(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施の形態を説明するための全図において同一機能を有するものには同一の符号を付すようにし、その繰り返しの説明は可能な限り省略するようにしている。また、本発明は、以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【0016】
図面等において示す各構成の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0017】
本明細書において単数形で表される構成要素は、特段文脈で明らかに示されない限り、複数形を含むものとする。
【0018】
本明細書において、XYZ直交座標系を設定し、鉛直方向をX軸、X軸と垂直な平面をYZ平面とする。X軸は、鉛直方向下向きを正の方向とする。なお、以下において、鉛直方向下向きを下、鉛直方向上向きを上という場合がある。
【0019】
[第1の実施形態]
第1の実施形態に係る電気泳動システムについて、
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は、第1の実施形態に係る電気泳動システムを示す概略斜視図である。
図2は、電気泳動システムに用いられる電気泳動ゲルを示す概略斜視図である。
【0020】
図1に示すように、第1の実施形態に係る電気泳動システムは、電気泳動ゲル1と、電気泳動装置100と、を備える。
【0021】
電気泳動装置100は、電気泳動槽9、正極10、負極11及び電圧制御部12(制御部)を有する。電気泳動槽9は、電気泳動ゲル1、緩衝液4、正極10及び負極11を収容する。
【0022】
正極10及び負極11は、電気泳動槽9内において緩衝液4に浸される。
図1に示すように、正極10及び負極11は、例えば、Y軸方向において対向する電気泳動槽9の内壁面にそれぞれ配置される。
【0023】
電圧制御部12は、正極10及び負極11に印加する電圧を制御する。正極10及び負極11に電圧を印加することにより、電気泳動槽9内に正極10から負極11に向かう電場が生じる。すなわち、電場は、Y軸の正の方向から負の方向に向かう。本実施形態において、電場は空間に一様に分布するものとして記述するが、その分布を限定するものではない。電気泳動槽9内に印加される電場は、正極10から負極11に向かう電場であれば、直線状であってもよいし、湾曲していてもよい。
【0024】
なお、以下において、生体物質が核酸である場合を例に説明する。核酸は、マイナスに帯電しているため、電気泳動の方向は電場の方向と逆向きとなり、負極11側から正極10側に向かって電気泳動する。なお、プラスに帯電している生体物質を用いる場合は、電気泳動ゲル1の向きを逆にするか、正極10及び負極11の配置を逆にする。
【0025】
電気泳動ゲル1は、電気泳動槽9内において緩衝液4に浸される。電気泳動ゲル1として、例えばアガロースゲル又はポリアクリルアミドゲルなど公知のものを用いることができる。電気泳動ゲル1の厚みに特に限定はないが、電気泳動により得られる生体物質のバンドがシャープで視認しやすいという観点から、2〜10mmであることが好ましい。なお、電気泳動ゲル1の厚みは一定でなくてもよい。
図1及び
図2において、電気泳動ゲル1は略直方体であるが、その形状は限定されない。
【0026】
図1及び
図2に示すように、電気泳動ゲル1は、注入孔2及び回収孔3を有する。
図1及び
図2においては、電気泳動ゲル1は、4つの注入孔2及び4つの回収孔3がそれぞれZ軸方向に配列されるが、これらの数に限定はない。
【0027】
電気泳動ゲル1は、Y軸方向に隣接する1つの注入孔2及び1つの回収孔3を有する領域を1つの流路とし、流路1つ1つを分けるように電気泳動ゲル1を分離して、電気泳動槽9内のチャンバー(図示せず)にそれぞれ収容することも可能である。
【0028】
注入孔2は、様々な分子量を有する生体物質の混合物を注入するための孔である。注入孔2は、電気泳動ゲル1のY軸方向端部に設けられることが好ましい。生体物質は、緩衝液4より比重の大きい液体と混合した注入液として、注入孔2に注入される。生体物質が混合される液体として、例えば、グリセロールや砂糖水等が挙げられる。注入液中のグリセロール濃度は、例えば6%とすることができる。注入液の粘度は、例えば1mPa・sとすることができる。
【0029】
回収孔3は、目的の分子量の生体物質を回収するための孔である。注入孔2及び回収孔3のY軸方向の距離は任意に設定することができるが、回収孔3は、目的の分子量の生体物質がバンドとして現れる位置近傍に設けられることが好ましい。
【0030】
電気泳動ゲル1は、Y軸方向に働く電場が注入孔2及び回収孔3を貫くように、負極11側に注入孔2、正極10側に回収孔3が位置するように電気泳動槽9内に配置される。換言すれば、Y軸は、注入孔2及び回収孔3の任意の一点を通る平面に平行であり、且つX軸と直交する軸である。略直方体である電気泳動ゲル1は、各辺がそれぞれXYZ軸に沿うように配置されることが好ましい。
【0031】
本実施形態において、注入孔2及び回収孔3は略直方体であるが、その形状や大きさを限定するものではない。注入孔2及び回収孔3のYZ平面における大きさは、任意に設定することができる。
図1及び
図2において、注入孔2及び回収孔3のYZ平面における寸法は等しいが、異なっていてもよい。ただし、注入孔2及び回収孔3は、電気泳動ゲル1をX軸方向に貫通しないことが好ましい。注入孔2及び回収孔3の深さについては、後述する。
【0032】
注入孔2及び回収孔3を形成する方法として、例えば、電気泳動ゲル1を固める前にコームを差し込む方法や、固まった電気泳動ゲル1を切除して注入孔2及び回収孔3を形成する方法、固まった電気泳動ゲル1に熱をかけて溶かすことにより注入孔2及び回収孔3を形成する方法などが挙げられるが、特に限定はない。
【0033】
次に、
図3を参照して、第1の実施形態に係る電気泳動システムにおける電気泳動方法について説明する。
【0034】
本実施形態に係る電気泳動方法は、ユーザーが電気泳動ゲル1の注入孔2に生体物質を注入するステップと、電圧制御部12が注入孔2及び回収孔3を貫く電場を印加して電気泳動を行うステップと、を有する。
【0035】
図3は、第1の実施形態に係る電気泳動ゲル1のC−C断面図である。
図3に示すように、第1の実施形態に電気泳動ゲル1は、回収孔3が注入孔2よりも深く形成される。一般にゲル電気泳動システムにおいて、生体物質は、緩衝液4よりも比重が大きい液体と混合されて注入孔2に注入される。従って、電気泳動の開始時において、鉛直方向の最も下方に位置する生体物質は、基本的に注入孔2の底に位置する。ここで、
図3に示すように、電気泳動の開始時に注入孔2中に存在する生体物質のうち、最もX座標が大きい生体物質の座標、すなわち注入孔2の底を原点にとり、その座標を(X
0,Y
0)とする。回収孔3の底の座標を(X
C,Y
C)とする。
【0036】
なお、注入孔2の底の座標(X
0,Y
0)は、例えば注入孔2の底のYZ平面における中心であり、回収孔3の底の座標(X
C,Y
C)は、例えば回収孔3の底のYZ平面における中心である。注入孔2の底の座標(X
0,Y
0)及び回収孔3の底の座標(X
C,Y
C)は、それぞれYZ平面における中心に限定されず、YZ平面の任意の位置であり得る。
【0037】
電気泳動の開始時に注入孔2の底(X
0,Y
0)に位置する生体物質が電場を受けて回収孔3のY座標Y=Y
Cまで電気泳動されるとき、その鉛直方向の位置(X座標)は、電場の方向から、X=X
1(X
1=X
0)であると想定することができる。すなわち、電気泳動の開始時に注入孔2の底(X
0,Y
0)に位置する生体物質は、回収孔3中の座標(X
1,Y
C)に電気泳動されると想定することができる。
【0038】
本実施形態においては、回収孔3の底のX座標X
Cが下記式(1)を満たすように、回収孔3が注入孔2よりも深く形成される。
【0040】
図3に示すように、回収孔3が注入孔2よりも深く形成されることで、生体物質が電気泳動される回収孔3中のX座標X
1が回収孔3の底のX座標X
Cより小さくなるため、上記式(1)を満たすことができる。注入孔2及び回収孔3の深さの差(X
C−X
0)に限定はなく、注入孔2及び回収孔3のY軸方向の距離(Y
C−Y
0)や、生体物質の質量等の条件に応じて適宜変更可能であるが、例えば0.25mm以上であることが好ましい。
【0041】
次に、
図3に示すように、電場を直線X=aYに平行に印加する場合における注入孔2の底の座標(X
0,Y
0)と、回収孔3の底の座標(X
C,Y
C)と、電場の傾きaとの関係について説明する。本実施形態においては、注入孔2の底の座標(X
0,Y
0)と、回収孔3の底の座標(X
C,Y
C)と、電場の傾きaとの関係が下記式(2)を満たすように、回収孔3の底の座標(X
C,Y
C)を設定する。
【0043】
ここで、電場をベクトルEで表すと、ベクトルEは、X軸の正方向の単位ベクトルをe
X、Y軸の正方向の単位ベクトルをe
Y、Z軸の正方向の単位ベクトルをe
Zとし、X軸方向の係数をB、Y軸方向の係数をC、Z軸方向の係数をDとすると、下記式(3)で表される。なお、係数B、C及びDは、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向のそれぞれにおける電場の強さ及び符号により定まる値である。
【0045】
また、このとき、XY平面における電場の傾きaは、下記式(4)で表される。なお、電場は正極10から負極11に向かう(Y軸の負の方向に向かう)ため、係数Cは負の値であり、係数Bは電場を下向きに印加する場合は正の値、上向きに印加する場合は負の値である。従って、電場を下向きに印加する場合は、XY平面における電場の傾きaは負の値になる。
【0047】
(電場の傾きa=0の場合)
図3に示すように、電場の傾きa=0とし、電場をY軸に平行に印加する場合、上記式(2)にa=0を代入した式は、X
C>X
0となる。すなわち、回収孔3の底(X
C,Y
C)を注入孔2の底(X
0,Y
0)よりも深くすることで、X
C>X
0を満たすことができる。
【0048】
(電場の傾きa<0の場合)
上記式(2)を変形すると、下記式(5)となる。ここで、下記式(5)において、右辺のY
C−Y
0は、注入孔2及び回収孔3のY軸方向の距離を示すため、正の値である。よって、電場の傾きa<0とする場合、下記式(5)の右辺は負の値となる。従って、電場の傾きa<0の場合においても、回収孔3の底(X
C,Y
C)を注入孔2の底(X
0,Y
0)よりも深くすることで、下記式(5)の左辺(X
C−X
0)、すなわち注入孔2及び回収孔3の深さの差(X
C−X
0)が正の値となるため、上記式(2)及び下記式(5)を満たすことができる。
【0050】
(電場の傾きa>0の場合)
電場の傾きa>0とする場合、上記式(5)の右辺は正の値となる。従って、注入孔2及び回収孔3の深さの差(X
C−X
0)が、電場の傾きaと、注入孔2及び回収孔3のY軸方向の距離(Y
C−Y
0)との積(a(Y
C−Y
0))より大きくなるように、回収孔3の底(X
C,Y
C)を注入孔2の底(X
0,Y
0)よりも深くすることで、上記式(2)及び上記式(5)を満たすことができる。
【0051】
以上のように、第1の実施形態においては、回収孔3を注入孔2よりも深くすることで、電気泳動の開始時に注入孔2の底(X
0,Y
0)に位置する生体物質が回収孔3の底(X
C,Y
C)よりも上方に電気泳動されるため、高い回収効率で生体物質を回収することができる。
【0052】
次に、
図4、
図5A及び5Bを参照して、従来例に係る電気泳動システムについて説明する。従来例に係る電気泳動システムは、電気泳動装置100と、電気泳動ゲル5と、を備える。従来例に係る電気泳動装置100及び電気泳動ゲル5の構成は、第1の実施形態に係る電気泳動装置100及び電気泳動ゲル1と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0053】
図4は、従来例に係る電気泳動ゲル5のC−C断面図である。
図4に示すように、従来例に係る電気泳動システムにおいて、電気泳動ゲル5は、深さが等しい注入孔52及び回収孔53を有し、電場はY軸の負の方向に平行に印加される。
【0054】
第1の実施形態と同様に、電気泳動の開始時に注入孔52中に存在する生体物質のうち、最もX座標が大きい生体物質の座標、すなわち注入孔52の底の座標を(X
50,Y
50)とする。回収孔53の底の座標を(X
5C,Y
5C)とする。なお、回収孔53の底の座標(X
5C,Y
5C)は、例えば回収孔53の底のYZ平面における中心であり、注入孔52の底の座標(X
50,Y
50)は、例えば注入孔52の底のYZ平面における中心である。
【0055】
従来例に係る電気泳動システムにおいては、
図4に示すように、電気泳動の開始時に注入孔2の底(X
50,Y
50)に位置する生体物質が電場を受けて回収孔53のY座標Y=Y
5Cまで電気泳動されるとき、その鉛直方向の位置(X座標)は、電場の方向から、X=X
51(X
51=X
50)であると想定することができる。すなわち、電気泳動の開始時に注入孔52の底(X
50,Y
50)に位置する生体物質は、回収孔53の底(X
51,Y
5C)に電気泳動されると想定することができる。
【0056】
しかし、実際には電場による移動のほかに、ブラウン運動による拡散や重力による移動によって、電場の方向以外にも生体物質が移動してしまうため、一部の生体物質が回収孔53の下を通過し、回収孔53に入らなくなると考えられる。
【0057】
図5Aは、従来例に係る電気泳動ゲル5のA−A断面図である。
図5Bは、従来例に係る電気泳動ゲル5のB−B断面図である。
図5A及び5Bは、生体物質6を電気泳動中に電気泳動ゲル5を切断した場合の断面図を示す。生体物質6を染色することで、生体物質6の分布を確認することができる。
図5A及び5Bに示すように、生体物質6は、電気泳動の距離が長くなるにつれて、鉛直方向及び水平方向へ拡散する。
【0058】
そこで、上記第1の実施形態のように、回収孔3を注入孔2よりも深くすることで、電気泳動の開始時に注入孔2の底(X
0,Y
0)に位置する生体物質が回収孔3の底よりも上方に電気泳動される。生体物質のブラウン運動や重力による影響を考慮する場合、上述のように、注入孔2及び回収孔3のY軸方向の距離(Y
C−Y
0)や、生体物質の質量等の条件に応じて、回収孔3を注入孔2よりも深く形成する。本実施形態は、このような構成を有することにより、高い回収効率で電気泳動ゲルから生体物質を回収することができる。
【0059】
[第2の実施形態]
次に、
図6を参照して、第2の実施形態に係る電気泳動システム及び電気泳動方法について説明する。
図6は、第2の実施形態に係る電気泳動ゲル1のC−C断面図である。
【0060】
本実施形態に係る電気泳動システムは、
図6に示すように、電気泳動ゲル1の注入孔2及び回収孔3の深さが等しく、X=aY(a<0)に平行な電場が印加される点で、第1の実施形態と異なる。すなわち、本実施形態に係る電気泳動方法は、電場を印加するステップが、X軸の負の方向に傾きを有する電場を印加するステップである。X軸、Y軸及び座標の設定は第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0061】
図6に示すように、注入孔2及び回収孔3の深さが等しく(X
0=X
C)、電場をX軸方向の負の方向に傾ける(a<0)場合、電気泳動の開始時に注入孔2の底(X
0,Y
0)に位置する生体物質が電場を受けて回収孔3のY座標Y=Y
Cまで電気泳動されるとき、その鉛直方向の位置(X座標)は、電場の方向から、X=X
1(X
1<X
0)であると想定することができる。このように、X軸の負の方向に傾きをもつ電場を印加することで、生体物質が電気泳動される回収孔3中のX座標X
1が回収孔3の底のX座標X
Cより小さくなるため、上記式(1)を満たすことができる。電場の傾きaは、注入孔2及び回収孔3のY軸方向の距離(Y
C−Y
0)や、生体物質の質量等に応じて適宜変更可能である。例えば、注入孔2の底(X
0,Y
0)から電気泳動される生体物質の回収孔3中のX座標X
1と、注入孔2の底のX座標X
0との差が0.25mm以上となるように、電場の傾きaを設定することが好ましい。なお、この場合、電場の傾きaの上限は、式(1)を満たす範囲内で決定される。
【0062】
次に、電場を直線X=aYに平行に印加する場合における注入孔2の底の座標(X
0,Y
0)と、回収孔3の底の座標(X
C,Y
C)と、電場の傾きaとの関係について説明する。本実施形態においては、注入孔2の底の座標(X
0,Y
0)と、回収孔3の底の座標(X
C,Y
C)と、電場の傾きaとの関係が上記式(2)及び上記式(5)を満たすように、電場の傾きaを設定する。
【0063】
図6に示すように、注入孔2及び回収孔3の深さが等しい場合、X
C=X
0である。上記式(5)にX
C=X
0を代入した式は、0>a(Y
C−Y
0)である。右辺のY
C−Y
0は、注入孔2及び回収孔3のY軸方向の距離を示すため、正の値である。よって、負の傾きaをもつ電場を印加することで、上記式(2)及び上記式(5)を満たすことができる。電場の傾きaは、注入孔2及び回収孔3のY軸方向の距離(Y
C−Y
0)や、生体物質の質量等に応じて適宜変更可能である。
【0064】
なお、第2の実施形態において、電場に傾きをもたせる代わりに、電場の傾きaに等しくなるよう電気泳動ゲル1を傾けて電気泳動槽9に設置し、電場をY軸に平行に印加してもよい。
【0065】
以上のように、第2の実施形態においては、電気泳動ゲル1に印加する電場をX=aY(a<0)に平行にする、あるいは電気泳動ゲル1を傾きaだけ傾ける構成を有する。生体物質のブラウン運動や重力による影響を考慮する場合、上述のように、注入孔2及び回収孔3のY軸方向の距離(Y
C−Y
0)や、生体物質の質量等の条件に応じて、電場の傾きaを設定する、あるいは電気泳動ゲル1を傾きaだけ傾ける。本実施形態は、このような構成を有することにより、電気泳動の開始時に注入孔2の底(X
0,Y
0)に位置する生体物質が回収孔3の底(X
C,Y
C)よりも上方に電気泳動されるため、高い回収効率で電気泳動ゲルから生体物質を回収することができる。
【0066】
[第3の実施形態]
次に、
図7を参照して、第3の実施形態に係る電気泳動システム及び電気泳動方法について説明する。
図7は、第3の実施形態に係る電気泳動ゲル1のC−C断面図である。
【0067】
本実施形態に係る電気泳動システムは、
図7に示すように、電気泳動ゲル1の注入孔2及び回収孔3の深さが等しく、注入孔2に、緩衝液4及び注入液より比重の大きい液体8が注入される点で、第1の実施形態と異なる。すなわち、本実施形態に係る電気泳動方法は、ユーザーが電気泳動ゲル1の注入孔2に生体物質を注入するステップの前に、生体物質よりも比重の大きい液体8を注入孔2に注入するステップを備える。
【0068】
液体8として、例えば、生体物質を含む注入液より濃度を高くしたグリセロールや砂糖水等を使用することができる。液体8がグリセロールである場合、その濃度に限定はないが、例えば90%〜95%とすることができる。また、液体8の粘度は、グリセロールである場合、例えば500〜1000mPa・sとすることができる。
【0069】
X軸及びY軸の設定は第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。本実施形態においては、電気泳動の開始時に注入孔2中に存在する生体物質のうち、最もX座標が大きい生体物質の座標、すなわち液体8の上面を原点にとり、その座標を(X
0,Y
0)とする。その他の座標は第1の実施形態と同様に設定する。例えば、液体8の上面の座標(X
0,Y
0)は、液体8の上面の中心とすることができる。
【0070】
図7に示すように、電気泳動の開始時に液体8の上面(X
0,Y
0)に位置する生体物質が電場を受けて回収孔3のY座標Y=Y
Cまで電気泳動されるとき、その鉛直方向の位置(X座標)は、電場の方向から、X=X
1(X
1=X
0)であると想定することができる。従って、注入孔2に液体8を注入して、注入孔2を回収孔3よりも浅くすることで、生体物質の回収孔3中のX座標X
1が回収孔3の底のX座標X
Cより小さくなるため、上記式(1)を満たすことができる。液体8の上面の高さと回収孔3の底の高さの差に限定はなく、注入孔2及び回収孔3のY軸方向の距離(Y
C−Y
0)や、生体物質の質量等の条件に応じて適宜変更可能であるが、例えば0.25mm以上であることが好ましい。なお、この場合、液体8の注入量の上限は、注入液が注入孔2から溢れない範囲内で決定される。
【0071】
次に、電場を直線X=aYに平行に印加する場合における注入孔2の底の座標(X
0,Y
0)と、回収孔3の底の座標(X
C,Y
C)と、電場の傾きaとの関係について説明する。本実施形態においては、注入孔2の底の座標(X
0,Y
0)と、回収孔3の底の座標(X
C,Y
C)と、電場の傾きaとの関係が、上記式(2)を満たすように、液体8の注入量を設定する。
【0072】
(電場の傾きa=0の場合)
図7に示すように、電場の傾きa=0とし、電場をY軸に平行に印加する場合、上記式(2)にa=0を代入した式は、X
C>X
0となる。すなわち、液体8の上面(X
0,Y
0)が回収孔3の底(X
C,Y
C)よりも浅くなるように液体8を注入することで、X
C>X
0を満たすことができる。
【0073】
(電場の傾きa<0の場合)
上述のように、上記式(2)を変形すると、上記式(5)となる。ここで、上記式(5)において、Y
C−Y
0は注入孔2及び回収孔3のY軸方向の距離を示すため、正の値である。電場の傾きa<0とする場合、上記式(5)の右辺は負の値となる。従って、液体8の上面(X
0,Y
0)が回収孔3の底(X
C,Y
C)よりも浅くなるように液体8を注入することで、上記式(5)の左辺(X
C−X
0)が正の値となり、上記式(2)及び上記式(5)を満たすことができる。
【0074】
(電場の傾きa>0の場合)
電場の傾きa>0とする場合、上記式(5)の右辺は正の値となる。従って、注入孔2及び回収孔3の深さの差(X
C−X
0)が、電場の傾きaと、注入孔2及び回収孔3のY軸方向の距離(Y
C−Y
0)との積(a(Y
C−Y
0))より大きくなる。すなわち、液体8の上面(X
0,Y
0)が回収孔3の底(X
C,Y
C)よりも浅くなるよう液体8を注入することで、X
C−X
0が正の値となり、上記式(2)及び上記式(5)を満たすことができる。
【0075】
以上のように、第3の実施形態においては、液体8を注入孔2に注入する構成を有する。生体物質のブラウン運動や重力による影響を考慮する場合、上述のように、注入孔2及び回収孔3のY軸方向の距離(Y
C−Y
0)や、生体物質の質量等の条件に応じて、液体8の注入量を設定する。本実施形態は、このような構成を有することで、電気泳動の開始時に注入孔2の底(X
0,Y
0)に位置する生体物質が回収孔3の底(X
C,Y
C)よりも上方に電気泳動されるため、高い回収効率で電気泳動ゲルから生体物質を回収することができる。
【0076】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【実施例】
【0077】
[実施例1]
第1の実施形態の実施例について説明する。
(電気泳動ゲルの作製)
注入孔2及び回収孔3を有するアガロースゲルを作製した。アガロースゲルは、X軸方向の長さ(厚み)が5mm、Y軸方向の長さが60mm、Z軸方向の長さが55mmになるように、3%SeaKem(登録商標) GTG−TAE(Lonza社製)をプラスチック容器に流し入れて成型した。注入孔2は、YZ平面の寸法が1mm×5mm、X軸方向の深さが3mmになるように、回収孔3は、YZ平面の寸法が1mm×5mm、X軸方向の深さが4mmになるように、アガロースゲルが固まる前にコームを差し込むことで、それぞれ形成した。注入孔2及び回収孔3のY軸方向の距離は20mmとした。
【0078】
(電気泳動)
作製したアガロースゲルを電気泳動装置(ミューピット(登録商標)、ミューピット社製)に水平に設置し、1×TAE緩衝液(Tris Acetate EDTA Buffer)を電気泳動槽9に注ぎ、アガロースゲルの上面ぎりぎりまで満たした。注入孔2及び回収孔3の内部もTAE緩衝液で満たした。その後、種々の長さの核酸を含む試料溶液5μLに、6×DNA Loading Dye(Thermo Fisher Scientific社製)1μLを混合して注入液とし、注入孔2に注入した。
【0079】
注入液の注入後、電場がY軸に平行に直線状に働くように50Vの電圧を印加し、30分間の電気泳動を行った。電気泳動の開始直後から5分毎に、回収孔3内に電気泳動された核酸をTAE緩衝液ごと回収した。核酸を回収する度に、回収孔3にTAE緩衝液を注入した。
【0080】
(回収効率の測定)
5分毎に回収した回収液に含まれる核酸の長さ及び質量をTapeStation(Agilent Technologies社製)を用いてそれぞれ定量し、回収効率を求めた。結果を
図8に示す。
【0081】
[比較例1]
回収孔3のX軸方向の深さを3mmとして、注入孔2及び回収孔3の深さを等しくしたこと以外は実施例1と同様にして電気泳動を行い、比較例1に係る核酸の回収効率を求めた。結果を
図8に示す。
【0082】
(測定結果)
図8は、実施例1及び比較例1における核酸の回収効率を示すグラフである。
図8に示すように、回収孔3の深さが注入孔2の深さより大きいアガロースゲルを用いた実施例1においては、注入孔2及び回収孔3の深さが等しいアガロースゲルを用いた比較例1と比較して、回収効率が2倍以上となることが分かった。
【0083】
[実施例2]
第2の実施形態の実施例について説明する。
(電気泳動ゲルの作製)
注入孔2及び回収孔3のX軸方向の深さがいずれも4mmとなるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、アガロースゲルを作製した。
【0084】
(電気泳動)
作製したアガロースゲルの負極11側の端が正極10側の端に比べて3mm高くなるように斜めに設置したこと以外は実施例1と同様にして、電場がY軸に平行に直線状に働くように電気泳動を行い、電気泳動開始直後から5分毎に、回収孔3内に電気泳動された核酸をTAE緩衝液ごと回収した。
【0085】
(回収効率の測定)
実施例1と同様にして、5分毎に回収した回収液に含まれる核酸の長さ及び質量を定量氏、回収効率を求めた。
【0086】
(測定結果)
図示は省略しているが、負極11側の端のX軸方向の高さが正極10側の端のX軸方向の高さより3mm高くなるように電気泳動ゲルを配置した実施例2においては、同じ電気泳動ゲルを水平に配置した比較例1と比較して、回収効率が2倍以上となることが分かった。
【0087】
[実施例3]
第3の実施形態の実施例について説明する。
(電気泳動ゲルの作製)
注入孔2及び回収孔3のX軸方向の深さがいずれも4mmとなるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、アガロースゲルを作製した。
【0088】
(電気泳動)
作製したアガロースゲルを電気泳動装置(ミューピット(登録商標)、ミューピット社製)に水平に設置し、1×TAE緩衝液(Tris Acetate EDTA Buffer)を電気泳動槽9に注ぎ、アガロースゲルの上面ぎりぎりまで満たした。注入孔2及び回収孔3の内部もTAE緩衝液で満たした。その後、注入孔2に90%グリセロールを5μL注入した。その他の操作は実施例1と同様にして、電場がY軸に平行に働くように電気泳動を行い、電気泳動開始直後から5分毎に、回収孔3内に電気泳動された核酸をTAE緩衝液ごと回収した。
【0089】
(回収効率の測定)
実施例1と同様にして、5分毎に回収した回収液に含まれる核酸の長さ及び質量を定量し、回収効率を求めた。
【0090】
(測定結果)
図示は省略しているが、注入孔2に注入液より比重の大きい90%グリセロールを注入した実施例3においては、90%グリセロールを注入しなかった比較例1と比較して、回収効率が2倍以上となることが分かった。