【実施例1】
【0023】
本発明の第1の実施例について説明する。
図1は第1の実施例の圧電素子の電極の平面図を、
図2は
図1に示す圧電素子の電極が配置される圧電素子のA面およびB面における断面図をそれぞれ模式的に示している。
図1(a)に示すように、下層電極は複数の電極4a1〜4a4からなり、それぞれ隣接する2つの電極が接続した構造となっている。たとえば電極4a1は、2つの圧電素子を構成する2つの電極部分と、この電極部分を接続するための延長部とが一体となった構造となっている。同様に、
図1(b)に示すように、上層電極も複数の電極4b1〜4b5からなり、電極4b1〜4b4は隣接する2つの電極が延長部を介して接続した構造であり、電極4b5は独立した構造となっている。
【0024】
図2に、圧電膜を挟んで
図1に示す圧電素子の下層電極および上層電極を積層したA面およびB面の断面図を示す。
図2に示すように、支持基板となるシリコン基板1上に、シリコン酸化膜(SiO
2)からなる絶縁膜2を介して、圧電膜3a、3bが積層形成している。圧電膜3a、3bは、絶縁膜2を介してシリコン基板1に周囲が固定されており、円形の振動板を構成している。なお、中央部にはベント穴を形成している。
【0025】
本実施例の圧電素子の構造について詳細に説明すると、圧電膜3aの裏面側に下層電極となる電極4a1、電極4a2、電極4a3、電極4a4が形成されている。また圧電膜3bの上面側には、上層電極となる電極4b1、電極4b2、電極4b3、電極4b4、電極4b5が形成されており、電極4b1は配線電極5aに、電極4b5は配線電極5bにそれぞれ接続している。これらの電極は、
図1(a)(b)に示すように、円形に配置されている。電極は、モリブデン(Mo)、プラチナ(Pt)、チタン(Ti)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)等の金属薄膜で形成することができる。
【0026】
このように構成すると、
図2に断面図を示すように、電極4a1、圧電膜3a(第1の圧電膜に相当)、圧電膜3b(第2の圧電膜に相当)および電極4b1が重なり合う領域で圧電素子C1(第1の圧電素子に相当)が形成される。同様に、電極4a1、圧電膜3a、圧電膜3bおよび電極4b2が重なり合う領域で圧電素子C2(第2の圧電素子に相当)が形成される。
【0027】
ここで、第1の圧電素子C1と第2の圧電素子C2は、圧電素子を構成する電極4a1を共通に使用することで対向する電極(それぞれ電極4b1、電極4b2)と重なり合っていない電極4a1の領域(延長部に相当)によって直列接続している。このような接続とすることで、圧電膜内にスルーホール等の圧電素子の変位に影響を与える接続手段を形成する必要がなくなる。
【0028】
本実施例では、この第1および第2の圧電素子に相当する圧電素子の組が4組直列に接続した構成となり、配線電極5aと配線電極5bとの間に、これら圧電素子C1〜C8が接続した構成となる。具体的には、
図3に示す構成となる。
図3において、第1の圧電素子C1が圧電膜の外周側、即ち支持基板に固定されている固定部側の圧電膜上に配置され、第2の圧電素子C2が圧電膜の中央側、即ち第1の圧電素子が形成される領域と圧電膜の中心との間の圧電膜上に配置される。同様に、圧電素子C3、C5およびC7が圧電膜の固定部側に配置され、圧電素子C4、C6およびC8が圧電膜の中心側に配置される。つまり、振動部となる圧電膜の中点を取り囲むように圧電素子C2、C4、C6およびC8を配置し、その外側に圧電素子C1、C3、C5およびC7を配置している。
【0029】
次に本発明の圧電膜の圧電性を有する結晶配向方向について説明する。本実施例の圧電膜は、
図2に圧電性を有する結晶配向方向(圧電極性)を矢印で示すように、圧電性を有する結晶配向方向が上向きの膜と下向きの膜を積み重ねた構造としている。具体的には、窒化アルミニウム(AlN)からなる圧電薄膜3aの圧電性を示す結晶配向であるc軸方位が下向きの場合、窒化アルミニウムからなる圧電薄膜3bのc軸方位は上向きとする。あるいは逆であっても良い。
【0030】
結晶配向の制御は、周知の方法により行う。具体的には、窒素または酸素ガスを反応性ガスとして用いる反応性スパッタリング法によりウルツ鉱構造の窒化アルミニウムの薄膜を形成する場合、基板温度、スパッタリング圧力、窒素または酸素濃度、電力密度、膜厚を適宜設定することで、結晶配向性が良く、c軸方位の揃った成膜が可能となる。
【0031】
さらにスパッタリング条件を変えることにより、c軸方位を180度変化させた窒化アルミニウム薄膜を積層生成することも可能である。
【0032】
なおc軸方位は、
図2に示すように圧電膜の表面に対して垂直方向に揃った場合に限らず、垂直方向からずれていても良い。さらに、上向きのc軸方位と下向きのc軸方位は、相互に逆向きの方向であれば良く、
図2に示すように180度異なる向きでなくても良い。当然ながら180度異なる場合に感度が最も高く、好ましいことは言うまでもない。
【0033】
このように構成した本発明の圧電素子を音響トランスデューサとして構成する場合、シリコン基板1に形成された空孔6から音響圧力が加わる。音響圧力を受けた圧電膜は、上方に湾曲変位する。その結果、圧電膜を構成する窒化アルミニウムに引張応力と圧縮応力が発生することになる。
【0034】
図4は、
図2で説明した領域の圧電素子に音響圧力が印加され、圧電薄膜が上方に変位した場合の一例を示している。
図4に示すように圧電膜に引張応力と圧縮応力が発生し、変位の変曲点によって圧電膜の応力の向きは2つの領域に分けられる。具体的には、円形の圧電膜が絶縁膜2を介してシリコン基板1に固定されている固定部近傍の外周部では、圧電膜3aに引張応力が発生し、圧電膜3bには圧縮応力が発生する。一方、それより内側の中央部では、圧電膜3aに圧縮応力が発生し、圧電膜3bには引張応力が発生する。このように変位の変曲点によって応力の向きが異なる2つの領域に分けられる。
【0035】
ところで、本実施例の圧電素子は、
図2に示すように、圧電素子C1と圧電素子C2の直列に接続している。ここで、外周部で発生する電圧と中央部で発生する電圧は、それぞれ極性が逆で、同一の値とすることができ、残留応力や温度変動に起因する同相の電圧を相殺することが可能となる。
【0036】
圧電薄膜3a、3bはそれぞれ圧電性を有する結晶配向方向が上向きの膜と下向きの膜を積み重ねた構造としているため、圧電薄膜3aの引張応力により横圧電効果により発生する電界の向きと圧電薄膜3bの圧縮応力による電界の向きは同一となる。
【0037】
逆に圧電膜が下向きに変位する場合、2つの電極4a1、4b1間では、圧電膜3aでは圧縮応力が発生し、圧電膜3bでは引張応力が発生する。この場合も、圧電膜3aで発生する電界の向きと、圧電膜3bで発生する電界の向きは同一となる。その結果いずれの変位においても、電極4a1と電極4b1との間には、それぞれの圧電膜で発生した電圧が重畳され出力することになる。
【0038】
同様に、電極4a2と電極4b2との間でも、圧電膜が上向きに変位した場合、圧電膜3aでは圧縮応力が発生し、圧電薄膜3bでは引張応力が発生し、それぞれの圧電膜で発生した電圧が重量されて出力される。また圧電膜が下向きに変位した場合、圧電膜3aでは引張応力が発生し、圧電膜3bでは圧縮応力が発生し、それぞれの圧電膜で発生した電圧が重畳されて出力される。
【0039】
また本発明の圧電素子は、圧電素子C1と圧電素子C2からなる圧電素子の組が4組直列の接続した構造となっているため、音響圧力信号が印加されることに基づく4組の各圧電素子の組の出力信号(電圧)は、残留応力や温度変動に起因する信号を含まずに重畳加算され、音響圧力(P
a)に対する出力電圧(V
out)の比(V
out/P
a)で定義される音響トランスデューサとしての感度の増大を図ることが可能となる。
【0040】
なお、各電極の大きさ等は信号雑音比を最大化する観点から最適化されることが望ましい。これは配線電極5a、5bから見た等価的キャパシタの容量をC
outとした場合に、この等価的キャパシタに蓄えられるエネルギー(C
out・V
out2/2)を最大化するように各電極の大きさを決めればよい。
【実施例3】
【0044】
次に第3の実施例について説明する。一般的に窒化アルミニウム等の圧電膜をスパッタ法で堆積させる場合、堆積する下地の影響を受けることが知られている。上記第1の実施例で説明した圧電素子の場合、圧電膜3bを堆積させる際、下地表面には、モリブデンからなる電極4b1等が形成されている部分と、電極が形成されず、圧電膜3aが大きく露出している部分とがある。このような下地表面上に特性の揃った圧電膜を形成することは大変難しい。
【0045】
そこで、電極が形成されていない部分を電極と同一の材料で被覆すればよい。具体的には、下層電極となる電極4a1〜4a4と同時に、これらの電極が形成されていない領域に、これらの電極と接続しないダミー電極(
図6に示す電極4c1を含む電極)を形成する。同様に、下層電極となる電極4b1〜電極4b5と同時に、これらの電極が形成されていない領域に、これらの電極と接続しないダミー電極(
図6に示す電極4c2を含む電極)を形成する。このように形成されたダミー電極により、特性の揃った圧電膜を形成することが可能となる。このダミー電極は、圧電膜3a、3bの厚さ方向の中心を通る面に対し、上下対称となる構造とすることができ、引張と圧縮の応力がバランスして応力が零となる中央軸面を圧電膜3a、3bの境界面とし、音響圧力を効率的に出力電圧として取り出すことが可能となる。
【0046】
図6に示す例は、上記第1の実施例で説明した圧電素子にダミー電極を追加した例であるが、誘電体膜を備えた上記第2の実施例で説明した圧電素子にダミー電極を追加することも可能である。
【0047】
以上、本実施例の圧電素子について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。具体的には、圧電薄膜として窒化アルミニウムに限定されるものでなく、窒化スカンジウムアルミニウム(Al
1-xSc
xN)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)も利用することが可能である。また空孔6の大きさ、各電極の形状、接続する圧電素子の数や接続は、適宜変更可能である。