【実施例】
【0192】
[実施例1]
CH3ドメイン交換抗体の構築、発現、精製、及び特徴付け
CH3ドメイン交換抗体は、野生型CH3ドメイン、或いは抗体のドメイン交換Fabアーム内のCH1及び/又はCLドメインを置換するために改変された様々なCH3ドメインを用いて形成可能であり、次に
図1で一部示すような様々な形態に会合する。
【0193】
実施例1では、下記のアミノ酸の特徴を有する3つの異なるドメイン交換ヘテロ二量体抗体の軽鎖及び重鎖をコードする合成DNAを生成した。
ドメイン交換ヘテロ二量体抗体1:
Fabアーム1及び対応する改変された軽鎖及び重鎖:
完全な抗体の一方のFabアーム内のCH1及びCLドメインをCH3ドメインと置換して、VL(1)−CH3_HOLE(Y407T)軽鎖(配列番号1)及びVH(1)−CH3_KNOB(T366Y)−CH2−CH3
AG重鎖(配列番号2)を作製した。VL(1)及びVH(1)ドメインは、EGFR特異的抗体hu425(Matuzumab)
1のFvを共同して形成する。
【0194】
VL(1)−CH3鎖におけるVL(1)ドメインからCH3ドメインへの転移を、Cκ配列の4つのアミノ酸残基RTVA(配列番号49、Rはヒトκ鎖の108番残基である(Kabat EU ナンバリング))の直後に、CH3ドメインのA−ストランドに属するEPQVで始まるアミノ酸配列(配列番号50、EはヒトIgG1重鎖の345番残基である(Kabat EUナンバリング))を繋げることにより形成した。CH3ドメイン配列はQKSLSLSで終了し(配列番号51、Qは、ヒトIgG1重鎖の438番残基である(Kabat EU ナンバリング))、その後に 残基GECが続く(Cκ鎖のC末端212〜214番残基(Kabat EUナンバリング)を表す)。
【0195】
VH(1)−CH3−CH2−CH3鎖におけるVH(1)ドメインからCH3ドメインへの転移は次の通り、すなわちJ領域(アミノ酸配列VTVSS(配列番号52、最初のVはヒトVH領域の109番残基)で終わる)に、ヒトCH1ドメインに属する5個の残基ASTKG(配列番号53、AはヒトIgG1重鎖の118番残基(Kabat EUナンバリング))が続き、その直後にCH3ドメインのA−ストランドに属する、EPQV(配列番号50、EはヒトIgG1重鎖の345番残基(Kabat EUナンバリング))で始まるアミノ酸配列が続いた。CH3ドメイン配列はQKSLSLS(配列番号51、QはヒトIgG1重鎖の438番残基(Kabat EUナンバリング))で終わり、その後にヒト重鎖ヒンジ領域の一部分に該当する残基KSC(KはヒトIgG1重鎖の218番残基(Kabat EUナンバリング))が続いた。
【0196】
VH(1)−CH3−CH2−CH3鎖内のVH(1)ドメインに対してC末端側に位置するCH3ドメインを有する同族の対を選好的に生成するために、VL(1)−CH3鎖のCH3ドメインを改変したが、特にこれには、Ridgwayら、1996年に基づく「ホール」変異Y407T(Kabat EUナンバリング)が含まれ、従って、この鎖は、より正確にはVL(1)−CH3_HOLE(Y407T)(配列番号1)と命名される。
【0197】
VL(1)−CH3鎖のCH3ドメインを有する同族の対を選好的に生成するために、VH(1)−CH3−CH2−CH3鎖内のVH(1)ドメインに対してC末端側に位置するCH3ドメインを改変したが、特にこれには、Ridgwayら、1996年に基づく「ノブ」変異T366Y(Kabat EUナンバリング)が含まれた。
【0198】
抗体の第2の重鎖のC末端側CH3ドメインを有する同族の対を選好的に生成するために、この抗体のVH(1)−CH3−CH2−CH3重鎖のC末端側CH3ドメインを改変した。このCH3ドメインの特異的エンジニアリングは、Davisら、2010年に基づく「AG」CH3ドメインのエンジニアリングに該当し、従って、この鎖は、より正確にはVH(1)−CH3_KNOB(T366Y)−CH2−CH3
AG(配列番号2)と命名される。
【0199】
得られた二重特異性抗体1(BsAb1)は、両方の標的CD3×EGFRを認識し、また下記の重鎖及び軽鎖により特に特徴付けられる:H1(配列番号2)、H2(配列番号4)、L1(配列番号1)、及びL2(配列番号3)。
Fabアーム2及び改変重鎖
ヘテロ二量体抗体の後半部分を、下記の鎖により形成した:
軽鎖(配列番号3)は、CD3特異的抗体OKT3(VL2)のVL配列をコードし、またVL(2)−CLドメインをコードする配列から構成された。
【0200】
重鎖(配列番号4)は、CD3特異的抗体OKT3(VH2)のVH配列をコードし、またVH(2)−CH1−CH2−CH3
GAドメインをコードする配列から構成された。抗体の第1の重鎖(VH(1)−CH3−CH2−CH3
AG)のC末端側CH3ドメインを有する同族の対を選好的に生成するために、このVH(2)−CH1−CH2−CH3
GA鎖のC末端側CH3ドメインを改変した。このCH3ドメインの特異的エンジニアリングは、Davisら、2010年に基づく「GA」CH3ドメインのエンジニアリングに該当し、従って、この鎖はVH(2)−CH1−CH2−CH3
GA(配列番号4)と命名される。
ドメイン交換ヘテロ二量体抗体2
この抗体を、ドメイン交換ヘテロ二量体抗体1内のFabアームと同様に改変した。但し、ドメイン交換ヘテロ二量体抗体2では、OKT3 Fabアームは、C末端側CH3
AGドメイン(VH(2)−CH1−CH2−CH3
AG(配列番号5))を含有する重鎖と融合しており、一方改変されたドメイン交換hu425 Fabアームは、C末端側CH3
GAドメインを含有する重鎖と融合している(VH(1)−CH3_KNOB(T366Y)−CH2−CH3
GA(配列番号6))。
【0201】
その結果、この二重特異性抗体は、両方の標的CD3×EGFRを認識し、また下記の重鎖及び軽鎖:H1(配列番号6)、H2(配列番号5)、L1(配列番号1)、及びL2(配列番号3)により特に特徴付けられる。
ドメイン交換ヘテロ二量体抗体3
この抗体を、ドメイン交換ヘテロ二量体抗体2としてFabアームと同様に改変した。ドメイン交換ヘテロ二量体抗体3では、OKT3 Fabアームは、C末端側CH3
AGドメインを含有する重鎖と融合しており、また改変されたドメイン交換hu425 Fabアームは、C末端側CH3
GAドメインを含有する重鎖と融合している。但し、ドメイン交換ヘテロ二量体抗体3では、野生型(wt)CH3ドメインは、ドメイン交換ヘテロ二量体抗体1及び2で用いた改変された「ノブ」及び「ホール」CH3ドメインの同族の対の代わりに、改変されたhu425 FabアームのVL1及びVH1の両方とC末端側で交換した。ドメイン交換ヘテロ二量体抗体3では、hu425 Fabアームについて、配列VL(1)−CH3
wt(配列番号7)、及びVH(1)−CH3
wt−CH2−CH3
GA(配列番号8)が用いられた。
【0202】
その結果、この二重特異性抗体は、標的CD3×EGFRの両方を認識し、また下記の重鎖及び軽鎖:H1(配列番号8)、H2(配列番号5)、L1(配列番号7)、及びL2(配列番号3)により特に特徴付けられる。
【0203】
記載した抗体鎖をコードする合成DNAは、pTT5哺乳動物発現ベクターへのクローニング用制限酵素に対応する配列と隣接する。
[実施例2]
ヒトIg様の二重特異性抗体を発現するためのベクターの構築
実施例1に記載する3つのヒトドメイン交換ヘテロ二量体抗体を、下記の表で定義する遺伝子配列の所定の組み合わせに従い、1つの細胞内で4つの異なる遺伝子を組み合わせて発現させて生成する。ドメイン交換ヘテロ二量体抗体1の生成は、配列番号1、2、3、及び4の同時発現による。ドメイン交換ヘテロ二量体抗体2の生成は、配列番号1、3、5、及び6の同時発現による。ドメイン交換ヘテロ二量体抗体3の生成は、配列番号3、5、7、及び8の同時発現による。
【0204】
【表1】
【0205】
これらの配列を発現させるために、8つの異なる哺乳動物pTT5(Shiら、2005年)に基づく発現ベクターを構築したが、各ベクターは、下記の配列をコードする遺伝子の1つを含有した:
配列番号1:VL(1)−CH3_HOLE(Y407T)
配列番号2:VH(1)−CH3_KNOB(T366Y)−CH2−CH3
AG
配列番号3:VL(2)−CL
配列番号4:VH(2)−CH1−CH2−CH3
GA
配列番号5:VH(2)−CH1−CH2−CH3
AG
配列番号6:VH(1)−CH3_KNOB(T366Y)−CH2−CH3
GA
配列番号7:VL(1)−CH3wt
配列番号8:VH(1)−CH3wt−CH2−CH3
GA
VL1及びVH1では、抗EGFR抗体のMatuzumab(hu425)(Kim、2004年)の可変ドメインを用いた。
【0206】
VL2及びVH2では、抗CD3抗体OKT3(Van Wauweら、1980年)の可変ドメインを用いた。
図1Aは、CH3ドメイン(Davisら、2010年、及び米国特許第20070287170A1号を参照)のAG及びGAバージョンを用いて、ストランド交換操作ドメイン(SEED)CH3ヘテロ二量体技術により、2つの異なる重鎖のヘテロ二量体化を実現する、有望なドメイン交換二重特異性抗体のうち、そのいくつかの構造を概略的に図示する。
図1A−1は、実施例1のドメイン交換ヘテロ二量体抗体1の構造を特に図示する。
[実施例3]
二重特異性抗体の発現及び特徴付け
実施例1及び2に記載のドメイン交換ヘテロ二量体抗体1、2、及び3を、標準技法に基づき、哺乳動物細胞内で小規模に発現させた。得られたタンパク質をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより精製し、そして非還元式SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)及び粒径排除クロマトグラフィー分析法(SEC)により特徴付けを行った(
図2)。非還元式のゲルは、主に単一のバンドを示し、その分子量はドメイン交換抗体1及び2の両方について期待されるサイズに対応した(
図2A)。ドメイン交換抗体3では、SDS−PAGEは、期待されるサイズのバンドを示し、またより高分子量のタンパク質複合体に対応する追加のバンドも示した(
図2A)。
【0207】
これらの精製されたタンパク質について、SEC分析法により更に特徴付けを行い、ドメイン交換抗体1、2、及び3について、約7.5分(標準IgG抗体について期待される溶出時間と類似)後にSECカラムからの主要なピークの溶出を示したが、ドメイン交換抗体1及び2(
図2B及び2C)について、その他のタンパク質種による軽微な汚染、及び抗体3について追加のピークを示した(
図2D)。従って、ドメイン交換Fabアームを使用することにより、二重特異性抗体について期待されるサイズのタンパク質が生成した。次に、ドメイン交換Fabアームにより形成した様々な二重特異性抗体を用いて広範な生化学的及び機能的特徴付け、並びに試験の実施を進めた。
[実施例4]
ドメイン交換二重特異性抗体1の大スケール発現及び特徴付け
ドメイン交換ヘテロ二量体二重特異性抗体1及び2は、類似した生物物理学的特徴、例えば類似した非還元式SDS−PAGEパターン及びSECプロファイルを有した。ドメイン交換ヘテロ二量体二重特異性抗体1の発現は、より高い発現レベルを実現し、これを更なる特徴付け用として選択した。
【0208】
標準技法に基づき、より大スケール(培養培地00mL)で配列番号1、2、3、及び4遺伝子を同時発現させることにより、ドメイン交換ヘテロ二量体二重特異性抗体1を哺乳動物細胞内で発現させた。得られたタンパク質を、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより精製し、以後この特別なドメイン交換ヘテロ二量体二重特異性抗体をBsAb1と呼ぶが、先行する実施例から理解されるように、これは、配列番号1、2、3、及び4の同時発現により構成されたドメイン交換抗体である。精製後のBsAb1(抗CD3×抗EGFR CH3−KiH)について、非還元式及び還元式SDS−PAGE、並びにSEC分析法により特徴付けを行った(
図3)。
【0209】
非還元式SDS−PAGEは、主に単一バンドを示し、その分子量は、BsAb1の期待されるサイズに対応した。サンプルをSDS−PAGE前に還元した場合、プロファイルは、VH(1)−CH3_Knob(T366Y)−CH2−CH3
AG(配列番号2)に対応するH1バンドと表示されるバンド、VH(2)−CH1−CH2−CH3
GA(配列番号4)に対応するH2バンドと表示されるバンド、及びVL(1)−CH3_Hole(Y407T)(配列番号1)とVL(2)−CL(配列番号3)に対応するL1+L2バンドと表示されるバンド(
図3A)を示した。
【0210】
更に、精製後のタンパク質についてSEC分析法による特徴付を行うと、約7.5分後にカラムから溶出した>90%の主要なピークを示したが、その溶出は標準IgG抗体の溶出に匹敵する(
図3B)。
[実施例5]
二重特異性結合アッセイ
BsAb1(抗CD3×抗EGFR CH3−KiH)と2つの抗原CD3及びEGFRとの同時結合を試験するために、CD3+ジャーカット細胞を、BsAb1又は対照の抗CD3抗EGFR二重特異性抗体で最初に染色し、その後に、EGFRとのインキュベーションステップが続いた。二重特異性結合を、フルオレセインイソチオシアネートでラベリングした抗EGFR検出抗体を用いて検出し、そしてフローサイトメトリーにより分析した(
図4)。
[実施例6]
Fabアーム内にCH3ドメインを含有するワンアームド抗体の生成及び特徴付け
CH3ドメイン交換(KiH同族の対)Fab領域又は非改変Fab領域を含有するワンアームド抗体を、3つの異なる遺伝子の同時発現により生成した。
図5は、ワンアームド抗体の構造を概略的に図示する(非改変及びドメイン交換)。各抗体鎖をコードする遺伝子を含有する、異なる哺乳動物pTT5に基づく発現ベクターを、これまでの記載に従い構築した。
【0211】
配列番号1、配列番号2、及び配列番号9に示すアミノ酸配列をコードする3つの異なる遺伝子を、1つの細胞内で同時発現させることにより、ヒトドメイン交換ワンアームド抗体を生成した(huFc_GA SEED)。非改変ワンアームド抗体を、配列番号9、配列番号10(VL(1)−CL)、及び配列番号11(VH(1)−CH1−CH2−CH3
AG)に示すアミノ酸配列をコードする3つの異なる遺伝子の同時発現により生成した。
【0212】
VL1及びVH1の場合、抗EGFR抗体であるMatuzumab(hu425)(Kim、2004年)の可変ドメインを用いた。
得られたワンアームド抗体は、EGFRを認識し、また下記の軽鎖及び重鎖により特に特徴付けられる。ドメイン交換ワンアームド抗EGFR:H1(配列番号2)、H2(配列番号9)、及びL1(配列番号1)。非改変ワンアームド抗EGFR:H1(配列番号11)、H2(配列番号9)、及びL1(配列番号10)。
【0213】
両方の抗体は、標準技法に基づき、哺乳動物細胞内で発現させた。得られたタンパク質を、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより精製し、そして非還元式及び還元式SDS−PAGE並びにSEC分析法により特徴付けを行った(
図6)。非還元式のゲルは、ワンアームド抗体に対応する分子量を有する単一のバンドを主に示した。SDS−PAGEの前にサンプルを還元した場合、ワンアームド抗体(CH1/CL)のプロファイルは、VH(1)−CH1−CH2−CH3
AG(配列番号11)に対応するH1バンド、huFc_GASEED(配列番号9)に対応するH2バンド、及びVL(1)−CL(配列番号10)に対応するL1バンドを示す(
図6A)。ドメイン置換型抗体の還元式のプロファイルは、VH(1)−CH3_KNOB(T366Y)−CH2−CH3
AG(配列番号2)に対応するH1バンド、huFc_GA SEED(配列番号9)に対応するH2バンド、及びVL(1)−CH3_HOLE(Y407T)(配列番号1)に対応するL1バンドを示す(
図6A)。精製後のタンパク質について、SEC分析法により特徴づけを行ったとき、両方共に、約8分後にカラムから溶出する90%>の主要なピークを示した(
図6B)。
[実施例7]
フローサイトメトリーによるEGFR陽性細胞への1価の結合
CH3ドメイン交換抗EGFR Fabドメインを利用するワンアームド抗体を標的結合について試験し、また非改変抗EGFR Fab(CH1/CL)を有するワンアームド抗体と比較した(実施例6を参照)。更に、BsAb1(抗CD3×抗EGFR CH3−KiH)を、EGFR標的結合について試験した。抗体とEGFR発現性A431細胞との結合をフローサイトメトリーにより測定した(
図7)。細胞に結合した抗体を、フィコエリトリンとコンジュゲートされた抗ヒトFc F(ab)2二次抗体により検出し、そしてフローサイトメトリーを用いて細胞を分析した。細胞結合に関する50%有効濃度(EC50)を、プログラムGraphPad PRISMを用いて結合曲線から計算した。
【0214】
ワンアームドCH3ドメイン交換抗EGFR抗体及びBsAb1抗体は、EGFR陽性細胞との用量依存性の結合を示し、対照抗体(非改変Fabワンアームド抗EGFR)と類似した結合特性を有した(
図7)。ワンアームド抗体のEC50は、5〜8nMの範囲であった。BsAb1はEGFR陽性細胞に結合したが、そのEC50は約7nMであり、対照抗体に匹敵した(
図7)。
【0215】
これらの結果は、CH1/CLを改変CH3ドメインに交換しても、各Fabフラグメントの抗原結合は変化しなかったことを示す。
[実施例8]
ドメイン交換二重特異性抗体2「BsAb2」(抗CD16×抗EGFR)の構築、発現、精製、及び特徴付け
先行する実施例に記載され、またBsAb1で用いられたCH3ドメイン交換抗EGFR Fabを、マウス抗CD16抗体3G8(Fleitら、1982年)と組み合わせて、以後BsAb2(抗CD16×抗EGFR CH3−KiH)と呼ぶ新規のドメイン交換二重特異性抗体を生成した。哺乳動物pTT5に基づく発現ベクターを更に2つ構築したが、各ベクターは下記の配列をコードする遺伝子の1つを含有した:
配列番号12:VL(3)−CL
配列番号13:VH(3)−CH1−CH2−CH3
GA
VL(3)及びVH(3)の場合、抗CD16抗体3G8(Fleitら、1982年)の可変ドメインを用いた。
【0216】
得られたBsAb2は、標的CD16×EGFRの両方を認識し、また下記の重鎖及び軽鎖により特に特徴付けられる:H1(配列番号2)、H2(配列番号13)、L1(配列番号1)、及びL2(配列番号12)。
【0217】
配列番号1、配列番号2、配列番号12、及び配列番号13に示すアミノ酸配列をコードする4つの異なる遺伝子を1つの細胞内で発現させることにより、ドメイン交換二重特異性抗体BsAb2(抗CD16×抗EGFR CH3−KiH)を生成した。2つの異なる重鎖のヘテロ二量体化を、BsAb1について記載するSEED技術より実現した。
【0218】
BsAb2を、標準技法に基づき、哺乳動物細胞内で発現させた。得られたタンパク質をプロテインA精製法により精製したが、単回ステッププロテインA精製後のBsAb1について示された場合と類似した均質性を示し、そのサイズ及び純度は期待される通りであった。
【0219】
質量分析法により、BsAb1及びBsAb2の正しい会合について最終的な生化学的検証を行う準備として(次のセクションの実施例9を参照)、BsAb1及びBsAb2を、SEC調製法を用いた第2の精製ステップで更に精製した。この調製用SEC精製ステップ後のタンパク質純度の例として、SEC調製法によるこの第2の精製後のBsAb2タンパク質について、非還元式及び還元式SDS−PAGE、並びにSEC分析法により特徴付けを行った(
図8)。非還元式のゲルは、単一のバンドを主に示し、その分子量はドメイン交換BsAb2に対応した。サンプルをSDS−PAGE前に還元した場合、プロファイルは、VH(1)−CH3_KNOB(T366Y)−CH2−CH3
AG(配列番号2)に対応するH1バンド、VH(3)−CH1−CH2−CH3
GA(配列番号13)に対応するH2バンド、VL(3)−CL(配列番号12)に対応するL2バンド、及びVL(1)−CH3_HOLE(Y407T)(配列番号1)に対応するL1バンドを示す(
図8A)。この精製後のタンパク質について、SEC分析法により更に特徴付けを行い、ドメイン交換BsAb1(抗CD3×抗EGFR CH3−KiH)の溶出時間、及び標準IgG抗体の溶出時間とも類似した約7.5分後に、カラムから溶出する>90%の主要なピークを示した(
図8B)。
[実施例9]
マススペクトロメトリーによる正しい会合の検証
ドメイン交換二重特異性抗体を分析する直接的なアプローチ
ドメイン交換二重特異性抗体内で鎖が正しく対を形成しているか確認するために、精製後のドメイン交換二重特異性抗体BsAb1(抗CD3×抗EGFR CH3−KiH)、及びBsAb2(抗CD16×抗EGFR CH3−KiH)を、液体クロマトグラフィー−マススペクトロメトリー(LC−MS)分析法により測定した。MS分析前に、サンプルをPNGaseFにより脱グリコシル化した。
図9及び
図10に示す通り、ドメイン交換二重特異性抗体BsAb1及びBsAb2について、148.284kDa及び148.050kDaの単一のピークがそれぞれ検出された。これらの検出された質量は、4つの異なる抗体鎖の合計に対応する。これらの鎖が会合する期間中に、ジスルフィド架橋形成、C末端リジン切断、及びN末端ピログルタミン酸形成に起因して、更に質量が失われる可能性がある。約322kDaのこのような質量損失を考慮すると、検出される平均質量は、ドメイン交換二重特異性抗体BsAb1の場合、<3Daだけ、またドメイン交換二重特異性抗体BsAb2の場合、約12Da、計算した平均質量から相違する。GA−ホモ二量体は、いずれの抗体サンプルにおいても検出されなかった(計算による分子質量は、ホモ二量体OKT3−GAの場合:146.465kDa、及びホモ二量体3G8−GAの場合:145.980kDa)。
【0220】
これらの結果は、ドメイン交換二重特異性抗体を生成するために、同一の細胞内で同時発現させた4つ異なるタンパク質鎖は、化学量論的に正しく会合していることを実証する。
軽鎖の競合による間接的アプローチ
適用したLC−MS方法は、正しく会合したドメイン交換抗体と、軽鎖が交換した抗体とを区別することができないので、競合アッセイ法を実施した。このアッセイでは、ドメイン交換二重特異性抗体に由来する軽鎖と重鎖の一方の両方を、1つの細胞内で、huFc_GA SEED鎖(ヒンジ−CH2−CH3
GA)と共に同時発現させ、ワンアームド抗体を形成した。ワンアームド重鎖と正しい軽鎖との特異的な対形成のみが生じた場合には、正しい軽鎖が対形成したFabのみが形成される。ドメイン交換二重特異性抗体BsAb1の抗体鎖をモデルとして選択した。
【0221】
競合アッセイI(
図11)では、Fab領域内にCH1/CLドメインを含有するワンアームド抗体を、VL(1)−CH3_HOLE (Y407T)(配列番号1)、VL(2)−CL(配列番号3)、VH(2)−CH1−CH2−CH3
AG(配列番号5)、及びhuFc_GA SEED(配列番号9)をコードする4つの異なる遺伝子を同時発現させることにより生成した。競合アッセイII(
図12)では、CH3ドメイン交換Fab領域を含有するワンアームド抗体を、VL(1)−CH3_HOLE(Y407T)(配列番号1)、VL(2)−CL(配列番号3)、VH(1)−CH3_KNOB(T366Y)−CH2−CH3
AG)(配列番号2)、及びhuFc_GA Seed(配列番号9)をコードする4つの異なる遺伝子を同時発現させることにより生成した。標準技法に基づき、抗体を哺乳動物細胞内で発現した。プロテインA精製後、タンパク質をPNGaseFにより脱グリコシル化し、その後、LC−MSにより分析した。主要なピーク99.521kDa(
図11)、及び101.387kDa(
図12)を、競合アッセイI及びIIでそれぞれ検出した。これらの検出された質量は、競合アッセイIでは正しく会合した非改変ワンアームド抗体、及び競合アッセイIIではドメイン交換ワンアームド抗体に対応する。誤対形成した変異体に対応する追加ピークを見出すことはできなかった。
【0222】
これらの結果は、CH3ドメイン交換エンジニアリングによる、軽鎖と重鎖の正しい対形成の実施を示す。
[実施例10]
ドメイン交換抗体の熱安定性
ドメイン交換二重特異性抗体BsAb1及び2の安定性を、異なる走査熱量測定法(DSC)により更に分析し、また見かけの転移の融解温度を測定した(
図13を参照)。
【0223】
ドメイン交換二重特異性抗体はいずれも、アンフォールドする際に見かけ上3回転移する。ドメイン交換二重特異性抗体1及び2の第1の転移は、Tm1=61.3℃及びTm1=61.9℃においてそれぞれ認められた。この転移は、ドメイン交換抗EGFR Fabドメインの熱的アンフォールディングに対応する。ドメイン交換二重特異性抗体1のTm2=67.3℃における、及びドメイン交換二重特異性抗体2のTm2=67.4℃における第2のピークは、AG/GA SEED Fcフラグメントのアンフォールディングに対応する。ドメイン交換二重特異性抗体1のTm3=71.8℃における、及びドメイン交換二重特異性抗体2のTm3=71.1℃における第3の転移は、天然型Fabドメイン(抗CD3又は抗CD16)のアンフォールディングに対応する。
[実施例11]
エフェクター陰性抗体の生成及び特徴付け
これまでの実施例で記載した二重特異性、及びワンアームド抗体に付加して、以下に列挙する新規の抗体を、抗体生成について上記実施例で記載したタンパク質の発現、精製、及び特徴付けの手順と同一の手順に従い、次の一連の実験で用いるために生成した。
・SEED AG重鎖と融合した非改変OKT3 Fabを有するワンアームド抗CD3。
・SEED AG重鎖と融合した非改変3G8 Fabを有するワンアームド抗CD16。
・エフェクター陰性(EN)アイソタイプSEED AG重鎖と融合し、ENアイソタイプ huFc_GA SEED鎖と対をなすCH3ドメイン交換(KiH同族の対)hu425 Fabを有するENアイソタイプワンアームド抗EGFR。
・実施例8と同様に、但しエフェクター陰性(EN)アイソタイプSEED AG、及びENアイソタイプSEED GA重鎖を用いて生成したENアイソタイプドメイン交換二重特異性抗体BsAb2(抗CD16×抗−EGFR CH3−KiH)。
【0224】
エフェクター陰性(EN)アイソタイプSEED鎖を米国特許第8562986に記載されているENヒトIgG2変異体配列に基づき生成し、及びSEED重鎖と共に使用されるように以下の通り改造した。
【0225】
EN IgG2変異体配列(米国特許第8562986号)からEN huFc_SEED鎖(huFcが、所定のヒトヒンジ−CH2−CH3配列から構成される場合)を生成するために、修飾されたヒトIgG1ヒンジ(C220S)、及び修飾されたヒトIgG2 CH2ドメイン(F296A、N297Q)を、SEED「AG」又は「GA」CH3ドメイン(Davisら、2010年)のN末端と融合させて、ENアイソタイプhuFc_AG SEED、又はENアイソタイプhuFc_GA SEED鎖を生成させた。例えば、huFc_g1hingeEN−CH2
EN−CH3
GA(配列番号16)。
【0226】
ドメイン交換Fabは、CH1配列を有さないので、IgG2 CH1は、ENドメイン交換重鎖で用いることはできず、また野生型IgG2 CH1に本来存在する軽鎖共有結合部位は存在しなかった。従って、VH(1)−CH3_KNOB(T366Y)−CH2
EN−CH3
AG(配列番号15)で示したように、ENドメイン交換抗EGFR「AG」SEED重鎖を生成するために、野生型ヒトIgG1ヒンジ配列を、米国特許第8562986号に記載されている修飾されたヒトIgG2 CH2ドメイン(F296A、N297Q)と共に用いた。このデザインは、VH(3)−CH1−CH2
EN−CH3
GA(配列番号17)で示したように、二重特異性抗体「BsAb2 EN」(下記参照)で用いられるEN非改変3G8 Fab GA SEED重鎖を生成するのにも用いられた。
【0227】
哺乳動物pTT5に基づく発現ベクターを更に構築したが、各ベクターは下記の配列をコードする遺伝子の1つを含有した:
配列番号14:VH(3)−CH1−CH2−CH3
AG
配列番号15:VH(1)−CH3_KNOB(T366Y)−CH2
EN−CH3
AG
配列番号16:huFc_g1hingeEN−CH2
EN−CH3
GA
配列番号17:VH(3)−CH1−CH2
EN−CH3
GA
VL1及びVH1の場合、抗EGFR抗体のMatuzumab(hu425)(Kim、2004年)の可変ドメインを用いた。
【0228】
VL2及びVH2の場合、抗CD3抗体OKT3(Van Wauweら、1980年)の可変ドメインを用いた。
VL(3)及びVH(3)の場合、抗CD16抗体3G8(Fleitら、1982年)の可変ドメインを用いた。
【0229】
アミノ酸配列をコードする異なる遺伝子を1つの細胞内で発現させることにより、抗体を生成した。これまでの実施例においてBsAb1について記載したように、2つの異なる重鎖のヘテロ二量体化を、SEED技術により実現した。
【0230】
SEED AG重鎖と融合した、非改変OKT3 Fabを有するワンアームド抗CD3を、VL(2)−CL(配列番号3)、VH(2)−CH1−CH2−CH3
AG(配列番号5)、及びhuFc_GA SEED(配列番号9)をコードする3つの異なる遺伝子を同時発現させることにより生成した。
【0231】
SEED AG重鎖と融合した、非改変3G8 Fabを有するワンアームド抗CD16を、VL(3)−CL(配列番号12)、VH(3)−CH1−CH2−CH3
AG(配列番号14)、及びhuFc_GA SEED(配列番号9)をコードする3つの異なる遺伝子を同時発現させることにより生成した。
【0232】
ワンアームドエフェクター陰性(EN)ドメイン交換抗EGFRを、VL(1)−CH3_HOLE (Y407T)(配列番号1)、VH(1)−CH3_KNOB (T366Y)−CH2
EN−CH3
AG(配列番号15)、及びhuFc_g1hingeEN−CH2
EN−CH3
GA(配列番号16)をコードする3つの異なる遺伝子を、1つの細胞内で同時発現させることにより生成した。
【0233】
得られたワンアームドEN抗体は、EGFRを認識し、また下記の軽鎖及び重鎖により特に特徴付けられる:H1(配列番号15)、H2(配列番号16)、及びL1(配列番号1)。
【0234】
エフェクター陰性(EN)アイソタイプドメイン交換二重特異性抗体BsAb2(抗CD16×抗EGFR CH3−KiH)は、以後「BsAb2 EN」と呼ぶが、これを、VL(1)−CH3_HOLE(Y407T)(配列番号1)、VH(1)−CH3_KNOB(T366Y)−CH2
EN−CH3
AG(配列番号15)、VL(3)−CL(配列番号12)、及びVH(3)−CH1−CH2
EN−CH3
GA(配列番号17)をコードする4つの異なる遺伝子を1つの細胞内で同時発現させることにより生成した。
【0235】
得られたEN BsAb2は、標的CD16×EGFRの両方を認識し、また下記の重鎖及び軽鎖により特に特徴付けられる:H1(配列番号15)、H2(配列番号17)、L1(配列番号1)、及びL2(配列番号12)。
【0236】
多くの抗体エフェクター機能は、抗体のFc部分にある結合部位を通じて、免疫細胞上のFcγ受容体に結合する抗体により媒介される。エフェクター機能の具体例として、抗体依存性細胞毒性(ADCC)が挙げられ、これは抗体のFc部分にあるFcγ受容体結合部位を介して、抗体が免疫エフェクター細胞上のCD16a(FcγIIIa)に結合することにより媒介される。エフェクター陰性アイソタイプ抗体は、そのFcを介したCD16aとの結合が欠損している。
【0237】
抗体とCD16a受容体(FcγIIIa)との結合を、CD16a細胞結合アッセイキット(CisBio社)により測定した(
図14)。このアッセイ法では、蛍光標識されたヒトIgGがCD16aと結合する際に、その結合と競合する抗体の能力について試験される。未標識試験抗体がCD16aと結合する場合、未標識試験抗体は、標識されたIgGの結合と競合し、この競合により、測定される結合シグナルが低下する。
【0238】
抗CD16 Fabアームを有するエフェクターコンピテント抗体は、抗CD16 Fabアーム及びこの抗体のFc部分にあるFcγ受容体結合部位の両方により、CD16a受容体に結合すると期待される。エフェクター陰性アイソタイプ抗体は、Fc部分にあるFcγ受容体結合部位を通じてCD16aに結合しない。
【0239】
期待されるように、ワンアームドドメイン交換EN抗EGFR抗体では、CD16a受容体との結合は検出されず、その結果、測定されたシグナルの低下は認められなかった(
図14、逆三角形)。その他の抗体は、CD16a受容体との用量依存性の結合を示し、その結果、測定されたシグナルの阻害が認められ、50%抑制濃度(IC50)も異なった。非改変CH1/CL Fab又はドメイン交換CH3−KiH Fabのいずれかを有するワンアームド抗EGFR抗体において、最も弱いCD16結合が認められた(
図14、菱形)。その結合は23〜71nMの範囲であった。期待されるように、BsAb2及びワンアームド抗CD16抗体は、CD16aとの最強の結合を示した(
図14、それぞれ円及び三角形)。結合は、BsAb2の場合0.3nM、及びワンアームド抗CD16抗体の場合0.1nMの範囲であった。BsAb2のエフェクター陰性IgG2変異体、「BsAb2 EN」(
図14、四角形)は、BsAb2と比較して、それより弱いCD16との結合(IC50は約3.6nM)を示したが、1価の抗EGFR抗体と比較して、それより強い結合を示した。
【0240】
これらの結果は、BsAb2は、抗CD16 Fabアーム及び抗体のFc部分にあるFcγ受容体の結合部位の両方を介してCD16a受容体に結合することができるが、一方、BsAb2 ENは、CD16aとなおも結合可能であるが、抗CD16 Fabアームを通じてのみ媒介され、その結合はより弱いことを示唆する。更に、BsAb2 ENの場合、この単一の抗CD16 FabアームとCD16aとの結合は、1価の抗EGFR抗体のFcにあるFcγ受容体結合部位を通じてのみ生ずるCD16aとの結合よりも強かった。
[実施例12]
ドメイン交換抗体の機能的な活性
ドメイン交換二重特異性抗体BsAb1及びBsAb2の機能的細胞毒性を試験するために、連続希釈で適用した抗体の存在下で、活性化した一次T細胞又はNK細胞をEGFR過剰発現性A431細胞と共にインキュベーションした。E:T比を10:1として、エフェクターと標的細胞を同時培養した後、CytoTox96非放射性細胞毒性アッセイ法(CytoTox96 Non-Radioactive Cytotoxicity Assay)(Promega社)を用いて、細胞溶解を、細胞が溶解した際に上清に放出される細胞死の指標である乳酸脱水素酵素(LDH)の放出により測定した。活性化T細胞の場合は18時間、及びNK細胞の場合は4時間、同時培養を実施した。
【0241】
活性化T細胞による、標的細胞A431の用量依存性のリダイレクトされた細胞溶解が、ドメイン交換二重特異性抗体BsAb1の存在下で検出された(
図15Aに示す通り)。期待されるように、ワンアームド抗CD3抗体、ワンアームドドメイン交換抗EGFR抗体、及び陰性対照ワンアームド抗CD16抗体は、標的細胞のリダイレクトされたT細胞溶解を示さなかった。ドメイン交換二重特異性抗体BsAb1のみが、最大50%の細胞溶解を示し、EC50値を計算すると0.1〜0.3nMであった。
【0242】
このリダイレクトされたT細胞溶解により、ドメイン交換二重特異性抗体BsAb1(抗CD3×抗EGFR CH3−KiH)の両方のアームが機能的であること、並びに両アームが、2つの標的、CD3及びEGFRを同時に関与させて、T細胞をリダイレクトさせてA431標的細胞を溶解させることが実証される。
【0243】
ドメイン交換二重特異性抗体BsAb2(抗CD16×抗EGFR CH3−KiH)及びそのエフェクター陰性(EN)変異体BsAb2 ENの両方が、リダイレクトされたNK細胞によるA431細胞の用量依存性細胞溶解を示した(
図15B)。両変異体は、最大50%の標的細胞を溶解することが可能であった。BsAb2 ENのドメイン交換二重特異性EN変異体のEC50計算値は37pMであり、エフェクター陽性BsAb2変異体のEC50値は、10pMであった。
【0244】
それと比較して、ワンアームドドメイン交換抗EGFR抗体では、このワンアームド抗体のFc部分にあるFcγ受容体結合部位を通じてNK細胞が本来関与することから、抗CD16アームを有さなくても、やはり同抗体も用量依存性の標的細胞溶解を示した。ワンアームドエフェクター陰性抗EGFR抗体は、エフェクター陰性IgG2変異体アイソタイプFcによるFcγ受容体結合、及び抗CD16アームの両方を欠くため、細胞溶解を示さなかった。期待されるように、陰性対照抗CD3抗体も細胞溶解を示さなかった。
【0245】
エフェクター陰性変異体ドメイン交換二重特異性抗体BsAb2 EN(抗CD16×抗EGFR CH3−KiH)による、A431細胞のリダイレクトされたNK細胞溶解から、BsAb2の両方のアームが機能的であること、並びに両アームが、2つの標的、CD16及びEGFRを同時に関与させて、NK細胞をリダイレクトさせてA431標的細胞を溶解させることが示された。
【0246】
総じて、これらの結果より、ドメイン交換二重特異性抗体フォーマットは、各Fabアームを用いて両方の標的に同時に関与可能な二重特異性抗体を生成することが示され、またこれらの抗体の生物学的機能は、2つの異なる標的との結合に依存することが実証される。
[実施例13]
改変されたCH3ドメインの組み合わせの例
図1で一部示すように、改変された異なるCH3ドメインを利用して、ドメイン交換二重特異性抗体を形成するための多くの組み合わせ及び変形形態が存在する。下記は、改変されたFc内のCH3ドメイン(すなわち、CH3
HC/CH3
HCドメイン対)と、CH3ドメイン交換Fab(すなわち、CH3
LC/CH3
HCドメイン)との組み合わせについて、そのいくつかの有望な例をリスト化する要約表である、
図1A〜1Dを参照。
【0247】
【表2】
【0248】
ワンアームド抗体の一方のFabアーム内のCH1/CLドメインを、改変された代替的CH3ドメインと置換した。この改変された代替的CH3ドメインは、ヘテロ二量体Fc分子における重鎖ヘテロ二量体化の実施に通常用いられる。モデルとして、抗EGFR hu425 Fabドメインを選択し、VH(1)及びVL(1)で用いた。代替的CH3ドメインをコードするDNA配列を合成し、異なる哺乳動物pTT5に基づく発現ベクターを構築したが、各ベクターは、下記の配列をコードする遺伝子の1つを含有する:
「KiH2」CH3ドメイン(Ridgwayら(1996年)、Atwellら(1997年))
変異体1:
配列番号18:VH(1)−CH3_KNOB(T366W)−CH2−CH3
AG
配列番号19:VL(1)−CH3_HOLE(T366S、L368A、Y407V
変異体2:
配列番号20:VH(1)−CH3_HOLE(T366S、L368A、Y407V)−CH2−CH3
AG
配列番号21:VL(1)−CH3_KNOB(T366W)
「電荷対」CH3ドメイン(Gunasekaranら(2010年))
変異体1:
配列番号22:VH(1)−CH3(E356K、D399K)−CH2−CH3
AG
配列番号23:VL(1)−CH3(K392D、K409D)
変異体2:
配列番号24:VH(1)−CH3(K392D、K409D)−CH2−CH3
AG
配列番号25:VL(1)−CH3(E356K、D399K)
「Azymmetric」CH3ドメイン(Von Kreudensteinら(2013年))
変異体1:
配列番号26:VH(1)−CH3(T350V、L351Y、F405A、Y407V)−CH2−CH3
AG
配列番号27:VL(1)−CH3(T350V、T366L、K392L、T394W)
変異体2:
配列番号28:VH(1)−CH3(T350V、T366L、K392L、T394W)−CH2−CH3
AG
配列番号29:VL(1)−CH3(T350V、L351Y、F405A、Y407V
「SEED」CH3ドメイン(Davisら(2010年))
変異体1:
配列番号30:VH(1)−CH3_SEED(AG)−CH2−CH3
AG
配列番号31:VL(1)−CH3_SEED(GA)
変異体2:
配列番号32:VH(1)−CH3_SEED(GA)−CH2−CH3
AG
配列番号33:VL(1)−CH3_SEED(AG)
ワンアームド抗体及び二重特異性抗体(抗CD3×抗EGFR)を、哺乳動物細胞内で生成した。代替的CH3ドメインを有するワンアームドドメイン交換Fab抗体の場合、huFc_GA(配列番号9)に付加して、上記リスト内に記載する2つのアミノ酸配列をコードする3つの遺伝子を発現させた。これらの代替的CH3交換ドメインを含有するドメイン交換二重特異性抗体を、配列番号3及び配列番号4に示す2つのアミノ酸配列に付加して、上記リスト内に記載する2つのアミノ酸配列をコードする4つの遺伝子を発現させることにより生成した。標準法により、プロテインAを用いて、タンパク質を細胞培養培地から精製し、そしてSDS−PAGE及びSEC分析法により特徴付けを行った。
代替的CH3ドメインを有するワンアームド抗体
非還元式SDS−PAGEは、主に単一のバンドを示し、その分子量はドメイン交換ワンアームド抗体に対応した(
図16A)。変異体1及び変異体2の間で有意差は認められなかった。hu425 CH3−Azymmetric変異体は、約90kDaの主要なバンドに認められる完全会合したワンアームド抗体について異なる移動性を示した。SEC分析は、すべての変異体においてリテンションタイムが約7.9分の主要なピーク、及び程度に差はあるが追加ピークを示した(
図16C)。抗体のFabアーム及びFc領域の両方において、CH3−SEEDドメインを含有するワンアームド抗体では、高分子量種の追加ピーク(リテンションタイム、6.7分)が最も支配的であった。これは、抗体のドメイン交換Fabアーム及びFc領域の両方について、同一の改変されたCH3ドメインを用いると、ミスペアリングとなる確率がより高いことを示唆し得る。
代替的ドメイン交換二重特異性抗体
非還元式SDS−PAGEは、代替的CH3ドメイン交換二重特異性抗体について、主に1つの主要なバンドを示したが、程度に差はあるがマイナーなバンドも存在した(
図16B)。SEC分析では、すべてのサンプルは、リテンションタイムが約7.5分の主要なピーク、及びリテンションタイムが約8分のサイドピークを示した(
図16D)。追加の高分子量種も程度に差はあるが存在した。
代替的CH3ドメインを含有するワンアームドドメイン交換抗体の結合アッセイ法
代替的にドメイン交換したFabドメイン(変異体1及び2)を含むワンアームド抗体を、フローサイトメトリーを用いて、抗原結合について試験した。EGFR過剰発現性A431細胞を、試験対象抗体を連続希釈(1:3)してインキュベーションし、そして抗原との結合を、フィコエリトリンとコンジュゲートされた抗ヒトFc F(ab)2二次抗体を用いて検出した。代替的にドメイン交換したFabドメイン(変異体1及び2)を含むワンアームド抗体は、抗体を含有する非改変Fabと類似した抗原結合特性を示した(
図17A及びB)。すべてのサンプルのEGFR結合は、EC50として2〜4nMの範囲であった。
ドメイン交換二重特異性抗体の機能的活性
変異体1及び2のタンパク質の特徴は同等であることから、ドメイン交換二重特異性抗体の変異体1を、機能的活性の試験用として選択した。連続希釈(1:4)した試験対象抗体の存在下で、活性化T細胞をEGFR過剰発現性A431細胞と共に同時培養した。E:T比を10:1として、エフェクター細胞と標的細胞を18時間同時培養した後に、CytoTox96非放射性細胞毒性アッセイ法(Promega社)を用いて、細胞溶解をLDHの放出により測定した。代替的CH3ドメイン(抗CD3×抗EGFR)を有するドメイン交換二重特異性抗体は、事前刺激されたT細胞によるEGFR過剰発現性細胞の溶解をリダイレクトした(
図18)。これまでの実施例と比較するために、ドメイン交換二重特異性抗体BsAb1(抗CD3×抗EGFR CH3−KiH)も含まれた。
【0249】
このリダイレクトされたT細胞溶解により、代替的CH3ドメインを有するドメイン交換二重特異性抗体の両方のアームが機能的であること、並びに両アームが、2つの標的、CD3及びEGFRを同時に関与させて、T細胞をリダイレクトさせてA431標的細胞を溶解させることが実証される。
[実施例14]
ヘテロ二量体KiH抗体内のドメイン交換Fabに用いられる改変のCH3ドメインの組み合わせの例
ワンアームドKiH抗体内のCH1/CLドメインを代替的CH3ドメインと置換した。この代替的CH3ドメインは、KiHドメイン交換を除き、実施例13で用いたものと同一であった。
図19Aは、Fabアーム内にドメイン交換を含むワンアームドKiH抗体の構造について概略的に図示する。モデルとして、抗EGFR hu425 Fabドメインを選択し、VH(1)及びVL(1)で用いた。代替的CH3ドメインをコードするDNA配列を合成し、そして6つの異なる哺乳動物pTT5に基づく発現ベクターを構築したが、各ベクターは下記の配列をコードする遺伝子の1つを含有する:
配列番号34:VH(1)−CH3(E356K、D399K)−CH2−CH3_HOLE(T366S、L368A、Y407V)
配列番号35:VH(1)−CH3(K392D、K409D)−CH2−CH3_HOLE(T366S、L368A、Y407V)
配列番号36:VH(1)−CH3(T350V、L351Y、F405A、Y407V)−CH2−CH3_HOLE(T366S、L368A、Y407V
配列番号37:VH(1)−CH3(T350V、T366L、K392L、T394W)−CH2−CH3_HOLE(T366S、L368A、Y407V)
配列番号38:VH(1)−CH3_SEED(AG)−CH2−CH3_HOLE(T366S、L368A、Y407V)
配列番号39:VH(1)−CH3_SEED(GA)−CH2−CH3_HOLE(T366S、L368A、Y407V)
3つの異なる抗体鎖をコードする3つの異なる遺伝子の同時発現により、ワンアームドドメイン交換KiH抗体を生成した。huFc_KNOB(T366W)(配列番号40)を、これら2つの遺伝子と共に同時発現した:
例示するワンアームド抗体は、配列番号40として識別される重鎖H2と以下に示すH1/L1鎖のいずれかの対により特に特徴付けられる:
電荷対CH3ドメイン(Gunasekaranら、(2010年))
変異体1:
配列番号34:VH(1)−CH3(E356K、D399K)−CH2−CH3_HOLE(T366S、L368A、Y407V)
配列番号23:VL(1)−CH3(K392D、K409D)
変異体2:
配列番号35:VH(1)−CH3(K392D、K409D)−CH2−CH3_HOLE(T366S、L368A、Y407V)
配列番号25:VL(1)−CH3(E356K、D399K)
Azymmetric CH3ドメイン(Von Kreudensteinら(2013年))
変異体1:
配列番号36:VH(1)−CH3(T350V、L351Y、F405A、Y407V)−CH2−CH3_HOLE(T366S、L368A、Y407V)
配列番号27:VL(1)−CH3(T350V、T366L、K392L、T394W)
変異体2:
配列番号37:VH(1)−CH3(T350V、T366L、K392L、T394W)−CH2−CH3_HOLE(T366S、L368A、Y407V)
配列番号29:VL(1)−CH3(T350V、L351Y、F405A、Y407V)
SEED CH3ドメイン(Davisら、(2010年))
変異体1:
配列番号38:VH(1)−CH3_SEED(AG)−CH2−CH3_HOLE(T366S、L368A、Y407V)
配列番号31:VL(1)−CH3_SEED(GA)
変異体2:
配列番号39:VH(1)−CH3_SEED(GA)−CH2−CH3_HOLE(T366S、L368A、Y407V)
配列番号33:VL(1)−CH3_SEED(AG)
ワンアームドドメイン交換KiH抗体を哺乳動物細胞内で生成した。標準法により、プロテインAを用いて、タンパク質を細胞培養培地から精製し、そしてSECにより特徴付けを行った。
【0250】
SEC分析法は、リテンションタイムが約7.9分の主要なピーク、及びリテンションタイムが約8.3分の追加ピークを示した(
図19B)。更に、高分子量種の追加ピーク(リテンションタイム、7.4分)が、CH3−Azymmetricを含有するワンアームドドメイン交換抗体について認められた。更に、CH3−SEEDを含有するワンアームドドメイン交換抗体は、高分子量種の追加ピークを5.7分及び6.8分に示した。
【0251】
これらのタンパク質を、これまでの実施例の記載に従い、フローサイトメトリーを用いて、EGFR陽性細胞との細胞結合について更に試験した(
図20A及びB)。異なるワンアームドドメイン交換KiH抗体について、異なるSECプロファイルが得られたが、実施例6及び7に記載するワンアームドドメイン交換抗体と比較して、類似した抗原結合が認められ、すべての抗体について、EC50計算値は3〜5nMの範囲であった。
【0252】
総じて、実施例13及び14より、改変のCH3ドメインの組み合わせが異なっても、ドメイン交換抗体の形成に利用可能であることが実証される。
参考資料
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