特許第6908324号(P6908324)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6908324
(24)【登録日】2021年7月5日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】圧電素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/047 20060101AFI20210708BHJP
   H01L 41/053 20060101ALI20210708BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20210708BHJP
   H04R 17/02 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
   H01L41/047
   H01L41/053
   H01L41/113
   H04R17/02
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-24730(P2017-24730)
(22)【出願日】2017年2月14日
(65)【公開番号】特開2018-133384(P2018-133384A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2019年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山崎 王義
【審査官】 加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭60−111200(JP,U)
【文献】 特開2009−170631(JP,A)
【文献】 特開2013−080887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/047
H01L 41/053
H01L 41/113
H04R 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板に周囲が固定された圧電膜と、該圧電膜を挟んで配置された一対の電極とを備えた横圧電効果を利用した圧電素子において、
前記圧電膜は、少なくとも第1の圧電膜と第2の圧電膜が直接重なる積層構造からなり、前記第1の圧電膜と前記第2の圧電膜のそれぞれの圧電性を示す結晶配向方向が、一方が上向きのとき、他方は下向きであることと、
前記積層構造の圧電膜を挟んで配置する前記一対の電極を複数組備え、少なくとも第1の圧電素子および第2の圧電素子が形成されていることと、
前記支持基板に周囲が固定された圧電膜の固定部側に前記第1の圧電素子を配置し、前記圧電膜の中心側に前記第2の圧電素子を配置していることと、
前記第1の圧電素子と前記第2の圧電素子は、前記圧電素子の電極から連続する延長部により直列接続されていることを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
請求項1記載の圧電素子において、前記圧電膜は、音響圧力によって振動する膜であることを特徴とする圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電素子に関し、特に、高感度、低雑音の横圧電効果を利用した圧電素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に需要が拡大しているスマートフォンには、小型、薄型で、組立のハンダリフロー工程の高温処理耐性を有するMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を用いたマイクロフォンが多く使われている。また、MEMSマイクロフォンに限らず、その他のMEMS素子が様々な分野で急速に普及してきている。
【0003】
この種のMEMS素子の多くは、音響圧力等による振動板の振動変位を対向する固定板との容量変化としてとらえ、電気信号に変換して出力する容量素子である。しかし容量素子は、振動板と固定板との間隙の空気の流動によって生じる音響抵抗のために、信号雑音比の改善が限界になりつつある。
【0004】
そこで、圧電膜で構成される単一の振動板の歪みにより音響圧力等を電圧変化として取り出すことができる圧電素子が注目されている。
【0005】
ところでこの種の圧電素子では、振動板を構成する圧電膜が音響圧力等により振動変位する場合、圧電膜の厚さ方向で圧電膜に加わる歪みあるいは応力が逆方向となることが知られている。図7は一般的な構造の圧電素子において、圧電膜に加わる歪みあるいは応力を模式的に示した説明図である。図7に示す圧電素子は、支持基板となるシリコン基板1上に、シリコン酸化膜(SiO2)からなる絶縁膜2を介して、圧電膜3が積層形成されている。また、図示しないスリットを形成し、両持ち梁構造としている。圧電膜3の表面と裏面には、圧電膜3を挟み込むように一対の電極4が形成され、電極4はそれぞれ配線電極5に接続する構造となっている。
【0006】
このような構造の圧電素子では、例えば図7に示すように音響圧力信号がシリコン基板1側から印加されると、領域Aと領域Cでは圧電膜3のシリコン基板側では引張応力が発生し、表面側では引張応力が発生する。一方、領域Bでは圧電膜のシリコン基板側では圧縮応力が発生し、表面側では引張応力が発生する。
【0007】
このように一対の電極に挟まれた圧電膜の中で、支持基板(シリコン基板1)に固定された領域(固定部側)と離れた領域(中心側)では、発生する電圧の極性が逆になり、さらにまた、圧電膜の表面側とシリコン基板側とで発生する電圧の極性が逆になり、出力信号が得られない。
【0008】
そこで、圧電膜に生じたエネルギーを有効に活用するため、図8に示すような圧電素子が提案されている(特許文献1)。図8に示す圧電素子は、支持基板となるシリコン基板1上に、絶縁膜2を介して多層構造の圧電膜3a、3bが固定され、圧電膜3aは上下から電極4aと電極4bにより、圧電膜3bは上下から電極4bと電極4cによりそれぞれ挟み込まれた構造となっている。圧電膜および電極はそれぞれ長方形の平面構造を有しており、一端がシリコン基板1に固定され、他端が自由端となる片持ち梁構造となっている。
【0009】
このような圧電素子では、音響圧力等を受けて圧電膜3aが歪むとその内部に分極が起こり、電極4aに接続する配線電極5aと、電極4bに接続する配線電極5bから電圧信号をとりだすことが可能となる。同様に圧電膜3bが歪むとその内部に分極が起こり、電極4cに接続する配線電極5aと、電極4bに接続する配線電極5bから圧電信号を取り出すことが可能となる。しかしながら、このような構造の圧電素子を形成する場合、電極の形成と圧電膜の形成を繰り返し行う必要があり、製造工程が長く複雑になってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第5707323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図7に示す構造の圧電素子は、圧電薄膜の変位によって圧電膜に発生するエネルギーを有効に活用できないという問題があった。また図8に示す構造の圧電素子は、電極の形成と圧電膜の形成を繰り返し行う必要があり、製造工程が長く複雑になるという問題があった。本発明はこのような問題を解消し、圧電膜に発生するエネルギーを有効に活用でき、簡便に形成することができる圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、支持基板に周囲が固定された圧電膜と、該圧電膜を挟んで配置された一対の電極とを備えた横圧電効果を利用した圧電素子において、前記圧電膜は、少なくとも第1の圧電膜と第2の圧電膜が直接重なる積層構造からなり、前記第1の圧電膜と前記第2の圧電膜のそれぞれの圧電性を示す結晶配向方向が、一方が上向きのとき、他方は下向きであることと、前記積層構造の圧電膜を挟んで配置する前記一対の電極を複数組備え、少なくとも第1の圧電素子および第2の圧電素子が形成されていることと、前記支持基板に周囲が固定された圧電膜の固定部側に前記第1の圧電素子を配置し、前記圧電膜の中心側に前記第2の圧電素子を配置していることと、前記第1の圧電素子と前記第2の圧電素子は、前記圧電素子の電極から連続する延長部により直列接続されていることを特徴とする。
【0013】
本願請求項2に係る発明は、請求項1記載の圧電素子において、前記圧電膜は、音響圧力によって振動する膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の圧電素子は、圧電性を示す結晶配向方向が異なる(一方が上向きのとき、他方が下向き)圧電膜を積み重ねた構造とすることで、圧電膜の厚さ方向で極性が逆の電圧が発生した場合でも、結晶配向方向が上向きの圧電膜に発生する電圧と、結晶配向方向が下向きの圧電膜で発生する電圧を重畳して取り出すことが可能となり、圧電性を有する結晶配向方向が一方の向きとなる単層膜構造とした場合と比較して大きな出力信号を得ることができるという利点がある。
【0016】
特に本発明では、複数の圧電素子を接続した圧電素子の組を複数接続する構成とすることで、圧電電圧が重畳され、出力信号のレベルを上げることを可能としている。
【0017】
また本発明によれば、圧電膜が振動により湾曲変形する際、その変位の変曲点により区画される領域毎に圧電素子を形成し、それぞれの圧電素子から出力される電圧信号を重畳して出力するように接続することで、各領域で発生する電圧を重畳して取り出すことが可能となり、出力信号のレベルを上げることを可能としている。
【0018】
本発明の圧電膜を、圧電特性を有しない誘電体膜を挟んで形成する構成とすると、圧電膜の厚さ方向の中央面に対して相対的に応力の大きい圧電膜の上下の表面側から出力信号を得ることができ、特性向上が期待できる。また、例えばシリコン酸化膜(SiO2)を介して積層する構造とすると圧電薄膜より誘電損が小さく好ましい。
【0019】
なお圧電素子間の接続は、圧電素子の電極を延長して形成した延長部により行うことができ、圧電膜の変位に影響を与えるスルーホール等の接続手段を必要としない点でも、効率的に電気エネルギーに変換できるという利点がある。
【0020】
本発明の圧電素子の圧電膜を音響圧力によって振動する厚さに設定し、音響トランスデューサとして使用した場合、高感度で信号雑音比の改善が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1の実施例の圧電素子の電極の平面図である。
図2】本発明の第1の実施例の圧電素子の一部断面図である。
図3】本発明の第1の実施例の説明図である。
図4】本発明の第1の実施例の説明図である。
図5】本発明の第2の実施例の圧電素子の一部断面図である。
図6】本発明の第3の実施例の圧電素子の一部断面図である。
図7】従来の圧電素子の説明図である。
図8】従来の別の圧電素子の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の圧電素子は、支持基板に周囲を固定した圧電膜を、少なくとも2層の圧電膜を含む積層構造とし、一方の圧電膜の圧電性を有する結晶配向方向を上向きの膜とし、他方の圧電薄膜の圧電性を有する結晶配向方向を下向きの膜としている。積層構造の圧電膜には、その一部を挟み込むように電極を配置した圧電素子が複数個形成され、各圧電素子を直列に接続する構成としている。特に本発明では、圧電素子を所定の位置に配置することにより、信号を効率的に取り出すことができる構成としている。以下、本発明の圧電素子を音響トランスデューサとして構成する場合を例にとり詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
本発明の第1の実施例について説明する。図1は第1の実施例の圧電素子の電極の平面図を、図2図1に示す圧電素子の電極が配置される圧電素子のA面およびB面における断面図をそれぞれ模式的に示している。図1(a)に示すように、下層電極は複数の電極4a1〜4a4からなり、それぞれ隣接する2つの電極が接続した構造となっている。たとえば電極4a1は、2つの圧電素子を構成する2つの電極部分と、この電極部分を接続するための延長部とが一体となった構造となっている。同様に、図1(b)に示すように、上層電極も複数の電極4b1〜4b5からなり、電極4b1〜4b4は隣接する2つの電極が延長部を介して接続した構造であり、電極4b5は独立した構造となっている。
【0024】
図2に、圧電膜を挟んで図1に示す圧電素子の下層電極および上層電極を積層したA面およびB面の断面図を示す。図2に示すように、支持基板となるシリコン基板1上に、シリコン酸化膜(SiO2)からなる絶縁膜2を介して、圧電膜3a、3bが積層形成している。圧電膜3a、3bは、絶縁膜2を介してシリコン基板1に周囲が固定されており、円形の振動板を構成している。なお、中央部にはベント穴を形成している。
【0025】
本実施例の圧電素子の構造について詳細に説明すると、圧電膜3aの裏面側に下層電極となる電極4a1、電極4a2、電極4a3、電極4a4が形成されている。また圧電膜3bの上面側には、上層電極となる電極4b1、電極4b2、電極4b3、電極4b4、電極4b5が形成されており、電極4b1は配線電極5aに、電極4b5は配線電極5bにそれぞれ接続している。これらの電極は、図1(a)(b)に示すように、円形に配置されている。電極は、モリブデン(Mo)、プラチナ(Pt)、チタン(Ti)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)等の金属薄膜で形成することができる。
【0026】
このように構成すると、図2に断面図を示すように、電極4a1、圧電膜3a(第1の圧電膜に相当)、圧電膜3b(第2の圧電膜に相当)および電極4b1が重なり合う領域で圧電素子C1(第1の圧電素子に相当)が形成される。同様に、電極4a1、圧電膜3a、圧電膜3bおよび電極4b2が重なり合う領域で圧電素子C2(第2の圧電素子に相当)が形成される。
【0027】
ここで、第1の圧電素子C1と第2の圧電素子C2は、圧電素子を構成する電極4a1を共通に使用することで対向する電極(それぞれ電極4b1、電極4b2)と重なり合っていない電極4a1の領域(延長部に相当)によって直列接続している。このような接続とすることで、圧電膜内にスルーホール等の圧電素子の変位に影響を与える接続手段を形成する必要がなくなる。
【0028】
本実施例では、この第1および第2の圧電素子に相当する圧電素子の組が4組直列に接続した構成となり、配線電極5aと配線電極5bとの間に、これら圧電素子C1〜C8が接続した構成となる。具体的には、図3に示す構成となる。図3において、第1の圧電素子C1が圧電膜の外周側、即ち支持基板に固定されている固定部側の圧電膜上に配置され、第2の圧電素子C2が圧電膜の中央側、即ち第1の圧電素子が形成される領域と圧電膜の中心との間の圧電膜上に配置される。同様に、圧電素子C3、C5およびC7が圧電膜の固定部側に配置され、圧電素子C4、C6およびC8が圧電膜の中心側に配置される。つまり、振動部となる圧電膜の中点を取り囲むように圧電素子C2、C4、C6およびC8を配置し、その外側に圧電素子C1、C3、C5およびC7を配置している。
【0029】
次に本発明の圧電膜の圧電性を有する結晶配向方向について説明する。本実施例の圧電膜は、図2に圧電性を有する結晶配向方向(圧電極性)を矢印で示すように、圧電性を有する結晶配向方向が上向きの膜と下向きの膜を積み重ねた構造としている。具体的には、窒化アルミニウム(AlN)からなる圧電薄膜3aの圧電性を示す結晶配向であるc軸方位が下向きの場合、窒化アルミニウムからなる圧電薄膜3bのc軸方位は上向きとする。あるいは逆であっても良い。
【0030】
結晶配向の制御は、周知の方法により行う。具体的には、窒素または酸素ガスを反応性ガスとして用いる反応性スパッタリング法によりウルツ鉱構造の窒化アルミニウムの薄膜を形成する場合、基板温度、スパッタリング圧力、窒素または酸素濃度、電力密度、膜厚を適宜設定することで、結晶配向性が良く、c軸方位の揃った成膜が可能となる。
【0031】
さらにスパッタリング条件を変えることにより、c軸方位を180度変化させた窒化アルミニウム薄膜を積層生成することも可能である。
【0032】
なおc軸方位は、図2に示すように圧電膜の表面に対して垂直方向に揃った場合に限らず、垂直方向からずれていても良い。さらに、上向きのc軸方位と下向きのc軸方位は、相互に逆向きの方向であれば良く、図2に示すように180度異なる向きでなくても良い。当然ながら180度異なる場合に感度が最も高く、好ましいことは言うまでもない。
【0033】
このように構成した本発明の圧電素子を音響トランスデューサとして構成する場合、シリコン基板1に形成された空孔6から音響圧力が加わる。音響圧力を受けた圧電膜は、上方に湾曲変位する。その結果、圧電膜を構成する窒化アルミニウムに引張応力と圧縮応力が発生することになる。
【0034】
図4は、図2で説明した領域の圧電素子に音響圧力が印加され、圧電薄膜が上方に変位した場合の一例を示している。図4に示すように圧電膜に引張応力と圧縮応力が発生し、変位の変曲点によって圧電膜の応力の向きは2つの領域に分けられる。具体的には、円形の圧電膜が絶縁膜2を介してシリコン基板1に固定されている固定部近傍の外周部では、圧電膜3aに引張応力が発生し、圧電膜3bには圧縮応力が発生する。一方、それより内側の中央部では、圧電膜3aに圧縮応力が発生し、圧電膜3bには引張応力が発生する。このように変位の変曲点によって応力の向きが異なる2つの領域に分けられる。
【0035】
ところで、本実施例の圧電素子は、図2に示すように、圧電素子C1と圧電素子C2の直列に接続している。ここで、外周部で発生する電圧と中央部で発生する電圧は、それぞれ極性が逆で、同一の値とすることができ、残留応力や温度変動に起因する同相の電圧を相殺することが可能となる。
【0036】
圧電薄膜3a、3bはそれぞれ圧電性を有する結晶配向方向が上向きの膜と下向きの膜を積み重ねた構造としているため、圧電薄膜3aの引張応力により横圧電効果により発生する電界の向きと圧電薄膜3bの圧縮応力による電界の向きは同一となる。
【0037】
逆に圧電膜が下向きに変位する場合、2つの電極4a1、4b1間では、圧電膜3aでは圧縮応力が発生し、圧電膜3bでは引張応力が発生する。この場合も、圧電膜3aで発生する電界の向きと、圧電膜3bで発生する電界の向きは同一となる。その結果いずれの変位においても、電極4a1と電極4b1との間には、それぞれの圧電膜で発生した電圧が重畳され出力することになる。
【0038】
同様に、電極4a2と電極4b2との間でも、圧電膜が上向きに変位した場合、圧電膜3aでは圧縮応力が発生し、圧電薄膜3bでは引張応力が発生し、それぞれの圧電膜で発生した電圧が重量されて出力される。また圧電膜が下向きに変位した場合、圧電膜3aでは引張応力が発生し、圧電膜3bでは圧縮応力が発生し、それぞれの圧電膜で発生した電圧が重畳されて出力される。
【0039】
また本発明の圧電素子は、圧電素子C1と圧電素子C2からなる圧電素子の組が4組直列の接続した構造となっているため、音響圧力信号が印加されることに基づく4組の各圧電素子の組の出力信号(電圧)は、残留応力や温度変動に起因する信号を含まずに重畳加算され、音響圧力(Pa)に対する出力電圧(Vout)の比(Vout/Pa)で定義される音響トランスデューサとしての感度の増大を図ることが可能となる。
【0040】
なお、各電極の大きさ等は信号雑音比を最大化する観点から最適化されることが望ましい。これは配線電極5a、5bから見た等価的キャパシタの容量をCoutとした場合に、この等価的キャパシタに蓄えられるエネルギー(Cout・Vout2/2)を最大化するように各電極の大きさを決めればよい。
【実施例2】
【0041】
次に本発明の第2の実施例について説明する。図5は本発明の第2の実施例の圧電素子の断面図である。図5に示すように本実施例の圧電素子は、上記第1の実施例同様、支持基板となるシリコン基板1上に、シリコン酸化膜(SiO2)からなる絶縁膜2を介して、圧電性を有する結晶配向方向が異なる圧電膜3aと圧電膜3bが形成されている。本実施例では、圧電膜3aと圧電膜3bを直接重ね合せる構造とする代わりに圧電特性を有しない誘電体膜7を介した積層構造としている。
【0042】
誘電体膜7は、圧電特性を有しない誘電体から選択することで、積層構造の圧電膜に対して音響圧力信号等が印加されて変位する際に、圧縮応力あるいは引張応力の大きさが薄膜の厚さ方向の中央面に対して相対的に大きい薄膜の表面部分あるいは裏面部分のみに圧電膜を配置される構造とすることができる。その結果、印加される音響信号圧力に対する出力信号電圧の比(感度)の高い圧電素子を形成することができる。
【0043】
ここで誘電体膜7としてシリコン酸化膜(SiO2)を選択すると、誘電体膜7の誘電損(損失角tanδ)を窒化アルミニウムからなる圧電膜の誘電損より小さくすることができ、感度と信号雑音比の向上が期待され好ましい。
【実施例3】
【0044】
次に第3の実施例について説明する。一般的に窒化アルミニウム等の圧電膜をスパッタ法で堆積させる場合、堆積する下地の影響を受けることが知られている。上記第1の実施例で説明した圧電素子の場合、圧電膜3bを堆積させる際、下地表面には、モリブデンからなる電極4b1等が形成されている部分と、電極が形成されず、圧電膜3aが大きく露出している部分とがある。このような下地表面上に特性の揃った圧電膜を形成することは大変難しい。
【0045】
そこで、電極が形成されていない部分を電極と同一の材料で被覆すればよい。具体的には、下層電極となる電極4a1〜4a4と同時に、これらの電極が形成されていない領域に、これらの電極と接続しないダミー電極(図6に示す電極4c1を含む電極)を形成する。同様に、下層電極となる電極4b1〜電極4b5と同時に、これらの電極が形成されていない領域に、これらの電極と接続しないダミー電極(図6に示す電極4c2を含む電極)を形成する。このように形成されたダミー電極により、特性の揃った圧電膜を形成することが可能となる。このダミー電極は、圧電膜3a、3bの厚さ方向の中心を通る面に対し、上下対称となる構造とすることができ、引張と圧縮の応力がバランスして応力が零となる中央軸面を圧電膜3a、3bの境界面とし、音響圧力を効率的に出力電圧として取り出すことが可能となる。
【0046】
図6に示す例は、上記第1の実施例で説明した圧電素子にダミー電極を追加した例であるが、誘電体膜を備えた上記第2の実施例で説明した圧電素子にダミー電極を追加することも可能である。
【0047】
以上、本実施例の圧電素子について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。具体的には、圧電薄膜として窒化アルミニウムに限定されるものでなく、窒化スカンジウムアルミニウム(Al1-xScxN)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)も利用することが可能である。また空孔6の大きさ、各電極の形状、接続する圧電素子の数や接続は、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0048】
1:シリコン基板、2:絶縁膜、3a、3b:圧電薄膜、4a、4b、4c:電極、5a、5b:配線電極、6:空孔、7:誘電体膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8