特許第6906770号(P6906770)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6906770テントキシン合成関連遺伝子、これを用いたジヒドロテントキシン又はテントキシンの製造方法及びこれを有する形質転換体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906770
(24)【登録日】2021年7月2日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】テントキシン合成関連遺伝子、これを用いたジヒドロテントキシン又はテントキシンの製造方法及びこれを有する形質転換体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/52 20060101AFI20210708BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20210708BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20210708BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20210708BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20210708BHJP
   C12N 9/00 20060101ALN20210708BHJP
   C12N 9/02 20060101ALN20210708BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20210708BHJP
   C12N 15/80 20060101ALN20210708BHJP
   C12R 1/645 20060101ALN20210708BHJP
   C12R 1/69 20060101ALN20210708BHJP
【FI】
   C12N15/52 ZZNA
   C12N15/53
   C12N15/54
   C12N1/15
   C12P21/02 C
   !C12N9/00
   !C12N9/02
   !C12N9/10
   !C12N15/80 Z
   C12R1:645
   C12R1:69
【請求項の数】19
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2018-506008(P2018-506008)
(86)(22)【出願日】2017年3月16日
(86)【国際出願番号】JP2017010697
(87)【国際公開番号】WO2017159795
(87)【国際公開日】20170921
【審査請求日】2020年1月28日
(31)【優先権主張番号】特願2016-52806(P2016-52806)
(32)【優先日】2016年3月16日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、経済産業省、産業技術研究開発(革新的バイオマテリアル実現のための高機能化ゲノムデザイン技術開発)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000000169
【氏名又は名称】クミアイ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 崇
(72)【発明者】
【氏名】町田 雅之
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 智則
(72)【発明者】
【氏名】山口 滋生
(72)【発明者】
【氏名】河合 清
【審査官】 西垣 歩美
(56)【参考文献】
【文献】 DE BRUYNE L. et al.,MOLECULAR PLANT PATHOLOGY,2015年12月 1日,Vol.17, No.6,pp.805-817
【文献】 CONDON B.J. et al.,ACCESSION No.W6Z3C0, DIFFINITION:Uncharacterized protein,UNIPROT [online],2014年 4月16日,<URL:http://www.uniprot.org/uniprot/W6Z3C0.txt?version=1> [retrieved on 2017.06.05]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12N 9/00−9/99
C12P 21/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示すアミノ酸配列又は配列番号1に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第1のアデニレーションドメインと、配列番号2に示すアミノ酸配列又は配列番号2に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第1のペプチジルキャリアタンパク質ドメインと、配列番号3に示すアミノ酸配列又は配列番号3に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第1の縮合ドメインをN末端側からこの順で有する第1モジュールと、
配列番号4に示すアミノ酸配列又は配列番号4に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第2のアデニレーションドメインと、配列番号5に示すアミノ酸配列又は配列番号5に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第1のN-メチルトランスフェラーゼドメインと、配列番号6に示すアミノ酸配列又は配列番号6に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第2のペプチジルキャリアタンパク質ドメインと、配列番号7に示すアミノ酸配列又は配列番号7に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第2の縮合ドメインをN末端側からこの順で有する第2モジュールと、
配列番号8に示すアミノ酸配列又は配列番号8に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第3のアデニレーションドメインと、配列番号9に示すアミノ酸配列又は配列番号9に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第3のペプチジルキャリアタンパク質ドメインと、配列番号10に示すアミノ酸配列又は配列番号10に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第3の縮合ドメインをN末端側からこの順で有する第3モジュールと、
配列番号11に示すアミノ酸配列又は配列番号11に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第4のアデニレーションドメインと、配列番号12に示すアミノ酸配列又は配列番号12に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第2のN-メチルトランスフェラーゼドメインと、配列番号13に示すアミノ酸配列又は配列番号13に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第4のペプチジルキャリアタンパク質ドメインと、配列番号14に示すアミノ酸配列又は配列番号14に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第4の縮合ドメインとをN末端側からこの順で有する第4モジュールと、
をN末端側からこの順で有し、ジヒドロテントキシンの非リボソーム型ペプチド合成活性を有するタンパク質をコードするテントキシン合成関連遺伝子。
【請求項2】
上記タンパク質は、以下(a)〜(c)のいずれかのタンパク質であることを特徴とする請求項1記載のテントキシン合成関連遺伝子。
(a)配列番号16に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号16に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、ジヒドロテントキシンの非リボソーム型ペプチド合成活性を有するタンパク質
(c)配列番号15に示す塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされ、ジヒドロテントキシンの非リボソーム型ペプチド合成活性を有するタンパク質
【請求項3】
Alternaria属の糸状菌由来であることを特徴とする請求項1記載のテントキシン合成関連遺伝子。
【請求項4】
上記糸状菌は、Alternaria alternataであることを特徴とする請求項3記載のテントキシン合成関連遺伝子。
【請求項5】
以下(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードするテントキシン合成関連遺伝子。
(a)配列番号16に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号16に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、ジヒドロテントキシンの非リボソーム型ペプチド合成活性を有するタンパク質
(c)配列番号15に示す塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされ、ジヒドロテントキシンの非リボソーム型ペプチド合成活性を有するタンパク質
【請求項6】
上記タンパク質は、
配列番号1に示すアミノ酸配列又は配列番号1に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第1のアデニレーションドメインと、配列番号2に示すアミノ酸配列又は配列番号2に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第1のペプチジルキャリアタンパク質ドメインと、配列番号3に示すアミノ酸配列又は配列番号3に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第1の縮合ドメインをN末端側からこの順で有する第1モジュールと、
配列番号4に示すアミノ酸配列又は配列番号4に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第2のアデニレーションドメインと、配列番号5に示すアミノ酸配列又は配列番号5に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第1のN-メチルトランスフェラーゼドメインと、配列番号6に示すアミノ酸配列又は配列番号6に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第2のペプチジルキャリアタンパク質ドメインと、配列番号7に示すアミノ酸配列又は配列番号7に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第2の縮合ドメインをN末端側からこの順で有する第2モジュールと、
配列番号8に示すアミノ酸配列又は配列番号8に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第3のアデニレーションドメインと、配列番号9に示すアミノ酸配列又は配列番号9に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第3のペプチジルキャリアタンパク質ドメインと、配列番号10に示すアミノ酸配列又は配列番号10に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第3の縮合ドメインをN末端側からこの順で有する第3モジュールと、
配列番号11に示すアミノ酸配列又は配列番号11に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第4のアデニレーションドメインと、配列番号12に示すアミノ酸配列又は配列番号12に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第2のN-メチルトランスフェラーゼドメインと、配列番号13に示すアミノ酸配列又は配列番号13に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第4のペプチジルキャリアタンパク質ドメインと、配列番号14に示すアミノ酸配列又は配列番号14に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第4の縮合ドメインとをN末端側からこの順で有する第4モジュールと、
をN末端側からこの順で有することを特徴とする請求項5記載のテントキシン合成関連遺伝子。
【請求項7】
Alternaria属の糸状菌由来であることを特徴とする請求項5記載のテントキシン合成関連遺伝子。
【請求項8】
上記糸状菌は、Alternaria alternataであることを特徴とする請求項7記載のテントキシン合成関連遺伝子。
【請求項9】
以下(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードするテントキシン合成関連遺伝子。
(a)配列番号18に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号18に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、ジヒドロテントキシンをテントキシンに変換する活性を有するタンパク質 (c)配列番号17に示す塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされ、ジヒドロテントキシンをテントキシンに変換する活性を有するタンパク質
【請求項10】
Alternaria属の糸状菌由来であることを特徴とする請求項9記載のテントキシン合成関連遺伝子。
【請求項11】
上記糸状菌は、Alternaria alternataであることを特徴とする請求項10記載のテントキシン合成関連遺伝子。
【請求項12】
請求項1乃至8いずれか一項記載のテントキシン合成関連遺伝子を導入した形質転換体を培養する工程と、
培養上清からジヒドロテントキシンを回収する工程とを含む、
ジヒドロテントキシンの製造方法。
【請求項13】
上記形質転換体は、上記テントキシン合成関連遺伝子を発現可能に導入した糸状菌であることを特徴とする請求項12記載のジヒドロテントキシンの製造方法。
【請求項14】
請求項1乃至8いずれか一項記載のテントキシン合成関連遺伝子と、請求項9乃至11いずれか一項記載のテントキシン合成関連遺伝子とを導入した形質転換体を培養する工程と、
培養上清からテントキシンを回収する工程とを含む、
テントキシンの製造方法。
【請求項15】
上記形質転換体は、上記2種類のテントキシン合成関連遺伝子を発現可能に導入した糸状菌であることを特徴とする請求項14記載のテントキシンの製造方法。
【請求項16】
請求項1乃至8いずれか一項記載のテントキシン合成関連遺伝子を導入した形質転換体。
【請求項17】
請求項9乃至11いずれか一項記載のテントキシン合成関連遺伝子を導入した形質転換体。
【請求項18】
請求項1乃至8いずれか一項記載のテントキシン合成関連遺伝子と、請求項9乃至11いずれか一項記載のテントキシン合成関連遺伝子とを導入した形質転換体。
【請求項19】
上記遺伝子を麹菌(Aspergillus oryzae)に導入したものであることを特徴とする請求項16乃至18いずれか一項記載の形質転換体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状ペプチド化合物であるテントキシンの合成に関与する新規テントキシン合成関連遺伝子に関し、当該テントキシン合成関連遺伝子を用いたジヒドロテントキシンの製造方法、当該テントキシン合成関連遺伝子を用いたテントキシンの製造方法及び当該テントキシン合成関連遺伝子を有する形質転換体に関する。
【背景技術】
【0002】
テントキシン((2Z)-3-フェニル-N-メチルシクロ(Dha-Gly-N-メチル-L-Ala-L-Leu-))は、アルテルナリア属(Alternaria)の糸状菌が生産する環状ペプチド化合物であり、葉緑体F1-ATPaseを低濃度で阻害することが知られている(非特許文献1)。葉緑体F1-ATPaseが阻害されると、クロロフィルの蓄積が阻害されクロロシスを生じて植物体が枯死することとなる。したがって、テントキシンについては、除草剤としての適用が期待されている(非特許文献2及び3)。しかしながら、農薬として妥当な価格での化学合成が困難であるといった問題等により実用化には至っていない(非特許文献4及び5)。
【0003】
非特許文献6には、Alternaria alternataのプロトプラストからテントキシンを合成するというテントキシンの培養生産が開示されている。非特許文献7には、Alternaria alternataにおけるテントキシンの生合成経路に関して、テントキシンの前駆体であるジヒドロテントキシンの生合成に関与する合成酵素を想定し、更にジヒドロテントキシンの脱水素化に関与する酵素が存在するであろうと予測している。ただし、非特許文献7に開示された技術は、ジヒドロテントキシンを合成する酵素やこれを脱水素化する酵素について具体的に同定するに至っていない。また、非特許文献8は、糸状菌に関するゲノム構造や、遺伝子発現制御に関する総説であるが、テントキシンやジヒドロテントキシンの生合成に関与する遺伝子は同定されていないことが述べられている。
【0004】
ところで、mRNAやリボソームを介したペプチド合成とは異なり、アミノ酸を基質として酵素複合体の触媒によりペプチド結合が直接合成される反応機構が知られており、この反応を担う酵素群はリボソームに依存しないでペプチドを合成することから、非リボソーム型ペプチド合成酵素(nonribosomal peptide synthetase(NRPS))と呼称されている。NRPSは複数の機能ドメインが繋がったモジュールと呼ばれる基本単位からなる巨大ポリペプチドであり、アミド結合形成反応を触媒する酵素である。モジュール構造には、開始モジュール、伸長モジュール、終結モジュールがあり、様々なドメインから構成されている(非特許文献9)。ペプチド性天然物の多くは基本骨格をNRPSにより合成されることが知られている。
【0005】
NRPSに含まれるドメインについては、Aドメイン(アデニレーションドメイン: adenylation domain)、PCPドメイン(ペプチジルキャリアタンパク質ドメイン:peptidyl carrier protein domain)、Cドメイン(縮合ドメイン:condensation domain)がペプチド基本骨格を合成するために必須のドメインとして知られている。また、これら以外には、基本骨格として合成されたペプチドを修飾する機能を有するドメインが知られている。
【0006】
なお、バクテリア由来のNRPSではTE(チオエステラーゼドメイン:thioesterase domain)が環化反応を担っていることが知られているが、糸状菌では、多くのNRPSでTEドメインを欠いている。近年、糸状菌においては、Cドメインがペプチドの環化を担っていることが明らかになってきている(非特許文献10)。
【0007】
ところで、Cochliobolus miyabeanusの病原性の要因として本菌株がテントキシンを生産すること、テントキシン生合成関連遺伝子の候補としてNRPS遺伝子(CmNps3遺伝子)が知られている(非特許文献11)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Steele, J.A., et al., Chloroplast coupling factor 1: A species-specific receptor for tentoxin. Proceedings of the National Academy of Sciences, 1976. 73(7): p. 2245-2248.
【非特許文献2】Durbin, R. and T. Uchytil, A survey of plant insensitivity to tentoxin. Phytopathology, 1977. 67: p. 602-603.
【非特許文献3】Lax, A.R., H.S. Shepherd, and J.V. Edwards, Tentoxin, a chlorosis-inducing toxin from Alternaria as a potential herbicide. Weed Technology, 1988: p. 540-544.
【非特許文献4】Berestetskiy, A.O., A review of fungal phytotoxins: from basic studies to practical use. Applied Biochemistry and Microbiology, 2008. 44(5): p. 453-465.
【非特許文献5】Duke, S.O., et al., Chemicals from Nature for Weed Management. Weed Science, 2002: p. 138-151.
【非特許文献6】Ramm, K., B. Bruckner, and B. Liebermann, Biosynthesis of the phytotoxin tentoxin. Applied biochemistry and biotechnology, 1994. 49(1): p. 35-43.
【非特許文献7】Ramm, K., et al., Studies of the biosynthesis of tentoxin by Alternaria alternata. Microbiology, 1994. 140(12): p. 3257-3266.
【非特許文献8】Tkacz, J.S. and L. Lange, Advances in fungal biotechnology for industry, agriculture, and medicine. 2004: Springer Science & Business Media.
【非特許文献9】Schwarzer, D., R. Finking, and M.A. Marahiel, Nonribosomal peptides: from genes to products. Nat Prod Rep, 2003. 20(3): p. 275.
【非特許文献10】X Gao et al., Cyclization of fungal nonribosomal peptides by a terminal condensation-like domain. (2012) Nat Chem Biol, 2012 8(10): 823-830
【非特許文献11】De Bruyne, L., et al., Comparative chemical screening and genetic analysis reveal tentoxin as a new virulence factor in Cochliobolus miyabeanus, the causal agent of brown spot disease on rice. Mol Plant Pathol, 2015. 17 (6): p. 805-817
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述したテントキシン及びその前駆体であるジヒドロテントキシンが葉緑体F1-ATPaseに特異的に結合することで活性を阻害することから、除草剤としての利用が期待されている。しかしながら、上述したように、テントキシンやジヒドロテントキシンの生合成については、その主要な役割を担う酵素についても未同定であり、不明なままである。非特許文献11に開示された候補遺伝子についても、十分な解析がなされておらず、テントキシンやジヒドロテントキシンの生合成に利用できるかは不明である。
【0010】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、テントキシンの前駆体であるジヒドロテントキシンを合成する活性を有する酵素、さらにジヒドロテントキシンを基質としてテントキシンを合成する活性を有する酵素を同定し、これらテントキシン及びジヒドロテントキシンを合成する系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するため本発明者らが鋭意検討した結果、A. alternataゲノムから複数のNRPS遺伝子を同定することができ、これらの中からジヒドロテントキシンを合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、及びジヒドロテントキシンからテントキシンを合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を同定することができ、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は以下を包含する。
【0013】
(1)配列番号1に示すアミノ酸配列又は配列番号1に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第1のアデニレーションドメインと、配列番号2に示すアミノ酸配列又は配列番号2に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第1のペプチジルキャリアタンパク質ドメインと、配列番号3に示すアミノ酸配列又は配列番号3に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第1の縮合ドメインをN末端側からこの順で有する第1モジュールと、
配列番号4に示すアミノ酸配列又は配列番号4に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第2のアデニレーションドメインと、配列番号5に示すアミノ酸配列又は配列番号5に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第1のN-メチルトランスフェラーゼドメインと、配列番号6に示すアミノ酸配列又は配列番号6に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第2のペプチジルキャリアタンパク質ドメインと、配列番号7に示すアミノ酸配列又は配列番号7に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第2の縮合ドメインをN末端側からこの順で有する第2モジュールと、
配列番号8に示すアミノ酸配列又は配列番号8に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第3のアデニレーションドメインと、配列番号9に示すアミノ酸配列又は配列番号9に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第3のペプチジルキャリアタンパク質ドメインと、配列番号10に示すアミノ酸配列又は配列番号10に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第3の縮合ドメインをN末端側からこの順で有する第3モジュールと、
配列番号11に示すアミノ酸配列又は配列番号11に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第4のアデニレーションドメインと、配列番号12に示すアミノ酸配列又は配列番号12に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第2のN-メチルトランスフェラーゼドメインと、配列番号13に示すアミノ酸配列又は配列番号13に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第4のペプチジルキャリアタンパク質ドメインと、配列番号14に示すアミノ酸配列又は配列番号14に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第4の縮合ドメインとをN末端側からこの順で有する第4モジュールと、
をN末端側からこの順で有し、ジヒドロテントキシンの非リボソーム型ペプチド合成活性を有するタンパク質をコードするテントキシン合成関連遺伝子。
【0014】
(2)上記タンパク質は、以下(a)〜(c)のいずれかのタンパク質であることを特徴とする(1)記載のテントキシン合成関連遺伝子。
【0015】
(a)配列番号16に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号16に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、ジヒドロテントキシンの非リボソーム型ペプチド合成活性を有するタンパク質
(c)配列番号15に示す塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされ、ジヒドロテントキシンの非リボソーム型ペプチド合成活性を有するタンパク質
(3)Alternaria属の糸状菌由来であることを特徴とする(1)記載のテントキシン合成関連遺伝子。
【0016】
(4)上記糸状菌は、Alternaria alternataであることを特徴とする(3)記載のテントキシン合成関連遺伝子。
【0017】
(5)以下(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードするテントキシン合成関連遺伝子。
【0018】
(a)配列番号16に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号16に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、ジヒドロテントキシンの非リボソーム型ペプチド合成活性を有するタンパク質
(c)配列番号15に示す塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされ、ジヒドロテントキシンの非リボソーム型ペプチド合成活性を有するタンパク質
(6)上記タンパク質は、
配列番号1に示すアミノ酸配列又は配列番号1に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第1のアデニレーションドメインと、配列番号2に示すアミノ酸配列又は配列番号2に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第1のペプチジルキャリアタンパク質ドメインと、配列番号3に示すアミノ酸配列又は配列番号3に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第1の縮合ドメインをN末端側からこの順で有する第1モジュールと、
配列番号4に示すアミノ酸配列又は配列番号4に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第2のアデニレーションドメインと、配列番号5に示すアミノ酸配列又は配列番号5に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第1のN-メチルトランスフェラーゼドメインと、配列番号6に示すアミノ酸配列又は配列番号6に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第2のペプチジルキャリアタンパク質ドメインと、配列番号7に示すアミノ酸配列又は配列番号7に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第2の縮合ドメインをN末端側からこの順で有する第2モジュールと、
配列番号8に示すアミノ酸配列又は配列番号8に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第3のアデニレーションドメインと、配列番号9に示すアミノ酸配列又は配列番号9に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第3のペプチジルキャリアタンパク質ドメインと、配列番号10に示すアミノ酸配列又は配列番号10に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第3の縮合ドメインをN末端側からこの順で有する第3モジュールと、
配列番号11に示すアミノ酸配列又は配列番号11に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第4のアデニレーションドメインと、配列番号12に示すアミノ酸配列又は配列番号12に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第2のN-メチルトランスフェラーゼドメインと、配列番号13に示すアミノ酸配列又は配列番号13に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第4のペプチジルキャリアタンパク質ドメインと、配列番号14に示すアミノ酸配列又は配列番号14に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる第4の縮合ドメインとをN末端側からこの順で有する第4モジュールと、
をN末端側からこの順で有することを特徴とする(5)記載のテントキシン合成関連遺伝子。
【0019】
(7)Alternaria属の糸状菌由来であることを特徴とする(5)記載のテントキシン合成関連遺伝子。
【0020】
(8)上記糸状菌は、Alternaria alternataであることを特徴とする(7)記載のテントキシン合成関連遺伝子。
【0021】
(9)以下(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードするテントキシン合成関連遺伝子。
【0022】
(a)配列番号18に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号18に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、ジヒドロテントキシンをテントキシンに変換する活性を有するタンパク質
(c)配列番号17に示す塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされ、ジヒドロテントキシンをテントキシンに変換する活性を有するタンパク質
(10)Alternaria属の糸状菌由来であることを特徴とする(9)記載のテントキシン合成関連遺伝子。
【0023】
(11)上記糸状菌は、Alternaria alternataであることを特徴とする(10)記載のテントキシン合成関連遺伝子。
【0024】
(12)上記(1)乃至(8)いずれか記載のテントキシン合成関連遺伝子を導入した形質転換体を培養する工程と、
培養上清からジヒドロテントキシンを回収する工程とを含む、
ジヒドロテントキシンの製造方法。
【0025】
(13)上記形質転換体は、上記テントキシン合成関連遺伝子を発現可能に導入した糸状菌であることを特徴とする(12)記載のジヒドロテントキシンの製造方法。
【0026】
(14)上記(1)乃至(8)いずれか記載のテントキシン合成関連遺伝子と、上記(9)乃至(11)いずれか記載のテントキシン合成関連遺伝子とを導入した形質転換体を培養する工程と、
培養上清からテントキシンを回収する工程とを含む、
テントキシンの製造方法。
【0027】
(15)上記形質転換体は、上記2種類のテントキシン合成関連遺伝子を発現可能に導入した糸状菌であることを特徴とする(14)記載のテントキシンの製造方法。
【0028】
(16)上記(1)乃至(8)いずれか記載のテントキシン合成関連遺伝子を導入した形質転換体。
【0029】
(17)上記(9)乃至(11)いずれか記載のテントキシン合成関連遺伝子を導入した形質転換体。
【0030】
(18)上記(1)乃至(8)いずれか記載のテントキシン合成関連遺伝子と、上記(9)乃至(11)いずれか記載のテントキシン合成関連遺伝子とを導入した形質転換体。
【0031】
(19)上記遺伝子を麹菌(Aspergillus oryzae)に導入したものであることを特徴とする(16)乃至(18)いずれか記載の形質転換体。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2016-052806号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、ジヒドロテントキシンを合成する非リボソーム型ペプチド合成酵素をコードするテントキシン合成関連遺伝子、ジヒドロテントキシンをテントキシンに変換する酵素をコードするテントキシン合成関連遺伝子を提供することができる。本発明に係るテントキシン合成関連遺伝子によれば、ジヒドロテントキシン及びテントキシンを合成する系を構築することができ、ジヒドロテントキシン及び/又はテントキシンを効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明に係るNRPS遺伝子の構成を示す模式図である。
図2】本実施例1において使用した発現ベクターの構成を示す模式図である。
図3】本実施例1で作製した形質転換体の菌体内及び培養上清中の代謝物をUPLCにより分析した結果を示す特性図である。
図4】本実施例1で作製した形質転換体の菌体内及び培養上清中の代謝物をUPLCにより分析し、テントキシン及びジヒドロテントキシンの生産量を算出した結果を示す表である。
図5】テントキシン標品のクロマトグラム及びMSスペクトル並びにジヒドロテントキシンのMSスペクトルを示す特性図であり、A)は保持時間2.80minのピークのMSスペクトル(UV=282nm)を示し、B)はテントキシン標品のクロマトグラム(UV=282nm)を示し、保持時間2.82minのピークのMSスペクトル(UV=220nm)を示している。
図6】本実施例2において使用した遺伝子導入用ベクターの構成を示す模式図である。
図7】本実施例2で作製したA)tenA高発現コンストラクト及びB)CmNps3高発現コンストラクトの構成を示す模式図である。
図8A】本実施例2で使用したCurvularia clavata 野生株の菌体内及び培養上清中の代謝物をHPLCにより分析した結果を示す特性図である。
図8B】本実施例2で作製したtenA高発現株の菌体内及び培養上清中の代謝物をHPLCにより分析した結果を示す特性図である。
図8C】本実施例2で使用したCmNps3高発現株の菌体内及び培養上清中の代謝物をHPLCにより分析した結果を示す特性図である。
図8D】tenA高発現株における保持時間13.8minのMSスペクトルを示す特性図である。
図8E】CmNps3高発現株における保持時間13.8minのMSスペクトルを示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
〔テントキシ合成関連遺伝子〕
本発明に係るテントキシン合成関連遺伝子は、テントキシンの前駆体であるジヒドロテントキシンを合成する非リボソーム型ペプチド合成酵素をコードする遺伝子と、ジヒドロテントキシンをテントキシンに変換する酵素をコードする遺伝子とを含む意味である。以下の説明において、テントキシンの前駆体であるジヒドロテントキシンを合成する非リボソーム型ペプチド合成酵素を単にNRPSと称し、当該NRPSをコードする遺伝子をNRPS遺伝子と称する。また、以下の説明において、ジヒドロテントキシンをテントキシンに変換する酵素をシトクロムP450やP450、酸化還元酵素等と称し、当該シトクロムP450をコードする遺伝子をP450遺伝子と称する。ここで、ジヒドロテントキシンは、体系名がシクロ(L-Leu-N-メチル-D-Phe-Gly-N-メチル-L-Ala-)であり、L−アラニン、L−ロイシン、フェニルアラニン及びグリシンを構成単位として含んでいる。テントキシンの体系名は、(2Z)-3-フェニル-N-メチルシクロ(Dha-Gly-N-メチル-L-Ala-L-Leu-)である。
【0035】
〔NRPS遺伝子〕
ジヒドロテントキシンを合成するNRPSは、L−アラニンのカルボシキル基とL−ロイシンのアミノ基との間にペプチド結合を形成し、L−ロイシンのカルボキシル基とフェニルアラニンのアミノ基との間にペプチド結合を形成し、フェニルアラニンのカルボキシル基とグリシンのアミノ基との間にペプチド結合を形成し、当該グリシンのカルボキシル基と上記L−アラニンのアミノ基との間にペプチド結合を形成する活性を有している。また、ジヒドロテントキシンを合成するNRPSは、L−ロイシンとフェニルアラニンとの間のペプチド結合をメチル化し、グリシンとL−アラニンとの間のペプチド結合をメチル化する活性を有している。
【0036】
ジヒドロテントキシン合成活性を有するNRPSは、L−アラニン、L−ロイシン、L−フェニルアラニン及びグリシンに対応する4つのモジュールを有している。各モジュールは、目的のアミノ酸を取り込むとともにアミノ酸にAMP(アデノシン一リン酸)を結合させてアミノアシルAMPを合成するAドメイン(アデニレーションドメイン: adenylation domain)を有している。また各モジュールは、ホスホパンテテインを有し、ホスホパンテテインのセリン部位とアミノアシルAMPとの間に形成されたチオエステルにより当該アミノアシルAMPを結合するPCPドメイン(ペプチジルキャリアタンパク質ドメイン:peptidyl carrier protein domain)を有している。さらに、各モジュールは、隣接するPCPドメインに結合したアミノアシルAMPの間にペプチド結合を形成するCドメイン(縮合ドメイン:condensation domain)を有している。さらにまた、モジュールの中には、形成されたペプチド結合をメチル化するnMTドメイン(N-メチルトランスフェラーゼドメイン:N-methyltransferase domain)を有しているものもある。
【0037】
上述した活性を有するNRPSは、図1に示すように、第1モジュールと第2モジュールと第3モジュールと第4モジュールとから構成される。ここで、NRPSの各モジュールの位置は、生合成されるペプチドを構成するアミノ酸の位置と一致する。また、nMTドメインを持つモジュールの位置は、N-メチル化されたペプチド結合の位置と一致する。上述した活性を有するNRPSにおいて、nMTドメインは、第2モジュールと第4モジュールに位置している。テントキシンの化学構造から分かるように、L−アラニンのペプチド結合とL−フェニルアラニンのペプチド結合がそれぞれN-メチル化される。ゆえに、第2モジュールと第4モジュールに対応するアミノ酸はそれぞれ、L−アラニンとL−フェニルアラニン、又は、L−フェニルアラニンとL−アラニンのいずれかの組み合わせに限定される。また、Rammらは、in vitroのペプチド合成機構の解析により、テントキシンはグリシンから順次アミノ酸が連結して合成されるか、またはL−グリシンとL−アラニンのジペプチドとL−フェニルアラニンとL−ロイシンのジペプチドが連結することで合成されることを示唆している(非特許文献7)。以上の知見を基に総合的に判断すると、上述した活性を有するNRPSにおいて、第1モジュールがジヒドロテントキシンにおけるグリシンに対応し、第2モジュールがジヒドロテントキシンにおけるL−アラニンに対応し、第3モジュールがジヒドロテントキシンにおけるL−ロイシンに対応し、第4モジュールがジヒドロテントキシンにおけるL−フェニルアラニンに対応すると考えられる。
【0038】
第1モジュールは、配列番号1に示すアミノ酸配列からなる第1のAドメインと、配列番号2に示すアミノ酸配列からなる第1のPCPドメインと、配列番号3に示すアミノ酸配列からなる第1のCドメインをN末端側からこの順で有している。ただし、第1モジュールにおける第1のAドメイン、第1のPCPドメイン及び第1のCドメインは、それぞれ配列番号1、2及び3に示すアミノ酸配列に限定されず、それぞれAドメイン、PCPドメイン及びCドメインとして機能するならば配列番号1、2及び3に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性、好ましくは80%以上の同一性、より好ましくは90%以上の同一性、更に好ましくは95%以上の同一性、最も好ましくは97%以上の同一性を有するアミノ酸配列であっても良い。
【0039】
第2モジュールは、配列番号4に示すアミノ酸配列からなる第2のAドメインと、配列番号5に示すアミノ酸配列からなる第1のnMTドメインと、配列番号6に示すアミノ酸配列からなる第2のPCPドメインと、配列番号7に示すアミノ酸配列からなる第2のCドメインをN末端側からこの順で有している。ただし、第2モジュールにおける第2のAドメイン、第1のnMTドメイン、第2のPCPドメイン及び第2のCドメインは、それぞれ配列番号4、5、6及び7に示すアミノ酸配列に限定されず、それぞれAドメイン、nMTドメイン、PCPドメイン及びCドメインとして機能するならば配列番号4、5、6及び7に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性、好ましくは80%以上の同一性、より好ましくは90%以上の同一性、更に好ましくは95%以上の同一性、最も好ましくは97%以上の同一性を有するアミノ酸配列であっても良い。
【0040】
第3モジュールは、配列番号8に示すアミノ酸配列からなる第3のAドメインと、配列番号9に示すアミノ酸配列からなる第3のPCPドメインと、配列番号10に示すアミノ酸配列からなる第3のCドメインをN末端側からこの順で有している。ただし、第3モジュールにおける第3のAドメイン、第3のPCPドメイン及び第3のCドメインは、それぞれ配列番号8、9及び10に示すアミノ酸配列に限定されず、それぞれAドメイン、PCPドメイン及びCドメインとして機能するならば配列番号8、9及び10に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性、好ましくは80%以上の同一性、より好ましくは90%以上の同一性、更に好ましくは95%以上の同一性、最も好ましくは97%以上の同一性を有するアミノ酸配列であっても良い。
【0041】
第4モジュールは、配列番号11に示すアミノ酸配列からなる第4のAドメインと、配列番号12に示すアミノ酸配列からなる第2のnMTドメインと、配列番号13に示すアミノ酸配列からなる第4のPCPドメインと、配列番号14に示すアミノ酸配列からなる第4のCドメインとをN末端側からこの順で有している。ただし、第4モジュールにおける第4のAドメイン、第2のnMTドメイン、第4のPCPドメイン及び第4のCドメインは、それぞれ配列番号11、12、13及び14に示すアミノ酸配列に限定されず、それぞれAドメイン、nMTドメイン、PCPドメイン及びCドメインとして機能するならば配列番号11、12、13及び14に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性、好ましくは80%以上の同一性、より好ましくは90%以上の同一性、更に好ましくは95%以上の同一性、最も好ましくは97%以上の同一性を有するアミノ酸配列であっても良い。
【0042】
ところで、第1のAドメインが配列番号1のアミノ酸配列と異なる場合に、グリシンに対応するAドメインとして機能しうるかは、以下のように評価することができる。まず、配列番号1のアミノ酸配列と異なるように設計した第1の変異型Aドメインをコードするように変異型NRPS遺伝子を設計する。この変異型NRPS遺伝子を適当な宿主内で発現させ、宿主内及び培養上清中の代謝物中に目的とするジヒドロテントキシンが合成されているか確認する。代謝物中にジヒドロテントキシンが合成されている場合には、設計した第1の変異型Aドメインがグリシンに対応するAドメインとして機能していると評価することができる。なお、第2〜4のAドメインが配列番号4、8及び11のアミノ酸配列と異なる場合においても、同様にしてAドメインとして機能しうるか評価することができる。
【0043】
また、第1のPCPドメインが配列番号2のアミノ酸配列と異なる場合に、PCPドメインとして機能しうるかは、以下のように評価することができる。まず、配列番号2のアミノ酸配列と異なるように設計した第1の変異型PCPドメインをコードするように変異型NRPS遺伝子を設計する。この変異型NRPS遺伝子を適当な宿主内で発現させ、宿主内及び培養上清中の代謝物中に目的とするジヒドロテントキシンが合成されているか確認する。代謝物中にジヒドロテントキシンが合成されている場合には、設計した第1の変異型PCPドメインがPCPドメインとして機能していると評価することができる。なお、第2〜4のPCPドメインが配列番号6、9及び13のアミノ酸配列と異なる場合においても、同様にしてPCPドメインとして機能しうるか評価することができる。
【0044】
さらに、第1のCドメインが配列番号3のアミノ酸配列と異なる場合に、Cドメインとして機能しうるかは、以下のように評価することができる。まず、配列番号3のアミノ酸配列と異なるように設計した第1の変異型Cドメインをコードするように変異型NRPS遺伝子を設計する。この変異型NRPS遺伝子を適当な宿主内で発現させ、宿主内及び培養上清中の代謝物中に目的とするジヒドロテントキシンが合成されているか確認する。代謝物中にジヒドロテントキシンが合成されている場合には、設計した第1の変異型CドメインがCドメインとして機能していると評価することができる。なお、第2〜4のCドメインが配列番号7、10及び14のアミノ酸配列と異なる場合においても、同様にしてCドメインとして機能しうるか評価することができる。
【0045】
さらにまた、第1のnMTドメインが配列番号5のアミノ酸配列と異なる場合に、nMTドメインとして機能しうるかは、以下のように評価することができる。まず、配列番号5のアミノ酸配列と異なるように設計した第1の変異型nMTドメインをコードするように変異型NRPS遺伝子を設計する。この変異型NRPS遺伝子を適当な宿主内で発現させ、宿主内及び培養上清中の代謝物中に目的とするジヒドロテントキシンが合成されているか確認する。代謝物中にジヒドロテントキシンが合成されている場合には、設計した第1の変異型nMTドメインがnMTドメインとして機能していると評価することができる。なお、第2のnMTドメインが配列番号12のアミノ酸配列と異なる場合においても、同様にしてnMTドメインとして機能しうるか評価することができる。
【0046】
以上のように、NRPS遺伝子は、第1モジュール〜第4モジュールで規定することができる。一例として、Alternaria alternata由来であって、ジヒドロテントキシン合成活性を有するNRPSのアミノ酸配列を配列番号16に示し、配列番号16に示すアミノ酸配列に対応するコーディング領域の塩基配列を配列番号15に示す。
【0047】
したがって、本発明に係るNRPS遺伝子は、上述した配列番号1〜14に示すアミノ酸配列で規定される第1モジュール〜第4モジュールを備え、且つ、配列番号16に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性、好ましくは80%以上の同一性、より好ましくは90%以上の同一性、更に好ましくは95%以上の同一性、最も好ましくは97%以上の同一性を有するアミノ酸配列であって、ジヒドロテントキシン合成活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。アミノ酸配列間の同一性の値は、BLASTアルゴリズムを実装したBLASTNやBLASTXプログラムにより算出することができる(デフォルトの設定)。なお、同一性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基を算出し、比較した全アミノ酸残基中の割合として算出される。
【0048】
また、本発明に係るNRPS遺伝子は、上述した配列番号1〜14に示すアミノ酸配列で規定される第1モジュール〜第4モジュールを備え、且つ、配列番号16のアミノ酸配列に対して、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有し、ジヒドロテントキシン合成活性を有するタンパク質をコードするものでも良い。ここで、数個とは、例えば、2〜510個、好ましくは2〜400個、より好ましくは2〜300個、更に好ましくは2〜100個、更に好ましくは2〜50個、更に好ましくは2〜20個、更に好ましくは2〜10個である。
【0049】
さらに、本発明に係るNRPS遺伝子、上述した配列番号1〜14に示すアミノ酸配列で規定される第1モジュール〜第4モジュールを備え、且つ、配列番号15の塩基配列からなるDNAの相補鎖の全部又は一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つジヒドロテントキシン合成活性を有するタンパク質をコードするものでもよい。ここでいう「ストリンジェントな条件」とはいわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual(Third Edition)を参照して適宜決定することができる。具体的には、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェンシーを設定することができる。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム濃度が25〜500mM、好ましくは25〜300mMであり、温度が42〜68℃、好ましくは42〜65℃である。より具体的には、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃である。
【0050】
ところで、本発明に係るNRPS遺伝子は、上述した配列番号1〜14に示すアミノ酸配列で規定される第1モジュール〜第4モジュールを備えるタンパク質をコードするものに限定されるものではない。上述のように、Alternaria alternata由来であって、ジヒドロテントキシン合成活性を有するNRPSのアミノ酸配列を配列番号16に示し、当該アミノ酸配列に対応するコーディング領域の塩基配列を配列番号15に示したが、これら配列番号15及び16により本発明に係るNRPS遺伝子を規定することもできる。
【0051】
すなわち、本発明に係るNRPS遺伝子は、配列番号16に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子とすることができる。
【0052】
また、本発明に係るNRPS遺伝子は、配列番号16に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性、好ましくは80%以上の同一性、より好ましくは90%以上の同一性、更に好ましくは95%以上の同一性、最も好ましくは97%以上の同一性を有するアミノ酸配列であって、ジヒドロテントキシン合成活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。アミノ酸配列間の同一性の値は、上記と同様に、BLASTアルゴリズムを実装したBLASTNやBLASTXプログラムにより算出することができる(デフォルトの設定)。なお、同一性の値は、上記と同様に、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基を算出し、比較した全アミノ酸残基中の割合として算出される。
【0053】
また、本発明に係るNRPS遺伝子は、塩基配列情報を格納した公知のデータベースを利用して、配列番号15に示す塩基配列に対してカバー率が高く、E-valueが低く、identityの値が高いといった条件を満たす遺伝子を同定することができる。ここで、同定する遺伝子の条件として、カバー率は90%以上とすることができ、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上とする。また、同定する遺伝子の条件として、E-valueが1.0e-5以下とすることができ、好ましくは1.0e-15以下、より好ましくは0.0とする。さらに、また、同定する遺伝子の条件として、identityの値が70%以上とすることができ、好ましくは75%以上、より好ましくは78%以上とする。これらの条件を満たすものとして同定された遺伝子は、配列番号15の塩基配列からなるNRPS遺伝子の相同遺伝子である蓋然性が非常に高く、配列番号15の塩基配列からなるNRPS遺伝子と同様にジヒドロテントキシン合成活性を有するタンパク質をコードする遺伝子として同定できる。
【0054】
具体的に、NCBIデータベースを用いて配列番号15に示す塩基配列をクエリー配列としてBlast検索すると下記表の3つの相同遺伝子を同定することができる。これら相同遺伝子については、ジヒドロテントキシン合成能を有するタンパク質をコードする蓋然性が高いといえる。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示した遺伝子がジヒドロテントキシン合成活性を有するタンパク質をコードすることは、当該遺伝子を有する微生物を入手し、当該微生物のジヒドロテントキシン及び/又はテントキシン合成能を検証すればよい。入手した微生物におけるジヒドロテントキシン及び/又はテントキシン合成能は、当該微生物を培養し、培養菌体内又は培養上清にジヒドロテントキシン又はテントキシンが含まれているか確認することで検証することができる。
【0057】
すなわち、本発明に係るNRPS遺伝子は、上述した配列番号1〜14に示すアミノ酸配列で規定される第1モジュール〜第4モジュールを備えるタンパク質をコードするものに限定されず、配列番号20、22及び24のいずれかのアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子とすることができる。
【0058】
また、本発明に係るNRPS遺伝子は、配列番号20、22及び24のいずれかのアミノ酸配列に対して70%以上の同一性、好ましくは80%以上の同一性、より好ましくは90%以上の同一性、更に好ましくは95%以上の同一性、最も好ましくは97%以上の同一性を有するアミノ酸配列であって、ジヒドロテントキシン合成活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。アミノ酸配列間の同一性の値は、上記と同様に、BLASTアルゴリズムを実装したBLASTNやBLASTXプログラムにより算出することができる(デフォルトの設定)。なお、同一性の値は、上記と同様に、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基を算出し、比較した全アミノ酸残基中の割合として算出される。
【0059】
一方、本発明に係るNRPS遺伝子は、配列番号16、20、22及び24のいずれかのアミノ酸配列に対して、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有し、ジヒドロテントキシン合成活性を有するタンパク質をコードするものでも良い。ここで、数個とは、上記と同様に、例えば、2〜510個、好ましくは2〜400個、より好ましくは2〜300個、更に好ましくは2〜100個、更に好ましくは2〜50個、更に好ましくは2〜20個、更に好ましくは2〜10個である。
【0060】
さらにまた、本発明に係るNRPS遺伝子、配列番号15、19、21及び23のいずれかの塩基配列からなるDNAの相補鎖の全部又は一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つジヒドロテントキシン合成活性を有するタンパク質をコードするものでもよい。ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、上記と同様に、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual(Third Edition)を参照して適宜決定することができる。具体的には、上記と同様に、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェンシーを設定することができる。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム濃度が25〜500mM、好ましくは25〜300mMであり、温度が42〜68℃、好ましくは42〜65℃である。より具体的には、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃である。
【0061】
上述したように、配列番号15と異なる塩基配列からなる遺伝子、又は配列番号16とは異なるアミノ酸配列をコードする遺伝子が、ジヒドロテントキシン合成活性を有するタンパク質をコードするか否かは、当該遺伝子を発現可能な宿主に導入し、培養物及び/又は培養上清にジヒドロテントキシンが含まれるか検証することで確認できる。
【0062】
ところで、本発明に係るNRPS遺伝子は、その塩基配列が確定されると、化学合成によって、又はゲノムDNAを鋳型としたPCRによって、あるいは当該塩基配列を有するDNA断片をプローブとしてハイブリダイズさせることによって作製することができる。さらに、配列番号15と異なる塩基配列からなる遺伝子、又は配列番号16とは異なるアミノ酸配列をコードする遺伝子は、配列番号15に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して部位特定変異誘発等によって合成することもできる。なお、配列番号15に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドに変異を導入するには、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(タカラバイオ社製)やMutant-G(タカラバイオ社製))などを用いて、あるいは、タカラバイオ社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて変異の導入が行われる。
【0063】
特に、本発明に係るNRPS遺伝子は、テントキシン及び/又はジヒドロテントキシンを生産することが知られている微生物から単離することができる。一例としては、Alternaria alternataからNRPS遺伝子(配列番号16に示すアミノ酸配列をコードするNRPS遺伝子)を単離することができる。
【0064】
また、本発明に係るNRPS遺伝子は、配列番号15に示す塩基配列を利用して、Alternaria alternata以外のAlternaria属糸状菌からも単離できる蓋然性が高い。すなわち、配列番号15に示す塩基配列から選ばれる連続する一部の塩基配列からなるポリヌクレオチドをプローブとしたハイブリダイズ反応を利用することで、Alternaria alternata以外のAlternaria属糸状菌のゲノム或いは転写産物由来のcDNAから本発明に係るNRPS遺伝子を単離できる。なお、Alternaria alternata以外のAlternaria属糸状菌は、テントキシンを生産しないものでも良いし、テントキシンを生産するものでも良い。テントキシンを生産しないAlternaria属糸状菌であっても、本発明に係るNRPS遺伝子を有している可能性があるからである。
【0065】
Alternaria alternata以外のAlternaria属糸状菌としては、例えば、Alternaria alternantherae、Alternaria arborescens、Alternaria arbusti、Alternaria blumeae、Alternaria brassicae、Alternaria brassicicola、Alternaria burnsii、Alternaria carotiincultae、Alternaria carthami、Alternaria celosiae、Alternaria cinerariae、Alternaria citri、Alternaria conjuncta、Alternaria cucumerina、Alternaria dauci、Alternaria dianthi、Alternaria dianthicola、Alternaria eichhorniae、Alternaria euphorbiicola、Alternaria gaisen、Alternaria helianthi、Alternaria helianthicola、Alternaria hungarica、Alternaria infectoria、Alternaria japonica、Alternaria kikutiana、Alternaria limicola、Alternaria linicola、Alternaria longipes、Alternaria mali、Alternaria molesta、Alternaria panax、Alternaria perpunctulata、Alternaria petroselini、Alternaria porri、Alternaria radicina、Alternaria raphani、Alternaria saponariae、Alternaria selini、Alternaria senecionis、Alternaria solani、Alternaria smyrnii、Alternaria tenuis、Alternaria tenuissima、Alternaria tomatophila、Alternaria triticina及びAlternaria zinniae等を挙げることができる。
〔P450遺伝子〕
本発明に係るP450遺伝子は、ジヒドロテントキシンをテントキシンに変換する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子である。本発明に係るP450遺伝子は、一例としてAlternaria alternata由来であって、ジヒドロテントキシンをテントキシンに変換する活性を有するP450のアミノ酸配列を配列番号18に示し、当該アミノ酸配列に対応するコーディング領域の塩基配列を配列番号17に示す。本発明に係るP450遺伝子は、これら配列番号17及び18により規定することができる。
【0066】
すなわち、本発明に係るP450遺伝子は、配列番号18に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子とすることができる。
【0067】
また、本発明に係るP450遺伝子は、配列番号18に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性、好ましくは80%以上の同一性、より好ましくは90%以上の同一性、更に好ましくは95%以上の同一性、最も好ましくは97%以上の同一性を有するアミノ酸配列であって、ジヒドロテントキシンをテントキシンに変換する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。アミノ酸配列間の同一性の値は、上記と同様に、BLASTアルゴリズムを実装したBLASTNやBLASTXプログラムにより算出することができる(デフォルトの設定)。なお、同一性の値は、上記と同様に、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基を算出し、比較した全アミノ酸残基中の割合として算出される。
【0068】
さらに、本発明に係るP450遺伝子は、配列番号18のアミノ酸配列に対して、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有し、ジヒドロテントキシンをテントキシンに変換する活性を有するタンパク質をコードするものでも良い。ここで、数個とは、上記と同様に、例えば、2〜50個、好ましくは2〜40個、より好ましくは2〜30個、更に好ましくは2〜20個、更に好ましくは2〜10個、更に好ましくは2〜5個である。
【0069】
さらにまた、本発明に係るP450遺伝子、配列番号17の塩基配列からなるDNAの相補鎖の全部又は一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つジヒドロテントキシンをテントキシンに変換する活性を有するタンパク質をコードするものでもよい。ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、上記と同様に、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual(Third Edition)を参照して適宜決定することができる。具体的には、上記と同様に、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェンシーを設定することができる。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム濃度が25〜500mM、好ましくは25〜300mMであり、温度が42〜68℃、好ましくは42〜65℃である。より具体的には、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃である。
【0070】
上述したように、配列番号17と異なる塩基配列からなる遺伝子、又は配列番号18とは異なるアミノ酸配列をコードする遺伝子が、ジヒドロテントキシンをテントキシンに変換する活性を有するタンパク質をコードするか否かは、当該遺伝子をジヒドロテントキシン合成活性を有する宿主(一例として上述したNRPS遺伝子を導入した宿主)に発現可能に導入し、培養物及び/又は培養上清にテントキシンが含まれるか検証することで確認できる。
【0071】
ところで、本発明に係るP450遺伝子は、その塩基配列が確定されると、化学合成によって、又はゲノムDNAを鋳型としたPCRによって、あるいは当該塩基配列を有するDNA断片をプローブとしてハイブリダイズさせることによって作製することができる。さらに、配列番号17と異なる塩基配列からなる遺伝子、又は配列番号18とは異なるアミノ酸配列をコードする遺伝子は、配列番号17に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して部位特定変異誘発等によって合成することもできる。なお、配列番号17に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドに変異を導入するには、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(タカラバイオ社製)やMutant-G(タカラバイオ社製))などを用いて、あるいは、タカラバイオ社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて変異の導入が行われる。
【0072】
特に、本発明に係るP450遺伝子は、テントキシン及び/又はジヒドロテントキシンを生産することが知られている微生物から単離することができる。一例としては、Alternaria alternataからP450遺伝子(配列番号18に示すアミノ酸配列をコードするP450遺伝子)を単離することができる。
【0073】
また、本発明に係るP450遺伝子は、配列番号17に示す塩基配列を利用して、Alternaria alternata以外のAlternaria属糸状菌からも単離できる蓋然性が高い。すなわち、配列番号17に示す塩基配列から選ばれる連続する一部の塩基配列からなるポリヌクレオチドをプローブとしたハイブリダイズ反応を利用することで、Alternaria alternata以外のAlternaria属糸状菌のゲノム或いは転写産物由来のcDNAから本発明に係るP450遺伝子を単離できる。なお、Alternaria alternata以外のAlternaria属糸状菌は、テントキシンを生産しないものでも良いし、テントキシンを生産するものでも良い。テントキシンを生産しないAlternaria属糸状菌であっても、本発明に係るNRPS遺伝子を有している可能性があるからである。
【0074】
Alternaria alternata以外のAlternaria属糸状菌としては、例えば、Alternaria alternantherae、Alternaria arborescens、Alternaria arbusti、Alternaria blumeae、Alternaria brassicae、Alternaria brassicicola、Alternaria burnsii、Alternaria carotiincultae、Alternaria carthami、Alternaria celosiae、Alternaria cinerariae、Alternaria citri、Alternaria conjuncta、Alternaria cucumerina、Alternaria dauci、Alternaria dianthi、Alternaria dianthicola、Alternaria eichhorniae、Alternaria euphorbiicola、Alternaria gaisen、Alternaria helianthi、Alternaria helianthicola、Alternaria hungarica、Alternaria infectoria、Alternaria japonica、Alternaria kikutiana、Alternaria limicola、Alternaria linicola、Alternaria longipes、Alternaria mali、Alternaria molesta、Alternaria panax、Alternaria perpunctulata、Alternaria petroselini、Alternaria porri、Alternaria radicina、Alternaria raphani、Alternaria saponariae、Alternaria selini、Alternaria senecionis、Alternaria solani、Alternaria smyrnii、Alternaria tenuis、Alternaria tenuissima、Alternaria tomatophila、Alternaria triticina及びAlternaria zinniae等を挙げることができる。
〔形質転換体〕
上述した本発明に係るテントキシン合成関連遺伝子のうち、NRPS遺伝子を発現可能に宿主に導入することによってジヒドロテントキシン合成能を有する形質転換体を作製することができ、また、NRPS遺伝子及びP450遺伝子をともに発現可能に宿主に導入することによってテントキシン合成能を有する形質転換体を作製することができる。なお、上述したP450遺伝子を、ジヒドロテントキシン合成能を有する宿主に導入することによってテントキシン合成能を有する形質転換体を作製することができる。
【0075】
ここで宿主としては、特に限定されず、如何なる生物、特に如何なる微生物も宿主とすることができる。宿主として使用できる微生物は、特に限定されないが、例えば、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)などのエッシェリヒア属、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)などのコリネ菌、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)などのバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)などのシュードモナス属、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)などのリゾビウム属に属する細菌が挙げられ、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などの酵母、糸状菌などを含む真菌が挙げられる。
【0076】
大腸菌などの細菌を宿主とする場合、発現ベクターは、該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、上述した遺伝子、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、発現ベクターには、プロモーター活性を制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0077】
プロモーターとしては、大腸菌などの宿主中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。例えばtrpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーターなどの大腸菌由来のものやT7プロモーターなどのファージ由来のものが用いられる。さらに、tacプロモーターなどのように人為的に設計改変されたプロモーターを用いてもよい。
【0078】
発現ベクターの導入方法としては、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法[Cohen, S.N.,et al.:Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 69:2110-2114 (1972)]、エレクトロポレーション法などが挙げられる。
【0079】
また、宿主として用いることができる酵母としては、特に限定するものではないがCandida Shehatae等のCandida属酵母、Pichia stipitis等のPichia属酵母、Pachysolen tannophilus等のPachysolen属酵母、Saccharomyces cerevisiae等のSaccharomyces属酵母及びSchizosaccharomyces pombe等のSchizosaccharomyces属酵母が挙げられ、特にSaccharomyces cerevisiaeが好ましい。
【0080】
また、上述したNRPS遺伝子やP450遺伝子の発現を強化する際には、転写活性の高い適当なプロモーターを使用する。このようなプロモーターとしては、特に限定されないが、例えばグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(TDH3)のプロモーター、3-ホスホグリセレートキナーゼ遺伝子(PGK1)のプロモーター、高浸透圧応答7遺伝子(HOR7)のプロモーターなどが利用可能である。なかでもピルビン酸脱炭酸酵素遺伝子(PDC1)のプロモーターが下流の目的遺伝子を高発現させる能力が高いために好ましい。その他にも、gal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、PHO5プロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOX1プロモーターなどを使用することで、下流の遺伝子を強発現させることができる。
【0081】
宿主に使用できる糸状菌としては、特に限定されないが、Aspergillus nidulans、Aspergillus niger、Aspergillus oryzae、Aspergillus sojae、Aspergillus glaucus等のAspergillus属糸状菌、Trichoderma reesei、Trichoderma viride等のTrichoderma属糸状菌、Rhizomucor pusillus、Rhizomucor miehei等のRhizomucor属糸状菌、Penicillium notatum、Penicillium chrysogenum等のPenicillium属糸状菌、Rhizopus oryzae等のRhizopus属糸状菌、Acremonium cellulolyticus、Humicola grisea、Thermoaseus aurantiacusを挙げることができる。特に、宿主としては、Aspergillus属糸状菌、中でもAspergillus oryzaeが好ましい。
【0082】
上述したNRPS遺伝子やP450遺伝子を糸状菌において発現させる際には、α-アミラーゼ遺伝子(amyB)のプロモーター、α-グルコシダーゼ遺伝子(agdA)のプロモーター、グルコアミラーゼ遺伝子のプロモーター(glaA)、トリプトファン生合成遺伝子(trpC)のプロモーター、アルコール脱水素酵素遺伝子(alcA)のプロモーター、翻訳伸長因子遺伝子(tef1)のプロモーター、トリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子(tpiA)のプロモーター、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(gpdA)遺伝子のプロモーター、エノラーゼ(enoA)のプロモーター、ピルビン酸カルボキシラーゼ(pdcA)のプロモーター、セロビオハイドラーゼ遺伝子(cbh1)のプロモーター等を使用することができる。
【0083】
また、上述した遺伝子を導入する方法としては、酵母及び糸状菌の形質転換方法として知られている従来公知のいかなる手法をも適用することができる。具体的には、例えば、トランスフォーメーション法や、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、スフェロプラスト法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、酢酸リチウム法等を用いることができる。
〔ジヒドロテントキシン又はテントキシンの製造〕
上述した形質転換体を利用することで、目的とするテントキシンやジヒドロテントキシンを製造することができる。すなわち、上述した本発明に係るテントキシン合成関連遺伝子のうち、NRPS遺伝子を発現可能に導入した形質転換体を利用することで、ジヒドロテントキシンを製造することができる。また、NRPS遺伝子及びP450遺伝子をともに発現可能に導入した形質転換体を利用することによって、テントキシンを製造することができる。さらに、上述したP450遺伝子を、ジヒドロテントキシン合成能を有する宿主に発現可能に導入した形質転換体を利用することによってテントキシンを製造することができる。
【0084】
形質転換体にて合成されたテントキシンやジヒドロテントキシンは、培養上清からは、遠心分離機、ミラクロス等で菌体を分離した後、酢酸エチル等の有機溶媒を加え抽出する。菌体内からは、物理的破壊法(ホモジナイザー、ガラスビーズ破砕、凍結融解など)や化学的破壊法(溶剤処理、酸、塩基処理、浸透圧処理、酵素処理など)によって菌体外に放出させた後、酢酸エチル等の有機溶媒を加え抽出する。抽出したテントキシンやジヒドロテントキシンの精製については、既存の精製方法(カラムクロマトグラフィー、塩沈降など)によって実施することができる。これらの方法は、必要に応じて適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0085】
以上のように製造したテントキシンは、例えば除草剤として利用することができる。また、製造したジヒドロテントキシンは、テントキシンの前駆体としてテントキシン合成の原料として使用することができる。また、ジヒドロテントキシンは、テントキシンと同等或いはそれ以上の除草剤活性を有するテントキシン類縁体の原料として使用することができる。
【0086】
より具体的にテントキシンを除草剤として使用する場合、そのまま用いても良いが、通常は適当な固体担体、液体担体等、界面活性剤及びその他の製剤用補助剤と混合して乳剤、EW剤、液剤、懸濁剤、水和剤、顆粒水和剤、粉剤、DL粉剤、微粒剤、微粒剤F、粒剤、錠剤、油剤、エアゾル、フロアブル剤、ドライフロアブル、マイクロカプセル剤等の任意の剤型にして使用することができる。
【0087】
固体担体としては、例えば澱粉、活性炭、大豆粉、小麦粉、木粉、魚粉、粉乳等の動植物性粉末、タルク、カオリン、ベントナイト、炭酸カルシウム、ゼオライト、珪藻土、ホワイトカーボン、クレー、アルミナ、硫安、尿素等の無機物粉末が挙げられる。
【0088】
液体担体としては、例えば水;イソプロピルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類;シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ケロシン、軽油等の脂肪族炭化水素類;キシレン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、メチルナフタリン、ソルベントナフサ等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;ジメチルアセトアミド等の酸アミド類;脂肪酸のグリセリンエステル等のエステル類;アセトニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド等の含硫化合物類等が挙げられる。
【0089】
界面活性剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸金属塩、ジナフチルメタンジスルホン酸金属塩、アルコール硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、ポリオキシエチレングリコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノアルキレート等が挙げられる。
【0090】
その他の補助剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、グアーガム、トラガントガム、ポリビニルアルコール等の固着剤あるいは増粘剤、金属石鹸等の消泡剤、脂肪酸、アルキルリン酸塩、シリコーン、パラフィン等の物性向上剤、着色剤等を用いることができる。
【0091】
除草剤の種々の製剤、またはその希釈物の施用は、通常、一般に行われている施用方法、即ち、散布(例えば噴霧、ミスティング、アトマイジング、散粉、散粒、水面施用、箱施用等)、土壌施用(例えば混入、潅注等)、表面施用(例えば塗布、粉衣、被覆等)、浸漬、毒餌、くん煙施用等により行うことができる。また、いわゆる超高濃度少量散布法により施用することもできる。この方法においては、活性成分を100%含有することが可能である。
【0092】
さらに、テントキシンを有効成分とする除草剤は、テントキシン単独で有効成分としても十分有効であることはいうまでもないが、必要に応じて他の肥料、農薬、例えば殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、殺菌剤、抗ウイルス剤、誘引剤、他の除草剤、植物生長調整剤などと混用、併用することができ、この場合に一層優れた効果を示すこともある。
【0093】
混合又は併用してもよい公知の除草剤化合物、植物成長調整剤を以下に例示する。限定されるものではないが、例えば、2,2,2-トリクロロ酢酸(TCA)(ナトリウム、カルシウム又はアンモニアなどの塩を含む)、2,3,6-トリクロロ安息香酸(2,3,6-TBA)、2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸(2,4,5-T)、2,4-D・コリン塩(2,4-D choline salt)、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)(アミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、イソプロピルアミン、ナトリウム又はリチウムなどの塩を含む)、2-メチル-4-クロロフェノキシ酢酸(MCPA)、2-メチル-4-クロロフェノキシ酪酸(MCPB)(ナトリウム塩、エチルエステルなどを含む)、4,6-ジニトロ-O-クレゾール(DNOC)(アミン又はナトリウムなどの塩を含む)、4-(2,4-ジクロロフェノキシ)酪酸(2,4-DB)、ACN、AE-F‐150944(コード番号)、DSMA、HW-02、IR-6396、MCPA・チオエチル(MCPA-thioethyl)、S-エチルジプロピルチオカーバメート(EPTC)、S-メトラクロール(S-metolachlor)、SW-065、SYP-298(コード番号)、SYP-300(コード番号)、アイオキシニル(ioxynil)、アクロニフェン(aclonifen)、アクロレイン(acrolein)、アザフェニジン(azafenidin)、アシフルオルフェン(acifluorfen)(ナトリウムなどとの塩を含む)、アシュラム(asulam)、アジムスルフロン(azimsulfuron)、アセトクロ-ル(acetochlor)、アトラジン(atrazine)、アニロホス(anilofos)、アミカルバゾン(amicarbazone)、アミトロール(amitrole)、アミドスルフロン(amidosulfuron)、アミノシクロピラクロル(aminocyclopyrachlor)、アミノピラリド(aminopyralid)、アミプロホス・メチル(amiprofos-methyl)、アメトリン(ametryn)、アラクロール(alachlor)、アロキシジム(alloxydim)、イソウロン(isouron)、イソキサクロルトール(isoxachlortole)、イソキサフルトール(isoxaflutole)、イソキサベン(isoxaben)、イソプロツロン(isoproturon)、イプフェンカルバゾン(ipfencarbazone)、イマザキン(imazaquin)、イマザピク(imazapic)(アミン等との塩を含む)、イマザピル(imazapyr)(イソプロピルアミン等の塩を含む)、イマザメタベンズ・メチル(imazamethabenz-methyl)、イマザモックス(imazamox)、イマゼタピル(imazethapyr)、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、インダジフラム(indaziflam)、インダノファン(indanofan)、エグリナジン・エチル(eglinazine-ethyl)、エスプロカルブ(esprocarb)、エタメトスルフロン・メチル(ethametsulfuron-methyl)、エタルフルラリン(ethalfluralin)、エチジムロン(ethidimuron)、エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、エトキシフェン・エチル(ethoxyfen-ethyl)、エトフメセート(ethofumesate)、エトベンザニド(etobenzanid)、エンドタール二ナトリウム塩(endothal-disodium)、オキサジアゾン(oxadiazon)、オキサジアルギル(oxadiargyl)、オキサジクロメホン(oxaziclomefone)、オキサスルフロン(oxasulfuron)、オキシフルオルフェン(oxyfluorfen)、オリザリン(oryzalin)、オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、オルベンカルブ(orbencarb)、オレイン酸、カフェンストロール(cafenstrole)、カルフェントラゾン・エチル(carfentrazone-ethyl)、カルブチレート(karbutilate)、カルベタミド(carbetamide)、キザロホップ・P・エチル(quizalofop-P-ethyl)、キザロホップ・P・テフリル(quizalofop-P-tefuryl)、キザロホップ・エチル(quizalofop-ethyl)、キノクラミン(quinoclamine)、キンクロラック(quinclorac)、キンメラック(quinmerac)、クミルロン(cumyluron)、クラシホス(clacyfos)、クレトジム(clethodim)、クロジナホップ・プロパルギル(clodinafop-propargyl)、クロピラリド(clopyralid)、クロマゾン(clomazone)、クロメトキシフェン(chlomethoxyfen)、クロメプロップ(clomeprop)、クロランスラム・メチル(cloransulam-methyi)、クロランベン(chloramben)、クロリダゾン(chloridazon)、クロリムロン・エチル(chlorimuron-ethyl)、クロルスルフロン(chlorsulfuron)、クロルタル・ジメチル(chlorthal-dimethyl)、クロルチアミド(chlorthiamid)、クロルフタリム(chlorphthalim)、クロルフルレノール・メチル(chlorflurenol-methyl)、クロルブロムロン(chlorbromuron)、クロルプロファム(chlorpropham)、塩化クロルメコート(chlormequat chloride)、クロロクスロン(chloroxuron)、クロロトルロン(chlorotoluron)、グリホサート(glyphosate)(ナトリウム、アミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジメチルアミン又はトリメシウム等の塩を含む)、グルホシネート・P・ナトリウム塩(glufosinate-P-sodium)、グルホシネート(glufosinate)(アミン又はナトリウム等の塩を含む)、ケトスピラドックス(ketospirodox)、ケトスピロドックス・カリウム塩(ketospirodox-potassium)、サフルフェナシル(saflufenacil)、サルメンチン(sarmentine)、シアナジン(cyanazine)、シアナミド(cyanamide)、シクロエート(cycloate)、シクロキシジム(cycloxydim)、シクロスルファムロン(cyclosulfamuron)、シクロピリモレート(cyclopyrimorate)、シデュロン(siduron)、シニドン・エチル(cinidon-ethyl)、シノスルフロン(cinosulfuron)、シハロホップ・ブチル(cyhalofop-butyl)、シマジン(simazine)、シメトリン(simetryn)、シンメチリン(cinmethylin)、ジウロン(diuron)、ジエタチル・エチル(diethatyl-ethyl)、ジカンバ(dicamba)(アミン、ジエチルアミン、イソプロピルアミン、ジグリコールアミン、ナトリウム又はリチウム等の塩を含む)、ジクロスラム(diclosulam)、ジクロベニル(dichlobenil)、ジクロホップ・P・メチル(diclofop-P-methyl)、ジクロホップ・メチル(diclofop-methyl)、ジクロルプロップ-P(dichlorprop-P)、ジクロルプロップ(dichlorprop)、ジクワット(diquat)、ジチオピル(dithiopyr)、ジニトラミン(dinitramine)、ジノセブ(dinoseb)、ジノテルブ(dinoterb)、ジフェナミド(diphenamid)、ジフェンゾコート(difenzoquat)、ジフルフェニカン(diflufenican)、ジフルフェンゾピル(diflufenzopyr)、ジフルメトリム(diflumetorim)、ジメタクロール(dimethachlor)、ジメタメトリン(dimethametryn)、ジメテナミド・P(dimethenamid-P)、ジメテナミド(dimethenamid)、ジメピペレート(dimepiperate)、ジメフロン(dimefuron)、スエップ(swep)、スルコトリオン(sulcotrione)、スルフェントラゾン(sulfentrazone)、スルホサート(sulfosate)、スルホスルフロン(sulfosulfuron)、スルホメツロンメチル(sulfometuron-methyl)、セトキシジム(sethoxydim)、ターバシル(terbacil)、タキストミン・A(thaxtomin A)、ダイムロン(daimuron)、ダゾメット(dazomet)、ダラポン(dalapon)、チアゾピル(thiazopyr)、チアフェナシル(tiafenacil)、チエンカルバゾン(thiencarbazone)(ナトリウム塩、メチルエステル等を含む)、チオカルバジル(tiocarbazil)、チオベンカルブ(thiobencarb)、チジアジミン(thidiazimin)、チフェンスルフロン・メチル(thifensulfuron-methyl)、テニルクロール(thenylchlor)、テフリルトリオン(tefuryltrione)、テブタム(tebutam)、テブチウロン(tebuthiuron)、テプラロキシジム(tepraloxydim)、テムボトリオン(tembotrione)、テルブチラジン(terbuthylazine)、テルブトリン(terbutryn)、テルブメトン(terbumeton)、デスメディファム(desmedipham)、デスメトリン(desmetryne)、トプラメゾン(topramezone)、トラルコキシジム(tralkoxydim)、トリアジフラム(triaziflam)、トリアスルフロン(triasulfuron)、トリアファモン(triafamone)、トリアレート(tri-allate)、トリエタジン(trietazine)、トリクロピル-ブトティル(triclopyr-butotyl)、トリクロピル(triclopyr)、トリトスルフロン(tritosulfuron)、トリフルジモキサジン(trifludimoxazin)、トリフルスルフロン・メチル(triflusulfuron-methyl)、トリフルラリン(trifluralin)、トリフロキシスルフロンナトリウム塩(trifloxysulfuron-sodium)、トリベニュロン・メチル(tribenuron-methyl)、トルピラレート(tolpyralate)、ナプタラム(naptalam)(ナトリウム等との塩を含む)、ナプロアニリド(naproanilide)、ナプロパミド-M(napropamide-M)、ナプロパミド(napropamide)、ニコスルフロン(nicosulfuron)、ネブロン(neburon)、ノルフルラゾン(norflurazon)、ハルキシフェン-ベンジル(halauxifen-benzyl)、ハルキシフェン-メチル(halauxifen-methyl)、ハロキシホップ-エトティル(haloxyfop-etotyl)、ハロキシホップ・P(haloxyfop-P)、ハロキシホップ(haloxyfop)、ハロサフェン(halosafen)、ハロスルフロン・メチル(halosulfuron-methyl)、バーナレート(vernolate)、二塩化パラコート(paraquat dichloride)、ビシクロピロン(bicyclopyrone)、ビスピリバック・ナトリウム塩(bispyribac-sodium)、ビフェノックス(bifenox)、ビラナホス(bilanafos)、ピクロラム(picloram)、ピコリナフェン(picolinafen)、ピノキサデン(pinoxaden)、ピペロホス(piperophos)、ピラクロニル(pyraclonil)、ピラスルホトール(pyrasulfotole)、ピラゾキシフェン(pyrazoxyfen)、ピラゾスルフロン・エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、ピラゾリネート(pyrazolynate)、ピラフルフェン・エチル(pyraflufen-ethyl)、ピリダフォル(pyridafol)、ピリチオバック・ナトリウム塩(pyrithiobac-sodium)、ピリデート(pyridate)、ピリフタリド(pyriftalid)、ピリブチカルブ(pyributicarb)、ピリベンゾキシム(pyribenzoxim)、ピリミスルファン(pyrimisulfan)、ピリミノバック・メチル(pyriminobac-methyl)、ピロキサスルホン(pyroxasulfone)、ピロクススラム(pyroxsulam)、フェニソファム(phenisopham)、フェニュロン(fenuron)、フェノキサスルホン(fenoxasulfone)、フェノキサプロップ・P・エチル(fenoxaprop-P-ethyl)、フェノキサプロップ・P(fenoxaprop-P)、フェンキノトリオン(fenquinotrione)、フェンクロリム(fenclorim)、フェンチアプロップ・エチル(fenthiaprop-ethyl)、フェントラザミド(fentrazamide)、フェンメディファム(phenmedipham)、フォラムスルフロン(foramsulfuron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、フラムプロップ・M(flamprop-M)(メチル、エチル、イソプロピルエステルを含む)、フラムプロップ(flamprop)(メチル、エチル、イソプロピルエステルを含む)、フルアジホップ・P・ブチル(fluazifop-P-butyl)、フルアジホップ・ブチル(fluazifop-butyl)、フルアゾレート(fluazolate)、フルオメツロン(fluometuron)、フルオログリコフェン・エチル(fluoroglycofen-ethyl)、フルカルバゾン・ナトリウム塩(flucarbazone-sodium)、フルクロラリン(fluchloralin)、フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルチアセット・メチル(fluthiacet-methyl)、フルピルスルフロン・メチル・ナトリウム塩(flupyrsulfuron-methyl-sodium)、フルフェナセット(flufenacet)、フルフェンピル・エチル(flufenpyr-ethyl)、フルプロパネート(flupropanate)、フルポキサム(flupoxame)、フルミオキサジン(flumioxazin)、フルミクロラック・ペンチル(flumiclorac-pentyl)、フルメツラム(flumetsulam)、フルリドン(fluridone)、フルルタモン(flurtamone)、フルルプリミドール(flurprimidol)、フルロキシピル(fluroxypyr)、フルロクロリドン(flurochloridone)、フロラスラム(florasulam)、ブタクロール(butachlor)、ブタフェナシル(butafenacil)、ブタミホス(butamifos)、ブチレート(butylate)、ブテナクロール(butenachlor)、ブトラリン(butralin)、ブトロキシジム(butroxydim)、ブロマシル(bromacil)、ブロムピラゾン(brompyrazon)、ブロモキシニル(bromoxynil)(酪酸、オクタン酸又はヘプタン酸等のエステル体を含む)、
ブロモフェノキシム(bromofenoxim)、ブロモブチド(bromobutide)、プリミスルフロン・メチル(primisulfuron-methyl)、プレチラクロール(pretilachlor)、プロカルバゾン・ナトリウム塩(procarbazone-sodium)、プロジアミン(prodiamine)、プロスルフロン(prosulfuron)、プロスルホカルブ(prosulfocarb)、プロパキザホップ(propaquizafop)、プロパクロール(propachlor)、プロパジン(propazine)、プロパニル(propanil)、プロピザミド(propyzamide)、プロピソクロール(propisochlor)、プロピリスルフロン(propyrisulfuron)、プロファム(propham)、プロフルアゾール(profluazol)、プロホキシジム(profoxydim)、プロポキシカルバゾン・ナトリウム塩(propoxycarbazone-sodium)、プロメトリン(prometryn)、プロメトン(prometon)、ヘキサジノン(hexazinone)、ヘプタマロキシログルカン(heptamaloxyloglucan)、ベナゾリン(benazolin)、ベフルブタミド(beflubutamid)、ベンカルバゾン(bencarbazone)、ベンスリド(bensulide)、ベンスルフロン・メチル(bensulfuron- methyl)、ベンズフェンジゾン(benzfendizone)、ベンゾビシクロン(benzobicyclon)、ベンゾフェナップ(benzofenap)、ベンタゾン(bentazone)、ベンフルラリン(benfluralin)、ベンフレセート(benfuresate)、ペトキサミド(pethoxamid)、ペノキススラム(penoxsulam)、ペブレート(pebulate)、ペラルゴン酸(pelargonic acid)、ペンジメタリン(pendimethalin)、ペンタノクロール(pentanochlor)、ペントキサゾン(pentoxazone)、ホサミン(fosamine)、ホメサフェン(fomesafen)、ホラムスルフロン(foramsulfuron)、マレイン酸ヒドラジド(maleic hydrazide)、メコプロップ-P・カリウム塩(mecoprop-P-potassium)、メコプロップ(mecoprop)(ナトリウム、カリウム、イソプロピルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミン等の塩を含む)、メソスルフロン・メチル(mesosulfuron-methyl)、メソトリオン(mesotrione)、メタザクロール(metazachlor)、メタゾスルフロン(metazosulfuron)、メタベンズチアズロン(methabenzthiazuron)、メタミトロン(metamitron)、メタミホップ(metamifop)、メチオゾリン(methiozolin)、メチルダイムロン(methyldymuron)、メトキスロン(metoxuron)、メトスラム(metosulam)、メトスルフロンメチル(metsulfuron-methyl)、メトブロムロン(metobromuron)、メトベンズロン(metobenzuron)、メトラクロール(metolachlor)、メトリブジン(metribuzin)、メフェナセット(mefenacet)、モノスルフロン・メチル(monosulfuron-methyl)、モノスルフロン(monosulfuron)、モノリニュロン(monolinuron)、モリネート(molinate)、ヨードスルフロン(iodosulfuron)、ヨードスルフロンメチルナトリウム塩(iodosulfulon-methyl-sodium)、ヨーフェンスルフロン・ナトリウム塩(iofensulfuron-sodium)、ヨーフェンスルフロン(iofensulfuron)、ラクトフェン(lactofen)、リニュロン(linuron)、リムスルフロン(rimsulfuron)、レナシル(lenacil)、1-ナフチルアセトアミド(1-naphthylacetamide)、1-メチルシクロプロペン(1-methylcyclopropene)、2,6-ジイソプロピルナフタレン(2,6-diisopropylnaphthalene)、4-オキソ-4-(2-フェニルエチル)アミノ酪酸(化学名、CAS登録番号:1083-55-2)、4-クロロフェノキシ酢酸(4-CPA)、PESA(4-oxo-[(2-phenylethyl)amino]butanoic acid)、n-デシルアルコール(n-decanol)、アビグリシン(aviglycine)、アンシミドール(ancymidol)、イナベンフィド(inabenfide)、インドール酢酸(indole acetic acid)、インドール酪酸(indole butyric acid)、ウニコナゾール-P(uniconazole-P)、ウニコナゾール(uniconazole)、エコリスト(ecolyst)、エチクロゼート(ethychlozate)、エテホン(ethephon)、エポコレオン(epocholeone)、カルボネ(carvone)、クロキシホナック・カリウム塩(cloxyfonac-potassium)、クロキシホナック(cloxyfonac)、クロプロップ(cloprop)、クロルメコート(chlormequat)、サイトカイニン(cytokinins)、シクラニリド(cyclanilide)、シントフェン(sintofen)、ジケグラック(dikegulac)、ジベレリン酸(gibberellin acid)、ジメチピン(dimethipin)、ダミノジット(daminozide)、チジアズロン(thidiazuron)、トリアコンタノール(triacontanol)、トリネキサパック・エチル(trinexapac-ethyl)、パクロブトラゾール(paclobutrazol)、フルメトラリン(flumetralin)、フルルプリミドール(flurprimidol)、フルレノール(flurenol)、プロヒドロジャスモン(prohydrojasmon)、プロヘキサジオン・カルシウム塩(prohexadione-calcium)、ヘプタマロキシログルカン(heptamaloxyloglucan)、ベンジルアミノプリン(benzylaminopurine)、ホルクロルフェニュロン(forchlorfenuron)、マレイン酸ヒドラジド(maleic hydrazide)、メピコート・クロリド(mepiquat chloride)、メフルイジド(mefluidide)、過酸化カルシウムを挙げることができる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
<Alternaria alternataのゲノム解析>
A. alternata の分生子を200 ml CM液体培地(500ml 三角フラスコ)に植菌し、26℃、130rpmで48時間培養した。培養菌体をミラクロスで集菌した後、スパーテルで菌体をプレスして脱水し、予め-20℃に冷却しておいた乳鉢に菌体を入れ、液体窒素を注いで凍結させた。粉状になるまで乳棒で素早く破砕した後、DNeasy Plant Maxi Kitを用いてゲノムDNAを抽出した。
【0095】
ゲノム解析は、2種類の次世代シークエンサー(5500xl SOLiD(life technologies社製)及びMiSeq(illumina社製))を用いて実施した。調製したA. alternataのゲノムDNAから5500 SOLiD Mate-Paired Library Kit(5500xl SOLiD用)、Nextera DNA Sample Prep Kit(MiSeq用)を用いてライブラリを作成し、次世代シークエンサーによるゲノム解析を行った。
<A. alternataが有するNRPS遺伝子の探索>
次世代シークエンサーを用いたゲノム解析の結果から推定タンパク質のアミノ酸配列をデータベース化した。そして、当該データベースを用いてジヒドロテントキシン合成能を有するNRPSを検索した。
【0096】
本実施例では、A. alternataのゲノム中からNRPSをコードすると思われる遺伝子を全て検索し、それらの推定タンパク質の構造的特徴を基に、ジヒドロテントキシンのペプチド基本骨格を生合成する遺伝子の推定を行った。具体的には、まず、近縁の糸状菌であるCochliobolus heterostrophusのNRPSとの相同性検索によって、A. alternataの全NRPS遺伝子を探索した。C. heterostrophusにおいては、12個のNRPS遺伝子NPS1-12が見出されている(Lee, B.N., et al., Functional analysis of all nonribosomal peptide synthetases in Cochliobolus heterostrophus reveals a factor, NPS6, involved in virulence and resistance to oxidative stress. Eukaryot Cell, 2005. 4(3): p. 545-55.)。これら12個のNRPSのドメイン構造を調べると、NPS7はPKS(polyketide synthase)とのhybridタイプのNRPSであり、NPS10とNPS12はCドメインを持たないNRPS-like proteinであった。そこで、これら3つを除いたNPS1-6、NPS8、NPS9及びNPS11のアミノ酸配列を相同性検索のクエリーとして、上記データベースに対しblastp検索を行った。糸状菌では、10個程度のNRPSを有しているという報告(C. heterostrophusが12個、Asperillus fumigatusが14個(Stack, D., C. Neville, and S. Doyle, Nonribosomal peptide synthesis in Aspergillus fumigatus and other fungi. Microbiology, 2007. 153(Pt 5): p. 1297-306))を考慮し、クエリーとした遺伝子それぞれについてヒットした上位20遺伝子を抽出した。その結果、A. alternataについては、28個の推定NRPS遺伝子を絞り込むことができた。
【0097】
絞り込んだ28個の推定NRPS遺伝子それぞれの推定開始コドンの上流3000bpから推定終始コドンの下流3000bpまでのゲノムDNA配列をクエリーとして、GenBankのデータベースに対してblastx検索を行った。この検索により、既知のタンパク質配列と相同性を示す領域が明らかになったことから、遺伝子の開始および終始コドンを推定した。また、同じく既知のタンパク質配列との相同性からイントロンが存在する部位が示されたので、GU-AGルールに従ってイントロン部位を予測し、より正確なCDSを推定した。この結果、28個の推定NRPS遺伝子のうち2個の遺伝子はそれぞれ別の遺伝子として推定されていたが、実際には1個の遺伝子であることが明らかになった。
【0098】
続いて、CDSの予測を行った遺伝子がコードするタンパク質のドメイン構造を調べた。この解析には、InterProScan(http://www.ebi.ac.uk/Tools/pfa/iprscan/)及びantiSMASH(http://www.secondarymetabolites.org/)プログラムを用いた。antiSMASHによる解析の結果、NRPSとしての機能に必須なAドメイン、PCPドメイン及びCドメインを有する遺伝子は、27個の推定NRPS遺伝子のうち8個であった。この結果から、A. alternataは8個のNRPS遺伝子を有していることが示唆された。
<ジヒドロテントキシン生合成に関与するNRPSの推定>
上述のように、A. alternataが8個の推定NRPS遺伝子を有していると考えられたことから、この中からジヒドロテントキシンの基本ペプチド骨格を生合成している遺伝子の探索を行った。なお、テントキシンはジヒドロテントキシンを前駆体として生合成されることが明らかになっている(Liebermann, B. and W. Ihn, Dihydrotentoxin: a precursor of tentoxin or its degradation product? Journal of basic microbiology, 1988. 28(1-2): p. 63-70.)。
【0099】
一般に、NRPSにより生合成されるペプチドは、構成するアミノ酸の数がNRPSに含まれるモジュールの数と一致するという特徴を持つ。ゆえに、4個のアミノ酸からなるジヒドロテントキシンを生合成するNRPSは4個のモジュール、すなわち4個のAドメインを有すると考えられる。そこで、A. alternataの8個の推定NRPS遺伝子のAドメインの数を調べたところ、2個の推定NRPS遺伝子がそれぞれ4個のAドメインを有していた。さらに、ジヒドロテントキシンは分子内に4つあるペプチド結合のうち、2つがN-メチル化されていることから、ジヒドロテントキシンを生合成するNRPSは、構成アミノ酸のアミノ基をN-メチル化するnMTドメインを2個有していると考えられる。そこで、この条件に合致するものを検索したところ、1個の推定NRPS遺伝子に絞り込むことができた。絞り込んだ遺伝子をtenAと命名した。
<ジヒドロテントキシンをテントキシンに変換する酵素の推定>
テントキシンは、ジヒドロテントキシンを構成するフェニルアラニン残基の側鎖部分が酸化された構造を有する。したがって、テントキシンの生合成には、推定したNRPS遺伝子(tenA)と、酸化酵素とが関与していると考えられた。一般的に、二次代謝産物の生合成に関わる遺伝子は、ゲノム上に群(クラスター)を形成して配置されていることから、この酸化酵素遺伝子はtenA遺伝子の近傍に存在している可能性が高いと推測された。そこで、A. alternataゲノム上のtenA周辺に存在する遺伝子の機能を調べたところ、tenA遺伝子の上流に隣接して存在し、ent-kaurene oxidaseとアノテーションされた遺伝子を見出した。この遺伝子は、酸化酵素であるシトクロムP450(CYP512Aに相同性)をコードしていることが解った。よって、これがジヒドロテントキシンをテントキシンに変換する反応を触媒している可能性が考えられた。この遺伝子をP450遺伝子と命名した。
<tenA及びP450遺伝子によるテントキシン生産>
以上のように、ジヒドロテントキシン合成能を有するNRPSをコードする遺伝子として推定したtenA遺伝子と、ジヒドロテントキシンをテントキシンに変換する酵素をコードする遺伝子として推定したP450遺伝子とを用いて、テントキシンの生合成を試みた。
【0100】
本例ではtenA遺伝子及びP450遺伝子を麹菌(Aspergillus oryzae)へ導入した形質転換体を作製し、形質転換された麹菌を培養してテントキシンの生産を確認した。遺伝子の導入には、いずれも麹菌のmaltose誘導型遺伝子amyBのプロモーターで制御可能な2つのマルチクローニングサイトを有するpUSA2(Tagami, K., et al., Rapid reconstitution of biosynthetic machinery for fungal metabolites in Aspergillus oryzae: total biosynthesis of aflatrem. Chembiochem, 2014. 15(14): p. 2076-2080)を用い、空ベクター導入株、tenA単独導入株、P450単独導入株、tenA/P450共導入株を作製した(図2)。作製した導入株を、炭素源を2% maltose(発現誘導)又は2% glucose(発現抑制)としたCM培地にてそれぞれ液体培養し、菌体内及び培養上清中の代謝物をまとめて超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)により分析した。
<テントキシン及びジヒドロテントキシンの生産確認>
空ベクター導入株、tenA単独導入株、P450単独導入株、tenA/P450共導入株の分生子を5% glucoseまたは5% maltoseを炭素源とするCM培地30ml(100mlバッフル付三角フラスコ)に植菌し、30℃、130rpmで10日間培養を行った。菌体内及び培養上清中の代謝物はまとめてアセトン及び酢酸エチルにより抽出した後、LC/MS分析に供した。
<LC条件>
装置:ACQUITY UPLC I-Classシステム(Waters社製)
カラム:Acquity UPLC BEH C18 2.1x150mm(Waters社製)
移動相:A/B=80/20(0.5min hold)→3min→2/98(0.5min hold)→0.5min→80/20
A:蒸留水
B:アセトニトリル
流速:0.4ml/min
検出波長:220nm、282nm
<MS条件>
装置:Xevo G2 QTof(Waters社製)
イオン化条件:ESI、positive
分析の結果を図3及び4に示す。図3及び4に示すように、炭素源maltoseの発現誘導条件において、tenA単独導入株ではジヒドロテントキシンのみが検出され、tenA/P450共導入株では、ジヒドロテントキシンに加えてテントキシンが検出された。なお、テントキシンは標品のHPLCの保持時間の比較とMSスペクトルの結果から同定した。一方、ジヒドロテントキシンはMSスペクトルの分子量の一致により同定した(図5)。
【0101】
以上の結果から、本実施例で推定したtenA遺伝子は、ジヒドロテントキシン合成能を有するNRPS遺伝子であると同定できた。また、本実施例で推定したP450遺伝子は、ジヒドロテントキシンをテントキシンに変換する活性を有する酵素をコードする遺伝子であると同定できた。また、本実施例により、tenA遺伝子及びP450遺伝子を宿主に導入した形質転換体を培養することで、テントキシンを生合成できることが明らかとなった。
【0102】
〔実施例2〕
本実施例では、実施例1で同定したNRPS遺伝子を異種発現させたときのジヒドロテントキシシンの生産量を、Cochliobolus miyabeanus由来のNRPS遺伝子(CmNps3)を異種発現させたときの同生産量と比較した。
【0103】
なお、Cochliobolus miyabeanus由来のNRPS遺伝子は、De Bruyne, L., et al., Comparative chemical screening and genetic analysis reveal tentoxin as a new virulence factor in Cochliobolus miyabeanus, the causal agent of brown spot disease on rice. Mol Plant Pathol, 2015. 17 (6): p. 805-817においてテントキシン生合成関連遺伝子の候補として見いだされた遺伝子である。CmNps3遺伝子は、実施例1で同定したNRPS遺伝子がコードするタンパク質に対してアミノ酸レベルで78%の相同性を有するタンパク質をコードしている。ただし、同文献において、CmNps3遺伝子がコードするタンパク質がジヒドロテントキシンを合成することについて記述はない。
【0104】
本実施例では、糸状菌Curvularia clavataを宿主とし、tenA遺伝子及びCmNps3遺伝子をC. clavataが有するNRPS遺伝子(以下CcNRPSと表記)と置き換える形で導入した形質転換体をそれぞれ作製し、これら形質転換体を培養してジヒドロテントキシンの生産量を調べた。
【0105】
<遺伝子導入用ベクターの構築>
C. clavataにおけるCcNRPS遺伝子の上流側約1,010bpのプロモーター領域をL-arm、CcNRPS遺伝子の5’末端から4860番目の塩基を起点に995bpの領域をR-armとし両遺伝子断片をC. clavataのゲノムDNAを鋳型にしたPCRにより得た。また、目的の遺伝子(tenA遺伝子又はCmNps3遺伝子)を制御するためのC. clavata由来の355bpのターミネーター領域及び形質転換体の選抜マーカーとなるpyrG遺伝子を同ゲノムDNAを鋳型としたPCRにより得た。続いてIn-Fusion Cloning Kit (Clontech社製)を用いて、上記PCRで増幅したL-arm、ターミネーター配列、pyrG遺伝子、R-armをこの順に連結させた遺伝子断片をpUC19に挿入し、各遺伝子破壊コンストラクトを作製した。なお、L-armとターミネーター配列の間には、遺伝子の挿入のための制限酵素Swa I及びNot I認識配列を設計した(図6)。
【0106】
それぞれのコンストラクトを構成する各DNA断片をPCR増幅する際に用いたプライマーの配列及びPCR条件を以下に示した。なお、In-Fusion反応を行うためのオーバーラップしている配列(15bp)を小文字で示した。
・L-arm増幅用
Cc_TRAF140154_pre_Larm_FW:
5’-cggtacccggggatcCCCACGTGCAGCTTCAAC-3’(配列番号25)
Cc_TRAF140154_pre_Larm_RV:
5’-ATTTAAATAGTTACAATATTCGTGGAGTATCCC-3’(配列番号26)
・R-arm増幅用
Cc_TRAF140154_pre_Rarm_FW:
5’-accgtcatggatatcCTACGGACCGAGTGAGAACTC-3’(配列番号27)
Cc_TRAF140154_pre_Rarm_RV:
5’-cgactctagaggatcCAGAGTATTTAGTTGGAGGGATTG-3’(配列番号28)
・pyrG選抜マーカー増幅用
PyrG-mark_FW:5’-GATATCGCCGCTCTGCTTCATTGC-3’(配列番号29)
PyrG-mark_RV:5’-GATATCCATGACGGTTGCTAGGGTC-3’(配列番号30)
・ターミネーター配列増幅用
Cc_nmt1_pre_Ter_FW:
5’-tgtaactatttaaatGCGGCCGCGCAGTTGCCGTTGGACCA-3’(配列番号31)
Cc_nmt1_pre_Ter_RV:
5’-cagagcggcgatatcCGCGACACTGTAATATTAAAGC-3’(配列番号32)
・PCR条件
PCRには、Phusion High-Fidelity DNA Polymerase (Thermo Fisher Scientific社製)を使用した。温度条件は、初期変性:98℃で30secとし、変性:98℃で10sec、アニーリング:60℃で30sec及び伸長:72℃で1minを1サイクルとして30サイクル行い、最終伸長:72℃で5minの条件とした。
<tenA遺伝子高発現コンストラクトの構築>
実施例1で作製した麹菌へのtenA導入用に構築したコンストラクトを制限酵素Not Iで処理してtenA遺伝子を切り出し、上記で作製した遺伝子導入用ベクターのNot Iサイトにライゲーションにより挿入した。これにより、図7Aに示したtenA高発現コンストラクトを構築した。
<CmNps3高発現コンストラクトの構築>
独立行政法人 製品評価技術基盤機構(Nite)より購入したC. miyabeanus(NBRC No. 100216)の分生子懸濁液をPD培地に植菌し、26℃、140rpmで4日間培養した。培養菌体をミラクロスで集菌した後、スパーテルで菌体をプレスして脱水し、予め-20℃に冷却しておいた乳鉢に菌体を入れ、液体窒素を注いで凍結させた。粉状になるまで乳棒で素早く破砕した後、DNeasy Plant Maxi Kitを用いてゲノムDNAを抽出した。抽出したゲノムDNAを鋳型に5’末端に制限酵素Not I認識配列を付加したプライマーを用いてCmNps3遺伝子をPCR増幅し、In-Fusion Cloning Kitを用いてpUC19に挿入した。挿入配列のシークエンスを解析したところ、論文にて開示されたCmNps3遺伝子の塩基配列と異なる塩基が複数箇所見出された。そこで、In-Fusion反応を活用してこれらの塩基に変異を導入し、論文にて開示された塩基配列と一致するように改変した。改変したCmNps3遺伝子のコーディング領域の塩基配列を配列番号33に示し、コードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号34に示した。すなわち、配列番号33及び34の配列は、上記文献(De Bruyne, L., et al.)に記載されたCmNps3に関する配列である。
【0107】
続いて、制限酵素Not I処理によりCmNps3遺伝子を切り出し、上記で作製した遺伝子導入用ベクターのNot Iサイトにライゲーションにより挿入した。これにより、図7Bに示したCmNps3高発現コンストラクトを構築した。
【0108】
C. miyabeanusのゲノムDNAを鋳型にCmNps3をPCR増幅する際に用いたプライマーの配列及びPCR条件を以下に示した。なお、In-Fusion反応を行うためのオーバーラップしている配列(15 bp)を小文字で示した。
・CmNps3増幅用
CmNps3(NotI)_FW:
5’-cggtacccggggatcGCGGCCGCATGGGTGACATAGGAAAACC-3’(配列番号35)
CmNps3(NotI)_RV:
5’-cgactctagaggatcGCGGCCGCTCATGCCTCCTGCAGTGA-3’(配列番号36)
・PCR条件
PCRには、KOD FX Neo (東洋紡社製)を使用した。温度条件は、初期変性:94℃で2minとし、変性:98℃で10sec、伸長:74℃で8minを1サイクルとして5サイクル行った後、変性:98℃で10sec、伸長:72℃で8minを1サイクルとして5サイクル行った後、変性:98℃で10sec、伸長:70℃で8minを1サイクルとして5サイクル行った後、変性:98℃で10sec、伸長:68℃で8minを1サイクルとして5サイクル行い、最終伸長:68℃で5minの条件とした。
<C. clavataの形質転換>
100mlのCM+5mM uridine+5mM uracil培地(300ml三角フラスコ)にC. clavata pyrG遺伝子破壊株の胞子懸濁液を植菌し、30℃で40時間振盪培養した後、ガラスろ過器(11G1)を用いたろ過により菌糸を集め、滅菌水で洗浄後、スパーテル等で押さえて十分に水分を除いた。菌体を10mlのprotoplast化溶液[3mg/ml Yatalase、0.3mg/ml Lysing Enzymes from Trichoderma harzianum、0.8M NaCl、10mM sodium phosphate buffer(pH6.0)]に加え、懸濁し、30℃で3時間ゆるやかに振盪しprotoplast化を行った。ミラクロスでろ過し、ろ液を1,500xgで5分間遠心し、protoplastを集め、0.8M NaClで2回洗浄した。protoplastを2×108/mlとなるようにSolution 1[0.8M NaCl、10mM CaCl2、10mM Tris-HCl(pH8.0)]に懸濁し、0.2容量のSolution 2[40%(w/v)PEG4000、50mM CaCl2、50mM Tris-HCl(pH8.0)]を加えて緩やかに懸濁し、0.2mlのprotoplast懸濁液に制限酵素Sbf I消化により直鎖化したtenA高発現コンストラクト(図7A)又はCmNps3高発現コンストラクト(図7B)を5μg相当量を加え、氷中で10分間静置した。1mlのSolution 2を加え、緩やかに懸濁し、室温で15分間静置した。10mlのSolution 1を加えて緩やかに懸濁し、遠心でprotoplastを集め、上清をできるだけ除き、protoplastを1mlのSolution 1に懸濁した。CM+1.2M sucrose選択プレート5枚にprotoplast懸濁液を0.2mlずつのせ、6〜7ml(90mm φ シャーレ当たり)のCM+1.2M sucrose軟寒天(1%)選択培地を加え、protoplastが均一になるようにすばやく重層し、26℃で6日間培養した。
<代謝物の分析>
上記で作製したtenA高発現株及びCmNps3高発現株の分生子懸濁液を30mlのCM培地に植菌し、26℃、140rpmで7日間振盪培養した。菌体内及び培養上清中の代謝物はまとめてアセトンおよび酢酸エチルにより抽出した後、LC/MS分析に供した。
<HPLC条件>
装置:Prominence UFLC (SHIMADZU社製)
カラム:CAPCELL PAK SG120 5μm、4.6mm×250mm(SHISEIDO社製)
移動相:A/B=80/20(5min hold)→15min→2/98(5min hold)→5min→80/20
A:蒸留水/TFA (100/0.1、v/v)
B:アセトニトリル/TFA(100/0.1、v/v)
流速:1.0ml/min
検出波長:220nm、282nm
<MS条件>
装置:3200 Q TRAP(Applied Biosystems社製)
イオン化条件:ESI、positive
分析の結果を図8A〜8Eに示した。HPLC分析の結果、図8Bに示すように、tenA高発現株では、保持時間13.8分に野生株(図8A)で認められない明瞭なピークが確認された。本ピークはMSスペクトルの解析の結果、図8Dに示すように、ジヒドロテントキシンの分子量と一致した。なお、ジヒドロテントキシンの分子量は416.51である。
【0109】
一方、CmNps3高発現株では、図8Cに示すように、HPLC分析の結果として明瞭なピークは確認できなかった。ただし、保持時間13.8分のMSスペクトルの解析の結果、図8Eに示すように、ジヒドロテントキシンの分子量と一致するピークが僅かに認められた。CmNps3高発現株におけるその生産量を、イオン強度(ピーク面積)を指標にtenA高発現株と比較すると、50分の一程度であり、有意に低い結果であった。
【0110】
なお、本実施例で異種発現の宿主として用いたC. clavataは、18SリボゾームRNA遺伝子を用いた解析からA.alternataに比べてC. miyabeanusに近縁な微生物であることがわかる。すなわち、独自に解読したC. clavata 18SリボゾームRNA遺伝子に対するA.alternataの18SリボゾームRNA遺伝子(GenBankアクセッション番号:L76146)の相同性は47%であったのに対して、C. miyabeanusの18SリボゾームRNA遺伝子(GenBankアクセッション番号:HM130609)の相同性は88%であった。
【0111】
一般的に、同じ機能を有する遺伝子を異種発現した場合、宿主に対して近縁種の遺伝子を用いたほうが効率的に転写・翻訳される。本実施例では、同じ遺伝子発現コンストラクトを用いて、相同組換えによってC. clavataのゲノム上の同じ位置に両遺伝子を導入して生産性を比較している。したがって、C. clavataに近縁なC. miyabeanus由来のCmNps3遺伝子によるジヒドロテントキシン生産の方が有利な条件であると言える。しかしながら、本実施例に示したように、実施例1で同定したA.alternata由来のtenA遺伝子を導入した株は、CmNps3遺伝子を導入した株と比較してジヒドロテントキシン生産性が有意に高かった。この結果から、tenA遺伝子は、CmNps3遺伝子に比べてジヒドロテントキシン生産に適した遺伝子であることが理解できる。
【0112】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]