特許第6909935号(P6909935)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6909935水酸化第4級アンモニウムの製造方法及び製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6909935
(24)【登録日】2021年7月7日
(45)【発行日】2021年7月28日
(54)【発明の名称】水酸化第4級アンモニウムの製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 3/09 20210101AFI20210715BHJP
   C25B 3/25 20210101ALI20210715BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20210715BHJP
   C25B 13/08 20060101ALI20210715BHJP
【FI】
   C25B3/09
   C25B3/25
   C25B9/00 G
   C25B13/08 301
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2020-566854(P2020-566854)
(86)(22)【出願日】2020年6月22日
(86)【国際出願番号】JP2020024423
(87)【国際公開番号】WO2021002235
(87)【国際公開日】20210107
【審査請求日】2020年11月27日
(31)【優先権主張番号】特願2019-125511(P2019-125511)
(32)【優先日】2019年7月4日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(73)【特許権者】
【識別番号】503361709
【氏名又は名称】株式会社アストム
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕史
(72)【発明者】
【氏名】福田 憲二
【審査官】 大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−13477(JP,A)
【文献】 特開昭64−87792(JP,A)
【文献】 特開平5−279885(JP,A)
【文献】 米国特許第4578161(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 3/09
C25B 3/25
C25B 9/00
C25B 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極間に陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜を配して構成された電解槽において、陰イオン交換膜と陽イオン交換膜によって仕切られた室にハロゲン化第4級アンモニウムの水溶液を供給して電解を行うことにより、水酸化第4級アンモニウムを製造する方法において、
前記陰イオン交換膜として、その一方側の膜表面に、高架橋樹脂層からなるプロトン透過抑制層が形成された膜を、当該プロトン透過抑制層が形成された面が陰極側を向くように配置する態様で使用して電解を行う、ことを特徴とする水酸化第4級アンモニウムの製造方法。
【請求項2】
高架橋樹脂層からなるプロトン透過抑制層が、0.005〜0.5meq/g−乾燥膜の陰イオン交換容量を有し、且つ、該陰イオン交換容量は、陰イオン交換膜全体の陰イオン交換容量に対して0.002〜0.3倍の割合である、請求項1に記載の水酸化第4級アンモニウムの製造方法。
【請求項3】
高架橋樹脂層からなるプロトン透過抑制層が、陰極側を向く、他方側の膜表面にも設けられてなる、請求項1又は2に記載の水酸化第4級アンモニウムの製造方法。
【請求項4】
陰イオン交換膜が、ハロゲノアルキル基を有する芳香族重合性単量体と架橋性重合性単量体とを含む重合性組成物を重合させて得た陰イオン交換基導入用原膜の、その一方側の膜表面に、ジアルキルアミン化合物またはポリアミン化合物を接触させて、当該膜表面に、内部よりも高架橋の高架橋樹脂層を形成させ、その後に、膜中の残余のハロゲノアルキル基に、トリアルキルアミンを接触させて、これを第4級アンモニウム基に変換して製造したものである、請求項1〜のいずれか一項に記載の水酸化第4級アンモニウムの製造方法。
【請求項5】
電極間に陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜を配し、前記陰イオン交換膜と陽イオン交換膜によって仕切られた室にハロゲン化第4級アンモニウムの水溶液を供給して電解を行うことにより、水酸化第4級アンモニウムを製造する装置において、
前記陰イオン交換膜は、陰極側表面に、高架橋樹脂層からなるプロトン透過抑制層を備えている、ことを特徴とする水酸化第4アンモニウム製造装置。
【請求項6】
陰イオン交換膜は、陽極側表面にも、高架橋樹脂層からなるプロトン透過抑制層を備えている、請求項記載の水酸化第4アンモニウム製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化第4級アンモニウムを、イオン交換膜を用いて電解により製造する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水酸化テトラメチルアンモニウムに代表される水酸化第4級アンモニウムは、相間移動触媒、非水溶媒滴定における塩基の標準液、有機系のアルカリ剤などとして、各種の化学反応の実行や分析などに使用される化合物である。また、最近では、ICやLSIを製造するに際して、半導体基板の製造、レジストの現像などのための処理剤としても広く使用されている。
【0003】
水酸化第4級アンモニウムは、不純物の少ない高純度のものが求められており、特に半導体製造プロセスで使用される場合において、この要求は大きい。近年では、半導体装置が著しく高集積化しており、純度の低い水酸化第4級アンモニウムを含む現像液等を用いて半導体基板を製造すると、高集積回路にリークを生じるなど、不良品率が高まることが分かっている。
【0004】
高純度の水酸化第4級アンモニウムの製造方法としては、ハロゲン化第4級アンモニウム(具体的には、塩化テトラメチルアンモニウム)を原料として使用し、電解を行う方法が知られている(特許文献1参照)。この方法では、電極間に陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜を配置し、陰イオン交換膜と陽イオン交換膜によって仕切られた室(原料室)にハロゲン化第4級アンモニウムの水溶液を供給して電解が行われる。この製造方法では、第4級アンモニウムイオンが、陰極側に配置された陽イオン交換膜を通り、水が供給されている塩基室(陰極室)に移行し、この塩基室で水酸化第4級アンモニウムが高濃度に生成する。
【0005】
こうした電解による水酸化第4級アンモニウムの製造方法では、前記原料室のハロゲンイオン(具体的には、塩化物イオン)は、陽極側を仕切る陰イオン交換膜を通り、陽極室に移行し、下記式:
2X → X+2e
で示される電極反応によりハロゲンガス(例えば、塩素ガス)を生成する。
【0006】
この際、上記陰イオン交換膜は、一般的には、高空隙基材に、陰イオン交換架橋樹脂の前駆体となる重合性組成物を塗布せしめて重合し、必要により陰イオン交換基を導入した複合膜が使用される。場合によっては、陽極室で発生する次亜ハロゲン酸(例えば、次亜塩素酸)への劣化耐性を付与するために、その膜表面に、耐酸化性の高い層を設けた陰イオン交換膜を使用することも提案されている(例えば、特許文献2,3参照)。斯様に膜表面に耐酸化性層を設けた陰イオン交換膜を用いる場合、その配置は、陽極液に含まれる次亜ハロゲン酸と接触しての劣化耐性を付与する目的から必然的に、該耐酸化性層が陽極側に向くようにしてある(特許文献2第3頁左上欄第7〜12行目、特許文献3の請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−87793号公報
【特許文献2】特開平1−87796号公報
【特許文献3】特開2009−13477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
言うまでも無く、陰イオン交換膜は、陰イオンを透過させ易く、陽イオンは透過させ難い性状を呈しているが、それでもプロトンは、他の金属陽イオンに比べればかなりに透過し易い。従って、前記電解による水酸化第4級アンモニウムの製造では、一定量のプロトンが、当該陰イオン交換膜を通り、陽極室から原料室側に移行することが避けられない。これにより電流効率の低下が生じていた。
【0009】
本発明者等の検討によれば、これは前記陰イオン交換膜として、その膜表面に耐酸化性層が形成されている膜を用いた場合も根本的には変わるところはない。即ち、膜表面への耐酸化性層の中にはプロトンの通過を抑制する作用を有するものもあり得るが、この場合でも、前記したようにこれら陰イオン交換膜は、該耐酸化性層が陽極側を向くように配置されるため、電解の初期には係るプロトンの透過抑制効果が発揮されるものの、運転を長期間継続させると、たとえ膜表面が耐酸化性層であっても次第に酸化劣化の影響を受けてしまい、徐々に前記プロトンの透過抑制効果は失われるからである。
【0010】
以上の背景にあって、本発明は、電解による水酸化第4級アンモニウムの製造方法において、陽極室から原料室側へのプロトンの透過を高度に抑制し、当該透過抑制作用は上記製造が長期間に維持されても良好に維持されて、前記目的物を優れた電流効率で安定的に製造できる方法を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題に鑑み、本発明は鋭意研究を続けてきた。その結果、陰イオン交換膜として、一方側の膜表面に、プロトン透過抑制層が形成された膜を使用し、これを当該プロトン透過抑制層が形成された面が陰極側を向くように配置することにより、上記の課題が良好に解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、電極間に陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜を配して構成された電解槽において、陰イオン交換膜と陽イオン交換膜によって仕切られた室にハロゲン化第4級アンモニウムの水溶液を供給して電解を行うことにより、水酸化第4級アンモニウムを製造する方法において、
前記陰イオン交換膜として、その一方側の膜表面に、プロトン透過抑制層が形成された膜を、当該プロトン透過抑制層が形成された面が陰極側を向くように配置する態様で使用して電解を行う、ことを特徴とする水酸化第4級アンモニウムの製造方法である。
【0013】
また、本発明は、電極間に陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜を配し、前記陰イオン交換膜と陽イオン交換膜によって仕切られた室にハロゲン化第4級アンモニウムの水溶液を供給して電解を行うことにより、水酸化第4級アンモニウムを製造する装置において、
前記陰イオン交換膜は、陰極側表面にプロトン透過抑制層を備えている、ことを特徴とする水酸化第4アンモニウム製造装置である。
【0014】
上記のように、従来、陽極室で発生する次亜ハロゲン酸等から陰イオン交換膜を保護するために、陰イオン交換膜の陽極側表面に、耐酸化性層を設けることが行われていた。すなわち、従来は、耐酸化性層を陰極側に設けても、陽極室で発生する次亜ハロゲン酸等から陰イオン膜を保護できないことから、陰イオン交換膜の陽極側表面に耐酸化性層を設けており、耐酸化性層を陰極側に設けることは考えられなかった。一方、本発明は、陽極室から原料室へのプロトンの透過を抑制するという全く新しい発想の下、従来の思想では考えられない陰イオン交換膜の陰極側にプロトン透過抑制層を設けるものであり、これにより、優れた電流効率で長期にわたって安定的に水酸化第4アンモニウム製造できるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電解による水酸化第4級アンモニウムの製造方法において、陽極室から原料室へのプロトンの透過を高度に抑制し、優れた電流効率で運転を行うことができる。しかも、このプロトンの透過抑制効果は、運転が長期間継続されても良好に維持される。従って、水酸化第4級アンモニウムの安定的な製造方法として、本発明に対する産業上の利用価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明による水酸化第4級アンモニウムの製造方法の原理を示す、電解の概略説明図である。
図2図2は、本発明による水酸化第4級アンモニウムの製造方法の原理を示す、別の態様の電解の概略説明図である。
図3図3は、本発明による水酸化第4級アンモニウムの製造方法の原理を示す、さらに別の態様の電解の概略説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1の概略説明図に示される電解装置では、陽極1と陰極2との間に、陽極側に陰イオン交換膜A、陰極側に陽イオン交換膜C1が配置されている。これにより、陰イオン交換膜Aと陽イオン交換膜C1との間には原料室5が形成され、陰イオン交換膜Aと陽極1との間には陽極室4が形成されている。また、陽イオン交換膜C1と陰極2との間には、陰極室6が隣接している。
【0018】
本発明の製造方法では、上記のように構成された電解装置を使用し、原料室5には原料となるハロゲン化第4級アンモニウムの水溶液を供給し、陽極室4には酸の水溶液を供給し、さらに、陰極室6には水酸化4級アンモニウム水溶液を供給する。そして、この状態で陽極1及び陰極2の間に所定の電圧を印加し、所定の電流密度で電解を行う。
【0019】
また、本発明の別の態様を示す図2のように、電解装置において、陰イオン交換膜Aの耐久性を向上させる目的で、陽極1と陰イオン交換膜Aとの間に陽イオン交換膜C2を配置しても良い。この場合、陽イオン交換膜C2と陰イオン交換膜Aの間の酸室7では酸が生成し、その濃度を一定に保つために純水が供給される。
【0020】
上記電解装置に用いる電極のうち陽極としては、酸化雰囲気で安定なものが制限なく使用できる。例えば、炭素、白金コーティングチタン板、Ru、Ir等をチタン板上にコーティングした不溶性の陽極を挙げることができる。他方、陰極としては、強塩基性雰囲気で安定であり、かつ通電圧の低いものが制限なく使用できる。例えば、SUS316、白金板、白金コーティングニッケル板等の、不溶性の食塩電解で用いられている活性陰極を挙げることができる。これらの電極の形状は、板状、網状、スダレ状、その他公知の形が制限なく適用できる。
【0021】
なお、上記電解装置に用いる陽イオン交換膜としては、それ自体公知のものでよく、例えば、前記高空隙基材の空隙に、陽イオン交換樹脂が充填された構造を有するものである。上記の陽イオン交換樹脂は、炭化水素系又はフッ素系の樹脂が導入されたものが好ましく、特に、耐酸、耐アルカリ性等の観点からパーフロオロカーボン系樹脂等のフッ素系樹脂を用いるものが好適である。
【0022】
本発明において、原料である第4級アンモニウム塩は、例えば、下記一般式(1):
[R]・X (1)
(式中、Rは、アルキル基、ヒドロキシアルキル基またはアリール基を示し、4個のRは、同一の基であっても互いに異なる基であってもよく、Xは、ハロゲンである)、
で表されるものが使用できる。Rで示される基のうち、アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数が4以下のものが好ましい。ヒドロキシアルキル基は、上記アルキル基のヒドロキシル基による置換体が好ましい。アリール基は、フェニル基、ベンジル基、トリル基等の炭素数6〜7のものが好ましい。ハロゲンとしては、塩素、臭素及びフッ素等の何れであってもよいが、一般的には塩素、または臭素である。
【0023】
かかる第4級アンモニウム塩の代表的な例としては、ハロゲン化テトラメチルアンモニウム、ハロゲン化テトラエチルアンモニウム、ハロゲン化テトラプロピルアンモニウム、ハロゲン化テトラブチルアンモニウム等を挙げることができる。
【0024】
本発明の製造方法によれば、上記一般式(1)の第4級アンモニウム塩を原料として、下記一般式(2):
[R]・OH (2)
(式中、Rは、上記一般式(1)で示すものと同義である)、
で表される水酸化第4級アンモニウムを製造される。例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が製造される。
【0025】
以下、図1及び図2に示される、原料として塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)を用い、これを電解に供して水酸化第4級アンモニウムが製造する例により、本発明の原理を説明する。
【0026】
上記TMACの水溶液を原料室5に供給し、併せて、酸の水溶液を陽極室4および酸室7に供給し、さらに陰極室6に水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)の水溶液を供給し、この状態で、陽極1及び陰極2の間に所定の電圧を印加する。電流密度は1〜50A/dmが好ましく、電解装置内の温度は90℃を超えないように維持することが好ましい。原料室5に供給する第四級アンモニウム塩の濃度は、一般に0.2〜5.0規定、更に好ましくは1.0〜4.0規定であることが望ましい。この濃度が余りに低い場合、および高すぎる場合には、液の電導度が低く、溶液の抵抗が大きくなるため、電解の効率性が低下する。
【0027】
上記のようにして電解を行うと、テトラメチルアンモニウムイオン(TMA)が陽イオン交換膜C1を通り、原料室5から陰極室6に移行し、下記式:
TMA+HO+e → TMAH+1/2H
で表される電極反応が陰極2で発生し、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)が得られる。陰極室には水酸化第4級アンモニウムの水溶液を供給するが、該水酸化第4級アンモニウムの濃度を高くすると電流効率の低下を招くため、一般に0.1〜4.5規定に調節するのが好ましい。
【0028】
図1において、原料室5中の塩化物イオン(Cl)は陰イオン交換膜Aを通り陽極室4に移行する。この陽極室4で、Clは、下記式:
2Cl → Cl+2e
で示される電極反応により塩素ガス(Cl)となる。陽極室4で使用される酸としては、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸、またはギ酸、酢酸などの有機酸が使用される。酸の濃度は、0.05〜3.0規定の範囲、特に、陰イオン交換膜Aの電流効率を高く保つために0.1〜1.0規定の酸が好適に使用される。なお、ここに記載する陰イオン交換膜Aの電流効率とは、陰イオン交換膜Aを透過するイオンの内、ハロゲン化物イオンが透過する割合のことを示す。このように陽極室4は酸液であるので、前記したように一部は下記式:
Cl+HO → HCl+HClO
で示されるように酸化力が強い次亜塩素酸を生成する。
【0029】
図2のように、陽極1と陰イオン交換膜Aとの間に陽イオン交換膜C2を配置した場合、原料室5のClは陰イオン交換膜Aを通り酸室7に移行する。また、陽極室4には、希薄な酸水溶液(例えば硫酸水溶液)が供給されており、プロトンが陽イオン交換膜C2を通り酸室7に移行する。この結果、酸室7では酸(HCl)が生成することとなる。酸室7で使用される酸としては、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸、またはギ酸、酢酸などの有機酸が使用され、濃度は0.05〜3.0規定の範囲、特に、陰イオン交換膜Aの電流効率を高く保つために0.1〜1.0規定の酸が好適に使用される。
【0030】
図1では陰イオン交換膜Aを透過したClが全て陽極1へ供給されるのに対し、図2では酸室7に移行したClの一部が電界の作用により、陽イオン交換膜C2を透過して陽極室4へ侵入する。このため、生成する塩素ガス量としては図2の態様の方が少なくなる。
【0031】
本発明の最大の特徴は、以上説明した電解による水酸化第4級アンモニウムの製造において、陰イオン交換膜Aとして、その一方側の膜表面に、プロトン(H)透過抑制層9が形成されたものを使用し、これを当該プロトン透過抑制層9の形成された面が陰極側を向くように配置したことにある。即ち、このプロトン透過抑制層9の存在により、前記水酸化第4級アンモニウムの製造における、電流効率の低減の原因になる、陽極室4から原料室5へのプロトン透過は大きく抑制される。そして、該プロトン透過抑制層9は、後述するように好適には、高架橋樹脂層として設けられるものであるため、もともと耐酸化性に優れることが多い。これに加えて、本発明では、その配置が、該プロトン透過抑制層9の形成された面が陰極側に向けたもの(換言すれば、原料室5に面する)であるため、陽極室4で生成した次亜ハロゲン酸への、該層の接触自体も大幅に抑制される。この結果、陰イオン交換膜Aの前記プロトンの透過抑制効果は良好に維持され、運転を長期間継続しても電流効率の低下の問題は大きく改善される。
【0032】
これに反して、プロトン透過抑制層9が形成された面を陽極側に向くように配置した場合には、電解の初期には、同プロトン透過抑制層9の作用により、プロトン透過抑制効果はある程度の高さで発揮されるものの、運転が長く継続されると、この効果は次第に低下する。即ち、次亜ハロゲン酸による酸化劣化作用はとても強く、プロトン透過抑制層9が、たとえ耐酸化性に優れる高架橋樹脂層等であっても、これが陽極室を向いて、次亜ハロゲン酸と多量に接触する環境下では、運転が長期に及べば除々に劣化することが避けられないからである。
【0033】
陰イオン交換膜Aは、基体層10と、基体層10の一方側の膜表面に形成されたプロトン透過抑制層9とからなる。ここで、プロトン透過抑制層9は、プロトン透過性が基体層10部分よりも低い層として定義される。陰イオン交換膜において、膜表面のプロトン透過性を斯様に低くするには、架橋度を上げるなどして、陰イオン交換基に親和する含水率を低下させることが好ましい。これにより、陰イオンの透過性をある程度確保しつつ、プロトンの透過性を相対的に抑制することが可能である。
【0034】
このような膜表面に、プロトン透過抑制層が形成された陰イオン交換膜Aは、次の方法により得るのが好ましい。即ち、ハロゲノアルキル基を有する芳香族重合性単量体と架橋性重合性単量体とを含む重合性組成物を重合させて得た陰イオン交換基導入用原膜の、その一方側の膜表面に、ジアルキルアミン化合物またはポリアミン化合物と接触させて、当該膜表面に、内部よりも高架橋の高架橋樹脂層を形成させ、その後に、膜中の残余のハロゲノアルキル基に、トリアルキルアミンを接触させて、これを第4級アンモニウム基に変換する方法である。この方法によれば、前記陰イオン交換基導入用原膜において、その一方側の膜表面部に存在するハロゲノアルキル基は、一定割合が、ジアルキルアミン化合物またはポリアミン化合物との接触により、架橋に費やされることになる。このため、膜表面部は架橋により緻密な構造になるため、前記含水量は低下し、プロトン透過抑制に特に優れた層となる。
【0035】
この方法において、前記ハロゲノアルキル基を有する芳香族重合性単量体は、公知のものが制限なく使用できる。アルキル基の炭素数は1〜8であるのが好ましく、これに置換するハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。こうしたハロゲノアルキル基としては、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、クロロエチル基、ブロモエチル基、ヨードエチル基、クロロプロピル基、ブロモプロピル基、ヨードプロピル基、クロロブチル基、ブロモブチル基、ヨードブチル基、クロロペンチル基、ブロモペンチル基、ヨードペンチル基、クロロヘキシル基、ブロモヘキシル基、ヨードヘキシル基等である。こうしたハロゲノアルキル基を有する芳香族重合性単量体の具体例は、クロロメチルスチレン、ブロモメチルスチレン、ヨードメチルスチレン、クロロエチルスチレン、ブロモエチルスチレン、ヨードエチルスチレン、クロロプロピルスチレン、ブロモプロピルスチレン、ヨードプロピルスチレン、クロロブチルスチレン、ブロモブチルスチレン、ヨードブチルスチレン、クロロペンチルスチレン、ブロモペンチルスチレン、ヨードペンチルスチレン、クロロヘキシルスチレン、ブロモヘキシルスチレン、ヨードヘキシルスチレン等が挙げられ、このうちクロロメチルスチレン、ブロモメチルスチレン、ヨードメチルスチレン、クロロエチルスチレン、ブロモエチルスチレン、ヨードエチルスチレン、クロロプロピルスチレン、ブロモプロピルスチレン、ヨードプロピルスチレン、クロロブチルスチレン、ブロモブチルスチレン、ヨードブチルスチレンを用いるのが、特に好ましい。
【0036】
上記重合性組成物を重合させて得た陰イオン交換基導入用原膜では、上記ハロゲノアルキル基を有する芳香族重合性単量体に由来して膜中にハロゲノアルキル基を有しており、後述するようにこれを陰イオン交換基、つまり第4級アンモニウム基に変換する。係る第4級アンモニウム基は強塩基性基であり、陰イオン交換基として大変優れたものであるが、このもの以外の陰イオン交換基の存在も所望される場合には、重合性組成物には、前記ハロゲノアルキル基を有する芳香族重合性単量体に加えて、他の陰イオン交換基を有する重合性単量体、或いは他の陰イオン交換基を導入し得る官能基を有する重合性単量体を併用しても良い。こうした第4級アンモニウム基以外の陰イオン交換基としては、水溶液中で負又は正の電荷となり得る官能基なら特に制限されるものではなく、例えば、1〜3級アミノ基、ピリジル基、イミダゾール基、第4級ピリジニウム基等が挙げられる。
【0037】
こうした他の陰イオン交換基を有する単量体として、具体的には、アミノスチレン、アルキルアミノスチレン、ジアルキルアミノスチレン、トリアルキルアミノスチレン、ビニルベンジルトリメチルアミン、ビニルベンジルトリエチルアミン等のアミン系単量体;ビニルピリジン、メチルビニルピリジン、エチルビニルピリジン、ビニルピロリドン、ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール等の含窒素複素環系単量体、それらの塩類およびエステル類等を挙げることができる。
【0038】
また、他の陰イオン交換基を導入し得る官能基を有する重合性単量体としては、スチレン、該スチレンの芳香環やビニル基にハロゲン基、アルキル基あるいはハロアルキル基等の置換基が導入されたスチレン置換体等が好適に使用できる。具体的には、スチレン、ビニルトルエン、クロロメチルスチレン等が挙げられる。この他、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、アクリル酸アミド、ビニルピロリドン、メチルビニルケトン等も使用できる。
【0039】
重合性組成物中において、これら他の陰イオン交換基を有する重合性単量体、或いは他の陰イオン交換基を導入し得る官能基を有する重合性単量体の配合量は、特に制限されるものではないが、前記ハロゲノアルキル基を有する芳香族重合性単量体100質量部に対して100質量部以下であるのが好ましく、50質量部以下であるのがより好ましい。
【0040】
さらに、重合性組成物には、これら陰イオン交換膜に陰イオン交換基を導入するための重合性単量体の他に、斯様な陰イオン交換膜の導入には直接関与しない重合性単量体を、必要に応じて配合してもよい。こうした陰イオン交換膜の導入には関与しない重合性単量体としては、例えば、スチレン、アクリロニトリル、メチルスチレン、アクロレイン、メチルビニルケトン、ビニルビフェニル等を挙げることができる。
【0041】
重合性組成物中において、これら陰イオン交換膜の導入には直接関与しない重合性単量体の配合量は、特に制限されるものではないが、前記ハロゲノアルキル基を有する芳香族重合性単量体100質量部に対して400質量部以下であるのが好ましく、150質量部以下であるのがより好ましい。
【0042】
重合性組成物には、得られる陰イオン交換膜の緻密性を増して膜強度を上げるために、架橋性重合性単量体が使用されることが好ましい。こうした架橋性重合性単量体も、従来公知であるイオン交換膜の製造において用いられる単量体が特に制限なく使用できる。具体的には、例えば、m−、p−或いはo−ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルスルホン、ブタジエン、クロロプレン、イソプレン、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタリン、ジアリルアミン、トリアリルアミン、ジビニルピリジン、或いは特開昭62−205153号公報等に開示されているビニルベンジル基を3個以上有する他官能ビニルベンジル系化合物などが使用される。
【0043】
これら架橋性重合性単量体は、ハロゲノアルキル基を有する芳香族重合性単量体に対してあまり多すぎて配合されると、陰イオン交換膜のイオン交換容量が減少するたけでなく、架橋度が高くなりすぎて膜抵抗が増大してしまい、電力原単位が高くなる虞がある。反対に、架橋性重合性単量体の配合割合が余り少なすぎても、膜の強度が低下するたけでなく、膜表面に設ける、プロトン透過抑制層との架橋度の違いから、含水状態での膨潤率差が大きくなりすぎ、プロトン透過抑制層を内側にして大きく反りが生じて取り扱いが困難となる虞がある。これらから架橋性重合性単量体は、ハロゲノアルキル基を有する芳香族重合性単量体、及び前記説明した必要に応じて併用する他の重合性単量体の合計からなる重合性単量体成分100質量部に対して、5〜40質量部、好適には10〜30質量部配合させるのが好ましい。
【0044】
重合性組成物には、通常、重合開始剤が配合される。重合開始剤は、従来公知のものが特に制限されること無く使用され、用いる高空隙基材、成形条件等を勘案して適宜選択すれば良い。その具体例としては、p−メンタンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、α,α’−ビス(tert−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−tert−ブチルパーオキシド、tert−ブチルヒドロパーオキシド、ジ−tert−アミルパーオキシド、tert−ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、クメンヒドロパーオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジヒドロパーオキシヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジヒドロパーオキシヘキシン−3、ベンゾイルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド、メチルイソブチルケトンパーオキシド、シクロヘキサンパーオキシド、メチルシクロヘキサンパーオキシド、イソブチルパーオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキシド、o−メチルベンゾイルパーオキド、ビス−3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、p−クロロベンゾイルパーオキシド、1,1−ジ−tert−ブチルパーオキシ−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ−tert−ブチルパーオキシシクロヘキサン、2,2−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)−ブタン、4,4−ジ−tert−ブチルパーオキシバレリアン酸−n−ブチルエステル、2,4,4−トリメチルペンチルパーオキシ−フェノキシアセテート、α−クミルパーオキシネオデカノエート、tert−ブチルパーオキシネオデカノエート、tert−ブチルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシ−イソブチレート、ジ−tert−ブチルパーオキシ−ヘキサハイドロテレフタレート、ジ−tert−ブチルパーオキシアゼレート、tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシアセテート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート等が好適である。これらは、単独または2種以上の組み合わせでモノマーペースト中に添加混合される。
【0045】
上記のような重合開始剤の使用量は、通常、前述した重合性単量体成分100重量部に対して、0.1〜30重量部が好適であり、1〜10重量部の範囲がより好適である。
【0046】
また、重合性組成物中には、粘度調整剤としてマトリックス樹脂を配合してもよい。このようなマトリックス樹脂を配合することにより、重合性組成物の塗布性を高め、これを高空隙基材に塗布させたときの垂れ等を防止することができる。
【0047】
このようなマトリックス樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、エチレン−塩化ビニルの共重合体、塩化ビニル系エラストマー、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブチレン等の飽和脂肪族炭化水素系ポリマー、スチレン−ブタジエン共重合体などのスチレン系ポリマー及び、これらに、ビニルトルエン、ビニルキシレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、α−メチルスチレン、α−ハロゲン化スチレン、α,β,β’−トリハロゲン化スチレン等のスチレン系モノマー、エチレン、ブチレン等のモノオレフィンや、ブタジエン、イソプレン等の共役ジオレフィンなどを共重合させたもの;などを使用することができる。またスチレン−ブタジエンゴムまたはその水素添加ゴム、ニトリルゴムまたはその水素添加ニトリルゴム、ピリジンゴムまたはその水素添加ゴム、スチレン系熱可塑性エラストマーも好適に使用できる。
【0048】
ここで、スチレン系熱可塑性エラストマーとは、ポリスチレン重合体と、スチレンとポリブタジエン、ポリイソプレン、ビニルポリイソプレン、エチレン−ブチレンの交互共重合体、エチレン−プロピレンの交互共重合体をいう。例えば、ポリスチレン−水素添加ポリブタジエン−ポリスチレン共重合体、ポリスチレン−(ポリエチレン/ブチレンゴム)−ポリスチレン共重合体、ポリスチレン−水素添加ポリイソプレンゴム−ポリスチレン共重合体、ポリスチレン−(ポリエチレン/プロピレンゴム)−ポリスチレン共重合体、ポリスチレン−ポリエチレン−(ポリエチレン/プロピレンゴム)−ポリスチレン共重合体、ポリスチレン−ビニルポリイソプレン−ポリスチレン共重合体等が例示される。かかるマトリックス樹脂の分子量は、特に制限されるものではないが、通常、1,000〜1,000,000、特に50,000〜500,000の範囲にあることが好ましい。
【0049】
また、かかるマトリックス樹脂は、適度な粘性を確保できる程度の量で分子量に応じて重合性組成物中に配合され、例えば、その量は、前述した重合性単量体成分100重量部に対して、1〜50重量部であるのが好ましく、3〜15質量部であるのがより好ましい。
【0050】
尚、重合性組成物には、上述した各種成分以外にも、必要により、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、リン酸トリブチル、スチレンオキサイド、或いは脂肪酸や芳香族酸のアルコールエステル等の可塑剤や、有機溶媒などが配合されていてもよい。
【0051】
また、上記重合性組成物には、前記ハロゲノアルキル基を有する芳香族重合性単量体の熱分解により生成するハロゲンガスやハロゲン化水素ガスを補足するように、スチレンオキサイド、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルなどのエポキシ基を1個以上有する化合物を添加することも好適である。
【0052】
以上の成分構成からなる重合性組成物は、高空隙材料からなる基材の空隙部に充填した後に重合し、陰イオン交換基導入用原膜を得る。このような高空隙基材としては、イオン交換膜の高空隙基材として公知の如何なるものを用いても良く、一般には、空隙率が20〜90%、より好ましくは40〜80%の支持材料が使用される。例えばポリ塩化ビニル、ポリオレフィン等から形成された織布、不織布、多孔性フィルム、網状物等が挙げられる。このうち特に、多孔性フィルムを用いることが、膜抵抗を極端に上げることなくプロトンの高い透過抑制効果が得られる点で好ましい。高空隙基材の厚みは、一般には5〜300μmの範囲から採択され、膜抵抗や強度の保持の観点等から70〜250μmであるのが好ましい。
【0053】
こうした高空隙基材への重合性組成物の充填方法は、特に限定されない。例えば、重合性組成物を高空隙基材に塗布やスプレーしたり、あるいは、高空隙基材を重合性組成物中に浸漬したりする方法などが例示される。重合性組成物がペースト状にある場合、塗布により実施するのが好ましい。塗布による高空隙基材への充填は、ロールコーター、フローコーター、ナイフコーター、コンマコーター、スプレー、ディッピング等の公知の手段によって行うことができる。
【0054】
上記のようにして高空隙基材に重合性組成物を塗布した後、加熱して重合を行い、膜状高分子体からなる陰イオン交換基導入用原膜を得る。本発明で使用する陰イオン交換膜Aを得るためには、斯様にして陰イオン交換基導入用原膜を得た後、陰イオン交換基の導入操作をする前に、その膜表面への高架橋樹脂層からなるプロトン透過抑制層の形成操作を行う。これは、例えば、前記陰イオン交換基導入用原膜の一方側の膜表面に、ジアルキルアミン化合物またはポリアミン化合物を接触させることにより実施する。
【0055】
即ち、プロトン透過抑制層を形成するのが、陰イオン交換基導入用原膜の一方側の面のみの場合であれば、他方側の膜表面をフィルム等で覆い、フィルムに覆われていない一方側の膜表面をジアルキルアミン化合物またはポリアミン化合物と接触させ、当該膜表面に、内部よりも高架橋の高架橋樹脂層を形成させる。
【0056】
ジアルキルアミン化合物が有する、アルキルアミン基は、ハロゲノアルキル基と反応して塩化水素が脱離して第4級アンモニウム基を形成することが可能であり、このジアルキルアミン化合物が2官能であるため、2個のハロゲノアルキル基と反応して架橋構造が形成される。こうしたジアルキルアミン化合物のアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜4のものが好ましい。ジアルキルアミン化合物の具体例を示せば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミンなどが使用できる。
【0057】
ポリアミン化合物は、ハロゲノアルキル基と反応して第4級アンモニウム基を形成することが可能な3級アミノ基を単一分子中に2つ以上有する化合物であり、公知の如何なる化合物が制限無く使用できるが、好ましくはジアミン、トリアミン、テトラアミン、特に好ましくはジアミンが用いられる。こうしたジアミンとしては、アルキレン基の炭素数が1〜6のアルキレンジアミンが好ましく、具体的には、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、テトラメチルヘキサンジアミンなどが使用できる。
【0058】
プロトン透過抑制を高める点で、架橋点間距離が短い構造ほど含水率を下げる効果が高く、この意味で、ジアルキルアミンを用いることが好適であり、その中で陰イオンの透過性はできるだけ低下しないことが好ましいため、ジメチルアミンを用いることが最も好ましい。
【0059】
また、プロトン透過抑制層は、その層内に存在したハロゲノアルキル基のうち、ジアルキルアミン化合物またはポリアミン化合物と反応した割合が高いほど高架橋の樹脂層が形成され、プロトンの透過抑制に優れた層となる。また、プロトン透過抑制層を厚くすると、プロトンの透過抑制が向上するが、ある程度の厚みまで到達すると、それ以上厚くしてもプロトン透過抑制はほとんど向上しなくなり、膜抵抗が増加するだけとなる。そのため、プロトン透過抑制層の好ましい形態は、出来るだけ多くのハロゲノアルキル基がジアルキルアミン化合物またはポリアミン化合物と反応した高架橋構造をとり、かつ、高いプロトン透過抑制が得られる最少厚みまで形成させた層である。プロトン透過抑制層の厚みとしては、例えば、陰イオン交換膜の1/2の厚さの50%以下であることが好ましく、25%以下であることがより好ましい。
【0060】
このようなプロトン透過抑制層を形成させるには、ジアルキルアミン化合物またはポリアミン化合物の水溶液に接触させることで架橋反応を行うことが好ましい。有機溶媒を用いると、膜との馴染みが良いため、陰イオン交換基導入用原膜の内部への拡散が速く、接触面近傍の架橋が進むと同時に膜内部でも架橋が進行してしまう。そのため、プロトン透過抑制層だけでなく、基体層の一部へも架橋を進行してしまい、膜抵抗が必要以上に増大することになる。
【0061】
一方、水溶液の場合は、膜との馴染みが有機溶媒と比較して劣るため、内部への拡散が非常に遅くなる。そのため、架橋は接触面近傍から非常にゆっくりと内部へ進行するため、所定の時間で液中から膜を取り出すことにより、プロトン透過抑制層の厚みをコントロールすることが容易であり、基体層の架橋進行も防ぐことも可能である。さらに、液が浸透した層の架橋反応時間が長く保てるため、ハロゲノアルキル基の多くが架橋反応し、より高架橋の層を形成できる。従って、水溶液でプロトン透過抑制層を形成することが最適である。
【0062】
但し、ジアルキルアミン化合物またはポリアミン化合物の分子量が高く、水溶液では内部への拡散が遅すぎる場合や、溶解性が悪い場合においては、拡散速度の調整、および溶解性の改善を図るため、水の一部を有機溶媒に置き換えることが有効となる。この場合、水に置き換える有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アセトン等の親水性溶媒が使用できる。その含有量は、水に対して30質量%以内、特には5〜15質量%であるのが好ましい。
【0063】
ジアルキルアミン化合物またはポリアミン化合物を水に溶解して架橋反応させる場合、濃度としては0.01mol/L〜2mol/Lが好ましく、0.03mol/L〜1mol/Lが特に好ましい。濃度が薄すぎる場合には、ハロゲノアルキル基との架橋の反応性が低下し、濃度が濃すぎる場合は、陰イオン交換基導入用原膜の膜内部への拡散が強まり、基体層への架橋が生じ易くなる。
【0064】
なお、反応温度は20〜50℃程度である。陰イオン交換基導入用原膜とポリアミンを反応させた後は、反応に供しなかった過剰のジアルキルアミン化合物またはポリアミン化合物を除去する目的で洗浄を行ってもよい。
【0065】
こうしたジアルキルアミン化合物またはポリアミン化合物との反応により、陰イオン交換基導入用原膜の表面には、陰イオン交換容量を有する架橋構造が形成されるため、この反応を該陰イオン交換基導入用原膜に行った後に、陰イオン交換容量を測定することで、膜表面に形成された架橋の度合いを知ることができる。
【0066】
斯様に陰イオン交換基導入用原膜の膜表面に対する高架橋樹脂層の形成が終えたならば、続いて、膜中の残余のハロゲノアルキル基に、トリアルキルアミンを接触させて、これを第4級アンモニウム基に変換させれば良い。その方法は、陰イオン交換膜の製造における第4級アンモニウム基導入の常法に従えば良い。この際、陰イオン交換基導入用原膜の製造に使用した前記重合性組成物中に、ハロゲノアルキル基を有する芳香族重合性単量体の他に、他の陰イオン交換基を導入し得る官能基を有する重合性単量体を併用した場合には、その官能基に応じた陰イオン交換基の変換を常法に従って行えば良い。具体的には、スチレン等のベンゼン環にクロロメチル化を行い、その後、トリアルキルアミンを接触させる。また、1〜3級アミンを有する場合はアルキル化により4級アミン化するなどの方法により、所望の陰イオン交換基を導入すれば良い。
【0067】
以上の方法により、一方側の膜表面に、高架橋樹脂層からなるプロトン透過抑制層が形成された陰イオン交換膜Aを製造することができる。得られた陰イオン交換膜Aにて効率よく電解を行うため、その陰イオン交換容量は、0.6〜5.0meq/g−乾燥膜、特に0.8〜2.0meq/g−乾燥膜の範囲にあるのがよく、厚みは5〜350μm、特に70〜280μmの範囲にあるのが好ましい。即ち、このような物性を有するように、重合性組成物の組成(単量体成分や架橋剤の量或いはその種類)、高空隙基材の厚み及び導入する陰イオン交換基量が適宜設定される。
【0068】
さらに、このようにして得られる陰イオン交換膜Aでは、該プロトン透過抑制層の陰イオン交換容量は、通常、0.005〜0.5meq/g−乾燥膜であり、より好適には、0.01〜0.2meq/g−乾燥膜である。ここで、上記プロトン透過抑制層の陰イオン交換容量を求める際の重量の基準としている乾燥膜は、陰イオン交換膜A全体の重さである。陰イオン交換容量がこの範囲を下回ると、プロトンの透過抑制が十分に得られず、この範囲を上回ると、高抵抗となるため、電力原単位が高くなる。
【0069】
さらに、プロトンの透過抑制層の上記陰イオン交換容量は、陰イオン交換膜A全体の陰イオン交換容量に対して0.002〜0.3倍、特に0.005〜0.25倍の範囲にあることが好適である。係るプロトンの透過抑制層の陰イオン交換容量の割合が、上記範囲を下回ると、やはりプロトンの透過抑制が十分に得られない。また、この範囲を上回ると、架橋層が厚くなりすぎ、やはり高抵抗となり、電力原単位が高くなる。
【0070】
この膜表面に形成されているプロトン透過抑制層の陰イオン交換容量は、上記陰イオン交換基導入用原膜の表面に、高架橋樹脂層を形成した段階において、その陰イオン交換容量を測定することで求めることができる。なお、陰イオン交換膜の製造に供した前記重合性組成物中に、ハロゲノアルキル基を有する芳香族重合性単量体の他に、他の陰イオン交換基を導入し得る官能基を有する重合性単量体を併用した場合には、その組成比から、該ハロゲノアルキル基が変換されて導入される第4級アンモニウム基量に対する、他のイオン交換基の導入量を計算し、これをもとに、前記高架橋樹脂層を形成した段階での陰イオン交換基導入用原膜の陰イオン交換容量の測定値を補正して、最終的なプロトン透過抑制層の陰イオン交換容量を求めれば良い。また、他の陰イオン交換基を有する重合性単量体を併用した場合には、前記高架橋樹脂層を形成した段階での陰イオン交換基導入用原膜の陰イオン交換容量の測定値に先だって、該高架橋樹脂層の形成前の段階でも、原膜の陰イオン交換容量の測定し、これを前者の測定値から差し引いた値を求めて、プロトン透過抑制層の陰イオン交換容量を求めれば良い。即ち、この値から、前記製造に供した重合性組成物から計算される、上記ハロゲノアルキル基が変換されて導入される第4級アンモニウム基量に対する、他のイオン交換基の導入量を用いて、最終的なプロトン透過抑制層の陰イオン交換容量を補正して求めれば良い。
【0071】
本発明において、上記陰イオン交換膜Aは、上記高架橋樹脂層からなるプロトン透過抑制層を、電解装置の陰極側を向く側の面だけでなく、その反対の、陽極側を向く側の面にも形成させておいても良い。即ち、この態様の具体例を図3に示した。
【0072】
図3に示す態様とすれば、陰イオン交換膜Aは、陽極側に向く面の耐酸化性が向上し、陽極液に含まれる次亜ハロゲン酸に接触しても酸化劣化がし難くなる。これにより、膜全体の耐久性が向上し、引いては本発明が特徴とする、陰極側を向く側のプロトン透過抑制層の効果の持続性も大きく向上し、水酸化第4 級アンモニウムの安定的な製造はより相乗的に改善されて特に好ましい。
【実施例】
【0073】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、陰イオン交換膜の陰イオン交換容量、及び膜表面に高架橋樹脂層を形成した陰イオン交換基導入用原膜の陰イオン交換容量の各測定は、以下の方法により測定した。
(陰イオン交換容量の測定方法)
陰イオン交換膜(または前記高架橋樹脂層を形成した陰イオン交換基導入用原膜)を、2×2cmにカットし、1mol/L塩酸水溶液に浸漬して対イオンをClとした。Cl型の陰イオン交換膜を超純水で良く洗浄した後、1mol/L硝酸ナトリウム水溶液に浸漬し、液中にClを放出させた。陰イオン交換膜を1mol/L硝酸ナトリウム水溶液より取出し、電位差滴定装置により0.1mol/L硝酸銀水溶液で滴定を行い、下記式:
Cl+ Ag → AgCl
で塩化銀が生成されなくなる滴定量を求めた。一方、1mol/L硝酸ナトリウム水溶液に浸漬した後の陰イオン交換膜は、再度1mol/L塩酸水溶液に浸漬して対イオンをClとし、超純水で良く洗浄した後、真空乾燥機により膜を十分に乾燥させた。乾燥後の陰イオン交換膜の重量を測定した。
【0074】
求めた結果より、下記式:
陰イオン交換容量(meq/g−乾燥膜)=滴定量(mL)×0.1(mol/L)/乾燥膜重量(g−乾燥膜)
により、陰イオン交換容量を求めた。
【0075】
<実施例1>
クロルメチルスチレン35重量部、スチレン40重量部、ジビニルベンゼン10重量部からなる重合性組成物100質量部に対して、ラジカル重合開始剤としてジ−tert−ブチルパーオキシド5重量部及びマトリックス樹脂として、スチレン−ブタジエン共重合体10重量部を加えてペースト状の重合性組成物を得た。
【0076】
次いで、高密度ポリエチレン製織布(商品名:ニップ強力網200目、線形86μm、メッシュ1インチあたり156(タテ)/100(ヨコ)本、NBC工業製)に上記した重合性組成物を塗布し、その両面をポリエステルフィルムからなる剥離フィルムで被覆した後、ペースト法による重合を行った。重合パターンは、20℃から100℃まで2時間かけて昇温し、次いで120℃まで30分かけて昇温し、120℃を6時間保持し陰イオン交換基導入用原膜を得た。
【0077】
次いで、陰イオン交換基導入用原膜から剥離フィルムを剥ぎとるが、この時、該原膜両面の剥離フィルムを完全に剥がすのではなく、片面には剥離フィルムを付けたままにした。この片側のみ剥離フィルムで覆われた陰イオン交換基導入用原膜を0.05N−ジメチルアミン水溶液に、8時間、30℃で浸漬し、その一方の表面にプロトン透過抑制層(高架橋樹脂層)を形成した。この段階で、陰イオン交換膜の陰イオン交換容量を測定したところ0.03meq/g−乾燥膜であった。後述するクロロメチル基の第4級アンモニウム基への変換処理の前に、この膜が上記陰イオン交換容量であったことから、当該膜における高架橋樹脂層の陰イオン交換容量が上記値であることが確認できた。
【0078】
次いで、片面を覆っているポリエステルフィルムを取り除いた。これをトリメチルアミン10質量%及びアセトン20質量%を含む水溶液を用いて、16時間、30℃で4級化反応を行い、膜中の残余のクロロメチル基の第4級アンモニウム基への変換を行った。得られた陰イオン交換膜の陰イオン交換容量を測定したところ1.37meq/g−乾燥膜であった。この結果から、上記高架橋樹脂層の陰イオン交換容量は、陰イオン交換膜全体の陰イオン交換容量に対して0.02倍の割合になることが確認できた。陰イオン交換膜の厚さは190μmであった。
【0079】
次いで、得られた陰イオン交換膜、及び陽イオン交換膜としてデュポン社製のナフィオンN324を、図1のように配置した有効膜面積は1dmの電解装置に組込んだ。陰イオン交換膜は、高架橋樹脂層が形成された面が陰極側を向くように配置した。なお、陽極はチタン板に白金めっきを使用し、陰極はSUS316を使用した。
【0080】
上記の電解装置の陽極室に0.5規定の硫酸を、陰イオン交換膜と陰極側の陽イオン交換膜の間に2.5規定のテトラメチルアンモニウムクロライド水溶液を、陰極室に水酸化4級アンモニウム水溶液をそれぞれ循環させ、電流密度30A/dm、温度は40℃に維持しながら、連続的に電解を実施した。連続運転中は、陰極室の水酸化テトラメチルアンモニウム濃度が2.0規定になるようにした。同じく各室を循環する液の濃度が一定になるように、濃度が濃くなったときは純水を、薄くなったときは、その成分を添加した。
【0081】
3ヶ月間の連続運転を行い、初期(1日目)の電圧値、および陰イオン交換膜の初期、1ヶ月後、2ヶ月後、3ヶ月後の電流効率を評価した。結果は表1の通りであった。
【0082】
<実施例2>
実施例1において陰イオン交換基導入用原膜を、0.05N−ジメチルアミン水溶液に、3時間浸漬した以外は、実施例1と同様に行って、一方側の膜表面に、プロトン透過抑制層(高架橋樹脂層)が形成された陰イオン交換膜を製造した。
【0083】
この陰イオン交換膜において、高架橋樹脂層の陰イオン交換容量は0.01meq/g−乾燥膜であった。また、陰イオン交換膜全体の陰イオン交換容量は1.39meq/g−乾燥膜であった。この結果から、上記高架橋樹脂層の陰イオン交換容量は、陰イオン交換膜全体の陰イオン交換容量に対して0.007倍の割合になることが確認できた。さらに、この陰イオン交換膜を用いて、実施例1と同様にして、水酸化テトラメチルアンモニウムの製造を実施し、電圧値、および陰イオン交換膜の電流効率を測定し、その結果を表1に示した。
【0084】
<実施例3>
実施例1において陰イオン交換基導入用原膜を、0.05N−ジメチルアミン水溶液に、40時間浸漬した以外は、実施例1と同様に行って、一方側の膜表面に、プロトン透過抑制層(高架橋樹脂層)が形成された陰イオン交換膜を製造した。
【0085】
この陰イオン交換膜において、高架橋樹脂層の陰イオン交換容量は0.20meq/g−乾燥膜であった。また、陰イオン交換膜全体の陰イオン交換容量は1.2meq/g−乾燥膜であった。この結果から、上記高架橋樹脂層の陰イオン交換容量は、陰イオン交換膜全体の陰イオン交換容量に対して0.17倍の割合になることが確認できた。さらに、この陰イオン交換膜を用いて、実施例1と同様にして、水酸化テトラメチルアンモニウムの製造を実施し、電圧値、および陰イオン交換膜の電流効率を測定し、その結果を表1に示した。
【0086】
<実施例4>
実施例1において、陰イオン交換基導入用原膜を、その両面の剥離フィルムを剥ぎとった状態で、0.05N−ジメチルアミン水溶液に浸漬する以外は、実施例1と同様に行って、その膜両面に、プロトン透過抑制層(高架橋樹脂層)が形成された陰イオン交換膜を製造した。
【0087】
この陰イオン交換膜において、高架橋樹脂層の陰イオン交換容量は片面あたり0.03meq/g−乾燥膜であった。また、陰イオン交換膜全体の陰イオン交換容量は1.34meq/g−乾燥膜であった。この結果から、上記高架橋樹脂層の陰イオン交換容量は、片面あたり、陰イオン交換膜全体の陰イオン交換容量に対して0.02倍の割合になることが確認できた。さらに、この陰イオン交換膜を用いて、実施例1と同様にして、水酸化テトラメチルアンモニウムの製造を実施し、電圧値、および陰イオン交換膜の電流効率を測定し、その結果を表1に示した。
【0088】
<実施例5>
実施例1において陰イオン交換基導入用原膜を、0.05N−ジメチルアミン水溶液に、2時間浸漬した以外は、実施例1と同様に行って、一方側の膜表面に、プロトン透過抑制層(高架橋樹脂層)が形成された陰イオン交換膜を製造した。
【0089】
この陰イオン交換膜において、高架橋樹脂層の陰イオン交換容量は0.006meq/g−乾燥膜であった。また、陰イオン交換膜全体の陰イオン交換容量は1.394meq/g−乾燥膜であった。この結果から、上記高架橋樹脂層の陰イオン交換容量は、陰イオン交換膜全体の陰イオン交換容量に対して0.004倍の割合になることが確認できた。さらに、この陰イオン交換膜を用いて、実施例1と同様にして、水酸化テトラメチルアンモニウムの製造を実施し、電圧値、および陰イオン交換膜の電流効率を測定し、その結果を表1に示した。
【0090】
<実施例6>
実施例1において陰イオン交換基導入用原膜を、0.05N−ジメチルアミン水溶液に、60時間浸漬した以外は、実施例1と同様に行って、一方側の膜表面に、プロトン透過抑制層(高架橋樹脂層)が形成された陰イオン交換膜を製造した。
【0091】
この陰イオン交換膜において、高架橋樹脂層の陰イオン交換容量は0.3meq/g−乾燥膜であった。また、陰イオン交換膜全体の陰イオン交換容量は1.1meq/g−乾燥膜であった。この結果から、上記高架橋樹脂層の陰イオン交換容量は、陰イオン交換膜全体の陰イオン交換容量に対して0.27倍の割合になることが確認できた。さらに、この陰イオン交換膜を用いて、実施例1と同様にして、水酸化テトラメチルアンモニウムの製造を実施し、電圧値、および陰イオン交換膜の電流効率を測定し、その結果を表1に示した。
【0092】
<実施例7>
実施例1において陰イオン交換基導入用原膜を、0.05N−ジエチルアミン水溶液に、10時間浸漬した以外は、実施例1と同様に行って、一方側の膜表面に、プロトン透過抑制層(高架橋樹脂層)が形成された陰イオン交換膜を製造した。
【0093】
この陰イオン交換膜において、高架橋樹脂層の陰イオン交換容量は0.03meq/g−乾燥膜であった。また、陰イオン交換膜全体の陰イオン交換容量は1.37meq/g−乾燥膜であり、実施例1と同じであった。この結果から、上記高架橋樹脂層の陰イオン交換容量は、陰イオン交換膜全体の陰イオン交換容量に対して0.02倍の割合になることが確認できた。さらに、この陰イオン交換膜を用いて、実施例1と同様にして、水酸化テトラメチルアンモニウムの製造を実施し、電圧値、および陰イオン交換膜の電流効率を測定し、その結果を表1に示した。
【0094】
<実施例8>
実施例1において陰イオン交換基導入用原膜を、0.05N−テトラメチルエチレンジアミン水溶液に、15時間浸漬した以外は、実施例1と同様に行って、一方側の膜表面に、プロトン透過抑制層(高架橋樹脂層)が形成された陰イオン交換膜を製造した。
【0095】
この陰イオン交換膜において、高架橋樹脂層の陰イオン交換容量は0.06meq/g−乾燥膜であった。また、陰イオン交換膜全体の陰イオン交換容量は1.4meq/g−乾燥膜であった。この結果から、上記高架橋樹脂層の陰イオン交換容量は、陰イオン交換膜全体の陰イオン交換容量に対して0.04倍の割合になることが確認できた。さらに、この陰イオン交換膜を用いて、実施例1と同様にして、水酸化テトラメチルアンモニウムの製造を実施し、電圧値、および陰イオン交換膜の電流効率を測定し、その結果を表1に示した。
【0096】
<実施例9>
クロルメチルスチレン35重量部、スチレン40重量部、ジビニルベンゼン10重量部からなる重合性組成物100質量部に対して、ラジカル重合開始剤としてジ−tert−ブチルパーオキシド5重量部を加えてペースト状の重合性組成物を得た。
【0097】
次いで、ポリエチレン製二軸延伸多孔性フィルム(厚さ135μm、空隙率49%、平均細孔径0.13μm)に上記した重合性組成物を塗布し、その両面をポリエステルフィルムからなる剥離フィルムで被覆した後、ペースト法による重合を行った。重合パターンは、20℃から100℃まで2時間かけて昇温し、次いで120℃まで30分かけて昇温し、120℃を6時間保持し陰イオン交換基導入用原膜を得た。
【0098】
次いで、陰イオン交換基導入用原膜から剥離フィルムを剥ぎとるが、この時、該原膜両面の剥離フィルムを完全に剥がすのではなく、片面には剥離フィルムを付けたままにした。この片側のみ剥離フィルムで覆われた陰イオン交換基導入用原膜を0.05N−ジメチルアミン水溶液に、12時間、30℃で浸漬し、その一方の表面にプロトン透過抑制層(高架橋樹脂層)を形成した。
【0099】
次いで、片面を覆っているポリエステルフィルムを取り除いた。これをトリメチルアミン10質量%及びアセトン20質量%を含む水溶液を用いて、16時間、30℃で4級化反応を行い、陰イオン交換膜を得た。
【0100】
この陰イオン交換膜において、高架橋樹脂層の陰イオン交換容量は0.03meq/g−乾燥膜であった。また、陰イオン交換膜全体の陰イオン交換容量は1.67meq/g−乾燥膜であった。この結果から、上記高架橋樹脂層の陰イオン交換容量は、陰イオン交換膜全体の陰イオン交換容量に対して0.018倍の割合になることが確認できた。陰イオン交換膜の厚さは160μmであった。
【0101】
この陰イオン交換膜を用いて、実施例1と同様にして、水酸化テトラメチルアンモニウムの製造を実施し、電圧値、および陰イオン交換膜の電流効率を測定し、その結果を表1に示した。
【0102】
<比較例1>
実施例1において陰イオン交換基導入用原膜を、0.05N−ジメチルアミン水溶液に浸漬しない以外は、実施例1と同様に行って、いずれの膜表面にもプロトン透過抑制層(高架橋樹脂層)が形成されていない陰イオン交換膜を製造した。
【0103】
この陰イオン交換膜全体の陰イオン交換容量は1.4meq/g−乾燥膜であった。さらに、この陰イオン交換膜を用いて、実施例1と同様にして、水酸化テトラメチルアンモニウムの製造を実施し、電圧値、および陰イオン交換膜の電流効率を測定し、その結果を表1に示した。なお、3ヶ月に至る前に電流効率が下がりすぎ、液のバランスが保てなくなったために、電解を停止した。
【0104】
<比較例2>
実施例1において、得られた一方側の膜表面に、プロトン透過抑制層(高架橋樹脂層)が形成された陰イオン交換膜を、図1の電解装置に対して、該高架橋樹脂層が形成された面が陽極側を向くように配置した以外は、実施例1と同様にして水酸化テトラメチルアンモニウムの製造を実施した。この製造において、電圧値、および陰イオン交換膜の電流効率を測定し、その結果を表1に示した。
【0105】
<比較例3>
実施例9において陰イオン交換基導入用原膜を、0.05N−ジメチルアミン水溶液に浸漬しない以外は、実施例9と同様に行って、いずれの膜表面にもプロトン透過抑制層(高架橋樹脂層)が形成されていない陰イオン交換膜を製造した。
【0106】
この陰イオン交換膜全体の陰イオン交換容量は1.7meq/g−乾燥膜であった。さらに、この陰イオン交換膜を用いて、実施例1と同様にして、水酸化テトラメチルアンモニウムの製造を実施し、電圧値、および陰イオン交換膜の電流効率を測定し、その結果を表1に示した。なお、3ヶ月に至る前に電流効率が下がりすぎ、液のバランスが保てなくなったために、電解を停止した。
【0107】
【表1】
【符号の説明】
【0108】
1:陽極
2:陰極
3:電源
4:陽極室
5:原料室
6:陰極室
7:酸室
9:プロトン透過抑制層
10:基体層
A:陰イオン交換膜
C1、C2:陽イオン交換膜
図1
図2
図3