(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材の少なくとも片方の表面上に、第1層としてのプライマー層を有し、さらに該プライマー層の外表面上に第2層としての剥離層を有してなるシリコーン粘着剤用剥離フィルムであって、該プライマー層が分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物を主成分とする膜厚0.5〜500nmの層からなり、かつ該剥離層が加水分解性含フッ素化合物の硬化物を主成分とする膜厚0.5〜30nmの層からなるシリコーン粘着剤用剥離フィルム。
加水分解性含フッ素化合物が、少なくとも1個の分子鎖末端に加水分解性シリル基を少なくとも1個有し、該加水分解性シリル基が、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数2〜12のアルコキシアルコキシ基、炭素数1〜10のアシロキシ基、炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、ハロゲン基又はアミノ基を有するシリル基、及びシラザン基から選ばれる基である請求項1又は2に記載の剥離フィルム。
加水分解性含フッ素化合物が、下記一般式(1)〜(5)で表されるフッ素含有加水分解性有機ケイ素化合物から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれか1項に記載の剥離フィルム。
(A−Rf)α−ZWβ (1)
Rf−(ZWβ)2 (2)
Z’−(Rf−ZWβ)γ (3)
〔式中、Rfは−(CF2)d−O−(CF2O)p(CF2CF2O)q(CF2CF2CF2O)r(CF2CF2CF2CF2O)s(CF(CF3)CF2O)t−(CF2)d−で示される2価の直鎖状パーフルオロオキシアルキレンポリマー残基であり、p、q、r、s、tはそれぞれ独立に0〜200の整数であり、かつ、p+q+r+s+t=3〜500であり、p、q、r、s、tが付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよく、dは独立に0〜8の整数であり、該単位は直鎖状であっても分岐状であってもよい。Aはフッ素原子、水素原子、又は末端が−CF3基、−CF2H基もしくは−CH2F基である1価のフッ素含有基であり、Z、Z’は独立に単結合、又は窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、リン原子もしくは硫黄原子を含んでいてもよく、フッ素置換されていてもよい2〜8価の有機基であり、Wは末端に加水分解性基を有する1価の有機基である。α、βはそれぞれ独立に1〜7の整数であり、かつ、α+β=2〜8の整数である。γは2〜8の整数である。〕
A−Rf−Q−(Y)δ−B (4)
Rf−(Q−(Y)δ−B)2 (5)
(式中、Rf、Aは前記と同じであり、Qは単結合又は2価の有機基であり、δはそれぞれ独立に1〜10の整数であり、Yは加水分解性基を有する2価の有機基であり、Bは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又はハロゲン原子である。)
基材の少なくとも片方の表面上に、分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物と溶剤を含む溶液を湿式塗布する工程と、該溶剤を乾燥させて前記基材の少なくとも片方の表面上にプライマー層を形成・積層する工程と、該プライマー層の外表面上に、加水分解性含フッ素化合物と溶剤を含む溶液を湿式塗布した後に該溶剤を乾燥させるか、又は、該溶液から溶剤を蒸発させた加水分解性含フッ素化合物を乾式塗布する工程と、該加水分解性含フッ素化合物を硬化させてプライマー層の外表面上に剥離層を形成・積層する工程とを含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の剥離フィルムの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、剥離力の経時変化が少なく、薄層でも経時による剥離層から粘着剤への移行が少なく、かつ、必要な用途に応じて軽剥離から重剥離まで、剥離力のコントロールが可能なシリコーン粘着剤用剥離フィルム、及び各種基材に安定性に優れた剥離層を湿式法又は乾式法で形成するシリコーン粘着剤用剥離フィルムの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、基材の少なくとも片方の表面上に、分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物と溶剤を含む溶液を湿式塗布する工程と、該溶剤を乾燥させて前記基材の少なくとも片方の表面上にプライマー層を形成・積層する工程と、該プライマー層の外表面上に、加水分解性含フッ素化合物と溶剤を含む溶液を湿式塗布した後に、該溶剤を乾燥させるか、又は、該溶液から溶剤を蒸発させた加水分解性含フッ素化合物を乾式塗布する工程と、該加水分解性含フッ素化合物を硬化させてプライマー層の外表面上に剥離層を形成・積層する工程とを有する方法等により得られる、各種基材の少なくとも片方の表面上に、分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物を主成分とする特定厚さのプライマー層(第1層)と、該プライマー層の外表面上に、加水分解性含フッ素化合物の硬化物を主成分とする特定厚さの剥離層(第2層)とを設けたシリコーン粘着剤用剥離フィルムが、剥離特性に優れた剥離被膜を安定して、簡便に各種基材に付与でき、さらに、上記プライマー層及び剥離層は、室温(25℃)プロセスでも塗工できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記のシリコーン粘着剤用剥離フィルム及びシリコーン粘着剤用剥離フィルムの製造方法を提供する。
〔1〕
基材の少なくとも片方の表面上に、第1層としてのプライマー層を有し、さらに該プライマー層の外表面上に第2層としての剥離層を有してなるシリコーン粘着剤用剥離フィルムであって、該プライマー層が分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物を主成分とする膜厚0.5〜500nmの層からなり、かつ該剥離層が加水分解性含フッ素化合物の硬化物を主成分とする膜厚0.5〜30nmの層からなるシリコーン粘着剤用剥離フィルム。
〔2〕
分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物が、テトラアルコキシシランの加水分解・部分縮合物である〔1〕に記載の剥離フィルム。
〔3〕
加水分解性含フッ素化合物が、少なくとも1個の分子鎖末端に加水分解性シリル基を少なくとも1個有し、該加水分解性シリル基が、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数2〜12のアルコキシアルコキシ基、炭素数1〜10のアシロキシ基、炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、ハロゲン基又はアミノ基を有するシリル基及びシラザン基から選ばれる基である〔1〕又は〔2〕に記載の剥離フィルム。
〔4〕
加水分解性含フッ素化合物が、分子中に−(CF
2)
d−O−(CF
2O)
p(CF
2CF
2O)
q(CF
2CF
2CF
2O)
r(CF
2CF
2CF
2CF
2O)
s(CF(CF
3)CF
2O)
t−(CF
2)
d−(式中、p、q、r、s、tはそれぞれ独立に0〜200の整数であり、かつ、p+q+r+s+t=3〜500であり、p、q、r、s、tが付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよく、dは独立に0〜8の整数であり、該単位は直鎖状であっても分岐状であってもよい。)で示される2価の直鎖状パーフルオロオキシアルキレンポリマー残基を有し、かつ、少なくとも1個の分子鎖末端に加水分解性シリル基を少なくとも1個有するフルオロオキシアルキレン基含有有機ケイ素化合物である〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の剥離フィルム。
〔5〕
加水分解性含フッ素化合物が、下記一般式(1)〜(5)で表されるフッ素含有加水分解性有機ケイ素化合物から選ばれる少なくとも1種である〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の剥離フィルム。
(A−Rf)
α−ZW
β (1)
Rf−(ZW
β)
2 (2)
Z’−(Rf−ZW
β)
γ (3)
〔式中、Rfは−(CF
2)
d−O−(CF
2O)
p(CF
2CF
2O)
q(CF
2CF
2CF
2O)
r(CF
2CF
2CF
2CF
2O)
s(CF(CF
3)CF
2O)
t−(CF
2)
d−で示される2価の直鎖状パーフルオロオキシアルキレンポリマー残基であり、p、q、r、s、tはそれぞれ独立に0〜200の整数であり、かつ、p+q+r+s+t=3〜500であり、p、q、r、s、tが付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよく、dは独立に0〜8の整数であり、該単位は直鎖状であっても分岐状であってもよい。Aはフッ素原子、水素原子、又は末端が−CF
3基、−CF
2H基もしくは−CH
2F基である1価のフッ素含有基であり、Z、Z’は独立に単結合、又は窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、リン原子もしくは硫黄原子を含んでいてもよく、フッ素置換されていてもよい2〜8価の有機基であり、Wは末端に加水分解性基を有する1価の有機基である。α、βはそれぞれ独立に1〜7の整数であり、かつ、α+β=2〜8の整数である。γは2〜8の整数である。〕
A−Rf−Q−(Y)
δ−B (4)
Rf−(Q−(Y)
δ−B)
2 (5)
(式中、Rf、Aは前記と同じであり、Qは単結合又は2価の有機基であり、δはそれぞれ独立に1〜10の整数であり、Yは加水分解性基を有する2価の有機基であり、Bは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又はハロゲン原子である。)
〔6〕
フッ素含有加水分解性有機ケイ素化合物が、下記に示すものである〔5〕に記載の剥離フィルム。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
【化30】
(式中、Meはメチル基であり、p1、q1、r1、s1、t1はそれぞれ独立に1〜200の整数であり、かつ、p1、q1、r1、s1、t1の合計は3〜500であり、p1、q1、r1、s1、t1が付された括弧内に示される各単位はランダムに結合されていてよい。)
〔7〕
剥離層が、加水分解性含フッ素化合物の硬化物と、無官能性含フッ素化合物とを含むものである〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の剥離フィルム。
〔8〕
基材が、樹脂、紙又は金属である〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の剥離フィルム。
〔9〕
基材の少なくとも片方の表面上に、分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物と溶剤を含む溶液を湿式塗布する工程と、該溶剤を乾燥させて前記基材の少なくとも片方の表面上にプライマー層を形成・積層する工程と、該プライマー層の外表面上に、加水分解性含フッ素化合物と溶剤を含む溶液を湿式塗布した後に該溶剤を乾燥させるか、又は、該溶液から溶剤を蒸発させた加水分解性含フッ素化合物を乾式塗布する工程と、該加水分解性含フッ素化合物を硬化させてプライマー層の外表面上に剥離層を形成・積層する工程とを含む〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の剥離フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、剥離特性に優れた剥離表面が強固に密着したシリコーン粘着剤用剥離フィルムが得られる。該剥離フィルムの製造方法は、真空プロセスや高温の加熱プロセスを必須とすることなく、湿式(刷毛塗り、スピンコート、スプレー塗装、グラビアコート、ダイコート、バーコート、スリットコート)プロセスで形成することができ、シリコーン粘着剤に対し、経時変化の少ない軽/重剥離性を示す剥離表面を与え、これまでは難しかった用途、特には、基材レスのシリコーン粘着剤シート用の異差剥離フィルムや、両面テープ等の剥離フィルム用途に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明のシリコーン粘着剤用剥離フィルムは、基材の少なくとも片方、好ましくは片方の表面上に、第1層としてのプライマー層を有し、さらに該プライマー層の外表面上に第2層としての剥離層を有してなるシリコーン粘着剤用剥離フィルムであって、該プライマー層が分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物を主成分とする膜厚0.5〜500nmの層からなり、かつ該剥離層が加水分解性含フッ素化合物の硬化物を主成分とする膜厚0.5〜30nmの層からなるものである。
【0012】
本発明は、例えば、各種基材の表面(少なくとも片方の表面)上に、分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物と溶剤を含む溶液を湿式塗布した後、該溶剤を乾燥させてプライマー層(第1層)を形成・積層し、さらに該プライマー層上に、加水分解性含フッ素化合物と溶剤を含む溶液(剥離剤)を湿式塗布した後に、該溶剤を乾燥させるか、あるいは、該溶液から溶剤を蒸発させた加水分解性含フッ素化合物を乾式塗布すると共に、加水分解性含フッ素化合物を硬化させて剥離層(第2層)を形成・積層する方法等によって、各種基材の表面上に、分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物を主成分とする膜厚0.5〜500nmのプライマー層(第1層)を有し、さらにその該表面上に加水分解性含フッ素化合物の硬化物を主成分とする膜厚0.5〜30nmの剥離層(第2層)を有するシリコーン粘着剤用剥離フィルムが得られるものである。
【0013】
本発明で適用される基材としては特に制限されないが、樹脂、紙又は金属が用いられ、具体的には、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル,ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリ塩化ビニル,ポリテトラフルオロエチレン,ポリイミド等の合成樹脂から得られるプラスチックフィルムやシート、グラシン紙,クラフト紙,クレーコート紙等の紙基材、ポリエチレンラミネート上質紙,ポリエチレンラミネートクラフト紙等のラミネート紙基材、アルミニウム箔、銅箔などの金属箔などが挙げられる。これらの中でも、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム、ポリイミドフィルムなどが好ましい。
基材の厚さとしては特に制限されないが、10〜200μmであることが好ましく、25〜125μmであることがより好ましい。なお、本発明において、基材の厚さはマイクロメーター等により測定できる。
【0014】
上記基材の少なくとも片方の表面上に形成・積層するプライマー層(第1層)は、分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物を主成分とし、好ましくは該有機ケイ素化合物を50質量%以上含有する、膜厚0.5〜500nmのものである。
該プライマー層(第1層)は、例えば、各種基材の少なくとも片方の表面上に、分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物と溶剤を含む溶液を湿式塗布した後、該溶剤を乾燥除去することにより形成(積層)することができる。
【0015】
分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物は、1分子中にシラノール基を好ましくは2個以上、より好ましくは3個以上、さらに好ましくは4個以上有するものである。分子中のシラノール基の数が少なすぎると、被膜自体が弱くなる場合がある。なお、本発明において、分子中にシラノール基を複数個(2個以上)有する有機ケイ素化合物とは、該有機ケイ素化合物中のシラノール基含有量(シラノール基濃度)が0.0001mol/g以上の有機ケイ素化合物(好ましくは、オルガノポリシロキサン化合物)であることを意味するものであり、通常、該有機ケイ素化合物中のシラノール基量は0.0001〜0.05mol/g、特に0.001〜0.04mol/g、とりわけ0.005〜0.03mol/gであることが好ましい。
【0016】
分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物は、分子中に、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、塩素原子等のハロゲン原子などの加水分解性基を複数個有する有機ケイ素化合物を加水分解・部分縮合することにより得ることができる。
【0017】
ここで、分子中に加水分解性基を複数個有する有機ケイ素化合物としては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリス−(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、トリクロロシラン、ジクロロシラン等が挙げられ、これらの2種以上を混合して用いてもよい。
【0018】
上述した加水分解性基を複数個有するオルガノシランなどの有機ケイ素化合物を加水分解した後に、部分的に脱水縮合をさせて高分子量化(部分縮合)させることにより、分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物(加水分解性基を複数個有する有機ケイ素化合物の加水分解・部分縮合物)を得ることができる。なお、本発明において、部分縮合物とは、上記加水分解性基を複数個有するオルガノシランなどの有機ケイ素化合物を加水分解してなる分子中にシラノール基(ケイ素原子に結合した水酸基)を複数有するオルガノシラン又はその誘導体を部分的に脱水縮合して得られる、分子中に残存シラノール基を複数個有するオルガノポリシロキサン化合物を意味する。
【0019】
上記分子中に加水分解性基を複数個有する有機ケイ素化合物の加水分解・部分縮合物は、重量平均分子量が、300〜100,000であることが好ましく、5,000〜50,000であることがさらに好ましい。なお、本発明において、重量平均分子量は、例えば、トルエンを展開溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算値として求めることができる(以下、同じ。)。
【0020】
本発明に用いる分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラオルガノシランの加水分解・部分縮合物が特に好ましい。
【0021】
分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物は、溶剤によって希釈することが望ましい。分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物を溶解させる溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテルやポリエチレングリコールモノプロピルエーテル等のエーテル類が好ましいが、特に限定されるものではなく、基材との濡れ性や沸点から適宜選択すればよい。
分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物と溶剤を含む溶液中における分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物の濃度は、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜2質量%がさらに好ましい。濃度が低すぎると、未塗工部分が増えてしまい、濃度が高すぎると、シラノール基同士で2次凝集が起こる可能性がある。
【0022】
また、分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物と溶剤を含む溶液には、必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、レベリング剤、消泡剤、顔料、染料、分散剤、帯電防止剤、防曇剤などの界面活性剤類等の成分を用いてもよい。なお、これらは、溶剤を除いて得られるプライマー層中の分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物が、50質量%以上(50〜100質量%)、特には80〜100質量%(即ち、上記任意の成分を50質量%以下(0〜50質量%)、好ましくは0〜20質量%)となる範囲にて添加することが好ましい。
【0023】
上記分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物と溶剤を含む溶液は、湿式塗布、特にはディッピング、刷毛塗り、スピンコート、スプレー塗装、グラビアコート、ダイコート、バーコート、スリットコート、流し塗りなどの方法で基材表面に塗布し、溶剤を乾燥させることで分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物を主成分とするプライマー層を形成できる。なお、基材に影響を与えない温度範囲で、例えば40〜500℃で1分〜24時間加熱してもよい。
【0024】
基材の少なくとも片方の表面上に形成・積層されるプライマー層(第1層)の膜厚は、基材の種類により適宜選定されるが、通常0.5〜500nmであり、好ましくは3〜200nm、特に10〜100nmである。なお、本発明において、膜厚は分光エリプソメトリーやX線反射率法等公知の方法により測定できる(以下、同じ。)。
【0025】
次に、上記プライマー層の外表面上に形成・積層する剥離層(第2層)は、加水分解性含フッ素化合物の硬化物を主成分とする、膜厚0.5〜30nmの硬化物である。
該剥離層(第2層)は、例えば、形成したプライマー層表面(第1層)の外表面上に、加水分解性含フッ素化合物と溶剤を含む溶液(剥離剤)を塗布して硬化させることにより形成(積層)することができる。
【0026】
該加水分解性含フッ素化合物としては、特開2007−197425号公報、特開2007−297589号公報、特開2007−297543号公報、特開2008−088412号公報、特開2008−144144号公報、特開2010−031184号公報、特開2010−047516号公報、特開2011−116947号公報、特開2011−178835号公報、特開2014−084405号公報、特開2014−105235号公報、特開2013−253228号公報、特開2014−218639号公報、国際公開第2013/121984号(特許文献3、6〜18)に記載の加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物等を使用することができる。
【0027】
加水分解性含フッ素化合物に関してさらに具体的に説明する。
【0028】
本発明にかかる加水分解性含フッ素化合物としては、少なくとも1個、好ましくは1〜14個、より好ましくは1〜7個の分子鎖末端に、加水分解性シリル基をそれぞれ少なくとも1個、好ましくは1〜6個、より好ましくは2〜4個有する(例えば、1分子中に加水分解性シリル基を少なくとも1個、好ましくは2〜60個、より好ましくは3〜30個有する)加水分解性含フッ素化合物であることが好ましく、該化合物は、1分子中にメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの炭素数1〜12、特に炭素数1〜10のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基などの炭素数2〜12、特に炭素数2〜10のアルコキシアルコキシ基、アセトキシ基などの炭素数1〜10のアシロキシ基、イソプロペノキシ基などの炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基又はアミノ基を有するシリル基、及びシラザン基などから選ばれる加水分解性シリル基を有し、かつ、フッ素原子を有する有機ケイ素化合物であることがより好ましい。
【0029】
該加水分解性含フッ素化合物として、好ましくは、分子中にフルオロオキシアルキレン基(即ち、1価又は2価のパーフルオロポリエーテル残基)を有する化合物であるのがよい。フルオロオキシアルキレン基とは、−C
jF
2jO−で示される繰り返し単位が複数結合された(ポリ)フルオロオキシアルキレン構造(2価の直鎖状パーフルオロオキシアルキレンポリマー残基)を有する化合物である(該構造においてjは1以上、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4の整数である)。特には、該繰り返し単位を3〜500個、好ましくは15〜200個、さらに好ましくは20〜100個、より好ましくは25〜80個有するのがよい。
【0030】
上記繰り返し単位−C
jF
2jO−は、直鎖型及び分岐型のいずれであってもよい。例えば下記の単位が挙げられ、これらの繰り返し単位の2種以上が結合されたものであってもよい。
−CF
2O−
−CF
2CF
2O−
−CF
2CF
2CF
2O−
−CF(CF
3)CF
2O−
−CF
2CF
2CF
2CF
2O−
−CF
2CF
2CF
2CF
2CF
2O−
−C(CF
3)
2O−
【0031】
上記(ポリ)フルオロオキシアルキレン構造(2価の直鎖状パーフルオロオキシアルキレンポリマー残基)は、特には、−(CF
2)
d−O−(CF
2O)
p(CF
2CF
2O)
q(CF
2CF
2CF
2O)
r(CF
2CF
2CF
2CF
2O)
s(CF(CF
3)CF
2O)
t−(CF
2)
d−であり、p、q、r、s、tはそれぞれ独立に0〜200の整数、好ましくはpは5〜100の整数、qは5〜100の整数、rは0〜100の整数、sは0〜50の整数、tは0〜100の整数であり、かつ、p+q+r+s+t=3〜500の整数、好ましくは10〜105の整数である。なお、p、q、r、s、tが付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。dは独立に0〜8の整数、好ましくは0〜5の整数、さらに好ましくは0〜2の整数であり、該単位は直鎖状であっても分岐状であってもよい。特には、下記構造で表すことができる。
【化31】
(式中、p’、q’、r’、s’、t’はそれぞれ独立に1〜200の整数であり、かつ、p’、q’、r’、s’、t’の合計は3〜500である。p’、q’、r’、s’、t’が付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。d’は独立に0〜5の整数であり、該単位は直鎖状であっても分岐状であってもよい。)
【0032】
本発明にかかる加水分解性含フッ素化合物は、より好ましくは下記一般式(1)〜(5)のいずれかで表されるフッ素含有加水分解性有機ケイ素化合物(含フッ素加水分解性有機ケイ素化合物)である。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
(A−Rf)
α−ZW
β (1)
Rf−(ZW
β)
2 (2)
Z’−(Rf−ZW
β)
γ (3)
A−Rf−Q−(Y)
δ−B (4)
Rf−(Q−(Y)
δ−B)
2 (5)
【0033】
式(1)〜(5)中、Rfは−(CF
2)
d−O−(CF
2O)
p(CF
2CF
2O)
q(CF
2CF
2CF
2O)
r(CF
2CF
2CF
2CF
2O)
s(CF(CF
3)CF
2O)
t−(CF
2)
d−で示される2価の直鎖状パーフルオロオキシアルキレンポリマー残基であり、p、q、r、s、tはそれぞれ独立に0〜200の整数であり、かつ、p+q+r+s+t=3〜500であり、p、q、r、s、tが付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよく、dは独立に0〜8の整数であり、該単位は直鎖状であっても分岐状であってもよい。Aはフッ素原子、水素原子、又は末端が−CF
3基、−CF
2H基もしくは−CH
2F基である1価のフッ素含有基であり、Z、Z’は独立に単結合、又は窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、リン原子もしくは硫黄原子を含んでいてもよく、フッ素置換されていてもよい2〜8価の有機基であり、Wは末端に加水分解性基を有する1価の有機基である。α、βはそれぞれ独立に1〜7の整数、好ましくは、αは1〜3の整数、より好ましくは1、βは1〜3の整数であり、かつ、α+β=2〜8の整数、好ましくは2〜4の整数である。γは2〜8の整数、好ましくは2又は3である。
また、Qは単結合又は2価の有機基であり、δはそれぞれ独立に1〜10の整数であり、Yは加水分解性基を有する2価の有機基であり、Bは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又はハロゲン原子である。
【0034】
上記式(1)〜(5)において、Rfは上述した(ポリ)フルオロオキシアルキレン構造(2価の直鎖状パーフルオロオキシアルキレンポリマー残基)である−(CF
2)
d−O−(CF
2O)
p(CF
2CF
2O)
q(CF
2CF
2CF
2O)
r(CF
2CF
2CF
2CF
2O)
s(CF(CF
3)CF
2O)
t−(CF
2)
d−であり、上記と同様のものが例示できる。
【0035】
上記式(1)及び(4)において、Aはフッ素原子、水素原子、又は末端が−CF
3基、−CF
2H基もしくは−CH
2F基である1価のフッ素含有基である。末端が−CF
3基、−CF
2H基もしくは−CH
2F基である1価のフッ素含有基として、具体的には、−CF
3基、−CF
2CF
3基、−CF
2CF
2CF
3基、−CH
2CF(CF
3)−OC
3F
7基が例示できる。Aとしては、中でも、−CF
3基、−CF
2CF
3基、−CF
2CF
2CF
3基が好ましい。
【0036】
上記式(1)〜(3)において、Z、Z’は、独立に単結合、又は窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、リン原子もしくは硫黄原子を含んでいてもよく、フッ素置換されていてもよい2〜8価の有機基である。該有機基は(L)
e−M(eは1〜7の整数、好ましくは1〜3の整数である)で表すことができる。
【0037】
ここで、Lは単結合、又は酸素原子、硫黄原子、もしくは2価の有機基であり、上記式(1)〜(3)において、ZのLはいずれもRf基とM基(又はW基)との連結基であり、Z’のLはM(又はRf基)とRf基との連結基である。2価の有機基として、好ましくは、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、又はジメチルシリレン基等のジオルガノシリレン基、−Si[OH][−(CH
2)
f−Si(CH
3)
3]−(fは2〜4の整数)で示される基からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含んでよい非置換又は置換の炭素数2〜12の2価有機基であり、より好ましくは前記構造を含んでよい非置換又は置換の炭素数2〜12の2価炭化水素基である。
【0038】
前記非置換又は置換の炭素数2〜12の2価炭化水素基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基(トリメチレン基、メチルエチレン基)、ブチレン基(テトラメチレン基、メチルプロピレン基)、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等のアルキレン基、フェニレン基等のアリーレン基、又はこれらの基の2種以上の組み合わせ(アルキレン・アリーレン基等)が挙げられる。さらに、これらの基の炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部をフッ素、ヨウ素等のハロゲン原子で置換した基であってもよい。中でも、非置換又は置換の炭素数2〜4のアルキレン基又はフェニレン基が好ましい。
【0039】
Lの2価の有機基としては、例えば、下記構造で示される基、又はこれらの2種以上が結合した基が挙げられる。
【化32】
【化33】
【化34】
【化35】
(式中、fは2〜4の整数であり、bは2〜6の整数、好ましくは2〜4の整数であり、u、vは1〜4の整数であり、gは2〜4の整数であり、Meはメチル基である。)
【0040】
また、Mは、単結合、又は窒素原子、ケイ素原子、炭素原子、リン原子あるいはこれらを含む基、もしくは2〜8価の有機基である。具体的には、単結合、−R
12C−で示される2価の基、−R
32Si−で示される2価の基、−NR
4−で示される2価の基、−N=で示される3価の基、−P=で示される3価の基、−PO=で示される3価の基、−R
1C=で示される3価の基、−R
3Si=で示される3価の基、−C≡で示される4価の基、−O−C≡で示される4価の基、及び−Si≡で示される4価の基から選ばれる基、又は2〜8価のシロキサン残基であり、上記式(1)〜(3)において、ZのMはいずれもL(又はRf基)とW基との連結基であり、Z’のMはLを介してRf基と連結する基である。
【0041】
上記において、R
1は互いに独立に、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基、ヒドロキシル基、ケイ素原子数2〜51のジオルガノシロキサン構造を介在していてもよい炭素数1〜3のオキシアルキレン基の繰り返し単位を有する基、又はR
23SiO−で示されるシリルエーテル基であり、R
2は互いに独立に、水素原子、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基、フェニル基等のアリール基、又は炭素数1〜3のアルコキシ基である。R
3は互いに独立に、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基、炭素数2又は3のアルケニル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、又はクロル基である。R
4は炭素数1〜3のアルキル基、フェニル基等の炭素数6〜10のアリール基である。Mがシロキサン残基の場合には、ケイ素原子数2〜51個、好ましくはケイ素原子数2〜13個、より好ましくはケイ素原子数2〜11個、さらに好ましくはケイ素原子数2〜5個の直鎖状、分岐状又は環状のオルガノポリシロキサン構造を有することが好ましい。該オルガノポリシロキサンは、炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜4のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、及びC
3F
7−C
3H
6−等の非置換もしくはフッ素置換アルキル基又はフェニル基を有するものがよい。また、2つのケイ素原子がアルキレン基で結合されたシルアルキレン構造、即ちSi−(CH
2)
n−Siを含んでいてもよい。前記式においてnは2〜6の整数であり、好ましくは2〜4の整数である。
【0042】
このようなMとしては、下記に示すものが挙げられる。
【化36】
【化37】
【化38】
【化39】
【化40】
【化41】
【化42】
(式中、iは1〜20の整数であり、cは1〜50の整数であり、Meはメチル基である。)
【0043】
上記式(1)〜(3)において、Wは末端に加水分解性基を有する1価の有機基であり、好ましくは下記式で表される。
【化43】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、Xは加水分解性基であり、aは2又は3であり、mは0〜10の整数である。)
【0044】
上記式において、Xの加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの炭素数1〜12、特に炭素数1〜10のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基などの炭素数2〜12、特に炭素数2〜10のアルコキシアルコキシ基、アセトキシ基などの炭素数1〜10のアシロキシ基、イソプロペノキシ基などの炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基、アミノ基などが挙げられる。中でもメトキシ基及びエトキシ基が好適である。
また、Rは、炭素数1〜4のメチル基、エチル基等のアルキル基、又はフェニル基であり、中でもメチル基が好適である。
aは2又は3であり、反応性、基材に対する密着性の観点から、3が好ましい。mは0〜10の整数であり、好ましくは2〜8の整数であり、より好ましくは2又は3である。
【0045】
式(1)〜(3)において、(−)
αZW
β、−ZW
βで表される構造としては、下記の構造が挙げられる。
【化44】
【化45】
【化46】
(式中、L、R、X、f、c及びaは上記の通りであり、m1は1〜10の整数、好ましくは2〜8の整数であり、Meはメチル基である。)
【0046】
上記式(4)及び(5)において、Qは単結合又は2価の有機基であり、Rf基とY基との連結基である。該Qの2価の有機基として、好ましくは、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、又はジメチルシリレン基等のジオルガノシリレン基、−Si[OH][−(CH
2)
f−Si(CH
3)
3]−(fは2〜4の整数)で示される基からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含んでよい非置換又は置換の炭素数2〜12の2価有機基であり、より好ましくは前記構造を含んでよい非置換又は置換の炭素数2〜12の2価炭化水素基である。
【0047】
前記非置換又は置換の炭素数2〜12の2価炭化水素基としては、上記Lで例示した非置換又は置換の炭素数2〜12の2価炭化水素基と同様のものを例示することができる。
【0048】
Qの2価の有機基としては、例えば、下記構造で示される基が挙げられる。
【化47】
【化48】
【化49】
【化50】
(式中、fは2〜4の整数であり、bは2〜6の整数、好ましくは2〜4の整数であり、u、vは1〜4の整数であり、gは2〜4の整数であり、Meはメチル基である。)
【0049】
上記式(4)及び(5)において、Yは、互いに独立に加水分解性基を有する2価の有機基であり、好ましくは下記式で表される構造のものである。
【化51】
(式中、R、X及びaは上記の通りである。kは0〜10の整数、好ましくは0〜8の整数である。hは1〜6の整数、好ましくは1又は2であり、M’は非置換又は置換の3〜8価、好ましくは3価又は4価の炭化水素基であり、該炭化水素基における炭素原子の一部又は全部がケイ素原子に置き換わっていてもよく、また、該炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部がフッ素原子等のハロゲン原子に置き換わっていてもよい。)
【0050】
M’として、好ましくは下記構造で表される基である。
【化52】
(上記において、M
1は単結合、炭素数1〜6の非置換もしくは置換の2価炭化水素基又はジメチルシリレン基等のジオルガノシリレン基であり、M
2は−R
1C=で示される3価の基又は−R
3Si=で示される3価の基であり、R
1、R
3は上記と同じである。R
5は水素原子又は炭素数1〜6のメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基などの1価炭化水素基である。)
【0051】
M
1としては、単結合、フェニレン基、ジメチルシリレン基、テトラフルオロエチレン基等が例示できる。また、M
2としては、下記に示すものが挙げられる。
【化53】
(式中、Meはメチル基である。)
【0052】
このようなYとしては、例えば下記の基が挙げられる。
【化54】
【0053】
【化55】
(式中、Xは上記と同じであり、k1は0〜10の整数、好ましくは0〜8の整数であり、k2は2〜10の整数、好ましくは2〜8の整数であり、Meはメチル基である。)
【0054】
上記式(4)及び(5)において、δは1〜10の整数、好ましくは1〜4の整数である。
また、Bは互いに独立に、水素原子、炭素数1〜4のメチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基等のアルキル基、又はフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子等のハロゲン原子である。
【0055】
上記式(1)〜(5)で表されるフッ素含有加水分解性有機ケイ素化合物(含フッ素加水分解性有機ケイ素化合物)として、例えば、下記構造が挙げられる。
【化56】
【化57】
【化58】
【化59】
【化60】
【化61】
【化62】
【化63】
【化64】
【化65】
【化66】
【化67】
【化68】
【化69】
【化70】
【化71】
【化72】
【化73】
【化74】
【化75】
【化76】
【化77】
【化78】
【化79】
【化80】
【化81】
【化82】
【化83】
【化84】
【化85】
(式中、Meはメチル基であり、p1、q1、r1、s1、t1はそれぞれ独立に1〜200の整数であり、かつ、p1、q1、r1、s1、t1の合計は3〜500であり、p1、q1、r1、s1、t1が付された括弧内に示される各単位はランダムに結合されていてよい。)
【0056】
本発明においては、上記一般式(1)〜(5)で表されるフッ素含有加水分解性有機ケイ素化合物(含フッ素加水分解性有機ケイ素化合物)の中でも、片末端に加水分解性基を含有する化合物を用いることがより好ましい。
なお、本発明にかかる一般式(1)〜(5)で表されるフッ素含有加水分解性有機ケイ素化合物(含フッ素加水分解性有機ケイ素化合物)は、上記加水分解性基(X)の一部又は全部が加水分解されている化合物(XがOH基である化合物)を含んでいてもよく、これらOH基の一部又は全部が縮合している化合物を含んでいてもよい。また、上記一般式(1)〜(5)で表されるフッ素含有加水分解性有機ケイ素化合物(含フッ素加水分解性有機ケイ素化合物)の中でも片末端に加水分解性基を含有する化合物を用いる場合、該片末端フッ素含有加水分解性有機ケイ素化合物の製造過程で、例えば、両末端加水分解性基含有ポリマーや無官能ポリマーが副生するが、これら片末端官能性有機ケイ素化合物以外のポリマーを含んでいてもよい。この場合、上記製造過程で副生するポリマーのうち、無官能ポリマー等の硬化に関与しない成分は、一般式(1)〜(5)で表されるフッ素含有加水分解性有機ケイ素化合物との合計中、50質量%以下(0〜50質量%)、好ましくは0〜45質量%の範囲で含有することが好ましい。
【0057】
上記加水分解性含フッ素化合物は、予め溶剤によって希釈しておくことが望ましく、このような溶剤としては、上記加水分解性含フッ素化合物を均一に溶解させるものであれば特に限定されない。例えば、フッ素変性脂肪族炭化水素系溶剤(パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタンなど)、フッ素変性芳香族炭化水素系溶剤(1,3−トリフルオロメチルベンゼンなど)、フッ素変性エーテル系溶剤(メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)など)、フッ素変性アルキルアミン系溶剤(パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミンなど)、炭化水素系溶剤(石油ベンジン、トルエン、キシレンなど)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)が挙げられる。これらの中でも、溶解性及び安定性などの点で、フッ素変性された溶剤が望ましく、特には、フッ素変性エーテル系溶剤、フッ素変性芳香族炭化水素系溶剤が好ましい。
【0058】
上記溶剤は1種を単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
溶剤は剥離剤(加水分解性含フッ素化合物と溶剤を含む溶液)中における加水分解性含フッ素化合物が0.01〜50質量%、好ましくは0.03〜10質量%、さらに好ましくは0.05〜1質量%になるように含有することが望ましい。
【0059】
上記加水分解性含フッ素化合物を含有する剥離剤(加水分解性含フッ素化合物と溶剤を含む溶液)は、ウェット塗工法(浸漬法、刷毛塗り、スピンコート、スプレー、グラビアコート、ダイコート、バーコート、スリットコート)、蒸着法など公知の方法で基材に施与することができる。塗工条件等は従来公知の方法に従えばよく、例えば、剥離剤(加水分解性含フッ素化合物と溶剤を含む溶液)を湿式塗布した後に、該溶剤を乾燥させるか、あるいは、該剥離剤(加水分解性含フッ素化合物と溶剤を含む溶液)から溶剤を蒸発させた加水分解性含フッ素化合物を乾式塗布する方法が挙げられるが、プライマー層をウェット塗工法(湿式法)で塗工、形成することから、加水分解性含フッ素化合物を含有する剥離剤(加水分解性含フッ素化合物と溶剤を含む溶液)もウェット塗工法(湿式法)で塗工する方が効率的である。
【0060】
なお、加水分解性含フッ素化合物を含有する剥離剤を塗工する前に、基材上のプライマー層表面を、プラズマ処理、UV処理、オゾン処理等の洗浄や表面を活性化させる処理を施してもよい。
【0061】
加水分解性含フッ素化合物(剥離剤)は、室温(25℃)で1〜24時間にて硬化させることができるが、さらに短時間で硬化させるために30〜200℃で1分〜1時間加熱してもよい。硬化は加湿下(50〜90%RH)で行うことが加水分解を促進する上で好ましい。
ここで、本発明のシリコーン粘着剤用剥離フィルムの第2層であるフッ素層(剥離層)は、フッ素含有加水分解性有機ケイ素化合物(含フッ素加水分解性有機ケイ素化合物)の硬化物を主成分とするものであり、該硬化物は、剥離層中50質量%以上(50〜100質量%)、特には55〜100質量%の範囲であることが好ましい。
【0062】
本発明のシリコーン粘着剤用剥離フィルムの第2層であるフッ素層(剥離層)の膜厚は、0.5〜30nmであり、特に1〜20nmが好ましい。その膜厚が厚すぎると処理剤が凝集してシリコーン粘着剤への移行成分が増え、剥離後のシリコーン粘着剤の残接(再接着力)が悪くなることがあり、薄すぎると剥離特性が十分でない場合がある。
【0063】
このようにして得られた本発明の剥離フィルムは、シリコーン粘着剤用の粘着テープ、粘着シート等の剥離フィルムとして様々な用途に使用され、各種ディスプレイの保護フィルム用途、電子部品のマスキングや粘着固定部材用途等に使用可能である。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、Meはメチル基を示す。
【0065】
[実施例1〜6及び比較例1]
〔プライマー層の形成〕
ポリエチレンテレフタレートフィルム基材(東レ株式会社製ルミラーS10、厚さ50μm、幅300mm、長さ330mm)に、テトラエトキシシランの加水分解・部分縮合物(重量平均分子量:25,000、シラノール基量:0.01mol/g)をブタノールで固形分0.5質量%に希釈した処理液にて、上記基材の片方の表面上にKコントロールコータ(型式No.202)を用い、No.1コーティングバーで塗布した後、熱風循環式乾燥器で120℃/60秒加熱して、プライマー層形成フィルムを得た。蛍光X線装置(株式会社リガク製 ZSXmini2)によるSi検出量から算出したプライマー層の平均の膜厚は約30nmであった。
【0066】
さらに、プライマー層を形成した基材のプライマー層上に、下記の方法に基づき剥離層を形成した。
【0067】
〔剥離層の形成〕
下記に示す化合物1〜5を固形分で0.1質量%になるようにフッ素変性エーテル系溶剤(Novec7200(エチルパーフルオロブチルエーテル、3M社製))で希釈した後、スプレー塗工装置(株式会社ティーアンドケー製NST−51)で上記基材のプライマー層の外表面上にスプレー塗工した。その後、80℃で30分硬化させて硬化被膜(剥離層)を形成し、剥離フィルム(試験体)を作製した。蛍光X線装置(株式会社リガク製 ZSXmini2)によるF検出量から算出した剥離層の平均の膜厚は約8〜10nmであった。
【0068】
[化合物1]
下記に示す含フッ素化合物の混合物(片末端加水分解性シリル基含有成分(片末端成分)/両末端加水分解性シリル基含有成分(両末端成分)/加水分解性シリル基非含有成分(無官能成分)の3成分系の混合物)であり、表1にこれらの組成(混合比率)を示す。
【化86】
(p1:q1=1:1、p1+q1≒46)
【0069】
[化合物2]
下記に示す含フッ素化合物の混合物(片末端加水分解性シリル基含有成分(片末端成分)/両末端加水分解性シリル基含有成分(両末端成分)/加水分解性シリル基非含有成分(無官能成分)の3成分系の混合物)であり、表1にこれらの組成(混合比率)を示す。
【化87】
(p1:q1=1:1、p1+q1≒46)
【0070】
[化合物3]
下記に示す含フッ素化合物の混合物(片末端加水分解性シリル基含有成分(片末端成分)/両末端加水分解性シリル基含有成分(両末端成分)/加水分解性シリル基非含有成分(無官能成分)の3成分系の混合物)であり、表1にこれらの組成(混合比率)を示す。
【化88】
(p1:q1=1:1、p1+q1≒46)
【0071】
[化合物4]
下記に示す含フッ素化合物の混合物(片末端加水分解性シリル基含有成分(片末端成分)/両末端加水分解性シリル基含有成分(両末端成分)/加水分解性シリル基非含有成分(無官能成分)の3成分系の混合物)であり、表1にこれらの組成(混合比率)を示す。
【化89】
(p1:q1=1:1、p1+q1≒46)
【0072】
[化合物5]
下記に示す加水分解性含フッ素化合物
【化90】
(t1≒24)
【0073】
【表1】
【0074】
〔比較例1用剥離層の形成〕
シリコーン粘着剤用剥離剤X−70−201S(信越化学工業株式会社製、付加硬化型シリコーン粘着剤用剥離剤、シラノール基量:0mol/g)4質量部を、Novec7300(スリーエムジャパン株式会社製)96質量部で希釈し、これに塩化白金酸とビニルシロキサンとの錯塩(白金濃度2質量%)0.05質量部を添加して処理液を調製した。
得られた処理液を、上記基材のプライマー層上にKコントロールコータ(型式No.202)を用い、No.1コーティングバーで塗布した後、熱風循環式乾燥器で150℃/60秒加熱して硬化被膜(塗工量≒0.3g/m
2)を形成させ、剥離フィルム(試験体)を得た。なお、蛍光X線装置(株式会社リガク製 ZSXmini2)によるSi検出量から算出したプライマー層の平均の膜厚は約30nmであった。
【0075】
上記で得られた剥離フィルム(試験体)を用いて、以下の方法により各種評価を行った。これらの結果を表2及び表3に示す。
【0076】
〔剥離力〕
得られた剥離フィルムに幅25mmのシリコーン系粘着テープカプトンNo.650S#25、株式会社寺岡製作所製)を貼り合せ、25g/cm
2の荷重下、70℃で1日〜21日間貼り合せエージングさせた。引張り試験機を用いて貼り合せテープを180度の角度で剥離速度0.3m/分で剥がし、剥離に要する力(N/25mm)を測定した。
【0077】
〔再接着力〕
上記剥離測定後の粘着テープをSUS板に貼り付け、2kgテープローラー1往復で圧着し30分放置後、この粘着テープを引張り試験機を用いて180度の角度で剥離速度0.3m/分で剥がし、剥離に要する力(N/25mm)を測定した。
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
表2の結果から明らかなように、比較例1に比べ実施例1は、軽剥離性に優れ、かつ、剥離力の経時変化が少ないことがわかる。また、表3の結果から明らかなように、剥離層(第2層)を構成する加水分解性含フッ素化合物の種類を適宜選択することで、適宜目的に応じた軽/重剥離特性が得られることがわかる。