(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明のスプレー塗布用ゾルは、例えば、本発明のスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体を形成する際に用いることができる。また、本発明のスプレー塗布用ゾルを用いて形成したスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、当該スプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体を有する本発明の積層体の製造に用いることができる。
そして、本発明のスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、意匠性に優れた自動車インスツルメントパネルなどの自動車内装部品用表皮などの自動車内装材として好適に用いることができる。また、本発明の積層体は、例えば、意匠性に優れた自動車インスツルメントパネルなどの自動車内装部品を構成する自動車内装材として好適に用いることができる。更に、本発明のスプレー塗布用ゾルは、例えば、自動車インスツルメントパネルなどの自動車内装部品の表皮表面に存在するスプレー塗布層を形成する際に好適に用いることができる。
なお、本発明のスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、本発明のスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体の製造方法に従って得ることができる。
【0018】
(スプレー塗布用ゾル)
本発明のスプレー塗布用ゾルは、アクリル系微粒子(A)および所定の種類の可塑剤(B)を含むことを特徴とする。また、本発明のスプレー塗布用ゾルは、上記成分(A)および(B)に加え、任意に、溶剤(C)および添加剤などのその他の成分を更に含んでもよい。そして、本発明のスプレー塗布用ゾルは、少なくとも上記所定の成分(A)および(B)を含んでいるため、優れたゾル分散性、流動性、及び熱安定性を並立することができる。そのため、本発明のスプレー塗布用ゾルは、液だれを抑制しつつ、例えば被塗布物に施された細かなシボ模様内にも精度良くスプレー可能であると共に、加熱によって変色等を生じ難い。その結果、本発明のスプレー塗布用ゾルを用いて形成したスプレー塗布層は、加熱により変色されることなく均一で緻密な模様を表すことができ、意匠性に優れているため、高い意匠性が求められる自動車内装部品を構成する自動車内装材として用いることができる。
なお、本発明において「ゾル」とは、温度23℃、1atmの環境下において、含有成分が分散(一部溶解を含む)している状態である液体を指す。
【0019】
<アクリル系微粒子(A)>
[組成]
本発明のスプレー塗布用ゾルに用いられるアクリル系微粒子(A)は、(メタ)アクリレート系単量体単位を主構成成分として有するアクリル系樹脂を含む微粒子である。ここで、アクリル系微粒子(A)は、アクリル系樹脂を50質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、99質量%以上含むことが更に好ましい。また、アクリル系微粒子(A)を構成するアクリル系樹脂は、上記(メタ)アクリレート系単量体単位以外のその他の単量体単位を更に含有していてもよいが、主構成成分として(メタ)アクリレート系単量体単位を、アクリル系樹脂が有する全単量体単位100質量%に対して90質量%以上含有することが好ましく、95質量%以上含有することがより好ましく、99質量%以上含有することが更に好ましい。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
また、本明細書において、「単量体単位を有する」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の構造単位が含まれている」ことを意味する。
【0020】
[[アクリル系樹脂]]
−(メタ)アクリレート系単量体−
ここで、(メタ)アクリレート系単量体単位を構成する(メタ)アクリレート系単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tーブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどのオクチル(メタ)アクリレート等の、1価の鎖式アルキルアルコールと1価の(メタ)アクリル酸とのエステル単量体(鎖式アルキル(メタ)アクリレート単量体);
シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の、1価の環式アルキルアルコールと1価の(メタ)アクリル酸とのエステル単量体(環式アルキル(メタ)アクリレート単量体);
アリルスルホン酸等のスルホン酸基が、(メタ)アクリレートに導入された、スルホン酸基含有(メタ)アクリレート系単量体;
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート等のリン酸基が、(メタ)アクリレートに導入された、リン酸基含有(メタ)アクリレート系単量体;
エポキシ基が(メタ)アクリレートに導入された、エポキシ基含有(メタ)アクリレート系単量体;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2ーヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート単量体;
アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等の、(メタ)アクリレート中の(メタ)アクリル以外の部分にカルボニル基が導入されてなる、カルボニル基含有(メタ)アクリレート系単量体;
N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の、アミノ基含有(メタ)アクリレート系単量体;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の、多官能(メタ)アクリレート系単量体〔これらの多官能(メタ)アクリレート系単量体は、他の任意の(メタ)アクリレート系単量体と共重合可能な単量体(共単量体)として、共重合されていてもよい〕;
等が挙げられる。
これらの(メタ)アクリレート系単量体は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。
【0021】
上述した中でも、スプレー塗布用ゾルの熱安定性を高めて加熱による変色等を抑制する観点からは、アクリル系樹脂が含有する(メタ)アクリレート系単量体単位を構成する(メタ)アクリレート系単量体は、アルキル基の炭素数が3以下の鎖式アルキル(メタ)アクリレート単量体であることが好ましく、メチル(メタ)アクリレート単量体であることがより好ましく、メチルメタクリレート単量体であることがより好ましい。
【0022】
−その他の単量体−
アクリル系樹脂が更に有し得るその他の単量体単位を構成するその他の単量体としては、例えば、アクリロニトリル;
メタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸2−サクシノロイルオキシエチル−2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、メタクリル酸2−マレイノロイルオキシエチル−2−メタクリロイルオキシエチルマレイン酸、メタクリル酸2−フタロイルオキシエチル−2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸、メタクリル酸2−ヘキサヒドロフタロイルオキシエチル−2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等のカルボキシル基含有単量体;
アクリルアミドジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド等のアクリルアミド系単量体;
等が挙げられる。
なお、アクリル系樹脂がその他の単量体単位を更に有する場合は、その他の単量体単位の含有割合は、アクリル系樹脂が有する全単量体単位100質量%に対して10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。
【0023】
また、アクリル系樹脂は、上述の(メタ)アクリレート系単量体と共単量体とが重合された共重合体であってもよい。ここで、上述した共単量体以外の共単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン等のスチレン誘導体;ジビニルベンゼン、ジビニルナフタリン、ジビニルエーテル等の多官能単量体;イタコン酸;クロトン酸;マレイン酸、マレイン酸エステル、無水マレイン酸等のマレイン酸誘導体等;フマル酸、フマル酸エステル等のフマル酸誘導体;トリアリールイソシアヌレート;
等が挙げられる。
【0024】
なお、上述のアクリル系樹脂は、架橋されていてもよく、架橋されていなくてもよい。
また、アクリル系微粒子(A)が後述するコアシェル構造を有する場合は、コア部及び/又はシェル部のいずれかが上記アクリル系樹脂を主成分としていればよいが、少なくともコア部が上記アクリル系樹脂を主成分(50質量%以上)とすることが好ましく、コア部及びシェル部共に上記アクリル系樹脂を主成分(50質量%以上)とすることがより好ましい。
【0025】
[構成構造]
アクリル系微粒子(A)の構成構造としては、特に限定されるものではなく、粒子全体が単一の構成構造を有する単一構造;コアシェル構造などの2種類以上の構成構造を有する多層構造;重合体粒子の中心部から外郭部まで連続的に組成が変化するグラディエント構造;等が挙げられる。これらの構成構造の中でも、単一構造及び多層構造が好ましく、多層構造の場合はコアシェル構造がより好ましい。
【0026】
[平均粒子径]
また、アクリル系微粒子(A)の平均粒子径は、0.1μm以上であることが好ましく、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。アクリル系微粒子(A)の平均粒子径が上記下限以上であれば、スプレー塗布用ゾルの調製に際して、極端に小さなアクリル系微粒子(A)同士が凝集することを抑制し、ゾル分散性を良好に保てるからである。加えて、アクリル系微粒子(A)の取り扱いがより容易になるからである。また、アクリル系微粒子(A)の平均粒子径が上記上限以下であれば、スプレー塗布用ゾルのゾル分散性及び塗布後の表面平滑性をより良好にでき、より意匠性に優れたスプレー塗布層を有するスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体を得ることができるからである。
【0027】
[平均重合度]
また、アクリル系微粒子(A)の平均重合度は、2000以上が好ましく、3000以上がより好ましく、100000以下が好ましく、50000以下がより好ましい。アクリル系微粒子(A)の平均重合度が上記下限以上であれば、熱安定性に優れ、スプレー塗布時の液だれを抑制可能な流動性を有するスプレー塗布用ゾルを得ることができるからである。また、アクリル系微粒子(A)の平均重合度が上記上限以下であれば、アクリル系微粒子(A)の耐熱性が向上して、スプレー塗布用ゾルを用いて形成されるスプレー塗布層の耐変色性が増すため、意匠性をより向上できるからである。
なお、本発明において「平均重合度」は、JIS K6720−2に準拠して測定することができる。
また、アクリル系微粒子(A)がコアシェル構造を有する場合は、アクリル系微粒子(A)の平均重合度は、当該コアシェル構造を構成するコア部およびシェル部の少なくとも一方が、上述した範囲の平均重合度を満たしていることが好ましい。
【0028】
<可塑剤(B)>
本発明のスプレー塗布用ゾルに用いられる可塑剤(B)は、所定の種類である必要がある。所定の種類の可塑剤(B)を用いなければ、スプレー塗布用ゾルに優れたゾル分散性、熱安定性および流動性を発揮させて、スプレー塗布を良好に行うことができない。その結果、例えば自動車内装部品を構成する自動車内装材としての二色成形体の表面を、意匠性に優れたスプレー塗布層とすることができない。
【0029】
[種類]
ここで、可塑剤(B)は、ベンゾアート系可塑剤、フタレート系可塑剤、およびラウレート系可塑剤からなる群より選択される少なくとも一種を含有する必要があり、任意にその他の可塑剤を更に含有し得る。換言すれば、可塑剤(B)は、ベンゾアート系可塑剤のみ、フタレート系可塑剤のみ、又はラウレート系可塑剤のみを含有していてもよく、これらの可塑剤及び/又はその他の可塑剤を任意の割合で混合して含有していてもよい。
【0030】
ベンゾアート系可塑剤としては、例えば、エチレングリコールジベンゾアート、ジエチレングリコールジベンゾアート、トリエチレングリコールジベンゾアート、ジプロピレングリコールジベンゾアートが挙げられる。
また、フタレート系可塑剤としては、例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジノルマルオクチルフタレート、ジ−(2−エチルヘキシル)フタレート、ジノルマルノニルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジウンデシルフタレート、ジトリデシルフタレート、ジベンジルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジブチルベンジルフタレート、ジフェニルフタレートジシクロヘキシルフタレート、エポキシヘキサヒドロジイソデシルフタレート等のフタレート;
ジメチルイソフタレート、ジ−(2−エチルヘキシル)イソフタレート、ジイソオクチルイソフタレート等のイソフタレート;
ジ−(2−エチルヘキシル)テトラヒドロフタレート、ジ−n−オクチルテトラヒドロフタレート、ジイソデシルテトラヒドロフタレート等のテトラヒドロフタレート;
フタル酸とアルキレングリコール〔アルキレンの炭素数は2以上8以下〕とのオリゴエステル、当該オリゴエステル末端にアルカノール〔アルカノールの炭素数は6以上13以下〕が導入された変性物、当該オリゴエステル末端にアルカン酸〔アルカン酸の炭素数は2以上18以下〕が導入された変性物、当該オリゴエステル末端にアルケン酸〔アルケン酸の炭素数は2以上18以下〕が導入された変性物等のフタル酸系ポリエステル;が挙げられる。
更に、ラウレート系可塑剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノラウレート、グリセリンモノアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノラウレート等のモノグリセリンラウレート;ポリグリセリンラウレート;等が挙げられる。
【0031】
また、その他の可塑剤としては、例えば、アジピン酸系可塑剤;アゼライン酸系可塑剤;セバシン酸系可塑剤;マレイン酸系可塑剤;フマル酸系可塑剤;クエン酸系可塑剤;イタコン酸系可塑剤;オレイン酸系可塑剤;リシノール酸系可塑剤;ステアリン酸系可塑剤;リン酸系可塑剤;コハク酸系可塑剤;ナフタレンジカルボン酸系可塑剤;ジフェニルジカルボン酸系可塑剤;トリメリット酸エステル等のトリメリット酸系可塑剤;ピロメリット酸エステル等のピロメリット酸系可塑剤;塩素化パラフィン、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルなどのその他の脂肪酸系可塑剤;ジエチレングリコールジペラルゴネート、トリエチレングリコールジ−(2−エチルブチレート)、トリエチレングリコールジカプリレート、トリエチレングリコールジ−(2−エチルヘキソエート)、ジブチルメチレンビスチオグリコレートなどのその他のグリコール系可塑剤;ブチルエポキシステアレート、エポキシトリグリセライド、エポキシ化オレイン酸オクチル、エポキシ化オレイン酸デシルなどのその他のエポキシ系可塑剤;グリセリンモノアセトモノステアレート、グリセリンジアセトモノオレート、グリセリンモノアセトモノモンタネートなどの、上記ラウレート系可塑剤として列挙した可塑剤以外のグリセリン系可塑剤等、既知の可塑剤が挙げられる。
なお、その他の可塑剤を併用する場合は、その他の可塑剤の含有割合は、全可塑剤量100質量%に対して10質量%以下であることが好ましい。
【0032】
そして、上述の可塑剤の中でも、良好なゾル分散性を実現する観点からは、可塑剤(B)は、ベンゾアート系可塑剤及び/又はラウレート系可塑剤を含有することが好ましく、ベンゾアート系可塑剤のみを含有することがより好ましい。
【0033】
[含有量]
スプレー塗布用ゾルに用いる可塑剤(B)の含有量は、アクリル系微粒子(A)100質量部に対して35質量部以上であることが好ましく、200質量部以下であることが好ましく、120質量部以下であることがより好ましく、80質量部以下であることが更に好ましい。可塑剤(B)の含有量が上記下限以上であれば、スプレー塗布用ゾルとして良好な粘度及び高い流動性を有し(つまり、当該ゾルが固化することを十分に防ぎ)易く、例えば被塗布物に施された細かなシボ模様内にも精度良くスプレーし得るからである。その結果、スプレー塗布用ゾルを用いて意匠性の高いスプレー塗布層を形成することができるからである。また、可塑剤(B)の含有量が上記上限以下であれば、スプレー塗布用ゾルに、スプレー塗布時の液だれを抑制し得る適度な粘度を付与し、意匠性の高いスプレー塗布層を形成することができるからである。
【0034】
<その他の成分>
本発明のスプレー塗布用ゾルは、上述したアクリル系微粒子(A)および可塑剤(B)以外に、任意に、溶剤(C)および添加剤などのその他の成分を更に含むことができる。
【0035】
[溶剤(C)]
溶剤(C)としては、特に制限されることなく、例えば、既知の炭化水素系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、グリコール系溶剤、グリコールエステル系溶剤、グリコールエーテル系溶剤等が挙げられる。これらの中でも、良好なゾル分散性を保つと共に、後述する所望の沸点を有する観点からは、溶剤(C)としては、エチルジグリコールアセテート、ブチルジグリコールアセテート等のグリコールエステル系溶剤が好ましく、ブチルジグリコールアセテートがより好ましい。
【0036】
[[沸点]]
ここで、溶剤(C)の沸点は、1atm下で200℃以上であることが好ましく、230℃以上であることがより好ましく、300℃以下であることが好ましい。溶剤(C)の沸点が上記下限以上であれば、例えば、本発明のスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体の形成に際して金型を加熱した際に、当該金型に予め塗布されたスプレー塗布用ゾル内部から気泡が生じ、形成されたスプレー塗布層の意匠性が劣ることを防げるからである。また、溶剤(C)の沸点が上記上限以下であれば、溶剤(C)が良好に抜けたスプレー塗布層をより容易に形成できるからである。
【0037】
[[含有量]]
また、スプレー塗布用ゾル中の溶剤(C)の含有量は、アクリル系微粒子(A)100質量部に対して0質量部超であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることが更に好ましく、25質量部超であることが特に好ましく、100質量部以下であることが好ましく、45質量部以下であることがより好ましく、35質量部以下であることが更に好ましい。溶剤(C)の含有量を上記下限以上として可塑剤(B)と併用すれば、スプレー塗布用ゾルとして良好な粘度及び高い流動性を有し(つまり、当該ゾルが固化することを十分に防ぎ)、例えば被塗布物に施された細かなシボ模様内にもより精度良くスプレーすることができるからである。その結果、スプレー塗布用ゾルを用いて、意匠性のより高いスプレー塗布層をより経済的に得ることができるからである。また、溶剤(C)の含有量を上記上限以下として可塑剤(B)と併用すれば、スプレー塗布用ゾルに、スプレー塗布時の液だれを抑制し得る適度な粘度を付与し、意匠性の高いスプレー塗布層を形成することができるからである。
【0038】
特に、ゾルの固化を抑制する観点からは、スプレー塗布用ゾル中の溶剤(C)の含有量をX(質量部)、可塑剤(B)の含有量をY(質量部)としたときに、XおよびYの間には、下記式(1):
Y > −0.4X + 50・・・(1)
〔但し、Yは40質量部以上であることが好ましい。〕の関係が成り立つことが好ましい。可塑剤(B)および溶剤(C)の含有量が上記式(1)における不等式関係を満たせば、ゾルの固化を十分に抑制しつつ(つまり、良好なゾル分散性を保ちつつ)、スプレー塗布用ゾルをより経済的に得ることができるからである。その結果、均一かつ平滑で、より意匠性に優れたスプレー塗布層を有するスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体及び当該成形体を有する積層体を、より経済的に製造することができるからである。
【0039】
[添加剤]
スプレー塗布用ゾルが任意に含み得る添加剤としては、例えば、着色剤が挙げられる。着色剤は、スプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体の表面及び積層体の表面に、より所望の意匠性を与えるために用いることができる。
着色剤としては、特に制限されることなく、所望の色彩をスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体等の二色成形体表面に付与し得る着色剤を適宜選択することができる。また、添加する着色剤の配合量も適宜選択することができるが、スプレー塗布用ゾルの良好な分散性、粘度、及び熱安定性を維持しつつ、二色成形体の表面に所望の色彩を十分に付与する観点からは、着色剤の配合量は、例えばアクリル系微粒子(A)100質量部に対して0.1質量部以上100質量部以下とすることができる。
その他、添加剤としては、消泡剤、防カビ剤、防臭剤、抗菌剤、界面活性剤、滑剤、紫外線吸収剤、レベリング剤等が挙げられ、これらの各種添加剤を適宜配合してもよい。
【0040】
<粘度>
また、本発明のスプレー塗布用ゾルは、粘度が2000mPa・s以上であることが好ましく、3800mPa・s以上であることがより好ましく、4700mPa・s以上であることが更に好ましく、7000mPa・s以上であることが一層好ましく、50000mPa・s以下であることが好ましく、30000mPa・s以下であることがより好ましい。粘度が上記範囲内であれば、スプレー塗布用ゾルの流動性が更に良好になるからである。具体的には、スプレー塗布用ゾルの粘度が上記下限以上であれば、スプレー塗布した際の液だれをより良好に抑制してスプレー性を高めることにより、均一で意匠性のより高いスプレー塗布層を有するスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体等の二色成形体を得ることができるからである。また、スプレー塗布用ゾルの粘度が上記上限以下であれば、当該ゾルを固化させることなく、例えば被塗布物に施された複雑なシボ模様内にも精度良くスプレー塗布できるため、細やかで意匠性のより高いスプレー塗布層を有するスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体等の二色成形体を得ることができるからである。
【0041】
<調製方法>
そして、本発明のスプレー塗布用ゾルは、特に限定されることなく、例えば、上述したアクリル系微粒子(A)、可塑剤(B)、及び任意に配合されるその他の成分を混合、撹拌することにより、調製することができる。撹拌条件は適宜調節することができるが、例えば、温度20℃〜80℃の環境下、10rpm〜10000rpmの回転数で、1分間〜5時間程度撹拌することができる。
【0042】
(スプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体)
本発明のスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体は、上述したスプレー塗布用ゾルを用いて形成することにより得られるスプレー塗布層と、塩化ビニル樹脂組成物を形成してなる塩化ビニル樹脂成形体とを有することを特徴とする。そして、本発明のスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体は、本発明のスプレー塗布用ゾルを用いて形成したスプレー塗布層を有しているため、例えば、優れた意匠性を有する自動車インスツルメントパネルなどの自動車内装部品の表皮等、自動車内装材として好適に用いられる。
【0043】
<スプレー塗布層>
ここで、本発明のスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体が有するスプレー塗布層は、上述したスプレー塗布用ゾルを用いて任意の方法で形成される。スプレー塗布層は、通常、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品における表皮の最表面(乗車する人と接し得る側)の一部又は大部分を構成し、二色成形体としてのスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体に装飾的価値を与える。そして、スプレー塗布層は、例えば本発明のスプレー塗布用ゾルを用いて形成されているため、後の工程で高温にさらされた場合であっても変色することなく所望の色合いを実現しつつ、細やかなシボ模様等を緻密かつ均一に再現することができる。その結果、スプレー塗布層は、例えば、優れた意匠性を有する自動車インスツルメントパネルなどの自動車内装部品の表皮表面層用として好適に用いられる。
【0044】
<塩化ビニル樹脂成形体>
本発明のスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体が有する塩化ビニル樹脂成形体は、塩化ビニル樹脂組成物を形成してなる成形体であり、任意に、塩化ビニル樹脂以外の添加剤を更に含んでもよい。ここで、塩化ビニル樹脂成形体は、例えば自動車インスツルメントパネル表皮およびドアトリム表皮等の自動車内装部品を構成する自動車内装材の基本的な構造を成す部分であると共に、基本的な性能(強度、柔軟性など)を発揮する部分である。また、塩化ビニル樹脂成形体は、通常、自動車インスツルメントパネル表皮およびドアトリム表皮等の自動車内装部品において、スプレー塗布層が形成されている箇所では当該スプレー塗布層の内側(乗車する人からは通常見えない側)に存在し、スプレー塗布層が形成されていない箇所では最表面(乗車する人と接し得る側)に存在する。
【0045】
[塩化ビニル樹脂組成物]
塩化ビニル樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂を含有する組成物であり、塩化ビニル樹脂成形体の形成に用いられる。また、塩化ビニル樹脂組成物は、上記塩化ビニル樹脂組成物以外の添加剤を更に含有してもよい。なお、塩化ビニル樹脂組成物は粉体状であっても液体状であってもよいが、製造容易性の観点からは粉体状であることが好ましい。
【0046】
そして、塩化ビニル樹脂組成物が含有する塩化ビニル樹脂は、塩化ビニル樹脂成形体を有するスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体に、強度、柔軟性などを発揮させる、塩化ビニル樹脂成形体の主要成分である。
ここで、塩化ビニル樹脂としては、通常、塩化ビニル樹脂成形体を構成する基材としての塩化ビニル樹脂粒子が用いられる。また、当該塩化ビニル樹脂粒子の粉体流動性を改善するダスティング剤として、上記塩化ビニル樹脂粒子とは異なる粒子径を有する塩化ビニル樹脂微粒子を更に併用することが好ましい。
なお、本明細書において、「樹脂粒子」とは、粒子径が30μm以上の粒子を指し、「樹脂微粒子」とは、粒子径が30μm未満の粒子を指す。
【0047】
[[組成]]
そして、塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニル単量体単位からなる単独重合体;塩化ビニル単量体と、塩化ビニル単量体の共単量体とが重合した塩化ビニル共重合体;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、塩素化ポリエチレンなどの樹脂に、(1)塩化ビニル、または(2)塩化ビニル及び上記共単量体、がグラフト重合した塩化ビニルグラフト共重合体;等が挙げられる。
なお、上記塩化ビニル共重合体は、塩化ビニル単量体単位を50質量%以上含有することが好ましく、70質量%以上含有することがより好ましい。
また、これらの塩化ビニル樹脂は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
[[性状]]
塩化ビニル樹脂の平均重合度は、800以上であることが好ましく、4000以下であることが好ましく、3000以下であることがより好ましい。塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記下限以上であれば、得られるスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体の物理的強度および柔軟性が良好になるからである。また、塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂の溶融性が高まるため、例えばパウダースラッシュ成形の加熱工程を経て塩化ビニル樹脂成形体を形成する場合であっても、形成温度をより低く設定することが可能となる。その結果、金型等の被塗布物に予め塗布されたスプレー塗布用ゾルの変色などの熱老化をより抑制し、スプレー塗布層、および当該スプレー塗布層に重なるように塩化ビニル樹脂成形体をより良好に形成することができる。つまり、意匠性に優れたスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体をより容易に得ることができるからである。
【0049】
[[添加剤]]
塩化ビニル樹脂組成物が更に含有し得る添加剤としては、例えば、可塑剤、安定剤、離型剤、表面改質剤、上記塩化ビニル樹脂微粒子以外のその他のダスティング剤、着色剤、およびその他の添加剤を挙げることができる。中でも、自動車内装部品を構成する自動車内装材に、より良好な柔軟性を付与する観点からは、塩化ビニル樹脂成形体の形成には、上記塩化ビニル樹脂と可塑剤とを併用することが好ましい。
【0050】
可塑剤としては、特に限定されることなく、上述したスプレー塗布用ゾルに用いられる可塑剤(B)として列挙した各種可塑剤;エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化植物油;等の既知の可塑剤を使用することができる。
これらの可塑剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の割合で併用してもよい。そして、上述した可塑剤の中でも、良好な柔軟性を得る観点からは、トリメリット酸エステル及び/又はピロメリット酸エステルを用いることが好ましく、トリメリット酸エステルを用いることがより好ましい。
そして、可塑剤の含有量は、例えば、塩化ビニル樹脂100質量部に対して70質量部以上であることが好ましく、90質量部以上であることがより好ましく、100質量部以上であることが更に好ましく、200質量部以下であることが好ましい。可塑剤の含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物を形成してなる塩化ビニル樹脂成形体に、より良好な柔軟性を付与することができるからである。また、可塑剤の含有量が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性をより高め、塩化ビニル樹脂成形体の形成の際の形成温度をより低く抑えることができるからである。その結果、予め金型等に塗布されたスプレー塗布用ゾルの熱による変色等をより抑制することができるからである
【0051】
安定剤としては、例えば、過塩素酸処理(過塩素酸導入型)ハイドロタルサイト;ゼオライト;β−ジケトン;ステアリン酸亜鉛などの脂肪酸金属塩;等が挙げられる。
離型剤としては、例えば、12−ヒドロキシステアリン酸エステルおよび12−ヒドロキシステアリン酸オリゴマーなどの12−ヒドロキシステアリン酸系潤滑剤が挙げられる。
表面改質剤としては、例えば、樹脂と併用し得る既知のシリコーンオイルが挙げられる。
上記塩化ビニル樹脂微粒子以外のその他のダスティング剤としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、酸化アルミニウムなどの無機微粒子;ポリアクリロニトリル樹脂微粒子、ポリ(メタ)アクリレート樹脂微粒子、ポリスチレン樹脂微粒子、ポリエチレン樹脂微粒子、ポリプロピレン樹脂微粒子、ポリエステル樹脂微粒子、ポリアミド樹脂微粒子などの有機微粒子;が挙げられる。
着色剤としては、キナクリドン系着色剤、ペリレン系着色剤、ポリアゾ縮合着色剤、イソインドリノン系着色剤、銅フタロシアニン系着色剤、チタンホワイト系着色剤、カーボンブラック系着色剤等が挙げられる。1種又は2種以上の着色剤が使用される。
【0052】
そして、その他の添加剤としては、例えば、既知の耐衝撃性改良剤、過塩素酸処理ハイドロタルサイト以外の過塩素酸化合物(過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等)、酸化防止剤、防カビ剤、難燃剤、帯電防止剤、充填剤、光安定剤、発泡剤等が挙げられる。
なお、これらの添加剤の含有量は、特に制限されることなく、適宜調節することができる。
【0053】
[[調製方法]]
塩化ビニル樹脂組成物は、上述した成分を混合して調製することができる。混合方法としては、特に限定されることなく、例えば、上記成分を任意の順番でドライブレンドにより混合する方法が挙げられる。ここで、ドライブレンドを行う際には、ヘンシェルミキサーの使用が好ましい。また、ドライブレンド時の温度は、特に制限されることなく、50℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、200℃以下が好ましい。
【0054】
(スプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体の製造方法)
本発明のスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体の製造方法は、所定の工程(a)と所定の工程(b)と含む必要がある。そして、本発明の製造方法は上記工程(a)及び工程(b)を含んでいるため、本発明の製造方法に従って得られたスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体は、自動車内装部品を構成する自動車内装材としての二色成形体として、表面に存在するスプレー塗布層の色むら及び変色を抑え、良好な意匠性を発揮することができる。
【0055】
<工程(a)>
工程(a)では、上述したいずれかのスプレー塗布用ゾルを用いてスプレー塗布層を形成する。
【0056】
[スプレー塗布層の形成方法]
ここで、スプレー塗布層の形成に際しては、例えば、上述したスプレー塗布用ゾルを予め任意の被塗布物にスプレー塗布する。そして、塗布されたスプレー塗布用ゾルを、後述する塩化ビニル樹脂成形体の形成過程にて冷却することにより、塩化ビニル樹脂成形体の形成と共にスプレー塗布層を形成することができる。上記形成方法のように、スプレー塗布用ゾルを、スプレー塗布直後に乾燥させることなく、塩化ビニル樹脂成形体の形成と併せて冷却形成することにより、スプレー塗布層および塩化ビニル樹脂成形体を良好な密着性をもって形成することができる。
また、被塗布物としては、例えば、必要に応じて任意の形状及び模様を有する、ガラス、金属等を用いることができる。中でも、後述する塩化ビニル樹脂成形体をパウダースラッシュ成形法にて形成する場合は、被塗布物としては、当該パウダースラッシュ成形に用いる金型をそのまま使用することができる。なお、スプレー塗布用ゾルのスプレー塗布の各条件は適宜調節することができるが、例えば、厚さ1μm〜200μmのスプレー塗布層を形成するために、1秒/m
2〜60秒/m
2の塗布速度とすることができる。
【0057】
[膜厚]
また、スプレー塗布層の膜厚は、特に制限されないが、自動車内装材に外観装飾を十分に施す観点からは、10μm以上とすることができる。また、強度および柔軟性などの自動車内装材としての基本的性能を阻害しない観点からは、200μm以下とすることができる。
【0058】
<工程(b)>
工程(b)では、塩化ビニル樹脂組成物を用いて、上述の工程(a)で形成されたスプレー塗布層と塩化ビニル樹脂成形体とが接するように、塩化ビニル樹脂成形体を形成する。そして、工程(b)後には、通常、塩化ビニル成形体の上にスプレー塗布層が密着して位置するスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体が得られる。
【0059】
[塩化ビニル樹脂成形体の形成方法]
塩化ビニル樹脂成形体の形成方法は特に制限されない。塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、上述で得られた塩化ビニル樹脂組成物を加熱及び冷却することにより、パウダースラッシュ成形により得ることができる。
ここで、塩化ビニル樹脂成形体は、上述したスプレー塗布層とは別に単独で形成してもよいし、予め形成されたスプレー塗布層上に直接形成してもよい。中でも、後述する通り、スプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体をより容易に得る観点からは、塩化ビニル樹脂成形体は、予め形成されたスプレー塗布層上に直接形成することが好ましい。より具体的には、塩化ビニル樹脂成形体は、当該塩化ビニル樹脂成形体の形成に先立ってスプレー塗布用ゾルが塗布された被塗布物としての金型をそのまま用いて、パウダースラッシュ成形により得ることが好ましい。つまり、塩化ビニル樹脂成形体は、予めスプレー塗布用ゾルが塗布された金型上に、塗布されたスプレー塗布用ゾルと塩化ビニル樹脂組成物とが接触するように、粉体状の塩化ビニル樹脂組成物を付与し、当該金型を加熱、冷却することによって形成することが好ましい。
【0060】
以下、特に断らない限り、スプレー塗布層の形成については、一例として、パウダースラッシュ成形用の金型を用いた場合について説明する。また、塩化ビニル樹脂成形体及びスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体の形成については、一例として、上記スプレー塗布層が形成された金型をそのまま用いたパウダースラッシュ成形法による場合として説明する。
【0061】
パウダースラッシュ成形の際の金型温度は、特に制限されることなく、200℃以上とすることが好ましく、230℃以上とすることがより好ましく、300℃以下とすることが好ましい。金型の加熱温度を上記下限以上にすれば、塩化ビニル樹脂組成物を良好に溶融させ、物理的強度および柔軟性に優れた塩化ビニル樹脂成形体の形成が容易になるからである。また、金型の加熱温度を上記上限以下に抑えれば、予め塗布されたスプレー塗布用ゾルの熱による変色等をより抑制し、意匠性がより高いスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体を得ることができるからである。
【0062】
また、塩化ビニル樹脂成形体をパウダースラッシュ成形する際には、特に限定されることなく、例えば、以下の方法を用いることができる。即ち、予めスプレー塗布用ゾルが塗布され、後に上記温度範囲にまで加熱された金型の、当該塗布されたスプレー塗布用ゾルが存在する面側に対して、上述した塩化ビニル樹脂組成物を振りかけて、5秒〜30秒の間加熱放置する。そして、余剰の塩化ビニル樹脂組成物を金型から振り落とし、さらに、任意の温度下、30秒〜3分の間加熱放置する。そして、加熱放置後、金型を10℃〜60℃に冷却することにより、塩化ビニル樹脂成形体が、スプレー塗布層と良好に接着された状態で形成される。
【0063】
<スプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体の形成方法>
スプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体は、特に制限されることなく、上述した塩化ビニル樹脂成形体の形成方法に従うことにより、そのまま得ることができる。
つまり、上述の通り金型を冷却することにより形成された塩化ビニル樹脂成形体は、先に形成されたスプレー塗布層と良好に接着されているため、本発明のスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体として、そのまま金型から脱型することができる。そして、脱型されたスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、金型に施された所望の形状およびシボ模様を良好にかたどった表面層を有する、シート状の二色成形体として得ることができる。
【0064】
(積層体)
本発明の積層体は、発泡ポリウレタン成形体と、上述したスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体とを有し、前記スプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体が有する塩化ビニル樹脂成形体が、前記発泡ポリウレタン成形体の上に形成されていることを特徴とする。そして、本発明の積層体は、本発明のスプレー塗布用ゾルを用いて形成されたスプレー塗布層が表面側に存在する、スプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体を有しているため、表面が色合いおよび模様の再現性に優れ、意匠性が高い。従って、本発明の積層体は、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品を構成する自動車内装材として好適に用いられる。
【0065】
ここで、積層方法は、特に限定されることなく、例えば、以下の方法を用いることができる。即ち、(1)発泡ポリウレタン成形体と、スプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体とを別途準備した後、熱融着、熱接着、又は公知の接着剤などを用いることにより、塩化ビニル樹脂成形体部分が発泡ポリウレタン成形体上に位置するように、発泡ポリウレタン成形体とスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体とを貼り合わせる方法;(2)スプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体が有する塩化ビニル樹脂成形体側で発泡ポリウレタン成形体の原料となるイソシアネート類とポリオール類などとを反応させて重合を行うと共に、公知の方法によりポリウレタンの発泡を行うことにより、スプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体が有する塩化ビニル樹脂成形体側と接するように発泡ポリウレタン成形体を直接形成(裏打ち)する方法;などが挙げられる。中でも、工程が簡素である点、および、種々の形状の積層体を得る場合においてもスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体とを強固に接着し易い点から、後者の方法(2)の方が好適である。
【実施例】
【0066】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、アクリル系微粒子(A)の平均粒子径;アクリル系微粒子(A)および塩化ビニル樹脂の平均重合度;スプレー塗布用ゾルのゾル分散性、流動性、熱安定性;は、下記の方法で測定、観察、および評価した。
【0067】
<平均粒子径>
アクリル系微粒子(A)の平均粒子径(体積平均粒子径(μm))は、JIS Z8825に準拠して測定した。具体的には、アクリル系微粒子(A)を水槽内に分散させ、以下に示す装置を用いて、光の回折・散乱強度分布を測定・解析し、粒子径及び体積基準の粒子径分布を測定することにより、算出した。
・装置:レーザー回折式粒度分布測定機(島津製作所製、SALD−2300)
・測定方式:レーザー回折及び散乱
・測定範囲:0.017μm〜2500μm
・光源:半導体レーザー(波長680nm、出力3mW)
【0068】
<平均重合度>
アクリル系微粒子(A)および塩化ビニル樹脂の平均重合度は、JIS K6720−2に準拠し、アクリル系微粒子(A)および塩化ビニル樹脂のそれぞれを、シクロヘキサノンに溶解させて粘度を測定することにより、算出した。
【0069】
<ゾル分散性>
スプレー塗布用ゾルのゾル分散性は目視により評価した。具体的には、得られたスプレー塗布用ゾル約10ccをシャーレ内に薄く延ばした。次に、シャーレ内に延ばされたスプレー塗布用ゾルを目視で観察し、観察された凝集物の数(個)を目視で確認した。そして、以下の基準に従って、スプレー塗布用ゾルのゾル分散性を評価した。確認された凝集物の個数が少ないほど、スプレー塗布用ゾルがゾル分散性に優れている。
○:凝集物が確認されなかった
△:確認された凝集物が1個以上9個以下
×:確認された凝集物が10個以上
【0070】
<流動性>
スプレー塗布用ゾルの流動性は、粘度を測定することにより評価した。具体的には、粘度計(東機産業株式会社製、製品名「BM II」、ロータ:No.4)を使用し、回転数:6rpm、温度23℃の雰囲気下で、スプレー塗布用ゾルの粘度(mPa・s)を測定した。粘度が上述した所定範囲内である場合、スプレー塗布用ゾルの流動性が良好である。
【0071】
<熱安定性>
スプレー塗布用ゾルの熱安定性は、目視により評価した。具体的には、厚さ4mmのSUS板上に、膜厚30μmとなるようにスプレー塗布用ゾルを塗布した。次に、スプレー塗布用ゾルが塗布されたSUS板を、温度350℃の環境下で、300秒間加熱した。そして、加熱後におけるスプレー塗布用ゾルの塗布膜表面について、変色の有無を目視で観察した。加熱後におけるスプレー塗布用ゾルの塗布膜表面に変色が見られないほど、スプレー塗布用ゾルが熱安定性に優れている。
【0072】
(実施例1)
<スプレー塗布用ゾルの調製>
表1−1に示す配合成分を、ディスパー式撹拌機を用いて、温度23℃の環境下、回転数:1000rpm、30分間の条件で撹拌することにより、スプレー塗布用ゾルを得た。
そして、得られたスプレー塗布用ゾルについて、上述の方法に従って、ゾル分散性、流動性、および熱安定性を測定、観察、評価した。結果を表1−1に示す。
【0073】
<スプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体の形成>
[塩化ビニル樹脂組成物の調製]
表2に示す配合成分のうち、可塑剤(トリメリット酸エステルおよびエポキシ化大豆油)と、ダスティング剤である塩化ビニル樹脂微粒子とを除く成分をヘンシェルミキサーに入れて混合した。そして、混合物の温度が80℃に上昇した時点で上記可塑剤を全て添加し、更に昇温することにより、ドライアップ(可塑剤が、塩化ビニル樹脂である塩化ビニル樹脂粒子に吸収されて、上記混合物がさらさらになった状態をいう。)させた。その後、ドライアップさせた混合物が温度100℃以下に冷却された時点でダスティング剤である塩化ビニル樹脂微粒子を添加し、塩化ビニル樹脂組成物を調製した。
【0074】
[スプレー塗布層の形成]
パウダースラッシュ成形用シボ付き金型の上に、部分的に(塗布した箇所と塗布しなかった箇所とが金型上に混在するように)、上述で得られたスプレー塗布用ゾルを、膜厚30μmとなるように塗布した。
[塩化ビニル樹脂成形体の形成]
次に、上記の通りスプレー塗布層が形成されたシボ付き金型を、温度250℃に加熱した。そして、加熱したシボ付き金型のうちスプレー塗布層が形成されている側の面に対して、上述で得られた塩化ビニル樹脂組成物を振りかけた。振りかけてから5秒〜20秒程度の任意の時間放置して、金型上に形成されたスプレー塗布層上で塩化ビニル樹脂組成物を溶融させた。塩化ビニル樹脂組成物の溶融後、余剰の塩化ビニル樹脂組成物を振り落とした。その後、当該塩化ビニル樹脂組成物を振りかけたシボ付き金型を、温度200℃に設定したオーブン内に静置し、静置から60秒経過した時点で当該シボ付き金型を冷却水で冷却した。
[スプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体の脱型]
金型温度が40℃まで冷却された時点で、二色成形シートとして、200mm×150mm×1mm厚の塩化ビニル樹脂成形シート上に30μm厚のスプレー塗布層が部分的に形成された、スプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体を金型から脱型した。
そして、得られたスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体が有するスプレー塗布層は、外観上、均一に形成され、変色が見受けられず、意匠性に優れていることを確認した。また、得られたスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体において、塩化ビニル樹脂成形体と、当該塩化ビニル樹脂成形体上に形成されたスプレー塗布層とは良好に接着していることが外観上確認された。
【0075】
(実施例2〜3)
スプレー塗布用ゾルの調製において、表1−1に示す通りに配合成分を変更した以外は実施例1と同様にして、スプレー塗布用ゾル、塩化ビニル樹脂組成物、およびスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体を製造した。
そして、実施例1と同様の方法により測定、観察、評価を行った。結果を表1−1に示す。
【0076】
(実施例4)
スプレー塗布用ゾルの調製において、可塑剤の種類をベンゾアート系可塑剤からフタレート系可塑剤に替えた。そして、表1−1に示す通りに配合成分を変更した以外は実施例1と同様にして、スプレー塗布用ゾル、塩化ビニル樹脂組成物、およびスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体を製造した。
そして、実施例1と同様の方法により測定、観察、評価を行った。結果を表1−1に示す。
【0077】
(実施例5)
スプレー塗布用ゾルの調製において、可塑剤の種類をベンゾアート系可塑剤からラウレート系可塑剤に替えた。そして、表1−1に示す通りに配合成分を変更した以外は実施例1と同様にして、スプレー塗布用ゾル、塩化ビニル樹脂組成物、およびスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体を製造した。
そして、実施例1と同様の方法により測定、観察、評価を行った。結果を表1−1に示す。
【0078】
(実施例6〜8)
スプレー塗布用ゾルの調製において、更に溶剤を用いた。そして、表1−1に示す通りに配合成分を変更した以外は実施例1と同様にして、スプレー塗布用ゾル、塩化ビニル樹脂組成物、およびスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体を製造した。
そして、実施例1と同様の方法により測定、観察、評価を行った。結果を表1−1に示す。
【0079】
(実施例9〜13)
スプレー塗布用ゾルの調製において、アクリル系微粒子(A)を表1−1に示す通りの種類に替えた。そして、表1−1に示す通りに配合成分を変更した以外は実施例1と同様にして、スプレー塗布用ゾル、塩化ビニル樹脂組成物、およびスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体を製造した。
そして、実施例1と同様の方法により測定、観察、評価を行った。結果を表1−1に示す。
【0080】
(比較例1)
スプレー塗布用ゾルの調製において、可塑剤の種類をベンゾアート系可塑剤からトリメリット酸系可塑剤に替えた。そして、表1−2に示す通りに配合成分を変更した以外は実施例1と同様にして、スプレー塗布用ゾル、塩化ビニル樹脂組成物、およびスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体を製造した。
そして、実施例1と同様の方法により測定、観察、評価を行った。結果を表1−2に示す。
【0081】
(比較例2〜6)
スプレー塗布用ゾルの調製において、アクリル系微粒子(A)を表1−2に示す通りの種類に替えた。また、可塑剤の種類をベンゾアート系可塑剤からトリメリット酸系可塑剤に替えた。そして、表1−2に示す通りに配合成分を変更した以外は実施例1と同様にして、スプレー塗布用ゾル、塩化ビニル樹脂組成物、およびスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体を製造した。
そして、実施例1と同様の方法により測定、観察、評価を行った。結果を表1−2に示す。
【0082】
(比較例7〜10)
スプレー塗布用ゾルの調製において、更に溶剤を用いた。そして、表1−2に示す通りに配合成分を変更した。
しかしながら、表1−2に示す配合成分の混合物が固化してしまい、スプレー塗布用ゾル、およびスプレー塗布層付き塩化ビニル樹脂成形体を製造することができなかった。結果を表1−2に示す。
【0083】
【表1-1】
【0084】
【表1-2】
【0085】
1)アイカ工業社製、製品名「ZEFIAC F320」(メチルポリメタクリレート、平均重合度:30000、平均粒子径:2μm)
2)松本油脂製薬社製、製品名「マツモトマイクロスフェアー(登録商標)M−101」(未架橋型メチルポリメタクリレート、平均粒子径:5μm〜15μm)
3)松本油脂製薬社製、製品名「マツモトマイクロスフェアー(登録商標)M−201」(架橋型メチルポリメタクリレート、平均粒子径:1μm〜7μm)
4)アイカ工業社製、製品名「ZEFIAC F325」(メチルポリメタクリレート、平均重合度:4000、平均粒子径:1μm)
5)アイカ工業社製、製品名「ZEFIAC F301」(エポキシ基含有メチルポリメタクリレート、平均粒子径:2μm)
6)アイカ工業社製、製品名「ZEFIAC F351」(コアシェル構造/コア部・シェル部共にメチルポリメタクリレート、平均粒子径:0.3μm)
7)DIC社製、製品名「モノサイザー PB−10」
8)DIC社製、製品名「ポリサイザー W−23−S」
9)理研ビタミン社製、製品名「リケマール PL−012」
10)花王社製、製品名「トリメックスN−08」
11)ダイセル社製、製品名「ブチルジグリコールアセテート」、1atm下での沸点:246.8℃〜247℃
12)東洋インキ社製、製品名「AT3G423−BE」
【0086】
【表2】
【0087】
13)新第一塩ビ社製、製品名「ZEST(登録商標)2500Z」(平均重合度:2500、平均粒子径:140μm)
14)花王社製、製品名「トリメックスN−08」
15)ADEKA社製、製品名「アデカサイザー O−130S」
16)協和化学工業社製、製品名「アルカマイザー5」
17)水澤化学工業社製、製品名「MIZUKALIZER DS」
18)昭和電工社製、製品名「カレンズDK−1」
19)堺化学工業社、製品名「SAKAI SZ2000」
20)ADEKA社製、製品名「アデカスタブ LS−12」
21)新第一塩ビ社製、製品名「ZEST(登録商標)PQLTX」(平均重合度:800、平均粒子径:1.8μm)
22)大日精化社製、製品名「DA PX 1720(A)ブラック」
23)ADEKA社製、製品名「アデカスタブ 1500」
24)BASF社製、製品名「TINUVIN(登録商標)770DF」
【0088】
表1−1より、アクリル系微粒子(A)および所定の可塑剤(B)を含む実施例1〜13のスプレー塗布用ゾルは、優れたゾル分散性、流動性、及び熱安定性を並立できることが分かった。
これに対し、表1−2より、所定の可塑剤(B)とは異なる種類の可塑剤のみを用いた比較例1〜6では、スプレー塗布用ゾルのゾル分散性が総じて悪化した。特に、比較例3〜4では、スプレー塗布用ゾルが加熱により変色し熱安定性も劣っていた。また、ゾル形状を有しない比較例7〜10では、スプレー塗布用ゾルとしての評価を行うことができなかった。