特許第6901906号(P6901906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6901906
(24)【登録日】2021年6月22日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】切削装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20210701BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20210701BHJP
【FI】
   H01L21/78 F
   B24B27/06 M
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-95698(P2017-95698)
(22)【出願日】2017年5月12日
(65)【公開番号】特開2018-195618(P2018-195618A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2020年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(72)【発明者】
【氏名】内田 文雄
(72)【発明者】
【氏名】津野 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】宮川 沙樹
【審査官】 鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−219756(JP,A)
【文献】 特開2015−170743(JP,A)
【文献】 特開平05−154833(JP,A)
【文献】 特開平04−099946(JP,A)
【文献】 特開昭61−182573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B24B 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持する保持テーブルと、該保持テーブル上に保持された被加工物を切削するための切削ブレードを備えた切削手段と、該保持テーブルと該切削手段とを相対的に切削送り方向に移動させる切削送り手段と、該保持テーブルと該切削手段とを相対的に切削送り方向と直交する割り出し送り方向に移動させる割り出し送り手段と、該保持テーブル、該切削手段、該切削送り手段、及び該割り出し送り手段を制御する制御手段とを備えた切削装置であって、
該切削手段又は該保持テーブルに配設され該切削ブレードが被加工物を切削する際に発生する弾性波を検出する弾性波検出センサと、
該弾性波検出センサで検出された被加工物を切削加工する際の弾性波の連続的な時間軸波形からサンプリング時間T間隔で切り出して周波数解析する解析手段と、を備え、
該サンプリング時間Tは、検出したい切削後の切削溝に生じうるチッピング、クラックサイズ(切削送り方向)W[μm]、該切削送り手段の送り速度をS[mm/sec]とすると、T≦W/(S×1000)[sec]となるように設定することを特徴とする切削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削ブレードで被加工物を切削する切削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハに代表される板状の被加工物は、例えば、切削装置において円環状の切削ブレードで切削されて複数のチップへと分割される。被加工物の切削中に切削ブレードの欠けや、切削性能の低下、異物との接触、加工負荷の変化といった異常が生じると、切削ブレードが振動してしまう。このような切削ブレードの異常を検出する方法として、光学センサで切削ブレードの欠けを検出する方法(例えば、特許文献1参照)や、切削ブレードを装着したスピンドルのモータ電流をモニタして加工負荷を検出する方法が提案されている。
【0003】
光学センサで切削ブレードの欠けを検出する方法では、切削ブレードの欠け以外の異常を適切に検出することができない。また、スピンドルのモータ電流をモニタする方法では、切削ブレードの回転に影響する各種の異常を検出可能だが、ある程度の測定誤差が生じるため僅かな異常の検出には向いていない。そこで、弾性波検出センサによって切削ブレードの振動に応じた弾性波を検出し、弾性波の検出結果を周波数解析することで、切削ブレードの振動を伴う切削中の異常を検出する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4704816号公報
【特許文献2】特開2015−170743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、切削中の異常の中でも被加工物で生じた微細なチッピングは問題にはならないが、ガラス等の切削時に発生する突発的なサイズのチッピングやクラックを検出したいという要望がある。しかしながら、上記した周波数解析では、このような被加工物のチッピングやクラックを適切に検出することが困難になっていた。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、切削加工中に被加工物で検出対象となるチッピングやクラックを検出することができる切削装置を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の切削装置は、被加工物を保持する保持テーブルと、該保持テーブル上に保持された被加工物を切削するための切削ブレードを備えた切削手段と、該保持テーブルと該切削手段とを相対的に切削送り方向に移動させる切削送り手段と、該保持テーブルと該切削手段とを相対的に切削送り方向と直交する割り出し送り方向に移動させる割り出し送り手段と、該保持テーブル、該切削手段、該切削送り手段、及び該割り出し送り手段を制御する制御手段とを備えた切削装置であって、該切削手段又は該保持テーブルに配設され該切削ブレードが被加工物を切削する際に発生する弾性波を検出する弾性波検出センサと、該弾性波検出センサで検出された被加工物を切削加工する際の弾性波の連続的な時間軸波形からサンプリング時間T間隔で切り出して周波数解析する解析手段と、を備え、該サンプリング時間Tは、検出したい切削後の切削溝に生じうるチッピング、クラックサイズ(切削送り方向)W[μm]、該切削送り手段の送り速度をS[mm/sec]とすると、T≦W/(S×1000)[sec]となるように設定することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、切削送り速度を考慮した適切なサンプリング時間で、切削加工の際の弾性波の連続的な時間軸波形から切り出して周波数解析される。チッピングサイズやクラックサイズに合わせた適切なサンプリング時間で切り出して周波数解析するため、切削加工中のチッピングやクラックの発生を検出することができると共に、チッピングやクラックの発生位置を特定することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、切削送り速度を考慮した適切なサンプリング時間で周波数解析することで、切削加工中のチッピングやクラックの発生を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態の切削装置の斜視図である。
図2】本実施の形態の切削手段の分解斜視図である。
図3】本実施の形態の切削手段の断面等を模式的に示す図である。
図4】本実施の形態のチッピング等の検出処理の説明図である。
図5】サンプリング時間に応じた周波数解析の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本実施の形態の切削装置について説明する。図1は、本実施の形態の切削装置の斜視図である。なお、切削装置は、本実施の形態のように切削ブレードに生じる弾性波を検出可能な構造を備えていればよく、図1に示す構成に限定されない。
【0012】
図1に示すように、切削装置1は、切削ブレード43と保持テーブル15を相対的に切削送り方向に移動させることで、保持テーブル15に保持された被加工物Wを切削ブレード43で切削するように構成されている。被加工物Wの表面は、格子状の分割予定ラインによって複数の領域に区画されており、分割予定ラインに区画された各領域には各種デバイスが形成されている。被加工物Wは、リングフレームFの内側でダイシングテープTに貼着されており、ダイシングテープTを介してリングフレームFに支持された状態で切削装置1に搬入される。
【0013】
切削装置1の基台10の上面中央は、X軸方向(切削送り方向)に延在するように開口しており、この開口は保持テーブル15と共に移動可能な移動板11及び蛇腹状の防水カバー12に覆われている。保持テーブル15の表面には、ポーラス材によって保持面16が形成されており、この保持面16に生じる負圧によって被加工物Wが吸引保持される。保持テーブル15の周囲には、エア駆動式の4つのクランプ部17が設けられており、各クランプ部17に被加工物Wの周囲のリングフレームFが四方から挟持固定される。防水カバー12の下方には保持テーブル15をX軸方向(切削送り方向)に切削送りする送りネジ式の切削送り手段18が設けられている。
【0014】
基台10の上面には、開口を挟んでカセット(不図示)が載置されるエレベータ手段21及び加工済みの被加工物Wを洗浄する洗浄手段24が設けられている。エレベータ手段21は、カセットが載置されたステージ22を昇降させて、カセット内の被加工物Wの出し入れ位置を高さ方向で調整する。洗浄手段24は、被加工物Wを保持したスピンナテーブル25を基台10内に降下させ、回転中のスピンナテーブル25に向けて洗浄水を噴射して被加工物Wを洗浄し、続けて乾燥エアを吹き付けて被加工物Wを乾燥する。また、基台10の上面には、保持テーブル15の移動経路を跨ぐように門型の立壁部13が立設されている。
【0015】
立壁部13には、一対の切削手段40をY軸方向(割り出し送り方向)に割り出し送りする割り出し送り手段30と、切削手段40をZ軸方向(切り込み送り方向)に切込み送りする切り込み送り手段35とが設けられている。割り出し送り手段30は、立壁部13の前面に配置されたY軸方向に平行な一対のガイドレール31と、一対のガイドレール31にスライド可能に設置されたY軸テーブル32とを有している。切り込み送り手段35は、Y軸テーブル32上に配置されたZ軸方向に平行な一対のガイドレール36と、一対のガイドレール36にスライド可能に設置されたZ軸テーブル37とを有している。
【0016】
各Z軸テーブル37の下部には、被加工物Wを切削する切削手段40が設けられている。Y軸テーブル32およびZ軸テーブル37の背面側には、それぞれナット部が形成されており、これらナット部に送りネジ33、38が螺合されている。Y軸テーブル32用の送りネジ33、Z軸テーブル37用の送りネジ38の一端部には、それぞれ駆動モータ34、39が連結されている。駆動モータ34、39により、それぞれの送りネジ33、38が回転駆動されることで、各切削手段40がガイドレール31に沿ってY軸方向に移動され、各切削手段40がガイドレール36に沿ってZ軸方向に切込み送りされる。
【0017】
一対の切削手段40は、スピンドルハウジング41にスピンドル42(図2参照)が回転自在に支持され、スピンドル42の前端に切削ブレード43が装着されている。切削ブレード43は、ダイヤモンド砥粒をボンド剤で固めた円板状に形成されている。スピンドルハウジング41にはブレードカバー45が固定され、ブレードカバー45によって切削ブレード43の周囲が部分的に覆われている。また、ブレードカバー45には、被加工物Wを切削する際に切削ブレード43に切削水を供給する切削水供給手段46が設けられており、切削水供給手段46の各種ノズルから切削水を供給しながら被加工物Wが切削される。
【0018】
このように構成された切削装置1では、被加工物Wの切削中に切削ブレード43の異常を検出する必要があるが、一般的な光学センサを用いた検出方法では切削ブレード43の欠け以外の異常を検出することはできない。この場合、切削ブレード43の振動に応じた弾性波を検出して、弾性波の検出結果を周波数解析することで、切削ブレード43の振動を伴う切削中の異常を検出することが可能である。周波数解析では、弾性波の連続的な時間軸波形が所定のサンプリング時間で切り出され、サンプリング時間毎に周波数成分に変換されて切削時の異常が検出される。
【0019】
ところで、被加工物Wの切削加工中にチッピングやクラック等が生じることがあるが、数[μm]程度の微細なチッピングやクラックであれば無視することができる。しかしながら、ガラス等の切削加工中には、例えば、100[μm]程度のサイズで突発的にチッピングやクラックが生じる場合があり、このサイズのチッピングやクラックを無視することはできない。周波数解析で切削加工中のチッピングやクラックの異常を検出するためには、チッピングサイズやクラックサイズに対して適切なサンプリング時間を合わせなければならない。
【0020】
ここで、本件発明者らがチッピングサイズやクラックサイズとサンプリング時間との関係を検査したところ、サンプリング時間を短くして周波数変換した方が切削加工時のチッピングの検出に有効であることがわかった。通常のサンプリング時間(例えば、100[msec])では、周波数分解能が高く周波数成分を細かく解析できるが、微細なチッピング等のノイズも拾われるため、検出対象のチッピングやクラックを示すピークが埋もれてしまう。また、サンプリング時間が長いため、サンプリング時間のどのタイミングでチッピングやクラックが生じたかを特定できない。
【0021】
これに対し、短いサンプリング時間(例えば、1[msec])では、周波数分解能が低く周波数成分の解析が粗くなるが、データ数が少ないため検出対象のチッピングやクラックの発生を検出することができる。また、短時間でサンプリングが繰り返されるため、チッピングやクラックが生じたタイミングを特定できる。そこで、切削加工においては高精度な周波数解析よりもチッピングやクラックの発生タイミングの検出が重要である点に着目し、本実施の形態ではチッピングサイズやクラックサイズに合わせたサンプリング時間で振動波形を切り出して周波数解析している。
【0022】
図2及び図3を参照して、本実施の形態の切削手段について説明する。図2は、本実施の形態の切削手段の分解斜視図である。図3は、本実施の形態の切削手段の断面等を模式的に示す図である。なお、図2及び図3では、説明の便宜上、切削ブレードの外周を覆うホイールカバーを省略して記載している。また、切削手段は、本実施の形態の切削ブレードが装着される構成であればよく、図2及び図3に示す構成に限定されない。
【0023】
図2に示すように、切削手段40は、スピンドル42の先端にブレードマウント51が取り付けられ、ブレードマウント51に切削ブレード43が装着されている。スピンドル42は、例えばエアスピンドルであり、圧縮エア層を介してスピンドルハウジング41に対して浮動状態で支持されている。スピンドルハウジング41の先端面には、スピンドル42の先端側をカバーするカバー部材47が取り付けられている。カバー部材47には一対のブラケット48が設けられ、ブラケット48を介してスピンドルハウジング41にネジ止めされることで、カバー部材47の中央開口49からスピンドル42の先端部分が突出される。
【0024】
スピンドル42の先端部分には、切削ブレード43を支持するブレードマウント51が取り付けられる。ブレードマウント51の背面側にはスピンドル42の先端部分に装着される嵌合穴52(図3参照)が形成され、ブレードマウント51の表面側には円筒状のボス部53が形成されている。ボス部53の表面側には円形凹部54が形成され、円形凹部54の底面には嵌合穴52に連なる貫通穴55が形成されている。これにより、ブレードマウント51に嵌め込まれたスピンドル42の先端面が貫通穴55から露出され、スピンドル42の先端面のネジ穴44に固定ボルト59がワッシャ58を介して締め付けられることでスピンドル42にブレードマウント51が固定される。
【0025】
ブレードマウント51にはボス部53の周面から径方向外側に広がるフランジ部56が形成され、フランジ部56に押し付けられるようにして切削ブレード43がブレードマウント51に取り付けられる。切削ブレード43は、略円板状のハブ基台61の外周に環状の切れ刃62が取り付けられたハブブレードであり、ハブ基台61の中央にはブレードマウント51のボス部53に挿入される挿入穴63が形成されている。この挿入穴63がボス部53に押し込まれると、ハブ基台61からボス部53が突出される。そして、ボス部53の突出部分に形成された雄ネジ57に固定ナット65が締め付けられてブレードマウント51に切削ブレード43が固定される。
【0026】
また、切削手段40には、切削ブレード43が被加工物Wを切削する際に発生する弾性波を検出可能な弾性波検出センサ71が設けられている。弾性波検出センサ71は、いわゆるAE(Acoustic Emission)センサであり、ブレードマウント51に伝播した弾性波を振動子72で電気的な変化に変換して検出信号として出力する。弾性波検出センサ71は、切削ブレード43に近いブレードマウント51に設けられているため、切削ブレード43からの振動が伝わり易くなっている。したがって、弾性波検出センサ71によって切削ブレード43の振動が精度よく検出される。
【0027】
ブレードマウント51側には振動子72に接続された第1のコイル手段73(図3参照)が設けられ、カバー部材47側には第2のコイル手段74が設けられている。第1のコイル手段73及び第2のコイル手段74には、例えば、円環状の扁平コイルが使用される。第1、第2のコイル手段73、74は磁気的に結合され、振動子72からの検出信号が相互誘導によって第1のコイル手段73から第2のコイル手段74に伝送される。このように、第1、第2のコイル手段73、74によって非接触で検出信号が伝送されるため、切削ブレード43と共に回転するブレードマウント51に弾性波検出センサ71を設けることが可能になっている。
【0028】
図3に示すように、弾性波検出センサ71には、第1、第2のコイル手段73、74の磁気的な結合を介して、切削装置1(図1参照)の各部を制御する制御手段75が接続されている。制御手段75には、弾性波検出センサ71で検出された時間軸波形を周波数解析する解析手段76と、周波数解析結果から対象サイズ(例えば、100[μm]程度)のチッピングやクラックを判断する判断手段77とが設けられている。解析手段76では、被加工物Wを切削加工する際に弾性波検出センサ71で検出された弾性波の連続的な時間軸波形がサンプリング時間間隔で切り出され、FFT(Fast Fourier Transform)で周波数解析される。
【0029】
サンプリング時間T[sec]は、検出したい切削後の切削溝(カーフ)に生じる切削送り方向のチッピングサイズ又はクラックサイズをW[μm]、切削送り手段18(図1参照)の送り速度をS[mm/sec]とすると、次式(1)の条件を満たすように設定される。
(1)
T≦W/(S×1000)[sec]
このように、サンプリング時間Tは、チッピングサイズ(クラックサイズ)Wを切削ブレード43が通過する所要時間よりも短く設定されている。
【0030】
なお、チッピングサイズ(クラックサイズ)W及び送り速度Sは、被加工物Wの種類や加工内容に応じて設定される。例えば、ガラス加工時には、チッピングサイズ(クラックサイズ)Wが数[μm]〜数百[μm]に設定され、送り速度Sが数[mm/sec]〜数十[mm/sec]に設定されることが好ましい。また、シリコン加工時には、チッピングサイズ(クラックサイズ)Wが数[μm]〜数十[μm]に設定され、送り速度Sが数十[mm/sec]〜100[mm/sec]に設定されることが好ましい。
【0031】
判断手段77では、解析手段76による周波数解析結果に含まれるピークから検出対象となるチッピング等の有無が判断される。周波数解析結果のピークが閾値以上の場合には、切削加工中に対象サイズ以上のチッピング等が発生していると判断されて、オペレータに対してチッピング等の発生が報知される。周波数解析結果のピークが閾値よりも小さい場合には、切削加工中に対象サイズ以上のチッピング等が発生していないと判断されて切削加工が継続される。なお、チッピング等の判定用の閾値には、実験的、経験的又は理論的に求められた値が使用されてもよい。
【0032】
また、サンプリング時間が短く設定されているため、サンプリングされたデータ数が少なく、チッピング等を示すピークが周辺ノイズに埋もれ難い。また、短時間で周波数解析が繰り返されるため、チッピング等のピークが検出されたサンプリング時間から、被加工物Wの切削送り方向でチッピング等の発生位置が特定される。このように、検出対象となるチッピング等のサイズと切削送り手段18の送り速度に応じてサンプリング時間を設定することで、弾性波検出センサ71の振動波形から検出対象のチッピング等を適切に検出することができる。
【0033】
また、切削装置1には、判断手段77でチッピング等が発生していると判断された場合に、その旨を報知する報知手段78が設けられている。これにより、切削加工中に検出対象のチッピングの発生をオペレータに報知してメンテナンス作業等を促すことができる。なお、制御手段75の各部は、各種処理を実行するプロセッサやメモリ等により構成されている。メモリは、用途に応じてROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の一つ又は複数の記憶媒体で構成される。メモリには、例えば、装置各部の駆動制御用のプログラムやチッピング等の検出用のプログラムが記憶されている。
【0034】
図4及び図5を参照して、チッピング又はクラックの検出について説明する。図4は、本実施の形態のチッピング等の検出処理の説明図である。図5は、サンプリング時間に応じた周波数解析の一例を示す図である。なお、図5Aはサンプリング時間をT1にした場合の本実施の形態の周波数解析、図5Bはサンプリング時間をT2にした場合の比較例の周波数解析をそれぞれ示している。また、ここでは被加工物の表面にチッピングが生じた一例について説明するが、被加工物の表面にクラックが生じた場合でも同様な方法で検出可能である。
【0035】
図4に示すように、被加工物Wを切削ブレード43(図2参照)で切削すると、被加工物Wの表面にカーフ(切削溝)81が形成される。カーフエッジ82には、切削送り方向に沿って微細なチッピング85や検出対象となるチッピング86が突発的に発生している。ここで、上記したように、サンプリング時間T1は、検出対象となるチッピング86のサイズと切削加工の送り速度に応じて設定されている。すなわち、チッピングサイズを切削ブレード43が通過する所要時間以下にサンプリング時間T1が設定されている。したがって、時間軸方向でチッピング86の発生位置を細かく検出することが可能になっている。
【0036】
例えば、図5Aに示すように、本実施の形態では切削加工時の連続的な振動波形がサンプリング時間T1(例えば、1msec)毎に切り出されて周波数解析される。サンプリング時間T1が短く設定されているため、サンプリングされたデータ数が少なく周波数分解能が低くなっている。切削加工中に検出対象のチッピング86が生じても、チッピング86を示すピークが立った周波数を精度よく検出することはできないが、一定の周波数帯域に閾値以上のピークが立っていることを認識することができる。すなわち、サンプリング時間T1内で検出対象のチッピング86が生じているか否かを検出することができる。
【0037】
また、サンプリング時間T1が短く設定されているため、検出対象のチッピング86と他の微細なチッピング85は同時に検出され難い。このため、検出対象のチッピング86を示すピークの周辺に、他の微細なチッピング85が周辺ノイズとして現れ難く、検出対象のチッピング86のピークを検出することができる。また、サンプリング時間T1の経過毎に周波数変換が実施されているため、サンプリング時間T1単位で検出対象のチッピング86の有無が判断される。よって、切削加工中にチッピング86が生じたタイミングから、被加工物W上でのチッピング86の発生位置を検出することができる。
【0038】
一方、図5Bに示すように、比較例では切削加工時の連続的な振動波形がサンプリング時間T2(例えば、100msec)毎に切り出されて周波数解析される。サンプリング時間T2は、サンプリング時間T1よりも長い時間に設定されている。サンプリング時間T2が長く設定されているため、サンプリングされたデータ数が多く周波数分解能が高くなっている。周波数分解能が高いため、ピークが立った周波数を精度よく検出することができるが、検出対象となるチッピング86以外にも微細なチッピング85等が周辺ノイズとして現れてチッピング86を示すピークが見つけ出し難い。
【0039】
また、サンプリング時間T2の経過毎に周波数変換が実施されているため、サンプリング時間T2単位で検出対象のチッピング86の有無が判断される。サンプリング時間T2は長いため、サンプリング時間T2内で検出対象のチッピング86が検出されても、切削加工中のチッピング86が生じたタイミングを特定することはできない。このため、比較例の周波数解析では、ピークが立った周波数を精度よく特定できるものの、チッピング86が生じたタイミングを特定することができず、被加工物W上でのチッピング86の発生位置を検出することができない。
【0040】
以上のように、本実施の形態の切削装置1によれば、切削送り速度を考慮した適切なサンプリング時間で、切削加工の際の弾性波の連続的な時間軸波形から切り出して周波数解析される。チッピングサイズやクラックサイズに合わせた適切なサンプリング時間で切り出して周波数解析するため、切削加工中のチッピングやクラックの発生を検出することができると共に、チッピングやクラックの発生位置を特定することができる。
【0041】
なお、本実施の形態では、弾性波検出センサとしてAEセンサを例示して説明したが、この構成に限定されない。弾性波検出センサは、弾性波を検出可能であればよく、例えば、振動センサで構成されてもよい。また、AEセンサは、特定周波数の高い感度が得られる共振型AEセンサ、広い帯域で一定の感度が得られる広帯域型AEセンサ、プリアンプを内蔵したプリアンプ内蔵型AEセンサのいずれで構成されてもよい。また、共振型AEセンサでは、共振周波数の異なる複数の振動子(圧電素子)を設けておき、加工条件等に応じて適宜選択してもよい。
【0042】
また、弾性波検出センサの振動子は、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zi,Ti)O)、リチウムナイオベート(LiNbO)、リチウムタンタレート(LiTaO)等のセラミックスで形成される。
【0043】
また、本実施の形態では、ダイシングテープは、テープ基材に粘着層が塗布された通常の粘着テープの他、テープ基材にDAFが貼着されたDAF(Dai Attach Film)テープでもよい。
【0044】
また、本実施の形態では、解析手段がFFTを用いて弾性波の時間軸波形を周波数解析する構成にしたが、この構成に限定されない。解析手段は、弾性波の連続的な時間軸波形をサンプリング時間で切り出して周波数解析する構成であればよく、例えば、DFT(Discrete Fourier Transform)を用いて弾性波の時間軸波形を周波数解析してもよい。
【0045】
また、本実施の形態では、切削送り手段が切削手段に対して保持テーブルを切削送り方向に移動させる構成にしたが、この構成に限定されない。切削送り手段は、保持テーブルと切削手段とを相対的に切削送り方向に移動させる構成であればよく、保持テーブルに対して切削手段を切削送り方向に移動させてもよい。
【0046】
また、本実施の形態では、割り出し送り手段が保持テーブルに対して切削手段を割り出し送り方向に移動させる構成にしたが、この構成に限定されない。割り出し送り手段は、保持テーブルと切削手段とを相対的に、切削送り方向に直交する割り出し送り方向に移動させる構成であればよく、切削手段に対して保持テーブルを割り出し送り方向に移動させてもよい。
【0047】
また、本実施の形態では、切り込み送り手段が保持テーブルに対して切削手段を切り込み送り方向に移動させる構成にしたが、この構成に限定されない。切り込み送り手段は、保持テーブルと切削手段とを相対的に、被加工物の表面に直交する切り込み送り方向に移動させる構成であればよく、切削手段に対して保持テーブルを切り込み送り方向に移動させてもよい。
【0048】
また、本実施の形態では、弾性波検出センサの振動子が切削手段のブレードマウントに取り付けられる構成にしたが、この構成に限定されない。弾性波検出センサの振動子は、ブレードカバー、スピンドル等の切削ブレードの振動が伝わり易い箇所に設置されていればよい。
【0049】
また、本実施の形態では、弾性波検出センサが切削手段に配設される構成にしたが、この構成に限定されない。弾性波検出センサは保持テーブルに配設されていてもよい。
【0050】
また、本実施の形態では、切削装置として被加工物を個片化する切削装置を例示して説明したが、この構成に限定されない。本発明は、切削ブレードの取り付けが必要になる他の切削装置に適用可能であり、例えば、エッジトリミング装置、及び切削装置を備えたクラスター装置等の他の加工装置に適用されてもよい。
【0051】
また、加工対象のワークとして、加工の種類に応じて、例えば、半導体デバイスウェーハ、光デバイスウェーハ、パッケージ基板、半導体基板、無機材料基板、酸化物ウェーハ、生セラミックス基板、圧電基板等の各種ワークが用いられてもよい。半導体デバイスウェーハとしては、デバイス形成後のシリコンウェーハや化合物半導体ウェーハが用いられてもよい。光デバイスウェーハとしては、デバイス形成後のサファイアウェーハやシリコンカーバイドウェーハが用いられてもよい。また、パッケージ基板としてはCSP(Chip Size Package)基板、半導体基板としてはシリコンやガリウム砒素等、無機材料基板としてはサファイア、セラミックス、ガラス等が用いられてもよい。さらに、酸化物ウェーハとしては、デバイス形成後又はデバイス形成前のリチウムタンタレート、リチウムナイオベートが用いられてもよい。
【0052】
また、本実施の形態では、切削ブレードとしてハブ基台に切削砥石を固定したハブブレードを例示して説明したが、この構成に限定されない。切削ブレードは、ハブレスタイプのワッシャーブレードでもよい。
【0053】
また、本実施の形態では、保持テーブルは吸引チャック式のテーブルに限らず、静電チャック式のテーブルでもよい。
【0054】
また、本実施の形態及び変形例を説明したが、本発明の他の実施の形態として、上記実施の形態及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0055】
また、本発明の実施の形態は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、本発明の技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、本発明の技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施形態をカバーしている。
【0056】
また、本実施の形態では、本発明を切削装置に適用した構成について説明したが、被加工物で検出対象となるチッピングやクラックを検出する他の加工装置に適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明したように、本発明は、切削加工中に被加工物で検出対象となるチッピングやクラックを検出することができるという効果を有し、特に、被加工物を分割予定ラインに沿って切削する切削装置に有用である。
【符号の説明】
【0058】
1 切削装置
15 保持テーブル
18 切削送り手段
30 割り出し送り手段
40 切削手段
43 切削ブレード
71 弾性波検出センサ
75 制御手段
76 解析手段
81 カーフ(切削溝)
86 チッピング
W 被加工物
図1
図2
図3
図4
図5