(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6905834
(24)【登録日】2021年6月30日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】電磁波吸収体及び電磁波吸収体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20210708BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20210708BHJP
C08K 7/18 20060101ALI20210708BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20210708BHJP
B22F 1/00 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
H05K9/00 W
C08L101/00
C08K7/18
C08K3/04
B22F1/00 E
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-30466(P2017-30466)
(22)【出願日】2017年2月21日
(65)【公開番号】特開2018-137326(P2018-137326A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2020年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】大澤 正人
(72)【発明者】
【氏名】橋本 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】呉 承俊
(72)【発明者】
【氏名】林 茂雄
【審査官】
三森 雄介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−132736(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0260115(US,A1)
【文献】
特開2013−218836(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/059974(WO,A1)
【文献】
特開2009−270218(JP,A)
【文献】
特開2010−123645(JP,A)
【文献】
特開2016−000843(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/145985(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B22F 1/00− 8/00
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
C22C 1/04− 1/05
C22C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数帯域の電磁波に対して吸収性を持つ電磁波吸収体において、
所定形状に成形された樹脂材と、この樹脂材中に分散させた、炭素材料を銀微粒子を介して焼結した焼結体とで構成され、
前記樹脂材100重量部に対して前記銀微粒子を4〜11重量部含むことを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項2】
前記樹脂材100重量部に対して前記炭素材料を4〜11重量部含むことを特徴とする請求項1記載の電磁波吸収体。
【請求項3】
所定の周波数帯域の電磁波に対して吸収性を持つ電磁波吸収体において、
所定形状に成形された樹脂材と、この樹脂材中に分散させた、炭素材料を銀微粒子を介して焼結した焼結体とで構成され、
前記樹脂材100重量部に対して前記炭素材料を4〜11重量部含むことを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項4】
前記銀微粒子の平均粒子径は1nm〜100nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の電磁波吸収体。
【請求項5】
所定の周波数帯域の電磁波に対して吸収性を持つ電磁波吸収体を製造する電磁波吸収体の製造方法であって、電磁波吸収体が、所定形状に成形された樹脂材と、この樹脂材中に分散させた、炭素材料を銀微粒子を介して焼結した焼結体とで構成されるものにおいて、
銀微粒子が付着した炭素材料を作製する工程と、
前記銀微粒子が付着した炭素材料と樹脂材とを混合する工程と、
混合により得られた混合物を所定形状に成形して乾燥する工程と、
乾燥により得られた乾燥体を180〜300℃の温度で加熱して、前記炭素材料を銀微粒子で焼結する工程とを含むことを特徴とする電磁波吸収体の製造方法。
【請求項6】
前記銀微粒子が付着した炭素材料を作製する工程は、
界面活性剤で覆われた銀微粒子を低極性溶媒に分散させて分散液を得て、この分散液に炭素材料を混合する工程と、
炭素材料が混合された分散液に極性溶媒を加え、界面活性剤で覆われた銀微粒子が付着したカーボン材を沈降させる工程とを含むことを特徴とする請求項5記載の電磁波吸収体の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の電磁波吸収体の製造方法であって、前記乾燥体を180〜300℃で加熱するものにおいて、
前記界面活性剤は、炭素数6〜18の脂肪酸及び炭素数6〜18の脂肪族アミンから選択される少なくともいずれか1種であることを特徴とする請求項6記載の電磁波吸収体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収体及び電磁波吸収体の製造方法に関し、より詳しくは、75GHz〜110GHzの周波数帯(W帯)の電磁波に対して吸収性を持つものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、所謂先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driver Assistance System)の1つとして、衝突回避支援システムが普及している。衝突回避支援システムでは、車両の前方の対象物(例えば、他の車両、歩行者、障害物等)を検出するために、ミリ波レーダ装置が通常用いられる。ミリ波レーダ装置は、所定の周波数(例えば、76GHz)の電磁波を発するアンテナと、当該周波数の電磁波に対して吸収性を持つ電磁波吸収体とを備え、対象物に対して指向性よく電磁波を照射できるように構成されている。尚、吸収性とは、所定の周波数の電磁波を吸収し、かつ、当該周波数以外の電磁波は吸収せずに透過する性質を言う。このような電磁波吸収体としては、樹脂材中に抵抗体として作用する炭素材料(カーボン系粒子)を分散させたものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ところで、上記従来例の電磁波吸収体は、所定の周波数帯の電磁波に対する吸収率が約40%と低いため、電磁波吸収率を高める必要がある。電磁波吸収率を高める方法としては、炭素材料の含有量を増やして導電率を高めることが考えられる。然しながら、炭素材料は嵩高いため、樹脂材中の炭素材料の含有量を増やすことは難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−15373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、樹脂材中の炭素材料の含有量が少なくても、75GHz〜110GHzの周波数帯の電磁波に対して優れた吸収性能を持つ電磁波吸収体及び電磁波吸収体の製造方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、所定の周波数帯域の電磁波に対して吸収性を持つ本発明の電磁波吸収体は、所定形状に成形された樹脂材と、この樹脂材中に分散させた、炭素材料を銀微粒子を介して焼結した焼結体とで構成され
、前記樹脂材100重量部に対して前記銀微粒子を4〜11重量部含むことを特徴とする。
この場合、前記樹脂材100重量部に対して前記炭素材料を4〜11重量部含むことが好ましい。また、上記課題を解決するために、所定の周波数帯域の電磁波に対して吸収性を持つ本発明の電磁波吸収体は、所定形状に成形された樹脂材と、この樹脂材中に分散させた、炭素材料を銀微粒子を介して焼結した焼結体とで構成され、前記樹脂材100重量部に対して前記炭素材料を4〜11重量部含むことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、銀微粒子で炭素材料を焼結させて低抵抗の焼結体とし、この焼結体を樹脂材中に分散させたため、炭素材料の含有量が少なくても導電率を高めることができ、その結果として、所定の周波数帯の電磁波に対して優れた吸収性能を持つ電磁波吸収体が得られる。後述する実施例によれば、75GHz〜110GHzの周波数帯の電磁波に対して99%以上の吸収率を持ち、優れた吸収性能を発揮することが確認された。
【0008】
尚、本発明において、炭素材料としては、粒子状、粉末状、球状、棒状、平板状、繊維状、中空状、角状または塊状のものを用いることができ、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン及びフラーレンから選択して用いることができる。
【0009】
本発明において、前記銀微粒子の平均粒子径は1nm〜100nmであることが好ましい
。
【0010】
所定の周波数帯域の電磁波に対して吸収性を持つ電磁波吸収体を製造する本発明の電磁波吸収体の製造方法は、
電磁波吸収体が、所定形状に成形された樹脂材と、この樹脂材中に分散させた、炭素材料を銀微粒子を介して焼結した焼結体とで構成され、銀微粒子が付着した炭素材料を作製する工程と、前記銀微粒子が付着した炭素材料と樹脂材とを混合する工程と、混合により得られた混合物を所定形状に成形して乾燥する工程と、乾燥により得られた乾燥体を180〜300℃の温度で加熱して、前記炭素材料を銀微粒子で焼結する工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明において、前記銀微粒子が付着した炭素材料を作製する工程は、界面活性剤で覆われた銀微粒子を低極性溶媒に分散させてなる分散液を得て、この分散液に炭素材料を混合する工程と、炭素材料が混合された分散液に極性溶媒を加え、界面活性剤で覆われた銀微粒子が付着したカーボン材を沈降させる工程とを含むことが好ましい。
【0012】
本発明において、前記乾燥体を180〜300℃で加熱する場合、界面活性剤としては、炭素数6〜18の脂肪酸及び炭素数6〜18の脂肪族アミンから選択される少なくともいずれか1種を用いることが好ましい。これによれば、180〜300℃の比較的低い温度で加熱する場合でも、界面活性剤を脱離させることができ、界面活性剤が銀微粒子に付着したまま残留することを防止できる。
【0013】
尚、本発明において、低極性溶媒としては、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、トルエン、キシレン、シクロドデカン、シクロドデセン、オクチルベンゼン、ドデシルベンゼンから選ばれる少なくとも1種の液状炭化水素を単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態の電磁波吸収体の模式的に示す図。
【
図2】本発明の実施形態の電磁波吸収体の製造方法を説明する工程図。
【
図3】(a)は、
図2に示すステップ1を説明する模式図であり、(b)は、
図2に示すステップ3を説明する模式図。
【
図4】本発明の実施例1において測定した複素比誘電率をプロットしたグラフ。
【
図5】本発明の実施例1において求めた電磁波吸収率を示すグラフ。
【
図6】本発明の実施例1で作製した電磁波吸収シートのSTEM像。
【
図7】本発明の実施例2において測定した複素比誘電率をプロットしたグラフ。
【
図8】本発明の実施例2において求めた電磁波吸収率を示すグラフ。
【
図9】比較例1において測定した複素比誘電率をプロットしたグラフ。
【
図10】比較例1において求めた電磁波吸収率を示すグラフ。
【
図11】比較例2において測定した複素比誘電率をプロットしたグラフ。
【
図12】比較例2において求めた電磁波吸収率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態の電磁波吸収体について、シート状のものを例に説明する。
図1を参照して、電磁波吸収体EAは、シート状に成形された樹脂材1と、この樹脂材1中に分散させた、炭素材料21を銀微粒子22を介して焼結した焼結体2とで構成される。
【0016】
樹脂材1としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリビニルブチラール、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA樹脂)、アクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル・エチレン・スチレン共重合体樹脂(AES樹脂)、ポリアミド樹脂、フッ素系樹脂等の公知のものの中から選択して用いることができるが、孤立電子対を有するブチラール基、アセチル基や水酸基といった官能基を持つものを用いることが好ましい。このような孤立電子対を持つ官能基に銀微粒子22が配位し易くなり、樹脂材1中での銀微粒子22の凝集を抑制することができ、その結果として、銀微粒子22の分散性を高めることができる。このため、樹脂材1としては、ポリビニルブチラールを好適に用いることができる。
【0017】
炭素材料21としては、粒子状、粉末状、球状、棒状、平板状、繊維状、中空状、角状または塊状のものを用いることができ、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンフィラー、グラフェン及びフラーレンから選択した少なくとも1種を用いることができる。
【0018】
銀微粒子22としては、その平均粒子径が1nm〜100nmの範囲内であるものを用いることができる。平均粒子径が1nm未満では、銀微粒子22の比表面積が大きくなり、当該銀微粒子22の表面を被覆する界面活性剤24の含有量が多くなりすぎるため、後述する温度での熱処理時に該界面活性剤24が十分に脱離しない場合があり、平均粒子径が100nmを超えると、銀微粒子22を介した炭素材料21の焼結が不十分になる場合がある。なお、平均粒子径は、JISZ8828の動的光散乱法による粒子径解析に基づいて得られる値である。
【0019】
次に、
図2を参照して、上記電磁波吸収体EAの製造方法について、電磁波吸収シートを製造する場合を例に説明する。
【0020】
先ず、ステップS1にて、低極性溶媒23に銀微粒子22を分散させて分散液を作製し、作製した分散液に炭素材料21を攪拌・混合する(
図3(a)参照)。攪拌・混合には、公知のホモジナイザーを用いることができる。尚、銀微粒子22を低極性溶媒23に予め分散している分散液を準備し、この分散液に炭素材料21を攪拌・混合してもよい。
【0021】
ここで、銀微粒子22の配合割合は、後述する樹脂100重量部に対して4〜11重量部の範囲に設定することができ、炭素材料21の配合割合も、後述する樹脂100重量部に対して4〜11重量部の範囲に設定することができる。4重量部未満では、後述する電磁波吸収体の複素比誘電率の虚部が低く、電磁波吸収性能が不十分となる場合があり、11重量部を超えると、前記複素比誘電率の虚部が大きくなりすぎて、電磁波吸収性能が不十分となる場合がある。銀微粒子22の分散性を高めるために、銀微粒子22の表面は界面活性剤24で覆われている。界面活性剤24としては、炭素数6〜18の脂肪酸及び炭素数6〜18の脂肪族アミンから選択される少なくともいずれか1種を用いることが好ましい。炭素数6〜18の脂肪酸としては、例えば、炭素数6のヘキサン酸、2−エチル酪酸;炭素数7のヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、シクロヘキサンカルボン酸;炭素数8のオクタン酸、ネオへキサン酸、2−エチルヘキサン酸;炭素数9のノナン酸;炭素数10のネオオクタン酸、デカン酸;炭素数11のウンデカン酸;炭素数12のネオデカン酸、ドデカン酸;及び炭素数14のテトラデカン酸;炭素数16のパルミチン酸;及び炭素数18のステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸から選択された少なくとも1種を単独でまたは組み合わせて用いることができる。また、炭素数6〜18の脂肪族アミンとしては、例えば、炭素数6のヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン;炭素数7のヘプチルアミン;炭素数8のオクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン;炭素数9のノニルアミン;炭素数10のデシルアミン;炭素数12のドデシルアミン;炭素数14のテトラドデシルアミン;及び炭素数18のステアリルアミン、オレイルアミンから選択された少なくとも1種を単独でまたは組み合わせて用いることができる。炭素数6未満の脂肪酸や脂肪族アミンでは、低極性溶媒23中での銀微粒子22の分散性が低下する場合がある一方で、炭素数19以上の脂肪酸や脂肪族アミンでは、後述する温度での熱処理時に銀微粒子22の表面からの界面活性剤24(脂肪酸や脂肪族アミン)の脱離が不十分となり、焼結体2の抵抗値が高くなる場合がある。低極性溶媒23としては、例えば、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、トルエン、キシレン、オクチルベンゼン、ドデシルベンゼン、デカリン、テトラリン、シクロドデカン、シクロヘキシルベンゼン及びシクロドデセンから選択された少なくとも1種を単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0022】
その後、極性溶媒25を加え(ステップS2)、十分に攪拌した後、所定時間(例えば、2〜12時間)静置する。これにより、
図3(b)に示すように、銀微粒子22が付着した炭素材料21が沈降する(ステップS3)。極性溶媒25としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類や、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類から選択された少なくとも1種を用いることができる。その上澄み液をデカンテーションなどにより除去することで(ステップS4)、銀微粒子22が付着した炭素材料21が作製される。尚、極性溶媒25の添加(ステップS2)〜上澄み液の除去(ステップS4)を複数回繰り返してもよい。
【0023】
このように作製された銀微粒子22が付着した炭素材料21に樹脂材を添加し(ステップS5)、十分に攪拌・混合して混合物を得る(ステップS6)。この攪拌・混合には、公知のホモジナイザーを用いることができる。尚、樹脂材としては、粉末状のものを用いることができる。
【0024】
上記ステップS6で得られた混合物を所定の容器に流下させて成形し、これを所定時間(例えば、6〜12時間)乾燥させて乾燥体を得る(ステップS7)。乾燥時の温度は、60〜100℃の範囲に設定することができる。最後に、乾燥体を180〜300℃の温度、5〜15MPaの圧力で熱プレス処理することで(ステップS8)、所定形状の電磁波吸収シートが得られる。この熱処理時に加圧することで、炭素材料21間の距離が近くなり、焼結し易くなる。
【0025】
ところで、金属裏打ちした1層構成の電磁波吸収シート等の電磁波吸収体EAに平面波が垂直に入射する場合の電磁波吸収率A(dB)は、下式(1)で表すことができる。
【0027】
式(1)中のZ
inは、真空中における波動インピーダンスで規格化された電磁波吸収体EAの入力インピーダンスであり、下式(2)で表すことができる。
【0029】
式(2)中、ε
*は複素比誘電率、jは虚数単位、fは電磁波の周波数(Hz)、dは電磁波吸収体EAの厚み(m)、C
0は真空中の光速(=約3×10
8(m/s))である。
【0030】
上式(1)より、Z
in=1のとき、電磁波吸収率A(dB)が最大となる。このため、上式(2)の左辺=1とすると、電磁波吸収率Aが最大となる条件(以下「無反射条件」という)を満たす式として、下式(3)が得られる。
【0032】
式(3)は複素比誘電率ε
*の関数、即ち、無反射条件を表す式である。式(3)を満たす複素比誘電率ε
*は無数に存在する。この式(3)は、下式(4)のように近似することができる。
【0034】
式(4)中のnは無反射条件を表す式(後述の無反射曲線)の次数と呼ばれる値であり、n=1、2、3、4、・・・の値をとる。このうち、式(4)において、電磁波吸収体EAの厚みd(m)が最小となるのは、n=1のときである。そこで、n=1を式(4)に代入すると、下式(5)が得られる。
【0036】
また、複素比誘電率ε
*は、下式(6)で表すことができる。
【0038】
式(6)中、ε’は、複素比誘電率ε
*の実部であり、ε’’は、複素比誘電率ε
*の虚部である。式(5)及び(6)より、下式(7)及び(8)が得られる。これらの式(7)及び(8)より、下式(9)が得られる。
【0042】
式(9)が、電磁波吸収体EAの厚みが最も小さくなる場合の、無反射条件を満足する近似式となる。そして、ε’−ε’’平面(複素平面)において式(9)で表される曲線を無反射曲線と呼ぶ。この無反射曲線に複素比誘電率ε
*の実部ε’及び虚部ε’’をフィットさせるためには、電磁波吸収体EAの導電率を高める必要があるが、上述の如く炭素材料21の含有量を増やすことは難しい。
【0043】
本実施形態によれば、銀微粒子22で炭素材料21を焼結させて低抵抗の焼結体2とし、この焼結体2を樹脂材1中に分散させたため、炭素材料21の含有量が少なくても導電率を高めることができる。このように電磁波吸収体EAの導電率を高めることで、複素比誘電率ε
*の実部ε’及び虚部ε’’を無反射条件にフィットさせることができる。従って、吸収する電磁波の周波数に応じて、電磁波吸収体EAの厚みを適宜設定すれば、当該周波数の電磁波に対して優れた吸収性能を持たせることができる。
【0044】
以下、本発明の実施形態をより具体化した実施例について説明する。
【0045】
(実施例1)
粒子状の炭素材料(キャボット製の商品名「Vurcan XC−72R」)11重量部に、銀微粒子(アルバック製の商品名「AgナノメタルインクL−Ag1T」)4重量部を配合し、これに少量(100重量部)のトルエンを加え、25℃にてホモジナイザーで十分に(10分以上)攪拌・混合した。これにトルエンの5倍の体積(500重量部)のエタノールを加えて十分に攪拌し、攪拌を停止した後、12時間静置することにより、銀微粒子が付着した炭素材料を沈降させた。上澄み液を除去した後、樹脂(和光純薬製の商品名「ポリビニルブチラール630」)を100重量部添加し、さらにエタノールを300重量部を加えて、ホモジナイザーで十分に(10分以上)攪拌・混合して混合物を得た。この混合物を150mm×150mm×50mmのフィルム容器に流下させ、これを60℃で12時間乾燥させて乾燥体を得た。この乾燥体を200℃、10MPaで1時間の熱プレス処理を行い、150mm×150mm×1mmの電磁波吸収シートを作製した。作製した電磁波吸収シートの75〜110GHzの周波数帯における複素比誘電率を自由空間法により測定した。その測定した複素比誘電率をプロットした結果を
図4に示す。これによれば、複素比誘電率が無反射曲線の近傍にプロットされていることが確認された。測定した複素比誘電率に基づき、電磁波吸収シートの厚みを0.28,0.30,0.32,0.34,0.36,0.38mmのように変化させたときに、式(1)により計算された電磁波吸収率を
図5に示す。これによれば、電磁波吸収シートの厚みを適宜設定することで、75〜110GHzの周波数帯で20dB以上(99%以上)という優れた電磁波吸収率を持ち、優れた吸収性能を発揮することが判った。
【0046】
集束イオンビーム(FIB)法により、実施例1で作製した電磁波吸収シートの断面を薄片化した試料を作製し、当該試料を走査型透過電子顕微鏡(STEM)により観察した。そのSTEMの明視野像を
図6に示す。これによれば、銀微粒子22は炭素材料21に付着して焼結体2を構成しながら、焼結体2が樹脂材1に分散していることが判った。
【0047】
(実施例2)
銀微粒子(アルバック製の商品名「L−Ag1T」)11重量部を配合する点と、乾燥体の熱プレス処理の温度を180℃とした点とを除き、上記実施例1と同様の方法で電磁波吸収シートを作製した。作製した電磁波吸収シートの75〜110GHzの周波数帯における複素比誘電率を、上記実施例1と同様に、自由空間法により測定した。その測定した複素比誘電率をプロットした結果を
図7に示す。これによれば、複素比誘電率が無反射曲線の近傍にプロットされていることが確認された。測定した複素比誘電率に基づき、電磁波吸収シートの厚みを0.28,0.30,0.32,0.34,0.36,0.38mmのように変化させたときに、式(1)により計算された電磁波吸収率を
図8に示す。これによれば、電磁波吸収シートの厚みを適宜設定することで、75〜110GHzの周波数帯で20dB以上(99%以上)という優れた電磁波吸収率を持ち、優れた吸収性能を発揮することが判った。
【0048】
次に、上記実施例に対する比較例について説明する。
【0049】
(比較例1)
比較例1では、炭素材料(キャボット製の商品名「Vurcan XC−72R」)を配合せず、銀微粒子(アルバック製の商品名「L−Ag1T」)4重量部に少量(100重量部)のトルエンを加え、25℃にてホモジナイザーで十分に(10分以上)攪拌・混合した。これにトルエンの5倍の体積(500重量部)のエタノールを加えて十分に攪拌し、攪拌を停止した後、12時間静置することにより、銀微粒子を沈降させた。その後、上記実施例1と同様の方法で電磁波吸収シートを作製した。作製した電磁波吸収シートの75〜110GHzの周波数帯における複素比誘電率を、上記実施例1と同様に、自由空間法により測定した。その測定した複素比誘電率をプロットした結果を
図9に示す。これによれば、複素比誘電率が無反射曲線から離れた領域にプロットされていることが確認された。測定した複素比誘電率に基づき、電磁波吸収シートの厚みを0.52,0.56,0.60,0.64,0.68,0.72mmのように変化させたときに、式(1)により計算された電磁波吸収率を
図10に示す。これによれば、電磁波吸収シートの厚みを変化させても、75〜110GHzの周波数帯で電磁波吸収率が20dB未満であることが判った。
【0050】
(比較例2)
比較例2では、銀微粒子(アルバック製の商品名「L−Ag1T」)を配合せず、炭素材料(キャボット製の商品名「Vurcan XC−72R」)11重量部に少量(100重量部)のトルエンを加え、25℃にてホモジナイザーで十分に(10分以上)攪拌・混合した。その後、上記実施例1と同様の方法で電磁波吸収シートを作製した。作製した電磁波吸収シートの75〜110GHzの周波数帯における複素比誘電率を、上記実施例1と同様に、自由空間法により測定した。その測定した複素比誘電率をプロットした結果を
図11に示す。これによれば、複素比誘電率が無反射曲線から離れた領域にプロットされていることが確認された。測定した複素比誘電率に基づき、電磁波吸収シートの厚みを0.28,0.30,0.32,0.34,0.36mmのように変化させたときに、式(1)により計算された電磁波吸収率を
図12に示す。これによれば、電磁波吸収シートの厚みを変化させても、75〜110GHzの周波数帯で電磁波吸収率が20dB未満であることが判った。
【0051】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、電磁波吸収シートを製造する場合について説明したが、電磁波吸収体の形状は任意であり、例えば、ブロック状に成形されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0052】
EA…電磁波吸収体、1…樹脂材、2…焼結体、21…炭素材料、22…銀微粒子、23…低極性溶媒、24…界面活性剤、25…極性溶媒。