特許第6906346号(P6906346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 昭和産業株式会社の特許一覧

特許6906346香気成分保持剤及び飲食品の香気成分保持方法
<>
  • 特許6906346-香気成分保持剤及び飲食品の香気成分保持方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906346
(24)【登録日】2021年7月1日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】香気成分保持剤及び飲食品の香気成分保持方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20210708BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20210708BHJP
   C08B 30/12 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
   A23L27/00 Z
   A23L27/00 A
   A23L27/10 C
   C08B30/12
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-77297(P2017-77297)
(22)【出願日】2017年4月10日
(65)【公開番号】特開2018-174765(P2018-174765A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】樋口 政泰
(72)【発明者】
【氏名】寺田 敦
【審査官】 飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−289823(JP,A)
【文献】 特開2005−272747(JP,A)
【文献】 特開2009−124994(JP,A)
【文献】 特開2014−080518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
C08B 30/00
A23L 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)及び(2)を満たす主鎖と分岐鎖とからなる分岐糖質を含む澱粉分解物を有効成分とし、
該澱粉分解物は、酸又はαアミラーゼで液化された澱粉原料を、α−1,4−グルコシド結合を切断してα−1,6−グルコシド結合による枝分かれを形成させる枝作り酵素により処理することで得られる、香気成分保持剤。
(1)7≦x;但し、xは、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖の澱粉分解物中の含有量(質量%)である。
(2)31≦y≦60;但し、yは、分子量が14000〜80000である画分の澱粉分解物中の含有量(質量%)である。
【請求項2】
前記xが、下記(1’)を満たす請求項1に記載の香気成分保持剤。
(1’)8≦x
【請求項3】
前記yが、下記(2’)を満たす請求項1又は2に記載の香気成分保持剤。
(2’)35≦y≦60
【請求項4】
前記澱粉分解物の分子量が14000〜80000である画分に、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖を有する分岐糖質の少なくとも一部が含まれる請求項1から3のいずれか一項に記載の香気成分保持剤。
【請求項5】
飲食品中の香気成分を保持する方法であって、
下記(1)及び(2)を満たす主鎖と分岐鎖とからなる澱粉分解物であって、酸又はαアミラーゼで液化された澱粉原料を、α−1,4−グルコシド結合を切断してα−1,6−グルコシド結合による枝分かれを形成させる枝作り酵素により処理することで得られる澱粉分解物を、前記飲食品に添加する工程を含む、飲食品の香気成分保持方法。
(1)7≦x;但し、xは、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖の澱粉分解物中の含有量(質量%)である。
(2)31≦y≦60;但し、yは、分子量が14000〜80000である画分の澱粉分解物中の含有量(質量%)である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香気成分保持剤に関する。より詳しくは、所定の特性を満たす澱粉分解物を有効成分とする香気成分保持剤及び飲食品の香気成分保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品分野において、食品の風味を向上させるニーズは、幅広く存在する。例えば、食品の風味を向上させるために、粉末香料等が用いられている。粉末香料は、製造工程において、水分を除去するために噴霧乾燥等の手法が一般的に用いられているが、この乾燥工程において、香気成分の揮発が避けられず、力価の低下の課題があった。
【0003】
従来から、粉末香料の基材として、デキストリン等の澱粉分解物が広く利用されている。例えば、特許文献1には、粉末状又は顆粒状の香料の基材に、デキストリン、乳糖、トレハロース、マルトース、セロビオース、サイクロデキストリン、澱粉、加工澱粉、アラビアガム、澱粉分解物、還元澱粉糖化物、粒子状リン酸三カルシウムおよび粒子状二酸化ケイ素等を用いる技術が開示されている。
【0004】
デキストリンの一種である高度分岐環状デキストリンは、香気成分の保持する効果が知られている。例えば、特許文献2では、香料成分又は香料成分を含む混合物100重量物に対して、高分岐環状デキストリンを10〜10,000重量部、かつ賦型剤10〜10,000重量部を配合することにより、含有する香気成分の種類に関わらず乾燥前と殆ど変わらない力価と香気バランスをもつ優れた粉末香料を製造できる技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献3では、新規な環状澱粉(高分岐環状デキストリン)を所定量配合し乾燥することにより、本来の風味に著しい変化をきたしたり、溶解性を低下させたりすることなく粉末調味料の吸湿性を改善する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−37537号公報
【特許文献2】特開2004−67962号公報
【特許文献3】特開2003−47430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の通り、粉末香料の基材として、デキストリン等の澱粉分解物が広く利用されているが、既存のデキストリンでは、香気成分の揮発、放散を十分に防止できるものが存在しないのが実情である。また、香気成分を保持する効果が知られている高度分岐環状デキストリンは、粘度が高く、原料の溶解が困難であるため、噴霧乾燥時の原液濃度を薄くする必要があり、噴霧乾燥効率が悪い等、製造工程におけるハンドリング面での課題が存在する。
【0008】
また、香気成分を含有する飲食品において、特に、形態が溶液である飲食品においては、その香気成分を保持する技術は、まだまだ開発の途であり、更なる開発が望まれている。
【0009】
そこで、本発明では、香気成分を含有する飲食品の製造時や保存時において、香気成分を保持する技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、香気成分を含有する飲食品の製造時や保存時における香気成分の揮発、放散を抑制する技術について鋭意研究を行った結果、特定の構造を有する澱粉分解物を用いることにより、製造時や保存時における香気成分の揮発、放散を優位に抑制できることを突き止め、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明では、下記(1)及び(2)を満たす主鎖と分岐鎖とからなる分岐糖質を含む澱粉分解物を有効成分とする香気成分保持剤を提供する。
(1)7≦x;但し、xは、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖の澱粉分解物中の含有量(質量%)である。
(2)31≦y≦60;但し、yは、分子量が14000〜80000である画分の澱粉分解物中の含有量(質量%)である。
本発明に係る香気成分保持剤において、前記xは、下記(1’)を満たしていてもよい。
(1’)8≦x
本発明に係る香気成分保持剤において、前記yは、下記(2’)を満たしていてもよい。
(2’)35≦y≦60
本発明に係る香気成分保持剤に用いる前記澱粉分解物において、分子量が14000〜80000である画分には、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖を有する分岐糖質の少なくとも一部が含まれていてもよい。
【0012】
本発明では、また、飲食品中の香気成分を保持する方法であって、
下記(1)及び(2)を満たす主鎖と分岐鎖とからなる分岐糖質を含む澱粉分解物を、前記食品に添加する工程を含む、飲食品の香気成分保持方法を提供する。
(1)7≦x;但し、xは、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖の澱粉分解物中の含有量(質量%)である。
(2)31≦y≦60;但し、yは、分子量が14000〜80000である画分の澱粉分解物中の含有量(質量%)である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、食品に分類される澱粉分解物を用いて、香気成分を含有する飲食品の製造時や保存時における香気成分の揮発、放散を優位に防止して、飲食品中の香気成分を保持することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例7の澱粉分解物、及び、実施例7の澱粉分解物を後述する「b.分岐鎖が切られた状態の澱粉分解物の枝切り酵素処理物中のDP8〜9又はDP3〜7である糖鎖の含有量の測定」における方法で枝切り酵素処理した酵素処理物について、表1に示す条件のゲルろ過クロマトグラフィーにて分析したチャートを示す図面代用グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0016】
<澱粉分解物>
まず、本発明に用いる澱粉分解物について説明する。本発明に係る香気成分保持剤は、以下に説明する澱粉分解物を有効成分とする。また、本発明に係る飲食品の香気成分保持方法は、以下に説明する澱粉分解物を、前記飲食品に添加する工程を含む方法である。
【0017】
以下に説明する澱粉分解物を、香気成分を含有する飲食品に用いることで、飲食品の製造時や保存時における香気成分の揮発、放散を優位に防止して、飲食品中の香気成分を保持することが可能である。また、以下に説明する澱粉分解物は、従来の澱粉分解物に比べて、所謂、澱粉臭が低減されているため、これを、香気成分を有する飲食品に用いた場合に、香気成分から発せられる香味への影響がほとんどない。
【0018】
本発明で用いる澱粉分解物は、主鎖と分岐鎖とからなる分岐糖質を含む。そして、この澱粉分解物中のグルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖の含有量(質量%)xが、下記(1)を満たすことを特徴とする。
(1)7≦x
【0019】
なお、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖の澱粉分解物中の含有量(質量%)xは、澱粉分解物中に含まれるDP8〜9である糖鎖の含有量と、澱粉分解物をイソアミラーゼやプルラナーゼ等の枝切り酵素で処理することにより分岐鎖が切られた状態の、澱粉分解物の枝切り酵素処理物中のDP8〜9である糖鎖の含有量とを測定し、枝切り酵素処理によって増加したDP8〜9である糖鎖の量を算出することにより求めることができる。
【0020】
また、本発明で用いる澱粉分解物は、分子量が14000〜80000である画分の含有量(質量%)yが、下記(2)を満たすことを特徴とする。
(2)31≦y≦60
【0021】
本発明で用いる澱粉分解物は、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖の澱粉分解物中の含有量(質量%)xと、分子量が14000〜80000である画分の澱粉分解物中の含有量(質量%)yとが、前記(1)及び(2)の両方を満たすことを特徴とする。後述する実施例で示す通り、これらの2つの条件を同時に満たすことで、飲食品の製造時や保存時における香気成分の揮発、放散を優位に防止して、飲食品中の香気成分を保持することが可能である。
【0022】
本発明で用いる澱粉分解物は、前記(1)及び(2)を満たしていれば、飲食品の製造時や保存時における香気成分の揮発、放散を防止することができるが、前記xは、下記(1’)を満たすことが好ましい。前記xが、下記(1’)を満たすと、香気成分保持効果を更に向上させることができる。
(1’)8≦x
【0023】
また、前記yは、下記(2’)を満たすことが好ましい。前記yが、下記(2’)を満たすと、飲食品の製造時や保存時における香気成分保持効果を更に向上させることができる。
(2’)35≦y≦60
【0024】
本発明で用いる澱粉分解物において、分子量が14000〜80000である画分には、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖を有する分岐糖質の少なくとも一部が含まれていてもよい。即ち、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖を有する分岐糖質の一部又は全部が、分子量が14000〜80000である画分に含まれていてもよく、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖を有する分岐糖質の一部が、分子量が14000〜80000である画分以外の画分に含まれていてもよい。
【0025】
更に、本発明に用いる澱粉分解物において、グルコース重合度(DP)が3〜7である分岐鎖の澱粉分解物中の含有量(質量%)zは、下記(3)を満たすことが好ましい。
(3)z≦15
【0026】
グルコース重合度(DP)が3〜7である分岐鎖の澱粉分解物中の含有量(質量%)を15質量%以下とすることにより、飲食品の製造時や保存時における香気成分保持効果を更に向上させることができる。
【0027】
なお、グルコース重合度(DP)が3〜7である分岐鎖の澱粉分解物中の含有量(質量%)zは、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖の澱粉分解物中の含有量(質量%)xと同様に、澱粉分解物中に含まれるDP3〜7である糖鎖の含有量と、澱粉分解物をイソアミラーゼやプルラナーゼ等の枝切り酵素で処理することにより分岐鎖が切られた状態の、澱粉分解物の枝切り酵素処理物中のDP3〜7である糖鎖の含有量とを測定し、枝切り酵素処理によって増加したDP3〜7である糖鎖の量を算出することにより求めることができる。
【0028】
<澱粉分解物の製造方法>
本発明で用いる澱粉分解物は、その組成自体が新規であって、その収得の方法については特に限定されることはない。例えば、澱粉原料を、一般的な酸や酵素を用いた処理や、各種クロマトグラフィー、膜分離、エタノール沈殿等の所定操作を適宜、組み合わせて行うことによって得ることができる。
【0029】
本発明で用いる澱粉分解物を得るために原料となり得る澱粉原料としては、公知の澱粉分解物の原料となり得る澱粉原料を1種又は2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、コーンスターチ、米澱粉、小麦澱粉等の澱粉(地上系澱粉)、馬鈴薯、キャッサバ、甘藷等のような地下茎又は根由来の澱粉(地下系澱粉)を挙げることができる。
【0030】
本発明で用いる澱粉分解物を効率的に得る方法として、澱粉原料を、酸又はαアミラーゼを用いて液化した後、枝作り酵素を作用させる方法がある。酸を用いて液化する場合、本発明で用いる澱粉分解物の製造に用いることができる酸の種類は特に限定されず、澱粉の酸液化が可能な酸であれば、公知の酸を1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。例えば、塩酸、シュウ酸等を用いることができる。
【0031】
また、澱粉原料の酸液化の前後や、枝作り酵素を作用させる前後に、他の分解酵素(例えば、αアミラーゼ等)による処理を自由に組み合わせることも可能である。例えば、澱粉原料を、酸を用いて液化した後、枝作り酵素を作用させ、更に、他の分解酵素(例えば、αアミラーゼ等)による処理を行う方法を採用することも可能である。このように、酸液化、枝作り酵素による作用の後に、分解酵素を作用させることで、澱粉分解物の分解度を所望の範囲に調整することが容易になる。
【0032】
また、本発明で用いる澱粉分解物は、澱粉原料の酸液化を行わず、澱粉原料をαアミラーゼ等の分解酵素を用いて液化し、次いで、枝作り酵素を用いた処理を行った後、更に、αアミラーゼ等の分解酵素を用いて分解することによっても、製造することができる。
【0033】
ここで、枝作り酵素(branching enzyme)とは、α−1,4−グルコシド結合でつながった直鎖グルカンに作用して、α−1,4−グルコシド結合を切断してα−1,6−グルコシド結合による枝分かれを形成させる働きを持った酵素の総称である。本発明で用いる澱粉分解物の製造で枝作り酵素を用いる場合、その種類は特に限定されず、公知の枝作り酵素を1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。例えば、動物や細菌等から精製したもの、又は、馬鈴薯、イネ種実、トウモロコシ種実等の植物から精製したもの等を用いることができる。
【0034】
以上のように、本発明で用いる澱粉分解物を製造する方法は特に限定されないが、澱粉原料を酸又は酵素で液化した後、枝作り酵素処理を行う方法が好ましい。この方法を用いれば、グルコース重合度(DP)8〜9の分岐鎖の含有量を所望の範囲に調整しやすいため、本発明で用いる澱粉分解物を安価にかつ、工業的に製造する場合に好適である。更に、澱粉原料の液化の前後や、枝作り酵素を作用させる前後に、αアミラーゼ処理を行う方法が好ましい。この方法を用いれば、澱粉分解物の分解度を所望の範囲に調整することが容易になる。
【0035】
また、本発明では、目的の澱粉分解物となるように各種処理を行った後に、活性炭脱色、イオン精製等を行い、不純物を除去することも可能であり、不純物を除去することが好ましい。
【0036】
更に、固形分30〜80%に濃縮して液体状にすることや、真空乾燥や噴霧乾燥により脱水乾燥することで粉末化した状態で香気成分保持剤として用いることも可能である。
【0037】
<香気成分保持剤>
本発明に係る香気成分保持剤は、前述した澱粉分解物を有効成分とすることを特徴とする。また、本発明に係る香気成分保持剤は、澱粉分解物特有の不快な風味が少なく、香気成分を含有する飲食品の製造時や保存時において、香気成分を十分に保持することができるため、食品分野や医療分野等、様々な分野において、利用することが可能である。
【0038】
本発明に係る香気成分保持剤は、有効成分として前述した澱粉分解物を含んでいれば、前述した澱粉分解物のみで構成されていてもよいし、本発明の効果を損なわない限り、他の成分を1種又は2種以上、自由に選択して含有させることもできる。他の成分としては、例えば、通常製剤化に用いられている賦形剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤等の成分を用いることができる。更に、公知の又は将来的に見出される機能を有する成分を、適宜目的に応じて併用することも可能である。前述した澱粉分解物は、食品に分類されるため、当該澱粉分解物以外の成分の選択次第では、本発明に係る香気成分保持剤を食品として取り扱うことも可能である。
【0039】
<飲食品の香気成分保持方法>
本発明に係る飲食品の香気成分保持方法は、前述した澱粉分解物を、前記飲食品に添加する工程を含む方法である。添加の方法は特に限定されず、公知の飲食品に前述した澱粉分解物を添加することにより、飲食品が含有する香気成分の揮発、放散を防止することもできるし、飲食品の原料中に前述した澱粉分解物を混合して新たな飲食品を製造することにより、香気成分の保持性の高い飲食品を製造することもできる。
【0040】
本発明に係る香気成分保持方法を適用し得る飲食品は、香気成分を含む飲食品であれば特に限定されない。本発明に係る香気成分保持方法は、固形状の飲食品に限らず、半固形状や液状の飲食品中の香気成分についても、優位に保持することが可能である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0042】
<実験例1>
実験例1では、澱粉分解物の具体的な糖組成が、香気成分の揮発、放散にどのように影響するかを検討した。
【0043】
(1)試験方法
[枝作り酵素]
本実験例では、枝作り酵素の一例として、WO00/58445の方法に則って、精製したRhodothermus obamensis由来の酵素(以下「枝作り酵素」とする)を用いた。
【0044】
なお、枝作り酵素の活性測定は、以下の方法で行った。
基質溶液として、0.1M酢酸 緩衝液(pH5.2)にアミロース(Sigma社製,A0512)を0.1質量%溶解したアミロース溶液を用いた。
50μLの基質液に50μLの酵素液を添加し、30℃で30分間反応させた後、ヨウ素-ヨウ化カリウム溶液(0.39mMヨウ素−6mMヨウ化カリウム−3.8mM塩酸混合用液)を2mL加え反応を停止させた。ブランク溶液として、酵素液の代わりに水を添加したものを調製した。反応停止から15分後に660nmの吸光度を測定した。枝作り酵素の酵素活性量1単位は、上記の条件で試験する時、660nmの吸光度を1分間に1%低下させる酵素活性量とした。
【0045】
[DE]
「澱粉糖関連工業分析法」(澱粉糖技術部会編)のレインエイノン法に従って算出した。
【0046】
[澱粉分解物の分子量14000〜80000の画分の含有量]
下記の表1に示す条件で、ゲルろ過クロマトグラフィーにて分析を行った。分子量スタンダードとして、ShodexスタンダードGFC(水系GPC)カラム用Standard P-82(昭和電工株式会社製)を使用し、分子量スタンダードの溶出時間と分子量の相関から算出される検量線に基づいて、澱粉分解物中の分子量14000〜80000の画分の含有量を算出した。
【0047】
【表1】
【0048】
[澱粉分解物中のDP8〜9である分岐鎖又はDP3〜7である分岐鎖の含有量]
a.未処理の澱粉分解物中のDP8〜9又はDP3〜7である糖鎖の含有量の測定
Brix1%に調整した澱粉分解物溶液について、下記表2に示す条件で液体クロマトグラフィーにて分析を行い、保持時間に基づいて、DP8〜9又はDP3〜7の含量を測定した。
【0049】
【表2】
【0050】
b.分岐鎖が切られた状態の澱粉分解物の枝切り酵素処理物中のDP8〜9又はDP3〜7である糖鎖の含有量の測定
Brix5%に調整した澱粉分解物溶液200μLに、1M酢酸緩衝液(pH5.0)を2μL、イソアミラーゼ(Pseudomonas sp.由来、Megazyme製)を固形分(g)当たり125ユニット、プルラナーゼ(Klebsiella planticola由来、Megazyme製)を固形分(g)当たり800ユニット添加し、水で全量400μLになるように調整した。これを40℃で24時間酵素反応させた後、煮沸により反応を停止した。これに600μLの水を加え、12000rpmにて5分間遠心分離を行った。上清900μLを脱塩、フィルター処理後、表2に示す条件で液体クロマトグラフィーにて分析を行い、保持時間に基づいて、DP8〜9又はDP3〜7の含量を測定した。
【0051】
c.澱粉分解物中のDP8〜9又はDP3〜7である分岐鎖の含有量の算出
前記bで求めたDP8〜9の含量から、前記aで求めたDP8〜9の含量を引くことにより、澱粉分解物中のDP8〜9である分岐鎖の含有量を算出した。同様に、前記bで求めたDP3〜7の含量から、前記aで求めたDP3〜7の含量を引くことにより、澱粉分解物中のDP3〜7である分岐鎖の含有量を算出した。
【0052】
[評価方法]
A.香気成分の残存率(%)
前記表1に示す条件で、ゲルろ過クロマトグラフィーにて分析を行った。
【0053】
(a)噴霧乾燥後の香気成分の残存率(%)
実施例1〜4、6、7又は比較例1〜7については、水550gに、澱粉分解物400gを50℃で加温しながら添加溶解した。常温まで冷却後、香気成分の一例として酢酸エチル50gを添加し、均一に混合し、スプレードライヤーにて噴霧乾燥した。
実施例5については、水150gに、澱粉分解物800gを常温で添加溶解した。香気成分の一例として酢酸エチル50gを添加し、均一に混合し、スプレードライヤーにて噴霧乾燥した。
前記で噴霧乾燥した各試料1gを、水19gに溶解させ、前記表1に示す条件のゲルろ過クロマトグラフィー分析を行った。噴霧乾燥前の酢酸エチルのピーク面積を100%と設定したとき、噴霧乾燥後の試料における当該ピーク面積の比率を、残存率として算出した。
【0054】
(b)保存試験における香気成分の残存率(%)
実施例1〜4、6、7又は比較例1〜7については、水390gに、澱粉分解物100gを50℃で加温しながら添加溶解した。常温まで冷却後、香気成分の一例として酢酸エチル10gを添加し、均一に混合した。
実施例5については、水290gに、澱粉分解物200gを常温で添加溶解した。香気成分の一例として酢酸エチル10gを添加し、均一に混合した。
前記で調製した各混合溶液を蓋のない試験管に20mL分注し、25℃の恒温器に入れ、6時間保存した。香気成分の残存率の測定方法は、上記(a)と同様に行い、保存前の試料における酢酸エチルのピーク面積を100%と設定したとき、6時間保存後の試料における当該ピーク面積の比率を、残存率として算出した。
【0055】
B.澱粉臭による香味への影響評価
水に実施例又は比較例の澱粉分解物を加えて、澱粉分解物の固形分が10質量%になるよう1000gの水溶液を調製し、市販のペパーミントエッセンスを1g溶解した。この溶液を摂取し、下記の評価基準に基づいて、澱粉臭による香味への影響を評価した。評価は、10名の専門パネルの平均点とした。
5:澱粉臭が感じられず、香味への影響はない
4:ほぼ澱粉臭が感じられず、香味への影響はほぼない
3:やや澱粉臭は感じられるが、許容範囲
2:澱粉臭があり、香味への影響がある
1:澱粉臭が強く、香味への悪影響がある
【0056】
(2)実施例・比較例の製法
[実施例1]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(ターマミルSC、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE12になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり600ユニット添加し、65℃で40時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例1の澱粉分解物を得た。
【0057】
[実施例2]
10%塩酸にてpH2.5に調整した30質量%のコーンスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE5まで分解した。常圧に戻した後、10質量%消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、αアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、95℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが9になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり1100ユニット添加し、65℃で40時間反応させた。更にαアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、80℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが15になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度60質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例2の澱粉分解物を得た。
【0058】
[実施例3]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した20質量%のワキシーコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE6になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり500ユニット添加し、65℃で20時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度40質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例3の澱粉分解物を得た。
【0059】
[実施例4]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE7になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり500ユニット添加し、65℃で50時間反応させた。更にαアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、80℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが10になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例4の澱粉分解物を得た。
【0060】
[実施例5]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE6になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり700ユニット添加し、65℃で30時間反応させた。更にαアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、80℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが8になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製、固形分濃度50質量%に濃縮して、実施例5の澱粉分解物を得た。
【0061】
[実施例6]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE8になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり500ユニット添加し、65℃で50時間反応させた。更にαアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、80℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが11になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例6の澱粉分解物を得た。
【0062】
[実施例7]
10%塩酸にてpH2.5に調整した30質量%のコーンスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE4まで分解した。常圧に戻した後、10質量%消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、95℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが8になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり500ユニット添加し、65℃で45時間反応させた。更にαアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、80℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが9になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例7の澱粉分解物を得た。
【0063】
[比較例1]
パインデックス#1(松谷化学工業株式会社製)を使用した。
【0064】
[比較例2]
パインデックス#2(松谷化学工業株式会社製)を使用した。
【0065】
[比較例3]
BLD−8(参松工業株式会社製)を使用した。
【0066】
[比較例4]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(ターマミルSC、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE17になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度60質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、比較例4の澱粉分解物を得た。
【0067】
[比較例5]
クラスターデキストリン(江崎グリコ株式会社製)を使用した。
【0068】
[比較例6]
10%塩酸にてpH2.5に調整した30質量%のタピオカスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE3まで分解した。常圧に戻した後、10質量%消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、αアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、95℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが14になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり700ユニット添加し、65℃で40時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、比較例6の澱粉分解物を得た。
【0069】
[比較例7]
実施例7の澱粉分解物を30質量%に調整し、pHを6.0に調整した後、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、80℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが19になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度60質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、比較例7の澱粉分解物を得た。
【0070】
(3)測定
前記で得られた実施例1〜7及び比較例1〜7について、それぞれ、澱粉分解物中のDE、DP8〜9である分岐鎖の含有量、分子量14000〜80000の画分の含有量を、前述した方法で測定した。また、香気成分の残存率(%)として酢酸エチルの残存率を、前述した方法で評価した。結果を下記の表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
表3に示す通り、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%以上、かつ、分子量14000〜80000の画分の含有量が31〜60質量%の実施例1〜7は、比較例1〜7に比べて、酢酸エチル残存率が高かった。即ち、本発明に係る香気成分保持剤を用いれば、従来からの澱粉分解物を用いる場合に比べて、高い香気成分保持効果を発揮することが分かった。また、澱粉臭による香味への影響評価については、比較例7のみ良好な結果であったが、他の比較例1〜6に比べれば、実施例1〜7は、良好な結果であった。
【0073】
一方、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%未満、かつ、分子量14000〜80000の画分の含有量が31質量%未満の比較例2、4及び6については、酢酸エチル残存率及び澱粉臭による香味への影響の評価において、実施例1〜7に比べて非常に劣る結果であった。また、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%であっても分子量14000〜80000の画分の含有量が31質量%未満の比較例7については、酢酸エチル残存率の値が、実施例1〜7に比べて非常に低い結果であった。また、分子量14000〜80000の画分の含有量は31〜60質量%の範囲内であっても、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%未満である比較例1及び5については、噴霧乾燥試験における酢酸エチル残存率については、実施例1〜7に比べて若干の低値に留まったが、溶液試験における酢酸エチル残存率及び澱粉臭による香味への影響評価については、実施例1〜7に比べて非常に劣る結果であった。
【0074】
更に、比較例3は、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%以上であり、分子量14000〜80000の画分の含有量が29.6質量%と、本発明の範囲より少し少ない例であるが、DP3〜7の分岐鎖の含有量が15質量%を超えるために、噴霧乾燥試験における酢酸エチル残存率については、実施例1〜7に比べて若干の低値に留まったが、溶液試験における酢酸エチル残存率及び澱粉臭による香味への影響評価については、実施例1〜7に比べて非常に劣る結果であった。
【0075】
実施例内で比較すると、分子量14000〜80000の画分の含有量がほぼ同等の実施例4及び6においては、DP8〜9の分岐鎖の含有量が8質量%以上の実施例6の方が、酢酸エチル残存率及び澱粉臭による香味への影響評価において、良好な結果であった。また、DP8〜9の分岐鎖の含有量がほぼ同等の実施例2及び5においては、分子量14000〜80000の画分の含有量が35質量%以上の実施例5の方が、酢酸エチル残存率及び澱粉臭による香味への影響評価において、良好な結果であった。
【0076】
なお、一例として、実施例7の澱粉分解物、及び、実施例7の澱粉分解物を前記「b.分岐鎖が切られた状態の澱粉分解物の枝切り酵素処理物中のDP8〜9又はDP3〜7である糖鎖の含有量の測定」における方法で枝切り酵素処理した酵素処理物について、前記表1に示す条件のゲルろ過クロマトグラフィーにて分析したチャートを図1に示す。分子量スタンダードの溶出時間に基づいて算出した、分子量14000〜80000の画分の溶出時間は、約16〜19分である。図1に示す通り、澱粉分解物の分子量14000〜80000の画分は、枝切り酵素処理を行うことで、低分子画分へ移行していることが分かった。この結果から、澱粉分解物の分子量14000〜80000の画分に、DP8〜9の分岐鎖を有する分岐糖鎖が含まれていることが確認できた。
【0077】
<実験例2>
実験例2では、前記実験例1で製造した澱粉分解物を、実際の飲食品に適用した場合の香気成分保持効果について、官能評価を行った。
【0078】
[評価方法]
実施例または比較例の澱粉分解物を利用した飲食品を摂取した時に、鼻に抜ける香味の強さについて、下記の評価基準に基づいて評価を行った。評価は、10名の専門パネルの平均点とした。
5:目的の香気成分が強く感じられる
4:目的の香気成分がやや強く感じられる
3:目的の香気成分が感じられる
2:目的の香気成分があまり感じられない
1:目的の香気成分が感じられない
【0079】
(1)試験例1:粉末紅茶
A.粉末紅茶の製造
沸騰させた湯1000gに市販の紅茶葉30gを添加し、3分間抽出した後、No.5Cのろ紙でろ過した。この紅茶抽出液に、実施例3、4、7又は比較例1、4の澱粉分解物100gを添加溶解した後、スプレードライヤーにて噴霧乾燥し、粉末紅茶を得た。
【0080】
B.評価
前記で製造した粉末紅茶6gに、80℃の湯200gを添加して溶解させたものについて、摂取したときに感じる紅茶の香気成分の保持状況を見るために、10名のパネルで官能評価を行った。
【0081】
C.結果
結果を下記表4に示す。
【表4】
【0082】
表4に示す通り、比較例1、4を用いた粉末紅茶に比べ、実施例3、4、7を用いた粉末紅茶の方が、紅茶の香気成分の強度を強く感じ、官能評価が良好であった。
【0083】
(2)試験例2:粉末椎茸出汁
A.粉末椎茸出汁の製造
水1000gに干し椎茸60gを浸し、4℃の恒温器で15時間静置して、抽出した。この椎茸出汁をNo.5Cのろ紙でろ過し、実施例2、6又は比較例3、5、6の澱粉分解物を200g添加溶解した。これを、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、粉末椎茸出汁を得た。
【0084】
B.評価
前記で製造した粉末椎茸出汁10gに、90℃の湯90gを添加して溶解させたものについて、摂取したときに感じる椎茸出汁の香気成分の保持状況を見るために、10名のパネルで官能評価を行った。
【0085】
C.結果
結果を下記表5に示す。
【表5】
【0086】
表5に示す通り、比較例3、5、6を用いた粉末椎茸出汁に比べ、実施例2、6を用いた粉末椎茸出汁の方が、椎茸出汁の香気成分の強度を強く感じ、官能評価が良好であった。
【0087】
(3)試験例3:果汁入りアルコール飲料
A.果汁入りアルコール飲料の製造
実施例1、7又は比較例2、7については、水650gに、澱粉分解物70g、果糖ブドウ糖液糖150g、オレンジ6倍濃縮果汁80g、クエン酸1g、アルコール度数25%の甲類焼酎200gを添加溶解した。これを加熱し、93℃に達温後、ホット充填して果汁入りアルコール飲料を製造した。
実施例5については、水580gに、澱粉分解物140g、果糖ブドウ糖液糖150g、オレンジ6倍濃縮果汁80g、クエン酸1g、アルコール度数25%の甲類焼酎200gを添加溶解した。これを加熱し、93℃に達温後、ホット充填して果汁入りアルコール飲料を製造した。
【0088】
B.評価
前記で製造したアルコール飲料をガラス容器に分注し、開放系にて25℃の恒温器に入れ、12時間保存した後、摂取したときに感じるオレンジの香気成分の保持状況を見るために、10名のパネルで官能評価を行った。
【0089】
C.結果
結果を下記表6に示す。
【表6】
【0090】
表6に示す通り、比較例2、7を用いた果汁入りアルコール飲料に比べ、実施例1、5、7を用いた果汁入りアルコール飲料の方が、オレンジの香気成分の強度を強く感じ、官能評価が良好であった。
【0091】
(4)試験例4:リンゴ酢ドリンク
A.リンゴ酢ドリンクの製造
水160gに、市販のリンゴ酢20g、砂糖10g、実施例4、7又は比較例1、5の澱粉分解物10g添加溶解した。これを加熱し、93℃に達温後、ホット充填してリンゴ酢ドリンクを製造した。
【0092】
B.評価
前記で製造したリンゴ酢ドリンクをガラス容器に分注し、開放系にて25℃の恒温器に入れ、18時間保存した後、摂取したときに感じるリンゴ酢の香気成分の保持状況を見るために、10名のパネルで官能評価を行った。
【0093】
C.結果
結果を下記表7に示す。
【表7】
【0094】
表7に示す通り、比較例1、5を用いたリンゴ酢ドリンクに比べ、実施例4、7を用いたリンゴ酢ドリンクの方が、リンゴ酢の香気成分の強度を強く感じ、官能評価が良好であった。
図1