【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0042】
<実験例1>
実験例1では、澱粉分解物の具体的な糖組成が、香気成分の揮発、放散にどのように影響するかを検討した。
【0043】
(1)試験方法
[枝作り酵素]
本実験例では、枝作り酵素の一例として、WO00/58445の方法に則って、精製したRhodothermus obamensis由来の酵素(以下「枝作り酵素」とする)を用いた。
【0044】
なお、枝作り酵素の活性測定は、以下の方法で行った。
基質溶液として、0.1M酢酸 緩衝液(pH5.2)にアミロース(Sigma社製,A0512)を0.1質量%溶解したアミロース溶液を用いた。
50μLの基質液に50μLの酵素液を添加し、30℃で30分間反応させた後、ヨウ素-ヨウ化カリウム溶液(0.39mMヨウ素−6mMヨウ化カリウム−3.8mM塩酸混合用液)を2mL加え反応を停止させた。ブランク溶液として、酵素液の代わりに水を添加したものを調製した。反応停止から15分後に660nmの吸光度を測定した。枝作り酵素の酵素活性量1単位は、上記の条件で試験する時、660nmの吸光度を1分間に1%低下させる酵素活性量とした。
【0045】
[DE]
「澱粉糖関連工業分析法」(澱粉糖技術部会編)のレインエイノン法に従って算出した。
【0046】
[澱粉分解物の分子量14000〜80000の画分の含有量]
下記の表1に示す条件で、ゲルろ過クロマトグラフィーにて分析を行った。分子量スタンダードとして、ShodexスタンダードGFC(水系GPC)カラム用Standard P-82(昭和電工株式会社製)を使用し、分子量スタンダードの溶出時間と分子量の相関から算出される検量線に基づいて、澱粉分解物中の分子量14000〜80000の画分の含有量を算出した。
【0047】
【表1】
【0048】
[澱粉分解物中のDP8〜9である分岐鎖又はDP3〜7である分岐鎖の含有量]
a.未処理の澱粉分解物中のDP8〜9又はDP3〜7である糖鎖の含有量の測定
Brix1%に調整した澱粉分解物溶液について、下記表2に示す条件で液体クロマトグラフィーにて分析を行い、保持時間に基づいて、DP8〜9又はDP3〜7の含量を測定した。
【0049】
【表2】
【0050】
b.分岐鎖が切られた状態の澱粉分解物の枝切り酵素処理物中のDP8〜9又はDP3〜7である糖鎖の含有量の測定
Brix5%に調整した澱粉分解物溶液200μLに、1M酢酸緩衝液(pH5.0)を2μL、イソアミラーゼ(Pseudomonas sp.由来、Megazyme製)を固形分(g)当たり125ユニット、プルラナーゼ(Klebsiella planticola由来、Megazyme製)を固形分(g)当たり800ユニット添加し、水で全量400μLになるように調整した。これを40℃で24時間酵素反応させた後、煮沸により反応を停止した。これに600μLの水を加え、12000rpmにて5分間遠心分離を行った。上清900μLを脱塩、フィルター処理後、表2に示す条件で液体クロマトグラフィーにて分析を行い、保持時間に基づいて、DP8〜9又はDP3〜7の含量を測定した。
【0051】
c.澱粉分解物中のDP8〜9又はDP3〜7である分岐鎖の含有量の算出
前記bで求めたDP8〜9の含量から、前記aで求めたDP8〜9の含量を引くことにより、澱粉分解物中のDP8〜9である分岐鎖の含有量を算出した。同様に、前記bで求めたDP3〜7の含量から、前記aで求めたDP3〜7の含量を引くことにより、澱粉分解物中のDP3〜7である分岐鎖の含有量を算出した。
【0052】
[評価方法]
A.香気成分の残存率(%)
前記表1に示す条件で、ゲルろ過クロマトグラフィーにて分析を行った。
【0053】
(a)噴霧乾燥後の香気成分の残存率(%)
実施例1〜4、6、7又は比較例1〜7については、水550gに、澱粉分解物400gを50℃で加温しながら添加溶解した。常温まで冷却後、香気成分の一例として酢酸エチル50gを添加し、均一に混合し、スプレードライヤーにて噴霧乾燥した。
実施例5については、水150gに、澱粉分解物800gを常温で添加溶解した。香気成分の一例として酢酸エチル50gを添加し、均一に混合し、スプレードライヤーにて噴霧乾燥した。
前記で噴霧乾燥した各試料1gを、水19gに溶解させ、前記表1に示す条件のゲルろ過クロマトグラフィー分析を行った。噴霧乾燥前の酢酸エチルのピーク面積を100%と設定したとき、噴霧乾燥後の試料における当該ピーク面積の比率を、残存率として算出した。
【0054】
(b)保存試験における香気成分の残存率(%)
実施例1〜4、6、7又は比較例1〜7については、水390gに、澱粉分解物100gを50℃で加温しながら添加溶解した。常温まで冷却後、香気成分の一例として酢酸エチル10gを添加し、均一に混合した。
実施例5については、水290gに、澱粉分解物200gを常温で添加溶解した。香気成分の一例として酢酸エチル10gを添加し、均一に混合した。
前記で調製した各混合溶液を蓋のない試験管に20mL分注し、25℃の恒温器に入れ、6時間保存した。香気成分の残存率の測定方法は、上記(a)と同様に行い、保存前の試料における酢酸エチルのピーク面積を100%と設定したとき、6時間保存後の試料における当該ピーク面積の比率を、残存率として算出した。
【0055】
B.澱粉臭による香味への影響評価
水に実施例又は比較例の澱粉分解物を加えて、澱粉分解物の固形分が10質量%になるよう1000gの水溶液を調製し、市販のペパーミントエッセンスを1g溶解した。この溶液を摂取し、下記の評価基準に基づいて、澱粉臭による香味への影響を評価した。評価は、10名の専門パネルの平均点とした。
5:澱粉臭が感じられず、香味への影響はない
4:ほぼ澱粉臭が感じられず、香味への影響はほぼない
3:やや澱粉臭は感じられるが、許容範囲
2:澱粉臭があり、香味への影響がある
1:澱粉臭が強く、香味への悪影響がある
【0056】
(2)実施例・比較例の製法
[実施例1]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(ターマミルSC、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE12になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり600ユニット添加し、65℃で40時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例1の澱粉分解物を得た。
【0057】
[実施例2]
10%塩酸にてpH2.5に調整した30質量%のコーンスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE5まで分解した。常圧に戻した後、10質量%消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、αアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、95℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが9になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり1100ユニット添加し、65℃で40時間反応させた。更にαアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、80℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが15になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度60質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例2の澱粉分解物を得た。
【0058】
[実施例3]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した20質量%のワキシーコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE6になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり500ユニット添加し、65℃で20時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度40質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例3の澱粉分解物を得た。
【0059】
[実施例4]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE7になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり500ユニット添加し、65℃で50時間反応させた。更にαアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、80℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが10になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例4の澱粉分解物を得た。
【0060】
[実施例5]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE6になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり700ユニット添加し、65℃で30時間反応させた。更にαアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、80℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが8になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製、固形分濃度50質量%に濃縮して、実施例5の澱粉分解物を得た。
【0061】
[実施例6]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE8になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり500ユニット添加し、65℃で50時間反応させた。更にαアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、80℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが11になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例6の澱粉分解物を得た。
【0062】
[実施例7]
10%塩酸にてpH2.5に調整した30質量%のコーンスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE4まで分解した。常圧に戻した後、10質量%消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、95℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが8になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり500ユニット添加し、65℃で45時間反応させた。更にαアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、80℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが9になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例7の澱粉分解物を得た。
【0063】
[比較例1]
パインデックス#1(松谷化学工業株式会社製)を使用した。
【0064】
[比較例2]
パインデックス#2(松谷化学工業株式会社製)を使用した。
【0065】
[比較例3]
BLD−8(参松工業株式会社製)を使用した。
【0066】
[比較例4]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(ターマミルSC、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE17になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度60質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、比較例4の澱粉分解物を得た。
【0067】
[比較例5]
クラスターデキストリン(江崎グリコ株式会社製)を使用した。
【0068】
[比較例6]
10%塩酸にてpH2.5に調整した30質量%のタピオカスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE3まで分解した。常圧に戻した後、10質量%消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、αアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、95℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが14になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり700ユニット添加し、65℃で40時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、比較例6の澱粉分解物を得た。
【0069】
[比較例7]
実施例7の澱粉分解物を30質量%に調整し、pHを6.0に調整した後、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、80℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが19になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度60質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、比較例7の澱粉分解物を得た。
【0070】
(3)測定
前記で得られた実施例1〜7及び比較例1〜7について、それぞれ、澱粉分解物中のDE、DP8〜9である分岐鎖の含有量、分子量14000〜80000の画分の含有量を、前述した方法で測定した。また、香気成分の残存率(%)として酢酸エチルの残存率を、前述した方法で評価した。結果を下記の表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
表3に示す通り、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%以上、かつ、分子量14000〜80000の画分の含有量が31〜60質量%の実施例1〜7は、比較例1〜7に比べて、酢酸エチル残存率が高かった。即ち、本発明に係る香気成分保持剤を用いれば、従来からの澱粉分解物を用いる場合に比べて、高い香気成分保持効果を発揮することが分かった。また、澱粉臭による香味への影響評価については、比較例7のみ良好な結果であったが、他の比較例1〜6に比べれば、実施例1〜7は、良好な結果であった。
【0073】
一方、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%未満、かつ、分子量14000〜80000の画分の含有量が31質量%未満の比較例2、4及び6については、酢酸エチル残存率及び澱粉臭による香味への影響の評価において、実施例1〜7に比べて非常に劣る結果であった。また、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%であっても分子量14000〜80000の画分の含有量が31質量%未満の比較例7については、酢酸エチル残存率の値が、実施例1〜7に比べて非常に低い結果であった。また、分子量14000〜80000の画分の含有量は31〜60質量%の範囲内であっても、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%未満である比較例1及び5については、噴霧乾燥試験における酢酸エチル残存率については、実施例1〜7に比べて若干の低値に留まったが、溶液試験における酢酸エチル残存率及び澱粉臭による香味への影響評価については、実施例1〜7に比べて非常に劣る結果であった。
【0074】
更に、比較例3は、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%以上であり、分子量14000〜80000の画分の含有量が29.6質量%と、本発明の範囲より少し少ない例であるが、DP3〜7の分岐鎖の含有量が15質量%を超えるために、噴霧乾燥試験における酢酸エチル残存率については、実施例1〜7に比べて若干の低値に留まったが、溶液試験における酢酸エチル残存率及び澱粉臭による香味への影響評価については、実施例1〜7に比べて非常に劣る結果であった。
【0075】
実施例内で比較すると、分子量14000〜80000の画分の含有量がほぼ同等の実施例4及び6においては、DP8〜9の分岐鎖の含有量が8質量%以上の実施例6の方が、酢酸エチル残存率及び澱粉臭による香味への影響評価において、良好な結果であった。また、DP8〜9の分岐鎖の含有量がほぼ同等の実施例2及び5においては、分子量14000〜80000の画分の含有量が35質量%以上の実施例5の方が、酢酸エチル残存率及び澱粉臭による香味への影響評価において、良好な結果であった。
【0076】
なお、一例として、実施例7の澱粉分解物、及び、実施例7の澱粉分解物を前記「b.分岐鎖が切られた状態の澱粉分解物の枝切り酵素処理物中のDP8〜9又はDP3〜7である糖鎖の含有量の測定」における方法で枝切り酵素処理した酵素処理物について、前記表1に示す条件のゲルろ過クロマトグラフィーにて分析したチャートを
図1に示す。分子量スタンダードの溶出時間に基づいて算出した、分子量14000〜80000の画分の溶出時間は、約16〜19分である。
図1に示す通り、澱粉分解物の分子量14000〜80000の画分は、枝切り酵素処理を行うことで、低分子画分へ移行していることが分かった。この結果から、澱粉分解物の分子量14000〜80000の画分に、DP8〜9の分岐鎖を有する分岐糖鎖が含まれていることが確認できた。
【0077】
<実験例2>
実験例2では、前記実験例1で製造した澱粉分解物を、実際の飲食品に適用した場合の香気成分保持効果について、官能評価を行った。
【0078】
[評価方法]
実施例または比較例の澱粉分解物を利用した飲食品を摂取した時に、鼻に抜ける香味の強さについて、下記の評価基準に基づいて評価を行った。評価は、10名の専門パネルの平均点とした。
5:目的の香気成分が強く感じられる
4:目的の香気成分がやや強く感じられる
3:目的の香気成分が感じられる
2:目的の香気成分があまり感じられない
1:目的の香気成分が感じられない
【0079】
(1)試験例1:粉末紅茶
A.粉末紅茶の製造
沸騰させた湯1000gに市販の紅茶葉30gを添加し、3分間抽出した後、No.5Cのろ紙でろ過した。この紅茶抽出液に、実施例3、4、7又は比較例1、4の澱粉分解物100gを添加溶解した後、スプレードライヤーにて噴霧乾燥し、粉末紅茶を得た。
【0080】
B.評価
前記で製造した粉末紅茶6gに、80℃の湯200gを添加して溶解させたものについて、摂取したときに感じる紅茶の香気成分の保持状況を見るために、10名のパネルで官能評価を行った。
【0081】
C.結果
結果を下記表4に示す。
【表4】
【0082】
表4に示す通り、比較例1、4を用いた粉末紅茶に比べ、実施例3、4、7を用いた粉末紅茶の方が、紅茶の香気成分の強度を強く感じ、官能評価が良好であった。
【0083】
(2)試験例2:粉末椎茸出汁
A.粉末椎茸出汁の製造
水1000gに干し椎茸60gを浸し、4℃の恒温器で15時間静置して、抽出した。この椎茸出汁をNo.5Cのろ紙でろ過し、実施例2、6又は比較例3、5、6の澱粉分解物を200g添加溶解した。これを、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、粉末椎茸出汁を得た。
【0084】
B.評価
前記で製造した粉末椎茸出汁10gに、90℃の湯90gを添加して溶解させたものについて、摂取したときに感じる椎茸出汁の香気成分の保持状況を見るために、10名のパネルで官能評価を行った。
【0085】
C.結果
結果を下記表5に示す。
【表5】
【0086】
表5に示す通り、比較例3、5、6を用いた粉末椎茸出汁に比べ、実施例2、6を用いた粉末椎茸出汁の方が、椎茸出汁の香気成分の強度を強く感じ、官能評価が良好であった。
【0087】
(3)試験例3:果汁入りアルコール飲料
A.果汁入りアルコール飲料の製造
実施例1、7又は比較例2、7については、水650gに、澱粉分解物70g、果糖ブドウ糖液糖150g、オレンジ6倍濃縮果汁80g、クエン酸1g、アルコール度数25%の甲類焼酎200gを添加溶解した。これを加熱し、93℃に達温後、ホット充填して果汁入りアルコール飲料を製造した。
実施例5については、水580gに、澱粉分解物140g、果糖ブドウ糖液糖150g、オレンジ6倍濃縮果汁80g、クエン酸1g、アルコール度数25%の甲類焼酎200gを添加溶解した。これを加熱し、93℃に達温後、ホット充填して果汁入りアルコール飲料を製造した。
【0088】
B.評価
前記で製造したアルコール飲料をガラス容器に分注し、開放系にて25℃の恒温器に入れ、12時間保存した後、摂取したときに感じるオレンジの香気成分の保持状況を見るために、10名のパネルで官能評価を行った。
【0089】
C.結果
結果を下記表6に示す。
【表6】
【0090】
表6に示す通り、比較例2、7を用いた果汁入りアルコール飲料に比べ、実施例1、5、7を用いた果汁入りアルコール飲料の方が、オレンジの香気成分の強度を強く感じ、官能評価が良好であった。
【0091】
(4)試験例4:リンゴ酢ドリンク
A.リンゴ酢ドリンクの製造
水160gに、市販のリンゴ酢20g、砂糖10g、実施例4、7又は比較例1、5の澱粉分解物10g添加溶解した。これを加熱し、93℃に達温後、ホット充填してリンゴ酢ドリンクを製造した。
【0092】
B.評価
前記で製造したリンゴ酢ドリンクをガラス容器に分注し、開放系にて25℃の恒温器に入れ、18時間保存した後、摂取したときに感じるリンゴ酢の香気成分の保持状況を見るために、10名のパネルで官能評価を行った。
【0093】
C.結果
結果を下記表7に示す。
【表7】
【0094】
表7に示す通り、比較例1、5を用いたリンゴ酢ドリンクに比べ、実施例4、7を用いたリンゴ酢ドリンクの方が、リンゴ酢の香気成分の強度を強く感じ、官能評価が良好であった。