(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6903661
(24)【登録日】2021年6月25日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】アレルゲン検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20210701BHJP
G01N 30/06 20060101ALI20210701BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20210701BHJP
【FI】
G01N30/88 JZNA
G01N30/06 E
G01N27/62 X
G01N27/62 V
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-528848(P2018-528848)
(86)(22)【出願日】2017年7月20日
(86)【国際出願番号】JP2017026179
(87)【国際公開番号】WO2018016551
(87)【国際公開日】20180125
【審査請求日】2019年11月28日
(31)【優先権主張番号】特願2016-142994(P2016-142994)
(32)【優先日】2016年7月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関 友輔
【審査官】
倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】
特表2014−525588(JP,A)
【文献】
RAHMAN, A.M.A. et al.,Analysis of the allergic proteins in black tiger prawn (Penaeus monodon) and characterization of the major allergen tropomyosin using mass spectrometry,RAPID COMMUNICATIONS IN MASS SPECTROMETRY,2010年,vol. 24,pp. 2462-2470
【文献】
RAHMAN, A.M.A. et al.,Characterization and de novo sequencing of snow crab tropomyosin enzymatic peptides by both electrospary ionization and matrix-assisted laser desorption ionization QqToF tandem mass spectrometry,JOURNAL OF MASS SPECTROMETRY,2010年 3月 2日,vol.45,pp.372-381
【文献】
PARK, M.H. et al.,Proteomic Approach of the Protein Profiles during Seed Maturation in Common Buckwheat (Fagopyrum esculentum Moench.),Korean Journal of Plant Resources,2009年,Vol.22, No.3,pp.227-235
【文献】
永井宏幸 ほか,LC-MS/MSを用いたアレルギー物質検査法開発,岐阜県保健環境研究所報,2014年,Vol. 22,pp. 1-5
【文献】
ANSARI, P. et al.,Selection of possible marker peptides for the detection of major ruminant milk proteins in food by liquid chromatography-tandem mass spectrometry,ANALYTICAL BIOANALYTICAL CHEMISTRY,2011年,vol. 399,pp.1105-1115
【文献】
CHASSAIGNE, H. et al.,Proteomics-Based Approach To Detect and Identify Major Allergens in Processed Peanuts by Capillary LC-Q-TOF (MS/MS),JOURNAL OF AGRICULTURAL AND FOOD CHEMISTRY,vol. 55, no. 11,pp. 4461-4473
【文献】
LOCK, S. et al.,The Detection of Allergens in Bread and Pasta by Liquid Chromatography Tandem Mass Spectrometry,FOOD & ENVIRONMENTAL,2010年,pp.1-5,[online],[令和2年12月24日検索],インターネット<URL:https://sciex.com/Documents/brochures/Allergens-QTRAP4k_1830610.pdf>
【文献】
HON, L. et al.,Identification of the Major Allergen in Greasy-Back Shrimp (Metapenaeus ensis) by MALDI-TOF-MS,Journal of Ocean University of China,2010年,Vol.9,No.178-184
【文献】
YANO, M. et al.,Purification and Properties of Allergenic Proteins in Buckwheat Seeds,AGRICULTURAL BIOLOGICAL CHEMISTRY,1989年,vol. 53, no. 9,pp. 2387-2392
【文献】
NAGAI, H. et al.,Development of a Method for Crustacean Allergens UsingLiquid Chromatography/Tandem Mass Spectrometry,Journal of AOAC International,2015年10月,Vol. 98, No. 5,pp. 1355-1365
【文献】
KORTE, R. et al.,New High-Performance Liquid Chromatography Coupled Mass Spectrometry Method for the Detection of Lobster and Shrimp Allergens in Food Samples via Multiple Reaction Monitoring and Multiple Reaction Monitoring Cubed,JOURNAL OF AGRICULTURAL AND FOOD CHEMISTRY,2016年 7月 8日,vol. 64,pp. 6219-6227
【文献】
TAKAOKA, M. et al.,Changes in Proteome Patterns in Buckwheat Seed under Submergence,PROCEEDING OF THE 9TH INTERNATIONAL SYMPOSIUM ON BUCKWHEAT,2004年,pp.95-98
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 − 33/98
G01N 30/00 − 30/96
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のアレルゲンを検出する方法であって、
試料をタンパク質分解酵素で処理すること、および
クロマトグラフィー分離を利用した分析により、該酵素処理した試料中におけるアレルゲン由来ポリペプチドの存在の有無を検出することを含み、
該アレルゲンがソバを含み、
該アレルゲン由来ポリペプチドが配列番号4、6及び7で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上を含む、
方法。
【請求項2】
前記アレルゲンがソバおよび甲殻類を含み、
該アレルゲン由来ポリペプチドが、配列番号4、6及び7で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号8〜12で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上とを含む、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記アレルゲンがソバ、甲殻類、乳、卵およびラッカセイであり、前記アレルゲン由来ポリペプチドが、配列番号4、6及び7で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号8〜12で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号13〜17で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号18〜21で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号22〜24で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上とを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記アレルゲン由来ポリペプチドが、配列番号1〜7で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てを含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
試料中のアレルゲンを検出する方法であって、
試料をタンパク質分解酵素で処理すること、および
クロマトグラフィー分離を利用した分析により、該酵素処理した試料中におけるアレルゲン由来ポリペプチドの存在の有無を検出することを含み、
該アレルゲンが甲殻類を含み、
該アレルゲン由来ポリペプチドが、配列番号8〜12で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てを含む、
方法。
【請求項6】
前記アレルゲン由来ポリペプチドが、配列番号1〜12で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てを含む、請求項2記載の方法。
【請求項7】
前記アレルゲン由来ポリペプチドが、配列番号1〜24で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てを含む、請求項3記載の方法。
【請求項8】
前記クロマトグラフィー分離を利用した分析が液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC−MS/MS)である、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記タンパク質分解酵素がトリプシンである請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中のアレルゲンを検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食物アレルギーは、食物を原因とする免疫応答により、皮膚炎、喘息、胃腸管機能障害、アナフィラキシーショックなどの不利益な症状を引き起こす。食物アレルギーの原因となる食物の種類は様々であるが、特にえび、かに、小麦、そば、卵、乳および落花生の7品目は、アレルギー患者数が多く、また重篤なアレルギー症状を引き起こしやすい。
【0003】
アレルゲンとなる食品を原材料に含まない加工食品であっても、アレルゲンを含む加工食品と工場での製造ラインを共有していたり、または当該原材料の製造過程でアレルゲンを使用していたりした場合、最終製品にアレルゲンが混入している場合がある。わずかなアレルゲンの混入でも、食物アレルギーの患者にとっては危険である。食品等の試料中における微量のアレルゲンを検出することができる高感度なアレルゲン測定方法が求められている。
【0004】
高感度なアレルゲン測定方法として、特許文献1には、オボアルブミン、リゾチーム、カゼイン、ラクトグロブリン、高分子量グルテニン、低分子量グルテニン、コムギタンパク質、ライムギタンパク質、カラスムギタンパク質、オオムギタンパク質、カラシナタンパク質、ゴマタンパク質、マカダミアナッツタンパク質、ピスタチオナッツタンパク質、ブラジルナッツタンパク質、クルミタンパク質、ラッカセイタンパク質およびヘーゼルナッツタンパク質からなる群より選択されるアレルゲンを酵素分解して得られる特定の配列のペプチドをLC−MS/MSで検出する、試料中の上記アレルゲンを検出する方法が記載されている。特許文献2には、試料組成物からアレルゲンを含む抽出液を形成し、該抽出液中のアレルゲンの量をLC−UV/MSまたはLC−MSを使用して測定する、組成物中のアレルゲン含有量を測定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2014−525588号公報
【特許文献2】特表2013−539039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
食品等の試料中におけるアレルゲン(特にソバまたは甲殻類)の存在を高感度に検出することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、各アレルゲンについて、それに含まれる特定のアミノ酸配列を検出することにより、当該アレルゲンの存在を高感度に検出することができることを見出した。
【0008】
したがって、本発明は、試料中のアレルゲンを検出する方法であって、
試料をタンパク質分解酵素で処理すること、および
クロマトグラフィー分離を利用した分析により、該酵素処理した試料中におけるアレルゲン由来ポリペプチドの存在の有無を検出することを含み、
該アレルゲンが、ソバ、甲殻類、乳、卵およびラッカセイからなる群より選択される1種以上である、
方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、食品等の試料中における微量のアレルゲン(特にソバまたは甲殻類)の存在を検出することができる、高感度なアレルゲン検出方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ソバアレルゲンのトリプシン消化物についてのLC−MS/MS分析結果。
【
図2】甲殻類アレルゲンのトリプシン消化物についてのLC−MS/MS分析結果。
【
図3】ソバアレルゲン含有小麦粉のトリプシン消化物についてのLC−MS/MS分析結果。上;ソバアレルゲン無添加小麦粉、下;ソバアレルゲン添加小麦粉。
【
図4】甲殻類アレルゲン含有小麦粉のトリプシン消化物についてのLC−MS/MS分析結果。上;甲殻類アレルゲン無添加小麦粉、下;甲殻類アレルゲン添加小麦粉。
【
図5】乳アレルゲンについてのLC−MS/MS分析結果。
【
図6】卵アレルゲンについてのLC−MS/MS分析結果。
【
図7】ラッカセイアレルゲンについてのLC−MS/MS分析結果。
【
図8】乳添加パンにおけるカゼインについてのLC−MS/MS分析結果。
【
図9】ラッカセイ添加パンにおけるAra h1またはh3についてのLC−MS/MS分析結果。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、試料中のアレルゲンを検出する方法を提供する。本発明の方法によれば、ソバ、甲殻類、乳、卵およびラッカセイからなる群より選択される1種以上のアレルゲンを検出することができる。好ましい実施形態において、本発明の方法により検出されるアレルゲンは、少なくともソバおよび甲殻類からなる群より選択される1種以上であり、より好ましくはソバおよび甲殻類からなる群より選択される1種以上であり、さらに好ましくは、ソバまたは甲殻類のいずれかである。あるいは、本発明の方法により検出されるアレルゲンは、少なくともソバを含み、例えば、ソバ単独、ソバおよび甲殻類、またはソバ、甲殻類、乳、卵およびラッカセイであり得る。
【0012】
本発明において、アレルゲン検出に供する対象物の例としては、食品、化粧品、医薬品、それらの原材料、それらの製造工程で使用する機器類、などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの対象物を、通常の前処理、例えば粉砕、溶解、懸濁、抽出等、もしくはそれらの組み合わせにかけたものを、本発明の方法の試料として用いることができる。あるいは、対象物が機器類の場合、その洗浄液やふき取り検体など、またはそれらを粉砕、溶解、懸濁、抽出等、もしくはそれらの組み合わせにかけたものを、本発明の方法の試料として用いることができる。なお、本発明の方法に用いる試料の調製方法は、上記に限定されず、次に述べるタンパク質分解酵素処理のための試料の調製に用いることができるあらゆる方法を包含し得る。
【0013】
本発明の方法においては、調製した試料を、タンパク質分解酵素で処理する。本発明の方法で用いられるタンパク分解酵素の例としては、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、テルモリシンなどが挙げられ、好ましくはトリプシンである。処理の条件は、酵素の種類に応じて適宜選択すればよいが、例えばトリプシンの場合、酵素濃度1000〜20000U、25〜45℃、pH7〜9程度で4〜24時間が好ましい。当該酵素処理は、標的のアレルゲンのタンパク質分子を分解して、該アレルゲンに由来するポリペプチドを生成する。したがって、試料中に標的のアレルゲンが含まれていれば、上記酵素処理後の試料は、標的アレルゲンに由来するポリペプチドを含む。一方、試料中に標的のアレルゲンが含まれていなければ、上記酵素処理後の試料は、標的アレルゲンに由来するポリペプチドを含まない。
【0014】
したがって、上記タンパク分解酵素で処理した試料中における標的アレルゲン由来ポリペプチドの存在の有無を検出することにより、該試料中における標的アレルゲンの存在の有無を判定することができる。
【0015】
ソバについては、ソバ22kDaタンパク質分子(配列番号25)の分解産物を、アレルゲン由来ポリペプチドとして検出することができる。本発明の方法の好ましい実施形態においては、アレルゲンがソバの場合、下記配列番号1〜7のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを、アレルゲン由来ポリペプチドとして検出する。
VQVVGDEGR (配列番号1)
SVFDDNVQR (配列番号2)
GQILVVPQGFAVVLK(配列番号3)
EGLEWVELK (配列番号4)
NFFLAGQSK (配列番号5)
GFIVQAR (配列番号6)
NDDNAITSPIAGK (配列番号7)
本発明の方法においては、上記配列番号1〜7で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上の有無が検出されればよいが、好ましくはそれらのポリペプチドの全ての有無が検出される。
【0016】
カニ、エビなどの甲殻類については、トロポミオシンの分解産物を、アレルゲン由来ポリペプチドとして検出することができる。本発明の方法の好ましい実施形態においては、アレルゲンが甲殻類の場合、下記配列番号8〜12のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを、アレルゲン由来ポリペプチドとして検出する。
IQLLEEDLER(配列番号8)
MDALENQLK (配列番号9)
FLAEEADR (配列番号10)
IVELEEELR (配列番号11)
LAMVEADLER(配列番号12)
本発明の方法においては、上記配列番号8〜12で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上の有無が検出されればよいが、好ましくはそれらのポリペプチドの全ての有無が検出される。
【0017】
アレルゲンがソバおよび甲殻類の場合、検出されるアレルゲン由来ポリペプチドは、好ましくは配列番号1〜7で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号8〜12で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上であり、より好ましくは、配列番号1〜12で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てである。
【0018】
乳については、カゼインまたはβラクトグロブリン(BLG)の分解産物を、アレルゲン由来ポリペプチドとして検出することができる。本発明の方法の好ましい実施形態においては、アレルゲンが乳の場合、下記配列番号13〜17のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを、アレルゲン由来ポリペプチドとして検出する。下記ポリペプチドのうち、配列番号13〜15はカゼイン由来ポリペプチドであり、配列番号16〜17はBLG由来ポリペプチドである。
FFVAPFPEVFGK(配列番号13)
YLGYLEQLLR (配列番号14)
NAVPITPTLNR (配列番号15)
VLVLDTDYK (配列番号16)
TPEVDDEALEK (配列番号17)
本発明の方法においては、上記配列番号13〜17で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上の有無が検出されればよいが、好ましくはそれらのポリペプチドの全ての有無が検出される。カゼインについては、好ましくは配列番号13〜15で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上、より好ましくはそれらのポリペプチドの全ての有無が検出され、BLGについては、好ましくは配列番号16〜17で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上、より好ましくはそれらのポリペプチドの全ての有無が検出される。
【0019】
卵については、オボアルブミンの分解産物を、アレルゲン由来ポリペプチドとして検出することができる。本発明の方法の好ましい実施形態においては、アレルゲンが卵の場合、下記配列番号18〜21のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを、アレルゲン由来ポリペプチドとして検出する。
YPILPEYLQCVK (配列番号18)
ELINSWVESQTNGIIR(配列番号19)
LTEWTSSNVMEER (配列番号20)
HIATNAVLFFGR (配列番号21)
本発明の方法においては、上記配列番号18〜21で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上の有無が検出されればよいが、好ましくはそれらのポリペプチドの全ての有無が検出される。
【0020】
ラッカセイについては、Ara h1-3の分解産物を、アレルゲン由来ポリペプチドとして検出することができる。本発明の方法の好ましい実施形態においては、アレルゲンがラッカセイの場合、下記配列番号22〜24のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを、アレルゲン由来ポリペプチドとして検出する。下記ポリペプチドのうち、配列番号22〜23はAra h1由来ポリペプチドであり、配列番号24はAra h3由来ポリペプチドである。
DLAFPGSGEQVEK (配列番号22)
VLLEENAGGEQEER(配列番号23)
SPDIYNPQAGSLK (配列番号24)
本発明の方法においては、上記配列番号22〜24で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上の有無が検出されればよいが、好ましくはそれらのポリペプチドの全ての有無が検出される。Ara h1については、好ましくは配列番号22〜23で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上、より好ましくはそれらのポリペプチドの全ての有無が検出され、Ara h3については、好ましくは配列番号24で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの有無が検出される。
【0021】
したがって、アレルゲンがソバ、甲殻類、乳、卵およびラッカセイの場合、検出されるアレルゲン由来ポリペプチドは、好ましくは配列番号1〜7で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号8〜12で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号13〜17で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号18〜21で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上と、配列番号22〜24で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのいずれか1種以上であり、より好ましくは、配列番号1〜24で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの全てである。
【0022】
上記タンパク分解酵素で処理した試料中における標的アレルゲン由来ポリペプチドの存在の有無を検出する手段としては、クロマトグラフィー分離を利用した分析が好適である。クロマトグラフィー分離を利用した分析としては、液体クロマトグラフィー−質量分析、例えば、液体クロマトグラフィータンデム型質量分析(LC−MS/MS)、液体クロマトグラフィー飛行時間型質量分析(LC−TOF/MS)などが挙げられる。測定精度(S/N比)が高くかつ複数ペプチドを一度に検出できることから、LC−MS/MSを用いた多重反応モニタリング(MRM)が好ましい。
【0023】
本発明の方法において、標的アレルゲン由来ポリペプチドの検出に用いるクロマトグラフィーとしては、液体クロマトグラフィー(LC)が好ましく、逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)がより好ましい。また好ましくは、該LCは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)であり、さらに好ましくはRP−HPLCである。RPLC用の担体としては、シリカゲルやポリマーゲル基材に炭化水素鎖(好ましくはオクタデシル基)を結合した充填剤を有する担体、例えばC18カラム、C8カラムなどが挙げられる。該LCの移動相(溶離液)は、目的の各アレルゲン由来ポリペプチドを個別に分離することができるものであればよく、例えば、ギ酸水溶液(A)とギ酸アセトニトリル水溶液(B)との100:0〜0:100(体積比)グラジエント溶液が挙げられるが、これに限定されない。
【0024】
液体クロマトグラフィー−質量分析においては、上記LCの溶出物を質量分析(MS/MS、TOF/MS等)にかける。質量分析は、タンデム四重極型質量分析装置、飛行時間型質量分析装置等の公知の質量分析装置を用いて、ペプチドの検出に用いられる通常の条件に従って実施することができる。例えば、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)または大気圧化学イオン化法(APCI)を用いた多重反応モニタリング(MRM)が好ましい。質量分析では、溶出物中の各ポリペプチドは、質量数/電荷(m/z)に従って分離される。例えば、目的のポリペプチドのm/z値を予めデータベース化しておくことにより、測定されたm/z値に基づいて、試料中における目的のポリペプチドの有無を検出することができる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
(試薬)
アセトニトリル(和光純薬工業、特級、HPLC用)
トリプシン(和光純薬工業、ブタ脾臓由来 生化学分析用)
ヨードアセトアミド(IA)(和光純薬工業、生化学分析用)
ジチオスレイトール(DTT)(和光純薬工業、生化学分析用)
尿素(和光純薬工業、特級)
トリフルオロ酢酸(TFA)(純正化学 特級)
(緩衝液)
A:0.1MDTT_0.5MTris−HCl_4M尿素(pH8.2)緩衝液
B:0.5MTris−HCl_2M尿素(pH8.2)緩衝液
【0027】
参考例1 アレルゲン含有試料の調製
検体0.5gを15mLディスポ試験管に採取し、緩衝液A(試験例1〜3)または緩衝液B(試験例4〜5)を5mL加え、3時間(試験例1〜3)または5時間(試験例4〜5)振とう抽出した。得られた反応物を3000rpmで5分間遠心分離し、上清を回収した。
【0028】
実施例1 LC−MS/MSによるトリプシン消化物の分析
1)トリプシン消化
アレルゲン分子1mgまたは参考例1で調製した上清0.25mLを1.5mL用ポリチューブに採取し、緩衝液A(試験例1〜3)または緩衝液B(試験例4〜5)を0.25mL加えて完全に溶解させた。得られた溶液に40mg/mL DTT50μLを加えて、37℃で90分間インキュベートし、次いで40mg/mL IA50μLを加えて、37℃で30分間、遮光化でインキュベートした。反応液に50mM炭酸水素ナトリウム600μLを加え、次いで10mg/mLトリプシン50mM炭酸水素ナトリウム溶液を100μL加え、37℃で16時間インキュベートした(pH7〜9)。反応後、TFA10μLを加えてトリプシンを失活させた。
【0029】
2)脱塩
OASIS HLB(3cc、60mg;Waters)をメタノール1mLおよび水2mLでコンディショニングした。これに1)で得られた反応液の全量を滴下した後、水1mLで洗浄し、次いで60%アセトニトリル1mLにより溶出した。
【0030】
3)LC−MS/MSによる多重反応モニタリング(MRM)
2)で得られた溶出物を、40℃で窒素乾固後、25%アセトニトリル0.2mLに溶解させた。得られた溶液をフィルターろ過後、下記条件にてLC−MS/MS MRMを行った。
【0031】
(LC−MS/MS装置)
HPLC:Shimadzu NexeraX2
MS/MS:ABSCIEX QTRAP5500
(HPLC条件)
カラム:Kinetik C18 150mm×2.1mm、粒径2.6μm
カラム温度:50℃
カラム流量:0.3mL
溶離液A:0.1%ギ酸;溶離液B:0.1%ギ酸アセトニトリル
グラジエント:A:B 95:5(0min)→40:60(20min)→20:80(50min)→95:5(55min)→95:5(90min)
(質量分析条件)
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化法
極性:ポジティブ
スプレー電圧:5500V
ターボヒーター温度:450℃
【0032】
試験例1 ソバアレルゲンの検出
22kDaタンパク質(配列番号25)を標的アレルゲン分子として、表1に示す条件でLC−MS/MS MRMにより標的アレルゲン由来ポリペプチドを検出した。結果を
図1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
試験例2 甲殻類アレルゲンの検出
トロポミオシン(配列番号26)を標的アレルゲン分子として、表2に示す条件でLC−MS/MS MRMにより標的アレルゲン由来ポリペプチドを検出した。結果を
図2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
試験例3 食品組成物からのソバアレルゲンおよび甲殻類アレルゲンの検出
ソバまたは甲殻類(エビパウダー)を0.01質量%添加した小麦粉から、参考例1に従ってアレルゲン含有試料を調製した。得られた試料を、実施例1に従ってトリプシン消化、脱塩およびLC−MS/MS MRMにかけ、標的アレルゲン由来ポリペプチドを検出した。対照として、ソバまたは甲殻類無添加小麦粉を用いて同様の分析を行った。検出するソバおよび甲殻類のアレルゲン由来ポリペプチド、およびLC−MS/MS分析の条件は、それぞれ表1および表2と同じとした。測定結果を
図3および4に示す。
【0037】
試験例4 乳、卵およびラッカセイアレルゲンの検出
全粉乳、全卵粉およびラッカセイ粉のそれぞれから、参考例1に従ってアレルゲン含有試料を調製した。各試料を、実施例1の1)〜3)に従ってトリプシン消化、脱塩およびLC−MS/MS MRMにかけ、標的アレルゲン由来ポリペプチドを検出した。全粉乳、全卵粉およびラッカセイ粉のそれぞれについての標的アレルゲン分子、および検出したアレルゲン由来ポリペプチドを、表3〜5に示す。全粉乳、全卵粉およびラッカセイ粉のいずれのアレルゲンも、LC−MS/MS分析で検出することができた(
図5〜7)。
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】
【表5】
【0041】
試験例5 食品組成物からの乳およびラッカセイアレルゲンの検出
全粉乳および落花生粉のいずれかを添加したパン(添加パン;添加量0.84質量%)、ならびに乳および落花生を含まないパン(無添加パン)を製造した。添加パンと無添加パンを混合し、100倍希釈添加パン(全粉乳および落花生粉の添加量0.0084質量%)を調製した。得られた100倍希釈添加パンに含まれる乳またはラッカセイアレルゲン(カゼインおよびAra hを含むラッカセイ可溶性タンパク質)の濃度をELISA法にて測定した(定量下限値1ppm)。測定結果を表6に示す。
【0042】
【表6】
【0043】
次に、無添加パンおよび100倍希釈添加パンから参考例1に従ってアレルゲン含有試料を調製した。得られた試料を、実施例1に従ってトリプシン消化、脱塩およびLC−MS/MS MRMにかけ、標的アレルゲン由来ポリペプチドを検出した。検出対象には、乳についてはカゼイン由来ポリペプチド(配列番号13〜15)、ラッカセイについてはAra h1またはh3由来ポリペプチド(配列番号22〜24)を選択した。
【0044】
その結果、100倍希釈添加パンについて、乳アレルゲン(カゼイン)およびラッカセイアレルゲン(Ara h1またはh3)のピークを十分な感度で確認することができた(
図8および9)。さらに、500倍希釈添加パンを用いての同様のLC−MS/MS MRM測定でも、ピークのS/Nが10以上あることが確認された。他方、無添加パンではピークは確認されなかった。したがって、本発明の方法によれば、ELISA法と同等の測定感度(定量下限値1ppm)でアレルゲンを検出することができる。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]