特許第6913013号(P6913013)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6913013
(24)【登録日】2021年7月13日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】検査装置、検査方法及び検査システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 15/10 20060101AFI20210727BHJP
   F01M 11/10 20060101ALI20210727BHJP
   F02B 77/08 20060101ALI20210727BHJP
【FI】
   G01M15/10
   F01M11/10 A
   F02B77/08 G
   F02B77/08 N
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-240826(P2017-240826)
(22)【出願日】2017年12月15日
(65)【公開番号】特開2019-109083(P2019-109083A)
(43)【公開日】2019年7月4日
【審査請求日】2019年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 郁恵
(72)【発明者】
【氏名】松山 貴史
【審査官】 瓦井 秀憲
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−198433(JP,A)
【文献】 特開2012−092812(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0170102(US,A1)
【文献】 特開平01−239441(JP,A)
【文献】 特開昭57−090134(JP,A)
【文献】 特開2011−247153(JP,A)
【文献】 特開2014−055890(JP,A)
【文献】 特開昭53−088429(JP,A)
【文献】 特開2014−016251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 15/00−15/10
G01N 1/22
F01M 11/10
F02B 77/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排ガスからエンジンオイルを含むエンジン内部の状態を検査する検査装置であって、
前記エンジンオイルのみに由来する複数の元素の含有情報を格納するデータ格納部と、
前記排ガスに含まれる複数の元素の分析情報を受け付けるデータ受付部と、
前記エンジンオイルの前記含有情報と前記分析情報とに基づいて、前記エンジン内部の状態を検査する検査部とを備える、検査装置。
【請求項2】
前記検査部は、前記エンジン内部の状態として前記エンジンオイルの消費量を算出するものである、請求項1記載の検査装置。
【請求項3】
前記検査部は、前記エンジンオイルにおける複数の元素の比率と前記排ガスにおける複数の元素の比率とを比較して、それら比率の差が所定の範囲内となる元素を用いて、前記エンジンオイルの消費量を算出する、請求項2記載の検査装置。
【請求項4】
前記データ格納部は、前記エンジンの燃料における複数の元素の含有情報をさらに格納しており、
前記検査部は、前記エンジンオイルの前記含有情報と前記燃料の前記含有情報と前記分析情報とを比較して、前記エンジンオイルの消費量を算出する、請求項2又は3記載の検査装置。
【請求項5】
前記検査部は、前記エンジン内部の状態として前記エンジンの摩耗を検査するものである、請求項1乃至4の何れか一項に記載の検査装置。
【請求項6】
前記検査部は、前記エンジンオイルにおける複数の元素の比率と前記排ガスにおける複数の元素の比率とを比較して、それら比率の差が所定の範囲外となる元素を摩耗により生じた摩耗元素として検出する、請求項5記載の検査装置。
【請求項7】
前記データ格納部は、前記エンジンの各部で使用されている複数の元素の使用情報をさらに格納しており、
前記検査部は、前記使用情報と前記摩耗元素とから前記エンジンにおける摩耗箇所を特定する、請求項6記載の検査装置。
【請求項8】
エンジンの排ガスからエンジンオイルを含むエンジン内部の状態を検査する検査装置であって、
前記エンジンオイルに含まれる複数の元素の含有情報を格納するデータ格納部と、
前記排ガスに含まれる複数の元素の分析情報を受け付けるデータ受付部と、
前記エンジンオイルの前記含有情報と前記分析情報とに基づいて、前記エンジン内部の状態を検査する検査部とを備え、
前記検査部は、前記エンジン内部の状態として前記エンジンオイルの消費量を算出するものであり、
前記検査部は、前記エンジンオイルにおける複数の元素の比率と前記排ガスにおける複数の元素の比率とを比較して、それら比率の差が所定の範囲内となる元素を用いて、前記エンジンオイルの消費量を算出する、検査装置。
【請求項9】
エンジンの排ガスからエンジンオイルを含むエンジン内部の状態を検査する検査装置であって、
前記エンジンオイルに含まれる複数の元素の含有情報を格納するデータ格納部と、
前記排ガスに含まれる複数の元素の分析情報を受け付けるデータ受付部と、
前記エンジンオイルの前記含有情報と前記分析情報とに基づいて、前記エンジン内部の状態を検査する検査部とを備え、
前記検査部は、前記エンジン内部の状態として前記エンジンの摩耗を検査するものであり、
前記検査部は、前記エンジンオイルにおける複数の元素の比率と前記排ガスにおける複数の元素の比率とを比較して、それら比率の差が所定の範囲外となる元素を摩耗により生じた摩耗元素として検出する、検査装置。
【請求項10】
エンジンの排ガスからエンジンオイルを含むエンジン内部の状態を検査する検査方法であって、
前記エンジンオイルのみに由来する複数の元素の含有情報を取得し、
前記排ガスに含まれる複数の元素の分析情報を取得し、
前記含有情報と前記分析情報とを比較して、前記エンジン内部の状態を検査する、検査方法。
【請求項11】
エンジンの排ガスからエンジンオイルを含むエンジン内部の状態を検査する検査方法であって、
前記エンジンオイルに含まれる複数の元素の含有情報を取得し、
前記排ガスに含まれる複数の元素の分析情報を取得し、
前記含有情報と前記分析情報とを比較して、前記エンジン内部の状態を検査し、
当該検査結果から、前記エンジン内部の状態として前記エンジンオイルの消費量を算出する検査方法であって、
前記検査結果から、前記エンジンオイルにおける複数の元素の比率と前記排ガスにおける複数の元素の比率とを比較して、それら比率の差が所定の範囲内となる元素を用いて、前記エンジンオイルの消費量を算出する、検査方法。
【請求項12】
エンジンの排ガスからエンジンオイルを含むエンジン内部の状態を検査する検査方法であって、
前記エンジンオイルに含まれる複数の元素の含有情報を取得し、
前記排ガスに含まれる複数の元素の分析情報を取得し、
前記含有情報と前記分析情報とを比較して、前記エンジン内部の状態を検査し、
当該検査結果から、前記エンジン内部の状態として前記エンジンの摩耗を検査する検査方法であって、
前記検査結果から、前記エンジンオイルにおける複数の元素の比率と前記排ガスにおける複数の元素の比率とを比較して、それら比率の差が所定の範囲外となる元素を摩耗により生じた摩耗元素として検出する、検査方法。
【請求項13】
エンジンの排ガスに含まれる成分を捕集するフィルタと、
前記フィルタに捕集された成分中の元素を分析する元素分析装置と、
請求項1乃至9の何れか一項に記載の検査装置を備え、
前記データ受付部は、前記元素分析装置により得られた分析情報を受け付けるものであり、
前記検査部は、前記元素分析装置により得られた分析情報を用いて前記エンジン内部の状態を検査する、検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンオイルを含むエンジンの内部状態を検査する検査装置、検査方法及び検査システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンオイルの減少は、エンジン警告ランプの点灯やオイルポンプの摩耗など、車の品質に悪影響を及ぼす。従来、エンジンオイルの消費量は、エンジンの運転前後でのオイルタンクの質量変化からオイル消費量を求めることが多い(重量法)。
【0003】
一方、排ガスからエンジンオイル消費量を、重量法に依らずに簡便に測定する取り組みが行われている。例えば硫黄トレース法は、エンジンオイルに含まれる硫黄成分を排ガスから検出することでオイル消費量を算出する。
【0004】
また、特許文献1に示すように、試薬含有フィルタで捕集した排ガス中の特定元素(具体的には硫黄成分又は塩素成分)を、蛍光X線分析装置を用いて分析することでエンジンオイル消費量を測定するものが考えられている。
【0005】
しかしながら、近年エンジンオイル中の硫黄成分の減少や、燃料中の硫黄成分とエンジンオイル中の硫黄成分を正確に区別することが困難になり、ためのパラメータとしては不十分になってきている。従って、硫黄成分を測定するだけではエンジンオイルの消費量を正確に測ることが難しい。
【0006】
その他、エンジンオイルが燃焼し、排ガスへと排出された成分を計測し、エンジン内部の状態を検査することも可能である。しかし、エンジンオイル消費量と同様に、単成分のみを測定するだけでは正確に検査することが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−239441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は上記問題点を解決すべくなされたものであり、エンジンオイルの消費量やエンジン内部の状態を正確に検査できるようにすることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明に係るエンジンオイル消費量測定装置は、エンジンの排ガスからエンジンオイルを含むエンジン内部の状態を検査する検査装置であって、前記エンジンオイルに含まれる複数の元素の含有情報を格納するデータ格納部と、前記排ガスに含まれる複数の元素の分析情報を受け付けるデータ受付部と、前記エンジンオイルの前記含有情報と前記分析情報とを比較して、前記エンジン内部の状態を検査する検査部とを備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る検査方法は、エンジンの排ガスからエンジンオイルを含むエンジン内部の状態を検査する検査方法であって、前記エンジンオイルに含まれる複数の元素の含有情報を取得し、前記排ガスに含まれる複数の元素の分析情報を取得し、前記含有情報と前記分析情報とを比較して、前記エンジン内部の状態を検査することを特徴とする。
【0011】
このようなものであれば、エンジンオイルに含まれる複数の元素と排ガスに含まれる複数の元素とを比較しているので、例えば硫黄成分のみを測定して検査する場合に比べて、エンジン内部の状態を正確に検査することができる。なお、エンジン内部の状態には、エンジンオイルの消費量やエンジンの構成部品の摩耗などが含まれる。
【0012】
具体的に前記検査部は、前記エンジン内部の状態として前記エンジンオイルの消費量を算出するものであることが望ましい。本発明では、エンジンオイルに含まれる複数の元素を指標にしてエンジンオイル消費量を測定するので、当該消費量を正確に測定することができる。例えば、前記検査部は、従来のようにエンジンオイルに含まれる硫黄成分Sだけでなく、リンP、カルシウムCa、亜鉛Zn、モリブデンMoなどの複数の元素の分析結果を用いる。これにより、硫黄成分などの単成分を用いる従来のエンジンオイル消費量測定装置に比べて、エンジンオイル消費量を正確に測定することができる。
【0013】
排ガスに含まれる元素には、エンジンオイルの消費に起因する元素の他に、エンジンの燃料に起因する元素やエンジンの摩耗に起因する元素などが含まれる可能性がある。そのため、前記検査部は、前記エンジンオイルにおける複数の元素の比率と前記排ガスにおける複数の元素の比率とを比較して、それら比率の差が所定の範囲内となる元素を用いて、前記エンジンオイルの消費量を算出することが望ましい。これにより、エンジンオイル消費量を一層正確に測定することができる。
【0014】
エンジンの燃料に起因する元素による測定誤差を低減するためには、前記データ格納部は、前記エンジンの燃料における複数の元素の含有情報をさらに格納しており、前記検査部は、前記エンジンオイルの前記含有情報と前記燃料の前記含有情報と前記元素分析部の分析情報とを比較して、前記エンジンオイルの消費量を算出することが可能である。
【0015】
また、上記の通り、排ガスに含まれる元素には、エンジンオイルの消費に起因する元素の他に、エンジンの摩耗に起因する元素が含まれる可能性がある。このとき、エンジン内部の摩耗により生じた摩耗粉はエンジンオイルに溶け込みやすく、エンジンオイルが燃焼などにより消費されると、摩耗粉も排ガスとともに排出される。ここで、エンジンオイルに含まれる元素の含有情報は既知であることから、排ガスに含まれる元素を分析することによって、エンジンの摩耗に起因する元素を特定することができる。このため、前記検査部は、前記エンジンの摩耗を検査することもできる。
【0016】
具体的に前記検査部は、前記エンジンオイルにおける複数の元素の比率と前記排ガスにおける複数の元素の比率とを比較して、それら比率の差が所定の範囲外となる元素を摩耗により生じた摩耗元素として検出することが望ましい。
【0017】
エンジンは、各構成部品において使用される材料の組成が異なっていることから、エンジンの摩耗によって生じる摩耗元素も異なることになる。このことを利用して、エンジンの摩耗箇所を特定するためには、前記データ格納部は、前記エンジンの各部で使用されている複数の元素の使用情報をさらに格納しており、前記検査部は、前記使用情報と前記摩耗元素とから前記エンジンにおける摩耗箇所を特定することが可能である。
【0018】
上記の検査装置を用いた検査システムとしては、エンジンの排ガスに含まれる成分を捕集するフィルタと、
前記フィルタに捕集された成分中の元素を分析する元素分析装置と、請求項1乃至7の何れか一項に記載の検査装置とを備え、前記データ受付部は、前記元素分析装置により得られた分析情報を受け付けるものであり、前記検査部は、前記元素分析装置により得られた分析情報を用いて前記エンジン内部の状態を検査することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上に述べた本発明によれば、エンジンオイルに含まれる複数の元素と排ガスに含まれる複数の元素とを比較しているので、エンジン内部の状態を正確に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態に係る排ガス分析システムの全体模式図である。
図2】同実施形態の検査装置の機能構成を示す模式図である。
図3】同実施形態の検査方法のフローチャートを示す図である。
図4】同実施形態のエンジンオイル消費量の測定値の経時的変化を示す図である。
図5】第2形実施形態の検査装置の機能構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係る検査システムについて、図面を参照しながら説明する。
【0022】
本実施形態の検査システム100は、エンジンEから排出される排ガスに含まれる元素を分析することによって、エンジンE内部の状態を検査するものである。以下では、検査システム100が排ガスに含まれる元素を分析することによって、エンジンE内部のエンジンオイル消費量を測定する例について説明する。なお、エンジンEは、エンジン単体でエンジンダイナモに接続されて負荷が与えられるものであってもよいし、シャシダイナモメータ上を走行する車両に搭載されたものであってもよいし、実路を走行する車両に搭載されたものであってもよい。なお、エンジンとは、車両や船舶、航空機などに用いられるものであり、内燃機関(internal combustion engine)及び外燃機関(external combustion engine)を含むものである。また、エンジンオイルは、潤滑油と記してもよいものとする。
【0023】
具体的に検査システム100は、エンジンEに接続された排気管E1を流れる排ガスの一部又は全部をサンプリングするサンプリング装置2と、当該サンプリング装置2に設けられてサンプリングされた排ガスに含まれる成分(ここではPM粒子)を捕集するフィルタ3と、当該フィルタ3に捕集されたPM粒子中の元素を分析する元素分析装置4と、当該元素分析装置4の分析結果を用いてエンジンオイル消費量を測定する検査装置5とを備えている。
【0024】
サンプリング装置2は、排気管E1を流れる排ガスをサンプリングするためのサンプリングポート21と、当該サンプリングポート21に接続された排ガス流路22と、当該排ガス流路22に設けられて、サンプリングポート21から排ガスを吸引するための吸引ポンプ23とを有している。また、排ガス流路22においてサンプリングポート21と吸引ポンプ23との間には、フィルタ3が交換可能に装着されるフィルタ装着部が設けられている。その他、排ガス流路22には、除湿器(冷却器)を設けてもよいし、除湿器を設けない場合には、排ガス成分の結露を抑えるための加熱機構を設けてもよい。また、本実施形態では、図1に示すように、サンプリング装置2は、臨界流量ベンチュリなどの定流量器61及び吸引ポンプ62を有する定容量サンプリング装置6(CVS)により、排気管E1からの排ガスを大気などの希釈ガスによって希釈したものを希釈する構成としてある。
【0025】
フィルタ3は、排ガス中のPM粒子を捕集するものであり、1枚1枚が分離されたバッチ式のものであってもよいし、供給ロール及び巻き取りロールを用いた巻き取り式のものであってもよい。フィルタの材質としては、例えばPTFEコーティングガラス繊維又はPTFEなどが考えられる。
【0026】
元素分析装置4は、蛍光X線分析装置であり、X線を試料に照射して、発生する蛍光X線を検出して元素分析を行う装置である。前記試料は、PM粒子を捕集したフィルタ3である。本実施形態の元素分析装置4は、フィルタ3に捕集された元素の濃度(例えば質量濃度又は元素濃度)や質量を定量分析できるものである。なお、フィルタ3がバッチ式のものであれば、フィルタ3をサンプリング装置2から取り外して元素分析装置4にセットして元素分析を行う。また、フィルタ3が巻き取り式ものであれば、元素分析装置4がフィルタ3の近傍に設置されて、フィルタ3をサンプリング装置2から取り外すことなく元素分析を行う。この場合、巻き取り式のフィルタ3と元素分析装置4とが一体構成された装置(フィルタ付きの元素分析装置)としてもよい。
【0027】
検査装置5は、元素分析装置4により得られた分析結果を示すデータを取得して、エンジンオイル消費量を測定するものである。検査装置5は、CPU、内部メモリ、入出力インターフェース、AD変換器などを備えた専用乃至反応のコンピュータである。そして、この検査装置5は、内部メモリに格納された検査プログラムに基づいて、CPU及びその他の構成要素が協働することによって、データ格納部51、データ受付部52、検査部53(比較部53a、消費量算出部53b)などの機能を発揮する。以下、各部について説明する。
【0028】
データ格納部51は、エンジンオイルに含まれる複数の元素の含有情報を格納する。この含有情報は、デジタルデータであり、エンジンオイルに含まれる複数の元素の既知濃度(例えば質量濃度)だけでなく、それら複数の元素の組成比などを含んでいてもよい。また、含有情報は、予めユーザなどによって入力されたものであってもよいし、インターネットを介してサーバなどから送信されたものであってもよい。
【0029】
データ受付部52は、元素分析装置4により得られた分析情報を受け付ける。この分析情報は、デジタルデータであり、エンジンオイルに含まれる複数の元素の測定濃度(例えば質量濃度又は元素濃度)だけでなく、それら複数の元素の組成比などを含んでいてもよい。そして、データ受付部52は、受け付けた分析情報を検査部53に送信する。
【0030】
検査部53は、データ受付部52が受け付けた分析情報及びデータ格納部51に格納された含有情報を比較することによって、エンジンオイル消費量を測定するものであり、具体的には、比較部53a及び消費量算出部53bとしての機能を有する。
【0031】
比較部53aは、分析情報及び含有情報を取得して、エンジンオイルにおける複数の元素の比率(割合)と排ガスにおける複数の元素の比率(割合)とを比較する。そして、比較部53aは、それら比率(割合)の差が所定の範囲内となる元素を特定する。ここで、所定の範囲とは、エンジンオイルにおける複数の元素の比率であると特定できる程度の範囲である。
【0032】
例えば、エンジンオイルの複数の元素の比率が、P:1 S:2 Ca:1 Ze:5 Mo:1であるとする。この場合、排ガス中の複数の元素の比率が、P:1 S:2 Ca:5 Ze:5 Mo:1であった場合、比較部53aは、P、S、Ze、Moが所定の範囲内となる元素であると特定する。言い換えれば、比較部53aは、Caが所定の範囲外の元素であると特定する。このとき、Caはエンジンオイルに由来するものと、それ以外に由来するものとを含んでいることになる。なお、所定の範囲内か否かを判断するためのしきい値は、例えば含有情報における各元素の比率に対して所定の割合(例えば±50%)で増減させた値である。
【0033】
消費量算出部53bは、比較部53aにより所定の範囲内であると特定された元素(上記の例ではP、S、Ze、Mo)の質量濃度を用いて、エンジンオイル消費量を算出する。
【0034】
例えば、消費量算出部53bは、フィルタ3に捕集された元素の測定質量と、含有情報における当該元素の質量濃度とから、エンジンオイル消費量を算出する。なお、元素の測定質量は、元素分析装置4により測定される。このとき、消費量算出部53bは、上記の演算によって各成分から求めたエンジンオイル消費量を算出し、複数の元素ごとに得られたエンジンオイル消費量を平均して出力する。算出されたエンジンオイル消費量はディスプレイなどの出力手段に出力される。その他、フィルタ3に捕集されたPM粒子の質量と、前記元素の質量濃度とから、フィルタ3に捕集された元素の質量を算出してもよい。なお、フィルタ3に捕集されたPM粒子の質量は、捕集後のフィルタ3の質量から捕集前のフィルタ3の質量を差し引いて求めることができる。
【0035】
次に検査システム100を用いたエンジンオイル消費量の測定方法について説明する。
エンジンEの始動を開始してから、所定のサンプリング時間毎に各フィルタ3に排ガスを通過させてPM粒子を捕集する(ステップS1)。具体的には第1のサンプリング時間に第1のフィルタ3に排ガスを通過させて、その次の第2のサンプリング時間に第2のフィルタ3に排ガスを通過させるように、各サンプリング時間毎にフィルタ3を変えて排ガスを通過させる。そして捕集後の各フィルタ3に対して、元素分析装置4を用いて、各フィルタ3上に捕集されたPM粒子の元素を分析する(ステップS2)。この元素分析装置4により得られた各フィルタ3の分析情報は検査装置5に送信される。
【0036】
そして、検査装置5は、各フィルタ3の分析情報と、エンジンオイルの含有情報とを比較して、各フィルタ3を用いて捕集した時点でのエンジンオイル消費量を算出する(ステップS3)。このように各時点でのエンジンオイル消費量を算出し、それらを積算することによって、検査装置5は、図4に示すように、エンジンの始動時からのエンジンオイル消費量の経時的変化を求めることができる(ステップS4)。
【0037】
なお、各フィルタ3を用いて捕集した時点でのエンジンオイル消費量を算出する他に、各フィルタ3を用いて捕集した時点での複数の元素の排出質量を算出し、それらを積算して得られた積算排出質量を用いて、エンジンオイル消費量を算出するようにしてもよい。
【0038】
<第1実施形態の効果>
第1実施形態のエンジンオイル消費量測定装置100によれば、エンジンオイルに含まれる複数の元素と排ガスに含まれる複数の元素とを比較しているので、例えば硫黄成分のみを測定して検査する場合に比べて、エンジンオイル消費量を正確に検査することができる。
【0039】
また、エンジンオイル消費量測定装置100によれば、エンジンEの各出力トルクと各回転数とを変化させた時のエンジンオイル消費量をマッピング(例えば横軸(行):回転数、縦軸(列):出力トルク)する場合に、マップ上の各値(エンジンオイル消費量)を求める時間を短縮することができる。例えば、フィルタ3に排ガスを流して捕集する時間を短くして(例えば1時間)、そのフィルタ3を測定して得られたエンジンオイル消費量を所定倍(例えば10倍)することによって、所定時間測定したのと同様の結果を得ることができる。その結果、エンジンオイル消費量のマップ作成にかかる時間を短縮することができる。
【0040】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る検査システムについて、図面を参照しながら説明する。
【0041】
本実施形態の検査システム100は、排ガスに含まれる元素を分析することによって、エンジンE内部の摩耗箇所を特定することも可能である。このため、本実施形態では、前記第1実施形態とは検出装置5の構成が異なる。
【0042】
エンジンE内部の摩耗により生じた摩耗粉はエンジンオイルに溶け込みやすく、エンジンオイルが燃焼などにより消費されると、摩耗粉も燃焼して排ガスとともに排出される。本実施形態では、このことを利用してエンジンE内部の摩耗箇所を特定する。
【0043】
具体的に検査装置5は、元素分析装置4により得られた分析結果を示すデータを取得して、エンジンE内部の摩耗箇所を特定するものである。検査装置5は、CPU、内部メモリ、入出力インターフェース、AD変換器などを備えた専用乃至反応のコンピュータである。そして、この検査装置5は、内部メモリに格納された検査プログラムに基づいて、CPU及びその他の構成要素が協働することによって、図5に示すように、データ格納部51、データ受付部52、検査部53(比較部53a、摩耗箇所特定部53c)などの機能を発揮する。以下、各部について説明する。
【0044】
データ格納部51は、エンジンオイルに含まれる複数の元素の含有情報、及び、エンジンEの各部で使用されている複数の元素の使用情報を格納する。これら含有情報及び使用情報はデジタルデータである。含有情報は、エンジンオイルに含まれる複数の元素の既知濃度(例えば質量濃度又は元素濃度)だけでなく、それら複数の元素の組成比などを含んでいてもよい。使用情報は、エンジンの構成部品と当該構成部品に使用されている材料の組成とが関連付けられている。また、含有情報及び使用情報は、予めユーザなどによって入力されたものであってもいし、インターネットを介してサーバなどから送信されたものであってもよい。
【0045】
データ受付部52は、元素分析装置4により得られた分析情報を示すデジタルデータを受け付ける。この分析情報は、エンジンオイルに含まれる複数の元素の測定濃度(例えば質量濃度)だけでなく、それら複数の元素の組成比などを含んでいてもよい。そして、データ受付部52は、受け付けた分析情報を示すデジタルデータを検査部53に送信する。
【0046】
検査部53は、データ受付部52が受け付けた分析情報及びデータ格納部51に格納された含有情報を比較することによって、エンジンの摩耗箇所を特定するものであり、具体的には、比較部53a及び摩耗箇所特定部53cとしての機能を有する。
【0047】
比較部53aは、分析情報及び含有情報を取得して、エンジンオイルにおける複数の元素の比率(割合)と排ガスにおける複数の元素の比率(割合)とを比較する。そして、比較部53aは、それら比率(割合)の差が所定の範囲外となる元素を特定する。ここで、所定の範囲とは、エンジンオイルにおける複数の元素の比率であると特定できる程度の範囲である。また、エンジンオイルに含まれていない元素が排ガス中に含まれている場合にも、当該元素も所定の範囲外となる元素として特定する。
【0048】
例えば、エンジンオイルの複数の元素の比率が、P:1 S:2 Ca:1 Ze:5 Mo:1であるとする。この場合、排ガス中の複数の元素の比率が、P:1 S:2 Ca:1 Ze:5 Mo:1 Fe:1であった場合、比較部53aは、Feが所定の範囲外となる元素であると特定する。また、Cu:1 Sn:6 Si:1.5の元素の比率が計測できた場合には、金属系すべり軸受材料と判断できる。このように所定の複数の元素が所定の比率で検出された場合には、摩耗部位を特定することができる。
【0049】
摩耗箇所特定部53cは、比較部53aにより所定の範囲外であると特定された範囲外元素を、摩耗により生じた摩耗元素として検出する。ここで、摩耗箇所特定部53cは、前記範囲外元素が使用情報に含まれる複数の元素に含まれていない場合には、当該範囲外元素を摩耗元素から除外する。そして、摩耗箇所特定部53cは、使用情報と摩耗元素とからエンジンEにおける摩耗箇所を特定する。
【0050】
<第2実施形態の効果>
第2実施形態のエンジンオイル消費量測定装置100によれば、エンジンオイルに含まれる複数の元素と排ガスに含まれる複数の元素とを比較しているので、エンジンEの摩耗により生じた摩耗元素を検出することができる。ここで、エンジンEの各部における元素の使用情報を持っていれば、前記摩耗元素から摩耗箇所を特定することができる。
【0051】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0052】
排ガス中には、エンジンオイル由来の元素の他にエンジンEの燃料に由来する元素が含まれる場合がある。このエンジンEの燃料に由来する元素はエンジンオイル消費量の測定誤差の原因となる可能性がある。このため、前記各実施形態において、データ格納部51がエンジンEの燃料における複数の元素の含有情報をさらに格納しており、検査部53が、エンジンオイルの含有情報と燃料の含有情報と分析情報とを比較して、エンジンオイルの消費量を算出する又は摩耗元素を検出することが可能である。例えば、燃料消費量と燃料の含有情報から、分析情報に含まれる燃料に由来する元素分を差し引く、または、元素分析装置4によって燃料にしか含まれていない元素量を測定し、その元素量に基づいて、分析情報に含まれる燃料に由来する元素分を差し引くことが考えられる。このように差し引いた後の分析情報を用いて、前記実施形態と同様にして、エンジンオイルの消費量を算出する又は摩耗元素を検出する。
【0053】
また、前記実施形態の元素分析装置は、蛍光X線分析装置を用いているが、その他の測定原理の元素分析装置であってもよい。元素分析装置がフィルタに捕集された元素の排出質量を定量分析できるものであれば、当該排出質量と含有情報とを用いて、エンジンオイル消費量を測定することもできる。また、同様に、前記排出質量と含有情報と使用情報とを用いて摩耗箇所を特定することもできる。
【0054】
さらに、前記実施形態では、フィルタにPM粒子を捕集して元素分析するものであったが、排ガス流路上に複数の元素を分析する分析計を設けて、各分析計により複数の元素を測定するようにしてもよい。この各分析計により得られた分析情報が検出装置5に入力される。
【0055】
その上、検査装置は、バックグラウンド補正を行うものであってもよい。つまり、エンジンに吸気される空気に含まれる元素を検出し、その空気由来の元素を差し引いて、エンジンオイルの消費量の算出又は摩耗元素を検出する。
【0056】
加えて、検査装置は、排ガス中のCO等の測定対象成分の濃度を測定する排ガス分析装置を有しており、当該排ガス分析装置により得られた測定対象成分の濃度と、エンジンオイルの消費量や摩耗元素の検出状況等とを関連付けてデータ管理するものであってもよい。これにより、それらの相関を調べることができるので、エンジン又はエンジンオイルの状況を検証することができる。
【0057】
前記各実施形態において、フィルタ3に供給ロール及び巻き取りロールを用いた巻き取り式のものを用いた場合には、当該フィルタ3にエンジンの運転状態を示す情報などを印字するようにしてもよい。これにより、データの処理や利用或いは管理を容易にすることができる。
【0058】
前記第2実施形態の検査装置は、エンジンオイルの含有情報と元素分析装置の分析情報とを比較して、エンジン内部の状態(摩耗部材や摩耗箇所)を検査するものであったが、次のように構成してもよい。つまり、検査装置は、エンジンの各構成部品の材質に含まれる元素の含有情報(構成元素の構成比率など)を格納するデータ格納部と、排ガスに含まれる複数の元素の分析情報を元素分析装置から受け付けるデータ受付部と、各構成部品の材質に含まれる含有情報と分析情報とを比較して、エンジンの摩耗部材や摩耗箇所を特定する検査部とを備えるものであってもよい。
【0059】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0060】
100・・・検査システム
E ・・・エンジン
2 ・・・サンプリング装置
3 ・・・フィルタ
4 ・・・元素分析装置
5 ・・・検査装置
51 ・・・データ格納部
52 ・・・データ受付部
53 ・・・検査部
図1
図2
図3
図4
図5