(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記含フッ素重合体が、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、請求項1又は2に記載の被膜付きゴム成形体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の用語の定義は、本明細書及び特許請求の範囲にわたって適用される。
「単量体に基づく単位」は、単量体1分子が重合して直接形成される原子団と、該原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。本明細書において、単量体に基づく単位を、単に、単量体単位とも記す。
「カルボニル基含有基」とは、構造中にカルボニル基(−C(=O)−)を有する基を意味する。
「酸無水物基」とは、−C(=O)−O−C(=O)−で表される基を意味する。
「官能基を有する単量体に基づく単位の割合」は、含フッ素重合体を厚さ200μmのプレスフィルムに成形し、赤外吸収スペクトルを測定し、官能基のピークの吸光度を測定し、官能基のピークのモル吸光係数を用いて、ランベルト・ベールの式から求める。
「融点」は、示差走査熱量計を用い、試料の約5mgを乾燥空気流通下に300℃で10分間保持した後、100℃まで10℃/分の降温速度で降温し、10℃/分の昇温速度で300℃まで昇温したときの結晶融解ピークの最大値に対応する温度である。
「容量流速」(以下、「Q値」とも記す。)は、高化式フローテスターにおいて、試料の融点よりも50℃高い温度及び荷重68.6Nの条件下で、直径2.1mm、長さ8mmのオリフィス中に試料を押し出すときの速度(mm
3/秒)である。
数値範囲を示す「〜」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
図1における寸法比は、説明の便宜上、実際のものとは異なったものである。
【0011】
<被膜付きゴム成形体>
本発明の被膜付きゴム成形体は、ゴム成形体と、ゴム成形体に接する被膜層とをする。
図1は、本発明の被膜付きゴム成形体の一例を示す断面図である。被膜付きゴム成形体10は、ゴム成形体12と、ゴム成形体12の表面に直接形成された被膜層14とを有する。
【0012】
(ゴム成形体)
ゴム成形体は、ゴムを含む。ゴム成形体は、ゴム用の充填材、添加剤等を含んでいてもよい。
ゴムとしては、シリコーンゴム、水素化ニトリルゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレン−酢酸ビニルゴム、エピクロルヒドリンゴム等が挙げられる。ゴム成形体の表面に被膜層を形成する際にゴム成形体が高温にさらされることから、ゴムとしては、耐熱性の高いゴムが好ましく、具体的には、シリコーンゴム、アクリルゴム、エチレン−酢酸ビニルゴム、エピクロルヒドリンゴムが好ましく、シリコーンゴムが特に好ましい。
【0013】
シリコーンゴムを含む成形体は、生ゴムを含むシリコーンゴムコンパウンド(主剤)を硬化剤(加硫剤)で硬化して成形体としたものである。シリコーンゴムコンパウンドは、シリコーンゴム用の充填材、添加剤等を含んでいてもよい。
【0014】
生ゴムとしては、下式Iの組成式で表されるオルガノポリシロキサンが挙げられる。
R
aSiO
(4−a)/2 式I
ただし、Rは、1価の炭化水素基であり、aは、1.90〜2.05の正数である。オルガノポリシロキサン中の複数のRは、同一であっても異なってもよい。また、Rは、ハロゲン原子、シアノ基等の置換基で一部又は全部の水素が置換されていてもよい。
【0015】
Rの炭素数は、1〜10が好ましく、1〜8がより好ましい。
Rとしては、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基等)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基等)、アルケニル基(ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等)、アリール基(フェニル基、トリル基等)、これらの基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子、シアノ基等で置換された基(クロロメチル基、トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等)等が挙げられる。オルガノポリシロキサンは、Rの一部として少なくとも2個のアルケニル基を有することが好ましい。
【0016】
オルガノポリシロキサンは、直鎖状が好ましい。オルガノポリシロキサンは、分子構造、重合度等が異なる2種以上の混合物であってもよい。
オルガノポリシロキサンの平均重合度は、1,500〜10,000が好ましく、3,000〜8,000がより好ましい。重合度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算の数平均重合度として求められる。
【0017】
充填材としては、粉砕シリカ、珪藻土、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、カーボンブラック、酸化バリウム、酸化マグネシウム、水酸化セリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、アスベスト、ガラスウール、微粉マイカ、溶融シリカ粉末等が挙げられる。
添加剤としては、顔料、染料、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤(酸化アンチモン、塩化パラフィン等)、発泡剤、熱伝導性向上剤(窒化ホウ素、酸化アルミニウム等)等が挙げられる。
シリコーンゴムコンパウンドは、例えば、オルガノポリシロキサン、充填材、添加剤等を、ロールミル等の混練手段によって均一に分散、混合して製造できる。
【0018】
硬化剤としては、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと白金族金属触媒との組み合わせからなる付加反応用硬化剤、有機過酸化物触媒等が挙げられる。
白金族金属触媒としては、白金元素単体、白金化合物、白金複合体、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール化合物、塩化白金酸のアルデヒド化合物、塩化白金酸のエーテル化合物、各種オレフィンとのコンプレックス等が挙げられる。白金族金属触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
シリコーンゴムコンパウンドに対する白金族金属触媒の添加量は、オルガノポリシロキサンに対する白金族金属原子の質量換算で1〜2,000ppmが好ましい。
【0019】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一分子中に珪素原子に結合した水素原子(SiHで表されるヒドロシリル基)を2個以上有する。珪素原子に結合した水素原子は、3個以上が好ましく、3〜300個がより好ましく、3〜200個がさらに好ましく、3〜100個が特に好ましい。珪素原子に結合した水素原子は、分子鎖末端及び分子鎖途中のいずれか一方又は両方に位置する。
【0020】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造としては、直鎖状、環状、分岐鎖状、三次元網状構造(樹脂状)等が挙げられる。
オルガノハイドロジェンポリシロキサンの一分子中の珪素原子の数は、シリコーンゴムの特性、シリコーンゴムコンパウンドと硬化剤との混合物の取扱性の点から、2〜300個が好ましく、4〜150個がより好ましい。
オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、シリコーンゴムコンパウンドと硬化剤との混合物の取扱性の点から、25℃で液状のものが好ましい。オルガノハイドロジェンポリシロキサンの25℃における粘度は、0.1〜1,000mPa・sが好ましく、0.5〜500mPa・sがより好ましい。粘度は、回転粘度計(BL型、BH型、BS型、コーンプレート型、レオメータ等)によって測定される。
【0021】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラハイドロジェン−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1−プロピル−3,5,7−トリハイドロジェン−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,5−ジハイドロジェン−3,7−ジヘキシル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)メチルシラン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)フェニルシラン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン−ジメチルシロキサン環状共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン−メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン−メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン−ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン−ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン−メチルフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン−ジメチルシロキサン−ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン−ジメチルシロキサン−メチルフェニルシロキサン共重合体、(CH
3)
2HSiO
1/2単位と(CH
3)
3SiO
1/2単位とSiO
4/2単位とからなる共重合体、(CH
3)
2HSiO
1/2単位とSiO
4/2単位とからなる共重合体、(CH
3)
2HSiO
1/2単位とSiO
4/2単位と(C
6H
5)
3SiO
1/2単位とからなる共重合体等が挙げられる。
【0022】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
シリコーンゴムコンパウンドに対するオルガノハイドロジェンポリシロキサンの添加量は、オルガノポリシロキサン中のアルケニル基に対する珪素原子に結合した水素原子(SiH基)のモル比として0.5〜5が好ましく、1〜2.5がより好ましい。
【0023】
有機過酸化物触媒としては、ベンゾイルペルオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、p−メチルベンゾイルペルオキシド、2,4−ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン、ジ−tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシベンゾエート等が挙げられる。有機過酸化物触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
有機過酸化物触媒の添加量は、オルガノポリシロキサン生ゴム100質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましい。
【0024】
(被膜層)
被膜層の厚さは、0.1〜20μmであり、0.5〜15μmがより好ましく、1〜10μmがさらに好ましい。被膜層の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、含フッ素重合体が有する特性(耐熱性、難燃性、耐薬品性、耐候性、低摩擦性、低誘電性、透明性等)が充分に発揮される。被膜層の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、被膜層を形成する際の作業性がよく、被膜の外観及び硬度が良好である。また、ゴム成形体が有する特性(柔軟性、弾性、伸縮性等)の低下が抑えられる。また、被膜付きゴム成形体のコストが抑えられる。
【0025】
被膜層は、エチレン単位とテトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)単位とを有する含フッ素重合体(以下、「ETFE」とも記す。)を含む。被膜層は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて後述の組成物に含まれる他の任意成分を含んでいてもよい。
【0026】
ETFEは、ゴム成形体に対する被膜層の密着性及び被膜層の均一性に優れる点から、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基(以下、「接着性官能基」とも記す。)を有することが好ましい。接着性官能基としては、カルボニル基含有基が好ましい。カルボニル基含有基としては、酸無水物基、カルボキシ基が好ましい。
【0027】
接着性官能基を有するETFEは、単量体の重合の際に接着性官能基を有する単量体を共重合させる方法、接着性官能基をもたらす連鎖移動剤又は重合開始剤を用いて単量体を重合させる方法等で製造できる。
接着性官能基を有するETFEの製造方法としては、接着性官能基の含有量を制御しやすい点から、単量体の重合の際に接着性官能基を有する単量体を共重合させる方法が好ましい。
重合方法としては、塊状重合法、有機溶媒(フッ化炭化水素、塩化炭化水素、フッ化塩化炭化水素、アルコール、炭化水素等)を用いる溶液重合法、水性媒体と必要に応じて適当な有機溶媒とを用いる懸濁重合法、水性媒体と乳化剤とを用いる乳化重合法が挙げられ、溶液重合法が好ましい。
【0028】
接着性官能基を有する単量体としては、カルボキシ基を有する単量体(マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、ウンデシレン酸等)、酸無水物基を有する単量体(無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、無水マレイン酸等)、ヒドロキシ基を有する単量体(ヒドロキシアルキルビニルエーテル等)、エポキシ基を有する単量体(エポキシアルキルビニルエーテル等)、アミド基を有する単量体、アミノ基を有する単量体及びイソシアネート基を有する単量体が挙げられる。接着性官能基を有する単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
接着性官能基をもたらす連鎖移動剤としては、カルボキシ基、エステル結合、水酸基等を有する連鎖移動剤が好ましい。具体的には、酢酸、無水酢酸、酢酸メチル、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
接着性官能基をもたらす重合開始剤としては、ペルオキシカーボネート、ジアシルペルオキシド、ペルオキシエステル等の過酸化物が好ましい。具体的には、ジ−n−プロピルペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシカーボネート、tert−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、ビス(4−tert−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルペルオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0030】
ETFEは、エチレン単位、TFE単位及び接着性官能基を有する単量体単位以外の、他の単量体単位を有していてもよい。他の単量体としては、含フッ素単量体(ただし、テトラフルオロエチレンを除く。)が挙げられる。
【0031】
含フッ素単量体としては、フルオロオレフィン(フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン(以下、「HFP」とも記す。)、ヘキサフルオロイソブチレン等)、CF
2=CFOR
f1(ただし、R
f1は炭素数1〜10で炭素原子間に酸素原子を有していペルフルオロアルキル基である。)(以下、「PAVE」とも記す。)、CF
2=CFOR
f2SO
2X
1(ただし、R
f2は炭素数1〜10で炭素原子間に酸素原子を有してもよいペルフルオロアルキレン基であり、X
1はハロゲン原子又は水酸基である。)、CF
2=CFOR
f3CO
2X
2(ただし、R
f3は炭素数1〜10で炭素原子間に酸素原子を有してもよいペルフルオロアルキレン基であり、X
2は水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。)、CF
2=CF(CF
2)
pOCF=CF
2(ただし、pは1又は2である。)、CH
2=CX
3(CF
2)
qX
4(ただし、X
3は水素原子又はフッ素原子であり、qは2〜10の整数であり、X
4は水素原子又はフッ素原子である。)(以下、「FAE」とも記す。)、環構造を有する含フッ素単量体(ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、2,2,4−トリフルオロ−5−トリフルオロメトキシ−1,3−ジオキソール、ペルフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)等)等が挙げられる。
【0032】
含フッ素単量体としては、ETFEの成形性、被膜層の耐屈曲性等に優れる点から、HFP、PAVE及びFAEからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、FAE、HFPがより好ましい。
FAEとしては、CH
2=CH(CF
2)
q1X
4(ただし、q1は、2〜6であり、2〜4が好ましい。)が好ましく、CH
2=CH(CF
2)
2F、CH
2=CH(CF
2)
3F、CH
2=CH(CF
2)
4F、CH
2=CF(CF
2)
3H、CH
2=CF(CF
2)
4Hがより好ましく、CH
2=CH(CF
2)
4F、CH
2=CH(CF
2)
2Fが特に好ましい。
含フッ素単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
ETFEにおけるエチレン単位に対するTFE単位のモル比(TFE単位/エチレン単位)は、70/30〜30/70が好ましく、65/35〜40/60がより好ましく、60/40〜50/50がさらに好ましい。TFE単位/エチレン単位が前記範囲内であれば、ETFEの耐薬品性、耐熱性がさらに優れる。
【0034】
ETFEにおける接着性官能基を有する単量体単位の割合は、ETFEを構成する全単位のうち、0.1〜1.0mol%が好ましく、0.4〜0.6mol%がより好ましい。接着性官能基を有する単量体単位の割合が前記範囲の下限値以上であれば、後述する組成物中でのETFEの分散性が良好となり、組成物をゴム成形体の表面に塗布して形成される被膜層の均一性に優れる。接着性官能基を有する単量体単位の割合が前記範囲の上限値以下であれば、ETFEの分子量を充分に高くでき、また、ETFEの耐熱性がさらに優れる。
【0035】
ETFEにおける含フッ素単量体単位の割合は、ETFEを構成する全単位のうち、0.1〜50モル%が好ましく、0.5〜30モル%がより好ましく、1〜20モル%がさらに好ましい。含フッ素単量体単位の割合が前記範囲であれば、被膜層の耐クラック性が良好であり、また、ETFEの融点が低下しすぎない。
【0036】
ETFEの融点は、120〜230℃が好ましく、140〜220℃がより好ましく、150〜200℃がさらに好ましい。ETFEの融点が前記範囲の下限値以上であれば、ETFEの耐熱性がさらに優れる。ETFEの融点が前記範囲の上限値以下であれば、被膜層を形成する際の温度が高くなりすぎず、ゴム成形体が熱劣化しにくい。
【0037】
ETFEのQ値は、1〜500mm
3/秒が好ましく、10〜400mm
3/秒がより好ましく、20〜350mm
3/秒がさらに好ましい。Q値が前記範囲内であれば、ETFEの機械的強度、耐熱性、溶解性がさらに優れる。また、被膜層にひび割れ等が発生しにくい。Q値は、ETFEの溶融流動性を表す指標であり、分子量の目安となる。Q値が大きいと分子量が低く、小さいと分子量が高いことを示す。
【0038】
(作用機序)
以上説明した本発明のゴム成形体にあっては、ゴム成形体に接する被膜層がETFEを含むため、ゴム成形体の表面に含フッ素重合体の特性(耐熱性、難燃性、耐薬品性、耐候性、低摩擦性、非粘着性、撥水撥油性、低誘電性、透明性等)が付与される。
また、本発明のゴム成形体にあっては、被膜層の厚さが0.1〜20μmであるため、ゴム成形体の特性(柔軟性、弾性、伸縮性等)の低下が抑えられる。
また、本発明のゴム成形体にあっては、ETFEが接着性官能基を有していれば、ゴム成形体に対する被膜層の密着性及び被膜層の均一性に優れる。
【0039】
<被膜付きゴム成形体の製造方法>
本発明の被膜付きゴム成形体の製造方法は、ETFEと、1個のカルボニル基を有する炭素数6〜10の脂肪族化合物(以下、「カルボニル基含有脂肪族化合物」とも記す。)とを含む組成物を、ゴム成形体の表面に塗布し、組成物が塗布されたゴム成形体を、ETFEの融点未満の雰囲気下で加熱した後、ETFEの融点以上の雰囲気下で加熱して被膜層を形成する方法である。
【0040】
(組成物)
組成物は、ETFEと、液状媒体とを含み、液状媒体としてカルボニル基含有脂肪族化合物を含む。組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて他の任意成分を含んでいてもよい。
ETFEは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
カルボニル基含有脂肪族化合物としては、炭素数6〜10のケトン(環状ケトン、鎖状ケトン等)、炭素数6〜10のエステル(鎖状エステル、グリコールのモノエステル等)、炭素数6〜10のカーボネート等が挙げられ、ゴム成形体に対する被膜層の密着性に優れる点から、ケトン、エステル及びカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0042】
カルボニル基含有脂肪族化合物の具体例としては、国際公開第2011/002041号の段落[0040]〜[0044]に記載されたものが挙げられる。カルボニル基含有脂肪族化合物としては、ゴム成形体に対する被膜層の密着性がさらに優れる点から、国際公開第2011/002041号の段落[0041]に記載された鎖状ケトンが好ましく、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、3,3−ジメチル−2−ブタノン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソプロピルケトン、5−メチル−2−ヘキサノン、2−オクタノン、3−オクタノン、5−メチル−3−ヘプタノン、2−ノナノン、5−ノナノン、ジイソブチルケトン、2−デカノン、3−デカノンが特に好ましい。カルボニル基含有脂肪族化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
他の任意成分としては、硬化剤、硬化促進剤、密着性改良剤、表面調整剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、架橋剤、滑剤、可塑剤、増粘剤、つや消し剤、分散安定剤、充填材、強化剤、レベリング剤、顔料、染料、難燃剤、帯電防止剤、他の樹脂等が挙げられる。
【0044】
顔料は、被膜層を着色する成分である。顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、複合酸化物系顔料等が挙げられる。複合酸化物系顔料の市販品としては、大日精化社製のダイピロキサイドシリーズが挙げられ、ダイピロキサイド グリーン#9430、ダイピロキサイド ブラック#9550、ダイピロキサイドTM レッド#8270が好ましい。
充填材は、被膜層の硬度を向上させ、かつ被膜層の厚さを増すための成分である。充填材としては、タルク、硫酸バリウム、マイカ、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0045】
紫外線吸収剤は、被膜層に紫外線吸収機能を付与して、建物外装材用途において屋外で長期間使用されるゴム成形体の紫外線による劣化を抑える成分である。紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤、無機系紫外線吸収剤が挙げられる。有機系紫外線吸収剤としては、サリチル酸エステル系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤等が挙げられる。無機系紫外線吸収剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム等のフィラー型紫外線吸収剤等が挙げられる。紫外線吸収剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
光安定剤としては、ヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。ヒンダードアミン系光安定剤の市販品としては、アデカスタブLA62、アデカスタブLA67(以上、ADEKA社製)、チヌビン292、チヌビン144、チヌビン123、チヌビン440(以上、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)等が挙げられる。
光安定剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。光安定剤は、紫外線吸収剤と組み合わせて用いてもよい。
【0047】
組成物中のETFEの割合は、0.05〜50質量%が好ましく、0.1〜30質量%がより好ましく、1〜20質量%がさらに好ましい。ETFEの割合が前記範囲内であれば、塗布時の取扱性(組成物の粘度、乾燥速度、塗膜の均一性等)に優れ、均一性に優れる被膜層を形成できる。
【0048】
組成物中の液状媒体の割合は、50〜99.95質量%が好ましく、70〜99.9質量%がより好ましく、80〜99質量%がさらに好ましい。
液状媒体中のカルボニル基含有脂肪族化合物の割合は、80〜100質量%が好ましく、90〜100質量%がより好ましい。
液状媒体及びカルボニル基含有脂肪族化合物の割合が前記範囲内にあれば、塗布時の取扱性等に優れ、均一性に優れる被膜層を形成できる。
【0049】
組成物中の他の任意成分の割合は、本発明の効果を損なわない範囲として0〜30質量%が好ましい。
紫外線吸収剤の添加量は、ETFEの100質量部に対して、0.1〜15質量部が好ましい。紫外線吸収剤の量が前記範囲の下限値以上であれば、耐光性の改良効果が充分に得られる。紫外線吸収剤の量が前記範囲の上限値を超えると、耐光性の改良効果が飽和する。
【0050】
組成物は、ETFEとカルボニル基含有脂肪族化合物を混合して調製できる。組成物におけるETFEは、液状媒体に溶解していてもよく、分散していてもよい。混合は常温で行ってもよく加熱して行ってもよい。
【0051】
組成物の調製においては、ETFEの融点以下の温度でETFEをカルボニル基含有脂肪族化合物に溶解又は分散することが好ましい。調製温度は、ETFEの融点より10℃以上低い温度がより好ましい。
ETFEの融点は高いもので230℃であることから、調製温度は、230℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。調製温度は、0℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましい。調製温度が前記範囲の下限値以上であれば、良好な溶解又は分散状態が得られる。調製温度が前記範囲の上限値以下であれば、調製作業を容易に実行できる。
【0052】
ETFEをカルボニル基含有脂肪族化合物に溶解又は分散する際の圧力は、常圧が好ましい。カルボニル基含有脂肪族化合物の沸点が調製温度より低い場合等には、耐圧容器中で、少なくとも自然発生圧力以下、好ましくは3MPa以下、より好ましくは2MPa以下、さらに好ましくは1MPa以下、特に好ましくは常圧以下の条件下で溶解又は分散してもよい。通常は、0.01〜1MPa程度の条件下で溶解又は分散を実施する。
調製時間は、組成物中のETFEの割合、ETFEの形状等に依存する。ETFEの形状は、調製時間を短くする点からは、粉末状が好ましい。入手のしやすさ等の点から、ペレット状等であってもよい。
【0053】
ETFEをカルボニル基含有脂肪族化合物に溶解又は分散する際には、溶解効率の点から、ホモミキサー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、一軸又は二軸押出機等の撹拌混合機を用いることが好ましい。加圧下に溶解又は分散する場合には、撹拌機付きオートクレーブ等の装置を用いる。撹拌翼の形状としては、マリンプロペラ翼、パドル翼、アンカー翼、タービン翼等が挙げられる。
【0054】
(被膜層の形成)
ゴム成形体の表面への組成物の塗布方法としては、スピンコート法、バーコート法、ロールコート法、カーテンフロー法等が好ましい。他の塗布方法としては、ワイプコート法、スプレーコート法、スキージーコート法、ディップコート法、ダイコート法、インクジェット法、フローコート法、キャスト法、ラングミュア・ブロジェット法、グラビアコート法、ナイフコート法、ブレードコート法、押出コート法、ロッドコート法、エアドクタコート法、キスコート法、ファウンテンコート法、スクリーン塗工法等が挙げられる。
【0055】
ETFEの融点未満の雰囲気下で加熱する際の温度(以下、「第1の加熱温度」とも記す。)は、40〜150℃が好ましく、50〜140℃がより好ましく、60〜130℃がさらに好ましい。第1の加熱温度が前記範囲の下限値以上であれば、ゴム成形体に含まれるカルボニル基含有脂肪族化合物を除去する時間が短くなる。第1の加熱温度が前記範囲の上限値以下であれば、温度がETFEの融点に近くならず、塗膜に欠陥等が発生しにくい。
【0056】
ETFEの融点未満の雰囲気下で加熱する際の時間(以下、「第1の加熱時間」とも記す。)は、1〜120分間が好ましく、5〜100分間がより好ましく、10〜60分間がさらに好ましい。第1の加熱時間が前記範囲の下限値以上であれば、ゴム成形体に含まれるカルボニル基含有脂肪族化合物を充分に除去できる。第1の加熱時間が前記範囲の上限値以下であれば、被膜付きゴム成形体の生産性がよい。
【0057】
ETFEの融点以上の雰囲気下で加熱する際の温度(以下、「第2の加熱温度」とも記す。)は、150〜280℃が好ましく、180〜260℃がより好ましく、200〜250℃がさらに好ましい。第2の加熱温度が、前記範囲の下限値以上であれば、ETFEが充分に溶融し、被膜層の均一性に優れる。また、ゴム成形体への被膜層の密着性にさらに優れる。第2の加熱温度が、前記範囲の上限値以下であれば、ETFE又はゴム成形体が熱分解しにくく、着色や強度低下が起こりにくい。
【0058】
ETFEの融点以上の雰囲気下で加熱する際の時間(以下、「第2の加熱時間」とも記す。)は、1〜120分間が好ましく、5〜100分間がより好ましく、10〜60分間がさらに好ましい。第2の加熱時間が前記範囲の下限値以上であれば、ETFEが充分に溶融し、被膜層の均一性に優れる。また、ゴム成形体への被膜層の密着性にさらに優れる。第2の加熱時間が前記範囲の上限値以下であれば、ETFE又はゴム成形体が熱分解しにくく、着色や強度低下が起こりにくい。
【0059】
(作用機序)
以上説明した本発明のゴム成形体の製造方法にあっては、ゴム成形体の表面にETFEを含む被膜層を形成しているため、ゴム成形体の表面に含フッ素重合体の特性(耐熱性、難燃性、耐薬品性、耐候性、低摩擦性、非粘着性、撥水撥油性、低誘電性、透明性等)が付与された被膜付ゴム成形体を製造できる。
また、本発明のゴム成形体の製造方法にあっては、ゴム成形体の表面に形成される被膜層の厚さが0.1〜20μmであるため、ゴム成形体の特性(柔軟性、弾性、伸縮性等)の低下が抑えられた被膜付ゴム成形体を製造できる。
【0060】
また、本発明のゴム成形体の製造方法にあっては組成物が塗布されたゴム成形体を、ETFEの融点未満の雰囲気下で加熱して後、ETFEの融点以上の雰囲気下でさらに加熱しているため、下記の理由から被膜層の欠陥が抑えられる。
ETFEの融点未満の雰囲気下で加熱する際には、組成物に含まれるカルボニル基含有脂肪族化合物の一部がゴム成形体に吸収されている。そのため、いきなりETFEの融点以上の雰囲気下で加熱してしまうと、揮発したカルボニル基含有脂肪族化合物によって塗膜が泡立ったり、塗膜に欠陥が発生したりしてしまう。そこで、ETFEの融点未満の雰囲気下で加熱し、ゴム成形体に含まれるカルボニル基含有脂肪族化合物を除去した後、ETFEの融点以上の雰囲気下で加熱し、ETFEを溶融させて被膜層を形成することによって、被膜層の欠陥が抑えられる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
例1は実施例であり、例2は比較例である。
【0062】
(単量体単位の割合)
ETFEにおける単量体単位の割合は、溶融NMR分析、フッ素含有量分析及び赤外吸収スペクトル分析によって求めた。
【0063】
(接着性官能基を有する単量体単位の割合)
下記の赤外吸収スペクトル分析によって、ETFEにおける無水イタコン酸単位の割合を求めた。
ETFEをプレス成形して厚さ200μmのフィルムを得た。フィルムについて、赤外分光器(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて赤外吸収スペクトルを測定した。赤外吸収スペクトルにおいてETFE中の無水イタコン酸単位の吸収ピークは、1870cm
−1に現れる。この吸収ピークの吸光度を測定し、無水イタコン酸のモル吸光係数237L・mol
−1・cm
−1を用いて、ランベルト・ベールの式から無水イタコン酸単位の割合を求めた。
【0064】
(Q値)
フローテスタ(島津製作所社製)を用いて、温度220℃、荷重68.6Nの条件下で直径2.1mm、長さ8mmのオリフィス中にETFEを押し出すときの速度(mm
3/秒)を測定し、Q値とした。
【0065】
(融点)
示差走査熱量計(SII社製、DSC−7020)を用い、ETFEの約5mgを乾燥空気流通下に300℃で10分間保持した後、100℃まで10℃/分の降温速度で降温し、続いて10℃/分の昇温速度で300℃まで昇温したときの結晶融解ピークの最大値に対応する温度を融点とした。
【0066】
(被膜層の厚さ)
被膜層の厚さは、被膜付きゴム成形体を切断し、断面を測定顕微鏡で観察して測定した。
【0067】
(ETFEの製造)
撹拌機及びジャケットを備えた内容積1.3Lのステンレス製重合槽を真空引きした。重合槽に、CF
3CH
2OCF
2CF
2Hの822g、CH
2=CH(CF
2)
4Fの3.2g、メタノールの1.98gを仕込み、重合槽内部を撹拌しながらHFPの350g、TFEの118g、エチレンの2.9gを仕込んだ。ジャケットに温水を流して重合槽内温を66℃にした。このときの重合槽内圧力は1.53MPa[gauge]であった。内温が安定してからtert−ブチルペルオキシピバレートの5質量%を含むCF
3CH
2OCF
2CF
2H溶液の8.4mLを圧入し、重合を開始した。重合中、内圧が1.53MPa[gauge]で一定になるよう、TFE/エチレン=54/46モル比の混合ガスを添加した。併せて重合中に添加されるTFE/エチレン混合ガスが5g消費されるたびに、CH
2=CH(CF
2)
4Fの3.52質量%及び無水イタコン酸の1.28質量%を含むCF
3CH
2OCF
2CF
2H溶液の4mLを添加した。反応開始から283分後、TFE/エチレン=54/46モル比の混合ガスの70gを添加したところで重合槽を冷却し、重合を終了した。
重合槽から未反応の単量体ガスを大気圧までパージした。スラリーを内容積2Lの容器に移し、スラリーと同体積の水を加え、加熱しながら重合媒体及び未反応の単量体と、ETFEとを分離した。得られたETFEを120℃のオーブンで乾燥し、白色粉末状のETFE−1を得た。
ETFE−1における単量体単位の割合は、TFE単位/エチレン単位/HFP単位/CH
2=CH(CF
2)
4F単位/無水イタコン酸単位=49.0/41.7/7.8/1.1/0.4モル比であり、ETFE−1の融点は178℃であり、ETFE−1のQ値は35mm
3/秒であった。
【0068】
(組成物の調製)
1Lの撹拌機付きガラス製耐圧反応容器に、ETFE−1の32g、ジイソプロピルケトンの500gを入れ、150℃に加熱しながら1時間撹拌してジイソプロピルケトンにETFE−1を分散させた。撹拌しながら25℃まで冷却し、組成物−1を得た。
【0069】
(例1)
シリコーンゴムコンパウンド(信越化学工業社製、KE−541−U)に硬化剤(アルケマ吉富社製、2,5−ジメチル−2,5−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン)を加え、シリコーンゴムコンパウンドを硬化させて、50×30×10mmのゴム成形体を作製した。ゴム成形体の一面に組成物−1を塗布し、100℃のオーブン中で10分間加熱した。次いで、組成物−1が塗布されたゴム成形体を、250℃のオーブン中で10分間加熱し、被膜付きゴム成形体−1を得た。被膜層は均一であり、被膜層の厚さは、3μmであった。
【0070】
(例2)
例1と同様にしてゴム成形体を作製した。ゴム成形体の一面に組成物−1を塗布し、250℃のオーブン中で10分間熱処理したところ、塗膜に穴が開き、良好な被膜層を成形できなかった。