特許第6906869号(P6906869)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6906869過熱水蒸気を使用した焼成済み冷凍フラットブレッドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906869
(24)【登録日】2021年7月2日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】過熱水蒸気を使用した焼成済み冷凍フラットブレッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 8/06 20060101AFI20210708BHJP
   A21D 13/43 20170101ALI20210708BHJP
【FI】
   A21D8/06
   A21D13/43
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-57826(P2018-57826)
(22)【出願日】2018年3月26日
(65)【公開番号】特開2019-165698(P2019-165698A)
(43)【公開日】2019年10月3日
【審査請求日】2020年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100130661
【弁理士】
【氏名又は名称】田所 義嗣
(72)【発明者】
【氏名】小坂 学
【審査官】 茅根 文子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−095757(JP,A)
【文献】 特開2016−202012(JP,A)
【文献】 特開2006−141318(JP,A)
【文献】 特開2004−267146(JP,A)
【文献】 特開平07−184529(JP,A)
【文献】 特開2007−215454(JP,A)
【文献】 ソフトフォカッチャ レシピ・作り方,楽天レシピ [オンライン],2012年 6月 8日,URL,https://recipe.rakuten.co.jp/1610003303/
【文献】 フォカッチャ(副菜)レシピ・作り方,【E・レシピ】料理のプロが作る簡単レシピ[オンライン],2012年 2月20日,URL,https://erecipe.woman.excite.co.jp/detail/f21947d9191eb4d41182634dd6c5a049.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00−17/00
A23L 23/00−25/10;35/00
CAplus/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成前の生地の厚みを5mm以上20mm以下とし、該生地を焼成する過熱水蒸気による焼成条件が次の(A)〜(C)であることを特徴とする焼成済み冷凍フラットブレッドの製造方法。
(A)過熱水蒸気の温度は160℃以上180℃以下
(B)過熱水蒸気による焼成時間は180秒以上360秒以下
(C)過熱水蒸気の温度(℃)と過熱水蒸気による焼成時間(秒)の積が30000以上60000以下
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過熱水蒸気を使用した成済み冷凍フラットブレッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットブレッドとは薄い生地を焼成したベーカリー製品をいい、例えば高温短時間で焼成したナン、フォカッチャや薄い生地の上にソースや具材をトッピングしオーブンで焼成したピザ等を挙げることができる。
使用するオーブンの熱源は、電気、ガス、薪などがあり、オーブンの様式は、ピザ専用窯、固定窯、コンベクションオーブン、インピンジャーオーブンなどあるが、何れも乾熱状態で焼成する。
焼成方法としては、焼成時間を短縮するためには、乾燥熱風による焼成方法が一般に用いられ、約250℃〜400℃で焼成している。
簡便にフラットブレッドを食するため、レストランや家庭では、冷凍した焼成済みのフラットブレッドを自然解凍して、そのまま食したり、凍ったまま、または自然解凍した後に電子レンジやオーブントースターで軽く温めて直して食している。
【0003】
過熱水蒸気とは飽和水蒸気をさらに加熱したものをいい食品類の加熱、乾燥又は殺菌処理等に利用されている。
過熱水蒸気を使用したベイキングの方法として、例えば、ピザクラストの製造工程においてピザクラストの製造工程における焼成工程前に過熱水蒸気の温度を140〜26 0℃ にし、処理する時間を3〜15秒にするピザクラストの製造方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
また、酵母を含む中種または酵母をパン生地にミキシングして1次発酵させ、分割成型後、ホイロ工程で発酵させ、発酵したパン生地を焼成するパンの製造方法において、前記焼成する工程が、1 段階以上の焼成工程からなり、少なくとも最終の焼成工程は過熱水蒸気による焼成工程であることを特徴とするパンの製造方法が知られている(例えば特許文献2参照)。
また、パン生地を焼成又は半焼成し、その後冷凍することを含む冷凍焼成パン又は冷凍半焼成パンの製造方法であって、前記焼成又は半焼成工程が、過熱水蒸気による焼成又は半焼成工程のみからなることを特徴とする冷凍焼成パン又は冷凍半焼成パンの製造方法が知られている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−29010号公報
【特許文献1】特開2007−215454号公報
【特許文献1】特開2016−202012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来から行われている乾燥熱風による焼成方法より焼成時間が短縮でき、製品のボリュームが大きく外観に優れ、冷凍保管しても食感が良好な焼成済み冷凍フラットブレッドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は前記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、フラットブレッドの焼成前の生地の厚みを特定の範囲とし、さらに、その生地を特定温度の過熱水蒸気で特定時間、焼成することで従来から行われている乾燥熱風による焼成方法より焼成時間が短縮でき、製品のボリュームが大きく外観に優れ、冷凍保管しても食感が良好な焼成済み冷凍フラットブレッドを得ることが出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
従って、本発明は、焼成前の生地の厚みを5mm以上20mm以下とし、該生地を焼成する過熱水蒸気による焼成条件が次の(A)〜(C)であることを特徴とする焼成済み冷凍フラットブレッドの製造方法である。
(A)過熱水蒸気の温度は160℃以上180℃以下
(B)過熱水蒸気による焼成時間は180秒以上360秒以下
(C)過熱水蒸気の温度(℃)と過熱水蒸気による焼成時間(秒)の積が30000以上60000以下
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法により従来から行われている乾燥熱風による焼成方法より焼成時間が短縮でき、製品のボリュームが大きく外観に優れ、冷凍保管しても食感が良好な焼成済み冷凍フラットブレッドを得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用する焼成前の生地は従来のフラットブレッドと同様の生地でよい。
例えば、生地の製造方法として、直捏法、中種法、液種法などが使用できる。
生地の原料としては、穀粉、糖類、油脂、乳製品、卵製品、植物性蛋白、澱粉、発酵物、モルトフラワー、酵素、ビタミンCなどを挙げることができる。
これらの原料を必要に応じて配合し、上記の製造方法により生地を得ることができる。
得られた生地をシート状に成形するが成形の手段として、モルダー、めん棒、手で伸ばす方法などを挙げることができる。
本発明で使用する焼成前の生地の厚みは、5mm以上20mm以下である。
生地の厚みが5mm未満では、フラットブレッドとしては厚みが薄すぎ、20mmを超えると、本発明の方法では火通りが十分ではなく焼成むらが生じるため好ましくない。
【0009】
シート状に成形した生地を適当な大きさにカットし、又はカットせずに過熱水蒸気で焼成することで焼成フラットブレッドを得ることができる。
過熱水蒸気による焼成は、シート状生地の両面から行う。
例えば、ネットコンベヤに生地を載せ生地の上面と底面から過熱水蒸気を当てて焼成する方法を挙げることができる。
本発明では、過熱水蒸気の温度と焼成時間が重要であり、この条件を外れた場合、例えば、高温短時間による焼成でも低温長時間でも本発明の効果を得ることが出来ない。
過熱水蒸気による焼成は、過熱水蒸気の温度が160℃以上180℃以下で、焼成時間は180秒以上360秒以下で行う。
過熱水蒸気は食品類の乾燥等にも利用されているが温度が上昇する程、水分蒸発の効果が高いという性質がある。
過熱水蒸気の温度が160℃未満では、生地水分の蒸発が少なく火通りが悪く、冷凍保存後、自然解凍して食した場合、口溶けが悪い食感となり好ましくない。
また、過熱水蒸気の温度が180℃を超えると焼成品上面が盛り上がりやすく、水分が飛び過ぎクラストが硬くなり過ぎるので好ましくない。
また、焼成時間は、180秒未満では生地の火通りが不充分になり口溶けが悪い食感となり好ましくない。
また、焼成時間が360秒を超えると水分が飛び過ぎるためクラストが硬くなり過ぎるので好ましくない。
さらに、本発明では、過熱水蒸気の温度と過熱水蒸気の焼成時間の積も重要であり、この条件を外れた場合は、本発明の効果を得ることが出来ない。
過熱水蒸気の温度と焼成時間が上記の範囲内であっても、過熱水蒸気の温度(℃)と過熱水蒸気による焼成時間(秒)の積が30000以上60000以下の範囲に入っていなければならない。
例えば、過熱水蒸気の温度が160℃、過熱水蒸気による焼成時間が180秒間の場合、上記積が28800となり、過熱水蒸気の温度と過熱水蒸気による焼成時間が160℃以上180℃以下で、180秒以上360秒以下の範囲に入っていても本発明の効果を得ることができない。
【0010】
なお、上記過熱水蒸気の温度は過熱水蒸気が生地に接するときの温度である。
また、本発明において、クラストとは生地を焼成した際の製品表皮をいう。
また、本発明において火通りとは、生地中のデンプンがα化した状態をいう。
火通りは食感のねちゃつきと相関があり、火通りが悪いとデンプンが充分に膨潤せず、ねちゃつく食感になる。
【0011】
得られた焼成フラットブレッドはそのまま冷凍して保存できる。
食する場合は、冷凍保存したフラットブレッドを冷凍状態、又は自然解凍した後に、電子レンジやオーブン等で軽く温めるか、または自然解凍でそのまま食することができる。
【実施例】
【0012】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1〜6 比較例1〜10]
強力小麦粉100質量部、食塩2質量部、モルトシロップ0.5質量部、脱脂粉乳2質量部、ドライイースト0.6質量部および水68質量部を24℃で低速5分間、中速3分間ミキシングした後、27℃、湿度80%で60分間発酵し、60gに分割してベンチタイムを20分間とり、モルダーで生地厚みが10mmになるように展圧した。
この生地を室温で20分間休ませた後、焼成中に製品が盛り上がらないように、ピケを入れた。
比較例10以外は連続式過熱蒸気調理機(中西製作所(社)製:製品名 小型SVロースター)により過熱水蒸気の供給量を100kg/時間として表1に示す条件で焼成して焼成フラットブレッドを得た。
なお、比較例10は、過熱水蒸気ではなく、乾燥熱風を使用して焼成した。
【0013】
【表1】
【0014】
得られた焼成フラットブレッドを室温で一時間放置した後、体積を測定し、10名のパネラーにより以下の評価基準で外観を評価した。
・外観
5点・・・上面全体に盛り上がりがなく、フラットで非常に良い
4点・・・上面全体に大きく盛り上がる部分がなく、やや良い
3点・・・上面の一部に小さな盛り上がりはあるが、萎んだ部分がなく、普通
2点・・・上面に盛り上がりや萎んだ部分があり、やや劣る
1点・・・上面が大きな盛り上がりや大きく萎んだ部分があり、劣る
得られた結果を表2〜表3に示す。
【0015】
【表2】
【0016】
実施例1〜6はいずれも乾燥熱風を使用した場合よりもボリュームがでていた。
なお、フラットブレッドは食感が重要であり、食感が劣るものは好ましくなく、従来の方法である乾燥熱風を使用した場合よりボリュームが出ていても比較例とした。
【0017】
【表3】
【0018】
フラットブレッドは食感が重要であり、食感が劣るものは外観が優れていても比較例とした。
比較例1、比較例3及び比較例6は、外観は実施例より優れていたが、食感が劣るため総合評価としては劣る評価となった。
【0019】
その後、得られた焼成フラットブレッドをラップ包装し、−35℃で急速凍結し、14日間−20℃で保存し室温で自然解凍して10名のパネラーにより以下の評価基準でそのまま食して食感を評価した
得られた結果を表4に示す
・食感
5点・・・口溶けは良好で、適度な硬さで、良い
4点・・・口溶けはやや良好で、適度な硬さで、やや良い
3点・・・口溶け、食感の硬さは許容範囲で、普通
2点・・・口溶けがやや悪い、又は食感がやや硬く、やや劣る
1点・・・口溶けが悪く、又は食感が硬く、劣る
【0020】
【表4】
【0021】
実施例1〜実施例6は、冷凍保管しても良好な食感であった。