(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
  以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と称することもある)について説明する。なお、本明細書中において、数値の記載に関する「〜」という用語は、その下限値以上、上限値以下を示す用語であり、これらの下限値及び上限値は任意に組み合わせできる数値である。
 
【0013】
〔潤滑油組成物〕
  本実施形態の変速機用潤滑油組成物は、(A)40℃動粘度が5〜15mm
2/sであり、かつ引火点が180℃以上の鉱油(以後、単に(A)鉱油と称する場合がある。)、(B)40℃動粘度が5〜15mm
2/sであり、かつ引火点が190℃以上の合成油(以後、単に(B)合成油と称する場合がある。)、(C)アミド化合物、及び(D)ポリオールエステル化合物を含むものである。
 
【0014】
<(A)鉱油>
  (A)鉱油は、40℃動粘度が5〜15mm
2/sであり、かつ引火点が180℃以上という性状を有する鉱油であることを要する。(A)鉱油が上記の40℃動粘度、かつ引火点を有さないと、省燃費性と、ギヤの耐焼付性、高温環境下での使用性及びシャダー防止性とを同時に備える潤滑油組成物は得られない。
  特に省燃費性の観点から、(A)鉱油の40℃動粘度は7〜13mm
2/sが好ましく、8〜12mm
2/sがより好ましく、8.5〜11mm
2/sが更に好ましい。これと同様の観点から、(A)鉱油の100℃動粘度は2〜5mm
2/sが好ましく、2〜4mm
2/sがより好ましく、2〜3mm
2/sが更に好ましい。また、粘度指数は90以上が好ましく、100以上がより好ましく、110以上が更に好ましい。
  本明細書において、動粘度、及び粘度指数は、JIS  K  2283:2000に準拠し、ガラス製毛管式粘度計を用いて測定した値である。
 
【0015】
  また、特に高温環境下での使用性の観点から、(A)鉱油の引火点は、182℃以上が好ましく、186℃以上がより好ましい。本明細書において、引火点は、JIS  K2265−4:2007に準拠し、COC法により測定された値である。
 
【0016】
  (A)鉱油としては、上記40℃動粘度及び引火点を有するものであれば特に制限されないが、例えば、パラフィン基系鉱油、ナフテン基系鉱油、中間基系鉱油等が挙げられる。これらの鉱油としては、より具体的には、例えば、パラフィン基系、ナフテン基系、中間基系等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;該常圧残油を減圧蒸留して得られた留出油;該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等のうちの1つ以上の処理を行って精製した鉱油等を挙げることができる。また、(A)鉱油は、上記の各種鉱油を単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
 
【0017】
  また、鉱油としては、API(米国石油協会)の基油カテゴリーにおいて、グループ1、2、3のいずれに分類されるものでもよいが、グループ2、3に分類されるものが好ましい。
 
【0018】
  (A)鉱油の組成物全量基準の含有量は、50〜97質量%が好ましく、55〜95質量%がより好ましく、60〜90質量%が更に好ましい。(A)鉱油の含有量を上記範囲とすることにより、省燃費性と、ギヤの耐焼付性、高温環境下での使用性及びシャダー防止性とが同時に得られやすくなる。
 
【0019】
<(B)合成油>
  (B)合成油は、40℃動粘度が5〜15mm
2/sであり、かつ引火点が190℃以上という性状を有する合成油であることを要する。(B)合成油が上記の40℃動粘度、かつ引火点を有さないと、省燃費性と、ギヤの耐焼付性、高温環境下での使用性及びシャダー防止性とを同時に備える潤滑油組成物は得られない。
 
【0020】
  特に省燃費性、及びギヤの耐焼付性の観点から、(B)合成油の40℃動粘度は5〜13mm
2/sが好ましく、5.5〜11mm
2/sがより好ましく、6〜10mm
2/sが更に好ましい。これと同様の観点から、(B)合成油の100℃動粘度は1〜5mm
2/sが好ましく、1.5〜4.5mm
2/sがより好ましく、2〜4mm
2/sが更に好ましい。また、粘度指数は120以上が好ましく、140以上がより好ましく、160以上が更に好ましい。
 
【0021】
  また、特に高温環境下での使用性の観点から、(B)合成油の引火点は、195℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。
 
【0022】
  (B)合成油としては、上記40℃動粘度及び引火点を有するものであれば特に制限されないが、例えば、ポリブテン、エチレン−α−オレフィン共重合体、α−オレフィン単独重合体又は共重合体等のポリα−オレフィン、パラフィン油等の炭化水素系油;ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル等の各種エステル油;ポリビニルエーテル、ポリフェニルエーテル、ポリオキシアルキレングリコール類(PAG)等の各種エーテル油;アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の芳香族系油;ポリグリコール;フィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス)を異性化することで得られる合成油などが挙げられる。合成油は、上記の各種合成油を単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
 
【0023】
  (B)合成油の組成物全量基準の含有量は、3〜50質量%が好ましく、5〜45質量%がより好ましく、8〜30質量%が更に好ましく、10〜25質量%が特に好ましい。(B)合成油の含有量を上記範囲とすることにより、省燃費性と、ギヤの耐焼付性、高温環境下での使用性及びシャダー防止性とが同時に得られやすくなる。
 
【0024】
<(C)アミド化合物>
  本実施形態の潤滑油組成物は、(C)アミド化合物を含む。(C)アミド化合物を含まないと、省燃費性と、ギヤの耐焼付性、高温環境下での使用性及びシャダー防止性とを同時に備える潤滑油組成物は得られない。
  (C)アミド化合物としては、分子中にアミド結合(C(=O)−N)を有する化合物であれば特に制限はないが、例えば、アミン化合物とカルボン酸化合物との反応生成物が挙げられる。
 
【0025】
  アミン化合物としては、例えば炭素数4〜30、好ましくは5〜24、より好ましくは6〜20、更に好ましくは6〜12の脂肪族ポリアミンが好ましく挙げられる。また、アミン化合物中の窒素原子数(−NH−基、−NH
2基に由来する)は、2〜16が好ましく、2〜12がより好ましく、3〜8が更に好ましい。
  このような脂肪族ポリアミンとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、ジアミノウンデカン、ジアミノドデカン、ジアミノトリデカン、ジアミノテトラデカン、ジアミノペンタデカン、ジアミノヘキサデカン、ジアミノヘプタデカン、ジアミノオクタデカン、ジアミノノナデカン、ジアミノイコサン、ジアミノヘンイコサン、ジアミノドコサン、ジアミノトリコサン、ジアミノテトラコサン、ジアミノペンタコサン、ジアミノヘキサコサン、ジアミノヘプタコサン、ジアミノオクタコサン、ジアミノノナコサン、ジアミノトリアコンタン等のアルキレンジアミン;ヘキセニルジアミン、ヘプテニルジアミン、オクテニルジアミン、ノネニルジアミン、デセニルジアミン、ウンデセニルジアミン、ドデセニルジアミン、トリデセニルジアミン、テトラデセニルジアミン、ペンタデセニルジアミン、ヘキサデセニルジアミン、ヘプタデセニルジアミン、オクタデセニルジアミン、ノナデセニルジアミン、イコセニルジアミン、ヘンイコセニルジアミン、ドコセニルジアミン、トリコセニルジアミン、テトラコセニルジアミン、ペンタコセニルジアミン、ヘキサコセニルジアミン、ヘプタコセニルジアミン、オクタコセニルジアミン、ノナコセニルジアミン、トリアコンテニルジアミン等のアルケニレンジアミン;ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、ジ(メチルエチレン)トリアミン、ジブチレントリアミン、トリプロピレントリアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン、トリブチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、テトラプロピレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ペンタプロピレンヘキサミン、ペンタペンチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、ヘプタエチレンオクタミン、オクタエチレンノナミン、ノナエチレンデカミン等のポリアルキレンポリアミン、などが挙げられる。
 
【0026】
  これらの中でも、アルキレンジアミン、ポリアルキレンポリアミンが好ましく、ポリアルキレンポリアミンがより好ましく、アルキレンが炭素数2〜4のアルキレンであるポリアルキレンポリアミンが更に好ましく、特にアルキレンが炭素数2であるアルキレンであり、全炭素数が6〜12であるポリエチレンポリアミンが好ましい。
  また、ポリアルキレンポリアミンは、繰返し単位(−NH−(CH
2)
n−、nは1以上の整数を示す。)部分が直鎖状、分岐状、環状を形成するものであってもよく、直鎖状のものが好ましい。
 
【0027】
  カルボン酸化合物としては、例えば炭素数6〜30、好ましくは8〜24、より好ましくは12〜24、更に好ましくは16〜20のカルボン酸が好ましく挙げられる。カルボン酸化合物は、直鎖状、分岐鎖のいずれを有していてもよく、また飽和、不飽和のいずれであってもよい。
 
【0028】
  このようなカルボン酸化合物としては、例えば、代表的には、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等の1価の飽和カルボン酸;ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エイコサジエン酸、エルカ酸、ドコサジエン酸等の1価の不飽和カルボン酸などが挙げられる。
 
【0029】
  特に優れたギヤの耐焼付性を得る観点から、カルボン酸化合物としては、飽和カルボン酸が好ましく、炭素数16〜20の飽和カルボン酸がより好ましく、より具体的には、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸が更に好ましく、特にステアリン酸、イソステアリン酸、及びオレイン酸が好ましい。
 
【0030】
  (C)アミド化合物の組成物全量基準の含有量は、0.001〜0.5質量%が好ましく、0.005〜0.3質量%がより好ましく、0.01〜0.2質量%が更に好ましく、0.01〜0.1質量%が特に好ましい。(C)アミド化合物の含有量を上記範囲とすることにより、省燃費性と、ギヤの耐焼付性、高温環境下での使用性及びシャダー防止性とが同時に得られやすくなる。
 
【0031】
<(D)ポリオールエステル化合物>
  (D)ポリオールエステル化合物としては、例えば、ポリオールとカルボン酸化合物との反応生成物が挙げられる。また、(D)ポリオールエステル化合物は、ポリオールの全ての水酸基がエステル化された完全エステルでも、またポリオールの水酸基の一部がエステル化されずに残った部分エステルでもよく、また完全エステルと部分エステルとの混合物でもよいが、酸価を抑え、シャダー防止性を向上する観点から、完全エステルであることが好ましい。
 
【0032】
  ポリオールとしては、炭素数2〜15の脂肪族ポリオールが好ましく、炭素数2〜8の脂肪族ポリオールがより好ましい。
  ポリオールの具体例としては、エチレングリコ−ル、プロピレングリコ−ル、プロパンジオール、ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、ヘプタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ウンデカンジオール、ドデカンジオール、トリデカンジオール、テトラデカンジオール、ペンタデカンジオール等の脂肪族ジオール;トリメチロ−ルエタン、ジトリメチロ−ルエタン、トリメチロ−ルプロパン、ジトリメチロ−ルプロパン、グリセリン、ペンタエリスリト−ル、ジペンタエリスリト−ル、トリペンタエリスリト−ル、ソルビト−ル等の3価以上の脂肪族ポリオールなどが挙げられる。これらの中でも、特に優れたシャダー防止性を得る観点から、3価以上の脂肪族ポリオールが好ましく、グリセリンがより好ましい。
 
【0033】
  カルボン酸化合物としては、例えば、炭素数12〜24、好ましくは12〜20、より好ましくは16〜20のカルボン酸が好ましく挙げられる。カルボン酸化合物は、分子中に直鎖状、分岐鎖のいずれを有していてもよく、また飽和、不飽和のいずれであってもよい。
 
【0034】
  このようなカルボン酸化合物としては、例えば、代表的には、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等の1価の飽和カルボン酸;ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エイコサジエン酸、エルカ酸、ドコサジエン酸等の1価の不飽和カルボン酸などが挙げられる。
  これらカルボン酸の中でも、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸が好ましく、ステアリン酸及びオレイン酸がより好ましい。
 
【0035】
  (D)ポリオールエステル化合物の組成物全量基準の含有量は、0.001〜3質量%が好ましく、0.01〜2質量%がより好ましく、0.03〜1質量%が更に好ましく、0.05〜0.5質量%が特に好ましい。(D)ポリオールエステル化合物の含有量を上記範囲とすることにより、省燃費性と、ギヤの耐焼付性、高温環境下での使用性及びシャダー防止性とが同時に得られやすくなる。
  また、(C)アミド化合物と(D)ポリオールエステル化合物との合計含有量は、特にシャダー防止性の観点から、組成物全量基準で0.01〜3質量%が好ましく、0.03〜2質量%がより好ましく、0.05〜1質量%が更に好ましく、0.05〜0.5質量%が特に好ましい。
 
【0036】
<その他添加剤>
  本実施形態の潤滑油組成物は、発明の目的を阻害しない範囲で、例えば、粘度指数向上剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、分散剤、流動点降下剤、消泡剤等のその他添加剤を、適宜選択して配合することができる。これらの添加剤は、単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
  これらのその他添加剤の合計含有量は、発明の目的に反しない範囲であれば特に制限はないが、その他添加剤を添加する効果を考慮すると、組成物全量基準で、0.1〜20質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましく、5〜13質量%が更に好ましい。
 
【0037】
(粘度指数向上剤)
  本実施形態の潤滑油組成物は、上記の基油(A)の粘度指数を向上させるため、粘度指数向上剤を含有してもよい。粘度指数向上剤としては、例えば、非分散型ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体等)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン−ジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体等)等の重合体が挙げられる。
 
【0038】
  これらの粘度指数向上剤の質量平均分子量(Mw)としては、その種類に応じて適宜設定されるが、粘度特性の観点から、通常500〜1,000,000、好ましくは5,000〜800,000、より好ましくは10,000〜600,000である。
  非分散型及び分散型ポリメタクリレートの場合は、5,000〜500,000が好ましく、10,000〜300,000がより好ましく、20,000〜100,000が更に好ましい。また、オレフィン系共重合体の場合は、800〜300,000が好ましく、10,000〜200,000がより好ましい。
 
【0039】
  ここで、質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定し、ポリスチレンを用いて作成した検量線から求めることができる。例えば、上記各ポリマーの質量平均分子量は、以下のGPC法により、ポリスチレン換算値として算出することができる。
<GPC測定装置>
・カラム:TOSO  GMHHR−H(S)HT
・検出器:液体クロマトグラム用RI検出器  WATERS  150C
<測定条件等>
・溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼン
・測定温度:145℃
・流速:1.0ミリリットル/分
・試料濃度:2.2mg/ミリリットル
・注入量:160マイクロリットル
・検量線:Universal  Calibration
・解析プログラム:HT−GPC(Ver,1.0)
 
【0040】
  粘度指数向上剤の含有量は、粘度特性の観点から、組成物全量基準で、0.5〜15質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましく、1.5〜8質量%が更に好ましい。
 
【0041】
(摩擦調整剤)
  摩擦調整剤としては、例えば、炭素数6〜30のアルキル基またはアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基または直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、脂肪酸アミン、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、及び脂肪酸エーテル等の無灰摩擦調整剤;モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)、及びモリブデン酸のアミン塩等のモリブデン系摩擦調整剤等が挙げられる。
 
【0042】
  無灰摩擦調整剤を用いる場合、その組成物全量基準の含有量は、0.01〜3質量%が好ましく、0.1〜2質量%がより好ましい。また、モリブデン系摩擦調整剤を用いる場合、その組成物全量基準の含有量は、モリブデン原子換算で、60〜1,000質量ppmが好ましく、80〜1,000質量ppmがより好ましい。含有量が上記範囲内であると、優れた省燃費性、耐摩耗特性が得られ、清浄性の低下を抑えることができる。
 
【0043】
(酸化防止剤)
  酸化防止剤としては、例えば、ジフェニルアミン系酸化防止剤、ナフチルアミン系酸化防止剤等のアミン系酸化防止剤;モノフェノール系酸化防止剤、ジフェノール系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤等のフェノール系酸化防止剤;三酸化モリブデン及び/又はモリブデン酸とアミン化合物とを反応させてなるモリブデンアミン錯体等のモリブデン系酸化防止剤;フェノチアジン、ジオクタデシルサルファイド、ジラウリル−3,3'−チオジプロピオネート、2−メルカプトベンゾイミダゾール等の硫黄系酸化防止剤;トリフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト等のリン系酸化防止剤等が挙げられる。
 
【0044】
(分散剤)
  分散剤としては、例えば、ホウ素非含有コハク酸イミド類、ホウ素含有コハク酸イミド類、ベンジルアミン類、ホウ素含有ベンジルアミン類、コハク酸エステル類、脂肪酸あるいはコハク酸で代表される一価又は二価カルボン酸アミド類等の無灰系分散剤が挙げられる。
 
【0045】
(流動点降下剤)
  流動点降下剤としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン等が挙げられる。
 
【0046】
(消泡剤)
  消泡剤としては、例えば、シリコーン油、フルオロシリコーン油、及びフルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
 
【0047】
(潤滑油組成物の各種物性)
  本実施形態の潤滑油組成物の100℃動粘度は、2〜5mm
2/sが好ましく、2.25〜4.75mm
2/sがより好ましく、2.5〜4.5mm
2/sが更に好ましい。40℃動粘度は、5〜17mm
2/sが好ましく、6〜17mm
2/sがより好ましく、8〜17mm
2/sが更に好ましい。
  また、粘度指数は、幅広い温度領域で安定した効果を発揮する観点から、130以上が好ましく、135以上がより好ましく、140以上が更に好ましい。
 
【0048】
  本実施形態の潤滑油組成物の引火点は、184℃以上が好ましく、186℃以上がより好ましく、190℃以上が更に好ましい。
 
【0049】
  このように、本実施形態の潤滑油組成物は、低粘度であり、かつ引火点が高いことから、省燃費性を有しながら、高温環境下で使用することが可能である。また、特定の性状を有する(A)鉱油、(B)合成油に加えて、(C)アミド化合物、及び(D)ポリオールエステル化合物を含むことで、省燃費性と、ギヤの耐焼付性、高温環境下での使用性及びシャダー防止性とを同時に備えるものとなっている。
  本実施形態の潤滑油組成物は、このような特性をいかし、例えば、ガソリン自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車等の変速機用潤滑油組成物として用いることができる。特に、高温環境下での使用性に優れることから、ハイブリッド自動車、電気自動車用の潤滑油組成物として好適に用いることができる。また、本実施形態の潤滑油組成物について適用しうる他の用途としては、例えば、内燃機油、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、工作機械用潤滑油、切削油、歯車油、流体軸受け油組成物、転がり軸受け油等も好ましく挙げられる。
 
【0050】
〔潤滑方法及び変速機〕
  本実施形態の潤滑方法は、上記の本実施形態の潤滑油組成物を用いた潤滑方法である。本実施形態の潤滑方法で用いられる潤滑油組成物は、省燃費性と、ギヤの耐焼付性、高温環境下での使用性及びシャダー防止性とを同時に備えるものである。よって、本実施形態の潤滑方法は、例えば、ガソリン自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車等の変速機に好適に用いられる。特に、高温環境下での使用性に優れることから、ハイブリッド自動車、電気自動車の変速機における潤滑方法として好適に用いられる。また、他の用途、例えば、内燃機関、油圧機械、タービン、圧縮機、工作機械、切削機械、歯車(ギヤ)、流体軸受け、転がり軸受けを備える機械等にも好適に用いられる。
 
【0051】
  また、本実施形態の変速機は、本実施形態の潤滑油組成物を用いたものである。本実施形態の変速機は、省燃費性と、ギヤの耐焼付性、高温環境下での使用性及びシャダー防止性とを同時に備える潤滑油組成物を用いていることから、ガソリン自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車等の様々な自動車に広く好適に適用される。特に高温環境下での使用性に優れることから、ハイブリッド自動車、電気自動車の変速機として好適に用いられる。また、他の用途、例えば、内燃機関、油圧機械、タービン、圧縮機、工作機械、切削機械、歯車(ギヤ)、流体軸受け、転がり軸受けを備える機械等にも好適に用いられる。
 
【実施例】
【0052】
  次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0053】
実施例1〜5、比較例1〜4
  表1に示す配合量(質量%)で潤滑油組成物を調製した。得られた潤滑油組成物について、以下の方法により各種試験を行い、その物性を評価した。評価結果を表1に示す。なお本実施例で用いた表1に示される各成分の詳細は以下のとおりである。
・鉱油−1:パラフィン系鉱油、40℃動粘度9.5mm
2/s、100℃動粘度2.7mm
2/s、粘度指数117、引火点186℃、
・鉱油−2:パラフィン系鉱油、40℃動粘度9.3mm
2/s、100℃動粘度2.6mm
2/s、粘度指数112、引火点186℃
・鉱油−3:パラフィン系鉱油、40℃動粘度9.9mm
2/s、100℃動粘度2.7mm
2/s、粘度指数116、引火点170℃
・合成油:エステル油、40℃動粘度7.5mm
2/s、100℃動粘度2.5mm
2/s、粘度指数197、引火点206℃
・アミド化合物:イソステアリン酸と脂肪族ポリアミン(テトラエチレンペンタミン)との反応生成物
・ポリオールエステル:オレイン酸モノグリセライドとオレイン酸ジグリセライドとの混合物
【0054】
  潤滑油組成物の性状の測定、及び評価は以下の方法で行った。
(1)動粘度
  JIS  K  2283:2000に準拠し、40℃、100℃における動粘度を測定した。
(2)粘度指数(VI)
  JIS  K  2283:2000に準拠して測定した。
(3)引火点
  JIS  K2265−4:2007に準拠し、COC法により測定した。
【0055】
(4)ギヤの耐焼付性の評価
  ASTM  D5182−9に準拠し、FZGギヤ試験機を用い、90℃、1500rpm、15分の条件で試験を行い、規定に沿って段階的に荷重を上げ、歯面に焼付き(スコーリング)が発生した荷重のステージで表示した。荷重のステージが高いほど、耐焼付性に優れることを示す。
【0056】
(5)シャダー防止性の評価
  JASO  M349:2012に準拠し、以下の条件で試験して、すべり速度0.9m/sでのdμ/dV×1000の数値をもって、シャダー防止性の指標とした。この数値が大きいほど、シャダー防止性に優れていることを示し、この数値が負の数値である場合はシャダーが発生することを示す。
・摩擦材:セルロース製ディスク/スチールプレート
・油量:150ml
・性能測定:ならし運転後に油温40℃、及び120℃で、すべり速度0.9m/sとしたときのμ−V摩擦特性(面圧:1MPa、回転数250から0rpmのスィープダウン時のdV/dV0)を評価した。
・ならし運転の条件は以下の通りである。
    油温80℃、面圧1MPa、すべり速度0.6m/s、時間30分
【0057】
【表1】
【0058】
  表1の結果により、実施例1〜5の潤滑油組成物は、40℃動粘度、100℃動粘度が低いことから省燃費性に優れており、引火点が194℃以上と高いことから高温環境下での使用性にも優れ、かつギヤの耐焼付性及びシャダー防止性にも優れていることが確認された。一方、引火点が170℃と低い鉱油−3を含む比較例1の潤滑油組成物は引火点が低く、高温環境下での使用性の点で十分な性能を有しておらず、(B)合成油を含まない比較例2の潤滑油組成物は引火点が低く高温環境下での使用性の点で、またギヤの耐焼付性の点でも十分な性能を有しておらず、(C)ポリアミドを含まない比較例3の潤滑油組成物、及び(D)ポリオールエステル化合物を含まない比較例4の潤滑油組成物はシャダー防止性の点で十分な性能を有していないため、省燃費性、高温環境下での使用性、ギヤの耐焼付性及びシャダー防止性を同時に満足するものとはいえないことが確認された。