特許第6910030号(P6910030)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6910030
(24)【登録日】2021年7月8日
(45)【発行日】2021年7月28日
(54)【発明の名称】有機半導体デバイス製造用組成物
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/30 20060101AFI20210715BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20210715BHJP
   C07C 49/395 20060101ALI20210715BHJP
   C07C 13/547 20060101ALI20210715BHJP
   C07D 239/10 20060101ALI20210715BHJP
   C07D 307/79 20060101ALI20210715BHJP
   C07D 307/20 20060101ALI20210715BHJP
   C07D 307/06 20060101ALI20210715BHJP
   C07D 495/04 20060101ALI20210715BHJP
【FI】
   H01L29/28 250H
   H01L29/28 100A
   C07C49/395
   C07C13/547
   C07D239/10
   C07D307/79
   C07D307/20
   C07D307/06
   C07D495/04 101
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-558044(P2017-558044)
(86)(22)【出願日】2016年12月13日
(86)【国際出願番号】JP2016087064
(87)【国際公開番号】WO2017110584
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2019年10月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-250363(P2015-250363)
(32)【優先日】2015年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽二
(72)【発明者】
【氏名】横尾 健
(72)【発明者】
【氏名】赤井 泰之
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 純一
【審査官】 市川 武宜
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/187275(WO,A1)
【文献】 特開2015−034281(JP,A)
【文献】 特開2015−195361(JP,A)
【文献】 特開2003−238286(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/136827(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/076171(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記溶剤(A)と下記有機半導体材料を含有する有機半導体デバイス製造用組成物。
溶剤(A):下記式(a)で表される化合物
【化1】
(式中、Lは単結合、−O−、−NH−C(=O)−NH−、−C(=O)−、又は−C(=S)−を示し、kは0〜2の整数を示す。R1はC1-20アルキル基、C2-20アルケニル基、C3-20シクロアルキル基、−ORa基、−SRa基、−O(C=O)Ra基、−RbO(C=O)Ra基(RaはC1-7アルキル基、C6-10アリール基、又は前記基の2以上が単結合若しくは連結基を介して結合した1価の基を示し、RbはC1-7アルキレン基、C6-10アリーレン基、又は前記基の2以上が単結合若しくは連結基を介して結合した2価の基を示す)、又は置換若しくは無置換アミノ基を示す。tは1以上の整数を示し、tが2以上の整数である場合、t個のR1は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、tが2以上の整数である場合、t個のR1から選択される2以上の基は、互いに結合して、式中に示される環を構成する1又は2以上の炭素原子と共に環を形成していてもよい。但し、Lが単結合の場合、tは3以上の整数であり、t個のR1から選択される3以上の基は、互いに結合して、式中に示される環を構成する1又は2以上の炭素原子と共に2個以上の環を形成する)
有機半導体材料:下記式(1-1)で表される化合物、及び下記式(1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物
【化2】
(式中、X1、X2は同一又は異なって、酸素原子、硫黄原子、又はセレン原子であり、mは0又は1、n1、n2は同一又は異なって、0又は1である。R2、R3は同一又は異なって、C1-20アルキル基である
【請求項2】
溶剤(A)が、置換基として5〜7員のシクロアルキル基又は炭素数1〜7のアルキル基を有する、5〜7員の環状ケトン;炭素数1〜3のアルキル基を有していてもよい、ベンゼン環又は5〜7員の脂環がテトラヒドロフラン環に縮合した縮合環化合物;置換基として炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数1〜3のアルコキシ基を有するテトラヒドロフラン;1,3−ジC1-3アルキル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン;及び3,4,5,11−テトラヒドロアセナフテンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である請求項1に記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
【請求項3】
溶剤(A)が、2−シクロペンチルシクロペンタノン、2−ヘプチルシクロペンタノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、2,3−ジヒドロベンゾフラン、2,3−ジヒドロ−2−メチルベンゾフラン、2,5−ジメトキシテトラヒドロフラン、2,5−ジメチルテトラヒドロフラン、及び3,4,5,11−テトラヒドロアセナフテンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である請求項1に記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
【請求項4】
更に、下記溶剤(B)を含有する請求項1〜3の何れか1項に記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
溶剤(B):25℃におけるSP値が6.0〜8.0[(cal/cm30.5]である化合物
【請求項5】
溶剤(B)が、炭素数6〜18のアルカン、及び炭素数6〜18のジアルキルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である請求項4に記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
【請求項6】
有機半導体デバイス製造用組成物に含まれる溶剤全量に占める、溶剤(A)と溶剤(B)の合計含有量が80重量%以上であり、溶剤(A)と溶剤(B)の含有量の比(前者/後者;重量比)が、100/0〜75/25である請求項4又は5に記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
【請求項7】
有機半導体材料が、下記式(2)で表される化合物である請求項1〜6の何れか1項に記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
【化3】
(式中、R4、R5は同一又は異なって、C1-20アルキル基である)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体材料であるN字型縮環パイ共役系分子を溶剤に溶解した状態で含有する組成物であって、印刷法により有機半導体デバイスを製造する用途に使用する組成物に関する。本願は、2015年12月22日に日本に出願した、特願2015−250363号の優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
トランジスタはディスプレイやコンピュータ機器に含まれる重要な半導体デバイスであり、現在、ポリシリコンやアモルファスシリコン等の無機半導体材料を使用して製造されている。無機半導体材料を用いた薄膜トランジスタの製造は、プラズマ化学気相堆積法(PECVD)やスパッタ法等により行われ、製造プロセス温度が高いこと、製造装置が高額でありコストが嵩むこと、大面積の薄膜トランジスタを形成した際に特性が不均一になりやすいことが問題であった。また、製造プロセス温度により使用できる基板が制限され、ガラス基板が主に使用されてきた。しかし、ガラス基板は耐熱性は高いが衝撃に弱く軽量化が困難で柔軟性に乏しいため、ガラス基板を用いた場合は軽量でフレキシブルなトランジスタを形成することは困難であった。
【0003】
そこで、近年、有機半導体材料を利用した有機半導体デバイスに関する研究開発が盛んに行われている。有機半導体材料を使用すれば、塗布法等の簡便な方法により、低い製造プロセス温度で有機半導体デバイスを製造することが可能となるため、耐熱性の低いプラスチック基板を使用することができ、ディスプレイ等のエレクトロニクスデバイスの軽量化、フレキシブル化、低コスト化を実現することが可能となるからである。
【0004】
特許文献1には、有機半導体材料としてN字型縮環パイ共役系分子が記載されている。そして、前記有機半導体材料を溶解する溶剤としては、o−ジクロロベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン等を使用することが記載されている。しかし、前記溶剤は有機半導体材料の溶解性が低く、50℃以下の製造プロセス温度では有機半導体材料が不溶、若しくは析出することが多い。そのため、前記溶剤を使用して得られた有機半導体組成物を、耐熱性の低いプラスチック基板上へ、印刷法により塗布して膜形成することは困難であった。また、インクジェット印刷は加熱条件下ではノズルが詰まりやすくなるため、加熱しないと溶解状態を保持できない溶剤は、使用困難であった。更に、前記溶剤は毒性が強く、健康に対して有害である為、使用し難いという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/136827号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、有機半導体材料の溶解性に優れ、低温環境下において、印刷法を用いて、高いキャリア移動度を有する有機半導体デバイスを形成することができる有機半導体デバイス製造用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、下記式(a)で表される化合物を溶剤として用いると、低温でも有機半導体材料であるN字型縮環パイ共役系分子の溶解性に優れ、ガラス基板に比べて耐熱性の低いプラスチック基板上にも、印刷法により有機半導体デバイスを形成することができることを見いだした。また、前記溶剤で前記有機半導体材料を溶解して得られる組成物を基板上に塗布すると、有機半導体材料が自己組織化作用により結晶化して、高いキャリア移動度を有する有機半導体デバイスを形成できることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、下記溶剤(A)と下記有機半導体材料を含有する有機半導体デバイス製造用組成物を提供する。
溶剤(A):下記式(a)で表される化合物
【化1】
(式中、Lは単結合、−O−、−NH−C(=O)−NH−、−C(=O)−、又は−C(=S)−を示し、kは0〜2の整数を示す。R1はC1-20アルキル基、C2-20アルケニル基、C3-20シクロアルキル基、−ORa基、−SRa基、−O(C=O)Ra基、−RbO(C=O)Ra基(RaはC1-7アルキル基、C6-10アリール基、又は前記基の2以上が単結合若しくは連結基を介して結合した1価の基を示し、RbはC1-7アルキレン基、C6-10アリーレン基、又は前記基の2以上が単結合若しくは連結基を介して結合した2価の基を示す)、又は置換若しくは無置換アミノ基を示す。tは1以上の整数を示し、tが2以上の整数である場合、t個のR1は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、tが2以上の整数である場合、t個のR1から選択される2以上の基は、互いに結合して、式中に示される環を構成する1又は2以上の炭素原子と共に環を形成していてもよい。但し、Lが単結合の場合、tは3以上の整数であり、t個のR1から選択される3以上の基は、互いに結合して、式中に示される環を構成する1又は2以上の炭素原子と共に2個以上の環を形成する)
有機半導体材料:下記式(1-1)で表される化合物、及び下記式(1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物
【化2】
(式中、X1、X2は同一又は異なって、酸素原子、硫黄原子、又はセレン原子であり、mは0又は1、n1、n2は同一又は異なって、0又は1である。R2、R3は同一又は異なって、フッ素原子、C1-20アルキル基、C6-10アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、又はチアゾリル基であり、前記アルキル基が含有する水素原子の1又は2以上はフッ素原子で置換されていても良く、前記アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、及びチアゾリル基が含有する水素原子の1又は2以上はフッ素原子又は炭素数1〜10のアルキル基で置換されていても良い)
【0009】
本発明は、また、溶剤(A)が、置換基として5〜7員のシクロアルキル基又は炭素数1〜7のアルキル基を有する、5〜7員の環状ケトン;炭素数1〜3のアルキル基を有していてもよい、ベンゼン環又は5〜7員の脂環がテトラヒドロフラン環に縮合した縮合環化合物;置換基として炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数1〜3のアルコキシ基を有するテトラヒドロフラン;1,3−ジC1-3アルキル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン;及び3,4,5,11−テトラヒドロアセナフテンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である前記の有機半導体デバイス製造用組成物を提供する。
【0010】
本発明は、また、溶剤(A)が、2−シクロペンチルシクロペンタノン、2−ヘプチルシクロペンタノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、2,3−ジヒドロベンゾフラン、2,3−ジヒドロ−2−メチルベンゾフラン、2,5−ジメトキシテトラヒドロフラン、2,5−ジメチルテトラヒドロフラン、及び3,4,5,11−テトラヒドロアセナフテンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である前記の有機半導体デバイス製造用組成物を提供する。
【0011】
本発明は、また、更に、下記溶剤(B)を含有する前記の有機半導体デバイス製造用組成物を提供する。
溶剤(B):25℃におけるSP値が6.0〜8.0[(cal/cm30.5]である化合物
【0012】
本発明は、また、溶剤(B)が、炭素数6〜18のアルカン、及び炭素数6〜18のジアルキルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である前記の有機半導体デバイス製造用組成物を提供する。
【0013】
本発明は、また、有機半導体デバイス製造用組成物に含まれる溶剤全量に占める、溶剤(A)と溶剤(B)の合計含有量が80重量%以上であり、溶剤(A)と溶剤(B)の含有量の比(前者/後者;重量比)が、100/0〜75/25である前記の有機半導体デバイス製造用組成物を提供する。
【0014】
本発明は、また、有機半導体材料が、下記式(2)で表される化合物である前記の有機半導体デバイス製造用組成物を提供する。
【化3】
(式中、R4、R5は同一又は異なって、C1-20アルキル基、C6-10アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、又はチアゾリル基である)
【0015】
すなわち、本発明は、下記に関する。
[1] 下記溶剤(A)と下記有機半導体材料を含有する有機半導体デバイス製造用組成物。
溶剤(A):式(a)で表される化合物
有機半導体材料:式(1-1)で表される化合物、及び式(1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物
[2] 溶剤(A)の分子量が70〜350である、[1]に記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[3] 溶剤(A)の25℃におけるFedors法によるSP値が8.0〜11.0[(cal/cm30.5]である、[1]又は[2]に記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[4] 溶剤(A)が、置換基として5〜7員のシクロアルキル基又は炭素数1〜7のアルキル基を有する、5〜7員の環状ケトン;炭素数1〜3のアルキル基を有していてもよい、ベンゼン環又は5〜7員の脂環がテトラヒドロフラン環に縮合した縮合環化合物;置換基として炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数1〜3のアルコキシ基を有するテトラヒドロフラン;1,3−ジC1-3アルキル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン;及び3,4,5,11−テトラヒドロアセナフテンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、[1]〜[3]の何れか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[5] 溶剤(A)が、2−シクロペンチルシクロペンタノン、2−ヘプチルシクロペンタノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、2,3−ジヒドロベンゾフラン、2,3−ジヒドロ−2−メチルベンゾフラン、2,5−ジメトキシテトラヒドロフラン、2,5−ジメチルテトラヒドロフラン、及び3,4,5,11−テトラヒドロアセナフテンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、[1]〜[3]の何れか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[6] 更に、下記溶剤(B)を含有する、[1]〜[5]の何れか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
溶剤(B):25℃におけるSP値が6.0〜8.0[(cal/cm30.5]である化合物
[7] 溶剤(B)が、炭素数6〜18のアルカン、及び炭素数6〜18のジアルキルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、[6]に記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[8] 有機半導体デバイス製造用組成物に含まれる溶剤全量に占める、溶剤(A)と溶剤(B)の合計含有量が80重量%以上であり、溶剤(A)と溶剤(B)の含有量の比(前者/後者;重量比)が、100/0〜75/25である、[6]又は[7]に記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[9] 有機半導体デバイス製造用組成物に含まれる溶剤全量に占める溶剤(A)の割合が70重量%以上である、[1]〜[8]の何れか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[10] 有機半導体材料が、式(1-1)で表される化合物、及び下記式(1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物である、[1]〜[9]の何れか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[11] 有機半導体材料が、式(2)で表される化合物である、[1]〜[9]の何れか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[12] 有機半導体材料が、式(2-1)〜(2-6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、[1]〜[9]の何れか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[13] 有機半導体デバイス製造用組成物全量における溶剤(A)の含有量が70〜99.97重量%である、[1]〜[12]の何れか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[14] 有機半導体デバイス製造用組成物全量における溶剤(B)の含有量が0〜30重量%である、[6]〜[13]の何れか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[15] 有機半導体材料の含有量が、溶剤(A)(溶剤(B)も含有する場合は、溶剤(A)と溶剤(B)の合計)100重量部に対して0.02重量部以上である、[1]〜[14]の何れか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の有機半導体デバイス製造用組成物は、低温環境下でも、有機半導体材料であるN字型縮環パイ共役系分子の溶解性に優れ、不溶や析出の問題を生じない。そのため、ガラス基板に比べて耐熱性は低いが、衝撃に強く、軽量且つフレキシブルなプラスチック基板にも、有機半導体デバイスを直接形成することができ、衝撃に強く、軽量且つフレキシブルなディスプレイやコンピュータ機器を形成することができる。また、インクジェット印刷等の印刷法を用いて有機半導体デバイスを製造することが可能であり、コストの大幅な削減が可能である。
そして、本発明の有機半導体デバイス製造用組成物を基板上に塗布すると有機半導体材料が自己組織化作用により結晶化するため、高い結晶性を有し、高いキャリア移動度を有する有機半導体デバイスを形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[有機半導体デバイス製造用組成物]
本発明の有機半導体デバイス製造用組成物は、下記有機半導体材料と溶剤(A)を含有する。
【0018】
(溶剤(A))
本発明における溶剤(A)は、下記式(a)で表される化合物である。本発明の有機半導体デバイス製造用組成物は、下記式(a)で表される化合物を1種又は2種以上含有する。
【化4】
【0019】
上記式中、Lは単結合、−O−、−NH−C(=O)−NH−、−C(=O)−、又は−C(=S)−を示し、kは0〜2の整数を示す。R1は、式(a)中の環を構成する原子に結合する置換基であって、C1-20アルキル基、C2-20アルケニル基、C3-20シクロアルキル基、−ORa基、−SRa基、−O(C=O)Ra基、−RbO(C=O)Ra基(RaはC1-7アルキル基、C6-10アリール基、又は前記基の2以上が単結合若しくは連結基を介して結合した1価の基を示し、RbはC1-7アルキレン基、C6-10アリーレン基、又は前記基の2以上が単結合若しくは連結基を介して結合した2価の基を示す)、又は置換若しくは無置換アミノ基を示す。tは1以上の整数を示し、tが2以上の整数である場合、t個のR1は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、tが2以上の整数である場合、t個のR1から選択される2以上の基は、互いに結合して、式中に示される環を構成する1又は2以上の炭素原子と共に環を形成していてもよい。但し、Lが単結合の場合、tは3以上の整数であり、t個のR1から選択される3以上の基は、互いに結合して、式中に示される環を構成する1又は2以上の炭素原子と共に2個以上の環を形成する。
【0020】
1におけるC1-20(=炭素数1〜20)アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロビル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−テトラデシル基等の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を挙げることができる。
【0021】
1におけるC2-20(=炭素数2〜20)アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1−ブテニル基等の直鎖又は分岐鎖状のアルケニル基を挙げることができる。
【0022】
1におけるC3-20(=炭素数3〜20)シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等の炭素数3〜20(好ましくは3〜15、特に好ましくは5〜8)程度のシクロアルキル基;シクロペンテニル基、シクロへキセニル基等の炭素数3〜20(好ましくは3〜15、特に好ましくは5〜8)程度のシクロアルケニル基;パーヒドロナフタレン−1−イル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−8−イル基、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン−3−イル基等の橋かけ環式炭化水素基等を挙げることができる。
【0023】
aにおけるC1-7(=炭素数1〜7)アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロビル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基等の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を挙げることができる。
【0024】
aにおけるC6-10(=炭素数6〜10)アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、ビフェニリル基等を挙げることができる。
【0025】
bにおけるC1-7(=炭素数1〜7)アルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基などの直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基等を挙げることができる。
【0026】
bにおけるC6-10(=炭素数6〜10)アリーレン基としては、例えば、フェニレン基等を挙げることができる。
【0027】
前記Raにおける「前記基の2以上が単結合若しくは連結基を介して結合した1価の基」とは、C1-7アルキル基及びC6-10アリール基から選択される2以上の基が単結合又は連結基を介して結合した基である。前記連結基としては、例えば、カルボニル基(−CO−)、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−COO−)、アミド結合(−CONH−)、カーボネート結合(−OCOO−)等を挙げることができる。
【0028】
前記Rbにおける「前記基の2以上が単結合若しくは連結基を介して結合した2価の基」とは、C1-7アルキレン基及びC6-10アリーレン基から選択される2以上の基が単結合又は連結基を介して結合した基である。前記連結基としては、Raにおける連結基と同様の例を挙げることができる。
【0029】
1における置換若しくは無置換アミノ基としては、例えば、アミノ基;メチルアミノ、エチルアミノ、イソプロピルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ基等のモノ又はジ(C1-3)アルキルアミノ基等を挙げることができる。
【0030】
tが2以上の整数である場合、t個のR1から選択される2個以上の基は、互いに結合して、式中に示される環を構成する1又は2以上の炭素原子と共に環を形成していてもよく、前記形成していてもよい環としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の5〜7員の脂環、及びベンゼン環等を挙げることができる。
【0031】
Lが単結合の場合、tは3以上の整数であり、t個のR1から選択される3個以上の基は、互いに結合して、式中に示される環を構成する1又は2以上の炭素原子と共に2個以上の環を形成する。従って、Lが単結合の場合、式(a)で表される化合物は3環以上の縮合環であり、前記縮合環は更に置換基R1を有していてもよい。
【0032】
式(a)で表される化合物、若しくは溶剤(A)の分子量としては、例えば350以下程度、好ましくは70〜250、特に好ましくは80〜200である。
【0033】
また、式(a)で表される化合物、若しくは溶剤(A)の、25℃におけるFedors法によるSP値は、例えば7.0〜11.0[(cal/cm30.5]、好ましくは8.0〜11.0[(cal/cm30.5]、特に好ましくは9.0〜10.5[(cal/cm30.5]である。
【0034】
式(a)で表される化合物(若しくは、溶剤(A))としては、なかでも、置換基として5〜7員のシクロアルキル基又は炭素数1〜5のアルキル基を有する、5〜7員の環状ケトン;炭素数1〜3のアルキル基を有していてもよい、ベンゼン環又は5〜7員の脂環がテトラヒドロフラン環に縮合した縮合環化合物;置換基として炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数1〜3のアルコキシ基を有するテトラヒドロフラン;1,3−ジC1-3アルキル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン;及び3,4,5,11−テトラヒドロアセナフテンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物が好ましい。
【0035】
式(a)で表される化合物(若しくは、溶剤(A))の具体例としては、C1-7(シクロ)アルキルシクロペンタノン(例えば、2−メチルシクロペンタノン、2−エチルシクロペンタノン、2−プロピルシクロペンタノン、2−ブチルシクロペンタノン、2−ペンチルシクロペンタノン、2−シクロペンチルシクロペンタノン、2−ヘキシルシクロペンタノン、2−ヘプチルシクロペンタノン)、C1-7(シクロ)アルキルシクロヘキサノン(例えば、2−メチルシクロヘキサノン、2−エチルシクロヘキサノン、2−プロピルシクロヘキサノン、2−ブチルシクロヘキサノン、2−ペンチルシクロヘキサノン、4−ペンチルシクロヘキサノン、2−ヘキシルシクロヘキサノン、2−ヘプチルシクロヘキサノン)、シクロヘキシルメチルエーテル、シクロヘキシルアミン、2,5−ジメトキシテトラヒドロフラン、2,5−ジメチルテトラヒドロフラン、2,3−ジヒドロベンゾフラン、2,3−ジヒドロ−2−メチルベンゾフラン、2,3−ジヒドロ−3−メチルベンゾフラン、シクロヘキシルアセテート、ジヒドロターピニルアセテート、テトラヒドロフルフリルアセテート、ジプロピレングリコールシクロペンチルメチルエーテル、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、及び3,4,5,11−テトラヒドロアセナフテン等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。尚、前記「(シクロ)アルキル」は、アルキル又はシクロアルキルを示す。
【0036】
式(a)で表される化合物(若しくは、溶剤(A))としては、特に、2−シクロペンチルシクロペンタノン、2−ヘプチルシクロペンタノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、2,3−ジヒドロベンゾフラン、2,3−ジヒドロ−2−メチルベンゾフラン、2,5−ジメトキシテトラヒドロフラン、2,5−ジメチルテトラヒドロフラン、及び3,4,5,11−テトラヒドロアセナフテンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物が、有機半導体材料の溶解性に優れる点で好ましい。
【0037】
有機半導体デバイス製造用組成物に含まれる溶剤全量(100重量%)に占める式(a)で表される化合物(若しくは、溶剤(A))の含有割合(2種以上を組み合わせて含有する場合はその総量)は、例えば50重量%以上(例えば50〜100重量%)、好ましくは70重量%以上(例えば70〜100重量%)、特に好ましくは80重量%以上(例えば80〜100重量%)である。式(a)で表される化合物(若しくは、溶剤(A))の含有量が上記範囲を下回ると、有機半導体材料の溶解性が低下する傾向がある。
【0038】
(溶剤(B))
本発明の有機半導体デバイス製造用組成物は、上記溶剤(A)以外にも、一般的に電子材料用途に使用される溶剤であって、上記溶剤(A)と相溶する溶剤(=溶剤(B))を1種又は2種以上含有してもよい。
【0039】
溶剤(B)としては、25℃におけるFedors法によるSP値が例えば6.0〜8.0[(cal/cm30.5](とりわけ、7.0〜8.0[(cal/cm30.5])である化合物が好ましい。
【0040】
溶剤(B)としては、例えば、炭素数6〜18のアルカン、炭素数6〜18のジアルキルエーテル等を挙げることができる。
【0041】
前記炭素数6〜18のアルカンとしては、例えば、ヘキサン、オクタン、2−メチルオクタン、ノナン、2−メチルノナン、デカン、テトラデカン、オクタデカン等の直鎖又は分岐鎖状アルカン(好ましくは炭素数8〜12の直鎖又は分岐鎖状アルカン、特に好ましくは炭素数8〜12の分岐鎖状アルカン)を挙げることができる。
【0042】
前記炭素数6〜18のジアルキルエーテルとしては、例えば、メチルヘキシルエーテル、ヘキシルエーテル(=ジヘキシルエーテル)、オクチルエーテル(=ジオクチルエーテル)、ビス(2−エチルヘキシル)エーテル等の直鎖又は分岐鎖状ジアルキルエーテル(好ましくは炭素数10〜14の直鎖又は分岐鎖状ジアルキルエーテル、特に好ましくは炭素数10〜14の直鎖状ジアルキルエーテル)を挙げることができる。
【0043】
溶剤(A)と溶剤(B)とを併用する場合、その混合比(前者/後者;重量比)は、例えば100/0〜75/25、好ましくは100/0〜80/20である。溶剤(B)の割合が過剰となると、有機半導体材料の溶解性が低下する傾向がある。尚、溶剤(A)として2種類以上の溶剤を組み合わせて使用する場合にはその合計量である。溶剤(B)についても同様である。
【0044】
本発明の有機半導体デバイス製造用組成物は、溶剤(A)と溶剤(B)以外にも更に他の溶剤を含有していても良いが、有機半導体デバイス製造用組成物に含まれる溶剤全量(100重量%)における溶剤(A)と溶剤(B)の合計含有量の占める割合(それぞれ、2種以上を組み合わせて含有する場合はその総量)は、例えば50重量%以上(例えば50〜100重量%)、好ましくは70重量%以上(例えば70〜100重量%)、特に好ましくは80重量%以上(例えば80〜100重量%)である。従って、溶剤(A)、溶剤(B)以外の溶剤の含有量は、有機半導体デバイス製造用組成物に含まれる溶剤全量(100重量%)の、例えば50重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下、最も好ましくは5重量%以下である。
【0045】
本発明の有機半導体デバイス製造用組成物は溶剤(A)と必要に応じて溶剤(B)を含有するため、比較的低温でも高い有機半導体材料溶解性を有する。例えば、40℃における前記式(1-1)、又は下記式(1-2)で表される化合物の溶解度は、溶剤(A)100重量部(溶剤(A)と溶剤(B)とを併用する場合は、溶剤(A)と溶剤(B)の合計100重量部)に対して、例えば0.02重量部以上、好ましくは0.03重量部以上、特に好ましくは0.04重量部以上である。溶解度の上限は、例えば1重量部、好ましくは0.5重量部、特に好ましくは0.1重量部である。
【0046】
(有機半導体材料)
本発明の有機半導体デバイス製造用組成物は、有機半導体材料として、下記式(1-1)で表される化合物、及び下記式(1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種を含有する。
【化5】
(式中、X1、X2は同一又は異なって、酸素原子、硫黄原子、又はセレン原子であり、mは0又は1、n1、n2は同一又は異なって、0又は1である。R2、R3は同一又は異なって、フッ素原子、C1-20アルキル基、C6-10アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、又はチアゾリル基であり、前記アルキル基が含有する水素原子の1又は2以上はフッ素原子で置換されていても良く、前記アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、及びチアゾリル基が含有する水素原子の1又は2以上はフッ素原子又は炭素数1〜10のアルキル基で置換されていても良い)
【0047】
1、X2は同一又は異なって、酸素原子、硫黄原子、又はセレン原子であり、なかでも高いキャリア移動度を示す点で酸素原子又は硫黄原子が好ましく、特に硫黄原子が好ましい。
【0048】
mは0又は1であり、好ましくは0である。
【0049】
1、n2は同一又は異なって、0又は1であり、溶解性に優れる点で0が好ましい。
【0050】
2、R3におけるC1-20アルキル基としては、上記R1におけるC1-20アルキル基と同様の例を挙げることができる。本発明においては、なかでもC4-15アルキル基が好ましく、特に好ましくはC6-12アルキル基、最も好ましくはC6-10アルキル基である。
【0051】
2、R3におけるC6-10アリール基としては、上記R1におけるC6-10アリール基と同様の例を挙げることができる。本発明においては、なかでもフェニル基が好ましい。
【0052】
前記ピリジル基としては、例えば、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基等を挙げることができる。
【0053】
前記フリル基としては、例えば、2−フリル基、3−フリル基等を挙げることができる。
【0054】
前記チエニル基としては、例えば、2−チエニル基、3−チエニル基等を挙げることができる。
【0055】
前記チアゾリル基としては、例えば、2−チアゾリル基等を挙げることができる。
【0056】
アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、及びチアゾリル基が含有する水素原子の1又は2以上は炭素数1〜10のアルキル基で置換されていても良く、前記炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロビル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−デシル基等の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を挙げることができる。なかでも、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、特に炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。例えば、アリール基が含有する水素原子の少なくとも1つを炭素数1〜10のアルキル基で置換した基としては、例えば、トリル基、キシリル基等を挙げることができる。
【0057】
また、アリール基が含有する水素原子の少なくとも1つをフッ素原子で置換した基としては、例えば、p−フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基等を挙げることができる。
【0058】
2、R3としては、なかでも、高いキャリア移動度を有する点で、同一又は異なって、C1-20アルキル基、C6-10アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、又はチアゾリル基が好ましい。
【0059】
上記式(1-1)で表される化合物、及び上記式(1-2)で表される化合物のなかでも、特に、上記式(1-2)で表される化合物が、200℃を超える高温環境下でも結晶状態を保持することができ、熱安定性に優れる点で好ましい。
【0060】
本発明における有機半導体材料としては、特に、下記式(2)で表される化合物が好ましい。
【化6】
【0061】
上記式中、R4、R5は同一又は異なって、C1-20アルキル基、C6-10アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、又はチアゾリル基であり、上記R2、R3におけるC1-20アルキル基、C6-10アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、及びチアゾリル基と同様の例を挙げることができる。R4とR5は、なかでも、高いキャリア移動度を有する点で、同一の基であることが好ましく、特に、C1-20アルキル基、フェニル基、フリル基、又はチエニル基が好ましく、とりわけC1-20アルキル基(なかでもC4-15アルキル基が好ましく、特に好ましくはC6-12アルキル基、最も好ましくはC6-10アルキル基である)が好ましい。
【0062】
本発明における有機半導体材料としては、下記式(2-1)〜(2-6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物が高いキャリア移動度を有する点で特に好ましい。
【化7】
【0063】
上記式(1-1)で表される化合物、及び上記式(1-2)で表される化合物は、国際公開第2014/136827号に記載の製造方法等により製造することができる。また、例えば、商品名「C10−DNBDT−NW」、「C6−DNBDT−NW」(以上、パイクリスタル(株)製)等の市販品を使用することもできる。
【0064】
上記式(1-1)で表される化合物、及び上記式(1-2)で表される化合物はカルコゲン原子による架橋部分を屈曲点としてベンゼン環が両翼に連なってN字型分子構造を形成し、両末端のベンゼン環に置換基が導入された構成を有する。そのため、同程度の環数を有する直線型分子に比べて上記溶剤(A)、又は溶剤(A)と溶剤(B)の混合物に対する溶解性が高く、低温環境下でも析出し難い。
【0065】
本発明の有機半導体デバイス製造用組成物は、上記式(1-1)で表される化合物、及び上記式(1-2)で表される化合物以外の有機半導体材料を含有していても良いが、有機半導体デバイス製造用組成物に含まれる有機半導体材料全量(100重量%)における上記式(1-1)で表される化合物、及び上記式(1-2)で表される化合物の占める割合(2種以上含有する場合はその総量の占める割合)は、例えば50重量%以上(例えば50〜100重量%)、好ましくは70重量%以上(例えば70〜100重量%)、特に好ましくは80重量%以上(例えば80〜100重量%)である。
【0066】
[有機半導体デバイス製造用組成物]
本発明の有機半導体デバイス製造用組成物は、溶剤として上記溶剤(A)(必要に応じて、溶剤(A)と溶剤(B))と、有機半導体材料として式(1-1)で表される化合物、及び式(1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物を含有する。溶剤及び有機半導体材料は、何れも、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0067】
本発明の有機半導体デバイス製造用組成物は、例えば、上記溶剤(A)(必要に応じて、溶剤(A)と溶剤(B))と有機半導体材料とを混合し、空気雰囲気、窒素雰囲気、又はアルゴン雰囲気下で、70〜150℃程度の温度で0.1〜5時間程度加熱することにより調製することができる。
【0068】
本発明の有機半導体デバイス製造用組成物全量における溶剤の含有量(2種以上含有する場合はその総量)は、例えば99.999重量%以下である。その下限は、例えば90.000重量%、好ましくは93.000重量%、特に好ましくは95.000重量%であり、上限は、好ましくは99.990重量%である。
【0069】
本発明の有機半導体デバイス製造用組成物全量における溶剤(A)の含有量(2種以上含有する場合はその総量)は、例えば70〜99.97重量%である。溶剤(A)の含有量の下限は、好ましくは80重量%、特に好ましくは85重量%であり、上限は、好ましくは95重量%、特に好ましくは92重量%である。
【0070】
本発明の有機半導体デバイス製造用組成物全量における溶剤(B)の含有量(2種以上含有する場合はその総量)は、例えば0〜30重量%である。溶剤(B)の含有量の下限は、好ましくは5重量%、特に好ましくは8重量%であり、上限は、好ましくは20重量%、特に好ましくは15重量%である。
【0071】
本発明の有機半導体デバイス製造用組成物中の有機半導体材料(特に、式(1-1)で表される化合物、及び式(1-2)で表される化合物)の含有量(2種以上含有する場合はその総量)は、例えば、溶剤100重量部に対して、例えば0.02重量部以上、好ましくは0.03重量部以上、特に好ましくは0.04重量部以上である。有機半導体材料の含有量の上限は例えば1重量部、好ましくは0.5重量部、特に好ましくは0.1重量部である。
【0072】
本発明の有機半導体デバイス製造用組成物には、上記溶剤と有機半導体材料以外にも、一般的に有機半導体デバイス製造用組成物に含まれる成分(例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、ブチラール樹脂等)を必要に応じて適宜配合することができる。
【0073】
本発明の有機半導体デバイス製造用組成物は、溶剤として上記溶剤(A)(必要に応じて溶剤(A)と溶剤(B))を使用するため、比較的低温でも有機半導体材料である式(1-1)、又は式(1-2)で表される化合物を高濃度に溶解することができる。そのため、低温環境下(例えば20〜50℃、好ましくは20〜40℃)でも、印刷法等のウェットプロセスによる簡便な方法で容易に有機半導体デバイスの形成が可能であり、コストの大幅な削減が可能である。また、ガラス基板に比べて耐熱性は低いが、衝撃に強く、軽量且つフレキシブルなプラスチック基板上に有機半導体デバイスを直接形成することができ、衝撃に強く、軽量且つフレキシブルなディスプレイやコンピュータ機器を形成することができる。更に、本発明の有機半導体デバイス製造用組成物を基板上に塗布すると、組成物中に含まれる有機半導体材料が自己組織化作用により結晶化して、高いキャリア移動度(例えば0.2cm2/Vs以上、好ましくは1.0cm2/Vs以上、特に好ましくは4.0cm2/Vs以上、更にこのましくは5.0cm2/Vs以上、最も好ましくは7.0cm2/Vs以上)を有する有機半導体デバイスが得られる。更にまた、溶剤(A)や溶剤(B)は、従来使用の1,2−ジメトキシベンゼンやo−ジクロロベンゼンと比べて安全性に優れる点でも好ましい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0075】
実施例1
2−シクロペンチルシクロペンタノン50重量部と1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン50重量部とを混合して、溶剤(1)を調製した。
25℃環境下、溶剤(1)中に、有機半導体材料としての「C10−DNBDT−NW」を、有機半導体材料濃度が0.03重量%となるように混合し、窒素雰囲気、遮光条件下、100℃で3時間加熱して、有機半導体デバイス製造用組成物を得た。得られた有機半導体デバイス製造用組成物について、有機半導体材料の溶解を目視で確認した。
【0076】
溶解が確認された有機半導体デバイス製造用組成物について、−10℃/時間の速さで冷却し、各温度での有機半導体材料の溶解を目視で確認し、有機半導体材料が析出した時点の温度(℃)から、溶剤(1)に対する「C10−DNBDT−NW」の溶解性を評価した。
【0077】
実施例2〜9、比較例1、2
表1に示した溶剤を使用した以外は実施例1と同様にして有機半導体デバイス製造用組成物を調製し、有機半導体材料の溶解性を評価した。
【0078】
【表1】
【0079】
実施例10
25℃環境下、2,3−ジヒドロベンゾフラン中に、有機半導体材料としての「C12−DNBDT−NW」を、有機半導体材料濃度が0.03重量%となるように混合し、窒素雰囲気、遮光条件下、100℃で3時間加熱して、有機半導体デバイス製造用組成物を得た。得られた有機半導体デバイス製造用組成物について、有機半導体材料の溶解を目視で確認した。
【0080】
溶解が確認された有機半導体デバイス製造用組成物について、−10℃/時間の速さで冷却し、各温度での有機半導体材料の溶解を目視で確認し、有機半導体材料が析出した時点の温度(℃)から、2,3−ジヒドロベンゾフランに対する「C12−DNBDT−NW」の溶解性を評価した。
【0081】
比較例3、4
表2に示した溶剤を使用した以外は実施例10と同様にして有機半導体デバイス製造用組成物を調製し、有機半導体材料の溶解性を評価した。
【0082】
【表2】
【0083】
実施例11
25℃環境下、2,3−ジヒドロベンゾフラン中に、有機半導体材料としての「C14−DNBDT−NW」を、有機半導体材料濃度が0.03重量%となるように混合し、窒素雰囲気、遮光条件下、100℃で3時間加熱して、有機半導体デバイス製造用組成物を得た。得られた有機半導体デバイス製造用組成物について、有機半導体材料の溶解を目視で確認した。
【0084】
溶解が確認された有機半導体デバイス製造用組成物について、−10℃/時間の速さで冷却し、各温度での有機半導体材料の溶解を目視で確認し、有機半導体材料が析出した時点の温度(℃)から、2,3−ジヒドロベンゾフランに対する「C14−DNBDT−NW」の溶解性を評価した。
【0085】
比較例5、6
表3に示した溶剤を使用した以外は実施例11と同様にして有機半導体デバイス製造用組成物を調製し、有機半導体材料の溶解性を評価した。
【0086】
【表3】
【0087】
実施例及び比較例で使用した有機半導体材料と溶剤を以下に説明する。
<有機半導体材料>
・C10−DNBDT−NW:下記式(2-3)で表される化合物、商品名「C10−DNBDT−NW」、パイクリスタル(株)製
【化8】
・C12−DNBDT−NW:下記式(2-4)で表される化合物、商品名「C12−DNBDT−NW」、(株)ダイセル製
【化9】
・C14−DNBDT−NW:下記式(2-6)で表される化合物、商品名「C14−DNBDT−NW」、(株)ダイセル製
【化10】
<溶剤(A)>
・CPCPAN:2−シクロペンチルシクロペンタノン、東京化成工業(株)製
・DMTHP:1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、東京化成工業(株)製
・DHBF:2,3−ジヒドロベンゾフラン、東京化成工業(株)製
・DMTHF:2,5−ジメチルテトラヒドロフラン、東京化成工業(株)製
<溶剤(B)>
・2MOC:2−メチルオクタン、東京化成工業(株)製
・2MNO:2−メチルノナン、東京化成工業(株)製
・DHE:ヘキシルエーテル、東京化成工業(株)製
<その他の溶剤>
・DMOB:1,2−ジメトキシベンゼン、東京化成工業(株)製
・o−DCB:o−ジクロロベンゼン、東京化成工業(株)製
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の有機半導体デバイス製造用組成物は、低温環境下でも、有機半導体材料であるN字型縮環パイ共役系分子の溶解性に優れ、不溶や析出の問題を生じない。そのため、ガラス基板に比べて耐熱性は低いが、衝撃に強く、軽量且つフレキシブルなプラスチック基板にも、有機半導体デバイスを直接形成することができ、衝撃に強く、軽量且つフレキシブルなディスプレイやコンピュータ機器を形成することができる。また、印刷法を用いて有機半導体デバイスを製造することが可能であり、コストの大幅な削減が可能である。
そして、本発明の有機半導体デバイス製造用組成物を基板上に塗布すると有機半導体材料が自己組織化作用により結晶化するため、高い結晶性を有し、高いキャリア移動度を有する有機半導体デバイスを形成することができる。