(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6912977
(24)【登録日】2021年7月13日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】揚げ物用ミックス、及び揚げ物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/157 20160101AFI20210727BHJP
A23L 5/10 20160101ALI20210727BHJP
【FI】
A23L7/157
A23L5/10 E
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-170696(P2017-170696)
(22)【出願日】2017年9月5日
(65)【公開番号】特開2019-41717(P2019-41717A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2020年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154597
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】松下 聡
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 有造
【審査官】
安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−254785(JP,A)
【文献】
特開平11−075749(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/133483(WO,A1)
【文献】
特開2008−035792(JP,A)
【文献】
特開2000−000073(JP,A)
【文献】
特開2005−348699(JP,A)
【文献】
特開平07−303457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/157
A23L 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含量が0.1〜1.1%である酸化サゴ澱粉、及び/又は酸処理サゴ澱粉を含有することを特徴とする揚げ物用ミックス。
【請求項2】
前記揚げ物用ミックス100質量部中に、前記酸化サゴ澱粉、及び/又は前記酸処理サゴ澱粉を1〜50質量部含有する請求項1に記載の揚げ物用ミックス。
【請求項3】
水、及び水以外のバッター材料からなるバッター、又はブレッダーを用いる揚げ物の製造方法であって、
前記バッター材料、又は前記ブレッダーが、カルボキシル基含量が0.1〜1.1%である酸化サゴ澱粉、及び/又は酸処理サゴ澱粉を含有することを特徴とする揚げ物の製造方法。
【請求項4】
前記酸化サゴ澱粉、及び/又は前記酸処理サゴ澱粉の含有量が、前記水以外のバッター材料、又は前記ブレッダー100質量部中に、1〜50質量部である請求項3に記載の揚げ物の製造方法。
【請求項5】
前記バッター材料、又は前記ブレッダーが、請求項1又は2に記載の揚げ物用ミックスを含む請求項3又は4に記載の揚げ物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚げ物の製造に用いる揚げ物用ミックス、及び揚げ物の製造方法に関し、特に、油ちょう後、経時的に食感が低下すること、及び油っぽくなることが抑制された揚げ物を製造できる揚げ物用ミックス、及びそのような揚げ物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
揚げ物は、魚介類、畜肉類、野菜類等の具材に、小麦粉等を含むバッター、若しくはブレッダーを付着させたものを油ちょうした天ぷら、フリッター、から揚げ、竜田揚げ、パン粉付けフライ等、又は前記バッターそのものをフライ油に散らして油ちょうした揚げ玉(天かす)等のことをいう。一般に、揚げ物は、油ちょう直後はサクミを有する良好な食感が得られるが、経時的にサクミの低下が生じ、引きが強く、歯切れが悪くなり、食感が低下するとともに油っぽくなる傾向がある。
【0003】
従来から、揚げ物の食感を向上させる技術が開発されている。例えば、特許文献1では、揚げ物の衣の食感、風味を改良し、油ちょう後時間が経過してから食される場合や、電子レンジ加熱により衣の食感、風味が低下することを防止する揚げ物用組成物を提供することを目的として、セルロース及び乳化剤とからなる揚げ物用衣改良剤が開示されている。また、特許文献2では、油揚げした直後は勿論のこと、冷めたり、時間が経過したときにも、べとついた食感にならず、歯もろさに優れていて且つソフトさに富んでおり、しかも口溶けの良い、良好な食感を有する揚げ物をつくることのできる揚げ物用衣組成物を提供することを目的として、酸化澱粉およびワキシー澱粉を含有することを特徴とする揚げ物用衣組成物が開示されている。さらに、特許文献3では、サク味に優れ、歯切れがよく、油っぽさが少ない衣を形成することができる、揚げ物用衣材を提供することを目的として、小麦粉(A)と、カルボキシル基含量0.1〜1.1%である酸化澱粉(B)と、加熱溶解度が3〜40%である膨潤抑制澱粉(C)とを含み、前記小麦粉(A)と、前記酸化澱粉(B)及び前記膨潤抑制澱粉(C)との質量比が10:90〜60:40であり、前記酸化澱粉(B)と、前記膨潤抑制澱粉(C)との質量比が15:85〜35:65であることを特徴とする揚げ物用衣材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−287450号公報
【特許文献2】特開平08−131109号公報
【特許文献3】特開2011−254785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3の技術を用いても、油ちょう後の揚げ物について、経時的にサクミの低下が生じ、歯切れが悪くなり、良好な食感が低下すること、及び油っぽくなることを抑制する効果は十分ではなく、さらなる改善が求められている。
【0006】
したがって、本発明の目的は、油ちょう後、経時的に食感が低下すること、及び油っぽくなることが抑制された揚げ物を製造できる揚げ物用ミックス、及びそのような揚げ物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、揚げ物用ミックスの配合について種々検討を行なった結果、特定の澱粉を配合することで、上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
すなわち、上記目的は、カルボキシル基含量が0.1〜1.1%である酸化サゴ澱粉、及び/又は酸処理サゴ澱粉を含有することを特徴とする揚げ物用ミックスによって達成される。また、上記目的は、水、及び水以外のバッター材料、又はブレッダーを用いる揚げ物の製造方法であって、前記バッター材料、又は前記ブレッダーが、カルボキシル基含量が0.1〜1.1%である酸化サゴ澱粉、及び/又は酸処理サゴ澱粉を含有することを特徴とする揚げ物の製造方法によって達成される。なお、本発明において、「揚げ物」は、上述の通り、魚介類及び水産加工品類、畜肉類及び畜肉加工品類、野菜類等の具材に、小麦粉等を含むバッター、若しくはブレッダーを付着させたもの、又は前記バッターそのものを油ちょうしたもの等も挙げられる。具体的には、天ぷら、フリッター、から揚げ、竜田揚げ、パン粉付けフライ、揚げ玉(天かす)等のことをいう。また、「バッター」は、小麦粉等の原料粉、及びその他の副資材を含むバッター材料に水を加えて均一にした食品の製造に用いる流体を意味し、「ブレッダー」は、小麦粉等の原料粉、及びその他の副資材を混合した粉粒体を意味し、「揚げ物用ミックス」は、揚げ物用バッターを調製するためのバッター材料を混合した組成物、又はブレッダー用の材料を混合した組成物を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の揚げ物用ミックス、及び揚げ物の製造方法を用いることにより、油ちょう後、経時的に食感が低下すること、及び油っぽくなることが抑制された揚げ物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[揚げ物用ミックス]
本発明の揚げ物用ミックスは、カルボキシル基含量が0.1〜1.1%である酸化サゴ澱粉、及び/又は酸処理サゴ澱粉を含有することを特徴とする。サゴ澱粉は、東南アジア原産の多年生木本植物のサゴヤシの樹幹に蓄積する澱粉である。サゴ澱粉は楕円形またはその一部が欠けた釣り鐘形の形状で、粒径が10〜65μm(平均粒径35μm)であり、澱粉の中でも大きく、さらに粒度がほぼ均一であるという特徴を有する。これまで、サゴ澱粉は、麺類、餅菓子等の製造時に使用する打ち粉(例えば、特開平1-179658)や、麺類の原料粉(例えば、特開平3−58762、特開2002−119232)に使用されることは知られていたが、その他の使用例はほとんど知られていなかった。本発明においては、サゴ澱粉の内、上記範囲のカルボキシル基含量を有する酸化サゴ澱粉、及び/又は酸処理サゴ澱粉を揚げ物用ミックスに用いることで、揚げ物を油ちょうした後、経時的に食感が低下すること、及び油っぽくなることを抑制できることが見出された。後述する実施例に示す通り、上記範囲のカルボキシル基含量の酸化澱粉、及び/又は酸処理澱粉であっても、サゴ澱粉以外の澱粉では上記効果は認められず、サゴ澱粉であっても、上記範囲のカルボキシル基含量の酸化澱粉、及び/又は酸処理澱粉でなければ上記効果は認められない。
【0011】
本発明において、酸化澱粉は常法によって調製することができる。例えば、原料澱粉の水懸濁液に所定量の次亜塩素酸ナトリウムの溶液を添加してアルカリ性下で反応させた後、亜硫酸水素ナトリウムなどの還元剤を加えて残存する有効塩素を消去し、酸を加えて中和する。その後、水でよく洗浄して副生する塩や不純物を除去し、脱水乾燥して調製することができる。また、本発明において、酸化澱粉のカルボキシル基含量は、以下の方法で求めることができる。すなわち、試料を精秤し、0.1N塩酸25mlを添加し、30分間撹拌した後、減圧ろ過し、ろ液が塩化物の反応を呈さなくなるまで蒸留水で洗浄する。塩化物の反応は、ろ液に0.1N硝酸銀水溶液を添加した際に白濁するかを確認する。その後、残留物を蒸留水300mlに懸濁し、撹拌しながら水浴上で加熱して糊化させ、さらに15分間加熱した後、直ちにフェノールフタレイン指示薬を3滴加え、0.1N水酸化ナトリウム水溶液で呈色するまで滴定する。また、ブランク試験として、本試験と同量の試料を精秤し、蒸留水10mlを添加し、30分間撹拌した後、減圧ろ過し、残留物を蒸留水200mlで洗浄する。その後、残留物を蒸留水300mlに懸濁し、上記と同様に処理し、0.1N水酸化ナトリウム水溶液で滴定する。カルボキシル基含量は以下の式(I)を用いて算出することができる。
カルボキシル基含量(%)=(a−b)×f×0.45/c・・・(I)
[式中、aは本試験の滴定量(ml)、bはブランク試験の滴定量(ml)、fは0.1N水酸化ナトリウム水溶液の力価、cは精秤した試料の乾燥質量(g)を意味する。]
原料澱粉が、馬鈴薯澱粉である場合は、リン(P)の寄与分を以下の式(II)により算出し、差し引いて補正する。
リンの寄与分(%)=2×45.02×P/30.97・・・(II)
[式中、Pはリンの含量(%)を意味する。]
なお、リンの含量は、常法によって求めることができる。
【0012】
本発明において、酸処理澱粉は常法によって調製することができる。例えば、原料澱粉を硫酸水溶液等の酸性水溶液にて糊化温度以下で所定時間処理した後、中和、水洗、ろ過、乾燥して調製することができる。本発明において、前記酸化サゴ澱粉、及び/又は前記酸処理サゴ澱粉は、上述の酸化、及び/又は酸処理だけでなく、さらに他の物理的又は化学的な加工を1種又は複数種組み合わせて施されていてもよい。他の加工としては、例えば、酵素処理;アルファー化;湿熱処理;アセチル化等のエステル化;リン酸化;ヒドロキシプロピル化等のエーテル化;リン酸架橋、アジピン酸架橋等の加工が挙げられる。
【0013】
本発明において、前記酸化サゴ澱粉、及び/又は前記酸処理サゴ澱粉の含有量は、本発明の効果が得られれば特に制限はない。本発明の揚げ物用ミックスは、前記揚げ物用ミックス100質量部中に、前記酸化サゴ澱粉、及び/又は前記酸処理サゴ澱粉を、好ましくは1〜50質量部、さらに好ましくは2〜40質量部、さらに好ましくは3〜30質量部、さらに好ましくは4〜20質量部、特に好ましくは5〜15質量部含有する。本発明において、前記酸化サゴ澱粉、及び/又は前記酸処理サゴ澱粉は、1種単独で使用しても良く、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
本発明の揚げ物用ミックスにおいて、前記酸化サゴ澱粉、及び/又は前記酸処理サゴ澱粉以外の材料については、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はない。例えば、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、全粒粉、デュラム小麦粉等の小麦粉、米粉、大麦粉、大豆粉、そば粉、ライ麦粉、ホワイトソルガム粉、トウモロコシ粉、これらの穀粉を加熱処理した加熱処理穀粉等の穀粉類;コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、甘藷澱粉等の澱粉、及びこれらの澱粉に物理的、化学的な加工を単独又は複数組み合わせて施した加工澱粉等の澱粉類が挙げられる(前記酸化サゴ澱粉、及び/又は前記酸処理サゴ澱粉を除く)。また、副資材としては、例えば、デキストリン、オリゴ糖、ぶどう糖、ショ糖、マルトース等の糖質類;植物性油脂、動物性油脂、加工油脂、粉末油脂等の油脂類;卵白粉、卵黄粉、全卵粉、小麦たん白、乳たん白、大豆たん白等のたん白素材;重曹(炭酸水素ナトリウム)、炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム等のガス発生剤、及び酒石酸、酒石酸水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム等の酸性剤を含むベーキングパウダー等の膨張剤;カードラン、キサンタンガム、グアガム、タマリンドガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、及びカラギーナン等の増粘剤;食塩、グルタミン酸ナトリウム、粉末醤油等の調味料;酵母エキス、畜肉又は魚介由来エキス等のエキス類;グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤;その他、かぼちゃ粉、色素、香料、香辛料、酵素、種々の品質改良剤等が挙げられる。本発明において、小麦粉の含有量は、原料粉(前記穀粉類、及び/又は澱粉類(前記酸化サゴ澱粉、及び/又は前記酸処理サゴ澱粉を含む)のことを称する)の総質量に基づいて、60質量%より多いことが好ましく、65質量%以上であることがさらに好ましい。
【0015】
[揚げ物の製造方法]
本発明の揚げ物の製造方法は、水、及び水以外のバッター材料からなるバッター、又はブレッダーを用いる揚げ物の製造方法であって、前記バッター材料、又は前記ブレッダーが、カルボキシル基含量が0.1〜1.1%である酸化サゴ澱粉、及び/又は酸処理サゴ澱粉を含有することを特徴とする。前記水以外のバッター材料、又は前記ブレッダーに、上記範囲のカルボキシル基含量を有する酸化サゴ澱粉、及び/又は酸処理サゴ澱粉を用いることで、上述の通り、揚げ物を油ちょうした後、経時的に食感が低下すること、及び油っぽくなることを抑制することができる。本発明の揚げ物の製造方法において、前記バッター、又は前記ブレッダーは、常法に従って用いることができる。例えば、バッターの場合は、まず、前記水以外のバッター材料を適切な加水率で、水と混合してバッターを調製する。次いで、魚介類及び水産加工品類、畜肉類及び畜肉加工品類、野菜類を必要に応じて加工成形した具材を準備し、前記バッターに具材を浸漬する、又は前記バッターを具材に塗布する等により前記バッターを具材に付着させて揚げ種を調製する。前記バッターを付着させる前に、必要に応じて具材に打ち粉をまぶしてもよく、前記バッターを具材に付着させた後、パン粉等を付けてもよい。前記水以外のバッター材料100質量部に対する水の割合については、上記揚げ物が、天ぷらであれば80〜180質量部が好ましく、から揚げであれば80〜120質量部が好ましく、パン粉付けフライであれば、150〜1000質量部が好ましい。また、ブレッダーの場合は、必要に応じて調味液に浸漬した前記具材に、前記ブレッダーをまぶしてもよく、前記具材にバッター(前記酸化サゴ澱粉、及び/又は前記酸処理サゴ澱粉を含んでいてもよい)を付着させた後に前記ブレッダーをまぶして揚げ種を調製してもよい。その後、得られた揚げ種を適切な温度のフライ油に投入し、適切な時間油ちょうする。なお、揚げ玉(天かす)の場合は、前記バッターをそのまま、フライ油に散らして油ちょうすることで製造できる。本発明の製造方法によって製造された揚げ物は、上述の通り、油ちょう後、経時的に食感が低下すること、及び油っぽくなることが抑制された揚げ物である。本発明の揚げ物の製造方法において、前記酸化サゴ澱粉、及び/又は前記酸処理サゴ澱粉は、油ちょう時の水抜けがよいため、水を含むバッターを用いる製造方法が、より本発明の効果が得易い点で好ましい。
【0016】
本発明の揚げ物の製造方法において、前記水以外のバッター材料、又は前記ブレッダーの好ましい態様は、上述の揚げ物用ミックスの場合と同様である。したがって、前記酸化サゴ澱粉、及び/又は前記酸処理サゴ澱粉の含有量は、前記水以外のバッター材料、又は前記ブレッダー100質量部中に、好ましくは1〜50質量部、さらに好ましくは2〜40質量部、さらに好ましくは3〜30質量部、さらに好ましくは4〜20質量部、特に好ましくは5〜15質量部である。本発明の揚げ物の製造方法においては、前記バッターの調製の際、本発明の揚げ物用ミックスと、水を混合して行なってもよく、前記水以外のバッター材料として、上述の本発明の揚げ物用ミックスに含まれる各材料を、前記酸化サゴ澱粉、及び/又は前記酸処理サゴ澱粉の含有量が所望の範囲になるように、それぞれ個別に、又は一部が予め混合されたものを用いて、水と混合して行なってもよい。また、前記ブレッダーの場合は、本発明の揚げ物用ミックスをそのまま用いても良く、前記酸化サゴ澱粉、及び/又は前記酸処理サゴ澱粉の含有量が所望の範囲になるように、それぞれ個別に、又は一部が予め混合されたものを用いて混合した粉粒体を用いてもよい。本発明の揚げ物の製造方法においては、容易にバッターを調製することができる点、又は容易にブレッダーを使用できる点で、前記バッター材料、又は前記ブレッダーは、本発明の揚げ物用ミックスを含むことが好ましい。
【0017】
本発明の揚げ物の製造方法において、揚げ物には特に制限はなく、天ぷら、フリッター、から揚げ、パン粉付けフライ等が挙げられる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
1.揚げ物用ミックス(天ぷら粉)の調製
揚げ物として天ぷらを選定し、表2及び3に示した配合で、各材料を混合して、各揚げ物用ミックス(すなわち、天ぷら粉)を調製した。なお、表2及び3で使用した酸化澱粉のカルボキシル基含量については、表1に記載した。各酸化澱粉は、以下のように自家調製した。すなわち、原料澱粉の水懸濁液に所定量の次亜塩素酸ナトリウムの溶液を添加し、アルカリ性下、40℃前後で1〜2時間反応させた。反応は発熱的に進むので、次亜塩素酸ナトリウムの添加速度の調整や反応液の冷却を行い、温度が高くなり過ぎないようにした。有効塩素がほとんど消失したところで、亜硫酸水素ナトリウムなどの還元剤を加えて残存する有効塩素を消去し、さらに酸を加えて中和した。水でよく洗浄して副生する塩や不純物を除去し、最後に脱水乾燥して製品とした。また、カルボキシル基含量の測定は、上述の通り行なった。
【0019】
【表1】
【0020】
2.天ぷらの作製
前記各天ぷら粉100質量部に、表2又は3に記載した質量部の水を混合し、バッターを調製した。平均質量13gのえびに、各天ぷら粉を打ち粉としてまぶした後、各バッターを付着させた。その後、170℃で2分間油ちょうして天ぷらを得た。
3.天ぷらの評価
2.で油ちょうした各天ぷらを、油ちょう直後、室温保管1時間後、4時間後にそれぞれ以下の基準で、衣の食感、及び油っぽさを評価した。評価は、パネラー10名で行い、評価結果は、評価点の平均値で示した。
(1)食感
5:サクミを強く感じ、非常に歯切れが良い
4:サクミを感じ、歯切れが良い
3:ややサクミを感じ、やや歯切れが良い
2:サクミがあまり感じられず、やや歯切れが悪い
1:サクミがなく、歯切れが悪い
(2)油っぽさ
5:油っぽさが感じられない
4:油っぽさがほとんど感じられない
3:やや油っぽさを感じるが、許容範囲
2:油っぽく感じる
1:かなり油っぽく感じる
評価結果を表2及び3に示した。
【0021】
【表2】
【0022】
表2に示した通り、カルボキシル基含量が0.1〜1.1%である酸化サゴ澱粉、及び/又は酸処理サゴ澱粉を含有する天ぷら粉を用いた実施例1〜5の天ぷらの衣は、油ちょう後4時間たっても良好な食感を有し、油っぽさを感じ難かった。一方、サゴ澱粉であっても、上記範囲のカルボキシル基含量ではない酸化サゴ澱粉を含有する天ぷら粉を用いた比較例1及び2、未加工の精製サゴ澱粉を含有する天ぷら粉を用いた比較例3、及び架橋サゴ澱粉を含有する天ぷら粉を用いた比較例4の天ぷらの衣、並びに上記範囲のカルボキシル基含量の酸化澱粉であっても、酸化コーンスターチを含有する天ぷら粉を用いた比較例5、及び酸化タピオカ澱粉を含有する天ぷら粉を用いた比較例6の天ぷらの衣は、経時的に食感、及び/又は油っぽさの評価が低下した。したがって、カルボキシル基含量が0.1〜1.1%である酸化サゴ澱粉、及び/又は酸処理サゴ澱粉を含有する天ぷら粉を用いることによって、天ぷらを油ちょうした後、経時的に食感が低下すること、及び油っぽくなることを抑制できることが示唆された。
【0023】
【表3】
【0024】
表3においては、天ぷら粉に含有する酸化サゴ澱粉、及び/又は酸処理サゴ澱粉の含有量の影響について調べるため、実施例2と同じ酸化サゴ澱粉C、及び実施例5と同じ酸処理サゴ澱粉を用いて、その配合量を変えて天ぷらの衣を評価した。表3に示した通り、天ぷら粉100質量部中に、酸化サゴ澱粉C、又は酸処理サゴ澱粉を2〜50質量部含有する天ぷら粉を用いた場合に、天ぷらを油ちょうした後、経時的に食感が低下すること、及び油っぽくなることを抑制する効果が十分に認められた。したがって、天ぷら粉100質量部中に、酸化サゴ澱粉、及び/又は酸処理サゴ澱粉を1〜50質量部の範囲内で含有することが好ましいことが示唆された。
【0025】
4.揚げ物用ミックス(から揚げ粉)の調製
揚げ物としてから揚げを選定し、表4に示した配合で、各材料を混合して、各揚げ物用ミックス(すなわち、から揚げ粉)を調製した。なお、表4で使用した酸化澱粉のカルボキシル基含量については、天ぷらの場合と同様に表1に記載した。
5.から揚げの作製
前記各から揚げ粉100質量部に、表4に記載した質量部の水を混合し、バッターを調製した。約250g(10切れ)の鶏もも肉と、得られた各バッターを揉み込み、各バッターを鶏もも肉に付着させた。その後、170℃で4分間油ちょうして、から揚げを得た。
6.から揚げの評価
5.で油ちょうした各から揚げを、油ちょう直後、室温保管4時間後にそれぞれ、上記天ぷらの場合と同様な評価基準で、衣の食感、及び油っぽさを評価した。評価は、パネラー10名で行い、評価結果は、評価点の平均値で示した。評価結果を表4に示した。
【0026】
【表4】
【0027】
表4に示した通り、から揚げ粉100質量部中に、カルボキシル基含量が0.1〜1.1%の範囲内である酸化サゴ澱粉、及び/又は酸処理サゴ澱粉を2〜40質量部含有するから揚げ粉を用いた実施例14〜21のから揚げの衣は、油ちょう後4時間たっても良好な食感を有し、油っぽさを感じ難かった。一方、サゴ澱粉であっても、上記範囲のカルボキシル基含量ではない酸化サゴ澱粉を含有するから揚げ粉を用いた比較例7及び8のから揚げの衣、並びに上記範囲のカルボキシル基含量の酸化澱粉であっても、酸化コーンスターチを含有するから揚げ粉を用いた比較例9、及び酸化タピオカ澱粉を含有するから揚げ粉を用いた比較例10のから揚げの衣は、経時的に食感、及び/又は油っぽさの評価が低下した。したがって、上述の天ぷらの場合と同様に、カルボキシル基含量が0.1〜1.1%の範囲内である酸化サゴ澱粉、及び/又は酸処理サゴ澱粉を含有するから揚げ粉を用いることによって、から揚げを油ちょうした後、経時的に食感が低下すること、及び油っぽくなることを抑制できることが示唆された。
【0028】
7.揚げ物用ミックス(バッターミックス)の調製
揚げ物としてパン粉付けフライ(コロッケ)を選定し、表5に示した配合で、各材料を混合して、各揚げ物用ミックス(すなわち、バッターミックス)を調製した。なお、表5で使用した酸化澱粉のカルボキシル基含量については、天ぷらの場合と同様に表1に記載した。
8.パン粉付けフライ(コロッケ)の作製
前記各バッターミックス100質量部に、表5に記載した質量部の水を混合し、バッターを調製した。蒸してつぶしたジャガイモを、ひき肉とタマネギを炒めて調味料で味付けしたものと混ぜ、約43g/個、厚さ8mmの小判型に成形したコロッケのパテを作製した。得られた各バッターに、作製したパテを浸漬した後、引き上げ、約14gのバッターを付着させ、パン粉を付けて冷凍した。冷凍した状態のまま175℃で5分間油ちょうし、コロッケを得た。
9.パン粉付けフライ(コロッケ)の評価
8.で油ちょうした各パン粉付けフライ(コロッケ)を、油ちょう直後、室温保管4時間後にそれぞれ、上記天ぷらの場合と同様な評価基準で、衣の食感、及び油っぽさを評価した。評価は、パネラー10名で行い、評価結果は、評価点の平均値で示した。評価結果を表5に示した。
【0029】
【表5】
【0030】
表5に示した通り、バッターミックス100質量部中に、カルボキシル基含量が0.1〜1.1%である酸化サゴ澱粉、及び/又は酸処理サゴ澱粉を10〜20質量部含有するバッターミックスを用いた実施例22〜27のコロッケの衣は、油ちょう後4時間たっても良好な食感を有し、油っぽさを感じ難かった。一方、上記範囲のカルボキシル基含量の酸化澱粉であっても、酸化コーンスターチを含有するバッターミックスを用いた比較例11、及び酸化タピオカ澱粉を含有するバッターミックスを用いた比較例12のコロッケの衣は、経時的に食感、及び/又は油っぽさの評価が低下した。したがって、上述の天ぷらの場合と同様に、カルボキシル基含量が0.1〜1.1%である酸化サゴ澱粉、及び/又は酸処理サゴ澱粉を含有するバッターミックスを用いることによって、パン粉付けフライを油ちょうした後、経時的に食感が低下すること、及び油っぽくなることを抑制できることが示唆された。
【0031】
以上により、本発明の揚げ物用ミックスを用いることにより、揚げ物が、油ちょう後に経時的に食感が低下すること、及び油っぽくなることを抑制できることが示唆された。
【0032】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明により、油ちょう後、経時的に食感が低下すること、及び油っぽくなることが抑制された揚げ物を製造することができる。