(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、水道水の水質に関する安全衛生上の関心が高まってきており、水道水中に含まれる遊離残留塩素、トリハロメタン類などのVOC(揮発性有機化合物)、農薬、黴臭などの有害物質を除去することが望まれている。
【0003】
特に、雑菌繁殖を防止するために水道水等に利用されている塩素は無毒な物質ではなく、残留塩素濃度の高い水道水で髪や肌を洗浄すると髪や肌の蛋白質を変性させて傷めてしまうおそれがある。また、水道水中に溶存している微量のトリハロメタンは、発ガン性物質であることが疑われている。近年の健康志向の高まりの中で、トリハロメタン等を除去し得る浄水器の重要性はますます高まっている。
【0004】
トリハロメタンとは、メタン分子の4個の水素原子の内、3個がハロゲンによって置換された化合物の総称であり、クロロホルム、ジクロロブロモメタン、クロロジブロモメタン、ブロモホルムなどがその代表例であり、類似の化合物として、エタンの水素原子のうち3個を塩素原子に置き換えた有機ハロゲン化合物である1,1,1−トリクロロエタンが浄水器の除去対象物質となっている。
【0005】
これら揮発性有機化合物の中でも、とりわけ、クロロホルムと1,1,1−トリクロロエタンの吸着除去を両立させることが非常に難しいことはすでにわかってきている。
【0006】
従来、これらの有害物質を除去するため、活性炭を使用した浄水器を用いることが知られている。
【0007】
例えば、特許文献1には、比表面積を900〜1100m
2/gとし、MP法による細孔分布の測定において、細孔直径0〜2.0nmの細孔の全細孔容積に占める細孔直径0.6nm以下の細孔の総細孔容積を全細孔容積の40〜45%とし、DH法による細孔分布の測定において、細孔直径1〜100nmの細孔の全細孔容積に占める細孔直径2.0nm以下の細孔の総細孔容積を全細孔容積の20〜23%とし、表面酸化物量を0.05〜0.14meq/gとした活性炭からなることを特徴とする浄水器用活性炭が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、パラメータdV/dlogR(V:細孔容積、R:細孔半径)で表した細孔径分布において、dV/dlogR値が、(a)細孔直径Dが10Å〜40Åの範囲でdV/dlogR値が0.03〜0.2の範囲に少なくとも1個以上のピーク値と、(b)細孔直径Dが6Å〜9Åの範囲でdV/dlogR値が1.0〜7.0の範囲に少なくとも1個以上のピーク値と、を備え、細孔直径Dが10Å〜50Åの多数の大口径細孔の内表面に細孔直径Dが6Å〜9Åの小口径細孔が形成されており、トリハロメタンの通水時の吸着容量が118〜220ppb・tonであることを特徴とする活性炭が開示されている。
【0009】
しかし、上記特許文献1および2記載の技術をもってしても、クロロホルムと1,1,1−トリクロロエタンの両方が十分に吸着除去されているとは言い難い。
【0010】
浄水器に求められる性能も年々高まっており、揮発性有機化合物、とりわけ、クロロホルムと1,1,1−トリクロロエタンの吸着除去を両立させることができる吸着材が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
本実施形態の活性炭は、窒素吸着法により算出されたBET式比表面積と、HK法から算出された細孔容積とを用いて、下記式により得られる平均細孔径が1.615〜1.625nmであることを特徴とする。
D=4000×V/S
(式中、D:平均細孔径(nm),V:細孔容積(mL/g),S:比表面積(m
2/g)を表す)
【0019】
本実施形態の活性炭は、有機化合物除去用活性炭であり、特に、クロロホルム、1,1,1−トリクロロエタン、ジクロロブロモメタン、クロロジブロモメタン、ブロモホルムなどのトリハロメタン等の揮発性有機化合物の除去用に好適に使用される。さらに、これら揮発性有機化合物の中でも、とりわけ、クロロホルムと1,1,1−トリクロロエタンの吸着除去を両立させることは従来非常に難しいとされていが、本実施形態の活性炭はそれらの吸着除去能力に優れている。
【0020】
これは、従来の活性炭では、先にクロロホルム吸着に適した細孔が形成された後、1,1,1−トリクロロエタンに適した細孔へ変化していくが、本実施形態の活性炭は、クロロホルム吸着に適した細孔を維持しつつ、1,1,1−トリクロロエタン吸着に適した細孔を形成するためであ
ると考えられる。
【0021】
上記式により得られる平均細孔径は、さらに、1.616〜1.623nmであることが好ましく、1.618〜1.621nmであることがより好ましい。
【0022】
本実施形態の活性炭において、前記平均細孔径が1.615未満、あるいは、1.625nmを超えると、所望の揮発性有機化合物に対する吸着除去能力が低下する。
【0023】
本実施形態の活性炭は、上記式により得られる平均細孔径の範囲を満足する限り、その他の構成については特に限定はされず、例えば、二種類以上の異なる活性炭を含んでいてもよい。
【0024】
また、本実施形態の活性炭は、窒素吸着法により算出されるBET比表面積が1000〜1350m
2/g程度であることが好ましい。さらに好ましくは1050〜1300m
2/g程度、より好ましくは1100〜1250m
2/g程度である。比表面積が大きすぎると、揮発性有機化合物が吸着し難くなり、小さすぎると、揮発性有機化合物等の除去性能が低下するおそれがある。
【0025】
本実施形態の活性炭の形状としては、粒子状、繊維状(糸状、織り布(クロス)状、フェルト状)などのいずれの形状でもよく、用途によって適宜選択できるが、体積あたりの吸着性能の高い粒子状が好ましい。粒子状の活性炭を浄水器用に使用する場合には、例えば、体積基準の累計粒度分布における10%粒子径(D10)が15〜35μm程度であり、かつ、体積基準の累計粒度分布における50%粒子径(D50)が30〜150μm程度である粉末状活性炭を使用することができる。このような範囲の形状であれば、上記吸着除去性能に加え、成形性に優れ、かつ成形体にした時の強度にも優れると考えられる。
【0026】
本実施形態において、上記D10、D50およびD90の数値はレーザー回折・散乱法により測定した値であり、例えば、日機装株式会社製の湿式粒度分布測定装置(マイクロトラックMT3300EX II)などにより行われる。
【0027】
本実施形態の活性炭は、炭素質材料(例えば、ヤシがらやフェノール樹脂)を炭化及び/又は賦活することによっても得られる。炭化を必要とする場合は、通常、酸素又は空気を遮断して、例えば、400〜800℃、好ましくは500〜800℃、さらに好ましくは550〜750℃程度で行うことができる。賦活法としては、ガス賦活法、薬品賦活法等の賦活法があるが、浄水用として使用する場合、不純物の残留の少ないガス賦活法が好ましい。本発明の活性炭はシャープな特定の細孔を形成させるため、結晶性を高めつつ細孔を形成する必要がある。賦活温度が高すぎると結晶性が高まりすぎるためシャープな細孔を形成しにくくなったり、賦活ガスと急速に反応するためシャープな細孔を形成することが難しくなる。一方、賦活温度が低すぎると、結晶性が低いため賦活ガスとの反応性が高まりシャープな細孔を形成することが難しくなる。よって賦活温度が850〜950℃程度で賦活ガスと数時間かけて特定の比表面積(800〜1000m
2/g)または特定の細孔容積(ベンゼン吸着量:23〜28質量%)となるまで賦活し、その後、賦活ガスと850℃〜1000℃で急速かつ短時間(例えば5分〜30分)反応させることにより、クロロホルム吸着に適した細孔を有しながら1,1,1−トリクロロエタンのようなやや分子サイズの大きい物質も吸着することのできる細孔を形成することが出来ると考えられる。
【0028】
炭素質材料としては、特に限定されないが、例えば植物系炭素質材料(例えば、木材、鉋屑、木炭、ヤシ殻やクルミ殻などの果実殻、果実種子、パルプ製造副生成物、リグニン、廃糖蜜などの植物由来の材料)、鉱物系炭素質材料(例えば、泥炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭、コークス、コールタール、石炭ピッチ、石油蒸留残渣、石油ピッチなどの鉱物由来の材料)、合成樹脂系炭素質材料(例えば、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニリデン、アクリル樹脂などの合成樹脂由来の材料)、天然繊維系炭素質材料(例えば、セルロースなどの天然繊維、レーヨンなどの再生繊維などの天然繊維由来の材料)などが挙げられる。これらの炭素質材料は、単独でまたは2種類以上組み合わせて使用できる。これらの炭素質材料のうち、JIS S 3201(2010)で規定される揮発性有機化合物の吸着性能に関与するミクロ孔が発達しやすい点から、ヤシ殻を原料とする活性炭が好ましい。
【0029】
賦活後の活性炭は、アルカリ金属、アルカリ土類金属および遷移金属などの不純物を含むヤシ殻などの植物系炭素質材料や鉱物系炭素質材料を用いた場合、灰分や薬剤を除去するために洗浄する。洗浄には鉱酸や水が用いられ、鉱酸としては洗浄効率の高い塩酸が好ましい。
【0030】
活性炭の吸着容量が小さすぎると十分な吸着能力を保持しているとは言えず、吸着容量が大きすぎると過賦活状態で細孔径が増大しており、有害物質の吸着保持力が低下する傾向にある。したがって、本実施形態の活性炭において、吸着容量は、用途にもよるが、ベンゼン吸着量(20℃のときのベンゼン飽和濃度の1/10の濃度で通気した時の飽和吸着量)が28〜33質量%程度となるようにすることが好ましい。この活性炭のベンゼン吸着量は、用途に応じて調整することによって、様々な用途に本実施形態の活性炭を使用することができる。
【0031】
本実施形態の吸着フィルターは、前記活性炭と、高分子バインダーを含有する。
【0032】
高分子バインダーとしては、形状が繊維状の場合、フィブリル化させることによって、繊維状活性炭および粒子状活性炭を絡めて賦形できるものであれば、特に限定されず、合成品、天然品を問わず幅広く使用可能である。このようなバインダーとしては、例えば、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、パルプなどが挙げられる。繊維状バインダーの繊維長は4mm以下であることが好ましい。
【0033】
これらの繊維状のバインダーは2種以上を組み合わせて使用してもよい。特に好ましくは、ポリアクリロニトリル繊維またはパルプをバインダーとして使用することである。それにより、成形体密度および成形体強度をさらに上げ、性能低下を抑制することができる。
【0034】
また、形状が粉末状の高分子バインダーとしては、粒子状活性炭を賦形できるものであれば、特に限定されず、ポリエチレン粉末、ポリプロピレン粉末、エチレン・アクリル酸共重合樹脂粉末などが挙げられる。
【0035】
これらの粉末状のバインダーは2種以上を組み合わせて使用してもよい。特に好ましくは、ポリエチレン粉末をバインダーとして使用することである。それにより、成形体密度および成形体強度をさらに上げ、性能低下を抑制することができると考えられる。
【0036】
本実施形態において、繊維状の高分子バインダーの通水性は、CSF値で10〜150mL程度である。本実施形態において、CSF値はJIS P8121「パルプの濾水度試験方法」カナダ標準ろ水度法に準じて測定した値である。また、CSF値は、例えばバインダーをフィブリル化させることによって調整できる。
【0037】
繊維状の高分子バインダーのCSF値が10mL未満となると、通水性が得られず、成形体の強度が低くなり、圧力損失も高くなるおそれがある。一方で、前記CSF値が150mLを超える場合は、粉末状の活性炭を十分に保持することができず、成型体の強度が低くなる上、吸着性能に劣る可能性がある。
【0038】
また実施形態の吸着フィルターには、本発明の効果が阻害されない限りこれ以外の機能性成分が含まれていてもよい。例えば、溶解性鉛を吸着除去できるゼオライト系粉末(鉛吸着材)やイオン交換樹脂またはキレート樹脂、あるいは抗菌性を付与するために銀イオン及び/又は銀化合物を含んだ各種吸着材などを任意の量加えてもよいが、通常0.1〜30質量部配合する。
【0039】
本実施形態の繊維状の高分子バインダーを使用した吸着フィルターにおける各成分の混合割合は、揮発性有機化合物の吸着効果、成型性などの点から、好ましくは、前記活性炭と機能性成分の混合物100質量部に対し、前記高分子バインダーを4〜10質量部程度とする。高分子バインダーの量が4質量部未満となると、十分な強度が得られずに成形体を成形できないおそれがある。また、高分子バインダーの量が10質量部を超えると、吸着性能が低下するおそれがある。より好ましくは、活性炭と機能性成分の混合物100質量部に対し、高分子バインダーを4.5〜6質量部配合することである。
【0040】
本実施形態の繊維状の高分子バインダーを使用した吸着フィルターの製造は、任意の方法で行われ、特に限定されない。効率よく製造できる点で、スラリー吸引方法が好ましい。より具体的には、例えば、特開平10−5580号公報に記載されているように、多数の吸引用小孔を設けた二重管状の成形型を準備し、中心部からスラリーを吸引することによって円筒型の吸着フィルター(成形体)を作製することができる。
【0041】
また、本実施形態において、粉末状の高分子バインダーは、JIS K 7210−1999で規定されるメルトマスフローレイト(MFR g/10分)が通常30以下であり、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは2以下である。メルトマスフローレイトが30を超えると、活性炭の表面を被覆し、吸着性能を低下させる恐れがある。
【0042】
また、本実施形態の粉末状の高分子バインダーを使用した吸着フィルターには、本発明の効果が阻害されない限りこの粉末状バインダー以外の機能性成分が含まれていてもよい。例えば、溶解性鉛を吸着除去できるゼオライト系粉末(鉛吸着材)やイオン交換樹脂またはキレート樹脂、あるいは抗菌性を付与するために銀イオン及び/又は銀化合物を含んだ各種吸着材などを任意の量加えてもよいが、通常0.1〜30質量部配合する。
【0043】
本実施形態の粉末状の高分子バインダーを使用した吸着フィルターにおける各成分の混合割合は、揮発性有機化合物の吸着効果、成型性などの点から、好ましくは、前記活性炭と機能性成分の混合物100質量部に対し、前記高分子バインダーを10〜50質量部程度とする。高分子バインダーの量が10質量部未満となると、十分な強度が得られずに成形体を成形できないおそれがある。また、高分子バインダーの量が50質量部を超えると、吸着性能が低下するおそれがある。より好ましくは、活性炭と機能性成分の混合物100質量部に対し、高分子バインダーを15〜35質量部配合することである。
【0044】
本実施形態の粉末状の高分子バインダーを使用した吸着フィルターの製造は、任意の方法で行われ、特に限定されない。より具体的には、例えば、特開2005−119902号公報に記載されているように、前記高分子バインダ
ー及び粒子状活性炭をヘンシェルミキサーに投入して均一に攪拌、混合し、アルミ製金型に均一に充填し、加圧下で加熱融着することによって円筒型の吸着フィルター(成形体)を作製することができる。
【0045】
本実施形態の吸着フィルターにおいて、通水条件等は語句に限定されないが、圧力損失が極度に大きくならないように300〜6500/hrの空間速度(SV)で実施され、原水及び透過水中のトリハロメタン類などの揮発性有機化合物濃度から計算される各除去率と、通水開始から流した水量(L)とカートリッジの容積(cc)の比(累積透過水量L/cc)との関係をプロットすることにより、吸着フィルターの性能を確認することができる。
【0046】
本実施形態において、通水方法はJIS S 3201(2010)に定められた家庭用浄水器試験方法に準拠して行い、80%を下回った点を除去能とした。本実施形態の吸着フィルターを浄水材として使用すると、吸着速度が大きいので、SVが1000/hrを超える流速においてもその性能を十分に発揮することができ、容器を大幅に小型化することができる。本実施形態において、クロロホルムろ過能力は、空間速度2000〜5000/hrにおいて、吸着フィルター1ccあたり25リットル以上であることが好ましい。
【0047】
このように本実施形態の吸着フィルターは、高SV条件において高い性能を発揮するため、非常に有用である。
【0048】
原水及び透過水中の揮発性有機化合物などの濃度は、公知の分析方法によって測定することができ、例えば、クロロホルムや1,1,1−トリクロロエタンの濃度は、試料を容器に採取し、密閉して気相部分をサンプリングし、ガスクロマトグラフで分析するなどの方法によって測定することができる。
【0049】
本実施形態の吸着フィルターは、例えば、浄水フィルターなどとして用いられる。浄水フィルターとして使用する場合、例えば、本実施形態の吸着フィルターを上記の製造方法によって製造したのち、整形、乾燥後、所望の大きさおよび形状に切断して得ることができる。フィルターの形を整えるために整形台上で圧縮してもよいが、圧縮しすぎると、活性炭成型体の表面が圧密化することがあるので、最小限に止めるのがよい。さらに必要に応じて、先端部分にキャップを装着したり、表面に不織布を装着させてもよい。
【0050】
また、本実施形態の吸着フィルターは、ハウジングに充填して浄水用カートリッジとして使用し得る。カートリッジは浄水器に装填され、通水に供されるが、通水方式としては、原水を全量濾過する全濾過方式や循環濾過方式が採用される。本実施形態において浄水器に装填されるカートリッジは、例えば浄水フィルターをハウジングに充填して使用すればよいが、さらに公知の不織布フィルター、各種吸着材、ミネラル添加材、セラミック濾過材、中空糸膜などと組合せて使用することもできる。
【0051】
さらに、浄水用カートリッジに直接活性炭を充填し、使用することも出来る。
【0052】
なお、本発明に包含される浄水器は、上述の活性炭または上述の吸着フィルターを用いた浄水器である。
【0053】
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0054】
本発明の一局面に係る活性炭は、有機化合物除去用活性炭であって、窒素吸着法により算出されたBET式比表面積と、HK法から算出された細孔容積とを用いて、下記式により得られる平均細孔径が1.615〜1.625nmであることを特徴とする。
D=4000×V/S
(式中、D:平均細孔径(nm),V:細孔容積(mL/g),S:比表面積(m
2/g)を表す)
【0055】
このような構成を有することにより、揮発性有機化合物に対し、優れた吸着除去能力を有する活性炭を提供することができる。なかでも、クロロホルムと1,1,1−トリクロロエタンの両方に対して優れた吸着除去能力を発揮することができる。
【0056】
また、前記活性炭において、比表面積が1000〜1350m
2/gであることが好ましい。それにより、上述した効果がより確実に得られる。
【0057】
さらに、前記活性炭がヤシガラを原料とする活性炭であることが好ましい。それにより、クロロホルムと1,1,1−トリクロロエタンの両方が十分に吸着することができると考えられる。
【0058】
本発明の他の局面に係る吸着フィルターは、前記活性炭及び高分子バインダーを含むことを特徴とする。このような構成により、揮発性有機化合物に対し、優れた吸着除去能力を有する吸着フィルターを提供することができる。
【0059】
さらに、前記吸着フィルターにおいて、空間速度(SV)が2000〜5000/hrの場合に、クロロホルムろ過能力が、吸着フィルター1ccあたり25L以上であることが好ましい。
【0060】
また、本発明のさらなる局面に係る浄水器は、前記活性炭、又は、前記吸着フィルターを用いることを特徴とする。このような構成により、揮発性有機化合物に対し、優れた吸着除去能力を有する、有用な浄水器を提供することができる。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例における各物性値は、以下に示す方法により測定した。
【0062】
<評価方法>
[活性炭の粒子径] 湿式粒度分布測定装置(日機装(株)製「マイクロトラックMT3300EX II」)を用いて、レーザー回折・散乱法により体積基準の累計粒度分布における0%粒子径(D0)、体積基準の累計粒度分布における10%粒子径(D10)、体積基準の累計粒度分布における50%粒子径(D50)及び体積基準の累計粒度分布における90%粒子径(D90)を測定した。
【0063】
具体的な粒度分布の測定方法を次に示す。
(分散液調整方法)
ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(WAKO製)をイオン交換水で50倍に希釈し、測定用の分散液とした。
(サンプル液調製方法)
透過率(TR)が0.880〜0.900になる分量をビーカーに秤り取り、分散液を1.0ml添加し、スパチュラで攪拌後、超純水を約5ml程度加え混合しサンプル液とした。
【0064】
得られたサンプル液は全量、装置に流し入れ、以下の条件で分析を行った。
(分析条件)
測定回数;3回の平均値
測定時間;30秒
分布表示;体積
粒径区分;標準
計算モード; MT3000II
溶媒名;WATER
測定上限;2000μm、測定下限;0.021μm
残分比;0.00
通過分比;0.00
残分比設定;無効
粒子透過性;吸収
粒子屈折率;N/A
粒子形状;N/A
溶媒屈折率;1.333
DV値;0.0882
透過率(TR);0.880〜0.900
拡張フィルター;無効
流速;70%
超音波出力;40W
超音波時間;180秒
【0065】
[活性炭の比表面積]
日本ベル社製BELSORP−MAXを使用し、活性炭の77Kにおける窒素吸着等温線を測定した。得られた吸着等温線からBETの式により多点法による解析を行い、得られた曲線の相対圧p/p0=0.001〜0.1の領域での直線から比表面積を算出した。(より具体的には、得られた曲線から相関係数が1に最も近く、且つC値が負にならない直線を用いて比表面積を算出した)。
【0066】
[活性炭の細孔容積(HK法)]
前記窒素吸着等温線をHK法により解析した。解析条件は吸着質分子量を28.010、吸着質密度を0.808gcm
−3、ファイルデータ補間方法を直線、パラメータ設定をN2−C(77K).HKSとした。
【0067】
[活性炭の平均細孔径]
上記で得られた比表面積および細孔容積を用いて、以下の式により算出した。
D=4000×V/S
(式中、D:平均細孔径(nm),V:細孔容積(mL/g),S:比表面積(m
2/g)を表す)
【0068】
[クロロホルム吸着性能]
(静的吸着量)
活性炭を30μm程度に粉砕し、115℃で1時間乾燥後試験に供した。原液として、約100μg/Lに調製したクロロホルム溶液100mlを100ml用バイアル瓶にいれ、更にサンプルを適量添加し、ポリテトラフルオロエチレンシート、バイアル用ゴム栓、アルミキャップを載せアルミキャップ締め機で固定した。25℃に調整した振とう機で約160回/分で2時間振とうした後、メタノール10μlをマイクロシリンジで注入し、更に25℃恒温槽で1時間静置した。1時間静置後ヘッドスペース部分をバイアル用ゴム栓を通してガスタイトシリンジを用いてその一定量を採り、ガスクロマトグラフィー(ECD)で分析し、検液中のクロロホルム濃度Aを求めた。同様に活性炭を添加しないブランクのクロロホルム濃度Bを求め、添加した活性炭量Wから、下記式により残留クロロホルム濃度における吸着量Mを計算した。この時、残留濃度が、10μg/L前後となるように活性炭添加量を変え、横軸残留濃度、縦軸吸着量とした両対数グラフにプロットし、残留濃度が10μg/L時の
吸着量を読み取った。
M=(B−A)×0.1÷W
本評価では静的吸着量が1.0mg/g以上のものを合格とした。
【0069】
(動的吸着量)
JIS標準篩目開き0.3〜0.15mmの篩で篩分け、平均粒子径が0.23mmになるように粒度調整しサンプルとした。100mlのメスシリンダーの重量を測定後、約100mlのサンプルを入れ重量を測定してサンプル重量を計量後、3分間ゴム板の上で軽くタッピングした時の容積から充填密度を算出した。算出された充填密度から60ml分のサンプル重量を量り取り、内径33mmφ、高さ77mmのカラムにサンプルを軽く振動させながら充填した。
【0070】
この時、サンプルが漏れ出さないようにカラムの底部と上部に不織布を設置した。カラム上部からJIS S3201に準拠した手順でクロロホルム調製水を通水し、原水に対してろ過水の除去率が80%となる積算通水量Lを測定し、次式により、動的吸着量を求めた。
動的吸着量=L/60
本評価では動的吸着量が22.0L/mL以上のものを合格とした。
【0071】
[1,1,1−トリクロロエタン吸着性能]
(静的吸着量)
1,1,1−トリクロロエタン濃度約300μg/Lに調製した以外、クロロホルム吸着性能における静的吸着量と同様な方法で残留濃度が10μg/L時の
吸着量を読み取った。本評価では静的吸着量が2.4mg/g以上のものを合格とした。
【0072】
(動的吸着量)
クロロホルム吸着性能における動的吸着量と同様な方法で、サンプルをカラムに充填し、JIS S3201に準拠した手順で1,1,1−トリクロロエタン調製水を通水し、除去率が80%となる積算通水量から、動的吸着量を求めた。本評価では動的吸着量が20.0L/mL以上のものを合格とした。
【0073】
[フィルター成形体密度(g/ml)]
成型体密度(g/ml)は、得られた円筒状フィルターを120℃で2時間乾燥した後、測定した重量(g)及び体積(ml)に基づいて求めた。
【0074】
[初期通水抵抗]
吸着フィルターに、3リットル/分の通水量で通水開始10分後の通水抵抗を測定した。初期通水抵抗については、0.10MPa以下を合格点とした。
【0075】
[クロロホルムろ過能力]
JIS S3201に準拠し、任意の流量で通水し、原水に対してろ過水の除去率が80%になるまでの積算通水量を測定し、積算通水量をフィルター体積で除した値をクロロホルムろ過能力とした。本評価では24.2L/cc以上のものを合格とした。
【0076】
[1,1,1−トリクロロエタンろ過能力]
クロロホルムろ過能力と同様にJIS S3201に準拠し、任意の流量で通水し、原水に対してろ過水の除去率が80%になるまでの積算通水量を測定し、積算通水量をフィルター体積で除した値を1,1,1−トリクロロエタンろ過能力とした。本評価では30.0L/cc以上のものを合格とした。
【0077】
[原料]
(活性炭)
・粉末状活性炭サンプルA:ヤシ殻原料
・粉末状活性炭サンプルB:ヤシ殻原料
・粉末状活性炭サンプルC:ヤシ殻原料
・粉末状活性炭サンプルD:ヤシ殻原料
・粉末状活性炭サンプルE:ヤシ殻原料
・粉末状活性炭サンプルF:ヤシ殻原料
・粉末状活性炭サンプルG:ヤシ殻原料
・粉末状活性炭サンプルH:ヤシ殻原料
・粉末状活性炭サンプルI:ヤシ殻原料
【0078】
なお、各活性炭粒子の物性および吸着性能は下記表1に示す通りである。また、各活性炭の調製方法は以下の通りである:
(活性炭サンプルA)
フィリピン産のヤシ殻を炭化したヤシ殻炭を0.425〜1.00mmに粒度調整し、そのヤシ殻炭1kgを500℃まで加熱し窒素ガスを5L/min流しながらバッチ式ロータリーキルン(RK)へ投入した。投入後に920℃まで加熱した後、窒素ガスに加えて、水蒸気を5L/min流し8時間賦活を行い、得られた活性炭のベンゼン吸着性能は25%となった。得られた活性炭を流動炉(FB)にLPG燃焼ガス50L/minでベンゼン吸着性能が30%になるまで10分間900℃賦活を行った後、塩酸を用いた洗浄を行い120℃で5時間乾燥した。
【0079】
(活性炭サンプルB)
活性炭サンプルAと同様のヤシ殻炭を用いて、RK賦活温度を900℃に変えて、水蒸気を5L/min流し12時間賦活を行い、得られた活性炭のベンゼン吸着性能は25%となった。その後は活性炭サンプルAと同様にベンゼン吸着性能が30%になるまで10分間900℃賦活行い、塩酸を用いて洗浄し120℃で5時間乾燥した。
【0080】
(活性炭サンプルC)
RK賦活までは、活性炭サンプルAと同様の操作を行い、ベンゼン吸着性能が25%になった活性炭をFB賦活温度を930℃で7分間賦活しベンゼン吸着性能30%の活性炭を得た。洗浄及び乾燥は活性炭サンプルAと同様の操作を行った。
【0081】
(活性炭サンプルD)
フィリピン産のヤシ殻を炭化したヤシ殻炭を0.425〜1.00mmの粒度調整し、賦活温度920℃におけるFB賦活をLPG燃焼ガス50L/minを用いてベンゼン吸着性能が30%になるまで1時間行った。得られた活性炭は塩酸を用いて洗浄を行った後に120℃で5時間乾燥を行った。
【0082】
(活性炭サンプルE)
フィリピン産のヤシ殻を炭化したヤシ殻炭を0.425〜1.00mmの粒度調整し、賦活温度920℃におけるFB賦活をLPG燃焼ガス50L/minを用いてベンゼン吸着性能が33%になるまで1.1時間行った。得られた活性炭は塩酸を用いて洗浄を行った後に120℃で5時間乾燥を行った。
【0083】
(活性炭サンプルF)
フィリピン産のヤシ殻を炭化したヤシ殻炭を0.425〜1.00mmの粒度調整し、賦活温度920℃におけるFB賦活をLPG燃焼ガス50L/minを用いてベンゼン吸着性能が45%になるまで1.75時間行った。得られた活性炭は塩酸を用いて洗浄を行った後に120℃で5時間乾燥を行った。
【0084】
(活性炭サンプルG)
フィリピン産のヤシ殻を炭化したヤシ殻炭を0.425〜1.00mmの粒度調整し、賦活温度920℃におけるFB賦活をLPG燃焼ガス50L/minを用いてベンゼン吸着性能が54%になるまで3時間行った。得られた活性炭は塩酸を用いて洗浄を行った後に120℃で5時間乾燥を行った。
【0085】
(活性炭サンプルH)
フィリピン産のヤシ殻を炭化したヤシ殻炭を0.425〜1.00mmに粒度調整し、賦活温度920℃におけるFB賦活をLPG燃焼ガス50L/minを用いてベンゼン吸着性能が25%になるまで0.75時間行い、得られた活性炭をRKを用いて、920℃で窒素5L/min、水蒸気を5L/min流しながら、ベンゼン吸着性能が30%になるまで2時間賦活を行った。得られた活性炭は塩酸を用いて洗浄を行った後に120℃で5時間乾燥を行った。
【0086】
(活性炭サンプルI)
フィリピン産のヤシ殻を炭化したヤシ殻炭を0.425〜1.00mmに粒度調整し、賦活温度920℃におけるRK賦活を窒素5L/min、水蒸気を5L/min流しながら、ベンゼン吸着性能が30%になるまで10時間行った。得られた活性炭は塩酸を用いて洗浄を行った後に120℃で5時間乾燥を行った。
【0087】
(バインダー原料)
・アクリル繊維状バインダー:CSF値90ml
(鉛吸着材)
・チタノシリケート系鉛吸着材
【0088】
<試験例1:活性炭の評価>
それぞれ、下記表1に示す活性炭サンプルA〜
I(実施例1〜3および比較例1〜6)について、上述の評価方法を用いて、各物性および吸着性能を測定した。結果を表1に示す。また、吸着性能の結果については
図1および
図2のグラフにも示した。
【0089】
【表1】
【0090】
<考察>
表1および
図1〜2から明らかなように、実施例に係る活性炭はいずれも、クロロホルムおよび1,1,1−トリクロロエタンの両方に対し、優れた吸着性能を示すことがわかった。これに対し、平均細孔径が本発明の範囲に入らない比較例の活性炭では、クロロホルムおよび1,1,1−トリクロロエタンの少なくともいずれかの吸着量において劣る結果となった。
【0091】
<試験例2:吸着フィルターの評価>
それぞれ下記表2に示す活性炭サンプル94質量部に対し、バインダー4質量部、鉛吸着材6質量部を投入し、合計1.04kgとして、水道水を追加し、スラリー量を20リットルとした。
【0092】
そして、直径3mmの多数の小孔を有する、外径27.5mm、内径10mm、高さ101mmの金型を用いて350mmHgで吸引し、外径28mm、内径10mm、高さ100mmの中空型円筒状成型体(吸着フィルター)を得た。
【0093】
この成型体を直径32mm、長さ100mm、内在量80ccの透明なプラスチック製ハウジングに装填し、外側から内側に通水し、家庭用浄水器試験方法に準拠して、クロロホルム、1,1,1−トリクロロエタンをそれぞれ総濃度0.060±0.020mg/L及び0.300±0.060mg/Lとなるように加え、下記表2に示し流量およびSVで通水した。
【0094】
各実施例4〜7(活性炭A使用)および比較例7〜13(活性炭DまたはE使用)の吸着フィルターについて、上述した評価試験を行った結果を表2に示す。また、ろ過能力については
図3および4のグラフにも示した。
【0095】
【表2】
【0096】
<考察>
表2および
図3〜4から明らかなように、実施例に係る吸着フィルターはいずれも、抵抗が低く、クロロホルムおよび1,1,1−トリクロロエタンの両方ろ過能力に非常に優れていることがわかった。特に、高SV条件においても、優れたろ過能力を発揮することも確認された。
【0097】
これに対し、平均細孔径が本発明の範囲より大きいあるいは小さい活性炭を用いた比較例では、いずれもろ過能力に劣る結果となった。
【0098】
この出願は、2016年5月17日に出願された日本国特許出願特願2016−098421を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0099】
本発明を表現するために、前述において具体例等を参照しながら実施形態を通して本発明を適切かつ十分に説明したが、当業者であれば前述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。