特許第6902394号(P6902394)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6902394
(24)【登録日】2021年6月23日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】シール性を有する複合成形品
(51)【国際特許分類】
   B29C 39/10 20060101AFI20210701BHJP
   B29C 65/64 20060101ALI20210701BHJP
【FI】
   B29C39/10
   B29C65/64
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-96289(P2017-96289)
(22)【出願日】2017年5月15日
(65)【公開番号】特開2018-192651(P2018-192651A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2020年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 広隆
【審査官】 田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/008071(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 39/00−39/44
B29C 45/00−45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1成形品と第2樹脂成形品とが溶着された複合成形品であって、
該第1成形品は、少なくとも角または段差を有する成形品であり、該角または段差の表面に、前記第2樹脂成形品と溶着するための第1溶着面が設けられている樹脂成形品であり、前記第1溶着面には、凹凸が形成された領域を有し、該凹凸が形成された領域の全部または一部には前記第2樹脂成形品の一部が充填されており、第2樹脂成形品は、その一部が、該凹凸が形成された領域をはみ出して第1溶着面に溶着しており、第2樹脂成形品を形成する樹脂が弾性体である複合成形品。
【請求項2】
前記弾性体が、ムーニー粘度ML1+4(100℃)で160未満または液状のゴムである請求項1記載の複合成形品。
【請求項3】
前記第2樹脂成形品を形成する第2樹脂が、融点+20℃で2160gの荷重におけるメルトフローレートが3g/10min以上の熱可塑性エラストマーである請求項1または2に記載の複合成形品。
【請求項4】
請求項1〜何れかの項に記載の複合成形品からなるガスケット。
【請求項5】
第1成形品と第2樹脂成形品とが溶着された複合成形品の製造方法であって、
該第1成形品は、少なくとも角または段差を有する成形品であり、該角または段差の表面に、前記第2樹脂成形品と溶着するための第1溶着面が設けられている樹脂成形品であり、前記第1溶着面に、レーザ照射により凹凸が形成された領域を作製する工程、
該凹凸が形成された領域の全部または一部に前記第2樹脂成形品の一部に充填する工程、
を有し、第2樹脂成形品は、その一部が、該凹凸が形成された領域をはみ出して第1溶着面に溶着しており、第2樹脂成形品を形成する樹脂が弾性体である複合成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール性を有する複合成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、電気製品、産業機器等をはじめとした分野では、二酸化炭素の排出量削減、製造コストの削減等の要請に応えるため、金属成形品の一部を樹脂成形品に置き換える動きが広がっている。これに伴い、樹脂成形品と金属成形品とを一体化した複合成形品が広く普及している。これに限らず、同種又は異種の材料からなる成形品を一体化した複合成形品も広く普及している。
【0003】
複数の成形品を一体化した複合成形品の製造方法として、例えば、次のようなものが提案されている。
特許文献1には、一方の樹脂成形品の表面に電磁放射線を照射することで該表面にナノ構造を形成し、その後、該表面に他方の樹脂成形品を接して充填、成形し、一体化させることが提案されている。
特許文献2には、一の成形品とその他の樹脂成形品とを接合したときの接合部における気密性に関して改良できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2011−529404号公報
【特許文献2】特開2015−16575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この気密性に関し、接合強度と両立させた、さらなる改良が望まれていた。特にシール箇所に角や段差があるような成形品同士のシール性が求められていた。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、2つの成形品と接合したときの接合部の気密性への信頼性をよりいっそう高めることの可能な樹脂成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のような課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、下記によってその目的が達成されることを見出した。
【0008】
(1)第1成形品と第2樹脂成形品とが溶着された複合成形品であって、
該第1成形品は、表面に、前記第2樹脂成形品と溶着するための第1溶着面が設けられている成形品であり、前記第1溶着面には、レーザ照射による凹凸が形成された領域を有し、該凹凸が形成された領域の全部または一部には前記第2樹脂成形品の一部が充填されており、第2樹脂成形品は、その一部が該凹凸が形成された領域をはみ出して第1溶着面に溶着しており、第2樹脂成形品を形成する樹脂が弾性体である、複合成形品。
(2)前記弾性体が、ムーニー粘度ML1+4(100℃)で160未満または液状のゴムである前記1記載の複合成形品。
(3)前記第2樹脂成形品を形成する第2樹脂が、融点+20℃で2160gの荷重におけるメルトフローレートが3g/10min以上の熱可塑性エラストマーである前記(1)または(2)記載の複合成形品。
(4)前記(1)〜(3)いずれかの項に記載の複合成形品からなるガスケット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シール性の高い複合樹脂成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の評価治具の模式図である。
図2】本発明の複合成形品(形状1)の概略拡大断面の模式図である。
図3】本発明の別の複合成形品(形状2)の概略拡大断面の模式図である。
図4】本発明の別の複合成形品(形状3)の概略拡大断面の模式図である。
図5】本発明の別の複合成形品(形状4)の概略拡大断面の模式図である。
図6】本発明の別の複合成形品(形状5)の概略拡大断面の模式図である。
図7】従来技術に係るはみ出しのない複合成形品(形状6)の概略拡大断面の模式図である。
図8】従来技術に係る溝のない複合成形品(形状7)の概略拡大断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0012】
本発明は、第1成形品と第2樹脂成形品とが溶着された複合成形品であって、該第1成形品は、表面に、前記第2樹脂成形品と溶着するための第1溶着面が設けられている成形品であり、前記第1溶着面には、レーザ照射により凹凸が形成された領域を有し、該凹凸が形成された領域の全部または一部には前記第2樹脂成形品の一部が充填されており、第2樹脂成形品は、その一部が該凹凸が形成された領域をはみ出して第1溶着面に溶着しており、第2樹脂成形品を形成する樹脂が弾性体であることを特徴とする。
【0013】
<第1成形品>
本発明の第1成形品は、樹脂、金属を材料とするものが挙げられる。樹脂としては、レーザ照射により凹凸を形成できるものであれば特に限定されない。例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアセタール(POM)等を挙げることができる。特開2015−16575号公報に記載の、ガラス繊維等の無機充填剤を含有する樹脂組成物であってもよい。
金属材料としては、アルミニウム、マグネシウム、ステンレス、銅、チタン、ニッケルが好ましく挙げられる。第1成形品はレーザ照射により凹凸を形成した上に更にメッキ等が施されていても良い。
第1成形品の形状は、所望によって適宜選択することができる。
【0014】
[溶着面に形成された凹凸]
本発明の第1成形品には、第2樹脂成形品との溶着面に、レーザ照射による凹凸が形成された領域を有している。凹凸がレーザ照射によって形成されたことは、凹凸が形成された領域の表面を観察することにより判断することができる。
【0015】
具体的には、第1成形品が金属の場合は、処理面に垂直な方向の高さが処理前よりも低い部分だけでなく、高い部分も存在し、この形状が確認できれば、レーザ照射によって形成されたものであると判断することができる。また、第1成形品が樹脂の場合は、凹部の表面のラマン分光分析によって、樹脂の炭化層が存在することが確認できれば、レーザ照射によって形成されたものであると判断することができる。
凹凸の大きさは所望の特性により適宜選択することができる。
【0016】
<第1成形品の製造方法>
レーザの照射は、照射対象材料の種類やレーザ装置の出力等をもとに設定される。所望の大きさの凹凸を形成するために、複数回に分けて行うことが好ましい。レーザの照射を複数回繰り返す場合、レーザの照射量を前回の照射量より高める工程を含むことが好ましい。
レーザ照射を行う場合、成形品の表面に対して垂直に行う以外の別方向から行ってもよい。
【0017】
<複合成形品>
本発明の複合成形品は、第1の成形品に第2の樹脂成形品を複合したものであり、第2樹脂成形品の一部が、凹凸が形成された領域の全部または一部に充填されており、さらに第2樹脂成形品は、その一部が該凹凸が形成された領域をはみ出して第1溶着面に溶着しており、第2樹脂成形品を形成する樹脂が弾性体である。
複合成形品がシール材として機能する場合、その形状はエッジ形状、R形状を有していることが好ましく、ガスケットの幅が少ない時に接触部の平面度やズレが生じにくくなることから、特にR形状である場合が好ましい。R形状の大きさは、得たい複合成形品の大きさやガスケットの幅に応じ適宜調整することができ、好ましくはガスケットの幅の2分の1倍以上10倍以下である。
【0018】
[第2樹脂]
本発明の第2樹脂成形品を形成する第2樹脂は、シール性を確保するために25℃において弾性体であり、ムーニー粘度ML1+4(100℃)が160未満または液状ゴムであることが好ましい。あるいは、融点+20℃において2160gの荷重におけるメルトフローレートが3g/10min以上の熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
【0019】
通常のシール材として使用されるゴム等であれば、好適に使用することができ、具体的には、アクリロニトリルブタジエンゴム(以下NBRと略す)、フッ素ゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、スチレン系エラストマー、クロロプレンゴム、であることが好ましい。
【0020】
<複合成形品の製造方法>
本発明では、予め凹凸を形成した第1成形品の溶着予定面に対して第2樹脂を溶融して流し込む、あるいは圧接し、加熱溶着することで複合成形品を製造することができる。その際、第2樹脂は第1成形品の溶着予定の凹凸が形成された領域をはみ出して形成することで、溶着部のシール性を確保することができる。凹凸が形成された領域からのはみ出し量は、所望のシール性により適宜選択することができる。
【0021】
本発明では、第2樹脂が、凹凸が形成された領域を必ずしもすべて充填する必要はなく、凹凸が形成された領域の一部を塞いでいれば、シール性を得ることができる。凹凸が形成された領域の一部は、少なくとも凹凸が形成された領域のうち、シール性が必要な方向に対し内側または外側の少なくとも一端を覆うものであることが好ましい。ここでシール性が必要な方向とは、第2樹脂成形品を挟んで一方から他方、すなわち複合成形品の内部から外部、または複合成形品の外部から内部への、流体の漏出または浸入を防ぐべき方向を指す。
本発明の第2樹脂成形品は、ガスケット等のシール材として機能することができることから、第2樹脂成形品をさらに第3の樹脂成形品で覆うこともできる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0023】
<実施例1>
表1〜3に記載の素材、製造条件に従い、図1の様にガスケットを複合した複合成形品である評価治具蓋を製造した。本体は、アルミニウムA5052である。この試料について、接合性と気密性を評価した。
表1〜3において、樹脂成形品における樹脂の材質は次のとおりである。
PPS-GF40%:ガラス繊維入りPPS:ジュラファイド(登録商標)1140A7(ポリプラスチックス社製)
【0024】
PBT−GF30%: ガラス繊維入りPBT:ジュラネックス(登録商標)3300(ウィンテックポリマー社製)
PA−GF30%:アミラン(登録商標)CM1016G−30(東レ社製)
A5052:アルミ合金(神戸製鋼所製)
NBR:ニトリルゴムに可塑剤と架橋剤をニーダーで練り込み、ムーニー粘度ML1+4(100℃)を40に調整したもの
フッ素ゴム1:FKM(フッ化ビニリデン・6フッ化プロピレン共重合体)に可塑剤と架橋剤をニーダーで練り込み、ムーニー粘度ML1+4(100℃)を160に調整したもの
フッ素ゴム2:FKM(フッ化ビニリデン・6フッ化プロピレン共重合体)に可塑剤と架橋剤をニーダーで練り込み、ムーニー粘度ML1+4(100℃)を180に調整したもの
アクリルゴム:ACM(アクリル酸エステル・2−クロロエチルビニルエーテル共重合体)に可塑剤と架橋剤をニーダーで練り込み、ムーニー粘度ML1+4(100℃)を40に調整したもの
シリコーンゴム:RBL-9200-20(東レ・ダウコーニング写生)
スチレン系エラストマー1:タフプレン(登録商標)A、(旭化成社製)
スチレン系エラストマー2:タフプレン(登録商標)125、(旭化成社製)
【0025】
[第1成形品の製造]
表1〜3に示す材料を、レーザを凹凸の幅が100μm、隣り合う凹凸の間隔が200μmになるように、斜格子状に10回照射した。発振波長:1.064μm、最大定格出力:13W(平均)を用い、出力90%、周波数40kHz、走査速度1000mm/sとした。これにより、実施例に係る第1成形品を得た。
【0026】
[複合成形品の製造]
実施例に係る第1成形品のそれぞれについて、レーザの照射によって凹凸が形成された領域を有する面を接触面として、第2樹脂成形品に係る材料が熱可塑性エラストマーである場合、第1成形品を成形用金型内に設置した状態で、熱可塑性エラストマーを射出成形することで実施例に係る複合成形品を得た。また第2樹脂成形品に係る材料が液状のゴムである場合、第1成形品を成形用金型内に設置した状態で、液状ゴム射出システムにて成形することで実施例に係る複合成形品を得た。なお、第2樹脂成形品に係る材料がNBR等、直圧注入成形可能なゴムの場合は、第1成形品を成形用金型内に設置した状態で、直圧注入成形することで実施例に係る複合成形品を得た。
なお比較例2として、形状1においてレーザ処理しない形状7の複合成形品を作製した。
【0027】
<接合状態>
≪評価方法≫
成形用金型から取り出した複合成形品を手で引張って破壊した破断面を目視により観察し、官能評価した。
○:ガスケット(第2樹脂成形品)及び/又は第1成形品が、第1成形品のレーザ処理部全面において母材破壊する
△:ガスケット(第2樹脂成形品)及び/又は第1成形品が、第1成形品のレーザ処理部において一部が母材破壊し、一部が界面剥離する
×:ガスケット(第2樹脂成形品)が第1成形品のレーザ処理部から界面剥離する(第1成形品のレーザ処理部に第2樹脂成形品が残らない)
【0028】
<気密性>
≪評価方法≫
図1の様に評価治具を設け、蓋1をクリップで本体3と固定して水中に入れ、本体底の穴3(1/8インチ 雌ねじ用下穴3tフランジ)から0.1MPaの圧縮空気を入れて気泡の有無により気密性を評価した。
○:10個中漏れ発生0個、△:10個中漏れ発生1個、×:10個中漏れ発生2個以上
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【符号の説明】
【0032】
1 評価治具蓋
2 評価治具本体
3 1/8インチ雌ねじ用下穴3tフランジ
4 ガスケット
5 レーザにより凹凸が形成された領域

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8