(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属粒子がZn、Au、Ag、Zr、Ta、W、Fe、Cu、Ni、Pt、及びMoの少なくとも1種を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の音響整合層用樹脂組成物。
エポキシ樹脂と金属粒子とを含む樹脂組成物からなる主剤と、該エポキシ樹脂の硬化剤とを含み、前記金属粒子の下記式(1)により算出される単分散度が40〜80%である、音響整合層用材料セット。
式(1):
単分散度(%)=[金属粒子の粒径の標準偏差/金属粒子の平均粒径]×100
ゴムと金属粒子とを含む樹脂組成物からなる主剤と、有機過酸化物を含む架橋剤とを含み、前記金属粒子の下記式(1)により算出される単分散度が40〜80%である、音響整合層用材料セット。
式(1):
単分散度(%)=[金属粒子の粒径の標準偏差/金属粒子の平均粒径]×100
【背景技術】
【0002】
音響波測定装置には、音響波を生体等の被検対象に照射し、その反射波(エコー)を受信して信号を出力する音響波プローブが用いられる。この音響波プローブにより受信した反射波は電気信号に変換され、画像として表示される。したがって、音響波プローブを用いることにより、被検対象内部を映像化して観察することができる。
【0003】
音響波としては、超音波、光音響波などが、被検対象に応じて、また測定条件に応じて適宜に選択される。
例えば、音響波測定装置の1種である超音波診断装置は、被検対象内部に向けて超音波を送信し、被検対象内部の組織で反射された超音波を受信し、画像として表示する。
また、光音響波測定装置は、光音響効果によって被検対象内部から放射される音響波を受信し、画像として表示する。光音響効果とは、可視光、近赤外光またはマイクロ波等の電磁波パルスを被検対象に照射したときに、被検対象が電磁波を吸収して発熱し、熱膨張することにより音響波(典型的には超音波)が発生する現象である。
【0004】
音響波測定装置は、被検対象との間で音響波の送受信を行うため、音響波プローブには被検対象との音響インピーダンスの整合性が要求される。この要求を満たすために、音響波プローブには音響整合層が設けられる。このことを音響波プローブの1種である超音波診断装置用探触子(超音波プローブとも称される)を例に説明する。
超音波プローブは、超音波を送受信する圧電素子と、生体に接触する音響レンズとを備え、圧電素子と音響レンズとの間には音響整合層が配されている。圧電素子から発振される超音波は音響整合層を透過し、さらに音響レンズを透過して生体に入射される。音響レンズと生体との間の音響インピーダンス(密度×音速)には通常は差がある。この差が大きいと、超音波が生体表面で反射されやすく、超音波の生体内への入射効率が低下してしまう。そのため、音響レンズには生体に近い音響インピーダンス特性が求められる。
他方、圧電素子と生体との間の音響インピーダンスの差は一般に大きい。それゆえ、圧電素子と音響レンズとの間の音響インピーダンスの差も通常は大きなものとなる。したがって、圧電素子と音響レンズとの積層構造とした場合には、圧電素子から発せられた超音波は圧電素子と音響レンズとの界面で反射し、超音波の生体への入射効率は低下する。この界面での超音波の反射を抑制するために、圧電素子と音響レンズとの間には上記の音響整合層が設けられる。音響整合層の音響インピーダンスは生体又は音響レンズの音響インピーダンスと圧電素子の音響インピーダンスとの間にあり、これにより圧電素子から生体への超音波の伝番が効率化する。また、音響整合層を複層構造として、圧電素子側から音響レンズ側に向けて音響インピーダンスに段階的な傾斜を設けることにより、超音波の伝播をより効率化することも知られている。
【0005】
音響整合層の材料として、金属粒子と結着材との混合物を用いることが知られている。金属粒子を配合して比重を調整することにより、音響インピーダンスを所望のレベルへと高めることができる。また、金属粒子の配合により機械強度を調整することもできる。他方、結着材は金属粒子間を埋めるものであり(すなわち母材ないし分散媒体として機能する。)、結着材には通常、樹脂が含まれる、結着材もまた、音響整合層の音響特性、機械強度等に影響する。
例えば特許文献1には、フラン樹脂と、タングステンカーバイド又は酸化チタンの粒子(重粒子)と、p−トルエンスルフォン酸(硬化剤)との混合物から音響整合試験片を得るに当たり、フラン樹脂と重粒子との量比を調整し、音響整合試験片の音響インピーダンスを所望のレベルへと高めたことが記載されている。
また、特許文献2には、超音波プローブの音響整合層を樹脂と酸化亜鉛粒子とを含む構成とすることが記載されている。特許文献2によれば、音響整合層を上記構成とすることにより、圧電体と一体に分割してアレイ状に配列させることができるとされる。
また、特許文献3には、エラストマー又は樹脂を含む母材と、表面が被覆された複合粉末を含む音響整合材が記載され、上記複合粉末の材料として遷移金属元素を含む無機材料を用いることが記載されている。特許文献3記載の技術によれば、所望の音響インピーダンスを再現性良く安定的に実現できるとされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
音響整合層は、特に、上述のように複層構造とする場合には、その調製工程において切削、ダイシング等により数百μm以下の厚みレベルまで二次加工する必要がある。したがって、音響整合層の構成材料には、二次加工においても亀裂等が生じにくい成型加工性が求められる。また、高品質の音響波プローブを実現するために、音響整合層はその全体において均一の音響特性を示すことが求められる。しかし、上記各特許文献記載の技術では、これらの要求を十分に満足するには至っていない。
【0008】
そこで本発明は、金属粒子と、樹脂を含む結着材とを含有する樹脂組成物であって、成形加工性に優れ、これを所望のシート状に成形又は加工することにより、層内の音響特性のばらつきが少ない音響整合層を高い歩留りで作製することができる音響整合層用樹脂組成物を提供することを課題とする。また本発明は、この組成物の調製に好適な音響整合層用材料セットを提供することを課題とする。
また本発明は、高い歩留りで作製することができ、シート内の音響特性のばらつきも少ない音響整合シートを提供することを課題とする。
また本発明は、高い歩留りで製造することができ、プローブ内における音響特性のばらつきも少ない音響波プローブ、及びこれを用いた音響波測定装置を提供することを課題とする。
また本発明は、プローブ内における音響特性のばらつきが少ない音響波プローブを、高効率に製造することを可能とする音響波プローブの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、音響整合層を形成するための組成物として、粒径に一定のばらつきがある金属粒子と、樹脂を含む結着材(母材又は分散媒体ともいう。)との混合物を採用することにより、この組成物をシート状に成形し、研削等により薄膜に加工しても、亀裂が生じにくいことを見出した。また、この組成物を用いて作製したシートは、シート内の音響特性のばらつきも小さなものであった。
本発明はこれらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明の上記課題は下記の手段により解決された。
〔1〕
樹脂を含む結着材と金属粒子とを含有し、この金属粒子の下記式(1)により算出される単分散度が40〜80%である、音響整合層用樹脂組成物。
式(1):
単分散度(%)=[金属粒子の粒径の標準偏差/金属粒子の平均粒径]×100
〔2〕
上記金属粒子の上記単分散度が50〜70%である、〔1〕記載の音響整合層用樹脂組成物。
〔3〕
上記金属粒子の上記単分散度が55〜65%である、〔1〕記載の音響整合層用樹脂組成物。
〔4〕
上記金属粒子がZn、Au、Ag、Zr、Ta、W、Fe、Cu、Ni、Pt、及びMoの少なくとも1種を含む、〔1〕〜〔3〕のいずれか記載の音響整合層用樹脂組成物。
〔5〕
音響整合層用樹脂組成物中の上記金属粒子の含有量が60〜98質量%である、〔1〕〜〔4〕のいずれか記載の音響整合層用樹脂組成物。
〔6〕
上記結着材がエポキシ樹脂と硬化剤とを含む、〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の音響整合層用樹脂組成物。
〔7〕
上記結着材がゴムと有機過酸化物とを含む、〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の音響整合層用樹脂組成物。
〔8〕
上記結着材が熱可塑性樹脂を含む、〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の音響整合層用樹脂組成物。
〔9〕
〔1〕〜〔8〕のいずれか記載の音響整合層用樹脂組成物により形成した音響整合シート。
〔10〕
〔9〕記載の音響整合シートを音響整合層として有する音響波プローブ。
〔11〕
〔10〕記載の音響波プローブを備える音響波測定装置。
〔12〕
上記音響波測定装置が超音波診断装置である、〔11〕記載の音響波測定装置。
〔13〕
圧電素子上に、〔1〕〜〔8〕のいずれか記載の音響整合層用樹脂組成物を用いて音響整合層を形成することを含む、音響波プローブの製造方法。
〔14〕
エポキシ樹脂と金属粒子とを含む樹脂組成物からなる主剤と、このエポキシ樹脂の硬化剤とを含み、上記金属粒子の下記式(1)により算出される単分散度が40〜80%である、音響整合層用材料セット。
式(1):
単分散度(%)=[金属粒子の粒径の標準偏差/金属粒子の平均粒径]×100
〔15〕
ゴムと金属粒子とを含む樹脂組成物からなる主剤と、有機過酸化物を含む架橋剤とを含み、上記金属粒子の下記式(1)により算出される単分散度が40〜80%である、音響整合層用材料セット。
式(1):
単分散度(%)=[金属粒子の粒径の標準偏差/金属粒子の平均粒径]×100
【発明の効果】
【0011】
本発明の音響整合層用樹脂組成物及び音響整合層用材料セットは、これらを用いて所望の薄膜シートを形成した際にも成形加工性に優れる。また、シート内の音響特性のばらつきが少ない音響整合シートを高い歩留りで作製することを可能とする。
また本発明の音響整合シートは、高い歩留りで製造することができ、シート内の音響特性のばらつきも少ない。
また本発明の音響波プローブ、及びこれを用いた音響波測定装置は、高い歩留りで製造することができ、プローブ内における音響特性のばらつきも少ない。
また本発明の音響波プローブの製造方法によれば、プローブ内における音響特性のばらつきが少ない音響波プローブを、高効率に製造することを可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[音響整合層用樹脂組成物]
本発明の音響整合層用樹脂組成物(以下、単に「本発明の組成物」とも称す。)は、樹脂を含む結着材と粒径に一定のばらつきがある金属粒子とを含む。
【0014】
<結着材>
本発明の組成物に含まれる結着材は、金属粒子間の隙間を埋めるものであり、金属粒子の分散媒体として機能する。
【0015】
結着材に含まれる樹脂は、ゴム、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が好ましい。
上記ゴムとしては、天然ゴム又は合成ゴムが挙げられる。合成ゴムとしては、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、アクリルゴム、多硫化ゴム、エピクロルヒドリンゴムなどが挙げられる。また、これらのゴムを1種用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
上記熱可塑性樹脂としては、融点は100〜350℃が好ましい。本発明の組成物が結着材として熱可塑性樹脂を有する場合は、熱可塑性樹脂の融点未満の温度領域では固体状であり、固化した樹脂中に金属粒子が分散した形態となる。
熱可塑性樹脂の好ましい例としては、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリビニリデン樹脂(ポリ塩化ビニル等)、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリスチレン樹脂、メタ(アクリル)樹脂(ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等)、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、及びポリエーテルイミド樹脂等を挙げることができる。
なかでも、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、メタ(アクリル)樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂の1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0017】
上記熱硬化性樹脂は特に制限されない。例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等を挙げることができる。
なかでも、架橋密度を高めて、得られるシートの機械強度をより向上させる観点から、結着材を構成する熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂を含むことが好ましい。この場合、結着材はエポキシ樹脂とともに硬化剤を含むことが好ましい。つまり、結着材が熱硬化性樹脂を含む場合、この結着材はエポキシ樹脂と硬化剤との組合せが好ましい。
熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、このエポキシ樹脂はビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂の1種又は2種以上を含むことが好ましい。
【0018】
本発明に用い得るビスフェノールA型エポキシ樹脂は特に制限されず、エポキシ系接着剤の主剤として一般的に用いられるものを広く用いることができる。好ましい具体例として、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(jER825、jER828及びjER834(いずれも商品名)、三菱化学社製)及びビスフェノールAプロポキシレートジグリシジルエーテル(シグマアルドリッチ社製)が挙げられる。
【0019】
本発明に用い得るビスフェノールF型エポキシ樹脂は特に制限されず、エポキシ系接着剤の主剤として一般的に用いられるものを広く用いることができる。好ましい具体例として、ビスフェノールFジグリシジルエーテル(商品名:EPICLON830、DIC社製)及び4,4’−メチレンビス(N,N−ジグリシジルアニリン)が挙げられる。
【0020】
本発明に用い得るフェノールノボラック型エポキシ樹脂は特に制限されず、エポキシ系接着剤の主剤として一般的に用いられるものを広く用いることができる。このようなフェノールノボラック型エポキシ樹脂は、例えば、シグマアルドリッチ社から製品番号406775として販売されている。
【0021】
硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化剤として知られているものを特に制限なく用いることができる。例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、ジシアンジアミド、ジヒドラジド化合物、酸無水物、フェノール樹脂などが挙げられる。なかでも、架橋密度を高めて、得られるシートの機械強度をより向上させる観点からは、一級アミン及び二級アミンの少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0022】
本発明の組成物が結着材としてエポキシ樹脂と硬化剤とを含む場合、おだやかな条件でも、組成物中において、経時的にエポキシ樹脂の硬化反応が進む場合がある。したがって、この組成物の性状は経時的に変化し安定でない場合がある。しかし、例えば、上記組成物を−10℃以下の温度で保存することにより、硬化反応を生じずに又は十分に抑制して各成分が安定に維持された状態の組成物とすることができる。
また、結着材にエポキシ樹脂を用いる場合には、エポキシ樹脂と金属粒子とを含む樹脂組成物を主剤とし、この主剤と硬化剤とを別々により分けた音響整合層用材料セットの形態とすることも好ましい。音響整合層の形成に当たり、主剤と硬化剤とを混合して本発明の組成物を調製し、この組成物を用いて層を形成することにより、音響整合層を形成することができる。
結着材を構成するエポキシ樹脂と硬化剤の質量比は、用いる硬化剤の種類等に応じて適宜に調整するればよい。例えば、エポキシ樹脂/硬化剤=99/1〜20/80とすることができ、90/10〜40/60が好ましい。
また、上記の音響整合層用材料セットを用いて、層形成時に主剤と硬化剤とを混合して本発明の組成物を調製する場合においては、エポキシ樹脂と硬化剤との質量比がエポキシ樹脂/硬化剤=99/1〜20/80となるように主剤と硬化剤とを混合して用いる形態とすることが好ましく、90/10〜40/60となるように主剤と硬化剤とを混合して用いる形態とすることがより好ましい。
【0023】
本発明の組成物に含まれる結着材がエポキシ樹脂以外の樹脂である場合、結着材は樹脂に加え、架橋剤として有機過酸化物を含んでもよい。
有機過酸化物は、樹脂間をラジカル反応により架橋するためのラジカル発生剤である。有機過酸化物は、少なくとも炭素原子と−O−O−結合を有する化合物であり、熱等により分解してラジカルを発生する。有機過酸化物として、例えば、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、アシルパーオキサイド、アルキルパーエステル、ジアシルパーオキサイド、モノパーオキシカーボネート、パーオキシジカーボネートが挙げられる。
有機過酸化物を用いることにより、樹脂に架橋構造を形成させ、得られるシートの機械強度を高めることができる。結着材が樹脂と有機過酸化物との組合せからなる組成物の性状は、経時的に硬化反応が進み、安定でない場合がある。しかし、例えば、上記組成物を−10℃以下の温度で保存することにより、有機過酸化物の分解を抑えることができ、各成分が安定に維持された状態の組成物とすることができる。
また、樹脂と金属粒子とを含む樹脂組成物を主剤とし、この主剤と有機過酸化物を含む架橋剤とを別々により分けた音響整合層用材料セットの形態とすることも好ましい。音響整合層の形成に当たり、主剤と架橋剤とを混合して本発明の組成物を調製し、この組成物を用いて層を形成することにより、音響整合層を形成することができる。
有機過酸化物と組合せて結着材を構成する樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ゴム等が好ましく、より好ましくは、不飽和ポリエステル樹脂又は合成ゴムである。結着材と構成する樹脂と有機過酸化物の量比は目的に応じて適宜に調整すればよく、通常は、樹脂/有機過酸化物(質量比)=100/1〜5/1程度とする。
【0024】
<金属粒子>
本発明の組成物は、後述する特定の粒度分布を示す金属粒子を含有する。この金属粒子の含有量を調整することにより、組成物の密度を調整することができ、得られる音響整合層の音響インピーダンスを所望のレベルに調整することが可能になる。金属粒子は表面処理されていてもよい。
【0025】
金属粒子の表面処理に特に制限はなく、通常の表面処理技術を適用することができる。例えば、炭化水素油、エステル油、ラノリン等による油剤処理、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等によるシリコーン処理、パーフルオロアルキル基含有エステル、パーフルオロアルキルシラン、パーフルオロポリエーテル及びパーフルオロアルキル基を有する重合体等によるフッ素化合物処理、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等によるシランカップリング剤処理、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート等によるチタンカップリング剤処理、金属石鹸処理、アシルグルタミン酸等によるアミノ酸処理、水添卵黄レシチン等によるレシチン処理、コーラーゲン処理、ポリエチレン処理、保湿性処理、無機化合物処理、メカノケミカル処理、リン酸化合物処理等の処理方法が挙げられる。
【0026】
金属粒子を構成する金属は特に制限されない。金属原子単独でもよく、金属の炭化物、窒化物、酸化物、又はホウ素化物でもよい。また合金を形成していてもよい。合金の種類としては高張力鋼(Fe−C)、クロムモリブデン鋼(Fe−Cr−Mo)、マンガンモリブデン鋼(Fe−Mn−Mo)、ステンレス鋼(Fe−Ni−Cr)、42アロイ、インバー(Fe−Ni)、バーメンデュール(Fe−Co)、ケイ素鋼(Fe−Si)、丹銅、トムバック(Cu−Zn)、洋白(Cu−Zn−Ni)、青銅(Cu−Sn)、白銅(Cu−Ni)、赤銅(Cu−Au)、コンスタンタン(Cu−Ni)、ジェラルミン(Al−Cu)、ハステロイ(Ni−Mo−Cr−Fe)、モネル(Ni−Cu)、インコネル(Ni−Cr−Fe)、ニクロム(Ni−Cr)、フェロマンガン(Mn−Fe)、超硬合金(WC/Co)などが挙げられる。
【0027】
金属粒子を構成する金属原子は汎用性と表面修飾の容易さの観点から、周期表第4〜12族の金属原子の少なくとも1種を含むことが好ましい。
上記金属原子は、より好ましくはZn、Au、Ag、Zr、W、Ta、W、Fe、Cu、Ni、Pt及びMoの少なくとも1種を含む。
【0028】
本発明に用いる金属粒子の平均粒径は、音響組成物の粘度を低減し、また音響減衰を低減する観点から0.01〜100μmが好ましく、1〜10μmがより好ましい。ここで、本発明において金属粒子の「粒径」という場合、一次粒子径を意味する。したがって、「平均粒径」は平均一次粒子径を意味する。
ここで、平均一次粒子径とは、体積平均粒子径を意味する。この体積平均粒子径は、次のように決定される。
メタノールに金属粒子を、0.5質量%となるように添加し、10分間超音波にかけることにより、金属粒子を分散させる。このように処理した金属粒子の粒度分布を、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製、商品名:LA950V2)により測定し、その体積基準メジアン径を体積平均粒子径とする。なお、メジアン径とは粒径分布を累積分布として表したときの累積50%に相当する。
【0029】
本発明の組成物に含まれる金属粒子は、下記式(1)により算出される単分散度が40〜80%である。式(1)中、[金属粒子の粒径の標準偏差]の算出の基礎とする金属粒子の粒径の単位と、[金属粒子の平均粒径]の単位は同じである。
式(1):
単分散度(%)=[金属粒子の粒径の標準偏差/金属粒子の平均粒径]×100
組成物中に含まれる金属粒子の単分散度が40〜80%の範囲内にあることにより、機械強度をより高めることができる。結果、組成物をシート状に成形し、これを切削等して薄膜化して音響整合シートを作製する場合にも、シートに亀裂等を生じにくくなり、また音響整合シート内における音響特性のばらつきも効果的に抑えられる。これらの理由は定かではないが、金属粒子の粒径が一定程度ばらけた状態となり、大粒径の金属粒子間の隙間に中〜小粒径の金属粒子が適度に入り込むなどして組成物中の金属粒子の分布が高度に均一化され、これに伴い強度ないし物性が均一化されることなどが一因と考えられる。
本発明の組成物に含まれる金属粒子は、上記の単分散度が50〜70%が好ましく、55〜65%がより好ましい。
【0030】
本発明の組成物中、金属粒子と結着材の各含有量は、目的の音響インピーダンス等に応じて適宜に調整される。例えば、音響整合層を複層とする場合、圧電素子側の音響整合層に用いる組成物中の金属粒子の含有量は相対的に多くし、音響レンズ側の音響整合層に用いる組成物中の金属粒子の含有量は相対的に少なくすることができる。こうすることにより、圧電素子側から音響レンズ側に向けて、音響インピーダンスに傾斜を持たせることができ、音響波の伝播をより効率化することができる。
本発明の組成物中、金属粒子の含有量は上記のように適宜に調節されるものであり、通常は、60〜98質量%、好ましくは65〜92質量%、さらに好ましくは65〜88質量%、さらに好ましくは68〜82質量%である。
また、組成物中の結着材の含有量は、通常は2〜40質量%であり、8〜35質量%が好ましく、12〜35質量%がさらに好ましく、18〜32質量%が特に好ましい。
【0031】
本発明の組成物は、結着材と金属粒子から構成されていてもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、これら以外の成分を含有していてもよい。結着材以外で金属粒子以外の成分としては、例えば、硬化遅延剤、溶媒、分散剤、顔料、染料、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤および/または熱伝導性向上剤等を適宜配合することができる。
本発明の組成物中、結着材と金属粒子の各含有量の合計は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
【0032】
<音響整合層用樹脂組成物の調製>
本発明の音響整合層用樹脂組成物は、例えば、音響整合層用樹脂組成物を構成する成分を混合することにより得ることができる。この混合方法は特に制限されず、撹拌機、混練機等を用いて混合することができる。例えば、ニーダー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー(連続ニーダー)、2本ロールの混練装置等を用いて混練りすることにより得ることができる。
結着材としてゴムを用いる場合には、ゴムと金属粒子とを混練機で混練りし、また必要により有機過酸化物を混合して本発明の組成物を得ることができる。有機過酸化物を混合する場合、あまり熱が生じないように(組成物が不安定化しないように)、比較的穏やかに撹拌することが好ましい。
結着材として熱可塑性樹脂を用いる場合には、樹脂の融点以上の温度で混練りする。これにより、結着材中に金属粒子が分散してなる音響整合層用樹脂組成物を得ることができる。
また、結着材に熱硬化性樹脂を用いる場合には、硬化前の状態の結着材と金属粒子とを混合することにより、また必要により硬化剤を混合することにより、結着材中に金属粒子が分散してなる音響整合層用組成物を得ることができる。この場合、あまり熱が生じないように(組成物が不安定化しないように)、比較的穏やかに撹拌することが好ましい。
【0033】
また、エポキシ樹脂と金属粒子とを含む樹脂組成物からなる主剤と、このエポキシ樹脂の硬化剤とを含む音響整合層用材料セットとする場合、又は、エポキシ樹脂以外の樹脂(合成ゴム等)と金属粒子とを含む樹脂組成物からなる主剤と、有機過酸化物を含む架橋剤とで構成された音響整合層用材料セットとする場合には、目的の樹脂と金属粒子とを混合あるいは混練することにより上記各主剤を得ることができる。
音響整合層の作製時に、主剤と硬化剤、又は主剤と有機過酸化物とを混合し、必要により混練りすることにより、本発明の組成物を得る。この組成物を成形しながら加熱等して硬化することにより、音響整合層又はその前駆体シートを形成することができる。
【0034】
[音響整合シート(音響整合層)]
本発明の組成物をシート状に成形し、必要により所望の厚さ又は形状へと切削、ダイシング等することにより、音響整合シートを得ることができる。この音響整合シートは音響波プローブの音響整合層として用いられる。音響整合層を含む音響波プローブの構成については後述する。
本発明の組成物が結着材としてゴムを有する場合、組成物を押出成形等することにより、所望のシート状に成形することができ、音響整合シート又はその前駆体シートを得ることができる。「前駆体シート」とは、切削等の二次加工等に付されるシートである。なお、結着材が有機過酸化物等の架橋剤を含む場合には、成形後、加熱して硬化することができる。
本発明の組成物が結着材として熱可塑性樹脂を有する場合、組成物を加熱して樹脂を熱溶融させ、所望のシート状に成形し、冷却して固化することにより音響整合シート又はその前駆体シートを形成することができる。
また、本発明の組成物が結着材として熱硬化性樹脂を有する場合、硬化反応を生じない、あるいは硬化速度の遅い低温域で所望のシート状に成形する。次いで、必要により加熱等することにより成形物に架橋構造を形成させて硬化し、音響整合シート又はその前駆体シートとする。つまり、結着材として熱硬化性樹脂を有する組成物を用いた場合、形成される音響整合シートは、本発明の組成物を硬化して三次元網状構造を形成させた硬化物である。
【0035】
[音響波プローブ]
本発明の音響波プローブは、本発明の組成物を用いて形成した音響整合シートを音響整合層として有する。
本発明の音響波プローブの構成について、その一例を
図1に示す。
図1に示す音響波プローブは、超音波診断装置における超音波プローブである。なお、超音波プローブとは、音響波プローブにおける音響波として、特に超音波を使用するプローブである。そのため、超音波プローブの基本的な構造は音響波プローブにそのまま適用することができる。
【0036】
<超音波プローブ>
超音波プローブ10は、超音波診断装置の主要構成部品であって、超音波を発生するとともに、超音波ビームを送受信する機能を有するものである。超音波プローブ10の構成は、
図1に示すように、先端(被検対象である生体に接する面)部分から音響レンズ1、音響整合層2、圧電素子層3、バッキング材4の順に設けられている。なお、近年、高次高調波を受信することを目的に、送信用超音波振動子(圧電素子)と、受信用超音波振動子(圧電素子)を異なる材料で構成し、積層構造としたものも提案されている。
【0037】
(圧電素子層)
圧電素子層3は、超音波を発生する部分であって、圧電素子の両側に電極が貼り付けられており、電圧を加えると圧電素子が伸縮と膨張を繰り返し振動することにより、超音波が発生する。
【0038】
圧電素子を構成する材料としては、水晶、LiNbO
3、LiTaO
3およびKNbO
3などの単結晶、ZnOおよびAlNなどの薄膜ならびにPb(Zr,Ti)O
3系などの焼結体を分極処理した、いわゆるセラミックスの無機圧電体が広く利用されている。一般的には、変換効率のよいPZT:チタン酸ジルコン酸鉛等の圧電セラミックスが使用されている。
また、高周波側の受信波を検知する圧電素子には、より広い帯域幅の感度が必要である。このため、高周波、広帯域に適した圧電素子として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの有機系高分子物質を利用した有機圧電体が使用されている。
さらに、特開2011−071842号公報等には、優れた短パルス特性および広帯域特性を示し、量産性に優れ、特性ばらつきの少ないアレイ構造が得られる、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を利用したcMUTが記載されている。
本発明においては、いずれの圧電素子材料も好ましく用いることができる。
【0039】
(バッキング材)
バッキング材4は、圧電素子層3の背面に設けられており、余分な振動を抑制することにより超音波のパルス幅を短くし、超音波診断画像における距離分解能の向上に寄与する。
【0040】
(音響整合層)
音響整合層2は、圧電素子層3と被検対象間での音響インピーダンスの差を小さくし、超音波を効率よく送受信するために設けられる。
【0041】
(音響レンズ)
音響レンズ1は、屈折を利用して超音波をスライス方向に集束し、分解能を向上させるために設けられる。また、被検対象である生体と密着し、超音波を生体の音響インピーダンス(人体では、1.4〜1.7×10
6kg/m
2/sec)と整合させること、および、音響レンズ1自体の超音波減衰量が小さいことが求められている。
すなわち、音響レンズ1の材料としては、音速が人体の音速よりも十分小さく、超音波の減衰が少なく、また、音響インピーダンスが人体の皮膚の値に近い材料を使用することで、超音波の送受信感度が高められる。
【0042】
このような構成の超音波プローブ10の動作を説明する。圧電素子の両側に設けられた電極に電圧を印加して圧電素子層3を共振させ、超音波信号を音響レンズから被検対象に送信する。受信時には、被検対象からの反射信号(エコー信号)によって圧電素子層3を振動させ、この振動を電気的に変換して信号とし、画像を得る。
【0043】
[音響波プローブの製造]
本発明の音響波プローブは、本発明の音響整合層用樹脂組成物を用いること以外は、常法により作製することができる。すなわち、本発明の音響波プローブの製造方法は、圧電素子上に、本発明の音響整合層用樹脂組成物を用いて音響整合層を形成することを含む。
また、音響整合層上には、通常、音響レンズの形成材料を用いて音響レンズが形成される。
【0044】
[音響波測定装置]
本発明の音響波測定装置は、本発明の音響波プローブを有する。音響波測定装置は、音響波プローブで受信した信号の信号強度を表示したり、この信号を画像化したりする機能を備える。
本発明の音響波測定装置は、超音波プローブを用いた超音波測定装置であることも好ましい。
【実施例】
【0045】
以下に本発明を、音響波として超音波を用いた実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお、本発明は超音波に限定されるものではなく、被検対象および測定条件等に応じて適切な周波数を選択してさえいれば、可聴周波数の音響波を用いてもよい。
【0046】
[金属粒子の単分散度の調整]
各金属粒子ごとに電磁式ふるい振とう機(商品名:PRO、フリッチュ社製)を用いて分級した。分級した粒子を目的の単分散度に応じて組合せて混合し、単分散度の異なる各金属粒子を調製した。金属粒子の粒径の標準偏差と平均粒径は、レーザー回折散乱測定装置(商品名:LA−960、堀場製作所製)を用いて決定した。
本実施例に用いた金属粒子(分級前)を以下に示す。
【0047】
鉄粒子(Fe、商品名:EW−I、BASF社製、平均粒径:2μm)
亜鉛粒子(Zn、自社粉砕、平均粒径:4μm)
金粒子(Au、自社粉砕、平均粒径:2μm)
銀粒子(Ag、自社粉砕、平均粒径:2μm)
ジルコニウム粒子(Zr、自社粉砕、平均粒径:3μm)
タンタル粒子(Ta、自社粉砕、平均粒径:3μm)
銅粒子(Cu、自社粉砕、平均粒径:4μm)
ニッケル粒子(Ni、自社粉砕、平均粒径:3μm)
白金粒子(Pt、自社粉砕、平均粒径:2μm)
チタン粒子(Ti、自社粉砕、平均粒径:3μm)
アルミニウム粒子(Al、自社粉砕、平均粒径:3μm)
【0048】
[調製例1] 音響整合層用樹脂組成物の調製(結着材:ゴムと有機過酸化物との組合せ)
下表に示す配合量で、金属粒子と、ゴム((A−1)〜(A−9))とを混合し、二軸混練機(商品名:ラボプラストミル Cモデル、東洋精機製作所社製)を用いて40℃、スクリュー回転数15rpmの条件で20分間混練りした。その後、架橋剤として有機過酸化物(商品名:パークミルD−40、日油株式会社)を加え、さらに40℃、15rpmの条件で20分間混練りした。
こうして結着材がゴムと有機過酸化物の組合せで構成された音響整合層用樹脂組成物を調製した。
【0049】
[調製例2] 音響整合層用樹脂組成物の調製(結着材:熱可塑性樹脂)
下表に示す配合量で、金属粒子と、熱可塑性樹脂((A−13)〜(A−24))とを混合し、二軸混練機(商品名:ラボプラストミル Cモデル、東洋精機製作所社製)を用いて混練りした。混練り条件は、温度を「熱可塑性樹脂の融点+20℃」、スクリュー回転数を15rpmとして、混練り時間を20分間とした。
こうして、熱可塑性樹脂を結着材として有する音響整合層用樹脂組成物を調製した。
【0050】
[調製例3] 音響整合層用樹脂組成物の調製(結着材:エポキシ樹脂と硬化剤との組合せ)
下表に示す配合量で、金属粒子とエポキシ樹脂((A−10)〜(A−12))とを混合し、さらに硬化剤としてm−フェニレンジアミンを混合した。具体的には、金属粒子とエポキシ樹脂とを撹拌機(商品名:泡とり練太郎 ARV−310、シンキー社製)を用いて、室温下、1.0Paに減圧した状態で、1800rpmで撹拌しながら4分間脱泡した。そこにm−フェニレンジアミンを加え、同条件で撹拌して脱泡した。
こうして、結着材がエポキシ樹脂と硬化剤の組合せで構成された音響整合層用樹脂組成物を調製した。
【0051】
[試験例1] 密度(比重)
調製例1〜3で得た各組成物を用いて、縦60mm×横60mm×厚さ2mmのシートを作製した。
結着材がゴムと有機過酸化物との組合せからなる場合には、型に組成物(混練物)を入れ加熱プレス加工(60℃〜150℃)することにより上記シート(硬化物)を調製した。
結着材が熱可塑性樹脂である場合には、熱可塑性樹脂の融点+10℃の温度で圧縮成型し、次いでトリミングして上記シートを作製した。
結着材がエポキシ樹脂と硬化剤との組合せからなる場合には、組成物を型に流し込んでシート形状とし、80℃の温度下に18時間静置し、次いで150℃の温度下に1時間静置し、上記シート(硬化物)を作製した。
得られたシートについて、25℃におけるシートの密度をJIS K7112(1999)に記載のA法(水中置換法)の密度測定方法に準拠して、電子比重計(アルファミラージュ社製、商品名「SD−200L」)を用いて測定した。
結果を下表に示す。
【0052】
[試験例2] 成形加工性
上記試験例1と同様にして、縦50mm×横50mm×厚さ0.4mmのシートを作製した。得られたシートを、湿式研磨により厚さ200μmまで研磨した。
同一の組成物からシートを10枚作製して同様に研磨をし、研磨後の薄膜シートを光学顕微鏡を用いて観察した。10枚のシートのうち亀裂を生じたシートの数を測定し、下記評価基準に当てはめ、組成物の成形加工性を評価した。
<成形加工性評価基準>
A:10枚のシートのすべてにおいて亀裂が生じなかった。
B:10枚のシートのうち1枚に亀裂を生じた。
C:10枚のシートのうち2枚に亀裂を生じた。
D:10枚のシートのうち3枚以上に亀裂を生じた。
結果を下表に示す。
【0053】
[試験例3] 音響インピーダンス(AI)のばらつき
上記試験例1と同様にして、縦5cm×横5cm×厚さ2mmのシートを作製した。このシートの4角の近傍と中央部の計5か所について、密度(単位:g/cm
3)と音速(単位:m/sec)の積(密度×音速)から音響インピーダンスを算出した。5か所の音響インピーダンスの標準偏差を求め、下記評価基準に当てはめ音響特性のばらつきを評価した。
<音速>
超音波音速は、JIS Z2353(2003)に従い、シングアラウンド式音速測定装置(超音波工業株式会社製、商品名「UVM−2型」)を用いて25℃において測定した(単位:m/sec)。5か所の測定部各々において、直径1.5cmの円形の内部全体(単チャンネルの小プローブサイズ)を測定対象とした。
<密度>
25℃における5か所の測定部の密度を、JIS K7112(1999)に記載のA法(水中置換法)の密度測定方法に準じて、電子比重計(アルファミラージュ社製、商品名「SD−200L」)を用いて測定した。ここで、測定部の密度は、上記の音速測定部(直径1.5cmの円形)内において、10mm×10mm角の正方形にシート片を切り出し、切り出したシート片(10mm×10mm角)の密度(単位:g/cm
3)とした。
<音響特性のばらつき評価基準>
A:標準偏差が0.5未満
B:標準偏差が0.5以上、0.7未満
C:標準偏差が0.7以上、0.9未満
D:標準偏差が0.9以上
結果を下表に示す。
【0054】
【表1-1】
*1:樹脂100質量部に対する質量部
*2:組成物中の結着材の含有量
【0055】
【表1-2】
*1:樹脂100質量部に対する質量部
*2:組成物中の結着材の含有量
【0056】
【表1-3】
*1:樹脂100質量部に対する質量部
*2:組成物中の結着材の含有量
【0057】
上記各表に記載の樹脂の種類を次に示す。
[樹脂]
(A−1)ブタジエンゴム(商品名:BR−150、宇部興産社製)
(A−2)イソプレンゴム(商品名:IR−2200、JSR社製)
(A−3)天然ゴム(タイガースポリマー社製)
(A−4)スチレンブタジエンゴム(商品名:Nipol NS116R、日本ゼオン社製)
(A−5)エチレンプロピレンジエンゴム(商品名:JSR EP43、JSR社製)
(A−6)アクリロニトリルブタジエンゴム(商品名:Nipol DN4050、日本ゼオン社製)
(A−7)シリコンゴム(商品名:KE−541−U、信越化学工業社製)
(A−8)ブチルゴム(商品名:BUTYL 268、JSR社製)
(A−9)フッ素ゴム(商品名:バイトンA700、デュポン社製)
(A−10)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:jER828、 三菱ケミカル社製、エポキシ当量190)
(A−11)ビスフェノールF型エポキシ樹脂(商品名:EPICLON830、DIC社製、エポキシ当量170)
(A−12)フェノールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:製品番号:406775、シグマアルドリッチ社製、エポキシ当量170)
(A−13)ポリイミド樹脂(商品名:PL450C、三井化学社製)
(A−14)ポリアミド樹脂(商品名:5013B、宇部興産社製)
(A−15)ポリウレタン樹脂(商品名:C80A、BASF社製)
(A−16)ポリ塩化ビニル樹脂(商品名:CB70KA、三菱ケミカル社製)
(A−17)ポリエチレン樹脂(商品名:HI−ZEX MILLION 030S、三井化学社製)
(A−18)ポリアセタール樹脂(商品名:ユピタール F20−03、三菱エンジニアリング社製)
(A−19)ポリカーボネート樹脂(商品名:ユーピロン H−4000、三菱エンジニアリング社製)
(A−20)ポリエーテルエーテルケトン樹脂(商品名:PEEK Polymer450G、VICTREX社製)
(A−21)ポリアミドイミド樹脂(商品名:Torlon 4203L、ソルベイ社製)
(A−22)ポリフェニレンサルファイド樹脂(商品名:FZ−2130、DIC社製)
(A−23)フッ素樹脂(商品名:807−NX、三井・デュポンフロロケミカル社製)
(A−24)アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(商品名:デンカABS SE−10、Denka社製)
【0058】
上記表において、比較例に用いた金属粒子は次の通りである。
(M−1)タングステンカーバイド(商品名:NCWC10、平均粒径:1.2μm、ニッコーシ社製)
(M−2)酸化チタン(商品名:KA−10、平均粒径:0.5μm、チタン工業社製)
【0059】
上記表1−1〜1−3に示されるように、使用する金属の単分散度が本発明の規定(40〜80%)の範囲外であると、樹脂の種類を変えても、また金属粒子の種類を変えても、成形加工性と音響特性の均一性の両立を所望の高いレベルで実現することはできなかった(比較例1〜36)。
これに対し、使用する金属の単分散度が40〜80%の範囲内にある場合には、樹脂の種類によらずに、また金属粒子の種類によらずに、優れた成形加工性を示し、またシート内における音響特性もより均一化できることがわかった(実施例1〜61)。
【0060】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0061】
本願は、2017年11月1日に日本国で特許出願された特願2017−212211に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。