためには、図8に示すような通常の高周波電源112にインピーダンス整合器111を用いた回路に高周波フィルタ113を介して直流電源114を接続した構成の電位調整機構100を用いればよい。図8に示す電位調整機構100によれば、電位をプラスに調整することが可能である。
【0042】
また、図9に示すような、高周波電源122に接続されたトランスコア121を備えた回路にさらにコンデンサ125、抵抗124を介して直流電源123が接続されてなるトランス結合型の回路構成の電位調整機構100を用いてもよい。図9に示す電位調整機構100によれば、電位をプラスに調整することが可能である。
【0043】
本発明の成膜装置においては、さらに、異常放電検出部および異常放電制御部を備えてもよい。
図10に、第4の実施形態の成膜装置4の概略構成を示す。
本成膜装置4は、図1に示した第1の実施形態の成膜装置1において、RFスパッタ電源18に接続された異常放電検出部50と、異常放電検出部50に接続された異常放電制御部52を備え、さらにRFスパッタ電源18とバッキングプレート11との間にインピーダンス整合器54を備えている。
【0044】
成膜中にアーキングが発生すると、RFスパッタ電源18におけるVppやVdc値が変化する。異常放電検出部50はそのVppあるいはVdcをモニタすることにより、その変化により異常放電を検収する。そして異常放電を検出した場合には、RFスパッタ電源18、インピーダンス整合器54および電位調整機構100に接続された異常放電制御部52がRFスパッタ電源18、インピーダンス整合器54および/または電位調整機構100に、プラズマインピーダンスを制御するための信号を送信し、操作することで発生している異常放電を抑制する。
【0045】
図11に、第5の実施形態の成膜装置5の概略構成を示す。
本成膜装置5は、図1に示した第1の実施形態の成膜装置1において、電位調整機構100に接続された異常放電検出部50およびその異常放電検出部50に接続された異常放電制御部52を備え、またRFスパッタ電源18とバッキングプレート11との間にインピーダンス整合器54を備えている。成膜中に異常放電が発生すると、RFスパッタ電源18におけるVppやVdc値が変化する。RFスパッタ電源18のVppあるいはVdcが変化すると電位調整機構100により電位が調整されたステージ12や防着板23の電位も変化する。本装置5おいては、異常放電検出部50は、ステージ12の電位をモニタしており、その変化により異常放電を検収する。そして異常放電を検出した場合には、電位調整機構100と、RFスパッタ電源18およびインピーダンス整合器54とに接続された異常放電制御部52が電位調整機構100、RFスパッタ電源18および/またはインピーダンス整合器54にプラズマインピーダンスを制御するための信号を送信し、操作することで発生している異常放電を抑制する。
【0046】
図11の成膜装置5において異常放電検出部50にて異常放電時のステージ電位の変化を図12A図12Cに模式的に示す。通常放電時には、電位は一定となっているが、異常放電発生時には、電圧が変動している。図12Aに示すように、異常放電が生じ初期電位より電位が低下する。図12Bに示すように、異常放電時に電位が一旦低下し、その後すぐに初期電位に戻る場合もある。さらに、図12Cに示すように、異常放電発生時から電位が周期的に変化し、断続的に異常放電が発生する場合もある。
【0047】
最初の異常放電を検出した時点でプラズマインピーダンスを制御することにより、異常放電の継続を抑制したり、さらなる異常放電の発生を抑制したりすることが可能となる。異常放電の制御時には、プラズマ電位を下げるようにプラズマインピーダンスを制御する。プラズマインピーダンスの制御としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0048】
カソード側のインピーダンス整合器54のインピーダンスを変化させることによりプラズマインピーダンスを制御し、プラズマ電位を下げることで異常放電を抑制することができる。
【0049】
また、RFスパッタ電源18の出力を微調整することによりプラズマインピーダンスを制御し、プラズマ電位を下げることで異常放電を抑制することができる。出力の微調整は、例えば、成膜中のRFスパッタ電源の出力が2.0kWだった場合に、1.5kWに1秒程度下げてから元に戻すなどである。
【0050】
あるいは、RFスパッタ電源18の放射周波数を微調整することによりプラズマインピーダンスを制御し、プラズマ電位を下げることで異常放電を抑制することもできる。放射周波数の微調整は、例えば、通常時13.56MHzで出力している周波数を数Hzごとに変化させるなどである。
【0051】
電位調整機構100を用いたプラズマインピーダンスの制御は、電位調整機構100内の電源の出力を変える、あるいはLCR回路のインピーダンスを調整するなどにより、電位を変化させることで実現できる。したがって、電位調整機構100により異常放電を抑制することができる。例えば一時的にステージ12の電位を低くして異常放電を抑制し異常放電が無くなったら元に戻せばよい。
【0052】
<圧電膜の成膜方法>
本発明の成膜装置を用いた圧電膜の成膜方法の実施形態について説明する。
【0053】
本発明の成膜装置を用いて成膜する圧電膜の種類は限定されるものではないが、例えば、一般式ABOで表されるペロブスカイト型酸化物を含む圧電膜が挙げられる。
【0054】
特に、一般式中、A(以下、Aサイトとも記載する。)が少なくともPbを含むものである場合に本発明の成膜装置を用いる効果が高い。スパッタ成膜において、Pbは逆スパッタされやすく、欠損を生じやすい。本発明の成膜装置を用いれば、Pb欠損を効果的に抑制することできる。
また、一般式P中、B(以下、Bサイトとも記載する。)が、少なくともZrおよびTiを含む、所謂PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)系の圧電膜の成膜に特に適する。
【0055】
以下、上記第1の実施形態の成膜装置1を用いた圧電膜の成膜方法を説明する。
PZTからなる圧電膜を成膜する場合、例えば、以下のような成膜条件とする。
ターゲットTには、PZTを用いる。組成比は所望の圧電膜に応じて選択されたものとする。
基板Sは特に制限されず、Si基板、酸化物基板、ガラス基板、および各種フレキシブル基板など、用途に応じて適宜選択することができる。なお、圧電素子を製造する場合には、上記各種基板の表面に電極層を備えているものを用いればよい。
成膜ガスとしてアルゴンに酸素ガスを添加した混合ガスを用いることが好ましい。アルゴンガスは10〜100sccmとし、酸素ガスの添加量は0.1〜10%とすれば良く例えば、アルゴンガスを50sccmとし酸素ガスを5sccmとする。チャンバ15内の真空度は、0.1〜1.0Paとすれば良く、例えば0.5Paとする。プラズマ生成するためのRFスパッタ電源18の出力は、1〜5kWとすれば良く、例えば2kWとする。基板温度は、400〜700℃にすれば良く、例えば500℃とする。
【0056】
RFスパッタ電源18をオンにしてチャンバ15内にプラズマを生成させることによりスパッタを開始する。電位調整機構100により、ステージ12および防着リング23に対して20V以上の電位を与えた状態でスパッタを実施する。
【0057】
電位調整機構100によりステージ12および防着リング23が20V以上の電位とされているので、基板SをGND電位としている場合と比較して、プラズマ電位に近づけることができる。プラズマ電位との電位差を小さくすることにより、基板Sへのイオンの衝突エネルギーを低くすることができる。基板の電位とプラズマ電位との差が大きいと逆スパッタが増加し、成膜レートが低下したり、結晶欠陥が生じて圧電膜の圧電性能が低下したりするなどの問題が生じる。しかし、基板Sの電位を制御してプラズマ電位に近づけることにより、基板Sへの逆スパッタを抑制することができ、十分な成膜レートを確保することができる。また、逆スパッタの抑制により、PZT系の圧電膜におけるPbイオンをペロブスカイト構造のAサイトに配置することができ、結晶中の不安定なPbイオンの量を減らすことができる。結果として、Pb欠損を抑制することができるので、高い圧電性能を有する圧電膜を成膜することができる。
【0058】
このように、成膜装置1を用いれば、ステージ12に20V以上の電位を与えることで、基板Sおよびその周縁の防着リング23の電位を高めてプラズマ電位に近づけることができる。なお、成膜装置2のように、ステージ12をフローティング電位としておけば、周囲のプラズマ電位や電位調整機構100により20V以上に設定された基板外周域防着板22の電位などの周囲の電位に近い電位となる。結果として基板Sをプラズマ電位に近い電位とすることができる。
【0059】
上記のように成膜を行い、所定厚み(任意に定められる所望の厚み)に達した後、RFスパッタ電源18をオフして成膜を停止する。ここで、RFスパッタ電源をオフする際に、プラズマ密度を段階的に下げるようにすることが好ましい。
【0060】
本発明者らの調査によれば、圧電膜の成膜工程におけるパーティクル発生は、成膜中(アーキングなど)に加えて成膜終了時にも起こりうる。成膜終了時には、プラズマをオフするため、チャンバ15内で急激な電位変化が起こる。防着板に圧電膜が堆積した状態では、防着板表面(堆積物の表面)のシース電場に起因した電場応力が堆積物に撃力として作用する。この撃力による瞬間的発生する強い力の作用により堆積物が防着板表面から剥離してパーティクルが発生する。電位の急変により生じる撃力は電位の急変を生じさせないことにより抑制できる。すなわち、チャンバ15内のプラズマ電位は、プラズマ密度をコントロールすることで制御することができ、プラズマ密度を段階的に下げることでプラズマ電位を段階的に下げることができる。
【0061】
プラズマ密度はRFスパッタ電源の出力を下げることで下げることができる。この場合、RFスパッタ電源の出力をガス流量や真空度の制御と組み合わせて下げてもよい。
例えば、RFスパッタ電源の高周波出力を2kWとして成膜していた場合、図13Aに模式的に示すように、RFスパッタ電源の出力を2.0kW→1.5kW→1.0kW→0.5kW→0kWと段階的に出力を下げる。この時、出力は1〜300秒ごとに1段階ずつ段階的に下げる。
また、図13Bに示すように、RFスパッタ電源の出力を徐々に出力を下げる(連続的に出力を下げる)ことで、より撃力の抑制効果を得ることができる。
【0062】
また、RFスパッタ電源の出力を下げる方法には、CW(continuous wave)駆動からパルス駆動に切り替えて出力を下げる方法がある。また、放電周波数を初期値、例えば13.56MHzから段階的に下げていく方法、放電周波数は一定とし、図13Cに示すように、Duty比を100%から下げていく方法によっても、RFスパッタ電源の出力を段階的に下げることができる。パルス放電に切り替えて出力を下げるには、Duty比を50%としてオン/オフの時間を変えてパルス周波数を下げていく方法、パルス周波数を100kHzとしてDutyを100%から段階的に0%になるように下げて行く方法、および周波数とDuty比の両方を段階的に下げる方法などがある。Duty比を下げる時間は、60〜180secで行えば良い。
【0063】
RFスパッタ電源をオフする際に、プラズマ密度を段階的に下げると同時に防着板やステージにある電位調整機構100を用いて電位を調整することも有効である。例えば、プラズマ密度が下げると同時に電位調整機構100内に設けられた高周波電源または直流電源の出力を段階的に下げることやLCR回路のインピーダンスを調整することにより急激な電位変化を抑制することができる。
【0064】
このように、RFスパッタ電源の出力を段階的に下げることにより、いきなり電源をオフにする場合と比較してパーティクルの発生を抑制することができ、成膜した圧電膜に付着するパーティクル数を低減することができる。
なお、段階的に出力を下げる場合、下げる時間を長くするほど電位変化を緩やかにすることができる。一方で、出力を下げる時間を長くしすぎると、圧電膜の組成が変わるなど膜質が変化する場合がある。そのため、時間は、60〜180sec程度に設定することが望ましい。
【0065】
以下、圧電膜の成膜における本発明の成膜装置の効果および本発明の成膜装置を用いた成膜方法による効果を検証した結果を説明する。
【0066】
以下の検証実験においては、図1の成膜装置1を用いてPZT膜の成膜を行った。
ターゲットTには、PZTを用い、基板としてSi基板を用いた。成膜ガスとしてアルゴンガスを50sccm、酸素ガスを5sccmとした混合ガスを用いた。チャンバ15内の真空度は0.5Paとし、プラズマ生成するためのRFスパッタ電源18の出力は、2kWとした。また、基板温度は500℃とした。
【0067】
<検証実験1>
図1の成膜装置1を用い、防着リング23と基板外周域防着板22の距離を0.5mm〜3.0mmの範囲で変化させ、各距離において、電位調整機構100によりステージ12すなわち防着リング23のGND電位に対する電位差を10V、20V、30Vに調整してPZT膜の成膜を行った。図1の成膜装置1において基板外周域防着板22はGND電位であるので、基板外周域防着板と防着リング23との電位差は10V、20V、30Vである。
それぞれの条件における成膜時の異常放電の発生の有無を調べた。また、各距離で成膜を実施した場合における、ターゲット材料のチャンバ内壁面への回り込みの有無を調べた。結果を表1に以下に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
防着板間距離が0.5mmであっても電位差が10Vであれば異常放電は生じなかった。防着板間の距離を1.5mm以上とすれば異常放電を抑制することにより有効であることが明らかになった。また、電位差を低く(小さく)することで異常放電を抑制する効果があることが分かる。防着板間距離を2.0mm以上とすれば電位差が30Vあっても、異常放電が生じなかった。一方で、防着板間の距離が3.0mmであるとき、成膜チャンバへの壁面に堆積物が発生した。したがって防着板間の距離は3.0mm未満であることが好ましく、2.5mm以下が好ましいことが分かった。
【0070】
<検証実験2>
図1の成膜装置1を用い、電位調整機構100によりステージ12の電位(すなわち基板電位)をGND電位との電位差10V、20V、30Vとした場合の、PZT圧電膜の成膜レートを調べた結果を表2に示す。
【表2】
【0071】
電位差が20V以上であれば成膜レートは60nm/minであり、十分な生産性が得られる程度であった。良好な生産性を得るためには電位差を20V以上にすることが望ましい。
【0072】
<検証実験3>
本成膜終了時のプラズマ生成部の高周波出力を段階的に下げる方法と従来方法とのパーティクル数を比較した結果を表3に示す。
【0073】
比較例および実施例1〜6においてはPZT膜を成膜する工程は全て共通であり、最後のRFスパッタ電源をオフする段階のみ異ならせた。
比較例は、成膜時のRFスパッタ電源の出力2kWからそのまま電源をオフして0kWに落とした場合である。
実施例1〜3は図13Aに示したように、出力を2kWから0.5kWずつ0kWまで段階的に変化させた。実施例1〜3は、2kWから0kWにするまでの出力下げ時間が異なる。
実施例4は図13Bに示したように、出力を2kWから0kWまで連続的に下げた。このときの出力差が時間を60secとした。
実施例5は図13Cに示したように、パルス周波数のDuty比を変化させた。
実施例6は実施例1と同様に電源の出力を段階的に低下させると共に、電位調整機構の電源出力を段階的に低下させた。
【0074】
上記比較例および実施例1〜6の方法で作製した圧電膜について、表面に付着しているパーティクル数および膜質を調べた。
パーティクル数は、パーティクル検査装置(KLA-Tencor社製SP1)を用いてウエハ(wafer)全面におけるパーティクル数を測定した。
膜質は、蛍光X線分析装置(リガク社製WaferX310)を用いて膜組成から評価を実施した。膜質の変化は、各組成の割合の変化の有無から評価した。
【表3】
【0075】
表4に示すように、RFスパッタ電源をいきなりオフにした比較例と比べて、段階的に出力を下げることにより、パーティクル数が減る効果が確認できた。段階的に出力を下げる際の時間が長いほどパーティクル数は少ない傾向にあった。一方で、実施例3のように、出力を下げる時間が長いと膜質が変化することが明らかになった。
なお、スパッタ電源の出力を段階的に下げると共に、電位調整機構の電源出力も同時に段階的に下げた実施例6は最もパーティクル発生抑制の効果が高かった。
【符号の説明】
【0076】
1,2,3,4,5 成膜装置
11 バッキングプレート(ターゲット保持部)
12 ステージ(基板保持部)
13 支持台
15 成膜チャンバ
16 ガス導入手段
17 ガス排出管
18 高周波スパッタ電源
19 マグネトロン磁石
20 防着機構
21 ターゲット外周域防着板
22 基板外周域防着板
22a リング面状部
22b 円筒部
23 防着リング(基板周縁防着板)
24,25,26,27 防着板
50 異常放電検出部
52 異常放電制御部
54 インピーダンス整合器
100、100A、100B、100C 電位調整機構
101 インピーダンス整合器
102、112、122 高周波電源
103、114、123 直流電源
111 インピーダンス整合器
113 高周波フィルタ
121 トランスコア
124 抵抗
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図13C