【文献】
PENG, Jun et al.,Efficient Indium-Doped TiOx Electron Transport Layers for High-Performance Perovskite Solar Cells and Perovskite-Silicon Tandems,ADVANCED ENERGY MATERIALS,2016年11月04日,Vol.7, No.7,pp.1601768-1 - 1601768-10,DOI:10.1002/aenm.201601768
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光透過性電極層、電子輸送層、有機半導体層、ホール輸送層および集電極層をこの順に有する有機薄膜太陽電池の前記光透過性電極層および前記電子輸送層となる積層体であって、
前記光透過性電極層となる部材と、
前記光透過性電極層となる部材の上に配置された、前記電子輸送層となる酸化チタン層と、を有し、
前記酸化チタン層の厚さが、1.0nm以上200.0nm以下であり、
前記酸化チタン層が、酸化インジウムおよび金属インジウムを含有し、チタン元素の含有量をTi、酸化インジウムの含有量をInOx、金属インジウムの含有量をInMとしたとき、InOx/Tiが原子比で0.50以上20.00以下であり、InM/Tiが原子比で0.100未満である、積層体。
前記Ti成分が、六フッ化チタン水素酸、六フッ化チタン酸カリウム、六フッ化チタン酸ナトリウム、六フッ化チタン酸アンモニウム、シュウ酸チタニルアンモニウム、シュウ酸チタニルカリウム二水和物、硫酸チタン、および、チタンラクテートからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項3または4に記載の積層体の製造方法。
請求項1に記載の積層体を用いて、光透過性電極層、電子輸送層、有機半導体層、ホール輸送層および集電極層をこの順に有する有機薄膜太陽電池を製造する、有機薄膜太陽電池の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[有機薄膜太陽電池]
まず、
図1に基づいて、有機薄膜太陽電池1を説明する。
図1は、有機薄膜太陽電池1を模式的に示す断面図である。有機薄膜太陽電池1は、例えば、光透過性電極層2、電子輸送層3、有機半導体層4、ホール輸送層5および集電極層6をこの順に有する。
光透過性電極層2の厚さは、後述する部材8(
図2参照)の厚さに準ずる。
電子輸送層3の厚さは、後述する酸化チタン層9(
図2参照)の厚さに準ずる。
有機半導体層4、ホール輸送層5および集電極層6の厚さは、適宜設定される。
【0013】
光透過性電極層2としては、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)膜などの導電性金属酸化物の膜が好適に挙げられる。光透過性電極層2は、ガラス基板、樹脂フィルムなどの透明性基板の上に配置されていてもよい。
【0014】
電子輸送層3としては、例えば、n型半導体である酸化チタン(TiO
2)を含有する酸化チタン層が挙げられる。
【0015】
有機半導体層4としては、例えば、ポリチオフェン誘導体であるポリ−3−ヘキシルチオフェン(P3HT)と、フラーレン誘導体である[6,6]−フェニル−C
61−酪酸メチルエステル(PCBM)とを含有する層が挙げられる。
P3HTとPCBMとの質量比(P3HT:PCBM)は、5:3〜5:6が好ましく、5:3〜5:4がより好ましい。
このような有機半導体層4は、導電性材料、色素などの添加剤を更に含有してもよい。
導電性材料としては、例えば、ポリアセチレン系、ポリピロール系、ポリチオフェン系、ポリパラフェニレン系、ポリパラフェニンビニレン系、ポリチエニレンビニロン系、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)系、ポリフルオレン系、ポリアニリン系、ポリアセン系の導電性材料が挙げられる(ただし、後述するPEDOT/PSSは除く)。
色素としては、例えば、シアニン系、メロシアニン系、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、アゾ系、キノン系、キノイシン系、キナクドリン系、スクアリリウム系、トリフェニルメタン系、キサンテン系、ポルフィリン系、ペリレン系、インジコ系の色素が挙げられる。
添加剤の含有量は、P3HTとPCBMとの合計100質量部に対して、1〜100質量部が好ましく、1〜40質量部がより好ましい。
【0016】
ホール輸送層5の材料としては、PEDOT/PSS、V
2O
5、MoO
3などが挙げられ、PEDOT/PSSが好ましい。
PEDOT/PSSは、PEDOT(ポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェン)と、PSS(ポリスチレンスルホン酸)とが一体化した高分子化合物であり、PEDOT:PSSと表記される場合もある。
【0017】
集電極層6としては、例えば、Au電極層、Ag電極層、Al電極層、Ca電極層などが挙げられ、なかでも、Au電極層が好ましい。
【0018】
[積層体]
次に、
図2に基づいて、有機薄膜太陽電池1(
図1参照)の光透過性電極層2および電子輸送層3となる積層体7を説明する。
図2は、積層体7を模式的に示す断面図である。積層体7は、光透過性電極層2(
図1参照)となる部材8と、部材8の上に配置された、電子輸送層3(
図1参照)となる酸化チタン層9と、を有する。
【0019】
〈光透過性電極層となる部材〉
光透過性電極層2(
図1参照)となる部材8は、導電性を有する部材であることが好ましく、酸化インジウムを含有する部材であることがより好ましい。
部材8は、酸化インジウムを含有する部材である場合、酸化インジウムスズ(ITO)を含有する部材であることが更に好ましく、ITO膜であることが特に好ましい。
部材8は、ガラス基板、樹脂フィルムなどの透明性基板の上に配置されていてもよい。
【0020】
例えばITO膜である部材8の厚さは、得られる有機薄膜太陽電池1(
図1参照)に応じて適宜設定されるが、20nm以上が好ましく、80nm以上がより好ましく、150nm以上が更に好ましい。一方、500nm以下が好ましく、400nm以下がより好ましく、300nm以下が更に好ましい。
部材8の厚さは、集束イオンビームによって部材8の断面を形成し、形成した断面を、走査型電子顕微鏡を用いて測定することにより得られる値である。
【0021】
〈酸化チタン層〉
酸化チタン層9は、酸化チタンを含有する層である。
更に、酸化チタン層9は、後述するように、酸化インジウムおよび金属インジウムを含有する。
【0022】
《厚さ》
酸化チタン層9の厚さは、1.0nm以上である。酸化チタン層9の厚さがこの範囲であれば、酸化チタン層9の欠陥による漏れ電流が発生しにくくなり、積層体7を用いた有機薄膜太陽電池1は、出力特性が優れる。
出力特性がより優れるという理由から、酸化チタン層9の厚さは、2.0nm以上が好ましく、3.0nm以上がより好ましく、4.0nm以上が更に好ましい。
【0023】
一方、酸化チタン層9の厚さは、200.0nm以下である。酸化チタン層9の厚さがこの範囲であれば、抵抗の増大が抑制され、有機薄膜太陽電池1の出力特性が優れる。また、酸化チタン層9の透過性も優れる。更に、後述する通電時間を短縮でき、積層体7の生産性にも優れる。
出力特性、透過性および生産性がより優れるという理由から、酸化チタン層9の厚さは、100.0nm以下が好ましく、50.0nm以下がより好ましく、30.0nm以下が更に好ましい。
【0024】
酸化チタン層9の厚さは、次のように求める。
まず、酸化チタン層9の任意の部位について、X線光電子分光分析装置(XPS装置)を用いて、下記条件で、Ti3sおよびIn3dの狭域光電子スペクトルの測定と、アルゴンイオン(Ar
+)によるスパッタとを繰返し行なう。これにより、酸化チタン層9における、スパッタ深さ方向の元素組成比(単位:原子%)を求める。元素組成比を求める際には、相対感度係数法を用いる。狭域光電子スペクトルの各ピーク面積における相対感度係数として、Ti3s:0.150、In3d:4.530をそれぞれ用いる。測定開始位置である酸化チタン層9の最表面から、チタン(Ti)の元素組成比が最大値の1/10の値となる深さ位置までを、酸化チタン層9の厚さとする。
【0025】
(XPS装置を用いた測定の条件)
・XPS装置:Quantera SXM(ULVAC−PHI社製)
・X線源:単色化Al−Kα線(電圧:15kV、出力:25.0W)
・X線ビーム径:100μmφ
・測定領域:100μmφ
・狭域光電子スペクトル測定Pass Energy:140eV
・狭域光電子スペクトル測定Energy Step:0.125eV
・スパッタレート:5.4nm/min(SiO
2換算)
・Ar
+加速エネルギー:1keV
・帯電中和:電子線+Ar
+
・光電子取出し角:試料面法線方向から45°(X線入射角は試料面法線方向)
【0026】
《原子比(InOx/Ti)》
酸化チタン層9は、酸化インジウムを含有する。
そして、チタン元素の含有量を「Ti」、酸化インジウムの含有量を「InOx」としたとき、酸化チタン層9は、原子比(InOx/Ti)が、0.50以上20.00以下である。
このような酸化チタン層9は、後述する方法により得られるが、この場合、従来のゾルゲル法(例えば特許文献1を参照)を用いて形成される酸化チタン層よりも、In
3+が多く存在し、酸素欠損が多く導入されていると考えられる。そして、酸素欠損によって過剰の電子が生成し、その一部がキャリアとして導電性に寄与する。
こうして、酸化チタン層9を有する積層体7を用いた有機薄膜太陽電池1は、出力特性に優れる。
ただし、これ以外のメカニズムであっても本発明の範囲内であるとする。
【0027】
原子比(InOx/Ti)は、出力特性がより優れるという理由から、5.00以上が好ましく、8.00以上がより好ましく、10.00超が更に好ましく、11.00以上が特に好ましい。
一方、上限に関して、原子比(InOx/Ti)は、18.00以下が好ましく、16.00以下がより好ましく、14.00以下が更に好ましい。
【0028】
《原子比(InM/Ti)》
酸化チタン層9は、更に、金属インジウムを含有する。
そして、チタン元素の含有量を「Ti」、金属インジウムの含有量を「InM」としたとき、原子比(InM/Ti)は、0.100未満である。これにより、酸化チタン層9(電子輸送層3)の透過性が優れる。
透過性がより優れるという理由から、原子比(InM/Ti)は、0.050以下が好ましく、0.030以下がより好ましく、0.010以下が更に好ましい。
一方、下限に関して、原子比(InM/Ti)は、0.001以上が好ましい。
【0029】
原子比(InOx/Ti)および原子比(InM/Ti)は、次のように求める。
まず、酸化チタン層9について、上述した方法と同様に、XPS装置を用いた測定を行なう。次いで、得られるIn3dの狭域光電子スペクトルを、酸化物成分と金属成分とにピーク分離する。より詳細には、ピーク分離では、ソフトウェアとしてMultiPak(Ver.8.2C)を用い、関数フィッティングを行なう。
酸化物に対しては、ガウス−ローレンツ関数を適用する。金属成分に対しては、非対称関数(Tail Length:14.85±3.00、Tail Scale:0.23±0.10)を適用する。
なお、酸化インジウムと金属インジウムとは、互いに、ピーク位置が近接する。このため、下記範囲に固定して、ピーク高さ、半価幅およびガウス関数比率を可変パラメータとして、実測のスペクトルとの残差二乗和が最小となるように収束計算を行なう。
・酸化インジウム:444.6±0.5eV
・金属インジウム:443.8±0.5eV
チタン(Ti)、酸化インジウム、および、金属インジウムの元素組成比(単位:原子%)を、酸化チタン層9の最表面から、チタン(Ti)の元素組成比が最大値の1/10の値となる深さ位置まで積分し、積分値を得る。
酸化インジウムの積分値(InOx)および金属インジウムの積分値(InM)の積分値を、それぞれ、チタンの積分値(Ti)で除する。これにより、原子比(InOx/Ti)および原子比(InM/Ti)を求める。
【0030】
[積層体の製造方法]
上述した積層体7を製造するために、Ti成分を含有する処理液中で、部材8をカソード分極し、次いで、部材8をアノード分極する。なお、対極としては、白金電極などの不溶性電極が適している。部材8のカソード分極およびアノード分極は、例えば、後述する電解処理槽において実施される。
【0031】
より詳細には、まず、ITO膜などの部材8をカソードとして通電する。これにより、部材8の上に、酸化チタン層9が形成される。このカソード分極に伴い、酸化チタン層9の内部、および、酸化チタン層9とITO膜などの部材8との界面に、金属インジウムが析出すると推測される。
【0032】
なお、酸化チタン層9は、以下のように形成されると推測される。まず、部材8の表面では、水素発生に伴うpH上昇が生じる。その結果、例えば、処理液中のTi成分が六フッ化チタン水素酸および/またはその塩である場合、処理液中の六フッ化チタン酸イオンが、脱Fしながら、水酸化チタンを生じる。この水酸化チタンが、部材8の表面に付着し、その後の洗浄、乾燥等による脱水縮合を経て、酸化チタン層9が形成されると考えられる。ただし、これ以外のメカニズムであっても本発明の範囲内であるとする。
【0033】
次いで、部材8をアノードとして通電する。これにより、酸化チタン層9に析出した金属インジウムを酸化させ、透過性を向上させる。
【0034】
部材8は、上述したように、導電性を有する部材であることが好ましく、例えば、ITO膜などの導電性金属酸化物の膜である。
部材8は、上述したように、ガラス基板、樹脂フィルムなどの透明性基板の上に配置されていてもよい。この場合、部材8付き透明性基板(例えば、ITO膜付きガラス基板)をカソード分極し、次いで、アノード分極する。この場合、得られる積層体も、更に、この透明性基板を有する。
【0035】
処理液は、形成される酸化チタン層9にTi(チタニウム元素)を供給するためのTi成分(Ti化合物)を含有する。
Ti成分としては、六フッ化チタン水素酸(H
2TiF
6)、六フッ化チタン酸カリウム(K
2TiF
6)、六フッ化チタン酸ナトリウム(Na
2TiF
6)、六フッ化チタン酸アンモニウム((NH
4)
2TiF
6)、シュウ酸チタニルアンモニウム((NH
4)
2[TiO(C
2O
4)
2])、シュウ酸チタニルカリウム二水和物(K
2[TiO(C
2O
4)
2]・2H
2O)、硫酸チタン(Ti(SO
4)
2)、および、チタンラクテート(Ti(OH)
2[OCH(CH
3)COOH]
2)からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
これらのうち、処理液の安定性、入手の容易性などの観点から、六フッ化チタン水素酸および/またはその塩(六フッ化チタン酸カリウム、六フッ化チタン酸ナトリウム、六フッ化チタン酸アンモニウム)が好ましい。
処理液中のTi含有量は、0.004mol/L以上が好ましく、0.010mol/L以上がより好ましく、0.020mol/L以上が更に好ましい。
一方、処理液中のTi含有量は、1.300mol/L以下が好ましく、1.000mol/L以下がより好ましく、0.700mol/L以下が更に好ましく、0.300mol/L以下が特に好ましく、0.150mol/L以下が最も好ましい。
【0036】
処理液の溶媒としては、水が使用される。
処理液のpHは、特に限定されず、例えば、pH2.0〜5.0である。pHの調整には公知の酸成分(例えば、リン酸、硫酸など)、または、アルカリ成分(例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア水など)を使用できる。
処理液には、必要に応じて、ラウリル硫酸ナトリウム、アセチレングリコールなどの界面活性剤が含まれていてもよい。付着挙動の経時的な安定性の観点から、処理液には、ピロリン酸塩などの縮合リン酸塩が含まれていてもよい。
処理液の液温は、20〜80℃が好ましく、40〜60℃がより好ましい。
【0037】
処理液は、更に、伝導助剤を含有していてもよい。
伝導助剤としては、例えば、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウムなどの硫酸塩;硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウムなどの硝酸塩;塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムなどの塩化物塩;等が挙げられる。
処理液中の伝導助剤の含有量は、0.010〜1.000mol/Lが好ましく、0.020〜0.500mol/Lがより好ましい。
【0038】
カソード分極を施す際の電流密度は、0.01A/dm
2以上が好ましく、0.10A/dm
2以上がより好ましく、0.20A/dm
2以上が更に好ましい。
一方、カソード分極を施す際の電流密度は、5.00A/dm
2以下が好ましく、4.00A/dm
2以下がより好ましく、3.00A/dm
2以下が更に好ましい。
通電時間は、所望する酸化チタン層9の厚さを得るために、適宜設定される。
【0039】
アノード分極を施す際の電流密度は、0.01A/dm
2以上が好ましく、0.10A/dm
2以上がより好ましく、0.20A/dm
2以上が更に好ましい。
一方、アノード分極を施す際の電流密度は、5.00A/dm
2以下が好ましく、4.00A/dm
2以下がより好ましく、3.00A/dm
2以下が更に好ましい。
通電時間は、酸化チタン層9の内部等に析出した金属インジウムが酸化する(In→In
3+)ために、適宜設定される。
【0040】
カソード分極および/またはアノード分極の後に、水洗を施してもよい。
水洗の方法は特に限定されず、例えば、カソード分極および/またはアノード分極の後に水に浸漬する方法などが挙げられる。水洗は、例えば、後述する水洗槽において実施される。水洗に用いる水の温度(水温)は、40〜90℃が好ましい。
水洗時間は、0.5秒超が好ましく、1.0〜5.0秒が好ましい。
更に、水洗に代えて、または、水洗の後に、乾燥を行なってもよい。乾燥の際の温度および方式は特に限定されず、例えば、通常のドライヤまたは電気炉を用いた乾燥方式が適用できる。乾燥温度は、100℃以下が好ましい。
【0041】
積層体7を製造する方式としては、バッチ式または連続式が好ましい。
この方式は、例えば、部材8が配置されている透明性基板(ガラス基板、樹脂フィルムなど)の種類や形状に応じて、適宜選択される。
【0042】
例えば、ガラス基板の上に部材8が配置されている場合(すなわち、部材8付きガラス基板を用いる場合)は、バッチ式が好ましい。
この場合、例えば、洗浄処理槽、電解処理槽および水洗槽を用意し、部材8付きガラス基板を、各槽に浸漬させて処理すればよい。
カソード分極およびアノード分極を、1つの電解処理槽で実施してもよく、別れた2つの電解処理槽で実施してもよい。
【0043】
また、例えば、ロール状に巻かれた樹脂フィルムの上に部材8が配置されている場合(すなわち、部材8付き樹脂フィルムを用いる場合)は、生産性の観点から、連続式が好ましい。
この場合、例えば、巻き戻し用テンションリールと巻き取り用テンションリールとの間に、洗浄処理槽、電解処理槽、水洗槽および乾燥装置を配置し、適宜ロールを設けて、部材8付き樹脂フィルムを、連続的に、各槽を通過させる。
カソード分極およびアノード分極を、1つの電解処理槽で実施してもよく、別れた2つの電解処理槽で実施してもよい。後者の場合、2つの電解処理槽の間に、更に、水洗槽を設けてもよい。
【0044】
[有機薄膜太陽電池の製造方法]
上述した積層体7を用いて、光透過性電極層2、電子輸送層3、有機半導体層4、ホール輸送層5および集電極層6をこの順に有する有機薄膜太陽電池1を製造する。
例えば、積層体7における酸化チタン層9の上に、有機半導体層4、ホール輸送層5および集電極層6となる層を順次形成する。
有機半導体層4は、例えば、電子輸送層3となる酸化チタン層9の上に、P3HTおよびPCBMを溶解させた溶液をスピンコートし、乾燥することにより形成する。溶液の溶媒としては、例えば、2,6−ジクロロトルエン、クロロホルム、クロロベンゼン、これら2種以上の混合物などが挙げられる。
ホール輸送層5は、例えば、有機半導体層4の上に、PEDOT/PSSの水分散液をスピンコートし、乾燥することにより形成する。
集電極層6は、例えば、ホール輸送層5の上に、Auなどの金属を蒸着することにより形成する。
各層を形成する方法は、これらの方法に限定されず、従来公知の方法を適宜用いることができる。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0046】
〈光透過性電極層となる部材の準備〉
ガラス基板(30mm×35mm、厚さ0.7mm、無アルカリガラス)の一方の面上にスパッタリングによってITO(Indium Tin Oxide)膜が積層されたITO膜付きガラス基板(シート抵抗値:10Ω/sq、イデアルスター社製)を準備した。ITO膜の厚さは150nmであった。このITO膜付きガラス基板を、光透過性電極層となる部材付き透明性基板として用いた。
【0047】
〈光透過性電極層および電子輸送層となる積層体の作製〉
準備したITO膜付きガラス基板(光透過性電極層となる部材付き透明性基板)を用いて、次のように、光透過性電極層および電子輸送層となる積層体を作製した。
まず、0.040mol/Lの六フッ化チタン酸カリウム(K
2TiF
6)および0.10mol/Lの硫酸カリウム(K
2SO
4)を含有し、水酸化カリウムにてpHを4.0に調整した処理液(以下、単に「処理液」と略記する)を調製した。
次に、準備したITO膜付きガラス基板を、セミクリーンM4(横浜油脂工業社製)をイオン交換水で20倍希釈した洗浄液中に浸漬させて、10分間の超音波洗浄を行なった。その後、ITO膜付きガラス基板を、洗浄液から取り出し、イオン交換水に浸漬させて、10分間の超音波洗浄を行なった。
洗浄したITO膜付きガラス基板を、調製した処理液(液温:50℃)に浸漬させた。処理液中で、ITO膜付きガラス基板を、下記表1に示す条件で、カソード分極し、次いで、アノード分極した。その後、25℃の水槽に2.0秒浸漬させて水洗した後、ブロアを用いて室温で乾燥した。これにより、ITO膜付きガラス基板のITO膜上に、電子輸送層となる酸化チタン層を形成した。こうして、酸化チタン層を形成したITO膜付きガラス基板(光透過性電極層および電子輸送層となる積層体)を作製した。
【0048】
〈比較用積層体の作製〉
まず、2−メトキシエタノール12.5mL中に、6.25mmolのチタニウムテトライソプロポキシドを添加し、氷浴中で10分間冷却した。次に、12.5mmolのアセチルアセトンを加えて、氷浴中で10分間撹拌し、混合溶液を得た。得られた混合溶液を、80℃で2時間加熱し、その後、1時間還流した。最後に、混合溶液を、室温まで冷却し、酸化チタン前駆体溶液を得た。各工程の雰囲気は、全て窒素雰囲気とした。
次に、洗浄したITO膜付きガラス基板のITO膜上に、酸化チタン前駆体溶液を、回転速度2000rpm、回転時間60秒の条件で、スピンコートして、塗膜を形成した。その後、空気中に放置して、塗膜中の酸化チタン前駆体を加水分解させた。次に、150℃で1時間の加熱処理をして、厚さ30nmの酸化チタン層を得た。
このようにして作製した積層体(比較用積層体)は、後述するNo.9に用いた。
【0049】
〈酸化チタン層の厚さおよび原子比〉
上述した方法に従って、酸化チタン層の厚さ、原子比(InOx/Ti)、および、原子比(InM/Ti)を求めた。結果を下記表1に示す。
【0050】
〈積層体の可視光透過率>
作製した積層体の可視光透過率(単位:%)を、下記条件にて測定した。結果を下記表1に示す。可視光透過率の値が大きいほど、透過性に優れると評価できる。
・測定装置:分光色彩計SD7000(日本電色工業社製)
・測定領域:5mmφ
・測定波長:600nm
【0051】
〈有機薄膜太陽電池の作製〉
作製した積層体を用いて、以下のようにして、4mm×25mm、すなわち1.0cm
2の光電変換面積を有する有機薄膜太陽電池を作製した。
【0052】
《有機半導体層の形成》
2,6−ジクロロトルエンとクロロホルムとを、体積比1:1で混合して、混合溶液を得た。この混合溶液に、P3HT(Aldrich社製)とPCBM(フロンティアカーボン社製)とを、質量比5:4で、合計濃度が3.9質量%となるように、溶解させた。
酸化チタン層の上に、上記混合溶液を、1500rpm、60秒の条件でスピンコートし、室温にて約10分間乾燥して、厚さ250nmの有機半導体層を形成した。
【0053】
《ホール輸送層の形成》
ポリオキシエチレントリデシルエーテル(C
13H
27(OCH
2CH
2)
6OH)を1質量%およびキシレンを1質量%含有し、水およびイソプロパノールを溶媒とする非イオン性界面活性剤(Aldrich社製)を用意した。1.3質量%PEDOT/PSS水分散液(Aldrich社製)100質量部に対して、この非イオン性界面活性剤を0.5質量部混合して、PTE含有PEDOT/PSS水分散液を調製した。
PTE含有PEDOT/PSS水分散液を、50〜90℃に加温し、これを有機半導体層の上に、6000rpm、60秒の条件でスピンコートし、室温にて自然乾燥して、厚さ80nmのホール輸送層を形成した。
【0054】
《集電極層の形成》
ホール輸送層の上に、Au電極層(集電極層)を、厚さ約100nmになるように真空蒸着した。
より詳細には、4mm×25mmの電極形状に対応するシャドウマスクおよびホール輸送層までが形成されたガラス基板を、チャンバー内に設置した。ロータリーポンプおよびターボ分子ポンプを用いてチャンバー内を減圧とし、チャンバー内圧力を2×10
−3Pa以下にした。このチャンバー内で金線を抵抗加熱し、シャドウマスクを介して、ホール輸送層の上に金を100nm成膜した。成膜速度は10〜15nm/minとし、成膜時の圧力は1×10
−2Pa以下であった。
【0055】
このようにして得られた、一方の面上にITO膜(光透過性電極層)、酸化チタン層(電子輸送層)、有機半導体層、ホール輸送層および集電極層が形成されたガラス基板を、150℃で5分間加熱し、更に70℃で1時間保持した。その後、大気中封止を施した。こうして、有機薄膜太陽電池を作製した。
【0056】
〈有機薄膜太陽電池の評価(出力特性)〉
作製した有機薄膜太陽電池に対して、次の評価を行なった。
太陽擬似光源装置(SAN−EI Electric社製、XES−502S)を用いて、AM1.5G(IEC規格 60904−3)のスペクトル分布を有し、100mW/cm
2の光強度を有する擬似太陽光を、有機薄膜太陽電池に対して、ITO膜側から照射した。この状態で、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)測定装置(Hokuto Denko社製、HZ−5000)を用いて、有機薄膜太陽電池の光電流−電圧プロフィールを測定した。得られたプロフィールから最大出力を求め、以下の基準にて評価した。結果を下記表1に示す。最大出力の値が大きいほど出力特性に優れると評価できる。
A:最大出力 2.40mW/cm
2以上
B:最大出力 1.70mW/cm
2以上2.40mW/cm
2未満
C:最大出力 1.70mW/cm
2未満
【0057】
【表1】
【0058】
〈評価結果まとめ〉
上記表1に示すように、原子比(InOx/Ti)が0.50以上20.00以下であるNo.1〜No.7は、これを満たさないNo.9よりも、出力特性が良好であった。
No.1〜No.7を対比すると、No.2〜No.5およびNo.7よりも原子比(InOx/Ti)の値が大きいNo.1およびNo.6は、出力特性が更に優れていた。
【0059】
また、原子比(InM/Ti)が0.100未満であるNo.1〜No.7は、これを満たさないNo.8よりも、可視光透過率の値が大きく、透過性が良好であった。
【0060】
したがって、No.1〜No.7は、出力特性および透過性が共に良好であった。