【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1乃至特許文献3に開示された従来の測定方法にあっては、いずれも半導体基板上に誘電体膜、電極からなるMIS構造の評価サンプルを形成した後に測定を行う必要があり、評価サンプルを準備するために時間を要する上、破壊検査を行う必要があった。
【0006】
即ち、評価サンプルを形成するには、シリコン基板を酸化し、多結晶シリコンを堆積し、パターンニングし、エッチングを行うという時間的に長い工程が必要であり、合計で1週間以上の時間が必要とされる。
【0007】
半導体デバイスの製造現場においては、プロセスで形成した誘電体膜の絶縁特性を迅速に評価し、プロセスで形成した誘電体膜の絶縁特性を迅速に測定して、プロセス装置の状態などにフィードバックすることが求められており、測定に長い時間がかかっていては実用に適さない。
【0008】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、例えばMIS構造を有する半導体デバイスにおいて、誘電体膜の電気伝導率を迅速に非破壊かつ高精度に測定することのできる誘電体膜の電気伝導率測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係る誘電体膜の電気伝導率測定装置は、半導体基板上に形成された誘電体膜の電気伝導率を測定する装置であって、前記半導体基板を保持する基板保持部と、前記基板保持部に保持された半導体基板の誘電体膜に対し所定の間隙をもって配置される複数のプローブ電極と、前記プローブ電極を電極として前記半導体基板に電圧印加する電圧印加部と、前記プローブ電極から紫外線をパルス発光させ、前記電圧印加部により電圧印加された前記半導体基板に紫外線照射するUV照射部と、前記半導体基板の誘電体膜に発生するリーク電流の電圧を測定する測定部と、前記電圧印加部による電圧印加開始から前記UV照射部による紫外線照射までの
遅延時間と測定された電圧との関係である時定数を算出し、該時定数に基づき誘電体膜の電気伝導率を求めるコンピュータとを備え、
前記UV照射部は、前記複数のプローブ電極からそれぞれ紫外線をパルス発光させるための複数の紫外励起光源と、前記複数の紫外励起光源の出力を切り替えるスイッチング手段とを有し、前記スイッチング手段は、デマルチプレクサとして機能し、処理される各信号の基準となる基準信号に基づき生成され順次切り替わる複数ビットの選択信号に基づき1つの前記紫外励起光源を選択し、選択された紫外励起光源への光トリガ信号の入力により各プローブ電極からの紫外線照射が時分割に切り替えられ、前記コンピュータは、一測定点について、異なる前記遅延時間について前記測定部により測定された複数回の測定信号に基づき前記時定数を求め、前記時定数に基づき電気伝導率を算出することに特徴を有する。
【0010】
なお、
光伝導信号のピーク強度の実測値と複数の遅延時間との関係を基板内部の電界の緩和特性として複数パターン取得し、参照データとして記憶する記憶部を備え、
前記コンピュータは、
本来の遅延時間よりも短い遅延時間における光伝導信号のピーク強度の傾きを求め、該傾きと、前記記憶部に記憶された前記参照データの傾きとのフィッティングを行い、該フィッティングにより得られたパターンを用いて、電気伝導率を予測することが望ましい。
【0011】
このような構成によれば、シリコンウェーハ上に誘電体膜が形成された半導体基板に対し、プローブ電極から所定の電圧を印加し紫外線をパルス照射することにより、誘電体膜からリーク電流を流して応答信号である電圧の変化を測定し、誘電体の電気伝導率が求められる。本発明にあっては、前記誘電体膜の全領域に対応するために複数のプローブ電極を備えており、前記複数のプローブ電極から順次電圧印加に続く紫外線のパルス照射により、基板全領域における誘電体膜の電気伝導率を迅速に非破壊かつ高精度に測定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る誘電体膜の電気伝導率測定装置によれば、例えばMIS構造を有する半導体デバイスにおいて、誘電体膜の電気伝導率を迅速に非破壊かつ高精度に測定することのできる誘電体膜の電気伝導率測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る誘電体膜の電気伝導率測定装置について図面を用いながら説明する。
図1は、本発明に係る誘電体膜の電気伝導率測定装置(以下、単に測定装置ともいう)の構成を模式的に示すブロック図である。
【0015】
図1の測定装置1は、振動を抑制し除去する除振台2と、前記除振台2上に配置されるX−Y−Zステージ3と、被測定対象の半導体基板W(以下、単に基板Wと呼ぶ)を吸着保持するための金属製のチャック4(基板保持部)とを備える。このチャック4には、微小信号増幅装置11を介して基板W側からの信号を取得するためのオシロスコープ12(測定部)が接続されている。なお、基板Wは、シリコンウェーハ上に誘電体膜が形成されており、測定装置1はその誘電体膜に対し絶縁特性測定するものである。
【0016】
また、前記X−Y−Zステージ3の位置決め精度は、各軸とも0.2μmであり、分解能は0.1μmである。なお、X−Y−Zステージ3による送り機構は、チャック4を回転させる回転系の送り機構を用いてもよく、その場合の回転角は任意に指定できる。このX−Y−Zステージ3によって、試料である基板Wの全範囲における各測定領域の電気伝導率を測定する二次元マッピング測定が可能となる。
【0017】
また、測定装置1は、基板Wの誘電体膜の全領域に対応するために、基板Wの上方に配置される複数(例えば15機)のプローブ電極5と、光導波路となるケーブル6を介して前記複数のプローブ電極5とそれぞれ接続される複数(例えば15機)の紫外励起光源7(例えばキセノンフラッシュランプ/UV照射部)と、プローブ電極5に電力供給するバイポーラ電源8(電圧印加部)と、任意の波形を発生し紫外励起光源7を駆動する任意波形発生器9とを備える。なお、
図9の斜視図に、複数のプローブ電極5のレイアウト図を一例として示す。
また、任意波形発生器9と紫外励起光源7との間には、例えば4ビットのデマルチプレクサ20がスイッチング手段として設けられ、任意波形発生器9の出力波形を切り替えて、駆動する紫外励起光源7を選択する構成になっている。
【0018】
プローブ電極5は、例えば直径1.61mmのスチール製中空円筒構造の電極である。その中空部分にコア径1mmの光ファイバを通し、紫外励起光源7からの光を光ファイバへ導入し、基板W上にUV光照射がなされる。プローブ電極5の先端と基板Wとの間のギャップ幅は、数μm程度とされる。このプローブ電極5は、バイポーラ電源8に接続されており、基板Wに対しパルス電圧を印加するとともに、光ファイバからのUV光を基板Wにパルス照射するものである。
【0019】
さらに、測定装置1は、演算処理を行うコンピュータ50を備え、このコンピュータ50には、前記オシロスコープ12と任意波形発生器9とが接続されている。
任意波形発生器9(例えばTektronix社製AWG2005)は、紫外励起光源7へのトリガ信号、基板Wへの印加電圧のタイミング同期に用いられ、その制御はコンピュータ50によって制御される。
【0020】
ここで
図2及び
図3を用いて、測定原理を説明する。
図2は、測定装置1において処理される各信号の関係を示すタイミング図である。
図3は、基本的な測定の流れを示すフローである。
一測定周期Tの半周期T
1,T
2において、プローブ電極5から基板Wに対し図示するように矩形波状に電圧(10mV乃至300Vの範囲内で設定)が印加される(
図3のステップS1)。基板Wに電圧印加されると、誘電体膜下のシリコンには強反転層が形成される。
【0021】
シリコン中の内部電界は、経時的に減少していくが、その過程において誘電体膜上から、紫外励起光源7へのトリガ入力によって紫外励起光源7がパルス発光し基板WにUV照射する(
図3のステップS2)。
それにより、誘電体膜下のシリコン中において電子が光励起され、励起した光電子が電界にしたがって誘電体膜からリーク電流を流す。その結果、
図2の示すような電圧変化が生じ、この電圧を応答信号として測定する(
図3のステップS3)。
【0022】
また、パルス光を照射するタイミング(電圧を印加してからパルス光を照射するまでの時間td1、td2)を変えて複数回、応答信号を測定し(
図3のステップS4)、それらの結果に基づき応答信号の変化量(即ち時定数(電圧と時間との関係))を算出する(
図3のステップS5)。
【0023】
さらに、誘電体膜(SiO
2)の誘電率が固有値であるとすれば、前記応答信号の変化量がわかることにより誘電体膜の電気伝導率を算出することができる(
図3のステップS6)。
ここで、誘電体膜の誘電率ε
insulatorと電気伝導率σ
insulatorと応答信号の変化量ΔV(t)との関係は、下記式(1)で表すことができる。
【0025】
なお、式(1)において、log
10ΔV(t)/Δtは、光伝導信号強度の時間依存性(時間に対する信号強度の傾き)である。
【0026】
続いて、
図4のフロー及び
図5のタイミング図を用いて、本発明に係る誘電体膜の電気伝導率測定装置による測定方法について説明する。
図4は、
図1に示した測定装置1により実施される測定方法の流れを示すフローである。
図5は、
図1に示した測定装置1において処理される各信号の関係を示すタイミング図である。
【0027】
先ず、被測定対象となる基板W(シリコンウェーハ上に誘電体膜が形成されたもの)をチャック4により保持する(
図4のステップSP1)。
載置した基板Wがロットの先頭である場合には(
図4のステップSP2)、複数の測定点(
図9)のうちの代表ポイント(例えばウェーハ中央一点)において遅延時間(電圧印加からUVパルス照射までの時間)をコンピュータ50に記憶させる(
図4のステップSP3)。例えば、電気伝導率(σ=10
-6,…10
-12 Ω
-1m
-1)が分かっているウェーハで計測した遅延時間(代表的な遅延時間)をコンピュータ50に記憶させておき、未知のウェーハでの計測に適用する際は、コンピュータ50に記憶させておいた遅延時間を呼び出し、電気伝導率(σ=10
-6,…10
-12 Ω
-1m
-1)に対応する遅延時間を未知のウェーハに対して試行して、光信号の遅延時間依存性を取得する。
【0028】
次いで、基板W上の複数の測定点(例えば15機のプローブ電極5による15箇所)上に数μmの間隙(ギャップ)を空けて、複数のプローブ電極5を配置する(
図4のステップSP4)。
コンピュータ50において、遅延時間、印加電圧等の測定時間を設定し(
図4のステップSP5)、基板Wに対し電圧印加、UVパルス照射を各プローブ電極5により順次行う(
図4のステップSP6)。
【0029】
ここで、複数のプローブ電極5による各測定点に対する電圧印加およびUVパルス照射(
図5の光源1〜15)は、デマルチプレクサ20の信号(
図5の光源の選択信号D
0〜D
3:4ビット信号)に基づきスイッチング制御され、250Hz以下の周期で順次行うよう制御される。
【0030】
本実施形態にあっては、15機の紫外励起光源7のため、4ビットのデマルチプレクサ20にていずれか1つを選択し、それ以外は全て非選択とする制御期間を設ける。この選択期間とパルス光を照射するタイミングとを同期させ、測定点毎に独立した光導波路とすることにより、複数の測定点において時分割処理を行うことができる。また、各選択信号D
0〜D
3は、
図5に示すように基準信号に基づくため、パルスタイミングは正確に出力することができる。
【0031】
オシロスコープ12においては、微小信号増幅装置11により増幅された信号が測定され、コンピュータ50に記録される(
図4のステップSP7)。
一測定点において、遅延時間を異ならせて複数回の信号測定がなされると(
図4のステップSP8)、電気伝導率を算出する(
図4のステップSP9)。
全ての測定点について電気伝導率の算出が完了すると(
図4のステップS10)、チャック4による基板Wの吸着を解除し、測定終了となる(
図4のステップS11)。
【0032】
以上のように、本実施の形態によれば、シリコンウェーハ上に誘電体膜が形成された基板に対し、プローブ電極から所定の電圧を印加し紫外線をパルス照射することにより、誘電体膜からリーク電流を流して応答信号である電圧の変化を測定し、誘電体の電気伝導率が求められる。本発明にあっては、前記誘電体膜の全領域に対応するために複数のプローブ電極を備え、前記複数のプローブ電極から順次電圧印加し紫外線をパルス照射することにより、基板全領域における誘電体膜の電気伝導率を迅速に非破壊かつ高精度に測定することができる。
【0033】
なお、前記実施の形態においては、試料としてMIS型半導体素子などを作成する必要がなく、また、非破壊に測定ができるため、従来よりも迅速に電気伝導率の測定を行うことができる。
しかしながら、誘電体の電気伝導率は、微小である程、絶縁性能が高く、膜質の良い誘電体膜である程、電気伝導率が微小となって、時定数が大きくなり、測定時間を長くする必要がある。そのため、更なる課題としては、測定時間のスループット向上と時間短縮が挙げられる。この課題を解決する方法としては、特に測定時間の長くなる(時定数が大きい)測定対象については、内部電界の緩和特性を参照データとして予め記憶し、それを測定に用いる方法がある。
【0034】
具体的に説明すると、例えば、極めて膜質のよい1×10
-14Ω
-1m
-1の電気伝導率を算出する場合、光伝導信号ピーク強度の変化量を300mVとすると、遅延時間の差は、2300sとなる。
図2に示した遅延時間td1とtd2の2点間で傾きを求めると仮定すると、パルス電圧の2周期を必要とするため、少なくともこの時間の倍以上の計測時間が必要となる。
このため、そのような時定数が大きな測定対象については、予め、同等の試料より取得した内部電界の緩和特性を参照データとして用意することが望ましい。
【0035】
例えば、td1での光伝導信号のピーク強度を1とした場合、td2にてその変化量が1/eになったとすれば、td1とtd2の間に変化した光伝導信号ピーク強度の差より時定数(応答信号の変化量)が求められる。
この測定方法に対し、td1とtd2の遅延時間とその途中の遅延時間でも光伝導信号ピーク強度の測定を行い、表2に示す様な時間に対する内部電界の緩和特性を数多く取得し、参照データをモデル化しておく。
【0036】
表1に参照データのテーブル例を示す。
【表1】
【0037】
表1中、2行目以降には実測値が示されるが、記号ΔVQ1、ΔVQ2、ΔVQ3、・・・は、それぞれ、VQ2−VQ1、2VQ2−VQ1、3VQ2−VQ1、・・・を表す。また、AまたはBは、誘電体膜の特性によって決まる固有の倍率を表す。
【0038】
この参照データをコンピュータ50の記憶部(図示せず)で保持した上で、本来の遅延時間よりも短い遅延時間における光伝導信号ピーク強度の傾きを求め、即時、参照データへのフィッティングを行い、本来、求めたい遅延時間における電気伝導率を
図6(a)、(b)に示す様に推定することができる。なお、
図6(a)は、光伝導信号の実測値例、
図6(b)は、光伝導信号の参照データのグラフを示す。フィッティングの精度については、各測定値のばらつき以下とする。これにより、極めて膜質のよい誘電体膜の1×10
-14Ω
-1m
-1相当の電気伝導率測定において時間短縮を図ることができる。
【0039】
なお、以上の測定時間を最小化させる手法の適用には、ロットの先頭ウェーハにおいて、予め、所望の代表測定点にて1次近似のための遅延時間td1およびtd2を決定しておく必要がある。
【実施例】
【0040】
本発明に係る誘電体膜の絶縁特性測定方法について、実施例に基づきさらに説明する。本実施例では、前記実施の形態に基づき以下の実験を行った。
【0041】
本実施例では、
図1に示した測定装置の構成により、シリコンウェーハ上に形成された誘電体膜の電気伝導率を一測定点において測定した。
試料としてチョクラルスキー法によりB(ホウ素)をドープしたシリコン結晶を作成し、その結晶をスライスしてミラー加工した直径300mm、厚さ775μmのP型シリコンウェーハを2枚用意した。それぞれ、異なる方法でシリコンウェーハ上に誘電体膜を成膜した。誘電体膜の厚さは、それぞれ20nm程度および300nm程度である。
【0042】
本実施の形態に示した測定方法に従い、各試料における1か所の測定点の測定結果を
図7、
図8のグラフ、及び表2に示す。
【表2】
【0043】
図7はウェーハに対し熱酸化により誘電体膜の厚さを300nmとしたシリコンウェーハ1の測定結果、
図8はそれにRCA洗浄したシリコンウェーハ2の測定結果である。
図7(a)、
図8(a)は、縦軸が光伝導信号強度(mV)、横軸が遅延時間t
d[ms]またはt
d[s]である。
図7(b)、
図8(b)は、縦軸が光信号の遅延時間に対する変化ΔV(t)[V]、横軸が遅延時間t
d[s]である。また、
図7(c)、
図8(c)は、1次式近似より算出される傾きである。
【0044】
また、表2は前記シリコンウェーハ1、2について、遅延時間t
d[s]、光伝導信号強度の変動量、傾き、電気伝導率を示す。
本実施例の結果、一測定点について誘電体膜を非破壊に且つ迅速に電気伝導率を測定することができた。したがって、
図1のようにプローブ電極5を複数備えるマルチプロービング機構により、複数の測定点について測定することにより、ウェーハ全体の電気伝導率の分布を取得することができることを確認した。