(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
更に、前記重合物の重合停止側の分子鎖末端を(C)成分で封鎖する工程の後に、未反応成分を除去する工程を含む請求項1に記載の片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む混合物の製造方法。
(A)成分の配合量と(B)成分の配合量に関して、[(B)成分のモル数×2,000]/[(A)成分のモル数×3]=M/Dと定義したときのM/Dの値が2〜70の範囲である請求項1又は2に記載の片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む混合物の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、上記問題点がなく、耐熱初期から引き起こされる軟化劣化を完全に抑制可能なシリコーンゲル硬化物を作製するためのベースポリマーの製造方法、該ベースポリマーを用いた付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物、及び該組成物の硬化物(シリコーンゲル硬化物)、並びに該シリコーンゲル硬化物層を用いた電気電子用部品又は車載用部品等を提供することを目的とする。
【0006】
なお、本発明において、シリコーンゲル硬化物(又はシリコーンゲル)とは、オルガノポリシロキサンを主成分とする架橋密度の低い硬化物であって、JIS K2220(1/4コーン)による針入度が10〜100のものを意味する。これは、JIS K6301によるゴム硬度測定では測定値(ゴム硬度値)が0となり、有効なゴム硬度値を示さない程架橋密度が低く低硬度(即ち、軟らか)かつ、低応力性(低弾性)であるものに相当し、この点において、いわゆるエラストマー状のシリコーンゴム硬化物(ゴム状弾性体)とは別異のものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、ヘキサオルガノシクロトリシロキサンを原料モノマーとし、有機リチウム化合物を乾燥剤及びエーテル系溶媒存在下にてリビングアニオン重合させた後、該重合物の重合停止側の分子鎖末端をアルケニルジオルガノハロシラン及び/又は1,3−ジアルケニル−1,1,3,3−テトラオルガノジシラザンで封鎖することで、上記問題点がなく、耐熱初期から引き起こされる軟化劣化を完全に抑制可能である、シリコーンゲル硬化物を作製するためのベースポリマーとなり得る特定構造の片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを高純度で含む混合物を製造することが可能であることを見出した。
また、該片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンをベースポリマーとし、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、白金族金属触媒、及び耐熱性付与剤を含有してなる付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物の硬化物が、耐熱初期から引き起こされる軟化劣化を完全に抑制していることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、下記の片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む混合物の製造方法、付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物、及び該組成物の硬化物(シリコーンゲル硬化物)、並びに該シリコーンゲル硬化物層を用いた電気電子用部品又は車載用部品等を提供するものである。
1.
下記(D)成分及び(E)成分の存在下で、下記(A)成分と(B)成分とをリビングアニオン重合させた後、該重合物の重合停止側の分子鎖末端を下記(C)成分で封鎖する工程を含むことを特徴とする、数平均重合度が
150〜1,200であり、かつ、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)が1.20以下である、下記一般式(1)で示される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む混合物の製造方法。
【化1】
[式中、R
1は炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であり、R
2は同一又は異種の、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基及びそれらの基の水素原子の一部がハロゲン原子で置換された基から選ばれる非置換又は置換1価炭化水素基であり、R
3は−Si(R
2)
2(R
4)で示されるアルケニルジオルガノシリル基(式中、R
2は前記と同じであり、R
4は−CH=CH
2構造を有するアルケニル基である。)であり、aは
150〜1,200の整数である。]
(A)下記一般式(2)で示されるヘキサオルガノシクロトリシロキサン
【化2】
(式中、R
2は前記と同じである。)
(B)R
1−Li(R
1は前記と同じである。)で示される有機リチウム化合物
(C)下記一般式(3)で示されるアルケニルジオルガノハロシラン及び/又は下記一般式(3’)で示される1,3−ジアルケニル−1,1,3,3−テトラオルガノジシラザン
【化3】
(上記各式中、R
2、R
4は、それぞれ前記と同じであり、Xはハロゲン原子である。)
(D)150℃以下の温度にて固体状であり、かつ中性の
ゼオライト系乾燥剤
(E)エーテル系溶媒
2.
更に、前記重合物の重合停止側の分子鎖末端を(C)成分で封鎖する工程の後に、未反応成分を除去する工程を含む1に記載の片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む混合物の製造方法。
3.
(A)成分の配合量と(B)成分の配合量に関して、[(B)成分のモル数×2,000]/[(A)成分のモル数×3]=M/Dと定義したときのM/Dの値が2〜70の範囲である1又は2に記載の片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む混合物の製造方法。
4.
得られた混合物中における、数平均重合度が
150〜1,200であり、かつ、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)が1.20以下である、一般式(1)で示される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの純度が83質量%以上である1〜3のいずれかに記載の片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む混合物の製造方法。
5.
得られた混合物における数平均重合度が200〜1,200であり、一般式(1)におけるaが200〜1,200の整数である1〜4のいずれかに記載の片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む混合物の製造方法。
6.
(F)数平均重合度が
200〜1,200であり、かつ、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)が1.20以下である、下記一般式(1)で示される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサン
の純度が83質量%以上である片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサン混合物 :100質量部
【化4】
[式中、R
1は炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であり、R
2は同一又は異種の、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基及びそれらの基の水素原子の一部がハロゲン原子で置換された基から選ばれる非置換又は置換1価炭化水素基であり、R
3は−Si(R
2)
2(R
4)で示されるアルケニルジオルガノシリル基(式中、R
2は前記と同じであり、R
4は−CH=CH
2構造を有するアルケニル基である。)であり、aは
200〜1,200の整数である。]
(G)1分子中に3個以上のケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン :0.1〜20質量部
(H)白金族金属触媒 :有効量
(I)耐熱性付与剤 :有効量
を含有してな
り、初期硬度がJIS K2220で規定される針入度で50〜100である硬化物を与えるものであることを特徴とする付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物。
7.
(G)成分が、下記一般式(4)
【化5】
(式中、R
5は同一又は異種の、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基及びそれらの基の水素原子の一部がハロゲン原子で置換された基から選ばれる非置換又は置換1価炭化水素基を示す。Aは水素原子、アルキル基又はアリール基であり、b、cはそれぞれ0〜60の整数であり、b+cは1〜120の整数であり、1分子中に3個以上のSiH基を有する。但し、分子鎖末端のAがいずれもアルキル基又はアリール基の場合、bは3以上の整数であり、分子鎖末端のAのうち片方がアルキル基又はアリール基の場合、bは2以上の整数である。)
で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンである
6に記載の付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物。
8.
初期硬度がJIS K2220で規定される針入度で
50〜100である
6又は
7に記載の付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物の硬化物からなるシリコーンゲル硬化物。
9.
230℃にて350時間経過後までにJIS K2220で規定される針入度測定により、針入度増加が観測されないものである
8に記載のシリコーンゲル硬化物。
10.
8又は
9に記載のシリコーンゲル硬化物層を有する電気電子用部品。
11.
8又は
9に記載のシリコーンゲル硬化物層を有する車載用部品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法により得られた特定構造の片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを高純度で含む混合物は、耐熱初期から引き起こされる軟化劣化を完全に抑制することが可能なシリコーンゲル硬化物を作製するための付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物のベースポリマーとして使用し得る。
また、本発明の付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物を硬化することにより得られるシリコーンゲル硬化物は、高温環境下における軟化劣化を完全に抑制することが可能であることから、高温環境下で使用される電気電子用又は車載用のゲル、シーリング剤、接着剤あるいはコーティング剤等としての使用が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を更に詳しく説明すると、本発明は、数平均重合度が100〜1,200であり、かつ、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)が1.20以下である、下記一般式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを高純度で含む混合物の製造方法、及び該オルガノポリシロキサンをベースポリマーとして用いた付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物を硬化して得られる、耐熱時の軟化劣化を完全に抑制することが可能な、シリコーンゲル硬化物に関するものである。
【0011】
[式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む混合物]
本発明の製造方法により得られる混合物は、下記一般式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを高純度で含むものである。
【化6】
[式中、R
1は炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であり、R
2は同一又は異種の、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基及びそれらの基の水素原子の一部がハロゲン原子で置換された基から選ばれる非置換又は置換1価炭化水素基であり、R
3は−Si(R
2)
2(R
4)で示されるアルケニルジオルガノシリル基(式中、R
2は前記と同じであり、R
4は−CH=CH
2構造を有するアルケニル基(即ち、末端オレフィン性不飽和結合を有するアルケニル基)である。)であり、aは100〜1,200の整数である。]
【0012】
一般式(1)において、R
1は炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であり、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基又はアリール基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等のアルキル基や、フェニル基等のアリール基などが挙げられ、使用上の安全性の観点から、R
1はメチル基、ブチル基、フェニル基等が好ましい。
【0013】
一般式(1)において、R
2は同一又は異種の、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基及びそれらの基の水素原子の一部がハロゲン原子で置換された基から選ばれる非置換又は置換1価炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1〜6の非置換もしくはハロゲン置換のアルキル基又はアリール基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等のアルキル基や、フェニル基等のアリール基などが挙げられる。
【0014】
一般式(1)において、R
3は−Si(R
2)
2(R
4)で示されるアルケニルジオルガノシリル基(式中、R
2は前記と同じであり、R
4は−CH=CH
2構造を有するアルケニル基(即ち、末端オレフィン性不飽和結合を有するアルケニル基)である。)である。
R
4は−CH=CH
2構造(末端オレフィン性不飽和二重結合)を有するアルケニル基であり、具体的には、ビニル基、アリル基等の炭素数2〜6のアルケニル基などが挙げられ、より好ましくはビニル基である。
【0015】
また、一般式(1)において、分子中のシロキサン単位[−Si(R
2)
2O−]の繰り返し数(重合度)を示すaは、100〜1,200の整数、好ましくは150〜1,000、より好ましくは200〜950程度の整数である。重合度が100未満であると、組成物にした際に、該組成物の硬化物の硬度がJIS K2220で規定されるシリコーンゲルの特定の針入度領域となる軟らかい部材、つまり、シリコーンゲルで使用される低硬度領域(即ち、JIS K6301によるゴム硬度値が0)に到達せず、シリコーンゲル用途のベースポリマーとして不適切である。一方、重合度が1,200より大きいと、片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)で表される分子量分布が1.20を超える可能性があり、得られるシリコーンゲルの耐熱性が低下する場合がある。
【0016】
本発明の製造方法において製造される混合物は、上記一般式(1)で示される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを高純度で含み、それ以外の成分として、上記(A)成分と(B)成分とのリビングアニオン重合に供しなかったり、連鎖移動などの副反応の結果副生したりする、分子鎖両末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサン及び分子鎖両末端無官能性オルガノポリシロキサン(即ち、ヒドロシリル化付加反応に対して反応性のない分子鎖両末端シラノール基封鎖オルガノポリシロキサンや分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖オルガノポリシロキサンなど)を少量含むものである。
【0017】
一般式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む混合物全体の数平均重合度は、100〜1,200であり、好ましくは150〜1,000であり、より好ましくは200〜950程度である。該数平均重合度が小さすぎると組成物にした際に、該組成物の硬化物の硬度がJIS K2220で規定されるシリコーンゲルの特定の針入度領域となる軟らかい部材、つまり、シリコーンゲルで使用される低硬度領域(即ち、JIS K6301によるゴム硬度値が0)に到達せず、シリコーンゲル用途のベースポリマーとして不適切であり、大きすぎると得られる片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)で表される分子量分布が1.20を超える可能性がある。
【0018】
また、一般式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む混合物全体の分散度、即ち、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)は、1.20以下であり、1.00〜1.18であることが好ましく、1.00〜1.15であることがより好ましく、1.00〜1.10であることが更に好ましく、1.00〜1.05であることが最も好ましい。数平均分子量に対する重量平均分子量の比(分散度)が、1.20を超えると、該混合物(生成物)中の片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの含有率(純度又は質量%)が減少し、得られるシリコーンゲルの耐熱性が低下する場合がある。
なお、一般式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む混合物全体の数平均分子量は、7,500〜110,000、好ましくは10,000〜100,000、より好ましくは20,000〜70,000であることが望ましい。数平均分子量が小さすぎると、硬化物にした際にシリコーンゲルとしての、JIS K2220で規定される針入度領域になり難く、大きすぎると得られる混合物(生成物)中の片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの含有率(純度又は質量%)が減少し、得られるシリコーンゲルの耐熱性が低下する場合がある。
【0019】
本発明において、繰り返し単位の繰り返し数(重合度)、数平均分子量及び重量平均分子量は、例えば、テトラヒドロフラン等を展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度、数平均分子量、又は重量平均分子量として求めることができる。より具体的には、上記一般式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む混合物のポリスチレン換算での数平均重合度、数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー分析において、東ソー株式会社製のカラム:TSKgel Super H2500(1本)及びTSKgel Super HM−N(1本)、溶媒:テトラヒドロフラン、流量:0.6mL/min、検出器:RI(40℃)、カラム温度40℃、注入量50μL、サンプル濃度0.3質量%の条件にて測定することができる(以下、同じ。)。
【0020】
また、一般式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む混合物の回転粘度計により測定した25℃における粘度は、20〜16,000mPa・sであることが好ましく、100〜12,000mPa・sであることがより好ましく、200〜9,000mPa・sであることが更に好ましい。
【0021】
一般式(1)で示される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを高濃度で含む混合物中における該一般式(1)で示される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの純度は、83質量%以上であることが好ましく、85〜100質量%であることがより好ましく、87〜100質量%であることが特に好ましく、91〜100質量%であることが更に好ましく、95〜100質量%であることが最も好ましい。この純度が83質量%未満であると副生成物である無官能性オルガノポリシロキサン(即ち、ヒドロシリル化付加反応に対して反応性のない分子鎖両末端シラノール基封鎖オルガノポリシロキサンや分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖オルガノポリシロキサンなど)の比率が増加することで、硬化物の耐熱性が低下する場合がある。なお、純度を83質量%以上とするには、(E)成分であるエーテル系溶媒中の水分量を抑制した(例えば、水分量が市販の脱水エーテル系溶剤の水準以下等)ものを使用することが好ましい。
なお、純度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー分析において、東ソー株式会社製のカラム:TSKgel Super H2500(1本)及びTSKgel Super HM−N(1本)、溶媒:テトラヒドロフラン、流量:0.6mL/min、検出器:RI(40℃)、カラム温度40℃、注入量50μL、サンプル濃度0.3質量%の条件にて測定した該混合物の分散度(即ち、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn))により算出できる。即ち、該混合物中における一般式(1)で示される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの濃度(純度)は、便宜上、[1/(Mw/Mn)]×100(質量%)として算出される。
【0022】
[式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む混合物の製造方法]
本発明の一般式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む混合物の製造方法は、下記(D)成分及び(E)成分の存在下で、下記(A)成分と(B)成分とをリビングアニオン重合させた後、該重合物の重合停止側の分子鎖末端を下記(C)成分で封鎖する工程を含むものである。即ち、乾燥剤存在下、特に窒素雰囲気にて、下記一般式(2)で表されるヘキサオルガノシクロトリシロキサンを原料モノマーとし、有機リチウム化合物をアニオン源とすることで、無水エーテル系溶媒中、リビングアニオン重合でポリマーを形成させる。その後、重合停止側の末端アニオン部位をアルケニルジオルガノハロシラン及び/又は下記一般式(3’)で示される1,3−ジアルケニル−1,1,3,3−テトラオルガノジシラザンで封鎖し、片末端のみにアルケニル基を導入することにより、上記一般式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを得るものである。
【0023】
[(A)成分]
本発明の一般式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む混合物の製造に用いる(A)成分は、下記一般式(2)で表されるヘキサオルガノシクロトリシロキサンである。
【化7】
(式中、R
2は前記と同じである。)
【0024】
一般式(2)において、R
2は前記と同じであり、前駆体の入手容易性及び合成の容易さから、炭素数1〜6、特に炭素数1〜3の非置換もしくはハロゲン置換のアルキル基又はアリール基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、フェニル基などが挙げられる。
【0025】
[(B)成分]
本発明の一般式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む混合物の製造に用いる(B)の有機リチウム化合物R
1−Liは、(A)成分であるシクロトリシロキサンを開環させ、リビングアニオン重合におけるアニオン源として機能するものである。
【0026】
ここで、R
1は前記と同じであり、入手の容易性や使用上の安全性の観点から、R
1はメチル基、ブチル基、フェニル基等が好ましい。
【0027】
また、(B)成分である有機リチウム化合物R
1−Liと、(A)成分であるシクロトリシロキサンの配合比率(モル比)により、本発明の一般式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの粘度(重合度)を制御することが可能であり、(A)成分の配合量と(B)成分の配合量に関して、[(B)成分のモル数×2,000]/[(A)成分のモル数×3]=M/Dと定義すると、M/Dは2〜70の範囲が好ましく、3〜10の範囲がより好ましい。M/Dが大きすぎると、該オルガノポリシロキサンをベースポリマーとする硬化物にした際に、シリコーンゲルとしての針入度領域になり難く、小さすぎると、十分にリビングアニオン重合が進行せず、得られるポリマー中の片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの含有率が減少することがある。
【0028】
[(C)成分]
本発明の一般式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む混合物の製造に用いる(C)成分は、下記一般式(3)で示されるアルケニルジオルガノハロシラン及び/又は下記一般式(3’)で示される1,3−ジアルケニル−1,1,3,3−テトラオルガノジシラザンである。なお、この場合の「オルガノ基」は、アルケニル基等の脂肪族不飽和結合を除く1価炭化水素基を意味する。
【化8】
(上記各式中、R
2、R
4は前記と同じであり、Xはハロゲン原子である。)
【0029】
一般式(3)において、R
2、R
4は前記と同じである。また、Xは任意のハロゲン原子であり、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、入手の容易さから、塩素原子又は臭素原子が好ましい。
【0030】
(C)成分である一般式(3)で示されるアルケニルジオルガノハロシラン及び/又は下記一般式(3’)で示される1,3−ジアルケニル−1,1,3,3−テトラオルガノジシラザンは、重合物の重合停止側の分子鎖末端をビニル基等のアルケニル基で封鎖するための末端源であるため、(C)成分の添加量は(B)成分である有機リチウム化合物R
1−Liの物質量に準ずるが、揮発等の影響を鑑みると、(B)成分1当量に対して合計で1.1〜10当量、特に1.3〜7.5当量が好ましい。(C)成分が少なすぎると重合停止側の分子鎖末端が十分にアルケニル化されず(完全にアルケニルジオルガノシリル基で封鎖されず)、硬化させた際に硬化不良を引き起こす場合があり、(C)成分が多すぎると過剰なアルケニルジオルガノハロシラン及び/又は1,3−ジアルケニル−1,1,3,3−テトラオルガノジシラザンの処理に危険を伴う場合がある。
なお、(B)成分の有機リチウム化合物1モル(1当量)に対して、一般式(3)で示されるアルケニルジオルガノハロシラン及び一般式(3’)で示される1,3−ジアルケニル−1,1,3,3−テトラオルガノジシラザンは、それぞれ1モルが1当量に相当する。
【0031】
[(D)成分]
本発明の一般式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む混合物の製造に用いる(D)成分の乾燥剤は、リビングアニオン重合を円滑に進行させるために、反応系中を脱水環境(無水環境)にするものである。(D)成分である乾燥剤を添加せずに該製造方法を行うと、得られるポリマーの重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)で表される分子量分布が1.20を超える可能性がある。これは、系中に水が残存することで末端リチウムシリコネートがシラノールに変換される副反応が進行してしまうことで、目的とする上記一般式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの比率が減少し、代わりに両末端アルケニル基変性オルガノポリシロキサンや両末端無官能性オルガノポリシロキサンの比率が増加するものと考えられる。
【0032】
該乾燥剤は、常温(150℃以下)下にて固体状であり、かつ中性である乾燥剤又は金属水素化物系乾燥剤である。上記を逸脱した乾燥剤を使用すると、十分に反応系が乾燥されなかったり、該製造方法の主反応であるリビングアニオン重合が円滑に進行しない可能性がある。
【0033】
該乾燥剤は、常温(150℃以下)下にて固体状であり、かつ中性である乾燥剤又は金属水素化物系乾燥剤であれば特に制限されないが、モレキュラーシーブ等のゼオライト系乾燥剤や水素化カルシウムなどが好適に使用でき、取扱い上の安全性や反応後の処理の容易さからモレキュラーシーブ等のゼオライト系乾燥剤が特に好ましい。系中の水を除去する観点から、使用され得るモレキュラーシーブは3A又は4Aが好ましく、空孔の大きなものを使用すると、水以外の分子が吸着され、十分に系中の水が除去されない可能性がある。
【0034】
また、(D)成分である乾燥剤の添加量は、上記一般式(2)で表されるヘキサオルガノシクロトリシロキサンの配合量に対して1〜20質量%の範囲が望ましく、特に5〜10質量%の範囲が望ましい。(D)成分の配合量が少なすぎると反応系中の脱水が不十分となり、リビングアニオン重合が十分進行しない場合があり、(D)成分が多すぎると過剰な乾燥剤により、反応系が液相を維持できなくなり、重合反応が進行しない場合がある。
【0035】
[(E)成分]
本発明の一般式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む混合物の製造に用いる(E)成分のエーテル系溶媒は、該製造方法における溶媒であり、一般的な合成で用いられるエーテル系溶媒であれば特に制限されないが、安全性及び反応後の留去の容易さの観点から、特にテトラヒドロフランの使用が好ましい。また、該製造方法の主反応は有機リチウム化合物をアニオン源としたリビングアニオン重合であるため、脱水溶媒を用いることが好ましい。
【0036】
また、(E)成分であるエーテル系溶媒の添加量は、上記一般式(2)で表されるヘキサオルガノシクロトリシロキサンの100質量部に対して50〜300質量部の範囲が望ましく、特に80〜120質量部の範囲が望ましい。(E)成分の配合量が少なすぎると反応系が固相となり、リビングアニオン重合が進行しない場合があり、(E)成分が多すぎると系中における各反応物の濃度が低くなり、リビングアニオン重合が進行しない場合がある。
【0037】
上記(D)成分及び(E)成分の存在下、上記(A)成分と(B)成分とをリビングアニオン重合させる際の重合条件としては、10〜40℃にて該リビングアニオン重合を進行させるのが好ましく、反応時間は3〜8時間が好ましい。反応温度が低すぎると、重合反応活性が低下し、反応が進行しない可能性があり、反応温度が高すぎると、(B)成分が熱により失活し、リビングアニオン重合が進行しない可能性がある。また反応時間が短すぎると、反応が十分に進行しないまま末端封鎖反応を行うこととなり、目的の鎖長(重合度)の一般式(1)で示される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを高濃度で含む混合物が得られない可能性がある。一方、反応時間が長すぎると、副反応が進行し、分子量分布(分散度;(Mw/Mn))が増大する可能性がある。
【0038】
また、上記重合物の重合停止側の分子鎖末端を上記(C)成分で封鎖する際の反応条件としては、40〜80℃にて分子鎖末端封鎖反応を行うことが好ましく、反応時間は1〜8時間が好ましい。反応温度が低すぎると、十分に分子末端封鎖が起こらない可能性があり、反応温度が高すぎると(C)成分が揮発してしまい、分子末端の封鎖が十分に進行しない可能性がある。また反応時間が短すぎると、分子末端の封鎖が十分に進行しない可能性があり、硬化させた際に硬化不良を引き起こす原因となり得る。反応時間が長すぎると(C)成分により一般式(1)で示される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンが分解してしまう可能性がある。
【0039】
反応終了後、当初の原料成分のうち重合反応に関与しなかった(A)、(B)、(C)、(D)及び/又は(E)成分等の未反応成分や固体状の成分、反応残渣等をろ過及び/又は減圧留去等の公知の方法で除去することができる。具体的には、減圧留去の条件としては、例えば、1,000Pa以下、好ましくは500Pa以下、より好ましくは300Pa以下の減圧下に、好ましくは100〜180℃、より好ましくは120〜150℃程度の条件で減圧留去することが望ましい。
【0040】
[付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物]
本発明の付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物は、下記の(F)〜(I)成分を必須成分として含有するものである。
【0041】
[(F)成分]
(F)成分の片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、本発明の付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物の主剤(ベースポリマー)として作用するものであり、数平均重合度が100〜1,200であり、かつ、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)が1.20以下である、下記一般式(1)で示される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンである。
【化9】
(式中、R
1、R
2、R
3、aは前記と同じである。)
【0042】
一般式(1)において、分子中のシロキサン単位[−Si(R
2)
2O−]の繰り返し数(重合度)を示すaは、100〜1,200の整数、好ましくは150〜1,000、より好ましくは200〜950程度の整数である。また、一般式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの数平均重合度は、100〜1,200であり、好ましくは150〜1,000であり、より好ましくは200〜950である。該数平均重合度が小さすぎると組成物にした際に、該組成物の硬化物の硬度がJIS K2220で規定されるシリコーンゲルの特定の針入度領域となる軟らかい部材、つまり、シリコーンゲルで使用される低硬度領域(即ち、JIS K6301によるゴム硬度値が0)に到達せず、シリコーンゲル用途のベースポリマーとして不適切であり、大きすぎると片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)で表される分子量分布が1.20を超える可能性があり、得られるシリコーンゲルの耐熱性が低下する場合がある。
【0043】
また、上記で説明した製造方法で製造される混合物中の式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、リビングアニオン重合により製造される重合物であることから、理論的には単分散のポリマー(即ち、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)で示される分散度が1.00である重合物)であるが、本発明の付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物のベースポリマーに使用する(F)成分の片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとしては、一般式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)は、1.20以下であり、1.00〜1.18であることが好ましく、1.00〜1.15であることがより好ましく、1.00〜1.10であることが更に好ましく、1.00〜1.05であることが最も好ましい。数平均分子量に対する重量平均分子量の比が、1.20を超えると得られるシリコーンゲルの耐熱性が低下する場合がある。
なお、一般式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、数平均分子量が、7,500〜110,000、好ましくは10,000〜100,000、より好ましくは20,000〜70,000であることが望ましい。数平均分子量が小さすぎると、硬化物にした際にシリコーンゲルとしての、JIS K2220で規定される針入度領域になり難く、大きすぎると得られる片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)で表される分子量分布(分散度)が1.20を超える可能性があり、得られるシリコーンゲルの耐熱性が低下する場合がある。
【0044】
(F)成分の片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとしては、好ましくは、上記で説明した製造方法により製造される式(1)で表される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを高純度(好ましくは83質量%以上)で含む、数平均重合度が100〜1,200であり、かつ、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)が1.20以下である混合物をそのまま使用することができる。
【0045】
[(G)成分]
(G)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、本発明の付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物の架橋剤であり、(F)成分の片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサン中のアルケニル基と付加反応し、軟化劣化を完全に抑制し得るシリコーンゲル硬化物を形成する構成要素である。(G)成分は、1分子中に3個以上、好ましくは3〜62個、より好ましくは3〜50個、特に好ましくは5〜40個、とりわけ好ましくは5〜30個のケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、下記一般式(4)で示されるものが好ましい。
【化10】
(式中、R
5は同一又は異種の、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基及びそれらの基の水素原子の一部がハロゲン原子で置換された基から選ばれる非置換又は置換1価炭化水素基を示す。Aは水素原子、アルキル基又はアリール基であり、b、cはそれぞれ0〜60の整数であり、b+cは1〜120の整数であり、1分子中に3個以上のSiH基を有する。但し、分子鎖末端のAがいずれもアルキル基又はアリール基の場合、bは3以上の整数であり、分子鎖末端のAのうち片方がアルキル基又はアリール基の場合、bは2以上の整数である。)
【0046】
一般式(4)において、R
5は同一又は異種の、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基及びそれらの基の水素原子の一部がハロゲン原子で置換された基から選ばれる非置換又は置換1価炭化水素基であり、上述したR
2と同様のものが例示でき、中でも、メチル基、フェニル基が好ましい。
また、Aは水素原子、アルキル基又はアリール基であり、アルキル基及びアリール基としては、上述したR
1と同様のものが例示できる。Aとしては、水素原子、メチル基、フェニル基が好ましい。
b、cはそれぞれ0〜60の整数であり、好ましくはbは3〜50の整数、cは1〜60の整数、より好ましくはbは5〜40の整数、cは10〜50の整数であり、b+cは1〜120の整数、好ましくは10〜100の整数、より好ましくは20〜80の整数である。但し、(G)成分は、1分子中に3個以上のSiH基を有するものであり、分子鎖末端のAがいずれもアルキル基又はアリール基の場合、bは3以上の整数であり、分子鎖末端のAのうち片方がアルキル基又はアリール基の場合、bは2以上の整数である。
【0047】
なお、(G)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のSiH基量は、5〜2,000mmol/100gであることが好ましく、5〜1,500mmol/100gであることがより好ましい。
【0048】
(G)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの粘度は特に限定されないが、作業性及び分散性の点から、25℃における粘度が0.5〜1,000mPa・sであることが好ましく、1〜500mPa・sであることがより好ましい。
【0049】
1分子中に3個以上のSiH基を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである(G)成分は1種類のみで使用しても、2種以上の組み合わせで使用してもよい。
【0050】
(G)成分の配合量は(F)成分である片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサン100質量部に対して、0.1〜20質量部であり、0.5〜10質量部であることが好ましく、1〜5質量部であることがより好ましい。(G)成分の配合量が0.1質量部未満であると硬化不良を引き起こし、目的の硬化物を得ることが不可能であり、(G)成分の配合量が20質量部より多いと、期待される耐熱性を得ることが困難となったり、得られるシリコーンゲル硬化物が硬くなる。
【0051】
[(H)成分]
(H)成分は、白金族金属触媒であり、(F)成分と(G)成分のヒドロシリル化付加反応を促進させ、硬化させる触媒であり、該硬化触媒については、前記アルケニル基とケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)との付加反応を促進するための触媒であり、ヒドロシリル化付加反応に用いられる触媒として白金族金属触媒等の周知の触媒が挙げられる。
【0052】
この白金族金属触媒としては、ヒドロシリル化付加反応触媒として公知のものが全て使用できる。例えば、白金黒、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体;H
2PtCl
4・nH
2O、H
2PtCl
6・nH
2O、NaHPtCl
6・nH
2O、KHPtCl
6・nH
2O、Na
2PtCl
6・nH
2O、K
2PtCl
4・nH
2O、PtCl
4・nH
2O、PtCl
2、Na
2HPtCl
4・nH
2O(式中、nは0〜6の整数であり、好ましくは0又は6である)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩;アルコール変性塩化白金酸(例えば、米国特許第3,220,972号明細書参照)、塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス(例えば、米国特許第3,159,601号明細書、米国特許第3,159,662号明細書、米国特許第3,775,452号明細書参照)、白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの;ロジウム−オレフィンコンプレックス;クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒);塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン、特にビニル基含有環状シロキサンとのコンプレックス等が挙げられる。これらの中で、好ましいものとして、相溶性の観点及び塩素不純物の観点から、塩化白金酸をシリコーン変性したものが挙げられ、具体的には、例えば、塩化白金酸をテトラメチルジビニルジシロキサンで変性した白金触媒が挙げられる。
【0053】
(H)成分の配合量はいわゆる有効量でよく、好ましくは(F)成分である片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンに対して、白金原子の質量換算で0.1〜1,000ppmで、より好ましくは5〜100ppmである。これらの範囲を逸脱した配合を行うと、該硬化物の硬化時間の著しい増大や、該硬化物の高耐熱性が十分に発現されない可能性がある。
【0054】
[(I)成分]
(I)成分は、一般式(1)で表されるポリマーを含む片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンをベースポリマーとして用いた付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物を熱硬化することで得られるシリコーンゲル硬化物に耐熱性を付与するものであり、耐熱性付与剤については、セリウム系耐熱性付与剤等の周知の耐熱性付与剤が挙げられる。
【0055】
(I)成分の配合量はいわゆる有効量でよく、好ましくは(F)成分の片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンに対して、0.1〜5質量%で、より好ましくは0.5〜1質量%である。これらの範囲を逸脱した配合を行うと、該硬化物の高耐熱性が十分に発現されない可能性がある。
【0056】
[その他の任意成分]
本発明の付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物には、上記(F)〜(I)成分以外にも、本発明の目的を損なわない範囲で任意成分を配合することができる。この任意成分としては、例えば、反応抑制剤、無機質充填剤、ケイ素原子結合水素原子及びケイ素原子結合アルケニル基を含有しない無官能性オルガノポリシロキサン(いわゆる無官能性ジメチルシリコーンオイル等)、難燃性付与剤、チクソ性付与剤、顔料、染料等が挙げられる。
【0057】
反応抑制剤は、上記付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物の反応を抑制するための成分であって、具体的には、例えば、アセチレン系、アミン系、カルボン酸エステル系、亜リン酸エステル系等の反応抑制剤が挙げられる。
【0058】
無機質充填剤としては、例えば、ヒュームドシリカ、結晶性シリカ、沈降性シリカ、中空フィラー、シルセスキオキサン、ヒュームド二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、層状マイカ、カーボンブラック、ケイ藻土、ガラス繊維等の無機質充填剤;これらの充填剤をオルガノアルコキシシラン化合物、オルガノクロロシラン化合物、オルガノシラザン化合物、低分子量シロキサン化合物等の有機ケイ素化合物で表面疎水化処理した充填剤等が挙げられる。また、シリコーンゴムパウダー、シリコーンレジンパウダー等を配合してもよい。
【0059】
本発明の付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物は、(F)成分に対し、上記(G)、(H)、(I)成分及びその他の成分の所定量を乾燥雰囲気中において均一に混合することにより得ることができる。
また、得られた付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物は、150℃±10℃にて20〜240分間、好適には40〜120分間加熱することにより硬化するが、その成形方法、硬化条件などは、組成物の種類に応じた公知の方法、条件を採用することができる。
【0060】
本発明の付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物の硬化物であるシリコーンゲル硬化物は、その初期硬度がJIS K2220で規定される針入度で10〜100であることが好ましく、50〜90であることがより好ましい。
更に、該シリコーンゲル硬化物は、230℃にて350時間経過後までに上記針入度の増加が観測されないものであることが好ましい。
このようなシリコーンゲル硬化物とするには、(G)成分の配合量を(F)成分である片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1〜20質量部とすることにより達成できる。
【0061】
本発明の付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物は、その硬化物が高い耐熱性、とりわけ耐熱初期における軟化劣化を完全に抑制可能であることから、高温環境下で使用される電気電子用又は車載用のゲル、シーリング剤、接着剤あるいはコーティング剤等として好適に使用でき、具体的には、本発明の付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物の硬化物層を有する電気電子用部品、該組成物の硬化物からなる自動車用オイルシール、該組成物の硬化物からなる建築用シーラント等を例示することができる。本発明の付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物は、とりわけ電気電子用部品又は車載用部品用途に有用である。
【実施例】
【0062】
以下に、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
なお、下記例中、室温は25℃を示し、部は質量部を示し、下記一般式(5)、(6)で示される化合物の各重合度、得られた生成物である片末端ビニル基含有オルガノポリシロキサン混合物の数平均分子量、分散度(PDI)及び該混合物中の片末端ビニル基含有オルガノポリシロキサンの純度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー分析において、東ソー株式会社製のカラム:TSKgel Super H2500(1本)及びTSKgel Super HM−N(1本)、溶媒:テトラヒドロフラン、流量:0.6mL/min、検出器:RI(40℃)、カラム温度40℃、注入量50μL、サンプル濃度0.3質量%の条件にて測定した値により算出した。また、粘度は25℃における回転粘度計による測定値である。M/Dは[n−BuLiのモル数×2,000]/[ヘキサメチルシクロトリシロキサンのモル数×3]を示し、Meはメチル基、Buはブチル基を示す。
【0063】
はじめに、上記一般式(1)で示される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンであって、(i)重合度が100以上1,200以下であり、かつ(ii)重量平均分子量と数平均分子量の比(PDI,Mw/Mn)で表される分子量分布が1.20以下である、片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む混合物の製造方法について示す。
【0064】
[合成実施例1]
温度計と撹拌子を備えた500mL3つ口フラスコを窒素置換し、活性化したモレキュラーシーブ4Aを15g、ヘキサメチルシクロトリシロキサン211g、脱水テトラヒドロフラン(和光純薬工業社製)200gを仕込み、室温下で1時間撹拌した。これにn−BuLi(ヘキサン溶液、1.6mol/L、東京化成工業社製)8.6mL(M/D=9.7)を滴下し、室温下で4時間反応を行った。その後、クロロジメチルビニルシラン2.1g(17.4mmol)及び1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン3.9g(21.1mmol)を添加し、60℃にて2時間反応を行った後、該モレキュラーシーブをろ別し、130℃、300Paで減圧留去を行い、下記式(5)で示される化合物を含有する片末端ビニル基含有オルガノポリシロキサン混合物(生成物)を190g得た。
粘度300mPa・s、GPCから算出した数平均分子量Mn=20,000、PDI(分散度;Mw/Mn)=1.05、得られた片末端ビニル基含有オルガノポリシロキサン混合物中の片末端ビニル基含有オルガノポリシロキサンの純度=95質量%、ヨウ素滴定法により算出したビニル基量は6.3mmol/100gであった。
【化11】
【0065】
[合成実施例2]
温度計と撹拌子を備えた500mL3つ口フラスコを窒素置換し、活性化したモレキュラーシーブ4Aを9g、ヘキサメチルシクロトリシロキサン121g、脱水テトラヒドロフラン100g(和光純薬工業社製)を仕込み、室温下で1時間撹拌した。これにn−BuLi(ヘキサン溶液、1.6mol/L、東京化成工業社製)1.2mL(M/D=3.2)を滴下し、室温下で4時間反応を行った。その後、クロロジメチルビニルシラン0.7g(5.8mmol)及び1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン1.1g(5.9mmol)を添加し、60℃にて2時間反応を行った後、該モレキュラーシーブをろ別し、130℃、300Paで減圧留去を行い、下記式(6)で示される化合物を含有する片末端ビニル基含有オルガノポリシロキサン混合物(生成物)を90g得た。
粘度8.0Pa・s、GPCから算出した数平均分子量Mn=70,000、PDI(分散度;Mw/Mn)=1.08、得られた片末端ビニル基含有オルガノポリシロキサン混合物中の片末端ビニル基含有オルガノポリシロキサンの純度=93質量%、ヨウ素滴定法により算出したビニル基量は1.2mmol/100gであった。
【化12】
【0066】
[合成比較例1]
温度計と撹拌子を備えた500mL3つ口フラスコを窒素置換し、ヘキサメチルシクロトリシロキサン180g、脱水テトラヒドロフラン180g(和光純薬工業社製)を仕込み、室温下で1時間撹拌した。これにn−BuLi(ヘキサン溶液、1.6mol/L、東京化成工業社製)7.5mL(M/D=9.6)を滴下し、室温下で4時間反応を行った。その後、クロロジメチルビニルシラン3.2g(26.5mmol)及び1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン5.3g(28.6mmol)を添加し、60℃にて2時間反応を行った後、130℃、300Paで減圧留去を行うことで、粘度275mPa・s、GPCから算出した数平均重合度200、数平均分子量Mn=20,000の片末端ビニル基含有オルガノポリシロキサン混合物を130g得たが、PDI(分散度;Mw/Mn)=1.5、得られた片末端ビニル基含有オルガノポリシロキサン混合物中の片末端ビニル基含有オルガノポリシロキサンの純度=67質量%となり、本発明の範囲を逸脱した片末端ビニル基含有オルガノポリシロキサン混合物が得られた。
これは、本発明に必須である(D)成分の150℃以下の温度にて固体状であり、かつ中性の金属水素化物系乾燥剤が含まれておらず、リビングアニオン重合が十分に進行しなかったと考えられる。上記のような分散度の大きな片末端ビニル基含有オルガノポリシロキサンを後述する組成物のベースポリマーとして用いると、初期の軟化劣化が顕著になることがある。
【0067】
[合成比較例2]
温度計と撹拌子を備えた500mL3つ口フラスコを窒素置換し、活性化したモレキュラーシーブ4Aを15g、ヘキサメチルシクロトリシロキサン205gを仕込み、室温下で1時間撹拌した。これにn−BuLi(ヘキサン溶液、1.6mol/L、東京化成工業社製)8.6mL(M/D=9.7)を滴下し、室温下で4時間撹拌を行った。しかし、反応系中における液体成分が少なく、反応は進行しなかった。
これは、本発明に必須である(E)成分のエーテル系溶媒が含まれておらず、系中に溶媒が十分に存在しなかったため、モノマー単位であるヘキサメチルシクロトリシロキサンが溶解せず、反応が進行しなかったと考えられる。
【0068】
次に、片末端ビニル基含有オルガノポリシロキサンをベースポリマーとすることで得られる、高耐熱性の付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物、及び該硬化物に関する実施例及び比較例を説明する。
【0069】
[実施例1]
(F)成分である、合成実施例1と同様にして得られた下記式(5)で表される片末端ビニル基含有オルガノポリシロキサンを95質量%含む混合物(粘度300mPa・s、GPCから算出した数平均分子量Mn=20,000、PDI(分散度;Mw/Mn)=1.05)100部に対して、(H)成分である、白金原子を0.5質量%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液を0.10部、及び(I)成分の耐熱性付与剤である、KF−968マスターオイル(信越化学工業社製)1.0部を均一に混合し、(G)成分である、下記式(7)で表され、25℃での粘度が100mPa・sの分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシリル基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン(SiH基量;5.5mmol/100g)1.46部を添加し、室温下で均一になるまでよく混合し、遠心脱泡することで付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物1とし、該組成物を150℃、100分間加熱処理することで硬化物1を作製した。
【化13】
【化14】
【0070】
[実施例2]
(F)成分である、合成実施例1と同様にして得られた上記式(5)で表される片末端ビニル基含有オルガノポリシロキサンを95質量%含む混合物(粘度300mPa・s、GPCから算出した数平均分子量Mn=20,000、PDI(分散度;Mw/Mn)=1.05)100部に対して、(H)成分である、白金原子を0.5質量%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液を0.10部、及び(I)成分の耐熱性付与剤である、KF−968マスターオイル(信越化学工業社製)1.0部を均一に混合し、(G)成分である、上記式(7)で表され、25℃での粘度が100mPa・sの分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシリル基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン(SiH基量;5.5mmol/100g)1.2部を添加し、室温下で均一になるまでよく混合し、遠心脱泡することで付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物2とし、該組成物を150℃、100分間加熱処理することで硬化物2を作製した。
【0071】
[比較例1]
数平均重合度が220であり、重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)で表される分散度が1.5であり、粘度が800mPa・sである片末端ビニル基含有オルガノポリシロキサン(信越化学工業社製)100部に対して、(H)成分である、白金原子を0.5質量%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液を0.10部、及び(I)成分の耐熱性付与剤である、KF−968マスターオイル(信越化学工業社製)1.0部を均一に混合し、(G)成分である、上記式(7)で表され、25℃での粘度が100mPa・sの分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシリル基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン(SiH基量;5.5mmol/100g)0.7部を添加し、室温下で均一になるまでよく混合し、遠心脱泡することで付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物3とし、該組成物を150℃、100分間加熱処理することで硬化物3を作製した。
【0072】
上記硬化物1〜3について、230℃空気雰囲気下における経時のゲル硬度変化をRIGO社製自動針入度計RPM−101を用い、JIS K2220で規定される1/4コーンにて測定した。この値の変化から耐熱性、とりわけ耐熱初期の軟化劣化の評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例1、2の付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物1、2から得られた硬化物1、2は、本発明の要件を満たすものであり、350時間経過後までに針入度増大による劣化、いわゆる軟化劣化が観測されないことから、耐熱初期の軟化劣化が完全に抑制されていることが明らかとなった。これは、実施例1、2では、本発明の必須要件である分子量分布(Mw/Mn)が1.20以下である片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサン混合物をベースポリマーとして用いたために、硬化物1及び2中における上記一般式(1)で示される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの比率が高く、両末端無官能性オルガノポリシロキサンの比率が低い。そのため、硬化物1及び2においては、耐熱初期における軟化劣化が完全に抑制されている。
【0075】
一方、比較例1の付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物3から得られた硬化物3は350時間経過後までに軟化劣化が顕著に表れ、300時間以上ではゲル硬化物の流動が観測された。これは、本発明に必須である上記一般式(1)で示されるポリマーを高濃度で含む特定の分子量分布(Mw/Mn)を有する片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサン混合物の代わりに、粘度800mPa・sである片末端ビニル基含有オルガノポリシロキサン混合物を用いているが、該ポリマーの分子量分布Mw/Mnは1.5となっており、該混合物中の上記一般式(1)で示される片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの比率が、上記一般式(1)で示されるポリマーを含む片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンのそれよりも低く、代わりに両末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサン及び両末端無官能性オルガノポリシロキサンの比率が高くなっている。そのため、比較例1の付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物3から得られた硬化物3中に、比較的高い比率で含まれる両末端無官能性オルガノポリシロキサンが硬化物中に多量に含まれるために、耐熱初期における軟化劣化及びゲルの流動が発現したと考えられる。
【0076】
以上のことから、本発明の片末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサンをベースポリマーとした、付加硬化性オルガノポリシロキサンゲル組成物から得られるシリコーンゲル硬化物は、耐熱初期における軟化劣化抑制に有効である。