(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記被覆層は、隣接する前記ガラス繊維間に隙間を有し、前記光ファイバの長手方向に垂直な断面における前記光ファイバのコアの面積が、前記隙間の面積の26倍以上260万倍以下である請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の光ファイバ被覆構造体。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
実施形態を、以下に図面を参照しながら説明する。ただし、以下に示す形態は、本実施形態の技術思想を具現化するための光ファイバ被覆構造体および発光装置を例示するものであって、以下に限定するものではない。また、実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置などは、特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさ、位置関係などは、説明を明確にするため誇張していることがある。また、以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており詳細説明を適宜省略する。
【0012】
≪発光装置≫
まず、実施形態に係る発光装置について説明する。
図1A〜
図1Cに示すように、発光装置100は、レーザ光源10と、レーザ光源10から出射された光を伝搬する光ファイバ被覆構造体20と、光ファイバ被覆構造体20の先端に設けられた保護部材30と、を備える。なお、
図1Aでは、光ファイバ1の状態がわかるように、一部を透過させて図示している。
【0013】
発光装置100は、側面漏光式光ファイバを用いたものである。側面漏光式光ファイバは、レーザ光源10から出射された光を透過させることで、レーザ光源10から出射された光を側面から漏光しながら伝搬する光ファイバである。したがって、
図2に示すように、発光装置100は、光ファイバ被覆構造体20の全周から、後述する被覆層を透過した光16が放出されて発光する。また、発光装置100は、細くて柔軟性があり、自在に曲げることができる。そのため、発光装置100は、容易に任意の形状とすることができ、小型化を図ることができる。
【0014】
(レーザ光源)
レーザ光源10は、光ファイバ被覆構造体20の光ファイバ1に、光を出射するものである。レーザ光源10としては、例えば、LD(レーザダイオード)を用いることができる。LDを使用することにより、初期駆動特性に優れ、振動やオン・オフ点灯の繰り返しに強く、小型で発光出力の高い照明装置とすることができる。特に、LDは、LED(発光ダイオード)に比較して光密度が高いので、容易に輝度を向上させることができる。
【0015】
レーザ光源10は1つのみならず2つ以上用いることもできる。レーザ光源10を複数用いることにより、光量を増加させ、高輝度化することができる。
【0016】
具体的には、レーザ光源10として青色LD(ピーク波長430〜480nm)を用いることができる。この場合、青色LDの他に(蛍光体を励起しない)赤色LD(ピーク波長620〜700nm)を用いることもできる。これにより、赤色成分を補うことができるので、演色性が高く、色再現性に富む照明装置を提供することができる。
【0017】
(保護部材)
保護部材30は、光ファイバ被覆構造体20の先端を保護するとともに、光ファイバ先端からのレーザ光を遮光する部材であり、また、光ファイバ被覆構造体20の先端を閉口させる部材である。保護部材30としては、例えば、アルミニウム、銀、銅、鉄などの金属または、これらの合金、あるいは耐熱性に優れたセラミックなどを用いることができる。なお、保護部材30を用いずに、後述する被覆層2により、光ファイバ被覆構造体20の先端を閉口させてもよい。
【0018】
≪光ファイバ被覆構造体≫
次に、実施形態に係る光ファイバ被覆構造体20について説明する。
図1A〜
図1Cに示すように、光ファイバ被覆構造体20は、光ファイバ1と、被覆層2と、を有する。
【0019】
(光ファイバ)
光ファイバ1は、レーザ光源10から出射された光を伝搬し、外部へ放出するためのものである。
光ファイバ1は、断面の中心部(コア)と、コアを取り囲む周辺部(クラッド)と、を有する。光ファイバ1は、石英ガラスやプラスチックを材料とし、コアの屈折率をクラッドの屈折率より高くすることで、光を減衰させることなく送ることができる。
【0020】
コアの直径は、50μm以上400μm以下とすることが好ましい。コアの直径を50μm以上とすることで、レーザ光源10からの光を効率よく取りこむことができる。また、コアの直径を400μm以下とすることで、湾曲性に富むため設計の自由度を持たせることができる。
【0021】
光ファイバ1の長さは、用途によって変更することができる。光ファイバ1の長さは、0.5m以上とすることが好ましい。光ファイバ1の長さを0.5m以上とすることで、光ファイバ1によって照射できる範囲を広くし易くなる。なお、長い光ファイバを用いることで、細くて柔軟性があり、かつ長い線状照明が可能となるため、光ファイバ1の長さは長いほうが好ましい。ただし、経済性などの観点から、上限は、例えば、100mとすればよい。
【0022】
(被覆層)
被覆層2は、光ファイバ1を取り囲み、光ファイバ1を被覆する部材である。被覆層2は、ガラス繊維11が集合したガラス繊維層を有する。
ガラス繊維層は、ガラス繊維11を編組した構造を有しており、具体的には、
図3に示すように、ガラス繊維11の複数の束12を編組した構造を有している。編組した構造とは、ガラス繊維11を細かく組み合わせて編んだ構造をいう。例えば、組紐状の構造が挙げられる。
【0023】
図4A、
図4Bに示すように、光ファイバ1を伝搬する光は、光ファイバ1を透過し、さらに、被覆層40,2を透過して外部に放出される。この光ファイバ1を透過した光15および被覆層40,2を透過した光16は、低エネルギー密度となる。
【0024】
図4Aに示すように、樹脂からなる被覆層40を用いると、例えば、光ファイバ1の破損部位からレーザ光17が光ファイバ1を透過することなく直接漏れた場合、この光ファイバ1から直接漏れたレーザ光17は、狭角光であり、高エネルギー密度であることから、レーザ光17が樹脂を損傷させる恐れがある。そのため、被覆層40の損傷部位から、レーザ光17が直接外部に漏れる恐れがある。特に近年においては、レーザ光の出力を高めたレーザ光源10が用いられることから、光ファイバ1の破損部位から漏れたレーザ光17により、樹脂が損傷し、高エネルギー密度のレーザ光17が直接外部に漏れる恐れが高い。また、レーザ光17が直接外部に漏れない場合でも、光ファイバ1の破損部位から漏れたレーザ光17が樹脂を透過する場合、樹脂を透過した光はエネルギー密度が高くなり易い。
【0025】
これに対し、
図4Bに示すように、被覆層2がガラス繊維層を有していると、光ファイバ1の破損部位から漏れたレーザ光17は、被覆層2を損傷させることなく被覆層2を透過することで、低エネルギー密度の光18となって外部に放出される。
ガラス繊維11は、軟化温度が約700℃以上であり、樹脂よりも耐熱温度が高く、耐熱特性に優れるとともに、難燃性である。そのため、光ファイバ1の破損部位から漏れたレーザ光17に対する耐性が高い。したがって、被覆層2をガラス繊維層とすることで、安全性を向上させることができるとともに、レーザ光源10としてハイパワーレーザを使用することが可能であり、輝度を向上させることができる。
また、光ファイバ1の破損部位から漏れたレーザ光17は、ガラス繊維層内で屈折反射を繰り返し、拡散した状態で外部に放出される。そのため、ガラス繊維層を透過した光18は、低エネルギー密度となり、安全性が向上する。
また、ガラス繊維11を用いることで、光ファイバ被覆構造体20の柔軟性を確保することができる。
【0026】
ガラス繊維11の編み方は特に限定されるものではなく、光が直接漏れる隙間ができないようにガラス繊維層を形成すればよい。ガラス繊維11の編み方としては、例えば、斜め編み、V字編み、三つ編み、四つ編み、平編みなどが挙げられる。
ただし、例えば、ガラス繊維11の編み目の部分(隣接するガラス繊維11間)に微小な隙間が生じ、この微小な隙間からわずかに光が漏れる場合がある。しかしながら、この微小な隙間から漏れた光のエネルギーが安全上問題ないレベルになるようにガラス繊維層を構成すればよい。
【0027】
具体的には次のとおりである。光ファイバの破損部位から漏れた光の全エネルギーに対する、隙間から直接漏れる光のエネルギー(漏れ分エネルギー)は、以下の式で表される。
「漏れ分エネルギー=コアを伝搬するエネルギー×隙間の総面積÷コアの長手方向に垂直な断面の面積」
ここで、隙間の総面積とは、光ファイバ1の破損部位から出力された光がガラス繊維11に照射されるエリア内に存在し、かつ、被覆層2の内側空間から外側空間へ直接つながる隙間の総面積をいう。
よって、「隙間の面積<コアの長手方向に垂直な断面の面積」とすることで、隙間の影響を低減することが可能である。したがって、隙間が生じる場合は、上記事項を考慮して、隙間から漏れる光が安全上問題ないレベルの低密度となるように設計すればよい。
【0028】
また、被覆層2が、隣接するガラス繊維11間に隙間(内側空間から外側空間へ直接つながる隙間)を有する場合、光ファイバ1の長手方向に垂直な断面における光ファイバ1のコアの面積(光ファイバ1のコアの断面積)が、ガラス繊維11間の隙間の面積の26倍以上260万倍以下であることが好ましい。
光ファイバ1のコアの断面積が、ガラス繊維11間の隙間の面積の26倍以上であれば、隙間から光が漏れる場合であっても、この漏れ分エネルギーをより小さくすることができる。なお、隙間から漏れる露光エネルギー量を0.39mW以下とする場合、レーザ光の出力が0.01W、コアの直径が400μmであれば約26倍となり、レーザ光の出力が1000W、コアの直径が50μmであれば約260万倍となる。
【0029】
光ファイバ1のコアの断面積と、ガラス繊維11間の隙間の面積との比は、例えば、レーザ製品の安全性に関するIEC規格60825のクラス1(合理的に予測できる条件下で安全である、裸眼で見ても、光学系を通して見ても、本質的に安全なレベル)に基づき決定することができる。
【0030】
例えば、以下の条件の場合は、ガラス繊維11間の隙間の面積を、光ファイバ1のコアの断面積の「1/12821」以下とする。
まず、被覆層2の内側空間から外側空間へ直接つながる隙間から漏れるレーザ光の安全上の目安としてIEC規格60825を基に作成されたJIS C6802「レーザ製品の安全基準」のクラス1規格(裸眼で見ても、光学系を通して見ても、本質的に安全なレベル)の定義
{レーザ光波長400nm〜700nmにおいて、露光エネルギー量Q(人の眼底部に届くエネルギー量)0.39mW以下}を用いた。
露光エネルギー量Q=ρ×A
ρ:レーザ光のエネルギー密度
A:レーザ光の断面積
【0031】
ここで、例えば、
光ファイバ1のコアを伝搬するエネルギー:5W
光ファイバ1のコア径:100μm
のとき、被覆層2の内側空間から外側空間へ直接つながる隙間がコア径100μmよりも大きい場合は、露光エネルギー量は5Wとなり、クラス1規格の定義の0.39mWを大きく超えてしまう。
【0032】
次に、被覆層2の内側空間から外側空間へ直接つながる隙間から漏れるレーザ光がクラス1規格の定義の0.39mW以下となる隙間面積を求める。
最も隙間を小さくしなければならない条件は、コアが被覆層2の内壁に接触したときである。クラス1規格の定義の露光エネルギー量0.39mW以下を満たす、コアの断面積と、被覆層2の内側空間から外側空間へ直接つながる隙間の面積の比について、
コアを伝搬するエネルギー5W/0.39mW≒12821
となることから、隙間の面積をコアの断面積の「1/12821」以下とする。すなわち、光ファイバ1のコアの断面積が、ガラス繊維11間の隙間の面積の12821倍以上となる。
また、
コアの断面積=(100μm/2)
2×π≒7854μm
2
となる。
【0033】
前記露光エネルギー量以下となる、被覆層2の内側空間から外側空間へ直接つながる隙間の面積は、
コアの断面積7854μm
2/12820≒0.61μm
2
となることから、0.61μm
2以下とする。
【0034】
また、
図3に示すように、ガラス繊維11の複数の束12を編組する場合に、束12と束12との間に隙間13が生じる場合がある。しかしながら、隙間13の下部にガラス繊維11の束12が配置されるように、ガラス繊維11の束12を2重以上に重ねて被覆層2を形成することで、隙間13からの光の漏れを防止することができる。
【0035】
ガラス繊維11としては特に限定されるものではなく、従来公知のガラス繊維11を用いることができる。例えば、グラスファイバー(長繊維)を用いることができる。
【0036】
ガラス繊維11は、長手方向に垂直な断面が、円形状であってもよいし、異形断面形状であってもよい。異形断面形状とは、例えば、楕円形、半円形、長方形、多角形、星形、直径が同じである2つの円の一部が重なり合った形状、アルファベットのC形、H形、W形、菊形やクローバー形などの多葉型形状などの非円形断面が挙げられる。なお、菊形とは、例えば、円周部分を波状にした形状であり、クローバー形とは、例えば、3つまたは4つの円などの一部が回転対称となるように重なり合った形状である。
【0037】
ガラス繊維11の長手方向に垂直な断面が円形状の場合、ガラス繊維11の直径は、1μm以上10μm以下であることが好ましい。また、用いる蛍光体や光拡散材の粒径以上であることが好ましい。なお、ガラス繊維11の直径の下限については、生体安全性を考慮して、6μm以上であることがより好ましく、7μm以上であることがさらに好ましい。
【0038】
光ファイバ被覆構造体20は、光ファイバ1の長手方向に垂直な断面の面積(光ファイバ1の断面積)が、ガラス繊維11の長手方向に垂直な断面の面積(ガラス繊維11の断面積)の100倍以上225万倍以下であることが好ましい。
光ファイバ1の断面積がガラス繊維11の断面積の100倍以上225万倍以下であれば、ガラス繊維層を形成し易くなる。
【0039】
図5に示すように、ガラス繊維11は、蛍光体50および光拡散材60を含有する。蛍光体50および光拡散材60は、いずれか一方を含有させてもよいし、両方を含有させてもよい。
ガラス繊維11が蛍光体50を含有することで、レーザ光源10からの光によって蛍光体50が励起され、発光波長範囲を広げることができる。また、ガラス繊維11が光拡散材60を含有することで、レーザ光源10からの光を拡散することができる。
【0040】
また、ガラス繊維11は、発光波長の異なる2種以上の蛍光体50を、それぞれ、異なるガラス繊維11に含有させ、その繊維を編組してもよい。このような構成とすることで、任意の発光を得ることができる。また、1種類の蛍光体50のみでは成し得ない発光波長を得ることができる。なお、前記形態の他、1本のガラス繊維11に、発光波長の異なる2種以上の蛍光体50を含有させてもよい。
【0041】
ガラス繊維11に蛍光体50および光拡散材60のうちの1種以上を含有させる方法としては特に限定されるものではなく、ガラスに蛍光体などを含有させる従来公知の方法を用いればよい。
例えば、ガラス繊維11の製造の際に、溶融したガラスの素地に蛍光体50および光拡散材60のうちの1種以上を混合する方法が挙げられる。
【0042】
また、ゾル−ゲル法を用いる方法が挙げられる。ゾル−ゲル法を用いる方法としては、例えば、特許第5713300号公報に記載の方法が挙げられる。以下、この方法の概要について記載する。ここでは、ガラス繊維11に蛍光体50を含有させる方法を例にとって説明する。
【0043】
この方法では、ゾル−ゲル反応と酸塩基反応により、蛍光体分散ゾルから蛍光体分散ゲルを作製する。まず、シリコンアルコキシドおよび蛍光体を含有し、さらに、金属塩化物および金属アルコキシドのうちの1種以上を含有する蛍光体分散ゾルを作製する。あるいは、金属塩化物および金属アルコキシドのうちの1種以上、シリコンアルコキシド、水を用いて前駆ゾルを作製した後、前記前駆ゾルに前記蛍光体を分散させて蛍光体分散ゾルを作製する。
【0044】
シリコンアルコキシドはSi(OR)
4で表され、アルコキシル基(アルコキシ基)ORを構成するアルキル基Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基を用いることができる。すなわち、アルコキシル基ORとしては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基などを用いることができる。
金属塩化物はMCl
nで表され、金属アルコキシドはM(OR)
nで表される。ここで、Mは金属、ORはアルコキシル基、nは金属種に応じた整数である。アルコキシル基を構成するアルキル基Rとしては、エチル基、プロピル基、メチル基、イソプロピル基、ブチル基などが用いられる。すなわち、アルコキシル基ORとしては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基などを用いることができる。
【0045】
次に、ゾル−ゲル法により、前記蛍光体分散ゾルから蛍光体分散ゲルを作製する。
なお、前記蛍光体分散ゾルを作製後、加熱前に10℃以上50℃以下の温度で1時間以上放置し、熟成させることが好ましい。これにより、蛍光体を分散したゲルの骨格が強くなり、壊れにくいガラスを作製することができる。また、放置時間は、温度が低いときはより長くするほうが好ましい。上限時間は特に規定されないが、48時間を超えると生産効率が低下するため、放置時間は48時間以下とすることが好ましい。
【0046】
次に、前記蛍光体分散ゲルを加熱して、蛍光体分散ガラスを作製する。
ゲルからガラスを作製するまでの過程において、従来公知のガラス繊維を製造する方法における繊維状とする方法を用いて、蛍光体を含有したガラス繊維を製造すればよい。
【0047】
また、ガラス繊維11に蛍光体50および光拡散材60のうちの1種以上を含有させる方法としては、例えば、特開2014−220289号公報に記載の方法が挙げられる。以下、この方法の概要について記載する。ここでは、ガラス繊維11に蛍光体50を含有させる方法を例にとって説明する。
【0048】
まず、シラン誘導体とアルコールを混合し、これに水および酸を滴下してから、加熱して昇温させた状態で攪拌した後、室温に戻して混合溶液を調製する。なお、加熱温度は20℃以上50℃以下であることが好ましい。加熱して昇温させた状態で攪拌する時間は2時間以上4時間以下であることが好ましい。なお、シラン誘導体とアルコールを混合する際に、金属塩化物および金属アルコキシドのうちの1種以上を混合してもよい。
【0049】
次に、前記混合溶液にアンモニア水を滴下し、蛍光体粉末を添加してゲルを調製する。次に、前記ゲルを加熱して昇温させた状態で静置して湿潤ゲルを調製する。ゲルの加熱温度は30℃以上60℃以下であることが好ましい。
次に、前記湿潤ゲルを溶媒置換してから超臨界乾燥して、複数の孔部が保持されてなる低密度の乾燥ゲルを調製する。超臨界に用いる溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類が挙げられる。また、アセトン、ヘキサンなど、一般的に取り扱いやすい有機溶媒に置換しておいてもよい。さらに、乾燥時の亀裂発生を防止するために表面処理剤を用いてもよい。表面処理剤としては、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシランなどのシラン剤やヘプタンや、ブチルアルコールなどの有機溶媒を用いることができる。前記超臨界乾燥が二酸化炭素の臨界条件である臨界圧力7.38MPa、臨界温度31.1℃以上の雰囲気下、CO
2超臨界流体による乾燥であることが好ましい。
【0050】
次に、前記低密度の乾燥ゲルを800℃以上1050℃以下の温度で焼結して蛍光体分散ガラスを作製する。
ゲルからガラスを作製するまでの過程において、従来公知のガラス繊維を製造する方法における繊維状とする方法を用いて、蛍光体を含有したガラス繊維を製造すればよい。
【0051】
蛍光体50は、ガラス繊維11に含有させることができるものであれば、どのようなものであってもよく、公知のものを用いることができる。例えば、窒化物蛍光体、酸化物蛍光体、酸窒化物蛍光体、硫化物蛍光体、酸硫化物蛍光体、ハロゲン化物蛍光体などを用いることができる。詳細には、例えば、Euなどのランタノイド系、Mnなどの遷移金属系の元素により主に賦活されたアルカリ土類金属ハロゲンアパタイト、アルカリ土類金属ホウ酸ハロゲン、アルカリ土類金属アルミン酸塩、希土類元素で主に賦活された酸窒化物または窒化物、Ceなどのランタノイド系元素で主に賦活された希土類アルミン酸塩、希土類ケイ酸塩などが挙げられる。
【0052】
具体的には、レーザ光源10として青色LD(ピーク波長430〜480nm)を用いる場合、例えば、蛍光体50として黄色発光のYAG、緑色発光のLAGおよび赤色発光のSr
2Si
5N
8:Eu、Ca
2Si
5N
8:Eu、(Sr,Ca)
2Si
5N
8:Eu、CaAlSiN
3:Eu、(Sr,Ca)AlSiN
3:Eu、Ca−α−サイアロンまたはSr−α−サイアロンを用いることができる。
【0053】
なお、蛍光体50は、例えば、プラセオジムイオン、テルビウムイオン、エルビウムイオン、ホルミウムイオンなどのイオン化した物質であってもよい。また、蛍光体50は、量子ドット(またはナノクリスタル)と呼ばれる発光物質であってもよい。量子ドットとしては、半導体材料、例えば、II−VI族、III−V族、IV−VI族半導体、具体的には、CdSe、コアシェル型のCdS
xSe
1−x/ZnS、GaPなどのナノサイズの高分散粒子が挙げられる。量子ドット蛍光体は、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)などの樹脂で表面修飾または安定化してもよい。イオン化した蛍光体、量子ドット蛍光体、および、その他の蛍光体は、適宜、混合して用いてもよい。
【0054】
光拡散材60は、公知のものを用いることができる。例えば、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素などが挙げられる。
【0055】
光ファイバ被覆構造体20は、光ファイバ1と、被覆層2との間に空隙3を有する。
光ファイバ1と、被覆層2との間の空隙3は、予め所定の径の空洞を有する被覆層2を作製し、この空洞に光ファイバ1を挿入することで形成することができる。
光ファイバ1と、被覆層2との間に空隙3を有することで、例えば、光ファイバ1の直径と被覆層2の空隙3の直径とを厳密に一致させる必要がなく、被覆層2の製造が容易となる。また、光ファイバ1を被覆層2に挿入し易くなる。
空隙3の幅、すなわち、光ファイバ1の外周面と、被覆層2の内周面との距離は、例えば、1mm以上2mm以下である。
【0056】
以上、光ファイバ被覆構造体20および発光装置100について説明したが、光ファイバ被覆構造体20および発光装置100は前記した実施形態に限定されるものではない。以下、他の実施形態について説明する。
【0057】
[他の実施形態1]
前記説明した光ファイバ被覆構造体20は、ガラス繊維11に、蛍光体50および光拡散材60を含有させるものとした。しかしながら、ガラス繊維11に蛍光体50および光拡散材60を含有させる代わりに、ガラス繊維層を、蛍光体50および光拡散材60を含有した樹脂に含浸させたものであってもよい。
【0058】
図6A、6Bに示すように、光ファイバ被覆構造体20Aは、被覆層2A、すなわちガラス繊維11が集合したガラス繊維層が、蛍光体50および光拡散材60を含有した樹脂70に含浸されている。なお、
図6Aは、被覆層2Aが樹脂70に含浸されている状態をわかり易くするために模式的に図示したものであり、蛍光体50および光拡散材60の図示を省略している。また、
図6Bは、ガラス繊維層が、蛍光体50および光拡散材60を含有した樹脂70に含浸されている状態をわかり易くするために、被覆層2Aの一部を模式的に図示したものである。樹脂70は、ガラス繊維層の内部のみに存在していてもよくガラス繊維層からはみだしてガラス繊維層の周囲にも存在していてもよい。
【0059】
蛍光体50および光拡散材60は、いずれか一方を含有させてもよいし、両方を含有させてもよい。また、樹脂70は、発光波長の異なる2種以上の蛍光体50を含有してもよい。
ガラス繊維層が樹脂70に含浸されていることで、光ファイバ被覆構造体20に防水特性を付与することができる。また、ガラス繊維層を構成するガラス繊維11のずれを防止することができる。
【0060】
樹脂70としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、変性シリコーン樹脂、変性エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0061】
ガラス繊維層に蛍光体50および光拡散材60のうちの1種以上を含有した樹脂を含有させる方法としては、樹脂を溶解した樹脂溶液に蛍光体50および光拡散材60のうちの1種以上を混合し、この溶液にガラス繊維層を含浸させる方法が挙げられる。また、蛍光体50および光拡散材60のうちの1種以上を混合した樹脂溶液をガラス繊維層に塗布する方法が挙げられる。
【0062】
なお、ガラス繊維層を、蛍光体50および光拡散材60のうちの1種以上を含有した樹脂70に含浸させるとともに、前記したように、ガラス繊維11に、蛍光体50および光拡散材60のうちの1種以上を含有させてもよい。
【0063】
[他の実施形態2]
図7Aに示すように、光ファイバ被覆構造体20Bは、光ファイバ1と、被覆層2とが密着している。このように、光ファイバ1と、被覆層2との間に空隙を設けずに、光ファイバ1にガラス繊維11が直接接するように、被覆層2を形成してもよい。
光ファイバ1と、被覆層2とが密着していることで、被覆層2のずれを防止することができる。また、ガラス繊維11を光ファイバ1に直接巻いて被覆層2を形成することができるため、製造が容易である。なお、予め所定の直径の空洞を有する被覆層2を作製し、この空洞に光ファイバ1を挿入して光ファイバ被覆構造体20を作製してもよい。
【0064】
[他の実施形態3]
図7Bに示すように、光ファイバ被覆構造体20Cは、被覆層2Cが、光ファイバ1を取り囲む第1のガラス繊維層21と、第1のガラス繊維層21を取り囲む第2のガラス繊維層22と、を有する。
このような構成とすることで、第1のガラス繊維層21に、わずかに光が漏れる隙間がある場合でも、この隙間を覆うように第2のガラス繊維層22を設けることで、わずかな光の漏れも防止することができる。なお、第2のガラス繊維層22に、わずかに光が漏れる隙間がある場合、第1のガラス繊維層21の隙間と、第2のガラス繊維層22の隙間とが重ならないように第2のガラス繊維層22を配置すればよい。
【0065】
また、第1のガラス繊維層21を構成するガラス繊維11と、第2のガラス繊維層22を構成するガラス繊維11とに、発光波長の異なる蛍光体50を含有させることができる。また、第1のガラス繊維層21に蛍光体50を含有した樹脂を含有させ、第2のガラス繊維層22に、第1のガラス繊維層に含有させた蛍光体50とは発光波長の異なる蛍光体50を含有した樹脂を含有させることができる。
【0066】
その他、前記した光ファイバ被覆構造体20では、ガラス繊維11を編組して被覆層2を形成したが、光ファイバ1にガラス繊維11をコイル状に巻くことで被覆層2を形成してもよい。また、ガラス繊維11の両端部が光ファイバ1の長手方向に位置するように、光ファイバ1とともにガラス繊維11を束ね、この束ねて形成したガラス繊維11の集合体内に光ファイバ1が配置されるようにして被覆層2を形成してもよい。
【0067】
また、前記した光ファイバ被覆構造体20Cでは、被覆層2Cは、第1のガラス繊維層21と、第2のガラス繊維層22と、を有するものとしたが、第2のガラス繊維層22を取り囲む第3のガラス繊維層を設けた3層のガラス繊維層を有する被覆層としてもよい。さらには、ガラス繊維層を4層以上設けた被覆層としてもよい。
また、前記した光ファイバ被覆構造体20では、光ファイバ被覆構造体20の断面形状は円形であるものとしたが、光ファイバ被覆構造体20の断面形状は異形断面形状であってもよい。
【0068】
また、以上説明した実施形態では、被覆層は、ガラス繊維が集合したガラス繊維層を有するものとした。しかしながら、被覆層は、セラミック繊維が集合したセラミック繊維層を有するものであってもよい。以上説明した実施形態の各内容は、被覆層がセラミック繊維層を有するものである場合でも、ガラス繊維層を有する場合と同様に適用することができる。ただし、必要に応じて、セラミック繊維の特性に合わせて、適宜変更を加えてもよい。
セラミック繊維としては特に限定されるものではなく、従来公知のセラミック繊維を用いることができる。例えば、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、シリカ繊維、ムライト繊維、ジルコニア繊維、チタン酸カリウム繊維、セラミックファイバー(アルミナとシリカを主成分とした人造鉱物繊維の総称)などを用いることができる。
【0069】
以上説明したとおり、本実施形態の光ファイバ被覆構造体および発光装置は、安全性に優れている。
また、本実施形態の光ファイバ被覆構造体および発光装置は、細くて柔軟性があり、また、全周発光が可能である。また、光の遠隔伝達が容易である。
また、本実施形態の光ファイバ被覆構造体は、レーザ光源に容易に効率よく結合することができる。
また、本実施形態の発光装置は、発熱するレーザ光源から光ファイバ被覆構造体が分離しているため、光ファイバ被覆構造体の温度の低減による発光効率の向上を図ることができる。また、植物工場へ適用した場合、光ファイバ被覆構造体の温度の低減による栽培密度の向上や、空調費の低減を図ることができる。