(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6907514
(24)【登録日】2021年7月5日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】超純水製造システム及び超純水製造方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/42 20060101AFI20210708BHJP
B01J 47/026 20170101ALI20210708BHJP
B01J 47/04 20060101ALI20210708BHJP
B01J 45/00 20060101ALI20210708BHJP
B01J 43/00 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
C02F1/42 A
B01J47/026
B01J47/04
B01J45/00
B01J43/00
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-230478(P2016-230478)
(22)【出願日】2016年11月28日
(65)【公開番号】特開2018-86619(P2018-86619A)
(43)【公開日】2018年6月7日
【審査請求日】2019年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】中馬 高明
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 洋一
【審査官】
小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−084986(JP,A)
【文献】
特開2016−047496(JP,A)
【文献】
特開2005−246126(JP,A)
【文献】
特開2014−104413(JP,A)
【文献】
特開2015−136685(JP,A)
【文献】
特開2014−100706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00−1/78
B01J 39/00−49/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前処理システムと一次純水システムと二次純水システムとをこの順に備える超純水の製造システムであって、
前記一次純水システムが、第一イオン交換装置、逆浸透膜装置、第二イオン交換装置、第三イオン交換装置をこの順に備え、
前記第二イオン交換装置が、非再生式の混床式イオン交換装置であり、
前記第三イオン交換装置がホウ素を含む被処理水をイオン交換樹脂で処理する非再生式のイオン交換装置であり、該第三イオン交換装置が、前記一次純水システムの末端に設けられており、
前記第三イオン交換装置が、
イオン交換樹脂を充填するための収容部と、
前記収容部に被処理水を供給するための供給部と、
前記収容部から処理水を排出するための排出部と
を有し、
前記収容部には、前記供給部側にホウ素選択性イオン交換樹脂が、前記排出部側にホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂が、それぞれ充填されており、
前記ホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂が、強塩基性アニオン交換樹脂である
超純水製造システム。
【請求項2】
前記収容部が立設されており、
前記収容部の上側に前記供給部が、前記収容部の下側に前記排出部が、それぞれ配設されている請求項1に記載の超純水製造システム。
【請求項3】
前記イオン交換樹脂が、前記ホウ素選択性イオン交換樹脂と前記ホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂とを積層した構造である請求項1または請求項2に記載の超純水製造システム。
【請求項4】
前記ホウ素選択性イオン交換樹脂の層高が、前記ホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂の層高よりも大きい請求項3に記載の超純水製造システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の超純水製造システムを用いた超純水製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理水中に存在するホウ素を効率的に低減させることができる超純水製造システム及びこれを用いた超純水製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体や液晶パネル等の電子機器製造の分野では、システムを洗浄するために、有機物、微粒子、イオン性物質等の不純物の含有量が極めて小さい超純水が使用されている。中でも、半導体の製造工程においては、半導体の微細化・大容量化にともない、使用する超純水には非常に高い純度が求められる。
【0003】
このような、半導体の製造工程に使用される超純水は、主に、前処理システム、一次純水システム、二次純水システムを備える超純水製造システムにおいて製造され、ユースポイントに供給される。前処理システムは、凝集濾過、精密濾過膜(MF膜)、限外濾過膜(UF膜)等による除濁処理装置や活性炭等による脱塩素処理装置を用いて原水を除濁するためのものである。一次純水システムは、2床3塔式イオン交換装置、逆浸透膜(RO膜)装置等により、前処理水に含まれるイオン成分やTOC成分等の不純物を除去するためのものである。二次純水システムはサブシステムとも呼ばれ、紫外線酸化装置(UV装置)、混床式イオン交換装置、膜式脱気装置、限外ろ過膜装置(UF装置)等により、一次純水中の極微量の微粒子や微量イオン、特に低分子の微量有機物のような不純物を除去し、より純度の高い超純水を製造するためのものである。このような超純水製造システムは、サブシステムからユースポイントへ超純水を流通する送水配管と、ユースポイントで使用されなかった超純水をサブシステムの先端へ返送し循環するための返送配管とを備えるのが一般的である。
【0004】
近年、超純水に含まれるイオン類、特に、ホウ素による半導体製品への悪影響が問題となっており、超純水中のホウ素濃度を低減することが重要な課題となっている。なお、サブシステムに供給される被処理水(一次純水)中にイオン成分やTOC成分が多く含まれていると、サブシステムを構成する混床式イオン交換装置のイオン交換樹脂の頻繁な再生が必要となる等、超純水製造システム全体のコスト増加につながり好ましくない。よって、通常、被処理水に含まれるイオン成分やTOC成分は、ほとんどが一次純水システムにおいて除去される。
【0005】
被処理水に含まれるホウ素は、一般的なイオン交換樹脂(例えば、強塩基性アニオン交換樹脂等)でも除去することが可能である。しかし、ホウ素は水溶液中で極めて弱酸のホウ酸として存在するため、シリカ(ケイ酸)や他のアニオンと比べてイオン交換容量が小さく、比較的早期にイオン交換樹脂を破過し、処理水中へリークしてしまう。よって、このような一般的なイオン交換樹脂を用いて超純水に要求される濃度にまでホウ素を低減させようとすると、イオン交換樹脂の頻繁な再生が必要となり、再生のための薬品にコストがかかってしまう。
【0006】
上述のような、いわゆる再生型のイオン交換装置の再生薬品によるコスト増加を防ぐために、例えば、特許文献1には、再生型のイオン交換装置を備えていない超純水製造装置において、アニオン交換樹脂よりもイオン交換容量が大きいホウ素選択性イオン交換樹脂を用いる方法が、特許文献2には、ホウ素選択吸着能を有する有機多孔質体を用いる方法が、特許文献3には、ホウ素選択除去性イオン交換繊維を用いる方法が、それぞれ提案されている。しかしながら、特許文献1−3に記載の方法では、追加の設備が必要となることに加えて、部材から溶出するTOC成分を含んだ被処理水が後段のサブシステムに供給されてしまうので、サブシステムにおいて超純水に要求されるレベルにまでTOC成分を低減させる必要が生じ、超純水製造システム全体のコスト増加につながるといった問題がある。
【0007】
また、被処理水に含まれるホウ素は、一般的な逆浸透膜(RO膜)でも除去することが可能である。しかし、上述のように、水溶液中のホウ酸は極めて弱酸であるため、ごく一部しか解離せず、ほとんどがH
3BO
4の形態のままで存在する。よって、RO膜によるホウ素の除去率は極めて低く、超純水に要求される濃度にまでホウ素を低減させようとすると、RO膜装置そのものが重厚となり、コスト面で現実的ではない。
【0008】
上述のような、RO膜によるホウ素の除去率を上げるために、例えば、特許文献4には、RO装置に導入する被処理水のpHをアルカリ性にし、ホウ素の弱イオン成分をイオン化させることにより、イオン化したホウ素をRO装置で除去する方法が提案されている。しかしながら、特許文献4に記載の方法では、RO装置に導入する被処理水のpHをアルカリ性にするための薬品の添加設備が必要となることに加え、薬品の使用量の増加がそのままコストの増加につながるといった問題がある。また、pHを高い値にすると、水中の硬度成分(Ca,Mg等)が水酸化物として析出することにより、RO膜を目詰りさせるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−192661号公報
【特許文献2】特開2004−066153号公報
【特許文献3】特開2005−246126号公報
【特許文献4】特開2004−283710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上述のような事情に基づいてなされたものであり、一次純水システムでホウ素及びTOC成分を低減した後の被処理水をサブシステムに供給することにより、サブシステムにTOC負荷をかけることなく、ホウ素を低濃度化した超純水を安定的に得ることのできる超純水製造システム及び超純水製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、第一に本発明は、前処理システムと一次純水システムと二次純水システムとをこの順に備える超純水の製造システムであって、前記一次純水システムが、ホウ素を含む被処理水をイオン交換樹脂で処理するイオン交換装置を備え、前記イオン交換装置が、イオン交換樹脂を充填するための収容部と、前記収容部に被処理水を供給するための供給部と、前記収容部から処理水を排出するための排出部とを有し、前記収容部には、前記供給部側にホウ素選択性イオン交換樹脂が、前記排出部側にホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂が、それぞれ充填されている超純水製造システムを提供する(発明1)。
【0012】
かかる発明(発明1)によれば、一次純水システムが備えるイオン交換装置において、収容部の供給部側にホウ素選択性イオン交換樹脂が、排出部側にホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂が充填されることにより、供給されるホウ素を含む被処理水から、まずホウ素選択性イオン交換樹脂によってホウ素が吸着除去され、その後ホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂によってホウ素選択性イオン交換樹脂より溶出するTOC成分が吸着除去されるので、後段のサブシステムにTOC負荷をかけることなく、ホウ素濃度の低減された一次処理水を供給することができる。これにより、ホウ素を低濃度化した超純水を安定的に得ることができる。また、サブシステムにおけるTOC負荷の増加による処理コストを低減させることもできる。
【0013】
上記発明(発明1)においては、前記収容部が立設されており、前記収容部の上側に前記供給部が、前記収容部の下側に前記排出部が、それぞれ配設されていることが好ましい(発明2)。
【0014】
かかる発明(発明2)によれば、イオン交換樹脂を充填した収容部に、流れ方向が収容部の上方から下方であるように供給部から被処理水を供給することができるので、被処理水とイオン交換樹脂とを効率よく接触させることができ、各イオン交換樹脂の持つ吸着能力が高く発揮される。よって、被処理水に含まれるホウ素及びホウ素選択性イオン交換樹脂より溶出するTOC成分を効果的に除去することができる。
【0015】
上記発明(発明1,2)においては、前記イオン交換樹脂が、前記ホウ素選択性イオン交換樹脂と前記ホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂とを積層した構造であることが好ましい(発明3)。
【0016】
かかる発明(発明3)によれば、イオン交換樹脂が、ホウ素選択性イオン交換樹脂とホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂との二層構造であることにより、上記各イオン交換樹脂の吸着効率の予測が容易になるので、効率的にイオン交換樹脂による処理を行うこともできる。
【0017】
上記発明(発明1−3)においては、前記イオン交換装置が、前記一次純水システムの末端に設けられることが好ましい(発明4)。
【0018】
一般的に、ホウ素選択性イオン交換樹脂の吸着能力を最大限に発揮させるためには、供給される被処理水の負荷がホウ素のみであることが好ましい。かかる発明(発明4)によれば、ホウ素選択性イオン交換樹脂を有するイオン交換装置が、一次純水システムの末端に設けられることにより、ホウ素以外の負荷を低減させた被処理水を上記イオン交換装置に供給することができるので、ホウ素選択性イオン交換樹脂の吸着能力が最大限に発揮され、ホウ素の除去効率を向上させることができる。
【0019】
上記発明(発明1−4)においては、前記ホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂が、強塩基性アニオン交換樹脂、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂との混合物、及び両性イオン交換樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましい(発明5)。
【0020】
かかる発明(発明5)によれば、ホウ素選択性イオン交換樹脂より溶出するTOC成分をより効率的に吸着除去することができる。
【0021】
第二に本発明は、当該超純水製造システムを用いた超純水製造方法を提供する(発明6)。
【発明の効果】
【0022】
本発明の超純水製造システム及び超純水製造方法によれば、一次純水システムでホウ素及びTOC成分を低減した後の被処理水をサブシステム(二次純水システム)に供給することにより、サブシステムにTOC負荷をかけることなく、ホウ素を低濃度化した超純水を安定的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る超純水製造システムを示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る超純水製造システムが備えるホウ素選択性イオン交換樹脂を有するイオン交換装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の超純水製造システム及び超純水製造方法の実施の形態について、適宜図面を参照して説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであって、何ら本発明を限定するものではない。
【0025】
(超純水)
本実施形態で製造される超純水は、ホウ素濃度が0.5ppt−50pptの間であることが好ましい。ホウ素濃度が上記範囲外であると、半導体製品の製造工程におけるシステムの洗浄の際に、半導体製品へ悪影響を及ぼすおそれがあり好ましくない。
【0026】
(被処理水)
本実施形態で使用されるホウ素を含有する被処理水は、特に限定されるものではない。通常、前処理システムによる徐濁処理後の被処理水(前処理水)、つまり、一次処理システムに供給される被処理水には、ホウ素が30ppb程度含まれている。なお、ホウ素は、被処理水中で主にホウ酸(B(OH)
3)の形態で存在している。
【0027】
[超純水製造システム]
図1は、本発明の一実施形態に係る超純水製造システムを示すブロック図である。
図1に示す超純水製造システム1は、前処理システム2、一次純水システム3、二次純水システム(サブシステム)4をこの順に備える。前処理システム2に供給された原水は、凝集ろ過、MF膜(精密ろ過膜)、UF膜(限外ろ過膜)等による除濁処理や活性炭等による脱塩素処理の後、送水配管L1を経て、一次純水システム3へ供給される。一次純水システム3に供給された前処理水は、イオン成分やTOC成分等の不純物が除去された後、送水配管L2を経て、サブシステム4へ供給される。サブシステム4では、被処理水中の極微量の微粒子や微量イオン成分、特に低分子の微量有機物のような不純物が除去され、より純度の高い超純水が製造される。サブシステム4で製造された超純水は、送水配管L3を経て、ユースポイント5へ送られる。
【0028】
<一次純水システム>
一次純水システム3は、2床3塔式のイオン交換装置(第一イオン交換装置)31、逆浸透膜(RO膜)装置32、混床式のイオン交換装置(第二イオン交換装置)33、ホウ素選択性イオン交換樹脂を有するイオン交換装置(第三イオン交換装置)34をこの順に備えている。第一イオン交換装置31は、カチオン交換塔(H塔)、脱炭酸塔、アニオン交換塔(OH塔)をこの順に備え、前処理システム2から供給される被処理水を脱塩するためのものである。逆浸透膜(RO膜)装置32は、被処理水中のイオン成分やTOC成分等の不純物を除去するためのものである。第一イオン交換装置31による脱塩処理により、逆浸透膜(RO膜)装置32には、塩濃度が低減された被処理水が供給されるので、逆浸透膜(RO膜)装置32における水回収率が向上し、これに伴い被処理水中に含まれるイオン成分やTOC成分等の不純物の除去率も向上する。第二イオン交換装置33は、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とを均一混合して充填した塔を備え、被処理水中に存在する低分子量のカチオン及びアニオンを除去し、処理水の純度を高めるためのものである。
【0029】
なお、一次純水システムが備える混床式イオン交換装置は、再生式、非再生式のいずれであってもよいが、非再生式のイオン交換装置であることが好ましい。これは、一次純水システムに再生式のイオン交換装置を用いると、イオン交換樹脂を再生するときに使用する薬品によって、コスト高になるだけでなく、イオン交換樹脂の再生に必要な薬品によって、排水の量が増加しやすいからである。通常、一次純水システムに非再生式のイオン交換装置を用いる場合は、本実施形態のように逆浸透膜(RO膜)装置等と組み合わせて使用することにより、イオン成分の除去率を向上させることが行われている。
【0030】
(ホウ素選択性イオン交換樹脂を有するイオン交換装置)
次に、本実施形態の一次純水システム3が備えるホウ素選択性イオン交換樹脂を有するイオン交換装置(第三イオン交換装置)34について、
図2も参照しつつ詳説する。
【0031】
第三イオン交換装置34は、ホウ素選択性イオン交換樹脂によって被処理水に含まれるホウ素を除去するとともに、ホウ素選択性イオン交換樹脂より溶出したTOC成分をホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂によって除去するためのものである。ホウ素選択性イオン交換樹脂の吸着能力を最大限に発揮させるためには、第三イオン交換装置34に供給される被処理水の負荷がホウ素のみであることが望ましいことから、第三イオン交換装置34は、一次純水システム3の末端に設置される。また、後段のサブシステム4の先端に設置される紫外線酸化装置(UV装置)41は、装置自体が大きく嵩張る上に高価であるため、できるだけ規模を小さくすることが求められる。そのためにも、一次純水システム3の末端に設置される第三イオン交換装置34において被処理水中のTOC成分をできるだけ除去することで、サブシステム4の先端に設置される紫外線酸化装置(UV装置)41にTOC負荷をかけないことが望ましい。
【0032】
図2は、本実施形態に係る第三イオン交換装置34の構成を示す概略図である。第三イオン交換装置34は、イオン交換樹脂Aを充填するための収容部341と、収容部341に被処理水を供給するための供給部342と、収容部341から処理水を排出するための排出部343とを有している。収容部341は立設されており、収容部341の上側に供給部342が、収容部341の下側に排出部343が、それぞれ配設されていて、ホウ素選択性イオン交換樹脂A1が供給部342側に、ホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂A2が排出部343側に、それぞれ充填されている。
【0033】
第三イオン交換装置34において、供給部342側にホウ素選択性イオン交換樹脂A1が、排出部343側にホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂A2が、それぞれ充填されることにより、収容部341に供給されるホウ素を含む被処理水から、まずホウ素選択性イオン交換樹脂A1によってホウ素が吸着除去され、その後ホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂A2によってホウ素選択性イオン交換樹脂A1より溶出したTOC成分が吸着除去されるので、後段のサブシステム4にTOC負荷をかけることなく、ホウ素濃度の低減された一次処理水を供給することができる。サブシステム4に対するTOC負荷が抑えられることにより、超純水製造システム全体のコスト増加を防ぐこともできる。
【0034】
また、収容部341が立設されており、その上側に供給部342が、下側に排出部343が配設されていることにより、流れ方向が収容部341の上方から下方であるように供給部342から被処理水を供給することができるので、イオン交換樹脂Aが被処理水によって撹拌されにくく、ホウ素選択性イオン交換樹脂A1とホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂A2との二層構造が維持される。これにより、被処理水と各イオン交換樹脂A1、A2とを効率よく接触させることができるので、各イオン交換樹脂A1、A2の持つ吸着能力が高く発揮される。よって、被処理水に含まれるホウ素及びホウ素選択性イオン交換樹脂A1より溶出するTOC成分を効果的に除去することができる。
【0035】
収容部341に充填されるイオン交換樹脂Aは、ホウ素選択性イオン交換樹脂A1とホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂A2とを積層した構造であってもよい。イオン交換樹脂Aが、上記のような二層構造であることにより、上記各イオン交換樹脂A1、A2の吸着効率の予測が容易になるので、効率的に処理を行うこともできる。
【0036】
なお、収容部341は、ホウ素選択性イオン交換樹脂A1とホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂A2とを仕切るための仕切板を内部に有していてもよい。このような仕切板を有することにより、イオン交換樹脂A1、A2の混合や上下への流出を防止することができる。また、収容部341は、例えば、ホウ素選択性イオン交換樹脂A1が充填されたサブ収容部3411(図示しない)と、ホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂A2が充填されたサブ収容部3412(図示しない)とが、直列に接続された構造であってもよい。
【0037】
ホウ素選択性イオン交換樹脂A1の層高は特に限定されず、必要に応じて適宜設定することができるが、800mm以上となるように設定することが好ましく、1000mm以上となるように設定することがより好ましい。層高を800mm以上とすることで、ホウ素選択性イオン交換樹脂A1の吸着効率が向上する。また、ホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂A2の層高は特に限定されず、必要に応じて適宜設定することができるが、100mm以上となるように設定することが好ましく、500mm以上となるように設定することがより好ましい。層高を100mm以上とすることで、ホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂A2の吸着効率が向上する。
【0038】
(ホウ素選択性イオン交換樹脂)
ホウ素選択性イオン交換樹脂A1は、アニオン交換樹脂におけるイオン交換基の代わりにホウ素選択性を有するN−メチルグルカミン基を官能基として有するもの(キレート樹脂)であれば特に限定されない。しかし、アニオン交換樹脂へのホウ素選択性を有するキレート基の導入率は100%に達することがなく、残存するアニオン基に他のイオンが吸着することによって、吸着速度が減少してしまうことが起こり得る。よって、このようなことを防ぐために、ホウ素選択性イオン交換樹脂A1としては、超純水の製造に使用されるキレート樹脂や超純水で洗浄されたキレート樹脂等、TOC成分の溶出が少なく、通水前後でTOC濃度が可能な限り増加しないものが好ましい。このようなキレート樹脂としては、N−メチルグルカミン基を有するものが好ましく、例えば、三菱化学社製のCRB03等が使用できる。
【0039】
(ホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂)
ホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂A2は、特に限定されないが、超純水の製造に使用されるイオン交換樹脂や超純水で洗浄されたイオン交換樹脂等、TOC成分の溶出が少なく、通水前後でTOC濃度の増加量(△TOC)が<1−3ppb程度であるものが好ましい。このようなイオン交換樹脂としては、強塩基性アニオン交換樹脂、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂との混合物、及び両性イオン交換樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましく、さらに好適には強塩基性アニオン交換樹脂であり、例えば、三菱化学社製のSAT10L等が使用できる。
【0040】
<サブシステム>
サブシステム4は、紫外線酸化装置(UV装置)41、膜式脱気装置42、混床式イオン交換装置43、限外ろ過膜装置(UF装置)44をこの順に備えている。紫外線酸化装置(UV装置)41は、紫外線照射による酸化処理により、被処理水中に残存するTOC成分を酸化分解するためのものである。膜式脱気装置42は、処理水中の溶存酸素量を低減するためのものである。混床式イオン交換装置43は、処理水中の酸化分解されたTOC成分のうち、イオン化した成分を除去し、処理水の純度を高めるためのものである。限外ろ過膜装置(UF装置)44は、混床式イオン交換装置43から流出したイオン交換樹脂の微粒子等を除去するためのものである。
【0041】
なお、一般的な超純水製造システムにおいて、一次純水システムとサブシステムとには、その規模にかなりの差があり、一次純水システムの方が大規模である。本実施形態においても、一次純水システム3が備える各装置は、サブシステム4が備える各装置に比べて規模が大きく、例えば、一次純水システム3の末端に設けられる第三イオン交換装置34を、規模の異なるサブシステム4の先端に設けることは一般的ではない。同様に、サブシステム4の先端に設けられる紫外線酸化装置(UV装置)41を、規模の異なる一次純水システム3の末端に設けることも一般的ではない。
【0042】
[超純水製造方法]
次に、上述したような本実施形態の超純水製造システム1を用いた超純水の製造方法について説明する。
【0043】
前処理システム2に供給された原水は、凝集ろ過、MF膜(精密ろ過膜)、UF膜(限外ろ過膜)等による除濁処理や活性炭等による脱塩素処理(前処理工程)の後、送水配管L1を経て、一次純水システム3へ供給される。一次純水システム3に供給された前処理水は、イオン成分やTOC成分等の不純物の除去処理(一次純水製造工程)の後、送水配管L2を経て、サブシステム4へ供給される。サブシステム4に供給された一次純水は、極微量の微粒子や微量イオン成分、特に低分子の微量有機物のような不純物の除去が行われ、より純度の高い超純水が製造される(二次純水製造工程)。サブシステム4で製造された超純水は、送水配管L3を経て、ユースポイント5へ送られる。
【0044】
(ホウ素選択性イオン交換樹脂を有するイオン交換装置による処理工程)
次に、本実施形態の一次純水システム3が備えるホウ素選択性イオン交換樹脂を有するイオン交換装置(第三イオン交換装置)34による処理工程について、
図2も参照しつつ詳説する。
【0045】
まず、収容部341に、流れ方向が収容部341の上方から下方であるように、供給部342から被処理水を供給する。収容部341は立設されており、その上側に供給部342が、下側に排出部343が配設されていて、ホウ素選択性イオン交換樹脂A1が供給部342側に、ホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂A2が排出部343側に充填されている。収容部341に供給された被処理水は、まずホウ素選択性イオン交換樹脂A1によってホウ素イオンを吸着除去され、次にホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂A2によってホウ素選択性イオン交換樹脂A1から溶出したTOC成分が吸着除去される。ホウ素及びTOC成分が除去された被処理水(一次処理水)は、排出部343から排出されて次の工程へと移送される。
【0046】
上述のように、供給部342側にホウ素選択性イオン交換樹脂A1が、排出部343側にホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂A2が、それぞれ充填されていることにより、収容部341に供給されるホウ素を含む被処理水から、まずホウ素選択性イオン交換樹脂A1によってホウ素が吸着除去され、その後ホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂A2によってホウ素選択性イオン交換樹脂より溶出するTOC成分が吸着除去されるので、後段のサブシステム4にTOC負荷をかけることなく、ホウ素濃度の低減された一次処理水を供給することができる。サブシステム4に対するTOC負荷が抑えられることにより、超純水製造システム全体のコスト増加を防ぐこともできる。
【0047】
本実施形態の超純水製造方法において、第三イオン交換装置34への被処理水の通水速度は特に限定されないが、空間速度(SV)で30/h−180/hの範囲であることが好ましく、60/hであることがより好ましい。被処理水の通水速度が30/h未満であると、第三イオン交換装置34による処理速度が遅くなり、効率的ではない。また、被処理水の通水速度が180/hを超えると、第三イオン交換装置34による処理が不十分になり、被処理水中のホウ素を十分に取り除くことが困難となる。
【0048】
本実施形態の超純水製造システム1を用いた超純水製造方法によれば、一次純水システム3でホウ素及びTOC成分を低減した後の被処理水をサブシステム(二次純水システム)4に供給することにより、サブシステム4にTOC負荷をかけることなく、ホウ素を低濃度化した超純水を安定的に得ることができる。
【0049】
なお、上述した超純水製造方法は、前処理工程と一次純水製造工程と二次純水製造工程とをこの順に備える超純水の製造方法であって、一次純水製造工程が、ホウ素を含む被処理水をイオン交換樹脂で処理する工程を備え、このイオン交換樹脂による処理工程が、ホウ素を含む被処理水とホウ素選択性イオン交換樹脂とを接触させ、当該被処理水からホウ素を分離する第一の分離工程と、第一の分離工程後の被処理水とホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂とを接触させ、第一の分離工程後の被処理水からTOC成分を分離する第二の分離工程とを有する超純水製造方法であると捉えることもできる。
【0050】
以上、本発明について図面を参照にして説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されず、種々の変更実施が可能である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳説するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
[実施例1]
図2に示す第三イオン交換装置34を用いて被処理水の処理を行った。収容部341として、直径が40mmの円筒状のアクリル製のカラム(以下、単に「アクリルカラム」と称す。)を用い、アクリルカラムに、層高が100mmとなるように三菱化学社製の強塩基性アニオン交換樹脂を充填し、その上側に、層高が800mmとなるように三菱化学社製のホウ素選択性イオン交換樹脂を充填した。ここに、流れ方向が下向きであるように、ホウ素濃度0.8ppb、比抵抗18.2MΩ・cm、TOC成分0.5ppbの被処理水を60/h(SV)で通水し、処理を行った。得られた処理水のホウ素濃度(ppt)とTOC濃度(ppb)を測定した。
【0053】
[比較例1]
アクリルカラムに、層高が800mmとなるように三菱化学社製のホウ素選択性イオン交換樹脂のみを充填した以外は、実施例1と同様の条件で処理を行った。得られた処理水のホウ素濃度(ppt)とTOC濃度(ppb)を測定した。
【0054】
[比較例2]
アクリルカラムに、層高が800mmとなるように三菱化学社製の強塩基性アニオン交換樹脂のみを充填した以外は、実施例1と同様の条件で処理を行った。得られた処理水のホウ素濃度(ppt)とTOC濃度(ppb)を測定した。
【0055】
[結果]
処理水のホウ素濃度(ppt)とTOC濃度(ppb)の経時変化を表1に示す。本結果からわかるように、実施例1では、処理水のホウ素濃度を24時間満足できるレベルで維持することができ、TOC濃度も大きく上昇することなく維持することができた。
【0056】
比較例1では、処理水のホウ素濃度は24時間満足できるレベルで維持することができたが、TOC濃度は1時間で大きく上昇し、24時間の時点でも際立った減少は見られなかった。これは、ホウ素選択性イオン交換樹脂からTOC成分が溶出したことによる。なお、比較例1の処理水(一次処理水)をサブシステム4に供給して、通水速度60/h(SV)で処理を行い、TOC濃度が1.0ppb以下の処理水を安定的に得る場合の試算をしたところ、実施例1の場合に比べて、サブシステム4全体にかかるコストの10%に相当する費用がさらに必要となるとの結果が得られた。
【0057】
比較例2では、イオン交換容量が低いため、処理水のホウ素濃度は24時間満足できるレベルで維持することができなかったが、TOC濃度は大きく上昇することがなかった。
【0058】
【表1】
【0059】
以上説明したように、本発明の超純水製造システム及び超純水製造方法によれば、一次純水システムでホウ素及びTOC成分を低減した後の被処理水をサブシステム(二次純水システム)に供給することにより、サブシステムにTOC負荷をかけることなく、ホウ素を低濃度化した超純水を安定的に得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、ホウ素を低濃度化した超純水を安定的に得るための超純水製造システム及び超純水製造方法として有用である。
【符号の説明】
【0061】
1…超純水製造システム
2…前処理システム
3…一次純水システム
31…2床3塔式イオン交換装置(第一イオン交換装置)
32…逆浸透膜(RO膜)装置
33…混床式イオン交換装置(第二イオン交換装置)
34…ホウ素選択性イオン交換樹脂を有するイオン交換装置(第三イオン交換装置)
341…収容部
342…供給部
343…排出部
4…二次純水システム(サブシステム)
41…紫外線酸化装置(UV装置)
42…膜式脱気装置
43…混床式イオン交換装置
44…限外ろ過膜装置(UF装置)
5…ユースポイント
L1,L2,L3…送水配管
R1…返送配管
A…イオン交換樹脂
A1…ホウ素選択性イオン交換樹脂
A2…ホウ素選択性イオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂