(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
位相を調整する前記工程において、前記シースがプラズマ処理を実行する前記工程の実行中且つ位相を調整する前記工程の実行前の前記シースの厚みに対して、1.246倍以上の厚みを有するように、前記位相調整回路によって前記上部電極の前記電圧の前記位相に対して相対的に前記下部電極の前記電圧の前記位相が調整される、請求項1に記載のプラズマ処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0015】
図1は、一実施形態に係るプラズマ処理方法を示す流れ図である。
図1に示すプラズマ処理方法(以下、「方法MT」という)では、プラズマ処理装置を用いて、基板に対してプラズマ処理が実行される。
【0016】
図2は、
図1に示す方法の実行において用いることが可能な一実施形態のプラズマ処理装置を示す図である。
図2に示すプラズマ処理装置10Aは、容量結合型のプラズマ処理装置である。プラズマ処理装置10Aは、チャンバ本体12を備えている。チャンバ本体12は、略筒形状を有しており、鉛直方向に延在している。チャンバ本体12は、略筒状の側壁部、及び、側壁部の下端に連続する底部を有している。チャンバ本体12は、内部空間12sを提供している。チャンバ本体12は、アルミニウムといった金属から形成されている。チャンバ本体12の内壁面には耐プラズマ性を有する被覆が形成されている。耐プラズマ性を有する被覆は、アルマイト膜、酸化イットリウム膜といったセラミックス製の膜であり得る。チャンバ本体12は、接地されている。
【0017】
チャンバ本体12の側壁部には、通路12pが形成されている。基板Wは、チャンバ本体12の外部から内部空間12sに搬送されるとき、及び、内部空間12sからチャンバ本体12の外部に搬送されるときに、通路12pを通過する。通路12pは、ゲートバルブ12gによって開閉可能である。ゲートバルブ12gは、チャンバ本体12の側壁部に沿って設けられている。
【0018】
チャンバ本体の内部空間12sの中には、支持台14が設けられている。支持台14は、その上に載置される基板Wを支持するように構成されている。支持台14は、支持体15によって支持されている。支持体15は、絶縁性を有しており、チャンバ本体12の底部から上方に延びている。
【0019】
支持台14は、下部電極16を含んでいる。下部電極16は、略円盤形状を有している。下部電極16は、アルミニウムといった導電性材料から形成されている。一実施形態において、支持台14は、静電チャック18を更に含んでいる。静電チャック18は、下部電極16上に設けられている。基板Wは、静電チャック18上に載置される。静電チャック18は、誘電体膜、及び、当該誘電体膜内に内蔵された電極を含んでいる。静電チャック18の電極は、導電性を有する膜であり得る。静電チャック18の電極にはスイッチを介して電源が接続されている。電源から静電チャック18の電極に電圧が印加されることにより、静電チャック18と基板Wとの間に静電引力が発生する。発生した静電引力により、基板Wは、静電チャック18に引き付けられ、静電チャック18によって保持される。
【0020】
支持台14の上方には上部電極20が設けられている。上部電極20と支持台14の間には、内部空間12sの一部が介在している。一実施形態では、チャンバ本体12の上端部は、開口している。上部電極20は、部材21を介してチャンバ本体12の上端部に支持されている。部材21は、絶縁性を有している。上部電極20は、部材21と共に、チャンバ本体12の上端部の開口を閉じている。
【0021】
上部電極20は、導電性を有する一以上の部品から形成されている。上部電極20を構成する一以上の部品は、アルミニウム、シリコンといった材料から形成され得る。或いは、上部電極20は、導電性を有する一以上の部品と絶縁性を有する一以上の部品から形成されていてもよい。上部電極20の表面には、耐プラズマ性の被膜が形成されていてもよい。
【0022】
上部電極20には、複数のガス吐出孔20a及びガス拡散室20bが形成されている。複数のガス吐出孔20aは、ガス拡散室20bから内部空間12s側の上部電極20下面まで下方に延びている。ガス拡散室20bには、ガス供給部22が接続されている。ガス供給部22は、内部空間12sにガスを供給するように構成されている。ガス供給部22は、例えば、複数のガスソース、マスフローコントローラといった複数の流量制御器、及び、複数のバルブを有する。複数のガスソースの各々は、複数の流量制御器のうち対応の流量制御器、及び、複数のバルブのうち対応のバルブを介して、ガス拡散室20bに接続されている。ガス供給部22は、複数のガスソースのうち選択されたガスソースからのガスの流量を調整し、当該ガスをガス拡散室20bに供給する。ガス拡散室20bに供給されたガスは、複数のガス吐出孔20aから内部空間12sに供給される。
【0023】
一実施形態において、上部電極20は第1部分20c及び第2部分20dを含んでいる。第1部分20cは、支持台14の上方で延在している。即ち、第1部分20cと支持台14は、鉛直方向に沿って対面している。上述の複数のガス吐出孔20aは、第1部分20cに設けられている。第2部分20dは、空間12vの上方で延在している。空間12vは、内部空間12sの一部であり、支持台14とチャンバ本体12の側壁部との間で延びている。即ち、第2部分20dは、第1部分20cの外側で周方向に延在している。第2部分20dは、第1部分20cに対して、下方に突き出している。
【0024】
チャンバ本体12の底部には、排気装置24が接続されている。排気装置24は、内部空間12sに連通可能に設けられている。排気装置24は、圧力調整弁といった圧力制御装置、及び、ターボ分子ポンプ、ドライポンプといった真空ポンプを有している。排気装置24を作動させることにより、内部空間12sの中に存在するガスは、支持台14とチャンバ本体12の側壁部との間の空間12vを通って、排出される。また、排気装置24によって、内部空間12sの中の圧力が、指定された圧力に調整される。
【0025】
プラズマ処理装置10Aは、高周波電源26Aを更に備えている。高周波電源26Aは、内部空間12sの中でプラズマを生成するために高周波を供給するように構成されている。一実施形態において、高周波電源26Aは、上部電極20に電気的に接続されている。高周波電源26Aから高周波が供給されると、上部電極20と下部電極16の間の空間内で高周波電界が形成される。形成された高周波電界により、上部電極20と下部電極16の間の空間内でガスが励起される。その結果、内部空間12sの中でプラズマが生成される。
【0026】
プラズマ処理装置10Aは、位相調整回路28を更に備えている。位相調整回路28は、上部電極20の電圧の位相に対して相対的に下部電極16の電圧の位相を調整するように構成されている。一実施形態では、位相調整回路28は、下部電極16に電気的に接続されている。一実施形態では、位相調整回路28は、コンデンサ28a及び可変インダクタ28bを含んでいる。コンデンサ28a及び可変インダクタ28bは、下部電極16とグランドとの間で直列接続されている。一実施形態では、コンデンサ28aの一端は、接地されている。コンデンサ28aの他端は、可変インダクタ28bの一端に接続されている。可変インダクタ28bの他端は、下部電極16に電気的に接続されている。
【0027】
可変インダクタ28bのインダクタンスの調整により、上部電極20の電圧の位相に対して相対的に下部電極16の電圧の位相が調整される。即ち、上部電極20の電圧に対する下部電極16の電圧の位相差は、可変インダクタ28bのインダクタンスによって決定される。上部電極20の電圧と下部電極16の電圧との間の位相差が小さい場合には、プラズマと支持台14との間での電位差は小さくなり、シースの厚みは小さくなる。一方、上部電極20の電圧と下部電極16の電圧との間の位相差が大きい場合には、下部電極16の自己バイアス電位が低くなり(即ち、自己バイアス電位が、負極性を有し、且つ、大きな絶対値を有するようになり)、プラズマと支持台14との間での電位差(シース電圧)が大きくなり、シースの厚みが大きくなる。
【0028】
プラズマ処理装置10Aは、制御部30Aを更に備え得る。制御部30Aは、プラズマ処理装置10Aの各部を制御するように構成されている。制御部30Aは、コンピュータ装置であることができ、プロセッサ、メモリといった記憶装置、キーボード、マウス、タッチパネルといった入力装置、表示装置、信号の入出力インターフェイス等を有し得る。制御部30Aの記憶装置には、制御プログラム及びレシピデータが記憶されている。制御部30Aのプロセッサは、制御プログラムを実行して、レシピデータに従ってプラズマ処理装置10Aの各部を制御する。方法MTは、制御部30Aによるプラズマ処理装置10Aの各部の制御によって実行される。
【0029】
図3は、
図1に示す方法の実行において用いることが可能な別の実施形態のプラズマ処理装置を示す図である。
図3に示すプラズマ処理装置10Bは、プラズマ処理装置10Aの高周波電源26A、位相調整回路28、及び、制御部30Aの代わりに、高周波供給部26B、位相調整回路281、位相調整回路282、及び、制御部30Bを備えている。プラズマ処理装置10Bのその他の構成要素は、プラズマ処理装置10Aの対応の構成要素と同一である。
【0030】
高周波供給部26Bは、第1の高周波及び第2の高周波を発生する。第1の高周波は、上部電極20に供給される高周波である。第2の高周波は、下部電極16に供給される高周波であり、第1の高周波の周波数と同一の周波数を有する。高周波供給部26Bは、第1の高周波の電力に対する第2の高周波の電力の比を調整可能に構成されている。
【0031】
制御部30Bは、コンピュータ装置であることができ、プロセッサ、メモリといった記憶装置、キーボード、マウス、タッチパネルといった入力装置、表示装置、信号の入出力インターフェイス等を有し得る。制御部30Bの記憶装置には、制御プログラム及びレシピデータが記憶されている。制御部30Bのプロセッサは、制御プログラムを実行して、レシピデータに従ってプラズマ処理装置10Bの各部を制御する。方法MTは、制御部30Bによるプラズマ処理装置10Bの各部の制御によって実行される。
【0032】
一実施形態において、高周波供給部26Bは、高周波電源261及び変圧器100を有している。高周波電源261は、高周波を発生するように構成されている。高周波電源261からの高周波は、変圧器100の一次コイルに供給される。
【0033】
図4は、
図3に示すプラズマ処理装置の変圧器として用いることが可能な変圧器を一部破断して示す斜視図である。
図5は、
図4に示す変圧器の三つのコイルを概略的に示す図である。
図4及び
図5に示す変圧器100Aは、プラズマ処理装置10Bの変圧器100として用いられ得る。変圧器100Aは、回転軸112、一次コイル101A、第1の二次コイル102A、及び、第2の二次コイル103Aを備えている。第1の二次コイル102A、及び、第2の二次コイル103Aは、二次側コイル対106を構成している。一実施形態において、変圧器100Aは、支持部材122、支持部材124、支柱126、支持部材128、支持部材130、支持部材132、支持部材134、端子101a、端子101b、端子102a、端子102b、端子103a、及び、端子103bを更に備えている。
【0034】
回転軸112は、略円柱状をなしている。回転軸112は、その中心軸線RX周りに回転可能に設けられている。一実施形態では、回転軸112は、支持部材122と支持部材124によって回転可能に支持されている。支持部材122及び支持部材124は、板状の部材であり、略矩形の平面形状を有する。支持部材122及び支持部材124は、絶縁体から形成されている。支持部材122及び支持部材124は、中心軸線RXに交差又は略直交するように設けられており、それらの板厚方向が中心軸線RXが延びる方向RDに略一致するよう、方向RDに沿って配列されている。支持部材122の隅部には支柱126の一端が固定されており、支持部材124の隅部には支柱126の他端が固定されている。回転軸112の一端部は、支持部材122を貫通して、支持部材122から突出している。この回転軸112の一端部は、駆動機構(例えば、モータ)に接続されている。
【0035】
支持部材128及び支持部材130は、略円盤状の部材であり、絶縁体から形成されている。支持部材128及び支持部材130は、支持部材122と支持部材124との間において中心軸線RXに交差又は略直交するように設けられており、それらの板厚方向が方向RDに略一致するように方向RDに沿って配列されている。また、支持部材132及び支持部材134は、略円盤状の部材であり、絶縁体から形成されている。支持部材132及び支持部材134は、支持部材128と支持部材130との間において中心軸線RXに交差又は略直交するように設けられており、それらの板厚方向が方向RDに略一致するように方向RDに沿って配列されている。回転軸112は、支持部材128、支持部材130、支持部材132、及び、支持部材134それぞれの中心を貫通している。支持部材128、支持部材130、支持部材132、及び、支持部材134は、回転軸112に固定されている。
【0036】
一次コイル101Aは、中心軸線RXに直交する第1の軸線AX1周りに延在している。一実施形態では、第1の軸線AX1は、支持部材122と支持部材124との中間において中心軸線RXに直交している。一次コイル101Aは、支持部材122の外側と支持部材124の外側を交互に通るように、第1の軸線AX1中心に巻かれている。
【0037】
一次コイル101Aの一端は、端子101aに接続されている。一実施形態では、端子101aは、支持部材122の一面122a(変圧器100Aの外側に向いた面)に設けられている。また、一次コイル101Aの他端は、端子101bに接続されている。一実施形態では、端子101bは、支持部材124の一面124a(変圧器100Aの外側に向いた面)に設けられている。
【0038】
第1の二次コイル102Aは、第2の軸線AX2周りに延在している。第2の軸線AX2は、一次コイル101Aによって囲まれた領域内で中心軸線RXに直交している。一実施形態では、第2の軸線AX2は、支持部材128と支持部材130との中間において中心軸線RXに直交している。第1の二次コイル102Aは、支持部材128の外側と支持部材130の外側を交互に通るように、第2の軸線AX2中心に巻かれている。第1の二次コイル102Aは、支持部材128及び支持部材130を介して回転軸112によって支持されている。
【0039】
第1の二次コイル102Aの一端は、端子102aに接続されている。また、第1の二次コイル102Aの他端は、端子102bに接続されている。一実施形態では、端子102a及び端子102bは、支持部材122の一面122aに設けられている。回転軸112は、同軸状に設けられた第1の導体と第2の導体を含んでおり、第1の二次コイル102Aの一端は第1の導体に接続されており、第1の二次コイル102Aの他端は第2の導体に接続されている。第1の導体は、ロータリーコネクタ140内のスリップリングを介して端子102aに接続されている。また、第2の導体は、ロータリーコネクタ140内の別のスリップリングを介して端子102bに接続されている。
【0040】
第2の二次コイル103Aは、第3の軸線AX3周りに延在している。第3の軸線AX3は、一次コイル101Aによって囲まれた領域内で中心軸線RXに直交している。また、第3の軸線AX3は、第2の軸線AX2に交差している。第3の軸線AX3と第2の軸線AX2は、互いの間に所定の角度θpをなしている。角度θpは、限定されるものではないが、例えば、90度である。一実施形態では、第3の軸線AX3は、支持部材132と支持部材134との中間において中心軸線RXに直交している。第2の二次コイル103Aは、支持部材132の外側と支持部材134の外側を交互に通るように、第3の軸線AX3中心に巻かれている。第2の二次コイル103Aは、支持部材132及び支持部材134を介して回転軸112によって支持されている。この第2の二次コイル103Aと第1の二次コイル102Aとの間には、絶縁距離が確保されている。
【0041】
第2の二次コイル103Aの一端は、端子103aに接続されている。また、第2の二次コイル103Aの他端は、端子103bに接続されている。一実施形態では、端子103a及び端子103bは、支持部材124の一面124aに設けられている。回転軸112は、同軸状に設けられた第3の導体と第4の導体を含んでおり、第2の二次コイル103Aの一端は第3の導体に接続されており、第2の二次コイル103Aの他端は第4の導体に接続されている。第3の導体は、支持部材124の近傍に設けられた別のロータリーコネクタのスリップリングを介して端子103aに接続されている。また、第4の導体は、当該別のロータリーコネクタ内の別のスリップリングを介して端子103bに接続されている。
【0042】
変圧器100Aがプラズマ処理装置10Bの変圧器100として用いられる場合には、
図3に示すように、端子101a及び端子101bは、高周波電源261に電気的に接続される。また、端子101bは電気的に接地される。端子102aは、位相調整回路281を介して上部電極20に電気的に接続される。端子103aは、位相調整回路282を介して下部電極16に電気的に接続される。端子102b及び端子103bは電気的に接地される。
【0043】
位相調整回路281及び位相調整回路282は、上部電極20の電圧の位相に対して相対的に下部電極16の電圧の位相を調整するように構成されている。位相調整回路281は、上部電極20に電気的に接続されている。一実施形態において、位相調整回路281は、コンデンサ281a及び可変インダクタ281bを含んでいる。コンデンサ281a及び可変インダクタ281bは、上部電極20と端子102aとの間で直列接続されている。一実施形態では、コンデンサ281aの一端は、端子102aに接続されている。コンデンサ281aの他端は、可変インダクタ281bの一端に接続されている。可変インダクタ281bの他端は、上部電極20に電気的に接続されている。
【0044】
位相調整回路282は、下部電極16に電気的に接続されている。一実施形態において、位相調整回路282は、コンデンサ282a及び可変インダクタ282bを含んでいる。コンデンサ282a及び可変インダクタ282bは、下部電極16と端子103aとの間で直列接続されている。一実施形態では、コンデンサ282aの一端は、端子103aに接続されている。コンデンサ282aの他端は、可変インダクタ282bの一端に接続されている。可変インダクタ282bの他端は、下部電極16に電気的に接続されている。
【0045】
変圧器100Aがプラズマ処理装置10Bの変圧器100として用いられる場合に、一次コイル101Aに高周波電源261からの高周波が供給されると、一次コイル101Aが第1の軸線AX1が延びる方向に略平行な方向に磁束を発生する。また、二次側コイル対106の回転角度を調整することにより、第1の二次コイル102Aを貫く磁束の量、及び、第2の二次コイル103Aを貫く磁束の量が調整される。第1の二次コイル102Aには、それを貫く磁束の量に応じた誘導起電力が生じ、当該第1の二次コイル102Aから第1の高周波が出力される。また、第2の二次コイル103Aには、それを貫く磁束の量に応じた誘導起電力が生じ、第2の二次コイル103Aから第2の高周波が出力される。したがって、変圧器100Aによれば、第1の高周波の電力に対する第2の高周波の電力の比が調整され得る。
【0046】
また、位相調整回路281及び位相調整回路282のうち少なくとも一方の位相調整回路の可変インダクタのインダクタンスを調整することにより、上部電極20の電圧の位相に対して相対的に下部電極16の電圧の位相が調整される。即ち、上部電極20の電圧に対する下部電極16の電圧の位相差は、少なくとも一方の位相調整回路の可変インダクタのインダクタンスによって決定される。上部電極20の電圧と下部電極16の電圧との間の位相差が小さい場合には、プラズマと支持台14との間での電位差は小さくなり、シースの厚みは小さくなる。一方、上部電極20の電圧と下部電極16の電圧との間の位相差が大きい場合には、下部電極16の自己バイアス電位が低くなり(即ち、当該自己バイアス電位が、負極性を有し、且つ、大きな絶対値を有するようになり)、プラズマと支持台14との間での電位差(即ち、シース電圧)は大きくなり、シースの厚みが大きくなる。
【0047】
図6は、
図3に示すプラズマ処理装置の変圧器として用いることが可能な別の変圧器を概略的に示す図である。
図6に示す変圧器100Bは、
図3に示すプラズマ処理装置10Bの変圧器100として用いられ得る。
【0048】
変圧器100Bは、一次コイル101B、第1の二次コイル102B、及び、第2の二次コイル103Bを有している。一次コイル101Bの一端は端子101aであり、他端は端子101bである。端子101a及び端子101bは、高周波電源261に接続される。端子101bは、電気的に接地される。
【0049】
第1の二次コイル102B及び第2の二次コイル103Bは、一次コイル101Bに電磁結合されている。第1の二次コイル102Bの一端は、端子102aである。端子102aは、位相調整回路281を介して上部電極20に電気的に接続される。また、第2の二次コイル103Bの一端は、端子103aである。端子103aは、位相調整回路282を介して下部電極16に電気的に接続される。
【0050】
変圧器100Bでは、第1の二次コイル102B及び第2の二次コイル103Bは単一のコイルから形成される。具体的に、変圧器100Bの二次側は単一のコイルを有しており、当該単一のコイルは複数のタップ100tを有している。複数のタップ100tは、選択的にグランドに接続されるように構成されている。変圧器100Bでは、グランドに接続するよう選択されたタップに対して当該単一のコイルの一方側が第1の二次コイル102Bになり、他方側が第2の二次コイル103Bになる。この変圧器100Bによれば、第1の二次コイル102Bから出力される第1の高周波の電力に対して、第2の二次コイル103Bから出力される第2の高周波の電力の比が調整され得る。
【0051】
以下、再び
図1を参照して方法MTについて説明する。以下の説明では、方法MTの実行に用いられるプラズマ処理装置をプラズマ処理装置10と呼ぶ。プラズマ処理装置10は、プラズマ処理装置10A又はプラズマ処理装置10Bであり得る。また、以下の説明では、
図7の(a)、
図7の(b)、及び、
図7の(c)を参照する。
図7の(a)は、
図1に示す工程ST1が実行されているときのプラズマ及びパーティクルを示す図であり、
図7の(b)は、
図1に示す工程ST2が実行されているときのプラズマ及びパーティクルを示す図であり、
図7の(c)は、
図1に示す工程ST3が実行されているときのパーティクルを示す図である。
図7において、黒塗りの円は、パーティクルを示している。
【0052】
方法MTは、基板Wがプラズマ処理装置10の支持台14上に載置された状態で実行される。方法MTは、工程ST1、工程ST2、及び、工程ST3を含んでいる。工程ST1では、基板Wに対するプラズマ処理が実行される。工程ST1では、プラズマ処理のために、ガス供給部22から内部空間12sにガスが供給される。また、工程ST1では、排気装置24により、内部空間12sの中の圧力が、指定された圧力に調整される。また、工程ST1では、内部空間12sの中でガスを励起させるために、高周波電源(高周波電源26A又は高周波電源261)から高周波が供給される。工程ST1では、内部空間12sの中でガスが励起されて、当該ガスのプラズマが生成される。生成されたプラズマからのイオン及び/又はラジカルにより、基板Wが処理される。
【0053】
工程ST1で実行されるプラズマ処理は、任意のプラズマ処理であり得る。工程ST1で実行されるプラズマ処理は、プラズマエッチング、又は、プラズマ強化CVD(PECVD。Plasma−Enhanced Chemical Vapor Deposition)であり得る。或いは、工程ST1で実行されるプラズマ処理は、プラズマ強化ALD(PEALD。Plasma−Enhanced Atomic Layer Deposition)におけるプラズマ処理であり得る。PEALDでは、基板Wに対する前駆体ガスの供給、パージの実行、プラズマ処理、及び、パージの実行を含むシーケンスが繰り返して実行される。PEALDによって生成される膜は、例えば、TiO
2膜(酸化チタン膜)である。PEALDによってTiO
2膜を形成する場合には、前駆体ガスとして、チタン含有ガスが用いられ、プラズマ処理のためのガスとして酸素含有ガスが用いられる。チタン含有ガスは、四塩化チタンガスといったハロゲン化チタンガスであり得る。酸素含有ガスは、酸素ガスであり得る。なお、PEALDでは、各シーケンスにおけるプラズマ処理とパージとの間で、工程ST2及び工程ST3が実行される。
【0054】
図7の(a)に示すように、工程ST1では内部空間12sの中でプラズマPLが生成される。内部空間12sの中では、パーティクルは、プラズマPLの支持台14側の端部(即ち、プラズマPLと支持台14との間のシースSHLの上端)又はその近傍に位置する。工程ST1の実行中には、プラズマPLの下端と支持台14との間の鉛直方向の距離は、比較的短い。したがって、パーティクルは、支持台14の近傍に存在する。
【0055】
図1に示すように、方法MTでは、工程ST1の次に、工程ST2が実行される。工程ST2では、工程ST1において生成されたプラズマPLを消失させることなく、シースSHLの厚みを増大させるように位相調整回路(位相調整回路28、又は、位相調整回路281及び位相調整回路282のうち少なくとも一方)によって上部電極20の電圧の位相に対して相対的に下部電極16の電圧の位相が調整される。即ち、位相調整回路の可変インダクタのインダクタンスの調整により、シースSHLの厚みを増大させるように、上部電極20の電圧の位相に対する下部電極16の電圧の位相差が調整される。
【0056】
工程ST2では、シースSHLの厚みが、工程ST1の実行中のシースSHLの厚みから、大きく増大する。その結果、パーティクルは、支持台14から上方に大きく引き離されて、
図7の(b)に示すように、プラズマPLの上部電極20側の端部(即ち、プラズマPLと上部電極20との間のシースSHUの下端)又はその近傍に移動する。
【0057】
図1に示すように、方法MTでは、工程ST2の次に、工程ST3が実行される。工程ST3では、工程ST2の実行後に高周波の供給が停止された状態で、排気装置24を用いて、内部空間12sの中のガス及びパーティクルが排出される。即ち、工程ST3では、
図7の(c)に示すように、プラズマが消失し、内部空間12sの中のガスと共にパーティクルが排出される。上述したように、工程ST2では、パーティクルが支持台14から上方に大きく引き離されている。したがって、工程ST3のパーティクルの排出時に、支持台14上の基板Wに付着するパーティクルの個数が大きく低減される。
【0058】
以下、
図8及び
図9を参照する。
図8は、従来技術に相当する高周波の電力の調整によって生じるパーティクルの移動を示す図である。
図9は、上部電極の電圧に対する下部電極の電圧の相対的な位相の調整によって生じるパーティクルの移動を示す図である。
図8及び
図9において、横軸は、支持台14と上部電極20との間の鉛直方向の位置を示している。横軸の左側は支持台14側であり、横軸の右側は上部電極20側である。
図8及び
図9において、縦軸はポテンシャルを示している。
図8及び
図9における縦軸のポテンシャルは、パーティクルのエネルギーを表しており、パーティクルに加わる力(例えば、静電気力、イオン抗力、重力)、温度勾配等から導かれる。
図8においては、高周波の電力を低下させる前のポテンシャルの分布が点線で示されており、高周波の電力を低下させたときのポテンシャルの分布が実線で示されている。
図9においては、工程ST1の実行中のポテンシャルの分布が点線で示されており、工程ST2の実行中のポテンシャルの分布が実線で示されている。また、
図8及び
図9では、黒塗りの円によりパーティクルが示されている。
【0059】
パーティクルは、そこでのポテンシャルが低い箇所に位置する傾向がある。したがって、
図8及び
図9に示すように、シースSHLの厚みを増大させる前には、パーティクルは、シースSHLの下端SLB又はその近傍に位置する。
【0060】
ここで、プラズマPLと支持台14との間に形成されるシースSHLの厚みは、式(1)によって表される。式(1)において、ε
0は真空の誘電率、V
0はプラズマと下部電極16との間の電位差、eは電荷素量、n
sはシースSHLの上端におけるプラズマの密度である。
【数1】
式(1)から分かるように、シースSHLの厚みは、プラズマPLと下部電極16との間の電位差に正の相関を有し、シースSHLとプラズマPLとの界面におけるプラズマの密度に負の相関を有する。シースSHLの厚みを増大させるために高周波の電力を低下させると、シースSHLとプラズマPLとの界面におけるプラズマの密度、即ち、式(1)のn
sは低下するが、同時に、プラズマPLと下部電極16との間の電位差、即ち、式(1)のV
0も低下する。したがって、
図8に示すように、高周波の電力を低下させても、シースSHLの厚みを大きく増大させることはできない。故に、
図8に示すように、高周波の電力を低下させても、パーティクルに与えられるエネルギーEGは小さく、パーティクルは、プラズマPLと上部電極20との間のシースSHUの下端SUAまでは移動できず、シースSHLの下端SLA又はその近傍に移動することしかできない。
【0061】
一方、方法MTの工程ST2では、支持台14とプラズマPLとの間のシースSHLの厚みを増大させるように上部電極20の電圧の位相に対して相対的に下部電極16の電圧の位相が調整される。上部電極20の電圧の位相に対して相対的に下部電極16の電圧の位相を調整することにより、シースSHLとプラズマPLとの界面におけるプラズマの密度、即ち、式(1)のn
sを実質的に変化させることなく、プラズマPLと下部電極16との間の電位差、即ち、式(1)のV
0を増大させることができる。したがって、方法MTによれば、
図9に示すように、工程ST1のプラズマ処理の実行のために生成したプラズマPLを消失させることなく、シースSHLの厚みを大きく増大させることができる。その結果、
図9に示すように、パーティクルに大きなエネルギーEGが与えられ、パーティクルは、プラズマ処理された基板Wから上方に大きく引き離され、プラズマPLと上部電極20との間のシースSHUの下端SUA又はその近傍に移動する。故に、方法MTによれば、プラズマ処理された基板Wに付着するパーティクルの個数が大きく低減される。
【0062】
一実施形態の工程ST2では、シースSHLが、工程ST1の実行中且つ工程ST2の実行前のシースのSHLの厚みに対して1.246倍以上の厚みを有するように、位相調整回路によって上部電極20の電圧の位相に対して相対的に下部電極16の電圧の位相が調整される。この実施形態によれば、パーティクルの移動距離を大きく増加させることができる。
【0063】
一実施形態では、上部電極20は、上述した第1部分20c及び第2部分20dを有する。
図10は、上部電極の第2部分の近傍でのパーティクルの移動を示す図である。
図10に示すように、第2部分20dの下方におけるシースSHUの下端SUAは、第1部分20cの下方におけるシースSHUの下端SUAよりも、鉛直方向において低い位置にある。第1部分20cと第2部分20dの境界の下方では、シースSHUの下端SUAは下方に傾斜している。第1部分20cと第2部分20dの境界の下方では、重力GVの影響により、パーティクルは方向MDに移動する力を受ける。したがって、基板Wから上方に引き離されたパーティクルが、支持台14の上方の領域に対して外側の領域に更に移動し、しかる後に、排出される。故に、プラズマ処理された基板Wに付着するパーティクルの個数が更に大きく低減される。
【0064】
以下、方法MTの評価のために行った実験について説明する。以下に説明する実験は、本開示の範囲を限定するものではない。
【0065】
実験では、プラズマ処理装置10Aを用いた。そして、内部空間12sの中でプラズマを生成し、しかる後に、プラズマを消失させずに、位相調整回路28によってシースSHLの厚みを増大させた。実験では、内部空間12sに向けてレーザ光を照射し、内部空間12sの映像を取得した。そして、取得した映像から、内部空間12sの中に存在するパーティクルが、シースSHLの厚みの増大の前後で鉛直方向に移動した距離(以下、「移動距離」という)を求めた。パーティクルとしては、SiO
2から形成された、直径1.5μmのパーティクルを用いた。以下、実験におけるその他の条件を示す。
<実験の条件>
内部空間12sに供給したArガスの流量:100sccm
内部空間12s内の圧力:4Pa
高周波電源26Aによって発生された高周波の周波数:13.56MHz
【0066】
実験の結果を
図11に示す。
図11のグラフにおいて、横軸は、シースSHLの厚みの増大率Δs(%)を示している。増大率Δsは、その厚みの増加前のシースSHLの厚みに対する、シースSHLの厚みの増大量の割合である。
図11のグラフにおいて、縦軸は、上部電極20と支持台14との間の距離(即ち、ギャップ長)に対するパーティクルの移動距離の割合(%)を示している。
図11に示すように、シースSHLの厚みの増大率Δsが24.6%以上である場合に、大きな移動距離が測定された。したがって、工程ST2では、シースSHLの厚みを、工程ST1の実行中且つ工程ST2の実行前のシースのSHLの厚みに対して1.246倍以上の厚みに増大させることで、パーティクルの大きな移動距離を得ることができ、基板Wからパーティクルを大きく引き離すことができることが確認された。
【0067】
以上、種々の実施形態について説明してきたが、上述した実施形態に限定されることなく種々の変形態様を構成可能である。例えば、プラズマ処理装置10Aでは、高周波電源26Aが下部電極16に電気的に接続され、位相調整回路28が上部電極20に接続されてもよい。また、プラズマ処理装置10Aでは、下部電極16に別の高周波電源が電気的に接続され、位相調整回路28が上部電極20及び下部電極16のうち一方に接続されてもよい。また、プラズマ処理装置10Bは、位相調整回路281及び位相調整回路282のうち一方を有していなくてもよい。