特許第6900640号(P6900640)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6900640
(24)【登録日】2021年6月21日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】ガス供給装置及びガス供給方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/455 20060101AFI20210628BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20210628BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
   C23C16/455
   C23C16/34
   H01L21/285 C
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-152984(P2016-152984)
(22)【出願日】2016年8月3日
(65)【公開番号】特開2018-21229(P2018-21229A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】特許業務法人弥生特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100091513
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133776
【弁理士】
【氏名又は名称】三井田 友昭
(72)【発明者】
【氏名】大倉 成幸
(72)【発明者】
【氏名】布重 裕
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−124422(JP,A)
【文献】 特開2014−198872(JP,A)
【文献】 特開2016−023324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/455
C23C 16/34
H01L 21/285
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空雰囲気である処理容器内の基板に、原料ガス、雰囲気を置換するための置換ガス、及び前記原料ガスと反応して前記基板上に反応生成物を生成するための反応ガスを順番に複数サイクル供給して成膜するガス供給装置において、
前記原料ガスを前記処理容器内に供給するための原料ガス流路と、
前記反応ガスを前記処理容器内に供給するために前記原料ガス流路とは独立して設けられる反応ガス流路と、
前記原料ガス流路及び前記反応ガス流路に夫々接続され、キャリアガスを供給するための第1のキャリアガス流路及び第2のキャリアガス流路と、
前記第1のキャリアガス流路及び第2のキャリアガス流路に設けられたキャリアガスの供給制御機器とは別個の供給制御機器を介して前記置換ガスを夫々前記処理容器内に供給し、前記第1のキャリアガス流路及び第2のキャリアガス流路とは独立して設けられた第1の置換ガス流路及び第2の置換ガス流路と、
前記第1の置換ガス流路及び第2の置換ガス流路に夫々設けられ、前記置換ガスを貯留するガス貯留部と、
前記第1の置換ガス流路及び第2の置換ガス流路において前記ガス貯留部の下流側に設けられるバルブと、
前記複数サイクル供給して成膜する間、前記置換ガスが貯留されて前記ガス貯留部内が昇圧した後、当該ガス貯留部から前記置換ガスが前記処理容器内に供給されるように、前記バルブの開閉を制御する制御部と、
を備え、
前記第1の置換ガス流路は前記原料ガス流路に接続され、前記第2の置換ガス流路は前記反応ガス流路に接続され
前記第1のキャリアガス流路は、前記第1の置換ガス流路における前記バルブの下流側に接続されることで、当該第1の置換ガス流路を介して前記原料ガス流路に接続され、
前記第2のキャリアガス流路は、前記第2の置換ガス流路における前記バルブの下流側に接続されることで、当該第2の置換ガス流路を介して前記反応ガス流路に接続されることを特徴とするガス供給装置。
【請求項2】
前記キャリアガスを前記処理容器内へ供給する時間帯と、前記置換ガスを前記処理容器内へ供給する時間帯とが互いに重なることを特徴とする請求項1記載のガス供給装置。
【請求項3】
前記キャリアガスの前記処理容器内への供給は、前記複数サイクルの間連続して行われることを特徴とする請求項2記載のガス供給装置。
【請求項4】
前記処理容器内へ供給される前記キャリアガスの流量は、1000sccm以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載のガス供給装置。
【請求項5】
前記原料ガスは塩化チタンまたは塩化タングステンであり、前記反応ガスは、前記原料ガスを窒化して前記基板に窒化チタンまたは窒化タングステンを形成するための窒化ガスであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載のガス供給装置。
【請求項6】
前記第1のキャリアガス流路及び第2のキャリアガス流路には、オリフィスが設けられる請求項1ないし5のいずれか一つに記載のガス供給装置。
【請求項7】
真空雰囲気である処理容器内の基板に、原料ガス、雰囲気を置換するための置換ガス、及び前記原料ガスと反応して前記基板上に反応生成物を生成するための反応ガスを順番に複数サイクル供給して成膜するガス供給方法において、
前記原料ガスを前記処理容器内に供給するために、原料ガス流路に供給する工程と、
前記反応ガスを前記処理容器内に供給するために、前記原料ガス流路とは独立して設けられる反応ガス流路に供給する工程と、
前記原料ガス流路及び前記反応ガス流路に夫々接続された第1のキャリアガス流路及び第2のキャリアガス流路にキャリアガスを供給する工程と、
前記置換ガスを前記処理容器内に供給するために、前記第1のキャリアガス流路及び第2のキャリアガス流路に設けられたキャリアガスの供給制御機器とは別個の供給制御機器が設けられる第1の置換ガス流路及び第2の置換ガス流路に、当該置換ガスを夫々供給する工程と、
前記第1の置換ガス流路及び第2の置換ガス流路に夫々設けられるガス貯留部に、前記置換ガスを貯留する工程と、
前記複数サイクル供給して成膜する間、前記置換ガスが貯留されて前記ガス貯留部内が昇圧した後、当該ガス貯留部から前記置換ガスが前記処理容器内に供給されるように、前記第1の置換ガス流路及び第2の置換ガス流路の夫々において前記ガス貯留部の下流側に設けられるバルブを開閉する工程と、
を備え、
前記第1の置換ガス及び第2の置換ガス流路は、当該第1のキャリアガス流路及び第2のキャリアガス流路とは独立して設けられ、前記第1の置換ガス流路は前記原料ガス流路に接続され、前記第2の置換ガス流路は前記反応ガス流路に接続され、
前記第1のキャリアガス流路は、前記第1の置換ガス流路における前記バルブの下流側に接続されることで、当該第1の置換ガス流路を介して前記原料ガス流路に接続され、
前記第2のキャリアガス流路は、前記第2の置換ガス流路における前記バルブの下流側に接続されることで、当該第2の置換ガス流路を介して前記反応ガス流路に接続されることを特徴とするガス供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空雰囲気とされた処理容器内にて基板に成膜処理を行うために用いられるガス供給装置及びガス供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板である半導体ウエハ(以下「ウエハ」という)に成膜を行うために、ALD(Atomic Layer Deposition)が用いられる場合が有る。このALDでは真空雰囲気とされた処理容器内に、ウエハの表面に吸着する原料ガスと、当該原料ガスと反応する反応ガスと、を交互に複数回供給して、ウエハの表面に反応生成物の原子層を堆積させて成膜する。また、処理容器内においてウエハの表面以外の領域で原料ガスと、反応ガスとが気相反応してパーティクルが発生してしまうことを防ぐために、原料ガスと反応ガスとは互いに間隔を空けて供給される。そして、原料ガスの供給を行う時間帯と反応ガスの供給を行う時間帯との間には、不活性ガスが供給されることによって処理容器内の雰囲気がパージされて、当該不活性ガス雰囲気に置換される。特許文献1、2には、このALDを行う成膜装置について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−23324号公報
【特許文献2】特開2014−198872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにパージを行う必要が有ることから、例えばALDを行う間、処理容器内には所定の流量で不活性ガスの供給が連続して行われる場合が有る。この不活性ガスは原料ガスまたは反応ガスが供給される間はこれらのガスのキャリアガスとして作用し、原料ガス及び反応ガスの供給が行われない間はパージガスとして作用する。
【0005】
ところで配線の微細化が進むことにより、ALDを行うウエハの表面には比較的アスペクト比が大きい凹部が形成される傾向にあり、そのような凹部が形成されている場合でも良好なステップカバレッジを確保することができるようにALDを行うことが求められている。そのためには、原料ガスの流量を増加させて、処理容器内における原料ガスの分圧を高くすることが考えられる。
【0006】
しかし、そのように原料ガスの流量が増加すると、上記のパーティクルの発生を防ぐためにパージを行う時間を延長する必要が有るので、成膜処理に要する時間が長くなってしまう。また、上記のようにパージを行うためにキャリアガスは比較的大きな流量で処理容器内に供給されるため、原料ガスの分圧を十分に高くするには処理容器内に供給する原料ガスの流量が非常に大きくなってしまう懸念が有る。そうなると、原料ガスを処理容器に供給するための流路に当該原料ガスが付着し、装置のメンテナンスを行う頻度が高くなってしまうおそれがある。このような事情から、原料ガスの流量が比較的小さくても基板に対して良好な被覆性を有するように成膜を行うことができ、且つ処理容器内のパージを速やかに行うことができる技術が求められている。
【0007】
特許文献1には、処理ガス(原料ガス及び反応ガス)に対するキャリアガス及びパージガスであるN(窒素)ガスの供給源と処理容器とを接続するガス流路に、上流端及び下流端が接続されたバイパス流路を備えたALDを行う成膜装置について記載されている。この成膜装置においては、処理ガスを処理容器内に供給するときにはバイパス流路に介在するバルブが閉じられ、パージを行うときには処理容器内へ供給されるNガスの流量が比較的多くなるように当該バルブが開かれる。しかし、バイパス流路におけるN2ガスの流量は、上記のバルブの開閉のみによって制御される。従って、上記のガス流路とバイパス流路とに夫々どの程度ガスが流れるのか把握することが難しく、処理容器内に供給されるN2ガスの流量を制御することが困難となることが懸念される。また、この特許文献1よりもパージの時間をさらに短縮化する技術が求められている。
【0008】
特許文献2には、原料ガスの供給源と処理容器とを接続する原料ガス流路と、当該原料ガス流路から分岐した第1のNガス流路と、原料ガス流路及び第1のNガス流路とは独立して処理容器にパージガスであるNガスを供給する第2のNガス流路とを備えたALDを行う成膜装置について記載されている。しかし、第2のNガス流路にはバルブ及びマスフローコントローラのみが介設されている。そのために短時間で十分な流量のパージガスを処理容器内へ供給することが困難である。
【0009】
本発明はこのような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、原料ガスと反応ガスとを交互に複数回処理容器内の基板に供給して成膜を行うにあたり、成膜に必要な原料ガスの流量が大きくなることを防ぐと共に、処理容器内の雰囲気を置換する置換ガスの流量を大きくしてスループットの向上に寄与することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のガス供給装置は、真空雰囲気である処理容器内の基板に、原料ガス、雰囲気を置換するための置換ガス、及び前記原料ガスと反応して前記基板上に反応生成物を生成するための反応ガスを順番に複数サイクル供給して成膜するガス供給装置において、
前記原料ガスを前記処理容器内に供給するための原料ガス流路と、
前記反応ガスを前記処理容器内に供給するために前記原料ガス流路とは独立して設けられる反応ガス流路と、
前記原料ガス流路及び前記反応ガス流路に夫々接続され、キャリアガスを供給するための第1のキャリアガス流路及び第2のキャリアガス流路と、
前記第1のキャリアガス流路及び第2のキャリアガス流路に設けられたキャリアガスの供給制御機器とは別個の供給制御機器を介して前記置換ガスを夫々前記処理容器内に供給し、前記第1のキャリアガス流路及び第2のキャリアガス流路とは独立して設けられた第1の置換ガス流路及び第2の置換ガス流路と、
前記第1の置換ガス流路及び第2の置換ガス流路に夫々設けられ、前記置換ガスを貯留するガス貯留部と、
前記第1の置換ガス流路及び第2の置換ガス流路において前記ガス貯留部の下流側に設けられるバルブと、
前記複数サイクル供給して成膜する間、前記置換ガスが貯留されて前記ガス貯留部内が昇圧した後、当該ガス貯留部から前記置換ガスが前記処理容器内に供給されるように、前記バルブの開閉を制御する制御部と、
を備え、
前記第1の置換ガス流路は前記原料ガス流路に接続され、前記第2の置換ガス流路は前記反応ガス流路に接続され
前記第1のキャリアガス流路は、前記第1の置換ガス流路における前記バルブの下流側に接続されることで、当該第1の置換ガス流路を介して前記原料ガス流路に接続され、
前記第2のキャリアガス流路は、前記第2の置換ガス流路における前記バルブの下流側に接続されることで、当該第2の置換ガス流路を介して前記反応ガス流路に接続されることを特徴とする。
【0011】
本発明のガス供給方法は、真空雰囲気である処理容器内の基板に、原料ガス、雰囲気を置換するための置換ガス、及び前記原料ガスと反応して前記基板上に反応生成物を生成するための反応ガスを順番に複数サイクル供給して成膜するガス供給方法において、
前記原料ガスを前記処理容器内に供給するために、原料ガス流路に供給する工程と、
前記反応ガスを前記処理容器内に供給するために、前記原料ガス流路とは独立して設けられる反応ガス流路に供給する工程と、
前記原料ガス流路及び前記反応ガス流路に夫々接続された第1のキャリアガス流路及び第2のキャリアガス流路にキャリアガスを供給する工程と、
前記置換ガスを前記処理容器内に供給するために、前記第1のキャリアガス流路及び第2のキャリアガス流路に設けられたキャリアガスの供給制御機器とは別個の供給制御機器が設けられる第1の置換ガス流路及び第2の置換ガス流路に、当該置換ガスを夫々供給する工程と、
前記第1の置換ガス流路及び第2の置換ガス流路に夫々設けられるガス貯留部に、前記置換ガスを貯留する工程と、
前記複数サイクル供給して成膜する間、前記置換ガスが貯留されて前記ガス貯留部内が昇圧した後、当該ガス貯留部から前記置換ガスが前記処理容器内に供給されるように、前記第1の置換ガス流路及び第2の置換ガス流路の夫々において前記ガス貯留部の下流側に設けられるバルブを開閉する工程と、
を備え、
前記第1の置換ガス及び第2の置換ガス流路は、当該第1のキャリアガス流路及び第2のキャリアガス流路とは独立して設けられ、前記第1の置換ガス流路は前記原料ガス流路に接続され、前記第2の置換ガス流路は前記反応ガス流路に接続され、
前記第1のキャリアガス流路は、前記第1の置換ガス流路における前記バルブの下流側に接続されることで、当該第1の置換ガス流路を介して前記原料ガス流路に接続され、
前記第2のキャリアガス流路は、前記第2の置換ガス流路における前記バルブの下流側に接続されることで、当該第2の置換ガス流路を介して前記反応ガス流路に接続されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば原料ガス流路、反応ガス流路に夫々接続される第1のキャリアガス流路及び第2のキャリアガス流路に設けられたキャリアガスの供給制御機器とは別個の供給制御機器を介して置換ガスを処理容器内に供給する置換ガス流路が設けられる。そして、この置換ガス流路にはバルブの開閉により、置換ガスが貯留されて内部が昇圧した後、当該置換ガスを処理容器に供給するガス貯留部が設けられる。従って、置換ガスを比較的大きな流量で処理容器内に供給し、処理容器内の雰囲気の置換を速やかに行うことができるので、装置のスループットの向上を図ることができる。また、置換ガスはキャリアガスとは独立して処理容器内への供給が制御されるので、キャリアガスの流量が大きくなることを抑制することができるため、このキャリアガスによって原料ガスが希釈されることが抑制される。結果として、成膜に必要な原料ガスの流量の増加を抑えつつ、基板に対する被覆性が良好な膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るガス供給装置を備えた成膜装置の縦断側面図である。
図2】前記成膜装置によって行われる処理を説明するための模式図である。
図3】前記成膜装置によって行われる処理を説明するための模式図である。
図4】前記成膜装置によって行われる処理を説明するための模式図である。
図5】前記成膜装置によって行われる処理を説明するための模式図である。
図6】前記成膜装置による処理で供給されるガスの量の変化を示すタイミングチャートである。
図7】評価試験に用いたウエハの縦断側面図である。
図8】評価試験の結果を示すグラフ図である。
図9】比較例の成膜装置を示す概略縦断側面図である。
図10】前記比較例の成膜装置による処理で供給されるガスの量の変化を示すタイミングチャートである。
図11】評価試験の結果を示すグラフ図である。
図12】評価試験の結果を示すグラフ図である。
図13】評価試験の結果を示すグラフ図である。
図14】評価試験の結果を示すグラフ図である。
図15】評価試験の結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態にかかるガス供給装置が適用された成膜装置1について、図1の縦断側面図を参照しながら説明する。この成膜装置1は、扁平な円形の処理容器11を備えており、当該処理容器11内には真空雰囲気が形成されると共に、基板であるウエハWが格納される。ウエハWの表面には、配線を形成するために例えば凹凸が形成されている。成膜装置1は、このウエハWに対して、原料ガスであるTiCl(四塩化チタン)ガスと反応ガスであるNH(アンモニア)ガスとを交互に繰り返し供給してALDを行い、TiN(窒化チタン)膜を成膜する。TiClガスの供給を行う時間帯とNHガスの供給を行う時間帯との間には、処理容器11内の雰囲気がTiClガス雰囲気またはNHガス雰囲気から不活性ガスであるN(窒素)ガス雰囲気に置換されるように、当該N2ガスがパージガスとして供給される。また、ALDによる成膜処理中は、TiClガス及びNHガスを処理容器11内に導入するためのキャリアガスとして、Nガスが連続して処理容器11内に供給される。
【0015】
図中12は、処理容器11の側壁に開口したウエハWの搬送口であり、ゲートバルブ13により開閉される。図中21は、ウエハWを載置するために処理容器11内に設けられた水平な載置台である。当該載置台21には、ウエハWを所定の温度に加熱するヒーター22が埋設されている。図中23は、載置台21を囲むように設けられた筒状のカバー部材である。図中24は、載置台21の下部を支持する垂直な支柱であり、支柱24の下端は、処理容器11の底部に設けられた開口部14を貫通して処理容器11の外部へと伸び、昇降機構25に接続されている。図中26は支柱24に設けられたフランジである。図中27はベローズであり、フランジ26と開口部14の縁部とに接続され、処理容器11内の気密性を担保する。
【0016】
上記の昇降機構25は、図中に実線で示す処理容器11内の上方側における処理位置と、図中に鎖線で示す処理容器11内の下方側における受け渡し位置との間で載置台21を昇降させる。受け渡し位置においては、突き上げ機構28により、載置台21に形成された孔部29を通過してウエハWを突き上げる例えば3本(図では2本のみ表示している)の突き上げピン20と、搬送口12を介して処理容器11内に進入する搬送機構(図示せず)との間でウエハWの受け渡しが行われる。
【0017】
処理容器11の天井面は、中央部から周縁部に向かうにつれて下降するように形成されており、載置台21が上記の処理位置に位置するときに、当該載置台21の表面、カバー部材23の表面及び当該処理容器11の天井面によって囲まれる扁平な円錐状の処理空間10が形成される。上記の天井面を形成する処理容器11の天板15の中央部には、当該天板15を厚さ方向に貫通する2本のガス供給路31、32が形成されており、当該ガス供給路31、32の下方には、ガス供給路31、32から吐出されるガスを処理空間10内に分散させるための分散板33が例えば水平に設けられている。
【0018】
図中16は、搬送口12の上方において処理容器11の内壁が突出して形成される環状部材であり、処理位置における載置台21のカバー部材23の外側に近接して囲むように配置されている。図中17は、処理容器11の側壁を形成するように円環状に湾曲させて構成された排気ダクトである。この排気ダクト17の内周面側は、環状部材16上において周方向に亘って開口しており、カバー部材23と処理容器11の天板15との間に形成された隙間18を介して、処理空間10の雰囲気を排気することができる。図中34は、排気ダクト17に一端が接続された排気管であり、排気管34の他端は、排気量を調整して処理空間10の真空圧を調整するための圧力調整部35、バルブ36を順に介して、真空排気ポンプ37に接続されている。
【0019】
上記のガス供給路31、32には、ガス流路41、61の下流端が夫々接続されている。ガス流路41について説明すると、ガス流路41の上流端は、バルブV1、ガス貯留タンク42、流量調整部43をこの順に介して、処理ガスであるTiClガスの供給源44に接続されている。流量調整部43はマスフローコントローラにより構成され、ガス供給源44から供給されるTiClガスについて下流側へ供給される流量を調整する。なお、後述する他の各流量調整部47、52、63、67、72についても、この流量調整部43と同様に構成されており、流路の下流側へ供給されるガスの流量を調整する。
【0020】
なお、TiClガス供給源44は、液体の状態でTiClを貯留するタンクと、当該タンクをヒーティング(加熱)してタンク内のTiClを気化させ、TiClガス供給源44からガス流路41へは、このように気化したTiClが供給される。なお、各流量調整部は、流量を調整するガスの温度に応じて適切なものが用いられる。上記の流量調整部43については、このように加熱されることで比較的高温であるTiClガスの流量を調整することができるように設計されたものが用いられる。
【0021】
ガス貯留タンク42は、ガス供給源44から供給されたTiClガスを処理容器11内に供給する前に一旦貯留する。そのようにTiClガスを貯留させ、ガス貯留タンク42内が所定の圧力に昇圧した後で、ガス貯留タンク42から処理容器11へTiClガスを供給する。このガス貯留タンク42から処理容器11へのTiClガスの給断が、上記のバルブV1の開閉により行われる。このようにガス貯留タンク42へTiClガスを一旦貯留することで、比較的高い流量で安定的に当該TiClガスを処理容器11に供給することができる。
【0022】
なお、後述する各ガス貯留タンク46、62、66についても、ガス貯留タンク42と同様に、ガス流路の上流側のガス供給源から供給される各ガスを一旦貯留することで、処理容器11に供給される各ガスの流量を安定化させる役割を有するガス貯留部である。そして、各ガス貯留タンク46、62、66の下流側に設けられるバルブV2、V4及びV5、V6の開閉によって、各ガス貯留タンク46、62、66から処理容器11へのガスの給断が夫々行われる。
【0023】
ガス流路41の説明に戻ると、このガス流路41においてバルブV1の下流側には、ガス流路45の下流端が接続されている。ガス流路45の上流端はバルブV2、ガス貯留タンク46、流量調整部47をこの順に介してNガスの供給源48に接続されている。さらに、ガス流路45においてバルブV2の下流側には、ガス流路51の下流端が接続されている。ガス流路51の上流端は、バルブV3、流量調整部52をこの順に介して、N2ガスの供給源53に接続されている。このガス流路51におけるバルブV3の下流側には、オリフィス54が形成されている。つまり、ガス流路51におけるバルブV3の下流側の径は、ガス流路51におけるバルブV3の上流側及びガス流路41、45の径よりも小さい。ガス貯留タンク42、46によって、ガス流路41、45には比較的大きい流量でガスが供給されるが、オリフィス54によってこれらガス流路41、45に供給されたガスが、ガス流路51を逆流することが抑制される。
【0024】
ところで、N2ガス供給源48からガス流路45に供給されるN2ガスは、既述のパージを行うために処理容器11内に供給される。N2ガス供給源53からガス流路51に供給されるN2ガスは、TiCl4ガスに対するキャリアガスである。このキャリアガスは、上記のようにウエハWの処理中は連続して処理容器11内に供給されるので、パージを行う際にも処理容器11内に供給される。従って、当該キャリアガスが処理容器11内に供給される時間帯は、パージを行うためにガス供給源48からのN2ガスが処理容器11内に供給される時間帯に重なり、キャリアガスはパージにも用いられることになるが、説明の便宜上、N2ガス供給源48からガス流路45に供給されるガスをパージガスとして記載し、N2ガス供給源53からガス流路51に供給されるガスはキャリアガスとして記載する。なお、このキャリアガスは、TiClガスがガス流路51を逆流することを防止するための逆流防止用のガスでもある。
【0025】
続いて、処理容器11のガス供給路32に接続されるガス流路61について説明する。このガス流路61の上流側は2つに分岐した後に互いに合流して、合流したガス流路61の上流端は、ガス貯留タンク62、流量調整部63をこの順に介して、処理ガスであるNHガスの供給源64に接続されている。このガス流路61は反応ガス流路であり、原料ガス流路であるガス流路41に対して独立して形成されている。また、ガス流路61において、上記のように2つに分岐した部位にはバルブV4、V5が各々介設されている。このようにガス貯留タンク62の下流側において分岐した流路を形成しているのは、比較的多くのNHガスを処理容器11に供給することができるように、コンダクタンスを大きくするためである。
【0026】
ガス流路61の分岐した部位において、バルブV5の下流側にはガス流路65の下流端が接続されている。ガス流路65の上流端はバルブV6、ガス貯留タンク66、流量調整部67をこの順に介して、Nガスの供給源68に接続されている。さらに、ガス流路65においてバルブV6の下流側には、ガス流路71の下流端が接続されている。ガス流路71の上流端は、バルブV7、流量調整部72をこの順に介して、Nガスの供給源73に接続されている。このガス流路71におけるバルブV7の下流側には、オリフィス74が形成されている。つまり、ガス流路71におけるバルブV7の下流側の径は、ガス流路71におけるバルブV7の上流側及びガス流路61、65の径よりも小さい。このオリフィス74は、オリフィス54と同様に、ガス流路61、65に比較的大きな流量で供給されたガスが、ガス流路71を逆流することを抑制するために形成されている。
【0027】
上記のNガス供給源68からガス流路65に供給されるNガスは、既述のパージを行うために処理容器11内に供給される。Nガス供給源73からガス流路71に供給されるNガスは、NH3ガスに対するキャリアガスであり、上記のTiClガスに対するキャリアガスと同様にパージにも用いられることになるが、説明の便宜上、Nガス供給源68からガス流路65に供給されるガスをパージガスとして記載し、Nガス供給源73からガス流路71に供給されるガスはキャリアガスとして記載する。なお、当該キャリアガスは、NHガスがガス流路71を逆流することを防止するための逆流防止用のガスでもある。
【0028】
以上のように各ガス流路が形成されていることで、第1のキャリアガス流路をなすガス流路51は、キャリアガスの供給制御機器としてバルブV3及び流量調整部52を備えており、第1の置換ガス流路をなすガス流路45にはこのバルブV3及び流量調整部52とは別個に、パージガスの供給制御機器として、バルブV2及び流量調整部47が設けられていることになる。また、第2のキャリアガス流路をなすガス流路71は、キャリアガスの供給制御機器としてバルブV7及び流量調整部72を備えており、第2の置換ガス流路をなすガス流路65にはこのバルブV7及び流量調整部72とは別個に、パージガスの供給制御機器としてバルブV6及び流量調整部67が設けられていることになる。
【0029】
ところで、上記のようにパージガスはガス流路45、65の両方から処理容器11に供給されるように構成されている。これは、処理容器11内に残留するTiClガス及びNHガスだけではなく、ガス流路41においてバルブV1の下流側に残留するTiClガス及びガス流路61においてバルブV4及びV5の下流側に残留するNHガスについてもパージするためである。つまり、より確実にこれらTiClガス及びNHガスをパージするために、パージガスの流路が2つ形成されている。
【0030】
また成膜装置1は制御部100を備えている。この制御部100はコンピュータにより構成されており、プログラム、メモリ、CPUを備えている。プログラムには、成膜装置1における後述の一連の動作を実施することができるようにステップ群が組み込まれており、当該プログラムによって制御部100は成膜装置1の各部に制御信号を出力し、当該各部の動作が制御される。具体的には、各バルブV1〜V7の開閉、流量調整部43、47、52、63、67、72によるガスの流量の調整、圧力調整部35による処理容器11内の圧力の調整、ヒーター22によるウエハWの温度の調整などの各動作が、制御信号によって制御される。上記のプログラムは、例えばフレキシブルディスク、コンパクトディスク、ハードディスク、光磁気ディスクなどの記憶媒体に格納されて、制御部100にインストールされる。この制御部100と、上記のガス流路41、45、51、61、65、71と、ガス供給源44、48、53、64、68、73と、バルブV1〜V7と、流量調整部43、47、52、63、67、72と、ガス貯留タンク42、46、62、66とにより、本発明に係るガス供給装置が構成されている。
【0031】
続いて成膜装置1における成膜処理について、各バルブの開閉状態及び各ガス流路におけるガスの流通状態について示す図2図5を用いて説明する。これらの図2図5では、閉じているバルブVにはハッチングを付すことで、開いているバルブVと区別して表示している。また、各ガス流路についてガスが下流側へ流通している部位は、流通していない部位に比べて太く示している。なお、図2図5では、図1に比べて処理容器11及び処理容器11内の各部を簡略化して表示している。さらに、以下の成膜処理の説明では図6のタイミングチャートも適宜参照する。このタイミングチャートにおいては、TiClガス、NHガス、キャリアガス、パージガスが夫々流れる時間帯を、互いに濃度が異なるグレースケールを付した矩形領域で示している。各矩形領域の高さは処理容器11内に供給されるガスの量に対応しており、当該矩形領域の高さが大きいほど供給されるガスの量が多い。
【0032】
先ず、バルブV1〜V7が閉じられた状態で、搬送機構によりウエハWが処理容器11内に搬送されて、受け渡し位置における載置台21に載置される。搬送機構が処理容器11内から退避した後、ゲートバルブ13が閉じられる。載置台21のヒーター22によりウエハWが例えば460℃に加熱されると共に載置台21が処理位置まで上昇し、処理空間10が形成される。排気管34に介設される圧力調整部35により、処理容器11内が所定の真空圧力になるように調整される。そしてバルブV3、V7が開かれ、Nガス供給源53、73から夫々ガス流路51、71に例えば500sccmのキャリアガス(Nガス)が供給される。つまり、合計1000sccmのキャリアガスが、処理容器11内に供給される。その一方で、ガス供給源44、ガス供給源64からTiClガス、NHガスが夫々ガス流路41、61に供給される。バルブV1、V4、V5が閉じられていることで、これらのTiClガス、NHガスは、ガス貯留タンク42、62に夫々貯留され、ガス貯留タンク42、62内が昇圧する。
【0033】
然る後、バルブV1が開かれ(チャート中、時刻t1)、ガス貯留タンク42に貯留されたTiClガスが処理容器11内に供給されて、ウエハWの表面に吸着する。この処理容器11内へのTiClガスの供給に並行して、ガス供給源48、68からガス流路45、65に夫々パージガス(Nガス)が供給される。バルブV2、V6が閉じられていることで、パージガスはガス貯留タンク46、66に貯留され、当該ガス貯留タンク46、66内が昇圧する(図2、ステップS1)。
【0034】
時刻t1から例えば0.05秒経過後、バルブV1が閉じられると共にバルブV2、V6が開かれ(時刻t2)、処理容器11内へのTiClガスの供給が停止すると共に、ガス貯留タンク46、66に各々貯留されたパージガスが処理容器11内に供給される。上記のように圧力が上昇した状態のガス貯留タンク46、62から供給されることにより、処理容器11内には比較的大きな流量、例えばキャリアガスの流量よりも大きい1500sccm〜5000sccmでパージガスが供給され、処理容器11内に残留するTiClガスが速やかに排気管34へとパージされ、当該処理容器11内がTiClガス雰囲気からNガス雰囲気に置換される。このようにパージが行われる一方で、バルブV1が閉じられたことにより、ガス供給源44からガス流路41に供給されたTiClガスがガス貯留タンク42に貯留され、当該ガス貯留タンク42内が昇圧する(図3、ステップS2)。
【0035】
時刻t2から例えば0.2秒経過後、バルブV2、V6が閉じられると共にバルブV4、V5が開かれ(時刻t3)、処理容器11内へのパージガスの供給が停止すると共に、ガス貯留タンク62に貯留されたNHガスが処理容器11内に供給され、ウエハWの表面に吸着したTiClガスと反応し、反応生成物であるTiNの原子層が形成される。その一方で、バルブV2、V6が閉じられたことにより、ガス供給源48、68からガス流路45、65に夫々供給されたパージガスがガス貯留タンク46、66に貯留され、当該ガス貯留タンク46、66内が昇圧する(図4、ステップS3)。
【0036】
時刻t3から例えば0.3秒経過後、バルブV4、V5が閉じられると共にバルブV2、V6が開かれ(時刻t4)、処理容器11内へのNHガスの供給が停止すると共に、ガス貯留タンク46、66に各々貯留されたパージガスが処理容器11内に供給される。上記のように圧力が上昇した状態のガス貯留タンク46、62から供給されることにより、処理容器11内には例えば1500sccm〜5000sccmでパージガスが供給され、処理容器11内に残留するNHガスが、速やかに排気管34へとパージされ、当該処理容器11内がNHガス雰囲気からNガス雰囲気に置換される。このようにパージが行われる一方で、バルブV4、V5が閉じられたことにより、ガス供給源64からガス流路41に供給されたNHガスがガス貯留タンク62に貯留され、当該ガス貯留タンク62内が昇圧する(図5、ステップS4)。
【0037】
時刻t4から例えば0.3秒経過後、バルブV2、V6が閉じられると共にバルブV1が開かれ(時刻t5)、処理容器11内へのパージガスの供給が停止すると共に、ガス貯留タンク42に貯留されたTiClガスが処理容器11内に供給される。つまり上記のステップS1が再度行われる。従って、上記のパージが終了する時刻t5は、上記のTiClガスの供給が開始される時刻t1でもある。このステップS1が行われた後は上記のステップS2〜S4が行われ、その後は、さらにステップS1〜S4が行われる。つまり上記のステップS1〜S4を一つのサイクルとすると、このサイクルが繰り返し行われ、TiNの原子層がウエハWの表面に堆積し、TiN膜が成膜される。そして、所定の回数のサイクルが実行されると、処理容器11内への搬入時とは逆の手順でウエハWが処理容器11から搬出される。
【0038】
上記の成膜装置1によれば、TiClガス及びNHガスのキャリアガスを供給するためのガス流路51、71に介設される流量調整部52、72及びバルブV3、V7とは異なる流量調整部47、67及びバルブV2、V6を備えるように処理容器11内にパージガスを供給するためのガス流路45、65が設けられている。そして、これらのパージガスのガス流路45、65にはバルブV2、V6の開閉により、パージガスが貯留されて内部が昇圧した後、当該パージガスを処理容器11に供給するガス貯留タンク46、66が夫々設けられる。従って、パージガスを比較的大きな流量で処理容器11内に供給し、処理容器11内の雰囲気の置換を速やかに行うことができる。そのため、スループットの向上を図ることができる。また、そのようにキャリアガスとは独立して流量が制御されるパージガスによって処理容器11内の雰囲気の置換を行うので、キャリアガスの流量が大きくなることを抑制することができる。従って、良好なステップカバレッジが得られるように成膜を行うために必要なTiClガスの流量の上昇を抑えることができるので、このTiClガスのガス流路61の付着を抑制し、メンテナンスの頻度を低下させることができる。見方を変えれば、ガス流路61へのTiClガスの付着が十分に抑制できる範囲で、TiClガスの処理容器11へ供給する流量を増加させて、処理容器11内におけるTiClガスの分圧を高くし、良好なステップカバレッジが得られるようにTiN膜を形成することができる。
【0039】
上記の成膜処理において、パージガスについて比較的大きな流量が処理容器11内に供給されるものと記載したが、TiClガス、NHガスについてもガス貯留タンク42、62に夫々貯留された後で処理容器11内に供給されるので、パージガスと同様に比較的大きな流量で処理容器11内に供給される。従って、これらTiClガス、NHガスが夫々供給される時間帯の短縮化を図ることができるため、より確実にスループットの向上を図ることができる。
【0040】
ところで、パージガスのガス流路51、71は、TiClガス、NHガスを夫々供給するガス流路41、61に接続されることには限られず、例えば処理容器11の天板15にガス供給路31、32とは独立して処理容器11内にガスを供給するためのガス供給路を設け、当該ガス供給路に接続されるように設けてもよい。また、その場合、ガス流路51、71の2つを設けることに限られず、ガス流路51、71のうちの一つを設ければよい。ただし、上記のようにガス流路41、61のパージを行うために、パージガスのガス流路51、71の2つをガス流路41、61に夫々接続するように設けることが好ましい。また、キャリアガスの流路と、パージガスの流路とは別個の供給制御機器を介して下流側にガスを供給することができればよい。従って、例えばパージガスのガス流路45における流量調整部47の上流側と、キャリアガスのガス流路51における流量調整部52の上流側とが合流し、共通のNガス供給源に接続される構成であってもよい。
【0041】
また、本発明はTiN膜を形成する場合に限られず、例えばWN(窒化タングステン)膜を形成する場合にも用いることができる。この場合は、原料ガスとしては例えば塩化タングステンガスが、反応ガスとしては例えばNHガスが夫々用いられる。なお、このようにTiN膜や、WN膜を成膜するにあたり、原料ガスを窒化するためにはNHガスを用いることには限られず、例えばヒドラジンなどの窒素を含むガスを用いることができる。このように本発明は既述した実施形態には限られず、適宜の変更が可能である。
【0042】
(評価試験)
続いて、本発明に関連して行われた評価試験について説明する。
・評価試験1
この評価試験1では上記の成膜装置1を用いて複数枚のウエハWに対して、図2図6で説明したようにTiN膜を成膜した。成膜を行うウエハWとしては、図7にその縦断側面を示すテスト用のウエハWが用いられた。このテスト用のウエハWの表面は穿孔され、凹部81が形成されている。凹部81の径は20nmであり、凹部81のアスペクト比は50である。
【0043】
この評価試験1における処理条件を示すと、成膜処理中のウエハWの温度は530℃である。各ステップSの時間については、既述の成膜処理の各ステップSの時間と同じであり、処理容器11内に供給するキャリアガスの流量についても、既述の成膜処理で処理容器11内に供給するキャリアガスの流量と同じ1000sccmに設定した。そして、ステップS1において処理容器11に供給されるTiClガスの流量及びステップS2、S4で夫々処理容器11に供給するパージガスの流量を、ウエハW毎に変更している。より詳しく述べると、TiClガスの流量は140sccmまたは200sccmに設定して成膜処理を行っている。TiClガスの流量が140sccmに設定されたものを評価試験1−1、TiClガスの流量が200sccmに設定されたものを評価試験1−2とする。上記のパージガスの流量については、3000sccm、6000sccm及び10000sccmうちの1つを選択して設定している。
【0044】
凹部81へのTiN膜82の成膜後は、当該TiN膜82から下記の式1を算出した。これ以降、当該式1により取得される値をステップカバレッジ(単位:%)とする。従って、当該ステップカバレッジの値が高いほど、TiN膜82によるウエハW表面の被覆性が高いことを示す。
凹部81の側壁の下端部に形成されたTiN膜の厚さt1/凹部81の側壁の上端部に形成されたTiN膜の厚さt2×100・・・式1
【0045】
図8のグラフは、評価試験1の結果を示している。グラフの横軸はステップS2、S4で各々処理容器11内に供給されたパージガスの流量(単位:sccm)を示し、グラフの縦軸は上記のステップカバレッジ(単位:%)を示している。グラフでは評価試験1−1の結果を三角のプロットで、評価試験1−2の結果を丸のプロットで夫々示している。グラフに示されるように、パージガスの流量が夫々3000sccm、6000sccm、10000sccmである場合の全てにおいて、評価試験1−2のステップカバレッジの方が、評価試験1−1のステップカバレッジよりも大きい。
【0046】
また、評価試験1−1では、パージガスの流量が6000sccm、10000sccmであるときのステップカバレッジの値は、パージガスの流量が3000sccmであるときのステップカバレッジの値よりも高い。評価試験1−2ではパージガスの流量が大きいほど、ステップカバレッジの値が高い。従って、処理容器11内に供給するパージガスの流量が比較的大きいと、良好なステップカバレッジを得ることができることが分かる。グラフより、パージガスの流量が6000sccm以上である場合にステップカバレッジは概ね90%以上と、実用上十分な値となっている。従って当該パージガスの流量は、例えば6000sccmとすることが好ましい。
【0047】
さらに、図9に示す成膜装置8を用いてTiN膜を成膜し、ステップカバレッジを測定する比較試験1を行った。成膜装置8は、パージガスを供給するためのガス流路45、65が設けられないことを除いて、成膜装置1と同様に構成されている。従って、成膜装置8によって実行される上記のステップS2、S4では、ガス流路45、65からのパージガスの供給が行われず、ガス流路51、71に供給されたキャリアガスによってパージが行われる。図10は、この成膜装置8で処理容器11内に供給されるガスの量を、図6と同様に示したタイミングチャートである。図10のチャートと図6のチャートとを比較して明らかなように、成膜装置8の方がキャリアガスの供給量が多くなるように設定されている。これは、そのようにキャリアガスによってパージを行うためである。なお、成膜装置8の処理容器11は成膜装置1の処理容器11と同様に構成されているが、図9では図2と同様に簡略化して示している。この成膜装置8を用いた比較試験1では、ステップS1〜S4において処理容器11内に供給するキャリアガスの流量を4000sccmに設定し、ステップS1で処理容器11内に供給するTiClのガス流量を140sccmに設定した。それ以外の処理条件は、評価試験1と同様である。
【0048】
比較試験1から得られたステップカバレッジは78%であった。図8のグラフに示したように評価試験1−1、1−2から得られた各ステップカバレッジは85%以上であるため、この78%を上回っている。従って、比較試験1に比べて評価試験1の方がTiN膜によるウエハWの被覆性が高く、本発明の効果が確認された。
【0049】
・評価試験2
評価試験2として、評価試験1と同様に図7に示したウエハWの複数枚に各々成膜処理を行い、ステップカバレッジを測定した。ただし、この評価試験2では、ステップS1〜S4において処理容器11内に供給するキャリアガスの流量と、ステップS1において処理容器11内に供給するTiClガスの流量とをウエハW毎に変更して行っている。キャリアガスの流量については、1000sccmまたは500sccmに設定しており、キャリアガスの流量が1000sccmであるものを夫々評価試験2−1、キャリアガスの流量が500sccmであるものを評価試験2−2とする。評価試験2−1としては、TiCl4ガスの流量が夫々50sccm、100sccm、140sccm、200sccmに設定されたものが各々行われている。評価試験2−2としては、TiCl4ガスの流量が夫々50sccm、100sccm、140sccmに設定されたものが各々行われている。また、この評価試験2のステップS2、S4の各々で処理容器11内に供給されるパージガスの流量は6000sccmに設定した。その他の処理条件は、評価試験1の処理条件と同様に設定した。
【0050】
図11のグラフは評価試験2の結果を示している。グラフの横軸はTiClガスの流量を示しており、グラフの縦軸は上記のステップカバレッジを示している。グラフでは評価試験2−1の結果を三角のプロットで、評価試験2−2の結果を丸のプロットで夫々示している。このグラフから明らかなように、評価試験2−1、2−2の間でTiClガスの流量が同じである場合、キャリアガスの流量が小さい評価試験2−2の方が、ステップカバレッジが高い。また、このグラフから、評価試験2−1、2−2の各々について、TiCl4ガスの流量が大きいほどステップカバレッジが高くなっていることが分かる。この評価試験2の結果及び上記の評価試験1の結果は、ステップS1において、キャリアガスの流量に対するTiClガスの流量が大きいほど、良好なステップカバレッジが得られることを示している。また、この評価試験2で測定された各ステップカバレッジの値は、上記の比較試験1のステップカバレッジの値である78%よりも大きい。つまり、成膜装置1により成膜を行う場合、処理容器11に供給されるキャリアガスの流量が1000sccm以下である場合には、比較試験1のステップカバレッジよりも良好なステップカバレッジが得られることが確認された。
【0051】
・評価試験3
評価試験3として、成膜装置1を用いて成膜処理を行い、複数のウエハWにTiN膜を形成し、当該TiN膜の膜厚(単位:Å)及び比抵抗(μΩ・cm)を測定した。この評価試験3では処理容器11に供給するキャリアガスの流量を1000sccmに設定し、パージガスの流量を500sccm〜10000sccmの範囲でウエハW毎に変更して処理を行った。また、成膜処理中のウエハWの温度は460℃、1サイクルにおける処理容器11内へのTiCl4ガスの供給量を1.05cc、1サイクルにおける処理容器11内へのNHガスの供給量を38ccに夫々設定し、ステップS1、S2、S3、S4を行う時間を0.05秒、0.1秒、0.13秒、0.1秒に夫々設定した。また、サイクルを行う回数は300回とした。
【0052】
比較試験3として、比較試験1と同様に成膜装置8を用いて成膜処理を行い、複数のウエハWにTiN膜を形成し、評価試験3と同様に膜厚及び比抵抗を測定した。この比較試験3において、キャリアガスの流量は2000sccm〜7500sccmの範囲で、ウエハW毎に変更した。ウエハWの温度、1サイクルにおける処理容器11内へのTiClガスの供給量、1サイクルにおける処理容器11内へのNHガスの供給量、ステップS1〜S4の各々を行う時間及びサイクルを行う回数については、評価試験3と同様に設定した。
【0053】
なお、ステップS1、S3においてTiClガス、NHガスが夫々十分に処理容器11内に供給されているものとして、ステップS2、S4においてウエハWの周囲の雰囲気の置換が十分では無いと、ALDによる成膜の他にCVD(Chemical Vapor Deposition)による成膜も行われてしまうことにより、ALDのみによって成膜が行われる場合に比べて膜厚が大きくなる。そして、このようにCVDによる成膜がなされると、膜質が劣化してTiN膜の比抵抗が上昇してしまう。従って、この評価試験3及び比較試験3ではTiN膜の膜厚及び比抵抗は、低い値となることが好ましい。
【0054】
図12及び図13のグラフは、評価試験3及び比較試験3の結果について示している。図12図13の各グラフの横軸は、評価試験3のパージガスの流量(単位:sccm)と、比較試験3のキャリアガスの流量(単位:sccm)とを示している。そして、図12のグラフの縦軸は測定された膜厚(単位:Å)を示しており、図13のグラフの縦軸は測定された比抵抗(単位:μΩ・cm)を示している。これらの各グラフに示されるように、評価試験3では、TiN膜の膜厚は概ね100Å〜概ね150Åであり、TiN膜の比抵抗は概ね250μΩ・cm〜300μΩ・cmであった。
【0055】
パージガスの流量が2000sccmより低い範囲では、当該パージガスの流量が増加するにつれて膜厚及び比抵抗が低下し、パージガスが2000sccm〜10000sccmの範囲では、膜厚が概ね100Å、比抵抗が概ね260μΩ・cmで各々一定になっている。従って、このようにパージガスが2000sccm〜10000sccmである範囲では、上記のCVDによる成膜が行われていないと考えられる。一方、図12図13の各グラフに示されるように、比較試験3では、TiN膜の膜厚は概ね100Å〜概ね400Åであり、TiN膜の比抵抗は概ね240μΩ・cm〜概ね390μΩ・cmであり、キャリアガスの流量が大きくなるにつれてこれらの膜厚及び比抵抗が低下している。
【0056】
評価試験3でパージガスの流量が500sccmである場合と、比較試験3でキャリアガスの流量が4000sccmである場合とで、膜厚及び比抵抗が略同一となっており、評価試験3でパージガスの流量が1000sccmである場合と、比較試験3でキャリアガスの流量が5000sccmである場合とで、膜厚及び比抵抗が略同一となっている。また、評価試験3でパージガスの流量が3000sccmである場合と、比較試験3でキャリアガスの流量が7500sccmである場合とで、膜厚及び比抵抗が略同一となっている。上記のように評価試験3ではキャリアガスの流量は1000sccmに設定しているので、この実験結果から成膜装置1による処理と、成膜装置8による処理とで同じTiN膜の膜厚及び比抵抗を得るためには、成膜装置1による処理を行った方がキャリアガスの流量を小さく抑えることができることが確認された。そして、評価試験1、2で説明したように、キャリアガスの流量に対するTiCl4ガスの流量を大きくすることで、良好なステップカバレッジを得ることができるので、この評価試験3からは、成膜装置1による処理を行った方が良好なステップカバレッジを得ることができることも確認された。
【0057】
・評価試験4
評価試験4として、評価試験3と同様に成膜装置1を用いて複数のウエハWにTiN膜を形成し、当該TiN膜の膜厚(単位:Å)及び比抵抗(μΩ・cm)を測定した。ただし、各種の処理条件について、評価試験3の処理条件から変更している。評価試験4では、TiClガスの流量は300sccm、1サイクルあたりのNH3ガスの供給量は38cc、ウエハWの温度は460℃、処理容器11内の圧力は5Torr(6.67×10Pa)、ガス流路51、71に各々供給するキャリアガスの流量は1000sccm、ガス流路45、65に各々供給するパージガスの流量は10slm、ステップS1を行う時間は0.02秒、ステップS3を行う時間は0.13秒に夫々設定した。また、この評価試験4では、ウエハW毎にステップS2、S4を行う時間、即ち1回のパージを行う時間を変更している。なお1枚のウエハWについて、ステップS2を行う時間とステップS4とを行う時間は互いに同じ長さである。
【0058】
比較試験4として、比較試験3と同様に成膜装置8を用いて複数のウエハWにTiN膜を形成し、当該TiN膜の膜厚及び比抵抗を測定した。ただし、キャリアガスの流量以外の各種の処理条件は、評価試験4と同様に設定している。このキャリアガスの流量については、ガス流路51、71に夫々10slm供給されるように設定した。この比較試験4でも、評価試験4と同様にステップS2、S4を行う時間をウエハW毎に変更している。つまり、キャリアガスによって1回のパージを行う時間をウエハW毎に変更している。
【0059】
図14及び図15のグラフは評価試験4及び比較試験4の結果について示している。図14図15の各グラフの横軸は1回のパージを行う時間(単位:秒)を示している。図14のグラフの縦軸は測定されたTiN膜の膜厚(単位:Å)を示し、図15のグラフの縦軸は測定されたTiN膜の比抵抗(単位:μΩ・cm)を示している。これらのグラフより、評価試験4及び比較試験4の両方において1回のパージ時間が長くなるほど、膜厚及び比抵抗が小さくなっていることが分かり、1回のパージ時間が0.06秒、0.08秒、0.1秒である場合には、評価試験4と比較試験4との間で膜厚の値及び比抵抗の値に大きな差は見られない。しかし、1回のパージ時間が0.04秒である場合、比較試験4の膜厚及び比抵抗に比べて評価試験4の膜厚及び比抵抗は、比較的大きく低下した値となっている。従って、評価試験4の方が、パージ時間を短くしても良好な特性を持つTiN膜が得られている。従って、この評価試験4から成膜装置1の方が成膜装置8よりもパージに要する時間を短くすることができ、スループットの向上を図ることができることが確認された。
【符号の説明】
【0060】
1 成膜装置
11 処理容器
21 載置台
41、45、51、61、65、71 ガス供給路
42、46、62、66 ガス貯留タンク
44、48、53、64、68、73 ガス供給源
100 制御部
図1
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