(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
特定の周波数帯域の電気信号を取り出すSAWフィルタ(Surface Acoustic Wave Filter:表面弾性波フィルタ)は、RFフィルタ(Radio Frequency Filter)やIFフィルタ(Intermediate Frequency Filter)としてほとんどの携帯電話で使用されている他、デジタルテレビやGPS、無線LAM等のフィルタとしても広く使用されている。
【0003】
SAWフィルタの製造プロセスでは、回転引き上げ法や二重るつぼ法でリチウムナイオベート(LiNbO
3)やリチウムタンタレート(LiTaO
3)等の単結晶インゴットが育成され、その後、インゴットをウェーハ状にスライスした後、研削装置や研磨装置で研削、研摩して平坦化する(例えば、特開2001−332949号公報参照)。
【0004】
平坦化されたリチウムナイオベートウェーハ又はリチウムタンタレートウェーハ上には、フォトリソグラフィー技術を用いてアルミニウムやアルミニウム合金の薄膜で例えば周期2〜5μm程度の櫛歯電極からなるSAWフィルタを複数形成する。
【0005】
表面にSAWフィルタ等のSAWデバイスが複数形成されたリチウムナイオベートウェーハ(LNウェーハ)又はリチウムタンタレートウェーハ(LTウェーハ)はモース硬度が高く、切削ブレードで切削すると送り速度の上昇が難しく、生産性が非常に悪い。
【0006】
従って、一般的な厚みの表面にSAWデバイスが形成されたリチウムナイオベートウェーハ又はリチウムタンタレートウェーハでは、レーザ加工で分割起点を形成した後、ウェーハに外力を付与することにより個々のチップに分割している。
【0007】
然し、LNウェーハ又はLTウェーハに対して吸収性を有する波長のパルスレーザビームを照射するアブレーション加工方法又はLNウェーハ又はLTウェーハに対して透過性を有する波長のパルスレーザビームを照射してウェーハ内部に改質層を形成するSD(Stealth Dicing)加工方法では、1本の分割予定ラインに対して複数回パルスレーザービームを照射しなければならず、更なる生産性の向上が要望されている。
【0008】
そこで、特開2014−221483号公報では、比較的開口数の小さい集光レンズを使用して単結晶基板からなる被加工物に単結晶基板に対して透過性を有するパルスレーザビームを照射して、被加工物内部に細孔とこの細孔をシールドする非晶質とからなるシールドトンネルを形成した後、被加工物に外力を付与することにより被加工物を個々のチップに分割する加工方法が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、リチウムナイオベート(LiNbO
3)ウェーハ11の表面11aに保護テープ17を貼着する様子を示す斜視図が示されている。リチウムナイオベートウェーハ(LNウェーハ又は単にウェーハと称することがある)11の表面11aには格子状に形成された複数の分割予定ライン13により区画された各領域にSAWフィルタ等のSAWデバイス15が形成されている。SAWデバイス15はアルミニウムやアルミニウム合金の薄膜で例えば周期2〜5μm程度の櫛歯電極として形成されている。
【0017】
LNウェーハ11の厚みは約350μmであり、本実施形態の加工方法では、LNウェーハ11の裏面11bを研削して厚み130μmの仕上げ厚みへと薄化する研削ステップを含んでいる。
【0018】
本実施形態の加工方法では、被加工物としてLNウェーハを採用した例について説明するが、被加工物はこれに限定されるものではなく、リチウムタンタレートウェーハ(LiTaO
3ウェーハ)、SiCウェーハ、サファイアウェーハ、GaNウェーハ、Siウェーハ、ガラスウェーハ等の他の被加工物も採用可能である。
【0019】
LNウェーハ11の表面11aに保護テープ17を貼着した後、
図2に示すように、レーザ加工装置のチャックテーブル10で保護テープ17を下側にしてLNウェーハ11を吸引保持し、LNウェーハ11の裏面11bを露出させる。
【0020】
次いで、
図3に示すように、集光レンズ12aを有する集光器12からLNウェーハ11に対して透過性を有する波長のパルスレーザビームLBを照射して、ウェーハ11の内部に複数のシールドトンネル19を形成するレーザ加工ステップを実施する。
【0021】
ウェーハ11の内部にシールドトンネル19を形成するレーザ加工ステップでは、集光レンズ12aの開口数(NA)を単結晶基板であるLNウェーハ11の屈折率で除した値を0.05〜0.35の範囲内に設定する。
【0022】
リチウムナイオベートの屈折率は2.2であるから、集光レンズの12aの開口数(NA)を0.1〜0.7に設定するのが好ましい。例えば集光レンズ12aとして球面収差を有する集光レンズを使用する。
【0023】
もしくは集光レンズの上流側や下流側にレンズを配設することで球面収差を生成するようにしてもよいし、レーザビーム自体が所定の拡がり角を持っているレーザビームをレーザビーム発振器から発振し、集光レンズで集光するようにしてもよい。
【0024】
従って、集光レンズで集光されたレーザビームに縦収差が生じた状態でウェーハにレーザビームを照射することにより、ウェーハ11の内部にシールドトンネル19を形成することができる。
【0025】
このレーザ加工ステップでは、所定の出力に制御されたパルスレーザビームLBの集光領域Pの上端部をウェーハ11の表面11aから仕上げ厚みt1+αの位置に位置付けて、パルスレーザビームLBをウェーハ11の裏面11b側から照射する。
【0026】
すると、集光領域Pの上端部が位置付けられた位置からウェーハの表面11aに向かってパルスレーザビームLBの進行に伴って瞬間的にシールドトンネル19が形成される。形成されたシールドトンネル19の上端部とその周囲は他の領域に比べて強度が低下しているため、後の研削ステップでこの領域を研削除去することで形成されるデバイスチップの抗折強度が向上する。
【0027】
ここで、レーザビームLBの集光領域Pという用語をしているのは、集光レンズ12aが球面収差を有するため、集光レンズ12aを通過するレーザビームLBの半径方向位置によりレーザビームLBの集光される位置が集光レンズ12aの光軸方向に異なるためであり、集光領域Pはウェーハ11の厚み方向に延在する。
【0028】
このように、集光領域Pをウェーハ11の内部に延在するようにパルスレーザビームLBをウェーハ11の裏面11b側から照射し、チャックテーブル10を矢印X軸方向に所定の加工送り速度で加工送りすることにより、ウェーハ11の内部に分割予定ライン13に沿ってウェーハ11の表面11aから仕上げ厚みt1+αの長さのシールドトンネル19を複数形成する。本実施形態では、仕上げ厚みt1を130μmに設定し、αは例えば10〜15μmに設定する。
【0029】
シールドトンネル19は直径1μm程度の細孔と、この細孔をシールドする非晶質(アモルファス)とから形成される。照射するパルスレーザビームLBの繰り返し周波数を50kHzに設定し、加工送り速度を500mm/sに設定すると、ウェーハ11の分割予定ライン13に沿って10μmの間隔でシールドトンネル19が形成され、隣接する細孔間には一部クラックが生じた状態となる。
【0030】
ウェーハ11の内部にシールドトンネル19を形成するレーザ加工ステップを、第1の方向に伸長する分割予定ラインに沿って次々と実施し、次いでチャックテーブル10を90°回転してから、第1の方向に直交する第2の方向に伸長する全ての分割予定ライン13に沿って実施する。
【0031】
ウェーハ11の内部にシールドトンネル19を形成するレーザ加工ステップの加工条件は、例えば以下のように設定される。
【0032】
波長 :1064nm
平均出力 :0.2〜0.5W
繰り返し周波数 :20〜50kHz
パルス幅 :10ps
集光スポット径 :10μm
加工送り速度 :100〜600mm/s
【0033】
尚、被加工物としてガラスを採用した場合には、ガラスは元々非晶質であるため、レーザ加工ステップを実施すると細孔とこの細孔をシールドする非晶質の変質層からなるシールドトンネルが形成される。
【0034】
LNウェーハ11の内部に形成するシールドトンネル19は、
図4(A)に示すように、仕上げ厚みt1+αの長さが望ましいが、レーザビームLBの出力を上げて、
図4(B)に示すように、シールドトンネル19をウェーハ11の表面11aから裏面11bにわたり形成するようにしてもよい。この場合には、前記レーザ加工条件において、平均出力を2〜4Wに上げるのが好ましい。
【0035】
シールドトンネルの厚み=仕上げ厚み+αにおいて、好ましくはαは10〜15μmに設定するが、この値以上でもよい。+αが小さいと分割されたデバイスチップの抗折強度が向上するが、αを大きくして、
図4(B)に示すように、シールドトンネル19を表面11aから裏面11bにわたり形成するとLNウェーハ11の分割性が向上する。
【0036】
ここで、デバイスチップの抗折強度を下げない加工条件で1パスのレーザビームの照射で形成できるシールドトンネルの厚み(長さ)は150μm程度であり、抗折強度を気にしなければ1パスで形成できるシールドトンネルの厚み(長さ)は250μm程度である。
【0037】
レーザ加工ステップを実施した後、ウェーハ11の裏面11bを研削してウェーハ11を仕上げ厚みtへと薄化すると共にウェーハ11を部分的に個々のチップへと分割する研削ステップを実施する。
【0038】
研削ステップでは、
図6に示すように、研削装置のチャックテーブル14でウェーハ11の保護テープ17側を吸引保持し、ウェーハ11の裏面11bを露出させる。研削装置の研削ユニット16は、モータにより回転駆動されるスピンドル18と、スピンドル18の先端に固定されたホイールマウント20と、ホイールマウント20に図示しないボルトにより着脱可能に装着された研削ホイール22とを含む。研削ホイール22は、環状のホイール基台24と、ホイール基台24の下端外周部に固着された複数の研削砥石26とから構成される。
【0039】
研削ステップでは、チャックテーブル14に保持されたウェーハ11に、図示しない研削送り機構を作動することにより研削ホイール22の研削砥石26を接触させ、所定の研削送り速度で研削ホイール22を研削送りしながらチャックテーブル14を矢印aで示す方向に例えば300rpmで回転しつつ、研削ホイール22を矢印bで示す方向に例えば1500〜2000rpmで回転して、LNウェーハ11の研削を実施する。
【0040】
好ましくは、研削ステップは粗研削ステップと、粗研削ステップ実施後の仕上げ研削ステップの2段階で実施する。粗研削ステップでは、#1000のビトリファイドボンド研削砥石26を使用して、チャックテーブル14を300rpmで回転しつつ、研削ホイール22を2000rpmで回転しながら研削を実施する。
【0041】
粗研削終了後の仕上げ研削ステップでは、#3000のビトリファイドボンド研削砥石26を使用して、チャックテーブル14を300rpmで回転しつつ、研削ホイール22を1500rpmで回転しながら研削を実施して、ウェーハ11を仕上げ厚みt1=50μmまで薄化する。
【0042】
粗研削ステップ及び仕上げ研削ステップからなる研削ステップ中に、ウェーハ11の裏面11bには常に所定の研削負荷が掛かるため、この研削負荷によりウェーハ11は分割予定ライン13に沿ってシールドトンネル19を破断起点に個々のデバイスチップに少なくとも部分的に分割される。
【0043】
尚、研削ステップでは、ウェーハ11が分割予定ライン13に沿ってシールドトンネル19を破断起点に個々のデバイスチップへと完全には分割されない場合もあるため、研削ステップ終了後のウェーハ11に外力を付与して、ウェーハ11を分割予定ライン13に沿って個々のチップへと完全に分割する分割ステップを実施するのが好ましい。
【0044】
研削ステップ終了後、
図7に示すように、個々のデバイスチップに分割されたウェーハ11の裏面11bを、外周部が環状フレームFに装着されたエキスパンドテープTに貼着し、ウェーハ11の表面11aから保護テープ17を剥離する転写ステップを実施する。好ましくは、エキスパンドテープとして紫外線硬化型テープを採用する。
【0045】
転写ステップを実施した後、エキスパンドテープTを拡張してエキスパンドテープTに貼着されたウェーハ11を個々のデバイスチップ25に完全に分割すると共に、チップ間に間隔を形成する分割ステップを実施する。この分割ステップは、一例として
図7に示すようなエキスパンド装置30を用いて実施する。
【0046】
エキスパンド装置30は、環状フレームFを保持するフレーム保持手段32を備えている。フレーム保持手段32は、環状のフレーム保持部材34と、フレーム保持部材34の外周に配設された固定手段としての複数のクランプ36とから構成される。フレーム保持部材34の上面は環状フレームFを載置する載置面34aを形成しており、この載置面34a上に環状フレームFが載置される。
【0047】
そして、載置面34a上に載置された環状フレームFは、クランプ36によって保持部材34に固定される。この時、ウェーハ11が貼着されたエキスパンドテープTは拡張ドラム38の上端に当接する。
【0048】
拡張ドラム38の内部には保持テーブル46が配設されており、保持テーブル46の吸引保持部46aは吸引路48及び電磁切替弁50を介して吸引源52に選択的に接続されている。
【0049】
拡張ドラム38の外側には環状のフレーム保持部材32を上下方向に移動する駆動手段40が配設されている。駆動手段40は複数のエアシリンダ42から構成されており、エアシリンダ42のピストンロッド44が保持部材34の下面に連結されている。
【0050】
複数のエアシリンダ42から構成される駆動手段40は、環状のフレーム保持部材34をその載置面34aが拡張ドラム38の上端と略同一高さとなる基準位置と、拡張ドラム38の上端より所定量下方の拡張位置との間で上下方向に移動する。
【0051】
このように構成されたエキスパンド装置30を使用した分割ステップでは、ウェーハ11をエキスパンドテープTを介して支持した環状フレームFを、フレーム保持部材34の載置面34a上に載置し、クランプ36によってフレーム保持部材34に固定する。この時、フレーム保持部材34はその載置面34aが拡張ドラム38の上端と略同一高さとなる基準位置に位置付けられる。
【0052】
次いで、エアシリンダ42を駆動してフレーム保持部材34を
図7(B)に示す拡張位置に引き落とす。これにより、フレーム保持部材34の載置面34上に固定されている環状フレームFも引き落とされるため、環状フレームFに貼着されたエキスパンドテープTは拡張ドラム38の上端縁に当接して主に半径方向に拡張される。
【0053】
その結果、ウェーハ11は分割予定ライン13に沿って個々のデバイスチップ25に完全に分割されると共に、隣接するデバイスチップ25の間に間隔が形成される。エキスパンドテープTを拡張した後、電磁切替弁50を連通位置に切り換えて、保持テーブル46の吸引保持部46aに吸引源52の負圧を作用させて、ウェーハ11をチップ25間に間隔が形成された状態で保持する。
【0054】
分割ステップ実施後、保持テーブル46でエキスパンドテープTを吸引保持した状態でエキスパンドテープTに紫外線を照射して、エキスパンドテープTの貼着力を低下させた後、ピックアップ装置でデバイスチップ25をエキスパンドテープTからピックアップする。
【0055】
上述した実施形態によると、レーザ加工後にウェーハ11の裏面研削を実施するため、研削負荷によってウェーハ11が個々のチップに少なくとも部分的に分割される。よって、研削を実施しない場合に比べて低出力のレーザ加工でもチップへと分割し得るため、レーザ加工後に研削を実施しない場合に比べてデバイスチップの抗折強度が向上する。更に、シールドトンネルの上端部分は研削によって除去されてチップに残存しないため、デバイスチップの抗折強度が向上する。