特許第6902950号(P6902950)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6902950
(24)【登録日】2021年6月24日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】金属樹脂複合成形品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20210701BHJP
   B23K 26/364 20140101ALN20210701BHJP
【FI】
   B29C45/14
   !B23K26/364
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-140649(P2017-140649)
(22)【出願日】2017年7月20日
(65)【公開番号】特開2019-18501(P2019-18501A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2020年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597146721
【氏名又は名称】ヤマセ電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】近藤 秀水
【審査官】 ▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−004802(JP,A)
【文献】 特開2013−107273(JP,A)
【文献】 特開2013−052669(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/071259(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C45/14
B23K26/364
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板に樹脂組成物をインサート成形した金属樹脂複合成形品であって、該金属板は、厚さHが450μm以下であり、該金属板の該樹脂組成物がインサートされる表面には溝が形成されており、該溝は、幅Yが30〜300μm、深さXが該金属板の厚さHの24%以下、該幅Yに対する該深さXの割合X/Yが0.1〜2.5である金属樹脂複合成形品。
【請求項2】
厚さHが450μm以下であるロール状の金属板に、樹脂組成物をインサート成形して金属樹脂複合成形品を製造する方法であって、該金属板の表面に該樹脂組成物をインサートする溝を形成する工程を有し、該溝を、幅Yが30〜300μm、深さXが該金属板の厚さHの24%以下、該幅Yに対する該深さXの割合X/Yが0.1〜2.5とする金属樹脂複合成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂と接合される金属板の製造方法、及び当該製造方法で製造された金属板と樹脂とを備える金属樹脂複合成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
金属や合金等から構成される金属板と、熱可塑性樹脂組成物から構成される樹脂成形品とが複合化されてなる金属樹脂複合成形品は、従来から、インストルメントパネル周りのコンソールボックス等の自動車の内装部材やエンジン周り部品、インテリア部品、デジタルカメラや携帯電話等の電子機器の筐体部、インターフェース接続部、電源端子部等の外界と接触する部品に用いられている。
【0003】
金属板と樹脂成形品とを複合化する方法としては、金属板側の接合面に微小な凹凸を形成しておきアンカー効果で接合する方法、接着剤や両面テープを用いて接着する方法、金属板及び/又は樹脂成形品に折り返し片や爪等の固定部材を設け、この固定部材を用いて両者を固着させる方法、ねじ等を用いて接合する方法等がある。これらの中でも、金属板に微小な凹凸を形成する方法や接着剤を用いる方法は、金属樹脂複合成形品を設計する形状自由度の点で有効である。
【0004】
特に、金属板の表面を加工し微小な凹凸を形成する方法は、高価な接着剤を使用しない点、接着剤の塗布及び硬化の工程が不要である点において有利である。金属板の表面を加工し微小な凹凸を形成する方法としては、例えば、特許文献1に記載の方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−117724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の方法は、レーザーで金属板の表面に溝を形成するため、上記表面における所望の範囲に溝を形成可能であり、作業も簡便で、有効な方法の一つである。
【0007】
ところで、金属板をレーザー加工する際には、金属板の加工点において局所的な発熱があり、金属板の熱膨張に起因する変形を生じることがある。熱膨張の小さい金属あるいは、熱拡散が容易に起こるような形態の金属板であればこのような変形はある程度抑えられるが、金属板であって板厚が500μmを下回るような薄肉のものでは、金属板自体の剛性による構造強度を確保することが難しいため、この変形が無視できない程度に大きなものとなっている。
最近のスマートフォンの筐体のような薄型が求められる金属板では、この変形を抑制することが課題となっていた。
また、フープ成形のインサート端子のように、金属をロール状に巻いて用いる場合には、金属板が厚すぎてはロール状に巻き取ることができず、仮に巻くことができても、厚い金属板を無理に巻き取ると、その際に金属板にかかった負荷が内部歪として残留し、金属板の強度低下や変形が生じ、インサート成形品としての接合強度や気密性を低下させるといった問題が発生するため、このような用途においては、巻取り性の面からやはり厚さ500μm以下程度の金属薄板が必要となり、そのような薄肉の金属板のレーザー加工時の変形を抑制することが課題となっていた。
【0008】
本発明の目的は、レーザーで金属板の表面に溝を形成して、金属板と樹脂との密着性を向上させる技術において、金属板が薄くなってもレーザー加工による変形を抑制できる金属樹脂複合成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記によって達成された。
(1) 金属板に樹脂組成物をインサート成形した金属樹脂複合成形品であって、該金属板は、厚さHが500μm以下であり、該金属板の該樹脂組成物がインサートされる表面には溝が形成されており、該溝は、幅Yが30〜300μm、深さXが該金属板の厚さHの24%以下、該幅Yに対する該深さXの割合X/Yが0.1〜2.5である金属樹脂複合成形品。
【0010】
(2) 厚さHが500μm以下である金属板に、樹脂組成物をインサート成形して金属樹脂複合成形品を製造する方法であって、該金属板の表面に該樹脂組成物をインサートする溝を形成する工程を有し、該溝を、幅Yが30〜300μm、深さXが該金属板の厚さHの24%以下、該幅Yに対する該深さXの割合X/Yが0.1〜2.5とする金属樹脂複合成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属樹脂複合成形品は、金属板が薄膜でありながらレーザー加工による変形が小さく抑制されているものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】金属表面へのレーザーの照射パターンの例を示す図である。
図2】気密性試験のための成形品における気密性確保の方向Zを示す図である。
図3】実施例及び比較例で使用した金属樹脂複合成形品試験片(金属板の厚みtのインサート成形体)を模式的に示す図であり、(a)は上面図であり、金属板の加工は裏面に施されている。(b)は分解した斜視図であり、金属板の加工は下方に施されている。(c)はA−A’の断面図である。
図4】実施例で使用した樹脂部と金属板との間の気密試験機Eを示す図である。
図5】実施例と比較例のプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0014】
<金属樹脂複合成形品>
本発明の金属樹脂複合成形品は、金属板に樹脂組成物をインサート成形した金属樹脂複合成形品であって、該金属板は、厚さHが500μm以下であり、該金属板の該樹脂組成物がインサートされる表面には溝が形成されており、該溝は、幅Yが30〜300μm、深さXが該金属板の厚さHの24%以下、該幅Yに対する該深さXの割合X/Yが0.1〜2.5であることを特徴とする。
【0015】
≪金属板≫
本発明に使用される金属板としては、アルミニウム、マグネシウム、ステンレス鋼、銅、チタン等を例示することができる。また、金属板は、金属合金から構成されてもよい。また、金属材料の表面には、陽極酸化処理等の表面処理や塗装がされていてもよい。軽量、強度の点からアルミニウム、マグネシウム、銅、チタンが好ましく、端子等の導電性が必要とされる用途においてはアルミニウム、銅がより好ましく、銅が特に好ましい。また、携帯端末筐体等の薄肉での剛性が要求される用途においてはマグネシウム、チタンが好ましく、チタンが特に好ましい。
本発明では、金属板の厚みHが500μm以下である場合に有用である。金属膜の厚みHの下限は、強度的に100μm以上であることが好ましい。
【0016】
≪溝の形状≫
本発明においては、金属板の表面に形成される溝は、幅Yが30〜300μm、深さXが該金属板の厚さHの24%以下、該幅Yに対する該深さXの割合X/Yが0.1〜2.5となるように形成される。
【0017】
金属板の厚みHが500μmを超えるようなものであれば、溝の深さと接合強度はほぼ相関し、溝の深さを増すことで所望の接合強度を得ることができるが、金属板の厚みHが500μm以下である場合、まず薄いため、溝を形成する際に金属板が容易に変形してしまうこと、また溝の深さが深い場合、溝部において金属板がさらに薄くなるため、金属板の強度を保ったままで十分な溝の深さを確保できないことがあり、深さ以外に接合強度を得る技術的手段が必要であった。本発明ではそれを、溝の形状の調製によって達成できることを見出したものである。
【0018】
本発明の溝の深さX及び幅Yとは、レーザー顕微鏡を用いて測定された値を採用する。また、レーザー光が交差するように照射され交差する部分がある場合には、交差する部分以外について、上記の方法で深さを測定する。
【0019】
本発明においては、幅Yは30〜300μmであり、50〜200μmであることが、変形と接合強度のバランスの点で好ましい。
【0020】
深さXは、金属板の厚みHの24%以下にしなければ変形を抑制することが難しい。より変形を抑制しながら接合強度を得るためには、5〜23%であることが好ましい。Xとしては、20〜100μmであることが好ましい。
【0021】
幅Yに対する深さXの割合X/Yは、0.1〜2.5にすることが、変形と接合強度のバランスの点で必要である。0.2〜2であることが好ましく、0.25〜1であることがより好ましい。
【0022】
≪溝の形成方法≫
本発明に係る溝は、レーザーによって形成される。具体的には、レーザーを照射して、金属表面を堀加工及び溶融させ再凝固させる条件にて溝を形成する。具体的にパルス波のレーザー光を照射する場合を例に説明する。図1には金属表面へのレーザー光の照射パターンの例を記載する。金属表面上でレーザーが照射された部分に溝が形成される。なお、図1中の白抜き矢印は、レーザーの走査方向を表す。
【0023】
また、図1(a)には、溝が並ぶように形成するためのレーザーの照射方法を示す。図1(a)に記載の照射方法の場合、二つの溝が略平行に並ぶ。溝が並ぶ方向におけるパルスの中心間距離が、隣り合う溝の間隔である(本明細書においては、隣り合う溝の間隔を「ハッチング幅」という場合がある)。図1(a)に示す場合においては、ハッチング幅が一定であり、本発明では、ハッチング幅が溝の幅Yの0.1〜5.0倍の範囲になるように調整されることが好ましい。
【0024】
ハッチング幅が上記範囲より小さいと、溝と溝との間にある金属部の幅が狭くなり、この部分の強度が低下することで接合強度や気密性が不利になる場合があり、ハッチング幅が上記範囲より広いと、溝と溝の間隔が広くなり、同一処理面積内に設けることのできる溝の本数が少なくなるため、接合強度や気密性が低下する場合がある。
【0025】
なお、図1(b)に示すように、略平行にレーザーを照射しなくてもよい。図1(b)に示すような場合には、ハッチング幅が一定にならないが、ハッチング幅の少なくとも一部が溝の幅Yの0.1〜5.0倍の範囲であることが好ましい。また、図1(c)に示すように、レーザー光が直線状に照射されなくてもよい。
【0026】
また、溝の数も特に限定されない。溝の数が3以上の場合、いずれかの隣り合う溝のハッチング幅の少なくとも一部が、溝の幅Yの0.1〜5.0倍の範囲であることが好ましい。また、上記のように溝が並ぶように形成されていれば、図1(d)に示すように、複数の溝同士が交差してもよい。
【0027】
以上の通り、金属板表面にレーザー光を照射するが、本発明において接合部の強度を向上するためにより好ましい照射方法は、図1(e)に示すように、所定の方向に並ぶように形成される溝と、上記所定の方向とは異なる方向に並ぶ溝とが交差するように、レーザー光を照射する方法である。最も好ましい照射方法は、上記交差の角度が略90°になる照射方法である。
【0028】
本発明において接合部の気密性を向上するためにより好ましい照射方法は、図2に示すように、気密性を確保したい方向Zを溝が遮断するように、レーザー光を照射する方法である。最も好ましい照射方法は、上記溝が、気密性を確保したい方向に対してほぼ垂直に複数形成され、かつそれらが互いに連接されないように、レーザー光を照射する方法である。また、レーザー光のスポット径(図1に示すような、レーザー光の照射範囲が円の場合の、照射範囲を表す円の直径)は、300μm以下が好ましく、30〜100μmがより好ましい。
【0029】
本発明におけるレーザーの照射方法は、一度レーザー光を照射した位置に、二重、三重と重ねてレーザー光を照射したり(走査回数の調整)、レーザー光のスポット径を調整したり、レーザー光の出力を調整したり、レーザー光の周波数を調整したり、レーザー光の走査速度を調整したりする方法が挙げられる。具体的な条件については、金属板を構成する金属材料の種類等によって異なるため、金属材料の種類等に応じて適宜好ましい条件を採用する。
【0030】
用途等に応じて所望の形状に成形した金属板を使用する。例えば、所望の形状の型に溶融した金属等を流し込むことで、所望の形状の金属板を得ることができる。また、金属板を所望の形状に成形するために、工作機械等による切削加工等を用いてもよい。
【0031】
特に、本発明のような薄肉の金属板は、ロール状に巻いた状態でフープ成形に供給する場合があるが、そのような場合は、金属板を巻いたロールから、成形機に供給する途中の段階でレーザー光を照射して溝を形成してもよいし、あらかじめレーザー光を照射して溝を形成しておいた金属板をロール状に巻き取ってもよい。
上記のようにして得られた金属板の表面に、レーザーを用いて、溝を形成する。溝を形成する位置や、溝の範囲の大きさは、樹脂が形成される位置等を考慮して決定される。
【0032】
≪樹脂組成物≫
本発明で使用される樹脂組成物は、特に限定されず、従来公知の熱可塑性樹脂を含む熱可塑性組成物を使用することができる。
【0033】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル/スチレン樹脂(AS)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS)、メタクリル樹脂(PMMA)、塩化ビニル(PVC)を、熱可塑性樹脂(汎用エンジニアリング樹脂)としては、例えば、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、GF強化ポリエチレンテレフタレート(GF−PET)、ポリメチルペンテン(TPX)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)を、熱可塑性樹脂(スーパーエンジニアリング樹脂)としては、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶性樹脂(LCP)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアリレート(PAR)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリアミドイミド(PAI)を、熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレートを、エラストマーとしては、例えば、熱可塑性エラストマーやゴム、例えば、スチレン・ブタジエン系、ポリオレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、1,2−ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル系、アイオノマーを挙げることができる。更には、熱可塑性樹脂にガラスファイバーを添加したものや、ポリマーアロイ等も挙げることができる。
【0034】
また、本発明の効果を大きく損なわない範囲において、所望の物性付与のために、ガラスファイバーに代表される無機充填剤、有機充填剤、難燃剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、着色剤、離型剤、可塑剤等の添加剤を添加することができる。
【0035】
熱可塑性樹脂組成物の中でも、より良い密着性を得るために、熱可塑性樹脂の融点+20℃以上熱可塑性樹脂の融点+30℃以下の温度で測定した、せん断速度1000/秒での溶融粘度が500Pa・s以下の熱可塑性樹脂組成物を用いることが好ましい。
【0036】
上記の点で、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶性樹脂(LCP)等は、好ましい熱可塑性樹脂であり、特に、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶性樹脂(LCP)が好ましく用いられる。
【0037】
<金属樹脂複合成形品の製造方法>
本発明の金属樹脂複合成形品は、上記金属板と、金属板の表面の少なくとも一部に形成される樹脂組成物とを備える。
金属樹脂複合成形品の製造方法の具体的な工程は特に限定されず、溶融した熱可塑性樹脂組成物を溝の凹凸に入り込ませることで、樹脂と金属板とを複合化させるものであればよい。
【0038】
例えば、溝が形成された金属板を、射出成形用金型内に配置し、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物を射出成形用金型内に射出して、樹脂と金属板との金属樹脂複合成形品を製造する方法が挙げられる。射出成形の条件は特に限定されず、熱可塑性樹脂組成物の物性等に応じて、適宜、好ましい条件を設定することができる。また、トランスファ成形、圧縮成形等を用いる方法も樹脂と金属板とが複合化した金属樹脂複合成形品を形成する有効な方法である。
【0039】
他の例としては、予め射出成形法等の一般的な成形方法で樹脂を製造し、溝が形成された金属板と上記樹脂とを、所望の接合位置で当接させ、当接面に熱を与えることで、樹脂の当接面付近を溶融させて、樹脂と金属板との金属樹脂複合成形品を製造する方法が挙げられる。
<金属樹脂複合成形品の特性>
【0040】
上記の通り、樹脂と薄肉金属板との密着性に優れるとともに、高温環境下や低温環境下でも密着性が長期間にわたり安定して持続するという長期耐久性にも優れるため、本願発明の金属樹脂複合成形品は、高温環境下で長期間にわたり安定して優れた密着性が要求される用途に好適に使用することができる。
例えば、本発明の金属樹脂複合成形品は、導電性発熱部と絶縁部と導電性放熱部とを備え、導電性発熱部から絶縁部を介して導電性放熱部へと熱を伝達して放熱を行う放熱構造体において用いることができる。
【0041】
ここで、本発明の金属樹脂複合成形品における樹脂及び金属板は、それぞれ、放熱構造体における絶縁部及び導電性放熱部に対応し、導電性発熱部としては、例えば、電子部品等が挙げられる。特に本発明の金属樹脂複合成形品は、薄肉の金属板を用いているため、これをロール状として供給するフープ成形によって効率よく製造することができる点で、気密性が要求される電子部品やその端子保持構造体に好適に使用することができる。
【0042】
より具体的には、本発明の金属樹脂複合成形品は、内部に樹脂製のボスや保持部材等を備えた筐体に収められた導電性発熱部を有する電気・電子機器において、放熱構造体の一部として有用である。ここで、電気・電子機器としては、携帯電話、カメラ、ビデオ複合型カメラ、デジタルカメラ等の携帯用映像電子機器、ノート型パソコン、ポケットコンピュータ、電卓、電子手帳、PDC、PHS、携帯電話等の携帯用情報又は通信端末、MD、カセットヘッドホンステレオ、ラジオ等の携帯用音響電子機器、液晶TV・モニター、電話、ファクシミリ、ハンドスキャナー等の家庭用電化機器等を挙げることができる。また、気密性が要求される電子部品としては、コネクタ、センサ、コンデンサ、キャパシタ、電池、LEDパッケージ等を挙げることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
<インサート成形体の製造方法>
実施例及び比較例で使用した金属樹脂複合成形品(インサート成形体)の模式図を図3に示した。(a)は上面図であり、(b)は斜視図であり、(c)は断面図である。(b)の上部は金属板であり、下部がインサート樹脂である。
このインサート成形体を以下の方法で製造した。なお、図中の寸法の単位はmmである。
【0045】
樹脂部を構成する熱可塑性樹脂組成物として、ポリフェニレンサルファイド系樹脂組成物(充填材としてガラスファイバーを35質量%含み、310℃で測定した、せん断速度1000/秒での溶融粘度が260Pa・sの樹脂組成物、ポリプラスチックス(株)社製、「ジュラファイド(登録商標)1135ML1」)を用いた。
【0046】
[溶融粘度]
東洋精機(株)製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、所定のバレル温度、せん断速度1000/秒での溶融粘度を測定した。上記のバレル温度は、310℃に設定した。
【0047】
金属板として、銅(C1100P、厚さHは表に記載)から構成され、下記の通りにして溝を形成した外径30mmφの円板状物を用いた。これら金属板は、図3(a)の溝部周辺、具体的には円板の中心部から20mmφより外側の領域、すなわち30mmφの円板の外周側5mm幅の領域に接合予定面を有する。
【0048】
<溝の形成>
レーザーマーカMD−V9900(キーエンス社製、レーザータイプ:YV0レーザー、発信波長:1064nm、最大定格出力:13W(平均))を用い、出力90%、周波数40kHz、走査速度1000mm/sにて、接合予定面の金属表面に、表1及び表2に示す深さと幅で、図3(b)に示すような同心円状になるように溝を形成した。なお、レーザー光のスポット径と走査回数は、溝の深さと幅に応じ適宜調整した。例えば幅50μm、深さ70μmの場合は、スポット径を50μmに調整し、走査回数を300回とした。
ここで溝の本数は、図3に示す試験片において樹脂と金属が接触する領域(接合予定面)の面積のうち、溝を形成する凹凸の凹部と凸部の投影面積がそれぞれ同等になるよう、凹部の幅と凸部の幅が等間隔(ハッチング幅が溝の幅Yの2倍)となるように設定した。すなわち、樹脂と金属が接触する領域の外周(直径30mm)の半径15mmと、内周(直径20mm)の半径10mmとの間の5mm幅の中に形成される溝の本数は、概ね5mm÷(幅Y×2)となる。
【0049】
また、溝を形成する凹凸の深さX及び幅Yを、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス社製、「VK−9510」)を用いて測定した。深さX、幅Y、及び比X/Yの測定結果を表1及び表2に示す。
【0050】
これらの金属板をそれぞれ金型に配置し、複合化工程を行った。成形条件は以下の通りである。金属樹脂複合成形品の形状は図3に示す通りである。
[成形条件]
成形機:ソディックTR−40VR(縦型射出成形機)
シリンダー温度:320℃
金型温度:150℃
射出速度:100mm/s
保圧力:49MPa×5秒
【0051】
<評価>
上記の方法で作成した金属樹脂複合成形品について、接合部分の接合強度及び剥離後の破壊形態を評価した。具体的な評価方法は以下の通りである。
[変形]
レーザー照射後の金属板を目視で観察し、反り等の著しい変形が見られるものは×、そうでないものは○として評価した。結果を表1及び表2に示す。
[接合性(気密性)]
接合性の評価は、上記の方法で作製した金属樹脂複合成形体5について、以下の方法により気密性を測定した。図4は、気密試験機Eを用いた気密性評価の方法を示す縦断面図である。気密試験機Eは、気密試験機本体7と気密試験機蓋6とを備える。Oリング5を介して金属樹脂複合成形体試験片2を気密試験機本体7に取り付け、金属樹脂複合成形体試験片2の下部を封止した。その後、気密試験機蓋6を金属樹脂複合成形体試験片2の樹脂部材4上に載せてクランプした。
【0052】
金属樹脂複合成形体試験片2の上に蒸留水10を注ぎ、金属樹脂複合成形体試験片2を蒸留水10中に完全に浸した。ライン9を介して空気を送り込み、気密試験機本体内部7に0.1MPaの圧力を6分間加え、金属板3と樹脂部材4との界面から気泡の漏れがあるか否かを目視で観察した。上記の試験を3回実施し、以下の基準による気密性の評価結果を表1及び表2に示す。
【0053】
○:1回も気泡の漏れが確認されなかった場合、気密性が良好であると評価した。
△:1〜2回で気泡の漏れが確認された場合、気密性が中程度であると評価した。
×:3回とも漏れが確認された場合、気密性が不良であると評価した。
【0054】
[巻き取り性]
フープ成形に用いる場合を想定し、実施例と比較例で用いた各厚さの金属板を、レーザー照射を行う前の状態で20mm×50mmの板状に裁断し、長手方向が円周方向になるように、曲率半径40mmの円柱に巻き付けて10秒間保持した後、保持時に外側になっていた面を下にして定盤上に載置し、歪による反りの発生を目視で確認した。
【0055】
反りが見られものについては、金属板をロール状に巻き取る際に過大な力が必要となるため巻き取りが困難となるか、あるいは歪により強度低下や変形が発生すると考えられることから、著しい反りが見られたものは×、そうでないものは○として評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
表1及び表2に示す通り、本発明の範囲では、変形の少ない状態で樹脂部と金属板との接合強度を顕著に向上させることができる。
図5には、厚さ400μmの金属板を用いた場合について、請求項1の各数値規定を満足する範囲をハッチングした枠で示し、板厚400μmに該当する実施例と比較例を示した。
【符号の説明】
【0059】
Z 気密性試験のための成形品における気密性確保の方向
1 金属板にレーザーで形成された溝
2 金属板が樹脂組成物でインサート成形された試験片
3 レーザー加工された金属板
4 樹脂組成物からなる成形体=樹脂部材
5 Oリング
6 気密試験機蓋
7 気密試験機本体
8 圧力
9 ライン
10 蒸留水
E 気密試験機
a、c、d 接合(気密性)不良発生領域
b 変形発生領域

図1
図2
図3
図4
図5