【実施例】
【0065】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0066】
[実施例1]イノシン酸ナトリウム、及びイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの混合物の発酵促進効果の評価
本実施例では、イノシン酸ナトリウムと、イノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物の2種の被験物質について、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus又はS. thermophilus)に対する発酵促進効果を調べた。
【0067】
上記被験物質を、それぞれ、UHT殺菌乳(UHT法(超高温殺菌法)で殺菌した牛乳;130℃、2秒殺菌)に添加し、43℃に加温した。イノシン酸ナトリウムは、0.0001%、0.0002%、0.0004%、0.001%、又は0.002%(それぞれ、%(wt/wt))で、イノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物は0.0001%、0.0002%、0.0005%、又は0.001%(それぞれ、%(wt/wt))でUHT殺菌乳に添加した。加温後のUHT殺菌乳に、ストレプトコッカス・サーモフィルスOLS3059株(受託番号FERM BP-10740)をスターターとして1%(vol/wt)(菌体濃度で1〜2×10
7cfu/mL)の接種量で接種して43℃で発酵を開始した。対照として、上記被験物質を添加していないUHT殺菌乳での発酵も実施した。なお、S. thermophilus OLS3059株はMRS(Difco)を用いて37℃で16時間の培養により得た菌体を使用した。MRSでの培養後、遠心分離(8000 g × 5分)で菌体を回収し、0.8%の食塩水に菌体を懸濁して得られた菌液(菌体濃度1〜2×10
9cfu/mL)をスターターとした。S. thermophilusを用いる以降の実施例では、特に記載の無い限り、同じ方法で調製したS. thermophilus菌液をスターターとして使用している。
【0068】
発酵液のpHを経時的に測定した。乳酸菌培養培地や発酵液におけるpHの低下は、乳酸菌の発酵に伴う乳酸産生量の増加を意味し、乳酸菌の発酵の進行度の指標として用いられている。測定結果を
図1及び
図2に示す。
【0069】
イノシン酸ナトリウムは、添加率0.0001%(wt/wt)でも、対照と比較したpH低下が認められ、発酵促進効果を示した。さらに、添加率の上昇に伴い、イノシン酸ナトリウムの発酵促進効果は増大した(
図1)。イノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物は、この試験では、添加率0.0002%(wt/wt)以上で発酵促進効果を示し、添加率の上昇に伴い、発酵促進効果も増大した(
図2)。
【0070】
このことから、イノシン酸、及びイノシン酸とグアニル酸の1:1混合物は、S. thermophilusに対する発酵促進効果を有することが示された。
【0071】
次に、これらの被験試料をさらに高濃度で使用した場合の発酵促進効果を調べた。イノシン酸ナトリウムを0.1%、0.5%、又は1%(wt/wt)で、イノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物を0.1%、又は1%(wt/wt)でUHT殺菌乳に添加した。その結果、UHT殺菌乳のpHが上昇したため、乳酸を用いてUHT殺菌乳のpHを6.5付近に調整してから、上記と同様の方法で発酵を行った。
【0072】
発酵液のpHを経時的に測定した結果、イノシン酸ナトリウム、及びイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物は共に、高い添加率0.1〜1%(wt/wt)でも明確な発酵促進効果を示した(
図3、
図4)。
【0073】
[実施例2]プリン塩基、ピリミジン塩基、及びそれらの誘導体の発酵促進効果の評価
実施例1でイノシン酸、及びイノシン酸とグアニル酸の1:1混合物のS. thermophilusに対する発酵促進効果が示されたことから、他のプリン体についても、S. thermophilusに対する発酵促進効果を調べた。
【0074】
以下の試験では、各被験物質(プリン体)を10 mMとなるように0.1N NaOH溶液に溶解した溶液を、UHT殺菌乳中の各被験物質の濃度が0.05 mmol/kgとなる量でUHT殺菌乳に添加することにより、被験物質を添加したUHT殺菌乳を調製した。また対照として、被験物質(プリン体)を添加していないUHT殺菌乳での発酵も実施した。
【0075】
まず、プリン塩基であるアデニン、及びその誘導体であるアデノシン、デオキシアデノシン、及びアデニル酸(アデノシンモノリン酸;AMP)を被験物質として添加したUHT殺菌乳を、43℃に加温した後、S. thermophilus OLS3059株をスターターとして1%(vol/wt)接種して、43℃で発酵を開始した。発酵液のpHを経時的に測定した。測定結果を
図5に示す。その結果、アデニン、アデノシン、デオキシアデノシン、及びAMPは全て、顕著な発酵促進効果を示した(
図5)。
【0076】
続いて、プリン塩基であるヒポキサンチン、及びその誘導体であるイノシン、デオキシイノシン、イノシン酸(イノシンモノリン酸;IMP)を被験物質として用いて、上記のアデニン等の場合と同様の方法で発酵促進効果を試験した。測定の結果、
図6に示すように、ヒポキサンチン、イノシン、デオキシイノシン、IMPは全て、顕著な発酵促進効果を示した(
図6)。
【0077】
また、プリン塩基であるグアニン、その誘導体であるグアノシン及びデオキシグアノシン、またキサンチン、及び尿酸を被験物質として用いて、上記と同様の方法で発酵促進効果を試験した。その結果、
図7及び
図8に示すように、これらの化合物は発酵促進効果を示さなかった。
【0078】
さらに、ピリミジン塩基であるシトシン、ウラシル、チミン、及びその誘導体であるシチジン、ウリジン、チミジンを被験物質として用いて、上記と同様の方法でS. thermophilusに対する発酵促進効果を試験した。その結果、
図9に示すように、シトシン、ウラシル、チミン、シチジン、ウリジン、及びチミジンは全て、発酵促進効果を示さなかった(
図9)。
【0079】
[実施例3]各種ストレプトコッカス・サーモフィルス株に対する発酵促進効果
イノシン酸をUHT殺菌乳に0.05 mmol/kgとなるように添加し、43℃に加温した。加温後のUHT殺菌乳にS. thermophilus株を1%(vol/wt)接種して43℃で発酵を開始した。
【0080】
S. thermophilus株としては、S. thermophilus OLS3059株(受託番号FERM BP-10740)、S. thermophilus OLS3294株(受託番号NITE P-77)、S. thermophilus OLS3289株(ATCC 19258)、S. thermophilus OLS3469株(IFO 13957 / NBRC 13957)、S. thermophilus OLS3058株、及びS. thermophilus OLS3290株(受託番号FERM BP-19638)の6株を個別に用いた。
【0081】
なお、S. thermophilus 6株の調製は、実施例1に記載したS. thermophilus OLS3059株の調製法に準じて行った。また同等の菌数が添加されるように、OLS3059株とOLS3294株は1%(vol/wt)、OLS3289株、OLS3469株、OLS3058株は1.5%(vol/wt)、OLS3290株は3%(vol/wt)の量でUHT殺菌乳に接種した。
【0082】
また対照として、イノシン酸を添加していないUHT殺菌乳での発酵も実施した。
発酵液のpHを経時的に測定(モニタリング)した。測定結果を
図10〜15に示す。試験した全てのS. thermophilus株に対してイノシン酸の発酵促進効果が認められた。
【0083】
このことから、イノシン酸は、各種S. thermophilus株に対して発酵促進効果を発揮することが示された。
【0084】
[実施例4]S. thermophilus とL. bulgaricusの混合発酵における発酵促進効果
本実施例では、ヨーグルトの製造に用いられる菌種ストレプトコッカス・サーモフィルス(S. thermophilus)とラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus; 以下、L. bulgaricusとも称する)をスターターとして用いた混合培養(共培養)における、プリン体のS. thermophilusに対する発酵促進効果を試験した。
【0085】
被験物質としては、イノシン酸ナトリウム(イノシン酸Na)、及びイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物を用いた。
【0086】
2種類のスターターを用いた。1つ目のスターター(スターターA)は、S. thermophilus OLS3059株とL. bulgaricus OLL1073R-1株(受託番号FERM BP-10741)を混合して高濃度に培養し、凍結して得たものである。2つ目のスターター(スターターB)は、S. thermophilus OLS3294株とL. bulgaricus OLL1255株(受託番号NITE BP-76)を混合して高濃度に培養し、凍結して得たものである。これらのスターターを、表2の配合比に従って調製した発酵ベースに接種した。具体的にはUHT殺菌乳、脱脂粉乳、ショ糖、ステビア及び水(表2)を混合して発酵ベースを調製し、95℃で殺菌した。その後、試験群の発酵ベースにはイノシン酸ナトリウム(イノシン酸Na)、又はイノシン酸Naとグアニル酸ナトリウム(グアニル酸Na)の1:1混合物を添加し、さらにスターターを0.05%(vol/wt)接種した。対照群の発酵ベースにはスターターを0.15%(vol/wt)接種した。スターターの接種後、43℃で発酵を開始した。
【0087】
【表2】
【0088】
発酵開始後、発酵液の酸度を経時的に測定した。具体的には、発酵液9gにフェノールフタレインを0.5 mL添加した後、0.1N NaOHを発酵液が薄く赤色に呈色するまで添加することにより中和滴定を行い、要した0.1N NaOHの全量が乳酸量に相当するものとみなして発酵液中の乳酸濃度(%)を算出し、それを酸度(%)とした。
【0089】
また、発酵開始後の発酵液中のL-乳酸濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて経時的に測定した。用いたHPLC測定条件を表3に示す。
【0090】
【表3】
【0091】
測定結果を
図16〜19に示す。イノシン酸ナトリウム、又はイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物を使用した場合、スターターA(
図16)及びスターターB(
図17)のいずれを用いた場合でも、スターターを対照群の1/3量しか接種していないにもかかわらず、対照群と比較して発酵液の酸度の上昇が示され、発酵が促進されたことが示された。さらに、イノシン酸ナトリウム、又はイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物を使用した場合、スターターA(
図18)及びスターターB(
図19)のいずれを用いた場合でも、対照群と比較してL-乳酸の産生が促進されたことが示された。S. thermophilusはL-乳酸、L. bulgaricusはD-乳酸を産生することが知られている(微生物, Vol.6, No.1, p2-3 (1990);モダンメディア, Vol.57, No.10, p277-287 (2011))。L-乳酸濃度の測定により、S. thermophilus とL. bulgaricusの混合発酵時においてもS. thermophilus単独による発酵量を確認することができる。したがってL-乳酸の産生が促進されたという結果は、S. thermophilus とL. bulgaricusの混合発酵(混合培養)においても、S. thermophilusによる発酵が促進されたことを意味する。
【0092】
このことから、プリン体は、S. thermophilusとL. bulgaricusの混合発酵において、少なくともS. thermophilusの発酵を促進することが明らかとなった。
【0093】
[実施例5]イノシン酸ナトリウムのヨーグルト発酵における風味への影響
被験物質としてイノシン酸ナトリウムを用いて、表4の配合比に従ってヨーグルトを製造した。具体的には、表4中の酵母エキス、イノシン酸ナトリウム及びスターター以外の成分を混合してヨーグルトベースを調製し、95℃で殺菌した後、イノシン酸ナトリウムを添加した(イノシン酸ナトリウム群)。風味の比較のため、イノシン酸ナトリウムの代わりに発酵促進物質として知られている酵母エキスを添加した試験群(酵母エキス群)、イノシン酸ナトリウムも酵母エキスも添加しない対照群も用意した(表4)。これらはスターター接種前に90℃で殺菌した。
【0094】
【表4】
【0095】
L. bulgaricus OLL1255株(受託番号NITE BP-76)とS. thermophilus OLS3294株(受託番号NITE P-77)を混合して高濃度に培養し、凍結して得た凍結スターターを用意した。このスターターを、酵母エキス群とイノシン酸ナトリウム群には0.05%(vol/wt)、対照群には0.15%(vol/wt)接種した。スターター接種後、43℃で発酵液の酸度が0.75%になるまで発酵させ、その後、5℃で冷却し、ヨーグルトを調製した。
【0096】
調製したヨーグルトの風味の評価を、ヨーグルトの官能に長けた5人のパネラーで実施した。ヨーグルトについて、カード物性、酸味、甘味、雑味の各評価項目を5段階評価で評点を付け、各評価項目の対照群の平均評点を1とした場合の酵母エキス群とイノシン酸ナトリウム添加群の平均評点の相対値を算出した。物性の評価は「滑らかさ」と「硬さ」を考慮して評価した。結果を表5に示す。
【0097】
【表5】
【0098】
その結果、これらのヨーグルトに関して、物性、酸味、甘味では差はほとんど見られなかった。雑味は、酵母エキス群のヨーグルトが明らかに劣っていた。一方、イノシン酸ナトリウム群のヨーグルトでは雑味に関して対照群との差はなかった。雑味に関する評価内訳を見ても、酵母エキスを添加して調製したヨーグルトでは明らかに雑味を感じたパネラーが3人いたが、イノシン酸ナトリウムを添加して調製したヨーグルトでは、酵母エキスもイノシン酸ナトリウムも添加せずに調製したヨーグルト(対照)と同様に、雑味を感じたパネラーは1人もいなかった。このようにヨーグルトの風味にほとんど悪影響を与えない点で、イノシン酸ナトリウムは、酵母エキスよりも優れていた。
【0099】
なお、イノシン酸ナトリウム又は酵母エキスを添加した場合のヨーグルトの発酵では、対照の1/3量しかスターターを接種しなかったにもかかわらず、対照よりも、発酵終了までの時間が2時間以上も短縮された。このことは、イノシン酸ナトリウムがヨーグルト生産のための発酵も顕著に促進することを示している。
【0100】
[実施例6]スターターに対するプリン体の凍結保護効果の評価
本実施例では、S. thermophilus とL. bulgaricusの混合スターターに添加したプリン体が凍結保護効果を有するかどうかを調べた。プリン体としてはイノシン酸ナトリウム、及びイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物を用いた。
【0101】
S. thermophilus OLS3059株とL. bulgaricus OLL1073R-1株を混合して高濃度培養し、凍結して得た凍結スターター、及びS. thermophilus OLS3294株とL. bulgaricus OLL1255株を混合して高濃度培養し、凍結して得た凍結スターターを使用した。これらの凍結スターターを解凍し、それぞれを以下の3群に分けて、プリン体を添加するか又は添加せずに再凍結した。
【0102】
1) 解凍スターターに何も添加せずにそのまま再凍結(対照)
2) 解凍スターターにイノシン酸ナトリウムを2.8%(wt/wt)添加し、再凍結
3) 解凍スターターにイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物を2.8%(wt/wt)添加し、再凍結
【0103】
続いて、1)〜3)群で得られた再凍結スターターを用いて発酵を行い、スターターの発酵能を調べた。発酵ベースは表6の配合比に従い、イノシン酸ナトリウム及びイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物以外の成分を混合し、95℃で殺菌した後、イノシン酸ナトリウム又はイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物を添加することによって調製した。1)の凍結スターターを、表6のB及びCの配合比に従って調製した発酵ベースに0.05%(vol/wt)接種し、発酵を行った。また、2)又は3)の凍結スターターを、表6のA)の配合比に従って調製した発酵ベースに0.05%(vol/wt)接種し、43℃で発酵を開始した。なお、凍結スターター1)と配合比Bの組合せ(発酵ベースにイノシン酸ナトリウム添加)、凍結スターター2)と配合比Aの組合せ(スターター凍結時にイノシン酸ナトリウム添加)は、いずれも発酵開始時のイノシン酸ナトリウム濃度が0.0014%(wt/wt)である。同様に凍結スターター1)と配合比Cの組合せ(発酵ベースにイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物を添加)、凍結スターター3)と配合比Aの組合せ(スターター凍結時にイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物を添加)も、発酵開始時のプリン体濃度が同じである。
【0104】
【表6】
【0105】
発酵開始後、発酵液の酸度を経時的に測定した。測定結果を
図20〜23に示す。S. thermophilus OLS3059株とL. bulgaricus OLL1073R-1株の混合凍結スターターを用いた試験において、凍結スターター1)と配合比Bの組合せと、凍結スターター2)と配合比Aの組合せの間で発酵レベルにほとんど差異はなかった(
図20)。また凍結スターター1)と配合比Cの組合せと、凍結スターター3)と配合比Aの組合せの間でも発酵レベルにほとんど差異はなかった(
図21)。同様に、S. thermophilus OLS3294株とL. bulgaricus OLL1255株の混合凍結スターターを用いた試験においても、凍結スターター1)と配合比Bの組合せと、凍結スターター2)と配合比Aの組合せの間で発酵レベルにほとんど差異はなかった(
図22)。また凍結スターター1)と配合比Cの組合せと、凍結スターター3)と配合比Aの組合せの間でも発酵レベルにほとんど差異はなかった(
図23)。
【0106】
以上の結果から、イノシン酸ナトリウムや、イノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物は、発酵ベースに添加した場合でも、凍結スターターに添加した場合でも、発酵に対する効果は同等であることが示された。もし、イノシン酸ナトリウムや、イノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物が乳酸菌に対する凍結保護効果を発揮するのであれば、それを凍結スターターに添加した群では、発酵ベースに添加した群と比較して、発酵がより促進されると考えられる。しかし
図20〜23に示されるとおり、それらの発酵レベルに差はなかったことから、イノシン酸ナトリウムや、イノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物は、乳酸菌に対する凍結保護作用を有さないことが示された。
【0107】
[実施例7]アデノシン又はイノシンとグアノシンとの混合物の発酵促進効果
被験物質として、各種混合比率のアデノシンとグアノシンの混合物、又は各種混合比のイノシンとグアノシンの混合物を用いた点以外は、実施例2と同様の方法で、S. thermophilusに対する発酵促進効果を調べた。
【0108】
用いた被験物質は、アデノシンとグアノシンを、10:0(アデノシン単独)、7:3、5:5、及び3:7の混合比率(重量比)で調製したもの、並びにイノシンとグアノシンを、10:0(イノシン単独)、7:3、5:5、及び4:6の混合比率(重量比)で調製したものである。なお被験物質は、双方の化合物の合計濃度が0.05 mmol/kgとなる量でUHT殺菌乳に添加した。
【0109】
これらの被験物質存在下でのS. thermophilusの発酵において、発酵液のpHを経時的に測定した結果を
図24(アデノシン及びグアノシン)及び
図25(イノシン及びグアノシン)に示す。グアノシンの混合比率が増加するにつれて、発酵促進効果は低下したことから、グアノシンはS. thermophilusに対する発酵促進効果を示さず、アデノシン及びイノシンは濃度依存的に発酵促進効果を示すことが確認された。
【0110】
[実施例8]S. thermophilus以外の乳酸菌に対するイノシン酸ナトリウムの発酵促進効果−1
表7に示すラクトバチルス(Lactobacillus)属菌、ラクトコッカス(Lactococcus)属菌、ロイコノストック(Leuconostoc)属菌の発酵における、イノシン酸ナトリウム(イノシン酸Na)の発酵促進効果を調べた。発酵はUHT殺菌乳を用いて43℃で行い、イノシン酸ナトリウムを濃度0.002%(wt/wt)で添加した。スターター(菌体懸濁液)は各菌株を実施例1と同様の方法で調製した。スターターは1%(vol/wt)の接種量で接種した。それ以外は実施例1と同様にして発酵促進効果の評価を行った。
【0111】
【表7】
【0112】
その結果、供試した全ての株に関して、イノシン酸ナトリウムの添加による発酵促進効果が認められた(
図26〜28)。
【0113】
[実施例9]S. thermophilus以外の乳酸菌に対するイノシン酸ナトリウムの発酵促進効果−2
表8に示す乳酸菌株の発酵におけるイノシン酸ナトリウムの発酵促進効果を調べた。発酵はカゼイン分解ペプチド(FrieslandCampaina社、Hyvital
(R) Casein CMA 500)を0.2%(wt/wt)添加したUHT殺菌乳を用いて43℃で行い、イノシン酸ナトリウムを0.002%(wt/wt)(UHT殺菌乳とカゼイン分解ペプチドの合計量に対する%;以下の実施例において同じ)で添加した。また、スターターの調製法及び接種量(%)は実施例1に記載したとおりである。カゼイン分解ペプチドは、アミノ酸の補充のために加えた。それ以外は実施例1と同様にして発酵促進効果の評価を行った。
【0114】
【表8】
【0115】
その結果、供試した全ての株に関して、イノシン酸ナトリウムの添加による発酵促進効果が認められた(
図29〜31)。
【0116】
[実施例10]Lactobacillus delbrueckii菌株に対するイノシン酸ナトリウムの発酵促進効果
表9に示すLactobacillus delbrueckii菌株の発酵におけるイノシン酸ナトリウム(イノシン酸Na)、及びイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物(1:1混合物とも称する)の発酵促進効果を調べた。発酵はカゼイン分解ペプチド(FrieslandCampaina社、Hyvital
(R) Casein CMA 500)を0.2%(wt/wt)添加したUHT殺菌乳を用いて43℃で行い、イノシン酸ナトリウムを0.002%(wt/wt)、又はイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物を0.025%(wt/wt)添加した。スターターの調製法及び接種量(%)は実施例1に記載したとおりである。それ以外は実施例1と同様にして発酵促進効果の評価を行った。
【0117】
【表9】
【0118】
その結果、供試した全ての株に関して、イノシン酸ナトリウム、又はイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物の添加による発酵促進効果が認められた(
図32〜34)。
【0119】
[実施例11]Lactobacillus種に対するイノシン酸ナトリウム、及びイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物の発酵促進効果
表10に示すLactobacillus acidophilus及びLactobacillus johnsonii菌株の発酵におけるイノシン酸ナトリウム、及びイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物の発酵促進効果を調べた。発酵はカゼイン分解ペプチド(FrieslandCampaina社、Hyvital
(R) Casein CMA 500)を0.2%(wt/wt)添加したUHT殺菌乳を用いて43℃で行い、イノシン酸ナトリウムを0.002%(wt/wt)、又はイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物を0.025%(wt/wt)添加した。スターターの調製法及び接種量(%)は実施例1に記載したとおりである。それ以外は実施例1と同様にして発酵促進効果の評価を行った。
【0120】
【表10】
【0121】
その結果、供試した全ての株に関して、イノシン酸ナトリウム、又はイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物の添加による発酵促進効果が認められた(
図35)。
【0122】
[実施例12]各種乳酸菌株に対する、アデニル酸、及びイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物の発酵促進効果
表11に示すLactobacillus種の菌株、表12に示すLactococcus種及びLeuconostoc種の菌株の発酵におけるアデニル酸(AMP)、及びイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物(1:1混合物とも称する)の発酵促進効果を調べた。なお、本実施例で使用する菌株は実施例8〜11のいずれかで使用した株である。発酵はカゼイン分解ペプチド(FrieslandCampaina社、Hyvital
(R) Casein CMA 500)を0.2%(wt/wt)添加したUHT殺菌乳を用いて43℃で行い、アデニル酸を0.05 mmol/kg (約0.00174%(wt/wt))、又はイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物を0.025%(wt/wt)添加した。スターターの調製法及び接種量(%)は実施例1に記載したとおりである。それ以外は実施例1と同様にして発酵促進効果の評価を行った。
【0123】
【表11】
【0124】
【表12】
【0125】
その結果、供試した全ての株に関して、アデニル酸、又はイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムの1:1混合物の添加による発酵促進効果が認められた(
図36〜39)。