(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記式(AI)で示されるスクアリリウム系色素は、ジクロロメタンに溶解して測定される吸収特性が(i−1)〜(i−3)を満たす請求項1〜6のいずれか1項に記載の近赤外線吸収色素。
(i−1)波長400〜800nmの吸収スペクトルにおいて、波長670〜730nmに最大吸収波長λmaxを有する。
(i−2)波長430〜550nmの光の最大吸光係数εAと、波長690〜730nmの光の最大吸光係数εBとの間に、次の関係式が成り立つ。
εB/εA≧50
(i−3)分光透過率曲線において、前記最大吸収波長λmaxにおける透過率を10%としたときの前記最大吸収波長より短波長側で透過率が80%となる波長λ80と、前記最大吸収波長λmaxとの差が60nm以下である。
ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基およびイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1種を有するシランカップリング剤を含む請求項8に記載の吸収層。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明において、光学フィルタを「NIRフィルタ」、近赤外線吸収色素を「NIR吸収色素」または「NIR色素」、紫外線吸収色素を「UV吸収色素」または「UV色素」と略記することもある。
【0014】
<NIRフィルタ>
本発明の一実施形態のNIRフィルタ(以下、「本フィルタ」という)は、第1の層と、この第1の層に接し、第1の層と異なる第2の層とを有する。
第1の層は、近赤外線吸収色素(A)と透明樹脂(B)とを含有する吸収層である。第2の層は、無機または有機材料からなる層で、例えば、ガラス基板や透明樹脂基板等を含む透明基材、特定の波長領域の光を遮蔽する誘電体多層膜からなる選択波長遮蔽層、可視域の透過率損失を抑制する誘電体多層膜からなる反射防止層等である。
第1の層および第2の層はそれぞれ本フィルタの中に1層有してもよく、2層以上有してもよい。2層以上有する場合、各層は同じ構成であっても異なってもよい。また、第1の層は、それそのものが基板(樹脂基板)として機能するものでもよい。
【0015】
本フィルタは、第1の層および第2の層以外の層、すなわち、第1の層と接しない第3の層を有してもよい。上記ガラス基板、樹脂基板等の透明基板、特定の波長領域の光を遮蔽する誘電体多層膜からなる選択波長遮蔽層、可視光の透過率損失を抑制する誘電体多層膜からなる反射防止層が第3の層として含まれてもよい。
【0016】
以下、本フィルタの代表的な構成例を、図面を用いて説明する。
図1Aは、吸収層(第1の層)11の両主面に第2の層として誘電体多層膜からなる選択波長遮蔽層12を備えた構成例である。
図1Bは、吸収層(第1の層)11の両主面にそれぞれ第2の層として誘電体多層膜からなる選択波長遮蔽層12および誘電体多層膜からなる反射防止層13を備えた構成例である。
図1Cは、吸収層(第1の層)11の両主面にそれぞれ第2の層として透明基材14および誘電体多層膜からなる選択波長遮蔽層12を備えた構成例である。この例では、透明基材14の吸収層(第1の層)11とは反対側の主面に、さらに第3の層として誘電体多層膜からなる反射防止層13を備えている。
図1Dは、吸収層(第1の層)11の両主面にそれぞれ第2の層として透明基材14および誘電体多層膜からなる反射防止層13を備えた構成例である。この例では、透明基材14の吸収層(第1の層)11側とは反対側の主面に、さらに第3の層として誘電体多層膜からなる選択波長遮蔽層12を備えている。
【0017】
図1Aおよび
図1Bにおいて、2層の選択波長遮蔽層12は、同一でも異なってもよい。例えば、一方の選択波長遮蔽層が、紫外光と第1の近赤外域の光を反射し、他方の選択波長遮蔽層12が、紫外光と第1の近赤外域と異なる第2の近赤外域の光を反射する構成でもよい。
【0018】
本フィルタは、(iv−1)を満たす分光透過率特性を有することが好ましく、(iv−1)と、(iv−2)〜(iv−6)の少なくとも一つを満たすことがより好ましい。(iv−1)〜(iv−6)すべてを満たすことがとくに好ましい。
【0019】
(iv−1)入射角0°の分光透過率曲線において、波長430〜550nmの光の平均透過率が90%以上であり、かつ波長430〜550nmの光の最小透過率が75%以上である。
(iv−2)入射角0°の分光透過率曲線において、波長600〜700nmの光の平均透過率が25%以上である。
(iv−3)入射角0°の分光透過率曲線において、波長350〜395nmの光の平均透過率が2%以下である。
(iv−4)入射角0°の分光透過率曲線において、波長710〜1100nmの光の平均透過率が2%以下である。
(iv−5)入射角0°の分光透過率曲線の波長385〜430nmの光の透過率と、入射角30°の分光透過率曲線における波長385〜430nmの光の透過率との差分の絶対値の平均値(以下、「波長385〜430nmの透過率平均シフト量」という)が7%/nm以下である。
(iv−6)入射角0°の分光透過率曲線の波長600〜700nmの光の透過率と、入射角30°の分光透過率曲線における波長600〜700nmの光の透過率との差分の絶対値の平均値(以下、「波長600〜700nmの透過率平均シフト量」という)が7%/nm以下である。
【0020】
(iv−1)を満たすことで、波長430〜550nmの光の透過率を高くでき、青色系の撮像の色再現性の精度をさらに高くできる。
(iv−2)を満たすことで、固体撮像素子に不要な波長700nm以上の光を遮断しつつ、人間の視感度に関与する波長600〜700nmの光の透過率を比較的高く維持できる。
(iv−3)を満たすことで、395nm以下の波長領域の光を遮蔽でき、固体撮像素子の分光感度を人間の視感度に近づけることができる。
(iv−4)を満たすことで、波長710〜1100nmの光を遮蔽でき、固体撮像素子の分光感度を人間の視感度に近づけることができる。
(iv−5)を満たすことで、波長385〜430nmにおける光の入射角依存性を小さくできる。その結果、この波長領域における固体撮像素子の分光感度の入射角依存性を小さくできる。
(iv−6)を満たすことで、波長600〜700nmにおける光の入射角依存性を小さくできる。その結果、この波長領域における固体撮像素子の分光感度の入射角依存性を小さくできる。
【0021】
本フィルタは、入射角0°の分光透過率曲線において、波長430〜550nmの光の平均透過率は91%以上がより好ましく、92%以上がより一層好ましい。光学フィルタの波長430〜550nmの光の平均透過率が高いほど、可視光を多く取り込むことができる。
本フィルタは、入射角0°の分光透過率曲線において、波長430〜550nmの光の最小透過率は、77%以上がより好ましく、80%以上がより一層好ましい。光学フィルタの波長430〜550nmの光の最小透過率が高いほど、可視光を多く取り込むことができる。
本フィルタは、入射角0°の分光透過率曲線において、波長600〜700nmの光の平均透過率は30%以上がより好ましい。光学フィルタの波長600〜700nmの光の平均透過率が高いほど、視感度に不必要な波長700nm以上の光をより遮断しつつ、人間の視感度に関与する波長600〜700nmの光の透過率をより高く維持できる。
【0022】
また、本フィルタは、入射角0°の分光透過率曲線において、波長430〜480nmの光の平均透過率は87%以上が好ましく、88%以上がより好ましく、89%以上がより一層好ましく、90%以上がさらに好ましい。光学フィルタの波長430〜480nmの光の平均透過率が高いほど、青色系の色再現性の精度を高められる。
【0023】
本フィルタは、入射角0°の分光透過率曲線において、波長350〜395nmの光の平均透過率は1.5%以下がより好ましく、1%以下がより一層好ましく、0.5%以下がさらに好ましい。光学フィルタの波長350〜395nmの光の平均透過率が低いほど、固体撮像素子として不必要な波長の光を遮断できる。
本フィルタは、入射角0°の分光透過率曲線において、波長710〜1100nmの光の平均透過率は1%以下がより好ましく、0.5%以下がより一層好ましく、0.3%以下がさらに好ましい。光学フィルタの波長710〜1100nmの光の平均透過率が低い
ほど、固体撮像素子として不必要な波長の光を遮断できる。
本フィルタは、波長385〜430nmの透過率平均シフト量が6%/nm以下がより好ましく、5%/nm以下がより一層好ましい。波長385〜430nmの透過率平均シフト量は、波長385〜430nmにおける本フィルタの光の入射角依存性を示す指標である。この値が小さいほど入射角依存性が低いことを示している。
本フィルタは、波長600〜700nmの透過率平均シフト量が3%/nm以下がより好ましく、2%/nm以下がより一層好ましい。波長600〜700nmの透過率平均シフト量は、波長600〜700nmにおける本フィルタの光の入射角依存性を示す指標である。この値が小さいほど入射角依存性が低いことを示している。
【0024】
次に、本フィルタを構成する吸収層、選択波長遮蔽層、反射防止層および透明基材について説明する。
【0025】
[吸収層]
吸収層は、近赤外線吸収色素(A)と、透明樹脂(B)とを含有する層であり、典型的には、透明樹脂(B)中に近赤外線吸収色素(A)が均一に溶解または分散した層または(樹脂)基板である。吸収層は、さらに紫外線吸収色素(U)を含有してもよい。
本フィルタにおいて、吸収層は、前述のとおり、場合により複数設けてもよい。
【0026】
(近赤外線吸収色素(A))
本フィルタの吸収層に含有させる近赤外線吸収色素(A)(以下、NIR色素(A)ともいう)は、式(AI)で示されるNIR色素から選択される少なくとも1種を含む。
【0027】
本明細書において、式(AI)で示されるNIR色素を、NIR色素(AI)ともいう。他の色素についても同様である。また、後述するように、例えば、式(1n)で表される基を基(1n)と記す。他の式で表される基も同様に記す。
【0029】
ただし、式(AI)中の記号は以下のとおりである。
Xは、独立して、1つ以上の水素原子が炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよい式(1)または式(2)で示される2価の有機基である。
−(CH
2)
n1− …(1)
式(1)中、n1は2または3である。
−(CH
2)
n2−O−(CH
2)
n3− …(2)
式(2)中、n2とn3はそれぞれ独立して0〜2の整数であり、n2+n3は1または2である。
R
1は、独立して、飽和環構造を含んでもよく、分岐を有してもよい炭素数1〜12の飽和もしくは不飽和炭化水素基、炭素数3〜12の飽和環状炭化水素基、炭素数6〜12のアリール基または炭素数7〜13のアルアリール基を示す。
R
2は、独立して、1つ以上の水素原子がハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、またはシアノ基で置換されていてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい炭素数1〜25の炭化水素基である。
R
3およびR
4は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
【0030】
なお、本明細書において、飽和もしくは不飽和の環構造とは、炭化水素環および環構成原子として酸素原子を有するヘテロ環をいう。さらに、環を構成する炭素原子に炭素数1〜10のアルキル基が結合した構造もその範疇に含むものとする。
また、アリール基は芳香族化合物が有する芳香環、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル、フラン環、チオフェン環、ピロール環等を構成する炭素原子を介して結合する基をいう。アルアリール基は、1以上のアリール基で置換された、飽和環構造を含んでもよい直鎖状もしくは分枝状の飽和もしくは不飽和炭化水素基または飽和環状炭化水素基をいう。
【0031】
NIR色素(AI)は、分子構造の中央にスクアリリウム骨格を有し、スクアリリウム骨格の左右に各1個のベンゼン環が結合し、そのベンゼン環は4位で窒素原子と結合し、該窒素原子とベンゼン環の4位と5位の炭素原子を含む複素環が形成された縮合環構造を左右に有する。さらに、NIR色素(AI)は、左右の各1個のベンゼン環の2位でそれぞれ式(a1)で示されるウレタン基と結合する。
【0033】
NIR色素(AI)において、左右に1個ずつ存在する縮合環構造を構成するベンゼン環以外の環の構成は、上記Xにより決定され、それぞれ独立して員数が5または6の複素環である。前記複素環の一部を構成する2価の基Xは、式(1)で示されるように骨格が炭素原子のみで構成されてもよく、式(2)で示されるように炭素原子以外に酸素原子を含んでもよい。式(2)において、酸素原子の位置はとくに制限されない。すなわち、窒素原子と酸素原子が結合してもよく、ベンゼン環に酸素原子が直接結合してもよい。また、炭素原子に挟まれるように酸素原子が位置してもよい。
【0034】
なお、左右のXは同一であっても異なってもよいが、生産性の観点から同一が好ましい。またR
1〜R
4についても、スクアリリウム骨格を挟んで左右で同一であっても異なってもよいが、生産性の観点から同一が好ましい。
【0035】
NIR色素(AI)は、上記のように、スクアリリウム骨格の左右に結合するベンゼン環の2位にウレタン基が結合しており、これにより、従来のスクアリリウム系色素と同等もしくはそれ以上の近赤外域および可視域での分光透過率特性を有しながら、該NIR色素(AI)を含む吸収層に接する層として、有機材料からなる層だけでなく、とくにガラスや誘電体多層膜等の無機材料からなる層に対する密着性を高められる。これは、ウレタン基を含有することでNIR色素自体の極性が上がり、NIR色素とガラス等の無機材料との化学的相互作用が増大するからと考えられる。
【0036】
また、このようにNIR色素(AI)はウレタン基を有するため、吸収層の耐光性を高め、光学フィルタに良好な耐光性を付与できる。なお、光学フィルタの耐光性は、例えば、光学フィルタに一定時間、光を照射し、その前後の所定の波長領域における最大透過率の変動量から評価でき、この最大透過率変動量が小さいほど耐光性に優れている。
照射装置:キセノンランプ(波長300〜2450nm)
温度:40℃
湿度:50%RT
積算光量:87.2kw・時間/m
2
【0037】
さらに、NIR色素(AI)は、有機溶媒に対する溶解性が良好で、したがって、透明樹脂への相溶性も良好である。その結果、吸収層の厚さを薄くしても優れた分光特性を有し、光学フィルタを小型化、薄型化できる。また、NIR色素(AI)は、吸収層の厚さを薄くできるため、加熱による吸収層の熱膨張を抑制でき、選択波長遮蔽層や他の機能層、例えば反射防止層を形成する際の、それらの層の割れ等の発生を抑制できる。
なお、有機溶媒に対する溶解性、透明樹脂への相溶性の観点から、置換基R
1は、分岐構造を有する基が好ましく、分岐構造を有するアルキル基またはアルコキシ基がより好ましい。
【0038】
NIR色素(AI)のXは、式(3)で示される2価の有機基が好ましい。
−CR
52−(CR
62)
n4− …(3)
ただし、式(3)は、左側がベンゼン環に結合し右側がNに結合する2価の基を示し、n4は1または2である。n4は1が好ましい。また、R
5は、それぞれ独立して、分岐を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基であり、炭素数1〜6の分岐を有してもよいアルキル基またはアルコキシ基が好ましい。さらに、R
6はそれぞれ独立して、水素原子、または分岐を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基もしくはアルコキシ基であり、水素原子、または分岐を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシ基が好ましい。
【0039】
式(AI)におけるXとしては、式(11−1)〜(12−3)で示される2価の有機基のいずれかがとくに好ましい。ただし、式(11−1)〜(12−3)は、いずれも左側がベンゼン環に結合し右側がNに結合する2価の基を示す。
−C(CH
3)
2−CH(CH
3)− …(11−1)
−C(CH
3)
2−CH
2− …(11−2)
−C(CH
3)
2−CH(C
2H
5)− …(11−3)
−C(CH
3)
2−CH
2−CH
2− …(12−1)
−C(CH
3)
2−CH
2−CH(CH
3)− …(12−2)
−C(CH
3)
2−CH(CH
3)−CH
2− …(12−3)
【0040】
これらのうちでも、式(AI)におけるXとしては、基(11−1)〜(11−3)のいずれかが好ましく、基(11−1)がより好ましい。
以下に、Xが左右ともに基(11−1)であるNIR色素(Ai)の構造式を示す。なお、NIR色素(Ai)中、R
1〜R
4はNIR色素(AI)におけるR
1〜R
4と同じ意味である。
【化4】
【0041】
また、NIR色素(AI)中、R
1は、分光透過率曲線における可視域と近赤外域の境界付近の変化の急峻性、また、溶解性、耐熱性等の観点から、独立して、式(4−1)または式(4−2)で示される基がより好ましい。
【0043】
式(4−1)および式(4−2)中、R
7、R
8、R
9、R
10およびR
11は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜4のアルキル基を示す。
【0044】
また、NIR色素(AI)中、R
3およびR
4は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基が好ましい。R
3およびR
4は、いずれも水素原子がより好ましい。
【0045】
NIR色素(AI)としては、NIR色素(Ai)が好ましく、中でも、表1に示す構成のNIR色素(A1−1)〜(A1−13)がより好ましい。さらに、色素の溶解性の観点から、NIR色素(A1−2)〜(A1−4)、(A1−6)〜(A1−8)、(A1−10)〜(A1−13)がとくに好ましい。なお、NIR色素(A1−1)〜(A1−13)において、左右に1個ずつ計2個存在するR
1は左右で同じであり、R
2〜R
4についても同様である。
【0047】
NIR色素(AI)は、例えば、国際公開第2014/088063号に記載された方法で製造可能である。具体的にNIR色素(AI)は、3,4−ジヒドロキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン(スクアリン酸)と、スクアリン酸と結合して式(AI)に示す構造を形成可能な縮合環を有する化合物とを反応させることで製造できる。例えば、NIR色素(AI)が左右対称の構造である場合には、スクアリン酸1当量に対して上記範囲で所望の構造の縮合環を有する化合物2当量を反応させればよい。
【0048】
以下に、具体例として、NIR色素(Ai)を得る際の反応経路を示す。反応式(F1)においてスクアリン酸を(s)で示す。反応式(F1)によれば、インドール骨格に所望の置換基(R
1、R
3、R
4)を有する化合物(d)の、ベンゼン環にアミノ基を導入し(f)、さらに所望の置換基R
2を有するクロロギ酸エステル(g)を反応させてウレタン化合物(h)を得る。スクアリン酸(s)1当量に対し、ウレタン化合物(h)2当量を反応させて、NIR色素(Ai)を得る。
【化6】
【0049】
反応式(F1)中、R
1〜R
4は、式(Ai)におけるR
1〜R
4と同じ意味であり、Meはメチル基、THFはテトラヒドロフランを示す。以下、本明細書中、Me、THFは前記と同じ意味で用いられる。
【0050】
本実施形態において、NIR色素(AI)は、ジクロロメタンに溶解して測定される吸収特性が、(i−1)〜(i−3)を満たすものが好ましい。
(i−1)波長400〜800nmの吸収スペクトルにおいて、670〜730nm、好ましくは680〜720nm、より好ましくは690〜710nmの波長領域に最大吸収波長λ
maxを有する。
(i−2)波長430〜550nmの光の最大吸光係数ε
Aと、波長670〜730nmの光の最大吸光係数ε
Bとの間に、次の関係式が成り立つ。
ε
B/ε
A≧50
この関係式は、好ましくはε
B/ε
A≧60であり、より好ましくはε
B/ε
A≧70である。
(i−3)分光透過率曲線において、前記最大吸収波長λ
maxにおける透過率を10%としたときの前記最大吸収波長λ
maxより短波長側で透過率が80%となる波長λ
80と、前記最大吸収波長λ
maxとの差λ
max−λ
80が60nm以下である。λ
max−λ
80は、好ましくは55nm以下、より好ましくは50nm以下である。
【0051】
(i−1)〜(i−3)を満たすNIR色素(A)を使用することにより、目的とする、良好な近赤外線遮蔽特性を有しながら、当接する層との密着性に優れる高信頼性の光学フィルタが得られる。
具体的には、(i−1)を満たすことで、近赤外光を十分に遮蔽できる。また、(i−2)を満たすことで、可視光を十分に透過できる。さらに、(i−3)を満たすことで、分光透過率曲線において、可視域と近赤外域の境界付近(透過率遷移領域)の変化を急峻にできる。
【0052】
本実施形態において、NIR色素(A)には、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、必要に応じて、NIR色素(AI)以外の色素を含有してもよい。密着性の観点からは、NIR色素(AI)のみを使用することが好ましい。
【0053】
吸収層中におけるNIR色素(A)の含有量は、透明樹脂(B)100質量部に対して、0.1〜30質量部が好ましい。0.1質量部以上とすることで所望の近赤外線吸収能が得られ、30質量部以下とすることで、近赤外線吸収能の低下やヘイズ値の上昇等が抑制される。NIR色素(A)の含有量は、0.5〜25質量部がより好ましく、1〜20質量部がより一層好ましい。
【0054】
(紫外線吸収色素(U))
吸収層は、NIR色素(A)と、透明樹脂に加え、UV色素(U)を含有できる。UV色素(U)(以下、色素(U)ともいう。)としては、(ii−1)を満たすものが好ましい。
【0055】
(ii−1)ジクロロメタンに溶解して測定される波長350〜800nmの吸収スペクトル(以下、「UV色素(U)の吸収スペクトル」という)において、360〜415nmの波長領域に最大吸収波長を有する。
【0056】
(ii−1)を満たすUV色素(U)を使用すれば、最大吸収波長が適切かつ急峻な吸収スペクトルの立ち上がりをもつので430nm以降の透過率を低下させずに良好な紫外線遮蔽特性が得られる。
UV色素(U)の吸収スペクトルにおいて、UV色素(U)の最大吸収波長は370〜415nmの波長領域にあるとより好ましく、390〜410nmの波長領域にあるとより一層好ましい。
【0057】
本実施形態に好適な、(ii−1)を満たしているUV色素(以下、UV色素(U1)という)の具体例としては、オキサゾール系、メロシアニン系、シアニン系、ナフタルイミド系、オキサジアゾール系、オキサジン系、オキサゾリジン系、ナフタル酸系、スチリル系、アントラセン系、環状カルボニル系、トリアゾール系等の色素が挙げられる。
【0058】
UV色素(U1)として、式(N)で示されるUV色素(UV色素(N))も挙げられる。
【化7】
【0059】
式(N)中、R
12は、それぞれ独立に、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでもよく、分岐を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基を示す。具体的には、直鎖状または分枝状のアルキル基、アルケニル基、飽和環状炭化水素基、アリール基、アルアリール基等が挙げられる。
また、式(N)中、R
13は、それぞれ独立に、シアノ基、または式(n)で示される基である。
−COOR
30 …(n)
式(n)中、R
30は、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでもよく、分岐を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基を示す。具体的には、直鎖状または分枝鎖状のアルキル基、アルケニル基、飽和環状炭化水素基、アリール基、アルアリール基等が挙げられる。
【0060】
UV色素(N)中のR
12としては、式(1n)〜(4n)で示される基が中でも好ましい。また、UV色素(N)中のR
13としては、式(5n)で示される基が中でも好ましい。
【0062】
UV色素(N)としては、表2に示す構成のUV色素(N−1)〜(N−4)が例示できる。なお、表2におけるR
12およびR
13の具体的な構造は、式(1n)〜(5n)に対応する。表2には対応する色素略号も示した。なお、UV色素(N−1)〜(N−4)において、2個存在するR
12は同じであり、R
13も同様である。
【0064】
以上例示したUV色素(U1)の中でも、オキサゾール系、メロシアニン系の色素が好ましく、その市販品としては、例えば、Uvitex(登録商標)OB、Hakkol(登録商標)RF−K、S0511が挙げられる。
【0065】
(メロシアニン系色素)
UV色素(U1)としては、とくに、式(M)で示されるメロシアニン系色素が好ましい。
【0067】
式(M)中、Yは、Q
6およびQ
7で置換されたメチレン基または酸素原子を示す。ここで、Q
6およびQ
7は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基を表す。Q
6およびQ
7は、それぞれ独立に、水素原子、または、炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基であることが好ましく、いずれも水素原子であるか、少なくとも一方が水素原子で他方が炭素数1〜4のアルキル基であることがより好ましい。とくに好ましくは、Q
6およびQ
7はいずれも水素原子である。
【0068】
Q
1は、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を表す。置換基を有しない1価の炭化水素基としては、水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基、水素原子の一部が芳香族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数3〜8のシクロアルキル基、および水素原子の一部が脂肪族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基が好ましい。
Q
1が無置換のアルキル基である場合、そのアルキル基は直鎖状であっても、分岐状であってもよく、その炭素数は1〜6がより好ましい。
【0069】
水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換された炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数3〜6のシクロアルキル基を有する炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基で置換された炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、フェニル基で置換された炭素数1または2のアルキル基がとくに好ましい。なお、アルケニル基で置換されたアルキル基とは、全体としてアルケニル基であるが1、2位間に不飽和結合を有しないものを意味し、例えばアリル基や3−ブテニル基等をいう。
置換基を有する炭化水素基としては、アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基、シアノ基、ジアルキルアミノ基または塩素原子を1個以上有する炭化水素基が好ましい。これらアルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基およびジアルキルアミノ基の炭素数は1〜6が好ましい。
【0070】
好ましいQ
1は、水素原子の一部がシクロアルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基である。
とくに好ましいQ1は炭素数1〜6のアルキル基であり、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
【0071】
Q
2〜Q
5は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基を表す。アルキル基及びアルコキシ基の炭素数は1〜6が好ましく、1〜4がより好ましい。
Q
2およびQ
3は、少なくとも一方がアルキル基であることが好ましく、いずれもアルキル基であることがより好ましい。Q
2またはQ
3がアルキル基でない場合は、水素原子であることがより好ましい。Q
2およびQ
3は、いずれも炭素数1〜6のアルキル基であることがとくに好ましい。
Q
4およびQ
5は、少なくとも一方が水素原子であることが好ましく、いずれも水素原子であることがより好ましい。Q
4またはQ
5が水素原子でない場合は、炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。
【0072】
Zは、式(Z1)〜(Z5)で表される2価の基のいずれかを表す。
【0074】
式(Z1)〜(Z5)において、Q
8およびQ
9は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を表す。Q
8およびQ
9は、異なる基であってもよいが、同一の基であることが好ましい。
【0075】
置換基を有しない1価の炭化水素基としては、水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基、水素原子の一部が芳香族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数3〜8のシクロアルキル基、および、水素原子の一部が脂肪族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基が好ましい。
【0076】
Q
8およびQ
9が無置換のアルキル基である場合、そのアルキル基は直鎖状であっても、分岐状であってもよく、その炭素数は1〜6がより好ましい。
水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換された炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数3〜6のシクロアルキル基を有する炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基で置換された炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、フェニル基で置換された炭素数1または2のアルキル基がとくに好ましい。なお、アルケニル基で置換されたアルキル基とは、全体としてアルケニル基であるが1、2位間に不飽和結合を有しないものを意味し、例えばアリル基や3−ブテニル基等をいう。
【0077】
置換基を有する1価の炭化水素基としては、アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基、シアノ基、ジアルキルアミノ基または塩素原子を1個以上有する炭化水素基が好ましい。これらアルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基およびジアルキルアミノ基の炭素数は1〜6が好ましい。
【0078】
好ましいQ
8およびQ
9は、いずれも、水素原子の一部がシクロアルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基である。
とくに好ましいQ
8およびQ
9は、いずれも、炭素数1〜6のアルキル基であり、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
【0079】
Q
10〜Q
19は、それぞれ独立に、水素原子、または、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を表す。置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基は、前記Q
8、Q
9と同様の炭化水素基である。置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基としては、置換基を有しない炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
【0080】
Q
10とQ
11は、いずれも、炭素数1〜6のアルキル基であることがより好ましく、それらは同一のアルキル基であることがとくに好ましい。
Q
12、Q
15は、いずれも水素原子であるか、置換基を有しない炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。同じ炭素原子に結合した2つの基(Q
13とQ
14、Q
16とQ
17、Q
18とQ
19)は、いずれも水素原子であるか、いずれも炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。
【0081】
式(M)で表される化合物としては、Yが酸素原子であり、Zが基(Z1)または基(Z2)である化合物、および、YがQ
6およびQ
7で置換されたメチレン基であり、Zが基(Z1)または基(Z5)である化合物が好ましい。
Yが酸素原子である場合のZとしては、Q
1が炭素数1〜6のアルキル基、Q
2とQ
3がいずれも水素原子であるかいずれも炭素数炭素数1〜6のアルキル基、Q
4、Q
5がいずれも水素原子ある、基(Z1)または基(Z2)がより好ましい。とくに、Q
1が炭素数1〜6のアルキル基、Q
2とQ
3がいずれも炭素数1〜6のアルキル基、Q
4、Q
5がいずれも水素原子ある、基(Z1)または基(Z2)が好ましい。
【0082】
YがQ
6およびQ
7で置換されたメチレン基であり、Zが基(Z1)または基(Z5)である化合物としては、Q
1が炭素数1〜6のアルキル基、Q
2とQ
3がいずれも水素原子であるかいずれも炭素数1〜6のアルキル基、Q
4〜Q
7がいずれも水素原子ある、基(Z1)または基(Z5)が好ましく、Q1が炭素数1〜6のアルキル基、Q
2〜Q
7がいずれも水素原子ある、基(Z1)または基(Z5)がより好ましい。
式(M)で表される化合物としては、Yが酸素原子であり、Zが基(Z1)または基(Z2)である化合物が好ましく、Yが酸素原子であり、Zが基(Z1)である化合物がとくに好ましい。
【0083】
UV色素(M)の具体例としては、以下の式(M−1)〜(M−11)で表される化合物が挙げられる。
【化11】
【0085】
UV色素(U)は、好ましくはUV色素(U1)の1種または2種以上を含有する。UV色素(U)は、UV色素(U1)以外に、その他の紫外線吸収色素を含有してもよい。しかし、その場合、UV色素(U1)による効果を損なわない範囲が好ましい。
【0086】
吸収層中におけるUV色素(U)の含有量は、本フィルタの入射角0°の分光透過率曲線の波長400〜425nmに透過率が50%となる波長を有するように定めることが好ましい。UV色素(U)は、吸収層中において、透明樹脂の100質量部に対して、0.01〜30質量部含有するのが好ましく、0.05〜25質量部がより好ましく、0.1〜20質量部がより一層好ましい。
【0088】
透明樹脂(B)としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂が挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0089】
透明樹脂(B)としては、上述した樹脂の中でも、可視光に対する透明性や、NIR色素(A)または、NIR色素(A)およびUV色素(U)の、透明樹脂(B)に対する溶解性、および耐熱性等の観点からは、ガラス転移点(Tg)の高い樹脂が好ましい。具体的には、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂、およびエポキシ樹脂から選ばれる1種以上が好ましい。さらに、透明樹脂(B)は、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂から選ばれる1種以上がより好ましい。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等が好ましい。なお、ガラス転移点(Tg)の高い樹脂は、一般に、ガラスや誘電体多層膜等の無機材料からなる層に対し、密着性が低いが、本発明においては、上記NIR色素(AI)を使用したことにより、それらの層に対しても十分な密着性を確保できる。
【0090】
なお、透明樹脂(B)としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、アクリル樹脂として、オグソール(登録商標)EA−F5003(大阪ガスケミカル(株)製、商品名)、ポリメチルメタクリレート、ポリイソブチルメタクリレート(以上、いずれも東京化成工業(株)製、商品名)、BR50(三菱レイヨン(株)製、商品名)等が挙げられる。
【0091】
また、ポリエステル樹脂として、OKP4HT、OKP4、B−OKP2、OKP−850(以上、いずれも大坂ガスケミカル(株)製、商品名)、バイロン(登録商標)103(東洋紡(株)製、商品名)等、ポリエーテルスルホン樹脂として、スミカエクセル(登録商標)PES4800(住友化学(株)製、商品名)等、ポリカーボネート樹脂として、LeXan(登録商標)ML9103(sabic社製、商品名)、EP5000(三菱ガス化学(株)社製、商品名)、SP3810(帝人化成(株)製、商品名)、SP1516(帝人化成(株)製、商品名)、TS2020(帝人化成(株)製、商品名)、xylex(登録商標)7507(sabic社製、商品名)等、環状オレフィン樹脂として、ARTON(登録商標)(JSR(株)製、商品名)、ZEONEX(登録商標)(日本ゼオン(株)製、商品名)等、ポリイミド樹脂として、ネオプリム(登録商標)C3650(三菱ガス化学(株)製、商品名)、同C3630(三菱ガス化学(株)製、商品名)、同C3450(三菱ガス化学(株)製、商品名)(これらのポリイミド樹脂には、シリカが含まれていてもよい)等が挙げられる。
【0092】
(その他の成分)
吸収層には、さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、この種の吸収層が通常含有する各種任意成分を含有してもよい。任意成分としては、例えば、密着性付与剤、色調補正色素、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤等が挙げられる。
【0093】
密着性付与剤としては、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基およびイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1種を有するシランンカップリング剤が好適である。
【0094】
NIR色素(A)、UV色素(U)、透明樹脂(B)等を溶解または分散するための溶媒としては、これらを、安定に分散できる分散媒または溶解できる溶媒であれば、とくに限定されない。なお、本明細書において「溶媒」の用語は、分散媒および溶媒の両方を含む概念で用いられる。溶媒は1種を単独で、または2種以上を混合して使用できる。
【0095】
溶媒の量は、塗工液の塗工方法にもよるが、一般には、塗工液中の透明樹脂(B)、NIR色素(A)等の固形分濃度が、塗工液全量に対して2〜50質量%となる範囲が好ましく、5〜40質量%となる範囲がより好ましい。固形分濃度が低すぎると、塗工ムラが生じやすくなる。逆に、固形分濃度が高すぎると、塗工外観が不良となりやすくなる。
【0096】
塗工液には、界面活性剤も含有できる。界面活性剤を含有させることにより、外観、とくに、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじきを改善できる。界面活性剤は、とくに限定されず、カチオン系、アニオン系、ノニオン系等の公知のものを任意に使用できる。
【0097】
塗工液の塗工には、例えば、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、カーテンコーティング法、スリットダイコーター法、グラビアコーター法、スリットリバースコーター法、マイクログラビア法、インクジェット法、またはコンマコーター法等のコーティング法を使用できる。その他、バーコーター法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法等も使用できる。
【0098】
なお、本フィルタが構成部材としてガラス基板等を含む透明基材を備える場合であっても、上記塗工液を透明基材とは別の基材、例えば剥離性の支持基材上に塗工して形成した吸収層を、支持基材から剥離して透明基材上に貼着してもよい。剥離性の支持基材は、フィルム状であっても板状であってもよく、剥離性を有するものであれば、材料もとくに限定されない。具体的には、ガラス板や、離型処理されたプラスチックフィルム、ステンレス鋼板等が使用できる。
【0099】
また、吸収層は、透明樹脂の種類によっては、押出成形によりフィルム状に製造可能であり、さらに、このように製造した複数のフィルムを積層し熱圧着等により一体化させてもよい。本フィルタが構成部材として透明基材を含む場合、これらを、その後、透明基材上に貼着する。
【0100】
また、塗工液の塗工にあたって、透明基材に前処理を施してもよく、前処理剤としては、上記のシランカップリング剤等を、1種を単独または2種以上を混合して使用できる。
【0101】
本フィルタにおいて、吸収層の厚さは、0.1〜100μmが好ましい。吸収層が複数の吸収層からなる場合、各吸収層の合計の厚さが0.1〜100μmとなることが好ましい。吸収層の厚さは、配置スペース等に応じて適宜定められる。厚さが0.1μm未満では、所望の光学特性を十分に発現できないおそれがある。また、厚さが100μm超では層の平坦性が低下し、吸収率に面内のバラツキが生じたり、反射防止層等に割れ等が生じたりするおそれがある。そのため、吸収層の厚さは、0.3〜50μmがより好ましく、0.3〜10μmがさらに好ましい。
【0102】
[選択波長遮蔽層]
選択波長遮蔽層としては、可視光を透過し、前記吸収層の遮光域以外の波長の光を遮蔽する波長選択特性を有することが好ましい。この場合、選択波長遮蔽層の遮光領域は、吸収層の近赤外域における遮光領域を含んでもよい。
【0103】
選択波長遮蔽層は、低屈折率膜と高屈折率膜とを交互に積層した誘電体多層膜から構成される。
高屈折率膜は、好ましくは、屈折率が1.6以上であり、より好ましくは2.2〜2.5であり、例えばTa
2O
5、TiO
2、Nb
2O
5が挙げられる。これらのうち、成膜性、屈折率等における再現性、安定性等の点から、TiO
2が好ましい。
一方、低屈折率膜は、好ましくは、屈折率1.6未満であり、より好ましくは1.45以上1.55未満であり、より一層好ましくは1.45〜1.47であり、例えばSiO
2、SiO
xN
y等が挙げられる。成膜性における再現性、安定性、経済性等の点から、SiO
2が好ましい。
【0104】
誘電体多層膜は、光の干渉を利用して特定の波長領域の光の透過と遮蔽を制御する機能を発現し、その透過・遮蔽特性には入射角依存性がある。一般的には、反射により遮蔽する光の波長は、垂直に入射する光(入射角0°)より、斜めに入射する光の方が短波長になる。
【0105】
本実施形態において、選択波長遮蔽層を構成する誘電体多層膜は、(iii−1)および(iii−2)を満たすことが好ましい。
(iii−1)入射角0°および30°の各分光透過率曲線において、波長420〜695nmの光の透過率が90%以上である。波長420〜695nmの光の透過率は高いほど好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより一層好ましく、97%以上がさらに好ましい。
(iii−2)入射角0°および30°の各分光透過率曲線において、波長λ
bnm〜1100nmの光の透過率が1%以下である(ここで、λ
bは、前記吸収層の波長650〜800nmの光の透過率が1%となる最大波長である)。波長λ
bnm〜1100nmの光の透過率は低いほど好ましく、0.5%以下がより好ましい。
選択波長遮蔽層が、(iii−1)および(iii−2)を満たせば、本フィルタは、(iv−1)〜(iv−6)を満たす分光透過率特性を容易に得られる。
【0106】
さらに、選択波長遮蔽層は、透過光波長と遮光波長の境界波長領域で透過率が急峻に変化することが好ましい。この目的のためには、選択波長遮蔽層を構成する誘電体多層膜は、低屈折率膜と高屈折率膜との合計積層数として15層以上が好ましく、25層以上がより好ましく、30層以上がさらに好ましい。ただし、合計積層数が多くなると、誘電体多層膜の反り等が発生し、また、誘電体多層膜の膜厚が増加するため、100層以下が好ましく、75層以下がより好ましく、60層以下がより一層好ましい。
【0107】
誘電体多層膜の膜厚としては、上記好ましい積層数を満たした上で、光学フィルタの薄型化の観点からは、薄い方が好ましい。このような誘電体多層膜の膜厚としては、選択波長遮蔽特性によるが、2〜10μmが好ましい。
【0108】
選択波長遮蔽層は、単層、すなわち1種の誘電体多層膜の構成のみで所定の選択波長遮蔽特性を有するようにしてもよく、複数層で所定の選択波長遮蔽特性を有するようにしてもよい。複数層設ける場合、例えば、吸収層の一方の側に設けてもよく、吸収層を挟んでその両側に設けてもよい。
【0109】
[反射防止層]
反射防止層としては、誘電体多層膜や中間屈折率媒体、屈折率が漸次的に変化するモスアイ構造などが挙げられる。中でも光学的効率、生産性の観点から誘電体多層膜の使用が好ましい。反射防止層に用いられる誘電体多層膜は選択波長遮蔽層に使用される誘電体多層膜と同様に低屈折率膜と高屈折率膜を交互に積層して得られる。
[透明基材]
透明基材の形状はブロック状であっても、板状であっても、フィルム状であってもよく、厚さは、構成する材料にも依存するが、0.03〜5mmが好ましく、薄型化の点から、0.05〜1mmがより好ましい。
【0110】
透明基材は、可視光を透過すれば、材料はとくに制限されず、ガラスや結晶、樹脂等が使用できる。透明基材は、光学フィルタとしての光学特性、機械特性等の長期にわたる信頼性に係る形状安定性の観点、フィルタ製造時のハンドリング性、加工性等の観点から、ガラスが好ましい。
【0111】
透明基材として使用できる樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0112】
透明基材に使用できるガラスとしては、フツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラス等にCuO等を添加した吸収型のガラス(近赤外線吸収ガラス基材)、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられる。なお、「リン酸塩ガラス」には、ガラスの骨格の一部がSiO
2で構成されるケイリン酸塩ガラスも含むものとする。
また、透明基材に使用できる結晶材料としては、水晶、ニオブ酸リチウム、サファイヤ等の複屈折性結晶が挙げられる。
【0113】
ここで、透明基材に使用されるCuOを含有するガラスの具体的な組成例を記載する。
(1)質量%表示で、P
2O
5 46〜70%、AlF
3 0.2〜20%、LiF+NaF+KF 0〜25%、MgF
2+CaF
2+SrF
2+BaF
2+PbF
2 1〜50%、ただし、F 0.5〜32%、O 26〜54%を含む基礎ガラス100質量部に対し、外割でCuO:0.5〜7質量部を含むガラス。
【0114】
(2)質量%表示で、P
2O
5 25〜60%、Al
2OF
3 1〜13%、MgO 1〜10%、CaO 1〜16%、BaO 1〜26%、SrO 0〜16%、ZnO 0〜16%、Li
2O 0〜13%、Na
2O 0〜10%、K
2O 0〜11%、CuO 1〜7%、ΣRO(R=Mg、Ca、Sr、Ba) 15〜40%、ΣR’
2O(R’=Li、Na、K) 3〜18%(ただし、39%モル量までのO
2−イオンがF−イオンで置換されている)からなるガラス。
【0115】
(3)質量%表示で、P
2O
5 5〜45%、AlF
3 1〜35%、RF(RはLi、Na、K) 0〜40%、R’F
2(R’はMg、Ca、Sr、Ba、Pb、Zn) 10〜75%、R”Fm(R”はLa、Y、Cd、Si、B、Zr、Ta、mはR”の原子価に相当する数) 0〜15%(ただし、フッ化物総合計量の70%までを酸化物に置換可能)、およびCuO 0.2〜15%を含むガラス。
【0116】
(4)カチオン%表示で、P
5+ 11〜43%、Al
3+ 1〜29%、Rカチオン(Mg、Ca、Sr、Ba、Pb、Znイオンの合量) 14〜50%、R’カチオン(Li、Na、Kイオンの合量) 0〜43%、R”カチオン(La、Y、Gd、Si、B、Zr、Taイオンの合量) 0〜8%、およびCu
2+ 0.5〜13%を含み、さらにアニオン%でF
− 17〜80%を含有するガラス。
【0117】
(5)カチオン%表示で、P
5+ 23〜41%、Al
3+ 4〜16%、Li
+ 11〜40%、Na
+ 3〜13%、R
2+(Mg
2+、Ca
2+、Sr
2+、Ba
2+、Zn
2+の合量) 12〜53%、およびCu
2+ 2.6〜4.7%を含み、さらにアニオン%でF
− 25〜48%、およびO
2− 52〜75%を含むガラス。
【0118】
(6)質量%表示で、P
2O
5 70〜85%、Al
2O
3 8〜17%、B
2O
3 1〜10%、Li
2O 0〜3%、Na
2O 0〜5%、K
2O 0〜5%、ただし、Li
2O+Na
2O+K
2O 0.1〜5%、SiO
2 0〜3%からなる基礎ガラス100質量部に対し、外割でCuOを0.1〜5質量部含むガラス。
【0119】
市販品を例示すると、(1)のガラスとしては、NF−50E、NF−50EX、NF−50T、NF−50TX(AGC社製、商品名)等、(2)のガラスとしては、BG−60、BG−61(以上、ショット社製、商品名)等、(5)のガラスとしては、CD5000(HOYA(株)製、商品名)等が挙げられる。
【0120】
上記したCuO含有ガラスは、金属酸化物をさらに含有してもよい。金属酸化物として、例えば、Fe
2O
3、MoO
3、WO
3、CeO
2、Sb
2O
3、V
2O
5等の1種または2種以上を含有すると、CuO含有ガラスは紫外線吸収特性を有する。これらの金属酸化物の含有量は、上記CuO含有ガラス100質量部に対して、Fe
2O
3、MoO
3、WO
3およびCeO
2からなる群から選択される少なくとも1種を、Fe
2O
3 0.6〜5質量部、MoO
3 0.5〜5質量部、WO
3 1〜6質量部、CeO
2 2.5〜6質量部、またはFe
2O
3とSb
2O
3の2種をFe
2O
3 0.6〜5質量部+Sb
2O
3 0.1〜5質量部、もしくはV
2O
5とCeO
2の2種をV
2O
5 0.01〜0.5質量部+CeO
2 1〜6質量部とすることが好ましい。
【0121】
なお、本フィルタが、透明基材14としてガラスや吸収型ガラスを含む場合、ガラスまたは吸収型ガラス(透明基材14)と、吸収層11と、の間に図示しない誘電体層を有してもよい。誘電体層は、誘電体材料で構成される層であり、その厚さは30nm以上が好ましい。誘電体層を有することで、本フィルタにおける吸収層11の耐久性を向上できる。誘電体層の厚さは100nm以上がより好ましく、200nm以上がさらに好ましい。誘電体層の厚さの上限はとくにないが、設計のしやすさや製造の容易さの観点から2000nm以下が好ましく、1000nm以下がより好ましい。
【0122】
誘電体層は、例えば、ガラスからなる透明基板にNa原子やK原子などのアルカリ原子が含まれ、そのアルカリ原子が吸収層11に拡散することで吸収層11の光学特性や耐候性を劣化させ得る場合に、アルカリバリア膜として機能し、本フィルタの耐久性を向上できる。上記の場合、誘電体層は、SiO
2やSiO
x、Al
2O
3などが好適に挙げられる。
【0123】
本フィルタは、透明基材14と吸収層11との間に、さらに密着膜を有してもよい。密着膜としては、MgF
2、CaF
2、LaF
3、NdF
3、CeF
3、Na
5Al
3F
14、Na
3AlF
6、AlF
3、BaF
2およびYF
3から選ばれる少なくとも1つの材料から選択できる。このように、例えば、ガラスからなる透明基板と吸収層11との間には、上記の誘電体層(アルカリバリア膜)または密着膜、もしくは、該誘電体層と該密着膜との両方を備えてもよい。なお、本明細書では、このように、ガラスまたは近赤外線吸収ガラス(吸収型ガラス)と吸収層11との間に、上記の誘電体層及び/または密着膜を備える場合、ガラスまたは近赤外線吸収ガラス上に誘電体層及び/または密着膜を備えたものも「透明基材」として取り扱うものとする。
【0124】
透明基材の光学特性は、上記の吸収層、上記の選択波長遮蔽層等と積層して得られるNIRフィルタとして、本発明の光学特性を有し得ることが好ましい。
【0125】
透明基材は、その主面上に上記の吸収層を積層させるにあたって、その積層面にシランカップリング剤による表面処理を施してもよい。シランカップリング剤による表面処理が施された透明基材を用いることにより、吸収層との密着性を高めることができる。シランカップリング剤としては、例えば、上記の吸収層で用いるのと同じものを使用できる。
【0126】
本フィルタは、デジタルスチルカメラ等の撮像装置や自動露出計等のNIRフィルタ、PDP用のNIRフィルタ等として使用できる。本フィルタはデジタルスチルカメラ等の固体撮像装置において好適に用いられる。
【実施例】
【0127】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。例5−1〜例5〜4、例5−6〜例5−9、例6−1〜例6〜2、例7−1〜例7−3が本発明に係る光学フィルタの実施例である。
【0128】
<色素の合成>
実施例で使用するNIR色素(A1−1)〜(A1−13)(実施例用色素と記す)、および比較のためのNIR色素(A2)〜(A8)(比較用色素と記す)を合成した。NIR色素(A1−1)〜(A1−13)は、表1に記載の色素であり、NIR色素(A2)〜(A8)は、式(A2)〜(A8)で表されるNIR色素である。
【0129】
【化13】
【0130】
【化14】
【0131】
[NIR色素(A1−6)の製造]
以下、反応式(F1)を用いてNIR色素(A1−6)の製造例を具体的に説明する。なお、以下の説明において、原料成分((a)、(g))や中間生成物((b)〜(h))におけるR
1〜R
4について記載しないが、R
1はイソプロピル基、R
2はn−プロピル基、R
3およびR
4は水素原子である。
【0132】
NIR色素(A1−6)の製造は、反応式(F1)中の化合物(a)を東京化成工業(株)より入手し出発物質として用いた。
【0133】
(化合物(b)の製造)
1Lナスフラスコに化合物(a)を31.50g(0.197mol)、ヨウ化イソプロピルを134.06g(0.79mol)加え、110℃で48時間反応させた。赤い沈殿物が析出し、反応容器中はヨウ化イソプロピルの液体が消失してほぼ固体になった。室温に戻して、ヘキサンを加え、沈殿物をろ過した。ろ過物をヘキサンで再び洗浄しろ過した。その結果、化合物(b)(63.9g、0.19mol、収率:98.0%)が得られた。
【0134】
(化合物(c)の製造)
1Lナスフラスコに化合物(b)63.9g(0.19mol)、水200mlを加え、その後、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH40g(1.0mol)+水200ml)を滴下した。添加後、室温で4時間反応させた後、ジクロロメタンと水で抽出し、ジクロロメタン層を、エバポレーターを用いて溶媒を除去した。濃縮した有機層をカラムクロマトグラフィー法にて精製した。その結果、液状の化合物(c)(33.6g、0.17mol、収率:86.7%)が得られた。
【0135】
(化合物(d)の製造)
1Lのナスフラスコに化合物(c)33.6g(0.17mol)、メタノール700mlを加えた。0℃に冷却して水素化ホウ素ナトリウム(14.76g、0.39mol)を加えた。添加後、室温に戻し、4時間反応させた。反応終了後、水を加え、その後、酢酸エチルと水で抽出を行った、抽出後、得られた有機層を、エバポレーターを用いて溶媒を除去した。濃縮した有機層をカラムクロマトグラフィー法にて精製した。その結果、液状の化合物(d)(26.68g、0.13mol、収率:79.0%)が得られた。
【0136】
(化合物(e)の製造)
1Lのナスフラスコに化合物(d)26.68g(0.13mol)を加え、0℃の氷浴下で濃硫酸80g(0.81mol)を滴下した。濃硫酸滴下後、30分間攪拌した。その後、60%の濃硝酸19.19gと濃硫酸60gの混合溶液を氷浴下で滴下した。滴下終了後、反応温度を徐々に室温に戻し、同温度で15時間反応させた。反応終了後、再び0℃に冷却して、水300mlを加えた。さらに反応液が中性になるまで40質量%水酸化ナトリウム水溶液を滴下した。その後、ジクロロメタンで抽出した。得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、エバポレーターを用いて溶媒を除去した。濃縮した有機層をカラムクロマトグラフィー法にて精製した。その結果、液状の化合物(e)(26.0g、0.10mol、収率:80.0%)が得られた。
【0137】
(化合物(f)の製造)
2Lのナスフラスコに、化合物(e)を26.0g(0.10mol)およびTHFを400ml投入し、次いで、氷浴下で、パラジウム炭素8gおよびエタノール400mlを順に加え、さらに、ギ酸アンモニウム93g(1.48mol)を添加した。その後、反応系を開放して大気雰囲気下室温で12時間撹拌した。反応終了後、水を加えた。反応液をろ過して、ろ液をジクロロメタン−水で分液した後、有機層を、エバポレーターを用いて濃縮した。濃縮した有機層をカラムクロマトグラフィーにて精製した。その結果、油状の化合物(f)(16.5g、0.075mol、収率:72.0%)が得られた。
【0138】
(化合物(h)の製造)
2Lのナスフラスコに、化合物(f)4.0g(0.018mol)、ジクロロメタン90mlおよびジイソプロピルエチルアミン2.84g(0.022mol)を加え、次いで、置換基R
2を有するクロロギ酸エステル2.68g(0.022mol)を滴下した。滴下終了後、室温に戻して2時間反応させた。反応終了後、水を加え、ジクロロメタンで抽出を行った。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、エバポレーターを用いて溶媒を除去した後、濃縮した有機層をカラムクロマトグラフィー法にて精製した。その結果、固体の化合物(h)(3.2g、0.011mol、収率:57%)が得られた。
【0139】
(NIR色素(A1−6)の製造)
1LのナスフラスコにDean−Stark管を取り付け、化合物(h)2.5g(0.008mol)、スクアリン酸0.47g(0.0041mol)、オルトギ酸エチル4.68g(0.032mol)、エタノール100mlを加え、90℃で8時間加熱撹拌した。反応終了後、エバポレーターを用いて溶媒を除去した後、カラムクロマトグラフィー法にて精製した。その結果、NIR色素(A1−6)(2.3g、0.0033mol、収率:81%)が得られた。
【0140】
[NIR色素(A1−1)、(A1−3)〜(A1−5)の製造]
NIR色素(A1−6)の製造において、ヨウ化イソプロピルに代えてヨードメタンを用い、かつ置換基R
2を有するクロロギ酸エステル(g)のR
2を、それぞれ表1に示すR
2とした以外は同様にして、NIR色素(A1−1)、(A1−3)〜(A1−5)を製造した。
【0141】
[NIR色素(A1−2)の製造]
NIR色素(A1−6)の製造において、ヨウ化イソプロピルに代えてヨードメタンを用いた以外は同様にして、NIR色素(A1−2)を製造した。
【0142】
[NIR色素(A1−7)〜(A1−9)の製造]
NIR色素(A1−6)の製造において、置換基R
2を有するクロロギ酸エステル(g)のR
2を、それぞれ表1に示すR
2とした以外は同様にして、NIR色素(A1−7)〜(A1−9)を製造した。
【0143】
[NIR色素(A1−12)の製造]
NIR色素(A1−12)の製造では、反応式(F1)中の化合物(a)(ただし、R
3、R
4は水素原子)を出発原料とした。そして、反応式(F2−1)に示す経路を経て、反応式(F1)中の化合物(f)(ただし、R
1は1,1−ジメチルプロピル基、R
3、R
4は水素原子)を製造し、この化合物(f)から、NIR色素(A1−6)の場合と同様にして、化合物(h)(ただし、R
1は−(CH
3)
2CC
2H
5、R
2は−CH
2CH
2CH
3(n−C
3H
7)、R
3、R
4は水素原子)を経てNIR色素(A1−10)を製造した。なお、反応式(F2−1)中、TSOHはp−トルエンスルホン酸を示す。以下、本明細書中、TSOHは前記と同じ意味で用いられる。
【0144】
(化合物(i)の製造)
1Lのナスフラスコに化合物(a)を50.0g(0.31mol)、p−トルエンスルホン酸を60.0g(0.35mol)を加え、次いで、水素化ホウ素ナトリウムを114.0g(0.37mol)0℃で加えた。メカニカルスターラーで撹拌しながら2時間反応させた後、再度0℃に冷却し、水を滴下して反応を終了させた。反応終了後、ジクロロメタンと水で抽出し、ジクロロメタン層を、エバポレーターを用いて溶媒を除去した後、濃縮した有機層をカラムクロマトグラフィー法にて精製した。その結果、固体の化合物(i)(46.0g、0.29mol、収率:91.0%)が得られた。
【0145】
(化合物(k)の製造)
1Lのナスフラスコに化合物(i)を45.7g(0.28mol)、ジイソプロピルエチルアミンを54.9g(0.43mol)、化合物(j)を40.0g(0.29mol)、ヨウ化銅を5.0g(0.026mol)、THFを600ml加えた。50℃で13時間反応させ、さらにヨウ化銅を5.0g(0.026mol)追加して、5時間反応させた。反応終了後、ジクロロメタンと水で抽出し、ジクロロメタン層を、エバポレーターを用いて溶媒を除去した後、濃縮した有機層をカラムクロマトグラフィー法にて精製した。その結果、化合物(k)(31.0g、0.13mol、収率:45.0%)が得られた。
なお、化合物(j)は、化合物(l)から、反応式(F2−2)に示す反応経路を経て生成したものである。すなわち、1Lのナスフラスコに化合物(l)を75.0g(0.76mol)、無水酢酸を90.0g(0.88mol)、トリエチルアミンを100.0g(0.99mol)、ジクロロメタンを1L加え、40℃で24時間反応させた。反応終了後、炭酸水素ナトリウム水溶液と水で分液し、エバポレーターを用いて溶媒を除去した後、蒸留により精製した。その結果、固体の化合物(i)(46.0g、0.29mol、収率:91.0%)が得られた。
【0146】
(化合物(f)の製造)
1Lのナスフラスコに、化合物(k)を30.0g(0.12mol)、パラジウム炭素を5gおよびTHFを500ml投入し、常圧で水素を添加して8時間反応させた。反応終了後、反応液をろ過してパラジウム炭素を取り除き、さらに、エバポレーターを用いて溶媒を除去し、残渣をカラムクロマトグラフィーにて精製した。その結果、化合物(f)(25.0g、0.10mol、収率:82.0%)が得られた。
【0147】
(NIR色素(A1−12)の製造)
このようにして得られた化合物(f)を用い、置換基R
2を有するクロロギ酸エステル(g)のR
2を、表1に示すR
2とした以外はNIR色素(A1−6)の場合と同様にして、NIR色素(A1−12)を製造した。
【0148】
【化15】
【0149】
【化16】
【0150】
[NIR色素(A1−13)の製造]
NIR色素(A1−12)の製造において、置換基R
2を有するクロロギ酸エステル(g)のR
2を表1に示すR
2とした以外は同様にして、NIR色素(A1−13)を製造した。
【0151】
[NIR色素(A1−10)の製造]
NIR色素(A1−12)の製造において、化合物(j)に代えて、下記に示す化合物(j’)を用いた以外は同様にして、色素(A1−10)を製造した。
なお、化合物(j’)は、化合物(j)の製造において、出発物質として化合物(l)に代えて、化合物(l’)を用いた以外は同様にして製造したものである。
【0152】
【化17】
【0153】
[NIR色素(A1−11)の製造]
NIR色素(A1−10)の製造において、置換基R
2を有するクロロギ酸エステル(g)のR
2を表1に示すR
2とした以外は同様にして、NIR色素(A1−11)を製造した。
【0154】
なお、比較用NIR色素(A2)〜(A8)については、NIR色素(A2)〜(A4)は、国際公開第2014/088063号に記載された方法により製造し、NIR色素(A5)〜(A8)は、国際公開第11/086785号に記載された方法により製造した。
【0155】
<NIR色素の評価>
(1)ジクロロメタン中におけるNIR色素の吸収特性
得られたNIR色素をジクロロメタン中に溶解し、紫外可視分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ社製、U−4100形)を用いて分光透過率曲線を測定し、最大吸収波長λ
max、最大吸収波長における透過率を10%としたときの前記最大吸収波長より短波長側で透過率が80%となる波長λ
80、最大吸収波長λ
maxと波長λ
80との差(λ
max−λ
80)、波長430〜550nmの光における最大吸光係数ε
A、波長670〜730nmの光における最大吸光係数ε
B、およびそれらの比(ε
B/ε
A)を算出した。結果を表3に示す。なお、以降の例における分光透過率曲線の測定には、いずれもU−4100形を用いた。
【0156】
【表3】
【0157】
表3に示すとおり、NIR色素(A1−1)〜(A1−13)はいずれも(i−1)〜(i−3)を満たしている。一方、NIR色素(A2)〜(A4)は(i−2)を満たさず、NIR色素(A5)は(i−3)を満たさない。また、NIR色素(A7)は(i−1)および(i−2)を満たさず、また、NIR色素(A8)は(i−3)を満たさず、NIR色素(A6)は(i−2)および(i−3)を満たさない。
【0158】
(2)透明樹脂中におけるNIR色素の吸収特性
(例1−1〜例1−12)
得られたNIR色素のうち表4に示すNIR色素をそれぞれポリイミド樹脂(ネオプリム(登録商標)C3450)のシクロヘキサノン溶液と混合し、室温にて撹拌・溶解することで塗工液を得た。なお、例1−11では、用いたNIR色素(A2)が樹脂溶液に溶解せず、塗工液を調製できなかった。
得られた塗工液を、厚さ0.3mmのガラス(無アルカリガラス;旭硝子(株)製、商品名:AN100)基板上にスピンコート法により塗布し、加熱乾燥させ、厚さ0.9μm〜1.1μmの吸収層を形成し、透明基板と吸収層からなるNIRフィルタ(例1−1〜例1−10、例1−12)を得た。
【0159】
(例2−1〜例2−7)
得られたNIR色素のうち表5に示す色素をそれぞれ、ポリイミド樹脂(C3630)を混合溶媒(シクロヘキサノン+NMP)に溶解して調製したシクロヘキサノン溶液とNMP溶液と混合し、室温にて撹拌・溶解することで塗工液を得た。なお、例2−6では、用いたNIR色素(A2)が樹脂溶液に溶解せず、塗工液を調製できなかった。
得られた塗工液を、厚さ0.3mmのガラス(AN100)基板上にスピンコート法により塗布し、加熱乾燥させ、厚さ0.9〜1.2μmの吸収層を形成し、NIRフィルタ(例2−1〜例2−5、例2−7)を得た。
【0160】
(例3−1〜例3−9)
得られた色素のうち表6に示すNIR色素をそれぞれポリエーテルスルホン樹脂(スミカエクセル(登録商標)PES4800)のシクロヘキサノン溶液と混合し、室温にて撹拌・溶解することで塗工液を得た。なお、例3−9では、用いたNIR色素(A2)が樹脂溶液に溶解せず、塗工液を調製できなかった。
得られた塗工液を、厚さ0.3mmのガラス(AN100)基板上にスピンコート法により塗布し、加熱乾燥させ、厚さ0.9〜1.0μmの吸収層を形成し、NIRフィルタ(例3−1〜例3−8)を得た。
【0161】
(例4−1〜例4−11)
得られたNIR色素のうち表7に示す色素をそれぞれポリエステル樹脂(OKP850)のシクロヘキサノン溶液と混合し、室温にて撹拌・溶解することで塗工液を得た。なお、例4−11では、用いたNIR色素(A2)が樹脂溶液に溶解せず、塗工液を調製できなかった。
得られた塗工液を、厚さ0.3mmのガラス(AN100)基板上にスピンコート法により塗布し、加熱乾燥させ、厚さ0.9〜1.0μmの吸収層を形成し、NIRフィルタ(例4−1〜例4−10)を得た。
【0162】
作製したNIRフィルタについて、分光透過率曲線を測定した。その測定結果から、吸収層の、最大吸収波長λ
Pmax、波長430〜550nmの光の最小透過率、波長430〜480nmの光の平均透過率、波長690〜730nmの光の透過率が1%以下となる吸収幅(透過率が1%以下となる最も長い波長λ
bと透過率が1%以下となる最も短い波長λ
aとの差(λ
b−λ
a);吸収幅と表記)、最大吸収波長λ
Pmaxにおける透過率を10%としたときの前記最大吸収波長より短波長側で透過率が80%となる波長λ
P80、最大吸収波長λ
Pmaxと波長λ
P80との差(λ
Pmax−λ
P80)を算出した。結果を、吸収層の膜厚、および吸収層におけるNIR色素の樹脂に対する割合とともに、表4〜7に併せ示す。
なお、表4〜7に示した値は、NIRフィルタの分光透過率曲線から、ガラス基板の透過率等を減算した値である。具体的にはガラス基板の吸収、ガラス基板と吸収層界面、ガラス基板と空気界面の反射の影響を差し引いて、吸収層と空気界面での反射を計算した値となっている。
【0163】
【表4】
【0164】
表4に示されるように、ポリイミド樹脂(C3450)を用いた例において、例1−1〜例1−10は、最大吸収波長λ
Pmaxが波長701〜716nmにあり、波長430〜480nmの光の平均透過率が87%以上、λ
Pmax−λ
P80が109nm以下であった。これは、式(AI)で示されるスクアリリウム系色素を含む例は、波長600〜700nmの光の透過率を高く保持でき、また、波長430〜480nmの可視域の光の透過率が高く、かつ可視域と近赤外域の境界付近における吸収曲線が急峻であることを示している。
【0165】
【表5】
【0166】
表5に示されるように、ポリイミド樹脂(C3630)を用いた例において、例2−1〜例2−5は、最大吸収波長λ
Pmaxが波長705〜716nmにあり、波長430〜480nmの光の平均透過率が87%以上、λ
Pmax−λ
P80が100nm以下であった。これは、式(AI)で示されるスクアリリウム系色素を含む例は、波長600〜700nmの光の透過率を高く保持でき、また、波長430〜480nmの可視域の光の透過率が高く、かつ可視域と近赤外域の境界付近における吸収曲線が急峻であることを示している。
【0167】
【表6】
【0168】
表6に示されるように、ポリエーテルスルホン樹脂(スミカエクセル(登録商標)PES4800)を用いた例において、例3−1〜例3−8は、最大吸収波長λ
Pmaxが波長702〜717nmにあり、波長430〜480nmの光の平均透過率が87%以上、λ
Pmax−λ
P80が114nm以下であった。これは、式(AI)で示されるスクアリリウム系色素を含む例は、波長600〜700nmの光の透過率を高く保持でき、また、波長430〜480nmの可視域の透過率が高く、かつ可視域と近赤外域の境界付近における吸収曲線が急峻であることを示している。
【0169】
【表7】
【0170】
表7に示されるように、ポリエステル樹脂(OKP850)を用いた例において、例4−1〜例4−10は、最大吸収波長λ
Pmaxが波長702〜716nmにあり、波長430〜480nmの光の平均透過率が87%以上、λ
Pmax−λ
P80が105nm以下であった。これは、式(AI)で示されるスクアリリウム系色素を含む例は、波長600〜700nmの光の透過率を高く保持でき、また、波長430〜480nmの可視域の光の透過率が高く、かつ可視域と近赤外域の境界付近における吸収曲線が急峻であることを示している。
【0171】
(3)NIR色素の溶解性
得られたNIR色素のうち実施例用色素について、樹脂溶液に対する溶解性を評価した。
溶解性試験では樹脂溶液として、ポリイミド樹脂(C3450)、ポリエーテルスルホン樹脂(スミカエクセル(登録商標)PES4800)およびポリエステル樹脂(OKP850)をそれぞれ混合溶媒(シクロヘキサノン:NMP=1:1)に溶解して調製した樹脂濃度12.5質量%の3種の溶液を用いた。結果を、用いた色素の種類とともに表8に示す。なお、溶解性試験における樹脂溶液の温度は50℃とし、その中にNIR色素を投入し、2時間攪拌して、溶解の有無を目視にて観察した。溶解性の評価基準は下記のとおりである。
A:溶解度9質量%以上
B:溶解度7質量%以上9質量%未満
C:溶解度5質量%以上7質量%未満
D:溶解度3質量%以上5質量%未満
E:溶解度1質量%以上3質量%未満
F:溶解度1質量%未満
【0172】
【表8】
【0173】
表8に示すとおり、置換基R
2が炭素原子数3個以上のアルキル構造を有する色素(A1−2)〜(A1−4)、(A1−6)〜(A1−8)および(A1−10)〜(A1−13)は、メチル基(炭素原子数1個)やフェニル基を有する他の色素に比べ、樹脂溶液に対し高い溶解性を有している。このことから、置換基R
1炭素原子数3個以上のアルキル構造が溶解性の向上に寄与する一方、環構造が溶解性を低下させていると推定される。樹脂溶液に対する溶液性が高いと、塗工性が向上し、厚さの薄い樹脂膜を形成し得る。また、薄い樹脂膜とすることで、熱処理時の樹脂の膨張を抑制でき、光学フィルタを構成する他の部材、他の機能層への悪影響を低減できる。具体的には、例えば、反射防止層の破損等を抑制できる。
【0174】
<光学フィルタ[I]の製造>
(例5−1)
ポリイミド樹脂(C3450)を混合溶媒(シクロヘキサノン+NMP)に溶解して調製した溶液に、上記NIR吸収色素(A1−2)をポリイミド樹脂の質量に対して11質量%となる割合で添加し溶解させて、吸収層を形成するための塗工液を調製した。
この塗工液を、厚さ0.3mmのガラス(AN100)基板上にスピンコート法により塗布し、大気圧下、加熱して、厚さ約1.0μmの吸収層を形成した。
この後、吸収層の表面に、蒸着法により、TiO
2膜とSiO
2膜を交互に積層して反射防止層を形成し、光学フィルタを得た。
【0175】
(例5−2〜例5−10)
例5−2〜例5−10は、吸収層を形成するための塗工液に添加するNIR吸収色素類および/または樹脂の種類を表9に示すように変えた以外は、例5−1と同様にして光学フィルタを製造した。
【0176】
<光学フィルタ[I]の密着性の評価>
作製した光学フィルタについて、(1)〜(3)の条件で、100マス(10mm×10mm)碁盤目テープ剥離試験を行い、100マス中、剥離が生じたマスの数を計数し、密着性を評価した(例5−6〜例5−10については、(1)および(2)の条件でのみ実施)。
条件(1):3.9N/cmのテープで剥離
条件(2):6.0N/cmのテープで剥離
条件(3):光学フィルタを30℃の水に10分間浸漬後、6.0N/cmのテープで剥離結果を、表9に併せ示す。密着性の評価基準は下記のとおりである。
A:0個(剥がれなし)
B:1〜9個
C:10〜30個
D:31〜50個
E:51〜100個
【0177】
【表9】
【0178】
表9から明らかなように、式(AI)で示されるスクアリリウム系色素を含む例5−1〜例5−4、例5−6〜例5−9の光学フィルタは、ガラスや誘電体多層膜に対し密着性が低い樹脂として知られるポリイミド樹脂やポリエーテルスルホン樹脂が用いられた場合でも良好な密着性を示した。
【0179】
<光学フィルタ[II]の製造>
(例6−1)
厚さ0.3mmのガラス(AN100)基板に蒸着法により、TiO
2膜とSiO
2膜を交互に積層して、誘電体多層膜52層からなる選択波長遮蔽層を形成した。選択波長遮蔽層の構成は、誘電体多層膜の積層数、TiO
2膜の膜厚およびSiO
2膜の膜厚をパラメータとしてシミュレーションし、入射角0°および30°の各分光透過率曲線において、(iii−1)および(iii−2)を満たすように、具体的には、本例では、波長420〜695nmの光の透過率が90%以上、波長704nm(後述する吸収層の波長650〜800nmの光における透過率が1%となる最大波長)〜1100nmの光における透過率が1%以下となるように求めたものである。
図2に、上記設計をもとに作製した選択波長遮蔽層の分光透過率曲線(入射角0°および30°)を示す。
【0180】
また、ポリイミド樹脂(C3450)を混合溶媒(シクロヘキサノン+NMP)に溶解して調製した溶液に、シランカップリング剤としてN−[2−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アミノ]エチル]ウレアをポリイミド樹脂の質量に対して3質量%となる割合で添加し溶解させた。さらに、この樹脂溶液に、得られたNIR色素(A1−6)、およびUV色素(M−2)を、ポリイミド樹脂の質量に対してそれぞれ10.9質量%および4.5質量%となる割合で添加し溶解させて、吸収層を形成するための塗工液を調製した。
【0181】
この塗工液を、選択波長遮蔽層を形成した上記ガラス基板の選択波長遮蔽層形成面とは反対側の面に、スピンコート法により塗布し、大気圧下、加熱して、厚さ約1.0μmの吸収層を形成した。
この後、吸収層の表面に、選択波長遮蔽層と同様、蒸着法により、TiO
2膜とSiO
2膜を交互に積層して反射防止層を形成し、光学フィルタを得た。
なお、反射防止層の構成もまた、誘電体多層膜の積層数、TiO
2膜の膜厚およびSiO
2膜の膜厚をパラメータとして、所望の光学特性を有するようにシミュレーションして決定した。
【0182】
(例6−2)
ポリイミド樹脂(C3450)に代えて、ポリイミド樹脂(C3630)を用いるとともに、該ポリイミド樹脂の質量に対してNIR色素(A1−6)を12.8%となる割合で添加した以外は、例6−1と同様にして、光学フィルタを製造した。
【0183】
(例6−3)
NIR吸収色素(A1−6)に代えてNIR色素(A3)を用いるとともに、該NIR色素(A3)をポリイミド樹脂の質量に対して10.1%となる割合で添加した以外は、例6−1と同様にして、光学フィルタを製造した。
【0184】
(例6−4)
ポリイミド樹脂(C3450)に代えて、ポリイミド樹脂(C3630)を用いるとともに、該ポリイミド樹脂の質量に対してNIR色素(A3)を8.8%となる割合で添加した以外は、例6−3と同様にして、光学フィルタを製造した。
【0185】
<光学フィルタ[II]の分光特性の評価>
作製した光学フィルタ(例6−1〜例6−4)について、分光透過率曲線(入射角0°および30°)を測定し、その測定結果から各光学特性を算出した。結果を、表10に示す。なお、表10中、平均透過率および最小透過率の値は、入射角0°の分光透過率曲線から算出した値である。
また、波長385〜430nmの透過率平均シフト量は、入射角0°の分光透過率曲線の波長385〜430nmの光の透過率と、入射角30°の分光透過率曲線の波長385〜430nmの光の透過率との差分の絶対値を平均した値である。
同様に、波長600〜700nmの透過率平均シフト量は、入射角0°の分光透過率曲線の波長600〜700nmの光の透過率と、入射角30°の分光透過率曲線の波長600〜700nmの光の透過率との差分の絶対値を平均した値である。
【0186】
【表10】
【0187】
表10から明らかなように、例6−1、例6−2の光学フィルタは、いずれも(iv−1)〜(iv−6)を満たしていた。すなわち、可視光の利用効率が高く、可視域の長波長領域における光の入射角依存性も低い光学フィルタであった。
【0188】
<光学フィルタ[II]の耐光性の評価>
作製した光学フィルタ(例6−1〜例6−4)について、耐光性試験を行い、耐光性を評価した。
耐光性試験では、スーパーキセノンウエザーメータSX75(スガ試験機(株)製、製品名)を用いて、光学フィルタに対し下記の条件で光を照射した。
波長:300〜2450nm
温度:40℃
湿度:50%RT
積算光量:87.2kw・時間/m
2
照射前後に、分光透過率曲線(入射角0°)を測定し、照射前後の波長500〜800nmの光における最大透過率を求め、次式よりその変動量を算出した。
最大透過率変動量[%]=(照射前の波長500〜800nmの光の最大透過率)−(照射後の波長500〜800nmの光の最大透過率)
結果を、表11に示す。
【0189】
【表11】
【0190】
表11から明らかなように、本発明の実施例にかかるNIR色素(A1−6)を用いた光学フィルタは、優れた耐光性を示した。
【0191】
<光学フィルタ[III]の製造>
(例7−1)
ポリイミド樹脂(C3630)を混合溶媒(シクロヘキサノン+NMP)に溶解して調製した溶液に、NIR吸収色素(A1−6)、およびUV色素(M−2)を、ポリイミド樹脂の質量に対してそれぞれ4.3質量%および4.5質量%となる割合で添加し溶解させて、吸収層を形成するための塗工液を調製した。
この塗工液を、厚さ0.2mmの近赤外線吸収ガラス(NF−50TX)基板上にスピンコート法により塗布し、大気圧下、加熱して、厚さ約0.9μmの吸収層を形成した。
この後、吸収層の表面に、TiO
2膜とSiO
2膜を交互に積層して反射防止層を形成し、光学フィルタを得た。
【0192】
(例7−2〜例7−3)
例7−2〜例7−3は、それぞれ吸収層を形成するための塗工液に添加するNIR吸収色素類および/または樹脂の種類を表12に示すように変えた以外は、例7−1と同様にして光学フィルタを製造した。
【0193】
<光学フィルタ[III]の分光特性の評価>
作製した光学フィルタ(例7−1〜例7−3)について、分光透過率曲線(入射角0°および30°)を測定し、その測定結果から各光学特性を算出した。結果を、表12に示す。なお、表12中、平均透過率および最小透過率の値、ならびに波長385〜430nmの透過率平均シフト量および波長600〜700nmの透過率平均シフト量の定義は、表10におけるものと同様である。
【0194】
【表12】
【0195】
表12から明らかなように、例7−1〜例7−3の光学フィルタは、いずれも(iv−1)〜(iv−6)を満たしていた。すなわち、可視光の利用効率が高く、可視域のうちとくに、長波長領域の光における入射角依存性も低い光学フィルタであった。
【0196】
次に、光学フィルタ[III]について、光学フィルタ[I]と同様の密着性評価をすると、光学フィルタ[I]において示した条件(1)〜(3)において、いずれも[A]判定の結果が得られることが確認できる。
条件(1):3.9N/cmのテープで剥離
条件(2):6.0N/cmのテープで剥離
条件(3):光学フィルタを30℃の水に10分間浸漬後、6.0N/cmのテープで剥離