(54)【発明の名称】フレキシブルディスプレイの表面保護用の前面板用フィルム形成用ポリイミド系ワニス、それを用いたフレキシブルディスプレイの表面保護用の前面板用ポリイミド系フィルムの製造方法、及び、フレキシブルディスプレイの表面保護用の前面板用ポリイミド系フィルム
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
[ポリイミド系ワニス]
本実施形態に係るポリイミド系ワニスは、ポリイミド系高分子と、該ポリイミド系高分子を溶解できる溶媒と、水とを含み、水の含有量は、ポリイミド系ワニスの全質量を基準として0.60質量%〜4.5質量%であるものである。
【0019】
ポリイミド系ワニスにおいて、ポリイミド系高分子の含有量は、ワニス中の固形分全量を基準として20質量%以上とすることができ、40質量%以上とすることが好ましい。
【0020】
本明細書において、ポリイミド系高分子とは、式(PI)、式(a)、式(a’)又は式(b)で表される繰り返し構造単位を少なくとも1種含む重合体を意味する。なかでも、式(PI)で表される繰り返し構造単位が、ポリイミド系高分子の主な構造単位であると、フィルムの強度及び透明性の観点で好ましい。式(PI)で表される繰り返し構造単位は、ポリイミド系高分子の全繰り返し構造単位を基準として、好ましくは40モル%以上であり、より好ましくは50モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上であり、殊更好ましくは90モル%以上であり、殊更さらに好ましくは98モル%以上である。
【0022】
式(PI)中のGは4価の有機基を表し、Aは2価の有機基を表す。式(a)中のG
2は3価の有機基を表し、A
2は2価の有機基を表す。式(a’)中のG
3は4価の有機基を表し、A
3は2価の有機基を表す。式(b)中のG
4及びA
4は、それぞれ2価の有機基を表す。
【0023】
式(PI)中、Gで表される4価の有機基の有機基(以下、Gの有機基ということがある)は、非環式脂肪族基、環式脂肪族基、及び、芳香族基からなる群から選ばれる基が挙げられる。ポリイミド系フィルムの透明性及び屈曲性の観点から、Gは、4価の環式脂肪族基及び4価の芳香族基であることが好ましい。芳香族基としては、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、及び、芳香族基が直接又は結合基により相互に連結された非縮合多環式芳香族基等が挙げられる。ポリイミド系フィルムの透明性及び着色の抑制の観点から、Gの有機基は、環式脂肪族基、フッ素系置換基を有する環式脂肪族基、フッ素系置換基を有する単環式芳香族基、フッ素系置換基を有する縮合多環式芳香族基又はフッ素系置換基を有する非縮合多環式芳香族基であってもよい。本明細書においてフッ素系置換基とは、フッ素原子を含む基を意味する。フッ素系置換基は、好ましくはフルオロ基(フッ素原子,−F)及びパーフルオロアルキル基であり、さらに好ましくはフルオロ基及びトリフルオロメチル基である。
【0024】
より具体的には、Gの有機基は、例えば、飽和又は不飽和シクロアルキル基、飽和又は不飽和へテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基、ヘテロアルキルアリール基、及びこれらのうちの任意の2つの基(同一でもよい)を有しこれらが直接又は結合基により相互に連結された基から選ばれる。結合基としては、−O−、炭素数1〜10のアルキレン基、−SO
2−、−CO−又は−CO−NR−(Rは、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜3のアルキル基又は水素原子を表す)が挙げられる。
【0025】
Gで表される4価の有機基の炭素数は通常2〜32であり、好ましくは4〜15であり、より好ましくは5〜10であり、さらに好ましくは6〜8である。Gの有機基が環式脂肪族基及び芳香族基である場合、これらの基を構成する炭素原子のうちの少なくとも1つがヘテロ原子で置き換えられていてもよい。ヘテロ原子としては、O、N又はSが挙げられる。
【0026】
Gの具体例としては、以下の式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)又は式(26)で表される基が挙げられる。式中の*は結合手を示す。式(26)中のZは、単結合、−O−、−CH
2−、−C(CH
3)
2−、−Ar−O−Ar−、−Ar−CH
2−Ar−、−Ar−C(CH
3)
2−Ar−又は−Ar−SO
2−Ar−を表す。Arは炭素数6〜20のアリール基を表し、例えばフェニレン基が挙げられる。これらの基の水素原子のうち少なくとも1つが、フッ素系置換基で置換されていてもよい。
【0028】
式(PI)中、Aで表される2価の有機基の有機基(以下、Aの有機基ということがある)は、非環式脂肪族基、環式脂肪族基及び芳香族基からなる群から選択される2価の有機基が挙げられる。Aで表される2価の有機基は、2価の環式脂肪族基及び2価の芳香族基であることが好ましい。芳香族基としては、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、及び2以上の芳香族環を有しそれらが直接又は結合基により相互に連結された非縮合多環式芳香族基が挙げられる。ポリイミド系フィルムの透明性及び着色の抑制の観点から、Aの有機基には、フッ素系置換基が導入されていることが好ましい。
【0029】
より具体的には、Aの有機基は、例えば、飽和又は不飽和シクロアルキル基、飽和又は不飽和へテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基、ヘテロアルキルアリール基、及びこれらの内の任意の2つの基(同一でもよい)を有しそれらが直接又は結合基により相互に連結された基から選ばれる。ヘテロ原子としては、O、N又はSが挙げられ、結合基としては、−O−、炭素数1〜10のアルキレン基、−SO
2−、−CO−又は−CO−NR−(Rはメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜3のアルキル基又は水素原子を表す)が挙げられる。
【0030】
Aで表される2価の有機基の炭素数は、通常2〜40であり、好ましくは5〜32であり、より好ましくは12〜28であり、さらに好ましくは24〜27である。
【0031】
Aの具体例としては、以下の式(30)、式(31)、式(32)、式(33)又は式(34)で表される基が挙げられる。式中の*は結合手を示す。Z
1〜Z
3は、それぞれ独立して、単結合、−O−、−CH
2−、−C(CH
3)
2−、−SO
2−、−CO−又は―CO―NR−(Rはメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜3のアルキル基又は水素原子を表す)を表す。下記の基において、Z
1とZ
2、及び、Z
2とZ
3は、それぞれ、各環に対してメタ位又はパラ位にあることが好ましい。また、Z
1と末端の単結合、Z
2と末端の単結合、及び、Z
3と末端の単結合とは、それぞれメタ位又はパラ位にあることが好ましい。Aの1つの例は、Z
1及びZ
3が−O−であり、かつ、Z
2が−CH
2−、−C(CH
3)
2−又は−SO
2−である。これらの基の水素原子の1つ又は2つ以上が、フッ素系置換基で置換されていてもよい。
【0033】
A及びGの少なくとも一方は、これらを構成する水素原子のうちの少なくとも1つの水素原子が、フッ素系置換基、水酸基、スルホン基、炭素数1〜10のアルキル基等からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基で置換されていてもよい。また、Aの有機基及びGの有機基がそれぞれ環式脂肪族基又は芳香族基である場合に、A及びGの少なくとも一方がフッ素系置換基を有することが好ましく、A及びGの両方がフッ素系置換基を有することがより好ましい。
【0034】
式(a)中のG
2は、3価の有機基である。この有機基は、3価である点以外は、式(PI)中のGの有機基と同様の基から選択することができる。G
2の例としては、Gの具体例として挙げられた式(20)〜式(26)で表される基の4つの結合手のうち、いずれか1つが水素原子に置き換わった基を挙げることができる。式(a)中のA
2は、式(PI)中のAと同様の基から選択することができる。
【0035】
式(a’)中のG
3は、式(PI)中のGと同様の基から選択することができる。式(a’)中のA
3は、式(PI)中のAと同様の基から選択することができる。
【0036】
式(b)中のG
4は、2価の有機基である。この有機基は、2価の基である点以外は、式(PI)中のGの有機基と同様の基から選択することができる。G
4の例としては、Gの具体例として挙げられた式(20)〜式(26)で表される基の4つの結合手のうちいずれか2つが水素原子に置き換わった基を挙げることができる。式(b)中のA
4は、式(PI)中のAと同様の基から選択することができる。
【0037】
ポリイミド系フィルムに含まれるポリイミド系高分子は、ジアミン類と、テトラカルボン酸化合物(酸クロライド化合物及びテトラカルボン酸二無水物などのテトラカルボン酸化合物類縁体を含む)又はトリカルボン酸化合物(酸クロライド化合物及びトリカルボン酸無水物などのトリカルボン酸化合物類縁体を含む)の少なくとも1種類とを重縮合することにより得られる縮合型高分子であってもよい。さらにジカルボン酸化合物(酸クロライド化合物などの類縁体を含む)を重縮合させてもよい。式(PI)又は式(a’)で表される繰り返し構造単位は、通常、ジアミン類及びテトラカルボン酸化合物から誘導される。式(a)で表される繰り返し構造単位は、通常、ジアミン類及びトリカルボン酸化合物から誘導される。式(b)で表される繰り返し構造単位は、通常、ジアミン類及びジカルボン酸化合物から誘導される。
【0038】
テトラカルボン酸化合物としては、芳香族テトラカルボン酸化合物、脂環式テトラカルボン酸化合物及び非環式脂肪族テトラカルボン酸化合物が挙げられる。テトラカルボン酸化合物は、2種以上を併用してもよい。テトラカルボン酸化合物は、好ましくはテトラカルボン酸二無水物である。テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物及び非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0039】
ポリイミド系高分子の溶媒に対する溶解性、ポリイミド系フィルムを形成した場合の透明性及び屈曲性の観点から、テトラカルボン酸化合物は、脂環式テトラカルボン酸化合物及び芳香族テトラカルボン酸化合物であることが好ましい。ポリイミド系フィルムの透明性及び着色の抑制の観点から、テトラカルボン酸化合物は、フッ素系置換基を有する脂環式テトラカルボン酸化合物及びフッ素系置換基を有する芳香族テトラカルボン酸化合物であることが好ましく、脂環式テトラカルボン酸化合物であることがさらに好ましい。
【0040】
トリカルボン酸化合物としては、芳香族トリカルボン酸、脂環式トリカルボン酸、非環式脂肪族トリカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロライド化合物、酸無水物等が挙げられる。トリカルボン酸化合物は、好ましくは芳香族トリカルボン酸、脂環式トリカルボン酸、非環式脂肪族トリカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロライド化合物である。トリカルボン酸化合物は、2種以上併用してもよい。
【0041】
ポリイミド系高分子の溶媒に対する溶解性、ポリイミド系フィルムを形成した場合の透明性及び屈曲性の観点から、トリカルボン酸化合物は、脂環式トリカルボン酸化合物又は芳香族トリカルボン酸化合物であることが好ましい。ポリイミド系フィルムの透明性及び着色の抑制の観点から、トリカルボン酸化合物は、フッ素系置換基を有する脂環式トリカルボン酸化合物及びフッ素系置換基を有する芳香族トリカルボン酸化合物であることが好ましい。
【0042】
ジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、非環式脂肪族ジカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロライド化合物、酸無水物等が挙げられる。ジカルボン酸化合物は、好ましくは芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、非環式脂肪族ジカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロライド化合物である。ジカルボン酸化合物は、2種以上併用してもよい。
【0043】
ポリイミド系高分子の溶媒に対する溶解性、ポリイミド系フィルムを形成した場合の透明性及び屈曲性の観点から、ジカルボン酸化合物は、脂環式ジカルボン酸化合物及び芳香族ジカルボン酸化合物であることが好ましい。ポリイミド系フィルムの透明性及び着色の抑制の観点から、ジカルボン酸化合物は、フッ素系置換基を有する脂環式ジカルボン酸化合物及びフッ素系置換基を有する芳香族ジカルボン酸化合物であることが好ましい。
【0044】
ジアミン類としては、芳香族ジアミン、脂環式ジアミン及び脂肪族ジアミンが挙げられる。ジアミン類は、2種以上併用してもよい。ポリイミド系高分子の溶媒に対する溶解性、ポリイミド系フィルムを形成した場合の透明性及び屈曲性の観点から、ジアミン類は、脂環式ジアミン及びフッ素系置換基を有する芳香族ジアミンであることが好ましい。
【0045】
このようなポリイミド系高分子を使用すれば、特に優れた屈曲性を有し、高い光透過率(例えば、550nmの光に対して85%以上、好ましくは88%以上)、及び、低い黄色度(YI値、例えば5以下、好ましくは3以下)、低いヘイズ(例えば1.5%以下、好ましくは1.0%以下)のポリイミド系フィルムが得られ易い。
【0046】
ポリイミド系高分子は、異なる種類の複数の上記の繰り返し単位を含む共重合体でもよい。ポリイミド系高分子の重量平均分子量は、通常10,000〜500,000である。ポリイミド系高分子の重量平均分子量は、好ましくは、50,000〜500,000であり、さらに好ましくは70,000〜400,000である。重量平均分子量は、GPCで測定した標準ポリスチレン換算分子量である。ポリイミド系高分子の重量平均分子量が大きい方が高い屈曲性を得られやすい傾向があるが、ポリイミド系高分子の重量平均分子量が大きすぎると、ワニスの粘度が高くなり、加工性が低下する傾向がある。
【0047】
ポリイミド系高分子は、上述のフッ素系置換基等によって導入できるフッ素原子等のハロゲン原子を含んでいてもよい。ポリイミド系高分子がハロゲン原子を含むことにより、ポリイミド系フィルムの弾性率を向上させ且つ黄色度を低減させることができる。これにより、ポリイミド系フィルムにキズ及びシワ等が発生することを抑制し、且つ、ポリイミド系フィルムの透明性を向上させることができる。ハロゲン原子として好ましくは、フッ素原子である。ポリイミド系高分子におけるハロゲン原子の含有量は、ポリイミド系高分子の全質量を基準として、1〜40質量%であることが好ましく、1〜30質量%であることがより好ましい。
【0048】
ポリイミド系高分子は、当該ポリイミド系高分子からなる厚み50μmの膜(層)を形成した場合に、当該ポリイミド系高分子膜の全光線透過率が85%以上となり、且つ、当該ポリイミド系高分子膜の黄色度(YI値)が10以下となる透明ポリイミド系高分子であることが好ましい。上記全光線透過率は、90%以上であることが好ましい。上記黄色度は、5以下であることが好ましい。かかる透明ポリイミド系高分子を用いることで、透明性の高いポリイミド系フィルムを得ることができる。更には、上記ポリイミド系高分子膜の全光線透過率は、91%以上となることがより好ましく、92%以上となることが更に好ましい。黄色度は3以下となることがより好ましく、2.5以下であることが殊更好ましい。ここで、ポリイミド系高分子膜は、ポリイミド系高分子を溶媒に溶解させたものを塗布及び乾燥することで形成することができる。ポリイミド系高分子膜の全光線透過率は、JIS K7105:1981に準拠して求めることができる。ポリイミド系高分子膜の黄色度YIは、JIS K 7373:2006に準拠して求めることができる。
【0049】
ポリイミド系ワニスにおいて、溶媒は、ポリイミド系高分子を溶解する溶媒であれば特に限定されないが、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ−ブチロラクトン(GBL)、N−メチルピロリドン(NMP)、酢酸エチル、メチルエチルケトン(MEK)、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトン、シクロペンタノン、ジメチルスルホキシド、キシレン及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0050】
ポリイミド系ワニスは、上記溶媒以外に水を含有する。ポリイミド系ワニスにおいて、水の含有量(水分量)は、ポリイミド系ワニスの全質量を基準として、0.60〜4.5質量%であり、0.7〜4.0質量%であることが好ましく、1.0〜4.0質量%であることがより好ましい。水の含有量の下限値は、さらに好ましくは1.5質量%であり、殊更好ましくは2.0質量%であり、殊更さらに好ましくは2.5質量%である。また、水の含有量の上限値は、さらに好ましくは3.5質量%である。
【0051】
ポリイミド系ワニスがシリカ粒子を含む場合、ポリイミド系ワニスにおける水分量は、ポリイミド系ワニスの全質量を基準として、1.5〜3.5質量%であることが好ましく、2.5〜3.5質量%であることがさらに好ましく、2.5〜3.0質量%であることが特に好ましい。このようなポリイミド系ワニスを使用してフィルムを作製すると、屈曲性に優れたポリイミド系フィルムを得られやすい傾向がある。
【0052】
ポリイミド系ワニスにおける水分量が上記範囲内であると、水の存在がポリイミド系高分子の構造形成挙動に良好な影響を与え、形成されるフィルムの外観及び屈曲性を良好なものとすることができる。ポリイミド系ワニス中の水分量は、カールフィッシャー法により測定することができる。カールフィッシャー法の測定は、JIS K0068:2001に準拠して行う。滴定用試薬は、溶媒と副反応を生じないものを用いる。N,N−ジメチルアセトアミドのようなケトン系溶媒に適した陽極液、陰極液の組み合わせとして、シグマアルドリッチ社製クーロマットAK、シグマアルドリッチ社製クーロマットCG−Kの組み合わせが挙げられる。測定装置としては、メトロノーム社製の831KFクーロメーターなどを用いることができる。
【0053】
ポリイミド系ワニスは、得られるポリイミド系フィルムの強度を高める観点から、無機粒子をさらに含有することができる。無機粒子としてはケイ素原子を含む粒子が挙げられ、ケイ素原子を含む粒子としては、シリカ粒子が挙げられる。無機粒子の他の例は、チタニア粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子等が挙げられる。
【0054】
無機粒子の平均一次粒子径は、通常、100nm以下である。無機粒子の平均一次粒子径が100nm以下であると、フィルムの透明性が向上する傾向がある。無機粒子の一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)による定方向径とすることができる。平均一次粒子径は、TEM観察により一次粒子径を10点測定し、それらの平均値として求めることができる。
【0055】
ポリイミド系ワニスにおいて、ポリイミド系高分子と無機粒子との配合比は、質量比で、通常、1:9〜10:0であり、3:7〜10:0であることが好ましく、3:7〜8:2であることがより好ましく、3:7〜7:3であることが更に好ましい。ポリイミド系高分子と無機粒子との配合比が上記の範囲内であると、ポリイミド系フィルムの透明性及び機械的強度が向上する傾向を示す。
【0056】
ポリイミド系ワニスが無機粒子を含有する場合、得られるポリイミド系フィルムにおいて、無機粒子同士は、シロキサン結合(−SiOSi−)を有する分子により結合されていてもよい。
【0057】
ポリイミド系ワニスが無機粒子を含有する場合、ワニスは、溶液安定性を向上させるために、アルコキシシランなどの金属アルコキシドを含有してもよい。好ましくはアミノ基を有するアルコキシシランである。特に、ポリイミド系ワニスが無機粒子としてシリカ粒子を含有する場合、アミノ基を有するアルコキシシランを更に含有することで、シリカ粒子の分散性が向上し、ポリイミド系フィルムの強度を向上させる効果、及び、フィルムの良好な透明性を得る効果がより高められる傾向がある。
【0058】
金属アルコキシドの添加量は、無機粒子の100質量部に対して、0.1〜10質量部とすることができ、0.5〜5質量部とすることが好ましい。
【0059】
ポリイミド系ワニスは、得られるポリイミド系フィルムの透明性及び屈曲性を損なわない範囲で、さらに他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、酸化防止剤、離型剤、安定剤、ブルーイング剤等の着色剤、難燃剤、滑剤、増粘剤、レベリング剤等が挙げられる。得られるポリイミド系フィルムにおける上記他の成分の含有量は、ポリイミド系フィルムの全質量を基準として、0質量%超20質量%以下であることが好ましく、0質量%超10質量%以下であることがより好ましい。
【0060】
ポリイミド系ワニスは、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)等の4級アルコキシシラン等、シルセスキオキサン誘導体等の有機ケイ素化合物を含むこともできる。
【0061】
ポリイミド系ワニスの固形分濃度は、保存安定性及び塗工性の観点から、5〜30質量%であることが好ましく、10〜25質量%であることがより好ましい。
【0062】
(ポリイミド系フィルム)
本実施形態のポリイミド系フィルムは、上述したポリイミド系ワニスを用いて形成されたフィルムである。
【0063】
ポリイミド系フィルムの厚さは、用途に応じて適宜調整されるが、通常、10〜500μmであり、15〜200μmであることが好ましく、20〜100μmであることがより好ましい。
【0064】
このポリイミド系フィルムは、JIS K7105:1981に準拠した全光線透過率が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。また、このポリイミド系フィルムは、JIS K7105:1981に準拠したHazeが1以下であることが好ましく、0.9以下であることがより好ましい。また、このポリイミド系フィルムは、JIS K 7373:2006に準拠した黄色度YIが5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。かかる光学物性を有するポリイミド系フィルムは、高い視認性が求められるスマートフォン、タブレットPC向けの光学フィルムとして好適に用いることができる。
【0065】
(製造方法)
次に、本実施形態のポリイミド系ワニスの製造方法及び本実施形態のポリイミド系フィルムの製造方法の一例を説明する。
【0066】
ポリイミド系ワニスは、公知のポリイミド系高分子の合成手法を用いて重合された溶媒可溶なポリイミド系高分子を溶媒に溶解し、さらに水、並びに必要に応じて上述の無機粒子、金属アルコキシド、及び他の成分を加えて混合して調製される。ポリイミド系ワニスに無機粒子を添加する場合は、公知の撹拌法により撹拌し、混合することで、ポリイミド系ワニスに無機粒子を均一に分散させることができる。溶媒の例は上述した通りである。ポリイミド系高分子としては、溶媒可溶なポリイミド系高分子であればよく、上述のように、芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物等のテトラカルボン酸二無水物の1種又は2種以上と、芳香族ジアミン類、脂環式ジアミン類、非環式脂肪族ジアミン類等のジアミン類の1種又は2種以上とを重縮合させることにより得られたものを用いることができる。テトラカルボン酸二無水物及びジアミン類は、フッ素系置換基が導入されたものであることが好ましい。
【0067】
ポリイミド系ワニスの調製は、必ずしも水の添加を必須とするわけではない。すなわち、配合するポリイミド系高分子、溶媒、無機粒子、金属アルコキシド、又はその他の成分が吸湿する等して水分を含んでいる場合、その水分によりポリイミド系ワニス中の水分量が本実施形態で規定する範囲内になるのであれば、ポリイミド系ワニスの調製時に水をさらに加えなくてもよい。例えば、ポリイミド系ワニスの調製をある程度湿度のある環境下で行った場合、水を敢えて添加しなくても、ポリイミド系ワニスに水分が適度に取り込まれることがある。
【0068】
ポリイミド系ワニスが無機粒子を含む場合には、ワニスが水を含有することにより、ワニスのゲル化が抑制されるという利点もある。そのため、ワニスが水を適度に含有することの効果は、ポリイミド系ワニスが無機粒子を含んでいる場合に特に顕著に生じ、形成されるポリイミド系フィルムにはワニスのゲル化による外観不良が生じ難く、且つ、屈曲性の高いフィルムが得られる。
【0069】
調製されたポリイミド系ワニスは、次いで、公知のロール・ツー・ロールやバッチ方式により、PET基材、SUSベルト、又はガラス基材上に、塗布されて塗膜を形成する。この塗膜は、乾燥されて、ポリイミド系フィルムとなる。
【0070】
塗膜の乾燥は、温度50〜350℃にて、適宜、不活性雰囲気あるいは減圧の条件下に溶媒及び水を蒸発させることにより行う。塗膜の乾燥は、温度条件を変えて多段階で行ってもよい。その場合、後段にいくほど温度を高くしてもよい。このように塗膜の乾燥を多段階で行うことにより、溶媒及び水が蒸発する速度を制御することができ、ポリイミド系高分子の構造を均一化できるとともに、ポリイミド系高分子の凝集をより抑制することができ、得られるフィルムの外観及び屈曲性をより向上させることができる。
【0071】
また、塗膜の乾燥は、基材から剥離した後にさらに行ってもよい。すなわち、塗膜は、第1乾燥として基材上で乾燥させた後、基材から剥離し、第2乾燥として更に乾燥させることができる。第2乾燥は、基材から剥離した塗膜に金属の枠を取り付ける、又は、公知のテンター設備を用いるなどして行うことができる。第2乾燥は第1乾燥よりも高温で行うことができ、例えば、第1乾燥を50〜190℃にて行い、第2乾燥を190〜350℃にて行うことができる。さらに、第1乾燥及び第2乾燥のそれぞれも、温度条件を変えて多段階で行ってもよい。
【0072】
(用途)
このようなポリイミド系フィルムは、外観及び屈曲性に優れるのでフレキシブルディスプレイの構成要素として使用できる。例えば、フレキシブルディスプレイの表面保護用の前面板(ウィンドウフィルム)として使用することができる。
【0073】
また、このポリイミド系フィルムに、紫外線吸収層、ハードコート層、粘着層、色相調整層、屈折率調整層などの種々の機能層を付加した積層体とすることもできる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0075】
[実施例1]
(ポリイミドの合成)
窒素置換した重合槽に、式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物、式(3)で表される化合物、溶媒(γブチロラクトン及びジメチルアセトアミド)、触媒を仕込んだ。仕込み量は、式(1)で表される化合物75.0g、式(2)で表される化合物36.5g、式(3)で表される化合物76.4g、γブチロラクトン438.4g、ジメチルアセトアミド313.1g、触媒1.5gとした。式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物とのモル比は3:7、式(2)で表される化合物及び式(3)で表される化合物との合計と、式(1)で表される化合物とのモル比は、1.00:1.02であった。
【0076】
【化4】
【化5】
【化6】
【0077】
重合槽内の混合物を攪拌して原料を溶媒に溶解させた後、混合物を撹拌しながら100℃まで昇温し、その後、撹拌せずに200℃まで昇温し、200℃で4時間保温して、ポリイミドを重合した。なお、この加熱中に、液中の水を除去した。その後、精製及び乾燥により、ポリイミドを得た。
【0078】
(ポリイミド系ワニスの調製)
次に、濃度20質量%に調整したポリイミドのγブチロラクトン溶液、γブチロラクトンに固形分濃度30質量%のシリカ粒子を分散した分散液、及び、アミノ基を有するアルコキシシランのジメチルアセトアミド溶液を混合し、30分間攪拌することによりポリイミド系ワニスを調製した。
【0079】
ここで、シリカとポリイミドの質量比を60:40、シリカ及びポリイミドの合計100質量部に対してアミノ基を有するアルコキシシランの量を1.67質量部とした。これらシリカ、ポリイミド、及びアミノ基を有するアルコキシシランの量は、いずれも溶媒を除いた固形分の量である(以下、同様)。得られたポリイミド系ワニスの水分量をカールフィッシャー法により測定したところ、0.80質量%であった。ポリイミド系ワニスの水分量は、メトロノーム社製の831KFクーロメーターで測定した。測定はJIS K0068:2001に準拠して行い、陽極液にはシグマアルドリッチ社製クーロマットAK、陰極液にはシグマアルドリッチ社製クーロマットCG−Kを用いた。
【0080】
(ポリイミド系フィルムの作製)
ポリイミド系ワニスを、ポリエチレンテレフタレート基板(PET基板)に塗布し、50℃で30分、次いで140℃で10分加熱した後、PET基板から剥離して金属の枠に取り付け、さらに210℃で1時間加熱し、厚み50μmのポリイミド系フィルムを得た。
【0081】
[実施例2]
ポリイミド系ワニスの調製時に、シリカ及びポリイミドの合計100質量部に対して、水10質量部添加してポリイミド系ワニスの水分量が2.69質量%となるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、ポリイミド系ワニスの調製及びそれを用いたポリイミド系フィルムの作製を行った。
【0082】
[実施例3]
ポリイミド系ワニスの調製時に、ジメチルアセトアミド及びシリカ粒子分散液のγブチロラクトンに脱水溶媒(脱水ジメチルアセトアミド及び脱水γブチロラクトン)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、ポリイミド系ワニスの調製及びそれを用いたポリイミド系フィルムの作製を行った。調製したポリイミド系ワニスの水分量をカールフィッシャー法で測定すると2.45質量%であった。
【0083】
[
参考例4]
河村産業社製のポリイミド「KPI−MX300F(100)」をジメチルアセトアミドに溶解して濃度16質量%にした溶液(ポリイミド系ワニス)を調製した。さらに水を少量加えてから水分量を評価したところ、ポリイミド系ワニスの水分量は1.22質量%であった。このポリイミド系ワニスを用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリイミド系フィルムの作製を行った。
【0084】
[実施例5]
三菱ガス化学社製のポリイミドワニスである「ネオプリムC6A20」の20質量%γブチロラクトン溶液に、γブチロラクトンに固形分濃度30質量%のシリカ粒子を分散した分散液、アミノ基を有するアルコキシシランのジメチルアセトアミド溶液、及び、水を混合し、30分間攪拌することによりポリイミド系ワニスを調製した。水の添加量は、シリカ及びポリイミドの合計100質量部に対して10質量部とした。
【0085】
ここで、シリカとポリイミドの質量比を55:45、シリカ及びポリイミドの合計100質量部に対してアミノ基を有するアルコキシシランの量を1.67質量部とした。ポリイミド系ワニスの水分量は2.56質量%であった。このポリイミド系ワニスを用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリイミド系フィルムの作製を行った。
【0086】
[比較例1]
ポリイミド系ワニスの調製時に、ジメチルアセトアミド及びシリカ粒子分散液のγブチロラクトンに脱水溶媒(脱水ジメチルアセトアミド及び脱水γブチロラクトン)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリイミド系ワニスの調製及びそれを用いたポリイミド系フィルムの作製を行った。調製したポリイミド系ワニスの水分量をカールフィッシャー法で測定すると0.55質量%であった。また、得られたポリイミド系フィルムは凝集塊が多く、実施例1のフィルムと比較して外観に劣るものであった。
【0087】
[比較例2]
ポリイミド系ワニスの調製時に、水の混合比率を調整してポリイミド系ワニスの水分量が4.59質量%となるようにしたこと以外は実施例2と同様にして、ポリイミド系ワニスの調製及びそれを用いたポリイミド系フィルムの作製を行った。得られたポリイミド系フィルムは、透明性の低い、曇ったフィルムとなった。また、1日放置したポリイミド系ワニスを観察すると、液が2相に分離していた。
【0088】
[比較例3]
ポリイミド系ワニスの調製時に、水の混合比率を調整してポリイミド系ワニスの水分量が6.48質量%となるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、ポリイミド系ワニスの調製及びそれを用いたポリイミド系フィルムの作製を試みたが、ワニス調製時に固形分が多く析出してしまい、均一な膜の作製が困難であった。
【0089】
[比較例4]
河村産業社製のポリイミド「KPI−MX300F(100)」をジメチルアセトアミドに溶解した濃度16質量%の溶液を調製し、さらに、水を加えて、水分量が10質量%であるポリイミド系ワニスを調製した。このポリイミド系ワニスを用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリイミド系フィルムの作製を試みたが、ポリイミド系ワニス調製時に固形分が析出して均一な膜の作製が困難であった。
【0090】
[比較例5]
ポリイミド系ワニスの調製時に、水をさらに加えて水分量が10質量%になるようにしたこと以外は実施例5と同様にして、ポリイミド系ワニスを調製した。このポリイミド系ワニスを用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリイミド系フィルムの作製を試みたが、ポリイミド系ワニス調製時に固形分が析出して均一な膜の作製が困難であった。
【0091】
[フィルム外観の評価]
実施例
、参考例及び比較例で得られたポリイミド系フィルムのそれぞれの外観を目視にて観察し、フィッシュアイ、凝集塊、スジ等の欠陥が見られなかったものを「A」、フィッシュアイ、凝集塊、スジ等の欠陥が見られたものを「B」、均一なフィルムを形成できない、又はフィルムを形成できても不均一で曇りがあったものを「C」として評価した。結果を表1に示す。外観の評価が「C」であるフィルムは、黄色度及び全光線透過率の測定は行わなかった。
【0092】
[黄色度(YI値)の測定]
実施例
、参考例及び比較例で得られたポリイミド系フィルムのそれぞれの黄色度(Yellow Index:YI値)を、日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計V−670によって測定した。サンプルがない状態でバックグランド測定を行った後、ポリイミド系フィルムをサンプルホルダーにセットして、300〜800nmの光に対する透過率測定を行い、3刺激値(X、Y、Z)を求めた。YI値を、下記の式に基づいて算出した。結果を表1に示す。
YI=100×(1.2769X−1.0592Z)/Y
【0093】
[全光線透過率の測定]
実施例
、参考例及び比較例で得られたポリイミド系フィルムのそれぞれの全光線透過率を、JIS K7105:1981に準拠して、スガ試験機社製の全自動直読ヘーズコンピューターHGM−2DPにより測定した。結果を表1に示す。
【0094】
[屈曲性の評価]
実施例
、参考例及び比較例で得られたポリイミド系フィルムの屈曲性は、以下の基準で評価した。手でフィルムを折り曲げ、折り目をつけたとき、折り目がつくだけで、折り目の周囲に異常が生じなかったものを「A」、折り目の周辺が白くなるなど、折り目周辺の外観が変化したものを「B」、折り目部分が割れたものを「C」として評価した。
【0095】
【表1】