(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
透明基板と、該透明基板上に形成された、(A)クロムと窒素とを含有し、ケイ素を含有しない膜を1層又は2層以上と、(B)ケイ素と酸素とを含有し、遷移金属を含有しない膜を1層又は2層以上とを有し、(A)膜と(B)膜とが接して形成されたフォトマスクブランクであって、
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)により、膜の厚さ方向に二次イオン強度を測定したとき、上記(A)膜と(B)膜との界面又は界面近傍で、SiCrO5の二次イオン強度が極大値となる深さ位置において、Cr2O5の二次イオン強度が、SiNの二次イオン強度より低いことを特徴とするフォトマスクブランク。
上記(A)膜が、膜厚方向で組成が変化する組成傾斜層又は複数層で構成され、かつ上記(A)膜の上記(B)膜との界面におけるクロム濃度が、上記(A)膜の上記界面から離間する側におけるクロム濃度より低いことを特徴とする請求項1又は2記載のフォトマスクブランク。
上記(A)膜の上記(B)膜との界面におけるクロム(Cr)とクロム以外の元素(E)との比Cr/E(原子比)が、4以下であることを特徴とする請求項3記載のフォトマスクブランク。
上記透明基板と、上記(A)膜及び(B)膜との間に、(C)遷移金属とケイ素とを含有する膜、又はケイ素を含有し、遷移金属と酸素を含有しない膜が形成されていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載のフォトマスクブランク。
透明基板と、該透明基板上に形成された、(A)クロムと窒素とを含有し、ケイ素を含有しない膜を1層又は2層以上と、(B)ケイ素と酸素とを含有し、遷移金属を含有しない膜を1層又は2層以上とを有し、(A)膜と(B)膜とが接して形成されたフォトマスクブランクをスパッタリングにより製造する方法であって、
(A)膜の上に(B)膜を成膜する場合は、(B)膜の成膜初期において、一定時間、酸素含有ガスの量(流量)を(B)膜の機能に応じて設定される(B)膜の所定の組成となる量(流量)から減量して供給する又は供給しないようにして成膜を開始し、その後、酸素含有ガスの流量を、上記(B)膜の所定の組成となる量(流量)に増量して成膜すること、又は
(B)膜の上に(A)膜を成膜する場合は、酸素含有ガスの流量を、(B)膜の機能に応じて設定される(B)膜の所定の組成となる量(流量)で成膜し、その後、(B)膜の機能に応じて設定される(B)膜の所定の組成となるように設定されていた酸素含有ガスの量(流量)から、(B)膜の成膜終期において、一定時間、酸素含有ガスの量(流量)を減量して供給する又は供給しないようにして成膜を終了すること
を特徴とするフォトマスクブランクの製造方法。
【背景技術】
【0002】
半導体技術の分野では、パターンの更なる微細化のための研究開発が進められている。特に、近年では、大規模集積回路の高集積化に伴い、回路パターンの微細化や配線パターンの細線化、セルを構成する層間配線のためのコンタクトホールパターンの微細化などが進行し、微細加工技術への要求は、ますます高くなってきている。これに伴い、微細加工の際のフォトリソグラフィ工程で用いられるフォトマスクの製造技術の分野においても、より微細で、かつ正確な回路パターン(マスクパターン)を形成する技術の開発が求められるようになってきている。
【0003】
一般に、フォトリソグラフィ技術により半導体基板上にパターンを形成する際には、縮小投影が行われる。このため、フォトマスクに形成されるパターンのサイズは、通常、半導体基板上に形成されるパターンのサイズの4倍程度となる。今日のフォトリソグラフィ技術分野においては、描画される回路パターンのサイズは、露光で使用される光の波長をかなり下回るものとなっている。このため、回路パターンのサイズを単純に4倍にしてフォトマスクパターンを形成した場合には、露光の際に生じる光の干渉などの影響によって、半導体基板上のレジスト膜に、本来の形状が転写されない結果となってしまう。
【0004】
そこで、フォトマスクに形成するパターンを、実際の回路パターンよりも複雑な形状とすることにより、上述の光の干渉などの影響を軽減する場合もある。このようなパターン形状としては、例えば、実際の回路パターンに光学近接効果補正(OPC: Optical Proximity Correction)を施した形状がある。また、パターンの微細化と高精度化に応えるべく、変形照明、液浸技術、二重露光(ダブルパターニングリソグラフィ)などの技術も応用されている。
【0005】
解像度向上技術(RET: Resolution Enhancement Technology)のひとつとして、位相シフト法が用いられている。位相シフト法は、フォトマスク上に、位相を概ね180°シフトさせる膜のパターンを形成し、光の干渉を利用してコントラストを向上させる方法である。これを応用したフォトマスクのひとつとして、ハーフトーン位相シフト型フォトマスクがある。ハーフトーン位相シフト型フォトマスクは、石英などの露光光に対して透明な基板の上に、位相を概ね180°シフトさせ、パターン形成に寄与しない程度の透過率を有するハーフトーン位相シフト膜のフォトマスクパターンを形成したものである。ハーフトーン位相シフト型フォトマスクとしては、モリブテンシリサイド酸化物(MoSiO)、モリブテンシリサイド酸化窒化物(MoSiON)からなるハーフトーン位相シフト膜を有するもの(特開平7−140635号公報(特許文献1))やSiN、SiONからなるハーフトーン位相シフト膜を有するものなどが提案されている。
【0006】
また、マスクパターンの微細化もこれまで以上に必要となり、解像性を上げるため、マスクパターンのパターニング時のレジストの薄膜化のために、ハードマスク膜を積層したフォトマスクブランクも使用されるようになってきており、例えば、遮光膜としてクロムを含有する膜を用いるときは、その上にケイ素を含有する膜をハードマスクとして設けることが行われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、フォトマスクブランクや、フォトマスクにおいて、クロムを含有する膜とケイ素を含有する膜とが接して形成された膜構成の場合、経時変化により、欠陥が発生することがわかった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、フォトマスクブランク及びフォトマスクにおいて、クロムを含有する膜とケイ素を含有する膜とが接している膜構成を含む場合に、経時変化による欠陥の発生が抑制されたフォトマスクブランク及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、サンプル間で、クロムを含有する膜及びケイ素を含有する膜の双方の膜の組成が、通常の組成分析(例えばEPMA)では同等であっても、欠陥の程度(欠陥の数や大きさ)が異なる場合があり、クロムと窒素を含有する膜と、ケイ素と酸素を含有する膜とが接している膜構成において発生する欠陥が、クロムと窒素を含有する膜と、ケイ素と酸素を含有する膜との界面で発生しており、クロムと窒素を含有する膜と、ケイ素と酸素を含有する膜との界面又は界面近傍で、ケイ素と酸素を含有する膜に含まれる酸素によって、クロムと窒素を含有する膜のクロムが酸化され、クロムが酸化された部分で体積変化が起こって、欠陥となっていることを知見し、(A)クロムと窒素とを含有し、ケイ素を含有しない膜と、(B)ケイ素と酸素とを含有し、遷移金属を含有しない膜とを有し、(A)膜と(B)膜とが接して形成されている場合、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)により、膜の厚さ方向に二次イオン強度を測定したとき、(A)膜と(B)膜との界面又は界面近傍で、SiCrO
5の二次イオン強度が極大値となる深さ位置において、Cr
2O
5の二次イオン強度が、SiNの二次イオン強度より低いものにおいて、欠陥が発生し難くなり、経時的な欠陥の増加が抑制されることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
従って、本発明は、以下のフォトマスクブランク及びその製造方法を提供する。
請求項1:
透明基板と、該透明基板上に形成された、(A)クロムと窒素とを含有し、ケイ素を含有しない膜を1層又は2層以上と、(B)ケイ素と酸素とを含有し、遷移金属を含有しない膜を1層又は2層以上とを有し、(A)膜と(B)膜とが接して形成されたフォトマスクブランクであって、
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)により、膜の厚さ方向に二次イオン強度を測定したとき、上記(A)膜と(B)膜との界面又は界面近傍で、SiCrO
5の二次イオン強度が極大値となる深さ位置において、Cr
2O
5の二次イオン強度が、SiNの二次イオン強度より低いことを特徴とするフォトマスクブランク。
請求項2
上記(A)膜が、更に、酸素を含有することを特徴とする請求項1記載のフォトマスクブランク。
請求項3:
上記(A)膜が、膜厚方向で組成が変化する組成傾斜層又は複数層で構成され、かつ上記(A)膜の上記(B)膜との界面におけるクロム濃度が、上記(A)膜の上記界面から離間する側におけるクロム濃度より低いことを特徴とする請求項1又は2記載のフォトマスクブランク。
請求項4:
上記(A)膜の上記(B)膜との界面におけるクロム(Cr)とクロム以外の元素(E)との比Cr/E(原子比)が、4以下であることを特徴とする請求項3記載のフォトマスクブランク。
請求項5:
上記(A)膜の1層又は2層以上が、遮光膜を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のフォトマスクブランク。
請求項6:
上記(B)膜が、SiO膜であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のフォトマスクブランク。
請求項7:
上記(B)膜が、
膜厚方向で組成が変化しない単層で構成されている、又は
膜厚方向で組成が変化する組成傾斜層又は複数層で構成され、かつ上記(B)膜の上記(A)膜との界面における酸素濃度が、上記(B)膜の上記界面から離間する側における酸素濃度より低い
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のフォトマスクブランク。
請求項8:
上記(B)膜の1層又は2層以上が、ハードマスク膜を含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載のフォトマスクブランク。
請求項9:
上記(B)膜が上記(A)膜より薄いことを特徴とする請求項8記載のフォトマスクブランク。
請求項10:
上記透明基板と、上記(A)膜及び(B)膜との間に、(C)遷移金属とケイ素とを含有する膜、又はケイ素を含有し、遷移金属と酸素を含有しない膜が形成されていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載のフォトマスクブランク。
請求項11:
透明基板と、該透明基板上に形成された、(A)クロムと窒素を含有し、ケイ素を含有しない膜を1層又は2層以上と、(B)ケイ素と酸素とを含有し、遷移金属を含有しない膜を1層又は2層以上とを有し、(A)膜と(B)膜とが接して形成されたフォトマスクブランクをスパッタリングにより製造する方法であって、
(A)膜の上に(B)膜を成膜する場合は、(B)膜の成膜初期において、一定時間、酸素含有ガスの量(流量)を(B)膜の機能に応じて設定される(B)膜の所定の組成となる量(流量)から減量して供給する又は供給しないようにして成膜を開始し、その後、酸素含有ガスの流量を、上記(B)膜の所定の組成となる量(流量)に増量して成膜すること、又は
(B)膜の上に(A)膜を成膜する場合は、酸素含有ガスの流量を、(B)膜の機能に応じて設定される(B)膜の所定の組成となる量(流量)で成膜し、その後、(B)膜の機能に応じて設定される(B)膜の所定の組成となるように設定されていた酸素含有ガスの量(流量)から、(B)膜の成膜終期において、一定時間、酸素含有ガスの量(流量)を減量して供給する又は供給しないようにして成膜を終了すること
を特徴とするフォトマスクブランクの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
フォトマスクブランク及びフォトマスクにおいて、クロムを含有する膜とケイ素を含有する膜とが接している膜構成を含む場合に、経時変化による欠陥の発生が抑制されたフォトマスクブランク及びフォトマスクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明のフォトマスクブランクは、石英基板などの透明基板(露光光に対して透明な基板)と、透明基板上に形成された膜として、(A)クロムと窒素とを含有し、ケイ素を含有しない膜と、(B)ケイ素と酸素とを含有し、遷移金属を含有しない膜とを有し、(A)膜と(B)膜とが接して形成されている。透明基板と、(A)膜及び(B)膜との間には、(C)遷移金属とケイ素とを含有する膜、又はケイ素を含有し、遷移金属と酸素を含有しない膜が形成されていてもよく、(C)膜は(A)膜と接して形成されていることが好ましく、更に、(C)膜は透明基板と接して形成されていることが好ましい。(A)膜、(B)膜及び(C)膜は、各々、単層で構成しても、複数(2以上で、通常4以下)の層で構成してもよい。
【0015】
具体的には、以下のようなものが例示される。
図1(A)は、本発明のフォトマスクブランクの第1の態様((A)膜と(B)膜とが接する界面が1つであるもの)の一例を示す断面図である。このフォトマスクブランクは、(C)膜を有するフォトマスクブランクである。
図1(A)に示されるフォトマスクブランクの場合、透明基板と、(A)膜及び(B)膜との間に、(C)膜が形成されており、このフォトマスクブランク10は、透明基板1上に、透明基板1に接して(C)遷移金属とケイ素とを含有する膜、又はケイ素を含有し、遷移金属と酸素を含有しない膜4、(C)膜に接して(A)クロムと窒素とを含有し、ケイ素を含有しない膜2、(A)膜に接して(B)ケイ素と酸素とを含有し、遷移金属を含有しない膜3が順に積層された3層の膜を有する。
【0016】
また、
図1(B)は、本発明のフォトマスクブランクの第1の態様の他の例を示す断面図である。このフォトマスクブランクは、(C)膜を有さないフォトマスクブランクである。
図1(B)に示されるフォトマスクブランクの場合、(A)膜が透明基板に接して形成されており、このフォトマスクブランク11は、透明基板1上に、透明基板1に接して(A)クロムと窒素とを含有し、ケイ素を含有しない膜2、(A)膜に接して(B)ケイ素と酸素とを含有し、遷移金属を含有しない膜3が順に積層された2層の膜を有する。
【0017】
本発明において、(A)膜と(B)とは、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)により、膜の厚さ方向に二次イオン強度を測定したとき、(A)膜と(B)膜との界面又は界面近傍で、SiCrO
5の二次イオン強度が極大値となる深さ位置において、Cr
2O
5の二次イオン強度が、SiNの二次イオン強度より低いことを特徴とする。このようにすることで、クロムと窒素とを含有し、ケイ素を含有しない膜((A)膜)と、ケイ素と酸素とを含有し、遷移金属を含有しない膜((B)膜)との界面及び界面近傍に発生する欠陥を低減又は防止することができる。
【0018】
特に、TOF−SIMSで測定されるSiCrO
5の二次イオン強度が極大値となる深さ位置における、Cr
2O
5の二次イオン強度I
Aと、SiNの二次イオン強度I
Cとの比(I
A/I
C)は1未満であり、0.8以下であることが好ましい。なおI
A/I
Cの下限は、通常0.05以上である。
【0019】
(A)膜と(B)膜との積層順は、透明基板側が(A)膜であっても、透明基板側が(B)膜であってもよい。また、本発明のフォトマスクブランクは、(A)膜と(B)膜とが1層ずつ積層されているもの、即ち、(A)膜と(B)膜とが接する界面が1つであるものに限られず、(A)膜と(B)膜とが接する界面が複数あるもの、例えば、(A)層が(B)層の両面の各々に接して形成されているもの、(B)層が(A)層の両面の各々に接して形成されているもの、(A)膜と(B)膜とが交互に積層されているものであってもよい。
【0020】
この場合、(A)膜が複数存在する場合、各々の(A)層は、膜の機能、膜厚、層構成、組成などは、互いに同一であっても異なっていてもよく、また、(B)膜が複数存在する場合も、各々の(B)層は、膜の機能、膜厚、層構成、組成などは、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0021】
(A)膜と(B)膜とが接する界面が複数あるものの場合、TOF−SIMSで測定されるSiCrO
5の二次イオン強度が極大値となる深さ位置における、Cr
2O
5の二次イオン強度I
Aと、SiNの二次イオン強度I
Cとの間の上述した特徴は、上記界面の少なくとも1つにおいて満たされていればよいが、上記界面の全てにおいて満たされていることが好ましい。
【0022】
本発明においては、透明基板と、該透明基板上に形成された、(A)クロムと窒素とを含有し、ケイ素を含有しない膜と、(B)ケイ素と酸素とを含有し、遷移金属を含有しない膜とを有し、(A)膜と(B)膜とが接して形成されたフォトマスクブランクにおいて、TOF−SIMSで測定されるSiCrO
5の二次イオン強度が極大値となる深さ位置における、Cr
2O
5の二次イオン強度I
Aと、SiNの二次イオン強度I
Cとの間の上述した特徴を満たすフォトマスクブランクを設計又は選定すること、また、上述した特徴を満たすようにフォトマスクブランクを製造することにより、(A)膜と(B)膜との間に生じる欠陥の経時的増加が抑制されたフォトマスクブランクを提供することができる。
【0023】
(A)膜は、クロムと窒素とを含有し、ケイ素を含有しない膜である。(A)膜は、フッ素系ドライエッチングに対して耐性を有し、かつ塩素系ドライエッチングで除去可能な材料で構成されていることが好ましい。(A)膜の材料としては、クロムと、窒素と、任意に酸素及び炭素の一方又は双方とを含有するクロム化合物、具体的には、クロム窒化物(CrN)、クロム酸化窒化物(CrON)、クロム窒化炭化物(CrNC)、クロム酸化窒化炭化物(CrONC)などが挙げられる。このクロムと窒素とを含有し、ケイ素を含有しない材料は、スズ(Sn)、インジウム(In)などを含んでいてもよい。このクロムと窒素とを含有し、ケイ素を含有しない材料としては、クロムと共に、酸素を含有しているものが好適である。(A)膜の膜厚は、3nm以上、特に40nm以上で、100nm以下、特に70nm以下が好ましい。
【0024】
(A)膜としては、遮光膜が好適であり、(A)膜の1層又は2層以上として、遮光膜を含むことが好ましい。この遮光膜は、透明基板側で隣接する膜、例えば(C)膜又は透明基板のエッチングマスクとして機能させることができる(A)膜として遮光膜を透明基板上に設けた場合、好ましくは、(A)膜として遮光膜を透明基板に接して設けた場合、フォトマスクブランクをバイナリーフォトマスクブランクとすることができ、これからバイナリーフォトマスクを製造することができる。
【0025】
(A)膜が遮光膜である場合、(A)膜のクロム化合物は、クロムの含有率は30原子%以上、特に35原子%以上で、100原子%未満、特に99原子%以下、とりわけ90原子%以下であることが好ましい。酸素の含有率は0原子%以上で、60原子%以下、特に40原子%以下であることが好ましく、酸素を含むようにすること、特に1原子%以上含むようにすることで、エッチング速度を調整することができる。窒素の含有率は1原子%以上、特に10原子%以上で、50原子%以下、特に40原子%以下であることが好ましい。炭素の含有率は0原子%以上で、30原子%以下、特に20原子%以下であることが好ましく、炭素を含むようにすること、特に1原子%以上含むようにすることで、エッチング速度を調整することができる。クロム、酸素、窒素及び炭素の合計の含有率は95原子%以上、特に99原子%以上、とりわけ100原子%であることが好ましい。遮光膜の膜厚は、30nm以上、特に40nm以上で、70nm以下、特に60nm以下が好ましい。遮光膜は、例えば、遮光層と反射防止層とを組み合わせた多層膜としてもよい。
【0026】
フォトマスクにおいて、外枠パターンや、フォトマスクパターン領域内の遮光性を有する部分は、露光光が実質的にほぼ遮光される程度の遮光度が必要であるが、(A)膜を遮光膜とすることにより、遮光性を確保することができる。フォトマスクブランク又はフォトマスクが(C)膜を含む場合は、(C)膜及び(A)膜の合計で、フォトマスクブランク又はフォトマスクが(C)膜を含まない場合は、(A)膜のみで、光学濃度が、露光光、例えば、波長250nm以下の光、特にArFエキシマレーザ(193nm)などの波長200nm以下の光に対して2以上、特に2.5以上、とりわけ3以上となるようにすることが好ましい。
【0027】
(B)膜は、ケイ素と酸素とを含有し、遷移金属を含有しない膜である。(B)膜は、特に、(A)膜に含まれるクロム(Cr)やその他の遷移金属を含有していない。(B)膜は、塩素系ドライエッチングに対して耐性を有し、かつフッ素系ドライエッチングで除去可能な材料で構成されていることが好ましい。(B)膜の材料としては、ケイ素と、酸素又は酸素及び窒素とを含有するケイ素化合物、具体的には、ケイ素酸化物(SiO)、ケイ素酸化窒化物(SiON)などが挙げられ、特にケイ素酸化物(SiO)が好ましい。(B)膜の膜厚は、1nm以上、特に2nm以上で、100nm以下、特に80nm以下が好ましい。
【0028】
(B)膜としては、ハードマスク膜が好適であり、(B)膜の1層又は2層以上として、ハードマスク膜を含むことが好ましい。このハードマスク膜は、透明基板側で隣接する膜、例えば(A)膜のエッチングマスクとして機能させることができる。(B)膜がハードマスク膜である場合、ケイ素の含有率は20原子%以上、特に33原子%以上で、95原子%以下、特に80原子%以下であることが好ましい。酸素の含有率は1原子%以上、特に20原子%以上で、70原子%以下、特に66原子%以下であることが好ましい。窒素の含有率は50原子%以下、特に40原子%以下であることが好ましい。ケイ素、酸素及び窒素の合計の含有率は95原子%以上、特に99原子%以上、とりわけ100原子%であることが好ましい。ハードマスク膜の膜厚は、1nm以上、特に2nm以上で、20nm以下、特に15nm以下が好ましい。(B)膜がハードマスク膜の場合、(A)膜より薄いことが好ましい。具体的には、(A)膜の膜厚と(B)膜の膜厚との差が20nm以上、特に30nm以上であること、または(B)膜は(A)膜の1/2以下、特に1/3以下であることが好適である。
【0029】
(B)膜としては、ハーフトーン位相シフト膜などの位相シフト膜も好適であり、(B)膜の1層として、位相シフト膜を含むことが好ましい。(B)膜が位相シフト膜である場合、ケイ素の含有率は30原子%以上、特に40原子%以上で、60原子%以下、特に50原子%以下であることが好ましい。酸素の含有率は1原子%以上、特に2原子%以上で、10原子%以下、特に5原子%以下であることが好ましい。窒素の含有率は0原子%以上、特に40原子%以上で、70原子%以下、特に60原子%以下であることが好ましい。
【0030】
(A)膜は、フッ素系ドライエッチングに対する耐性の観点から、また、特に遮光膜においては、その遮光性を確保するという観点から、クロム濃度(クロム含有率)が高い膜が好ましい。しかし、クロム濃度が高い膜は、(B)膜との界面又は界面近傍で(B)膜に含まれる酸素によるクロムの酸化が起こりやすい。そのため、(A)膜を、膜厚方向で組成が変化する組成傾斜層又は複数層で構成し、(A)膜の(B)膜との界面におけるクロム濃度が、(A)膜の界面から離間する側におけるクロム濃度より低くなるようにすることが好ましい。また、(B)膜に含まれる酸素によるクロムの酸化の観点からは、特に、(A)膜の(B)膜との界面におけるクロム(Cr)とクロム以外の元素(E)との比Cr/E(原子比)が、4以下、特に2.5以下であることが好適である。なお、Cr/Eの下限は、通常0.5以上である。
【0031】
一方、(B)膜は、膜厚方向で組成が変化しない単層で構成してもよいが、(B)膜に含まれる酸素によるクロムの酸化の観点からは、(B)膜を、膜厚方向で組成が変化する組成傾斜層又は複数層で構成し、かつ(B)膜の(A)膜との界面における酸素濃度が、(B)膜の界面から離間する側における酸素濃度より低くなるようにすることが好ましい。また、(B)膜に含まれる酸素によるクロムの酸化の観点からは、特に、(B)膜の(A)膜との界面における酸素とケイ素との比O/Si(原子比)が、2以下、特に1.7以下であることが好適である。なお、O/Siの下限は、通常0.5以上であり、1.2以上、特に1.3以上、とりわけ1.5以上であることが好ましい。
【0032】
(C)膜は、遷移金属とケイ素とを含有する膜、又はケイ素を含有し、遷移金属と酸素を含有しない膜である。(C)膜の材料としては、塩素系ドライエッチングに対して耐性を有し、かつフッ素系ドライエッチングで除去可能な材料で構成されていることが好ましい。(C)膜の遷移金属とケイ素とを含有する膜の材料としては、遷移金属ケイ素(MeSi)、遷移金属(Me)と、ケイ素と、酸素、窒素及び炭素から選ばれる1種以上とを含有する遷移金属ケイ素化合物、具体的には、遷移金属ケイ素酸化物(MeSiO)、遷移金属ケイ素窒化物(MeSiN)、遷移金属ケイ素炭化物(MeSiC)、遷移金属ケイ素酸化窒化物(MeSiON)、遷移金属ケイ素酸化炭化物(MeSiOC)、遷移金属ケイ素窒化炭化物(MeSiNC)、遷移金属ケイ素酸化窒化炭化物(MeSiONC)などが挙げられる。遷移金属(Me)としては、チタン(Ti)、バナジウム(V)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)及びタングステン(W)から選ばれる1種以上が好適であるが、特に、ドライエッチング加工性の点からモリブデン(Mo)が好ましい。
【0033】
一方、(C)膜のケイ素を含有し、遷移金属と酸素を含有しない膜の材料としては、ケイ素単体、ケイ素と窒素を含有し、遷移金属と酸素を含有しない材料、具体的には、ケイ素窒化物(SiN)、ケイ素窒化炭化物(SiNC)などが挙げられるが、特に、窒素を含有する材料であることが好ましい。その場合、ケイ素の含有率は30原子%以上、特に40原子%以上で、99原子%以下、特に70原子%以下であることが好ましい。窒素の含有率は1原子%以上、特に10原子%以上で、70原子%以下、特に60原子%以下であることが好ましい。(C)膜の材料は、クロム(Cr)を含有しないことが好ましい。(C)膜の膜厚は、1nm以上、特に2nm以上で、100nm以下、特に80nm以下が好ましい。
【0034】
(C)膜としては、ハーフトーン位相シフト膜などの位相シフト膜が好適である。(C)膜が、遷移金属とケイ素とを含有する膜の位相シフト膜である場合、遷移金属(Me)の含有率は0.1原子%以上、特に1原子%以上で、30原子%以下、特に20原子%以下であることが好ましい。ケイ素の含有率は30原子%以上、特に35原子%以上で、60原子%以下、特に50原子%以下であることが好ましい。酸素の含有率は1原子%以上、特に2原子%以上で、15原子%以下、特に10原子%以下であることが好ましい。窒素の含有率は20原子%以上、特に30原子%以上で、60原子%以下、特に50原子%以下であることが好ましい。炭素の含有率は0原子%以上、特に1原子%以上で、5原子%以下、特に3原子%以下であることが好ましい。
【0035】
一方、(C)膜のケイ素を含有し、遷移金属と酸素を含有しない膜の位相シフト膜である場合、ケイ素の含有率は30原子%以上、特に40原子%以上で、60原子%以下、特に50原子%以下であることが好ましい。窒素の含有率は0原子%以上、特に40原子%以上で、70原子%以下、特に60原子%以下であることが好ましい。
【0036】
(B)膜又は(C)膜としてハーフトーン位相シフト膜などの位相シフト膜を設けた場合、フォトマスクブランクは、ハーフトーン位相シフト型フォトマスクブランクなどの位相シフト型フォトマスクブランクとなり、これからハーフトーン位相シフト型フォトマスクなどの位相シフト型フォトマスクを製造することができる。
【0037】
位相シフト膜の露光光に対する位相差、即ち、位相シフト膜を透過した露光光と、位相シフト膜と同じ厚さの空気層を透過した露光光との位相差は、位相シフト膜が存在する部分(位相シフト部)と、位相シフト膜が存在しない部分との境界部において、それぞれを通過する露光光の位相差によって露光光が干渉して、コントラストを増大させることができる位相差であればよく、位相差は150〜200°であればよい。一般的な位相シフト膜では、位相差を略180°に設定するが、上述したコントラスト増大の観点からは、位相差は略180°に限定されず、位相差を180°より小さく又は大きくすることができる。例えば、位相差を180°より小さくすれば、薄膜化に有効である。なお、より高いコントラストが得られる点から、位相差は、180°に近い方が効果的であることは言うまでもなく、160〜190°、特に175〜185°、とりわけ約180°であることが好ましい。一方、位相シフト膜がハーフトーン位相シフト膜である場合、その露光光に対する透過率は、3%以上、特に5%以上であることが好ましく、また、30%以下であることが好ましい。
【0038】
位相シフト膜の厚さは、薄いほど微細なパターンを形成しやすいため80nm以下とすることが好ましく、より好ましくは70nm以下、更に好ましくは65nm以下である。一方、位相シフト膜の膜厚の下限は、露光光、例えば、ArFエキシマレーザ(193nm)などの波長200nm以下の光に対し、必要な光学特性が得られる範囲で設定され、特に制限はないが、一般的には40nm以上となる。
【0039】
本発明のフォトマスクブランクに用いる膜の成膜は、スパッタリング法により行うことができる。スパッタリング方法は、DCスパッタリング、RFスパッタリングのいずれでもよく、公知のいずれの方法を用いてもよい。
【0040】
酸素、窒素又は炭素を含む材料の膜を成膜する場合、スパッタリングは、反応性スパッタリングが好ましい。スパッタガスとしては、不活性ガスと反応性ガスとが用いられ、具体的には、ヘリウムガス(He)、ネオンガス(Ne)、アルゴンガス(Ar)などの不活性ガス(希ガス)と、酸素含有ガス、窒素含有ガス及び炭素含有ガスから選ばれる反応性ガス(例えば、酸素ガス(O
2ガス)、酸化窒素ガス(N
2Oガス、NO
2ガス)、窒素ガス(N
2ガス)、酸化炭素ガス(COガス、CO
2ガス)など)との組み合わせによって、目的の組成が得られるように調整すればよい。また、膜を複数の層で構成する場合、例えば、膜厚方向に段階的又は連続的に組成が変化する膜を得る場合、そのような膜を成膜する方法としては、例えば、スパッタガスの組成を段階的又は連続的に変化させながら成膜する方法が挙げられる。
【0041】
成膜時の圧力は、膜の応力、耐薬品性、洗浄耐性などを考慮して適宜設定すればよく、通常、0.01Pa以上、特に0.03Pa以上で、1Pa以下、特に0.3Pa以下とすることで、耐薬品性が向上する。また、各ガス流量は、所望の組成となるように適宜設定すればよく、通常0.1〜100sccmとすればよい。反応性ガスと共に不活性ガスを用いる場合、不活性ガスに対する反応性ガスの流量比が5.0以下であることがより好ましい。
【0042】
(A)膜を形成する場合、スパッタターゲットとしては、クロムターゲット、クロムに酸素、窒素及び炭素から選ばれるいずれか1種又は2種以上を添加したターゲットなどを用いることができる。一方(B)膜及び(C)膜を形成する場合、スパッタターゲットとしては、ケイ素ターゲット、窒化ケイ素ターゲット、ケイ素と窒化ケイ素の双方を含むターゲット、を用いることができ、(C)膜を形成する場合は、更に、遷移金属ターゲット、ケイ素と遷移金属との複合ターゲットなどを用いることもできる。スパッタターゲットに投入する電力はスパッタターゲットの大きさ、冷却効率、成膜のコントロールのし易さなどによって適宜設定すればよく、通常、スパッタターゲットのスパッタ面の面積当たりの電力として、0.1〜10W/cm
2とすればよい。
【0043】
本発明のフォトマスクブランクは、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)により、膜の厚さ方向に二次イオン強度を測定したとき、(A)膜と(B)膜との界面又は界面近傍で、SiCrO
5の二次イオン強度が極大値となる深さ位置において、Cr
2O
5の二次イオン強度が、SiNの二次イオン強度より低いものであるが、このようなフォトマスクブランクは、例えば、(B)膜を反応性スパッタリングで成膜し、その際、酸素源である酸素含有ガス、例えば、酸素ガス(O
2ガス)、酸化窒素ガス(N
2Oガス、NO
2ガス)、酸化炭素ガス(COガス、CO
2ガス)などを、
(A)膜の上に(B)膜を成膜する場合は、(B)膜の成膜初期において、一定時間、酸素含有ガスの量(流量)を(B)膜の機能に応じて設定される(B)膜の所定の組成となる量(流量)から減量して供給する又は供給しないようにして成膜を開始し、その後、酸素含有ガスの流量を、上記(B)膜の所定の組成となる量(流量)に増量して成膜すること、又は
(B)膜の上に(A)膜を成膜する場合は、(B)膜の機能に応じて設定される(B)膜の所定の組成となるように設定されていた酸素含有ガスの量(流量)を、(B)膜の成膜終期において、一定時間、酸素含有ガスの量(流量)を減量して供給する又は供給しないようにして成膜を終了すること
により得ることができる。
【0044】
例えば、具体的には、酸素含有ガスの流量を減量して供給する又は供給しないようにして成膜する時間は、酸素含有ガスの流量を減量して供給する又は供給しないようにして成膜する膜厚が(B)膜の全体の1/100以上、特に1/50以上で、1/4以下、特に1/5以下となる時間であることが好ましい。特に、酸素含有ガスの流量を減量して供給する又は供給しないようにして成膜する時間は、酸素含有ガスの流量を減量して供給する又は供給しないようにして成膜する膜厚が3nm以下、特に2nm以下、とりわけ1nm以下となる時間とすることで、膜の界面部のみを調整することができ、膜全体の特性をほとんど変えずに欠陥の発生を低減することができる。
【0045】
上述した方法で製造したフォトマスクブランクにおいては、(B)膜の(A)膜と接する界面部のごく僅かな範囲(以下、界面部領域とする)において、界面部領域の酸素含有率が、(B)膜の界面部領域以外の部分(即ち、界面部領域から離間する側)の酸素含有率より低くなっていると考えられる。界面部領域は、(B)膜の全体の厚さに対して、ごく一部であるため、界面部領域の酸素含有率と、界面部領域より内側の酸素含有率との違いは、一般的に深さ方向の組成分析に用いられているESCAでは、特定し難い程度であっても効果がある。
【0046】
本発明のフォトマスクブランクからフォトマスクを製造することができる。フォトマスクブランクからフォトマスクを製造する方法は、公知の手法が適用でき、例えば、まず、上述した本発明のフォトマスクブランクを準備し、フォトマスクブランクの(A)膜及び(B)膜、又は(A)膜、(B)膜及び(C)膜をパターニングして、(A)膜及び(B)膜、又は(A)膜、(B)膜及び(C)膜から選ばれる1以上の膜のフォトマスクパターンを形成する。パターニングには、化学増幅型フォトレジスト、特に、電子線で描画される化学増幅型フォトレジストなどの有機系のレジストの膜を用い、レジスト膜からレジストパターンを形成し、被エッチング膜又は透明基板のエッチング特性に応じて、塩素系ドライエッチング又はフッ素系ドライエッチングを選択して、レジストパターン、又はフォトマスクの製造過程でフォトマスクブランクに含まれる膜から形成されたマスクパターンをエッチングマスクとして、透明基板上の膜、又は透明基板上の膜及び透明基板を順にパターニングすることにより、フォトマスクを製造することができる。レジスト膜の膜厚は、50nm以上、特に70nm以上で、200nm以下、特に150nm以下が好ましい。
【0047】
具体的には、例えば、
図1(A)に示されるような、透明基板上に、(C)膜(例えばハーフトーン位相シフト膜などの位相シフト膜)、(A)膜(例えば遮光膜)、及び(B)膜(例えばハードマスク膜)が順に積層された3層の膜を有するフォトマスクブランクの場合、(B)膜の上にレジスト膜を形成し、このレジスト膜を、例えば電子線によりパターンを描画してパターニングし、得られたレジストパターンをエッチングマスクとして、(B)膜をフッ素系ドライエッチングでパターニングして、(B)膜のマスクパターンを形成する。次に、(B)膜のマスクパターンをエッチングマスクとして、(A)膜を塩素系ドライエッチングでパターニングして、(A)膜のマスクパターンを形成する。次に、(A)膜のマスクパターンをエッチングマスクとして、フッ素系ドライエッチングにより、(C)膜をフッ素系ドライエッチングでパターニングして、(C)膜のマスクパターンを形成すると共に、(B)膜のマスクパターンを除去することにより、フォトマスク(ハーフトーン位相シフト型フォトマスクなどの位相シフト型フォトマスク)を製造することができる。
【0048】
本発明のフォトマスクは、被加工基板にハーフピッチ50nm以下、好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下、更に好ましくは10nm以下のパターンを形成するためのフォトリソグラフィにおいて、被加工基板上に形成したフォトレジスト膜に、ArFエキシマレーザー光(波長193nm)、F
2レーザー光(波長157nm)などの波長250nm以下、特に波長200nm以下の露光光でパターンを転写する露光において特に有効である。
【0049】
本発明のフォトマスクを用いたパターン露光方法では、フォトマスクブランクから製造されたフォトマスクを用い、フォトマスクパターンに、露光光を照射して、被加工基板上に形成したフォトマスクパターンの露光対象であるフォトレジスト膜に、フォトマスクパターンを転写する。露光光の照射は、ドライ条件による露光でも、液浸露光でもよく、特に、300mm以上のウェハーを被加工基板として液浸露光により、フォトマスクパターンを露光する場合に好適に用いることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に制限されるものではない。
【0051】
[実施例1]
152mm角、厚さ約6mmの石英基板上に、MoSiONからなる位相シフト膜(厚さ75nm)をスパッタ法で形成した。スパッタガスとしては、酸素ガスと窒素ガスとアルゴンガスとを用い、ターゲットとしては、MoSi
2ターゲットとSiターゲットとの2種類を用いて、石英基板を30rpmで回転させながら成膜した。この位相シフト膜の組成を、X線光電子分光装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製 K−Alpha)で、ESCAにより測定したところ、Mo:Si:O:N=1:4:1:4(原子比)であった。
【0052】
次に、位相シフト膜の上に、(A)膜として、石英基板側からCrNからなる層(厚さ30nm)と、CrONからなる層(厚さ20nm)との2層からなる遮光膜をスパッタ法で形成した。スパッタガスとしては、CrN層は窒素ガスとアルゴンガスを、CrON層は、酸素ガスと窒素ガスとアルゴンガスを用い、ターゲットとしては、金属クロムを用いて、石英基板を30rpmで回転させながら成膜した。この遮光膜の組成をESCAで測定したところ、CrN層はCr:N=9:1(原子比)、CrON層はCr:O:N=4:5:1(原子比)であった。
【0053】
次に、(A)膜の上に、(B)膜として、SiOからなる単層のハードマスク膜(厚さ5nm)をスパッタ法で形成した。スパッタガスとしては、酸素ガスとアルゴンとを用い、成膜開始からハードマスク膜を成膜する時間全体の1/20の時間、酸素ガス流量を20sccmとし、その後40sccmに増やし、アルゴンガス流量は15sccmで一定とした。また、ターゲットとしてはSiを用い、印加電力を1,000Wとして、透明基板を30rpmで回転させながら成膜した。このエッチングマスク膜の組成をESCAで測定したところ、ESCAの分析では、膜全体がSi:O=1:2(原子比)であった。
【0054】
以上のようにして得たフォトマスクブランクについて、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)装置(ION−TOF社製)により、膜の厚さ方向に、放出される二次イオンの強度を測定した。測定には、表面エッチング用のスパッタイオン銃と、励起イオン用のイオン銃とを用い、スパッタイオンはCsイオン、一次イオン(励起源)はBi
3++イオン(一次加速電圧:25kV、一次電流:0.2pA)として、スパッタイオンによる膜の厚さ方向に、エッチングと、一次イオンの照射により放出された二次イオンの測定を交互に繰り返すことにより、(A)膜と(B)膜との界面及び界面近傍で放出される種々の二次イオンを検出器で検出し、(A)膜と(B)膜との界面及び界面近傍における種々の二次イオンの強度分布を測定した。結果を
図2に示す。その結果、SiCrO
5の二次イオンが極大値となる位置(深さ)においてCr
2O
5の二次イオン強度がSiNの二次イオン強度より低いことがわかった。
【0055】
次に、上述した方法で得られた複数のフォトマスクブランクに対し、製造直後に、レーザーテック(株)製のマスクブランクス欠陥検査装置M6640Sを用いて、フォトマスクブランクの中央部146mm角の範囲の欠陥検査をしたところ、検出サイズ下限を約0.06μmに設定したときに検出される欠陥の総数は、個々のフォトマスクブランクにおいて、いずれも20個以下であった。また、欠陥検査を実施した複数のフォトマスクブランクを、室温のクリーンな環境下で14日間保持した後、同様にして欠陥検査をしたところ、欠陥の総数は、個々のフォトマスクブランクにおいて、いずれも20個以下であった。
【0056】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で、位相シフト膜及び(A)膜を形成し、(A)膜の上に、(B)膜として、SiOからなる単層のハードマスク膜(厚さ5nm)をスパッタ法で形成した。スパッタガスとしては、酸素ガスとアルゴンとを用い、ターゲットとしてはSiを用いて、透明基板を30rpmで回転させながら成膜した。この場合、実施例1と比較して、アルゴンの流量と、ターゲットに印加する電力は同じに設定したが、酸素ガスの流量は、成膜開始からハードマスク膜を成膜する時間全体の1/20の時間は同じとして、それ以降の酸素の流量を20sccmに低くした。このエッチングマスク膜の組成をESCAで測定したところ、ESCAの分析では、膜全体がSi:O=1:1.2(原子比)であった。
【0057】
以上のようにして得たフォトマスクブランクについて、実施例1と同様にして、(A)膜と(B)膜との界面及び界面近傍における種々の二次イオンの強度分布を測定した。結果を
図3に示す。その結果、SiCrO
5の二次イオンが極大値となる位置(深さ)においてCr
2O
5の二次イオン強度がSiNの二次イオン強度より低いことがわかった。
【0058】
次に、上述した方法で得られた複数のフォトマスクブランクに対し、実施例1と同様にして、製造直後及び14日保持後に欠陥検査をしたところ、製造直後及び14日保持後のそれぞれ、欠陥の総数は、個々のフォトマスクブランクにおいて、いずれも20個以下であった。
【0059】
[比較例1]
実施例1と同様の方法で、位相シフト膜及び(A)膜を形成し、(A)膜の上に、(B)膜として、SiOからなる単層のハードマスク膜(厚さ5nm)をスパッタ法で形成した。スパッタガスとしては、酸素ガスとアルゴンとを用い、ターゲットとしてはSiを用いて、透明基板を30rpmで回転させながら成膜した。この場合、実施例1と比較して、アルゴンの流量と、ターゲットに印加する電力は同じに設定したが、酸素ガスの流量は、成膜開始から酸素の流量を50sccm一定とした。このエッチングマスク膜の組成をESCAで測定したところ、ESCAの分析では、膜全体がSi:O=1:2(原子比)であった。
【0060】
以上のようにして得たフォトマスクブランクについて、実施例1と同様にして、(A)膜と(B)膜との界面及び界面近傍における種々の二次イオンの強度分布を測定した。結果を
図4に示す。その結果、SiCrO
5の二次イオンが極大値となる位置(深さ)においてCr
2O
5の二次イオン強度がSiNの二次イオン強度より高いことがわかった。
【0061】
次に、上述した方法で得られた複数のフォトマスクブランクに対し、実施例1と同様にして、製造直後及び14日保持後に欠陥検査をしたところ、製造直後の欠陥の総数は、個々のフォトマスクブランクにおいて、20個以下であったが、14日保持後の欠陥の総数は、個々のフォトマスクブランクにおいて、200個以上に増加しており、特に、フォトマスクブランクの外周縁部に、微小な欠陥が多く検出される結果となった。