特許第6903677号(P6903677)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6903677脂肪酸および脂肪酸グリセリドに基づく粉末潤滑剤ならびにその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6903677
(24)【登録日】2021年6月25日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】脂肪酸および脂肪酸グリセリドに基づく粉末潤滑剤ならびにその使用
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20210701BHJP
   C10M 105/24 20060101ALN20210701BHJP
   C10M 129/74 20060101ALN20210701BHJP
   C10M 135/10 20060101ALN20210701BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20210701BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20210701BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20210701BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20210701BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20210701BHJP
   C10N 40/24 20060101ALN20210701BHJP
   C10N 50/08 20060101ALN20210701BHJP
【FI】
   C10M169/04
   !C10M105/24
   !C10M129/74
   !C10M135/10
   C10N10:02
   C10N10:04
   C10N20:00 Z
   C10N30:00 Z
   C10N30:06
   C10N40:24 A
   C10N50:08
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-541496(P2018-541496)
(86)(22)【出願日】2016年10月13日
(65)【公表番号】特表2018-538424(P2018-538424A)
(43)【公表日】2018年12月27日
(86)【国際出願番号】EP2016074559
(87)【国際公開番号】WO2017076596
(87)【国際公開日】20170511
【審査請求日】2019年10月11日
(31)【優先権主張番号】15193037.7
(32)【優先日】2015年11月4日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】391008825
【氏名又は名称】ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】ヘリット・ヤン・オディンク
(72)【発明者】
【氏名】アモル・チンチョーレ
【審査官】 黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−269092(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/132053(WO,A1)
【文献】 特開昭51−115507(JP,A)
【文献】 特開平01−153793(JP,A)
【文献】 特開2000−063880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C10N 10/00− 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑性粉末であって、
a)60重量%を超える少なくとも1種の脂肪酸のアルカリ金属塩と、
b)少なくとも1種の脂肪酸モノ-、ジ-、またはトリグリセリドと
を含み、
成分b)がアルコキシル化脂肪酸に基づくトリグリセリドを含み、アルコキシル化度が少なくとも20であるが50以下であり、成分a)による化合物の成分b)の化合物に対する重量比が30以下である、潤滑性粉末。
【請求項2】
成分a)による化合物の成分b)による化合物に対する重量比が、少なくとも6である、請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
成分a)による前記少なくとも1種の脂肪酸のアルカリ金属塩が、C10-C22脂肪酸のアルカリ金属塩から選択される、請求項1および2のいずれかに記載の粉末。
【請求項4】
成分a)による化合物の量が、前記粉末の全組成物を基準にして、少なくとも70重量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の粉末。
【請求項5】
成分b)が、ジ-またはトリグリセリドから選択される、請求項1〜4のいずれかに記載の粉末。
【請求項6】
成分b)が、C10-C22脂肪酸に基づくモノ-、ジ-、またはトリグリセリドから選択される、請求項1〜5のいずれかに記載の粉末。
【請求項7】
成分b)が、80〜100g I2/100gのヨウ素価を有する非アルコキシル化脂肪酸に基づくトリグリセリドをさらに含む、請求項6に記載の粉末。
【請求項8】
アルコキシル化トリグリセリドの全割合が、成分b)による化合物の総量を基準にして、少なくとも20重量%になる、請求項7に記載の粉末。
【請求項9】
成分b)による化合物の量が、前記粉末の全組成物を基準にして、少なくとも2重量%である、請求項1〜8のいずれかに記載の粉末。
【請求項10】
少なくとも1種のアルカリ金属リグノスルホネートが、成分c)としてさらに含まれる、請求項1〜9のいずれかに記載の粉末。
【請求項11】
少なくとも1つの極圧添加剤が、成分d)としてさらに含まれる、請求項1〜10のいずれかに記載の粉末。
【請求項12】
少なくとも1種の有機溶媒が、成分e)としてさらに含まれる、請求項1〜11のいずれかに記載の粉末。
【請求項13】
アルミニウム部品の冷間成形のための請求項1〜12のいずれかに記載の潤滑性粉末の使用。
【請求項14】
アルミニウム缶の製造方法であって、以下の工程
a)多数のアルミニウム平板および請求項1〜12のいずれかに記載の潤滑性粉末を1つの容器に入れる工程と;
b)前記アルミニウム平板を前記潤滑性粉末の潤滑性膜で被覆するために、前記容器を振動または転動する工程と;
c)打ち抜きによって前記アルミニウム平板を缶に深絞りする工程と;必要に応じて、
d)前記アルミニウム缶を、洗浄および脱脂する工程と
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
基礎となる発明は、深絞りプロセスにおけるアルミニウム缶の製造に特に有用な粉末形態の乾式潤滑剤組成物にあり、成形されたアルミニウム缶は、直ちにさらに加工され、薄い無機および/または有機保護被膜を得る。潤滑性粉末(潤滑剤粉末)は、脂肪酸のアルカリ金属塩と脂肪酸グリセリドとの混合物に基づく。本発明はまた、アルミニウムの冷間成形のための潤滑性粉末の使用、およびアルミニウム缶の深絞りのための方法を包含する。
【背景技術】
【0002】
缶製造業内では、アルミニウム平板の深絞りは、十分に確立されたプロセスである。このような深絞りプロセスにおいて、アルミニウム材料と成形工具、例えば、硬質鋼または炭化タングステン製のパンチおよびダイとの接触領域での摩擦を補償することが必要である。金属石鹸に基づく多様な組成物は、金属の冷間加工を支持することが知られている。潤滑成分は、多くの場合、液体ビヒクル中に分散または溶解され、したがって、低粘度の液体またはより厚いペーストを形成し得る。成形工具と成形される金属との間の摩擦を効果的に補償するためには、高い均一性および完全性を有する薄い潤滑性膜を冷間成形プロセス中に確立できることが重要である。したがって、潤滑剤の均質な塗布は、潤滑をうまく達成するための第1の前提条件である。潤滑特性を有する物質自体は周知であるが、液体ビヒクル中に含有されているとき、これらの物質を均質に塗布することは困難になる。さらに、揮発性液体のフラッシュ蒸発によって引き起こされる金属中のあらゆる欠陥を回避するために、冷間成形工程の前に本質的に全ての揮発性材料を除去することが必須である。一方、室温でほとんど固体であるそのような潤滑物質は、多くの場合、環境問題を起こすか、またはそれ自体危険である。したがって、潤滑特性自体を改善するだけでなく、産業仕様を満たすために要求される冷間成形を行うのに必要な潤滑材料の量を減少させるとともに、適用性を継続して改善する必要がある。別の問題は、成形された金属表面上の残りの潤滑性膜の除去にある。潤滑剤組成物の種類および塗装などの冷間成形工程後のさらなる処理工程の存在に依存して、除去方法は、本質的に異なってもよく、純粋な物理的な処理からほぼ純粋な化学的な処理まで選択することができる。
【0003】
例えば、欧州特許第0638116 B号は、不活性揮発性液体有機ビヒクル中に飽和脂肪族一価アルコールを含む、アルミニウムの金属加工のための液体潤滑剤組成物を開示している。アルミニウム平板を液体潤滑剤組成物に浸漬した後、湿潤膜を乾燥させることにより、冷間成形工程後、アニール時に除去可能な薄い潤滑性膜が得られる。
【0004】
米国特許第2012/0302472 A1号は、カルシウム石鹸および等速ジョイントシャフト、転がり軸受、およびギアボックスに好適な液体ビヒクルとしての基油をさらに含むリグノスルホン酸カルシウムに基づく耐水性潤滑グリースを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許第0638116号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2012/0302472号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この先行技術に基づいて、本発明の目的は、深絞りプロセスを支持するために必要な潤滑材料が少量でありながら、容易に塗布することができるアルミニウム部品の深絞りに好適な潤滑剤を確立することにある。深絞りアルミニウム部品は、多くの場合、保護層で被覆され、このため冷間成形プロセス後に洗浄する必要があるという事実からさらに必要性が生じる。結果として、本発明の好適な潤滑剤はまた、従来の水性洗浄剤で金属表面から除去し易い特性を有していなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
根本的な問題は、
a)60重量%を超える少なくとも1種の脂肪酸のアルカリ金属塩と、
b)少なくとも1種の脂肪酸モノ-、ジ-、またはトリグリセリドと
を含み、成分a)による化合物の成分b)の化合物に対する重量比が30以下である潤滑性粉末によって解決される。
すなわち、本発明の好ましい態様は以下を包含する。
〔1〕潤滑性粉末であって、
a)60重量%を超える少なくとも1種の脂肪酸のアルカリ金属塩と、
b)少なくとも1種の脂肪酸モノ-、ジ-、またはトリグリセリドと
を含み、成分a)による化合物の成分b)の化合物に対する重量比が30以下である、潤滑性粉末。
〔2〕成分a)による化合物の成分b)による化合物に対する重量比が、少なくとも6、好ましくは少なくとも8である、〔1〕に記載の粉末。
〔3〕前記少なくとも1種の脂肪酸の塩が、C10-C22脂肪酸、好ましくは1つ以下の不飽和炭素-炭素結合を有する脂肪酸、より好ましくは飽和脂肪酸、特に好ましくはステアレートから選択される、〔1〕および〔2〕のいずれかに記載の粉末。
〔4〕成分a)による化合物の量が、前記粉末の全組成物を基準にして、少なくとも70重量%、好ましくは少なくとも75重量%であるが、好ましくは95重量%未満、より好ましくは90重量%未満である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の粉末。
〔5〕成分b)が、ジ-またはトリグリセリド、より好ましくはトリグリセリドから選択される、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の粉末。
〔6〕成分b)が、C10-C22脂肪酸、好ましくはC14-C20脂肪酸に基づくモノ-、ジ-、またはトリグリセリドから選択され、また前記グリセリドが、好ましくは50〜130、より好ましくは70〜95のヨウ素価を有する、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の粉末。
〔7〕成分b)が、アルコキシル化、好ましくはエトキシル化、および/またはプロポキシル化脂肪酸に基づくトリグリセリドを含み、アルコキシル化度が、少なくとも20、より好ましくは少なくとも30であるが、50以下である、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の粉末。
〔8〕成分b)が、80〜100g I2/100gのヨウ素価を有する非アルコキシル化脂肪酸に基づくトリグリセリドをさらに含む、〔7〕に記載の粉末。
〔9〕アルコキシル化トリグリセリドの全割合が、成分b)による化合物の総量を基準にして、少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも40重量%、より好ましくは少なくとも60重量%になる、〔7〕または〔8〕のいずれかに記載の粉末。
〔10〕成分b)による化合物の量、好ましくはトリグリセリドから選択される成分b)による化合物の量、より好ましくはC10-C22脂肪酸に基づくトリグリセリドから選択される成分b)による化合物の量、さらにより好ましくは50〜130、好ましくは70〜95のヨウ素価を有するC10-C22脂肪酸に基づくトリグリセリドから選択される成分b)による化合物の量が、前記粉末の全組成物を基準にして、少なくとも2重量%、好ましくは少なくとも4重量%、より好ましくは少なくとも6重量%であるが、好ましくは20重量%以下、より好ましくは15重量%以下である、〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の粉末。
〔11〕少なくとも1種のアルカリ金属リグノスルホネートが、前記粉末の全組成物を基準にして、好ましくは少なくとも0.1重量%、少なくとも0.2重量%であるが、好ましくは5重量%未満の量で、成分c)としてさらに含まれる、〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の粉末。
〔12〕ジアルキルジチオホスフェート、より好ましくは各アルキル鎖中に12個以下の炭素原子を有するジアルキルジチオリン酸ナトリウムおよび/またはジアルキルジチオリン酸亜鉛から選択される少なくとも1つの極圧添加剤が、前記粉末の全組成物を基準にして、好ましくは1〜8重量%、より好ましくは2〜5重量%の量で、成分d)としてさらに含まれる、〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の粉末。
〔13〕好ましくは少なくとも180kJ/molのET(30)値を有する、水素、酸素、および炭素から選択される元素からなる有機化合物から選択される少なくとも1種の有機溶媒が、前記粉末の全組成物を基準にして、好ましくは少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも2重量%であるが、好ましくは10重量%未満、より好ましくは8重量%未満、特に好ましくは5重量%未満の量で、成分e)としてさらに含まれる、〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載の粉末。
〔14〕アルミニウム部品の冷間成形のための〔1〕〜〔13〕のいずれかに記載の潤滑性粉末の使用。
〔15〕アルミニウム缶の製造方法であって、以下の工程
a)多数のアルミニウム平板および〔1〕〜〔13〕のいずれかに記載の潤滑性粉末を1つの容器に入れる工程と;
b)前記アルミニウム平板を前記粉末潤滑剤の潤滑性膜で被覆するために、前記容器を振動または転動する工程と;
c)打ち抜きによって前記アルミニウム平板を缶に深絞りする工程と;必要に応じて、
d)前記アルミニウム缶を、好ましくは水系洗浄剤によって洗浄および脱脂する工程と
を含む、方法。
【0008】
このような潤滑性粉末は、円盤状のアルミニウムシートから円筒形の缶を成形するなど、特にアルミニウムの深絞りにおいて優れた潤滑性を示す。このような深絞りは、比較的少量の潤滑剤で達成することができる。さらに、冷間成形品の表面に付着する潤滑性粉末に由来する固体は、水性洗浄剤ですすぐことによって容易に除去することができる。
【0009】
別の利点は、振動および転動などの従来の手段による金属平板への本発明の粉末の適用性にある。後続の深絞りプロセスを支持するのに十分な粉末塗料を塗布する前記プロセス中に、金属平板に作用する摩擦および摩耗時の金属粉塵の形成を著しく減少させることができる。金属粉塵の減少は、材料の損失を最小限に抑えるとともに、呼吸する空気中の金属粉塵粒子含有量を確実に最小限にするために望ましい。別の態様において、金属粉塵の減少はまた、粉末塗料に付着し、深絞り時に金属部分の表面に引っ掻き傷を生じさせ、それにより打ち抜き工具の寿命を短くすることが多い緩い金属粒子の量を減少させる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明による粉末は、少なくとも1つの粉砕固体を含む固体混合物であると理解されるべきであり、また固体混合物は、注入に好適である。25℃未満の軟化点を有する粉砕固体の含有量が、固体混合物を基準にして5重量%未満である場合、少なくとも1つの粉砕固体からなる固体混合物は、通常、注ぐのに好適である。本発明の粉末は、粉末および金属部品を含む容器の振動または転動により金属部品に容易に付着させることができる。好ましい実施形態において、固体粒子から構成される潤滑性粉末は、100μm未満、好ましくは60μm未満のD50値を有する。いずれにしても、冷間成形プロセス中に高い均一性および完全性を有する潤滑性膜の形成を確実にするために、潤滑性粉末のD50値が少なくとも1μm、好ましくは少なくとも5μm、より好ましくは少なくとも10μmであることが好ましい。D50値は、粉末の全固体粒子の50体積%が、所与の値未満の直径を有することを示す。D50値は、静的光回折法で測定した累積粒径分布および60μm超の粒径を有する固体部分を測定するためのふるい分析から得ることができる。
【0011】
成分a)によるアルカリ金属塩は、好ましくはリチウム塩、カリウム塩、および/またはナトリウム塩、より好ましくはナトリウム塩から選択される。
【0012】
成分a)に関して、本発明の潤滑性粉末が、C10-C22脂肪酸、より好ましくは1つ以下の不飽和炭素-炭素二重結合を有するそのC10-C22脂肪酸、さらにより好ましくは飽和C10-C22脂肪酸、特に好ましくはアルカリ金属ステアレートを含むことが一般的に好ましい。
【0013】
本発明の文脈において、C10-C22またはC14-C20脂肪酸は、カルボキシル官能性を構成する炭素原子を除く最長のアルキル鎖中に10〜22個または14〜20個の炭素原子を含有する。
【0014】
本発明の潤滑性粉末内において、成分a)による化合物の量は、高効率で粉末を確立するために、好ましくは少なくとも70重量%、より好ましくは少なくとも75重量%、さらにより好ましくは少なくとも80重量%である。成分a)の量は、成分a)による化合物の量が、粉末の全組成物を基準にして、好ましくは95重量%未満、より好ましくは90重量%未満となるように、成分b)による脂肪酸グリセリドの必須量および潤滑性粉末の全性能に寄与する任意の添加剤によってのみ制限される。
【0015】
このような量の粉末が金属部分に確実に付着し、深絞りプロセス中に潤滑性膜を形成するのに十分となるには、一定量の脂肪酸グリセリドが必須である。さらに、ある特定の脂肪酸グリセリドの存在は、特に潤滑剤の組成に従来の添加剤が含有されているとき、深絞りプロセスの条件下で非常に均質化された潤滑性膜を構成するのにも役立つ。この挙動は、潤滑性粉末の特性をさらに支持し、本発明の粉末で得られた均質な潤滑被膜のおかげで、成形される金属と成形工具との融合を防止することができるので、深絞り条件下で優れた潤滑特性を示す。いずれにしても、脂肪酸グリセリドの相対量が増加すると、粉末は、非常に詰まりやすくなり、これは粉末の粒子が凝集しやすくなり、粉末の金属部分への付着が悪化するためである。このため、好ましい実施形態において、本発明の粉末中で実現される成分a)による化合物の成分b)による化合物に対する重量比は、少なくとも6、より好ましくは少なくとも8である。
【0016】
一般に、潤滑性粉末の成分b)による少なくとも1種の脂肪酸モノ-、ジ-、またはトリグリセリドは、エステル化によって脂肪酸主鎖に結合したグリセロールによって誘導体が構成されている限り、それらの誘導体も包含する。したがって、成分b)による脂肪酸グリセリドが本明細書で言及されるときはいつでも、前記誘導体は、定義として含まれる。潤滑性粉末の好ましい実施形態において、成分b)による化合物は、脂肪酸ジ-またはトリグリセリド、より好ましくは脂肪酸トリグリセリドから選択される。
【0017】
より好ましくは、本発明の潤滑性粉末は、C10-C22脂肪酸、より好ましくはC14-C20脂肪酸に基づくモノ-、ジ-、またはトリグリセリドから選択される成分b)による化合物を含み、またグリセリドは、好ましくは50〜130、より好ましくは70〜95のヨウ素価を有する。
【0018】
本発明の文脈におけるヨウ素価は、脂肪酸グリセリド中の炭素-炭素二重結合の量を、それぞれのグリセリドまたはグリセリドの混合物100グラム当たりの付加反応によって消費されるグラム単位のヨウ素の量によって特徴付ける。ヨウ素価は、過剰のウェイス液(一塩化ヨウ素/酢酸)の添加によりクロロホルム中に溶解された試料のヨウ素量分析によって、DIN EN 14111:2003-10に従って測定することができ、過剰のヨウ素は、チオ硫酸塩標準溶液を用いた酸化還元滴定によって決定される。
【0019】
本発明の潤滑性粉末中の脂肪酸グリセリドの絶対量に関して、それぞれが、粉末の全組成物を基準にして、少なくとも2重量%、より好ましくは少なくとも4重量%、さらにより好ましくは少なくとも6重量%の成分b)による化合物、好ましくはトリグリセリド、より好ましくはC10-C22脂肪酸に基づくトリグリセリド、さらにより好ましくはC14-C20脂肪酸に基づくトリグリセリドから選択される成分b)による化合物が好ましく、また選択されたトリグリセリドのそれぞれについて、50〜130、好ましくは70〜95のヨウ素価が好ましい。いずれにしても、成分b)の量が過度に増加すると、アルミニウム部品の表面への粉末付着の劣化が観察され得る。その結果、成分b)の量は、粉末の全組成物を基準にして、20重量%を超えず、より好ましくは15重量%を超えないことが好ましい。
【0020】
本発明の潤滑性粉末の成分b)が、アルコキシル化、好ましくはエトキシル化および/またはプロポキシル化された脂肪酸に基づくトリグリセリドを含み、アルコキシル化度が、少なくとも20、より好ましくは少なくとも30であるが、50以下であり、またこれらのトリグリセリドが、好ましくはC10-C22脂肪酸、より好ましくはC14-C20脂肪酸に基づくが、トリグリセリドのそれぞれが、好ましくは50〜130、より好ましくは70〜95のヨウ素価を有することが特に好ましい。この点において、成分b)が50〜130、より好ましくは70〜95のヨウ素価を有する非アルコキシル化脂肪酸に基づくトリグリセリドをさらに含み、またこれらのトリグリセリドが、やはり、好ましくはC10-C22脂肪酸、より好ましくはC14-C20脂肪酸に基づくものであることは、粉末の金属部分への付着および潤滑特性にとってさらに有益である。
【0021】
転動などの従来の塗布手段によって金属部品に付着させる潤滑性粉末の収率に関するアルコキシル化脂肪酸に基づくこれらのトリグリセリドの存在の肯定的な効果を十分に活用するためには、アルコキシル化トリグリセリドの全割合が、成分b)による化合物の総量を基準にして、少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも40重量%、より好ましくは少なくとも60重量%になることが好ましい。
【0022】
本発明の潤滑性粉末は、本来、潤滑特性をさらに高めるのに有用であるか、または他の有益な特性、例えば、加工金属部品に対する洗浄性もしくは例えば、粉末自体に対する粉塵形成の傾向の減少を付与するのに有用であるさらなる成分を添加することができる好適な基本レシピであるという特性もある。
【0023】
この効果のために、潤滑性粉末は、粉末の全組成物を基準にして、好ましくは少なくとも0.1重量%、少なくとも0.2重量%であるが、好ましくは5重量%未満の量で、成分c)としての少なくとも1種のアルカリ金属リグノスルホネートをさらに含んでもよい。リグノスルホネートは、木材由来の天然の生体高分子であるリグニンのスルホン化から生じる。したがって、リグノスルホネートは、亜硫酸パルプ化を使用する木材パルプの製造からの副産物である。これらのリグノスルホネートは、粉末の金属部品への付着をさらに改善させ、それによって粉末塗布効率自体を改善させる。
【0024】
本発明の潤滑性粉末内の好ましいリグノスルホネートは、少なくとも2,000g/molであるが、好ましくは20,000g/mol以下、より好ましくは10,000g/mol以下の重量平均分子量を示す。
【0025】
成分c)のアルカリ金属イオンは、好ましくは、リチウムイオン、カリウムイオン、および/またはナトリウムイオン、好ましくはナトリウムイオンから選択される。
【0026】
さらに、本発明の潤滑性粉末は、「極圧添加剤」であることが当業者に既知である少なくとも1種の化合物を成分d)として、さらに含んでもよい。これらの添加剤は、摩擦摩耗下での冷間成形プロセス中に硫黄およびリン化合物から選択される低分子量化合物を放出し、それにより成形される金属と成形工具との融合も防止する。さらに、本発明の文脈における極圧添加剤が、粉塵を形成する傾向が少ない潤滑性粉末を得ることをさらに支持することが見出された。潤滑性粉末が金属部品に塗布されるように取り扱われるとき、呼吸する空気中の粉塵粒子含有量を確実に最小限にするために、粉塵形成の低減が望ましい。成分d)としての好ましい極圧感は、硫化物、多硫化物、および/またはジアルキルジチオホスフェート、好ましくは各アルキル鎖中に12個以下の炭素原子を有するジアルキルジチオホスフェート、最も好ましくは各アルキル鎖中に12個以下の炭素原子を有するジアルキルジチオリン酸ナトリウムおよび/またはジアルキルジチオリン酸から選択される。
【0027】
本発明の潤滑性粉末において、成分d)は、粉末の全組成物を基準にして、好ましくは少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも2重量%であるが、好ましくは8重量%を超えて含有しない、より好ましくは5重量%を超えて含有しない。
【0028】
本発明の粉末潤滑剤はまた、溶媒が従来使用される少量の有機化合物を成分e)として含んでもよい。これらの溶媒はまた、金属部品への付着を助けることができるが、主として、金属平板上の粉末の均質な充填をもたらすように改善する。ほとんどの溶媒はまた、湿式化学処理による深絞り金属部品の洗浄性にも影響を及ぼすので、少しの溶媒のみが許容される。本発明の文脈における有機溶媒は、1,000g/mol未満の分子量を有する。これらの特性の全てが溶媒の存在により影響されることを考慮すると、好ましくは水素、酸素、および炭素から選択される元素からなり、好ましくは少なくとも158kJ/molのET(30)値を有する、有機化合物から選択される少なくとも1種の有機溶媒を成分e)としてさらに含む潤滑性粉末が好ましい。驚くべきことに、水素、酸素、および炭素から選択される元素からなる有機化合物から選択される有機溶媒が、少なくとも180kJ/molのET(30)値、例えば12個以下の炭素原子を有するモノ-またはジグリコールエーテルを有するとき、深絞り金属部品の洗浄性を改善できることが見出された。ET(30)値は、溶媒の極性の尺度である。前記値は、25℃および1気圧でそれぞれの溶媒中に溶解されたReichardtのピリジニウム-N-フェノレートベタイン色素(「Betaine 30」)の長波長の分子内電荷移動吸収バンドの分光測定から実験的に推測することができる。
【0029】
脂肪酸によってアシル化されたアルキレンジアミンをさらに含む本発明の潤滑性粉末のいくつかの特定の実施形態は、特定の深絞り用途において磨損を減少させるのに有用となる。このため、先に定義した成分a)と調和する、脂肪酸によってアシル化されたアルキレンジアミン、最も好ましくはN,N'-エチレンビス(ステアリン酸アミド)を成分f)として本発明の潤滑性粉末に添加することが好ましくなり得る。いずれにしても、成分f)は、好ましくは、本発明の潤滑性粉末の全組成物を基準にして、20重量%を超えず、より好ましくは10重量%以下になる。
【0030】
既に示したように、少量の有機溶媒のみが許容されるが、これは、さもなければ粉末が目詰まりを起こし、付着力が低下するためである。したがって、成分e)による溶媒の量は、本発明の粉末の全組成物を基準にして、好ましくは少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも2重量%であるが、好ましくは10重量%未満、より好ましくは8重量%未満、特に5重量%未満である。
【0031】
驚くべきことに、脂肪酸の塩および脂肪酸グリセリドのみに基づく粉末の潤滑性が、深絞りの目的には十分であり、潤滑性を増加するために、亜鉛、アルミニウム、またはカルシウムカチオンなどの相当量のルイス酸を添加する必要がないことが見出された。反対に、亜鉛カチオンなどの相当量の多価カチオンを含有するこのような粉末は、深絞りアルミニウム部品から除去することが困難である潤滑コーティングをもたらす傾向があり、これにより、深絞り金属部品の産業顧客のための当技術分野における従来の洗浄方法と比較して、より激しい洗浄が必要となる。この理由から、本発明の潤滑性粉末は、粉末の全組成物を基準にして、好ましくは5重量%未満、好ましくは1重量%未満の亜鉛カチオン、好ましくは多価カチオンを含有することが有益である。
【0032】
本発明の潤滑性粉末は、好ましくは2重量%未満、好ましくは1重量%未満、より好ましくは0.1重量%未満の遊離脂肪酸を含む。
【0033】
本発明の別の態様は、アルミニウム部品の冷間成形、特にアルミニウムの深絞りに対する本明細書に記載の潤滑性粉末の使用にある。
【0034】
基礎となる発明の1つの主な利点は、潤滑液体またはペーストと比較して、潤滑性粉末材料の高い被覆効率にある。この利点は、例えば飲料缶製造業において、多数の金属部品を短時間で潤滑組成物で被覆する必要があるプロセスにおいて特に重要である。
【0035】
したがって、基礎となる発明は、以下の工程(the subsequent steps)
a)1つの容器、好ましくはバレル中に本発明の多数のアルミニウム平板および潤滑性粉末を入れる工程であって、潤滑性粉末が、それぞれ、アルミニウム平板の表面の1平方メートル当たり、好ましくは20g以下、より好ましくは10g以下であるが、好ましくは少なくとも1gになる工程と;
b)アルミ平板を粉末潤滑剤の潤滑性膜で被覆するために、容器、好ましくはバレルを振動または転動させる工程と;
c)打ち抜き、好ましくは衝撃押出によって、アルミニウム平板を缶に深絞り工程と;必要に応じて、
d)アルミニウム缶を、好ましくは水系洗浄剤によって洗浄および脱脂する工程と
を含む、アルミニウム缶の製造方法も包含する。
【0036】
このプロセスの好ましい実施形態において、缶は、円筒形であり、アルミニウム平板は、円盤状である。
【実施例】
【0037】
本発明の異なる粉末潤滑剤(表1)を、衝撃押出によって円筒状の薄肉アルミニウム缶を成形する前に、アルミニウムディスクに塗布した。
【0038】
この潤滑剤の薄層を、特定の量の潤滑剤粉末を転動することによって、直径74mmおよび厚さ6mmを有するアルミニウムディスクの表面に塗布して、アルミニウムディスクの1平方メートル当たり7.8グラムの理論充填を得た。転動は、15〜22rpmで20分間行った。
【0039】
次いで、潤滑されたディスクを衝撃押出に供し、円筒軸の規定された長さLおよび缶の壁厚W(L=259mm;W=0.74mm)を有する缶の本体を成形した。この特定の種類の冷間成形について、水平衝撃押出プレスを使用した。パンチおよびダイは、炭化タングステン製であった。表1の各潤滑剤粉末が打ち抜きを成功させることによって、材料を破損させることなく所望の形状が得られ、壁厚に関して顕著なうねりは観察されなかった。
【0040】
表2は、全ての粉末潤滑剤について、粉末のアルミニウムディスクへの妥当で良好な付着が達成されることを示している。いずれにしても、亜鉛の脂肪酸塩に基づく潤滑剤が、転動後に最も不十分な充填収率および打ち抜き後に最も不十分なアルミニウム缶の洗浄性を示すことが明らかである(V1参照)。脂肪酸グリセリドと組み合わせたステアリン酸ナトリウムの使用は、常に80%を超える良好な充填収率を生じさせる(E1〜E4参照)。洗浄性は、使用される溶媒の存在および種類によってもなお支配され、180kJ/molを超えるET(30)値を有するジエチレングリコールモノブチルエーテルを含有する潤滑剤は、弱アルカリ性洗浄剤で容易に洗浄することができる(E2対E3参照)。同じ溶媒は、粉末ディスクの非常に均質な外観を得るために有益でもある(E2対E1参照)。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】