(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6912774
(24)【登録日】2021年7月13日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】モード多重された光信号の等化装置
(51)【国際特許分類】
H04J 14/04 20060101AFI20210727BHJP
H04B 10/2507 20130101ALI20210727BHJP
【FI】
H04J14/04
H04B10/2507
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-167591(P2017-167591)
(22)【出願日】2017年8月31日
(65)【公開番号】特開2019-47283(P2019-47283A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2019年10月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】特許業務法人大塚国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100131886
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 隆志
(74)【代理人】
【識別番号】100170667
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 浩次
(72)【発明者】
【氏名】若山 雄太
(72)【発明者】
【氏名】釣谷 剛宏
(72)【発明者】
【氏名】岡本 淳
(72)【発明者】
【氏名】清水 新平
【審査官】
対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−044754(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第02827178(EP,A1)
【文献】
MIZUNO T. et al.,Mode Dependent Loss Equaliser and Impact of MDL on PDM-16QAM Few-mode Fibre Transmission,2015 European Conference on Optical Communication (ECOC),IEEE,2015年 9月
【文献】
WENG Y. et al.,Mode-Dependent Loss Mitigation Scheme for PDM-64QAM Few-Mode Fiber Space-Division-Multiplexing Systems via STBC-MIMO Equalizer,2017 Conference on Lasers and Electro-Optics (CLEO),IEEE,2017年 5月,JTh2A.66
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/00−10/90
H04J 14/00−14/08
G02B 6/26−6/27
G02B 6/30−6/34
G02B 6/42−6/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モード多重された光信号の等化装置であって、
2次元平面の位置毎に、通過する光信号に所定量の遅延を与える第1遅延手段と、
前記第1遅延手段の下流側に設けられ、2次元平面の位置毎に、通過する光信号に所定量の減衰を与える減衰手段と、
前記減衰手段の下流側に設けられ、前記第1遅延手段が通過する光信号に与えた2次元平面の位置毎の遅延を相殺する様に、通過する光信号に2次元平面の位置毎の遅延を与える第2遅延手段と、
を備え、
前記第1遅延手段が2次元平面の位置毎に通過する光信号に与える遅延量は、前記減衰手段の入射面において、等化対象の各伝搬モードの光信号それぞれの空間分布のうち、他の伝搬モードの光信号の空間分布とは重ならない部分の面積が所定値以上となる様に決定されていることを特徴とする等化装置。
【請求項2】
第1マルチモード光ファイバから射出された光信号を平行光に変換して前記第1遅延手段に入射させる第1変換手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の等化装置。
【請求項3】
前記第2遅延手段を通過した光信号が、第2マルチモード光ファイバに入射する様に集光する集光手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の等化装置。
【請求項4】
前記第1遅延手段と前記減衰手段の間に設けられ、前記第1遅延手段を通過した光信号を平行光に変換する第2変換手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の等化装置。
【請求項5】
前記減衰手段と前記第2遅延手段との間に設けられ、前記第2変換手段と同じ光学的特性を有する第3変換手段をさらに備えていることを特徴とする請求項4に記載の等化装置。
【請求項6】
前記第1遅延手段が2次元平面の位置毎に通過する光信号に与える遅延量は、等化対象の各伝搬モードの光信号の位相、強度、又は、位相と強度との両方に基づき決定されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の等化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モード多重された光信号に含まれる異なる伝搬モードの複数の光信号の強度のばらつきを抑える等化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチモード光ファイバを用いて複数の伝搬モードの光を伝送するモード多重光通信においては、伝搬モード毎に伝送損失や光増幅器での利得が異なる。このため、モード多重光信号に含まれる異なる伝搬モードの複数の光信号の強度(振幅)のばらつきを抑える(等化する)等化装置が求められる。例えば、モード多重光信号をモード分離器で分離し、分離後の各伝搬モードの光信号の強度を個別に調整した後、再度、モード多重器でモード多重する構成が考えられるが、構成部品が多くなり、挿入損失が増大する。
【0003】
非特許文献1は、モード分離及びモード多重を行うことなく等化を行う等化装置を開示している。
図2は、非特許文献1が開示する等化装置を示している。マルチモードファイバ71の端部から射出される複数の伝搬モードを含むモード多重光信号は、コリメータレンズ72により平行光に変換され、空間フィルタ73を通過する。コリメータレンズ74は、空間フィルタ73を通過したモード多重光信号がマルチモードファイバ75の端部に入射する様に、モード多重光信号を収束させる。空間フィルタ73は、その空間位置に応じた減衰量の減衰を通過する光に与える。
【0004】
非特許文献1は、伝搬モードによって、光信号の空間分布が異なることを利用している。例えば、
図3は、6つの伝搬モードそれぞれについて、伝搬方向と直交する断面における光信号の空間分布を示している。
図3においては、網掛け部分が光信号の存在する部分を示している。なお、
図3は、光信号の空間分布を簡略化して表現したものであり、そのスケールは実際のスケールと異なる。また、光信号の強度についても、網掛け領域の端部に向かうほど実際には弱くなる。
【0005】
図3(A)は、LP
01モードに対応し、
図3(B)は、LP
11aモードに対応するものであるが、
図3(A)及び(B)から明らかな様に2つの伝搬モードにおいて、光信号空間分布の重なりは少ない。したがって、空間フィルタ73の中心部分、つまり、LP
01モードでは光信号の強度が強いが、LP
11aモードでは光信号の強度が弱い部分の減衰量を大きくすることで、LP
01モードのみを強く減衰させることができる。逆に、LP
11aモードでは光強度が強いが、LP
01モードでは光強度が弱い空間フィルタ73の領域の減衰量を大きくすることで、LP
11aモードのみを強く減衰させることができる。したがって、必要な調整レベルに応じて空間フィルタ73の各領域の減衰量を設定することで、LP
01モードとLP
11aモードの光の強度差を小さくすることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T.Mizuno et al.,"Mode Dependent Loss Equaliser and Impact of MDL on PDM−16QAM Few−mode Fibre Transmission",ECOC2015,P5.9,2015年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図3(C)、(D)、(E)及び(F)は、それぞれ、LP
11b、LP
21a、LP
21b及びLP
02モードの光信号の空間分布を示している。例えば、
図3(A)に示すLP
01モードと
図3(F)に示すLP
02モードでは光信号の空間分布の重なりが大きい。また、
図3にそれぞれ示す伝搬モードの光信号を多重すると、各伝搬モードの空間分布の重なる部分の面積は大きくなる。つまり、非特許文献1の構成では、多重数が大きくなると、特定の伝搬モードの光信号の強度のみを調整できず等化を行うことができなくなる。
【0008】
本発明は、多重数に拘らず、モード多重された光信号を等化できる等化装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によると、モード多重された光信号の等化装置は、2次元平面の位置毎に、通過する光信号に所定量の遅延を与える第1遅延手段と、前記第1遅延手段の下流側に設けられ、2次元平面の位置毎に、通過する光信号に所定量の減衰を与える減衰手段と、前記減衰手段の下流側に設けられ、
前記第1遅延手段が通過する光信号に与えた2次元平面の位置毎の遅延を相殺する様に、通過する光信号に2次元平面の位置毎の遅延を与える第2遅延手段と、を備え
、前記第1遅延手段が2次元平面の位置毎に通過する光信号に与える遅延量は、前記減衰手段の入射面において、等化対象の各伝搬モードの光信号それぞれの空間分布のうち、他の伝搬モードの光信号の空間分布とは重ならない部分の面積が所定値以上となる様に決定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、多重数に拘らず、モード多重された光信号を等化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の例示的な実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態は例示であり、本発明を実施形態の内容に限定するものではない。また、以下の各図においては、実施形態の説明に必要ではない構成要素については図から省略する。
【0013】
図1は、本実施形態による等化装置の構成図である。マルチモードファイバ41の端部から複数の伝搬モードを含むモード多重光信号が射出される。このモード多重光信号は、発散しながら(広がりながら)コリメータレンズ51に入射する。コリメータレンズ51は、モード多重光信号を平行光に変換する。コリメータレンズ51により平行光に変換されたモード多重光信号は位相マスク1を通過する。位相マスク1の詳細については後述する。位相マスク1を通過した光は、コリメータレンズ52により平行光に変換され、強度マスク2を通過する。強度マスクの詳細については後述する。コリメータレンズ53は、コリメータレンズ52と同じ光学的特性であり、強度マスク2を通過した平行光であるモード多重光信号を、位相マスク3の所定領域に集光する。コリメータレンズ53とコリメータレンズ52とは同じ光学的特性であるため、位相マスク1の、モード多重光信号を射出する領域と、位相マスク3の、モード多重光信号が入射する領域は、基本的に同じとなる。位相マスク3の詳細については後述するが、位相マスク3を通過したモード多重光信号は、平行光としてコリメータレンズ54に入射する。コリメータレンズ54は、このモード多重光信号が、マルチモードファイバ42の端部に入射する様に、モード多重光信号を収束させる。
【0014】
位相マスク1は、信号光が伝搬する方向とは直交する断面である2次元平面の空間位置又は領域に応じて、所定量の位相遅延を通過するモード多重光信号に与える様に構成されている。各伝搬モードの光信号は、伝搬モード毎に複素振幅、つまり、位相及び強度が異なるため、位相マスク1の同じ空間位置又は領域を通過した異なる伝搬モードの光信号は、同じ量の位相遅延が与えられても、位相マスク1からは異なる方向に射出される。したがって、位相マスク1の同じ空間位置又は領域を通過した異なる伝搬モードの光信号は、強度マスク2の異なる空間位置又は領域に入射する。なお、同じ伝搬モードの光信号が、強度マスク2に入射する空間位置又は領域は、連続している必要はない。例えば、
図3(A)に示すLP
01モードは、ファイバのコアの中心部において円状に信号が連続して分布しているが、強度マスク2の様々な空間位置又は領域に分散されて入射され得る。
【0015】
位相マスク1は、等化対象のモード多重光信号に含まれる各伝搬モードの光信号の空間分布が、強度マスク2の入射面において可能な限り重ならない様に、つまり、各伝搬モードの空間分布が重なっている面積が最小となる様に、あるいは、閾値以下となる様に、各空間位置又は領域での位相遅延量が決定されている。言い換えると、位相マスク1は、強度マスク2の入射面において、各伝搬モードの光信号の空間分布のうち、他の伝搬モードの光信号の空間分布とは重なりを持たない部分の面積が最大となる様に、或いは、閾値より大きくなる様に、各空間位置又は領域での位相遅延量が決定されている。上述した様に、各伝搬モードの光信号の複素振幅は異なるため、位相マスク1が、空間位置又は領域を通過する光信号に与える位相遅延の量は、等化対象の各伝搬モードの光信号の複素振幅、つまり、位相及び強度に基づいて決定される。なお、位相及び強度の両方を考慮して位相遅延量を決定するのではなく、位相又は強度に基づき位相遅延量を決定することでも、位相マスク1の同じ空間位置又は領域を通過した異なる伝搬モードの光信号を、位相マスク1からは異なる方向に射出させることができる。つまり、各伝搬モードの光信号の位相又は強度に基づき位相遅延量を決定することができる。
【0016】
強度マスク2は、その空間位置又は領域を通過する光信号に所定量の減衰を与える様に構成されている。各空間位置又は領域の減衰量は、等化対象のモード多重光信号の強度マスク2上での空間分布と、各伝搬モードの光信号に与えるべき減衰量により決定されている。
【0017】
位相マスク3は、位相マスク2が与えた位相遅延を相殺する様に、各空間位置又は領域の位相遅延量が設定されている。したがって、位相マスク3を通過した光は、平行光となってコリメータレンズ54に入射する。
【0018】
以上の構成により、多重数に拘らず、モード多重光信号を等化することができる。
【0019】
なお、上記実施形態においては、コリメータレンズ51〜54を使用したが、コリメータレンズの使用は必須ではない。例えば、マルチモードファイバ41の端部から射出される、発散するモード多重光信号をそのまま位相マスク1を通過させる構成とすることができる。この場合、位相マスク1は、その入射面における発散するモード多重光信号の空間分布に基づき、各空間位置又は領域における位相遅延量を決定する。位相マスク1からは、様々な方向に光が射出されるが、強度マスク2も、その入射面におけるモード多重光信号の空間分布に基づき、各空間位置又は領域における減衰量を決定する。位相マスク3についても同様である。
【符号の説明】
【0020】
1、3:位相マスク、2:強度マスク