特許第6903410号(P6903410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6903410
(24)【登録日】2021年6月25日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】水中油型乳化組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/107 20060101AFI20210701BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20210701BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20210701BHJP
   A61K 31/196 20060101ALI20210701BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20210701BHJP
【FI】
   A61K9/107
   A61K47/10
   A61K47/06
   A61K31/196
   A61P29/00
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-187209(P2016-187209)
(22)【出願日】2016年9月26日
(65)【公開番号】特開2017-81902(P2017-81902A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2019年8月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-214359(P2015-214359)
(32)【優先日】2015年10月30日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 浩明
(72)【発明者】
【氏名】井上 喬允
【審査官】 参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第94/016682(WO,A1)
【文献】 特開2005−232058(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0042009(US,A1)
【文献】 特開平09−176046(JP,A)
【文献】 特表2012−523408(JP,A)
【文献】 特開2017−081901(JP,A)
【文献】 オレオサイエンス,2001年,第1巻第2号,pp.179-186
【文献】 NIKKOL BS−2,[online],2010年,[令和2年5月22日検索],インターネット<https://www.chemical-navi.com/product_search/detail348.html>
【文献】 NIKKOL TO−10V,[online],2010年,[令和2年5月22日検索],インターネット<https://www.chemical-navi.com/product_search/detail299.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/107
A61K 47/06
A61K 31/196
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低級アルコールを3〜30重量%、モノテルペン増粘剤、及び多価アルコールを含有する、ローション、クリーム、または乳液の形態を有する水中油型乳化組成物(但し、下記の組成物を除く:
キサンチン誘導体と、イソステアリルアルコール、セバシン酸ジイソプロピルおよびジネオペンタン酸アルキレンポリグリコールよりなる群から選択される1種又は2種以上の油分とを含む皮膚外用剤
クロフェナクナトリウム、エタノール、メントール、ポリソルベート80,グリセロール、大豆油、サリチル酸メチル、水、及びカルボマーを含有するナノゲル組成物;及び
ジクロフェナクナトリウム、エタノール、メントール、ポリソルベート80,グリセロール、大豆油、サリチル酸メチル、及び水を含有するナノエマルジョン組成物)。
【請求項2】
さらにジクロフェナクまたはその塩を含有する、請求項1記載の水中油型乳化組成物。
【請求項3】
水中油型乳化皮膚外用剤である請求項1または2に記載する水中油型乳化組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型乳化組成物に関する。さらに詳しくは、低級アルコールを含有しつつも乳化が安定化された水中油型乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、肩こり、腰痛、筋肉痛、関節痛等の症状を治療又は緩和する消炎鎮痛剤を配合したローション剤、クリーム剤、ゲル剤等の患部に塗布する皮膚外用剤が知られている。例えば、特許文献1には、フェニル酢酸誘導体を比較的多量のエタノールに溶解した液剤が開示されている。この液剤では、有効成分であるフェニル酢酸誘導体の消炎鎮痛効果に加え、多量に配合されたエタノールが揮発することで熱を持った患部に冷感を与えるため、鎮痛効果が高く使用感のよい製剤となっている。
【0003】
また、肩こり、腰痛、筋肉痛、関節痛等の症状を治療又は緩和するには、患部の血行を促進することも有効である。皮膚外用剤に用いられる血行促進成分としてはビタミンEが挙げられる。ビタミンEは油溶性の成分であるため、皮膚外用剤とする場合は、油性成分を配合したクリーム剤や軟膏剤等、乳化型皮膚外用剤として調製される(特許文献2)。
【0004】
ここで、特許文献2のような乳化型皮膚外用剤にエタノールのような揮発性の低級アルコールを配合すれば、ビタミンEの油性の有効成分の効果と低級アルコールによる冷却効果を併せ持つ、優れた皮膚外用剤が得られると考えられる。
【0005】
しかしながら、エタノール等の低級アルコールは、水と油の両方に溶解する性質があるため、乳化物中に低級アルコールを配合すると乳化が安定しないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−286161号公報
【特許文献2】特開2000−256167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の主な目的は、低級アルコールを含有しながらも乳化が安定化された水中油型乳化組成物を提供することである。また本発明は、低級アルコールを含有しながらも乳化が安定化された水中油型乳化皮膚外用剤、特に消炎鎮痛作用を有する皮膚外用剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、低級アルコールの配合で乳化が不安定になる水中油型乳化組成物について、モノテルペン及び増粘剤を配合することにより、当該乳化性を安定化することができ、低級アルコールを比較的多量に配合しても長期保存後の乳化安定性が確保され、分離が有意に抑制された水中油型乳化組成物が得られることを見出した。
【0009】
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものであり、以下の水中油型乳化組成物、及び水中油型乳化組成物の乳化安定化方法を提供する。
【0010】
(1)水中油型乳化組成物
(1−1).低級アルコール、モノテルペン及び増粘剤を含有することを特徴とする水中油型乳化組成物。
(1−2).さらにジクロフェナクまたはその塩を含有する(1−1)記載の水中油型乳化組成物。
(1−3).さらに多価アルコールを含有する(1−1)または(1−2)に記載する水中油型乳化組成物。
(1−4).低級アルコールの含有量が3〜30重量%である(1−1)〜(1−3)のいずれかに記載する水中油型乳化組成物。
(1−5).皮膚外用剤である(1−1)〜(1−4)のいずれかに記載の水中油型乳化組成物。
【0011】
(2)低級アルコールを含有する水中油型乳化組成物の乳化安定化方法
(2−1).低級アルコールを含有する水中油型乳化組成物の乳化安定化方法であって、上記水中油型乳化組成物にさらにモノテルペン及び増粘剤を配合することを特徴とする方法。
(2−2).さらにジクロフェナク若しくはその塩、及び多価アルコールからなる群かれ選択される少なくとも1種を配合する(2−1)に記載する乳化安定化方法。
(2−3).低級アルコールの含有量が3〜30重量%である(2−1)または(2−2)に記載する乳化安定化方法。
(2−4).上記水中油型乳化組成物が皮膚外用剤である、(2−1)〜(2−3)のいずれかに記載する乳化安定化方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水中油型乳化組成物の低級アルコール配合による乳化安定性の低下を有意に抑制し、改善することができる。その結果、低級アルコールを3重量%以上や5重量%以上、特に10重量%以上と、比較的多量に含有しながらも長期保存後の乳化安定性が確保された水中油型乳化組成物を提供することができる。また、ジクロフェナクまたはその塩を含有させることで乳化安定性がより向上し、かつジクロフェナクまたはその塩の消炎鎮痛効果と低級アルコールの揮発による冷却効果を兼ね備えた治療効果及び使用感の高い水中油型乳化型の皮膚外用剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1)水中油型乳化組成物
以下、本発明の水中油型乳化組成物について詳述する。
【0014】
本発明の水中油型乳化組成物は、低級アルコールを含有する水中油系乳化組成物であって、さらにモノテルペン及び増粘剤を含有することを特徴とする。
【0015】
(低級アルコール)
本発明において、「低級アルコール」とは、1〜4個の炭素原子を有する1価のアルコールを意味する。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、及びブタノールが挙げられる。好ましくはエタノール及びイソプロパノールであり、より好ましくはエタノールである。
【0016】
本発明の水中油型乳化組成物における低級アルコールの含有割合(総量)は、制限されないものの、揮発による冷却効果を付与する観点、並びに低級アルコール配合による乳化安定性の低下、それに対するジクロフェナク類及び増粘剤配合による乳化安定化という観点から、下限値として3重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上を挙げることができる。より具体的には3〜30重量%程度、好ましくは5〜25重量%程度、より好ましくは10〜25重量%程度が挙げられる。
【0017】
本発明の水中油型乳化組成物は、水中油型乳化組成物とするために、その基本的な構成成分として水、油性成分、及び界面活性剤を含有している。
【0018】
(水)
本発明において使用できる水の例としては、特に制限されないが、精製水、蒸留水、滅菌水、イオン交換水等が挙げられる。好ましくは精製水である。
【0019】
本発明の水中油型乳化組成物における水の含有割合は、制限されないものの、通常20〜80重量%程度、好ましくは30〜70重量%程度が挙げられる。
【0020】
(油性成分)
本発明において、油性成分(油相)は、本発明の乳化組成物の油相を構成する成分である。例えば、医薬品、医薬部外品、及び化粧品等で通常使用される油性成分を広く用いることができる。かかる油性成分として、制限されないものの、オリーブ油、小麦胚芽油、こめ油、サフラワー油、大豆油、つばき油、とうもろこし油、なたね油、ひまわり油、綿実油、落花生油等の植物油;ラード、魚油、スクワラン、蜜蝋等の動物油;流動パラフィン、ゲル化炭化水素、ワセリン等の鉱物油;大豆レシチン等のレシチン誘導体;ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸セチル、セバシン酸ジエチル、オレイン酸エチル等の脂肪酸エステル類;ジメチルシリコーン、環状シリコーン等のシリコーン類;オレイン酸、リノール酸等の脂肪酸類;エチニルエストラジオール等のホルモン類;ウイキョウ油、チョウジ油、ハッカ油、ユーカリ油、レモン油等の精油類;シリコンオイル;及びワックス類等が挙げられる。
【0021】
また、他の油性成分としては、高級アルコールが挙げられる。高級アルコールとしては、炭素数6以上の脂肪族アルコールが挙げられる。具体的には、セタノール、ベヘニルアルコール、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、ヘキサデシルアルコール、ラノリンアルコール等が挙げられる。
【0022】
油性成分は、1種単独で使用してもよいし、任意に2種以上を組み合わせて使用してもよい。油性成分としては、水中油型乳化組成物の流動性確保の観点から、常温(25℃)で液状のものが好ましい。また、上記油性成分のなかでも、優れた熱安定性、流動性を持つ乳化組成物が調製できるという点から、好ましくは植物油、動物油、鉱物油、及び脂肪酸エステルであり、より好ましくは動物油、鉱物油、及び脂肪酸エステルである。特に鉱物油として流動パラフィンを単独、または他の油性成分(植物油、動物油、鉱物油、脂肪酸エステル)と組み合わせて配合することが好ましい。更に、これらの油性成分(植物油、動物油、鉱物油、脂肪酸エステル)とともに、上記高級アルコールを配合することが好ましい。
【0023】
本発明の水中油型乳化組成物における油性成分の含有量は、制限されないものの、例えば、水中油型乳化組成物に含まれる水100重量部に対して1〜60重量部程度、好ましくは5〜50重量部程度が挙げられる。
【0024】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、医薬品、医薬部外品、化粧品等で通常使用されるものであれば特に限定されないが、熱安定性及び流動性の観点から、好ましくはノニオン性の界面活性剤である。ノニオン性の界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(以下、POE)付加タイプの界面活性剤が好適であり、例えば、POE(10〜50モル)フィトステロールエーテル、POE(10〜50モル)ジヒドロコレステロールエーテル、POE(10〜50モル)2−オクチルドデシルエーテル、POE(10〜50モル)デシルテトラデシルエーテル、POE(10〜50モル)オレイルエーテル、POE(10〜50モル)ベヘニルエーテル、POE(10〜50モル)セチルエーテル、POE(5〜30モル)ポリオキシプロピレン(5〜30モル)2−デシルテトラデシルエーテル、POE(10〜50モル)ポリオキシプロピレン(2〜30モル)セチルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;これらのリン酸・リン酸塩(POEセチルエーテルリン酸ナトリウム等);POE(20〜60モル)ソルビタンモノオレート、POE(10〜60モル)ソルビタンモノイソステアレート、POE(10〜80モル)グリセリルモノイソステアレート、POE(10〜30モル)グリセリルモノステアレート、POE(20〜100)硬化ヒマシ油、POE(20〜100)POE・ポリオキシプロピレン変性シリコーン、POE・アルキル変性シリコーン、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、モノパルミチン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ジラウリン酸ポリエチレングリコール、ジパルミチン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、ジリシノレイン酸ポリエチレングリコール等が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、任意に2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
本発明の水中油型乳化組成物における界面活性剤の含有量は、制限されないものの、例えば、水中油型乳化組成物に含まれる油性成分100重量部に対して10〜100重量部程度、好ましくは20〜70重量部程度が挙げられる。
【0026】
(モノテルペン)
本発明で用いることができるモノテルペンとしては、特に制限されないが、リモネン、ピネン、カンフル等のモノテルペン系炭化水素;シトロネロール、ゲラニオール、リナロール、メントール、テルピネオール、ボルネオール等のモノテルペン系アルコール;シトロネラール、シトラール、サフラナール等のモノテルペン系アルデヒド;メントン、カルボメントン、ヨノン等のモノテルペン系ケトン等が挙げられる。好ましくはモノテルペン系アルコールであり、より好ましくはメントールである。これらのモノテルペンは、d−,l−,dl−体のいずれでもよい。これらは1種単独で使用してもよいし、任意に2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
本発明の水中油型乳化組成物におけるモノテルペンの含有量は、制限されないものの、例えば0.5〜10重量%程度、好ましくは1〜6重量%程度が挙げられる。
【0028】
(増粘剤)
本発明の水中油型乳化組成物は、前述する低級アルコール、水、油性成分、界面活性剤、及びモノテルペンに加えて、さらに増粘剤を含有することを特徴とする。本発明で使用できる増粘剤としては、特に制限されないが、ヒプロメロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム等が挙げられる。好ましくはカルボキシビニルポリマー、キサンタンガム及びヒドロキシプロピルセルロースであり、より好ましくはカルボキシビニルポリマー及びキサンタンガムである。これらの増粘剤は、1種単独で使用してもよいし、任意に2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
本発明の水中油型乳化組成物における増粘剤の含有割合(総量)は、制限されないものの、例えば0.05〜5重量%程度、好ましくは0.1〜3重量%程度が挙げられる。
【0030】
本発明の水中油型乳化組成物には、前述する低級アルコール、水、油性成分、界面活性剤、モノテルペン、及び増粘剤に加えて、さらにジクロフェナク又はその塩及び多価アルコールの少なくとも1種を配合することができる。
【0031】
(ジクロフェナク又はその塩)
ジクロフェナクはアリール酢酸系、具体的にはフェニル酢酸系の消炎鎮痛性化合物である。ここでジクロフェナクの塩としては、好ましくは薬学的に許容される塩を挙げることができる。薬学的に許容される塩としては、例えば、ジクロフェナクのナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩;またはリチウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。好ましくはアルカリ金属塩であり、より好ましくはナトリウム塩である。
【0032】
本発明の水中油型乳化組成物にジクロフェナク又はその塩を配合する場合、その配合割合(総量)は、制限されないものの、例えば0.1〜5重量%程度、好ましくは0.5〜3重量%程度、より好ましくは0.5〜1.5重量%程度が挙げられる。
【0033】
(多価アルコール)
本発明で用いることができる多価アルコールには、特に制限されないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、イソプロピレングリコール、1,2−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、へキシレングリコール、グリセリン、ソルビトール、キシリトール等が挙げられる。ジクロフェナクまたはその塩に対する溶解性(相溶性)の観点から、好ましくはプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン及びソルビトールである。これらは1種単独で使用してもよいし、任意に2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
本発明の水中油型乳化組成物に多価アルコールを配合する場合、その配合割合(総量)は、制限されないものの、例えば1〜30重量%程度、好ましくは2〜25重量%程度が挙げられる。
【0035】
(その他の成分)
本発明の水中油型乳化組成物には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、他の成分を適宜選択し、1種又は2種以上を併用して配合できる。例えば、液剤及び半固形剤等の調製に一般的に使用される安定化剤、防腐剤、緩衝剤、pH調整剤、香料等の各種添加剤を挙げることができ、具体的には以下のものが挙げられる。
【0036】
安定化剤:ジブチルヒドロキシトルエン、エデト酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、乾燥亜硫酸ナトリウム等。
【0037】
防腐剤:ブチルパラベン、メチルパラペン、プロピルパラペン、エチルパラベン、安息香酸ナトリウム、ベンジルアルコール等。
【0038】
緩衝剤:ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、イプシロン−アミノカプロン酸、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩等。
【0039】
pH調整剤:塩酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸等の無機酸;乳酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、プロピオン酸、酢酸、アスパラギン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、グルタミン酸、アミノエチルスルホン酸等の有機酸;炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の無機塩基;モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、リジン等の有機塩等。
【0040】
また、本発明の水中油型乳化組成物には、本発明の効果を損なわない範囲でその他の有効成分を配合することができる。例えば、ジクロフェナク類以外の消炎鎮痛剤(インドメタシン等のインドール酢酸系;イブフェナク、アルクフェナク、メチアジン酸、アンフェナク及び4−ビフェニル酢酸等のフェニル酢酸系;スリンダク等のインデニル酢酸系;トルメチン等のピロール酢酸系;及びナブメトン等のナフチル酢酸系等)、トコフェロール(α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、及びδ−トコフェロール)またはその誘導体(酢酸トコフェロール、コハク酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、及びリノレン酸トコフェロール等のトコフェロール有機酸エステル)、ステロイド剤(デキサメタゾン、塩酸デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、塩酸ヒドロコルチゾン、吉草酸プレドニゾロン、酢酸プレドニゾロン等)、抗ヒスタミン剤(ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン等)、局所麻酔剤(リドカイン、ジブカイン、プロカイン、テトラカイン、ブピパカイン、メピパカイン、クロロプロカイン、プロパラカイン、メプリルカイン又はこれらの塩、安息香酸アルキルエステル(例えばアミノ安息香酸エチル、塩酸パラブチルアミノ安息香酸ジエチルアミノエチル)、オルソカイン、オキセサゼイン、オキシポリエントキシデカン、ロートエキス、ペルカミンパーゼ、テシットデシチン等)、抗炎症剤(グリチルレチン酸、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルレチン酸モノアンモニウム、アラントイン、サリチル酸、サリチル酸グリコール、サリチル酸メチル等)、殺菌剤(塩化ベンザルコニウム、塩化デカリニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、インプロピルメチルフェノール、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、アンモニア水、スルファジアジン、乳酸、フェノール等)、鎮痒剤(クロタミトン、チアントール等)、皮膚保護剤(コロジオン、ヒマシ油等)、血行促進成分(ノニル酸ワニリルアミド、ニコチン酸ベンジルエステル、カプサイシン、トウガラシエキス等)、ビタミン類(ビタミンA、B、C、D等)、ムコ多糖類(コンドロイチン硫酸ナトリウム、グルコサミン、ヒアルロン酸等)等が挙げられる。
【0041】
本発明の水中油型乳化組成物を製造する方法としては、特に制限されないが、例えば、以下のようにして製造できる。水相(水性成分:水、増粘剤、必要に応じてその他の水溶性成分[例えば、低級アルコール、多価アルコール等]を混合)と油相(油性成分:界面活性剤、モノテルペン、必要に応じてその他の油溶性成分を混合)を加熱しながらホモジナイザー等の混合機を用いて混合して乳化物を調製した後に、必要に応じてジクロフェナク又はその塩を溶解した低級アルコールを加えることで本発明の水中油型乳化組成物を調製することができる。なお、上記の加熱温度としては制限されないものの、通常50〜90℃、好ましくは65〜85℃を例示することができる。
【0042】
また本発明の水中油型乳化組成物は、必要に応じて、その製造工程でpHを調整することもできる。そのpHは特に制限されないが、通常pH4.5〜10の範囲になるように調整することができる。好ましくはpH5〜9.5、より好ましくはpH5.5〜9.0である。なお、当該pHの調整は、通常、pH調整剤を用いて行われる。
【0043】
本発明の水中油型乳化組成物は、液状〜半固形状の水中油型乳化型のローション、クリーム、乳液の形態を有する皮膚外用剤として好適に使用できる。特に本発明の水中油型乳化組成物がジクロフェナクまたはその塩を含む場合は、消炎鎮痛外用剤として、肩こりや筋肉疲労の患部に塗り込むことにより、筋肉をほぐしたり、癒したりすることが可能となる。
【0044】
(2)低級アルコールを含有する水中油型乳化組成物の乳化安定化方法
本発明は、低級アルコールを配合することで乳化安定性が低下した水中油型乳化組成物について、その乳化安定性を改善し向上する方法を提供する。
【0045】
当該方法は、低級アルコールを含有する水中油型乳化組成物にさらにモノテルペン及び増粘剤を配合することで実施することができる。
【0046】
ここで対象とする水中油型乳化組成物の組成、並びにそれに配合する低級アルコールの種類及び配合割合については、上記(1)に記載の通りであり、ここに援用することができる。またこれに配合するモノテルペン及び増粘剤の種類、並びにその水中油型乳化組成物に対する配合割合についても、上記(1)に記載の通りであり、ここに援用することができる。
【0047】
さらに低級アルコールを含有する水中油型乳化組成物の乳化安定性は、モノテルペン及び増粘剤の配合に加えて、ジクロフェナクまたはその塩及び多価アルコールからなる群から選択される少なくとも1種を配合することでより向上する。とりわけジクロフェナクまたはその塩及び多価アルコールの両方を配合することで、低級アルコールを含有する水中油型乳化組成物の乳化安定性はより一層向上し、比較的苛酷な条件で保存した場合でも長期間分離を抑制することができる。ここで使用するジクロフェナクまたはその塩及び多価アルコールの種類、並びにその水中油型乳化組成物に対する配合割合についても、上記(1)に記載の通りであり、ここに援用することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実験例及び実施例に基づいて説明する。但し、当該実験例及び実施例は、本発明の一例であり、本発明はこれらの実験例や実施例に制限されるものではない。
【0049】
実験例1
表1に示す処方の液状〜半固形状の水中油型乳化クリーム剤(参考例1、実施例1〜13、比較例1〜6)を調製した。具体的には、表1に記載する処方に従って油相及び水相(但し、ジクロフェナクナトリウム及び無水エタノールを除く)をそれぞれ調製し、これらを80℃で混合して水中油型の乳化物を調製した。その後、実施例4及び6〜13並びに比較例5については、無水エタノールに溶解したジクロフェナクナトリウムを徐々に加えて完全に均一に混合し調製した。得られた液状〜半固形状の乳化物を約20ml容量の蓋付きスクリュー管(スクリュー管No.5(27×55mm)、株式会社マルエム製)に18ml充填し、50℃の恒温槽内(暗所)及び60℃の恒温槽内(暗所)のそれぞれの条件下に1週間静置保管した。
【0050】
1週間後、室温に戻して、乳化物の性状を目視で確認し、下記の基準に基づいて、保存安定性(50℃1週間保存、60℃1週間保存)を評価した。
【0051】
[評価基準]
◎:全く分離が認められない
○:ほとんど分離が認められない
△:やや分離が認められる
×:明らかに分離(水相が全体の1/4以上)が認められる。
【0052】
結果を、処方とともに表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
エタノールを含有しない乳化物(参考例1)はいずれの保管条件下でも分離せず安定であったが、これにエタノールを配合することで乳化が不安定になり分離が生じることが確認された(比較例3)。かかるエタノール配合による乳化不安定性は、比較例3の処方を基準として、モノテルペン及び多価アルコールの除去(比較例1)、モノテルペンの除去(比較例2)、モノテルペンの除去及びエタノール配合量の減少(比較例4)、並びにモノテルペンの除去及びジクロフェナクNaの配合(比較例5)によっても、改善しなかった。またモノテルペン及び多価アルコールを除去し、代わりに増粘剤を配合すると、やや改善は認められるものの十分ではなかった(比較例6)。これに対して、増粘剤とモノテルペンを配合することでいずれの保存条件でも分離せず、乳化が安定化されることが確認された(実施例1〜3)。また増粘剤とモノテルペンに加えて多価アルコール及び/又はジクロフェナクNaを配合することで、特に多価アルコールとジクロフェナクNaの両方を配合することで、より一層乳化が安定化し、比較的苛酷な条件で保管した場合でも分離が抑制されることが確認された(実施例4〜13、特に実施例6〜13)。これらのことから、エタノール等の低級アルコールを含有する液状〜半固形状の水中油型乳化クリーム剤(実施例1〜13)は、増粘剤とモノテルペンを配合することで乳化が安定化され、長期間の保管によっても分離しないことが確認できた。また、ジクロフェナクNaを含有する水中油型乳化クリーム剤を肩に塗布したところ、いずれも冷涼感と肩こりの痛み緩和効果(消炎鎮痛効果)を有することが確認できた。
【0055】
実験例2
表2に示す処方の水中油型乳化クリーム剤(実施例14〜24)を調製した。具体的には、水相と油相をそれぞれ調製し、これらを80℃で混合して水中油系の乳化物を得た後に、フェルビナク又はジクロフェナクナトリウムを溶解した低級アルコール(無水エタノールまたはイソプロパノール)を徐々に加えて完全に均一に混合した。得られた乳化物に水酸化カリウム溶液を適量加えてpH7〜8に調整した後に、精製水を加えて最終的に全量を100重量%とした。得られた液状〜半固形状の水中油型乳化クリーム剤を50ml容量のポリエチレン容器に充填し、4℃の恒温槽内(暗所)に保管した。
【0056】
【表2】
【0057】
上記のクリーム剤は、1ヶ月の保存後も分離が見られず乳化が安定していた(評価:◎)。また、肩に塗布したところ、冷涼感と肩こりの痛み緩和効果(消炎鎮痛効果)を有することが確認できた。