特許第6903467号(P6903467)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6903467
(24)【登録日】2021年6月25日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】アミロイドβ凝集阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20210701BHJP
   A61K 31/12 20060101ALI20210701BHJP
   A61K 31/685 20060101ALI20210701BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20210701BHJP
   A23L 33/115 20160101ALI20210701BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20210701BHJP
【FI】
   A61K31/192
   A61K31/12
   A61K31/685
   A61P25/28
   A23L33/115
   A23L33/105
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-72539(P2017-72539)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-186335(P2017-186335A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2020年2月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-72696(P2016-72696)
(32)【優先日】2016年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(72)【発明者】
【氏名】林 忠紘
【審査官】 伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第1718566(CN,A)
【文献】 特開2005−247728(JP,A)
【文献】 特開2009−007329(JP,A)
【文献】 特表2004−520845(JP,A)
【文献】 特開2011−241174(JP,A)
【文献】 特開2011−242252(JP,A)
【文献】 Current Nanoscience,2009年,5,pp.26-32
【文献】 Biol. Pharm. Bull.,2013年,36(1),pp.140-143
【文献】 Chem Biol Drug Des,2007年,70,pp.206-215
【文献】 Mechanisms of Ageing and Development,2009年,130(4),pp.203-215
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A23L
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)フェルラ酸及び/又はその薬学的に許容される塩、並びに
(B)グリセロリン脂質
を含有することを特徴とするアミロイドβ凝集阻害剤(但し、フェルラ酸を大豆ホスファルジルコリンに包含させた脂質ナノ粒子を除く)
【請求項2】
前記(B)グリセロリン脂質が、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、及びホスファチジルエタノールアミンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のアミロイドβ凝集阻害剤。
【請求項3】
更に(C)クルクミノイドを含有する、請求項1又は2に記載のアミロイドβ凝集阻害剤。
【請求項4】
前記(A)成分1重量部に対し、前記(B)成分0.1〜2.5重量部を含有する請求項1〜3のいずれかに記載のアミロイドβ凝集阻害剤。
【請求項5】
前記(A)成分1重量部に対し、前記(C)成分0.1〜10重量部を含有する請求項3又は4記載のアミロイドβ凝集阻害剤。
【請求項6】
飲食品である、請求項1〜5のいずれかに記載のアミロイドβ凝集阻害剤。
【請求項7】
医薬品である、請求項1〜5のいずれかに記載のアミロイドβ凝集阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミロイドβ凝集阻害剤に関する。具体的には、本発明は、アルツハイマー型認知症の予防又は治療のためのアミロイドβ凝集阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
認知症は、後天的な脳の器質的障害により、いったん正常に発達した知能が不可逆的に低下した状態と定義される。健常者と認知症患者の中間にあるものは、軽度認知障害であるとされる。我が国では、認知症と軽度認知障害を合せると65歳以上の人口の25%が罹患しているといわれ、今後、高齢化社会が進むにつれ、その人口はますます増大すると見込まれる。また、認知症になると介護や医療費等の負担が増大する。これらのことから、高齢者の生活の質の向上、医療費等の社会福祉費用の軽減等、認知症への対策が急務とされている。
【0003】
認知症は原因等により分類されるが、その中でも70%と最も頻度が高いアルツハイマー型認知症は、これまでの研究から病態機序の解明が進んでいる。アルツハイマー型認知症は、まず脳内でアミロイドβが凝集・蓄積し、次に異常リン酸化されたタウタンパクが神経細胞内で凝集・蓄積され神経原線維変化が生じて、神経細胞の脱落が生じ、その脱落がある一定以上になると発症すると考えられている。従って、アミロイドβの凝集・蓄積を抑制することができれば、アルツハイマー型認知症の予防や進行抑制、改善につながる。
【0004】
アルツハイマー型を含めた認知症の治療剤としては、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンをはじめとして、これまでに種々知られている。また他の認知症の治療剤として、例えば、特許文献1には、ω−3系多価不飽和脂肪酸と、甲状腺ホルモンとを組み合わせて使用することを特徴とするアルツハイマー型認知症の予防・治療剤が開示されている。また例えば、特許文献2には、フェルラ酸又はその薬学的に許容される塩と、ガーデンアンゼリカ(Angelica archangelica)の抽出物とを、100:5〜100:40の質量比で組み合わせてなる認知症治療薬が開示されている。
【0005】
しかしながら、これらの治療薬は、あくまで一旦発症した症状を改善するためのものであり、一時的には認知症の症状を改善することはあっても、長期的には脳内で生じる病理変化は不可逆的であるため確実に進行する。また、治療薬であるため、認知症患者として認められてからしか服用できず、認知症の前段階である軽度認知障害では服用の可否が判断しにくく、さらに健常者が予防目的で摂取することが困難であるといった問題がある。
【0006】
アルツハイマー型認知症の病態機序の中心となるアミロイドβの凝集・蓄積は、認知症を発症する10年以前から始まっていることが知られている。従って、認知症の発症を抑制又は遅らせるためには、認知症の発症前である軽度認知障害での段階、好ましくは認知機能がまだ正常である段階から、アミロイドβの凝集・蓄積を抑制することが非常に有効である。しかしながら、アミロイドβの凝集・蓄積を予防する方法や治療する方法は確立されておらず、特に認知症の発症前段階でのアミロイドβの凝集・蓄積を抑制する方法については、未だ研究が充分に進んでいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2007/064010号パンフレット
【特許文献2】特開2012−6877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みて、アミロイドβの凝集・蓄積を抑制することができる、アミロイドβ凝集阻害剤を提供することを課題とする。また、本発明は、アルツハイマー型認知症を予防又は治療することができるアミロイドβ凝集阻害剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、(A)フェルラ酸及び/又はその薬学的に許容される塩(以下、(A)成分と表記することもある。)と(B)グリセロリン脂質を組み合わせて摂取することにより、脳内でのアミロイドβの凝集・蓄積が極めて高く抑制されることを見出した。また、これらの2成分に更に(C)クルクミノイドを組み合わせて摂取することにより、脳内でのアミロイドβの凝集・蓄積の抑制効果が更に向上することを見出した。また、前記(A)成分に対する前記(B)成分及び/又は前記(C)成分の重量比を特定範囲とすることにより、脳内でのアミロイドβの凝集・蓄積の抑制効果が更に向上することを見出した。また、(A)成分と(B)成分、又は、(A)〜(C)成分を組み合わせて摂取すると、記憶力改善効果があることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. (A)フェルラ酸及び/又はその薬学的に許容される塩、並びに(B)グリセロリン脂質を含有することを特徴とするアミロイドβ凝集阻害剤。
項2. 前記(B)グリセロリン脂質が、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、及びホスファチジルエタノールアミンからなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載のアミロイドβ凝集阻害剤。
項3. 更に(C)クルクミノイドを含有する、項1又は2に記載のアミロイドβ凝集阻害剤。
項4. 前記(A)成分1重量部に対し、前記(B)成分0.1〜2.5重量部を含有する項1〜3のいずれかに記載のアミロイドβ凝集阻害剤。
項5. 前記(A)成分1重量部に対し、前記(C)成分0.1〜10重量部を含有する項3又は4記載のアミロイドβ凝集阻害剤。
項6. 飲食品である、項1〜5のいずれかに記載のアミロイドβ凝集阻害剤。
項7. 医薬品である、項1〜5のいずれかに記載のアミロイドβ凝集阻害剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアミロイドβ凝集阻害剤は、アミロイドβの凝集・蓄積を極めて高く抑制することができる。本発明によれば、アミロイドβの凝集・蓄積を抑制し得る飲食品、医薬品を提供することができる。また、本発明によれば、アルツハイマー型認知症を予防又は治療するためのアミロイドβ凝集阻害剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のアミロイドβ凝集阻害剤は、(A)フェルラ酸及び/又はその薬学的に許容される塩、並びに(B)グリセロリン脂質を含有することを特徴とする。以下、本発明のアミロイドβ凝集阻害剤について詳述する。
【0013】
(A)フェルラ酸及び/又はその薬学的に許容される塩
本発明で用いるフェルラ酸(4−ヒドロキシ−3−メトキシ桂皮酸)は下記式で表される桂皮酸の誘導体である。
【化1】
【0014】
フェルラ酸の塩としては、薬学的に許容される塩であれば特に限定されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等の塩基性アミノ酸塩;モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩等のアミン塩等が挙げられる。これらの塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
また、フェルラ酸、及び、フェルラ酸の塩は、それぞれ1種単独で使用してもよいし、フェルラ酸とフェルラ酸の塩を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
フェルラ酸又はその塩としては、特に制限はなく、化学合成したものを用いてもよく、天然物由来の材料から抽出や精製等したものであってもよい。また、試薬として市販されているものをフェルラ酸として用いてもよい。
【0017】
フェルラ酸又はその塩を天然物由来の材料から抽出や精製等して製造する方法としては、特に限定されず、天然物由来の材料から公知の方法で抽出、精製等する方法が挙げられる。フェルラ酸を抽出するための天然物由来の材料としては、例えば、コーヒー、タマネギ、ダイコン、レモン、センキュウ、トウキ、マツ、オウレン、アギ、カンショ、トウモロコシ、大麦、小麦、コメ等が挙げられる。
【0018】
フェルラ酸の市販品としては、例えば、フェルラ酸(築野食品工業社製)、フェルラ酸(オリザ油化社製)、フェルラ酸(Combi−Blocks社製)等を挙げることができる。
【0019】
本発明のアミロイドβ凝集阻害剤における(A)成分の含有量としては、特に限定されないが、例えば、0.001〜45重量%、好ましくは0.005〜45重量%、より好ましくは0.01〜45重量%が挙げられる。より具体的には、本発明のアミロイドβ凝集阻害剤が固形状である場合、1〜45重量%、好ましくは5〜45重量%、より好ましくは10〜45重量%が挙げられる。また、本発明のアミロイドβ凝集阻害剤が液状である場合、(A)成分の含有量としては、0.001〜2重量%、好ましくは0.005〜2重量%、より好ましくは0.01〜0.8重量%が挙げられる。
【0020】
(B)グリセロリン脂質
本発明で使用されるグリセロリン脂質としては、特に限定されないが、例えば、ホスファチジルコリン、リゾホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、リゾホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、リゾホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール及びリゾホスファチジルグリセロール等のエステル型グリセロリン脂質が挙げられる。これらの中でも、本発明のアミロイドβ凝集阻害剤のアミロイドβの凝集抑制及び/又は抑制効果が更に向上する点で、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、及びホスファチジルエタノールアミンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ホスファチジルセリン、及びホスファチジルコリンからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。グリセロリン脂質は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
本発明で使用されるグリセロリン脂質を構成する脂肪酸としては、飽和脂肪酸でもあってもよく、不飽和脂肪酸であってもよいが、不飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0022】
本発明で使用されるグリセロリン脂質を構成する脂肪酸の炭素数としては、特に限定されないが、例えば、4〜30、好ましくは10〜30が挙げられる。
【0023】
炭素数4〜30の不飽和脂肪酸としては、具体的には例えば、クロトン酸、イソクロトン酸等のブテン酸;ペンテン酸、ヘキセン酸、ヘプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ラウロレイン酸等のドデセン酸、トリデセン酸;ミリストレイン酸、ミリステライジン酸等のテトラデセン酸;ペンタデセン酸;パルミトレイン酸、パルミテライジン酸等のヘキサデセン酸;ヘプタデセン酸;ペトロセリン酸、ペトロセライジン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸等のオクタデセン酸;ノナデセン酸;ガドレイン酸、ゴンドレン酸等のエイコセン酸;エルカ酸、ブラッシジン酸、セトレイン酸等のドコセン酸;ネルボン酸等のテトラコセン酸、ヘキサコセン酸、オクタコセン酸、トリアコンテン酸、ペンタジエン酸、ソルビン酸等のヘキサジエン酸、ペプタジエン酸、オクタジエン酸、ノナジエン酸、デカジエン酸、ウンデカジエン酸、ドデカジエン酸、トリデカジエン酸、テトラデカジエン酸、ペンタデカジエン酸、ヘキサデカジエン酸、ヘプタデカジエン酸;リノール酸、リノエライジン酸等のオクタデカジエン酸;エイコサジエン酸、ドコサジエン酸、テトラコサジエン酸、ヘキサコサジエン酸、オクタコサジエン酸、トリアコンタジエン酸、ヘキサデカトリエン酸;α−リノレン酸、γ−リノレン酸等のオクタデカトリエン酸;ジホモ−γ−リノレン酸、ミード酸等のエイコサトリエン酸;ドコサトリエン酸、テトラコサトリエン酸、ヘキサコサトリエン酸、オクタコサトリエン酸、トリアコンタトリエン酸、ステアリドン酸等のオクタデカテトラエン酸、アラキドン酸等のエイコサテトラエン酸、アドレン酸等のドコサテトラエン酸、テトラコサテトラエン酸、ヘキサコサテトラエン酸、オクタコサテトラエン酸、トリアコンタテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、クルパドノン酸等のドコサペンタエン酸、テトラコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、ニシン酸等のテトラコサヘキサエン酸、等が挙げられる。
【0024】
上記に示した不飽和脂肪酸以外にも、ルメン酸、カレンジン酸、ジャカリン酸、エレオステアリン酸、カタルピン酸、プニカ酸、ルメレン酸等の共役脂肪酸;リシノレイン酸、リシネライジン酸、ジモルフェコリン酸等の水酸化不飽和脂肪酸;ベモリン酸等のエポキシ脂肪酸、ウロフラン酸等のフラノイド脂肪酸、ミコリン酸等の高分子量の分岐鎖不飽和脂肪酸、その他メトキシ不飽和脂肪酸や環状不飽和脂肪酸等も挙げられる。
【0025】
グリセロリン脂質は、精製品又は粗精製品であってもよいし、抽出物であってもよく、市販品を使用することができる。グリセロリン脂質の抽出物としては、グリセロリン脂質を含む素材から水や有機溶媒で抽出したものが挙げられる。前記素材としては、例えば、大豆、菜種などの植物素材、卵黄などの動物素材、菌類や細菌類素材などが挙げられる。グリセロリン脂質の精製品又は粗精製品としては、前記の抽出物を更に精製や化学処理やホスホリパーゼなど酵素処理等をしたものが挙げられる。グリセロリン脂質の市販品としては、例えばニチユPS50及びニチユPS30(日油社製)、リパミンPS(DKSHジャパン社製)、卵黄レシチンLPL−20W(キユーピー社製)、L−α−ホスファチジルコリン(ナカライテスク社製)等が挙げられる。
【0026】
本発明のアミロイドβ凝集阻害剤における(B)成分の含有量としては、特に限定されないが、例えば、0.0001〜50重量%、好ましくは0.0005〜22.5重量%、より好ましくは0.001〜20重量%が挙げられる。より具体的には、本発明のアミロイドβ凝集阻害剤が固形状である場合、0.1〜50重量%、好ましくは0.1〜22.5重量%、より好ましくは1〜20重量%が挙げられる。また、本発明のアミロイドβ凝集阻害剤が液状である場合、(B)成分の含有量としては、0.0001〜2重量%、好ましくは0.0005〜2重量%、より好ましくは0.001〜2重量%が挙げられる。
【0027】
本発明のアミロイドβ凝集阻害剤における前記(A)成分と(B)成分の重量比としては、特に限定されないが、アミロイドβの凝集・蓄積の抑制効果が更に向上し得る点で、例えば、前記(A)成分1重量部に対し、前記(B)成分が0.1〜2.5重量部、好ましくは0.1〜1重量部、より好ましくは0.1〜0.5重量部、更に好ましくは0.1〜0.25重量部が挙げられる。
【0028】
(C)クルクミノイド
本発明のアミロイドβ凝集阻害剤は、更に、(C)クルクミノイドを含有することが好ましい。クルクミノイドを含有することにより、アミロイドβの凝集・蓄積抑制の効果が更に向上し得る。
【0029】
クルクミノイドは、ウコン(ショウガ科ウコン、学名Curcuma longa)の根茎に含まれるポリフェノールの一種であり、クルクミンおよびその類縁体である。本発明におけるクルクミノイドの具体例としては、クルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン、ジヒドロクルクミン、ジヒドロデメトキシクルクミン、ジヒドロビスデメトキシクルクミン、テトラヒドロクルクミン、テトラヒドロデメトキシクルクミン、テトラヒドロビスデメトキシクルクミン、ジヒドロキシテトラヒドロクルクミン、ジ−O−デメチルクルクミン、O−デメチルデメトキシクルクミンなどが挙げられる。なかでも、アミロイドβの凝集・蓄積の抑制効果が更に向上し得る点でクルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミンが好ましい。クルクミノイドは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
クルクミノイドは、精製品、又は粗精製品であってもよいし、抽出物や他の成分と複合体を形成しているものであってもよく、市販されているものを使用することができる。
クルクミノイドの抽出物としては、例えば、ウコンの根茎の乾燥品(ウコン粉末)からエタノール若しくはプロピレングリコール、ヘキサンまたはアセトンで抽出して調製されるクルクミン等が挙げられる。また、精製品又は粗精製品としては、例えば、前記抽出物から、更にウコン粉末に由来する苦味や辛み、ウコン臭が低減もしくは除去される程度に精製されたクルクミン等が挙げられる。クルクミノイドの市販品としては、例えばウコン乾燥エキスF(丸善製薬社製)、ロングヴィーダ(オムニカ社製)、メリーバ(インデナジャパン社製)、セラクルミン(セラバリューズ社製)等が挙げられる。
【0031】
本発明のアミロイドβ凝集阻害剤における(C)成分の含有量としては、特に限定されないが、例えば、0.0001〜67重量%、好ましくは0.0005〜67重量%、より好ましくは0.001〜20重量%が挙げられる。より具体的には、本発明のアミロイドβ凝集阻害剤が固形状である場合、0.1〜67重量%、好ましくは1〜67重量%、より好ましくは1〜20重量%が挙げられる。また、本発明のアミロイドβ凝集阻害剤が液状である場合、(C)成分の含有量としては、0.0001〜8重量%、好ましくは0.0005〜8重量%、より好ましくは0.001〜8重量%が挙げられる。
【0032】
本発明のアミロイドβ凝集阻害剤における前記(A)成分と前記(C)成分の重量比としては、特に限定されないが、アミロイドβの凝集・蓄積の抑制効果が更に向上し得る点で、例えば、前記(A)成分1重量部に対し、前記(C)成分が0.1〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは0.1〜2.5重量部が挙げられる。
【0033】
また、本発明のアミロイドβ凝集阻害剤が前記(A)、(B)及び(C)成分を含む場合、各成分の重量比は特に限定されないが、例えば、前記(A)成分1重量部に対し、前記(B)成分が0.1〜2.5重量部、前記(C)成分が0.1〜10重量部が挙げられる。特に好ましくは、前記(A)成分1重量部に対し、前記(B)成分が0.25〜0.5重量部、前記(C)成分が0.1〜2.5重量部が挙げられる。
【0034】
他の含有成分
本発明のアミロイドβ凝集阻害剤は、前記(A)〜(C)成分の他に、必要に応じて、他の栄養成分や薬理成分を含有していてもよい。このような栄養成分や薬理成分としては、飲食品や医薬品に使用可能なものであれば特に制限されないが、例えば、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン、リコペン等のビタミン類;塩酸ベタイン、塩化カルニチン、塩化ベタネコール等の健胃剤;カルシウム、イオウ、マグネシウム、亜鉛、セレン、鉄等のミネラル類;大豆タンパク、卵白粉末、乳清タンパク等のタンパク質;グリシン、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、シスチン、フェニルアラニン、タウリン、トリプトファン等のアミノ酸;リノール酸、γ−リノレン酸、α−リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸等の脂肪酸類;カラメル色素、クチナシ色素、アントシアニン色素、アナトー色素、パプリカ色素、紅花色素、紅麹色素、フラボノイド色素、コチニール色素、アマランス、エリスロシン、アルラレッドAC、ニューコクシン、フロキシン、ローズベンガル、アシッドレッド、タートラジン、サンセットイエローFCF、ファストグリーンFCF、ブリリアントブルーFCF、インジゴカルミン等の色素;各種フルーツのフレーバーやエッセンス等の香料;クエン酸及びその塩、リンゴ酸及びその塩、酒石酸及びその塩、酢酸及びその塩、乳酸及びその塩、食塩、グルタミン酸及びその塩、みりん、食酢、天然果汁、植物抽出エキス、果実・海産物等の裁断物又は粉末化物等の調味剤;アガリクス、シイタケエキス、レイシ、ヤマブシタケ等のキノコ類又はそのエキス;食物繊維、ローヤルゼリー、プロポリス、ハチミツ、コンドロイチン硫酸、グルコサミン、セラミド、ヒアルロン酸等のその他機能性素材等が挙げられる。これらの添加成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加成分の含有量については、使用する添加成分の種類や経口組成物の用途等に応じて適宜設定される。
【0035】
更に、本発明のアミロイドβ凝集阻害剤は、所望の製剤形態に調製するために、必要に応じて、基剤や添加剤等が含まれていてもよい。このような基剤及び添加剤としては、食品や医薬品に使用可能なものであれば特に制限されないが、例えば、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの添加成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの基剤や添加剤の含有量については、使用する添加成分の種類やアミロイドβ凝集阻害剤の用途等に応じて適宜設定される。
【0036】
剤型・用途・製剤形態
本発明のアミロイドβ凝集阻害剤の剤型については、特に制限されず、固体状、半固体状、又は液体状のいずれであってもよく、当該アミロイドβ凝集阻害剤の種類や用途に応じて適宜設定すればよい。
【0037】
本発明のアミロイドβ凝集阻害剤は、アミロイドβの凝集・蓄積を抑制するので、アルツハイマー型認知症の予防又は治療用途に好適に使用される。
【0038】
本発明のアミロイドβ凝集阻害剤は、経口、経腸、皮下等、任意の投与形態で使用できるが、摂取が容易であり、かつ効果が高い点で、経口摂取又は経口投与が好ましい。
【0039】
本発明のアミロイドβ凝集阻害剤の製剤形態については、特に限定されず、投与形態に応じて適宜選択すればよい。例えば、本発明のアミロイドβ凝集阻害剤の投与形態が経口摂取又は経口投与である場合は、経口摂取又は経口投与が可能であることを限度として特に制限されないが、具体的には、飲食品及び内服用医薬品が挙げられる。
【0040】
本発明のアミロイドβ凝集阻害剤を飲食品の製剤形態にする場合、前記(A)及び(B)、必要に応じて前記(C)成分を、そのまま又は他の食品素材や添加成分と組み合わせて所望の形態に調製すればよい。このような飲食品としては、一般の飲食品の他、特定保健用食品、機能性表示食品、栄養補助食品、病者用食品等が挙げられる。これらの飲食品の形態として、特に制限されないが、具体的にはカプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤)、錠剤、顆粒剤、粉剤、ゼリー剤等のサプリメント;栄養ドリンク、果汁飲料、炭酸飲料、乳酸飲料等の飲料;団子、アイス、シャーベット、グミ、キャンディー等の嗜好品等が例示される。これらの飲食品の中でも、好ましくはサプリメント、より好ましくはカプセル剤、錠剤、顆粒剤、粉剤、更に好ましくはカプセル剤、錠剤、顆粒剤、特に好ましくはソフトカプセル剤、錠剤が挙げられる。これらの飲食品は、アミロイドβの凝集・蓄積抑制用の飲食品、アミロイドβの凝集・蓄積の予防又は治療用の飲食品として好適に使用される。また、これらの飲食品は、アルツハイマー型認知症の症状の予防又は治療用の飲食品としても好適に使用される。
【0041】
本発明のアミロイドβ凝集阻害剤を内服用の医薬品の製剤形態にする場合、前記(A)及び(B)、必要に応じて前記(C)成分を、そのまま又は他の添加成分と組み合わせて所望の形態に調製すればよい。このような内服用の医薬品としては、具体的には、カプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤)、錠剤、顆粒剤、粉剤、ゼリー剤、シロップ剤等が挙げられる。これらの内服用の医薬品の中でも、好ましくは、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、粉剤、更に好ましくはカプセル剤、錠剤、顆粒剤、特に好ましくはソフトカプセル剤、錠剤が挙げられる。これらの内服用の医薬品は、アミロイドβの凝集・蓄積を抑制する用途に好適に使用される。また、アルツハイマー型認知症の予防又は治療用途にも好適に使用される。
【0042】
本発明のアミロイドβ凝集阻害剤は、日常的に摂取しやすく効果がより達成しやすくなる点で、飲食品であることが好ましい。本発明のアミロイドβ凝集阻害剤が飲食品である場合、予防目的での摂取が容易となる。
【0043】
本発明のアミロイドβ凝集阻害剤の摂取又は服用量については、特に限定されず、前記アミロイドβ凝集阻害剤の製剤形態、用途、前記(A)及び(B)成分の含有量等に応じて適宜設定されるが、例えば、成人の場合、前記(A)成分に換算して、1日あたり10mg〜2g、好ましくは100mg〜1gである。
【0044】
このように本発明のアミロイドβ凝集阻害剤は、優れたアミロイドβ凝集・蓄積の抑制作用を有する。そのため、本発明のアミロイドβ凝集阻害剤は、アルツハイマー型認知症の予防又は治療用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0045】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、本実施例において、各成分として下記のものを使用した。
フェルラ酸:商品名「フェルラ酸」(築野食品工業社製)
ホスファチジルセリン:商品名「ニチユPS30」(日油社製)
ホスファチジルコリン:商品名「L−α−ホスファチジルコリン」(ナカライテスク社製)
クルクミン:商品名「ロングヴィーダ」(オムニカ社製)
【0046】
試験例1 脳中のアミロイドβ量測定
1.実験動物の作製
老化促進モデルマウス(SAMP8)の雄マウス(6〜7月齢、体重25〜35g)を1群6匹に群分けし、表1及び2に示す所定の配合割合(重量%)となるようにフェルラ酸、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、クルクミンを食餌中に配合してマウスに与えた。食餌はMF飼料(オリエンタル酵母社製)を用いた。投与期間は3か月間とした。3か月間の1日平均摂餌量は3.1g/日であった。3か月間の投与期間経過後に、マウスの脳中のアミロイドβ量を測定した。
【0047】
2.アミロイドβ量の測定
投与期間が終了したマウスの脳から大脳皮質を摘出した。摘出した大脳皮質の湿重量を測定し、10倍量のRIPA溶液を添加してソニケーションした。その後、100,000×gで20分間遠心分離して上清を廃棄し、得られた沈殿物に、RIPA溶液と同量の70%ギ酸を添加してソニケーションし、Tris溶液(0.9M、pH10)で20倍量希釈して中和した。こうして得られたものを検体とし、Human β Amyloid(1−42)ELISA Kit(Wako社製)を用いて、脳摘出サンプル量1gあたりのアミロイドβ量を測定し、各群の平均値を算出した。得られたアミロイドβ量の値について、下記の基準に基づいて、アミロイドβ蓄積抑制効果を判定した。結果を表1及び2に示す。なお、表1及び2に示すフェルラ酸、クルクミン、ホスファチジルセリン、及びホスファチジルコリンの配合割合は、使用した各商品の配合割合ではなく、フェルラ酸、クルクミン、ホスファチジルセリン、及びホスファチジルコリン自体の実質的な配合割合である。
判定基準
◎◎:アミロイドβ量3500nmol/g未満
◎ :アミロイドβ量3500nmol/g以上4000nmol/g未満
○ :アミロイドβ量4000nmol/g以上4500nmol/g未満
× :アミロイドβ量4500nmol/g以上
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
表1及び2から、フェルラ酸、ホスファチジルセリン又はホスファチジルコリン、クルクミンをそれぞれ単独で摂取した場合は、アミロイドβ量が4500nmol/g以上であり(比較例1〜4)、何も摂取しない場合(参考例1)と比較して若干の減少がみられるか又はあまり相違がなく、アミロイドβの凝集・蓄積の抑制効果は見られなかった(比較例1〜4)。一方、フェルラ酸とホスファチジルセリン又はホスファチジルコリンを組み合わせて摂取した場合は、アミロイドβ量が4500nmol/g未満となり(実施例1〜17)、アミロイドβの凝集・蓄積抑制効果が見られた。また、フェルラ酸1重量部に対し、ホスファチジルセリン又はホスファチジルコリンが0.1〜0.25重量部の場合、アミロイドβの凝集・蓄積抑制効果が更に向上した(実施例2、3、6、7)。また、フェルラ酸、ホスファチジルセリンに、更にクルクミンを組み合わせると、2成分の場合よりアミロイドβの凝集・蓄積抑制効果が更に向上した(実施例11〜17)。また、フェルラ酸、ホスファチジルセリン、及びクルクミンを組み合わせて摂取した場合、フェルラ酸1重量部に対し、ホスファチジルセリンが0.25〜0.5重量部で、クルクミンが0.1〜2.5重量部である場合に、アミロイドβの蓄積抑制効果が極めて高くなった(実施例12〜15)。
【0051】
試験例2.作業記憶検査
1.被験者
50〜60歳の日常的な物忘れが気になる20名(各群5名)を被験者とした。
【0052】
2.試験方法
表3に示す配合の試験用製剤(1錠あたり200mgの錠剤)を調製した。
被験者に対し、まず試験用製剤の摂取開始前に作業記憶検査を行った。その後、被験者に、調製した試験用製剤(1000mg(5錠))を1日1回、計28日間服用させ、摂取期間終了後に再度作業記憶の検査を行った。
作業記憶検査はSerial three and serial seven subtraction tasksの方法を改良して、実施した。具体的には、最初に試験員が、800から999の間にある1つの数字を披験者に口頭で提示し、被験者は与えられた数字から7を暗算で引き続け、引いて得られた値を順に試験員に報告した。試験員は2分間における正解数を記録した。そして、以下の式に基づき、記憶力改善効果を算出し、各群における平均値を算出した。
【数1】
【0053】
結果を表3に示す。なお、表3に示すフェルラ酸、クルクミン、及びホスファチジルセリンの配合量は、使用した各商品の配合量ではなく、フェルラ酸、クルクミン、及びホスファチジルセリン自体の実質的な配合量である。
【0054】
【表3】
【0055】
表3から、少なくともフェルラ酸とホスファチジルセリンを含む製剤を摂取した場合(実施例18、19)は、製剤を全く摂取しない場合(参考例1)やフェルラ酸のみ含む製剤を摂取した場合(比較例5)に比べて、記憶力改善効果が極めて高くなることが示された。また、フェルラ酸とホスファチジルセリンに加えてクルクミンを含む製剤を摂取した場合(実施例19)は、記憶力改善効果が更に向上することが示された。
【0056】
[処方例]
下記表の組成に従って、常法により各経口組成物を作製した。
(錠剤)
表4及び5の組成に従って、錠剤を作製した。なお、表4及び5に示す組成は1錠(200mg)あたりの配合量である。1日量は5錠である。
【0057】
【表4】
【0058】
【表5】
【0059】
(液剤)
表6の配合組成に従って、液剤を作製した。処方例12の1日量は計1000000mgであり、処方例13の1日量は計250000mgである。
【0060】
【表6】
【0061】
(ソフトカプセル剤)
表7及び8の組成に従って、ソフトカプセル剤を作製した。表7及び8に示す組成は、1カプセルあたりの配合量(mg)である。1日量は1カプセルである。
【表7】
【0062】
【表8】
【0063】
また、使用した精製魚油と精製動植物油は、下記のとおりである。
精製魚油(EPA−28):日本水産株式会社製(エイコサペンタエン酸26.74重量%及びドコサヘキサエン酸11.8重量%含有)
精製動植物油(DDオイルDHA46):日本水産株式会社製(エイコサペンタエン酸5.12重量%及びドコサヘキサエン酸41.56重量%含有)