(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6910722
(24)【登録日】2021年7月9日
(45)【発行日】2021年7月28日
(54)【発明の名称】パン用中種生地、パン用生地、及び製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 10/02 20060101AFI20210715BHJP
A21D 2/36 20060101ALI20210715BHJP
A21D 2/26 20060101ALI20210715BHJP
【FI】
A21D10/02
A21D2/36
A21D2/26
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-158139(P2017-158139)
(22)【出願日】2017年8月18日
(65)【公開番号】特開2019-33711(P2019-33711A)
(43)【公開日】2019年3月7日
【審査請求日】2020年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】板垣 裕之
【審査官】
村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭53−015449(JP,A)
【文献】
特開2005−110698(JP,A)
【文献】
特開2011−103854(JP,A)
【文献】
特開2016−47021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆粉を10〜25質量%、小麦粉、イースト、及び水を混合後、1〜10℃で6〜18時間発酵する工程を含むことを特徴とするパン用中種生地の製造方法。
【請求項2】
大豆粉を10〜25質量%、小麦粉、イースト、及び水を混合後、25〜30℃で0.5〜1時間発酵し、その後、1〜10℃で6〜18時間発酵することを特徴とするパン用中種生地の製造方法。
【請求項3】
前記大豆粉を15〜25質量%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のパン用中種生地の製造方法。
【請求項4】
前記小麦粉を35〜55質量%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のパン用中種生地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆粉を含有するパン用中種生地、該パン用中種生地を含有するパン用生地、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パンなどのべーカリー食品は、主食もしくは嗜好品として現在の食生活にすっかり定着した食品である。そして、近年では健康志向の高まりから、一般的なパンに不足する蛋白質、食物繊維、ミネラル等を加え、栄養的付加価値を高めたものや、低糖質化されたものが各種開発されている。
なかでも、大豆粉は古くから健康食品素材として注目されており、パン、菓子等に使用されてきた。しかしながら、パンに大豆粉を使用した場合、大豆粉を使用しない通常のパンと比べて、ボリュームが乏しかったり、食感も、ボソボソして口溶けが悪く、ふんわりとした食感(ふんわり感)が得難いという問題があった。
【0003】
大豆粉を使用したべーカリー食品に関して、これまでに、大豆粉、澱粉、こうじ粉末、砂糖、及び米粉を含有する大豆粉パン用ミックス粉(特許文献1)や、リポキシゲナーゼ力価が12単位/g以下であり、かつ平均粒径が20〜70μmである全脂大豆粉を20〜60質量%含有するベーカリー食品用ミックス(特許文献2)が報告されている。しかし、パンのボリューム、ふんわり感、及び口溶けが良い食感を同時に解決できるものは報告されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−112902
【特許文献2】特開2015−164413
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、大豆粉を使用しても、通常のパンと同等のボリュームがあり、かつ、通常のパンと同等のふんわり感と口溶けを有するパンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定量の大豆粉、小麦粉、イースト、及び水を含有する中種生地を使用した中種法で製造されたパンは、通常のパンと同等のボリュームがあり、かつ、通常のパンと同等の食感(ふんわり感、及び口溶け)となることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は以下のようなものを提供する。
(1)大豆粉を8〜25質量%、小麦粉、イースト、及び水を含有することを特徴とするパン用中種生地。
(2)前記小麦粉を35〜55質量%含有することを特徴とする(1)に記載のパン用中種生地。
(3)(1)又は(2)に記載のパン用中種生地を50〜80質量%含有することを特徴とするパン用生地。
(4)グルテンを1〜5質量%含有することを特徴とする(3)に記載のパン用生地。
(5)大豆粉を8〜25質量%、小麦粉、イースト、及び水を含有するパン用中種生地を使用することを特徴とするパン用生地の製造方法。
(6)大豆粉を8〜25質量%、小麦粉、イースト、及び水を混合後、低温発酵する工程を含むことを特徴とするパン用中種生地の製造方法。
(7)大豆粉を8〜25質量%、小麦粉、イースト、及び水を混合後、25〜30℃で0.5〜1時間発酵し、その後、1〜10℃で3〜20時間発酵することを特徴とするパン用中種生地の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、大豆粉を使用しても、通常のパンと同等のボリュームがあり、通常のパンと同等のふんわり感と口溶けを有するパンを得ることができるパン用中種生地、及び該中種生地を含有するパン用生地、ならびにそれらの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明におけるパンは、小麦粉を主原料とする生地をイーストで膨化し、焼成して得られる食品であれば、特に限定されない。具体的には、パン類(食パン、ロールパン、菓子パン、調理パン、フランスパン、ライブレッドなど)、イースト菓子(シュトーレン、パネトーネ、クグロフ、ブリオッシュ、ドーナツなど)が挙げられる。
【0010】
(パン用中種生地)
本発明のパン用中種生地は、一般的にパン製造の中種法で利用される生地であり、小麦粉、大豆粉、イースト、及び水を含有し、均一に混合後、発酵処理された生地である。
【0011】
(パン用生地)
本発明のパン用生地は、一般的にパンの中種法で製造される生地であり、中種生地に、穀粉、砂糖、塩、油脂、グルテン、水等を加え、均一に混合された生地である。
本発明のパン用生地は、本発明のパン用中種生地を50〜80質量%含有し、好ましくは55〜75質量%含有し、より好ましくは60〜70質量%含有する。パン用中種生地の含有量が上記の範囲にあると、本発明のパン用生地を焼成して得られたパンは、ボリューム感に優れ、ふんわり感があり、口溶けが良い食感となる。
【0012】
(大豆粉)
本発明に使用する大豆粉は、脱皮した丸大豆を粉砕した全脂大豆粉、脱脂大豆を粉砕した脱脂大豆粉、全脂大豆粉を加熱脱臭した脱臭全脂大豆粉やそれらの混合物が挙げられるが、大豆由来の栄養を強化できる点で全脂大豆粉を使用することが好ましく、さらに大豆臭が低減された脱臭全脂大豆粉を使用することがより好ましい。
本発明に使用する大豆粉は、本発明のパン用中種生地中に8〜25質量%、好ましくは10〜23質量%、より好ましくは15〜20質量%含有される。大豆粉の含有量が上記の範囲にあると、本発明のパン用生地を焼成して得られたパンは、大豆の栄養的な付加価値を有し、ボリューム感に優れ、ふんわり感があり、口溶けが良い食感となる。他方、大豆粉の含有量が8質量%よりも少ないと、大豆の栄養的な付加価値を損なう。
【0013】
本発明に使用する大豆粉は、本発明のパン用生地中の全穀粉中に好ましくは9〜30質量%、より好ましくは15〜25質量%含有される。大豆粉の含有量が上記の範囲にあると、本発明のパン用生地を焼成して得られたパンは、大豆の栄養的な付加価値を有し、ボリューム感に優れ、ふんわり感があり、口溶けが良い食感となる。
【0014】
(小麦粉)
本発明に使用する小麦粉は、一般的にパンの原料として使用されるものであれば、特に限定されないが、具体的には、強力粉、中力粉、薄力粉等やそれらの混合物が挙げられる。
本発明に使用する小麦粉は、本発明のパン用中種生地中に好ましくは35〜55質量%、より好ましくは37〜52質量%、最も好ましくは40〜45質量%含有される。小麦粉の含有量が上記の範囲にあると、本発明のパン用生地を焼成して得られたパンは、ボリューム感に優れる。
【0015】
本発明に使用する小麦粉は、本発明のパン用生地中の全穀粉中に好ましくは65〜85質量%、より好ましくは70〜80質量%含有される。小麦粉の含有量が上記の範囲にあると、本発明のパン用生地を焼成して得られたパンは、ボリューム感に優れ、ふんわり感があり、口溶けが良い食感となる。
【0016】
(イースト)
本発明に使用するイーストは、一般的にパンの原料として使用されるものであれば、特に限定されないが、具体的には、生イースト、ドライイースト等が挙げられる。
本発明に使用するイーストの含有量は、小麦粉等の穀粉類の含有量や発酵時間によって、適宜調整できるが、本発明のパン用中種生地中に1〜4質量%であることが好ましく、2〜3質量%であることがより好ましい。
【0017】
(水)
本発明に使用する水は、一般的にパンの原料として使用されるものであれば、特に限定されず、水分が85質量%以上である、牛乳や豆乳、及びそれらの混合物を使用することもできる。
本発明に使用する水(または牛乳や豆乳)の含有量は、小麦粉等の穀粉の含有量によって、適宜調整できるが、本発明のパン用中種生地中に30〜45質量%であることが好ましく、本発明のパン用生地中(中種生地由来の水分は除く)に8〜16質量%であることが好ましい。また、水の含有量は、本発明のパン用生地中の全穀粉100質量部に対して、60〜70質量部であることが好ましい。
【0018】
(グルテン)
本発明に使用するグルテンは、一般的にパンの原料として使用されるものであれば、特に限定されず、具体的には、生グルテン、活性グルテン、変性グルテン等が挙げられ、好ましくは小麦由来のグルテンが使用できる。
本発明に使用するグルテンの含有量は、本発明に使用する大豆粉の含有量によって、適宜調整できるが、本発明のパン用生地中に0.6〜2.5質量%であることが好ましく、1.0〜2.0質量%であることがより好ましい。
【0019】
(他の原料)
本発明のパン用中種生地、及びパン用生地は、本願発明の効果を阻害しない範囲で、穀粉、水、イースト及びグルテン以外の原料を含有してもよい。具体的には、砂糖、食塩、卵、油脂、脱脂粉乳等を含有することができる。
【0020】
本発明における穀粉とは穀類由来の粉末を指し、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉等)及び大豆粉を含有し、必要に応じて、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、グルテンから選ばれる1種又は2種以上を含有してもよい。
【0021】
(製造方法)
本発明のパン用中種生地は、一般的な中種生地の製造方法に準拠し、まず、小麦粉、大豆粉、イースト、及び水を含有する原料を均一に混合した後、発酵する。発酵は、所望の発酵の程度やイーストの含量によって適宜調整できる。発酵の条件は、例えば25〜30℃で2〜5時間が挙げられる。また、発酵は、低温発酵の工程を含むことが好ましい。ここで低温とは、1〜10℃が好ましく、1〜5℃がより好ましい。低温発酵の時間は、3〜20時間が好ましく、6〜18時間がより好ましく、10〜16時間がより好ましい。低温発酵の条件が前記の範囲にあると、本発明の効果を奏しやすい。
前記発酵は、25〜30℃での発酵の後に、続けて低温での発酵を行ってもよい。この場合、25〜30℃で0.5〜1時間発酵した後、前記の低温発酵の条件で低温発酵することが好ましい。
【0022】
本発明のパン用生地の製造方法は、一般的な中種法の製造方法に準拠する。具体的には、本発明のパン用中種生地に、穀粉、砂糖、塩、油脂、グルテン、水等を加え、均一に混合した後、発酵処理する。
【0023】
本発明のパン用生地は、通常のパンの焼成条件で焼成することで、本発明の効果を奏するパンが得られる。焼成条件は特に限定されず、パンの種類によって適宜調整できる。
【実施例】
【0024】
次に例を挙げ、本発明を詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれらの例になんら制限されるものではない。
【0025】
〔ロールパンの製造〕
表1〜5の配合に従い、表6又は7の製造条件でロールパンを製造した。なお、表中の脱臭全脂大豆粉は、アルファプラスHS600(日清オイリオグループ(株)製)を使用した。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
【表4】
【0030】
【表5】
【0031】
【表6】
【0032】
【表7】
【0033】
〔ロールパンの評価〕
得られたロールパン(対照、実施例、比較例)について、ボリュームの評価、及び官能試験(ふんわり感、口溶け感)を行った。
【0034】
(ボリュームの評価)
焼成後のロールパンのボリュームの評価は、焼成から1日後のロールパンの比容積を超高速レーザー体積計測機・非接触CCDスリットレーザースキャニング方式(商品名:Selnac−WinVM2000、株式会社アステック製)を用いて測定し、対照のロールパンの比容積に対する、実施例又は比較例のロールパンの比容積の比(=実施例又は比較例のパンの比容積÷対照のパンの比容積)を求め、下記の評価基準に従って評価した。評価結果を表1〜5に示す。
0.95以上 :◎(対照と同等)
0.90以上0.95未満:○
0.85以上0.90未満:△
0.85未満 :×(不良)
【0035】
(ふんわり感)
ふんわり感の評価は、焼成から1日後のロールパンを食した時の食感について、5人の専門パネルが下記の採点基準に従って採点をし、5人の合計点から下記の評価基準に従って評価した。評価結果を表1〜5に示す。
(採点基準)
3点:対照のロールパンと同等
2点:対照のロールパンよりも若干劣るが、1点の評価よりも良好
1点:ふんわり感を感じるが、対照のロールパンより劣る
0点:ふんわり感が無い
(評価基準)
13以上15以下:◎(非常に良好)
9以上12以下 :○(良好)
5以上8以下 :△(ふつう)
0以上4以下 :×(不良)
【0036】
(口溶け感)
口溶け感の評価は、焼成から1日後のロールパンを食した時の食感について、5人の専門パネルが下記の採点基準に従って採点をし、5人の合計点から下記の評価基準に従って評価した。評価結果を表1〜5に示す。
(採点基準)
3点:対照のロールパンと同等
2点:対照のロールパンよりも若干劣るが、1点の評価よりも良好
1点:口溶け感を感じるが、対照のロールパンより劣る
0点:口溶け感が悪い
(評価基準)
13以上15以下:◎(非常に良好)
9以上12以下 :○(良好)
5以上8以下 :△(ふつう)
0以上4以下 :×(不良)
【0037】
上記のとおり、実施例3と同じ生地配合について、ストレート法で製造したパン(比較例2)は、ボリューム、ふんわり感、及び口溶けの全てが対照のパンより明らかに劣るものであった。
他方、大豆粉を10、20、または25質量%含有する中種生地を使用して中種法で製造したパン(実施例1〜5)は、ボリューム感、ふんわり感、及び口溶けが改善した。特に、大豆粉を10または20質量%含有する中種生地を使用し、発酵条件を28℃、0.5時間発酵後、さらに、4℃、15時間発酵して中種法で製造したパン(実施例3及び4)は、ボリューム感、ふんわり感、口溶けの全てが対照のパンと同等のものであった。