(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記光取出し面の表面の算術平均粗さRaが0.1μm以上0.4μm以下、かつ、スキューネスRskが0.1以上0.7以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体発光素子。
前記第2工程において、前記光取出し面の表面の算術平均粗さRaが0.1μm以上0.4μm以下、かつ、スキューネスRskが0.1以上0.7以下となるよう粗面化する、請求項6に記載の半導体発光素子の製造方法。
前記粗面化処理工程において、前記光取出し面の表面の算術平均粗さRaが0.1μm以上0.4μm以下、かつ、スキューネスRskが0.1以上0.7以下となるよう粗面化する、請求項8に記載の半導体発光素子の製造方法。
前記光取り出し面を除く第2導電型クラッド層の上面電極形成領域において、前記第2導電型クラッド層上に前記III−V族化合物半導体エッチングストップ層を介して第2導電型の電極を形成する上面電極形成工程をさらに含む、請求項8又は9に記載の半導体発光素子の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、発光素子の効率及び受光素子の感度などの半導体光デバイスの特性のさらなる向上が求められている。発明者ら先に、InAs成長用基板上に成長させたGa及びSbを少なくとも含むGaAsSb系III−V族化合物半導体からなるエッチングストップ層を介してIn及びAsを少なくとも含むInAsSbP系III−V族化合物半導体を成長させ、金属接合層を介して支持基板を接合し、成長用基板を除去する接合型の半導体光デバイスの開発を試みた。これにより従来の非接合型に比べて光出力を増大させることに成功した。しかしながら、この接合型の半導体発光素子では、横軸を波長とし縦軸を発光強度とする発光スペクトルにおいて発光強度の最大値を有する発光中心波長の発光ピーク以外にも、発光ピークが多数存在する(以下、本明細書において「マルチピーク」と言う)ことが、本発明者らにより新たに確認された。ここで、発光ピーク(以下、単に「ピーク」と記載する場合がある。)とは、横軸の波長間隔が15nm以下となるように測定した発光スペクトルにおいて横軸(波長)の変化に対する縦軸(発光強度)の変化の傾きを取った時に、傾きが0となり極大値を取る点をいうものとする。また、上記ピークは、発光中心波長における発光ピークの発光強度に対する相対強度が0.1未満のものは除外する。
【0007】
なお、従来技術による非接合型の半導体発光素子の場合、発光スペクトル中には発光中心波長の発光ピーク以外にはピークが存在しない(発光中心波長の発光ピークのみであり、以下、本明細書において「単一ピーク」と言う)ことが一般的であるが、反射層を有する場合には同様にマルチピークの発生が危惧される。上述したマルチピークの放射光を発光する半導体発光素子では、発光中心波長の発光ピークの発光強度に対する相対強度が0.1以上の発光強度を持つ波長の異なる発光ピークがあるため、このような半導体発光素子をセンサー用途等に用いる場合に、不具合が生ずる危惧がある。
【0008】
そこで本発明は、In及びAsを少なくとも含むInAsSbP系III−V族化合物半導体からなるクラッド層を含む半導体発光素子において、発光スペクトル中のマルチピークを緩和して単一ピークにすることのできる半導体発光素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決する方途について鋭意検討した。発光層から放射された波長3400〜4500nmの赤外光が光取り出し側のクラッド層に入射するとき、クラッド層がInAsである場合、InAsの屈折率は赤外光において約3.5であるため、クラッド層から直接大気(屈折率1)に向けて光が取り出される場合には、界面に斜め入射した光のほとんどは、反射により半導体層の内側に戻ると考えられる。一方、発光層と基板との間に反射層を有する半導体発光素子では、発光層から基板方向に放射された赤外光は反射層により反射され、当該反射による反射光が発光層を経由して上記光取り出し側のクラッド層に入射することとなる。ここで、半導体発光素子における半導体層の総厚みは数μm〜15μm程度であり、赤外光のコヒーレント長の範囲内となり、干渉しやすい。なお、中心発光波長4150nm、半値幅1100nmの光のコヒーレント長さは15.7μmであり、中心発光波長4500nm、半値幅1100nmの光のコヒーレント長さは18.4μmである。こうした理由により、上述した光取り出し側でのクラッド層の界面での反射光と、反射層による反射光とが干渉するために、発光スペクトルにおいてマルチピークが観察されるのではないかと本発明者らは考えた。また、この現象は、クラッド層からInAsよりも屈折率の小さい誘電体からなる保護層を介して大気に向けて光が取り出される場合でも起こる。そこで、クラッド層の光取出し面の表面を粗面化することを本発明者らは着想し、当該粗面化によりマルチピークを無くすことができることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨構成は以下の通りである。
【0011】
(1)基板と、
前記基板上の反射層と、
前記反射層上の、In及びAsを少なくとも含む
InAsxSbyPz系III―V族化合物半導体(ただし、0<x≦1、0≦y<1、0≦z<1、z=1−x−y)からなる第1導電型クラッド層と、
前記第1導電型クラッド層上の、発光中心波長が3400nm以上4500nm以下の活性層と、
前記活性層上の、In及びAsを少なくとも含む
InAsxSbyPz系III―V族化合物半導体(ただし、0<x≦1、0≦y<1、0≦z<1、z=1−x−y)からなる第2導電型クラッド層と、を備え、
前記第2導電型クラッド層を光取出し側とする半導体発光素子であって、
前記第2導電型クラッド層の光取出し面の表面における算術平均粗さRaが0.07μm以上0.7μm以下、かつ、スキューネスRskが正の値であることを特徴とする半導体発光素子。
【0012】
(2)支持基板と、
前記支持基板上の金属接合層と、
前記金属接合層上の反射層と、
前記反射層上の、In及びAsを少なくとも含む
InAsxSbyPz系III―V族化合物半導体(ただし、0<x≦1、0≦y<1、0≦z<1、z=1−x−y)からなる第1導電型クラッド層と、
前記第1導電型クラッド層上の、発光中心波長が3400nm以上4500nm以下の活性層と、
前記活性層上の、In及びAsを少なくとも含む
InAsxSbyPz系III―V族化合物半導体(ただし、0<x≦1、0≦y<1、0≦z<1、z=1−x−y)からなる第2導電型クラッド層と、を備え、
前記第2導電型クラッド層を光取出し側とする半導体発光素子であって、
前記第2導電型クラッド層の光取出し面の表面における算術平均粗さRaが0.07μm以上0.7μm以下、かつ、スキューネスRskが正の値であることを特徴とする半導体発光素子。
【0013】
(3)前記光取出し面から得られる発光スペクトルが単一ピークである、前記(1)又は(2)に記載の半導体発光素子。
【0014】
(4)前記光取出し面の表面の算術平均粗さRaが0.1μm以上0.4μm以下、かつ、スキューネスRskが0.1以上0.7以下である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の半導体発光素子。
【0015】
(5)前記光取出し面上に、保護膜を備える、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の半導体発光素子。
【0016】
(6)基板上に、反射層、In及びAsを少なくとも含む
InAsxSbyPz系III―V族化合物半導体(ただし、0<x≦1、0≦y<1、0≦z<1、z=1−x−y)からなる第1導電型クラッド層、発光中心波長が3400nm以上4500nm以下の活性層、並びにIn及びAsを少なくとも含む
InAsxSbyPz系III―V族化合物半導体(ただし、0<x≦1、0≦y<1、0≦z<1、z=1−x−y)からなる第2導電型クラッド層を順次形成する第1工程と、
前記第2導電型クラッド層の光取出し面の表面における算術平均粗さRaが0.07μm以上0.7μm以下、かつ、スキューネスRskが正の値となるよう粗面化する第2工程と、
を含むことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
【0017】
(7)前記第2工程において、前記光取出し面の表面の算術平均粗さRaが0.1μm以上0.4μm以下、かつ、スキューネスRskが0.1以上0.7以下となるよう粗面化する、前記(6)に記載の半導体発光素子の製造方法。
【0018】
(8)成長用基板上に、Ga及びSbを少なくとも含むGaAsSb系III−V族化合物半導体からなるエッチングストップ層、In及びAsを少なくとも含む
InAsxSbyPz系III―V族化合物半導体(ただし、0<x≦1、0≦y<1、0≦z<1、z=1−x−y)からなる第2導電型クラッド層、発光中心波長が3400nm以上4500nm以下の活性層、並びに、In及びAsを少なくとも含む
InAsxSbyPz系III―V族化合物半導体(ただし、0<x≦1、0≦y<1、0≦z<1、z=1−x−y)からなる第1導電型クラッド層を順次形成する半導体層形成工程と、
前記第1導電型クラッド層上に、前記半導体活性層から放射される光を反射する反射層を形成する反射層形成工程と、
前記反射層を、少なくとも金属接合層を介して支持基板と接合する接合工程と、
前記成長用基板を除去する基板除去工程と、
前記基板除去工程の後、前記第2導電型クラッド層の光取出し面の表面における算術平均粗さRaが0.07μm以上0.7μm以下、かつ、スキューネスRskが正の値となるよう粗面化する粗面化処理工程と、
を含むことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
【0019】
(9)前記粗面化処理工程において、前記光取出し面の表面の算術平均粗さRaが0.1μm以上0.4μm以下、かつ、スキューネスRskが0.1以上0.7以下となるよう粗面化する、前記(8)に記載の半導体発光素子の製造方法。
【0020】
(10)前記光取り出し面を除く第2導電型クラッド層の上面電極形成領域において、前記第2導電型クラッド層上に前記III−V族化合物半導体エッチングストップ層を介して第2導電型の電極を形成する上面電極形成工程をさらに含む、前記(8)又は(9)に記載の半導体発光素子の製造方法。
【0021】
(11)基板上に、反射層、In及びAsを少なくとも含む
InAsxSbyPz系III―V族化合物半導体(ただし、0<x≦1、0≦y<1、0≦z<1、z=1−x−y)からなる第1導電型クラッド層、発光中心波長が3400nm以上4500nm以下の活性層、並びにIn及びAsを少なくとも含む
InAsxSbyPz系III―V族化合物半導体(ただし、0<x≦1、0≦y<1、0≦z<1、z=1−x−y)からなるからなる第2導電型クラッド層を順次形成する第1工程と、
前記第2導電型クラッド層の光取出し面に対して硝酸を用いて
前記第2導電型クラッド層の光取出し面の表面における算術平均粗さRaが0.07μm以上0.7μm以下、かつ、スキューネスRskが正の値となるよう粗面化する第2工程と、を含むことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
【0022】
(12)前記硝酸は、11M〜20M(mol/L)の濃度の硝酸を用いることを特徴とする前記(11)に記載の半導体発光素子の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、In及びAsを少なくとも含むInAsSbP系III−V族化合物半導体からなるクラッド層を含む半導体発光素子において、発光スペクトル中のマルチピークを緩和して単一ピークにすることのできる半導体発光素子及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に従う実施形態の説明に先立ち、以下の点について予め説明する。
【0026】
<組成>
まず、本明細書において、III−V族化合物の組成比を明示せずに単に「AlInGaAsSbP」と表記する場合は、III族元素(Al,In,Gaの合計)と、V族元素(As,Sb,P)との化学組成比が1:1であり、かつ、III族元素であるAl、In及びGaの比率と、V族元素であるAs、Sb及びPの比率とがそれぞれ不定の、任意の化合物を意味するものとする。この場合、III族元素にAl、In及びGaのいずれか1つ又は2つの元素が含まれない場合を含み、また、V族元素にAs、Sb及びPのいずれか1つまたは2つが含まれない場合を含むものとする。ただし、具体的なIII族元素及びV族元素のいずれか一方又は両方を「少なくとも含む」と明示的に記載する場合、記載対象のIII族元素及びV族元素がそれぞれ0%超100%以下で含まれる。例えば、「In及びSbを少なくとも含む」AlInGaAsSbPには、In及びSbがそれぞれ0%超100%以下で含まれる。この場合、In及びSb以外のAl及びGa並びにAs及びPのそれぞれは含まれてもよいし、含まれなくてもよい。また、AlInGaAsSbP「系」III−V族化合物半導体には、任意のドーパントが含まれてもよい。なお、AlInGaAsSbPの各III−V族元素の成分組成比は、フォトルミネッセンス測定及びX線回折測定などによって測定することができる。
【0027】
一方、「AlInGaAsSbP」の表記から具体的なIII族元素又はV族元素を除いて記載する場合には、対象のIII族元素又はV族元素は組成に含まれないものとする。例えば、「InAsSbP」と表記する場合、その組成は一般式:InAs
xSb
yP
z)により表され、Al及びGaは含まれない。なおこの場合、各元素の組成比については以下の関係が成立し、V族元素の組成比の合計が1となる。また、III族元素の組成比の合計も1である。
z=1−x−y,0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1
【0028】
<p型、n型及びドーパント濃度>
本明細書において、電気的にp型として機能する層をp型半導体層(「p型層」と略称する場合がある。)と称し、電気的にn型として機能する層をn型半導体層(「n型層」と略称する場合がある。)と称する。一方、Si、Zn、S、Sn、Mg、Te等の特定の不純物を意図的には添加していない場合は「アンドープ」と言う。アンドープのIII−V族化合物半導体層には、製造過程における不可避的な不純物の混入はあってよい。具体的には、ドーパント濃度が低い(例えば5×10
16atoms/cm
3未満)場合、「アンドープ」であるとして、本明細書では取り扱うものとする。そして、III−V族化合物半導体層には意図的には不純物を添加していないが、原料ガスの分解などに伴う製造過程における不可避的な不純物(O、C、H等)が5×10
16atoms/cm
3以上含まれていたとしてもアンドープであるとする。なお、InAsについてはアンドープでも電気的にn型として機能するため、アンドープまたはn型のInAs層は、共にn型として機能するInAs層である。また、Si、Zn、S、Sn、Mg、Te等の不純物濃度の値は、SIMS分析によるものとする。なお、各半導体層の境界付近においてドーパント濃度の値は大きく変移するため、各層の膜厚方向の中央におけるドーパント濃度の値をドーパント濃度の値とする。
【0029】
<各層の膜厚及び組成>
また、形成される各層の厚み全体は、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡による断面観察により算出できる。さらに、各層の厚みのそれぞれは、透過型電子顕微鏡による成長層の断面観察から算出できる。また、超格子構造のように各層の厚みが小さい場合にはTEM−EDSを用いて厚みを測定することができる。なお、断面図において、所定の層が傾斜面を有する場合、その層の厚みは、当該層の直下層の平坦面からの最大高さを用いるものとする。
【0030】
<表面粗さRa及びスキューネスRsk>
本明細書において用いる表面粗さRaとは、測定距離における算術平均粗さ(μm)を表す。また、スキューネスRskとは、平均線を中心としたときの山部と谷部の対称性を示す値である。Rskがゼロでは平均線に対して上下対称(正規分布)であり、正であれば平均線に対して下側(谷側)に偏っていることを示し、負であれば平均線に対して上側(山側)に偏っていることを示す。表面粗さRa及びスキューネスRskの定義は、ISO 4287−1997に従う。さらに、本明細書において用いる表面粗さSaとは、上記表面粗さRaと同様に算術平均粗さ(μm)を示す値であり、ISO 25178に従う。またさらに、スキューネスSskとは、上記スキューネスRskと同様に平均線を中心としたときの山部と谷部との対称性を示す値であり、ISO 25178に従う。表面粗さRa及びスキューネスRskは、ISO 4287−1997に従う二次元輪郭曲線方式による測定値であるのに対して、表面粗さSa及びスキューネスSskは、ISO 25178に従う三次元表面性状による測定値である。表面粗さRa及びスキューネスRskの測定方法は、触針式の段差計(例えば、Tencor社製の接触式段差計「P−6」)を用いて測定することができる。用いる針の形状は触針先端半径2μmとし、触針圧2mgでスキャン速度2μm/secとし、サンプリング周波数は50Hzとすれば良い。測定距離(基準長さ)は、200μmとする。また、表面粗さSa及びスキューネスSskの測定方法は、非触針式の形状解析レーザ顕微鏡(KEYENCE社製 VK−X1000/1100)を用いて測定することができる。本明細書の実施例(実験例2)における測定条件については、レンズ倍率を150倍とし、画素数を2048×1536とした。
【0031】
<ランダムな粗面>
また、本明細書において「ランダムな粗面」とは、凹凸に周期性がないものをいい、例えば光取出し側の表面について、上記の接触式段差計による測定結果において、周期的に溝が形成された形状が観察され、溝が形成されていない部分の表面粗さRaが0.010μm以下である場合を除くものである。光取出し側が「ランダムな粗面」であると、本発明の効果である単一ピークが面内方向のどの部分においてもより確実に得られ、また、ランダムな粗面の方が周期性のある粗面の形成に比べて粗面形成方法が簡易なため、ランダムな粗面であることがより好ましい。
【0032】
(半導体発光素子100)
図1を参照して、本発明の半導体発光素子の実施形態の一例を説明する。半導体発光素子100は、基板15と、基板15上の反射層75と、反射層75上の、In及びAsを少なくとも含むInAsSbP系III−V族化合物半導体からなる第1導電型クラッド層47と、第1導電型クラッド層47上の、発光中心波長が3400nm以上4500nm以下の活性層45と、活性層45上の、In及びAsを少なくとも含むInAsSbP系III−V族化合物半導体からなる第2導電型クラッド層41と、を備え、第2導電型クラッド層41を光取出し側とする。そして、第2導電型クラッド層41の光取出し面の表面は粗面であって、その算術平均粗さRaが0.07μm以上0.7μm以下、かつ、スキューネスRskが正の値である。
【0033】
各構成の詳細については、
図2〜
図7を参照して説明する半導体発光素子200の製造方法を通じて数字二桁の同一の構成を参照しつつ、詳細を後述する。なお基板15は、半導体発光素子200の製造方法で後述する接合型の技術を用いる場合、支持基板80を適用することができるし、接合法を用いない場合は各半導体層をエピタキシャル成長させるために成長用基板10を適用することができる。反射層75は、上記接合型の技術を用いる場合は金属反射層などの反射層71を用いることができるし、接合法を用いない場合はDBR(distributed Bragg reflector)型の半導体反射層を用いてもよい。なお、半導体発光素子100は第2導電型クラッド層41上に、パッド部及び配線部を含む上面電極91(半導体発光素子200におけるn型電極91に相当)を形成してもよく、さらに支持基板の裏面に裏面電極を形成してもよい(裏面電極は図示せず)。また、第2導電型クラッド層41は、上面電極側にコンタクト層と呼ばれる低抵抗化するための層をさらに含んでいてもよく、本発明においてはクラッド層とコンタクト層とは区別せずに、クラッド層と記すものとする。反射層75が金属反射層の場合は第1導電型クラッド層47においても反射層75側にコンタクト層を含んでいても良い。
【0034】
さて、
図1に示すとおり、半導体発光素子100において、活性層45から放射される光は、第2導電型クラッド層41に向かう光L
1と、第1導電型クラッド層47に向かう光L
2とに大別される。
図1では、L
1とL
2が反射層75により反射された後の光とが外部(主に大気)に放出される第2導電型クラッド層41の表面における上面電極91を除く領域を「光取り出し面」と呼ぶ。すなわち、「光取り出し面」は、
図1に図示されるように、上面電極が形成される面と同じ面(上面)において、光が外部に放出される面をいう。なお、半導体発光素子100の側面からも光は取り出される。しかし、側面からの光取り出しは、マルチピークの発生に対する影響が小さいため、側面は粗面化が行われていても行われていなくてもよい。ただし、発光出力向上の観点では、側面も粗面化が行われていることが好ましい。
【0035】
この半導体発光素子100は、第2導電型クラッド層41の「光取り出し面」が粗面である。そして、光取り出し面の表面の算術平均粗さRaが0.07μm以上0.7μm以下、かつ、スキューネスRskが正の値であり、より好ましくは算術平均粗さRaが0.1μm以上0.4μm以下、かつ、スキューネスRskが0.1以上0.7以下である。また、
図1に示すとおり、第2導電型クラッド層41の表面の平坦部分の上に上面電極91が設けられる。
【0036】
本発明者らの実験によれば、スキューネスRskが正であっても、凹凸の深さが浅く表面粗さRaが0.07μmより小さければ、単一ピークにすることができないことが確認された。そのため、表面粗さRaを0.07μm以上とし、好ましくは0.1μm以上とすることで、単一ピークの光を得ることができる。表面粗さの上限としては0.7μm以下が好ましく、0.4μm以下であることがより好ましい。表面粗さが大きすぎると電流の横方向の広がりに悪影響を及ぼす恐れがあるためである。また、表面粗さRaが0.07μm以上であっても、スキューネスRskが負であり、光取り出し側の頂部に平坦面または平坦に近い部分が多く形成されると、発光スペクトル中のマルチピークを減らし、単一ピークにすることができないことが判明した。そのため、スキューネスRskは正(すなわちRsk>0)であり、0.1≦Rsk≦0.7であることがより好ましい。発光出力を増加させるには表面粗さRaが0.25μm以上であることがさらに好ましい。
【0037】
なお、表面粗さRaの上限は、少なくとも粗面化を行う第2導電型クラッド層の厚さ未満であり、例えば2μmである。発光効率を上げながらマルチピークを減らすのに適したスキューネスRskの上限としては、例えば0.7である。また、上記と同様の理由により、光取出し面の表面の表面粗さSaは、0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。上限としては0.7μm以下であることが好ましい。さらには、光取出し面の表面のスキューネスSskは、−0.5以上が好ましく、0.7以下であることが好ましい。発光出力を増加させるには表面粗さSaが0.25μm以上であることがさらに好ましい。
【0038】
なお、第1導電型クラッド層47の導電型をn型とする場合、第2導電型クラッド層41はp型とする。逆に、第1導電型クラッド層47の導電型をp型とする場合、第2導電型クラッド層41はn型とする。
【0039】
続いて、各構成の詳細を含めて、本発明に従う半導体発光素子の製造方法の一例を説明する。本発明による半導体発光素子の製造方法は、後記の半導体層形成工程と、反射層形成工程と、接合工程と、基板除去工程と、粗面化処理工程と、を少なくとも有する。
【0040】
図2のS10〜S30を参照すると、上記半導体層形成工程において、成長用基板10上に、Ga及びSbを少なくとも含むGaAsSb系III−V族化合物半導体からなるエッチングストップ層30と、In及びAsを少なくとも含むInAsSbP系III−V族化合物半導体からなる第2導電型クラッド層41と、発光中心波長が3400nm以上4500nm以下の活性層45並びに、In及びAsを少なくとも含むInAsSbP系III−V族化合物半導体からなる第1導電型クラッド層47を順次形成する。
図4のS70を参照すると、上記反射層形成工程において、第1導電型クラッド層47上に、活性層45から放射される光を反射する反射層71を形成する。
図5のS80を参照すると、上記接合工程において、反射層71を、少なくとも金属接合層79を介して支持基板80と接合する。
図5のS90を参照すると、上記基板除去工程において、前記成長用基板を除去する。そして、
図7のS120を参照すると、上記粗面化処理工程において、基板除去工程の後、第2導電型クラッド層41の光取出し面の表面における算術平均粗さRaが0.07μm以上0.7μm以下、かつ、スキューネスRskが正の値なるよう粗面化する。
【0041】
本製造方法の実施形態の例では、さらに初期バッファ層20を形成してもよく(
図2のS20を参照)、配電部60を形成してもよく(
図3のS40、S50及び
図4のS60を参照)、初期バッファ層20を除去してもよく(
図6のS100参照)、エッチングストップ層30を除去してもよく(同図のS100を参照)、電極95を形成してもよい(
図6のS110参照)。これらは任意工程である。以下、上記任意工程を含めて、各工程及び各構成を順次説明する。
【0042】
<半導体層形成工程>
図2のS10〜S30を参照する。半導体層形成工程では、任意に初期バッファ層20を成長用基板10上に形成してもよく、さらに、成長用基板10上に、必要に応じて初期バッファ層20を介してエッチングストップ層30を形成する(S10、S20)。そして、エッチングストップ層30上に、n及びAsを少なくとも含むInAsSbP系III−V族化合物半導体からなる第2導電型クラッド層41、発光中心波長が3400nm以上4500nm以下の活性層45、並びに、In及びAsを少なくとも含むInAsSbP系III−V族化合物半導体からなる第1導電型クラッド層47を順次形成する。以下では、第2導電型クラッド層41、活性層45及び第1導電型クラッド層47を含む半導体積層体を「半導体積層体40」と総称し、説明の便宜状、さらに第2導電型クラッド層41を「n型クラッド層41」、第1導電型クラッド層47を「p型クラッド層47」と略記することがある。
【0043】
<<成長用基板>>
図2のS10を参照する。成長用基板10はエッチングストップ層30の半導体組成と格子整合するように適宜得選択すればよい。例えば、一般的に入手可能なn型InAs基板、アンドープのInAs基板、p型InAs基板のいずれかを成長用基板10に用いることもできる。
【0044】
<<エッチングストップ層>>
図2のS20〜S30を参照する。成長用基板10上に、Ga及びSbを少なくとも含むGaAsSb系III−V族化合物半導体からなるエッチングストップ層30を形成する。なお、先に述べたとおり、エッチングストップ層30の形成に先立ち、成長用基板10の表面に初期バッファ層20を形成してもよい(
図2のS20)。この場合、エッチングストップ層30を初期バッファ層20上に形成する。
【0045】
−エッチングストップ層の組成範囲−
エッチングストップ層30のGaAsSb系III−V族化合物半導体の組成範囲は、As組成比をx
Eとすると、GaAs
xESb
1-xEと表される。そして、As組成x
Eは、0≦x
E≦0.4であることが好ましい。As組成x
Eが0.4を超えると後述のエッチング液でもエッチングされる恐れがあり、As組成比x
Eがこの範囲であれば、エッチングストップ層30は後述するエッチング液への不溶性を具えつつ、成長用基板10上にエピタキシャル成長可能である。また、GaAsSb系III−V族化合物半導体がGa並びにAs及びSbを少なくとも含むことも好ましい。すなわち、As組成比x
Eが0<x
Eであることもより好ましく、さらに好ましくは0.02≦x
E≦0.13である。As組成比x
Eがこの範囲であると、成長用基板との格子定数差を低減できる。
【0046】
−エッチングストップ層の層構造−
なお、エッチングストップ層30は単層構造を備えてもよいし、複数層構造を備えてもよい。さらに、エッチングストップ層30が超格子積層体を備え、この超格子積層体はGa並びにAs及びSbを含む層を備えることも好ましい。
図2において、エッチングストップ層30は、第1の層30a及び第2の層30bを順次繰り返し積層してなる超格子積層体を備える。例えば単層で成長用基板と格子整合の組成を成長することが困難な場合でも、臨界膜厚以下の厚みで成長用基板に対して格子定数の大きな組成と格子定数の小さな組成の超格子構造とすることで歪みを補償することができる。超格子構造のエッチングストップ層30全体の平均組成の格子定数を成長用基板の格子定数に近づけることで、結晶性が良好で十分な膜厚のエッチングストップ層を得ることができる。また、第1の層30aの成分組成をGaAs
xE1Sb
1-xE1と表す場合、0.08≦x
E1≦0.80とすることができ、0.10≦x
E1≦0.40とすることが好ましい。また、第2の層30bの成分組成をGaAs
xE2Sb
1-xE2と表す場合、0≦x
E2≦0.08とすることができ、0≦x
E2≦0.05とすることが好ましい。このとき、第1の層30aの膜厚をt
1、第2の層30bの膜厚をt
2とあらわす場合、その平均組成x
E3は(x
E1×t
1+x
E2×t
2)/(t
1+t
2)とあらわすことができる。この平均組成x
E3は0≦x
E3≦0.4とすることができ、より好ましくは0.02≦x
E3≦0.13である。
【0047】
−エッチングストップ層の膜厚−
エッチングストップ層30の全体の膜厚は制限されないが、例えば10nm〜200nmとすることができる。エッチングストップ層30が超格子積層体を備える場合、各層の膜厚を0.05nm〜10.0nmとすることができ、両者の組数を10〜200組とすることができる。
【0048】
−初期バッファ層−
前述のとおり、成長用基板10の表面に初期バッファ層20を形成してもよい。成長用基板10上に直接エッチングストップ層30を形成する場合、成長用基板10の基板表面の酸化膜及び汚染などの影響を防止することができるためである。例えば、InAs基板からなる成長用基板10上にInAsからなる初期バッファ層20を成長することで、エッチングストップ層30と初期バッファ層20との界面の清浄化が期待できる。これにより、エピタキシャル成長させる半導体層の結晶性の向上や成長用基板を除去した後の表面が安定する効果も期待できる。
【0049】
−成長法−
各半導体層は、エピタキシャル成長により形成することができ、例えば、有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法や分子線エピタキシ(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、スパッタ法などの公知の薄膜成長方法により形成することができる。例えば、In源としてトリメチルインジウム(TMIn)、Ga源としてトリメチルガリウム(TMGa)やトリエチルガリウム(TEGa)、As源としてアルシン(AsH
3)やターシャルブチルアルシン(TBAs)、Sb源としてトリメチルアンチモン(TMSb)、トリエチルアンチモン(TESb)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)、P源としてホスフィン(PH
3)やターシャルブチルホスフィン(TBP)を所定の混合比で用い、これらの原料ガスを、キャリアガスを用いつつ気相成長させることにより、成長時間に応じてInGaAsSbP層を所望の厚みで形成することができる。なお、エピタキシャル成長させる他の半導体層についても、同様の方法により形成することができる。各層をp型又はn型にドーパントする場合は、所望に応じたドーパント源のガスをさらに用いればよい。なお、InAsはアンドープでも原料由来のTeが1×10
16atoms/cm
3程度混入することがあるためにn型半導体となる場合があり、この場合はn型ドーパントを意図的にドーピングせず、アンドープでもn型InAs層を形成することが可能である。以下の各半導体層を形成する工程においても同様である。
【0050】
−半導体積層体の形成−
図2のS30を参照する。先に述べたn型クラッド層41、活性層45及びp型クラッド層47を含む半導体積層体40を形成する。
【0051】
<<半導体積層体>>
半導体積層体40は、活性層45を、n型クラッド層41及びp型クラッド層47で挟持したダブルヘテロ(DH)構造とすることができる。この場合、活性層45を構成するInAsSbP系III−V族化合物半導体がIn並びにAs及びSbを含むことが好ましい。また、活性層45は、結晶欠陥抑制による光出力向上のため、多重量子井戸(MQW)構造を具えることも好ましい。この多重量子井戸構造を具える活性層45は、井戸層45w及び障壁層45bを交互に繰り返した構造により形成することができる。そして、井戸層45wをIn並びにAs及びSbを少なくとも含むInAsSbとすることができる。また、障壁層45bを、井戸層45wよりもバンドギャップの大きなInAsSbPとすることができる。活性層45の発光中心波長を3400nm以上4500nm以下とし、これは活性層45の組成変更により調整することができる。
【0052】
−活性層の組成−
例えば、井戸層45wの成分組成をInAs
xwSb
1-xwと表す場合、0.7≦xw≦1.0とすることができ、0.8≦xw≦1.0とすることが好ましい。また、障壁層45bの成分組成をInAs
xbP
1-xbと表す場合、0.5≦xb≦1とすることができ、0.8≦xb≦1とすることが好ましい。なお、量子井戸構造の場合であればInAsP系III−V族化合物の組成変更に加えて井戸層45wと障壁層45bの組成差を調整して、井戸層にひずみを加えることも好ましい。
【0053】
−クラッド層の組成−
n型クラッド層41及びp型クラッド層47は、In及びAsを少なくとも含むInAsSbP系III−V族化合物半導体からなる層であって、InAsP系III−V族化合物半導体であることが好ましい。n型クラッド層41及びp型クラッド層47にGaを含めないことにより、エッチングストップ層30を除去する場合に各クラッド層のエッチングを確実に阻止することができる。また、n型クラッド層41としてはn型のInAsを用いることが特に好ましく、p型クラッド層47としてはp型のInAsを用いることが特に好ましい。
【0054】
−半導体積層体の膜厚−
半導体積層体40の全体の膜厚は制限されないが、例えば2μm〜10μmとすることができる。また、n型クラッド層41の膜厚も制限されないが、例えば0.5μm〜5μmとすることができる。さらに、活性層45の膜厚も制限されないが、例えば3nm〜2000nmとすることができる。また、p型クラッド層47の膜厚も制限されないが、例えば0.1μm〜5μmとすることができる。活性層45が量子井戸構造を具える場合、井戸層45wの膜厚を3nm〜20nmとすることができ、障壁層45bの厚みを5〜50nmとすることができ、両者の組数を1〜50.5組とすることができる。なお、まず障壁層45bを形成し、次いで、井戸層45w及び障壁層45b(膜厚:8nm)を交互にN組(Nは整数)積層し、合計40.5組形成することも好ましい。この場合、量子井戸構造の両端が障壁層45bとなる。
【0055】
−半導体積層体における他の半導体層−
また、図示しないものの、半導体積層体40はn型クラッド層41及びp型クラッド層47の、活性層45と反対側(すなわち後述する電極を形成する側)に、各クラッド層よりもドーパント濃度が高いコンタクト層をさらに備えることも好ましい。また、半導体積層体40は、n型クラッド層41及び活性層45の間と、活性層45及びp型クラッド層47の間とに、それぞれi型のスペーサ層を備えてもよい。また、活性層45とpクラッド層47の間に、p型の電子ブロック層を備えても良い。
【0056】
<配電部形成工程>
上述の半導体層形成工程の後であって、詳細を後述する反射層形成工程に先立ち、p型クラッド層47上(コンタクト層をさらに設ける場合はコンタクト層上)に、貫通孔61Aを具える透明絶縁層61及び貫通孔61Aに設けられたオーミック電極部65を備える配電部60を形成する配電部形成工程を任意に行ってもよい。配電部60を形成する具体的手法は特に制限されず、工程の順番も種々に選択できる。
図3のS40〜S50及び
図4のS60を参照して、配電部60を形成するための具体的な態様を説明する。
【0057】
まず、透明絶縁層61を半導体積層体40上に成膜すればよい(
図3のS40)。成膜法としては、プラズマCVD法及びスパッタ法などの、公知の手法が適用可能である。その後、透明絶縁層61上にフォトマスクを用いてレジストパターンを形成する。次いで、レジストパターンを利用してエッチングにより透明絶縁層61の一部を除去し、貫通孔61Aを形成する(
図3のS50)。貫通孔61Aが設けられることにより、半導体積層体40の最表面の一部領域は露出する。その後、オーミック電極部65を成膜し、次いでレジストパターンを利用してリフトオフすれば、配電部60を形成することができる(
図4のS60)。配電部60には、透明絶縁層61及びオーミック電極部65が並列して配設されることになる。なお、ここで透明絶縁層61をエッチングする際のレジストパターンと、オーミック電極部65をリフトオフする際のレジストパターンは同一のものを用いてもよいし、改めてパターニングしなおしてもよい。なお、図面では簡略化のためオーミック電極部は貫通孔61Aを充填するよう図示しているものの、これに限定されない。図示しないが、レジストパターンの組合せやレジストパターンを利用して、エッチングする際のレジストパターン被覆部へのエッチングが広がることにより、透明絶縁層61とオーミック電極部との間に間隙が生じてもよい。
【0058】
オーミック電極部65は、所定のパターンで島状に分散させて形成することができる。符号について後述の
図6のS110を参照すると、オーミック電極部65の直上方向にn型電極91が配置されないよう位置合わせしてオーミック電極部65を配置することも好ましい。オーミック電極部65として、例えばAu、AuZn、AuBe、AuTiなどを用いることができ、これらの積層構造を用いることも好ましい。例えば、Ti/Auをオーミック電極部65とすることができる。オーミック電極部65の膜厚(又は合計膜厚)は制限されないが、例えば300〜1300nm、より好ましくは350nm〜800nmとすることができる。
【0059】
なお、図示しないが、透明絶縁層61の膜厚H
1と、オーミック電極部の65膜厚H
2の関係をH
1≧H
2とすることができ、H
1>H
2としてもよい。この条件の下、透明絶縁層61の膜厚を、例えば360nm〜1600nm、より好ましくは410nm〜1100nmとすることができる。また、透明絶縁層61の膜厚H
1と、オーミック電極部65の膜厚H
2との差H
1−H
2を10nm以上100nm以下とすることも好ましい。また、上記のようにコンタクト層をさらに設ける場合には、コンタクト層が貫通孔61Aにのみ残存するように形成してもよく、その場合にはコンタクト層とオーミック電極部の合計厚さを膜厚H
2としてもよい。
【0060】
さらに、透明絶縁層61としては、SiO
2、SiN、ITO、Al
2O
3及びAlNなどを用いることができ、特に、透明絶縁層61がSiO
2からなることが好ましい。SiO
2は、BHF等によるエッチング加工が容易だからである。
【0061】
<反射層形成工程>
S70に示すように、p型クラッド層47上(配電部60を設ける場合は配電部60上)に反射層71を形成する。反射層71はDBR構造を用いてもよく、反射性の金属から構成してもよい。反射層71が金属材料からなる場合、その組成においてAuを50質量%以上有することが好ましい。より好ましくはAuが80質量%以上である。反射層71は、複数層の金属層を含むことができるが、反射層71を構成する金属には、Auの他、Al、Pt、Ti、Agなどを用いることができる。例えば、反射層71はAuのみからなる単一層であってもよいし、反射層71にAu金属層が2層以上含まれていてもよい。後続の接合工程における接合を確実に行うため、反射層71の最表層(半導体積層体40と反対側の面)を、Au金属層とすることが好ましい。
【0062】
図4のS70を参照すると、例えば、配電部60(上記間隙が設けられている場合は間隙を含む)上に、Al、Au、Pt、Auの順に各金属層を成膜することで、反射層71を形成することができる。反射層71におけるAu金属層の1層の厚みを、例えば400nm〜2000nmとすることができ、Au以外の金属からなる金属層の厚みを、例えば5nm〜200nmとすることができる。蒸着法などの一般的な手法を用いることにより、反射層71を成膜して形成することができる。
【0063】
<接合工程>
図5のS80を参照する。接合工程において、先に形成した反射層71を、少なくとも金属接合層79を介して支持基板80と接合する。この接合工程に先立ち、支持基板80の表面には、予め金属接合層79を、スパッタ法や蒸着法などにより形成しておけばよい。例えば、この金属接合層79と、反射層71とを対向配置して貼り合せ、250℃〜500℃程度の温度で加熱圧縮接合を行うことで、両者の接合を行うことができる。
【0064】
<<金属接合層>>
Ti、Pt、Auなどの金属や、金と共晶合金を形成する金属(Snなど)を用いて金属接合層79を形成することができ、これらを積層して金属接合層79を形成することが好ましい。例えば、支持基板80の表面から順に、厚み400nm〜800nmのTi、厚み5nm〜20nmのPt、厚み700〜1200nmのAuを積層して金属接合層79を形成することができる。なお、反射層71と金属接合層79とで接合する場合、確実な接合を行うため、金属接合層79の最表層をAu金属層とし、反射層71の最表層もAuとして、Au−Au拡散によるAu同士での接合を行うことが好ましい。
【0065】
<<支持基板>>
支持基板80は、成長用基板10とは異種の基板であればよく、SiやGeなどの半導体基板やMoやCu−Wなど金属基板のほか、AlNなどのセラミックス基板がベースとなったサブマウント基板を用いることもできる。上述した接合法を用いるため、支持基板80は、形成する各半導体層と格子不整合してもよい。また、支持基板80は、用途によっては絶縁性でもよいものの、導電性基板であることが好ましい。加工性や価格の面からSi基板を支持基板80に用いることが好ましい。Si基板を用いることで、支持基板80の厚みを、従来よりも大幅に小さくすることもでき、種々の半導体デバイスとの組み合わせた実装にも適している。また、Si基板はInAs基板に比べて放熱性の点でも有利である。
【0066】
<基板除去工程>
図5のS90を参照する。基板除去工程において、成長用基板10を除去する。なお、ここで言う「除去」とは、成長用基板10の「完全除去」に限られない。本工程の「除去」後にエッチングストップ層30が露出し、エッチングストップ層30とともに成長用基板10を容易に除去できる程度であれば、成長用基板10の一部残存は許容される。成長用基板10としてInAs基板を用いる場合、エッチングストップ層30を利用して成長用基板10を除去するためには、成長用基板10を濃塩酸のみでエッチングしてもよいし、エッチングストップ層30が露出する前の段階では、濃塩酸以外のエッチング液を使用することもできる。例えば硫酸−過酸化水素混合液及び塩酸−過酸化水素混合液などを用いても、InAsをエッチングすることは可能である。しかしながら、これらの混合液からなるエッチング液はエッチングストップ層30までもエッチングする。そのため、上記混合液のみではエッチングを所定の位置で止めることが困難である。したがって、成長用基板10を除去する工程において、エッチングストップ層30を露出させる最終段階では濃塩酸のみでエッチングすることが好ましい。また、同様にウェットエッチング以外の方法、例えばドライエッチングや研削などの機械加工でInAsの一部を除去してもよい。InAs基板は、8M以上の濃塩酸(例えば12Mの濃塩酸)を用いてウェットエッチングにより最終的に除去することができ、少なくともエッチングストップ層30によってエッチングを終了させることができる。なお、エッチングストップ層30はGaAsSb系III−V族化合物半導体であるため、濃塩酸では除去されない。例えばアンモニア−過酸化水素混合液を用いてウェットエッチングによりエッチングストップ層30を除去することができる。
【0067】
−エッチング条件−
上記のとおり、成長用基板10がInAs基板である場合、8M以上の濃塩酸(例えば12Mの濃塩酸)を用いてこれをウェットエッチングできる。しかし、そのエッチング速度は遅く、生産性を考慮すると、以下のエッチング条件を採用することが好ましい。例えば、12Mの濃塩酸からなるエッチング液の液温を35℃以上に保持することでエッチングレートを上げ、短時間でInAs基板を除去することは、生産性の点から好ましい。また、エッチングレートが速く、かつ異方性が無く平坦にエッチングできるエッチング液(例えば硫酸−過酸化水素混合液)を使用してInAs基板を途中まで除去した後、エッチングストップ層30を露出させる最終段階でエッチング選択性のある濃塩酸によってInAs基板を完全に除去することも好ましい。
【0068】
−初期バッファ層除去工程及びエッチングストップ層除去工程−
なお、
図6のS100を参照すると、初期バッファ層20を設ける場合は、その半導体組成に応じたエッチング条件を用いて初期バッファ層20を除去することができる。初期バッファ層20がInAsの場合は、成長用基板10とともに除去される。次いで、エッチングストップ層30を除去してもよい。
【0069】
<粗面化処理工程>
粗面化処理工程では、n型クラッド層41の光取出し面の表面における算術平均粗さRaが0.07μm以上0.7μm以下、かつ、スキューネスRskが正の値となるように粗面化する。なお、当該光取出し面の表面の凹凸パターンがランダムな粗面となるよう粗面化してもよい。
図6のS110及び
図7のS120を参照しつつ、粗面化処理工程を説明する。
【0070】
まず、n型クラッド層41上にフォトレジストなどを形成しつつ、スパッタ法、電子ビーム蒸着法、抵抗加熱法などによりn型電極91を形成すると、このn型電極91をn型クラッド層41の粗面化を行うためのマスクとして利用することができる。n型クラッド層41の表面のうち、n型電極91を形成した部分以外がn型クラッド層41の光取出し面となるため、当該光取出し面をエッチングするなどして粗面化する。使用するエッチング液には硝酸を使用することが好ましい。粗面化処理に使用する硝酸としては、11M〜20M(mol/L)の濃度の硝酸を使用することが好ましく、12M〜16M(mol/L)の濃度の硝酸を使用することがより好ましい。11M未満の濃度の硝酸では、エッチング速度が速くエッチング面が平坦に近くなる恐れがあり、21M以上の濃度の濃硝酸では、エッチング速度が遅くなりすぎて粗面化に時間がかかる恐れがあるためである。また、硝酸の液温は5℃〜30℃の範囲内の温度とすることが好ましい。エッチング時間は、濃度や液温によって適切なエッチング時間を選択すればよく、例えばウエハ全体を5秒〜60秒間浸漬することで、n型クラッド層41の粗面化を行うことができる。粗面化の程度は、エッチング液の保持温度及び濃度を調整して、上記条件を満足するよう調整すればよい。なお、
図7のS120ではn型クラッド層41の上面のみに粗面化した模式図を図示しているが、半導体積層体の一部(例えばダイシング予定位置)をエッチング除去または切削する工程を粗面化処理の前に追加することにより、n型クラッド層41の側面も粗面化することが好ましい。こうして、半導体発光素子200を製造することができる。なお、粗面化処理を行うにあたり、エッチング液に浸ける前に、一時的にn型電極91を被覆する保護膜を形成しても良い。n型電極91を被覆する保護膜としては、一時的な形成と除去が容易なレジストなどを使用することができ、n型電極91の上面と側面とを被覆する最小限の面積で形成することが好ましい。粗面化処理においてn型クラッド層41とn型電極91と間の接合部分に対するエッチング量が大きいと、n型電極91が剥離する恐れがあるため、一時的に保護膜を形成することは、Raが大きい場合のn型電極91の剥離予防に効果がある。
【0071】
こうして製造された半導体発光素子200は、支持基板80と、支持基板80上の金属接合層79と、金属接合層79上の反射層71と、反射層71上のp型クラッド層47と、p型クラッド層47上の活性層45と、活性層45上のn型クラッド層41と、を備えn型クラッド層41を光取出し側とする。そして、n型クラッド層41の光取出し面の表面における算術平均粗さRaが0.07μm以上0.7μm以下、かつ、スキューネスRskが正の値である。
【0072】
なお、この粗面化処理工程において、本発明効果を確実に得るために、光取出し面の表面の算術平均粗さRaが0.1μm以上0.4μm以下、かつ、スキューネスRskが0.1以上0.7以下となるよう粗面化することも好ましい。
【0073】
また、
図7のS120に図示したとおり、支持基板80の裏面にp型電極95を設けてもよい。p型電極95の形成は粗面化処理の前後いずれでもよい。
【0074】
<<保護膜形成工程>>
また、図示しないが、粗面化処理工程の後、n型クラッド層41の光取出し面上に、保護膜を設けて、半導体発光素子を得てもよい。保護膜は、プラズマCVD法及びスパッタ法などの、公知の手法を適用することが可能である。保護膜はSiO
2、SiN、ITO及びAlNなどを用いることができる。保護膜は、n型クラッド層41と、空気間の屈折率差を抑制して、光取出しを高める効果を有するためである。なお、半導体積層体40の側面を保護する保護膜をさらに設けてもよい。
【0075】
また、図示しないが、エッチングストップ層30をコンタクト層として利用し、n型クラッド層41と、n型電極91との間にエッチングストップ層30を残すことも好ましい形態である。
【0076】
なお、上述の半導体発光素子200の製造方法の例では、説明の便宜のため、第2導電型クラッド層41を「n型クラッド層41」、第1導電型クラッド層47を「p型クラッド層47」と記載したが、成長用基板10上に形成される各半導体層の導電型をn型/p型で逆転可能であることは、当然に理解される。
【0077】
また、上述の製造方法の例では、接合型の半導体発光素子200の製造方法を説明してきたが、本発明による粗面化条件による効果は、非接合型の半導体発光素子にも適用可能である。非接合型について、先に説明した
図1の符号を参照すると、本発明の他の例に従う半導体発光素子の製造方法は、基板15上に、DBR構造をもつ反射層75、In及びAsを少なくとも含むInAsSbP系III−V族化合物半導体からなる第1導電型クラッド層47、発光中心波長が3400nm以上4500nm以下の活性層40、並びにIn及びAsを少なくとも含むInAsSbP系III−V族化合物半導体からなるからなる第2導電型クラッド層41を順次形成する第1工程と、前記第2導電型クラッド層41の光取出し面の表面における算術平均粗さRaが0.07μm以上0.7μm以下、かつ、スキューネスRskが正の値となるよう粗面化する第2工程と、を含む。また、前記表面の凹凸パターンがランダムな粗面となるよう粗面化することも好ましい。本発明効果を確実に得るため、この第2工程において、前記光取出し面の表面の算術平均粗さRaが0.1μm以上0.4μm以下、かつ、スキューネスRskが0.1以上0.7以下となるよう粗面化することが好ましい。なお、接合型と非接合型とを比較すると、接合型の方が発光効率を大きくすることができる。
【0078】
さらにまた、非接合型について、上述の説明と同様に
図1の符号を参照すると、本発明の他の例に従う半導体発光素子の製造方法は、基板15上に、DBR構造をもつ反射層75、In及びAsを少なくとも含むInAsSbP系III−V族化合物半導体からなる第1導電型クラッド層47、発光中心波長が3400nm以上4500nm以下の活性層40、並びにIn及びAsを少なくとも含むInAsSbP系III−V族化合物半導体からなるからなる第2導電型クラッド層41を順次形成する第1工程と、前記第2導電型クラッド層41の光取出し面に対して硝酸を用いて粗面化する第2工程と、を含む。さらに、本発明効果を確実に得るため、この第2工程において、11M〜20M(mol/L)の濃度の硝酸を用いて粗面化することが好ましい。第1工程及び第2工程の詳細については先に説明した各工程を適宜適用することができるため、重複する説明を省略する。
【0079】
InAsよりも短波長な発光素子に用いられるGaAs及びAlGaAsに対して硝酸を使用して粗面化した場合、スキューネスRskが負の値の粗面となる。Al及びGaを含まないInAsSbP及びInAsに対して粗面化処理を行う場合に、どのようなエッチング液をどのような濃度で使用すればよいかは公知でなかった。本発明者らは上述した第2導電型クラッド層の粗面条件(表面粗さRa及びスキューネスRsk)を鋭意検討するなかで、上述した濃度の硝酸を用いることにより、発光スペクトル中のマルチピークを緩和して単一ピークとできることを知見した。
【実施例】
【0080】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0081】
(実施例1)
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
図2〜
図7に示した接合型の半導体発光素子の製造方法のフローチャートに従って、実施例1に係る半導体発光素子を作製した。具体的には以下のとおりである。
【0082】
まず、アンドープのInAs基板(基板厚:475μm)の(100)面上に、アンドープのInAs層(初期バッファ層)を100nm形成した。次に、アンドープのGaSb層(膜厚0.9nm)とGaAs
0.34Sb
0.66層(膜厚0.1nm)を100ペア積層した超格子積層体(エッチングストップ層)を形成した。次いで、超格子積層体上に、アンドープのn型InAsクラッド層(膜厚3μm)、主発光波長4100nmの量子井戸構造の活性層(合計膜厚1.6μm)、Znドープのp型AlInAs電子ブロック層(膜厚:15nm)、Znドープのp型InAs層クラッド層(膜厚:1μm)をMOCVD法により順次形成した。なお、量子井戸構造の活性層の形成にあたり、InAs
0.99P
0.01障壁層(膜厚:30nm)形成後に、InAs
0.85Sb
0.15井戸層(膜厚:10nm)及びInAs
0.15P
0.85障壁層(膜厚:30nm)の順に40層ずつ交互に積層し、最初の障壁層を含めて40.5ペアとした。なお、実施例1においてアンドープで成長させたInAsクラッド層はTeを1×10
16atoms/cm
3含んでおり、n型であったので上記のとおり「n型InAsクラッド層」と記載し、n型クラッド層とも記載する。
【0083】
次に、プラズマCVD法によりp型InAsクラッド層上の全面にSiO
2からなる透明絶縁層(膜厚:550nm)を形成した。その上に平面視してn型電極の電極パターン(
図11(A)参照)と互い違いになるようパターンをレジストにより形成し、BHFによるウェットエッチングでSiO
2を一部除去して貫通孔を形成し、p型InAsクラッド層を露出させた。次いで、この貫通孔内にp型オーミック電極部(Ti/Au、合計厚み:540nm)を蒸着し、レジストパターンをリフトオフすることで透明絶縁層とp型オーミック電極部を並列に形成して、配電部(電流拡散層として機能する)を形成した。
【0084】
次に、配電部上の全面に、金属反射層(Al/Au/Pt/Au)を蒸着法により形成した。金属反射層の各金属層の厚みは、順に10nm、650nm、100nm、900nmである。
【0085】
一方、支持基板となる導電性Si基板(基板厚:200μm)上に、金属接合層(Ti/Pt/Au)を形成した。金属接合層の各金属層の厚みは、順に650nm、20nm、900nmである。
【0086】
これら金属反射層及び金属接合層を対向配置して、300℃で加熱圧縮接合を行った。そして、ビーカーに入れた濃度12Mの濃塩酸(関東化学株式会社製)の中にウエハ全体を沈め、少なくともInAs基板、初期バッファ層及びエッチングストップ層の部分が濃塩酸に浸かるようにして6時間浸漬することにより、InAs基板及び初期バッファ層を除去してGaSb層とGaAs
0.34Sb
0.66層からなる超格子積層体(エッチングストップ層)を露出させた。次いで、純水により洗浄し乾燥させた後、この超格子積層体(エッチングストップ層)をアンモニア−過酸化水素混合液を用いてウェットエッチングして除去し、n型InAsクラッド層を露出させた。
【0087】
次に、n型InAsクラッド層上に、n型電極(Ti(膜厚:150nm)/Au(膜厚:1250nm))を、レジストパターン形成、n型電極の蒸着、レジストパターンのリフトオフによりパターンで形成した。
図11(A)に、後記粗面化処理後のn型電極の写真を示す。
【0088】
そして、Si基板の裏面側に裏面電極(Ti(厚み:10nm)/Pt(厚み:50nm)/Au(厚み:200nm))を形成し、300℃で1分間熱処理することで合金化を行った。その後、8℃に保った13M硝酸(関東化学株式会社製)溶液中にウエハ全体を5秒間浸漬し、最表面のn型InAsクラッド層の粗面化を行った。その後、アンモニア水中に1分間浸漬した後に、純水によって2分以上洗浄を行った。
【0089】
最後に、ダイシングによるチップ個片化を行って、実施例1に係る半導体発光素子を作製した。なお、チップサイズは500μm×500μmである。
図11(A)に、n型電極及び粗面化後のn型InAsクラッド層表面を撮影した写真を示す。
【0090】
(実施例2)
合金化後の粗面化処理において硝酸温度を7℃としたこと以外は実施例1と同様に実施し、実施例2に係る半導体発光素子を作製した。
【0091】
(実施例3)
合金化後の粗面化処理において硝酸温度を10℃に変更した。さらに、粗面化処理前に、n型電極を覆うようにレジストパターンを形成して電極を保護し、粗面化処理での洗浄後に電極を保護していたレジストを除去する工程を追加した。これら以外は実施例1と同様に実施し、実施例3に係る半導体発光素子を作製した。
【0092】
(実施例4)
合金化後の粗面化処理において硝酸温度を30℃に変更した。さらに、粗面化処理前に、n型電極を覆うようにレジストパターンを形成して電極を保護し、粗面化処理での洗浄後に電極を保護していたレジストを除去する工程を追加した。これら以外は実施例1と同様に実施し、実施例4に係る半導体発光素子を作製した。
【0093】
(比較例1)
n型InAsクラッド層表面に粗面化処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る半導体発光素子を作製した。
図11(B)に、n型電極及びn型InAsクラッド層表面を撮影した写真を示す。
【0094】
(比較例2)
以下に説明する粗面化処理を行った以外は、実施例1と同様にして比較例2に係る半導体発光素子を作製した。比較例2は、特開2018−101675号公報を参照し、n型InAsクラッド層の表面に凹凸パターンを作成したものである。
【0095】
比較例2では合金化処理後に、n型InAsクラッド層表面にポジ型のフォトレジストによる規則的なパターン形成を行った。続いて、リン酸と過酸化水素水の混合液系のエッチング液(リン酸:過酸化水素酸=1:1)を用いて1分間揺動し、n型InAsクラッド層の一部をエッチングした。この結果、凹凸パターンが形成された。
図11(C)に、n型電極及び粗面化後のn型InAsクラッド層表面を撮影した写真を示す。
【0096】
<粗面の粗さ測定>
実施例1〜4及び比較例1、2における粗面化処理後(ただし、比較例1においては粗面化処理なし)のチップ(ダイシング後のウェハ)について、Tencor社製の接触式段差計「P−6」を用いて、n型クラッド層表面の粗面形状の測定を行った。用いる針の形状は触針先端半径2μmとし、触針圧2mgでスキャン速度2μm/secとし、サンプリング周波数は50Hzとした。測定距離(基準長さ)は、200μmとした。表面粗さRaの値とスキューネスRskの値は、当該段差計により自動的に算出される。
【0097】
代表例として、実施例1、2及び比較例2における段差計のデータを
図8(A)〜(C)にそれぞれ示す。
【0098】
実施例1〜2では、いずれもランダムな形状の凹凸が形成され、山も谷も尖っているのに対し、比較例2ではパターン形成を行っているために、凹凸のピッチが揃っており、凹部の谷も深い。なお、比較例1では粗面化処理していないので平坦である。段差計のデータ測定時において、ISO 4287−1997に基づくAmplitude parameters(Rp、Rv、Rz、Rc、Rt、Ra、Rq、Rsk、Rku)が自動的に算出された。その中のRaとRskについて、下記表1に示す。また、
図8(A)及び
図8(B)より、実施例1〜2は光取り出し側の表面において比較例2のようなピッチが規則的な溝が形成されていない部分が観察されないため、「ランダムな粗面」であると評価した。
【0099】
【表1】
【0100】
<出力とVfの評価>
実施例1〜4及び比較例1、2のそれぞれの半導体発光素子を、トランジスタアウトラインヘッダー(TO−18)上に銀ペーストを用いてマウントし、金ワイヤを用いて上面電極をボンディングした。そして、実施例及び比較例の発光出力(Po)及び順方向電圧(Vf)を、それぞれ電流300mAを流すことで測定した。なお、発光出力(Po)の測定には積分球を用いた。また、順方向電圧(Vf)は、300mAを流すときの定電流電圧装置(エーディーシー社製:型番6243)の電圧値とした。3個を測定したときの平均値を、表1に併せて示す。
【0101】
<発光スペクトルの評価>
電流300mAを流し、ARCoptix製のFT−IR干渉計(型番:FTIR−OEM000−ZNSE−USB、検出器:FTIR−OEM000−060−2TE)を用いて、実施例1〜4及び比較例1、2の半導体発光素子の波長2000〜6000nmの範囲の発光スペクトルをそれぞれ測定した。なお、2000〜6000nmでの発光スペクトル測定における波長間隔は1.6nm〜14.6nmの範囲内である。
【0102】
測定された発光スペクトルを、以下の基準で評価した。発光スペクトルの縦軸(発光強度)を、最大強度を1とした相対強度で線形軸表示とした場合の、相対強度が0.1以上の発光強度をもつ波長域において、発光スペクトルの中で発光強度が最大となる中心波長の発光ピーク以外にも発光ピーク(傾きが0となる極大値)が見られる場合をマルチピークありとした。中心波長の発光ピーク以外に発光ピークが見られず単一ピークである場合をマルチピークなしとした。
【0103】
代表例として実施例1、比較例1及び比較例2の発光スペクトルを
図9(A)〜(C)にそれぞれ示す。また、実施例1における発光ピーク波長(λp)は4150nmであった。実施例2の発光スペクトルは実施例1とほぼ同じである。
【0104】
表1及び
図9の結果から、実施例1〜4のように、半導体発光素子の光取り出し面の表面の凹凸形状及び表面パラメータが本発明条件を満足すれば、マルチピークなしとなり、発光スペクトルは単一ピークになることが分かった。
また、実施例1と実施例3を比較すると、表面粗さRaが大きい方の発光出力が大きくなる傾向がみられる一方、表面粗さRaが0.4を超える実施例4では、電流の横方向の広がりに影響が出てVfの値が増加してしまう傾向がみられている。
【0105】
上記実施例1〜4及び比較例1、2について、粗面の粗さの3次元情報を以下のとおりにして取得した。
【0106】
<3次元での粗面の粗さ測定>
形状解析レーザ顕微鏡(KEYENCE社製 VK−X1000/1100)を用いて、粗面化処理後(ただし、比較例1においては粗面化処理なし)のチップ(ダイシング後)におけるn型クラッド層表面の粗面形状の測定を行った。レンズ倍率は150倍とし、画素数は2048×1536とした。
【0107】
データ測定時において、ISO 25178に基づく面粗さのパラメータ(Sa、Sz、Str、Spc、Sdr、Sskなど)が自動的に算出される。それらの値を下記表2に示す。また、代表例として、実施例1、2及び比較例2における粗面化処理後のn型クラッド層表面の顕微鏡写真を
図10(A)〜(C)にそれぞれ示す。
図10(A)、
図10(B)に示すように、実施例1のn型クラッド層の表面には、ランダムな粗面が形成されていることが観察された。一方、
図10(C)に示すように、比較例2のn型クラッド層の表面においては、平坦パターン部分(Raが0.010μm以下)と溝部とが特定のパターンで配列していることが観察され、ランダムな粗面ではないことが確認された。
【0108】
【表2】