特許第6912904号(P6912904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大陽日酸株式会社の特許一覧

特許6912904カーボンナノチューブの製造方法、カーボンナノチューブ、及び配向カーボンナノチューブ付き基材
<>
  • 特許6912904-カーボンナノチューブの製造方法、カーボンナノチューブ、及び配向カーボンナノチューブ付き基材 図000003
  • 特許6912904-カーボンナノチューブの製造方法、カーボンナノチューブ、及び配向カーボンナノチューブ付き基材 図000004
  • 特許6912904-カーボンナノチューブの製造方法、カーボンナノチューブ、及び配向カーボンナノチューブ付き基材 図000005
  • 特許6912904-カーボンナノチューブの製造方法、カーボンナノチューブ、及び配向カーボンナノチューブ付き基材 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6912904
(24)【登録日】2021年7月13日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブの製造方法、カーボンナノチューブ、及び配向カーボンナノチューブ付き基材
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/162 20170101AFI20210727BHJP
   C01B 32/176 20170101ALI20210727BHJP
【FI】
   C01B32/162
   C01B32/176
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-45079(P2017-45079)
(22)【出願日】2017年3月9日
(65)【公開番号】特開2018-145080(P2018-145080A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 克則
(72)【発明者】
【氏名】坂井 徹
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−100869(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/128349(WO,A1)
【文献】 特開2011−173745(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/092787(WO,A1)
【文献】 特開2007−165678(JP,A)
【文献】 特開2005−068006(JP,A)
【文献】 特開2008−201626(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/132957(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学気相合成法を用いたカーボンナノチューブの製造方法であって、
表面に金属触媒が設けられた基材に対して原料ガスを含むガスを供給し、前記金属触媒を起点として前記基材の表面上にカーボンナノチューブを成長させる第1工程と、
前記基材に対する前記ガスの供給量を前記第1工程における供給量よりも減少させて、前記カーボンナノチューブ中に結晶欠陥を導入する第2工程と、を備える、カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
前記第1工程を2以上備える、請求項1に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記第2工程を2以上備える、請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項4】
前記第2工程では、前記ガスの供給量を前記第1工程における供給量の0%以上10%以下に減少させる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項5】
前記第2工程では、前記ガス中の原料ガスの供給量を前記第1工程における供給量の0%以上10%以下に減少させる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項6】
前記第2工程では、前記ガス又は前記原料ガスの供給量を減少させる時間を連続的に設ける、請求項4又は5に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項7】
前記第2工程では、前記ガス又は前記原料ガスの供給量を減少させる時間を断続的に設ける、請求項4又は5に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項8】
導入した前記結晶欠陥の部位で前記カーボンナノチューブを切断して、当該カーボンナノチューブと前記基材とを分離する第3工程と、をさらに備える、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブと前記基材とを分離する際、当該カーボンナノチューブの一部を引き出して紡糸し、ロープ状炭素構造物を形成する、請求項8に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項10】
励起波長632.8nmで得られるラマンスペクトルにおいて、波数1580cm−1付近に出現するグラファイト構造に起因するピークであるGバンドに出現するピークの強度Iと、波数1360cm−1付近に出現する各種欠陥に起因するピークであるDバンドに出現するピークの強度Iとの比(G/D)が、0.1〜0.5の範囲である結晶欠陥を1以上有する、カーボンナノチューブ。
【請求項11】
当該カーボンナノチューブのいずれか一方の端部と前記端部から50μmの部分との間のいずれかに前記結晶欠陥を有する、請求項10に記載のカーボンナノチューブ。
【請求項12】
当該カーボンナノチューブのいずれか一方の端部に前記結晶欠陥を有する、請求項10に記載のカーボンナノチューブ。
【請求項13】
長さが、50μm以上、1000μm以下である、請求項10乃至12のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブ。
【請求項14】
基材と、前記基材上に設けられた金属触媒と、前記金属触媒を起点とする複数のカーボンナノチューブと、を備え、
複数の前記カーボンナノチューブが前記基材に対して同一の方向となるように配向するとともに、
複数の前記カーボンナノチューブが、前記基材の表面から50μmの高さまでにおいて、少なくとも1以上の結晶欠陥をそれぞれ同一の高さとなるように有する、配向カーボンナノチューブ付き基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの製造方法、カーボンナノチューブ、及び配向カーボンナノチューブ付き基材に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と略記することがある)は、炭素原子で構成されたグラフェンシートが筒状に巻かれたチューブ状の材料である。通常、CNTの直径は、100nm以下である。CNTは、電気特性及び機械特性に優れ、比重が小さいため、種々の応用が期待されている。CNTの応用用途としては、例えば、リチウムイオン二次電池の正極、負極の導電助剤、電気二重層キャパシタ用シート材料、燃料電池の電極触媒材料、樹脂やセラミックスなどに導電性及び熱伝導性を与える添加材が挙げられる。
【0003】
CNTの合成方法としては、(1)炭素電極間のアーク放電法、(2)炭素のレーザー蒸発法、(3)炭化水素ガスの熱分解法が知られているが、工業的に一定の品質のCNTを大量に合成する観点から、(3)炭化水素ガスの熱分解法を選択することが一般的である。
【0004】
上述した炭化水素ガスの熱分解法によるCNTの合成方法では、鉄等の金属触媒を用い、該金属触媒を起点としてCNTを成長させる。このため、得られたCNTは、不純物として金属触媒を含むことになる。しかしながら、上述したCNTの応用用途には、金属不純物を嫌う場合があるため、CNTに含まれる金属不純物を除去して該CNTの純度を高める方法が検討されてきた。
【0005】
CNTに含まれる金属不純物を除去する方法としては、特許文献1及び2が知られている。特許文献1には、CNTに含まれる触媒金属粒子を、1500℃という高熱で蒸発させて除去する方法が記載されている。また、特許文献2には、CNTに含まれる金属不純物を酸溶液に溶解させて除去する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−082105号公報
【特許文献2】特開2013−075784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、1500℃という高温で熱処理が可能な設備が必要であるとともに、非常に多くの熱エネルギーを要するという課題があった。
また、特許文献2に記載の方法では、酸処理をするための設備が必要であるとともに、CNTの酸処理の他に、酸溶液に浸漬するための前処理、酸処理後の洗浄や乾燥等、追加の工程が必要となるという課題があった。さらに、酸処理に関連した追加の工程の際、CNTが損傷するおそれや、劣化するおそれがあった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、容易にカーボンナノチューブの純度を高めることが可能なカーボンナノチューブの製造方法、カーボンナノチューブ、及び配向カーボンナノチューブ付き基材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
[1] 化学気相合成法を用いたカーボンナノチューブの製造方法であって、
表面に金属触媒が設けられた基材に対して原料ガスを含むガスを供給し、前記金属触媒を起点として前記基材の表面上にカーボンナノチューブを成長させる第1工程と、
前記基材に対する前記ガスの供給量を前記第1工程における供給量よりも減少させて、前記カーボンナノチューブ中に結晶欠陥を導入する第2工程と、を備える、カーボンナノチューブの製造方法。
[2] 前記第1工程を2以上備える、[1]に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
[3] 前記第2工程を2以上備える、[1]又は[2]に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
[4] 前記第2工程では、前記ガスの供給量を前記第1工程における供給量の0%以上10%以下に減少させる、[1]乃至[3]のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
[5] 前記第2工程では、前記ガス中の原料ガスの供給量を前記第1工程における供給量の0%以上10%以下に減少させる、[1]乃至[3]のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
[6] 前記第2工程では、前記ガス又は前記原料ガスの供給量を減少させる時間を連続的に設ける、[4]又は[5]に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
[7] 前記第2工程では、前記ガス又は前記原料ガスの供給量を減少させる時間を断続的に設ける、[4]又は[5]に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
[8] 導入した前記結晶欠陥の部位で前記カーボンナノチューブを切断して、当該カーボンナノチューブと前記基材とを分離する第3工程と、をさらに備える、[1]乃至[7]のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
[9] 前記カーボンナノチューブと前記基材とを分離する際、当該カーボンナノチューブの一部を引き出して紡糸し、ロープ状炭素構造物を形成する、[8]に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
[10] 励起波長632.8nmで得られるラマンスペクトルにおいて、波数1580cm−1付近に出現するグラファイト構造に起因するピークであるGバンドに出現するピークの強度Iと、波数1360cm−1付近に出現する各種欠陥に起因するピークであるDバンドに出現するピークの強度Iとの比(G/D)が、0.1〜0.5の範囲である結晶欠陥を1以上有する、カーボンナノチューブ。
[11] 当該カーボンナノチューブのいずれか一方の端部と前記端部から50μmの部分との間のいずれかに前記結晶欠陥を有する、[10]に記載のカーボンナノチューブ。
[12] 当該カーボンナノチューブのいずれか一方の端部に前記結晶欠陥を有する、[10]に記載のカーボンナノチューブ。
[13] 長さが、50μm以上、1000μm以下である、[10]乃至[12]のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブ。
[14] 基材と、前記基材上に設けられた金属触媒と、前記金属触媒を起点とする複数のカーボンナノチューブと、を備え、
複数の前記カーボンナノチューブが前記基材に対して同一の方向となるように配向するとともに、
複数の前記カーボンナノチューブが、前記基材の表面から50μmの高さまでにおいて、少なくとも1以上の結晶欠陥をそれぞれ同一の高さとなるように有する、配向カーボンナノチューブ付き基材。
【発明の効果】
【0010】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法は、基材に対するガスの供給量を減少させてカーボンナノチューブ中に結晶欠陥を導入する工程を含む構成であるため、導入した結晶欠陥を起点としてカーボンナノチューブと基材とを分離することができる。その際、基材上に金属触媒が残留するため、容易にカーボンナノチューブの純度を高めることができる。
【0011】
本発明のカーボンナノチューブは、上記カーボンナノチューブの製造方法によって得られるため、ラマンスペクトルにおけるピーク強度の比(G/D)が0.1〜0.5の範囲の結晶欠陥を1以上有する。これにより、カーボンナノチューブ中に不純物を含む場合でも結晶欠陥を起点として不純物を含む部分を切り離すことができるため、容易にカーボンナノチューブの純度を高めることができる。
【0012】
本発明の配向カーボンナノチューブ付き基材は、上記カーボンナノチューブの製造方法によって得られるため、複数のカーボンナノチューブが、基材の表面から50μmの高さまでにおいて、少なくとも1以上の結晶欠陥をそれぞれ同一の高さとなるように有する。これにより、結晶欠陥を起点としてカーボンナノチューブと基材とを分離することができる。その際、基材上に金属触媒が残留するため、容易にカーボンナノチューブの純度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態のカーボンナノチューブの製造方法を説明するための図であり、CVD法におけるガス流量の時間経過を示す図である。
図2】本実施形態のカーボンナノチューブの製造方法によって得られるカーボンナノチューブ(配向カーボンナノチューブ付き基材)を示す図である。
図3】本実施形態のカーボンナノチューブの製造方法において、結晶欠陥を導入したカーボンナノチューブからロープ状炭素構造物を取り出す際の模式図である。
図4】本実施形態のカーボンナノチューブの製造方法において、基材からカーボンナノチューブをロープ状炭素構造物として取り出す際の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用した一実施形態であるカーボンナノチューブの製造方法の構成について、当該製造方法によって得られるカーボンナノチューブ、及び配向カーボンナノチューブ付き基材の構成と併せて、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0015】
<カーボンナノチューブの製造方法>
先ず、本発明を適用した一実施形態であるカーボンナノチューブの製造方法の構成について説明する。
本実施形態のカーボンナノチューブの製造方法は、化学気相合成法を用いるものであり、表面に金属触媒が設けられた基材に対して原料ガスを含むガスを供給し、金属触媒を起点として基材の表面上にカーボンナノチューブを成長させる第1工程と、基材に対するガスの供給量を第1工程における供給量よりも減少させて、カーボンナノチューブ中に結晶欠陥を導入する第2工程と、導入した結晶欠陥の部位でカーボンナノチューブを切断して、カーボンナノチューブと基材とを分離する第3工程とを備えて、概略構成されている。
【0016】
(第1工程)
第1工程では、先ず、基板(基材)上にカーボンナノチューブを成長させるための触媒層を形成する。
基板としては、特に限定されるものではないが、複数の触媒粒子から構成される触媒層を支持可能な基板であることが好ましく、触媒が流動化・粒子化する際にその動きを妨げない平滑度を有する基板であることが好ましい。また、基板の材質としては、特に限定されるものではないが、触媒金属に対する反応性が低い材料であることが好ましい。このような基板としては、具体的には、例えば、平滑性や価格の面、耐熱性の面で優れた単結晶シリコン基板が挙げられる。
【0017】
なお、基板として単結晶シリコン基板を用いる場合、基板の表面に化合物が形成されることを防止するために、基板の表面を酸化処理、又は窒化処理することが好ましい。これにより、単結晶シリコン基板の表面には、シリコン酸化膜(SiO膜)、又はシリコン窒化膜(Si膜)が形成される。また、単結晶シリコン基板の表面に、反応性の低いアルミナ等の金属酸化物からなる被膜を形成した後、この被膜上に触媒層を形成してもよい。
【0018】
触媒層を構成する触媒粒子としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ニッケル、コバルト、鉄等の金属粒子を用いることができる。また、触媒粒子としては、一種の金属からなる単一触媒(金属触媒)を用いることが好ましく、鉄一元系を用いることがより好ましい。これにより、高純度なカーボンナノチューブを形成することが可能となる。
【0019】
触媒層の厚さは、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、0.5〜100nmの範囲で設定することが好ましく、0.5〜15nmの範囲で設定することがより好ましい。ここで、触媒層の厚さが0.5nm以上であれば、基板の表面に均一な厚さの触媒層を形成することができる。また、触媒層の厚さが15nm以下であれば、800℃以下の加熱温度によって粒子化することができる。
【0020】
触媒層の形成方法としては、特に限定されるものではないが、具体的には、スパッタ法や真空蒸着法等によって基板上に金属を堆積させる方法や、基板上に触媒溶液を塗布して塗布層を形成後に加熱し乾燥させる方法が挙げられる。
【0021】
なお、触媒溶液としては、例えば、ニッケル、コバルト、鉄等の金属のうちの1種、またはニッケル、コバルト、鉄等の金属錯体の化合物のうちの1種を含んだ触媒溶液を用いることができる。
【0022】
また、触媒溶液を基板上に塗布する方法としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、バーコーター法、インクジェット法、スリットコータ法等が挙げられる。
【0023】
塗布層の加熱は、例えば、空気中大気圧下、減圧下または非酸化雰囲気下で、500℃〜1000℃の温度範囲で行うことが好ましく、650〜800℃の温度範囲で行うことがより好ましい。これにより、直径が0.5〜50nm程度の、複数の触媒粒子から構成される触媒層を形成することができる。
【0024】
次に、CVD法により、高温雰囲気中で原料ガスとキャリアガスとを含む混合ガス(ガス)を触媒層が形成された基板に供給し、触媒粒子を核としてカーボンナノチューブを成長させる。この際、複数のカーボンナノチューブは、基板に対して垂直配向するように形成される。カーボンナノチューブの形成温度は、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、500℃〜1000℃の範囲とすることが好ましく、650〜800℃の範囲とすることがより好ましい。
【0025】
ここで、カーボンナノチューブ1本の長さは、原料ガスの供給量、合成圧力、CVD装置のチャンバー内での反応時間によって調整することができる。CVD装置のチャンバー内での反応時間を長くすることにより、カーボンナノチューブの長さを数mm程度まで伸ばすことができる。
【0026】
カーボンナノチューブの合成・成長に使用する原料ガスとしては、例えば、アセチレン、メタン、エチレン等の脂肪族炭化水素のガスを用いることができる。これらのうち、アセチレンガスが好ましく、さらにアセチレン濃度が99.9999%以上の超高純度のアセチレンガスがより好ましい。
【0027】
なお、原料ガスとしてアセチレンガスを用いると、核となる触媒粒子から多層構造で直径が0.5〜50nmの複数のカーボンナノチューブが、基板に対して垂直、かつ一定方向に配向成長する。また、原料ガスとして超高純度のアセチレンガスを用いることで、品質の良いカーボンナノチューブを成長させることができる。
【0028】
原料ガスを搬送させるキャリアガスとしては、例えば、He、Ne、Ar、N、Hなどが挙げられる。これらのうち、He,N,Arが好ましく、Heがより好ましい。
【0029】
原料ガスとキャリアガスとを含む混合ガスの総量に対して、原料ガスの含有量は、5〜100体積%であることが好ましく、10〜100体積%であることがより好ましい。原料ガスの含有量が上記好ましい範囲の下限値以上であると、CNTを密に合成することができ、工程3のロープ状炭素構造物を容易に取り出すことができる。
【0030】
(第2工程)
上述した第1工程において、カーボンナノチューブを充分に成長させた後、第2工程に移行する。第2工程では、基板に対するガスの供給量を第1工程における供給量よりも減少させて、カーボンナノチューブ中に結晶欠陥を導入する。
【0031】
本実施形態のカーボンナノチューブの製造方法において、ガスの供給量を減少させるとは、下記(1)及び(2)の場合をいう。
(1)ガスの供給量を第1工程における供給量の0%以上10%以下とする。
すなわち、第1工程における原料ガスとキャリアガスとの比率を維持したまま、ガスの供給量の全体を上記第1工程時の流量の10%以下(0%を含む)に低下させることをいう。
【0032】
(2)ガス中の原料ガスの供給量を第1工程における供給量の0%以上10%以下とする。
すなわち、第1工程におけるキャリアガスの供給量を維持したまま、原料ガスの供給量を上記第1工程時の流量の10%以下(0%を含む)に低下させることをいう。
【0033】
上述したガスの供給量を減少させる時間は、連続的に設けられていてもよいし、断続的に設けられていてもよい。
【0034】
本実施形態のカーボンナノチューブの製造方法は、上述したようにガスの供給量を減少させる時間(すなわち、第2工程)を設けることにより、第1工程によって成長させたカーボンナノチューブの端部に結晶欠陥を導入することができる。
【0035】
本実施形態のカーボンナノチューブの製造方法は、第3工程の前であれば、上述した第2工程の後に再び第1工程を行ってもよい。ガスの供給量を再び第1工程の条件に戻すことにより、導入した結晶欠陥に連続するように、結晶欠陥のないカーボンナノチューブを再び成長させることができる。これにより、基板表面から所定の高さとなるようにカーボンナノチューブ中に結晶欠陥を導入することができる。
【0036】
ここで、図1及び図2を参照しながら、本実施形態のカーボンナノチューブの製造方法における第1工程及び第2工程について説明する。図1は、本実施形態のカーボンナノチューブの製造方法を説明するための図であり、CVD法におけるガス流量の時間経過を示す図である。また、図2は、本実施形態のカーボンナノチューブの製造方法によって得られるカーボンナノチューブ(配向カーボンナノチューブ付き基材)を示す図である。
【0037】
図2に示すように、表面に金属触媒2が設けられた基材1を準備し、図示略のCVD装置内に設置する。
図1に示すように、時刻T1において、CVD装置内にキャリアガスの供給を開始する。ここで、キャリアガスは、所定の流量Q2である。また、原料ガスは遮断状態にある。
【0038】
次に、時刻T2において、CVD装置内に原料ガスの供給を開始する。ここで、原料ガスは瞬時に所定の流量Q1となる。また、キャリアガスの流量は、Q2−Q1となるため、CVD装置内に供給するガスの総量は、時刻T1〜T2の間と変化していない。この状態を時刻T2〜T3の間、継続する。
【0039】
すなわち、時刻T2〜T3の間が、第1工程である。図2に示すように、この第1工程において、金属触媒2を起点としてカーボンナノチューブ3(3A部分)が成長する。
【0040】
次に、図1に示すように、時刻T3において、キャリアガス及び原料ガスの流量を減少(停止)する。このガス流量の減少により、触媒基体面に対して垂直に配向して成長するカーボンナノチューブには結晶欠陥が発生する。この状態を時刻T3〜T4の間、継続する。
【0041】
すなわち、時刻T3〜T4の間が、第2工程である。図2に示すように、この第2工程において、カーボンナノチューブ3(3A部分)の端部に結晶欠陥4が導入される。
【0042】
次に、図1に示すように、時刻T4において、再びガスの供給量を時刻T2〜T3時と同じ状態とする。この状態をT4〜T5の間、継続する。
【0043】
すなわち、時刻T4において、再び第1工程を行う。図2に示すように、この第1工程において、導入された結晶欠陥4から連続するように、再び結晶欠陥のないカーボンナノチューブ3(3B部分)が成長する。
【0044】
次に、図1に示すように、時刻T5において原料ガスの供給を遮断する。この状態をT5〜T6の間継続して、CVD反応を終了する。以上のようにして、図2に示すように、カーボンナノチューブ3(配向カーボンナノチューブ付き基材10)が得られる。
【0045】
(第3工程)
次に、第3工程では、導入した結晶欠陥の部位でカーボンナノチューブを切断することにより、カーボンナノチューブと基材とを分離する。カーボンナノチューブと基材との分離方法は特に制限されないが、スクレーパーのようなヘラによって剥離する方法や、粘着テープによって転写する方法等が挙げられる。結晶欠陥を作ったカーボンナノチューブは、該結晶欠陥の部位で容易に切断することができるため、カーボンナノチューブを成長させる際に用いた金属触媒粒子を基材に残留させたまま、カーボンナノチューブのみを取り出すことが可能である。
【0046】
また、カーボンナノチューブと基材とを分離する際、当該カーボンナノチューブの一部を引き出して紡糸し、ロープ状炭素構造物を形成してもよい。図3は、結晶欠陥を導入したカーボンナノチューブからロープ状炭素構造物を取り出す際の模式図である。図3に示すように、カーボンナノチューブ3同士がファンデルワールス力により引きあう程度に密集している場合、基材1の表面上に形成されたカーボンナノチューブ3の一部をピンセット等で引き上げると、引き上げたカーボンナノチューブ3の束にその周辺にある一部のカーボンナノチューブ3が追従して、カーボンナノチューブ3の束が連なるロープ状炭素構造物30を形成することができる。
【0047】
すなわち、カーボンナノチューブ3に導入した結晶欠陥4がロープ状炭素構造物30を成すファンデルワールス力に負けて切断されながら基材1から分離される。そのため、金属触媒(触媒粒子)2は基材1に残留し、基材1から分離したカーボンナノチューブ3(3A)は金属触媒2を全く含まないロープ状炭素構造物30として取り出すことができる。この方法により、精製の工程及び設備を要することなく、高純度なカーボンナノチューブを提供することができる。
【0048】
図4は、基材からカーボンナノチューブをロープ状炭素構造物として取り出す際の模式図である。図4に示すように、引き出されたロープ状炭素構造物30は連続的に引出やすくなり、帯のようになって配向カーボンナノチューブ付き基材10から分離され、ローラー20等を用いて容易に回収することができる。このようにして回収されたカーボンナノチューブは、例えばカーボンナノチューブ分散液等に加工することができ、二次電池の電極材料、電気二重層キャパシタ用シート材料、燃料電池の電極触媒材料、樹脂パーツへの導電性付与添加剤として利用することができる。
【0049】
<配向カーボンナノチューブ付き基材>
図2に示すように、上述したカーボンナノチューブの製造方法によって得られる配向カーボンナノチューブ付き基材10は、基材1と、基材1上に設けられた金属触媒2と、金属触媒2を起点とする複数のカーボンナノチューブ3と、を備えている。複数のカーボンナノチューブ3は、基材1に対して同一の方向(すなわち、基板表面に対して垂直方向)となるように配向している。また、複数のカーボンナノチューブ3には、基材1の表面から50μmの高さまでにおいて、少なくとも1以上の結晶欠陥4がそれぞれ同一の高さとなるように設けられている。
【0050】
<カーボンナノチューブ>
上述したカーボンナノチューブの製造方法によって得られるカーボンナノチューブの長さは、特に制限はないが、カーボンナノチューブの平均長さが30〜5000μmであることが好ましく、生産性の観点から50〜600μmであることがより好ましい。ここで、カーボンナノチューブの平均長さが上記好ましい範囲であると、種々の用途においてカーボンナノチューブの特性を充分に発揮することができるために好ましい。
【0051】
また、カーボンナノチューブの径(直径)は、カーボンナノチューブの層数に大きく依存するものであるが、平均径が1〜80nmであることが好ましく、4〜20nmであることがより好ましい。これらの中でも、平均径が4nm以上とすることにより、折れにくいという効果が得られる。
【0052】
また、カーボンナノチューブの結晶性は、良いことが好ましい。具体的には、カーボンナノチューブの結晶性の指標である「G/D」が0.8以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましい。ここで、上記「G/D」が12以上のカーボンナノチューブは、その構造中に欠陥となる5員環や7員環が少ないため、折損等を低減することができるため、好ましい。
【0053】
上記「G/D」は、例えば、励起波長632.8nmで得られるラマンスペクトルにおいて、波数1580cm−1付近に出現するグラファイト構造に起因するピークであるGバンドに出現するピークの強度Iと、波数1360cm−1付近に出現する各種欠陥に起因するピークであるDバンドに出現するピークの強度Iとの比である。また、上記「G/D」は、市販のラマン分光分析装置を用いて算出することができる。なお、カーボンナノチューブでは、上記Gバンドのピークの分裂が観測されることがあるが、この場合、ピーク強度Iとして高い方のピーク高さを採用すればよい。
【0054】
図2に示すように、上述したカーボンナノチューブの製造方法によって基材1上に設けられたカーボンナノチューブ3は、任意に一部を強く屈曲させた結晶欠陥4を1つ以上有している。この結晶欠陥4は、上述したように、CVD反応時に原料ガスを遮断あるいは低濃度化することによって結晶成長が不安定になり、いびつに成長することで発生する。なお、結晶欠陥4は、上記「G/D」が、0.1〜0.5の範囲である。
【0055】
基材1から取り出されたカーボンナノチューブ3は、上述した結晶欠陥4を有していてもよいし、有していなくてもよい。カーボンナノチューブ3を種々の用途に用いる場合、当該カーボンナノチューブの性能を発揮させる観点から、結晶欠陥4を有さないほうが好ましい。
【0056】
カーボンナノチューブ3が結晶欠陥4を有する場合、当該カーボンナノチューブのいずれか一方の端部に結晶欠陥4を有していてもよい。上述したカーボンナノチューブの製造方法において、導入した結晶欠陥4の部位でカーボンナノチューブ3を切断することにより、カーボンナノチューブ3(3A部分)と基材1とを分離する際、カーボンナノチューブ3Aの端部に結晶欠陥4の一部が残存する場合があるためである。
【0057】
基材1から分離した後のカーボンナノチューブ3Aの長さは、特に制限されないが、種々の用途にカーボンナノチューブを用いる観点から、50μm以上、1000μm以下であることが好ましく、50μm以上、600μm以下であることがより好ましい。分離後のカーボンナノチューブ3Aの長さが上記好ましい範囲であると、当該カーボンナノチューブの性能を充分に発揮させることができる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態のカーボンナノチューブの製造方法によれば、基材に対するガスの供給量を減少させてカーボンナノチューブ中に結晶欠陥を導入する工程を含む構成であるため、導入した結晶欠陥を起点としてカーボンナノチューブと基材とを分離することができる。その際、基材上に金属触媒が残留するため、容易にカーボンナノチューブの純度を高めることができる。
【0059】
本実施形態のカーボンナノチューブ3によれば、上記カーボンナノチューブの製造方法によって得られるため、基材1上に設けられた状態において、ラマンスペクトルにおけるピーク強度の比(G/D)が0.1〜0.5の範囲の結晶欠陥4を1以上有する。これにより、カーボンナノチューブ3の端部に不純物として金属触媒2を含む場合でも結晶欠陥4を起点として金属触媒2を基材1側に残した状態で切り離すことができる。したがって、容易にカーボンナノチューブ3の純度を高めることができる。
【0060】
本実施形態の配向カーボンナノチューブ付き基材10によれば、上記カーボンナノチューブの製造方法によって得られるため、複数のカーボンナノチューブ3が、基材1の表面から50μmの高さまでにおいて、少なくとも1以上の結晶欠陥4をそれぞれ同一の高さとなるように有する。これにより、結晶欠陥4を起点としてカーボンナノチューブ3(3A部分)と基材1とを分離することができる。その際、基材1上に金属触媒2が残留するため、容易にカーボンナノチューブ3(3B)の純度を高めることができる。
【0061】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。上述した実施形態におけるカーボンナノチューブの製造方法では、図1及び図2に示すように、第1工程及び第2工程を行った後、再び第1工程を行う構成を一例として説明したが、これに限定されない。
例えば、第1工程及び第2工程を行った後、再び第1工程を行わない構成としてもよい。これにより、図2中に示すカーボンナノチューブ3B部分の成長を省略することができる。
【0062】
また、上述した実施形態において、2回目の第1工程を行った後、再び第2工程を行って、2つ目の結晶欠陥を導入する構成としてもよい。すなわち、第1工程及び第2工程をそれぞれ2以上備える構成であってもよい。
【0063】
以下、本発明の効果について、実施例及び比較例によって詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例の内容に限定されるものではない。
【0064】
<実施例1>
図1に示す条件を用いてカーボンナノチューブを合成した。
シリコンウェハ(基材)に硝酸鉄から成る触媒溶液を塗布し、基材の表面に金属触媒からなる触媒層を形成した。当該基材を反応室に挿入し、CVD法でCNTの合成を実施した。図1中に示す原料ガスの流量(Q1)は、100sccmとした。キャリアガスの流量(Q2−Q1)は900sccm、総流量(Q2)は1000sccmとした。また、図1中に示す時間は、T1〜T2を100sec、T2〜T3を540sec、T3〜T4を30sec、T4〜T5を30sec、T5〜T6を100secとした。さらに、T3〜T4の間の原料ガスの流量は0sccmとし、キャリアガスの流量も0sccmを継続した。なお、反応室内の温度は700℃とし、圧力は大気圧(1×10Pa)とした。
【0065】
上記条件によってCNTを合成することで、ロープ状炭素構造体が作成可能な配向CNTを得た。
【0066】
合成したCNTアレイの結晶欠陥の部分と、結晶欠陥の無い部分のG/Dを測定する為、顕微ラマン分光光度計により、ラマンスペクトル測定を行った。G−bandピーク(1590cm−1付近)とD−bandピーク(1350cm−1付近)の強度比から、G/Dを算出した。その結果、結晶欠陥のある部分では、G/D=0.4、結晶欠陥の無い部分ではG/D=1.1となっており、結晶欠陥のある部分はG/Dが低いことを確認した。
【0067】
次に、得られた配向CNTをロープ状炭素構造体としてローラーに取り出して、高純度CNTのサンプルとした。
【0068】
次に、得られたロープ状炭素構造体をマイクロ波分解装置により、硝酸、フッ酸及び過塩素酸の混酸中に溶解した。この分解液を20倍に希釈し、ICP質量分析装置(サーモエレクトロン社製、「X seriesII」)を用いたICP質量分析により、触媒粒子である鉄の濃度を測定した。(測定質量数[m/z]:Fe:56[Rh:103(CCT)])結果を表1に示す。
【0069】
<比較例1>
上述した実施例1において、T3〜T4の時間を0secとして結晶欠陥を作らずに取り出したロープ状炭素構造物50mgを同様の方法で溶解し、同様の方法で鉄の濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0070】
<比較例2>
比較例1と同じように合成し、スクレーパーで基体から分離したものをAr雰囲気にて2500℃で1時間焼成したCNT50mgを同様の方法で溶解し、同様の方法で鉄の濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示すように、比較例1は、触媒である鉄の濃度が30ppmであった。したがって、比較例1の方法では、高純度のCNTが得られないことを確認した。
【0073】
また、比較例2によれば、ロープ状炭素構造物として取り出したカーボンナノチューブをAr雰囲気、2500℃で熱処理し、Fe粒子を蒸発させて除去することにより、鉄の濃度が10ppm(検出下限値)以下であった。
【0074】
これに対して、実施例1は、触媒である鉄の濃度が10ppm(検出下限値)以下であった。したがって、実施例1は、2500℃という高温で熱処理をすることなく、簡便な方法で炭素純度99.999%以上という高純度のCNTが得られることを確認した。
【符号の説明】
【0075】
1・・・基材(基板)
2・・・金属触媒(触媒粒子)
3・・・カーボンナノチューブ(配向カーボンナノチューブ)
4・・・結晶欠陥
10・・・配向カーボンナノチューブ付き基材
20・・・ローラー
30・・・ロープ状炭素構造物
図1
図2
図3
図4